IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジョージア テック リサーチ コーポレイションの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】微細工学組織障壁システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240612BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20240612BHJP
   C12N 5/079 20100101ALI20240612BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALI20240612BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALI20240612BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20240612BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20240612BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12N5/077
C12N5/079
C12N5/0793
C12N5/0797
C12N5/09
C07K14/78
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022534845
(86)(22)【出願日】2020-12-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-14
(86)【国際出願番号】 US2020063636
(87)【国際公開番号】W WO2021118934
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】62/945,501
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519326839
【氏名又は名称】ジョージア テック リサーチ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨンテ
(72)【発明者】
【氏名】アン ソン イ
(72)【発明者】
【氏名】キム テヨン
(72)【発明者】
【氏名】ユン ジョンキー
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0330584(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0327781(US,A1)
【文献】特表2017-504320(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0093077(US,A1)
【文献】Biomed Microdevices,2017年,19: 100,pp. 1-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12N
C12Q
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の中心チャンネルを含むインサートと、
第2の中心チャンネル、第3の側面チャンネル、第4の側面チャンネル、前記第2の中心チャンネルと前記第3の側面チャンネルを連結する第5の通路チャンネル、及び前記第2の中心チャンネルと前記第4の側面チャンネルを連結する第6の通路チャンネルを含むベースと、
前記インサートと前記ベースとの間に位置する多孔性膜とを含み、
前記第3の側面チャンネル及び前記第4の側面チャンネルは、前記多孔性膜に接触せず、かつ、前記第2の中心チャンネルに比べて高さが低くなっており、前記第5の通路チャンネル及び前記第6の通路チャンネルは、前記第2の中心チャンネル、前記第3の側面チャンネル及び前記第4の側面チャンネルに比べてチャンネルの高さが低い、微細流体装置。
【請求項2】
前記インサートが、前記ベースから脱着可能であることを特徴とする、請求項1に記載の微細流体装置。
【請求項3】
前記ベースは、前記インサートが挿入できる溝を含むことを特徴とする、請求項2に記載の微細流体装置。
【請求項4】
前記インサートが、第1の締結ヘッドを含み、
前記ベースが、第2の締結ヘッドを含み、
前記第1の締結ヘッドと前記第2の締結ヘッドが互いに引っ掛けられて前記インサートと前記ベースがスナップフィット(snap fit)脱着されることを特徴とする、請求項2に記載の微細流体装置。
【請求項5】
前記第1の中心チャンネル、前記第2の中心チャンネル、前記第3の側面チャンネル及び前記第4の側面チャンネルが、液剤の灌流を誘導且つ調節できる入口及び出口を含むことを特徴とする、請求項1に記載の微細流体装置。
【請求項6】
前記ベースが、第1の流体リザーバ及び第2の流体リザーバをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の微細流体装置。
【請求項7】
前記ベースが、前記第3の側面チャンネルと前記第1の流体リザーバを連結する第7の通路チャンネル、及び前記第4の側面チャンネルと前記第2の流体リザーバを連結する第8の通路チャンネルを含むことを特徴とする、請求項6に記載の微細流体装置。
【請求項8】
前記第7の通路チャンネル及び前記第8の通路チャンネルは、前記第2の中心チャンネル、前記第3の側面チャンネル及び前記第4の側面チャンネルに比べてチャンネルの高さが低いことを特徴とする、請求項7に記載の微細流体装置。
【請求項9】
前記第7の通路チャンネル及び前記第8の通路チャンネルが、前記第2の中心チャンネルの厚み方向に垂直に形成されたことを特徴とする、請求項7に記載の微細流体装置。
【請求項10】
前記微細流体装置が、プラスチック、ガラス、金属またはシリコンで製造されることを特徴とする、請求項1に記載の微細流体装置。
【請求項11】
前記第1の中心チャンネルが、組織障壁細胞を含み、前記組織障壁細胞が、血管内皮細胞;皮膚細胞;癌細胞;分泌腺細胞;筋肉細胞;及び気管支、大腸、小腸、膵臓または腎臓の上皮細胞からなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1に記載の微細流体装置。
【請求項12】
前記第2の中心チャンネルが、内部組織細胞及びハイドロゲルを含み、前記内部組織細胞が、星状細胞、周皮細胞、神経細胞、神経幹細胞、グリア細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、腸上皮細胞、角化細胞、皮膚線維芽細胞、足細胞及び糸球体内皮細胞からなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1に記載の微細流体装置。
【請求項13】
前記ハイドロゲルが、コラーゲン、ラミニン、ヒアルロン酸、フィブリン、フィブロネクチン、エラスチン、ポリエチレングリコール及びアルジネートからなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする、請求項12に記載の微細流体装置。
【請求項14】
前記インサートを前記ベースから分離し、前記第1の中心チャンネルに含まれた細胞、前記第2の中心チャンネルに含まれた細胞、及び前記多孔性膜に付着された細胞からなる群より選ばれる少なくとも1つの細胞をそれぞれ分離できることを特徴とする、請求項1に記載の微細流体装置。
【請求項15】
第1の中心チャンネルを含むインサートと、第2の中心チャンネル、第3の側面チャンネル及び第4の側面チャンネル、前記第2の中心チャンネルと前記第3の側面チャンネルを連結する第5の通路チャンネル、及び前記第2の中心チャンネルと前記第4の側面チャンネルを連結する第6の通路チャンネルを含むベースと、前記インサートと前記ベースとの間に位置する多孔性膜とを含み、前記インサートが、前記ベースから脱着可能であることを特徴とする、微細流体装置を組み立てる第1のステップと、
第2の細胞を前記第2の中心チャンネルに注入し、その後、前記微細流体装置をひっくり返して培養する第2のステップと、
第3の細胞を含むハイドロゲルを前記第2の中心チャンネルに注入し、その後培養する第3のステップと、
前記微細流体装置をひっくり返し、その後第1の細胞を前記第1の中心チャンネルに注入して培養する第4のステップと、を含み、
前記第3の側面チャンネル及び前記第4の側面チャンネルは、前記多孔性膜に接触せず、かつ、前記第2の中心チャンネルに比べて高さが低くなっており、前記第5の通路チャンネル及び前記第6の通路チャンネルは、前記第2の中心チャンネル、前記第3の側面チャンネル及び前記第4の側面チャンネルに比べてチャンネルの高さが低い、微細流体装置内の細胞培養方法。
【請求項16】
前記第1の中心チャンネル、前記第2の中心チャンネル、前記第3の側面チャンネル及び前記第4の側面チャンネルが、液剤の灌流を誘導且つ調節できる入口及び出口を含み、
前記第2の細胞及び前記第3の細胞を含む前記ハイドロゲルが、前記第2の中心チャンネルの入口から注入され、
前記第1の細胞が、前記第1の中心チャンネルの入口から注入されることを特徴とする、請求項15に記載の微細流体装置内の細胞培養方法。
【請求項17】
前記第1の細胞が、血管内皮細胞;皮膚細胞;癌細胞;分泌腺細胞;筋肉細胞;及び気管支、大腸、小腸、膵臓または腎臓の上皮細胞からなる群より選ばれ、
前記第2の細胞が、周皮細胞、グリア細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、腸上皮細胞、角化細胞、皮膚線維芽細胞、足細胞及び糸球体内皮細胞からなる群より選ばれ、
前記第3の細胞が、星状細胞、神経細胞、及び神経幹細胞からなる群より選ばれることを特徴とする、請求項15に記載の微細流体装置内の細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内組織障壁の構造及び機能の模写のための微細流体装置に関する。具体的に、2次元-3次元結合組織障壁または3次元組織障壁の構造及び機能を模写することで動物モデルに代えて新薬開発及び毒性評価などのためのモデルとして利用できる微細流体装置、微細流体装置内の細胞培養方法、及び微細流体装置を用いた器官または臓器の模写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物の効能及び副作用を検査するための実験動物モデルの使用による倫理的問題及び異種間の差異点による問題を解決するために、臓器組織をチップの形態で集積させた臓器チップ(Organ-on-a-chip)が開発された。臓器チップは、小さいチップに特定の臓器を構成する細胞を培養することで、該当臓器の形態及び生理的特性を模写して所望の機能を実現する技術である。これを利用して特定の臓器の細胞挙動及び微細環境における物理化学的反応のメカニズムを詳細に研究することができ、新薬開発及び毒性評価などのためのモデルとして利用できる。
【0003】
臓器チップの開発において、従来の2次元(two-dimensional(2D))細胞培養を用いた細胞培養モデルは、培養皿(petri dish)を利用して皿の底に細胞を2次元で培養させるので、多くの細胞タイプの組織特異的な分化機能(tissue-specific differentiated functions)を説明できなかったり、生体内(in vivo)の組織機能と薬物活性度を正確に予測できないといった問題点を有する。
【0004】
特に、生体内で3次元接触をしているニューロン(neuron)、星状細胞(astrocyte)などを有する脳組織細胞の場合、前記2次元細胞培養モデルの限界によって、生きている組織の空間的構造と生化学的複雑性をよく模写する3次元細胞培養モデルへの必要性が高まっている。
【0005】
3次元細胞培養モデルは、生体内の状態(situation)をよく模倣するので、生体外の実験で方向的成長と細胞間連結の複雑性を実現することができ、分子ベース(molecular basis)の組織機能を研究するのにおいて2次元細胞培養モデルに対比して様々な疾病状態の信号機序(signaling pathway)と薬物反応(drug responsiveness)をよく捕らえるのに役立つ。
【0006】
一方、半導体工程技術と共に発達してきた微細流体工学技術は、マイクロ単位の規格を有した構造体を高精度で大量生産することを可能にした。特に、フォトリソグラフィ及びソフトリソグラフィ技術は、半永久的なモールドを用いたスタンピング(Stamping)によって容易に微細チャンネル構造の生産を可能にし、それによって人体の血管や臓器の細胞層などの微細構造を生体外で模写しようとする試みがあった。
【0007】
従来の研究は、フォトリソグラフィまたはソフトリソグラフィ技術を利用してポリジメチルシロキサン(PDMS)微細チャンネルと多孔性膜からなったチップを製作し、チップ内部における細胞培養によって臓器の細胞層の構造を実現する形態で行われた。しかしながら、PDMS材質で製作した微細流体装置を用いた臓器チップは、薬物またはタンパク質がPDMSの表面に吸着されて消失する場合が多く発生し、実際の製薬産業に適用し難い限界点が存在した。
【0008】
従って、本発明者らは従来の微細流体装置を用いた臓器チップの問題点を改善し、生体内の2次元-3次元結合組織障壁または3次元組織障壁の構造及び機能をさらに類似に模写するための微細流体装置を開発して本発明の完成に至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Cho、H.et al.Three-dimensional blood-brain barrier model for in vitro studies of neurovascular pathology.Sci.Rep.5、15222(2015)。
【文献】Booth、R.&Kim、H.Characterization of a microfluidic in vitro model of the blood-brain barrier(mu BBB).Lab Chip 12、1784-1792(2012)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、実験動物モデルの使用による倫理的問題及び異種間の差異点による問題を解決し、2次元-3次元結合組織障壁または3次元組織障壁の構造を形成させることで、従来の臓器チップ(Organ-on-a-chip)と比較して生体内の組織障壁とさらに類似した構造及び機能を示す微細流体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、第1の中心チャンネルを含むインサートと、第2の中心チャンネル、第3の側面チャンネル、第4の側面チャンネル、第2の中心チャンネルと第3の側面チャンネルを連結する第5の通路チャンネル、及び第2の中心チャンネルと第4の側面チャンネルを連結する第6の通路チャンネルを含むベースと、前記インサートとベースとの間に位置する多孔性膜とを含む微細流体装置を提供する。
【0012】
本発明は、前記微細流体装置を組み立てるステップと、第2の細胞を第2の中心チャンネルに注入し、その後、微細流体装置をひっくり返して培養するステップと、第3の細胞を含むハイドロゲルを第2の中心チャンネルに注入し、その後培養するステップと、及び微細流体装置をひっくり返し、その後第1の細胞を第1の中心チャンネルに注入して培養するステップを含む、微細流体装置内の細胞培養方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記微細流体装置を利用して器官または臓器の構造及び機能を模写する方法であって、第1の流体を第1の中心チャンネルに灌流させるステップと、及び第2の流体を第3の側面チャンネル、第2の中心チャンネル及び第4の側面チャンネルに灌流させるステップを含む、器官または臓器の模写方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の微細流体装置は、血液-脳障壁を含む生体内の様々な組織障壁の主な構造及び物質移動現象を模写して薬物の効能評価に用いられてもよい。
【0015】
本発明の微細流体装置は、組織障壁周辺のナノ粒子の分布に対する精密な定量化が可能であり、インサートがベースから脱着可能であるので、微細流体装置内に含まれた細胞を損傷なく選択的に分離して分析に利用することができる。また、インサートをベースから分離して薬物塗布などの必要な処理を加え、それから再び組み立てて細胞反応を観察することができる。
【0016】
本発明の微細流体装置は、細胞の3次元培養が可能であり、生体内細胞の空間的構造と生化学的複雑性を実現して組織障壁の構造及び機能をよりよく模写することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】微細流体装置の断面図である。
図2】微細流体装置の断面図である。
図3】微細流体装置の透視図である。
図4】微細流体装置の分解図及び結合図である。
図5】微細流体装置の分解図及び結合図である。
図6】細胞及びハイドロゲルを含む微細流体装置の断面図である。
図7】細胞及びハイドロゲルを含む微細流体装置の断面図である。
図8】インサートとベースの脱着のための構成及び脱着方法を示した断面図である。
図9】インサートとベースの脱着のための構成及び脱着方法を示した断面図である。
図10】インサートとベースの脱着のための構成及び脱着方法を示した断面図である。
図11】微細流体装置のベース内の流体の流れを示した断面図である。
図12】インサートの斜視図である。
図13】インサートの斜視図である。
図14】ベースの斜視図である。
図15】ベースの平面図である。
図16】ベースの底面図及び拡大底面図である。
図17】カバーの斜視図である。
図18】インサートとベースの脱着のための構成及び脱着方法を示した斜視図及び断面図である。
図19】インサートとベースが取り付けられた形態の微細流体装置の平面図である。
図20図19のインサートとベースが取り付けられた形態の微細流体装置のA-A’断面図及び拡大断面図である。
図21】インサートとベースが取り付けられた形態の微細流体装置の正面図である。
図22】インサートとベースが取り付けられた形態の微細流体装置の底面図及び拡大底面図である。
図23】カバーを含む微細流体装置の斜視図である。
図24】インサートに含まれた微細チャンネル内の流体の流れを示す斜視図である。
図25】ベースに含まれた微細チャンネル内の流体の流れを示す断面図である。
図26】ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)またはヒト星状細胞(HA)をそれぞれの培養培地である内皮培地(E)、周皮細胞培地(P)または星状細胞培地(A)で培養した場合と、混合培地であるE+G(E+A+M)培地で培養した場合の細胞の形態を示した図である。
図27】ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)またはヒト星状細胞(HA)をそれぞれ内皮培地(E)、星状細胞培地(A)、周皮細胞培地(P)、微細にかわ培地(M)、E+G+P(E+A+M+P)培地またはE+G(E+A+M)培地で培養した場合の細胞活性度を示したグラフである。
図28】ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)またはヒト星状細胞(HA)をそれぞれ混合培地であるE+G(E+A+M)培地またはE+G+P(E+A+M+P)培地で培養した場合の細胞活性度を示したグラフである。
図29】微細流体装置内の細胞の培養方法を示した模式図である。
図30】ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)の単一培養と血液-脳障壁(BBB)模写の微細流体装置における血液-脳障壁の特異的なタンパク質の発現水準を示すRT-qPCR結果を示したヒットマップ(Heat map)である(n=3)。
図31】ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)の単一培養と血液-脳障壁(BBB)模写の微細流体装置における血液-脳障壁の特異的な接合タンパク質(junctional proteins)の遺伝子の発現水準を示すグラフである(n=3、*p<0.05 by student t-test)。
図32】ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)の単一培養と血液-脳障壁(BBB)模写の微細流体装置における血液-脳障壁の特異的な受容体タンパク質(receptor proteins)の遺伝子の発現水準を示すグラフである(n=3,*p<0.05 by student t-test)。
図33】ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)の単一培養と血液-脳障壁(BBB)模写の微細流体装置で測定したTEER値を示すグラフである(n=11(EC)、n=12(BBB)、**p<0.01 by student t-test)。
図34】血液-脳障壁(BBB)模写の微細流体装置で測定した血液模写流れのせん断応力の差によるTEER値を示すグラフである(n=5(No shear)、n=4(0.4 dyne cm-2)、n=12(4 dyne cm-2)、*p<0.05 by student t-test)。
図35】無細胞、ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)の単一培養、及び血液-脳障壁(BBB)模写の微細流体装置で測定した透過係数(P)を示すグラフである(n=4、*p<0.05、****p<0.001 vs.No cell、#p<0.05、##p<0.01 vs.EC、student t-test)。
図36】2Dマトリゲル(Matrigel)のコーティング表面上で培養したヒト星状細胞(HA)の形態及び3Dマトリゲルの内部で培養したヒト星状細胞(HA)の形態を示す。
図37】2Dマトリゲル(Matrigel)のコーティング表面及び3Dマトリゲルの内部で培養したヒト星状細胞(HA)の細胞体の大きさ及び突起の長さを比較したグラフである。
図38】2Dマトリゲル(Matrigel)のコーティング表面及び3Dマトリゲのル内部で培養したヒト星状細胞(HA)の細胞体の大きさ及び突起の長さを比較したグラフである。
図39】2Dマトリゲル(Matrigel)のコーティング表面及び3Dマトリゲルの内部で培養したヒト星状細胞(HA)におけるGFAP、VIM及びLCN2の発現水準を比較したグラフである(n=4、***p<0.005、****p<0.001 by student t-test)。
図40】2Dマトリゲル(Matrigel)のコーティング表面及び3Dマトリゲルの内部で培養したヒト星状細胞(HA)に処理したIL-1β濃度によるLCN2の発現水準を比較したグラフである。
図41】2Dマトリゲル(Matrigel)のコーティング表面及び3Dマトリゲルの内部で培養したヒト星状細胞(HA)に処理したIL-1β濃度によるLCN2の発現水準を比較したグラフである。
図42】星状細胞を2Dマトリゲル(Matrigel)のコーティング表面及び3Dマトリゲルの内部で培養した場合のAQP-4及びα-synの発現を示したものである(Scale bars=50μm(2D)、20μm(3D))。
図43】星状細胞を2Dマトリゲル(Matrigel)のコーティング表面及び3Dマトリゲルの内部で培養した場合のAQP-4及びα-synの発現を示したものである(Scale bars=50μm(2D)、20μm(3D))。
図44】ヒト星状細胞(HA)のみを培養した場合(A)、ヒト星状細胞(HA)とヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)を培養した場合(E+A)、及びヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)及びヒト星状細胞(HA)を共に培養(E+P+A)した場合のAQP-4の分極化水準を示したグラフである(n=4、*p<0.05 by student t-test)。
図45】合成されたeHNP-A1の大きさの分布を示すグラフである。
図46】生体内の各器官における相対的なeHNP-A1の分布を定量化して示したグラフである(mean±s.e.m、n=4)。
図47】脳におけるeHNP-A1の分布を示す。
図48】第1の中心チャンネル(vascular channel)及び第2の中心チャンネル(perivascular channel)のそれぞれからサンプリングされたeHNP-A1を含む培養培地の相対的な蛍光強度を示したグラフである(vascular:n=12;perivascular:n=5、**p<0.01 by student t-test、mean±s.e.m.)。
図49】第1の中心チャンネル(vascular channel)及び第2の中心チャンネル(perivascular channel)のそれぞれからサンプリングされたeHNP-A1を含む培養培地の相対的な蛍光強度を示したグラフである(vascular:n=12;perivascular:n=5、**p<0.01 by student t-test、mean±s.e.m.)。
図50】第1の中心チャンネル(vascular)、ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、及び第2の中心チャンネル(perivascular)のeHNP-A1の分布を示したグラフである。
図51】eHNP-A1の陽性を示すヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト星状細胞(HA)、及びヒト脳血管周皮細胞(HBVP)の数に対するFACS(fluorescence-activated cell sorting)plot及びこれを定量化したグラフである。
図52】eHNP-A1の陽性を示すヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト星状細胞(HA)、及びヒト脳血管周皮細胞(HBVP)の数に対するFACS(fluorescence-activated cell sorting)plot及びこれを定量化したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本願の実施形態及び実施例について詳しく説明する。しかしながら、本願は、様々な形態で実施され得るので、以下に説明する実施形態及び実施例に限定されるものではない。
【0019】
本願明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは特に断らない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0020】
本発明は、第1の中心チャンネルを含むインサートと、第2の中心チャンネル、第3の側面チャンネル、第4の側面チャンネル、前記第2の中心チャンネルと前記第3の側面チャンネルを連結する第5の通路チャンネル、及び前記第2の中心チャンネルと前記第4の側面チャンネルを連結する第6の通路チャンネルを含むベースと、前記インサートと前記ベースとの間に位置する多孔性膜とを含む、微細流体装置を提供する。
【0021】
本願に用いられた「微細流体装置」なる用語は、有機高分子物質を含むプラスチック、ガラス、金属またはシリコンを含む様々な素材で製造された基板上に流体が流れることができるように備えられた微細チャンネルなどを含んでいる装置を意味する。
【0022】
本願に用いられた「微細チャンネル」なる用語は、流体が流れることができるミリメートル(millimeter)、マイクロメータ(micrometer)またはナノメートル(nanometer)の次元を有する微細な大きさのチャンネルを意味する。
【0023】
本願に用いられた「インサート」なる用語は、他の物体に形成された溝に挿入できる形態の物体を意味することができるが、これに制限されるものではない。
【0024】
一実施態様において、前記インサートは、前記ベースから脱着可能なものであってもよく、前記ベースは、前記インサートが挿入できる溝を含んでもよい。好ましくは、前記インサートは、第1の締結ヘッドを含み、前記ベースは、第2の締結ヘッドを含み、前記第1の締結ヘッドと前記第2の締結ヘッドが互いに引っ掛けられて前記インサートと前記ベースがスナップフィット(snap fit)脱着されてもよい。この時、前記第1の中心チャンネルと前記第2の中心チャンネルとの間の漏水を防止するために、前記多孔性膜は、前記インサートと前記ベースとの間で強い圧力を受けてガスケット(gasket)の役割を行うことができる。
【0025】
本願に用いられた「締結ヘッド」なる用語は、プラスチック、ゴム、シリコンなどの弾性を有する材質で構成されてもよく、それぞれ弾性変形されてスナップフィット脱着を達成することができるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本願に用いられた「スナップフィット」なる用語は、追加の部品や締結機構なしに、互いに引っかかる溝の相互作用により締結力が形成される締結方式を意味する。
【0027】
一実施態様において、前記第3の側面チャンネル及び前記第4の側面チャンネルは、前記多孔性膜に接触しなくてもよい。好ましくは、前記第3の側面チャンネル及び前記第4の側面チャンネルは、前記第2の中心チャンネルに比べて高さが低くてもよく、さらに好ましくは、前記第2の中心チャンネルの高さと前記第3の側面チャンネル及び第4の側面チャンネルの高さの比が1:0.1~1:0.9であってもよい。
【0028】
一実施態様において、前記第1の中心チャンネル、前記第2の中心チャンネル、前記第3の側面チャンネル及び前記第4の側面チャンネルは、液剤の灌流を誘導且つ調節できる入口及び出口を含んでもよい。前記灌流を誘導及び調節できる方法は、前記入口と出口の静水圧差(Hydrostatic pressure difference)を利用する方法、外部ポンプを前記入口及び出口に連結する方法を含んでもよいが、これらに限定されるものではない。
【0029】
一実施態様において、前記第5の通路チャンネル及び前記第6の通路チャンネルは、前記第2の中心チャンネル、前記第3の側面チャンネル及び前記第4の側面チャンネルに比べてチャンネルの高さが低くてもよい。好ましくは、前記第2の中心チャンネルと前記第5の通路チャンネル及び前記第6の通路チャンネルの高さの比が1:0.03~1:0.2であってもよく、前記第3の側面チャンネル及び前記第4の側面チャンネルと前記第5の通路チャンネル及び前記第6の通路チャンネルの高さの比が1:0.03~1:0.7であってもよい。
【0030】
一実施態様において、前記ベースは、第1の流体リザーバ及び第2の流体リザーバを含んでもよい。また、前記ベースは、前記第3の側面チャンネルと前記第1の流体リザーバを連結する第7の通路チャンネル及び前記第4の側面チャンネルと前記第2の流体リザーバを連結する第8の通路チャンネルを含んでもよい。好ましくは、前記第7の通路チャンネル及び前記第8の通路チャンネルは、前記第2の中心チャンネル、前記第3の側面チャンネル及び前記第4の側面チャンネルに比べてチャンネルの高さが低くてもよい。好ましくは、前記第2の中心チャンネルと前記第7の通路チャンネル及び前記第8の通路チャンネルの高さの比が1:0.02~1:0.05であってもよく、前記第3の側面チャンネル及び前記第4の側面チャンネルと前記第7の通路チャンネル及び前記第8の通路チャンネルの高さの比が1:0.02~1:0.5であってもよい。さらに好ましくは、前記第7の通路チャンネル及び前記第8の通路チャンネルの高さは50μm以下であってもよい。
【0031】
一実施態様において、前記第7の通路チャンネル及び前記第8の通路チャンネルは、前記第2の中心チャンネルの方向に垂直に形成されてもよい。
【0032】
一実施態様において、前記微細流体装置は、プラスチック、ガラス、金属またはシリコンで製造できるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、射出成型(Injection molding)技術を利用してプラスチックで製造できる。
【0033】
一実施態様において、前記第1の中心チャンネルは、組織障壁細胞を含んでもよい。前記組織障壁細胞は、血管内皮細胞;皮膚細胞;癌細胞;分泌腺細胞;筋肉細胞;及び気管支、大腸、小腸、膵臓及び腎臓の上皮細胞を含んでもよい。好ましくは、血管内皮細胞であってもよい。さらに好ましくは、ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC;human brain microvascular endothelial cell)であってもよい。
【0034】
本願に用いられた「細胞」なる用語は、植物細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、バクテリア細胞及びかび細胞などを含む生物学的細胞を意味する。
【0035】
本願に用いられた「組織障壁細胞」なる用語は、組織の特定の構造を維持する役割をし、組織を外部刺激から保護する役割をする細胞を意味する。それだけでなく、組織障壁細胞間あるいは細胞外基質との強い結合力を利用して、選択的に物質を透過させ組織内の物質濃度が恒常性を維持する役割をする細胞を意味する。組織障壁細胞は上皮組織細胞(Epithelial tissue cell)及び血管内皮細胞(Vascular endothelial cell)を含む。
【0036】
一実施態様において、前記第2の中心チャンネルは内部組織細胞及びハイドロゲルを含んでもよい。
【0037】
前記内部組織細胞は、星状細胞、周皮細胞、神経細胞、神経幹細胞、グリア細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、腸上皮細胞、角化細胞、皮膚線維芽細胞、足細胞及び糸球体内皮細胞を含んでもよい。好ましくは、星状細胞及び周皮細胞であってもよい。さらに好ましくは、ヒト星状細胞(HA;human astrocyte)及びヒト脳血管周皮細胞(HBVP;human brain vascular pericyte)であってもよい。
【0038】
本願に用いられた「内部組織細胞」なる用語は、人体の臓器及び組織を構成している細胞を意味し、上皮組織(Epithelial tissue)、筋肉組織(Muscle tissue)、神経組織(Nervous tissue)または結合組織(Connective tissue)を意味するが、これらに限定されることなく、人体組職をなしているすべての細胞が含まれる。
【0039】
前記ハイドロゲルは、コラーゲン、ラミニン、ヒアルロン酸、ミネラル、フィブリン、フィブロネクチン、エラスチン、ペプチド、ポリエチレングリコール及びアルジネートからなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい。好ましくは、前記ハイドロゲルは、コラーゲンゲル、フィブリンゲル、ラミニンゲル、マトリゲル、動物由来腫瘍基底膜抽出物ゲル、組織脱細胞化細胞外基質ゲル、ペプチドゲル、ポリエチレングリコールゲルまたはアルジネートゲルであってもよいが、これらに限定されるものではない。さらに好ましくは、ラミニンゲルまたはマトリゲルである。
【0040】
前記ハイドロゲルは、前記第2の中心チャンネルと前記第5の通路チャンネルの高さの差及び前記第2の中心チャンネルと前記第6の通路チャンネルの高さの差によって表面張力によって前記第2の中心チャンネル内に空間的に閉じ込められるものであり得る。
【0041】
本願に用いられた「ハイドロゲル」なる用語は、共有結合、水素結合、van der waals結合または物理的な結合などのような凝集力によって架橋された親水性高分子であって、水溶液上で多量の水を内部に含有して膨潤できる3次元高分子ネットワーク構造を有する物質を意味する。
【0042】
一実施態様において、前記インサートを前記ベースから分離し、前記第1の中心チャンネルに含まれた細胞、前記第2の中心チャンネルに含まれた細胞、及び前記多孔性膜に付着された細胞からなる群より選ばれる少なくとも1つの細胞をそれぞれ分離することができ、前記分離された細胞を利用して遺伝子分析などの細胞分析を行うことができる。
【0043】
一実施態様において、前記インサートを前記ベースから分離し、前記第1の中心チャンネルに薬物塗布などの必要な処理を施し、その後再び前記インサートを前記ベースに組み立てて細胞反応を観察することができる。
【0044】
本発明は、第1の中心チャンネルを含むインサートと、第2の中心チャンネル、第3の側面チャンネル及び第4の側面チャンネルを含むベースと、前記インサートと前記ベースとの間に位置する多孔性膜とを含み、前記インサートは、前記ベースから脱着可能であることを特徴とする微細流体装置を組み立てるステップと、第2の細胞を前記第2の中心チャンネルに注入し、その後、前記微細流体装置をひっくり返して培養するステップと、第3の細胞を含むハイドロゲルを前記第2の中心チャンネルに注入し、その後培養するステップと、前記微細流体装置をひっくり返し、その後第1の細胞を前記第1の中心チャンネルに注入して培養するステップを含む、微細流体装置内の細胞培養方法を提供する。
【0045】
一実施態様において、前記第1の中心チャンネル、前記第2の中心チャンネル、前記第3の側面チャンネル及び前記第4の側面チャンネルは、液剤の灌流を誘導且つ調節できる入口及び出口を含み、前記第2の細胞及び前記第3の細胞を含む前記ハイドロゲルは、前記第2の中心チャンネルの入口から注入され、前記第1の細胞は、前記第1の中心チャンネルの入口から注入されてもよい。
【0046】
一実施態様において、前記第1の細胞は、血管内皮細胞;皮膚細胞;癌細胞;分泌腺細胞;筋肉細胞;及び気管支、大腸、小腸、膵臓または腎臓の上皮細胞からなる群より選ばれ、前記第2の細胞は、周皮細胞、グリア細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、腸上皮細胞、角化細胞、皮膚線維芽細胞、足細胞及び糸球体内皮細胞からなる群より選ばれ、前記第3の細胞は、星状細胞、神経細胞、及び神経幹細胞からなる群より選ばれてもよい。好ましくは、前記第1の細胞は血管内皮細胞、前記第2の細胞は周皮細胞、前記第3の細胞は星状細胞であってもよい。さらに好ましくは、前記第1の細胞はヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC;human brain microvascular endothelial cell)、前記第2の細胞はヒト脳血管周皮細胞(HBVP;human brain vascular pericyte)、前記第3の細胞はヒト星状細胞(HA;human astrocyte)であってもよい。
【0047】
一実施態様において、本発明は、第1の中心チャンネルを含むインサートと、第2の中心チャンネル、第3の側面チャンネル及び第4の側面チャンネルを含むベースと、前記インサートと前記ベースとの間に位置する多孔性膜とを含み、前記インサートは、前記ベースから脱着可能であることを特徴とする微細流体装置を組み立てるステップと、104細胞/mL以上の濃度のヒト脳血管周皮細胞(HBVP;human brain vascular pericyte)1~50μLを前記第2の中心チャンネルに注入し、その後、前記微細流体装置をひっくり返して培養するステップと、103細胞/mL以上の濃度のヒト星状細胞(HA;human astrocyte)1~50μLを含むハイドロゲルを前記第2の中心チャンネルに注入し、その後培養するステップと、前記微細流体装置をひっくり返し、その後105細胞/mL以上の濃度のヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC;human brain microvascular endothelial cell)1~50μLを前記第1の中心チャンネルに注入して培養するステップを含む、微細流体装置内の細胞培養方法を提供する。
【0048】
本発明は、第1の中心チャンネルを含むインサートと、第2の中心チャンネル、第3の側面チャンネル、第4の側面チャンネル、第1の流体リザーバ、及び第2の流体リザーバを含むベースと、前記インサートと前記ベースとの間に位置する多孔性膜とを含み、前記インサートは、前記ベースから脱着可能であることを特徴とする微細流体装置内の器官または臓器の模写方法であって、第1の流体を前記第1の中心チャンネルに灌流させるステップと、及び第2の流体を前記第1の流体リザーバに注入し、前記第3の側面チャンネル、前記第2の中心チャンネル、前記第4の側面チャンネル及び前記第2の流体リザーバまで順に到達させるステップを含む、器官または臓器の模写方法を提供する。前記器官または臓器は血液-脳障壁、肺、肝、心臓、網膜、大腸、小腸、膵臓及び腎臓を含んでもよいが、これに制限されるものではない。好ましくは、前記器官または臓器は血液-脳障壁(BBB;blood-brain barrier)である。
【0049】
一実施態様において、前記ベースは、前記第2の中心チャンネルと前記第3の側面チャンネルを連結する第5の通路チャンネル、前記第2の中心チャンネルと前記第4の側面チャンネルを連結する第6の通路チャンネル、前記第3の側面チャンネルと前記第1の流体リザーバを連結する第7の通路チャンネル、及び前記第4の側面チャンネルと前記第2の流体リザーバを連結する第8の通路チャンネルを含んでもよい。
【0050】
一実施態様において、前記第1の流体は、1~10dyne/cm2のせん断応力で灌流させることができ、好ましくは、4~6dyne/cm2のせん断応力で灌流させることができる。前記第1の流体の流れは生体内の血液の流れを模写する役割を行うことができる。
【0051】
一実施態様において、前記第2の流体の流速は、前記第1の流体リザーバと前記第2の流体リザーバの静水圧差を利用して12時間以上にかけて1~100μL/hで維持されてもよく、好ましくは、10~15μL/hで維持されてもよい。前記第2の流体の流れは生体内のてんかん液の流れ(Interstitial flow)を模写する役割を行うことができる。
【0052】
本発明は、a)第1項による微細流体装置を提供するステップと、b)前記微細流体装置に物質を導入するステップと、及びc)前記物質の生理学的、薬理学的または毒性学的効果を評価するステップを含む物質の生理学的、薬理学的または毒性学的効果の分析方法を提供する。前記物質は、薬物(drug)、毒素(toxin)または病原体(pathogen)であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0053】
以下、図面を参照して本発明の微細流体装置について詳細に説明することとする。本発明は、図1ないし25の形態で具体化された微細流体装置を含んでもよいが、これらに限定されるものではない。特に、図12ないし25に本発明の微細流体装置の具体的な実施例を示したが、本発明は、特定の実施例に限定されず、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって様々な変形実施が可能であることを含む。
【0054】
本発明の一実施例による微細流体装置は、インサート100、ベース200及びインサート100とベース200との間に位置する多孔性膜300を含む。
【0055】
図1を参照すると、前記インサート100は、第1の中心チャンネル110を含み、前記ベース200は、第2の中心チャンネル210、第3の側面チャンネル220、第4の側面チャンネル230、第2の中心チャンネル210と第3の側面チャンネル220を連結する第5の通路チャンネル240及び第2の中心チャンネル210と第4の側面チャンネル230を連結する第6の通路チャンネル250を含む。一実施態様において、前記ベース200の下段に底部400が付着されてもよい。
【0056】
図2及び3を参照すると、前記微細流体装置のベース200は、第1の流体リザーバ280及び第2の流体リザーバ290を含んでもよく、第3の側面チャンネル220と第1の流体リザーバ280を連結する第7の通路チャンネル260及び第4の側面チャンネル230と第2の流体リザーバ290を連結する第8の通路チャンネル270を含んでもよい。
【0057】
図4及び5を参照すると、前記微細流体装置の多孔性膜300は、第1の中心チャンネル110及び第2の中心チャンネル210の間に存在し、第7の通路チャンネル260及び第8の通路チャンネル270は、第2の中心チャンネル210の方向と垂直に形成されてもよい。
【0058】
図6及び7を参照すると、前記微細流体装置の第1の中心チャンネル110は、第1の細胞111を含んでもよく、第2の中心チャンネル210は、第2の細胞211、第3の細胞212及び/またはハイドロゲル213を含んでもよい。一実施態様において、前記第1の細胞111は、多孔性膜300の上段表面に付着されて培養されてもよく、前記第2の細胞211は、多孔性膜300の下段表面に付着されて培養されてもよく、前記第3の細胞212は、ハイドロゲル213の内部で3D培養されてもよい。
【0059】
図8ないし10及び図18を参照すると、前記微細流体装置のベース200は、インサート100が挿入できるインサート挿入溝201を含み、インサート100はベース200から脱着可能なものであってもよい。また、前記インサート100は、第1の締結ヘッド101を含み、前記ベース200は、第2の締結ヘッド202を含み、前記第1の締結ヘッド101と第2の締結ヘッド202が互いに引っ掛けられてインサート100とベース200がスナップフィット(snap fit)脱着されてもよい。
【0060】
図12及び13を参照すると、前記微細流体装置のインサート100は、第1の中心チャンネルの入口112、出口113、第2の中心チャンネルの入口214、出口215、第3の側面チャンネルの入口221、出口222、第4の側面チャンネルの入口231及び出口232を含んでもよい。前記第1の中心チャンネルの入口112及び出口113は、第1の中心チャンネル110と菅形態で連結でき、前記菅によって電極を一定の位置及び深さで挿入してTEER値の精密な測定が可能であり得る。
【0061】
図14ないし16及び図19を参照すると、前記微細流体装置のベース200は少なくとも1つのインサート100が脱着可能な構造であってもよい。好ましくは、4つのインサート100が脱着可能な構造であってもよい。
【0062】
図17及び23を参照すると、前記微細流体装置はカバー500を含んでもよい。前記カバー500は、カバー内の第1の中心チャンネルの入口501及び出口502を含んでもよい。前記カバー内の第1の中心チャンネルの入口501及び出口502は、流体の漏水を防止するために開閉可能な形態であってもよい。
【0063】
図24を参照すると、前記微細流体装置のインサート100に含まれた第1の中心チャンネルの入口112によって流体を注入し、第1の中心チャンネル110を経て第1の中心チャンネルの出口113方向へ流体を灌流させることができる。
【0064】
図11及び25を参照すると、前記微細流体装置のベース200に含まれた第1の流体リザーバ280に流体を注入し、第3の側面チャンネル220、第2の中心チャンネル210、第4の側面チャンネル230及び第2の流体リザーバ290まで順に前記流体を灌流させることができる。好ましくは、前記微細流体装置のベース200に含まれた第1の流体リザーバ280に流体を注入し、第7の通路チャンネル260、第3の側面チャンネル220、第5の通路チャンネル240、第2の中心チャンネル210、第6の通路チャンネル250、第4の側面チャンネル230、第8の通路チャンネル270及び第2の流体リザーバ290まで順に前記流体を灌流させることができる。
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、下記の実施例は説明を目的とするものに過ぎず、本願発明の範囲を限定しようとする意図ではない。
【0066】
[実施例1]内皮細胞、周皮細胞及び星状細胞の培養及び生存度
ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC;human brain microvascular endothelial cell)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP;human brain vascular pericyte)及びヒト星状細胞(HA;human astrocyte)の共同培養のための培養条件を最適化するために、6つの培地条件でMTS(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-5-(3-carboxymethoxyphenyl)-2-(4-sulfophenyl)-2H-tetrazolium)分析法を利用してそれぞれの細胞代謝活性度を比較した。6つの培地条件は次のとおりであり、グリア細胞培地(G、glial cell medium)は、星状細胞培地(A)及び微細にかわ培地(M)の1:1混合物を意味する。
(i)E:内皮培地(endothelial medium)
(ii)A:星状細胞培地(astrocyte medium)
(iii)P:周皮細胞培地(pericyte medium)
(iv)M:微細にかわ培地(microglia medium)
(v)E+G(E+A+M):内皮培地(E)、星状細胞培地(A)及び微細にかわ培地(M)の1:1:1混合物
(vi)E+G+P(E+A+M+P):内皮培地(E)、星状細胞培地(A)、微細にかわ培地(M)及び周皮細胞培地(P)の1:1:1:1混合物
【0067】
ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)及びヒト星状細胞(HA)を前記6つの培地条件で3日間培養し、その後それぞれの細胞にCellTiter 96 AQueous One Solution Cell Proliferation Assay(Promega、Madison、WI、USA)を添加した。4時間にかけて培養(incubation)し、その後Cytation 5 plate reader(BioTek、Winooski、VT、USA)を利用して490nmで各サンプルの光学吸光度(optical absorbance)を測定した。実験結果のデータは、student t-testを利用してn=6の平均±s.d.と示した(*p<0.05、****p<0.001)。
【0068】
図26に示したように、ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)またはヒト星状細胞(HA)をそれぞれの培養培地である内皮培地(E)、周皮細胞培地(P)または星状細胞培地(A)で培養した場合より混合培地であるE+G(E+A+M)培地で培養した場合に細胞培養がさらに優れていることを確認した。
【0069】
また、図27及び28に示したように、ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)及びヒト脳血管周皮細胞(HBVP)は、E+G及びE+G+P培地で生存度が全て優れており、ヒト星状細胞(HA)はE+G培地で生存度が優れていることを確認した。
【0070】
前記実験結果に応じて、以下の実施例においては、内皮培地(E)、星状細胞培地(A)及び微細にかわ培地(M)の1:1:1混合物であるE+G(E+A+M)培地を利用して細胞培養を行った。
【0071】
[実施例2]血液-脳障壁(BBB)模写の微細流体装置の製作
組み立てられた微細流体装置を利用して次のような方法により、血液-脳障壁(BBB;blood-brain barrier)模写の微細流体装置を製作した。
【0072】
図29に示したように、106~107細胞/mL濃度のヒト脳血管周皮細胞(HBVP)10μLを第2の中心チャンネルに注入し、微細流体装置をひっくり返して多孔性膜の表面に周皮細胞が等しく付着できるように1時間にかけて培養し、その後培養液を交替した。6時間以上が過ぎた後、マトリゲル(Matrigel)にエンベディングされた105~106細胞/mL濃度のヒト星状細胞(HA)10μLを第2の中心チャンネルに注入した。マトリゲルが固まるように1時間にかけて培養し、第3の側面チャンネル及び第4の側面チャンネルに培養液を注入し、その後、6時間以上培養した。微細流体装置を再びひっくり返し、その後7×107細胞/mL濃度のヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)15μLを第1の中心チャンネルに注入して1時間にかけて培養し、その後培養液を交替した。
【0073】
[実施例3]血液-脳障壁(BBB)の特異的なタンパク質の発現水準の確認
実施例2において製作したヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)及びヒト星状細胞(HA)を含む血液-脳障壁(BBB;blood-brain barrier)模写の微細流体装置の3次元組織障壁機能を試験するために、血液-脳障壁の特異的なタンパク質の発現水準をqRT-PCR分析によって確認した。比較のために、ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)のみを単一培養した場合のタンパク質発現を共に確認した。
【0074】
RNeasy Mini kit(Qiagen GmBH、Hilden、Germany)を利用してヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)及びヒト星状細胞(HA)からRNAを単離及び収集し、収集したRNAサンプルの量をCytation 5 plate readerを利用して測定した。800ngのHBMEC RNA及び280ngのHA RNAをHigh-capacity cDNA Reverse Transcription kit(Applied Biosystems、Foster City、CA、USA)を利用してT100 Thermal Cycler(Bio-Rad、Hercules、CA、USA)とともにcDNAで逆転写させた。その後、ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)(n=3)における内皮特異的な遺伝子の発現を分析するために、Fluidigm Biomark system(Fluidigm)を用いてFlex Six IFC(Fluidigm、South San Francisco、CA、USA)で微細流体qRT-PCRを行った。それぞれの標的遺伝子は、商業的に入手可能なプライマを用いて評価し、実験に用いられたプライマを下記の表1に示した。
【0075】
【表1】
【0076】
図30に示したように、血液-脳障壁における接合形成(junctional formation)調節、運搬体媒介輸送(carrier-mediated transport)、活性流出(active efflux)またはアミロイドベータ(Aβ;amyloid beta)輸送を調節するタンパク質を含み、評価に利用された全ての血液-脳障壁の特異的なタンパク質がヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)のみを単一培養した場合より、ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)及びヒト星状細胞(HA)を含む血液-脳障壁(BBB;blood-brain barrier)模写の微細流体装置で発現が増加したことを確認した。特に、図31及び32に示したように、血液-脳障壁の特異的な接合タンパク質(junctional proteins)及び受容体タンパク質(receptor proteins)の遺伝子の発現水準が内皮細胞単一培養に比べて顕著に増加したことを確認した。
【0077】
[実施例4]TEER(Transendothelial electrical resistance)値の比較
実施例2において製作したヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)及びヒト星状細胞(HA)を含む血液-脳障壁(BBB;blood-brain barrier)模写の微細流体装置の3次元組織障壁機能を試験するためにTEER(Transendothelial electrical resistance)値を測定した。比較のためにヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)のみを単一培養した場合のTEER値を共に確認した。TEER(Trans-Endothelial Electrical Resistance)は、オームの法則(Ohm’s raw)を利用し、細胞層の電気抵抗を測定する方法であって、細胞層からなった細胞障壁がどれくらいよく機能しているかを示す要素のうちの1つである。細胞層が互いに強く結合するほど、細胞間の結合をなす接合タンパク質(Junction protein)の発現が強くなり、細胞間(Paracellular)の物質輸送が制限されるので、電気抵抗値が高くなる。ヒト血液-脳障壁は物質輸送がきわめて制限されている障壁であって、TEER値が5000Ω.cm2と推定され[Lauschke K、Frederiksen L、Hall VJ(2017)Paving the way toward complex blood-brain barrier models using pluripotent stem cells.Stem Cells Dev 26(12):857-874]、ラット血液-脳障壁は5900Ω.cm2で測定されたことがある[Butt AM、Jones HC、Abbott NJ(1990)Electrical resistance across the blood-brain barrier in anaesthetized rats:a developmental study.J Physiol 429:47-62]。
【0078】
血液-脳障壁(BBB)模写の微細流体装置の障壁層及びヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)の単一培養層のTEER値は、Rj11プラグ及びAg、Ag/AgCl電極ワイヤー(直径381μm、長さ3cm、A-M Systems、Sequim、WA、USA)で製造されたオーダーメード型電極アダプターを12.5Hzで10μAの一定のAC電流を生成するEVOM2 volt-ohmmeter(Word Precision Instruments、Sarasota、FL、USA)に連結して測定した。背景抵抗及び誤差を減少させるために、電極ワイヤーを培養培地が満たされたtygon tubing(1/32“ID×3/32“OD、Cole-Parmer、Vernon Hills、IL、USA)に入れてチャンネルに挿入した。1分間安定化させた後、5つの多重判読値が各装置に対して平均化された。TEER値を計算するために、細胞がない状態での測定値を各装置の測定値から引き、層の表面積をかけた。
【0079】
図33に示したように、ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)の単一培養に比べて血液-脳障壁(BBB)模写の微細流体装置でのTEER値がさらに高く、ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)及びヒト星状細胞(HA)を共に培養した時、血液-脳障壁(BBB)をよりよく模写できることを確認した。
【0080】
[実施例5]血液模写の流れのせん断応力の差によるTEER値の比較
実施例2において製作した血液-脳障壁(BBB;blood-brain barrier)模写の微細流体装置の第1の中心チャンネルに加えられる血液模写の流れのせん断応力による3次元組織障壁の機能の差を試験するために、第1の中心チャンネルにせん断応力が加えられない場合、0.4dyne cm-2のせん断応力を加えた場合、4dyne cm-2のせん断応力を加えた場合のそれぞれのTEER(Transendothelial electrical resistance)値を実施例4と同一の方法で測定した。
【0081】
その結果、図34に示したように、4dyne cm-2のせん断応力を加えた場合、0.4dyne cm-2のせん断応力を加えた場合、せん断応力を加えなかった場合の順に高いTEER値を示すことを確認した。
【0082】
[実施例6]透過係数(permeability coefficient)の比較
実施例2において製作したヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)及びヒト星状細胞(HA)を含む血液-脳障壁(BBB;blood-brain barrier)模写の微細流体装置の3次元組織障壁機能を試験するために、4kDa及び40kDa FITC-dextranの拡散から透過係数(permeability coefficient)を測定した。比較のために細胞を培養しなかった場合及びヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)のみを単一培養した場合の透過係数を共に確認した。
【0083】
微細流体装置内細胞を60時間にかけて培養し、その後4kDaまたは40kDaのFITC-dextran(Sigma-Aldrich)を500μg/mLの濃度で含有する培養培地をPhD Ultra syringe pump(Harvard Apparatus)を用いて微細流体装置の第1の中心チャンネルに16μL/minの流速で注入した。また、同時に一方の側面チャンネルの培養培地を1時間にかけて4μL/minの流速でsyringe pumpを利用してサンプリングした。500μg/mLのFITC-dextran溶液及びサンプル溶液の蛍光強度はCytation 5 plate reader(n=4)を用いて測定した。溶液中のデキストラン(dextran)の濃度(C)は標準補正曲線を用いて測定された蛍光強度値で計算し、透過係数(P)は次の式を利用して計算した。
【0084】
【数1】

【0085】
図35に示したように、ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)及びヒト星状細胞(HA)を含む血液-脳障壁(BBB;blood-brain barrier)模写の微細流体装置の3次元組織障壁は細胞を培養しなかった場合及びヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)のみを単一培養した場合に比べて4kDa及び40kDaの全てにおいて顕著に低い透過係数を示すことを確認することができた。すなわち、3つの細胞を全て培養した場合に血液-脳障壁と最も類似した機能を行うことを確認した。
【0086】
[実施例7]培養方法による星状細胞の構造及び機能の比較
実施例2において製作したヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)及びヒト星状細胞(HA)を含む血液-脳障壁(BBB;blood-brain barrier)模写の微細流体装置の第2の中心チャンネル内の星状細胞培養において、2D培養と3D培養との間の差異点を比較した。健康な星状細胞の形態学的及び生理学的な特性を保存することは、血液-脳障壁の機能を模写することにおいて重要な役割を行う。
【0087】
2D及び3D培養におけるヒト星状細胞(HA)の構造及び機能を比較するために、ヒト星状細胞(HA)をマトリゲル(Matrigel、Growth factor-reduced;Corning、NY、USA)でコーティングされた24-ウェル(24-wells)及び3Dマトリゲル(5mg mL-1)にそれぞれ1×106細胞/mLの密度でシーディングした。一日にかけて培養し、その後細胞を組換えヒトインターロイキン-1β(IL-1β、Gibco、Grand Island、NY、USA)1ng/mLまたは10ng/mLで刺激し、分析のために20時間にかけてさらに培養した。
【0088】
培養方法による星状細胞の構造の比較
図36ないし38に示したように、ヒト星状細胞(HA)を2Dマトリゲル(Matrigel)コーティングの表面上で培養した場合、短い突起(process)を有する平たい多角形状の拡大した細胞体の形態を示した。これに対し、ヒト星状細胞(HA)を3Dマトリゲルの内部で培養した場合、放射形に分布された薄くて長い突起を有する小さい細胞体の形態を示した。
【0089】
培養方法による星状細胞の機能の比較
2Dまたは3D培養されたヒト星状細胞(HA)で反応性神経膠症マーカーの遺伝子の発現水準をqRT-PCR分析によって確認した。2D及び3D培養システム(n=4)でヒト星状細胞(HA)の神経膠反応性を分析するために、標準qRT-PCRをTaqMan Fast Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems)を用いてStepOnePlus Real-Time PCRシステム(Applied Biosystems)で行った。それぞれの標的遺伝子は商業的に入手可能なプライマを用いて評価し、実験に用いられたプライマを下記の表2に示した。
【0090】
【表2】
【0091】
図39に示したように、反応性神経膠症マーカーであるビメンチン(vimentin、VIM)及びリポカリン-2(lipocalin-2、LCN2)の発現が2D培養と比較して3D培養されたヒト星状細胞(HA)で非常に減少することを確認した。LCN2は前炎症反応を媒介することで神経炎症で重要な役割をする遺伝子であって、反応性星状細胞で発現が増加するものと知られている。これに対し、代表的な星状細胞マーカーである神経膠繊維質酸性タンパク質(glial fibrillary acidic protein;GFAP)の発現水準には大きな差がなかった。
【0092】
また、図40及び41に示したように、炎症性サイトカインであるインターロイキン-1β(interleukin-1β;IL-1β)を処理した場合に、LCN2の発現水準が2D及び3D培養において全て容量依存的に調節されることを確認した。
【0093】
従って、3D培養されたヒト星状細胞(HA)が2D培養に比べて生体内の星状細胞と類似した形態及び遺伝子の発現を示すので、血液-脳障壁の構造及び機能を模写することにおいて適合した形態であることを確認した。
【0094】
[実施例8]星状細胞の培養方法によるAQP-4及びα-synの発現の比較
実施例2において製作したヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)及びヒト星状細胞(HA)を含む血液-脳障壁(BBB;blood-brain barrier)模写の微細流体装置の第2の中心チャンネル内の星状細胞培養において、2D培養及び3D培養によるアクアポリン-4(AQP-4;Aquaporin-4)及びα-syn(α-syntrophin)の発現を比較した。血管の周囲空間の星状細胞は末端突起の数でタンパク質であるAQP-4によって脳の水恒常性を調節するので、星状細胞末端突起におけるAQP-4の分極化は、血液-脳障壁の恒常性調節及び生理学的な条件を模写することにおいて重要な役割を行う。α-synはAQP-4の星状細胞末端への分極化を調節するアンカー(anchor)として知られている。
【0095】
細胞の特異的なマーカーの発現を視角化するために、実施例7において培養した2D及び3D培養におけるヒト星状細胞(HA)のサンプルを室温で15分の間2%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde、PFA;Santa Cruz Biotechnology、San Diego、CA、USA)で固定させた。PBSのうち0.1% Triton X(Sigma-Aldrich)で15分の間透過させた後、サンプルをPBSのうち2%の牛血清アルブミン(bovine serum albumin、BSA;Sigma-Aldrich)で室温で1時間にかけて遮断させた。その後、サンプルを4℃で1次抗体とともに一晩培養し、1%のBSAで3回洗浄した。GFAP、AQP4及びα-syn抗体をそれぞれ6時間にかけて4℃で処理した。核を4,6-diamino-2-phenylindole(DAPI;Invitrogen)で対照染色してイメージングの前までPBSに保管した。共焦点顕微鏡(confocal microscope、LSM 700、Carl Zeiss、Oberkochen、Germany)を用いて蛍光可視化されたサンプルを検査した。
【0096】
図42及び43に示したように、星状細胞を2D培養した場合、AQP-4及びα-synが拡散された形態で発現されたのに対し、3Dで培養した場合、星状細胞末端(astrocytic end-feet)に分極化されたことを確認した。
【0097】
従って、3D培養されたヒト星状細胞(HA)が2D培養に比べて生体内の星状細胞と類似した機能を行うので、血液-脳障壁の機能を模写することにおいて適合した形態であることを確認した。
【0098】
[実施例9]培養細胞によるAQP-4の発現の比較
実施例2で製作したヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)及びヒト星状細胞(HA)を含む血液-脳障壁(BBB;blood-brain barrier)模写の微細流体装置でAQP-4の発現の分極化水準を確認した。比較のためにヒト星状細胞(HA)のみを培養した場合及びヒト星状細胞(HA)とヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)を培養した場合のAQP-4の発現を共に確認した。
【0099】
それぞれのサンプルにおけるAQP-4の発現を実施例8と同一の方法で視角化し、その後ImageJ(NIH、Bethesda、MD、USA)を用いて血管周囲チャンネルのzスタックイメージでz-軸に沿って蛍光強度のプロファイルを測定することでAQP4の分布を定量化した。インサートに含まれたチャンネル(vascular)及びベースに含まれたチャンネル(parenchymal)のそれぞれにおける蛍光強度の平均を計算し、その後インサートに含まれたチャンネル(vascular)内の平均蛍光強度をベースに含まれたチャンネル(parenchymal)内の平均蛍光強度に分けてAQP-4の分極化指数(AQP4 polarization index)を計算した。
【0100】
図44に示したように、ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)及びヒト星状細胞(HA)を共に培養(E+P+A)した時、ヒト星状細胞(HA)のみを培養した場合(A)またはヒト星状細胞(HA)とヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)を培養した場合(E+A)に比べて、AQP-4の分極化水準が増加することを確認した。
【0101】
従って、AQP-4の分極化は、周皮細胞の存在下で有意に誘導されることを確認し、ヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)及びヒト星状細胞(HA)を共に培養した時、血液-脳障壁(BBB;blood-brain barrier)の水輸送システムを模写できることを確認した。
【0102】
[実施例10]血液-脳障壁(BBB)を通じたナノ粒子輸送の分析
実施例2において製作したヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)及びヒト星状細胞(HA)を含む血液-脳障壁(BBB;blood-brain barrier)模写の微細流体装置で血液-脳障壁模写の構造を通じたナノ粒子の輸送をモニターして定量化した。中枢神経系における薬物伝達研究において、細胞及び分子水準で薬物を含む化合物の脳への輸送を定量化することは重要な課題である。
【0103】
HDL模倣ナノ粒子eHNP-A1の合成
微細流体技術を利用して脂質(lipid、DMPC)、アポリポ蛋白A1(apolipoprotein A1)及び蛍光マーカーで構成されたHDL模倣の円盤型ナノ粒子eHNP-A1を生理学的に適切な大きさと構成で合成した。合成されたeHNP-A1の大きさの分布を測定して図45に示した。
【0104】
全身投与されたeHNP-A1の生体分布の確認
尾静脈注射によって1mg/kgのeHNP-A1をマウスに全身投与した。200μLの食塩水を注入したマウスを対照群とした。投与24時間後、マウスを犠牲させて食塩水及び4%のPFAに15分の間保管した。その後、生体内の映像システム(in vivo imaging system、IVIS;Perkin Elmer、Waltham、MA、USA)を用いて各器官(脳、心臓、肺、肝、腎臓及び脾臓)を得てDiRの含量を可視化した。また、脳組織内部のeHNP-A1の分布を視角化するために、得た脳組織を10μm切片で極低温保管し、DAPI-containing antifade mounting medium(H-1200;Vector Laboratories、Burlingame、CA、USA)を用いてDAPIで染色した。これを共焦点顕微鏡(confocal microscope、Zeiss LSM 780)を利用して画像化した。
【0105】
その結果、図46に示したように、脳に蓄積されたeHNP-A1の量は全身蓄積量の最大3%であることを確認した。また、図47に示したように、全身投与されたeHNP-A1は、脳の細胞核周辺で局所的な分布をなすことを確認した。
【0106】
血液-脳障壁模写の微細流体装置におけるeHNP-A1の分布
実施例2において製作した血液-脳障壁(BBB;blood-brain barrier)模写の微細流体装置でeHNP-A1の分布を定量化し、物質運搬のメカニズムを確認するために、第1の中心チャンネル(vascular)にeHNP-A1を2時間にかけて培養した。また、eHNP-A1が脳内皮細胞のHDL受容体であるscavenger receptor class B type 1(SR-B1)を利用してHDLの主な輸送メカニズムのうちの1つであるトランスサイトーシス(transcytosis)によって血液-脳障壁を通過するか否かを試験するために、BLT-1(block lipid transporter-1)を処理してSR-B1を遮断した。その後、第1の中心チャンネル(vascular)及び第2の中心チャンネル(perivascular)のそれぞれからサンプリングされたeHNP-A1を含む培養培地の相対的な蛍光強度を測定した。また、eHNP-A1の陽性を示すヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト星状細胞(HA)、及びヒト脳血管周皮細胞(HBVP)の分布に対するFACS(fluorescence-activated cell sorting)分析を行った。
【0107】
図48及び49に示したように、SR-B1を遮断し、その後第1の中心チャンネルに残っているeHNP-A1の量は非常に増加したのに対し、第2の中心チャンネルへ移動したeHNP-A1の量は大して変わらなかった。また、図50に示したように、BLT-1の処理時のヒト脳微細血管内皮細胞(HBMEC)に吸収されるか、あるいは第2の中心チャンネルへ移動したeHNP-A1の量が約3倍減少することを確認し、図51及び52に示したように、BLT-1の処理時の総eHNP-A1の陽性細胞が減少したことを確認した。
【0108】
従って、実施例2において製作した血液-脳障壁(BBB;blood-brain barrier)模写の微細流体装置を利用して細胞とナノ粒子間の相互作用をモニターし、ナノ粒子の分布を定量化できることを確認した。
【符号の説明】
【0109】
100 インサート
101 第1の締結ヘッド
110 第1の中心チャンネル
111 第1の細胞
112 第1の中心チャンネルの入口
113 第1の中心チャンネルの出口
200 ベース
201 インサート挿入溝
202 第2の締結ヘッド
210 第2の中心チャンネル
211 第2の細胞
212 第3の細胞
213 ハイドロゲル
214 第2の中心チャンネルの入口
215 第2の中心チャンネルの出口
220 第3の側面チャンネル
221 第3の側面チャンネルの入口
222 第3の側面チャンネルの出口
230 第4の側面チャンネル
231 第4の側面チャンネルの入口
232 第4の側面チャンネルの出口
240 第5の通路チャンネル
250 第6の通路チャンネル
260 第7の通路チャンネル
270 第8の通路チャンネル
280 第1の流体リザーバ
290 第2の流体リザーバ
300 多孔性膜
400 底部
500 カバー
501 カバー内の第1の中心チャンネルの入口
502 カバー内の第1の中心チャンネルの出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47
図48
図49
図50
図51
図52