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特許7503224熱伝導性組成物及びこれを用いた熱伝導性シートとその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】熱伝導性組成物及びこれを用いた熱伝導性シートとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240612BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240612BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20240612BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240612BHJP
   C08K 5/541 20060101ALI20240612BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20240612BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/22
C08K3/28
C08L83/04
C08K5/541
C09K5/14 E
C08J5/18 CFH
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024522669
(86)(22)【出願日】2024-02-29
(86)【国際出願番号】 JP2024007512
【審査請求日】2024-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2023111523
(32)【優先日】2023-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237422
【氏名又は名称】富士高分子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】加藤 貴嗣
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/215510(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/256391(WO,A1)
【文献】特開2020-090584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂(A成分)と硬化触媒と熱伝導性粒子(B成分)を含む熱伝導性組成物であって、
前記マトリックス樹脂(A成分)100質量部に対して前記熱伝導性粒子(B成分)は1500~3000質量部配合されており、
前記熱伝導性粒子(B成分)は下記B-1成分、B-2成分、B-3成分、およびB-4成分を含み、
前記熱伝導性粒子(B成分)は、前記熱伝導性粒子(B成分)合計を100質量%としたとき、
D50(メジアン径)が20μm未満の窒化アルミニウム(B-1成分)を10~20質量%、
D50(メジアン径)が20μm以上の窒化アルミニウム(B-2成分)を3~9質量%、
D50(メジアン径)が60~80μmのアルミナ(B-3成分)を50~60質量%、および
D50(メジアン径)が60μm未満のアルミナ(B-4成分)を11~37質量%含み、
前記B-1成分とB-2成分の配合比率(B-1)/(B-2)が質量割合で1.2~3である熱伝導性組成物。
【請求項2】
前記熱伝導性組成物の硬化物の熱伝導率は7W/m・K以上である請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
前記熱伝導性組成物の硬化物は、ASTM D575-91:2012に準じた測定で、直径28.6mm、厚さ2mmの50%圧縮時の瞬間荷重値が1000N以下である請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
前記熱伝導性組成物の硬化前の脱泡後の可塑度が60以下である請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
前記マトリックス樹脂は、付加硬化型シリコーンポリマー、過酸化物硬化型シリコーンポリマー及び縮合型シリコーンポリマーから選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
前記マトリックス樹脂100質量部に対し、さらにシランカップリング剤が0.1~10質量部配合されている請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物を含み、シートに成形されている熱伝導性シート。
【請求項8】
前記熱伝導性シートの厚みは0.2~10mmの範囲である請求項7に記載の熱伝導性シート。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物を真空脱泡し、圧延し、シート成形した後に加熱硬化させて熱伝導性シートを製造する工程を含む熱伝導性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させるのに好適な熱伝導性組成物及びこれを用いた熱伝導性シートとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のCPU等の半導体の性能向上はめざましくそれに伴い発熱量も膨大になっている。そのため発熱するような電子部品には放熱体が取り付けられ、半導体と放熱部との密着性を改善する為に熱伝導性シートが使われている。機器の小型化、高性能化、高集積化に伴い熱伝導性シートには柔らかさ、高熱伝導性が求められている。従来、特許第6246986号公報および特許第7039157号公報には大粒径の窒化アルミニウム粒子と小粒径の窒化アルミニウム粒子又はアルミナ粒子を含むポリシロキサン組成物が提案されている。特許第7082563号公報および特許第7205554号公報には窒化アルミニウム粒子を含む熱伝導性ポリシロキサン組成物が提案されている。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂(A成分)と硬化触媒と熱伝導性粒子(B成分)を含む熱伝導性組成物であって、
前記マトリックス樹脂(A成分)100質量部に対して前記熱伝導性粒子(B成分)は1500~3000質量部配合されており、
前記熱伝導性粒子(B成分)は下記B-1成分、B-2成分、B-3成分、およびB-4成分を含み、
前記熱伝導性粒子(B成分)は、前記熱伝導性粒子(B成分)合計を100質量%としたとき、
D50(メジアン径)が20μm未満の窒化アルミニウム(B-1成分)を10~20質量%、
D50(メジアン径)が20μm以上の窒化アルミニウム(B-2成分)を3~9質量%、
D50(メジアン径)が60~80μmのアルミナ(B-3成分)を50~60質量%、および
D50(メジアン径)が60μm未満のアルミナ(B-4成分)を11~37質量%含み、
前記B-1成分とB-2成分の配合比率(B-1)/(B-2)が質量割合で1.2~3である熱伝導性組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1図1は本発明の一実施形態における熱伝導性シートの使用方法を示す模式的断面図である。
図2図2は本発明の一実施形態の球状アルミナ(B-3、D50=75μm)の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3図3は本発明の丸み状AIN(B-1、D50=5μm)の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図4図4は本発明の不定形アルミナ(B-4、D50=4μm)の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図5図5は本発明の一実施例で使用する圧縮荷重測定装置の模式的側面断面図である。
図6図6A-Bは本発明の一実施例における試料の熱伝導率の測定方法を示す模式的説明図である。
【発明の詳細な説明】
【0005】
しかし、従来の熱伝導性組成物及びこれを用いた熱伝導性シートは、熱伝導率を高くすると、圧縮荷重及び可塑度が高くなるという問題があった。
本発明は前記従来の問題を解決するため、熱伝導率が高く、かつ圧縮荷重及び可塑度を低く抑えた熱伝導性シート、およびその原料である熱伝導性組成物、及びこれを用いた熱伝導性シートの製造方法を提供する。
【0006】
本発明の熱伝導性組成物は、熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂(A成分)と硬化触媒と熱伝導性粒子(B成分)を含む熱伝導性組成物であって、前記マトリックス樹脂(A成分)100質量部に対して前記熱伝導性粒子(B成分)は1500~3000質量部配合されており、前記熱伝導性粒子(B成分)は下記B-1成分、B-2成分、B-3成分、およびB-4成分を含み、前記熱伝導性粒子(B成分)は前記熱伝導性粒子(B成分)合計を100質量%としたとき、
D50(メジアン径)が20μm未満の窒化アルミニウム(B-1成分)を10~20質量%、
D50(メジアン径)が20μm以上の窒化アルミニウム(B-2成分)を3~9質量%、
D50(メジアン径)が60~80μmのアルミナ(B-3成分)を50~60質量%、および
D50(メジアン径)が60μm未満のアルミナ(B-4成分)を11~37質量%含み、
前記B-1成分とB-2成分の配合比率(B-1)/(B-2)が質量割合で1.2~3である。
【0007】
本発明の熱伝導性シートは、前記の熱伝導性組成物を含み、シートに成形されている。
【0008】
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、前記の熱伝導性組成物を真空脱泡し、圧延し、シート成形した後に加熱硬化させて熱伝導性シートを製造する工程を含む。
【0009】
本発明は、前記組成とすることにより、熱伝導率が高く、かつ圧縮荷重及び可塑度を低く抑えた熱伝導性シートおよびその原料である熱伝導性組成物と、熱伝導性シートの製造方法を提供できる。具体的には、前記熱伝導性組成物の硬化前の脱泡後の可塑度が好ましくは60以下であり、前記熱伝導性組成物の硬化物の直径28.6mm、厚さ2mmの50%圧縮時の瞬間荷重値が好ましくは1000N以下であり、好ましい熱伝導率は7W/m・K以上である。また本発明の熱伝導性シートの製造方法は、本発明の熱伝導性組成物の可塑度が低く、成形加工性が良好であることから、連続シート成形が可能である。
【0010】
本発明は、マトリックス樹脂(A成分)と硬化触媒(C成分)と熱伝導性粒子(B成分)を含む熱伝導性組成物である。
【0011】
<マトリックス樹脂(A成分)>
前記マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂からなる。前記熱硬化性樹脂としては、シリコーン樹脂エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられ、シリコーン樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂は、ゴム、エラストマー、ゲル、パテ又はグリースなどの形態が挙げられる。前記熱硬化性樹脂は、具体的には、シリコーンゴム、シリコーンゲル、アクリルゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。シリコーン樹脂は過酸化物、付加、縮合等いかなる方法を用いて硬化してもよい。前記熱硬化性樹脂として、シリコーン樹脂は耐熱性が高いことから好ましい。前記マトリックス樹脂は、付加硬化型シリコーンポリマー、過酸化物硬化型シリコーンポリマー及び縮合型シリコーンポリマーから選ばれる少なくとも一つから形成されるのが好ましい。また、周辺への腐食性がないこと、系外に放出される副生成物が少ないこと、深部まで確実に硬化することなどの理由により前記シリコーン樹脂は付加硬化型であることが好ましい。
【0012】
前記マトリックス樹脂は、さらにシランカップリング剤を含むのが好ましく、具体的には、前記マトリックス樹脂100質量部に対し、シランカップリング剤を好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.5~7質量部添加する。シランカップリング剤は、熱伝導性粒子(B成分)の表面に被覆され(表面処理)、マトリックス樹脂(A成分)に充填されやすくなるとともに(可塑剤機能)、熱伝導性粒子(B成分)へ硬化触媒(C成分)が吸着されるのを防ぎ、硬化阻害を防止する効果がある。前記マトリックス樹脂が、さらにシランカップリング剤を含むと熱伝導性組成物の保存安定性に優れるという利点がある。
【0013】
前記シランカップリング剤は、例えば、式R(CH3aSi(OR')4-a(Rは炭素数1~20の非置換または置換有機基であり、R'は炭素数1~4のアルキル基であり、aは0もしくは1である)で示されるシラン化合物、もしくはその部分加水分解物が挙げられる。R(CH3aSi(OR')4-a(Rは炭素数1~20の非置換または置換有機基、R'は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるシラン化合物(以下単に「シラン」という。)は、例えばメチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシシラン等のシラン化合物が挙げられる。前記シラン化合物は、一種又は二種以上混合して使用することができる。
【0014】
前記マトリックス樹脂は、好ましくはベースポリマー成分(A1成分)と架橋成分(A2)とを含む。
(1)ベースポリマー成分(A1成分)
ベースポリマー成分は、例えば、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサンである。前記オルガノポリシロキサンは本発明のマトリックス樹脂における主剤(ベースポリマー成分)である。このオルガノポリシロキサンは、アルケニル基として、ビニル基、アリル基等の炭素原子数2~8、特に2~6の、ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に2個以上有する。前記オルガノポリシロキサンの粘度は25℃で10~1,000,000mPa・s、特に100~100,000mPa・sであることが作業性、硬化性などから望ましい。
【0015】
具体的には、下記一般式(I)で表される1分子中に分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンを使用することができる。このオルガノポリシロキサンは側鎖がアルキル基で封鎖されている直鎖状オルガノポリシロキサンである。オルガノポリシロキサンとしては、25℃における粘度は10~1,000,000mPa・sのものが作業性、硬化性などから望ましい。なお、この直鎖状オルガノポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【0016】
【化1】
【0017】
式中、
各R1は、互いに同一又は異なっていてもよく、脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、
2はアルケニル基であり、
kは0又は正の整数である。
【0018】
一般式(I)において、R1の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換の一価炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1~10、特に1~6の炭化水素基が好ましい。具体的には、脂肪族不飽和結合を有さない非置換の一価炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;が挙げられる。脂肪族不飽和結合を有さない置換の一価炭化水素基としては、前記非置換の一価炭化水素基の水素原子の一部又は全部を、フッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子;シアノ基等で置換した基、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基;シアノエチル基等が挙げられる。
【0019】
一般式(I)において、R2のアルケニル基としては、例えば炭素原子数2~6、特に2~3のアルケニル基が好ましい。前記アルケニル基としては、具体的にはビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。
【0020】
一般式(I)において、kは、0又は正の整数であり、好ましくは0≦k≦10,000を満足する0又は正の整数、より好ましくは5≦k≦2,000、さらに好ましくは10≦k≦1,200を満足する整数である。
【0021】
A1成分のオルガノポリシロキサンとしては一分子中に例えばビニル基、アリル基等の炭素原子数2~8、特に2~6のケイ素原子に結合したアルケニル基を3個以上、通常、3~30個、好ましくは、3~20個程度有するオルガノポリシロキサンを併用しても良い。併用するオルガノポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状のいずれの分子構造のものであってもよい。併用するオルガノポリシロキサンは、好ましくは、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、25℃での粘度が10~1,000,000mPa・s、特に100~100,000mPa・sの直鎖状オルガノポリシロキサンである。
【0022】
一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサンにおいて、アルケニル基は分子のいずれかの部分に結合していればよい。例えば、分子鎖末端、あるいは分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合しているものを含んでも良い。なかでも下記一般式(II)で表される、分子鎖両末端のケイ素原子上にそれぞれ1~3個のアルケニル基を有する直鎖状オルガノポリシロキサンであって、25℃における粘度が10~1,000,000mPa・sのものが作業性、硬化性などから望ましい。但し、この直鎖状オルガノポリシロキサンの分子鎖末端のケイ素原子に結合したアルケニル基が、両末端合計で1個または2個である場合には、分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合したアルケニル基を、例えばジオルガノシロキサン単位中の置換基としてする直鎖状オルガノポリシロキサンが好ましい。なお、この直鎖状オルガノポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【0023】
【化2】
【0024】
式中、
各R3は互いに同一又は異なっていてもよく、非置換又は置換一価炭化水素基であって、少なくとも1個がアルケニル基であり、
各R4は互いに同一又は異なっていてもよく、脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、
5はアルケニル基であり、
l、mは互いに独立して、0又は正の整数である。
【0025】
一般式(II)において、R3の非置換又は置換の一価炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1~10、特に1~6の炭化水素基が好ましい。具体的には、非置換の一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基;が挙げられる。置換の一価炭化水素基としては、前記非置換の一価炭化水素基の基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子;シアノ基等で置換した基、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基やシアノエチル基等が挙げられる。
【0026】
一般式(II)において、R4の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基としても、炭素原子数1~10、特に1~6の炭化水素基が好ましい。R4の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基としては、上記R1の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基の具体例と同様のものが例示できるが、但しアルケニル基は含まない。
【0027】
一般式(II)において、R5のアルケニル基としては、例えば炭素数2~6、特に炭素数2~3のアルケニル基が好ましく、具体的には前記式(I)のR2のアルケニル基と同様のものが例示され、好ましくはビニル基である。
【0028】
一般式(II)において、lおよびmは、互いに独立して、0又は正の整数であり、好ましくは0<l+m≦10,000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦l+m≦2,000、より好ましくは10≦l+m≦1,200を満足し、かつ好ましくは0<l/(l+m)≦0.2、より好ましくは、0.0011≦l/(l+m)≦0.1を満足する整数である。
【0029】
(2)架橋成分(A2成分)
本発明のA2成分の架橋成分は、例えば、オルガノハイドロジェンポリシロキサンである。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは架橋剤として作用する。このオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のSiH基とA1成分のオルガノポリシロキサン中のアルケニル基とが付加反応(ヒドロシリル化)することにより硬化物を形成する。前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を2個以上有するものであれば、架橋成分(A2成分)として用いることができる。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、または三次元網状構造のいずれであってもよい。また、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの一分子中のケイ素原子の数(即ち、重合度)が2~1,000、特に2~300程度のものを架橋成分(A2成分)として好ましく使用することができる。
【0030】
前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、前記のようにSiH基を含む。前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンにおいて、SiH基の位置は特に制約はなく、分子鎖の末端でも分子鎖非末端(分子鎖途中)でもよい。また、水素原子以外のケイ素原子に結合した有機基としては、前記一般式(I)のR1と同様の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基が挙げられる。
【0031】
A2成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては下記式(III)のものが例示できる。
【0032】
【化3】
【0033】
上記の式中、
各R6は互いに同一又は異なっていてもよく、アルキル基、フェニル基、エポキシ基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アルコキシ基、または水素原子であり、少なくとも2つは水素原子である。
Lは0~1,000の整数、好ましくは0~300の整数であり、
Mは1~200の整数である。
【0034】
<硬化触媒(C成分)>
C成分の硬化触媒としてはヒドロシリル化反応に用いられる触媒を用いることができる。前記硬化触媒としては、例えば白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類やビニルシロキサンとの錯体、白金とビニルジシロキサンとの錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属触媒が挙げられる。なお、2液硬化型シリコーンポリマーには通常、白金族系金属触媒が含まれているが、本発明の熱伝導性組成物に2液硬化型シリコーンポリマーを含む場合であっても、好ましくは追加の白金族系金属触媒を本発明の熱伝導性組成物に添加する。白金系金属触媒を追加するのは、前記熱伝導性組成物の硬化速度をコントロールするためである。
【0035】
前記硬化触媒は、前記熱伝導性組成物中、マトリックス樹脂(A成分)100質量部に対して例えば0.01~1000質量部、好ましくは0.1~100質量部、より好ましくは0.5~50質量部含まれる。
【0036】
<熱伝導性粒子(B成分)>
前記熱伝導性粒子(B成分)は下記B-1成分、B-2成分、B-3成分、およびB-4成分を含み、
前記熱伝導性粒子(B成分)は前記熱伝導性粒子(B成分)合計を100質量%としたとき、
D50(メジアン径)が20μm未満の窒化アルミニウム(B-1成分)を10~20質量%、
D50(メジアン径)が20μm以上の窒化アルミニウム(B-2成分)を3~9質量%、
D50(メジアン径)が60~80μmのアルミナ(B-3成分)を50~60質量%、および
D50(メジアン径)が60μm未満のアルミナ(B-4成分)を11~37質量%含む。
前記熱伝導性粒子(B成分)は前記熱伝導性粒子(B成分)合計を100質量%としたとき、好ましくは
D50(メジアン径)が20μm未満の窒化アルミニウム(B-1成分)を10~18質量%、
D50(メジアン径)が20μm以上の窒化アルミニウム(B-2成分)を3.5~8.5質量%、
D50(メジアン径)が60~80μmのアルミナ(B-3成分)を50~58質量%、および
D50(メジアン径)が60μm未満のアルミナ(B-4成分)を15~35質量%含む。
前記熱伝導性粒子(B成分)は前記熱伝導性粒子(B成分)合計を100質量%としたとき、より好ましくは
D50(メジアン径)が20μm未満の窒化アルミニウム(B-1成分)を10~16質量%、
D50(メジアン径)が20μm以上の窒化アルミニウム(B-2成分)を4~8質量%、
D50(メジアン径)が60~80μmのアルミナ(B-3成分)を51~58質量%、および
D50(メジアン径)が60μm未満のアルミナ(B-4成分)を20~33質量%含む。
【0037】
本発明では、熱伝導性粒子(B成分)は平均粒子径が異なる複数種類の熱伝導性無機粒子を併用する。このようにすると、大きな粒子の間に小さな粒子径の熱伝導性無機粒子が埋まり、最密充填に近い状態で充填でき、熱伝導性組成物の硬化物の熱伝導性が高くなるからである。また、このようにすると、熱伝導性組成物の硬化物の可塑度は低く、成形加工性が良好な熱伝導性組成物が得られるためである。またこのようにすると、熱伝導性組成物の硬化物は、圧縮荷重が低く、パテ状のものより取り扱い性が良好な放熱シート:TIM(Thermal Interface Material)へと成形することができる。
【0038】
前記B-1成分とB-2成分の配合比率(B-1)/(B-2)が質量割合で1.2~3であり、好ましくは1.3~2.9であり、より好ましくは1.3~2.8である。このような配合比率を用いると、熱伝導率が高く、かつ圧縮荷重及び可塑度を低く抑えた熱伝導性組成物の硬化物が得られるからである。
【0039】
マトリックス樹脂(A成分)100質量部に対し、前記熱伝導性粒子(B成分)は1500~3000質量部配合されている。マトリックス樹脂(A成分)100質量部に対する前記熱伝導性粒子(B成分)の配合量は、好ましくは1700~2800質量部であり、より好ましくは2000~2500質量部である。このような配合比を用いると、熱伝導率が高く、かつ圧縮荷重及び可塑度を低く抑えた熱伝導性組成物の硬化物が得られるからである。
【0040】
前記B-1成分、B-2成分、およびB-4成分は丸み状又は不定形破砕状粒子であるのが好ましい。なお、丸み状又は不定形破砕状粒子は入手しやすく好ましい。以下において、不定形破砕状は単に不定形とも表示する。また、前記B-3成分は球状であるのが好ましい。B-3成分は球状とすることにより、熱伝導性組成物をコンパウンドしやすくなる。
【0041】
なお、熱伝導性粒子(B成分)において、アルミナ合計質量/窒化アルミニウム合計質量は4~5.5が好ましく、4.1~5.3がより好ましい。アルミナ合計質量を多くすることにより、熱伝導性組成物の製造コストを安くできるからである。図2に本発明で用いた球状アルミナ(B-3、D50=75μm)の走査電子顕微鏡(SEM)写真、図3に本発明で用いた丸み状AIN(B-1、D50=5μm)の走査電子顕微鏡(SEM)写真、図4に不定形アルミナ(B-4、D50=4μm)の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【0042】
<その他添加剤>
本発明の熱伝導性組成物には、必要に応じて前記以外の成分を配合することができる。例えば前記熱伝導性組成物には、ベンガラ、酸化チタン、酸化セリウムなどの耐熱向上剤、難燃助剤、硬化遅延剤などを添加してもよい。また、前記熱伝導性組成物には、着色、調色の目的で有機或いは無機顔料を添加しても良い。また、前記熱伝導性組成物には、前記のシランカップリング剤を添加してもよい。
【0043】
<熱伝導性組成物(コンパウンド)>
本発明の熱伝導性組成物は、加熱などにより硬化することができる。
前記熱伝導性組成物の硬化物の熱伝導率は7W/m・K以上が好ましく、より好ましくは7~15W/m・K、さらに好ましくは7~14W/m・Kである。このような熱伝導率を有する硬化物は、放熱シート:TIM(Thermal Interface Material)として好適である。
【0044】
前記熱伝導性組成物の硬化物は、ASTM D575-91:2012に準じた測定で、直径28.6mm、厚さ2mmの50%圧縮時の瞬間荷重値は1000N以下が好ましく、より好ましくは950N以下であり、さらに好ましくは900N以下である。これにより、前記硬化物はつぶれやすくなり、発熱部と放熱体との間に介在させる際に、発熱部への物理的負荷を軽減できる。また、前記熱伝導性組成物の硬化物は、ASTM D575-91:2012に準じた測定で、直径28.6mm、厚さ2mmの50%圧縮時の定常荷重値は1000N以下が好ましく、より好ましくは950N以下であり、さらに好ましくは900N以下である。これにより、前記硬化物はつぶれやすくなり、発熱部と放熱体との間に介在させる際に、発熱部への物理的負荷を軽減できる。
【0045】
前記熱伝導性組成物の硬化前の脱泡後の可塑度は、60以下が好ましく、より好ましくは10~60、さらに好ましくは20~55、とくに好ましくは30~50である。このような低い可塑度の熱伝導性組成物は、成形加工性が良好である。前記可塑度は、JIS K 6300-3,ISO 2007:1991に従い、ウォーレス可塑度計(Wallace plastometer)を使用し、測定温度25℃において、2枚の金属プレート間に試料を一定荷重(100N)で一定時間(15秒)の間、圧縮した後の試料の厚さ(t)を圧縮前の試料の厚さ(t0)で割った値を可塑度(P0=t/t0×100)で求めることができる。P0が小さいほど柔軟であることを示す。熱伝導性組成物は脱泡した後にシート成形することから、硬化前脱泡後可塑度は重要である。
【0046】
本発明の前記熱伝導性組成物はシートに成形されていると汎用性が高く、TIMとして好適である。前記熱伝導性組成物を含むシート(すなわち熱伝導性シート)の厚みは、0.2~10mmの範囲が好ましい。
【0047】
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、前記熱伝導性組成物を真空脱泡し、圧延し、シート成形した後に加熱硬化させて熱伝導性シートを得る工程を含む。前記真空脱泡は、前記熱伝導性組成物を-0.08~-0.1Paの圧力に減圧し、5~10分間程度置き、脱泡することにより行うことができる。前記圧延はロール圧延加工、プレス加工などが挙げられるが、連続生産が可能であることから、ロール圧延加工が好ましい。
【0048】
前記熱伝導性組成物の絶縁破壊電圧(JIS K6249)は、7~16kV/mmであるのが好ましい。これにより、前記熱伝導性組成物を硬化させた際、電気的絶縁性の高い熱伝導性シートとすることができる。
【0049】
前記熱伝導性組成物の体積抵抗率(JIS K6249)は、1010~1014Ω・cmであるのが好ましい。これにより、前記熱伝導性組成物を硬化させた際、電気的絶縁性の高い熱伝導性シートとすることができる。
【0050】
本発明の熱伝導性組成物の一例として、付加反応型シリコーン組成物(未硬化組成物)が好ましく、下記組成のコンパウンドがさらに好ましい。
(A成分)マトリックス樹脂
マトリックス樹脂は、下記(A1)および(A2)を含む。
(A1)ベースポリマー成分:1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状オルガノポリシロキサン
(A2)架橋成分:1分子中に少なくとも2個のSH基を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが、前記A1成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、1モル未満の量
前記(A1)(A2)成分以外に反応基を持たないオルガノポリシロキサン、例えば未反応シリコーンオイル、例えばジメチルポリシロキサンを含んでもよい。
ベースポリマー成分(A1)と架橋成分(A2)と未反応シリコーンオイルとシランカップリング剤の合計で100質量部とする。
(B成分)硬化触媒及び(C成分)熱伝導性粒子は前記のとおりである。
(C)白金系金属触媒:マトリックス樹脂(A成分)に対して質量単位で0.01~1000ppmの量
(D)その他添加剤:シランカップリング剤、硬化遅延剤、着色剤等を任意量含む。
【0051】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。図1は本発明の一実施形態における熱伝導性シートを放熱構造体30に組み込んだ模式的断面図である。熱伝導性シート31bは、半導体素子等の電子部品33の発する熱を放熱するものであり、ヒートスプレッダ32の電子部品33と対峙する主面32aに固定され、電子部品33とヒートスプレッダ32との間に挟持される。また、熱伝導シート31aは、ヒートスプレッダ32とヒートシンク35との間に挟持される。そして、熱伝導シート31a、31bは、ヒートスプレッダ32とともに、電子部品33の熱を放熱する放熱部材を構成する。ヒートスプレッダ32は、例えば方形板状に形成され、電子部品33と対峙する主面32aと、主面32aの外周に沿って立設された側壁32bとを有する。ヒートスプレッダ32は、側壁32bに囲まれた主面32aに熱伝導シート31bが設けられ、また主面32aと反対側の他面32cに熱伝導シート31aを介してヒートシンク35が設けられる。電子部品33は、例えば、BGA等の半導体素子であり、配線基板34に実装されている。
【0052】
本発明は、以下の態様を含む。
【0053】
[項1] 熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂(A成分)と硬化触媒と熱伝導性粒子(B成分)を含む熱伝導性組成物であって、
前記マトリックス樹脂(A成分)100質量部に対して前記熱伝導性粒子(B成分)は1500~3000質量部配合されており、
前記熱伝導性粒子(B成分)は下記B-1成分、B-2成分、B-3成分、およびB-4成分を含み、
前記熱伝導性粒子(B成分)は、前記熱伝導性粒子(B成分)合計を100質量%としたとき、
D50(メジアン径)が20μm未満の窒化アルミニウム(B-1成分)を10~20質量%、
D50(メジアン径)が20μm以上の窒化アルミニウム(B-2成分)を3~9質量%、
D50(メジアン径)が60~80μmのアルミナ(B-3成分)を50~60質量%、および
D50(メジアン径)が60μm未満のアルミナ(B-4成分)を11~37質量%含み、
前記B-1成分とB-2成分の配合比率(B-1)/(B-2)が質量割合で1.2~3である熱伝導性組成物。
【0054】
[項2] 前記熱伝導性組成物の硬化物の熱伝導率は7W/m・K以上であり、好ましくは7~15W/m・K、より好ましくは7~15W/m・Kである項1に記載の熱伝導性組成物。
【0055】
[項3] 前記熱伝導性組成物の硬化物は、ASTM D575-91:2012に準じた測定で、直径28.6mm、厚さ2mmの50%圧縮時の瞬間荷重値が1000N以下であり、好ましくは950N以下であり、より好ましくは900N以下である、項1または2に記載の熱伝導性組成物。
【0056】
[項4] 前記熱伝導性組成物の硬化前の脱泡後の可塑度が60以下であり、好ましくは10~60、より好ましくは20~55、さらに好ましくは30~50である、項1~3のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【0057】
[項5] 前記熱硬化性樹脂は、シリコーン樹脂エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、およびフッ素樹脂から選択されるのが好ましく、シリコーン樹脂がより好ましい、項1~4のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【0058】
[項6] 前記マトリックス樹脂は、付加硬化型シリコーンポリマー、過酸化物硬化型シリコーンポリマー及び縮合型シリコーンポリマーから選ばれる少なくとも一つである項1~5のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【0059】
[項7] 前記マトリックス樹脂は、さらにシランカップリング剤を含むのが好ましく、前記マトリックス樹脂100質量部に対し、さらにシランカップリング剤が0.1~10質量部配合されているのがより好ましい、項1~6のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【0060】
[項8] 前記シランカップリング剤が、式R(CH3aSi(OR')4-a(Rは炭素数1~20の非置換または置換有機基であり、R'は炭素数1~4のアルキル基であり、aは0もしくは1である)で示されるシラン化合物、もしくはその部分加水分解物であり、好ましくはメチルトリメトキシラン、エチルトリメトキシラン,プロピルトリメトキシラン、ブチルトリメトキシラン、ペンチルトリメトキシラン、ヘキシルトリメトキシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、またはオクタデシルトリエトキシシシランである、項7に記載の熱伝導性組成物。
【0061】
[項9] 前記熱伝導性粒子(B成分)は前記熱伝導性粒子(B成分)合計を100質量%としたとき、好ましくは
D50(メジアン径)が20μm未満の窒化アルミニウム(B-1成分)を10~18質量%、
D50(メジアン径)が20μm以上の窒化アルミニウム(B-2成分)を3.5~8.5質量%、
D50(メジアン径)が60~80μmのアルミナ(B-3成分)を50~58質量%、および
D50(メジアン径)が60μm未満のアルミナ(B-4成分)を15~35質量%含む。
前記熱伝導性粒子(B成分)は前記熱伝導性粒子(B成分)合計を100質量%としたとき、より好ましくは
D50(メジアン径)が20μm未満の窒化アルミニウム(B-1成分)を10~16質量%、
D50(メジアン径)が20μm以上の窒化アルミニウム(B-2成分)を4~8質量%、
D50(メジアン径)が60~80μmのアルミナ(B-3成分)を51~58質量%、および
D50(メジアン径)が60μm未満のアルミナ(B-4成分)を20~33質量%含む、項1~8のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【0062】
[項10] B-1成分とB-2成分の配合比率(B-1)/(B-2)が質量割合で、好ましくは1.3~2.9であり、より好ましくは1.3~2.8である、項1~9のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【0063】
[項11] マトリックス樹脂(A成分)100質量部に対する前記熱伝導性粒子(B成分)の配合量は、好ましくは1700~2800質量部であり、より好ましくは2000~2500質量部である、項1~10のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【0064】
[項12] 前記B-1成分、B-2成分、およびB-4成分は丸み状又は不定形破砕状粒子であり、前記B-3成分は球状である、項1~11のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【0065】
[項13] 熱伝導性粒子(B成分)において、アルミナ合計質量/窒化アルミニウム合計質量は4~5.5が好ましく、4.1~5.3がより好ましい、項1~12のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【0066】
[項14] 前記マトリックス樹脂は、ベースポリマー成分(A1成分)と架橋成分(A2)とを含む、項1~13のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【0067】
[項15] 前記ベースポリマー成分は、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサンであり、好ましくはアルケニル基として、ビニル基、アリル基等の炭素原子数2~8、特に2~6の、ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンであり、さらに好ましくは一般式(I)で表される1分子中に分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンまたは一般式(II)で表される、分子鎖両末端のケイ素原子上にそれぞれ1~3個のアルケニル基を有する直鎖状オルガノポリシロキサンである、項1~14のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【0068】
【化4】
【0069】
式中、
各R1は、互いに同一又は異なっていてもよく、脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、
2はアルケニル基であり、
kは0又は正の整数である。
【0070】
【化5】
【0071】
式中、
各R3は互いに同一又は異なっていてもよく、非置換又は置換一価炭化水素基であって、少なくとも1個がアルケニル基であり、
各R4は互いに同一又は異なっていてもよく、脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、
5はアルケニル基であり、
l,mは互いに独立して、0又は正の整数である。
【0072】
[項16] 前記架橋成分は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、好ましくは一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、さらに好ましくは一般式(III)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンである、項1~15のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【化6】
【0073】
上記の式中、
各R6は互いに同一又は異なっていてもよく、アルキル基、フェニル基、エポキシ基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アルコキシ基、または水素原子であり、少なくとも2つは水素原子である。
Lは0~1,000の整数、好ましくは0~300の整数であり、
Mは1~200の整数である。
【0074】
[項17] 前記硬化触媒は、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒であり、好ましくは、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類やビニルシロキサンとの錯体、白金とビニルジシロキサンとの錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属触媒である、項1~16のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物。
【0075】
[項18] 前記熱伝導性組成物は、付加反応型シリコーン組成物(未硬化組成物)が好ましく、下記組成のコンパウンドがさらに好ましい。
(A成分)マトリックス樹脂
マトリックス樹脂は、下記(A1)および(A2)を含む。
(A1)ベースポリマー成分:1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状オルガノポリシロキサン
(A2)架橋成分:1分子中に少なくとも2個のSH基を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが、前記A1成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、1モル未満の量
前記(A1)(A2)成分以外に反応基を持たないオルガノポリシロキサン、例えば未反応シリコーンオイル、例えばジメチルポリシロキサンを含んでもよい。
ベースポリマー成分(A1)と架橋成分(A2)と未反応シリコーンオイルとシランカップリング剤の合計で100質量部とする。
(B成分)硬化触媒及び(C成分)熱伝導性粒子は項1に記載のとおりである。
(C)白金系金属触媒:マトリックス樹脂(A成分)に対して質量単位で0.01~1000ppmの量
(D)その他添加剤:シランカップリング剤、硬化遅延剤、着色剤等を任意量含む。
【0076】
[項19] 項1~18のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物を含み、シートに成形されている熱伝導性シート。
【0077】
[項20] 前記熱伝導性シートの厚みは0.2~10mmの範囲である項19に記載の熱伝導性シート。
【0078】
[項21] 項1~18のいずれか一項に記載の熱伝導性組成物を真空脱泡し、圧延し、シート成形した後に加熱硬化させて熱伝導性シートを製造する工程を含む熱伝導性シートの製造方法。
【0079】
[項22] 前記真空脱泡は、前記熱伝導性組成物を-0.08~-0.1Paの圧力に減圧し、5~10分間程度置き、脱泡することにより行う、項21に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【0080】
[実施例]
以下実施例を用いて説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。各種パラメーターについては下記記載の方法で測定した。
【0081】
<50%圧縮荷重値>
圧縮荷重の測定方法はASTM D575-91:2012に従った。図5は本発明の一実施形態で使用する圧縮荷重測定装置の模式的側面断面図である。この圧縮荷重測定装置1は、試料台2とロードセル6を備え、アルミプレート3と5の間に熱伝導性シート試料4を挟持し、図5のように取り付け、ロードセル6により規定の厚みまで圧縮する。厚みの50%圧縮時における荷重値の最大荷重値(「50%圧縮荷重値(瞬間)」)、およびその圧縮を1分間保持後の荷重値「50%圧縮荷重値(定常)」を記録する。
測定条件
試料:円柱形(直径28.6mm、厚さ2mm)
圧縮率:50%
アルミプレートサイズ:円形(直径28.6mm)(圧縮面)
圧縮速度:5mm/min
圧縮方式:TRIGGER方式(荷重2Nを感知した点を測定開始位置とする方式)
測定装置:アイコーエンジニアリング製、MODEL-1310NW(ロードセル 200kgf)
【0082】
<熱伝導率>
熱伝導性シートの熱伝導率は、ホットディスク(ISO 22007-2:2008準拠)により測定した。この熱伝導率測定装置11は図6Aに示すように、ポリイミドフィルム製センサ12を2個の熱伝導性シート試料13a、13bで挟み、センサ12に定電力をかけ、一定発熱させてセンサ12の温度上昇値から熱特性を解析する。センサ12は先端14が直径7mmであり、図6Bに示すように、電極の2重スパイラル構造となっており、下部に印加電流用電極15と抵抗値用電極(温度測定用電極)16が配置されている。熱伝導率は以下の式(数1)で算出した。
【0083】
【数1】
【0084】
<可塑度>
可塑度は、JIS K 6300-3,ISO 2007:1991に従い、ウォーレス可塑度計(Wallace plastometer)を使用し、測定温度23℃において、2枚の金属プレート間に熱伝導性組成物を一定荷重(100N)、一定時間(15秒)の間圧縮した後の熱伝導性組成物の厚さ(t)を圧縮前の熱伝導性組成物の厚さ(t0)で割った値を可塑度(P0=t/t0×100)として求めた。P0が大きいほど柔軟であることを示す。作成した硬化前脱泡後可塑度は熱伝導性組成物(コンパウンド)を、-0.1Paの減圧状態で5分間脱泡した後の熱伝導性組成物の可塑度である。
【0085】
(実施例1~6、比較例1~7)
1.材料成分
(1)マトリックス樹脂(A成分)
市販のポリオルガノシロキサンを含む2液室温付加硬化型シリコーンポリマー(シリコーン成分)を使用した。一方の液(A液)には、ベースポリマー成分(ポリオルガノシロキサン、A成分のうちのA1成分)と白金族系金属触媒が含まれており、他方の液(B液)には、ベースポリマー成分(ポリオルガノシロキサン、A成分のうちのA1成分)と架橋剤成分(A成分のうちのA2成分)であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが含まれる。A液とB液の比率は、質量比でA:B=100:100である。この2液室温付加硬化型シリコーンポリマーは、室温で混合することにより付加硬化してシリコーン樹脂になる。
【0086】
(2)熱伝導性粒子(B-1~B-4成分)
表1に記載の熱伝導性粒子を使用した。平均粒子径は、レーザー回折光散乱法による粒度分布測定において、体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)である。この測定器としては、例えば堀場製作所社製のレーザー回折/散乱式粒子分布測定装置LA-950S2がある。また表中のAlNは窒化アルミニウムの略語である。
・B-1:丸み状窒化アルミニウム(D50=5μm)
・B-1:不定形窒化アルミニウム(D50=15μm)
・B-2:丸み状窒化アルミニウム(D50=20μm)
・B-2:丸み状窒化アルミニウム(D50=30μm)
・B-2:丸み状窒化アルミニウム(D50=70μm)
・B-2:丸み状窒化アルミニウム(D50=100μm)
・B-3:球状アルミナ(D50=75μm)
・B-4:不定形アルミナ(D50=0.3μm)
・B-4:不定形アルミナ(D50=0.7μm)
・B-4:不定形アルミナ(D50=4.0μm)
・B-4:不定形アルミナ(D50=2.2μm)
【0087】
(3)硬化触媒(C成分)
硬化触媒(C成分)として、白金-ビニルジシロキサン錯体(白金族系金属触媒)を使用した。尚、上記の通り2液硬化型シリコーンポリマー(シリコーン成分)には白金族系金属触媒が含まれている。各実施例の熱伝導性組成物の調製に際し、ポリオルガノシロキサンが十分に硬化するように、熱伝導性組成物へ追加の白金族系金属触媒を添加した。
【0088】
(4)シランカップリング剤
シランカップリング剤としてデシルトリメトキシシランを使用した。
【0089】
2.熱伝導性組成物(コンパウンド)
各材料について前記表1に示す量を計量し、それらを混合装置に入れて熱伝導性組成物とした。この熱伝導性組成物は-0.1Paの減圧状態で5分間脱泡した。
【0090】
3.シート成形加工
離型処理をしたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムで前記熱伝導性組成物を挟み込み、等速ロールにて熱伝導性組成物を厚み2.0mmのシート状に圧延成形し、その状態で100℃、10分加熱硬化し、熱伝導性シート(熱伝導性シリコーンゴムシート)を得た。成形加工性は前記条件で成形できた場合「可能」、できない場合は「NG」と判断した。
【0091】
実施例の条件と結果を表1に、比較例の条件と結果を表2に示す。表1および2においては、各材料の量を、マトリックス樹脂(A成分、2液室温硬化型シリコーンポリマー)を100質量部(100g)とした場合の量(質量部)で記載している。
なお、マトリックス樹脂(A成分)、シランカップリング剤、白金族系金属触媒の比重はいずれも0.98、アルミナ(B-3成分、B-4成分)の比重は3.98、窒化アルミニウム(B-1成分、B-2成分)の比重は3.32である。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
表1および2から次のことが分かる。
(1)実施例1~5は比較例1~6に比べて熱伝導性シートの熱伝導率が高く、かつ圧縮荷重及び硬化前脱泡後可塑度が低い。
(2)比較例1(B-1成分のみ)と比較すると、実施例1、2は粒径の異なる2種の窒化アルミニウム(B-1成分、B-2成分)を組み合わせることで熱伝導性シートの荷重値が下がる。
(3)実施例1、3、4、5では粒径が大きい(B-2)成分を種々変更しても熱伝導性シートの荷重値には影響がない。
(4)比較例1、3、4に示すように(B-1)成分または(B-2)成分のいずれかを含まないか、2種類の(B-2)成分を含む場合、熱伝導性シートの荷重値が高いか、もしくは熱伝導性組成物への混合が不可となる。
(5)比較例5((B-3)成分の含有量が規定の範囲以下)、比較例6((B-1)成分の含有量が規定の範囲以下)は熱伝導性シートの熱伝導率および荷重値が共に低くなる。
【0095】
本発明の熱伝導性組成物及び熱伝導性シートは、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させる放熱シート:TIM(Thermal Interface Material)として好適である。
【符号の説明】
【0096】
1 圧縮荷重測定装置
2 試料台
3,5 アルミプレート
4 熱伝導性シート試料
6 ロードセル
11 熱伝導率測定装置
12 センサ
13a,13b 熱伝導性シート試料
14 センサの先端
15 印加電流用電極
16 抵抗値用電極(温度測定用電極)
30 放熱構造体
31a,31b 熱伝導性シート
32 ヒートスプレッダ
32b ヒートスプレッダ側壁
33 電子部品
34 配線基板
35 ヒートシンク
【要約】
熱伝導率が高く、かつ圧縮荷重及び可塑度を低く抑えた熱伝導性組成物及びこれを用いた熱伝導性シートとその製造方法を提供する。熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂(A成分)と硬化触媒と熱伝導性粒子(B成分)を含む熱伝導性組成物であって、A成分100質量部に対してB成分は1500~3000質量部配合されており、B成分は下記B1成分、B2成分、B3成分、B4成分を含み、B成分全体に対し、D50(メジアン径)が20μm未満の窒化アルミニウム(B1成分)10~20質量%、D50が20μm以上の窒化アルミニウム(B2成分)3~9質量%、D50が60~80μmのアルミナ(B3成分)50~60質量%、D50が60μm未満のアルミナ(B4成分)11~37質量%を含み、前記B1成分とB2成分の配合比率(B1)/(B2)が質量割合で1.2~3である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6