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特許7503290食品性能改良剤及びこれを用いた食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】食品性能改良剤及びこれを用いた食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/00 20160101AFI20240613BHJP
   A21D 2/26 20060101ALN20240613BHJP
   A23L 7/10 20160101ALN20240613BHJP
   A23L 13/00 20160101ALN20240613BHJP
   A23L 13/70 20230101ALN20240613BHJP
【FI】
A23L29/00
A21D2/26
A23L7/10 102
A23L13/00 A
A23L13/00 Z
A23L13/70
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020011456
(22)【出願日】2020-01-28
(65)【公開番号】P2021114954
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】500015984
【氏名又は名称】清田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘明
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/189065(WO,A1)
【文献】特表2019-511252(JP,A)
【文献】国際公開第00/001251(WO,A1)
【文献】特開2017-143746(JP,A)
【文献】国際公開第2014/115894(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/096839(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/152099(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/10 - 29/00
A21D 2/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉類や魚介類からなる食品の製造段階において使用され、当該食品の食味及び歩留り向上の性能を改良するための食品性能改良剤であって、
Aeribacillus pallidusを基原とする4-α-グルカノトランスフェラーゼを主たる構成要素とし、且つ、デンプンを従たる構成要素として含有し、前記主たる構成要素である4-α-グルカノトランスフェラーゼが前記従たる構成要素であるデンプンを改質することを特徴とする食品性能改良剤。
【請求項2】
記デンプンは、米デンプンタピオカデンプン、ワキシーコーンスターチ、サツマイモデンプン、小麦デンプン、リン酸架橋デンプンから選定される小粒子からなるデンプンであることを特徴とする請求項に記載の食品性能改良剤。
【請求項3】
肉類や魚介類からなる食品の味及び歩留り向上の性能を改良されてなる食品の製造方法であって、
性能改良の対象となる食品の原材料又は仕掛工程品にAeribacillus pallidusを基原とする4-α-グルカノトランスフェラーゼを主たる構成要素とし、且つ、デンプンを従たる構成要素として含有する食品性能改良剤を付与する付与工程と、
前記付与工程後の食品の原材料又は仕掛工程品に加熱処理を施す加熱工程とを有し、
前記加熱工程において前記主たる構成要素である4-α-グルカノトランスフェラーゼが前記従たる構成要素であるデンプンを改質することを特徴とする食品の製造方法。
【請求項4】
前記デンプンは、米デンプン、タピオカデンプン、ワキシーコーンスターチ、サツマイモデンプン、小麦デンプン、リン酸架橋デンプンから選定される小粒子からなるデンプンであることを特徴とする請求項3に記載の食品の製造方法。
【請求項5】
前記付与工程において、
前記性能改良の対象となる食品の原材料又は仕掛工程品に対して、0℃~50℃の温度範囲で前記食品性能改良剤の水溶液を作用させることを特徴とする請求項3又は4に記載の食品の製造方法。
【請求項6】
前記加熱工程において、
前記食品性能改良剤を付与した食品の原材料又は仕掛工程品に対して、60℃~300℃の温度範囲で加熱処理を施すことを特徴とする請求項3~5のいずれか1つに記載の食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食味及び歩留り向上の性能を改良するための食品性能改良剤、これを用いて性能を改良した食品、及び、当該食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品業界において、食味改良など食品の性能を向上させる研究が盛んに行われている。また、レトルト食品なども多く流通することから、それらの製造や流通などを考えると食味安定性や製造時の歩留りなども重要な要素となる。しかし、食品といっても、肉類や魚介類を調理した食品、パン類、菓子類など、その素材と調理法は全く異なったものである。従って、食味、食味安定性及び歩留り向上などの食品の性能を向上させる調理法や食品性能改良剤などは、食品の種類や目的ごとにそれぞれ独自な方法が提案されている。
【0003】
例えば、肉類や魚介類を例にとれば、唐揚げ、とんかつ、焼き肉、ステーキ、てんぷらなどの食感を向上させ、且つ、時間が経ってもジューシーな食感を維持することが求められる。更に、調理の際には、食材の歩留りも要求される。一方、パン類や菓子類などの場合にも、それらの主原料である小麦中のデンプンの老化を抑制し、製品のボリュームアップや、柔らかさ、しっとり感、もちもち感などの向上が求められる。
【0004】
肉類や魚介類の改良については、例えば、下記特許文献1~4には、リン酸塩、炭酸塩などのアルカリ剤を利用して肉組織を改質する方法が提案されている。これらの方法では、ジューシー感の改善や歩留まりの向上効果は認められるが、肉組織が均一化して繊維感が損なわれるという問題があった。
【0005】
また、下記特許文献5には、カルシウム塩と米デンプンとを併用する方法が提案されている。この方法では、ジューシーな食感を付与することはできるが、食感がとろけてしまい繊維感がない。
【0006】
また、下記特許文献6には、プロテアーゼとクエン酸三ナトリウムなどのアルカリ剤を併用する方法が提案されている。この方法では、ジューシーな食感を付与することはできるが、あくまでもひき肉製品向けであり食感がとろけてしまい繊維感がない。また、常温時にも反応が進んでしまい、行程中に添加後初流1時間後と工程終流24時間後では軟化効果の変化量が極めて大きく品質が安定しないという問題があった。
【0007】
一方、パン類、菓子類などの改良については、例えば、イーストを活性化するためにイーストフードの利用が従来から行われている。しかし、イーストフードの利用には疑問の声もあり、これに依存しない方法の提案が検討されている。また、例えば、下記特許文献7には、餅生地の製造において酵素を利用する提案がなされている。この方法は、トランスグルタミナーゼ、ブランチングエンザイム、α-グルコシダーゼ、及び還元剤を併用し、餅生地のべたつきを低下させ切断に必要な餅生地の硬度を得ようというものである。この提案は、酵素の利用という意味では興味深いがあくまでも餅生地に限られた方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平4-036167号公報
【文献】特開2001-000148号公報
【文献】特許第2568946号公報
【文献】特開2000-060492号公報
【文献】WO2013/015401号公報
【文献】特開2014-158463号公報
【文献】特開2016-171762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、肉類や魚介類については、ジューシーな食感の改善を求めるものが多く、その結果、繊維感が損なわれるなどの食味という意味で良好な方法が見出されていない。また、食味の安定性や歩留まりの向上についての提案も少ない。また、パン類、菓子類などについても同様である。
【0010】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、肉類や魚介類からなる食品に利用でき、特定の食感のみを改善することで他の触感を低下させることなく、食品本来の食味を維持向上させると共に歩留り向上などの食品の性能を改良することのできる食品性能改良剤及びこれを用いた食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、デンプン等に作用する特定の酵素を利用して、でんぷんを原料とするパン類、菓子類などだけではなく、肉類や魚介類についても効果を発揮することのできる方法を見出して本発明の完成に至った。
【0012】
即ち、本発明に係る食品性能改良剤は、請求項1の記載によれば、
肉類や魚介類からなる食品の製造段階において使用され、当該食品の食味及び歩留り向上の性能を改良するための食品性能改良剤であって、
Aeribacillus pallidusを基原とする4-α-グルカノトランスフェラーゼを主たる構成要素とし、且つ、デンプンを従たる構成要素として含有し、前記主たる構成要素である4-α-グルカノトランスフェラーゼが前記従たる構成要素であるデンプンを改質することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、請求項の記載によれば、請求項に記載の食品性能改良剤であって、
記デンプンは、米デンプンタピオカデンプン、ワキシーコーンスターチ、サツマイモデンプン、小麦デンプン、リン酸架橋デンプンから選定される小粒子からなるデンプンであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る食品の製造方法は、請求項の記載によれば、
肉類や魚介類からなる食品の味及び歩留り向上の性能を改良されてなる食品の製造方法であって、
性能改良の対象となる食品の原材料又は仕掛工程品にAeribacillus pallidusを基原とする4-α-グルカノトランスフェラーゼを主たる構成要素とし、且つ、デンプンを従たる構成要素として含有する食品性能改良剤を付与する付与工程と、
前記付与工程後の食品の原材料又は仕掛工程品に加熱処理を施す加熱工程とを有し、
前記加熱工程において前記主たる構成要素である4-α-グルカノトランスフェラーゼが前記従たる構成要素であるデンプンを改質することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、請求項の記載によれば、請求項に記載の食品の製造方法であって、
前記デンプンは、米デンプン、タピオカデンプン、ワキシーコーンスターチ、サツマイモデンプン、小麦デンプン、リン酸架橋デンプンから選定される小粒子からなるデンプンであることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、請求項の記載によれば、請求項3又は4に記載の食品の製造方法であって、
前記付与工程において、
前記性能改良の対象となる食品の原材料又は仕掛工程品に対して、0℃~50℃の温度範囲で前記食品性能改良剤の水溶液を作用させることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、請求項の記載によれば、請求項3~5のいずれか1つに記載の食品の製造方法であって、
前記加熱工程において、
前記食品性能改良剤を付与した食品の原材料又は仕掛工程品に対して、60℃~300℃の温度範囲で加熱処理を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
上記構成によれば、本発明に係る食品性能改良剤は、食品の製造段階において使用され、食品の食味及び歩留り向上の性能を改良するためのものである。また、食品性能改良剤は、Aeribacillus pallidusを基原とする4-α-グルカノトランスフェラーゼを主たる構成要素とし、且つ、デンプンを従たる構成要素として含有し、主たる構成要素である4-α-グルカノトランスフェラーゼが従たる構成要素であるデンプンを改質する。このことにより、肉類や魚介類からなる食品に利用でき、特定の食感のみを改善することで他の触感を低下させることなく、食品本来の食味を維持向上させると共に歩留り向上などの食品の性能を改良することのできる食品性能改良剤を提供することができる。
【0024】
また、上記構成によれば、従たる構成要素であるデンプンは、米デンプンタピオカデンプン、ワキシーコーンスターチ、サツマイモデンプン、小麦デンプン、リン酸架橋デンプンから選定される小粒子からなるデンプンであることが好ましい。このことにより、上記作用効果をより具体的に、且つより効果的に発揮することができる。
【0027】
また、上記構成によれば、本発明に係る食品の製造方法は、肉類や魚介類からなる食品の味及び歩留り向上の性能を改良されてなる食品の製造方法である。また、この製造方法は、性能改良の対象となる食品の原材料又は仕掛工程品にAeribacillus pallidusを基原とする4-α-グルカノトランスフェラーゼを主たる構成要素とし、且つ、デンプンを従たる構成要素として含有する食品性能改良剤を付与する付与工程と、付与工程後の食品の原材料又は仕掛工程品に加熱処理を施す加熱工程とを有している。また、加熱工程において、主たる構成要素である4-α-グルカノトランスフェラーゼが従たる構成要素であるデンプンを改質する。このことにより、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0029】
また、上記構成によれば、付与工程において、性能改良の対象となる食品の原材料又は仕掛工程品に対して、0℃~50℃の温度範囲で食品性能改良剤の水溶液を作用させるようにしてもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に、且つより効果的に発揮することができる。
【0030】
また、上記構成によれば、加熱工程において、食品性能改良剤を付与した食品の原材料又は仕掛工程品に対して、60℃~300℃の温度範囲で加熱処理を施すようにしてもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に、且つより効果的に発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に係る食品性能改良剤は、グルコシルトランスフェラーゼを主たる構成要素とする。グルコシルトランスフェラーゼは、グルコシル基転移酵素であってグルコース残基の転移を触媒する。グルコシルトランスフェラーゼに分類される酵素には、多種の酵素がある。本発明においては、これらの中でも、α-グルカノトランスフェラーゼが好ましい。また、α-グルカノトランスフェラーゼとしては、例えば、4-α-グルカノトランスフェラーゼや6-α-グルカノトランスフェラーゼなどが挙げられる。
【0032】
また、本発明においては、4-α-グルカノトランスフェラーゼを使用することが特に好ましい。4-α-グルカノトランスフェラーゼは、1,4-α-グルカンの一部分をグルコース又は1,4-α-グルカンなどの炭化水素の別部分に転移させる化学反応を触媒する。なお、本発明においては、4-α-グルカノトランスフェラーゼは、食品を構成するデンプン又は食品の製造段階において添加するデンプンを基質として改質する。具体的には、デンプンに含まれるアミロースやアミロペクチンを基質として、これを改質して分子鎖を長くし、また、分枝させるなどの機作を有している。
【0033】
なお、本発明においては、食品に4-α-グルカノトランスフェラーゼを付与して酵素を基質に馴染ませる段階(後述する付与工程)よりも、酵素を基質に作用させる段階(後述する加熱工程)において最も酵素が作用することを目的としている。この目的には、酵素の耐熱性が重要であり、その意味から4-α-グルカノトランスフェラーゼは良好である。また、本発明においては、4-α-グルカノトランスフェラーゼの基原について特に限定するものではないが、特に耐熱性に優れた酵素を使用することが好ましい。例えば、Aeribacillus pallidusを基原とするものなどが好ましい。
【0034】
以下、本発明に係るグルコシルトランスフェラーゼを使用した食品性能向上剤について説明するが、その例として、4-α-グルカノトランスフェラーゼを使用した食品性能改良剤について具体的に説明する。な
お、そのことにより、本発明が4-α-グルカノトランスフェラーゼ
のみに限定されるものではない。
【0035】
また、本発明に係る食品性能改良剤は、性能改良の対象が菓子やパンなどの主としてデンプンからなる食品である場合には、4-α-グルカノトランスフェラーゼを主たる構成要素とする。これは、4-α-グルカノトランスフェラーゼの基質であるデンプンが菓子やパンなどの原材料として含まれているからである。
【0036】
一方、性能改良の対象が肉類や魚介類などの食品である場合には、4-α-グルカノトランスフェラーゼを主たる構成要素とし、且つ、デンプンを従たる構成要素とする。これは、4-α-グルカノトランスフェラーゼの基質であるデンプンが肉類や魚介類などには含まれておらず、食品性能改良剤に前もって含ませておくか、或いは、調理行程中の仕掛工程品に4-α-グルカノトランスフェラーゼとは別に添加する。
【0037】
ここで、4-α-グルカノトランスフェラーゼの基質であるデンプンは、特に限定するものではなく、大粒子デンプンであってもよく、或いは小粒子デンプンであってもよい。なお、酵素作用からいえば、馬鈴薯デンプン(平均粒子径50μm)のような大粒子デンプンよりも小粒子デンプンであることが好ましい。小粒子デンプンとしては、例えば、米もちデンプンや米うるちデンプンのような米デンプン(平均粒子径5μm)、ワキシーコーンスターチなどのトウモロコシデンプン(平均粒子径15μm)、サツマイモデンプン(平均粒子径15μm)、タピオカデンプン(平均粒子径20μm)、小麦デンプン(平均粒子径10~20μm)などが挙げられる。また、加工デンプンの一種であるリン酸架橋デンプンなども好ましい。特に、性能改良の対象が肉類や魚介類などの食品である場合には、デンプンを外部から添加できるので、4-α-グルカノトランスフェラーゼの効果がより顕著に現れる小粒子デンプンを使用することができる。
【0038】
また、食品性能改良剤には、主たる構成要素である4-α-グルカノトランスフェラーゼ以外に、他の添加剤を併用することができる。例えば、デンプン以外の添加剤として、例えば、酵素活性を阻害しないと考えられるデキストリン、マルトトリオース、マルトースなどのα-グルカン類を併用してもよい。更に、デンプンの1,4-α-グルコシド結合を加水分解する反応を触媒するα-グルカン分解酵素などの酵素を併用するようにしてもよい。
【0039】
次に、本発明に係る食品性能改良剤を使用した食品の製造方法について、各実施形態により説明する。なお、本発明は、以下に説明する各実施形態にのみ限定されるものではない。
【0040】
≪第1実施形態≫
本第1実施形態は、肉類や魚介類などの食品を対象とするものである。具体的には、肉類のうち鶏モモ肉を例にして唐揚げの製造方法について説明する。唐揚げで要求される食品性能としては、ジューシー感やほぐれ感などの食味が向上すると共に歩留まりも向上することが主となる。
【0041】
1.食品性能改良剤の付与工程
まず、4-α-グルカノトランスフェラーゼとデンプンとを配合して、本第1実施形態に係る食品性能改良剤を調整する。なお、4-α-グルカノトランスフェラーゼとデンプンとは、前もって配合することなく、鶏モモ肉に別々に付与するようにしてもよい。なお、上述のように、デンプンは、米デンプン(米もちデンプン、米うるちデンプン)、タピオカデンプン、ワキシーコーンスターチ、リン酸架橋デンプンのような小粒子デンプンであることが好ましいが、馬鈴薯デンプンのような大粒子デンプンであっても効果を発揮することができる。
【0042】
4-α-グルカノトランスフェラーゼとデンプンとの配合比率は、特に限定するものではないが、例えば、デンプン1gに対して、酵素活性で1unit~100unit、好ましくは、2unit~30unitの4-α-グルカノトランスフェラーゼを配合することがよい。なお、デンプン1gに対して、100unit以上の4-α-グルカノトランスフェラーゼを配合しても特に問題とはならないが、食品に対するコストの点で難しい。なお、肉類や魚介類に対するデンプンの量は、特に限定するものではないが、例えば、肉100gに対してデンプン0.5g~5g、好ましくは、1g~3g程度使用すればよい。
【0043】
肉類や魚介類に食品性能改良剤を付与する方法は、食品の加工において通常使用されるものでよい。例えば、食品性能改良剤を溶解した水溶液(4-α-グルカノトランスフェラーゼとデンプンが溶解)に肉類や魚介類を浸漬すればよい。なお、肉類に対する浸漬処方の場合には、肉類の浸潤のために炭酸塩やクエン酸塩などの食品添加用のpH調節剤を併用することが好ましい。また、浸漬温度と浸漬時間は、特に限定するものではなく、食品の種類や調理方法などにより適宜選定すればよい。例えば、浸漬温度は、0℃~50℃の温度範囲で行うようにしてもよい。また、浸漬時間は、浸漬温度との関係から酵素作用の点では大きく寄与するものではない。従って、5分~100時間、通常の調理作業からすれば5時間~20時間程度浸漬すればよい。なお、本第1実施形態における鶏モモ肉の唐揚げの場合には、通常は冷蔵4℃で10数時間浸漬すればよい。また、浸漬手法に代えて、タンブリング手法(叩き込み手法)により肉類に食品性能改良剤を付与するようにしてもよい。
【0044】
なお、この付与工程中に4-α-グルカノトランスフェラーゼは、デンプンに作用しながら肉の繊維間に浸透していく。なお、この付与工程中にも、4-α-グルカノトランスフェラーゼは基質のデンプンに作用するが、温度が低いこともあって作用程度は軽微である。
【0045】
2.食品の加熱工程
この加熱工程は、通常の食品の調理工程により行うことができる。加熱工程における処理温度は、特に限定するものではなく、食品の種類や調理方法などにより適宜選定すればよい。例えば、食品性能改良剤を付与した食品の原材料又は仕掛工程品に対して、60℃~300℃の温度範囲で加熱処理を施せばよい。このとき、高温によって4-α-グルカノトランスフェラーゼは失活していくが、ある程度の耐熱性を有しており失活前に肉類や魚介類に浸透したデンプンに作用する。この時の作用程度は酵素の主反応となる。なお、本第1実施形態における鶏モモ肉の唐揚げの場合には、通常は190℃前後の温度で4分~5分程度揚げるものである。
【0046】
この工程において、4-α-グルカノトランスフェラーゼは、基質であるデンプンに作用してアミロースやアミロペクチンの分子を長くし、且つ、分枝するように改質する。このことにより、肉類の繊維中に保持された改質デンプンは、多くの水分や肉汁を保持する能力があり、このことによりジューシー感が向上する。なお、本第1実施形態においては、従来の方法と異なり肉の繊維を破壊することがないので、繊維感を維持したままジューシー感の向上が得られる。
【0047】
以下、本第1実施形態の内容を実施例により具体的に説明する。なお、本第1実施形態は、以下の各実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0048】
本実施例1は、鶏モモ肉の唐揚げを対象とするものであり、基質としての小粒子デンプンや大粒子デンプンに対する4-α-グルカノトランスフェラーゼの作用効果を確認した。
【0049】
1.食品性能改良剤の付与工程
まず、市水30gに対して、pH調整剤として炭酸塩及びクエン酸塩を肉100g当たり0.1g溶解した浸透液を準備した。次に、浸透液に食品性能改良剤を溶解した。食品性能改良剤としては、市販の各種デンプンを肉100g当たり1g、及び、4-α-グルカノトランスフェラーゼ(天野エンザイム株式会社製)を肉100g/デンプン1g当たり30unitとした。
【0050】
使用したデンプンは、馬鈴薯デンプン(松谷化学工業株式会社製)、ワキシーコーンスターチ(株式会社サナス製)、リン酸架橋デンプン(松谷化学工業株式会社製)、米うるちデンプン(上越スターチ株式会社製)、米もちデンプン(上越スターチ株式会社製)の5種とした。また、比較例として、4-α-グルカノトランスフェラーゼとデンプンをいずれも溶解しない浸透液、4-α-グルカノトランスフェラーゼのみを溶解しデンプンを溶解しない浸透液、及び、デンプンのみを溶解し4-α-グルカノトランスフェラーゼを溶解しない浸透液を調整した。実施例及び比較例の配合量を表1に示す。
【0051】
次に、調整した実施例及び比較例の各浸透液に市販鶏モモ肉100gを冷蔵4℃で16時間浸漬した。
【0052】
2.食品の加熱工程
次に、浸漬後の鶏モモ肉の浸透液を切り、薄力粉をまぶし、190℃の油にて4分間揚げて、唐揚げを作製した。
【0053】
3.評価
本実施例1においては、食味及び歩留りを評価した。食味としては、ジューシー感とほぐれ感を官能評価により点数化した。具体的には、評価に熟練した4名の評価員が0点(不良)~5点(良好)で評価して平均値をとった。ここで、ジューシー感とは、水分と脂のバランスが好ましく、肉本来の味を有してジューシーに感じることを意味し、評点が高いほどジューシー感が良好であり好ましい。また、ほぐれ感とは、肉が硬く締まっておらず、程よくほぐれることを意味し、評点が高いほどほぐれ感が良好であり好ましい。一方、歩留りは、調理後(揚げた後)の重量を元の肉の重量で除した値(%)とした。また、総合評価として、官能評価の2項目が4点以上をA、2.5点以上をB、それ以外をCとした。評価結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1から分かるように、4-α-グルカノトランスフェラーゼとデンプンとを併用した実施例1a~1eの全ての試料について、官能評価及び歩留りともに良好で総合評価A又はBと判断された。特に、小粒子デンプンを使用した実施例1b~1eについては、総合評価Aという高い評価を得た。
【0056】
これに対して、4-α-グルカノトランスフェラーゼのみを使用しデンプンを併用しなかった比較例1gは、アルカリ剤のみの比較例1aと同様に、官能評価及び歩留りに向上効果が認められず総合評価Cという結果であった。また、デンプンのみを使用し4-α-グルカノトランスフェラーゼを使用しなかった比較例1b~1fに関しても、官能評価に若干の向上が見られたが歩留まりが向上せず総合評価Cという結果であった。
【実施例2】
【0057】
本実施例2は、上記実施例1と同様に鶏モモ肉の唐揚げを対象とするものであり、4-α-グルカノトランスフェラーゼの使用量(酵素活性)の変化による作用効果を確認した。なお、併用するデンプンとしては、上記実施例1で効果の高かった小粒子デンプンの米もちデンプンを使用した。
【0058】
1.食品性能改良剤の付与工程
上記実施例1と同様に市水30gに対して、pH調整剤として炭酸塩及びクエン酸塩を肉100g当たり0.1g溶解した浸透液を準備した。次に、浸透液に食品性能改良剤を溶解した。食品性能改良剤としては、米もちデンプン(上越スターチ株式会社製)を肉100g当たり1g、及び、4-α-グルカノトランスフェラーゼ(天野エンザイム株式会社製)を使用した。なお、本実施例2においては、4-α-グルカノトランスフェラーゼの使用量(酵素活性)を肉100g/デンプン1g当たり1unit~100unitと変化させた。
【0059】
また、比較例として、4-α-グルカノトランスフェラーゼとデンプンをいずれも溶解しない浸透液、4-α-グルカノトランスフェラーゼのみを100unit溶解しデンプンを溶解しない浸透液、及び、デンプンのみを溶解し4-α-グルカノトランスフェラーゼを溶解しない浸透液を調整した。実施例及び比較例の配合量を表2に示す。
【0060】
次に、上記実施例1と同様に、調整した実施例及び比較例の各浸透液に市販鶏モモ肉100gを冷蔵4℃で16時間浸漬した。
【0061】
2.食品の加熱工程
次に、上記実施例1と同様に、浸漬後の鶏モモ肉の浸透液を切り、薄力粉をまぶし、190℃の油にて4分間揚げて、唐揚げを作製した。
【0062】
3.評価
本実施例2においては、上記実施例1と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2から分かるように、4-α-グルカノトランスフェラーゼとデンプンとを併用した実施例2a~2iの全ての試料について、官能評価及び歩留りともに良好で総合評価A又はBと判断された。特に、4-α-グルカノトランスフェラーゼの使用量(酵素活性)を肉100g/デンプン1g当たり2unit以上使用した実施例2b~2iについては、総合評価Aという高い評価を得た。
【0065】
なお、4-α-グルカノトランスフェラーゼの使用量(酵素活性)については、30unit以上使用することにより、官能評価5.0という満点評価であった。また、歩留りについては、酵素活性の増加と共に歩留まりは向上し、15unit以上使用することにより歩留り85%以上の高い結果となった。
【0066】
これに対して、4-α-グルカノトランスフェラーゼのみを100unit使用しデンプンを併用しなかった比較例2bは、アルカリ剤のみの比較例2aと同様に、官能評価及び歩留りに向上効果が認められず総合評価Cという結果であった。また、デンプンのみを使用し4-α-グルカノトランスフェラーゼを使用しなかった比較例2cに関しても、官能評価及び歩留りに若干の向上が見られたが総合評価Cという結果であった。
【実施例3】
【0067】
本実施例3は、上記実施例1及び2と同様に鶏モモ肉の唐揚げを対象とするものであり、食品性能改良剤の付与工程において浸漬手法ではなくタンブリング手法(叩き込み手法)を用いるものである。
【0068】
1.食品性能改良剤の付与工程
まず、市水30gに食品性能改良剤を溶解して浸透液を準備した。なお、タンブリング手法においては、pH調整剤としての炭酸塩及びクエン酸塩の併用を要しない。食品性能改良剤としては、米もちデンプン(上越スターチ株式会社製)を肉100g当たり1g又は2g使用した。また、4-α-グルカノトランスフェラーゼ(天野エンザイム株式会社製)を30unit又は40unit使用した。
【0069】
また、比較例として、4-α-グルカノトランスフェラーゼとデンプンをいずれも溶解しない浸透液、4-α-グルカノトランスフェラーゼのみを30unit又は40unit溶解しデンプンを溶解しない浸透液、及び、デンプンのみを1g又は2g溶解し4-α-グルカノトランスフェラーゼを溶解しない浸透液を調整した。実施例及び比較例の配合量を表3に示す。
【0070】
次に、実施例及び比較例の各浸透液と市販鶏モモ肉100gとを混合し、タンブラーにてタンブリングを行った。タンブリング条件は、冷蔵4℃、30rpm、連続運転(休止なし)、運転時間1.0時間であった。
【0071】
2.食品の加熱工程
次に、上記実施例1及び2と同様に、浸漬後の鶏モモ肉の浸透液を切り、薄力粉をまぶし、190℃の油にて4分間揚げて、唐揚げを作製した。
【0072】
3.評価
本実施例3においては、上記実施例1及び2と同様にして評価した。評価結果を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
表3から分かるように、4-α-グルカノトランスフェラーゼとデンプンとを併用した実施例3a及び3bの試料について、官能評価及び歩留りともに良好で総合評価Aという高い評価を得た。このことにより、本実施形態の効果は、浸漬手法だけでなくタンブリング手法においても確認され、その他の手法においても利用可能であることがわかる。
【0075】
これに対して、4-α-グルカノトランスフェラーゼのみを30unit使用しデンプンを併用しなかった比較例3dは、4-α-グルカノトランスフェラーゼとデンプンの両方を使用しなかった比較例3aと同様に、官能評価及び歩留りに向上効果が認められず総合評価Cという結果であった。一方、4-α-グルカノトランスフェラーゼのみを60unit使用しデンプンを併用しなかった比較例3eは、官能評価のうちジューシー感においては効果が認められたが、ほぐれ感において効果が認められず総合評価Cという結果であった。また、デンプンのみを1g又は2g使用し4-α-グルカノトランスフェラーゼを使用しなかった比較例3b及び3cに関しても、官能評価及び歩留りに若干の向上が見られたが総合評価Cという結果であった。
【0076】
≪第2実施形態≫
本第2実施形態は、菓子やパンなどの主としてデンプンからなる食品を対象とするものである。具体的には、パン、パウンドケーキ、モチなどの製造方法について説明する。これらの食品で要求される食品性能としては、しっとり感、もちもち感などの食味が向上すると共に、時間の経過とともに変化しないことが主となる。以下、パンを例にして説明する。
【0077】
1.食品性能改良剤の付与工程
本第実施形態においては、4-α-グルカノトランスフェラーゼの基質であるデンプンがパンなどの食品の主原料として配合されている。従って、本第2実施形態に係る食品性能改良剤は、4-α-グルカノトランスフェラーゼのみ、或いはデンプン以外の成分、例えば、デキストリンなどで構成される。なお、本第2実施形態においては、簡単のため4-α-グルカノトランスフェラーゼのみからなる食品性能改良剤として説明する。
【0078】
パンなどの食品の主原料であるデンプンに対する4-α-グルカノトランスフェラーゼの配合比率は、特に限定するものではないが、例えば、デンプン1gに対して、酵素活性で1unit~100unit、好ましくは、2unit~30unitの4-α-グルカノトランスフェラーゼを使用することがよい。なお、デンプン1gに対して、100unit以上の4-α-グルカノトランスフェラーゼを配合しても特に問題とはならないが、食品に対するコストの点で難しい。
【0079】
食品の製造段階において食品性能改良剤を付与する方法は、個々の食品の調理の仕方によって異なるが、例えば、パンの場合であればパン生地を調整する段階で4-α-グルカノトランスフェラーゼを混合すればよい。なお、この付与工程中に4-α-グルカノトランスフェラーゼは、デンプンへの作用を開始するが、温度が低いこともあって作用程度は軽微である。
【0080】
2.食品の加熱工程
この加熱工程は、パンの場合であれば通常の焼成工程により、例えば、200℃前後の温度で20分~30分程度焼き上げる。このとき、高温によって4-α-グルカノトランスフェラーゼは失活していくが、ある程度の耐熱性もありデンプンに作用する。この時の作用程度は酵素の主反応となる。なお、本第2実施形態における加熱工程は、後述する各実施形態により具体的に説明する。
【0081】
この工程において、4-α-グルカノトランスフェラーゼは、基質であるデンプンに作用してアミロースやアミロペクチンの分子を長くし、且つ、分枝するように改質する。この作用により改質された改質デンプンは、水分を長く保持する性能やデンプン自体の弾力性が向上し、このことによりしっとり感ともちもち感が向上する。
【0082】
以下、本第2実施形態の内容を実施例により具体的に説明する。なお、本第2実施形態は、以下の各実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例4】
【0083】
本実施例4は、パンを対象とするものであり、基質としてのデンプンは、パン生地の主原料として入っている。このパン生地のデンプンに対する4-α-グルカノトランスフェラーゼの作用効果を確認した。
【0084】
1.食品性能改良剤の付与工程
まず、強力粉(スーパーカメリア)371gにイースト(サフ社のインスタントドライイースト赤)を7g、市水220gをモルダーに投入し、低速で3分間混合し、中速で1分間混合し生地を得た。次に、生地を温度28℃、湿度78%にて、2時間ホイロにて発酵させ中種を得た。次に、中種に強力粉159.4g、脱脂粉乳10g、食塩10g、水146.2g及び4-α-グルカノトランスフェラーゼ(天野エンザイム株式会社製)を小麦1g当たり10unit添加した。また、4-α-グルカノトランスフェラーゼを添加しないものを比較例とした。実施例及び比較例の配合量を表4に示す。
【0085】
本捏ねは、低速で30秒間、中速で3分間行ったところで、マーガリンを21g添加した。次に、低速で1分間混合し、中速で4分間さらに捏ねた。得られた生地を、24℃で20分間寝かし、その後生地を成型したのち、再度24℃で20分間寝かし丸めて成型した。更に、ホイロに生地を入れ、温度38℃、湿度85%にて53分間発酵させた。
【0086】
2.食品の加熱工程
次に、発酵後の生地を焼成条件210℃で27分間焼成を行ってパンを作製した。
【0087】
3.評価
本実施例4においては、食味としては、しっとり感ともちもち感を官能評価により点数化した。具体的には、評価に熟練した4名の評価員が0点(不良)~5点(良好)で評価して平均値をとった。ここで、しっとり感とは、表面がしっとりしており、舌にざらつきを感じにくい状態であることを意味し、評点が高いほどしっとり感が良好であり好ましい。また、もちもち感とは、噛み込んだ際に歯に感じるもちもちとした反発力を意味し、評点が高いほどもちもち感が良好であり好ましい。また、総合評価として、官能評価の2項目が4点以上をA、2.5点以上をB、それ以外をCとした。なお、官能評価は、焼成1日後及び3日後に行い、食味安定性も評価した。評価結果を表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
表4から分かるように、4-α-グルカノトランスフェラーゼを付与した実施例4a及び4bの試料について、官能評価の結果は良好で総合評価A又はBと判断された。なお、焼成3日後の実施例4bは、焼成1日後の実施例4aに比べれば低下しているが、しっとり感ともちもち感のいずれにおいても平均3.0点であり、食品性能改良剤により食味の向上と食味安定性が評価された。なお、比較例4a及び4bの試料においては、焼成1日後から既に総合評価Cと判断された。
【実施例5】
【0090】
本実施例4は、パウンドケーキを対象とするものであり、基質としてのデンプンは、ケーキ生地の主原料として入っている。このケーキ生地のデンプンに対する4-α-グルカノトランスフェラーゼの作用効果を確認した。
【0091】
1.食品性能改良剤の付与工程
まず、マーガリン250gにグラニュー糖250gを混合した後、攪拌した全卵を250g混合し、その後薄力粉250g及び4-α-グルカノトランスフェラーゼ(天野エンザイム株式会社製)を小麦1g当たり10unit添加した。また、4-α-グルカノトランスフェラーゼを添加しないものを比較例とした。実施例及び比較例の配合量を表5に示す。
【0092】
2.食品の加熱工程
次に、混合後のケーキ生地を40gずつカップに流し、210℃で20分間焼成を行ってパウンドケーキを作製した。
【0093】
3.評価
本実施例5においては、上記実施例4と同様にして官能評価を行った。なお、官能評価は、焼成1日後、3日後、14日後及び90日後に行い、長期間の食味安定性も評価した。評価結果を表5に示す。
【0094】
【表5】
【0095】
表5から分かるように、4-α-グルカノトランスフェラーゼを付与した実施例5a~5dの全ての試料について、官能評価の結果は良好で総合評価A又はBと判断された。なお、焼成3日後の実施例5bまでは総合評価Aであったが、焼成14日後の実施例5cでは総合評価Bと若干低下した。しかし、実施例5cの総合評価Bは、焼成1日後の比較例5aよりも高い評価であり、食品性能改良剤により食味が向上されたことが分かる。更に、焼成90日後の実施例5dにおいても総合評価Bを維持しており、長期に亘って食味が安定していることが分かる。なお、比較例5a~5dの全ての試料においては、焼成1日後から既に総合評価Cと判断された。
【実施例6】
【0096】
本実施例4は、モチの一種である白玉団子を対象とするものであり、基質としてのデンプンは、練り上げた生地の主原料として入っている。この生地のデンプンに対する4-α-グルカノトランスフェラーゼの作用効果を確認した。
【0097】
1.食品性能改良剤の付与工程
まず、もち米粉100gに対して4-α-グルカノトランスフェラーゼ(天野エンザイム株式会社製)、又は、6-α-グルカノトランスフェラーゼを小麦1g当たり20unit添加し混合した。また、いずれの酵素も添加しないものを比較例とした。実施例及び比較例の配合量を表6に示す。なお、表6においては、4-α-グルカノトランスフェラーゼを酵素X、6-α-グルカノトランスフェラーゼを酵素Yとして記載した。
【0098】
2.食品の加熱工程
次に、沸騰したお湯を100g添加し、蒸練、練り上げを行った。本実施例4においては、この沸騰したお湯による練り上げが加熱処理に対応する。練り後、上白糖を200g添加し、混錬後、丸く成型した。成型した団子を氷水に入れ、水を切り白玉団子を作製した。
【0099】
3.評価
本実施例6においては、上記実施例4及び5と同様にして官能評価を行った。なお、官能評価は、冷蔵1日後、3日後及び5日後に行い、長期間の食味安定性も評価した。評価結果を表6に示す。
【0100】
【表6】
【0101】
表6から分かるように、4-α-グルカノトランスフェラーゼ(酵素X)を付与した実施例6b、6d、6fの試料について、官能評価の結果は良好で総合評価A又はBと判断された。また、6-α-グルカノトランスフェラーゼ(酵素Y)を付与した実施例6a、6c、6eの試料については、冷蔵3日後までの官能評価の結果は良好で総合評価Bと判断された。しかし、冷蔵5日後には総合評価Cに低下した。なお、比較例6a~7cの全ての試料においては、冷蔵1日後は総合評価Bであったが、冷蔵3日後には総合評価Cに低下した。これらのことから、本実施例6の用途においては、酵素Yよりも酵素Xの方が有効である。しかし、酵素Yにおいても、官能評価の結果は比較例より向上していることが分かる。
【0102】
以上説明したように、本発明によれば、肉類や魚介類からなる食品に利用でき、特定の食感のみを改善することで他の触感を低下させることなく、食品本来の食味を維持向上させると共に歩留り向上などの食品の性能を改良することのできる食品性能改良剤及びこれを用いた食品の製造方法を提供することができる。

【0103】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記各実施形態においては、グルコシルトランスフェラーゼとして、主に4-α-グルカノトランスフェラーゼを使用するものである。しかし、これに限定するものではなく、他のグルコシルトランスフェラーゼ、例えば、実施例6でも使用した6-α-グルカノトランスフェラーゼを使用するようにしてもよい。また、これら以外のグルコシルトランスフェラーゼを使用するようにしてもよい。
(2)上記各実施形態においては、食品性能改良剤の構成要素としてグルコシルトランスフェラーゼとデンプンのみを使用した。しかし、これに限定するものではなく、酵素活性を阻害しない成分であればその他の成分を配合するようにしてもよい。
(3)上記第1実施形態においては、肉類や魚介類などの食品の例として鶏モモ肉の唐揚げに食品性能改良剤を使用して説明した。しかし、これに限定するものではなく、とんかつ、焼き肉、ステーキ、てんぷら、ボイルした魚介類(イカ、エビ、タコ、ホタテ、カニなど)、或いはその他の食品に食品性能改良剤を使用してもよい。
(4)上記第2実施形態においては、パン、パウンドケーキ、白玉団子に食品性能改良剤を使用して説明した。しかし、これに限定するものではなく、その他の菓子類やパン類、又は、デンプンを主原料とする他の食品に食品性能改良剤を使用してもよい。