(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】部材間接合装置及び接合部材製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20240613BHJP
B23K 20/00 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
H01L21/52 F
B23K20/00 310P
(21)【出願番号】P 2020037681
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000146722
【氏名又は名称】ヤマハロボティクスホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【氏名又は名称】西本 博之
(72)【発明者】
【氏名】菊地 広
(72)【発明者】
【氏名】野村 勝利
(72)【発明者】
【氏名】福本 眞介
(72)【発明者】
【氏名】李 瑾
(72)【発明者】
【氏名】島津 武仁
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/155002(WO,A1)
【文献】特開平05-217973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K20/00-20/26
H01L21/52
H01L21/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合エネルギーを受けることで発揮される接合力によって部材間を接合する部材間接合装置であって、
一方の前記部材を支持する台座部と、
板状の他方の前記部材を支持すると共に、前記台座部に対して相対的に接近及び離間可能であり、前記他方の部材を前記一方の部材に積層する
と共に、前記他方の部材に面接触して支持する支持面を有する支持部と
、
前記支持面とは反対側から前記支持部を支持する取付部と、を備え、
前記支持面は平坦面から湾曲面に変化可能であり、
前記取付部には、流体によって前記支持部を部分的に加圧して前記支持面を湾曲させる加圧部が設けられている部材間接合装置。
【請求項2】
前記取付部は、前記支持部を加圧して前記湾曲面を形成し、前記湾曲面の頂点によって前記他方の部材に凸部を形成する請求項
1記載の部材間接合装置。
【請求項3】
前記支持部を前記取付部に固定する複数の固定部を更に備え、
前記加圧部は、前記複数の固定部を結んで形成される仮想の領域の内側に形成される、請求項
1または
2記載の部材間接合装置。
【請求項4】
前記取付部は、前記支持部に当接する平坦面を備えている、請求項
1または2記載の部材間接合装置。
【請求項5】
接合エネルギーを受けることで発揮される接合力によって部材間を接合して接合部材を形成する接合部材製造方法であって、
一方の前記部材に積層される他方の前記部材は板状であり、
前記他方の部材を前記一方の部材に積層する工程と、
前記他方の部材を前記一方の部材に積層し
た後で、
前記他方の部材を部分的に加圧することによって、前記他方の部材により、前記一方の部材に対して部分的に応力を付与して応力の起点を形成する
工程と、を含む接合部材製造方法。
【請求項6】
前記一方の部材と前記他方の部材との間に生じるボイドを前記応力の起点から前記他方の部材の周縁に向けて排出する請求項
5記載の接合部材製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
クーロン力等の接合エネルギーを受けて発揮される接合力によって部材間を接合する部材間接合装置及び接合部材製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の実装装置及び実装方法として、例えば、電極に、はんだバンプを形成し、はんだバンプ付電子部品を熱圧着によって基板に実装する方法が知られている(特許文献1参照)。一方で、直接接合(Direct bonding)等の接合方法が知られている。この接合方法では、接着剤の使用や部材の溶着等は行わず、例えば、クーロン力を受けて発揮される接合力を利用してチップやウェハー等の部材間の接合を行ったり、拡散する原子の接合エネルギーを受けて発揮される接合力を利用して部材間の接合を行ったりしている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第488055号公報
【文献】国際公開第2018/216763号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
直接接合等の場合、平坦面を有する部材同士を積層させて接合しているが、平坦面には微視的な凹凸があり、部分的にボイドが残るなどして全面に亘って適切に接合することが困難な場合もあった。
【0005】
本発明は、部材同士の接合面を全面に亘って適切に接合し易くなる部材間接合装置及び接合部材製造方法を提供することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、接合エネルギーを受けることで発揮される接合力によって部材間を接合する部材間接合装置であって、一方の部材を支持する台座部と、板状の他方の部材を支持すると共に、台座部に対して相対的に接近及び離間可能であり、他方の部材を一方の部材に積層する支持部とを備え、支持部は、他方の部材に面接触して支持する支持面を有し、支持面は平坦面から湾曲面に変化可能である。
【0007】
板状の他方の部材を支持する際には、支持面は平坦面を形成して他方の部材を確実に保持する。この他方の部材を一方の部材に積層して接合する際に支持面が湾曲面に変化すると、支持面の変化に追従して、板状である他方の部材も湾曲しようとする。この湾曲によって一方の部材には部分的な応力が付与され、応力の起点が形成される。応力の起点が形成されると、例えば、応力の起点から接合面が外方に伝播するように広がり、この接合面の広がりに押し出されるようにしてボイドが排出されて適切な接合が可能になる。
【0008】
上記の部材間接合装置は、支持面とは反対側から支持部を支持する取付部を更に備え、取付部には、流体によって支持部を部分的に加圧して支持面を湾曲させる加圧部が設けられていてもよい。空気などの気体または水や油などの液体等の流体を利用し、支持部を部分的に加圧することで支持部が撓み、支持面における湾曲面の形成が可能になる。
【0009】
取付部は、支持部を加圧して湾曲面を形成し、湾曲面の頂点によって他方の部材に凸部を形成してもよい。凸部を形成することで、応力の起点を形成し易くなる。
【0010】
支持部を取付部に固定する複数の固定部を更に備え、加圧部は、複数の固定部を結んで形成される仮想の領域の内側に配置されていてもよい。この仮想の領域の内側に加圧部を配置することで、他方の部材の中心に近い位置に湾曲面の頂点が形成され、他方の部材を介して一方の部材に形成される応力の起点は固定部よりも中心に近い位置となる。その結果、応力の起点から外方に向けて接合面が偏りなく広がり易くなり、全面に亘って適切な接合を実現し易くなる。
【0011】
取付部は、支持部に当接する平坦面を備えていてもよい。取付部が平坦面を備えていると、支持部の平坦面を確実に形成し易くなる。
【0012】
本開示は、接合エネルギーを受けることで発揮される接合力によって部材間を接合して接合部材を形成する接合部材製造方法であって、一方の部材に積層される他方の部材は板状であり、他方の部材を一方の部材に積層して接合する際に、他方の部材により、一方の部材に対して部分的に応力を付与して応力の起点を形成する。
【0013】
応力の起点を形成することにより、一方の部材と他方の部材との接合面が適切に接合され易くなる。
【0014】
上記の接合部材製造方法において、一方の部材と他方の部材との間に生じるボイドを応力の起点から他方の部材の周縁に向けて排出してもよい。ボイドを排出することにより、適切な接合が可能になる。
【0015】
上記の接合部材製造方法において、他方の部材を一方の部材に積層する際に、他方の部材が一方の部材に最初に接触する部分によって応力の起点を形成し、応力の起点を形成した後で、他方の部材と一方の部材との接触面の全面に対して、他方の部材によって応力を付与してもよい。最初に応力の起点を形成することにより、接合面が伝播するような広がりを形成し易くなり、更に、他方の部材によって接触面の全面に応力を付与することにより、適切な接合面を形成し易くなる。
【0016】
上記の接合部材製造方法において、他方の部材を一方の部材に積層した後で、他方の部材を部分的に加圧して応力の起点を形成してもよい。他方の部材を一方の部材に積層した後であっても、応力の起点を形成することによりボイドを排出し易くなり、適切な接合面の形成に有効である。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、部材同士の接合面を全面に亘って適切に接合し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る部材間接合装置を模式的に示す説明図である。
【
図2】
図2は、部材間接合装置のボンディングツールの主要部の断面図である。
【
図3】
図3は、
図2のIII-III線に沿った断面図である。
【
図4】
図4は、ボンディングツールのコレットが湾曲し、チップの支持面が平坦面から湾曲面に変化している状態を示す断面図である。
【
図5】
図5は、接合部材製造方法においてチップを保持している工程を示し、主にボンディングツールの主要部を示す断面図である。
【
図6】
図6は、接合部材製造方法においてチップを湾曲させる工程を示し、主にボンディングツールの主要部を示す断面図である。
【
図7】
図7は、接合部材製造方法において応力の起点を形成する工程を示し、主にボンディングツールの主要部を示す断面図である。
【
図8】
図8は、基板及びチップの接合面からボイドが排出されていく様子を模式的に示す平面図であり、(a)の図は、応力の起点が形成された状態を示す図であり、(b)の図は、接合面が伝播しながら広がっていく途中の過程を示す図であり、(c)の図は、接合面がチップの周縁に到達してボイドが排出される状態を示す図である。なお、
図7では、説明の便宜上、チップと基板との周縁(外形)を真円形として表現している。
【
図9】
図9は、接合部材製造方法において、チップと基板との接触面の全面に応力を付与する工程を示し、主にボンディングツールの主要部を示す断面図である。
【
図10】
図10は、接合部材製造方法において、チップからボンディングツールのコレットを離脱させる工程を示し、主にボンディングツールの主要部を示す断面図である。
【
図11】
図11は、他の実施形態に係る接合部材製造方法において、チップを保持している工程を示し、主にボンディングツールの主要部を示す断面図である。
【
図12】
図12は、他の実施形態に係る接合部材製造方法において、チップを基板に積層する工程を示し、主にボンディングツールの主要部を示す断面図である。
【
図13】
図13は、他の実施形態に係る接合部材製造方法において、チップの中央部分を中心に応力を付与する工程を示し、主にボンディングツールの主要部を示す断面図である。
【
図14】
図14は、他の実施形態に係る接合部材製造方法において、チップからボンディングツールのコレットを離脱させる工程を示し、主にボンディングツールの主要部を示す断面図である。
【
図15】
図15は、他の実施形態に係る接合部材製造方法において、コレットに対する加圧を停止し、コレットの支持面を湾曲面から平坦面に戻した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態に係る部材間接合装置について説明する。部材間接合装置は、接合エネルギーを受けることで発揮される接合力によって部材間を接合する部材間接合装置である。なお、基板等の部材の接合には、直接接合(Direct bonding)と間接接合が存在する。直接接合は接着層を介在させずに接合された態様である。上記の「接合エネルギーを受けることで発揮される接合力によって部材間を接合する」とは、主として直接接合を意図している。直接接合は、主にSOI基板やMEMSデバイスを製作する際に用いられる。更に、直接接合には、少なくともクーロン力(接合エネルギー)による接合、更に拡散接合、常温接合、陽極接合等が含まれる。
【0020】
例えば、部材の接合予定面を超平滑にし、一方の部材の接合予定面と他方の部材の接合予定面とを接触させると、クーロン力(接合エネルギー)を受けることで発揮される接合力が生じ、部材同士は接合される。この態様は、クーロン力による接合である。
【0021】
また、拡散接合の一例は、原子拡散接合(例えば、国際公開第2018/216763号参照)である。原子拡散接合は、接合対象である基板等の部材を密着させ、接合予定面で原子の拡散を生じさせ、その結果、部材同士を接合させる方法である。
【0022】
常温接合には、表面活性化接合が含まれる。表面活性化接合は、例えば、真空中において、不活性ガスのイオン照射や中空糸原子ビームの照射(接合エネルギー)を部材に対して行い、この照射によって部材の表面(接合予定面)の安定な酸化膜や吸着膜を除去し、得られた活性状態の表面同士を接触させることで部材同士を接合させる方法である。
【0023】
陽極接合は、接合部材として、例えばシリコン基板とガラスとを接合する方法であり、シリコンとガラスを合わせ、所定の電圧を印加(接合エネルギー)しながら加熱(接合エネルギー)することにより、ガラス中のイオンが接合界面に移動し、共有結合が起こって接合させる方法である。
【0024】
また、「接合エネルギーを受けることで発揮される接合力によって部材間を接合する」の技術的意義については、部材同士の結合態様という観点で整理することも可能である。つまり、「接合エネルギーを受けることで発揮される接合力によって部材間を接合する」とは、例えば、原子と原子とが結合する分子内結合、または分子と分子とが結合する分子間結合で接合する方法であり、更に、分子間結合は金属結合、イオン結合を含む。例えば、自由電子の移動という接合エネルギーを受けることで発揮される接合力によって接合される態様は金属結合であり、クーロン力という接合エネルギーを受けることで発揮される接合力によって接合される態様はイオン結合である。
【0025】
部材間接合装置は、クーロン力による直接接合を前提として接合対象となる二つの部材を接合している。一方の部材はパッケージ基板(以下、「基板」と称する)であり、他方の部材はウェハーから切り出されたチップである。チップは、基板上の所定位置に搭載されてボンディングされる。このボンディングに際して部材間接合装置が使用される。
【0026】
図1、
図2に示されるように、部材間接合装置1は、基板Taを支持する台座部2と、チップTbを支持するボンディングツール3と、台座部2に対してボンディングツール3を昇降させるツール移動手段4と、を備えている。ツール移動手段4により、ボンディングツール3は台座部2に対して接近及び離間可能であり、チップTbを基板Ta上に積層可能である。
【0027】
また、部材間接合装置1は、ボンディングツール3から空気Aを吸引する吸引手段5と、ボンディングツール3に向けて空気Aを供給する加圧手段6と、ボンディングツール3と吸引手段5とを接続する吸気ライン21と、ボンディングツール3と加圧手段6とを接続する加圧ライン22とを備えている。なお、吸引手段5及び加圧手段6は、それぞれ独立した別の装置であってもよく、または空気Aの吸引及び供給が可能な単体の装置であってもよい。
【0028】
ボンディングツール3は、チップTbに当接してチップTbを保持するコレット7と、コレット7を支持するバックボード8と、コレット7をバックボード8に固定する複数の固定部9とを備えている。コレット7の一方の面(下面)は、チップTbに面接触してチップTbを支持する支持面7aであり、下面に対して反対側の面(上面)7bは、バックボード8に当接する面である。つまり、バックボード8は、コレット7の支持面7aに対して反対側からコレット7を支持しており、コレット7の上面7bに当接する面は平坦面8aになっている。コレット7は支持部の一例であり、バックボード8は取付部の一例である。
【0029】
ボンディングツール3には、チップ吸引用の複数の吸引孔11と、コレット7を加圧して湾曲させるための一または複数の加圧孔12と、が設けられている。吸引孔11は、コレット7及びバックボード8を貫通する貫通孔であり、気体流路の一部である。吸引孔11は、配管21aや制御弁21bを含む吸気ライン21を介して吸引手段5に接続されている。吸引手段5の駆動により、吸引孔11内は吸引されて負圧となり、チップTbが吸着されて保持される。
【0030】
加圧孔12は、バックボード8のみを貫通する貫通孔であり、気体流路の一部である。加圧孔12は、配管22aや制御弁22bを含む加圧ライン22を介して加圧手段6に接続されている。
図3に示されるように、加圧孔12は、コレット7を平面視(
図3では断面視)した場合の中心付近に形成されている。加圧手段6の駆動により、加圧孔12内には空気Aが供給されて加圧孔12内は昇圧される。コレット7は、加圧孔12から受ける空気Aによって部分的に加圧されて撓み、その結果、加圧孔12とは反対側である支持面7aは凸状に湾曲面となる(
図4参照)。本実施形態において加圧孔12は、空気Aによってコレット7を部分的に加圧して支持面7aを湾曲させる加圧部に相当する。なお、コレット7の上面7bには、加圧孔12からの空気Aを受け入れる一または複数のガイド溝7cが形成されている。ガイド溝7cは、加圧孔12からの空気Aによって撓みが生じ易くなる方向に沿って形成されている。
【0031】
コレット7は、複数の固定部9によってバックボード8に固定されている。本実施形態に係る固定部9は、例えば、ボルト91及びナット92からなる締結部であるが、クランプを利用した構造等であっても良い。コレット7の支持面7aには、ボルト91の頭部を収容する座ぐり71が形成されており、チップTbを保持する際にボルト91の頭部が干渉しないような工夫が施されている。
【0032】
図3に示されるように、複数の固定部9は、コレット7の支持面7aの外周7eに沿った外寄りの位置に設けられている。そして、複数の固定部9を結んで形成される仮想の領域Arを想定した場合に、加圧孔12は仮想の領域Arの内側に配置されている。
【0033】
また、複数の固定部9は、支持面7aの中央を通る仮想の直線Laを基準にして、線対称となるように配置されている。つまり、複数の固定部9は、仮想の直線Laによって区画される二つの領域のうち、
図3において、左側の第1領域に配置されるグループと、右側の第2領域に配置されるグループとに分けられる。コレット7は、第1領域のグループの固定部9と、第2領域のグループの固定部9とにより両持ち状にバックボード8に支持されている。更に、コレット7は、固定部9で固定されていない中央部分が加圧孔12に面しており、加圧孔12を介して供給された空気Aがコレット7を加圧すると、コレット7は、この加圧によって中心付近が下方(外側)に膨らむように撓んで湾曲する。その結果、支持面7aは、平坦面から凸状に膨らんだ湾曲面に変化する。なお、この湾曲による変位は非常に僅かであり、実際には数μm程度である。例えば、湾曲面の頂点Pe部分(
図4参照)の変位量は、0.5μm~500μmであり、0.001μm~0.5μmであってもよく、5μm~500μmであってもよい。
【0034】
上述の通り、部材間接合装置1のボンディングツール3のコレット7は、チップTbを支持すると共に、台座部2に対して接近及び離間可能であり、チップTbを基板Taに積層する。また、コレット7は、チップTbに面接触して支持する支持面7aを有し、支持面7aは平坦面から湾曲面に変化可能である。例えば、ボンディングツール3がチップTbを支持する際には、支持面7aは平坦面になって板状のチップTbを確実に保持する。更に、チップTbを基板Taに積層して接合する際、支持面7aは湾曲面に変化し、支持面7aの変化に追従して、チップTbも湾曲する。チップTbが湾曲すると、チップTbが接合される基板Taには部分的な応力が付与され、応力の起点が形成される。応力の起点が形成されると、チップTbと基板Taとの間に生じ得るボイドV(
図8参照)が排出され易くなり、チップTbと基板Taとの適切な接合が可能になる。
【0035】
また、部材間接合装置1は、コレット7を支持するバックボード8を備え、バックボード8には、空気Aによってコレット7を部分的に加圧して支持面7aを湾曲させる加圧孔12が設けられている。コレット7の全体ではなく、コレット7の一部分を、空気Aを利用して集中的に加圧することでコレット7は撓み、支持面7aにおける湾曲面の形成が容易になる。なお、上記の実施形態では、空気Aを利用してコレット7を撓ませる形態を例示したが、コレット7を撓ませるために利用する流体は空気Aに限定されず、空気A以外の気体または水や油などの液体等であってもよい。
【0036】
また、バックボード8は、コレット7を加圧して湾曲面を形成し、湾曲面の頂点PeによってチップTbに凸部Prを形成している。チップTbに凸部Prを形成することで、応力の起点Spを形成し易くなる。
【0037】
また、部材間接合装置1は、コレット7をバックボード8に固定する複数の固定部9を備え、バックボード8の加圧孔12は、複数の固定部9を結んで形成される仮想の領域Arの内側に配置されている。仮想の領域Arの内側に加圧孔12を配置することで、チップTbの中心に近い位置に湾曲面の頂点Peが形成され、チップTbを介して基板Taに形成される応力の起点Spは固定部9よりも中心に近い位置となる。その結果、応力の起点Spから外方に向けて接合面Bsが偏りなく広がり易くなり、全面に亘って適切な接合を実現し易くなる。
【0038】
また、バックボード8は、コレット7に当接する平坦面8aを備えているので、コレット7が復元する際に、バックボード8の平坦面8aにガイドされ、コレット7の支持面7aが平坦面に戻り易くなる。
【0039】
次に、実施形態に係る接合部材製造方法について説明する。接合部材製造方法は、接合エネルギーを受けることで発揮される接合力によって部材間を接合して接合部材を形成する方法である。本実施形態に係る接合部材は、基板Ta(第1の部材)にチップTb(第2の部材)が積層され、直接接合等によって互いに接合された部材を意味する。なお、本実施形態において基板TaとチップTbとは基本的に積層するだけでクーロン力(接合エネルギー)の作用で互いに接合されるが、各種の直接接合等を実現するため、加圧したり、加熱したり、電圧を印加したりして、他の接合エネルギーを付与するようにしてもよい。
【0040】
第1実施形態に係る接合部材製造方法は、接合工程(部材接合方法)を備えている。接合工程は、ボンディングツール3でチップTbを保持する工程(第1の工程)、ボンディングツール3でチップTbを湾曲させる工程(第2の工程)、応力の起点Spを形成する工程(第3の工程)、チップTbと基板Taとの接触面の全面に応力を付与する工程(第4の工程)、及びチップTbからボンディングツール3を離脱させる工程(第5の工程)を備えている。以下、接合工程の各工程を詳しく説明する。
【0041】
図5は、第1の工程を示す図である。ツール移動手段4は、例えば、チップTbを保持したボンディングツール3を基板Ta上の所定位置まで搬送する。
図5に示されるように、本工程では、吸引手段5が駆動して吸引孔11には負圧が働き、チップTbは支持面7aに吸着されて保持されている。
【0042】
図6は、第2の工程を示す図である。
図6に示されるように、本工程では、加圧手段6を駆動し、加圧孔12内に空気Aを供給する。その結果、コレット7は中心付近が頂点Peになるように下方に向けて凸状に撓み、湾曲面が形成される。チップTbは、この湾曲面に追従するように湾曲し、中心付近が頂点Peになるように下方に向けて凸状に撓む。
【0043】
図7は、第3の工程を示す図である。
図7に示されるように、本工程においてツール移動手段4は、ボンディングツール3を降下させ、湾曲したチップTbの頂点Pe(一部分)を基板Taに最初に接触させる。ツール移動手段4は、チップTbの頂点Peを基板Taに接触させて部分的(局所的)な応力を付与することで応力の起点Spを形成する。その後、吸引手段5の駆動を停止させ、チップTb全体を基板Taに積層する。
【0044】
図8に示されるように、応力の起点Spにおいて基板TaとチップTbとの接合面Bsが形成されると、この接合面Bsは放射方向に伝播するように広がり、半ば自動的に基板TaとチップTbとの接触面の全面に接合面Bsが形成される。接合面Bsが広がる際に、ボイドVはチップTbの周縁Eに向けて押し出され、接合面Bs内のボイドVの残留も抑止され、適切な接合が可能になる。
【0045】
図9は、第4の工程を示す図である。
図9に示されるように、加圧手段6を駆動しながら、コレット7全体でチップTbを押し込み、チップTbと基板Taとの接触面の全面に対して応力を付与する。この押し込みにより、湾曲面を形成していた支持面7aは平坦面に戻り、チップTbが基板Taに接触する全面に対して均一な応力の付与を可能にする。上述の第3工程においても、チップTbと基板Taとの間に生じるボイドVを応力の起点SpからチップTbの周縁Eに向けて排出できるが、第4工程を実施することで、ボイドVの排出をより確実に実施することができる。
【0046】
図10は、第5の工程を示す図である。
図10に示されるように、本工程においては、加圧手段6の駆動を停止し、ボンディングツール3のコレット7をチップTbから離脱させる。
【0047】
他の実施形態(第2実施形態)に係る接合工程は、ボンディングツール3でチップTbを保持する工程(第1の工程)、ボンディングツール3でチップTbを基板Ta上に積層する工程(第2の工程)、チップTbを基板Ta上に積層した状態で中心部分に応力を付与する工程(第3の工程)、チップTbからボンディングツール3を離脱させる工程(第4の工程)、及びボンディングツール3のコレット7を復元させる工程(第6の工程)を備えている。以下、各工程を詳しく説明する。
【0048】
図11は、第1の工程を示す図である。
図11に示されるように、ボンディングツール3は、チップTbを保持した状態で基板Ta上の所定位置まで搬送される。この状態において、コレット7は湾曲しておらず、チップTbも湾曲していない。そして、この状態のままチップTbは基板Ta上に積層される(後述の第2の工程)。
【0049】
図12は、第2の工程を示す図である。
図12に示されるように、ボンディングツール3は、平坦な状態のチップTbを、そのまま基板Ta上に積層する。
【0050】
図13は、第3の工程を示す図である。
図13に示されるように、本工程において加圧手段6が駆動し、加圧孔12に供給される空気Aによってコレット7の中央部分は部分的に加圧される。この加圧により、コレット7の中央部分は、チップTbを加圧し、チップTbの中央付近は、更に基板Taを部分的に加圧して応力の起点Spを形成する。コレット7を介してチップTb及び基板Taにかかる加圧力は、応力の起点Spに対応する中央付近の方が、チップTbの周縁E付近に比べて大きい。この加圧力の差により、チップTbと基板Taとの間に生じるボイドVの少なくとも一部は、応力の起点SpからチップTbの周縁Eに向けて排出され易くなる。
【0051】
図14は、第4の工程を示す図である。
図14に示されるように、本工程においては、加圧手段6を駆動したまま、ボンディングツール3のコレット7をチップTbから離脱させる。応力の起点Spが形成された中央部分に対応するコレット7の中央部分が最後となるようにチップTbから離脱させることで、ボンディングツール3とチップTbが容易に分離できる。
【0052】
図15は、第5の工程を示す図である。
図15に示されるように、本工程においては、加圧手段6を停止し、コレット7の湾曲を復元させ、支持面7aを平坦面に戻す。
【0053】
以上の通り、各実施形態に係る接合部材製造方法では、チップTbを基板Taに積層して接合する際に、チップTbにより、基板Taに対して部分的に応力を付与して応力の起点Spを形成している。応力の起点Spを形成することにより、基板TaとチップTbとの接合面Bsが適切に接合され易くなる。
【0054】
また、上記の各実施形態に係る接合部材製造方法では、基板TaとチップTbとの間に生じるボイドVを応力の起点SpからチップTbの周縁Eに向けて排出しており、ボイドVを排出することにより、適切な接合が可能になる。
【0055】
上記の第1の実施形態に係る接合工程を備えた接合部材製造方法では、チップTbを基板Taに積層する際に、チップTbが基板Taに最初に接触する部分、つまり湾曲面の頂点Peによって応力の起点Spを形成している。さらに、この接合工程では、応力の起点Spを形成した後で、チップTbと基板Taとの接触面の全面に対して、チップTbによって応力を付与している。チップTbを基板Taに積層する際、最初に応力の起点Spを形成することにより、接合面Bsが伝播するような広がりを形成し易くなり、更に、チップTbによって接触面の全面に応力を付与することにより、適切な接合面Bsを形成し易くなる。
【0056】
上記の第2の実施形態に係る接合工程を備えた接合部材製造方法では、チップTbを基板Taに積層した後で、チップTbを部分的に加圧して応力の起点Spを形成している。チップTbを基板Taに積層した後であっても、応力の起点Spを形成することによりボイドVを排出し易くなり、適切な接合面Bsの形成に有効である。
【0057】
上記の各実施形態ではコレット7(支持部)が移動して台座部2に接近及び離間可能な形態を説明したが、支持部は、台座部に対して相対的に接近及び離間可能であればよく、従って、台座部が移動して支持部に接近及び離間可能な態様であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…部材間接合装置、Ta…基板(一方の部材)、Tb…チップ(他方の部材)、2…台座部、7…コレット(支持部)、7a…支持面、8…バックボード(取付部)、12…加圧孔(加圧部)、Pe…湾曲面の頂点、Pr…チップの凸部、9…固定部、Ar…仮想の領域、8a…平坦面、Sp…応力の起点、V…ボイド、E…チップの周縁、