(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】難燃性組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 89/00 20060101AFI20240613BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20240613BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20240613BHJP
C09K 21/14 20060101ALI20240613BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20240613BHJP
D01F 1/07 20060101ALN20240613BHJP
D01F 4/02 20060101ALN20240613BHJP
【FI】
C08L89/00
C08L1/00
C08L67/00
C09K21/14
C08L101/16
D01F1/07
D01F4/02
(21)【出願番号】P 2019180725
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-09-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【氏名又は名称】原田 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【氏名又は名称】福島 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100215957
【氏名又は名称】田村 明照
(72)【発明者】
【氏名】加賀田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 明子
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-008683(JP,A)
【文献】特開2020-050805(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188430(WO,A2)
【文献】特表2006-504450(JP,A)
【文献】国際公開第2018/185671(WO,A2)
【文献】特開2011-126987(JP,A)
【文献】特開2004-018681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C09K,D01F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変フィブロインと、生分解性プラスチック
(但し、デンプン及び変性デンプンを除く。)と、を含
み、
前記改変フィブロインが、式1:[(A)
n
モチーフ-REP]
m
、又は式2:[(A)
n
モチーフ-REP]
m
-(A)
n
モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であり、かつ前記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるものである、難燃性組成物。
[式1及び式2中、(A)
n
モチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2~27である。(A)
n
モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上である。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは2~300の整数を示す。複数存在する(A)
n
モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
【請求項2】
前記改変フィブロインの限界酸素指数(LOI)値が、26.0以上である、請求項1に記載の難燃性組成物。
【請求項3】
前記改変フィブロインが、改変クモ糸フィブロインを含む、請求項1又は2に記載の難燃性組成物。
【請求項4】
前記改変フィブロインが、疎水性指標の平均値(平均HI)が0以下の改変フィブロインを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の難燃性組成物。
【請求項5】
前記生分解性プラスチックが、生分解性セルロース及び生分解性ポリエステルからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の難燃性組成物。
【請求項6】
前記生分解性プラスチックが、ポリ乳酸である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の難燃性組成物。
【請求項7】
前記難燃性組成物の形態が、液状、粉末状、ゲル、繊維
、フィルム又は多孔質体である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の難燃性組成物。
【請求項8】
前記難燃性組成物の形態が溶液、粉末、
又は繊維である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の難燃性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保全の観点からポリ乳酸をはじめとする生分解性プラスチックが注目されており、様々な産業分野で、繊維、フィルム、不織布、粉末、接着剤、樹脂等の形で利用されている。
【0003】
生分解性プラスチックそのものは、従来の石油を原料とするプラスチック材料と同様に強い難燃性を有しておらず、難燃性が求められるような部材には使用することが困難である。
【0004】
特許文献1には生分解性プラスチック原料よりなるペレットに水酸化アルミニウム粉末又は水酸化マグネシウム粉末の少なくとも一方を添加し成形することを特徴とする難燃性生分解プラスチックの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリ乳酸等の生分解性プラスチックを含む組成物に、難燃性を付与する目的から、化学合成で得られた従来の難燃性付与剤を組み合わせると、生分解性の特徴が損なわれる場合があった。
【0007】
そこで、本発明は、生分解性を有するとともに、難燃性に優れる難燃性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、改変フィブロインが優れた難燃性を有することを見出した。この知見を応用し、生分解性と難燃性とを併せ持つ新規な組成物の開発に至った。
【0009】
本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
改変フィブロインと、生分解性プラスチックと、を含む、難燃性組成物。
[2]
前記改変フィブロインの限界酸素指数(LOI)値が、26.0以上である、[1]に記載の難燃性組成物。
[3]
前記改変フィブロインが、改変クモ糸フィブロインを含む、[1]又は[2]に記載の難燃性組成物。
[4]
前記改変フィブロインが、疎水性指標の平均値(平均HI)が0以下の改変フィブロインを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の難燃性組成物。
[5]
前記生分解性プラスチックが、生分解性ポリエステル、生分解性セルロース及び変性デンプンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の難燃性組成物。
[6]
前記生分解性プラスチックが、生分解性セルロース及び生分解性ポリエステルからなる群より選択される少なくとも1種を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の難燃性組成物。
[7]
前記生分解性プラスチックが、ポリ乳酸である、[1]~[6]のいずれかに記載の難燃性組成物。
[8]
前記難燃性組成物の形態が、液状、粉末状、ゲル、繊維、樹脂、フィルム又は多孔質体である、[1]~[7]のいずれかに記載の難燃性組成物。
[9]
前記難燃性組成物の形態が溶液、粉末、繊維、又は樹脂である、[1]~[8]のいずれかに記載の難燃性組成物。
[10]
前記難燃性組成物の形態が樹脂である、[1]~[9]のいずれかに記載の難燃性組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生分解性を有するとともに、難燃性に優れる難燃性組成物を提供することが可能となる。本発明によれば、当該難燃性組成物を用いた成形体を提供することが可能となる。
【0011】
本発明によれば、例えば、生分解性プラスチックに、改変フィブロインを混合することにより、生分解性を損なうことなく、難燃性が付与された組成物が得られる。本発明によればまた、難燃性組成物又はこれを用いた成形体に含有させる改変フィブロイン(有効成分)の量を調節することにより、難燃性組成物又はこれを用いた成形体の難燃性の程度を調節することもできる。
【0012】
本発明の難燃性組成物は、改変フィブロインを有効成分として含むことにより、難燃性が付与されている。すなわち、改変フィブロインが難燃性付与剤として機能している。従来の難燃性付与剤については添加することで機械的強度及び/又は耐熱性が低下するものも多く報告されている。一方、改変フィブロインは優れた機械的強度及び/又は耐熱性を有することが知られている。そのため、従来の難燃付与剤を用いた組成物に比べて、改変フィブロインを含む難燃性組成物は、機械的強度及び/又は耐熱性が改善されることが期待できる。
【0013】
従来の難燃性付与剤は、材料(例えば樹脂)100重量部に対して10~30重量部程度、多いものでは50重量部程度必要な場合がある。加えて、従来の難燃性付与剤は、それ自体として有害な物質が多い。例えば臭素系難燃性付与剤は、焼却時に熱分解によりダイオキシン類を発生するものがあり、リン系難燃性付与剤は土壌分解する場合に土壌環境を汚染してしまうものがある。これに対し、改変フィブロインは生分解性を有するため、改変フィブロインを難燃性付与剤として用いた場合には、従来の難燃性付与剤を用いた場合と比べて、環境負荷を低減することができる。
【0014】
従来の難燃性付与剤として、天然鉱物等の天然物からなる難燃性付与剤も知られているが、工業的な合成品とは異なり、一定の品質のものを安定的に取得することが容易ではなかった。これに対し、改変フィブロインは、工業的な量産が可能であるため、材料に対する所望の難燃性を安定的に付与することがより容易である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】改変フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【
図2】天然由来のフィブロインのz/w(%)の値の分布を示す図である。
【
図3】天然由来のフィブロインのx/y(%)の値の分布を示す図である。
【
図4】改変フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【
図5】改変フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
〔難燃性組成物〕
本実施形態に係る難燃性組成物は、改変フィブロインと、生分解性プラスチックとを含む。
【0018】
(改変フィブロイン)
本実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0019】
本明細書において「改変フィブロイン」とは、人為的に製造されたフィブロイン(人造フィブロイン)を意味する。改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列と同一であるフィブロインであってもよい。本明細書でいう「天然由来のフィブロイン」もまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。
【0020】
「改変フィブロイン」は、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列をそのまま利用したものであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
【0021】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)nモチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)nモチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2~27である。(A)nモチーフのアミノ酸残基数は、2~20、4~27、4~20、8~20、10~20、4~16、8~16、又は10~16の整数であってよい。また、(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2~300の整数を示し、10~300の整数であってもよい。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0022】
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0023】
天然由来のフィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であり、具体的には、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
【0024】
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、及びスズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
【0025】
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、及びAAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
【0026】
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
【0027】
クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、fibroin-3(adf-3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin-4(adf-4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin-like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0028】
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0029】
本実施形態に係る改変フィブロインは、改変絹(シルク)フィブロイン(カイコが産生する絹タンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、改変クモ糸フィブロイン(クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよい。改変フィブロインとしては、難燃性により優れることから、改変クモ糸フィブロインが好ましい。
【0030】
改変フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)、(A)nモチーフの含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)、並びにグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)が挙げられる。
【0031】
第1の改変フィブロインとしては、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の改変フィブロインにおいて、(A)nモチーフのアミノ酸残基数は、3~20の整数が好ましく、4~20の整数がより好ましく、8~20の整数が更に好ましく、10~20の整数が更により好ましく、4~16の整数が更によりまた好ましく、8~16の整数が特に好ましく、10~16の整数が最も好ましい。第1の改変フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10~200残基であることが好ましく、10~150残基であることがより好ましく、20~100残基であることが更に好ましく、20~75残基であることが更により好ましい。第1の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
【0032】
第1の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列又は配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であるポリペプチドであってもよい。
【0033】
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
【0034】
第1の改変フィブロインのより具体的な例として、(1-i)配列番号4(recombinant spider silk protein ADF3KaiLargeNRSH1)で示されるアミノ酸配列、又は(1-ii)配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0035】
配列番号4で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1~13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と同一である。
【0036】
(1-i)の改変フィブロインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0037】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第2の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0038】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0039】
第2の改変フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
【0040】
第2の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0041】
第2の改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
【0042】
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、
図1に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)
nモチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
【0043】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるz/wについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表されるドメイン配列を含み、フィブロイン中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が6%以下である天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、z/wを算出した。その結果を
図2に示す。
図2の横軸はz/w(%)を示し、縦軸は頻度を示す。
図2から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるz/wは、いずれも50.9%未満である(最も高いもので、50.86%)。
【0044】
第2の改変フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
【0045】
第2の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0046】
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、フェニルアラニン(F)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
【0047】
第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2-i)配列番号6(Met-PRT380)、配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)若しくは配列番号9(Met-PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2-ii)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0048】
(2-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号6で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met-PRT313)で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号6で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端に所定のヒンジ配列とHisタグ配列が付加されたものである。
【0049】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号6で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8~11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.8%である。
【0050】
(2-i)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0051】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0052】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0053】
第2の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0054】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0055】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0056】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
【0057】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
【0058】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(2-iii)配列番号12(PRT380)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2-iv)配列番号12、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0059】
配列番号16(PRT313)、配列番号12、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0060】
(2-iii)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0061】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0062】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0063】
第2の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0064】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第3の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0065】
第3の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインから(A)nモチーフを10~40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0066】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1~3つの(A)nモチーフ毎に1つの(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0067】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)nモチーフの欠失、及び1つの(A)nモチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0068】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0069】
第3の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0070】
x/yの算出方法を
図1を参照しながら更に詳細に説明する。
図1には、改変フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)
nモチーフ-第1のREP(50アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第2のREP(100アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第3のREP(10アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第4のREP(20アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第5のREP(30アミノ酸残基)-(A)
nモチーフという配列を有する。
【0071】
隣合う2つの[(A)
nモチーフ-REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)
nモチーフ-REP]ユニットが存在してもよい。
図1には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
【0072】
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
【0073】
図1中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの組を実線で示した。本明細書中、この比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの組は破線で示した。
【0074】
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)
nモチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。
図1に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
【0075】
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
【0076】
第3の改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9~11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8~3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
【0077】
第3の改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
【0078】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるx/yについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表されるドメイン配列で構成される天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、x/yを算出した。ギザ比率が1:1.9~4.1の場合の結果を
図3に示す。
【0079】
図3の横軸はx/y(%)を示し、縦軸は頻度を示す。
図3から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるx/yは、いずれも64.2%未満である(最も高いもので、64.14%)。
【0080】
第3の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)nモチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)nモチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0081】
第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3-i)配列番号17(Met-PRT399)、配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)若しくは配列番号9(Met-PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3-ii)配列番号17、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0082】
(3-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号17で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met-PRT313)で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列は、第2の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0083】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)のギザ比率1:1.8~11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号17で示されるアミノ酸配列、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.8%である。配列番号10、配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
【0084】
(3-i)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0085】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0086】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3(ギザ比率が1:1.8~11.3)となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0087】
第3の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
【0088】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(3-iii)配列番号18(PRT399)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3-iv)配列番号18、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0089】
配列番号18、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0090】
(3-iii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0091】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0092】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0093】
第3の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0094】
第4の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。第4の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、第4の改変フィブロインは、上述した第2の改変フィブロインと、第3の改変フィブロインの特徴を併せ持つ改変フィブロインである。具体的な態様等は、第2の改変フィブロイン、及び第3の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0095】
第4の改変フィブロインのより具体的な例として、(4-i)配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)、配列番号9(Met-PRT799)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(4-ii)配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
【0096】
第5の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0097】
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2~4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
【0098】
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
【0099】
第5の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0100】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0101】
第5の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
【0102】
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105-132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表1に示すとおりである。
【0103】
【0104】
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1~4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
【0105】
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4-1=7。「-1」は重複分の控除である。)。例えば、
図4に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、pは7×4=28となる。また、例えば、
図4に示したドメイン配列の場合、qは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)
nモチーフは含めない)。次に、pをqで除すことによって、p/q(%)を算出することができる。
図4の場合28/170=16.47%となる。
【0106】
第5の改変フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
【0107】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
【0108】
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
【0109】
第5の改変フィブロインのより具体的な例として、(5-i)配列番号19(Met-PRT720)、配列番号20(Met-PRT665)若しくは配列番号21(Met-PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5-ii)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0110】
(5-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号19で示されるアミノ酸配列は、配列番号7(Met-PRT410)で示されるアミノ酸配列に対し、C末端側の端末のドメイン配列を除いて、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列は、配列番号8(Met-PRT525)で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号21で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
【0111】
(5-i)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0112】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0113】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0114】
第5の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
【0115】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(5-iii)配列番号22(PRT720)、配列番号23(PRT665)若しくは配列番号24(PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5-iv)配列番号22、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0116】
配列番号22、配列番号23及び配列番号24で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0117】
(5-iii)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0118】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0119】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0120】
第5の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0121】
第6の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。
【0122】
第6の改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
【0123】
第6の改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
【0124】
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
【0125】
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
【0126】
図5は、改変フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。
図5を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、
図5に示した改変フィブロインのドメイン配列(「[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(
図5中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(
図5中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、
図5の改変フィブロインの場合21/150=14.0%となる。
【0127】
第6の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
【0128】
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)
nモチーフ-REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(
図5の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0129】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0130】
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標は表1に示すとおりである。
【0131】
表1に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
【0132】
第6の改変フィブロインは、REPの疎水性度が、-0.8以上であることが好ましく、-0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
【0133】
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)
nモチーフ-REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(
図5の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0134】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0135】
第6の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
【0136】
第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6-i)配列番号25(Met-PRT888)、配列番号26(Met-PRT965)、配列番号27(Met-PRT889)、配列番号28(Met-PRT916)、配列番号29(Met-PRT918)、配列番号30(Met-PRT699)、配列番号31(Met-PRT698)、配列番号32(Met-PRT966)、配列番号41(Met-PRT917)若しくは配列番号42(Met-PRT1028)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6-ii)配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41若しくは配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げることができる。
【0137】
(6-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号25で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号26で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。配列番号27で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。配列番号28で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。配列番号29で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0138】
配列番号30で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列(Met-PRT525)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号31で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0139】
配列番号32で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)中に存在する20個のドメイン配列の領域を2回繰り返した配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0140】
配列番号41で示されるアミノ酸配列(Met-PRT917)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てLIに置換し、かつ残りのQをVに置換したものである。配列番号42で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1028)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てIFに置換し、かつ残りのQをTに置換したものである。
【0141】
配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41及び配列番号42で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率は9%以下である(表2)。
【0142】
【0143】
(6-i)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41又は配列番号42で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0144】
(6-ii)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41又は配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0145】
(6-ii)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-ii)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0146】
第6の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0147】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(6-iii)配列番号33(PRT888)、配列番号34(PRT965)、配列番号35(PRT889)、配列番号36(PRT916)、配列番号37(PRT918)、配列番号38(PRT699)、配列番号39(PRT698)、配列番号40(PRT966)、配列番号43(PRT917)若しくは配列番号44(PRT1028)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6-iv)配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43若しくは配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げることができる。
【0148】
配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41及び配列番号42で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表3)。
【0149】
【0150】
(6-iii)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43又は配列番号44で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0151】
(6-iv)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43又は配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0152】
(6-iv)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-iv)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0153】
第6の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0154】
改変フィブロインは、第1の改変フィブロイン、第2の改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、第5の改変フィブロイン、及び第6の改変フィブロインが有する特徴のうち、少なくとも2つ以上の特徴を併せ持つ改変フィブロインであってもよい。
【0155】
改変フィブロインとしては、難燃性により優れることから、親水性改変フィブロインであることが好ましい。本明細書において、「親水性改変フィブロイン」とは、改変フィブロインを構成する全てのアミノ酸残基の疎水性指標(HI)の総和を求め、次にその総和を全アミノ酸残基数で除した値(平均HI)が0以下である改変フィブロインである。疎水性指標は表1に示したとおりである。また、平均HIが0超である改変フィブロインを疎水性改変フィブロインと呼ぶこともある。
【0156】
親水性改変フィブロインとしては、例えば、配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインが挙げられる。
【0157】
疎水性改変フィブロインとしては、例えば、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号43で示されるアミノ酸配列、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号44で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインが挙げられる。
【0158】
(改変フィブロインの製造方法)
上記いずれの実施形態に係る改変フィブロインも、例えば、当該改変フィブロインをコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
【0159】
改変フィブロインをコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然のフィブロインをコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングし、遺伝子工学的手法により改変する方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手したフィブロインのアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、改変フィブロインの精製及び/又は確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなる改変フィブロインをコードする核酸を合成してもよい。
【0160】
調節配列は、宿主における改変フィブロインの発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、改変フィブロインを発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0161】
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、改変フィブロインをコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0162】
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0163】
原核生物の宿主の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
【0164】
原核生物を宿主とする場合、改変フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0165】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
【0166】
真核生物を宿主とする場合、改変フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
【0167】
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0168】
改変フィブロインは、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該改変フィブロインを生成及び蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0169】
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地及び合成培地のいずれを用いてもよい。
【0170】
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0171】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0172】
また、培養中、必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0173】
発現させた改変フィブロインの単離及び精製は通常用いられている方法で行うことができる。例えば、当該改変フィブロインが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0174】
また、改変フィブロインが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として改変フィブロインの不溶体を回収する。回収した改変フィブロインの不溶体はタンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により改変フィブロインの精製標品を得ることができる。当該改変フィブロインが細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該改変フィブロインを回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、その培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0175】
本実施形態に係る難燃性組成物は、改変フィブロインを1種単独で含有するものであってもよく、改変フィブロイン2種以上を組み合わせて含有するものであってもよい。
【0176】
改変フィブロインの限界酸素指数(LOI)値は、18以上であってよく、20以上であってもよく、22以上であってもよく、24以上であってもよく、26以上であってもよく、28以上であってもよく、29以上であってもよく、30以上であってもよい。本明細書において、LOI値は、消防庁危険物規制課長 消防危50号平成7年5月31日の粉粒状又は融点の低い合成樹脂の試験方法に準拠して測定される値である。
【0177】
難燃性組成物における改変フィブロインの含有量は、難燃性組成物の用途等に応じて、適宜設定することができる。
【0178】
難燃性組成物における改変フィブロインの含有量は、例えば、難燃性組成物の全量を基準として、10質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であってよく、99質量%以下、90質量%以下、70質量%以下、50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下であってよい。
【0179】
(生分解性プラスチック)
本実施形態に係る難燃性組成物は、生分解性プラスチックを含む。生分解性プラスチックとは、微生物によって完全に消費され自然的副産物(炭酸ガス、メタン、水、バイオマス等)のみを生じるプラスチックである。生分解性プラスチックには、タンパク質は含まれない。
【0180】
生分解性プラスチックとしては、特に制限されないが、例えば、生分解性ポリエステル、生分解性セルロース、デンプン材料(例えば、デンプンや酢酸デンプン、リン酸ジデンプン、デキストリンなどの変性デンプン)、ポリビニルアルコールが挙げられる。生分解性プラスチックとしては、木材パルプ、非木材繊維、微細藻類副産物、海藻類副産物等の天然材料、又はレーヨン等のセルロース系材料を用いることもできる。
【0181】
生分解性ポリエステルとしては、乳酸、グリコール酸、乳酸ヒドロキシブチルカルボン酸等のヒドロキシアルキルカルボン酸、グリコリド、ラクチド、ブチロラクトン、カプロラクトン等の脂肪族ラクトン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸等の重合原料を重合した材料が挙げられる。
【0182】
生分解性プラスチックとしては、例えば、生分解性ポリエステル、生分解性セルロース、変性デンプン、ポリビニルアルコール(PVA)が挙げられる。生分解性ポリエステルとしては、ポリ乳酸(PLA)及びポリグリコール酸等のポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペート/テレフタレート(PBAT)、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、バイオポリブチレンサクシネート(PBS)が挙げられる。
【0183】
生分解性プラスチックは、生分解性を有し、かつ、バイオマスを少なくとも一部の原料として含む生分解性バイオマスプラスチックであることが好ましい。バイオマスプラスチックは、石油資源にほとんど頼ることなく製造されること、原料となり得る植物が二酸化炭素を吸収して成長すること、及び焼却処理により廃棄する場合でも、一般に燃焼カロリーが小さく、発生する二酸化炭素量が少ないこと等の理由により、地球環境に優しいプラスチックとして注目されており、環境負荷をより一層低減することが可能となる。生分解性バイオマスプラスチックとしては、生分解性セルロース、生分解性ポリエステル、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、変性デンプン等が挙げられる。生分解性バイオマスプラスチックとしての生分解性ポリエステルとしては、例えば、ポリ乳酸(PLA)等のポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシブチレート共重合体、ポリブチレンサクシネートアジペート等が挙げられる。
【0184】
材料強度、入手容易性等の観点から、生分解性プラスチックは、ポリ乳酸及び生分解性セルロースからなる群より選択される少なくとも1種を含むものであってよい。
【0185】
難燃性組成物に含まれる生分解性プラスチックは、必要により加工されていてよい。例えば、生分解性プラスチックは、樹脂や繊維状に加工されたものであってもよい。
【0186】
難燃性組成物における生分解性プラスチックの含有量は、難燃性組成物の用途等に応じて、適宜設定することができる。
【0187】
難燃性組成物における生分解性プラスチックの含有量は、例えば、難燃性組成物の全量を基準として、5質量%以上、10質量%以上、20質量%、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であってよく、99質量%以下、90質量%以下、70質量%以下、50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下であってよい。
【0188】
(難燃性組成物)
本実施形態に係る難燃性組成物は、その形態、用途等に応じて、更に他の添加剤(改変フィブロイン及び生分解性プラスチック以外のもの)を含むものであってもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、レベリング剤、架橋剤、結晶核剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、フィラー、及び合成樹脂が挙げられる。添加剤の含有量は、難燃性組成物の全量100質量部に対して、50質量部以下であってよく、環境保全の観点から、20質量部以下であってよい。
【0189】
本実施形態に係る難燃性組成物において、改変フィブロインは、例えば、粉末状、ペースト状、液状(例えば、懸濁液、溶液)のいずれの形態であってもよい。改変フィブロインはまた、例えば、繊維、フィルム、ゲル、多孔質体、パーティクル等の形態であってもよい。改変フィブロインの形態は、難燃性組成物の用途等に応じて適宜設定してよい。改変フィブロインは、例えば、液状(例えば、懸濁液、溶液)、粉末状、ゲル、繊維、樹脂、フィルム、及び多孔質体からなる群より選択される少なくとも一種の形態であってよい。
【0190】
本実施形態に係る改変フィブロインを粉末状の形態で調製する場合、例えば、上述した改変フィブロインの製造方法により得られるタンパク質を乾燥させて粉末状にしてもよい。タンパク質の粉末には、必要に応じて、他の添加剤を含有させてもよい。
【0191】
本実施形態に係る改変フィブロインを液状(例えば、溶液)の形態で調製する場合、例えば、上述した改変フィブロインの製造方法により得られるタンパク質を改変フィブロインを溶解可能な溶媒で溶解させて液状(改変フィブロイン溶液)にしてもよい。改変フィブロイン溶液には、必要に応じて、他の添加剤を含有させてもよい。改変フィブロインを溶解可能な溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ギ酸、及びヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)等が挙げられる。当該溶媒には、溶解促進剤として無機塩を添加してもよい。
【0192】
本実施形態に係る改変フィブロインを繊維の形態で調製する場合、例えば、上述した改変フィブロイン溶液をドープ液とし、湿式紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸又は溶融紡糸等の公知の紡糸方法により紡糸して繊維(改変フィブロイン繊維)にしてもよい。繊維の形態としては、単一糸であってもよく、混紡糸、混繊糸、混織糸、交織糸、合撚糸及びカバーリング糸等の複合糸であってもよく、不織布等であってもよい。
【0193】
改変フィブロイン繊維は、短繊維であっても、長繊維であってもよい。また、改変フィブロイン繊維は、改変フィブロイン繊維単独であってもよく、又は他の繊維と組み合わされてもよい。すなわち、改変フィブロイン繊維のみからなる単独糸、改変フィブロイン繊維と他の繊維とを組み合わせてなる複合糸が、それぞれ単独で、又はそれらが組み合わされて用いられてもよい。上記単独糸及び上記複合糸は、短繊維を撚り合わせたスパン糸であってもよく、長繊維を撚り合わせた、又は撚り合せていないフィラメント糸であってもよい。また、改変フィブロイン繊維は、短繊維であっても、長繊維であっても、糸に加工することなく、単独で、又は他の繊維と組み合わせて、繊維のまま用いることもできる。他の繊維としては、例えば、ナイロン、ポリエステル等の合成繊維、キュプラ、レーヨン等の再生繊維、綿、麻等の天然繊維が挙げられる。他の繊維と組み合わせて使用する場合には、繊維全量を基準として、改変フィブロイン繊維の含有量が、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以上であることが更により好ましい。
【0194】
改変フィブロインをフィルム、ゲル、多孔質体、パーティクル等の形態で調製する場合、例えば、特開2009-505668号公報、特開2009-505668号公報、特許第5678283号公報、特許第4638735号公報等に記載の方法に準じて製造することができる。
【0195】
本実施形態に係る難燃性組成物は、例えば、改変フィブロインと、生分解性プラスチックとを混合することを含む方法によって、製造することができる。本実施形態に係る難燃性組成物は、例えば、粉末状、ペースト状、液状(例えば、懸濁液、溶液)、シート状のいずれの形態であってもよい。本実施形態に係る難燃性組成物はまた、例えば、繊維、フィルム、ゲル、多孔質体、樹脂成形体(例えば、繊維強化樹脂成形体)、パーティクル等の形態であってもよい。
【0196】
粉末状の難燃性組成物は、特に制限されないが、例えば、粉末状の改変フィブロインと、粉末状の生分解性プラスチックとを混合する方法、ペレットの形状を持つ素材を乾式又は湿式のボールミル等で粒径を小さくしながら混ぜ合わせる方法等によって、製造することができる。
【0197】
液状の難燃性組成物は、例えば、改変フィブロインと、生分解性プラスチック(例えば、ポリ乳酸)とを、溶媒に混合して混合液を得る溶解工程を含む方法によって、製造することができる。当該混合液は、改変フィブロインと、生分解性プラスチックと、これらが溶解又は分散している溶媒(溶解用溶媒)と、を含んでいる。混合液は、溶解工程において、改変フィブロインと共に含まれていた夾雑物を含み得る。混合液は、タンパク質成形体の成形用溶液であってよい。
【0198】
溶解工程における混合液中の改変フィブロインの含有量は、混合液の全量に対して、5質量%以上35質量%以下、又は5質量%以上50質量%以下であってよい。
【0199】
溶解工程では、溶解させる改変フィブロインとして、精製された改変フィブロインを用いてもよく、改変フィブロインを発現した宿主細胞中の改変フィブロインを用いてもよい。精製された改変フィブロインは、改変フィブロインを発現した宿主細胞から精製された改変フィブロインであってよい。宿主細胞中の改変フィブロインを目的タンパク質として溶解させる場合、宿主細胞と溶媒とを接触させて、当該宿主細胞中の改変フィブロインを溶媒に溶解させる。宿主細胞は、目的タンパク質を発現したものであればよく、例えば、無傷の細胞であってもよく、破壊処理等の処理を行った後の細胞であってもよい。また、既に簡単な精製処理を行った細胞であってもよい。
【0200】
目的タンパク質を発現した宿主細胞から目的タンパク質を精製する方法としては、特に限定されないが、例えば、特許第6077570号公報及び特許第6077569号公報に記載されている方法等を用いることができる。
【0201】
溶解工程において、使用できる溶媒として、改変フィブロインと生分解性プラスチックの両方を溶かす溶媒として、DMSO、HFIP、カルボン酸等を用いることができる。カルボン酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、ジクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、イソ酪酸、ペンタン酸、等のジカルボン酸が使用されうる。カルボン酸は、酸無水物又は酸塩化物の形態をとっていてもよい。
【0202】
溶解工程において、改変フィブロイン及び生分解性プラスチックを溶媒に溶かすことで、改変フィブロイン及び生分解性プラスチックを含む混合溶液が得られる。改変フィブロイン及び生分解性プラスチックを含む混合溶液は、溶媒を用いずに、生分解性プラスチックを加熱等の手法で溶解し、溶解させた生分解性プラスチックに対して、改変フィブロイン及び該改変フィブロインを溶解した溶媒を含むタンパク質溶液を加えて調製してもよい。
【0203】
溶解工程は室温で実施してもよいし、種々の加熱温度に保持して、改変フィブロイン及び生分解性プラスチックを溶媒に溶解させてもよい。加熱温度の保持時間は、特に限定されないが、10分以上であってよく、工業的生産を考慮すると、10~120分が好ましく、10~60分がより好ましく、10~30分がさらに好ましい。加熱温度の保持時間は、例えば、改変フィブロインが十分に溶解し、かつ夾雑物(目的とするタンパク質以外のもの)の溶解が少ない条件で、適宜設定してよい。
【0204】
改変フィブロインを溶解するために添加する溶媒の添加量は、改変フィブロインを溶解できる量であれば特に限定されない。
【0205】
精製された改変フィブロインを溶解する場合、溶媒の添加量は、改変フィブロイン(改変フィブロインを含む乾燥粉末)の重量(g)に対する溶媒の体積(mL)の比(体積(mL)/重量(g))として、1~100倍であってよく、1~50倍であってよく、1~25倍であってよく、1~10倍であってよく、1~5倍であってよい。
【0206】
改変フィブロインを発現した宿主細胞中の改変フィブロインを溶解する場合、溶媒の添加量は、宿主細胞の重量(g)に対する、溶媒(mL)の比(体積(mL)/重量(g))として、1~100倍であってよく、1~50倍であってよく、1~25倍であってよく、1~10倍であってよく、1~5倍であってよい。
【0207】
溶解工程において得られる、改変フィブロイン及び生分解性プラスチックを含む混合液は、必要により、不溶物を除去されてよい。つまり、液状の難燃性組成物の製造方法は、溶解工程後に、必要に応じて、混合液から不溶物を除去する工程を含んでいてよい。当該混合液から、不溶物を除去する方法としては、遠心分離、ドラムフィルター、プレスフィルター等のフィルターろ過等、一般的な方法が挙げられる。フィルターろ過による場合、セライト、珪藻土等のろ過助剤及びプリコート剤等を併用することにより、混合液から不溶物をより効率的に除去することができる。
【0208】
液状の難燃性組成物は、生分解性プラスチックと、改変フィブロインと、これらのいずれか一方又は両方が分散した分散媒とを含むものであってよい。この場合の液状の難燃性組成物は、例えば、生分解性プラスチックと、改変フィブロインと、これらのいずれか一方又は両方を分散媒に分散させる分散工程を含む方法によって製造してよい。生分解性プラスチックと、改変フィブロインと、これらのいずれか一方又は両方は、粉末の形態で分散媒に添加することにより、分散させてよい。
【0209】
成形体である難燃性組成物は、例えば、改変フィブロインと、生分解性プラスチックと、を含む原料組成物を成形する成形工程を含む方法によって、製造することができる。原料組成物は、例えば、粉末状、又は液状であってよい。粉末状又は液状の組成物は、例えば、上述した粉末状又は液状の難燃性組成物を製造する方法と同様の方法によって製造することができる。成形体は、特に限定されないが、例えば、繊維、フィルム、多孔質体、樹脂等を挙げることができる。原料組成物における改変フィブロイン及び生分解性プラスチックの濃度、原料組成物の粘度等は、成形体の用途等によって適宜調整してよい。
【0210】
原料組成物中の改変フィブロインの濃度を調整する方法としては、特に限定されないが、原料組成物が液状である場合には、例えば、蒸留により溶媒を揮発させることにより、改変フィブロインの濃度を高める方法、溶解工程で、改変フィブロインの濃度の高いものを使用する方法等を用いることができる。また、溶媒の添加量を改変フィブロインの量に対し、少なくする方法等を用いることもできる。
【0211】
繊維状の難燃性組成物は、例えば、改変フィブロインと、生分解性プラスチックと、これらを溶解している溶媒と、を含むドープ液を紡糸する工程(紡糸工程)を含む方法によって、製造することができる。例えば、ドープ液を凝固液に付与すると、ドープ液中の改変フィブロイン及び生分解性プラスチックが凝固する。この際、ドープ液を糸状の液体として凝固液に付与することで、改変フィブロイン及び生分解性プラスチックの混合物が糸状に凝固し、糸(未延伸糸)が形成できる。溶媒は、上記例示した好適な無機塩を含んでいてもよい。
【0212】
未延伸糸の形成は、例えば特許第5584932号公報に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0213】
ドープ液の粘度は、紡糸に適した粘度に適宜調整されてよい。ドープ液の粘度は、例えば、10~50,000cP(センチポイズ)であってよい。粘度は、例えば京都電子工業社製の商品名“EMS粘度計”を使用して測定できる。ドープ液の粘度が、10~10,000cP(センチポイズ)の範囲内にない場合には、紡糸できる粘度にドープ液の粘度を調整してもよい。ドープ液の粘度を調整する方法は特に限定されない。ドープ液中の改変フィブロインの濃度及び生分解性プラスチックの濃度は、紡糸が可能な濃度に適宜調整されてよい。ドープ液中の濃度を調整する方法は特に限定されない。
【0214】
以下、繊維状の難燃性組成物を製造する方法の一例として、湿式紡糸により繊維状の難燃性組成物を製造する方法を説明するが、紡糸方法は湿式紡糸に限定されず、乾湿式紡糸等を用いることもできる。
【0215】
湿式紡糸による繊維状の難燃性組成物は、例えば、ドープ液を糸状の液体として凝固液に付与して、未延伸糸を得ること、及び、未延伸糸を延伸して延伸糸を得ることを含む方法によって製造することができる。
【0216】
凝固液は、脱溶媒できる溶液であればよい。凝固液はメタノール、エタノール、2-プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコール又はアセトンを含むことが好ましい。凝固液は、水を含んでいてもよい。凝固液の温度は、紡糸の安定性の観点から、5~30℃が好ましい。
【0217】
ドープ液を糸状の液体として付与する方法は、特に限定されないが、例えば紡糸用の口金から脱溶媒槽の凝固液に押し出す方法が挙げられる。ドープ液中の改変フィブロイン及び生分解性プラスチックが凝固することにより未延伸糸が得られる。ドープ液を凝固液に押し出す場合の押出し速度は、口金の直径及びドープ液の粘度等に応じて適宜設定できる。例えば、直径0.1~0.6mmのノズルを有するシリンジポンプの場合、紡糸の安定性の観点から、押し出し速度は1ホール当たり、0.2~6.0mL/hが好ましく、1ホール当たり、1.4~4.0mL/hがより好ましい。凝固液を入れる脱溶媒槽(凝固液槽)の長さは特に限定されないが、例えば長さは200~500mmであってよい。改変フィブロイン及び生分解性プラスチックの凝固により形成された未延伸糸の引き取り速度は例えば1~14m/min、滞留時間は例えば0.01~0.15minであってよい。未延伸糸の引き取り速度は、脱溶媒の効率の観点から、1~3m/minが好ましい。改変フィブロイン及び生分解性プラスチックの凝固により形成された未延伸糸は、さらに固液において延伸(前延伸)をしてもよいが、凝固液に用いる低級アルコールの蒸発を抑える観点から、凝固液を低温に維持し、未延伸糸の状態で凝固液から引き取るのが好ましい。
【0218】
(b)延伸
延伸は一段延伸でもよいし、2段以上の多段延伸でもよい。多段で延伸すると、分子を多段で配向させ、トータル延伸倍率も高くすることができるため、タフネスの高い繊維の製造に適している。
【0219】
フィルム状の難燃性組成物を形成する方法としては、特に限定されないが、改変フィブロイン、生分解性プラスチック及びこれらを溶解している溶媒を含む改変フィブロイン溶液を溶媒に耐性のある平板に所定の厚さに塗布して、塗膜を形成させ、塗膜から溶媒を除去することで、所定の厚さのフィルムを得る方法等が挙げられる。必要により、改変フィブロイン溶液をフィルム化が可能な濃度及び粘度に調整してよい。
【0220】
所定の厚さのフィルムを形成する方法としては、例えばキャスト法が挙げられる。キャスト法によりフィルムを形成する場合には、平板に、改変フィブロイン溶液をドクターコート、ナイフコーター等の冶具を用いて数ミクロン以上の厚さにキャストしてキャスト膜を形成し、その後減圧乾燥又は脱溶媒槽への浸漬により溶媒を脱離することによりフィルム状の難燃性組成物を得ることができる。フィルムの形成は、特許第5678283号公報に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0221】
多孔質体である難燃性組成物を形成する方法は、特に限定されない。例えば、改変フィブロイン、生分解性プラスチック及びこれらを溶解している溶媒を含む改変フィブロイン溶液に発泡剤を適量添加し、溶媒を除去することで多孔質体を得る方法、又は特許第5796147号に記載されている方法に準じて行うこと等が挙げられる。改変フィブロイン溶液は、多孔質化に好適な濃度及び粘度に調整されてよい。
【0222】
樹脂成形体である難燃性組成物を形成する方法は特に限定されない。例えば、改変フィブロイン及び生分解性プラスチックを含む粉末を加圧成形機導入した後、ハンドプレス機等を用いて加圧及び加熱を行うことで、乾燥タンパク質粉末が必要な温度に達し、樹脂成形体である難燃性組成物を得ることができる。樹脂成形体である難燃性組成物の形成は、特許文献(WO2017/047503号)に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0223】
ゲル状の難燃性組成物を形成する方法は特に制限されない。例えば、ゲル状の難燃性組成物は、改変フィブロイン及び生分解性プラスチックを溶解用溶媒に溶解して、改変フィブロイン溶液を得る溶液生成工程と、改変フィブロイン溶液中の溶解用溶媒を水溶性溶媒(例えば、水)に置換する置換工程と、を含む方法によって、製造することができる。このとき、溶液生成工程と置換工程との間に、改変フィブロイン溶液を型枠に流し込み所定の形状に成形する工程を含んでいてよい。置換工程の後に、得られたゲル状物をカットして所定の形状に成形する工程を含んでいてもよい。ゲル状の難燃性組成物の形成は、例えば、特許第5782580号に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0224】
難燃性組成物は、例えば、繊維強化樹脂成形体としても用いることができる。繊維強化樹脂成形体としての難燃性組成物は、繊維の形態の改変フィブロインである改変フィブロイン繊維と、生分解性プラスチックとを含んでいてよい。生分解性プラスチックは、改変フィブロイン繊維に含浸したものであってよい。
【0225】
以下、繊維強化樹脂成形体としての難燃性組成物の製造方法の一例として、繊維の形態の改変フィブロインである改変フィブロイン繊維と、該改変フィブロイン繊維に含浸した生分解性プラスチックと、を含む、繊維強化樹脂成形体の製造方法について説明する。
【0226】
繊維強化樹脂成形体は、例えば、改変フィブロイン繊維に生分解性プラスチックを含浸させる工程を含む方法によって、製造することができる。
【0227】
含浸方法は溶剤法、ホットメルト法等の既知の含浸方法が利用できる。例えば、ステンレス板等の板状基材に並べた改変フィブロイン繊維に、例えば、生分解性プラスチック及び溶剤を含む基材樹脂用の溶液を均一に滴下してもよい。その後、溶剤を揮発させて除去すると、プリプレグとして繊維強化樹脂成形体を形成することができる。得られた繊維強化樹脂成形体は、余分な部分を切断して、板状基材から外してよい。
【0228】
改変フィブロイン繊維を板状基材に並べる方法としては、例えば、フィラメントワインディングを用いることができる。例えば、改変フィブロイン繊維にテンションをかけながら隙間ができないようにステンレス板等の板状基材に巻きつけてよい。ここで用いる改変フィブロイン繊維は、難燃性を付与する観点から、改変クモ糸フィブロイン繊維が好ましい。
【0229】
上述の繊維強化樹脂成形体は、積層して、積層体としてもよい。積層体における層の数は、任意の数であってよく、適宜に設定され得る。繊維強化樹脂成形体は、積層しなくてもよい。基材樹脂が熱硬化性である場合、積層体を加熱することで、基材樹脂と改変フィブロイン繊維とを密着させることができる。
【0230】
繊維強化樹脂の製造方法は上記方法に限らず、材料に合わせた既存の加工方法が用いられてもよい。例えば、熱可塑性のポリ乳酸を基材樹脂として用いる場合は、必ずしも予め繊維に含浸させる必要はない。例えば、改変フィブロイン繊維により形成された繊維層の両面上に、フィルム状のポリ乳酸をそれぞれ1枚づつ配置し、その後、小型プレス機によって加圧することで、改変フィブロイン繊維にポリ乳酸が含浸した繊維強化樹脂成形体を得ることができる。
【0231】
本実施形態に係る難燃性組成物は、例えば、難燃性を有する成形体としてそのまま用いることもできるし、難燃性を有する各種成形体の原料として用いることができる。本実施形態に係る難燃性組成物は、難燃性に優れているため、材料(原料)又は物品に含有させることによって、材料又は物品に難燃性を付与することができる。
【実施例】
【0232】
以下、実施例等に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0233】
〔改変フィブロインの製造〕
(1)発現ベクターの作製
配列番号15で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT799)を設計した。設計した改変フィブロインをコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。この核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0234】
(2)タンパク質の発現
得られた発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表4)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【0235】
【0236】
当該シード培養液を500mLの生産培地(表5)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【0237】
【0238】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、改変フィブロインを発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とする改変フィブロインサイズのバンドの出現により、目的とする改変フィブロインの発現を確認した。
【0239】
(3)タンパク質の精製
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社製)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収することにより、改変フィブロイン(PRT799)を得た。
【0240】
〔タンパク質繊維の製造〕
4.0質量%になるようにLiClを溶解させたジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒として用意し、そこに改変フィブロインの凍結乾燥粉末を、濃度24質量%となるよう添加し、シェーカーを使用して3時間溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変フィブロイン溶液(紡糸原液)を得た。
【0241】
調製した紡糸原液を90℃にて目開き5μmの金属フィルターで濾過し、次いで30mLのステンレスシリンジ内で静置し、脱泡させた後に、ニードル径0.2mmのソリッドノズルから100質量%メタノール凝固浴槽中へ吐出させた。吐出温度は90℃であった。凝固後、得られた原糸を巻き取り、自然乾燥させて改変フィブロイン繊維(原料繊維)を得た。
【0242】
〔編地の製造〕
得られた原料繊維(撚り合せたフィラメント糸)を使用して、丸編機を使用した丸編みで編地を製造した。編地は、太さ180デニール、ゲージ数18とした。得られた編地から20g切り出して試験片とした。
【0243】
〔燃焼性試験〕
燃焼性試験は、消防庁危険物規制課長 消防危50号平成7年5月31日の粉粒状又は融点の低い合成樹脂の試験方法に準拠した。試験は、温度22℃、相対湿度45%、気圧1021hPaの条件下で実施した。測定結果(酸素濃度(%)、燃焼率(%)、換算燃焼率(%))を表6に示す。
【表6】
【0244】
難燃性試験の結果、改変フィブロイン(PRT799)繊維で編んだ編地の限界酸素指数(LOI)値は27.2であった。一般にLOI値が26以上あれば難燃性があるとされる。改変フィブロインは、難燃性に優れていることが分かる。したがって、改変フィブロインを他の材料と混ぜ込む等して組成物を製造することにより、難燃性に優れる組成物を得ることができる。
【0245】
〔繊維強化樹脂の製造方法〕
上述した改変フィブロイン繊維と、該改変フィブロイン繊維に含浸したポリ乳酸からなる繊維強化樹脂成形体を次に示す方法により製造した。以下では、ポリ乳酸を用いたが、改変フィブロイン繊維と組み合わせる生分解性プラスチックはポリ乳酸に限定されない。
【0246】
(1)フィラメントワインディング
改変フィブロイン繊維を板状に並べるためにフィラメントワインディングを行った。150mm×150mm×4mmのステンレス板をフィラメントワインダー(FWM-1500LF、旭化成エンジニアリング株式会社)に設置し、改変フィブロイン繊維にテンションをかけながら、隙間ができないようにステンレス板に巻きつけた。目付けは約210g/m2であった。
【0247】
(2)ポリ乳酸フィルムの作製
ポリ乳酸はペレット状のREVODE110(浙江海正生物材料社;融点163℃)を使用した。ポリ乳酸のペレット2.2gをテフロン(登録商標)シートで挟み、小型プレス機(H300、アズワン株式会社)によって200℃で10分間予備加熱した後、10MPaで5分間加圧して、ポリ乳酸フィルムを作製した。この際、厚さ130μmのテフロン(登録商標)シートをスペーサーとして挟むことでフィルムの厚さを調製した。得られたポリ乳酸フィルムは大きさ約140mm×110mm、厚さは約120μmであった。
【0248】
(3)プリプレグの作製
フィラメントワインディングでステンレス板に並べた繊維の上面と下面に、上述のとおり作製したポリ乳酸フィルムをそれぞれ1枚づつ配置した。その後、小型プレス機(H300、アズワン株式会社)によって160℃で20分間予備加熱した後、2MPaで5分間加圧して、改変フィブロイン繊維にポリ乳酸を含浸させプリプレグを得た。プリプレグは余分な部分を切断してステンレス板から外し、使用するまでデシケータで保管した。
【0249】
(4)試験片の作製
100mm×20mm×20mmの金型の内側に離型剤(フレコート770NC、ヘンケルジャパン株式会社)を十分塗布した。プリプレグは金型と同じサイズに切断した後、金型に8枚敷き詰めた。小型プレス機(H300、アズワン株式会社)によって160℃で20分間予備加熱した後、2MPaで加圧し5分間維持したあと室温まで放冷した。
【0250】
以上の方法により、改変フィブロイン繊維と、該改変フィブロイン繊維に含浸したポリ乳酸とからなるプリプレグが得られた。
【配列表】