(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】緩衝材
(51)【国際特許分類】
E04F 15/18 20060101AFI20240613BHJP
E04F 15/10 20060101ALI20240613BHJP
G01N 3/303 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
E04F15/18 602E
E04F15/10 101
G01N3/303 D
(21)【出願番号】P 2020089112
(22)【出願日】2020-05-21
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 麻美子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 安海
(72)【発明者】
【氏名】福岡 達也
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-071225(JP,A)
【文献】特開2018-060232(JP,A)
【文献】特開2013-147530(JP,A)
【文献】特開2017-128861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/18
E04F 15/10
G01N 3/303
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床材と同一材料の評価材上に衝撃付与体を落下させることにより、前記床材上で人が転倒したときの前記人の大腿骨に加わる衝撃荷重を模擬的に測定する際に、前記評価材と前記衝撃付与体との間に配設される緩衝材であって、
超軟質造形用ウレタン樹脂からな
り、
25℃における測定周波数1Hzでの複素弾性率E
*
が0.05MPa以上0.8MPa以下であると共に動的粘弾性tanδが0.1以上0.7以下であり、
5J以上50J以下の衝撃エネルギーを加えられたときに生じる衝撃荷重を3回繰り返し求めて得られる標準偏差が100.0以下となるものである
ことを特徴とする緩衝材。
【請求項2】
アスカーC硬度が0超16未満である
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝材。
【請求項3】
厚さが12mm以上50mm以下である
ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の緩衝材。
【請求項4】
3.5kg以上6.0kg以下の質量の前記衝撃付与体を0.3m以上0.7m以下の高さから落下されたときに生じる衝撃荷重が3500N以上10000N以下となるものである
ことを特徴とする請求項1から
3のいずれか一項に記載の緩衝材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃を緩和する緩衝材に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高齢者の転倒骨折が社会問題化しており、高齢者が要介護となる要因の10%は転倒骨折が占めている。また、医療事故においても、転倒骨折が20~25%を占めている。転倒による骨折箇所は、年代によって大きく異なり、60歳代以降になると大腿骨骨折のリスクが急増している。
【0003】
大腿骨骨折は、入院治療が必要となり、歩行できない状態が長期間続くため、骨量が減少して、症状が深刻化し易く、要介護状態を招き易くなっている。また、幼稚園、保育園、認定こども園等の幼児保育関連施設においても、転倒骨折による事故は、全体の2割強を占めている。そのため、例えば、下記特許文献1,2においては、転倒したときの衝撃を吸収することにより、骨折のリスクを低減させる床材を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3600726号公報
【文献】特許第5244927号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】西尾康宏 等, 実験力学, 第16巻, 第4号, 第307-314頁, 2016年
【文献】S. N. Robinovitch et al., Journal of Biomechanical Engineering, vol.113, pp.366-374, Nov. 1991
【文献】“Reducing hip fracture risk during sideways falls : Evidence in young adults of the protective effects of impact to the hands and stepping”, Journal of Biomechanics, vol.40, pp.2612-2618, 2007
【文献】M. Masuzawa et al., “Engineering Aspects of Human Skull Fracture”, Neurologia medico-chirurgica, vol.11, pp.46-65, 1971
【文献】Amy C. Courtney et al., The Journal of Bone and Joint Surgery, vol.77-A, No.3, pp.387-395, Mar. 1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1,2等に記載されている床材においては、日本工業規格「JIS A 6519」で規定されている床の硬さ試験に基づいて性能が評価されている。この試験は、床材と同一材料の評価材の上に頭皮や頭骨の硬度に相当するゴム板(ショアA硬度37)を緩衝材として載せて、緩衝材を介して評価材に衝撃を加えることにより、「G値」を求めている。
【0007】
このようにして行われている上述した試験は、頭部障害評価を転用していることから、大腿骨骨折に対するリスクを高精度で評価できると言い難いものであった。そのため、床材上で使用者が転倒したときに使用者の大腿骨に加わる衝撃荷重の模擬的な測定を高精度に実施できるようにすることが強く求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するための本発明は、床材と同一材料の評価材上に衝撃付与体を落下させることにより、前記床材上で人が転倒したときの前記人の大腿骨に加わる衝撃荷重を模擬的に測定する際に、前記評価材と前記衝撃付与体との間に配設される緩衝材であって、超軟質造形用ウレタン樹脂からなり、25℃における測定周波数1Hzでの複素弾性率E
*
が0.05MPa以上0.8MPa以下であると共に動的粘弾性tanδが0.1以上0.7以下であり、5J以上50J以下の衝撃エネルギーを加えられたときに生じる衝撃荷重を3回繰り返し求めて得られる標準偏差が100.0以下となるものであることを特徴とする緩衝材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る緩衝材によれば、超軟質造形用ウレタン樹脂からなるので、床材上で使用者が転倒したときに使用者の大腿骨に加わる衝撃荷重の模擬的な測定を高精度に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る緩衝材を使用する床材衝撃荷重測定装置の主な実施形態の概略構成図である。
【
図2】本発明に係る緩衝材を使用する床材衝撃荷重測定装置の他の実施形態の概略構成図である。
【
図3】本発明に係る緩衝材を使用する床材衝撃荷重測定装置の更なる他の実施形態の概略構成図である。
【
図4】本発明に係る緩衝材を使用する床材衝撃荷重測定装置の更に他の実施形態の概略構成図である。
【
図5】本発明に係る緩衝材を使用する床材衝撃荷重測定装置の衝撃付与体の他の実施形態の概略構成図である。
【
図6】本発明に係る緩衝材を使用する床材衝撃荷重測定装置の衝撃付与体の更なる他の実施形態の概略構成図である。
【
図7】本発明に係る緩衝材の実施形態における厚さごとの衝撃エネルギーと衝撃荷重との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る緩衝材の実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明は図面に基づいて説明する以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0012】
〈主な実施形態〉
本発明に係る緩衝材の主な実施形態を
図1に基づいて説明する。
【0013】
まず、本発明に係る緩衝材を使用する本実施形態に係る床材衝撃荷重測定装置を
図1に基づいて説明する。
【0014】
図1に示すように、衝撃荷重測定装置2は、床FLに設置されたコンクリートやステンレス等のような剛直な材料からなる測定台5と、測定台5上に配置された錘落下部6と、荷重測定部7とを備えている。測定台5上には、荷重測定部7のロードセル8が配置され、床材と同一材料からなる評価材9がロードセル8上に載置されると共に、本実施形態に係る緩衝材10が評価材9上に載置される。ロードセル8は、衝撃付与体である錘11が落下したときの衝撃荷重が入力され、その情報を衝撃荷重算出装置12に出力する。
【0015】
錘落下部6は、測定台5から立ち上がる支柱13と、支柱13の上部に直交して水平方向に延在する腕部14と、支柱13に対する腕部14の高さを変化させるダイヤルなどの高さ調整部15と、を備えている。腕部14の先端側の下部には電磁石16が配置されており、電磁石ON・OFF装置17のON操作を行うと、加速度計18を設けた錘11が電磁石16に吸引され、電磁石ON・OFF装置17のOFF操作を行うと、錘11が加速度計18と共に電磁石16から切り離され、錘11が加速度計18と共に緩衝材10上に落下するようになっている。
【0016】
加速度計18は、その情報を衝撃エネルギー・変位量算出装置19に出力する。衝撃エネルギー・変位量算出装置19は、加速度計18からの情報等に基づき、錘11の衝突により生じた衝撃エネルギーSEを算出すると共に、評価材9の変位量(変形量)Dを算出する。なお、本実施形態では、錘落下部6及び電磁石16及び電磁石ON・OFF装置17が、錘保持落下部に対応している。
【0017】
また、錘11は、緩衝材10と接触して打撃を与える下方面の打撃部11aが、大腿骨の転子部の形状を模して、曲率半径R60mm以上180mm以下(好ましくは90mm以上160mm以下)の曲面をなしており、全体として球形状となっている。
【0018】
そして、本実施形態に係る緩衝材10は、評価材9上に錘11を落下させることにより、床材上で人が転倒したときの人の大腿骨に加わる衝撃荷重を模擬的に測定する際に、評価材9上に載せて使用するものであって、超軟質造形用ウレタン樹脂(例えば、株式会社エクシール製「人肌のゲル」(商品名)等)からなっており、人体軟組織を模した材料となっている。
【0019】
ところで、例えば頭部衝撃を計測するG値測定では、疑似頭皮として、無発泡の天然ゴムが使用され、精密性を求められるときに15倍発泡の発泡スチロールが使用されている。また、頭部以外の場合には、天然ゴムの発泡体であるセルスポンジや豚等の動物軟組織を使用するケースが多い。
【0020】
しかしながら、これらの材料は、衝撃荷重測定装置2での測定にあたって適用できる条件域が狭く、様々な条件に基づく転倒による衝撃荷重の測定用の緩衝材として汎用性に欠けてしまう。すなわち、具体的に変形速度に対する線形性や応力波等の影響を受けるため、条件によっては測定が安定しないのである。そして、豚等の動物軟組織は、人体軟組織に近似した挙動をするものの、個体差や鮮度の影響が大きく、材料としてのバラつきが大きくなってしまうため、再現性のある安定した測定を行うことが困難である。
【0021】
これに対し、超軟質造形用ウレタン樹脂は、材料としてのバラつきがないのはもちろんのこと、人体軟組織に近似した挙動をすることから、衝撃荷重測定装置2での測定にあたって適用できる条件域が広く、様々な条件に基づく転倒による衝撃荷重の測定用の緩衝材として汎用性に優れるため、非常に好適なものとなる。
【0022】
また、緩衝材10の材料は、大腿骨転子部周辺(臀部)の人体軟組織の硬さや弾性等を勘案して、アスカーC硬度(日本工業規格「JIS K 7312」に準拠)が0超16未満(好適には5以上10以下)であり、25℃における測定周波数1Hzでの複素弾性率E*が0.05MPa以上0.8MPa以下(好適には0.1MPa以上0.6MPa以下)であると共に動的粘弾性tanδ(前記非特許文献1に準拠)が0.1以上0.7以下(好適には0.2以上0.5以下)であると非常に好ましい。
【0023】
さらに、緩衝材10は、高齢者(65歳以上)の大腿骨転子部周辺(臀部)の人体軟組織の厚さを勘案して、厚さが12mm以上50mm以下(好適には12mm以上35mm以下)であると非常に好ましい。
【0024】
続いて、上述した衝撃荷重測定装置2を使用した衝撃荷重F及び変位量Dの測定方法を説明する。
【0025】
まず、衝撃荷重測定装置2の錘落下部6の腕部14が錘11の落下高さSh(0.3m≦Sh≦0.7m)となるように高さ調整部15を操作すると共に、錘11(加速度計18と合わせて質量Sw:3.5kg≦Sw≦6.0kg)を用意し、電磁石ON・OFF装置17のON操作を行うことで、腕部14に配置した電磁石16に加速度計18と共に錘11を吸引させておき、測定台5にロードセル8を載置し、ロードセル8上に厚さKa(12mm≦Ka≦50mm),硬さ(アスカーC硬度)Kb(0<Kb<16)の緩衝材10を載置する。
【0026】
なお、錘11(衝撃付与体)の落下高さShは、人の転倒速度(約2.5~3.5m/s程度:前記非特許文献3参照)に基づいて、その範囲が設定される値である。また、加速度計18と合わせた錘11の質量、すなわち、衝撃付与体の質量Swは、衝撃荷重Fsの基準値(例えば6500N)及び上記落下高さShに基づいて、その範囲が設定される値である。
【0027】
次に、電磁石ON・OFF装置17のOFF操作を行うことで、電磁石16から切り離した錘11及び加速度計18を緩衝材10上に落下させると、衝撃荷重算出装置12が、ロードセル8からの衝撃荷重値に基づいて、基準となる衝撃荷重Fsを求める一方、衝撃エネルギー・変位量算出装置19が、加速度計18からの情報に基づいて、錘11の衝突により生じた緩衝材10の変位量(変形量)D1を算出すると共に、加速度計18からの情報及び前記質量Sw,前記落下高さSh等に基づいて、衝撃エネルギーSEを求める。
【0028】
そして、前記衝撃荷重Fsが3500N以上10000N以下(好適には5000N以上8000N以下)となる基準値(例えば6500N)になると共に前記衝撃エネルギーSEが5J以上50J以下(好適には10J以上40J以下)となる基準値(例えば28.4J)になった場合には、錘11の落下高さShや質量Sw,緩衝材10の厚さKaや硬さKb等の条件をそのままの状態で設定する。
【0029】
他方、前記衝撃荷重Fsや前記衝撃エネルギーSEが前記基準値とならない場合には、前記衝撃荷重Fsや前記衝撃エネルギーSEが前記基準値となるように前記条件を上述した範囲内で適宜調整することにより、衝撃荷重測定装置2の前記衝撃荷重Fsや前記衝撃エネルギーSEを前記基準値に設定する。
【0030】
ここで、前記衝撃荷重Fsは、立位から転倒したときに人の大腿骨転子部に人体軟組織を介して加わる衝撃力が、筋弛緩状態で約5600N程度、緊張状態で約8600N程度であることから(前記非特許文献2参照)、その範囲が3500N以上10000N以下(好適には5000N以上8000N以下)に設定される値である。
【0031】
つまり、緩衝材10は、3.5kg以上6.0kg以下の質量Swの前記衝撃付与体を0.3m以上0.7m以下の高さShから落下されたときに生じる前記衝撃荷重Fsが3500N以上10000N以下の範囲となるように緩衝するものなのである。
【0032】
なお、前記衝撃エネルギーSEは、前記衝撃荷重Fsの値及び緩衝材10の上述した条件等によって予め算出することができ、その範囲が5J以上50J以下(好適には10J以上40J以下)に設定される値である。
【0033】
このようにして衝撃荷重測定装置2の前記衝撃荷重Fs及び前記衝撃エネルギーSEを上記基準値に設定したら、ロードセル8と緩衝材10との間に評価材9を載置した後、改めて、電磁石ON・OFF装置17のOFF操作を行うことで、電磁石16から切り離した錘11を加速度計18と共に緩衝材10上に落下させる。
【0034】
これにより、衝撃荷重算出装置12が、ロードセル8からの衝撃荷重値に基づいて、模擬による衝撃荷重Fを求める。また、衝撃エネルギー・変位量算出装置19が、加速度計18からの情報に基づいて、錘11の衝突により生じた緩衝材10と評価材9とを合わせた変位量(変形量)D2を算出し、先に求めた緩衝材10の変位量(変形量)D1との差分(D2-D1)を算出することにより、評価材9の変位量(変形量)Dを算出する。そして、前記衝撃荷重F及び前記変位量(変形量)Dに基づいて、床材の性能を評価する。
【0035】
このような本実施形態に係る緩衝材10においては、材料としてのバラつきがないのはもちろんのこと、人体軟組織に近似した挙動をすることから、衝撃荷重測定装置2での測定にあたって適用できる条件域が広く、様々な条件に基づく転倒による衝撃荷重の測定に優れた汎用性を発現することができる。
【0036】
したがって、本実施形態に係る緩衝材10によれば、床材上で使用者が転倒したときに使用者の大腿骨に加わる衝撃荷重の模擬的な測定を高精度に実施することができる。
【0037】
また、5J以上50J以下の衝撃エネルギーSEを加えられたときに生じる衝撃荷重Fを3回繰り返し求めて得られる標準偏差が100.0以下となるものであると、底付(衝撃荷重により潰れて緩衝効果がなくなる現象)や破損等を生じ難くすることができるので、繰り返し使用することができ、非常に好ましくなる。
【0038】
〈他の実施形態〉
《衝撃荷重測定装置》
なお、前述した実施形態においては、
図1に示したような衝撃荷重測定装置2に緩衝材10を使用して模擬による衝撃荷重F等を測定する場合について説明したが、本発明は、これに限らず、他の実施形態として、例えば、
図2~4に示すような衝撃荷重測定装置に緩衝材10を使用して衝撃荷重Fを測定することも可能である。
【0039】
具体的には、
図2に示されている衝撃荷重測定装置30は、測定台5上に評価材9が載置され、評価材9上に緩衝材10が載置される。錘11及び加速度計18並びにロードセル8が一体化されて衝撃付与体を構成し、錘11及び加速度計18並びにロードセル8を合わせて質量Swとなっている。そして、電磁石ON・OFF装置17のON操作を行うと、錘11が加速度計18及びロードセル8と共に電磁石16に吸引保持される。
【0040】
なお、錘11は、緩衝材10と接触して打撃を与える下方面の打撃部11aのみが、大腿骨の転子部の形状を模して、曲率半径R60mm以上180mm以下(好ましくは90mm以上160mm以下)の曲面をなしており、全体として円柱状となっている。
【0041】
このような衝撃荷重測定装置30においては、前述した実施形態の場合と同様に、電磁石ON・OFF装置17のOFF操作を行うことで、電磁石16から錘11を加速度計18及びロードセル8と共に切り離し、緩衝材10上に落下させることができる。
【0042】
また、
図3に示されている衝撃荷重測定装置31は、測定台5上に評価材9が載置され、評価材9上に緩衝材10が載置される。そして、錘落下部6は、腕部14が高さ調整部15を中心として下方向にスウィング可能な構造となっている。また、腕部14の先端には、加速度計18及びロードセル8が固定されて、さらに錘11が固定されている。なお、本実施形態では、錘落下部6が錘保持落下部に対応し、高さ調整部15が回転部に対応し、錘11,加速度計18,ロードセル8,腕部14が衝撃付与体に対応している。
【0043】
このような衝撃荷重測定装置31においては、衝撃荷重測定装置31の高さ調整部15を操作することにより、錘落下部6の腕部14が錘11の落下高さShとなるように調整する。そして、高さ調整部15を緩めて腕部14が下方向にスウィングすることで、錘11を緩衝材10上に落下させることができる。
【0044】
また、
図4に示されている衝撃荷重測定装置32は、既設の床FLに敷設される床材が評価材9となっている。この衝撃荷重測定装置32の錘落下部6も、腕部14が高さ調整部15を中心として下方向にスウィング可能な構造となっている。そして、腕部14の先端には加速度計18及びロードセル8が固定されて、さらに錘11が固定されると共に、錘11の下部を覆うように緩衝材10が配置される。なお、本実施形態では、錘11,加速度計18,ロードセル8,腕部14,緩衝材10が衝撃付与体に対応している。
【0045】
このような衝撃荷重測定装置32においては、衝撃荷重測定装置31の高さ調整部15を操作することにより、錘落下部6の腕部14が錘11の落下高さShとなるように調整する。そして、高さ調整部15を緩めて腕部14が下方向にスウィングすることで、床FLに敷設されている評価材9へ向けて緩衝材10を介して錘11を落下させることができる。
【0046】
《衝撃付与体》
また、前述した実施形態においては、緩衝材10と接触して打撃を与える下方面の打撃部11aが、大腿骨の転子部の形状を模すように、曲率半径R60mm以上180mm以下(好ましくは90mm以上160mm以下)の曲面をなす球形状又は円柱状の錘11を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らない。
【0047】
他の実施形態として、例えば、
図5に示すように、緩衝材10と接触して打撃を与える下方面の打撃部11aの一方向(長さ方向)の曲率半径R1(例えば175mm)と、当該一方向と直交する他方向(幅方向)の曲率半径R2(例えば65mm)とをそれぞれ別に設定することにより、当該打撃部11aを大腿骨の転子部の形状に三次元的に更に近似させた錘11とすると、より好ましい。
【0048】
また、前述した実施形態では、錘11に打撃部11aを一体的に設けた衝撃付与体の場合について説明したが、本発明はこれに限らない。他の実施形態として、例えば、
図6に示すように、重量のある本体部11bと、打撃を付与する打撃部11aとに錘11を分けて、本体部11bと打撃部11aとの間にロードセル8や加速度計18等を介装するようにした衝撃付与体とすることも可能である。
【0049】
《荷重計測部》
また、前述した実施形態においては、ロードセル8を利用することにより、衝撃荷重を直接的に計測するようにしたが、本発明はこれに限らない。他の実施形態として、例えば、ロードセル8に代えて、加速度計18で計測された加速度等に基づいて、衝撃荷重を求めるようにすることも可能である。
【実施例】
【0050】
本発明に係る緩衝材の効果を確認するために行った実施例を以下に説明するが、本発明は以下に説明する実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
〈試験体及び比較体〉
下記の表1に示す緩衝材の試験体11及び比較体11~13を用意した。
【0052】
【0053】
ただし、試験体11の超軟質造形用ウレタン樹脂には、株式会社エクシール製「人肌のゲル」(商品名)を用いた。比較体11には、科学捜査における骨折評価に使用されるセルスポンジを用いた。比較体12には、頭蓋骨骨折の骨折リスク評価に使用される発泡スチロールを用いた(前記非特許文献4参照)。比較体13には、日本工業規格「JIS A 6519」の「床の硬さ試験」にて疑似頭皮として緩衝材に使用されるゴム板を用いた。
【0054】
〈試験内容〉
上記試験体11及び上記比較体11~13におけるアスカーC硬度,動的粘弾性tanδ,複素弾性率E*をそれぞれ求めた。なお、アスカーC硬度は、株式会社テクロック製のデュロメータ「GS-701N」(型番)を使用して測定した。また、動的粘弾性tanδ,複素弾性率E*は、株式会社パーキンエルマー製の動的粘弾性測定装置「DMA8000」(型番)を使用して、25℃における測定周波数1Hzでの圧縮モードによって測定した。
【0055】
さらに、基本的には先に説明した衝撃荷重測定装置2を利用し、試験体11,比較体11~13を測定台5上に載置して錘11を落下させることにより衝撃荷重Fsを計測し、これを3回それぞれ繰り返し行って、平均値及び標準偏差(SD)を各々算出することにより、繰り返し使用の可否の確認を行った。
【0056】
ただし、前述した衝撃荷重測定装置2において、錘11を、
図6に示したような、重量のある本体部11bと、打撃を付与する打撃部11aとに分けたものとし、本体部11bと打撃部11aとの間に加速度計18を介装することにより、衝撃付与体を構成した。
【0057】
《装置仕様》
・ロードセル/株式会社東京測器研究所製「TCLU-5A」(型番)
・加速度計/昭和測器株式会社製 デジタル衝撃・振動加速度計「1340B」(型番)
・測定台/定盤 サイズ:750mm×1000mm×125mm 重量:185kg
・錘本体部/材質:ステンレス
・錘打撃部/材質:ステンレス削り出し 曲率半径R:100mm
・衝撃付与体/質量Sw:3.85kg(加速度計含む)
【0058】
《測定条件》
・落下高さSh:20cm
・衝撃エネルギーSE:7.55J
【0059】
〈試験結果〉
上述した試験の結果を下記の表2に示す。
【0060】
【0061】
表2からわかるように、比較体11(セルスポンジ)及び比較体12(発泡スチロール)は、衝撃荷重測定を3回繰り返して行ったところ、衝撃荷重値が大きく増加してしまい、繰り返し使用できるものではなかった。特に、比較体11(セルスポンジ)は、衝撃に弱く、比較的小さい衝撃エネルギーであっても、底付を生じてしまい、他よりも衝撃荷重値がかなり大きくなってしまった。また、比較体13(ゴム板)は、頭皮を模していることから、衝撃吸収能が大きくなく、比較的小さい衝撃エネルギーでも、衝撃荷重値が比較的大きくなってしまった。
【0062】
これに対し、試験体11(超軟質造形用ウレタン樹脂)は、衝撃荷重測定を3回繰り返し行っても、衝撃荷重値が大きくないないだけでなくほとんど変わらず、繰り返し使用可能であることが確認できた。
【0063】
[実施例2]
〈試験体〉
超軟質造形用ウレタン樹脂からなる下記の表3に示す厚さの緩衝材の試験体21~25を用意した。
【0064】
【0065】
ただし、試験体21~25の超軟質造形用ウレタン樹脂には、株式会社エクシール製「人肌のゲル」(商品名)を用いた。
【0066】
〈試験内容〉
前述した実施例1で用いた衝撃荷重測定装置2を使用し、試験体21~25を測定台5上に載置して試験体21~25に錘11を落下させることにより、衝撃エネルギーSEと衝撃荷重Fsとの関係を求めた。
【0067】
【0068】
図7からわかるように、試験体21(10mm)は、厚さが薄過ぎて、衝撃エネルギーが比較的小さくても、底付を生じて衝撃荷重値が大きくなり過ぎてしまう。他方、試験体25(40mm)は、厚さが比較的厚く、衝撃エネルギーが比較的大きくても、衝撃荷重値が比較的小さくなる。
【0069】
これらのことから、衝撃エネルギーSE(5J以上50J以下、好適には10J以上40J以下)の大きさに応じて、適切な範囲の衝撃荷重Fs(3500N以上10000N以下、好適には5000N以上8000N以下)となるように、緩衝材の厚さを選定できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る緩衝材は、床材上で使用者が転倒したときに使用者の大腿骨に加わる衝撃荷重の模擬的な測定を高精度に実施することができるので、産業上、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
2,30~32 衝撃荷重測定装置
5 測定台
6 錘落下部
7 荷重測定部
8 ロードセル
9 評価材
10 緩衝材
11 錘
11a 打撃部
11b 本体部
12 衝撃荷重算出装置
13 支柱
14 腕部
15 高さ調整部
16 電磁石
17 電磁石ON・OFF装置
18 加速度計
19 衝撃エネルギー・変位量算出装置