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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
   G09G 5/00 20060101AFI20240613BHJP
   G09G 5/02 20060101ALI20240613BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20240613BHJP
   B60K 35/232 20240101ALI20240613BHJP
【FI】
G09G5/00 530M
G09G5/00 510B
G09G5/00 550B
G09G5/02 B
G02B27/01
B60K35/232
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021542809
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2020031442
(87)【国際公開番号】W WO2021039579
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2019153317
(32)【優先日】2019-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】舛屋 勇希
【審査官】塚本 丈二
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-001589(JP,A)
【文献】特開2019-051782(JP,A)
【文献】特開2016-118423(JP,A)
【文献】特開2010-156608(JP,A)
【文献】特開2019-079351(JP,A)
【文献】特開2005-292031(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0036374(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0329143(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09G 5/00-5/42
G09G 3/20
G02B 27/01
B60K 35/23-35/235
G09F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられた反射透光部材に表示光を投影し、前記反射透光部材を透過する実景に重ねて前記反射透光部材に反射された表示光により虚像を生成して表示するヘッドアップディスプレイ(HUD)装置であって、
画像を表示する表示面を有する画像表示部と、前記虚像の表示を制御する表示制御部と、前記表示光を、前記反射透光部材に投影する光学部材を含む光学系と、を有し、
虚像が結像する結像面としての虚像表示面が、前記車両に近い側の近端部から遠い側の遠端部へと一体的に延びると共に、路面と前記近端部との間の第1の距離よりも、前記路面と前記遠端部との間の第2の距離が大きく、かつ前記虚像表示面は、平面又は曲面であり、
さらに、前記虚像表示面は、
前記路面に重畳される虚像が表示される路面ヘッドアップディスプレイ領域(以下、「路面HUD領域」と称する。)と、
前記路面HUD領域よりも遠方に位置し、かつ前記路面よりも上側に位置する虚像が表示される路上ヘッドアップディスプレイ領域(以下、「路上HUD領域」と称する。)と、に区別され、
前記表示制御部は、
前記表示面の画像表示領域を、ユーザーから見た場合の前記路面と前記路面よりも上側にある空間との境界である境界位置を基準として、前記路面HUD領域に対応する第1の表示領域と、前記路上HUD領域に対応する第2の表示領域に区分し、
前記第1の表示領域に、前記路面に重畳する第1の画像を表示させ、
前記第2の表示領域に、前記路面よりも上側に表示する第2の画像を表示させ、
前記虚像表示面における前記路上HUD領域は、前記ユーザーが、前記路上HUD領域に配置される虚像を見た場合に、絶対的な距離知覚が鈍化して遠近感を正確には知覚し得ない遠方に設定され、これによって前記路上HUD領域の虚像表示面を、疑似立面の虚像表示面とする、
ことを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
車両に設けられた反射透光部材に表示光を投影し、前記反射透光部材を透過する実景に重ねて前記反射透光部材に反射された表示光により虚像を生成して表示するヘッドアップディスプレイ(HUD)装置であって、
画像を表示する表示面を有する画像表示部と、前記虚像の表示を制御する表示制御部と、前記表示光を、前記反射透光部材に投影する光学部材を含む光学系と、を有し、
虚像が結像する結像面としての虚像表示面が、前記車両に近い側の近端部から遠い側の遠端部へと一体的に延びると共に、路面と前記近端部との間の第1の距離よりも、前記路面と前記遠端部との間の第2の距離が大きく、かつ前記虚像表示面は、平面又は曲面であり、
さらに、前記虚像表示面は、
前記路面に重畳される虚像が表示される路面ヘッドアップディスプレイ領域(以下、「路面HUD領域」と称する。)と、
前記路面HUD領域よりも遠方に位置し、かつ前記路面よりも上側に位置する虚像が表示される路上ヘッドアップディスプレイ領域(以下、「路上HUD領域」と称する。)と、に区別され、
前記表示制御部は、
前記表示面の画像表示領域を、ユーザーから見た場合の前記路面と前記路面よりも上側にある空間との境界である境界位置を基準として、前記路面HUD領域に対応する第1の表示領域と、前記路上HUD領域に対応する第2の表示領域に区分し、
前記第1の表示領域に、前記路面に重畳する第1の画像を表示させ、
前記第2の表示領域に、前記路面よりも上側に表示する第2の画像を表示させ、
前記ユーザーの視点、又は前記視点に相当する基準点から、前記ユーザーから見た場合の前記路面と前記路面よりも上側にある空間との境界である境界位置に対応する、実空間における地点までの距離は20m以上に設定される、
ことを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
車両に設けられた反射透光部材に表示光を投影し、前記反射透光部材を透過する実景に重ねて前記反射透光部材に反射された表示光により虚像を生成して表示するヘッドアップディスプレイ(HUD)装置であって、
画像を表示する表示面を有する画像表示部と、前記虚像の表示を制御する表示制御部と、前記表示光を、前記反射透光部材に投影する光学部材を含む光学系と、を有し、
虚像が結像する結像面としての虚像表示面が、前記車両に近い側の近端部から遠い側の遠端部へと一体的に延びると共に、路面と前記近端部との間の第1の距離よりも、前記路面と前記遠端部との間の第2の距離が大きく、かつ前記虚像表示面は、平面又は曲面であり、
さらに、前記虚像表示面は、
前記路面に重畳される虚像が表示される路面ヘッドアップディスプレイ領域(以下、「路面HUD領域」と称する。)と、
前記路面HUD領域よりも遠方に位置し、かつ前記路面よりも上側に位置する虚像が表示される路上ヘッドアップディスプレイ領域(以下、「路上HUD領域」と称する。)と、に区別され、
前記表示制御部は、
前記表示面の画像表示領域を、ユーザーから見た場合の前記路面と前記路面よりも上側にある空間との境界である境界位置を基準として、前記路面HUD領域に対応する第1の表示領域と、前記路上HUD領域に対応する第2の表示領域に区分し、
前記第1の表示領域に、前記路面に重畳する第1の画像を表示させ、
前記第2の表示領域に、前記路面よりも上側に表示する第2の画像を表示させ、
前記路面の消失点を検出する消失点検出部を有し、
前記ユーザーの視点、又は前記視点に相当する基準点と、検出された消失点とを結ぶ線分が前記虚像表示面と交わる点を、虚像表示面上での消失点とする場合に、
前記虚像表示面上での消失点の位置を基準として、前記車両に近い側の領域を前記路面HUD領域とし、遠い側の領域を前記路上HUD領域とする、
ことを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記第2の画像は、前記第1の画像から独立した別個の画像である、ことを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
車両に設けられた反射透光部材に表示光を投影し、前記反射透光部材を透過する実景に重ねて前記反射透光部材に反射された表示光により虚像を生成して表示するヘッドアップディスプレイ(HUD)装置であって、
画像を表示する表示面を有する画像表示部と、前記虚像の表示を制御する表示制御部と、前記表示光を、前記反射透光部材に投影する光学部材を含む光学系と、を有し、
虚像が結像する結像面としての虚像表示面が、前記車両に近い側の近端部から遠い側の遠端部へと一体的に延びると共に、路面と前記近端部との間の第1の距離よりも、前記路面と前記遠端部との間の第2の距離が大きく、かつ前記虚像表示面は、平面又は曲面であり、
さらに、前記虚像表示面は、
前記路面に重畳される虚像が表示される路面ヘッドアップディスプレイ領域(以下、「路面HUD領域」と称する。)と、
前記路面HUD領域よりも遠方に位置し、かつ前記路面よりも上側に位置する虚像が表示される路上ヘッドアップディスプレイ領域(以下、「路上HUD領域」と称する。)と、に区別され、
前記表示制御部は、
前記表示面の画像表示領域を、ユーザーから見た場合の前記路面と前記路面よりも上側にある空間との境界である境界位置を基準として、前記路面HUD領域に対応する第1の表示領域と、前記路上HUD領域に対応する第2の表示領域に区分し、
前記第1の表示領域に、前記路面に重畳する第1の画像を表示させ、
前記第2の表示領域に、前記路面よりも上側に表示する第2の画像を表示させ、
前記第1の画像は、前記車両の状態を示す情報の画像、経路誘導画像、及び経路案内画像の少なくとも1つであり、
前記第2の画像は、制限速度情報の画像、路上に設置される各種の標識の画像、路上の経路誘導画像、路上の経路案内画像、路上に設置される看板の画像、及び路上に設置される広告の画像の少なくとも1つである、
ことを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項6】
車両に設けられた反射透光部材に表示光を投影し、前記反射透光部材を透過する実景に重ねて前記反射透光部材に反射された表示光により虚像を生成して表示するヘッドアップディスプレイ(HUD)装置であって、
画像を表示する表示面を有する画像表示部と、前記虚像の表示を制御する表示制御部と、前記表示光を、前記反射透光部材に投影する光学部材を含む光学系と、を有し、
虚像が結像する結像面としての虚像表示面が、前記車両に近い側の近端部から遠い側の遠端部へと一体的に延びると共に、路面と前記近端部との間の第1の距離よりも、前記路面と前記遠端部との間の第2の距離が大きく、かつ前記虚像表示面は、平面又は曲面であり、
さらに、前記虚像表示面は、
前記路面に重畳される虚像が表示される路面ヘッドアップディスプレイ領域(以下、「路面HUD領域」と称する。)と、
前記路面HUD領域よりも遠方に位置し、かつ前記路面よりも上側に位置する虚像が表示される路上ヘッドアップディスプレイ領域(以下、「路上HUD領域」と称する。)と、に区別され、
前記表示制御部は、
前記表示面の画像表示領域を、ユーザーから見た場合の前記路面と前記路面よりも上側にある空間との境界である境界位置を基準として、前記路面HUD領域に対応する第1の表示領域と、前記路上HUD領域に対応する第2の表示領域に区分し、
前記第1の表示領域に、前記路面に重畳する第1の画像を表示させ、
前記第2の表示領域に、前記路面よりも上側に表示する第2の画像を表示させ、
前記表示制御部は、
前記第1の画像に対応する第1の虚像について遠近感を調整する場合には、前記表示面における前記第1の画像の表示位置の変更によって虚像表示距離を制御すること、及び、前記第1の画像を構成する表示対象についての大きさ、形状、模様、色彩、陰影の有無、立体的描画の少なくとも1つによる形態制御を行うことの少なくとも一方を実施し、
前記第2の画像に対応する第2の虚像については、虚像表示距離の制御は実施せず、前記形態制御のみを実施する、
ことを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項7】
車両に設けられた反射透光部材に表示光を投影し、前記反射透光部材を透過する実景に重ねて前記反射透光部材に反射された表示光により虚像を生成して表示するヘッドアップディスプレイ(HUD)装置であって、
画像を表示する表示面を有する画像表示部と、前記虚像の表示を制御する表示制御部と、前記表示光を、前記反射透光部材に投影する光学部材を含む光学系と、を有し、
虚像が結像する結像面としての虚像表示面が、前記車両に近い側の近端部から遠い側の遠端部へと一体的に延びると共に、路面と前記近端部との間の第1の距離よりも、前記路面と前記遠端部との間の第2の距離が大きく、かつ前記虚像表示面は、平面又は曲面であり、
さらに、前記虚像表示面は、
前記路面に重畳される虚像が表示される路面ヘッドアップディスプレイ領域(以下、「路面HUD領域」と称する。)と、
前記路面HUD領域よりも遠方に位置し、かつ前記路面よりも上側に位置する虚像が表示される路上ヘッドアップディスプレイ領域(以下、「路上HUD領域」と称する。)と、に区別され、
前記表示制御部は、
前記表示面の画像表示領域を、ユーザーから見た場合の前記路面と前記路面よりも上側にある空間との境界である境界位置を基準として、前記路面HUD領域に対応する第1の表示領域と、前記路上HUD領域に対応する第2の表示領域に区分し、
前記第1の表示領域に、前記路面に重畳する第1の画像を表示させ、
前記第2の表示領域に、前記路面よりも上側に表示する第2の画像を表示させ、
前記表示制御部は、
前記第2の画像を遠方に表示した時点から時間が経過し、前記車両の前方への進行に伴って前記第2の画像と前記車両との距離が小さくなると、前記第2の画像の表示内容の少なくとも一部を、前記第1の画像として前記路面に重畳するように表示させる、ことを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項8】
車両に設けられた反射透光部材に表示光を投影し、前記反射透光部材を透過する実景に重ねて前記反射透光部材に反射された表示光により虚像を生成して表示するヘッドアップディスプレイ(HUD)装置であって、
画像を表示する表示面を有する画像表示部と、前記虚像の表示を制御する表示制御部と、前記表示光を、前記反射透光部材に投影する光学部材を含む光学系と、を有し、
虚像が結像する結像面としての虚像表示面が、前記車両に近い側の近端部から遠い側の遠端部へと一体的に延びると共に、路面と前記近端部との間の第1の距離よりも、前記路面と前記遠端部との間の第2の距離が大きく、かつ前記虚像表示面は、平面又は曲面であり、
さらに、前記虚像表示面は、
前記路面に重畳される虚像が表示される路面ヘッドアップディスプレイ領域(以下、「路面HUD領域」と称する。)と、
前記路面HUD領域よりも遠方に位置し、かつ前記路面よりも上側に位置する虚像が表示される路上ヘッドアップディスプレイ領域(以下、「路上HUD領域」と称する。)と、に区別され、
前記表示制御部は、
前記表示面の画像表示領域を、ユーザーから見た場合の前記路面と前記路面よりも上側にある空間との境界である境界位置を基準として、前記路面HUD領域に対応する第1の表示領域と、前記路上HUD領域に対応する第2の表示領域に区分し、
前記第1の表示領域に、前記路面に重畳する第1の画像を表示させ、
前記第2の表示領域に、前記路面よりも上側に表示する第2の画像を表示させ、
前記路面HUD領域に対応する前記虚像表示面の少なくとも一部が、前記路面よりも下側に位置するヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロントウインドシールドやコンバイナ等に虚像を表示するヘッドアップディスプレイ(Head-up Display:HUD)装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自車両のナビゲーション用の矢印等を路面に張り付かせるように表示する技術、言い換えれば、路面に重畳させて表示する技術が知られている。虚像表示面(結像面)を路面にほぼ水平に配置することから、奥行き感のある表示が可能である。
【0003】
本明細書では、このような表示を「路面重畳表示」、あるいは「路面HUD表示、又は単に路面HUD」と称する場合がある。また、路面よりも上に位置する虚像表示面(例えば、路面に立設する虚像表示面(結像面)に虚像を表示することを、本明細書では、「路上HUD表示、又は単に路上HUD」と称する場合がある。
【0004】
特許文献1では、主画像を表示する表示器と、副画像を投影によって描画する投影器及び曲面等のスクリーンとを個別に設け、例えば曲面の虚像表示面に路面HUD表示(副画像の虚像)を形成し、かつ、この路面HUD表示(副画像の虚像)の一方の端部に連接する、路面に対して立設する表示(主画像の虚像)を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6232363号公報(例えば図1図2、[0013]、[0029]等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、主画像を表示する表示器と、副画像を表示するための投影器及びスクリーンと、を個別に設ける必要があり、表示光学系の構造が複雑化するのは否めない。
【0007】
また、特許文献1では、主画像と副画像による虚像の立体化、一体化をめざすことが記載されているが、路面に重畳される表示と、路面に立設される表示とを併用することによる、HUD装置の表現力の向上についての記載はない。
【0008】
本発明は、路面HUD、及び路上HUDを併用することで、表現力を向上させることが可能なHUD装置を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の他の目的は、以下に例示する態様及び最良の実施形態、並びに添付の図面を参照することによって、当業者に明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下に、本発明の概要を容易に理解するために、本発明に従う態様を例示する。
【0011】
第1の態様において、ヘッドアップディスプレイ装置は、
車両に設けられた反射透光部材に表示光を投影し、前記反射透光部材を透過する実景に重ねて前記反射透光部材に反射された表示光により虚像を生成して表示するヘッドアップディスプレイ(HUD)装置であって、
画像を表示する表示面を有する画像表示部と、前記虚像の表示を制御する表示制御部と、前記表示光を、前記反射透光部材に投影する光学部材を含む光学系と、を有し、
虚像が結像する結像面としての虚像表示面が、前記車両に近い側の近端部から遠い側の遠端部へと一体的に延びると共に、路面と前記近端部との間の第1の距離よりも、前記路面と前記遠端部との間の第2の距離が大きく、かつ前記虚像表示面は、平面又は曲面であり、
さらに、前記虚像表示面は、
前記路面に重畳される虚像が表示される路面HUD領域と、
前記路面HUD領域よりも遠方に位置し、かつ前記路面よりも上側に位置する虚像が表示される路上HUD領域と、に区別され、
前記表示制御部は、
前記表示面の画像表示領域を、ユーザーから見た場合の前記路面と前記路面よりも上側にある空間との境界である境界位置を基準として、前記路面HUD領域に対応する第1の表示領域と、前記路上HUD領域に対応する第2の表示領域に区分し、
前記第1の表示領域に、前記路面に重畳する第1の画像を表示させ、
前記第2の表示領域に、前記路面よりも上側に表示する第2の画像を表示させる。
【0012】
本態様では、自車両に近い側から遠い側へと延びる一面の虚像表示面を使用する。この虚像表示面は、近端部よりも遠端部の方が、路面から、より持ち上げられた状態であり、虚像表示面は、全体として傾斜面とみることが可能である。
【0013】
この傾斜面の虚像表示面を用いると、虚像表示面上の自車両に近い側の領域に、路面に重畳するような表示(例えば、ナビゲーション用の矢印の表示)をなし、一方、遠い側の領域に、路面上に位置する表示(例えば、路面よりも上に位置する標識等の表示)をなすことが可能となる。従来、路面に重畳される表示をなすHUD装置は、路面よりも上に位置する標識等を表示することは困難であり、この点、多様な表示が制限され、表現力に限界があった。本態様によれば、その制限がかなり軽減され、路面HUDと、路上HUDとを併用した多様な表示が可能となる。
【0014】
ここで、傾斜した虚像表示面(結像面)の手前側に、路面に重畳される表示をなす場合、厳密にいえば、虚像表示面は路面には完全には一致しない。しかし、人の目は、路面に張り付くような表示がなされると、日々の経験等から、その表示は路面に重畳されていると知覚、感得する傾向があり、よって、例えば、傾斜面の路面となす角度をある程度、小さく抑えておけば、ある程度の範囲にわたって、ユーザーにとって違和感の少ない路面HUD表示、言い換えれば奥行き感のある表示が可能である。
【0015】
一方、傾斜した虚像表示面の路面からの浮き上がりが、ある程度大きくなってくると、その浮き上がりが大きな領域になされる表示は、路面よりも上側に位置する表示である(言い換えれば、路上HUD表示である)と、ユーザーに知覚、感得される。
【0016】
表示制御部は、上記の点を考慮し、表示面(表示装置の表示面やスクリーンの表示面等)の画像表示領域(言い換えれば画像表示可能領域)を、HUD装置のユーザーから見た場合の路面と路面よりも上側にある空間との境界である境界位置を基準として、路面HUD領域に対応する第1の表示領域と、路上HUD領域に対応する第2の表示領域に区分する。そして、第1の表示領域に、路面に重畳する第1の画像を表示させ、一方、第2の表示領域に、路面よりも上側に表示する第2の画像を表示させる、という表示制御を実行する。
【0017】
本態様によれば、連続する1つの虚像表示面上で、路面HUD、及び路上HUDを併用することで、多様な表示が可能となり、HUD装置の表現力を向上させることができる。
【0018】
第1の態様に従属する第2の態様において、
前記近端部から前記遠端部へと一体的に延びる前記虚像表示面は、前記光学系の光軸に対して、前記表示面を斜めに配置することにより形成され、
前記虚像表示面の平面又は曲面の形状は、前記光学系における全領域又は一部の領域の光学的特性を調整すること、前記光学部材と前記表示面との配置を調整すること、前記表示面の形状を調整すること、又はこれらの組み合わせにより調整されてもよい。
【0019】
本態様によって、虚像表示面の形状を、多様に調整することができる。よって、HUD装置の設計の自由度が向上する。
【0020】
第1又は第2の態様に従属する第3の態様において、
前記虚像表示面における前記路上HUD領域は、前記ユーザーが、前記路上HUD領域に配置される虚像を見た場合に、絶対的な距離知覚が鈍化して遠近感を正確には知覚し得ない遠方に設定され、これによって前記路上HUD領域の虚像表示面を、疑似立面の虚像表示面としてもよい。
【0021】
本態様では、人が遠方の像を見るとき、その像がかなり遠いことから、絶対的な距離知覚が鈍化し、その人が、遠近感を正確には知覚し得ない場合がある点に着目する。路上HUD領域を、そのような遠方に設定することで、路上HUD領域に結像する虚像が実際は奥行きを有するものであっても、人は、その奥行きを知覚(感得)できず、あたかも同じ距離で立設しているように錯覚する。言い換えれば、路上HUD領域の虚像表示面を、疑似立面(あたかも、路面に対して、例えばほぼ垂直に立設された面)とすることが可能となる。これによって、路上に立設される道路標識、案内表示、広告等の虚像を、違和感なく表示することができる。
【0022】
第1乃至第3の何れか1つの態様に従属する第4の態様において、
前記ユーザーの視点、又は前記視点に相当する基準点から、前記ユーザーから見た場合の前記路面と前記路面よりも上側にある空間との境界である境界位置に対応する、実空間における地点までの距離は20m以上に設定されてもよい。
【0023】
本態様では、人が、虚像の奥行きを知覚、感得できない遠方の基準(閾値)を、20mに設定する。20m程度の遠方にある物体については奥行きを知覚、感得しづらくなることから、20mを基準とするものである。これによって、20m以上の虚像表示距離を有する領域が路上HUD領域となる。
【0024】
第1乃至第4の何れか1つの態様に従属する第5の態様において、
前記路面の消失点を検出する消失点検出部を有し、
前記ユーザーの視点、又は前記視点に相当する基準点と、検出された消失点とを結ぶ線分が前記虚像表示面と交わる点を、虚像表示面上での消失点とする場合に、
前記虚像表示面上での消失点の位置を基準として、前記車両に近い側の領域を前記路面HUD領域とし、遠い側の領域を前記路上HUD領域としてもよい。
【0025】
本態様では、虚像表示面上の消失点を基準として、路面HUD領域と路上HUD領域とを区分けする。消失点検出部は、例えば、自車両の前方を撮影した撮像画像に画像処理を施し、例えば、路面の側線やセンターライン等の複数の白線が、有限の遠方で交わる箇所を算出(近似算出)し、これを消失点とする。道路が曲がっているときには、例えば、近似曲線を用いて消失点を求めることができる。
【0026】
また、ユーザーの視点、又は視点に相当する基準点と、検出された消失点とを結ぶ線分が虚像表示面と交わる点を、虚像表示面上での消失点とする。
【0027】
虚像表示面は傾斜面となっていることから、虚像表示面は、道路の路面とは厳密には一致しない。但し、虚像表示面上での消失点(検出された実際の消失点に対応する点)よりも手前側(自車両に近い側)の領域は、ユーザーから見て、路面よりも上に位置するようには見えないことから、路面に重畳する表示が可能な領域、すなわち路面HUD領域とすることができる。
【0028】
一方、虚像表示面上での消失点よりも遠方側の領域は、虚像表示面が路面からかなり浮き上がっていることから、この領域に虚像を表示すると、ユーザーには、路面よりも上側に表示がなされていると感得され得る。よって、この領域は路上HUD領域として使用できる。
【0029】
また、虚像表示面上の消失点を虚像表示距離20m以上の地点とすると、遠方側の領域は、上述のとおり疑似立面の路上HUD領域となる。よって、標識や案内看板、広告等の、路面から鉛直上方に立設される対象物や、その対象物に関連する情報を、違和感なくユーザーに提示することができる。
【0030】
第1乃至第5の何れか1つの態様に従属する第6の態様において、
前記第2の画像は、前記第1の画像から独立した別個の画像であってもよい。
【0031】
本態様では、路面HUD領域に対応する第1の画像と、路上HUD領域に対応する第2の画像に関して、互いに、独立した別個の画像とする。これによって、例えば、第1、第2の画像によって、異なる情報(異なる種類の情報等)を表示することができ、提示する情報の多様性を確保することができる。なお、本発明において、第1、第2の画像が互いに関連し、2つの画像が一体化されて1つの情報が提示される、といった情報提示態様を否定するものではない。例えば、ナビゲーション用の矢印のうち、直線上の部分を第1の画像とし、先端の矢印の部分を第2の画像とし、これらの画像が一体となって、自車両の誘導情報を提示することも、当然、可能である。このような情報提示態様も、本発明では許容され得る。但し、上記のように、第1、第2の画像を異ならせ、各画像が提示する情報を独立(あるいは別個)のものとすることで、表現力が高まり、提示する情報の多様性が確保されるという利点がある。
【0032】
第1乃至第6の何れか1つの態様に従属する第7の態様において、
前記第1の画像は、前記車両の状態を示す情報の画像、経路誘導画像、及び経路案内画像の少なくとも1つであり、
前記第2の画像は、制限速度情報の画像、路上に設置される各種の標識の画像、路上の経路誘導画像、路上の経路案内画像、路上に設置される看板の画像、及び路上に設置される広告の画像の少なくとも1つであってもよい。
【0033】
本態様では、第1、第2の画像を、具体的に例示している。これによって、ユーザーに有用な情報を違和感なく提示することができる。
【0034】
第1乃至第7の何れか1つの態様に従属する第8の態様において、
前記表示制御部は、
前記第1の画像に対応する第1の虚像について遠近感を調整する場合には、前記表示面における前記第1の画像の表示位置の変更によって虚像表示距離を制御すること、及び、前記第1の画像を構成する表示対象についての大きさ、形状、模様、色彩、陰影の有無、立体的描画の少なくとも1つによる形態制御を行うことの少なくとも一方を実施し、
前記第2の画像に対応する第2の虚像については、虚像表示距離の制御は実施せず、前記形態制御のみを実施してもよい。
【0035】
本態様では、路面HUD領域にて表示される第1の虚像について、遠近感の調整を行う(言い換えれば、遠近表示を行う)場合には、虚像表示距離を調整し、あるいは、表示対象の大きさ、形状等の変更による形態制御を行い、又は、上記の双方を実施する(併用する)ことができる。ここで、虚像表示距離の調整手法としては、傾斜している虚像表示面での表示位置を変更することで奥行き調整をする手法が採用される。
【0036】
また、路上HUD領域にて表示される第2の虚像については、上述のとおり、輻輳角の要素に起因する人の奥行き知覚の影響が小さく、絶対的な距離の知覚は鈍化していることから、無駄な虚像表示距離の制御は実施しない。代わりに、表示対象の大きさや形状等の形態制御を行って、遠近感を調整することとする。これによって、第1、第2の各虚像について、適切な方法で遠近感の調整を実施することが可能となる。
【0037】
第1乃至第8の何れか1つの態様に従属する第9の態様において、
前記表示制御部は、
前記第2の画像を遠方に表示した時点から時間が経過し、前記車両の前方への進行に伴って前記第2の画像と前記車両との距離が小さくなると、前記第2の画像の表示内容の少なくとも一部を、前記第1の画像として、前記路面に重畳するように表示させてもよい。
【0038】
本態様では、例えば、遠くに見えていた標識等(第2の虚像)が、時間経過と共に自車両に接近してくると、その標識等の内容の少なくとも一部を、路面に張り付かせるように表示して、路上HUD表示から路面HUD表示(第1の虚像)への遷移(切り替え)を鮮明化する。その後、例えば、その路面HUD表示に連接するように、新たな車両誘導表示を表示したり、あるいは、切り替え直後の路面HUD表示を、時間経過と共に自車両に近づけ、やがて後ろに流れていくように表示制御したりすることができる。
【0039】
言い換えれば、遠くに見えていた標識等が近づいてきて、現実のハンドル操作等に影響を及ぼす段階になると、一旦、つなぎ画像として、その標識の一部または全部を路面HUD表示して、路上HUDから路面HUDへの切り替えを明確にユーザーに示す。よって、ユーザーは、重要な標識等についての情報の提示が、今後は、主として路面HUDにて行われることを直感的に理解できる。したがって、この提示に続いて、例えば、誘導表示等を行うことで、違和感のない、スムーズな情報提示が可能である。上記の切り替えの際の路面HUD表示は、上述のとおり、その後の誘導表示等につなげるための、つなぎ表示とみることもできる。つなぎ表示を設けることで、路上HUD表示から路面HUD表示への円滑な移行が可能となる。
【0040】
第1乃至第9の何れか1つの態様に従属する第10の態様において、
前記路面HUD領域に対応する前記虚像表示面の少なくとも一部が、前記路面よりも下側に位置してもよい。
【0041】
本態様では、路面HUD領域の虚像表示面の少なくとも一部が、路面よりも下側に位置することを許容する。この場合、その虚像表示面上の第1の虚像は、路面よりも下に結像する。しかし、その虚像を見るユーザーは、路面に重畳される表示が、現実的には路面の下に位置することはないことを理解しており、従ってユーザーは、その常識に従って第1の虚像を路面上に張り付いているかのように知覚、感得する。
【0042】
よって、その第1の虚像は、路面からの浮き上がり感がなく、路面に密着して張り付いているように見える。したがって、虚像の、路面重畳の精度を高めることができる。本態様によれば、路面に正確に重畳された第1の虚像と、路面から立設する第2の虚像とによって、臨場感に溢れた、表現力の高い表示が実現される。
【0043】
当業者は、例示した本発明に従う態様が、本発明の精神を逸脱することなく、さらに変更され得ることを容易に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1(A)は、路面HUD表示について説明するための図、図1(B)~(D)は、虚像表示面が傾斜面である場合の表示形態のバリエーションを示す図、図1(E)は、表示部の表示面における画像表示の一例(図1(D)の例に対応)を示す図である。
図2図2(A)は、ウインドシールドを介してユーザーが視認する虚像の一例(路面HUD表示、路上HUD表示を含む)を示す図、図2(B)は、傾斜面である虚像表示面上における虚像表示の様子を示す図である。
図3図3(A)は、図2(A)の例において、路上HUD領域の虚像表示面を疑似立面化した場合の表示例を示す図、図3(B)は、傾斜面である虚像表示面上における虚像表示の様子を示す図である。
図4図4(A)、(B)は、遠近表示を行う場合の、遠近調整の手法を説明するための図である。
図5図5(A)、(B)は、路上HUD表示から路面HUD表示に移行するときの表示例を示す図である。
図6図6(A)~(D)は、虚像表示面の形状の例、及び、虚像表示面と路面位置との位置関係の例を示す図である。
図7】HUD装置による、虚像表示面を用いた虚像表示の例を示す図である。
図8】ヘッドアップディスプレイ装置における光学系の具体例を示す図である。
図9】凹面鏡(曲面の反射面を有する拡大反射鏡)の曲面形状、及び焦点の例を説明するための図である。
図10】ヘッドアップディスプレイ装置のシステム構成の例を示す図である。
図11図11は、図5(A)、図5(B)に示される表示を行う場合における、虚像表示距離の制御について説明するための図である。
図12図12は、HUD装置の全体の構成例を示す図である。
図13図13は、表示制御部による表示処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下に説明する最良の実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、当業者は、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
【0046】
図1を参照する。図1(A)は、路面HUD表示について説明するための図、図1(B)~(D)は、虚像表示面が傾斜面である場合の表示形態のバリエーションを示す図、図1(E)は、表示部の表示面における画像表示の一例(図1(D)の例に対応)を示す図である。
【0047】
図1(A)において、車両(自車両)1に搭乗しているユーザー(運転者等)の視点(眼)Aから見て、結像面である虚像表示面PS1は、車両1が走行している道路の路面40に張り付くように設けられている。その虚像表示面PS1上に、虚像Gが表示されている。この虚像Gは、ユーザーには、路面40に重畳表示されているように見える。
【0048】
このような表示態様のHUD装置を「路面HUD装置」という場合があり、また、路面に張り付くように表示される表示態様を「路面HUD表示」と称する場合がある。
【0049】
図1(B)では、虚像表示面(結像面)PS2は、図1(A)の虚像表示面PS1とほぼ同じ位置にあるが、虚像表示面PS2は、路面40に対して、所定角度θ1で傾斜して設けられている。このような傾斜面である虚像表示面PS2を用いると、虚像Gの位置を調整することで、ユーザーの視点A(あるいは、視点Aに対応する所定の基準点)から虚像表示面までの距離である虚像表示距離を、適宜、調整することができる。従来技術としての認識は、図1(A)、(B)にとどまるものである。
【0050】
図1(C)では、虚像表示面PS3は、図1(B)と同様に傾斜面ではあるが、図1(C)の例では、路面の、車両1に近い位置から遠い位置まで、かなり広範囲にわたって延在している。なお、虚像表示面PS3の、路面40に対する傾斜角は所定角度θ2である。
【0051】
図示されるように、虚像が結像する結像面としての虚像表示面PS3は、車両1に近い側の近端部U1から遠い側の遠端部U3へと一体的に延びると共に、路面40と近端部U1との間の第1の距離(図1(C)ではU1は路面40上にあるため、距離は零である)よりも、路面40と遠端部U3との間の第2の距離h1が大きく、かつ虚像表示面は、平面(又は曲面:曲面については後述する)である。なお、符号U2は、虚像表示面PS3の中点(中心点)である。また、U1、U2、U3の各点に対応する虚像表示距離を、L1、L2、L3とする。
【0052】
さらに、虚像表示面PS3は、路面40に重畳される虚像が表示される路面HUD領域Z1と、路面HUD領域Z1よりも遠方に位置し、かつ路面40よりも上側に位置する虚像が表示される路上HUD領域Z2と、に区別される。
【0053】
また、ユーザーの視点(又は視点に相当する基準点)Aと、路面40の消失点(水平線上の有限遠点とし、後述する消失点検出部(図13の符号39)にて検出されるものである)VP1とを結ぶ線分が虚像表示面PS3と交わる点を、虚像表示面上での消失点VP2とする場合に、虚像表示面上での消失点VP2の位置を基準として、車両1に近い側の領域を路面HUD領域Z1とし、遠い側の領域を路上HUD領域Z2としている。
【0054】
図1(C)に示されるように、虚像表示面PS3は傾斜面となっていることから、虚像表示面PS3は、道路の路面40とは厳密には一致しない。但し、虚像表示面上での消失点(検出された実際の消失点VP1に対応する点)VP2よりも手前側(自車両1に近い側)の領域は、ユーザーから見て、路面よりも上に位置するようには見えないことから、路面40に重畳する表示が可能な領域、すなわち、路面HUD領域Z1として使用することができる。なお、虚像表示面上での消失点VP2の、路面40との距離は「h0」である。
【0055】
虚像表示面PS3の路面40からの浮き上がりが、この「h0」以下であれば、ユーザーは、その浮き上がりに影響されず、表示される虚像G1を、路面40に張り付くように知覚、感得することができる。
【0056】
一方、虚像表示面上での消失点VP2よりも遠方側の領域は、虚像表示面PS3が路面からかなり浮き上がっている。例えば虚像表示面PS3の遠端部U3の、路面40との距離は「h1(>h0)」である。この遠方側の領域に虚像G2を表示すると、ユーザーには、路面40よりも上側に表示がなされていると感得され得る。よって、この領域は路上HUD領域Z2として使用できる。
【0057】
次に、図1(D)を参照する。図1(D)の例では、路上HUD領域Z2は、ユーザーが路上HUD領域Z2に配置される虚像G2を見た場合に、絶対的な距離知覚が鈍化して遠近感を正確には知覚し得ない遠方に設定される。言い換えれば、路面HUD領域Z1と路上HUD領域Z2との境界としての「虚像表示面上の消失点VP2」の虚像表示距離L2は、20m以上(20m以遠)に設定される。
【0058】
これによって、路上HUD領域Z2の虚像表示面を、疑似立面の虚像表示面とすることができる。
【0059】
図1(D)の例では、人が遠方の像を見るとき、輻輳角の要素に起因する奥行知覚の影響が小さくなり、絶対的な距離知覚が鈍化し、遠いことはわかるが、その奥行き(遠近感)を正確には知覚し得ない場合がある点に着目する。路上HUD領域Z2を、そのような遠方に設定することで、路上HUD領域Z2に結像する虚像G2が実際は奥行きを有するものであっても、人は、その奥行きを知覚(感得)できず、あたかも同じ距離で立設しているように錯覚する。
【0060】
言い換えれば、路上HUD領域Z2の虚像表示面を、疑似立面(あたかも、路面に対して、例えばほぼ垂直に立設された面)とすることが可能となる。図1(D)において、虚像G2は斜面上にあるが、それを見るユーザー(人)には、あたかも路面40に立設される虚像G2’のように見えている。これによって、例えば、路上に立設される道路標識、案内表示、広告等の虚像G2’を、違和感なく表示することができる。
【0061】
虚像表示面PS3の路面40に沿う長さ(延在範囲)は、例えば、10m~30m程度とすることができる。
【0062】
また、虚像表示面PS3の路面40に対する傾斜角θ2は、概ね、1°≦θ2≦3°の範囲に設定されるのが好ましい。
【0063】
例えば、ユーザーの平均的なルックダウンアングルLDA(視点Aを基準とした水平線とユーザーの視線方向とがなす角度)を「3°」とし、縦方向(上下方向)視野角VFOV(表示面の縦方向の画角に対応する)を「5°」とし、L1(近端部U1までの虚像表示距離)を「9m」、L2(虚像表示面上の消失点VP2までの虚像表示距離)を「20m」、L3(遠端部U3までの虚像表示距離)を「30m」とすると、傾斜角θ2は、「1.64°」となる。但し、一例であり、これに限定されるものではない。
【0064】
次に、図1(E)を参照する。図1(E)は、表示制御部(図13の符号300)による表示制御の一例を示している。なお、HUD装置の具体的構成については後述する。
【0065】
表示制御部(図13の符号300)は、表示部46の表示面47の画像表示領域45を、ユーザー(人)から見た場合の、路面40と路面40よりも上側にある空間との境界である境界位置LN’(ここでは、点VP2’を通る、横方向(車両1の幅方向に対応する)に延びる線分により示される)を基準として、路面HUD領域Z1に対応する第1の表示領域Z1’と、路上HUD領域Z2に対応する第2の表示領域Z2’に区分する。なお、「点VP2’」は、図1(C)、(D)に示される「虚像表示面上の消失点VP2」に対応する、表示面47上の点である。
【0066】
そして、表示制御部(図13の符号300)は、第1の表示領域Z1’に、路面40に重畳する第1の画像RG1(ナビゲーション用矢印61’及び速度表示SP’)を表示させ、第2の表示領域Z2’に、路面40よりも上側に表示する第2の画像RG2(制限速度表示63’及び「通学路」の表示65’)を表示させる。
【0067】
なお、光学系の構成によっては、図1(E)における「画角上端」と「画角下端」は、逆になる場合がある。このときは、図1(E)の表示画像は、上下が逆転して表示されることになる。
【0068】
また、図1(E)において、U1’、U2’、U3’の各点は、図1(C)、(D)における、U1、U2、U3の各点に対応する。
【0069】
また、図1(E)にて破線で描かれている、道路の側線51、53、センターライン55は、車両1の前方を撮像した画像に画像処理を施すことにより検出されるものであり、各線が遠方で交わる点が、図1(C)、(D)に示される消失点VP1となる。上述のとおり、虚像表示面上の消失点はVP2であり、このVP2に対応する、表示面47上の点がVP2’である。
【0070】
図1(E)において、第1の画像RG1は、車両1の状態を示す情報(例えば車速表示)の画像、経路誘導画像(例えばナビ用矢印の画像)、及び経路案内画像(例えば地名やランドマークと矢印を組み合わせた画像)の少なくとも1つとしてもよい。また、第2の画像RG2は、制限速度情報の画像、路上に設置される各種の標識の画像、路上の経路誘導画像、路上の経路案内画像、路上に設置される看板の画像、及び路上に設置される広告の画像の少なくとも1つとしてもよい。なお、これらは例示である。このように、第1、第2の画像の内容(意味、内容、あるいは種類等)を異ならせることで、ユーザーに多様な情報を提示することができ、HUD装置の表現力が向上する。
【0071】
次に、図2を参照する。図2(A)は、ウインドシールドを介してユーザーが視認する虚像の一例(路面HUD表示、路上HUD表示を含む)を示す図、図2(B)は、傾斜面である虚像表示面上における虚像表示の様子を示す図である。なお、図2において、前掲の図と共通する部分には同じ符号を付している(この点は、他の図面でも同様である)。
【0072】
図2の例では、車両(自車両)1のウインドシールド(フロントガラス)が、被投影部材(光の反射性と透光性を備える部材)として機能する。被投影部材は、言い換えれば、反射透光部材2である。なお、被投影部材(反射透光部材2)であるウインドシールドは、コンバイナ等であってもよい。HUD装置は、車両1に設けられた反射透光部材2に表示光を投影し、反射透光部材2を透過する実景に重ねて、反射透光部材2に反射された表示光により虚像を生成して表示する。
【0073】
図2(A)の表示例は、図1(E)に示したように。表示面47上で、必要な画像を形成することで実現される。虚像は、ウインドシールド(反射透光部材2)内の、虚像表示領域3に表示される。
【0074】
図2(A)では、先に説明した図1(C)の虚像表示面PS3が採用される。なお、図2(B)は、図1(C)を再掲したものであり、内容は同じである。
【0075】
図2(A)に示されるように、第1の表示領域Z1に、路面40に重畳する第1の虚像G1(ナビゲーション用矢印61及び速度表示SPを含む)が表示される。また、第2の表示領域Z2に、路面40よりも上側に表示する第2の虚像G2(「通学路」の表示63及び「制限速度」(「40km/h」)の表示65)が表示される。
【0076】
また、図2(A)において、符号51、53は、道路の側線(実景)を示し、符号55は、センターライン(実景)を示す。
【0077】
また、図2(A)の例では、ステアリングホイール(広義には、ステアリングハンドル)7の近傍に、HUD装置等のオン/オフの切り換えや、動作モード等を設定可能な操作部9が設けられている。また、フロントパネル11の中央には、表示装置(例えば、液晶表示装置)13が設けられている。表示装置13は、例えば、HUD装置による表示の補助用に用いることができる。なお、この表示装置13は、タッチパネル等を有する複合型のパネルであってもよい。
【0078】
また、図2(B)は、図1(C)を再掲したものであり、内容は同じであるため、説明は省略する。
【0079】
次に、図3を参照する。図3(A)は、図2(A)の例において、路上HUD領域の虚像表示面を疑似立面化した場合の表示例を示す図、図3(B)は、傾斜面である虚像表示面上における虚像表示の様子を示す図である。
【0080】
図3(A)では、先に説明した図1(C)の虚像表示面PS3が採用される。なお、図3(B)は、図1(C)を再掲したものであり、内容は同じである。また、図3(A)では、第2の虚像G2として、通学路の表示63のみが表示されている。
【0081】
上述したように、虚像表示面上の消失点VP2を虚像表示距離20m以上の地点とすると、遠方側の領域は、疑似立面の路上HUD領域Z2となる。よって、標識や案内看板、広告等(これらを総称して、仮想標識情報と称する場合がある)の、路面から鉛直上方に立設される対象物や、その対象物に関連する情報を、違和感なくユーザーに提示することが可能となる。
【0082】
また、図3(B)は、図1(D)を再掲したものであり、内容は同じであるため、説明は省略する。
【0083】
以上説明したように、図2図3の例では、車両1の、かなり広範な前方範囲にわたって、傾斜面の虚像表示面PS3が設けられる。これによって、虚像表示面PS3上の自車両1に近い側の領域Z1に、路面に重畳するような表示(例えば、ナビゲーション用の矢印の表示)をなし、一方、遠い側の領域Z2に、路面上に位置する表示(例えば、路面よりも上に位置する標識等の表示)をなすことが可能となる。
【0084】
従来、路面に重畳される表示をなすHUD装置は、路面よりも上に位置する標識等を表示することは困難であり、この点、多様な表示が制限され、表現力に限界があった。本実施例によれば、その制限がかなり軽減され、路面HUDと、路上HUDとを併用した多様な表示が可能となる。よって、HUD装置の表現力を向上させることができる。
【0085】
次に、図4を参照する。図4(A)、(B)は、遠近表示を行う場合の、遠近調整の手法を説明するための図である。なお、図4(A)は、図3(A)と同じである。
【0086】
第1の虚像(路面に重畳される虚像)G1について遠近感を調整する場合には、表示面47における第1の画像RG1(図1(E)参照)の表示位置の変更によって、虚像表示距離を変更すること、及び、第1の画像を構成する表示対象についての大きさ、形状、模様、色彩、陰影の有無、立体的描画の少なくとも1つによる形態制御を行うことの少なくとも一方を実施することができる。
【0087】
言い換えれば、路面HUD領域Z1に対応する第1の画像RG1は、位置変更によって、傾斜面である虚像表示面PS3上での奥行きを調整することができる。また、第1の画像RG1については、大きさや形状等を変化させること、言い換えれば、表示対象の形態制御によっても、遠近感の調整が可能である。また、上記2つの手法を併用することも可能である。
【0088】
また、路上HUD領域Z2に対応する第2の虚像G2については、虚像表示距離の制御は実施せず、表示対象物の形態制御のみを実施する。第2の虚像G2については、上述のとおり、輻輳角の要素に起因する人の奥行き知覚の影響が小さく、絶対的な距離の知覚は鈍化していることから、無駄な虚像表示距離の制御は実施しない。代わりに、表示対象の大きさや形状等の形態制御を行って、遠近感を調整することとする。このようにして、第1、第2の各虚像G1、G2について、適切な手法により、遠近感の調整を実施することが可能である。
【0089】
次に、図4(B)を参照する。図4(B)は、傾斜面である虚像表示面上における虚像位置を変更することによって、虚像表示距離を変更する場合の表示制御例を示している。図示されるように、虚像表示面PS3の路面HUD領域Z2において、第1の虚像G1としてのナビゲーション用の矢印61は、車両1に近い側から遠い側へと延在しており、表示位置が遠くなるほど、虚像表示距離が大きくなり、これによって遠近感の調整が可能である。
【0090】
また、例えば、車速表示(「40km/h」という表示)の、表示位置を変化させると、車両1から遠ざかるほど虚像表示距離が大きくなり、これによって遠近感の調整が可能である。
【0091】
上述のとおり、路上HUD領域Z2における第2の虚像G2(「通学路」の表示63(案内表示))については、虚像表示距離の制御は行われず、大きさ(サイズ)や形状等の変更による遠近感の調整が行われる。
【0092】
これらにより、例えば、多様な内容を含む虚像についても、適正な虚像表示距離の調整を行え、所望の遠近感をもつ、高品質の虚像の表示が可能となる。
【0093】
次に、図5を参照する。図5(A)、(B)は、路上HUD表示から路面HUD表示に移行するときの表示例を示す図である。
【0094】
図5(A)では、第2の虚像(路面に対して立設している虚像)として、出口案内標識G2-1、及び方面案内標識G2-2が表示されている。遠くに見えていたこれらの標識の虚像G2-1、G2-2が、時間経過と共に自車両1に接近してくると、その標識等の内容の少なくとも一部(ここでは、ユーザーにとって最も重要な情報を提示している出口案内標識G2-1の内容の全部とする)を、路面40に張り付かせるように、一旦、表示する。言い換えれば、案内標識G1-1が、路面40に重畳されて表示される。これによって、路上HUD表示(具体的には、第2の虚像による車両案内)から路面HUD表示(具体的には、第1の虚像による車両誘導)への遷移(切り替え)が鮮明化される。
【0095】
その後、例えば、切り替え直後の路面HUD表示G1-1を、時間経過と共に自車両1に近づけるような表示制御が実行される。
【0096】
図5(B)の運転シーンでは、出口に向けて、車両1の進路を変更するタイミングが近づいている。このとき、路面HUD表示としての出口案内標識G1-1に連接するように、新たな車両誘導表示G1-2が表示され、車両1を確実に出口に導くための案内がなされる。
【0097】
なお、この後、出口案内標識G1-1は、時間経過と共に、車両1の後ろに流れていくように表示制御することも可能である。
【0098】
言い換えれば、遠くに見えていた標識等が近づいてきて、現実のハンドル操作等に影響を及ぼす段階になると、一旦、つなぎ画像として、その標識の一部または全部を路面HUD表示して、路上HUDから路面HUDへの切り替えを明確にユーザーに示す。
【0099】
よって、ユーザーは、重要な標識等についての情報の提示が、今後は、主として路面HUDにて行われることを直感的に理解できる。したがって、この提示に続いて、例えば、誘導表示等を行うことで、違和感のない、スムーズな情報提示が可能である。
【0100】
上記の切り替えの際の路面HUD表示(路面に重畳して表示されている出口案内標識G1-1)は、上述のとおり、その後の誘導表示(G1-2)等につなげるための、「つなぎ表示」とみることもできる。「つなぎ表示」を設けることで、路上HUD表示から路面HUD表示への円滑な移行(言い換えれば、唐突感の少ない表示)が可能となる。このようにして、従来技術では困難であった、臨場感のある、ダイナミックな虚像表示制御が実現され、HUD装置の表現力が格段に向上される。
【0101】
次に、図6を参照する。図6(A)~(D)は、虚像表示面の形状の例、及び、虚像表示面と路面位置との位置関係の例を示す図である。
【0102】
図6(A)の例では、虚像表示面PS4は、その形状が直線状の斜面であり、かつ、その全体が、路面40上に位置している。また、図6(B)の例では、虚像表示面PS5は、その形状が直線状の斜面であり、かつ、自車両1に近い側の傾斜面が、路面40よりも下方に位置している。
【0103】
また、図6(C)の例では、虚像表示面PS6は、その形状が曲線状の斜面(曲面の斜面)であり、かつ、その全体が、路面40上に位置している。また、図6(D)の例では、虚像表示面PS7は、その形状が曲線状の斜面(曲面の斜面)であり、かつ、自車両1に近い側の傾斜面が、路面40よりも下方に位置している。
【0104】
前記路面HUD領域に対応する前記虚像表示面の少なくとも一部が、前記路面よりも下側に位置してもよい。
【0105】
このように、本実施例では、採用可能な虚像表示面の種類が豊富である。また、図6(B)、(D)の例のように、路面HUD領域の虚像表示面の少なくとも一部が、路面よりも下側に位置することが許容されている。
【0106】
この場合、その虚像表示面上の第1の虚像は、路面40よりも下に結像する。しかし、その虚像を見るユーザーは、路面40に重畳される表示が、現実的には路面40の下に位置することはないことを理解しており、従ってユーザーは、その常識に従って第1の虚像を路面40上に張り付いているかのように知覚、感得する。
【0107】
よって、その第1の虚像は、路面40からの浮き上がり感がなく、路面40に密着して張り付いているように見える。したがって、虚像の、路面重畳の精度を高めることができる。本実施例によれば、路面40に正確に重畳された第1の虚像(路面40上に結像する場合もあれば、路面40の下に結像する場合もある)と、路面40から立設する第2の虚像(路面40よりも上に位置する虚像表示面に表示される虚像)とによって、臨場感に溢れた、表現力の高い表示が実現される。
【0108】
次に、図7を参照する。図7は、HUD装置による、虚像表示面を用いた虚像表示の例を示す図である。なお、図7において4種類の虚像表示面が示されているが、これらは、図6で示した例と同じであり、各虚像表示面には図6と同じ符号を付している。
【0109】
また、図7において、車両1の前方に沿う方向(前後方向ともいう)をZ方向とし、車両1の幅(横幅)に沿う方向(左右方向)をX方向とし、車両1の高さ方向(平坦な路面40に垂直な線分の、路面40から離れる方向)をY方向とする。
【0110】
また、以下の説明では、虚像表示面の形状の説明等において、上、下、という表現をする。ここでは、説明の便宜上、路面40に垂直な線分(法線)に沿う方向を上下方向とする。路面が水平である場合は、鉛直下向きが下方であり、その反対方向が上方である。この点は、前掲の図面の説明にも適用され得る。
【0111】
図示されるように、車両(自車両)1のダッシュボードの内部に、本実施例のHUD装置(路面HUD及び路上HUDを併用するHUD装置)101が搭載されている。
【0112】
HUD装置101は、画像を表示する表示面47を有する画像表示部(ここではスクリーン)46と、画像を表示する表示光Kを、反射透光部材部材であるウインドシールド(反射透光部材2)に投影する光学部材を含む光学系120と、投光部(画像投射部)150と、を有し、光学部材は、反射面139を有する凹面鏡(拡大反射鏡)130を有し、その凹面鏡130の反射面139は、自車両1に近い側では、路面40を重畳対象物として虚像を表示し、遠い側では、路面40から立設した表示をするのに適した形状(曲面を含む)を有している。反射面139の形状は、虚像表示面PS4~PS7の形状や路面との関係に、かなり大きな影響を与える。
【0113】
なお、虚像表示面PS4~PS7の形状は、凹面鏡130の反射面139の形状(曲面を含む)の他、ウインドシールド(反射透光部材2)の曲面形状や、光学系120内に搭載される他の光学部材(例えば補正鏡)の形状にも影響される。また、表示面47の形状(一般的には平面だが、全体又は一部が非平面となり得る)や、反射面139に対する表示面47の配置にも影響される。但し、凹面鏡130は拡大反射鏡であり、虚像表示面の形状に与える影響はかなり大きい。また、凹面鏡130の反射面139の形状が異なれば、実際に、虚像表示面の形状が変化する。
【0114】
また、近端部U1から遠端部U3へと一体的に延びる虚像表示面P4~P7は、光学系の光軸(主光線に対応する主光軸)に対して、画像表示部(表示部)46の表示面47を90度未満の交差角で斜めに配置することにより形成される。
【0115】
また、虚像表示面P4~P7の平面又は曲面の形状は、光学系における全領域又は一部の領域の光学的特性を調整すること、光学部材と表示面47との配置を調整すること、表示面47の形状を調整すること、又はこれらの組み合わせにより調整されてもよい。このようにして、虚像表示面の形状を、多様に調整することができる。よって、HUD装置の設計の自由度が向上する。
【0116】
次に、図8を参照する。図8は、ヘッドアップディスプレイ装置における光学系の具体例を示す図である。
【0117】
HUD装置101は、投光部151と、画像表示部としてのスクリーン161と、反射鏡133と、凹面鏡131と、外部のセンサや他のECUから情報を取得するI/Oインターフェース、プロセッサ、メモリ、及びメモリに記憶されたコンピュータ・プログラム等から構成される制御部171(表示制御装置、あるいは表示制御部と言うこともできる)と、を有する。
【0118】
また、凹面鏡131の角度は、アクチュエータからなる回転機構175の動作によって適宜、調整され得る。また、スクリーン161の傾きや位置は、画像表示部のアクチュエータからなる調整部173によって、適宜、調整され得る。なお、スクリーン161の傾きは、具体的には、投光部151の光軸に対する傾き、あるいは、光学系の光軸に対する傾き、あるいは、投光部が発する光の主光路(主光線)に対する傾き、ということができる。制御部171は、投光部151の動作、回転機構175の動作、画像表示部の調整部173の動作等を統括的に制御する。なお、参照符号Kは表示光(出射光)を示す。光学系の特性を、種々の観点から調整することで、例えば、虚像表示面の曲面の形状のバリエーションを増やすことができ、また、曲面の曲率等を、より高精度に調整することも可能となる。
【0119】
次に、図9を参照する。図9は、凹面鏡(曲面の反射面を有する拡大反射鏡)の曲面形状、及び焦点の例を説明するための図である。図9に示される凹面鏡135は、α、β、γの各部を有し、各部の曲率半径は概ね、大、小、小、と設定される。なお、参照符号163は、画像表示部としてのスクリーンを示す。また、破線で示される光路は、凹面鏡135(より広義には光学系)の光軸に沿う主光路(主光線)を示す。
【0120】
凹面鏡135の曲率半径の変化に応じて、凹面鏡135は、F1~F5の各点で示される焦点をもつことになる。その焦点の軌跡が示す曲面を含む形状に応じて、虚像表示面の形状(湾曲の程度や平坦性等)を変えることができる。例えば、凹面鏡135のα、β、γの各部の曲率半径を段階的に微調整する、あるいは、連続的に変化させる等、いろいろなバリエーションが考えられる。従来のように、凹面鏡とウインドシールドの収差による歪みを補正するのではなく、虚像表示面の曲面を含む形状は許容して、その曲面を含む形状を高精度に、自在に制御することで、人の目の特性を利用して、平坦性を確保したり、あるいは、路面HUD領域Z1において、重畳対象物(路面等)に浮き上がり等がなく重畳されているかのように知覚させたりするという設計手法が、本実施形態では採用されている。
【0121】
次に、図10を参照する。図10は、ヘッドアップディスプレイ装置のシステム構成の例を示す図である。
次に、図19を参照する。図19は、ヘッドアップディスプレイ装置のシステム構成の例を示す図である。図19に示されるシステムは、表示制御装置740と、対象物検出部801と、車両情報検出部803と、表示部12と、第1アクチュエータ177と、第2アクチュエータ179と、と、を有する。表示制御装置740は、I/Oインターフェース741と、プロセッサ742と、メモリ743を有する。表示制御装置740、対象物検出部801及び車両情報検出部803は、通信線(BUS等)に接続されている。
【0122】
表示制御装置740は、例えば、図8に示した制御部(表示制御装置、表示制御部)171として用いることができる。また、第1アクチュエータ177、第2アクチュエータ179は、図8に示した回転機構179や調整部173として利用することができ、また、図8に示した光学系120の全体や細部を個別に調整することに利用することもできる。これらは、光学系の調整系ということもできる。
【0123】
また、対象物検出部801は、例えば、車両1に設けられた車外センサ、車外カメラにて構成することができる。また、車両情報検出部803は、例えば、速度センサ、車両ECU、車外通信機器、目の位置を検出するセンサ、車両1のピッチ角(傾斜角)を検出するヨートレートセンサ等、あるいは、ハイトセンサにより構成することができる。表示制御装置740は、対象物検出部801の検出情報や、車両情報検出部803からの情報に基づいて、例えば、光学系を最適に動作させながら、上記の、路面HUDと路上HUDを併用するHUD装置を実現することも可能である。
【0124】
また、1つ又はそれ以上のプロセッサ742は、例えば、路面40の位置を取得し、路面40の位置に基づき、虚像表示面の少なくとも一部が、例えば、路面40の下に配置されるように、第1、第2のアクチュエータ173、175のうちの少なくとも一方を駆動することも可能である。
【0125】
次に、図11を参照する。図11は、図5(A)、図5(B)に示される表示を行う場合における、虚像表示距離の制御について説明するための図である。なお、図11において、符号22はユーザーを示し、また、符号Kは表示光を示す。
【0126】
図示されるように、路面40に対して立設する出口案内標識G2-1が表示され、時刻t2に、つなぎ表示として、路面40に重畳されるように、出口案内標識G1-1(表示内容は、G2-1と同じである)が表示される。
【0127】
続いて、時刻t3に、車両1により近い位置にて出口案内標識G1-1が表示される。
【0128】
次に、時刻t4~t6において、車両誘導表示G1-2が表示され、続いて、時刻t7に車両1により近い位置にて出口案内標識G1-1が表示される。このような虚像表示位置の制御が、表示制御部(例えば、図12の符号300)によって実施される。
【0129】
図12は、HUD装置の全体の構成例を示す図である。なお、図12では光学系52が設けられるが、この光学系52の構成として、先に図7で示したものと同様の構成が採用される。図5と同じ部分には同じ符号が付されている。
【0130】
図12の例では、光学系52と、前方撮像カメラ17による撮像画像に基づいて画像処理を行う画像処理部21を有する運転シーン判定部19と、ナビゲーション部(ナビゲーションECU)400と、が設けられる。
【0131】
光学系52は、投光部150と、画像Mが形成される表示面47を備えるスクリーン(画像表示部)46と、凹面鏡130と、を有する。光学系52から表示光Kがウインドシールド(反射透光部材2)に向けて出射され、この結果、先に説明したとおり、例えば傾斜面の虚像表示面PSに虚像Gが表示される。
【0132】
表示制御部300は、画像出力部32と、駆動部33と、虚像表示距離制御部34と、画像生成部35と、路面HUD領域/路上HUD領域検出部36と、虚像表示面位置調整部37と、消失点検出部39(ピッチ角及び消失点位置算出部38を含む)と、を有する。
【0133】
ナビゲーション部(ナビゲーションECU)400は、奥行きマッピング部402と、ナビ情報(道路案内情報、道路標識情報等)生成部404と、運転経路情報取得部406と、自車両位置情報取得部408と、地図情報取得部410と、記憶部(地図、道路案内情報、道路標識等のデータベースとして機能する)412と、を有する。ナビゲーション部(ナビゲーションECU)400には、車載ECU700が収集した車両情報等が、バス(BUS)を介して供給される。
【0134】
また、通信部500が、例えば、車両10の外部に設置されている運転支援システム600との無線通信によって取得した各種の情報を、適宜、ナビゲーション部400の自車両位置情報取得部408及び地図情報取得部410に供給するようにしてもよい。また、GPS受信部502がGPS衛星から受信した位置情報等を、適宜、ナビゲーション部400の自車両位置情報取得部408及び地図情報取得部410に供給するようにしてもよい。
【0135】
また、車両1には、各種センサ(ピッチ角検出用のヨートレートセンサを含む)505が設けられている。また、車載ECU700により収集される各種の情報は、BUSを介してナビゲーション部400に供給され、また、各種情報の一部は、消失点検出部39(ピッチ角及び消失点位置算出部38)にも供給される。
【0136】
表示制御部300において、消失点検出部39に含まれるピッチ角及び消失点位置算出部38は、画像処理部21から供給される画像情報、及び車載ECU700から供給される各種センサの情報等に基づいて、車両1の現在のピッチ角を算出し、そのピッチ角やユーザー22の視点Aの位置等を考慮して、消失点(図1におけるVP1、VP2)の位置を算出する。
【0137】
また、虚像表示面位置調整部37は、運転シーン判定部19から提供される情報によって、車両1が例えば登り坂(あるいは下り坂)にさしかかっていると判定されるときは、ピッチ角等を考慮して、虚像表示面PSの斜面の位置(路面に対する相対位置)を調整(補正)する。なお、虚像表示面PSの位置が補正されたときは、ピッチ角及び消失点位置算出部38は、補正後の虚像表示面上での消失点位置(図1のVP2)を再取得する。
【0138】
路面HUD領域/路上HUD領域検出部36は、虚像表示面PSにおける消失点VP2の位置を境界として、路面HUD領域Z1と路上HUD領域Z2とに区別する。
【0139】
また、虚像表示距離制御部34は、ナビゲーション部(ナビゲーションECU)400から供給される、表示対象である標識等の奥行き情報等に基づいて、表示面47上における標識等の表示位置を決定し、これによって虚像表示距離を調整する。
【0140】
画像生成部35は、図1(E)にて説明したように、入力される各種情報に基づいて、表示面47に表示する画像(原画像)を生成する。生成された画像(原画像)は画像出力部32に供給される。画像出力部32は、画像(原画像)のデータcvを、光学系52の投光部150に供給する。また、駆動部33は、例えば、凹面鏡130を回動させるための制御信号rvsをアクチュエータ(図10の符号177及び179等)に供給する。
【0141】
次に、図13を参照する。図13は、表示制御部による表示処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0142】
まず、ピッチ角及び消失点位置を取得する(ステップS1)。次に、車両のピッチ角(傾き角)等を考慮して、虚像表示面の位置調整(位置補正)を行う(ステップS2)。次に、路面HUD領域/路上HUD領域を検出する(ステップS3)。
【0143】
続いて、路上HUD領域に、路上用虚像を表示させ、路面HUD領域に、路面用虚像を表示させる(ステップS4)。
【0144】
ステップS4では、虚像表示距離が20mを超えるときは、サイズや形状等の形態制御(形態変化)による遠近表示を行い、20m以下のときは、傾斜面上の表示位置変更による虚像表示距離の変更、及び形態制御(形態変化)による遠近表示の少なくとも一方を行う。また、路上HUD領域に表示されている路上表示を路面表示に移行させるときは、その切り替わりの際に、路上表示の意味内容を引き継ぐ表示(つなぎ表示)を、路面に貼りつくように表示し、その後、必要に応じて距離変更制御によって、その表示が車両に近づくように移動させて遠近感を調整し、必要に応じて、新しい画像を追加表示する。
【0145】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、連続する一つの面で構成される虚像表示面上で、路面HUD、及び路上HUDを併用することで、多様な表示が可能となり、HUD装置の表現力を向上させることできる。
【0146】
本明細書において、車両という用語は、広義に、乗り物としても解釈し得るものである。また、「標識」についても、例えば、車両の運行に役立つ広義のナビゲーション情報という観点等も考慮し、広義に解釈するものとする。また、HUD装置には、シミュレータ(例えば、航空機のシミュレータ)として使用されるものも含まれるものとする。
【0147】
また、上述の路面HUD表示にて提供される情報は、例えば、車速情報、路面に重畳される矢印、制限速度情報等のように、当該情報に基づく対応や操作を、ユーザー(運転者)が行うまでの距離又は時間が、ある程度、近いものであり、これらを総称して、近距離情報、又は近方情報と称する場合がある。
【0148】
また、上述の路上HUD表示にて提供される情報は、例えば、ターンバイターン情報、案内標識などのように当該情報に基づく対応や操作を、ユーザー(運転者)が行うまである程度の距離又は時間があるものであり、これらを総称して遠距離情報、あるいは遠方情報と称する場合がある。
【0149】
本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されず、また、当業者は、上述の例示的な実施形態を特許請求の範囲に含まれる範囲まで、容易に変更することができるであろう。
【符号の説明】
【0150】
1・・・車両(自車両)、2・・・反射透光部材(ウインドシールド等)、3・・・虚像表示領域、7・・・ステアリングホイール、9・・・操作部、10・・・車両(自車両)、11・・・フロントパネル、13・・・表示器(表示パネル等)、17・・・前方撮像カメラ、19・・・運転シーン判定部、21・・・画像処理部、22・・・ユーザー、32・・・画像出力部、33・・・駆動部、34・・・虚像表示距離制御部、35・・・画像生成部、36・・・路面HUD領域/路上HUD領域検出部、37・・・虚像表示面位置調整部、38・・・ピッチ角及び消失点位置算出部、39・・・消失点検出部、40・・・道路の路面、46・・・画像表示部(表示部:スクリーン等)、47・・・表示面、52・・・光学系、101・・・HUD装置、130・・・凹面鏡、150・・・投光部、300・・・表示制御部、400・・・ナビゲーション部(ナビゲーションECU)、500・・・通信部、502・・・GPS受信部、505・・・各種センサ、600・・・運転支援システム、700・・・車載ECU、Z1・・・路面HUD領域、Z2・・・路上HUD領域、PS(PS3~PS7)・・・虚像表示面(傾斜面の虚像表示面)、G・・・虚像、G1・・・第1の虚像(路面HUD領域用)、G2・・・第2の虚像(路上HUD領域用)、U1・・・虚像表示面の近端部、U2…虚像表示面の中心位置(画角中心)、U3・・・虚像表示面の遠端部、VP1・・・消失点、VP2・・・虚像表示面での消失点、VP2’・・・表示面上での、VP2に対応する点、LN’・・・表示面上での路面HUDと路上HUDの境界位置、RG1・・・G1に対応する第1の画像、RG2・・・G2に対応する第2の画像。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13