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特許7503286複合凝集剤及びこれを用いた排水処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】複合凝集剤及びこれを用いた排水処理システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/01 20060101AFI20240613BHJP
   C02F 1/52 20230101ALI20240613BHJP
   C02F 1/56 20230101ALI20240613BHJP
【FI】
B01D21/01 110
B01D21/01 101A
C02F1/52 K
C02F1/52 Z
C02F1/56 K
C02F1/56 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018161430
(22)【出願日】2018-08-30
(65)【公開番号】P2019098321
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2021-08-23
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2017229870
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517418965
【氏名又は名称】株式会社セルロンジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100100011
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 省三
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕之
(72)【発明者】
【氏名】押田 豊
【合議体】
【審判長】日比野 隆治
【審判官】金 公彦
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-109488(JP,A)
【文献】特開昭49-116856(JP,A)
【文献】特開2005-21783(JP,A)
【文献】国際公開第2009/054063(WO,A1)
【文献】特開2003-88900(JP,A)
【文献】特開2013-94720(JP,A)
【文献】特開2013-180213(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017613(WO,A1)
【文献】特開2015-24409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/01
C02F 1/52-1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
籾殻又は杉チップを賦活処理を経ないで生成された炭化物凝集剤及び両性高分子よりなる両性水溶性高分子凝集剤を含有し、無機凝集剤を含まない複合凝集剤。
【請求項2】
前記炭化物凝集剤は、前記籾殻又は前記杉チップを外熱炭化して直径250μm以下に微細化したものである、請求項1に記載の複合凝集剤。
【請求項3】
前記両性水溶性高分子凝集剤は、両性セルロースナノファイバ、両性セルロースナノクリスタル、両性キチンナノファイバ、両性キチンナノクリスタル、両性キトサンナノファイバ、両性キトサンナノクリスタルのうち少なくても1つである請求項1に記載の複合凝集剤。
【請求項4】
請求項1に記載の複合凝集剤を対象水に加え、マイクロバブル、ウルトラファインバブルまたはマイクロバブル・ウルトラファインバブルを発生するためのバブル発生槽と、
前記バブル発生槽より排出された処理対象水に対して凝集を行うための凝集槽と
を具備する排水処理システム。
【請求項5】
マイクロバブル、ウルトラファインバブルまたはマイクロバブル・ウルトラファインバブルを発生するためのバブル発生槽と、
前記バブル発生槽から排出された対象水に、請求項1に記載の複合凝集剤を加えて凝集を行う凝集槽と
を具備する排水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合凝集剤及びこれを用いた排水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、下水、家畜排泄物等の高含水率原料バイオマスを含む排水を処理する排水処理システムにおいては、好気性処理工程が含まれる。また、凝集剤を添加する凝集工程が処理工程の前又は後に設けられる。尚、好気性処理工程の前に凝集工程を設けると、好気性処理工程のエネルギー負荷を低減できる。
【0003】
通常、凝集剤はポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、ポリ硫酸第二鉄等の無機凝集剤に少量の水溶性高分子凝集剤を加えた複合凝集剤である。しかしながら、無機凝集剤は、環境に排出されると有害であるので、無害な凝集剤が望まれている。この場合、炭酸ガス削減に貢献する炭化物やバイオマス由来の素材を利用することが望ましい。
【0004】
第1の従来の凝集剤は賦活処理で生成された単一の活性炭化物凝集剤である(参照:特許文献1)。
【0005】
第2の従来の凝集剤は賦活処理を経ないで生成された単一の炭化物凝集剤である(参照:特許文献2)。炭化物凝集剤は活性炭化物凝集剤に比較して低製造コストである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-75809号公報
【文献】国際公開WO2015/019382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の単一の活性炭化物凝集剤の凝集効果は弱い。すなわち、特許文献1の段落0028には次の記載がある。
「本発明の効果を確認するために、SS(浮遊物質)について以下のような実験を行った。内径5.8cm、高さ120cmの塩化ビニール製の沈降筒を2基作成した。この沈降筒の上部から50cmと100cmの位置(採水点)に採水コックを取り付けた。なお、対象水の固形物濃度が高々300mg/l程度であることから、壁面効果は配慮する必要はない。汚水として、K処理場(2試料)及びT処理場(3試料)で採水した計5試料の流入下水を用いた。これらの試料を沈降筒に一定量(2L、高さ約97cm)投入し、活性炭化物を投入して上下撹拌し、静置した時点から沈降開始として計測した。各採水点では、一定時間毎に40mlを採取して、下水試験法に準拠したSSの分析を行った。その結果、SSの除去率は60~80%であることが確認された。」
【0008】
従って、従来の単一の活性炭化物凝集剤の凝集効果は少数の活性炭化物の凝結に伴って発生するゆっくりした沈降による凝集効果であり、多数の活性炭化物による大きなフロックを形成した大きな沈降速度を有する凝集効果はなく、凝集効果は弱いという課題がある。
【0009】
<実験例1>
茨城県筑西市明野地区に設置されている農業集落排水処理施設の最終沈殿池から排出される濃縮汚泥を5倍に希釈した試料(CODパックテストにより、CODは120~200ppmの範囲の値)400mlと炭化物(製造元:石川県金沢市明和工業株式会社、原料:籾殻、炭化温度800℃、粒径:250-600μm(乳鉢で粉体化し、ステンレス篩で分級))0.08gを500mlビーカに加え、700rpmで5分撹拌した。ビーカ内に凝集は観測されなかった。その後、試料300mlを300mlメスシリンダに移した。撹拌を終了してメスシリンダに移した撹拌終了時点とその後8分30秒経過した時点におけるメスシリンダ内の凝集状態を図3の(A)、(B)に示す。
【0010】
従って、上述の実験例1によれば、従来の単一の炭化物凝集剤の凝集効果は少数の炭化物の凝結に伴って発生するゆっくりした沈降による凝集効果であり、多数の炭化物による大きなフロックを形成した大きな沈降速度を有する凝集効果はなく、凝集効果は弱いという課題がある。
【0011】
<実験例2>
神奈川県神奈川水再生センターで採取した最初沈殿池流入水190ccを2つの200ccビーカに取り、それぞれ明和工業(株)製の(株)IHIシバウラ(ISM)非常用浄水装置(IHI技報、Vol.51、No.4、107 (2011))に使用される単一の活性炭凝集剤(直径250μm以下)、単一の炭化物凝集剤(炭)(800℃、籾殻、直径250μm以下)を0.03g加え、スパチェラーで撹拌し、その後、300mlメスシリンダに移した後、静置し、26分後に状態を撮影した。図4の(A)は従来の単一の活性炭凝集剤の状態、図4の(B)は従来の単一の炭化物凝集剤(炭)の状態を示す。両者とも凝集現象は起こらなく、沈降速度に差はなかった。活性炭、炭の濃度はともに約150ppmだった。
【0012】
従って、上述の実験例2によれば、上述の従来の単一の活性炭化物凝集剤及び従来の単一の炭化物凝集剤は大きなフロックを形成した大きな沈降速度を有する凝集効果はなく、凝集効果が弱いことが確認できた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題を解決するために、本発明に係る複合凝集剤は籾殻又は杉チップを賦活処理を経ないで生成された炭化物凝集剤及び両性高分子よりなる両性水溶性高分子凝集剤を含有し、無機凝集剤を含まないものである。
【0014】
また、本発明に係る排水処理システムは、上述の複合凝集剤を対象水に加え、マイクロバブル、ナノバブルまたはマイクロバブル・ナノバブルを発生するためのバブル発生槽と、バブル発生槽より排出された対象水に対して凝集を行うための凝集槽とを具備するものである。尚、複合凝集剤は、バブル発生槽ではなく、凝集槽に添加してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水溶性高分子凝集剤は炭化物凝集剤の定着剤として作用し、炭化物凝集剤はより大きなフロックを形成するものと考えられる。この結果、大きなフロックが大きな沈降速度を有するので、強い凝集効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る複合凝集剤を用いた排水処理システムの第1の実施の形態を示すブロック図である。
図2】本発明に係る複合凝集剤を用いた排水処理システムの第2の実施の形態を示すブロック図である。
図3】従来の単一の炭化物凝集剤の凝集状態を示す写真であって、(A)は撹拌終了時点の状態、(B)は8分30秒経過時点の状態を示す。
図4】撹拌終了後20分経過時点の凝集状態を示す写真であって、(A)は従来の単一の活性炭化物凝集剤の状態、(B)は従来の単一の炭化物凝集剤(炭)の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る複合凝集剤の第1の実施例を説明する。
【0018】
<環境>
室温:24℃
<炭化物凝集剤>
炭化物凝集剤A、B、C、Dとして明和工業株式会社製(石川県金沢市)炭化炉で生成した炭を準備した。
炭化物凝集剤A:籾殻を800℃で外熱炭化し、ステンレス篩分級により直径250μm以下に微細化したもの
炭化物凝集剤B:籾殻を400℃で外熱炭化し、ステンレス篩分級により直径250μm以下に微細化したもの
炭化物凝集剤C:杉チップを800℃で外熱炭化し、ステンレス篩分級により直径250μm以下に微細化したもの
炭化物凝集剤D:杉チップを400℃で外熱炭化し、ステンレス篩分級により直径250μm以下に微細化したもの
<水溶性高分子凝集剤>
水溶性高分子凝集剤としてアムコン株式会社、両性高分子HB-3045(アムコン製両性高分子HB-8045(40%エマルジョン)の先行品番)を準備した。
<対象水>
神奈川水再生センターの最初沈殿池流入水を準備した。
<実施条件>
上述の各炭化物凝集剤A、B、C、D及び水溶性高分子凝集剤に対して以下のように実験条件を設定して実験を行った。
対象水の量:300cc
撹拌回転速度:500rpm(10分から終了時まで200rpm)
トータル撹拌時間:15分
対象水、300ccをビーカに取り、各炭化物凝集剤A、B、C、Dを0.05g(=166ppm)別々に添加し、電動スターラで撹拌開始から3分後に、水溶性高分子凝集剤を各1滴(10滴=0.16g、1滴=0.016g、純分は40%)0.0064g(=22pm)を添加する。その後、12分間撹拌する。

【0019】
<実施結果>
炭化物凝集剤A~Dと水溶性高分子凝集剤よりなる複合凝集剤を加えた、撹拌後の対象水を600メッシュ(目開き径:250μm)のステンレス篩で汚泥を濾過し、濾液試料を、(株)オオスミへCOD検査委託した結果、以下の結果が得られた。
対象水のみ:74ppm
炭化物凝集剤A及び水溶性高分子凝集剤を含む濾液:26ppm
炭化物凝集剤B及び水溶性高分子凝集剤を含む濾液:26ppm
炭化物凝集剤C及び水溶性高分子凝集剤を含む濾液:24ppm
炭化物凝集剤D及び水溶性高分子凝集剤を含む濾液:22ppm
このように、COD除去率は60%以上であった。
【0020】
次に、本発明に係る複合凝集剤の第2の実施例を説明する。
【0021】
<条件>
室温:21℃、室内湿度:77%(TANITA、TT-509)
<炭化物凝集剤>
炭化物凝集剤として出雲カーボン株式会社、炭「炭八」を準備した。この炭約10.7gを破砕機で微粉末化し、ステンレス篩で分級した結果、以下の分類となった。
125μm-90μm:3.1g
125μm以上:7.6g
90μm以下:なし。
<水溶性高分子凝集剤>
水溶性高分子凝集剤としてアムコン製両性高分子HB8043(40%エマルジョン)を400倍に希釈して(0.4/400=1/1000)、0.1%(1000ppm)溶液を作成した。
<対象水>
対象水として精米(名称:精米、原料玄米:単一原料米(千葉県産、ふさおとめ)、販売者:株式会社、「やまたね」)320gを1リットルの水道水に添加し、手で撹拌して、とぎ汁を作成した。
<実施条件>
対象量:1000cc
撹拌回転速度:撹拌機の目盛り1(LAB. STIRRER 社、MS3040、Max. 3000rpm、AC100W)
トータル撹拌時間:5分(両性高分子を加えた後の経過時間)
撹拌開始前に、対象水1000ccに炭0.2g(=200ppm)を添加し、撹拌開始後30秒後に、両性高分子20ml(=20pm)を添加する。その後、5分間撹拌する。
【0022】
<実施結果>
原水のCOD(MAX.250ppm)パックテストの結果は約150ppm(室温:24℃、経過時間:4分36秒)であった。また、250μmステンレス篩で凝集汚泥を濾過した後のCODパックテストの結果40ppmであった。つまり、COD除去率は60%以上であった。
【0023】
このように、従来の単一の活性炭凝集剤や従来の単一の炭化物凝集剤は、単独で凝結作用はあっても、大きなフロックを形成した大きな沈降速度を有する強い凝集作用は生じない。これに対して、本発明の第1、第2の実施例においては、大きなフロックを形成する強い凝集効果が得られ、特に上述の実験結果においてはCOD除去率は60%以上であった。
【0024】
上述の実施例においては、炭化物凝集剤は賦活処理を経ないで生成された炭化物凝集剤であるが、賦活処理で生成された活性炭化物凝集剤であってもよい。
【0025】
また、水溶性高分子凝集剤は天然由来の水溶性高分子たとえばキトサンであってもよい。さらに、水溶性高分子凝集剤は、カチオン性単位、アニオン性単位、ノニオン性単位、両性単位、疎水性単位のうち少なくも1つが導入された変性水溶性高分子凝集剤であってもよい。さらに、水溶性高分子凝集剤は、変性セルロースナノファイバ、変性セルロースナノクリスタル、変性キチンナノファイバ、変性キチンナノクリスタル、変性キトサンナノファイバ、変性キトサンナノクリスタルのうち少なくも1つであってもよい。

【0026】
本発明に係る複合凝集剤に市販の無機系凝集剤であるパルクリーン(シエエス化学工業株式会社商標)のような既存の凝集剤を炭の10%程度補助剤として入れてもよい。たとえば、1リットルに0.002g程度加えてもよい。
【0027】
図1は本発明に係る複合凝集剤を用いた排水処理システムの第1の実施の形態を示すブロック図である。
【0028】
図1に示すごとく、排水(汚水)は最初沈殿槽31にて固形物の沈殿が行われ、引き抜かれる。次いで、バブル発生槽32に導かれ、ウルトラファインバブル、マイクロバブル、又はマイクロバブル・ウルトラファインバブルを発生する。このとき、同時に、本発明に係る複合凝集剤つまり炭化物凝集剤及び水溶性高分子凝集剤が排水に加えられる。従って、炭化物凝集剤及び水溶性高分子凝集剤がバブル発生槽32において分散される。また、バブルの発生により炭化物凝集剤及び水溶性高分子凝集剤の使用量が減少する。次いで、凝集槽33に導かれ、汚泥が引き抜かれる。次いで、好気性処理槽34に導かれ、好気性処理を行う。この場合、凝集槽33において有機成分が除去されているので、好気性処理槽34での酸素必要量は減少する。最後に、最終沈殿槽35に導かれ、余剰汚泥が分離され、上澄液は放流される。
【0029】
図2は本発明に係る複合凝集剤を用いた排水処理システムの第2の実施の形態を示すブロック図である。
【0030】
図2においては、本発明に係る複合凝集剤つまり炭化物凝集剤及び水溶性高分子凝集剤は凝集槽33に加えられる。この場合も、前段のバブル発生層で発生したバブルの残留により炭化物凝集剤及び水溶性高分子凝集剤の使用量が減少する。
【0031】
尚、本発明は上述の実施例及び実施の形態の自明の範囲でいかなる変更にも適用し得る。
【符号の説明】
【0032】
31:最初沈殿槽
32:バブル発生槽
33:凝集槽
34:好気性処理槽
35:最終沈殿槽
図1
図2
図3
図4