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  • 特許-スパークプラグ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/39 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
H01T13/39
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023506570
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2022027443
(87)【国際公開番号】W WO2023013371
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2021126835
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】中村 海透
(72)【発明者】
【氏名】角力山 大典
(72)【発明者】
【氏名】鬼海 高明
(72)【発明者】
【氏名】服部 健吾
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-140800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電部材を備える中心電極と、
前記放電部材と火花ギャップを介して対向する接地電極と、を備えるスパークプラグであって、
前記放電部材は、Ruを主成分とし、Ni又はCoを0.5質量%以上30質量%以下含むスパークプラグ。
【請求項2】
放電部材を備える接地電極と、
前記放電部材と火花ギャップを介して対向する中心電極と、を備えるスパークプラグであって、
前記放電部材は、Ruを主成分とし、Ni又はCoを0.5質量%以上30質量%以下含むスパークプラグ。
【請求項3】
前記放電部材は、Ni又はCoを5質量%以上25質量%以下含む請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はRuを含む放電部材を備えるスパークプラグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
放電部材を備える第1電極と、放電部材と火花ギャップを介して対向する第2電極と、を備えるスパークプラグにおいて、Ruの単体もしくはRu合金からなる放電部材を備える先行技術が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-54955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Ruは高温下において酸化揮発が顕著なため、先行技術は放電部材が消耗し易く、早期にスパークプラグの寿命が尽きるおそれがある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、放電部材の消耗を低減し寿命を長くできるスパークプラグを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のスパークプラグは、放電部材を備える第1電極と、放電部材と火花ギャップを介して対向する第2電極と、を備え、放電部材は、Ruを主成分とし、Ni又はCoを0.5質量%以上30質量%以下含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスパークプラグによれば、放電部材の消耗を低減できるので、寿命を長くできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施の形態におけるスパークプラグの片側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は一実施の形態におけるスパークプラグ10の軸線Oを境にした片側断面図である。図1では、紙面下側をスパークプラグ10の先端側、紙面上側をスパークプラグ10の後端側という。
【0010】
図1に示すようにスパークプラグ10は、中心電極13(第1電極)及び接地電極18(第2電極)を備えている。絶縁体11は中心電極13と接地電極18とを絶縁する。接地電極18は主体金具17に接続されている。絶縁体11は、機械的特性や高温下の絶縁性に優れるアルミナ等により形成された略円筒状の部材である。絶縁体11は軸線Oに沿って貫通する軸孔12が設けられている。
【0011】
中心電極13は、軸線Oに沿って軸孔12に配置された棒状の電極である。中心電極13は、母材14と、母材14の先端に設けられた放電部材15と、を備えている。母材14は熱伝導性に優れる芯材が埋設されている。母材14の材料は例えばNi又はNiを主成分とする合金であり、芯材の材料は例えばCu又はCuを主成分とする合金である。芯材は省略できる。放電部材15の材料は、Ruを主成分とする金属である。放電部材15は、レーザ溶接や抵抗溶接、拡散接合等によって母材14に固着されている。
【0012】
端子金具16は、高圧ケーブル(図示せず)が接続される棒状の部材であり、先端側が絶縁体11の軸孔12の中に配置される。端子金具16は、軸孔12の中で中心電極13と電気的に接続されている。
【0013】
主体金具17は、内燃機関のねじ穴(図示せず)に固定される略円筒状の金属製の部材である。主体金具17は導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成される。主体金具17は絶縁体11の外周に固定されている。主体金具17には、接地電極18が接続されている。
【0014】
接地電極18は、主体金具17に接続される母材19と、母材19に設けられた放電部材20と、を備えている。母材19は熱伝導性に優れる芯材が埋設されている。母材19の材料は、Niを主成分とする合金であり、芯材の材料はCu又はCuを主成分とする合金である。芯材は省略できる。放電部材20は、母材19よりも耐火花消耗性の高いPt,Ir,Ru,Rh等の貴金属やW、又は、貴金属やWを主成分とする合金によって形成されている。放電部材20は、レーザ溶接や抵抗溶接、拡散接合等によって母材19に固着されている。接地電極18は、火花ギャップ21を介して中心電極13の放電部材15と対向する。
【0015】
スパークプラグ10は、例えば以下のような方法によって製造される。まず、中心電極13を絶縁体11の軸孔12に挿入する。次に、軸孔12に端子金具16を挿入し、端子金具16と中心電極13との導通を確保した後、予め接地電極18が接続された主体金具17を絶縁体11の外周に組み付ける。接地電極18を屈曲して中心電極13と接地電極18との間に火花ギャップ21を作り、スパークプラグ10を得る。
【0016】
放電部材15は、Ruを主成分とし、Ni又はCoを0.5質量%以上30質量%以下含む。好ましくは放電部材15は、Ruを主成分とし、Ni又はCoを5質量%以上25質量%以下含む。Ruは高融点金属なので、放電部材15の主成分となる。主成分とは、放電部材15を構成する元素のうち含有量が最も多い元素のことである。Ruの含有量は、放電部材15を構成する全成分の合計量に対して50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上または70質量%以上である。
【0017】
放電部材15は、Ru,Ni,Co以外に他の金属元素を含んでいても良い。他の金属元素は、例えば白金族元素(Rh,Pd,Os,Ir,Pt)やCrが挙げられる。他の金属の含有量は例えば3質量%以下である。
【0018】
放電部材15は、Ru,Ni,Coや他の金属元素以外に、YやAl等の酸化物を含んでいても良い。酸化物の含有量は例えば8質量%以下である。
【0019】
NiやCoは、Ruの酸化消耗を低減するための元素である。NiやCoはRuよりも酸化し難い性質がある。Niの含有量は、放電部材15の質量に対して0.5質量%以上30質量%以下、好ましくは5質量%以上30質量%以下、又は、0.5質量%以上25質量%以下、より好ましくは5質量%以上25質量%以下である。Niの含有量が0.5質量%未満であると、Ruの酸化消耗がほとんど低減しない。Niの含有量が30質量%を超えると、放電部材15の融点が大きく低下し、放電部材15の耐火花消耗性が低下する傾向がみられる。
【0020】
Coの含有量は、放電部材15の質量に対して0.5質量%以上30質量%以下、好ましくは5質量%以上30質量%以下、又は、0.5質量%以上25質量%以下、より好ましくは5質量%以上25質量%以下である。Coの含有量が0.5質量%未満であると、Ruの酸化消耗がほとんど低減しない。Coの含有量が30質量%を超えると、放電部材15の融点が大きく低下し、放電部材15の耐火花消耗性が低下する傾向がみられる。
【0021】
放電部材15にNiとCoが両方含まれていても良い。放電部材15にNiとCoが両方含まれる場合、NiとCoを合わせた含有量は、放電部材15の質量に対して0.5質量%以上30質量%以下、好ましくは5質量%以上30質量%以下、又は、0.5質量%以上25質量%以下、より好ましくは5質量%以上25質量%以下である。NiとCoを合わせた含有量が0.5質量%未満であると、Ruの酸化消耗がほとんど低減しない。NiとCoを合わせた含有量が30質量%を超えると、放電部材15の融点が大きく低下し、放電部材15の耐火花消耗性が低下する傾向がみられる。
【0022】
放電部材15は、Ru及びNi(又はCo)を含む金属粉末を成形し、得られた成形体を焼結する粉末冶金によって得られる。粉末冶金によって放電部材15が作られると、円板、円錐台、楕円柱、三角柱や四角柱等の多角柱など、放電部材15を任意の形状にできる。
【0023】
金属粉末の成形体は、焼結によって緻密化と粒成長とが生じる。焼結温度と放電部材15の密度との間には相関がある。耐火花消耗性を向上するため、放電部材15の密度は95%以上が好ましい。放電部材15の密度はアルキメデス法で測定される。
【0024】
放電部材15の酸化消耗を低減するために、放電部材15は溶存酸素量が少ないのが好ましい。放電部材15の溶存酸素量を少なくするには、原料の金属粉末に含まれる酸素量は少ないのが好ましい。原料の金属を真空溶解し、不活性ガスアトマイズ法によって金属粉末を作ることで、金属粉末の酸素量を低減できる。
【実施例
【0025】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0026】
(サンプルの作製)
試験者は、Ru,Niの金属を種々の割合で混合した混合物、及び、Ru,Coの金属を種々の割合で混合した混合物を真空溶解し、不活性ガスアトマイズ法によって種々の金属粉末を得た。得られた金属粉末を金型に入れ、圧縮して円柱状の成形体を得た後、成形体を還元雰囲気において約2000℃で焼結して、RuとNiの割合やRuとCoの割合が異なる35種の放電部材を得た。
【0027】
また試験者は、Yの粉末と金属粉末とを混合したものを金型に入れ、圧縮して円柱状の成形体を得た後、成形体を還元雰囲気において約2000℃で焼結して、Yを含む2種の放電部材を得た。
【0028】
放電部材の化学成分は、波長分散型X線分光器(WDS)を使って測定した。測定の条件は、加速電圧:20kV、ビーム径:20μm、測定時間:ピークトップ10秒とした。得られた放電部材は、直径0.8mm、厚さ0.6mmの円柱状であった。得られた放電部材の密度(アルキメデス法による)は95%以上であった。
【0029】
試験者は、放電部材をそれぞれ母材に接合した中心電極を作製し、上記実施形態と同様に、中心電極の放電部材と接地電極との間に火花ギャップを設けたNo.1-37のスパークプラグのサンプルを得た。サンプルの火花ギャップの大きさは0.75mmとした。
【0030】
(試験)
試験者は各サンプルをエンジンに取り付け、中心電極と接地電極との間に火花放電を生じさせ、エンジンを5000rpmの回転数で120時間作動する試験を行った。1回の火花放電において点火コイルから各サンプルへ供給されるエネルギーは300mJとした。試験時の空燃比は10.5、エンジンの燃焼室の圧力は62kPa、放電部材の温度は700℃であった。放電部材の温度は、試験を始める前に、放電部材の近くに到達する穴をあけたスパークプラグを用いて、放電部材の近くの母材の先端付近に熱電対の測温接点を配置して測定した。
【0031】
試験後、3次元形状測定機を用いて各サンプルの放電部材の消耗量(mm)を測定し、消耗量に基づいてNo.1-37のサンプルをAからCの3つのランクに分けた。Aは消耗量が0.297mm未満、Bは消耗量が0.297mm以上0.511mm未満、Cは消耗量が0.511mm以上とした。Aの基準値の0.297mmは、Ptを5質量%含み残部がIrからなる放電部材を使って同じ試験をしたときの消耗量である。Cの基準値の0.511mmは、Irを32質量%含み残部がPtからなる放電部材を使って同じ試験をしたときの消耗量である。No.1-37のサンプルの放電部材の化学成分、放電部材の消耗量、消耗量に基づく判定を表1及び表2に記した。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
表1に示すようにNo.6-14,23-31はA、No.3-5,15-17,20-22,32-34はB、No.1,2,18,19,35はCの判定であった。判定がA又はBのNo.3-17,20-34の消耗量は、Irを32質量%含み残部がPtからなる放電部材の消耗量よりも少なかった。判定がAのNo.6-14,23-31の消耗量は、Ptを5質量%含み残部がIrからなる放電部材の消耗量よりも少なかった。No.3-17,20-34は、IrやPtよりも推定埋蔵量が多いRuを主成分とするので、IrやPtを主成分とする放電部材に比べ、原料費を低減できることが明らかである。さらにIrやPtを主成分とする放電部材に比べ、原料の供給安定性を向上できることも明らかである。
【0035】
判定がA又はBのNo.3-17と、判定がCのNo.1,2,18と、を比較すると、No.3-17はNiの含有量が0.5-30質量%であり、No.1,2,18はNiの含有量が0.5質量%未満または30質量%を超えていた。Ruを主体とし0.5-30質量%の範囲でNiが含まれる放電部材は、それ以外の割合でRuにNiが含まれる放電部材に比べ、消耗量を少なくできることがわかった。
【0036】
判定がAのNo.6-14と、判定がBのNo.3-5,15-17と、を比較すると、No.6-14はNiの含有量が5-25質量%であり、No.3-5,15-17はNiの含有量が5質量%未満または25質量%を超えていた。Ruを主体とし5-25質量%の範囲でNiが含まれる放電部材は、消耗量をさらに少なくできることがわかった。
【0037】
判定がA又はBのNo.20-34と、判定がCのNo.19,35と、を比較すると、No.20-34はCoの含有量が0.5-30質量%であり、No.19,35はCoの含有量が0.5質量%未満または30質量%を超えていた。Ruを主体とし0.5-30質量%の範囲でCoが含まれる放電部材は、それ以外の割合でRuにCoが含まれる放電部材に比べ、消耗量を少なくできることがわかった。
【0038】
判定がAのNo.23-31と、判定がBのNo.20-22,32-34と、を比較すると、No.23-31はCoの含有量が5-25質量%であり、No.20-22,32-34はCoの含有量が5質量%未満または25質量%を超えていた。Ruを主体とし5-25質量%の範囲でCoが含まれる放電部材は、消耗量をさらに少なくできることがわかった。
【0039】
表2に示すようにNo.36は、No.9の放電部材のRuの6質量%をYに置き換えたものであり、No.37は、No.24の放電部材のRuの6質量%をYに置き換えたものである。No.36,37もNo.9,24と同様に判定はAであった。Yを含む放電部材も消耗量を少なくできることが明らかになった。
【0040】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0041】
実施形態では、母材14に放電部材15が接合される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。母材14と放電部材15との間に中間材を介在させることは当然可能である。
【0042】
実施形態では、接地電極18に設けられた放電部材20に、中心電極13に設けられた放電部材15が対向する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。接地電極18の放電部材20を省略することは当然可能である。
【0043】
実施形態では、第1電極として中心電極13を例示し、第2電極として接地電極18を例示したが、必ずしもこれに限られるものではない。接地電極18を第1電極とし、中心電極13を第2電極とすることは当然可能である。この場合、Ruを主成分とし0.5-30質量%の割合でNiを含む放電部材20が、接地電極18の母材19に固着される。母材19と放電部材20との間に中間材が介在しても良い。
【0044】
接地電極18を第1電極とする場合には、接地電極18の母材19のうち中心電極13の側を向く面に放電部材20が固着されるものに限られない。放電部材20と中心電極13との間に火花ギャップ21が形成されるのであれば、母材19のどの面に放電部材20を固着しても構わない。中心電極13の放電部材15を省略することは当然可能である。
【0045】
実施形態では、主体金具17に接合された接地電極18の母材19を屈曲させる場合について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではない。屈曲した母材19を用いる代わりに、直線状の母材を用いることは当然可能である。この場合には、主体金具17の先端側を軸線方向に延ばし、直線状の母材を主体金具17に接合して、母材を中心電極13と対向させる。接地電極18の数も適宜設定される。
【0046】
実施形態では、放電部材20が中心電極13と軸線方向に対向するように接地電極18を配置する場合について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、接地電極18と中心電極13との位置関係は適宜設定できる。接地電極18と中心電極13との他の位置関係としては、例えば、中心電極13の側面と接地電極18の放電部材20とが対向するように接地電極18を配置すること等が挙げられる。
【符号の説明】
【0047】
10 スパークプラグ
13 中心電極(第1電極)
15 放電部材
18 接地電極(第2電極)
21 火花ギャップ
図1