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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240612BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02P27/06
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023505023
(86)(22)【出願日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2021009914
(87)【国際公開番号】W WO2022190331
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大矢 将登
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/038829(WO,A1)
【文献】特開2005-012879(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104993765(CN,A)
【文献】国際公開第2019/106875(WO,A1)
【文献】特開2016-197040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電動機の制御を行う電力変換装置であって、
前記交流電動機の駆動中の出力値を検出する検出回路と、
前記交流電動機の機械的異常の予兆を診断する予兆診断機能部と、を有し、
前記予兆診断機能部は、
前記出力値に基づいて、前記交流電動機の出力値の推定分布を逐次更新して、推定更新分布を出力する逐次更新部と、
前記推定更新分布と前記出力値とを比較する比較部と、
前記比較の結果に基づいて、前記交流電動機の前記機械的異常の予兆を診断する診断判定部と、
を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記検出回路は、
前記交流電動機の出力値として、前記交流電動機の駆動中の電流値を検出し、
前記逐次更新部は、
前記電流値に基づいて、前記交流電動機の電流値の推定分布を逐次更新して、前記電流値の前記推定更新分布を出力し、
前記比較部は、
前記推定更新分布と前記電流値とを比較することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記検出回路は、
前記交流電動機の出力値として、前記交流電動機の駆動中の電流値を検出し、
前記逐次更新部は、
前記電流値から演算した回転速度に基づいて、前記交流電動機の回転速度の推定分布を逐次更新して、前記回転速度の前記推定更新分布を出力し、
前記比較部は、
前記推定更新分布と前記回転速度とを比較することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記逐次更新部は、
前記電流値の周波数又は周期に基づいて、前記電流値から前記回転速度を演算することを特徴とする請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記逐次更新部は、
外部の回転速度計測器を用いて検出された回転速度に基づいて、前記交流電動機の回転速度の推定分布を逐次更新して、前記回転速度の前記推定更新分布を出力し、
前記比較部は、
前記推定更新分布と前記回転速度とを比較することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記逐次更新部は、
前記交流電動機の前記出力値を確率変数として表現した状態空間モデルと、前記状態空間モデルを基に推定した前記交流電動機の出力値の推定分布を有し、
前記出力値に基づいて前記交流電動機の出力値の推定分布を逐次更新して、前記推定更新分布を出力することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記比較部は、
前記機械的異常を判定するための前記推定更新分布の基準範囲を定め、
前記基準範囲と前記出力値とを比較して、
前記出力値が前記基準範囲外の値である場合に前記機械的異常と判定し、前記出力値が前記基準範囲内の値である場合に正常と判定して、異常判定信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記診断判定部は、
前記異常判定信号に基づいて前記機械的異常の回数を所定期間において積算し、積算値が所定の閾値を超えた場合に前記機械的異常と判断することを特徴とする請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記診断判定部は、
前記機械的異常の回数を予め決められている基準時間だけ積算し、
前記基準時間毎に前記積算値の検証を実施することにより、前記機械的異常を判断することを特徴とする請求項8に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記診断判定部は、
前記交流電動機と前記電力変換装置とを組み合わせた最初の駆動時において、前記交流電動機を前記基準時間以上駆動させ、前記基準時間分の前記積算値を正常値とし、
前記正常値よりも大きい値を異常値として閾値に採用し、
前記基準時間毎に前記閾値と新たに得られた前記積算値とを比較し、
前記積算値が前記閾値以下であれば正常と判定し、
前記積算値が前記閾値を超えた場合に前記機械的異常と判定することにより、前記検証を実施することを特徴とする請求項9に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記交流電動機の前記機械的異常の予兆の診断結果を前記電力変換装置の外部へ出力して報知する外部出力部を更に有することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記外部出力部は、
前記機械的異常の予兆の診断結果を画面に表示することにより報知することを特徴とする請求項11に記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記外部出力部は、
前記機械的異常の予兆の診断結果を音声にて報知することを特徴とする請求項11に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の異常診断を行う電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械分野、家電分野、自動車分野などの技術分野では、電動機の駆動を行う電力変換装置が用いられている。
【0003】
電動機あるいは当該電動機により駆動される負荷装置の例としては、コンベアなどの生産ラインに組み込まれるもの、あるいは工作機械などに部品の一部として組み込まれるものなどがあり、用途は多岐にわたる。
【0004】
一方、どのような用途においても、電動機を含む駆動系の故障や駆動性能の劣化などの異常が発生した場合、損失は過大となることが予想される。このため、異常が発生する前の段階において、それらの異常を予兆したいという需要がある。
【0005】
このような需要に対し、駆動系の異常を診断する技術が提案されている。駆動系における故障の予兆としては、対象駆動系機器の損傷、偏心、または窪みなどにより、機械的な振動として現れる。この機械的な振動を測定用センサにより捉え、センサ情報の解析結果から診断する技術がある。
【0006】
また、駆動系機器の振動が電気系にも影響を与えることから、例えば特許文献1のように、電流と電圧を測定用センサにより捉え、検出された電流と電圧から負荷トルクを演算し、演算された負荷トルクの解析を同様に実施し、診断する技術などがある。
【0007】
あるいは、特許文献2のように、検出された電流を別の物理量に加工することなく直接解析し、診断する技術などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-197040号公報
【文献】特開2015-222151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び特許文献2では、対象駆動系機器診断のための演算方法と、その演算結果に基づく異常度の判定を実施し、それらどちらの特許文献についても、電流などの物理量を統計処理することが記載されている。
【0010】
統計処理を実施するためには、解析に一定数以上の標本を記憶する必要がある。このことから、統計演算が処理される演算処理装置は相応の記憶領域を使用する。このため、電力変換装置に実装されるような汎用マイクロコンピュータ、特に安価なマイクロコンピュータへの実装は難しいという課題があった。
【0011】
本発明の目的は、統計処理を実施することなく、正確に駆動系の異常を診断可能な電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様の電力変換装置は、交流電動機の制御を行う電力変換装置であって、前記交流電動機の駆動中の出力値を検出する検出回路と、前記交流電動機の機械的異常の予兆を診断する予兆診断機能部と、を有し、前記予兆診断機能部は、前記出力値に基づいて、前記交流電動機の出力値の推定分布を逐次更新して、推定更新分布を出力する逐次更新部と、前記推定更新分布と前記出力値とを比較する比較部と、前記比較の結果に基づいて、前記交流電動機の前記機械的異常の予兆を診断する診断判定部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、電力変換装置において、統計処理を実施することなく、正確に駆動系の異常を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例における電力変換装置の構成ブロック図である。
図2】予兆診断機能部の構成ブロック図である。
図3】線形確率システムの状態空間モデルの一例である。
図4】逐次更新部200の動作概要図である。
図5】推定更新分布20Aと基準範囲の一例である。
図6】予兆診断結果の変化変化の一例を示す図である。
図7】積算値からの検証過程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて実施例について説明する。
【実施例1】
【0016】
図1を参照して、実施例1の電力変換装置の構成について説明する。
【0017】
図1に示すように、3相交流電動機120の駆動を行う電力変換装置110は、整流回路111、平滑回路112、スイッチング回路113、電流検出回路114、予兆診断機能部115及び外部出力部116を有する。
【0018】
3相交流電源100から出力される3相交流電圧は、整流回路111により整流され、平滑回路112により平滑し、直流電圧を生成する。なお、3相交流電源100の代わりに単相交流電源を用い、単相交流電圧を整流、平滑し、直流電圧を生成してもよい。また、整流回路111及び平滑回路112を取り外し、直流電源から直接、直流電圧を得てもよい。
【0019】
スイッチング回路113は、複数のスイッチング素子のON/OFFを組み合わせることで、直流電圧を任意の3相交流電圧に変換し、3相交流電動機120に印加する。スイッチング回路113は、例えば、それぞれ2個のスイッチング素子を直列接続したU相、V相、W相のアームを並列接続して構成することができる。
【0020】
電流検出回路114は、電力変換装置110の3相出力電流を検出する。2相のみを検出し、3相交流の総和が零であることから、残りの1相を算出してもよい。なお、スイッチング回路113の入力の正極側、あるいは負極側にシャント抵抗を設け、このシャント抵抗に流れる電流から3相出力電流を推定してもよい。
【0021】
予兆診断機能部115は、検出電流11Aにより、3相交流電動機120の機械的異常の予兆診断を実施し、その予兆診断の結果である外部出力信号11Bを出力する。
【0022】
外部出力部116は、外部出力信号11Bにより、3相交流電動機120の機械的異常の予兆診断結果を電力変換装置110の外部に報知する。
【0023】
次に、図2を参照して、予兆診断機能部115の構成について説明する。図2は、実施例1における予兆診断機能部115の構成ブロック図である。
【0024】
図2に示すように、予兆診断機能部115は、逐次更新部200、比較部201、診断判定部202を有し、外部出力部116に外部出力信号11Bを出力する。
【0025】
逐次更新部200は、内部に図3に示す3相交流電動機120の電流値を確率変数として表現した状態空間モデルと、その状態空間モデルを基に推定した電流値の分布を有する。3相交流電動機の電流値の推定分布は、検出電流11Aにより更新され、その更新された結果である分布を推定更新分布20Aとして出力する。
【0026】
図4を参照して、逐次更新部200の動作の概要について説明する。図4において、横軸は電流値(確率変数)であり、縦軸は確率である。
【0027】
図4の矢印に示すように、ある時刻における電流値の推定分布が、新たに検出された検出電流11Aにより推定更新分布20Aに更新される。
【0028】
比較部201は、検出電流11Aと推定更新分布20Aとを入力に有する。さらに、比較部201は、図5に示すように、推定更新分布20Aと斜線にて示されている異常判定のための基準範囲を定め、その基準範囲と検出電流11Aとを比較する。比較の結果、検出電流11Aが推定更新分布20Aの基準範囲外の値である場合に異常と判定しONとなり、基準範囲内の値である場合にOFFとなる異常判定信号20Bを出力する。
【0029】
診断判定部202は、異常判定信号20Bの入力からONの回数を、あらかじめ決められている一定期間内に積算し、その積算値が閾値を超えた場合に異常と判断する。この判断結果として、正常または異常を外部出力信号11Bとして出力する。
【0030】
以下、実施例1における基本動作について説明する。実施例1の基本となる3相交流電動機120の機械的異常の予兆診断は、3相交流電動機120の電流値に異常兆候があることを、検出電流11Aの電流値により推定することである。ここで、3相交流電動機120の電流値をxkと定義し、そのxkの確率変数をXkとする。そのXkは、図3及び図3と等価な(数1)及び(数2)とに示す線形確率システムにより表現される。
【0031】
【数1】
【0032】
【数2】
【0033】
kは離散時間{0、1、2、・・・}、または{0、±1、±2、・・・}という離散値である。この線形確率システムはYkを出力として、Ykは、検出電流11Aの電流値をykとしたときのykの確率変数を意味する。ak、bk、そしてckは設計値であり、対象とする電力変換装置110を含む駆動系の特性により決定する。
【0034】
また、Wk及びVkは、Xk及びYk、さらにWk、Vkそれぞれとも独立な期待値が0、分散が1の正規分布に従う雑音である。Tは時間遅延要素であり、これは図3のXkが時間遅延要素Tを通過した後の信号がXk-1となっていることからも明らかである。ここで、X0は期待値が任意のμ0、分散が任意のτ0の正規分布に従う初期状態であるとし、以降k番目のXkにおいては、期待値がμk、分散がτkの正規分布に従い、正規分布が保たれるとする。
【0035】
ここで、(数1)に示した線形確率システムに表現された3相交流電動機120の電流値xkの確率変数Xkの特性である(μk、τk)の組をykにより逐次更新すること、すなわち図4に示した動作となる(μk-1、τk-1)から(μk、τk)への更新を考える。
【0036】
この更新は、Xkの条件付き確率分布を求めることにより明示され、時間経過とともに新たな出力電流ykが得られるため、条件付確率密度関数p(xk|yk)を逐次計算することで導かれる。p(xk|yk)は、(数3)に従って計算される。
【0037】
【数3】
【0038】
(数3)の左辺p(xk|yk)は、Yk=ykという実現値を得た際のXkの分布であり、すなわち検出電流11Aを得て、3相交流電動機120の電流値の推定分布が更新されることを示し、この数式は図4と等価である。
【0039】
以降、(数3)の右辺を演算し、整理するため各要素について示す。はじめに、p(yk|xk)は、Xk=xkという実現値を得た際のYkの分布であり、また(数2)よりYkは正規分布に従うため、Ykの期待値と分散を演算することにより求められる。Ykの期待値と分散とを演算する操作をそれぞれE(Yk)とV(Yk)と表すと、それぞれ(数4)と(数5)のように示される。
【0040】
【数4】
【0041】
【数5】
【0042】
(数4)と(数5)とから、p(yk|xk)は(数6)のように示される。
【0043】
【数6】
【0044】
次に、p(xk)について求める。(数1)とE(Xk-1)=μk-1、V(Xk-1)=τk-1であることから、それぞれ(数7)と(数8)のように示される。
【0045】
【数7】
【0046】
【数8】
【0047】
(数7)と(数8)とから、p(xk)は(数9)のように示される。
【0048】
【数9】
【0049】
次に、p(yk)について求める。p(yk)は確率変数Xkに依存しないことは明らかであるため、定数Nとして(数3)の全体での確率が1となるように調整する数値である。このことと(数6)と(数9)とから、(数3)は(数10)の演算結果により求められる。
【0050】
【数10】
【0051】
(数10)を確率変数Xkに依存しない部分をまとめて定数Mとして整理すると、(数11)のように示される。
【0052】
【数11】
【0053】
(数11)からμk、τkがそれぞれ求められるため、(μk-1、τk-1)から(μk、τk)への更新は、それぞれ(数12)と(数13)により、逐次計算できる。
【0054】
【数12】
【0055】
【数13】
【0056】
逐次更新部200は、これら(数12)と(数13)とに示されたμk、τkを検出電流11Aにより更新された分布である推定更新分布20Aとして出力する。
【0057】
次に、(数12)、(数13)に示されたμk、τk、そして設計値αから決められた(数14)に示す基準範囲と、その基準範囲とykとを(数15)に示す式により比較する。この基準範囲は、μkを中心に最小値μk-ατk、最大値μk+ατkであり、図5の斜線部と等価である。ただし、(数12)から明らかなように、μkはykの情報をすでに含んでいるため、ここではk-1時点のμk-1とτk-1とを用いる。
【0058】
【数14】
【0059】
【数15】
【0060】
比較部201は、(数14)に示した基準範囲を持ち、その基準範囲を推定更新分布20Aに定める。そして(数15)に示した比較式を満たさない場合に異常と判定しONとなり、比較式を満たす場合にOFFとなる信号を異常判定信号20Bとして出力する。
【0061】
診断判定部202は、異常判定信号20BのONの回数を予め決められている時間分積算する。図6は、積算値の時間変化の一例であり、横軸を時間、縦軸を積算値として示されている。新品の交流電動機である正常交流電動機と、その同一の交流電動機を一年間継続使用し劣化した交流電動機である異常交流電動機の積算値について、計測開始を時刻0とし時刻tまでの時間をグラフとして表している。
【0062】
図6のグラフ上の実線が正常交流電動機、点線が異常交流電動機であり、異常交流電動機の方が正常交流電動機よりも時間あたりの積算値が大きく増加していることは明らかである。このことを利用し、tを基準時間としてt毎に積算値の検証を実施することで、異常判断を可能とする。
【0063】
積算値の検証は、3相交流電動機120と電力変換装置110とを組み合わせたはじめの駆動時において、交流電動機を時間t以上駆動させ、その時間t分の積算値を正常値とする。次に、その正常値の2倍から3倍程度の値を異常値として閾値に採用し、時間t毎に閾値と新たに得られた積算値とを比較し、積算値が閾値以下であれば正常、積算値が閾値を超えた場合に異常のように、検証を実施する。この積算値からの検証過程の一例を図7に示す。
【0064】
図7は、図6と同様に横軸を時間、縦軸を積算値として、3相交流電動機120と電力変換装置110とを組み合わせたはじめの駆動時から異常判定までの時間過程を表し、時間t毎に積算値と閾値との比較、積算値の初期化すなわち0への再設定を繰り返し、判定を実施する。
【0065】
なお、積算値と閾値との比較ではなく、新たに得られた積算値とその一つ前に得られた積算値との差分にて、積算値の変化量を算出することで、積算値の検証をしても良い。この検証結果を外部出力信号11Bとして出力する。
【0066】
以上の動作が、実施例1の基本となる3相交流電動機120の機械的異常の予兆診断方法である。この予兆診断結果である外部出力信号11Bは、外部出力部116を通じて3相交流電動機120の使用者に報知する。
【0067】
報知する装置としては、液晶画面に予兆診断結果を文字列として常時表示したり、回転灯や表示灯、あるいはブザーにより異常時のみ報知したりと、外部出力部116以降の形態について制限はない。
【実施例2】
【0068】
実施例1では、交流電動機の機械的異常の予兆診断を駆動中の検出電流にて実施する方法を説明した。実施例2は、駆動中の検出電流ではなく、駆動中の回転速度を用いた交流電動機の機械的異常の予兆診断を提供することを特徴とする。
【0069】
実施例2の電力変換装置及び予兆診断機能部の構成は、実施例1で説明した図1及び図2と同じであり、基本動作についても同様なので、その説明は省略する。
【0070】
実施例2が実施例1と異なる点は、異常の予兆診断に使用する物理量を検出電流ではなく、回転速度を用いる点である。これは、交流電動機の異常兆候が電流に限らず、別の物理量である回転速度にも異常兆候が現れるためである。
【0071】
従って、実施例2の基本となる3相交流電動機120の機械的異常の予兆診断は、3相交流電動機120の回転速度に異常兆候があることを、検出電流11Aの電流値から演算した回転速度により推定することである。
【0072】
ここで、(数3)において、3相交流電動機120の回転速度をxkと定義し、そのxkの確率変数をXkとする。また、Ykは、検出電流11Aの電流値から演算した回転速度をykとしたときのykの確率変数を意味する。前述の(数3)における2つの確率変数の定義が実施例1との差異であり、基本動作については、実施例1と同様である。
【0073】
なお、電流から回転速度の演算については、電流の周波数または周期から可能であるが、外部の回転速度計測器を用いて直接検出電流11Aに代替し入力しても良い。
【0074】
さらに、実施例1と実施例2とを組み合わせて、電流と回転速度とのいずれか、または両方を用いることで、実施例1よりも交流電動機の多様な異常兆候の予兆診断を実現できる電力変換装置が提供可能となる。
【0075】
以上の動作により、3相交流電動機120の機械的異常の予兆診断結果を明示可能な電力変換装置が提供可能となる。
【0076】
上記実施例によれば、駆動している交流電動機の機械的異常の予兆診断を統計的な演算を用いることなく実現することができる。このため、記憶領域の節約につながり、予兆診断を安価なマイコンピュータで実現できる。
【0077】
以上実施例について説明したが、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0078】
11A 検出電流
11B 外部出力信号
20A 推定更新分布
20B 異常判定信号
100 3相交流電源
110 電力変換装置
111 整流回路
112 平滑回路
113 スイッチング回路
114 電流検出回路
115 予兆診断機能部
116 外部出力部
120 3相交流電動機
200 逐次更新部
201 比較部
202 診断判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7