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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】取付金具
(51)【国際特許分類】
   F16B 2/12 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
F16B2/12 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020143327
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038704
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】599111840
【氏名又は名称】株式会社アンテック
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(72)【発明者】
【氏名】平田 慶太
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-065982(JP,A)
【文献】特開2010-178574(JP,A)
【文献】特開2003-264409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被取付部材を一方向に挟み込むように配置される一対の板状の挟持部と、前記一対の挟持部を前記一方向に接続する接続部とを有する取付本体部と、
前記一対の挟持部のうち一方の挟持部に対して前記一方向に移動可能であり、前記被取付部材を前記一対の挟持部のうち他方の挟持部に押し付ける押付部材と、
を備え、
前記被取付部材に取り付けられる取付金具であって、
前記一方の挟持部は、
前記押付部材が貫通する貫通穴を含み、前記押付部材が前記貫通穴を貫通した状態で前記押付部材を前記一方向に保持する保持部と、
前記一方の挟持部を厚み方向に貫通するスリット部と、
を有し、
前記取付金具は、
板部材によって構成され、前記押付部材と前記被取付部材との間に厚み方向が前記一方向と一致するように位置し且つ前記押付部材の前記一方向への移動によって前記一方向に弾性変形可能な弾性変形部と、
前記スリット部内に一部が挿入されて前記弾性変形部を前記取付本体部に対して前記一方向以外の方向で位置決めする位置決め部と、
を有する押圧変形部材を備え、
前記弾性変形部及び前記位置決め部は、前記板部材によって一体で形成されている、
取付金具。
【請求項2】
請求項1に記載の取付金具において、
前記弾性変形部は、前記押付部材によって前記一方向に押圧されていない状態で、前記板部材同士の厚み方向の間に、所定の隙間を有しており、
前記弾性変形部は、前記板部材が厚み方向に折り曲げられた折り曲げ部を有する、取付金具
【請求項3】
請求項1または2に記載の取付金具において、
前記他方の挟持部が前記被取付部材と接触する面には、前記他方の挟持部の他の面よりも大きい摩擦係数を有する第1滑り止め部が設けられている、取付金具。
【請求項4】
請求項1からのいずれか一つに記載の取付金具において、
前記弾性変形部が前記被取付部材と接触する面には、前記弾性変形部の他の面よりも大きい摩擦係数を有する第2滑り止め部が設けられている、取付金具。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一つに記載の取付金具において、
前記押付部材は、ネジ部を有し、
前記一方の挟持部における前記貫通穴は、前記ネジ部と螺合するネジ穴部である、取付金具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被取付部材に取り付けられる取付金具に関する。
【背景技術】
【0002】
被取付部材に取り付けられる取付金具が知られている。前記取付金具は、前記被取付部材に対して取り付けられることで、例えばワイヤなどを保持することができる。
【0003】
上述のような取付金具として、例えば、特許文献1には、電線管等の取付金具が開示されている。具体的には、前記特許文献1の取付金具は、側面略コ字形状に屈曲した金具本体の上板上面から前記金具本体の内部に向けて突出する締付ネジを有する。前記特許文献1の取付金具では、前記金具本体の前記上板と下板との間に位置付けられたアングル材を、前記金具本体の前記下板と前記締付ネジとで挟み込むことによって、前記金具本体を前記アングル材に固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭48-019196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の構成では、締付ネジがアングル材に直接接触するため、前記締付ネジが前記アングル材を傷つけてしまう。これに対し、前記締付ネジと前記アングル材との間にスペーサを配置することで、前記締付ネジによって前記アングル材が傷つくのを防止することが考えられる。
【0006】
しかしながら、上述のようにスペーサを用いた構成では、締付ネジ(押付部材)とアングル材(被取付部材)との間に前記スペーサを位置決めした状態で、前記押付部材を前記スペーサ及び前記被取付部材に対して押し付ける必要がある。そのため、取付金具を前記被取付部材に対して取り付ける際の作業性があまり良くない。したがって、高所作業等の作業性が悪い作業を行っている際に、上述のように取付作業性があまり良くない取付金具を前記被取付部材に短時間で且つ正確に取り付けることは難しい。
【0007】
さらに、前記特許文献1の構成や、上述のようにスペーサを用いた構成では、取付金具に加わる振動等によって、被取付部材に対する押付部材の押付力が低下する可能性がある。
【0008】
本発明の目的は、被取付部材に対して容易に且つより確実に取り付けることができる取付金具を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係る取付金具は、被取付部材を一方向に挟み込むように配置される一対の板状の挟持部と、前記一対の挟持部を前記一方向に接続する接続部とを有する取付本体部と、前記一対の挟持部のうち一方の挟持部に対して前記一方向に移動可能であり、前記被取付部材を前記一対の挟持部のうち他方の挟持部に押し付ける押付部材と、を備え、前記被取付部材に取り付けられる取付金具であって、前記一方の挟持部は、前記押付部材が貫通する貫通穴を含み、前記押付部材が前記貫通穴を貫通した状態で前記押付部材を前記一方向に保持する保持部と、前記一方の挟持部を厚み方向に貫通するスリット部と、を有し、前記取付金具は、板部材によって構成され、前記押付部材と前記被取付部材との間に厚み方向が前記一方向と一致するように位置し且つ前記押付部材の前記一方向への移動によって前記一方向に弾性変形可能な弾性変形部と、前記スリット部内に一部が挿入されて前記弾性変形部を前記取付本体部に対して前記一方向以外の方向で位置決めする位置決め部と、を有する押圧変形部材を備える(第1の構成)。
【0010】
上述のように、押付部材と被取付部材との間に位置する弾性変形部は、位置決め部によって、取付本体部に対して一方向以外の方向で位置決めされている。よって、前記弾性変形部は、前記取付本体部に対して前記一方向以外の方向に移動しない。これにより、前記押付部材が前記弾性変形部に向かって前記一方向に移動した際、前記押付部材は、前記弾性変形部と接触して前記弾性変形部を前記一方向に押圧する。よって、前記押付部材は、前記弾性変形部を介して前記被取付部材に所定の押付力を前記一方向に加えることができる。
【0011】
したがって、上述の構成により、取付金具を前記被取付部材に取り付ける際に、前記押付部材が前記弾性変形部と接触するように、前記取付金具の前記取付本体部及び前記押付部材に対して前記弾性変形部を位置決めする必要がない。これにより、前記取付金具を前記被取付部材に取り付ける際の作業負担を軽減することができ、前記被取付部材に対する前記取付金具の取付作業が容易になる。
【0012】
また、前記弾性変形部は、上述のように前記押付部材によって前記一方向に押し付けられることにより、前記一方向に弾性変形を生じる。これにより、前記弾性変形部は、前記一方向に弾性復元力を生じるため、前記被取付部材に対して、前記一方向に前記弾性復元力を加える。
【0013】
これにより、前記取付金具は、前記押付部材による押付力及び前記弾性復元力を利用して、前記弾性変形部と他方の挟持部とによって前記被取付部材をより確実に挟み込むことができる。したがって、前記取付金具は、前記被取付部材に対して、より確実に取り付けられる。
【0014】
以上より、上述の構成により、被取付部材に対して容易に且つより確実に取り付けることができる取付金具を得ることができる。
【0015】
前記第1の構成において、前記弾性変形部は、前記押付部材によって前記一方向に押圧されていない状態で、前記板部材同士の厚み方向の間に、所定の隙間を有しており、前記弾性変形部は、前記板部材が厚み方向に折り曲げられた折り曲げ部を有する(第2の構成)。
【0016】
これにより、弾性変形部と他方の挟持部とによって被取付部材を一方向に挟み込んでいる状態で、押付部材が前記弾性変形部を前記一方向に押圧すると、前記弾性変形部の折り曲げ部が弾性変形を生じる。このように前記弾性変形部の前記折り曲げ部が弾性変形を生じると、前記弾性変形部の板部材同士の間隔が狭くなる。前記押付部材が前記弾性変形部を所定の押付力で前記一方向に押圧した場合、前記板部材同士が接触して前記板部材同士の隙間がゼロになる。
【0017】
このように前記板部材同士が接触して前記板部材同士の隙間がゼロであることを確認することにより、前記弾性変形部に対する前記押付部材の押付力が所定以上であることを容易に且つより確実に視認することができる。したがって、上述の構成により、前記被取付部材に対する取り付け作業を容易に且つより確実に行うことができる取付金具を得られる。
【0018】
前記第1または第2の構成において、前記弾性変形部及び前記位置決め部は、前記板部材によって一体で形成されている(第3の構成)。
【0019】
これにより、弾性変形部及び位置決め部を有する押圧変形部材を簡単な構成によって実現できる。よって、取付金具の製造コストを低減できる。
【0020】
前記第1から第3の構成のうちいずれか一つの構成において、前記他方の挟持部が前記被取付部材と接触する面には、前記他方の挟持部の他の面よりも大きい摩擦係数を有する第1滑り止め部が設けられている(第4の構成)。
【0021】
これにより、取付金具が被取付部材に取り付けられた状態で、前記取付金具に振動等が加わっても、他方の挟持部は、前記被取付部材に対して、一方向に直交する方向に移動しにくい。したがって、前記取付金具が前記被取付部材に対して前記一方向に直交する方向に移動するのを抑制できる。
【0022】
前記第1から第4の構成のうちいずれか一つの構成において、前記弾性変形部が前記被取付部材と接触する面には、前記弾性変形部の他の面よりも大きい摩擦係数を有する第2滑り止め部が設けられている(第5の構成)。
【0023】
これにより、取付金具が被取付部材に取り付けられた状態で、前記取付金具に振動等が加わっても、弾性変形部は、前記被取付部材に対して、一方向に直交する方向に移動しにくい。したがって、前記取付金具が前記被取付部材に対して前記一方向に直交する方向に移動するのを抑制できる。
【0024】
前記第1から第5の構成のうちいずれか一つの構成において、前記押付部材は、ネジ部を有し、前記一方の挟持部における前記貫通穴は、前記ネジ部と螺合するネジ穴部である(第6の構成)。
【0025】
押付部材を弾性変形部に対して一方向に押し付けることにより、前記弾性変形部で生じる弾性復元力は、前記押付部材及び被取付部材に対して加わる。上述の構成のように前記押付部材がネジ部を有し且つ取付本体部の一方の挟持部がネジ穴部を有することにより、前記押付部材に対して加わった前記弾性復元力は、前記押付部材のネジ部に対して、前記ネジ穴部に対する前記ネジ部の回転方向の摩擦力を増大させる方向に作用する。これにより、前記押付部材に振動等が加わった場合でも、前記押付部材が緩むのを防止できる。
【0026】
このように、前記押付部材がネジ部を有し且つ取付本体部の一方の挟持部がネジ穴部を有する構成では、前記弾性変形部は、前記押付部材の緩み止めとして機能する。
【0027】
よって、上述の構成により、前記押付部材が被取付部材に対して前記弾性変形部を押圧する力は、低下しにくくなる。したがって、前記被取付部材に対して、より確実に取り付けることができる取付金具が得られる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一実施形態に係る取付金具は、一対の板状の挟持部、及び、前記一対の挟持部を一方向に接続する接続部を有する取付本体部と、被取付部材を前記一対の挟持部のうち他方の挟持部に押し付ける押付部材と、前記一方向に弾性変形可能な弾性変形部、及び、前記弾性変形部を前記取付本体部に対して前記一方向以外の方向で位置決めする位置決め部を有する押圧変形部材と、を備える。
【0029】
これにより、前記弾性変形部を、前記押付部材に対して、前記一方向以外の方向に容易に位置合わせした状態で、前記弾性変形部と前記他方の挟持部との間に被取付部材を挟み込んで、前記押付部材によって前記弾性変形部を前記被取付部材に対して前記一方向に押し付けることにより、前記弾性変形部による弾性復元力を利用して、前記弾性変形部と前記他方の挟持部とによって前記被取付部材をより確実に挟み込むことができる。したがって、前記被取付部材に対して容易に且つより確実に取り付けることができる取付金具が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、被取付部材に本発明の実施形態に係る取付金具を取り付けた状態を示す図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る取付金具の概略構成を示す図である。
図3図3は、図2において取付金具を矢視Aから見た図である。
図4図4は、弾性変形部と他方の挟持部とによって被取付部材を一方向に挟み込んだ状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。なお、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0032】
図1は、H形鋼2に取付金具1を取り付けた状態を示す図である。取付金具1は、例えばH形鋼2などの被取付部材に取り付けられることにより、ワイヤ3などの部材を保持する。前記被取付部材は、取付金具1を取付可能な構成を有していれば、H形鋼以外の部材であってもよい。
【0033】
H形鋼2は、平行な一対の板状のフランジ部2aと、該一対のフランジ部2a同士を厚み方向に接続する板状の接続部2bとを有する。すなわち、H形鋼2は、板状の接続部2bに対して接続部2bの厚み方向の両側にフランジ部2aがそれぞれ突出するように設けられた断面H字形状の部材である。
【0034】
図2は、取付金具1の概略構成を示す図である。図3は、図2において取付金具1を矢視Aから見た図である。以下で、図1から図3を用いて、取付金具1の構成について説明する。
【0035】
図1に示すように、取付金具1は、バネ部材30(押圧変形部材)と挟持部12との間にH形鋼2のフランジ部2aを挟み込んだ状態で、ボルト20(押付部材)によってバネ部材30をH形鋼2のフランジ部2aに押し付けることにより、H形鋼2のフランジ部2aに固定される。詳しくは、取付金具1は、取付本体部10と、ボルト20と、バネ部材30とを備えている。取付本体部10、ボルト20及びバネ部材30は、それぞれ、ステンレス製である。
【0036】
取付本体部10は、略コ字形状に形成されている。具体的には、取付本体部10は、H形鋼2のフランジ部2aを一方向に挟み込むように配置される一対の板状の挟持部11,12と、一対の板状の挟持部11,12を前記一方向に接続する接続部13とを有する。本実施形態では、一対の挟持部11,12と接続部13とは、一体で形成されている。なお、一対の挟持部と接続部とは、別体に形成されていてもよい。
【0037】
前記一方向は、一対の板状の挟持部11,12によって、フランジ部2aを挟み込む方向である。本実施形態では、一対の挟持部11,12の厚み方向は、前記一方向と同じ方向である。
【0038】
一対の板状の挟持部11,12は、前記一方向から見て長方形状である。一対の板状の挟持部11,12は、互いに平行になるように、対向して配置されている。一対の挟持部11,12のうち一方の挟持部11は、該挟持部11を厚み方向に貫通するネジ穴部14aを含む保持部14と、一方の挟持部11を厚み方向に貫通するスリット部15とを有する。
【0039】
本実施形態では、スリット部15は、一方の挟持部11の短手方向に延びていて、後述するバネ部材30の位置決め部32の一部を挿入可能な大きさを有する。詳しくは、スリット部15は、該スリット部15内に挿入されるバネ部材30の位置決め部32と同様の断面形状を有するとともに、位置決め部32が前記一方向に直交する方向に位置決めされ且つ前記一方向に移動可能な形状を有する。
【0040】
これにより、スリット部15内に挿入されたバネ部材30の位置決め部32は、前記一方向以外の方向の移動が抑制される一方、前記一方向の移動は許容される。したがって、スリット部15は、取付本体部10に対するバネ部材30の位置決め機能を有する。
【0041】
一対の挟持部11,12のうち他方の挟持部12がH形鋼2のフランジ部2aと接触する面には、滑り防止ゴム16(第1滑り止め部)が設けられている。滑り防止ゴム16の表面は、他方の挟持部12の他の面における摩擦係数よりも大きい摩擦係数を有する。滑り防止ゴム16は、例えばスチレン・ブタジエンゴムによって構成されている。なお、各図では、説明のために、断面ではないが、滑り防止ゴム16にハッチを付している。
【0042】
接続部13は、一対の挟持部11,12の長手方向一方の端部同士を接続する。接続部13は、取付金具1がH形鋼2のフランジ部2aに取り付けられた状態で、H形鋼2のフランジ部2aの先端部分と接触する。接続部13においてH形鋼2のフランジ部2aと接触する面には、滑り防止ゴム18(第3滑り止め部)が設けられている。なお、各図では、説明のために、断面ではないが、滑り防止ゴム18にハッチを付している。接続部13は、ワイヤ3が貫通可能なワイヤ穴40を有する。
【0043】
ボルト20は、例えば六角ボルトである。ボルト20は、ネジ部21を有する。ネジ部21は、一方の挟持部11に設けられたネジ穴部14aと螺合することにより、ネジ穴部14aを貫通する。したがって、ボルト20は、一方の挟持部11に対して、前記一方向に移動可能である。また、ボルト20は、ネジ部21がネジ穴部14aに螺合することにより、ネジ穴部14aを含む保持部14によって前記一方向に保持される。なお、ボルト20は、六角ボルト以外であってもよい。
【0044】
図2及び図3に示すように、バネ部材30は、全体として略L字形状に形成された板状の部材である。バネ部材30は、弾性変形部31と、位置決め部32とを有する。弾性変形部31と位置決め部32とは、バネ部材30が略L字形状になるように、直交して配置されているとともに一体で形成されている。なお、弾性変形部と位置決め部とは、別体に形成されていてもよい。
【0045】
詳しくは後述するように、弾性変形部31は、取付金具1がH形鋼2のフランジ部2aに取り付けられた状態で、ボルト20とH形鋼2のフランジ部2aとに挟み込まれる。弾性変形部31は、ボルト20によって前記一方向に押圧されることにより、前記一方向に弾性変形を生じる。このように弾性変形部31が前記一方向に弾性変形を生じることにより、その弾性復元力がボルト20及びH形鋼2のフランジ部2aに作用して、H形鋼2のフランジ部2aに対する取付金具1の挟持力を向上できる。
【0046】
具体的には、弾性変形部31は、折り曲げ部33と、一対の板部34,35とを有する。折り曲げ部33は、板状の部材を厚み方向に折り曲げることにより形成される。一対の板部34,35は、厚み方向に対向するように折り曲げ部33によって接続されている。よって、弾性変形部31は、略U字形状に形成されている。これにより、一対の板部34,35に対して厚み方向に力が入力された場合には、折り曲げ部33は弾性変形を生じる。
【0047】
上述のように、弾性変形部31は、取付金具1がH形鋼2のフランジ部2aに取り付けられた状態で、ボルト20とH形鋼2のフランジ部2aとに挟み込まれる。よって、一対の板部34,35は、ボルト20とH形鋼2のフランジ部2aとによって、一対の板部34,35の厚み方向に挟み込まれる。一対の板部34,35のうち一方の板部34は、ボルト20側に位置し、一対の板部34,35のうち他方の板部35は、H形鋼2のフランジ部2a側に位置する。そのため、一対の板部34,35のうち一方の板部34には、一方の挟持部11に設けられたネジ穴部14aに螺合したネジ部21の先端部が接触する。一対の板部34,35のうち他方の板部35においてH形鋼2と接触する面には、滑り防止ゴム17(第2滑り止め部)が設けられている。なお、各図では、説明のために、断面ではないが、滑り防止ゴム17にハッチを付している。
【0048】
位置決め部32は、弾性変形部31の他方の板部35から前記一方向に延びる板状である。すなわち、位置決め部32は、弾性変形部31の他方の板部35における折り曲げ部33とは反対側に接続されている。
【0049】
位置決め部32の先端部は、一方の挟持部11に設けられたスリット部15内に挿入されている。既述のように、スリット部15は、位置決め部32が前記一方向に直交する方向に位置決めされ且つ前記一方向に移動可能な形状を有する。これにより、位置決め部32は、取付本体部10に対して、前記一方向以外の方向には移動しない。よって、位置決め部32と一体で形成されている弾性変形部31も、取付本体部10に対して、前記一方向以外の方向には移動しない。したがって、取付本体部10に設けられたスリット部15内に一部が挿入された位置決め部32は、位置決め部32と一体で形成されている弾性変形部31を、取付本体部10に対して、前記一方向以外の方向に位置決めすることができる。
【0050】
(取付金具の取付)
次に、上述のような構成を有する取付金具1を、H形鋼2のフランジ部2aに取り付ける方法について、図1及び図4を用いて説明する。
【0051】
図4に示すように、まず、取付本体部10の一対の挟持部11,12の間に、H形鋼2のフランジ部2aを位置付ける。このとき、H形鋼2のフランジ部2aが他方の挟持部12とバネ部材30の弾性変形部31との間に位置するように且つH形鋼2のフランジ部2aの先端部分が接続部13の滑り防止ゴム18(第3滑り止め部)と接触するように、H形鋼2のフランジ部2aに対して取付金具1を配置する。
【0052】
そして、取付金具1のボルト20を、ボルト20の回転軸を中心として回転させることにより、ネジ部21を一方の挟持部11に設けられたネジ穴部14aに螺合させつつ、ボルト20の先端部を一方の板部34に対して前記一方向に押し付ける(図4の実線矢印)。
【0053】
このとき、バネ部材30の位置決め部32の一部が一方の挟持部11のスリット部15内に挿入されているため、バネ部材30の弾性変形部31は、取付本体部10及びボルト20に対して前記一方向以外の方向で位置決めされている。よって、弾性変形部31は、前記一方向以外の方向に移動しない。これにより、ネジ部21がネジ穴部14aと螺合しながら前記一方向に移動した際、ネジ部21の先端部は一方の板部34と接触して、該一方の板部34を有する弾性変形部31を前記一方向に押圧する。よって、ボルト20は、弾性変形部31を介してH形鋼2のフランジ部2aに所定の押付力を加えることができる。
【0054】
したがって、取付金具1をH形鋼2のフランジ部2aに取り付ける際に、ネジ部21の先端部が一方の板部34と接触するように、取付金具1の取付本体部10及びボルト20に対して、弾性変形部31を位置決めする必要がない。これにより、取付金具1をH形鋼2のフランジ部2aに取り付ける際の作業負担を軽減することができ、H形鋼2のフランジ部2aに対する取付金具1の取付作業が容易になる。
【0055】
上述のようにボルト20の先端部から前記一方向に力を加えられた一方の板部34を有する弾性変形部31は、前記一方向に弾性変形を生じる。すなわち、一方の板部34は他方の板部35に近づくように弾性変形を生じる。よって、一方の板部34と他方の板部35との隙間は小さくなる。
【0056】
ボルト20を、板部34に対して前記一方向に所定の押付力で押し付けることにより、図1に示すように、弾性変形部31の一方の板部34は他方の板部35と接触する。すなわち、ボルト20を板部34に対して前記一方向に所定の押付力で押し付けた場合、弾性変形部31の一方の板部34と他方の板部35との隙間がなくなる。
【0057】
よって、弾性変形部31の一方の板部34と他方の板部35との隙間がないことを確認することにより、弾性変形部31に対するボルト20の押付力が所定以上であることを容易に且つ確実に視認することができる。したがって、H形鋼2に対する取付作業を容易に且つより確実に行うことができる取付金具1を得られる。
【0058】
上述のようにボルト20によって前記一方向に押し付けられた弾性変形部31は、前記一方向に弾性復元力を生じる。よって、弾性変形部31は、H形鋼2のフランジ部2aに対して、前記一方向に前記弾性復元力を加える。
【0059】
このように、弾性変形部31によって生じた前記弾性復元力を利用することで、取付金具1は、弾性変形部31と他方の挟持部12とによってH形鋼2のフランジ部2aをより確実に挟み込むことができる。よって、取付金具1がH形鋼2のフランジ部2aに取り付けられた状態で、取付金具1に振動等が加わっても、他方の挟持部12及び弾性変形部31は、H形鋼2のフランジ部2aに対して、前記一方向に直交する方向に移動するのを抑制できる。したがって、取付金具1は、H形鋼2のフランジ部2aに対してより確実に取り付けられる。
【0060】
また、上述のようにボルト20によって前記一方向に押し付けられた弾性変形部31は、ボルト20に対して、前記一方向と逆方向に前記弾性復元力を加える。
【0061】
ボルト20がネジ部21を有し且つ取付本体部10の一方の挟持部11がネジ穴部14aを有することにより、ボルト20に対して加わった前記弾性復元力は、ボルト20のネジ部21に対して、ネジ穴部14aに対するネジ部21の回転方向の摩擦力を増大させる方向に作用する。これにより、ボルト20に振動等が加わった場合でも、ボルト20が緩むのを防止できる。
【0062】
しかも、既述のように、他方の挟持部12がH形鋼2のフランジ部2aと接触する面には、滑り防止ゴム16(第1滑り止め部)が設けられている。滑り防止ゴム16の表面は、他方の挟持部12の他の面における摩擦係数よりも大きい摩擦係数を有する。よって、取付金具1がH形鋼2のフランジ部2aに取り付けられた状態で、取付金具1に振動等が加わった際に、他方の挟持部12は、H形鋼2のフランジ部2aに対して、前記一方向に直交する方向に、より移動しにくくなる。これにより、取付金具1がH形鋼2に対して前記一方向に直交する方向に移動するのを抑制できる。したがって、取付金具1は、H形鋼2のフランジ部2aに対してより確実に取り付けられる。
【0063】
同様に、他方の板部35においてH形鋼2のフランジ部2aと接触する面には、滑り防止ゴム17(第2滑り止め部)が設けられている。滑り防止ゴム17の表面は、弾性変形部31の他の面における摩擦係数よりも大きい摩擦係数を有する。よって、取付金具1がH形鋼2のフランジ部2aに取り付けられた状態で、取付金具1に振動等が加わった際に、弾性変形部31は、H形鋼2のフランジ部2aに対して、前記一方向に直交する方向に、より移動しにくくなる。これにより、取付金具1がH形鋼2に対して前記一方向に直交する方向に移動するのをさらに抑制できる。したがって、取付金具1は、H形鋼2のフランジ部2aに対してより確実に取り付けられる。
【0064】
さらに、接続部13においてH形鋼2のフランジ部2aと接触する面には、滑り防止ゴム18(第3滑り止め部)が設けられている。滑り防止ゴム18の表面は、接続部13の他の面における摩擦係数よりも大きい摩擦係数を有する。よって、取付金具1がH形鋼2のフランジ部2aに取り付けられた状態で、取付金具1に振動等が加わった際でも、接続部13は、H形鋼2のフランジ部2aに対して、H形鋼2の延伸方向に移動しにくくなる。したがって、取付金具1は、H形鋼2のフランジ部2aに対してより確実に取り付けられる。
【0065】
以上のように、取付金具1は、本実施形態の構成を有することにより、H形鋼2のフランジ部2aに対して容易に且つより確実に取り付けられる。
【0066】
なお、H形鋼2に取り付けられた取付金具1のワイヤ穴40に、線状部材のワイヤ3を貫通させることにより、ワイヤ3を取付金具1に取り付けることができる。これにより、ワイヤ3は、H形鋼2によって支持される。
【0067】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0068】
前記実施形態では、取付金具1によって保持される線状部材の一例として、ワイヤ3について説明した。しかしながら、取付金具によって保持される線状部材は、ワイヤ以外の部材であってもよい。また、取付金具は、線状部材以外の部材を保持してもよい。
【0069】
前記実施形態では、弾性変形部31は、前記板部材が厚み方向に折り曲げられ、略U字形状に形成されている。しかしながら、弾性変形部の形状は、弾性変形部が前記一方向に弾性変形可能であれば、どのような形状であってもよい。弾性変形部は、例えば、折り曲げ部が形成されないように板部材を厚み方向に湾曲させることによって構成されていてもよいし、3つ以上の板部が厚み方向に並ぶように板部材に2つの折り曲げ部が形成された構成を有していてもよい。また、弾性変形部は、棒状の部材などのように板以外の部材によって構成されていてもよい。
【0070】
前記実施形態では、他方の挟持部12がH形鋼2と接触する面、及び、弾性変形部31がH形鋼2と接触する面、及び、接続部13がH形鋼2と接触する面には、滑り防止ゴム16,17,18が設けられている。しかしながら、滑り止め用の部材は、他の部分よりも大きい摩擦係数を有する材料であれば、ゴム以外の材料によって構成された部材によって形成されてもよい。また、他方の挟持部がH形鋼と接触する面に、滑り防止ゴムを設けなくてもよい。弾性変形部がH形鋼と接触する面に、滑り防止ゴムを設けなくてもよい。接続部がH形鋼と接触する面に、滑り防止ゴムを設けなくてもよい。他方の挟持部がH形鋼と接触する面、及び、弾性変形部がH形鋼と接触する面、及び、接続部がH形鋼と接触する面のうちの少なくとも一つの面を、他の面に比べて摩擦係数が大きくなるように形成してもよい。
【0071】
前記実施形態では、取付金具1のバネ部材30の弾性変形部31は、ボルト20によってH形鋼2のフランジ部2aに押し付けられている。しかしながら、弾性変形部は、ピンなどのようなボルト以外の部材によって、H形鋼2のフランジ部に押し付けられていてもよい。すなわち、本発明の押付部材は、ボルト以外の部材であってもよい。
【0072】
前記実施形態では、取付金具1は、ステンレス製である。しかしながら、取付金具1は、金属製であれば、ステンレス以外の金属材料によって構成されていてもよい。また、取付金具1は、樹脂などの金属材料以外の材料によって構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、被取付部材に取り付けられる取付金具に利用可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 取付金具
2 H形鋼(被取付部材)
2a フランジ部
2b 接続部
3 ワイヤ(線状部材)
10 取付本体部
11、12 挟持部
13 接続部
14 保持部
14a ネジ穴部(貫通穴)
15 スリット部
16 滑り防止ゴム(第1滑り止め部)
17 滑り防止ゴム(第2滑り止め部)
18 滑り防止ゴム(第3滑り止め部)
20 ボルト(押付部材)
21 ネジ部
30 バネ部材(押圧変形部材)
31 弾性変形部
32 位置決め部
33 折り曲げ部
34、35 板部
40 ワイヤ穴
図1
図2
図3
図4