(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】プラズマ回転電極法による粉末製造装置
(51)【国際特許分類】
B22F 9/14 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
B22F9/14 Z
(21)【出願番号】P 2020173014
(22)【出願日】2020-10-14
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】520027291
【氏名又は名称】株式会社東北PREP技術
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】王 新敏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健司
(72)【発明者】
【氏名】王 立雪
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-026541(JP,A)
【文献】特開2003-268419(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105234422(CN,A)
【文献】特開2007-084905(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第03638016(DE,A1)
【文献】国際公開第1989/000470(WO,A1)
【文献】米国特許第05147448(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長い金属製または合金製の電極部材を、その長さ方向に沿った中心軸周りに回転させながら、前記電極部材の先端部に向かってプラズマを照射することにより、前記電極部材の先端部を溶解し、その融液を前記電極部材の回転の遠心力により吹き飛ばし凝固させて、金属製または合金製の粉末を製造するプラズマ回転電極法による粉末製造装置であって、
前記電極部材の回転の遠心力により吹き飛ばされた前記融液が
液滴となり、その液滴が衝突して粉砕されるよう、前記電極部材から所定の距離をあけて、前記電極部材の先端部の側方を囲い、前記電極部材の回転軸と同軸で回転可能に設けられた衝突壁を有
し、
前記衝突壁は、未凝固や半凝固の状態の前記液滴が衝突する位置に円環状の衝突面を有し、前記衝突面は、前記電極部材の長さ方向に沿って所定の幅を有し、前記電極部材の先端部から後端部に向かって前記電極部材からの距離が連続的に長くなる、または短くなるよう傾斜していることを
特徴とするプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【請求項2】
前記衝突壁は、前記衝突面に1もしくは複数の貫通孔、または、その幅方向に沿って設けられた1もしくは複数のスリットを有することを特徴とする
請求項1記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【請求項3】
前記衝突面は、前記電極部材と同じ材質から成ることを特徴とする
請求項1または2記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【請求項4】
前記衝突壁は、前記電極部材の長さ方向に沿って移動可能に設けられていることを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1項に記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ回転電極法による粉末製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のプラズマ回転電極法による粉末製造装置は、細長い金属製または合金製の電極部材を、その長さ方向に沿った中心軸周りに回転させながら、電極部材の先端部に向かってプラズマを照射して、電極部材の先端部を溶解するよう構成されている。これにより、溶解した融液は、電極部材の回転の遠心力で、電極部材から剥離して不規則状の液滴となり、遠心力の接線方向に吹き飛ばされる。吹き飛ばされた液滴は、飛翔中に、表面張力で最小体積の球状になりながら凝固し、最終的に固体の金属製または合金製の粉末となる(例えば、非特許文献1乃至3参照)。
【0003】
プラズマ回転電極法による粉末製造装置では、製造される金属製または合金製の粉末の粒径を小さくする方法として、電極部材の回転速度や直径を大きくして、融液が吹き飛ばされる際の遠心力を大きくする方法がある(例えば、特許文献1参照)。しかし、安定して電極部材を回転させるためには、電極部材の回転速度を大きくするのには限界があり、また、電極部材の端部を融解させることを考慮すると、電極部材の直径を大きくするのにも限界があった。
【0004】
そこで、電極部材の回転速度や直径を変えることなく、製造される粉末の粒径を小さくする装置として、吹き飛ばされた融液を衝突壁に衝突させて粉砕するものが、本発明者等により開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】筧幸次、横森玲、西牧智大、「プラズマ回転電極法を用いて作製した粉末焼結ニッケル超合金の組織と強度」、日本金属学会誌、2016年、第80巻、第8号、p.508-514
【文献】時実正治、磯西和夫、「プラズマ回転電極法によるTi合金粉末の製造」、資源処理技術、1990年、Vol.37、No.4、p.215-221
【文献】熊谷良平、「プラズマ回転電極法による金属球形粉末の作製」、まてりあ、1998年、第37巻、第6号、p.488-494
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置によれば、電極部材の遠心力により吹き飛ばされた融液の液滴を、衝突壁に衝突させてさらに細かく粉砕することができ、粒径の小さい金属製または合金製の粉末を製造することができる。しかしながら、衝突壁に液滴が衝突したときに、その液滴の一部が衝突壁に付着したまま固化してしまうことがあるという課題があった。また、より小さい粉末を製造する装置を開発することが、常に期待されている。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、融液の液滴が衝突壁に付着したままになりにくく、より小さい金属製または合金製の粉末を製造することができるプラズマ回転電極法による粉末製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置は、細長い金属製または合金製の電極部材を、その長さ方向に沿った中心軸周りに回転させながら、前記電極部材の先端部に向かってプラズマを照射することにより、前記電極部材の先端部を溶解し、その融液を前記電極部材の回転の遠心力により吹き飛ばし凝固させて、金属製または合金製の粉末を製造するプラズマ回転電極法による粉末製造装置であって、前記電極部材の回転の遠心力により吹き飛ばされた前記融液が液滴となり、その液滴が衝突して粉砕されるよう、前記電極部材から所定の距離をあけて、前記電極部材の先端部の側方を囲い、前記電極部材の回転軸と同軸で回転可能に設けられた衝突壁を有し、前記衝突壁は、未凝固や半凝固の状態の前記液滴が衝突する位置に円環状の衝突面を有し、前記衝突面は、前記電極部材の長さ方向に沿って所定の幅を有し、前記電極部材の先端部から後端部に向かって前記電極部材からの距離が連続的に長くなる、または短くなるよう傾斜していることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置では、電極部材の回転の遠心力により吹き飛ばされた融液は、液滴となり、その体積により熱の容量に違いはあるが、電極部材から離れれば離れるほど、温度が低くなり、凝固していく。このとき、未凝固や半凝固の状態の液滴が衝突するよう衝突壁を設けておくことにより、衝突壁に衝突した液滴が粉砕されて、細かい液滴にすることができる。また、このとき、衝突壁を電極部材の回転軸と同軸で回転させることにより、衝突壁まで飛んできたときの勢いだけでなく、衝突した液滴に衝突壁の回転の遠心力が働くため、衝突壁から剥離する際に、液滴をさらに細かくすることができ、より小さい金属製または合金製の粉末を製造することができる。
【0011】
また、本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置は、衝突壁に衝突した融液の液滴に、衝突壁の回転による遠心力が常に働くため、液滴が衝突壁に付着したままになりにくい。これにより、液滴が衝突壁に付着したまま固化するのを防ぐことができ、また、液滴を衝突壁から剥離しやすくすることもできる。
【0012】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置は、衝突面に衝突した液滴を、衝突壁まで飛んできたときの勢いだけでなく、衝突壁の回転の遠心力により、衝突面の傾斜に沿って電極部材から離れる方向に移動させることができる。このため、液滴が衝突壁に付着したままになるのを効果的に防ぐことができ、液滴を衝突面から剥離しやすくすることができる。
【0013】
本発明に関するプラズマ回転電極法による粉末製造装置で、前記衝突壁は、前記電極部材からの距離が最も長い前記衝突面の周縁側で、前記衝突面の傾斜に沿って、前記衝突面が伸縮可能に構成されていてもよい。この場合、電極部材の長さ方向に沿って、衝突壁の位置を調整することにより、電極部材から吹き飛ばされた融液の液滴が、衝突面に衝突するまでの距離や、衝突面に衝突した液滴が、衝突面に沿って移動する距離を調整することができる。これにより、製造される粉末の粒径を調整することができる。
【0014】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置で、前記衝突壁は、前記衝突面に1もしくは複数の貫通孔、または、その幅方向に沿って設けられた1もしくは複数のスリットを有していてもよい。この場合、衝突面に衝突した液滴を、貫通孔やスリットを通して剥離しやすくすることができる。
【0015】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置で、前記衝突面は、前記電極部材と同じ材質から成っていてもよい。この場合、液滴が衝突面に衝突した際に、液滴中に不純物が入り込むのを防ぐことができ、製造される粉末の純度が低下するのを防ぐことができる。また、衝突面は、液滴が堆積しにくい材質から成っていてもよい。
【0016】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置で、前記衝突壁は、前記電極部材の長さ方向に沿って移動可能に設けられていてもよい。この場合、電極部材から吹き飛ばされた液滴が衝突壁に衝突する位置を調整することができる。
【0017】
本発明に関するプラズマ回転電極法による粉末製造装置で、前記衝突壁は、前記電極部材の長さ方向に沿った長さを調整可能に設けられていてもよい。この場合、衝突壁の設置場所に応じて、その長さを調整することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、融液の液滴が衝突壁に付着したままになりにくく、より小さい金属製または合金製の粉末を製造することができるプラズマ回転電極法による粉末製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置の、回転手段が(a)スピンドルモーター、(b)複数の回転ローラから成るときの斜視図(衝突壁のみ端面図)である。
【
図2】本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置の、回転手段が(a)スピンドルモーター、(b)複数の回転ローラから成るときの、衝突壁を反転させた変形例を示す斜視図(衝突壁のみ端面図)である。
【
図3】本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置の、(a)電極部材の周囲の空間を区分けした、電極部材の正面図、(b)電極部材の周囲の空間を区分けした斜視図(衝突壁とその周囲のみ端面図)、(c)衝突面が伸縮する変形例を示す、衝突壁の端面図である。
【
図4】本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置の、(a)衝突面に液滴が衝突した状態、(b)液滴が粉砕されながら衝突面を移動する状態、(c)液滴が衝突面から剥離する状態を示す、衝突面付近の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至
図4は、本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置を示している。
図1に示すように、粉末製造装置10は、電極部材11と回転手段12とプラズマ照射手段13と衝突壁14とを有している。
【0021】
電極部材11は、金属製または合金製で、細長い円柱状を成している。電極部材11は、回転手段12により、長さ方向に沿った中心軸周りに回転するよう設けられている。回転手段12は、
図1(a)に示すスピンドルモーター12aや、
図1(b)に示す円柱形状の複数の回転ローラ12bから成っている。
図1(a)に示すスピンドルモーター12aから成る場合、スピンドルモーター12aは、電極部材11を片持ち梁状に支持するよう、連結部材12cを介して電極部材11の後端部11bに接続されている。スピンドルモーター12aは、電極部材11をその長さ方向に沿った中心軸周りに回転可能に設けられている。
【0022】
また、
図1(b)に示す複数の回転ローラ12bから成る場合、各回転ローラ12bは、外周面が電極部材11の外側面に接するよう、電極部材11の周囲に互いに間隔を開けて平行に並べて配置されている。各回転ローラ12bは、中心軸が電極部材11の中心軸に平行であり、それぞれの中心軸を中心として回転可能に設けられている。各回転ローラ12bは、少なくともいずれか1つを回転させることにより、電極部材11を回転駆動するよう構成されている。回転手段12は、電極部材11を20000rpm以内の回転速度で回転可能になっている。
【0023】
プラズマ照射手段13は、プラズマトーチから成り、電極部材11の先端部11aに対向するよう設けられている。プラズマ照射手段13は、電極部材11の先端部11aに向かってプラズマを照射するよう構成されている。
【0024】
衝突壁14は、円筒状を成し、一方の端部14aが、開口に向かって内径が連続的に大きくなるよう、テーパー形状を成している。衝突壁14は、その一方の端部14aの内側面が衝突面14bを成している。衝突壁14は、中心軸が電極部材11の回転軸と一致し、衝突面14bが電極部材11から所定の距離をあけて、電極部材11の先端部11aの側方を囲うよう、一方の端部14aを電極部材11の側に向けて配置されている。また、衝突壁14は、電極部材11の回転軸と同軸で、右回りおよび左回りに回転可能に設けられている。衝突面14bは、電極部材11と同じ材質から成っている。衝突面14bは、電極部材11の長さ方向に沿って所定の幅を有する円環状を成し、電極部材11の先端部11aから後端部11bに向かって電極部材11からの距離が連続的に長くなるよう傾斜している。
【0025】
なお、
図2に示すように、衝突壁14は、一方の端部11aを電極部材11とは反対側に向けて配置され、衝突面14bが、電極部材11の先端部11aから後端部11bに向かって電極部材11からの距離が連続的に短くなるよう傾斜していてもよい。
【0026】
次に、作用について説明する。
粉末製造装置10は、以下のようにして金属製または合金製の粉末を製造することができる。すなわち、回転手段12により、電極部材11をその長さ方向に沿った中心軸周りに回転させながら、プラズマ照射手段13により、電極部材11の先端部11aに向かってプラズマを照射することにより、電極部材11の先端部11aを溶解し、その融液を電極部材11の回転の遠心力により吹き飛ばす。吹き飛ばされた融液は液滴21となり、その体積により熱の容量に違いはあるが、電極部材11から離れれば離れるほど、温度が低くなり、凝固していく。ここで、
図3(a)に示すように、電極部材11の周囲の空間を、液滴21の凝固の度合いによって、電極部材11の近い領域から順に、液滴21がまだ凝固していない「溶融区」、液滴21が半ば程度まで凝固した「半凝固区」、液滴21が完全に凝固した「凝固区」に分けることができる。
【0027】
このとき、
図3(b)に示すように、未凝固や半凝固の状態の液滴21が、衝突面14bに衝突するよう衝突壁14を設けることにより、衝突面14bに衝突した液滴21をさらに粉砕することができる。このときの様子を、
図4に示す。
図4に示すように、衝突面14bに衝突した液滴21(
図4(a)参照)は、衝突面14bまで飛んできたときの勢いだけでなく、衝突壁14を回転させたときの遠心力により、細かく粉砕されながら、衝突面14bの傾斜に沿って電極部材11から離れる方向に移動し(
図4(b)参照)、衝突面14bから剥離する際に、さらに細かく粉砕される(
図4(c)参照)。細かく粉砕された液滴21は、衝突面14bから吹き飛ばされて凝固する。こうして、粉末製造装置10は、より小さい金属製または合金製の粉末を製造することができる。
【0028】
粉末製造装置10は、衝突壁14を電極部材11の回転軸と同軸で回転させるため、衝突面14bに衝突した液滴21に、衝突壁14の回転による遠心力が常に働くため、液滴21が衝突面14bに付着したままになりにくい。これにより、液滴21が衝突面14bに付着したまま固化するのを防ぐことができ、また、液滴21を衝突面14bから剥離しやすくすることもできる。また、粉末製造装置10は、衝突面14bが電極部材11と同じ材質から成っているため、液滴21が衝突面14bに衝突した際に、液滴21中に不純物が入り込むのを防ぐことができ、製造される粉末の純度が低下するのを防ぐことができる。
【0029】
なお、
図1および
図2に示すように、衝突壁14は、電極部材11の長さ方向に沿って移動可能に設けられていてもよい。また、
図3(c)に示すように、衝突壁14は、一方の端部14aの側で、衝突面14bの傾斜に沿って、衝突面14bが伸縮可能に構成されていてもよい。この場合、電極部材11の長さ方向に沿って、衝突壁14の位置を調整することにより、電極部材11から吹き飛ばされた融液の液滴21が、衝突面14bに衝突するまでの距離や、衝突面14bに衝突した液滴21が、衝突面14bに沿って移動する距離を調整することができる。これにより、製造される粉末の粒径を調整することができる。
【0030】
また、
図1および
図2に示すように、衝突壁14は、電極部材11の長さ方向に沿った長さを調整可能に設けられていてもよい。この場合、衝突壁14の設置場所に応じて、その長さを調整することができる。
【0031】
また、衝突壁14は、衝突面14bに1もしくは複数の貫通孔、または、その幅方向に沿って設けられた1もしくは複数のスリットを有していてもよい。この場合、衝突面14bに衝突した液滴21を、貫通孔やスリットを通して剥離しやすくすることができる。また、衝突面14bは、液滴21が堆積しにくい材質から成っていてもよい。
【符号の説明】
【0032】
10 (プラズマ回転電極法による)粉末製造装置
11 電極部材
11a 先端部
11b 後端部
12 回転手段
12a スピンドルモーター
12b 回転ローラ
12c 連結部材
13 プラズマ照射手段
14 衝突壁
14a 一方の端部
14b 衝突面
21 液滴