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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】ポリイミド
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
C08G73/10
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020006973
(22)【出願日】2020-01-20
(65)【公開番号】P2020117699
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2019007833
(32)【優先日】2019-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】繁田 朗
(72)【発明者】
【氏名】吉田 猛
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐己
(72)【発明者】
【氏名】竹内 耕
(72)【発明者】
【氏名】杉本 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-091644(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208644(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性で、アミド系溶媒に不溶性のポリイミドであり、そのジアミン成分において、脂肪族ジアミンとしてダイマージアミンを全ジアミン成分に対し1モル%超、50モル%未満含み、芳香族ジアミンとしてp-フェニレンジアミンを含むことを特徴とするポリイミド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電特性(誘電正接)、耐熱性、耐薬品性、熱圧着性に優れたポリイミド(PI)に関するものである。このPIは、高周波帯域用のプリント回路やアンテナ基板等を構成する部材として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
高周波帯域用のプリント回路やアンテナ等に用いられるフレキシブル高周波基板においては、絶縁層を構成する部材として耐熱性、寸法安定性に優れたPIが用いられている。このPIにおいては、その誘電特性(誘電正接)を向上させることが求められる。 誘電特性に優れたPIとしては、例えば、ジアミン成分として、ダイマジアミン(以下、「DDA」と略記することがある)等の脂肪族ジアミンを用いたPIが提案されている。特許文献1には、ジアミン成分として、DDAを1~15モル%用いたPIが開示されている。しかしながら、ここに開示されたPIは、非熱可塑性のPIであり、熱可塑性、すなわち熱圧着性を有していないために、高周波基板等の接着層として用いることはできなかった。
【0003】
一方、DDA等の脂肪族ジアミンを用いたPIであって、熱可塑性を有するPIとしては、例えば、特許文献2には、DDAを、全ジアミン成分に対し、50質量%以上用いたPIが開示されている。また、特許文献3には、ジアミン成分として、DDAを、全ジアミン成分に対し、20モル%以上用いたPIが開示されている。しかしながら、ここに開示されたPIは、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド系溶媒に溶解するPIであり、高周波基板等の絶縁層を構成する部材として用いるには、耐薬品性が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6422437号公報
【文献】特許第6306586号公報
【文献】特開2018-170417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決するものであり、誘電特性、耐熱性に優れ、しかも耐薬品性、熱圧着性を有するPIの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、脂肪族ジアミンをジアミン成分として含むPIを特定のものとすることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
本発明は、以下を趣旨とするものである。
<1> 熱可塑性で、アミド系溶媒に不溶性のPIであり、そのジアミン成分として、脂肪族ジアミンを全ジアミン成分に対し1モル%超、50モル%未満含み、芳香族ジアミンとしてp-フェニレンジアミンを含むことを特徴とするPI。
<2> 脂肪族ジアミンが、炭素数10以上のアルキレン基を有するジアミンであることを特徴とする前記PI。
【発明の効果】
【0008】
本発明のPIは、誘電特性、耐熱性に優れ、しかも熱圧着性、耐薬品性を有する。従い、高周波帯域用のプリント回路やアンテナ基板等の基板の部材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明のPIは、そのジアミン成分として、脂肪族ジアミンを全ジアミン成分に対し1モル%超、50モル%未満含むことが必要である。このPIは、基材上に、脂肪族ジアミンを全ジアミン成分に対し1モル%超、50モル%未満用いたポリアミック酸(PAA)溶液を基材上に塗布、乾燥、熱硬化することにより得ることができる。脂肪族ジアミンの配合量は、全ジアミン成分に対し5モル%超、45モル%未満とすることが好ましく、10モル%超、40モル%未満とすることがさらに好ましい。
【0011】
脂肪族ジアミンの具体例としては、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、3(4),8(9)-ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、4,4′-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4′-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、1,4-ジアミノブタン、1,10-ジアミノデカン(10-DA)、1,12-ジアミノドデカン(12-DA)、1,7-ジアミノヘプタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,5-ジアミノペンタン、1,8-ジアミノオクタン、1,3-ジアミノプロパン、1,11-ジアミノウンデカン、1,16-ヘキサデカメチレンジアミン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、ダイマジアミン(DDA)を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、10-DA、12-DA、DDAが好ましい。
なお、DDAは、炭素数24~48のダイマ酸から誘導される脂肪族ジアミンであり、「プリアミン1071、同1073、同1074、同1075」(クローダジャパン社製の商品名)、「バーサミン551、同552」(コグニスジャパン社製の商品名)等の市販品を用いることができる。
【0012】
本発明のPIは、熱可塑性を有するPIである。ここで、熱可塑性PIとは、熱圧着性を有するPIであり、そのガラス転移温度(Tg)が、DMA(動的粘弾性測定装置)による測定値で、300℃以下であるPIをいう。このPIのTgは、PIの耐熱性確保の観点から、200℃以上、280℃以下とすることが好ましい。このようなTgとすることにより、350℃以下のプレス温度で、このPIと基材(PIフィルム、銅箔、ガラス板等)とを熱圧着することができる。
【0013】
本発明のPIは、アミド系溶媒に不溶性のPIである。ここで、「アミド系溶媒に不溶」とは、25℃で、アミド系溶媒に対する溶解度が、1質量%未満であることをいう。このようにすることにより、高周波基板用の部材としてPIを用いた際に、良好な耐薬品性を確保することができる。アミド系溶媒とは、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等をいう。
【0014】
本発明のPIを得るには、以下に述べるPAA(PI前駆体)を構成するモノマの組み合わせを選択すればよい。
【0015】
PAA溶液は、例えば、含窒素極性溶媒中、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン(1モル%超、50モル%未満の脂肪族ジアミンと、50モル%以上、99モル%以下の他のジアミンとからなる混合物)とが略等モルになるように配合し、10~70℃で重合反応させ、均一溶液として得ることができる。ここで、含窒素極性溶媒としては、アミド系溶媒、尿素系溶媒が好ましい。アミド系溶媒としては、前記したアミド系溶媒を挙げることができる。尿素系溶媒としては、例えば、テトラメチル尿素、ジメチルエチレン尿素を挙げることができる。含窒素極性溶媒は、これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、DMAcおよびNMPが好ましい。
【0016】
テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4′-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、3,3′,4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等のテトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、BPDA、PMDAが好ましい。
【0017】
前記「他のジアミン」の具体例としては、p-フェニレンジアミン(PDA)、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4′-ジアミノビフェニル、4,4′-ジアミノ-2,2′-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(PFMB)、3,3′-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、3,3′-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(FBAPP)、2,2′-ジビニル-4,4′-ジアミノビフェニル、2,2′-ジメチル-4,4′-ジアミノビフェニル、2,2′-ジエチル-4,4′-ジアミノビフェニル、2,2′,6,6′-テトラメチル-4,4′-ジアミノビフェニル、9,9‐ビス(4‐アミノフェニル)フルオレン等のジアミンを挙げることができる。 これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、PDA、BAPP、PFMB、FBAPPが好ましい。
【0018】
本発明のPIは、前記PAA溶液を基材上に塗布、100~150℃で乾燥して、200℃以上の温度で熱硬化(熱イミド化)することにより、厚みが1~200μm程度のフィルム状の成形体として得ることができる。基材としてはPIフィルム、銅箔、ガラス板等を用いることができる。熱硬化に際しては、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0019】
このようにして得られる本発明のPIの誘電特性としては、10GHzにおける誘電正接(Df)として、0.005以下とすることが好ましく、0.004以下とすることがより好ましく、0.003以下とすることがさらに好ましい。Dfは、ネットワークアナライザを用いた共振法により確認することができる。
本発明のPIは、ジアミン成分として脂肪族ジアミンを用いているので、この効果により、Dfをこのような低い数値とすることができる。
【実施例
【0020】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0021】
<実施例1>
ガラス製反応容器に、窒素ガス雰囲気下、ジアミン成分として、PDA:0.5モル、DDA(クローダジャパン株式会社製「プリアミン1075」、分子量:549):0.1モル、テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDA:0.61モル、溶媒としてNMPを仕込み、攪拌下、50℃で10時間反応させることにより、固形分濃度が18質量%の均一なPAA溶液を得た。
次に、厚み18μmのガラス板上に、PAA溶液を塗布し、しかる後、窒素ガス雰囲気下、130℃で20分乾燥した後、徐々に昇温して、300℃で60分処理後、ガラス板からPI被膜を剥離することにより、厚みが20μmのPIフィルム(A-1)を得た。
A-1のTg(DMA法)は、251℃であり熱可塑性を有していた。また、A-1は、NMPに不溶性であった。A-1のDfは、0.0029であり、良好な誘電特性を有していた。これらの結果を表1に示した。
【0022】
<実施例2>
PAA溶液におけるジアミン組成を、PDA:0.47モル、DDA:0.13モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-2)を得た。A-2のTg(DMA法)は、235℃であり熱可塑性を有していた。また、A-2は、NMPに不溶性であった。A-2の諸特性を表1に示した。
【0023】
<実施例3>
PAA溶液におけるジアミン組成を、PDA:0.45モル、FBAPP:0.05モル、DDA:0.1モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-3)を得た。A-3のTg(DMA法)は、246℃であり熱可塑性を有していた。また、A-3は、NMPに不溶性であった。A-3の諸特性を表1に示した。
【0024】
<実施例4>
PAA溶液におけるジアミン組成を、PDA:0.45モル、BAPP:0.05モル、DDA:0.1モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-4)を得た。A-4のTg(DMA法)は、251℃であり熱可塑性を有していた。また、A-4は、NMPに不溶性であった。A-4の諸特性を表1に示した。
【0025】
<実施例5>
PAA溶液におけるジアミン組成を、PDA:0.45モル、BAPP:0.05モル、12-DA:0.01モル、DDA:0.09モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-5)を得た。A-5のTg(DMA法)は、227℃であり熱可塑性を有していた。また、A-5は、NMPに不溶性であった。A-5の諸特性を表1に示した。
【0026】
<実施例6>
PAA溶液におけるジアミン組成を、PDA:0.45モル、BAPP:0.05モル、10-DA:0.01モル、DDA:0.09モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-6)を得た。A-6のTg(DMA法)は、219℃であり熱可塑性を有していた。また、A-6は、NMPに不溶性であった。A-6の諸特性を表1に示した。
【0027】
<比較例1>
PAA溶液におけるジアミン組成を、PDA:0.57モル、DDA:0.03モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(B-1)を得た。B-1のTg(DMA法)は、300℃超であり熱可塑性を有していなかった。また、B-1は、NMPに不溶性であった。B-1の諸特性を表1に示した。
【0028】
<比較例2>
PAA溶液におけるテトラカルボン酸二無水物組成をBPDA:0.41モル、PMDA:0.2モル、ジアミン組成を、PDA:0.54モル、DDA:0.06モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(B-2)を得た。B-2のTg(DMA法)は、300℃超であり熱可塑性を有していなかった。また、B-2は、NMPに不溶性であった。B-2の諸特性を表1に示した。
【0029】
<比較例3>
PAA溶液におけるジアミン組成を、ODA:0.2モル、FBAPP:0.1モル、DDA:0.3モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(B-3)を得た。B-3のTg(DMA法)は、175℃であり熱可塑性を有していたが、耐熱性としては低いものであった。また、B-3は、NMPに溶解した。B-3の諸特性を表1に示した。
【0030】
<比較例4>
PAA溶液におけるテトラカルボン酸二無水物組成をODPA:0.51モル、BPDA:0.1モル、ジアミン組成を、BAPP:0.2モル、DDA:0.4モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(B-4)を得た。B-4のTg(DMA法)は、136℃であり熱可塑性を有していたが、耐熱性としては低いものであった。また、B-4は、NMPに溶解した。B-4の諸特性を表1に示した。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例で示した通り、本発明のPIは、熱可塑性であるので、熱圧着性を有していること、さらに、NMPに不溶性であるので、良好な耐薬品性を有していることが判る。また、Dfは0.004以下と低い数値であり、良好な誘電特性を有していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のPIは、誘電特性、耐熱性に優れ、しかも熱圧着性、耐薬品性を有する。従い、高周波帯域用のプリント回路やアンテナ基板等の基板の部材として好適に用いることができる。