(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】仮留め器具
(51)【国際特許分類】
D05B 85/00 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
D05B85/00
(21)【出願番号】P 2023132738
(22)【出願日】2023-08-16
【審査請求日】2023-09-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593101131
【氏名又は名称】川崎 大司
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 大司
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-054738(JP,A)
【文献】実開昭63-199779(JP,U)
【文献】特開2000-096415(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0014678(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00-97/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針(5)を取り付けたハンドル(1)と、ハンドル(1)と端部で結合し、端部を回動軸として回動自在な台座(3)を備える仮留め器具であって、前記針(5)の側面に突起部が設けられ、前記突起部は上布の繊維を下布側に引き出す突起と下布の繊維を上布側に引き出す突起があり、上下の布(11)に前記針(5)を貫通したあと引き抜くことにより、前記布(11)のズレ防止と仮留めを可能とした仮留め器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンで伸縮性の布地やアップリケ縫い等をする際に、「重ねた布等」(以下、単に「布」という。)11のずれ防止と仮留めをする「まち針」16に替わる「仮留め器具」に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミシンについて
図10で説明すると、
図10(a)と(b)はミシンの同じ部分の斜視図と側面図であるが、
図10(b)の「布」11を上側の「押え」8と下側の「送り歯」7に挟み、
図10(a)の「縫い針」10に通した糸で上下に絡めて縫製する機械である。機械の構造上「送り歯」7が直線的な動きをするため直線縫いを基本とするが、曲線縫いも可能である。
【0003】
曲線縫いをするには、「送り歯」7の直線運動に合わせて、「布」11を手で回転させる必要があるが、この方法では「押え」8と「送り歯」7の間に挟んだ「布」11の上下間でずれが生じる。そのため、現在では
図11に示すように、ズレ防止のため上下の「布」11を「まち針」16で仮留めしている現状である。特に、曲線部分の半径が小さい場合は、ずれが大きくなるため「まち針」16を多用しなければならない。
【0004】
「まち針」16の替わりに図示しない「クリップ」で仮留めすることも可能であるが、取り付けや取り外しが面倒であり、細かい曲線縫いには不向きである。
一方、
図12や特許文献1のホッチキスは、紙等を留めるものであって布を留めるものではない。
【0005】
したがって、現在のミシンは「布」11のずれ防止と仮留めに「まち針」16や「クリップ」等の補助具を使わなければならないという問題がある。これはミシンの操作性や効率性を低下させる要因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図10(b)に示すミシンで「布」11を縫う際に、「送り歯」7と「押え」8の間に挟んだ「布」11を、「押え」8に連動する「押え上げレバー」9を上げ下げし、「まち針」16を抜きながら縫う作業が非常に煩雑である。例えば、「まち針」16を50本使った場合は、「押え上げレバー」9の操作回数が100回になる。
【0008】
また、
図11に示すような「布」11を、「まち針」16を使って仮留めする際は、「布」11への刺し方や刺す位置に気を配らなければならず、「まち針」16が手に刺さるという手への傷害リスクがあり、また「布」11を縫う際も、「まち針」16と「縫い針」10の交差による針の折れ、ミシン内部への「まち針」16の巻き込み、「送り歯」7の摩耗等の課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上のような問題点を解決するためには、ミシンで「布」11を縫う際に「まち針」16を使わない方法で「布」11を仮留めし、縫えるようにすることである。
【0010】
本発明は、
図4における「針」5を取り付けた「ハンドル」1と前記「ハンドル」1と端部で結合し、当該端部を回動軸として回動自在な「台座」3を備える「仮留め器具」であって、前記「針」5に突起部が設けられる「仮留め器具」である。
【0011】
また、更に前記「ハンドル」1と前記「台座」3との間に配置し、前記「針」5が収容される「針収容体」6を備える。
【0012】
すなわち、「まち針」16で「布」11を仮留めする代替策として、
図1から
図4は「仮留め器具」の一例を示す図であり、
図6はその「仮留め器具」で「布」11を仮留めする動作パターン、
図7はその「仮留め器具」で「布」11を仮留めした状況を示している。
【0013】
具体的には、
図6、
図7で示すように、この「仮留め器具」は「布」11の上布の繊維を下布側へ、下布の繊維を上布側へ引き出すことによって「まち針」16に替わり上下の布のずれ防止のための仮留めを可能とするものである。つまり、
図11に示す「出来上がり線」17の外側を「仮留め器具」で仮留めするだけで、「布」11のずれ防止と仮留め効果を発揮でき、後は縫うことだけに専念できることになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ミシンで縫う際に、「布」11がずれないようにする器具を提供することで、
図7のように下布の繊維を上布側に引き出し、上布の繊維を下布側に引き出すことにより、「まち針」16を使わずに「布」11を仮留めすることができる。このことは、「押え上げレバー」9を上げ下げし、「まち針」16を抜きながら縫う作業の煩雑さから解放され、縫製の作業効率を高めることができるとともに、「まち針」16による手の怪我やミシンの故障を防ぐことができる。つまりこの発明は、縫製の品質と安全性を向上させるとともに、産業界におけるミシンの利用価値を高めることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】同「仮留め器具」
図2におけるB-B線の断面図である。
【
図4】同「仮留め器具」
図1におけるA-A線の断面図である。
【
図5】同「仮留め器具」の「針」5の実施例と斜視図及び「針」5を「ハンドル」1や「針留め具」4に取り付けた実施例である。
【
図6】同「仮留め器具」で「布」11を仮留めする動作パターンである。
【
図7】同「仮留め器具」で「布」11を仮留めした状況を示す。
【
図8】「針」5を「針留め具」4を使って「ハンドル」1へ取り付けた実施例で、その正面図、平面図、側面図を示している。
【
図9】図(a)は「針」5を「ハンドル」1に直接取り付ける実施例、図(b)は「ハンドル」1の前部を「針」5に加工した実施例である。
【
図11】「布」11を「まち針」16で仮留めしている図である。
【
図12】従来のホッチキスの構成を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
従来から、
図12の形状の「ホッチキス」が知られているが、本発明が提供する「仮留め器具」は
図4の「針収容体」6の後部に金属製の「ハンドル」1が枢着されている機能は、「ホッチキス」の「マガジン」12の後部に金属製の「ハンドル」14が枢着されている機能と同様である。
【0017】
本発明の「仮留め器具」が「ホッチキス」と異なる点は、「ホッチキス」が金属製の「マガジン」12内に収納されたコ状に形成された図示しない「ステープル」を金属製の「ハンドル」14先に取り付けられた「ドライバ」13で打ち出し、紙等をクリンチする働きをするのに対し、「仮留め器具」は
図4と
図6で示すように「ハンドル」1先に取り付けた「針」5で、「針収容体」6と「台座」3の間に挟んだ「布」11を貫通した後引上げることによって、
図7のように「布」11の上布の繊維を下布側に、下布の繊維を上布側に引き出す役目をする。
【0018】
本発明の「仮留め器具」の構成について
図4で説明すると、上から「針」5を取り付けた「ハンドル」1、「針収容体」6、「台座」3の三体は後端部で結合し、当該端部を回動軸として回動自在な器具であるが、「ハンドル」1と「針収容体」6、「針収容体」6と「台座」3の間にはそれぞれ「板バネ」15が取り付けてあり、上下方向から加圧すると三体は合体し、加圧をやめると元にもどる機能を有す。
【0019】
図6は、「ハンドル」1、「針収容体」6、「台座」3三体の動作パターンを示している。この「ハンドル」1と「針収容体」6、「針収容体」6と「台座」3の間にある「板バネ」15については、まず「台座」3の上の「布」11の上に「針収容体」6が下りてきて、その後、「針」5のついた「ハンドル」1が下りてくるという順序になるような「板バネ」15を選択する。「板バネ」15については、その一例を示したものであって、「コイルバネ」等への変更も可能である。
【0020】
本発明が提供する「仮留め器具」の特徴は「針」5にあり、使用する「針」5は1本以上とし、その実施例を
図5に示した。以下各「針」5の特徴と「布」11を仮留めする際の動作パターンを
図6で説明する。
【0021】
「仮留め器具」の「針」5に
図5(a)を使った場合は、「ハンドル」1先に取り付けた「針」5(a)を押下げ、「布」11を貫通した後引上げることによって、板状の両側面の突起によって下布の繊維を上布側に引き出し、「布」11の上下を仮留めする役目をする。
【0022】
「仮留め器具」の「針」5に
図5(b)を使った場合は、「ハンドル」1先に取り付けた「針」5を押下げ「布」11を貫通することによって、板状の両側面の突起によって上布の繊維を下布側に引き出し、「布」11の上下を仮留めする役目をする。
【0023】
「仮留め器具」の「針」5に
図5(c)を使った場合は、一本の板状の針の反対側に逆方向の突起をつけ、「布」11を貫通した後引上げることで、片方の突起は下布の繊維を上布側に引き出し、もう片方の突起は上布の繊維を下布側に引き出す役目を持たせるという、一本の「針」5に
図5(a)と
図5(b)と同様の機能を持たせ、「布」11の上下を仮留めする役目をする。
【0024】
「仮留め器具」の「針」5に
図5(d)のような円柱状の針にし、針の側面に
図5(a)の様な上方向の突起、
図5(a)の突起の横方向に角度をずらせた位置に
図5(b)の様な下方向の突起を付け、「布」11の上下を仮留めするということも可能である。
【0025】
「仮留め器具」の「針」5に
図5(e)、
図5(f)のように、円柱状の針の表面をサンドペーパーのような砥粒をコーティングしたものにし、「針留め具」4先に取り付けた「針」5を押下げ、「布」11を貫通した後引上げることによって、一方の「布」11の繊維を他方の「布」11側に引き出して仮留めすることも可能である。
【0026】
また、「仮留め器具」の「針」5に
図5(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)の針2本以上を組み合わせ、一体的にした
図5(g)、(i)のような板状のものも考えられる。
図5(h)、(j)は
図5(g)、(i)の斜視図で、
図5(k)、(l)は、「ハンドル」1に
図5(g)、(i)を取り付けた実施例である。また、その具体例を
図9(a)に示す。
【0027】
図5における図(m)は、「針留め具」4に
図5(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)等の個々の針を組み合わせて取り付けた実施例を示すが、その際に個々の針を取り外し可能にした場合は、個々の針交換ということも可能になる。前記個々の「針」5を「針留め具」4を介して「ハンドル」1へ取り付けた具体例を
図8に示す。
【0028】
「仮留め器具」に付ける各種「針」5の、「布」11を貫通した後引上げる1回の行為での仮留め効果を比較した場合、
図5(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)のような個々の「針」5より、同個々の針2本以上を組み合わせ一体的にした
図5(g)、(i)のような「針」5の方が、仮留め効果は大きく仕事量も大きいことは言うまでもない。
【0029】
図8は、
図5(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)等の個々の針を、「針留め具」4を介して「ハンドル」1へ留める実施例で、その正面図、平面図、側面図である。因みに、「針留め具」4には個々の「針」5を下の方から入れる穴が開いていて、穴に入れた「針」5は「針留め具」4の前方からのネジで留めるようにする。また、「針留め具」4は「ハンドル」1の上部からネジで留め、「ハンドル」1は上部を
図4に示す「ハンドルカバー」2に固定するという実施例である。
【0030】
図9(a)は、「ハンドル」1の前部をL字型に曲げ、その先端部を「針留め具」4に加工したもので、板状の「針」5を下方から刺し込むようになっている。また、同加工された「針留め具」4に下から刺し込んだ「針」5は「針留め具」4に加工された「ハンドル」1の前方からネジで固定し、「ハンドル」1は上部を
図4に示す「ハンドルカバー」2に固定するという実施例である。因みに、「針」5の取り外しが可能であることから、「針」5が劣化等した場合は針交換が可能になる。
【0031】
図9(b)は、「針留め具」4を使わずに、「ハンドル」1の前部をL字型に曲げ、その先端部を板状の「針」5に加工し、上部は
図4に示す「ハンドルカバー」2に固定するという実施例である。この場合、先端部の針部を含めた「ハンドル」1の材質について、先端部の針に仮留め効果が得られるのであれば、「ハンドル」1全てを同一材質としてもかまわないが、仮留め効果が得られない場合は先端部の針部のみ耐久性の強いものに変える(熱処理など)ということも可能である。
【0032】
個々の「針」5の太さ、強度については、「針」5が太ければ布生地を傷めることが考えられることから、布生地の繊維を引き出すことが可能であれば細いほどよく、強度についても折れにくく劣化の少ないものとする。
【0033】
図1から
図4と
図6、
図9(a)は、「針」5に
図5(g)を使った
「仮留め器具」の実施例を示したものである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
近年、ハンドメイド品の人気が高まり、インターネットを通じて自分の作品を販売する者も増えている。その中でミシンは重要な道具の一つであり、縫製のスキルや効率に大きく影響する。本発明は、ミシンの操作性や機能性を向上させることで、縫製の品質やスピードを高めることができることから、ミシンの利用者はより多くの作品を作成し、経済的なメリットも得られると考える。ミシンの市場も世界的にさらに拡大し、産業としての成長に大いに貢献できると考える。
【符号の説明】
【0035】
1 ハンドル
2 ハンドルカバー
3 台座
4 針留め具
5 針(
図5(a)~(m))
6 針収容体
7 送り歯
8 押え
9 押え上げレバー
10 縫い針
11 重ねた布等(布で読替)
12 マガジン
13 ドライバ
14 ハンドル(ホッチキス)
15 板バネ
16 まち針
17 出来上がり線
【要約】 (修正有)
【課題】縫製の品質と安全性を向上させるとともに、産業界におけるミシンの利用価値を高める。
【解決手段】本発明の仮留め器具は、まち針を使わずに重ねた布等を仮留めする代替策である。同器具は、針収容体6と台座3の間に挟んだ重ねた布等をハンドル1先に取り付けた針5を刺すことによって、上布の繊維を下布側へ、下布の繊維を上布側に引き出し、重ねた布等への仮留め効果を発揮するものである。針の側面には、布の繊維を布の下側に引き出す突起と布の繊維を布の上側に引き出す突起が付いている。
【選択図】
図4