(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】保温容器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 81/38 20060101AFI20240613BHJP
B65D 21/02 20060101ALI20240613BHJP
B65D 21/032 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B65D81/38 K
B65D81/38 P
B65D21/02 200
B65D21/032
(21)【出願番号】P 2020178182
(22)【出願日】2020-10-23
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】597053038
【氏名又は名称】中村被服株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】関谷 朋巳
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-194358(JP,A)
【文献】特開2002-029573(JP,A)
【文献】特開2000-203665(JP,A)
【文献】特開2005-206246(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0226783(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/38
B65D 21/02
B65D 21/032
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱性を有する厚板の裸出面を、不透水性を有するシートからなる外被で被覆したパネルを用いてなる保温容器の製造方法であって、
前記パネルの一部は、その平坦面上に突設される段差構造を備え、
前記段差構造は、
不透水性を有するシートからなり前記外被に縫着される段差カバーと、
前記外被と前記段差カバーの空隙に収容される芯板と、
前記段差カバーに縫着され前記芯板と前記外被の隙間に差し込まれる薄板と、を備え、
前記段差カバーの外縁寄り所望箇所に前記薄板を縫着して一体化する薄板縫着工程と、
前記段差カバーにおいて前記薄板が縫着されていない前記外縁寄りを、前記外被に縫着するとともに、前記外被と前記段差カバーの間に前記空隙を形成する段差カバー位置決め工程と、
前記空隙に前記芯板を収容する芯板格納工程と、
前記芯板と前記外被の隙間に、前記段差カバーが縫着されていない前記薄板の端部を差し込んで前記芯板の位置決めを行う芯板固定工程と、
前記段差カバーが縫着されている前記薄板の前記端部寄りを前記段差カバーとともに前記外被に縫着して前記空隙を封止する段差カバー封止工程と、を備えていることを特徴とする保温容器の製造方法。
【請求項2】
断熱性を有する厚板の裸出面を、不透水性を有するシートからなる外被で被覆したパネルを用いてなる保温容器であって、
前記保温容器は、
複数の前記パネルからなり上部に開口を有する容器本体と、
前記容器本体の前記開口に取設され前記パネルを有する蓋体と、
前記蓋体をなす前記パネルの平坦面上に突設される段差構造と、を備え、
前記段差構造は、
不透水性を有するシートからなり前記外被に縫着される段差カバーと、
前記外被と前記段差カバーの空隙に収容される芯板と、
前記段差カバーに縫着され前記芯板と前記外被の隙間に差し込まれる薄板と、
前記段差構造の段差面と前記パネルの境界に形成される
縫製によるミシン目と、を備え、
前記容器本体の前記開口に前記蓋体を覆設した際に、前記開口の内空に前記段差構造が嵌ることを特徴とする保温容器。
【請求項3】
断熱性を有する厚板の裸出面を、不透水性を有するシートからなる外被で被覆したパネルを用いてなる保温容器であって、
前記保温容器は、
複数の前記パネルからなり上部に開口を有する容器本体と、
前記容器本体の外底に突設される段差構造と、を備え、
前記段差構造は、
不透水性を有するシートからなり前記外被に縫着される段差カバーと、
前記外被と前記段差カバーの空隙に収容される芯板と、
前記段差カバーに縫着され前記芯板と前記外被の隙間に差し込まれる薄板と、
前記段差構造の段差面と前記パネルの境界に形成される
縫製によるミシン目と、を備え、
複数の前記容器本体をスタッキングした際に、前記容器本体の前記開口の内空に他の前記容器本体の前記段差構造が嵌ることを特徴とする保温容器。
【請求項4】
前記容器本体の外底は、前記段差構造を備え、
複数の前記容器本体をスタッキングした際に、前記容器本体の前記開口の内空に他の前記容器本体の前記段差構造が嵌ることを特徴とする請求項2に記載の保温容器。
【請求項5】
前記段差構造の平面形状は、各頂角が直角である四辺形であり、
前記段差構造を平面視した際に前記薄板は、一対かつ互いに平行に設けられていることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の保温容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保冷または保温をしながら物品を輸送するのに適した保温容器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンビニエンスストアや、ドラッグストア、あるいはスーパー等の小売り店舗で販売する冷凍・冷蔵食品は、これらの小売り店舗以外の保管・加工施設から必要量分を小売り店舗に配送することが行われている。
以下に、従来技術にかかる保温容器の概要について
図16を参照しながら説明する。
図16は従来技術にかかる保温容器の断面図である。
図16に示すように、従来技術に係る保温容器20は、例えば発泡樹脂等の断熱性を有する厚板の裸出面を、不透水性を有するシートからなる外被で被覆したパネル23を用いて作製されている。
より具体的には、従来技術に係る保温容器20は、例えば上記パネル23を筐体状に連結してなる容器本体21と、この容器本体21の開口21aに覆設され、やはりパネル23からなる蓋体22により構成されている。
また、このような従来技術に係る保温容器20では、内部への物品の出し入れを容易にするため、あるいは保温容器20の製造コストを廉価にするために、容器本体21に対する蓋体22の固定構造を備えていない場合がある。
そして、上述のような従来技術に係る保温容器20の蓋体22は、その大部分が発泡樹脂等の断熱性を有する厚板からなるため、軽量で操作性が優れている一方で、容器本体21の開口21aから外れやすいという課題があった。
【0003】
このような事情に鑑み本願の発明者は、保温容器20における容器本体21の開口21aへの着脱を容易にしつつ、開口21aから蓋体22を外れ難くするために、
図16中に破線からなる白抜きの枠体で示すように、蓋体22の底面に段差構造を設けて、容器本体21の開口21aにこの段差構造を嵌め込むことで、容器本体21の開口21aから蓋体22を外れ難くすることを考えた。
本願発明と関連する技術分野の先願としては、例えば以下に示す特許文献1が知られている。
【0004】
特許文献1には「折り畳み式保冷箱」という名称で、保冷または保温をしながら輸送を行う用途に適した折り畳み式保冷箱に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示される発明である折り畳み式保冷箱は、同文献中の
図1に記載される符号をそのまま用いて説明すると、防水シート製の箱状外袋3と、その内壁に重ねられる断熱内壁体と、断熱板付き蓋2とからなり、断熱内壁体は、断熱板23と、該断熱板23を包む断熱板袋と、その外側壁面から上方に突き出して蓋2の断熱板23の4つの外周面のそれぞれに当接する外縁4とを有し、断熱板袋は、上端が断熱板23の挿入口となっており、庫内側袋材は上方への延長部を有し、該延長部に断熱板23の上面幅を保持して、帯状芯板の中間部を逢着し、芯板の下部を、断熱板袋の箱状体内壁側袋材と断熱板23の外壁との間に差し込んで、断熱板袋の天井袋材および外縁4を形成することを特徴とするものである。
上記構成の特許文献1に開示される発明によれば、蓋と庫体とのシールを良好にでき、しかも庫体の外縁を垂直に保持できるため、蓋の着脱を迅速に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1に開示される発明を参照して、先の
図16に示す従来技術に係る保温容器20の蓋体22の裏面に、つまり蓋体22を構成するパネル23の平坦面上に段差構造(
図16中の白枠部分を参照)を縫製により形成する場合、この段差構造の裸出面を被覆するシートの四辺の端縁に芯板(特許文献1中に開示される芯板54に相当)を縫着し、この芯板を段差構造の芯をなす厚板と、その支持材であるパネル23の外被の間に挿入すれば、段差構造の全ての段差面を略直角に形成できる可能性がある。
しかしながらこの場合は、段差構造の角に隣接する位置において差し込まれた芯板が重なり合うため、この部分の厚みが相対的に増加し、段差構造の角部の外形を美しく仕上げることができないという課題が生じてしまう。
さらに、上記課題を解消すべく、芯板同士の重なりが生じないように段差構造の角に近接して配される芯板の一部を切欠いた場合は、形成される段差構造の角に近接する部分の段差面を略直角に形成することができなくなる。
さらに、特許文献1に開示される発明の技術内容を参照する場合は、段差構造の芯をなす厚板の裸出面を被覆するシートと、このシートの端縁に縫着される芯板(特許文献1中に開示される芯板54に相当)を、これらの支持材となるパネル23の外被に縫着して固定して一体化する必要がある。
この場合、厚板を被覆するシートと芯板は縫着されて一体に固定されているものの、これら以外のパーツは互いに何ら固定されていないため、パネル23を被覆する外被上の目的とする位置に、上記厚板、シート及び芯板からなる積層体を保持しつつ、その縁部をミシン掛けして正確に固定することは技術的に困難であった。
そして、蓋体22裏面の目的とする位置に正確に段差構造が形成されていない場合は、容器本体21の開口21aに蓋体22を覆設することができなくなるという致命的な不具合が生じてしまう。
よって、特許文献1を参照しただけでは、先の
図16に示す蓋体22の裏面の所望の位置に正確に、縫製により段差構造を形成することは難しかった。
【0007】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものでありその目的は、断熱性を有する厚板の裸出面を、不透水性を有するシートで被覆してなるパネルを用いて保温容器を作製する際に、保温容器の所望位置に正確に縫製により段差構造を形成することができる保温容器の製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、同上の保温容器において、容器本体への蓋体の着脱が容易で、かつ容器本体から蓋体が外れ難い保温容器を提供することにある。
さらに、本発明の別の目的は、同上の保温容器において、複数の容器本体をスタッキングする際に安定性に優れて崩れ難い保温容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための第1の発明である保温容器の製造方法は、断熱性を有する厚板の裸出面を、不透水性を有するシートからなる外被で被覆したパネルを用いてなる保温容器の製造方法であって、パネルの一部は、その平坦面上に突設される段差構造を備え、この段差構造は、不透水性を有するシートからなり外被に縫着される段差カバーと、外被と段差カバーの空隙に収容され断熱性を有する芯板と、段差カバーに縫着され芯板と外被の隙間に差し込まれる薄板と、を備え、段差カバーの外縁寄り所望箇所に薄板を縫着して一体化する薄板縫着工程と、段差カバーにおいて薄板が縫着されていない外縁寄りを、外被に縫着するとともに、外被と段差カバーの間に空隙を形成する段差カバー位置決め工程と、この空隙に芯板を収容する芯板格納工程と、芯板と外被の隙間に、段差カバーが縫着されていない薄板の端部を差し込んで芯板の位置決めを行う芯板固定工程と、段差カバーが縫着されている薄板の端部寄りを段差カバーとともに外被に縫着して段差カバーと外被の間に形成される空隙を封止する段差カバー封止工程と、を備えていることを特徴とするものである。
【0009】
上記構成の第1の発明において、パネルは保温容器の容器本体と蓋体を形成するという作用を有する。また、パネルを構成する厚板は、保温容器内に収容された物品を外部環境から断熱して、その温度を保つという作用を有する。また、パネルを構成するシートは、厚板の裸出面に不透水性を付与するという作用を有する。
また、第1の発明において、パネルの一部に段差構造が設けられる場合とは具体的に、保温容器の容器本体の外底に段差構造が設けられる場合と、保温容器の蓋体に段差構造が設けられる場合とがある。そして、前者の場合は、複数の容器本体をスタッキングさせた際に崩れ難くするという作用を有する。また、後者の場合は、容器本体の開口に蓋体を覆設した際に、容器本体の開口に蓋体を嵌合させて外れ難くするという作用を有する。
さらに、第1の発明では、保温容器の容器本体の外底に段差構造を設けると共に、蓋体にも段差構造を設ける場合がある。この場合は、上述の前者の場合の作用と、後者の場合の作用が同時に発揮される。
また、パネルの一部に設けられる段差構造において、芯板は、段差構造における芯として、段差構造の外形を形作るという作用を有する。また、段差カバーは、上記芯板の裸出面を被覆してその裸出面に不透水性を付与するという作用を有する。
また、薄板は、段差カバーに縫着されて一体に固定されることで、そのミシン目の形成位置において段差カバーをL字状に屈曲させるという作用を有する。そして、上述のように段差カバーに縫着された薄板において、段差カバーに連結されていない側の端部を、芯板と外被の隙間に差し込むことで、外被と段差構造の境界にミシン目を配設しながら、芯板の端面に段差カバーを近接又は接触させながら保持するという作用を有する。つまり、段差カバーに薄板を取り付けることで、芯板の表面に沿って段差カバーを覆設することが可能になる。
【0010】
さらに、第1の発明における薄板縫着工程は、段差カバーの外縁寄り所望箇所に薄板を縫着して一体化するという作用を有する。
また、段差カバー位置決め工程は、段差カバーを外被に縫着して固定することで、外被上における段差カバーの取設位置を確定させるとともに、外被と段差カバーの間に芯板を挿入するための空隙を形成させるという作用を有する。
加えて、芯板格納工程は、外被と段差カバーの間に形成される空隙に芯板を収容して格納するという作用を有する。
また、芯板固定工程は、芯板と外被の隙間に、段差カバーが縫着されていない側の薄板の端部を差し込んで、外被上における芯板の配置を確定させるという作用を有する。
そして、段差カバー封止工程は、段差カバーが縫着されている薄板の端部寄りを段差カバーとともに外被に縫着して、段差カバーと外被の間に形成される空隙を封止するという作用を有する。なお、段差カバーと外被との間の空隙を封止するためのミシン目は、段差カバーに薄板を縫着した際に形成されるミシン目と略平行に、かつ段差構造の段差面からより離れた位置に形成される。
したがって、第1の発明では、外被上に形成された段差構造において、薄板が差し込まれている部分では、2本のミシン目が互いに略平行に形成されることになる。
【0011】
上述の通り第1の発明では、外被上に芯板を有しない状態で段差カバーが予め外被に縫製により固定され(段差カバー位置決め工程)、続いて芯板が外被上の所望の位置に設けられ(芯板格納工程及び芯板固定工程)、その後段差カバーが薄板とともに外被に縫着される(段差カバー封止工程)ことで、外被上の所望の位置に正確に段差構造を縫製により形成することが可能になる。
つまり、第1の発明では、外被上における芯板の位置決め作業に先立って、外被上における段差カバーの位置決めが行われるため、外被上における段差構造の形成位置が当初予定の位置からずれる可能性が極めて低い。
さらに、第1の発明では、薄板縫着工程、芯板固定工程及び段差カバー封止工程を備えていることで、第1の発明の段差構造の全ての段差面が、その内部に格納される芯板の各端面と略平行に形成されることになる。この結果、第1の発明の段差構造の突出部分の立体形状は、芯板の外形とほぼ同じになる。これにより、第1の発明の突出部分の立体形状を、容器本体の開口の中空形状と符合させることが容易になる。
よって、第1の発明によれば、蓋体を構成するパネルの所望の位置に正確に縫製により段差構造を形成することを可能にしつつ、その突出部分の立体形状を容器本体の開口の中空形状に符合させることが容易になる。
【0012】
第2の発明である保温容器は、断熱性を有する厚板の裸出面を、不透水性を有するシートからなる外被で被覆したパネルを用いてなる保温容器であって、この保温容器は、複数のパネルからなり上部に開口を有する容器本体と、この容器本体の開口に取設される蓋体と、この蓋体をなすパネルの平坦面上に突設される段差構造と、を備え、段差構造は、不透水性を有するシートからなり外被に縫着される段差カバーと、外被と段差カバーの空隙に収容される芯板と、段差カバーに縫着され芯板と外被の隙間に差し込まれる薄板と、段差構造の段差面とパネルの境界に形成されるミシン目と、を備え、容器本体の開口に蓋体を覆設した際に、開口の内空に蓋体に設けられる段差構造が嵌ることを特徴とするものである。
【0013】
上記構成の第2の発明は、先の第1の発明において製造される保温容器のうち、蓋体に段差構造が形成されるものを物の発明として特定したものである。
よって、第2の発明における、保温容器を構成する容器本体、蓋体のそれぞれによる作用は、第1の発明における容器本体、蓋体のそれぞれによる作用と同じである。また、第2の発明において、容器本体及び蓋体を構成するパネル及びこのパネルを構成する厚板、シート、段差構造のそれぞれによる作用も、第1の発明におけるパネル及びこのパネルを構成する厚板、シート、段差構造による作用と同じである。
さらに、第2の発明の段差構造において、その段差面とパネル(より詳細にはパネルの外被)の境界にミシン目が形成されることで、このミシン目において段差シートをL字状に屈曲させることが可能になる。この場合、第2の発明の段差構造の全ての段差面が、その内部に格納される芯板の各端面と略平行に形成されることになる。この結果、第2の発明の段差構造の突出部分の立体形状は、芯板の外形とほぼ同じになる。これにより、第2の発明の段差構造の立体形状を、容器本体の開口の中空形状と符合させることが容易になる。
つまり、第2の発明によれば、段差構造を備えた蓋体を、容器本体の開口に確実に嵌合させることが可能になる。
この結果、第2の発明によれば、保温容器を量産する際に、蓋体における段差構造の位置ずれや、段差構造の突出部分の立体形状の不良を起こり難くするという作用を有する。
つまり、第2の発明によれば、製品製造時に生じる不可避な品質のばらつきの幅を小さくするという作用を有する。
【0014】
第3の発明である保温容器は、断熱性を有する厚板の裸出面を、不透水性を有するシートからなる外被で被覆したパネルを用いてなる保温容器であって、保温容器は、複数のパネルからなり上部に開口を有する容器本体と、容器本体の外底に突設される段差構造と、を備え、段差構造は、不透水性を有するシートからなり外被に縫着される段差カバーと、外被と段差カバーの空隙に収容される芯板と、段差カバーに縫着され芯板と外被の隙間に差し込まれる薄板と、段差構造の段差面とパネルの境界に形成されるミシン目と、を備え、複数の容器本体をスタッキングした際に、容器本体の開口の内空に他の容器本体の段差構造が嵌ることを特徴とするものである。
【0015】
上記構成の第3の発明は、先の第1の発明において製造される保温容器のうち、容器本体の外底に段差構造が形成されるものを物の発明として特定したものである。
よって、第3の発明における、保温容器を構成する容器本体、蓋体のそれぞれによる作用は、第1の発明における容器本体、蓋体のそれぞれによる作用と同じである。また、第3の発明において、容器本体及び蓋体を構成するパネル及びこのパネルを構成する厚板、シート、段差構造のそれぞれによる作用も、第1の発明におけるパネル及びこのパネルを構成する厚板、シート、段差構造による作用と同じである。
さらに、第3の発明の段差構造において、その段差面とパネル(より詳細にはパネルの外被)の境界にミシン目が形成されることで、この境界位置において段差シートをL字状に屈曲させるという作用を有する。この場合、第3の発明の段差構造の全ての段差面が、その内部に格納される芯板のそれぞれの端面と略平行に形成されることになる。この結果、第3の発明の段差構造の突出部分の立体形状は、芯板の外形とほぼ同じになる。これにより、第3の発明の段差構造の立体形状を、容器本体の開口の中空形状と符合させることが容易になる。
つまり、第3の発明によれば、段差構造を備えた容器本体の底を、他の容器本体の開口に確実に嵌合させるという作用を有する。
この結果、第3の発明によれば、保温容器を量産する際に、容器本体における段差構造の位置ずれや、段差構造の突出部分の立体形状の不良を起こり難くするという作用を有する。
つまり、第3の発明によれば、製品製造時に生じる不可避な品質のばらつきの幅を小さくするという作用を有する。
【0016】
第4の発明である保温容器は、上述の第2の発明であって、容器本体の外底は、蓋体に形成される段差構造と同様の段差構造を備え、複数の容器本体をスタッキングした際に、容器本体の開口の内空に他の容器本体の段差構造が嵌ることを特徴とするものである。
【0017】
上記構成の第4の発明は、上述の第2の発明による作用と、上述の第3の発明による作用を組み合わせた作用を有する。
【0018】
第5の発明である保温容器は、上述の第2乃至第4のいずれかの発明であって、段差構造の平面形状は、各頂角が直角である四辺形であり、この段差構造を平面視した際に薄板は、一対かつ互いに平行に設けられていることを特徴とするものである。
【0019】
上記構成の第5の発明は、上述の第2乃至第4のそれぞれの発明による作用と同じ作用を有する。さらに、第5の発明において段差構造の平面形状を、各頂角が直角である四辺形にするとともに、段差構造を平面視した際に薄板を一対かつ互いに平行に設けておくことで、一対の薄板により芯板全体を、外被側から段差カバー側に向かって均等に押し上げるという作用を有する。
この場合、形成後の段差構造の厚みを均一化して、段差構造の外観の審美性を向上させるという作用を有する。
【発明の効果】
【0020】
上述のような第1の発明によれば、パネルを構成する外被上の所望の位置に正確に縫製により段差構造を形成することができる。
さらに、保温容器の所望のパネルに、段差構造を縫製により形成した場合は、同様の段差構造を接着剤等でパネルの平坦面上に接着して形成する場合に比べて、パネルから段差構造が分離する、あるいは段差構造自体が分解するなどの不具合が生じるのを好適に防止できる。この結果、第1の発明により製造された保温容器の耐久性を向上させることができる。
さらに第1の発明によれば、保温容器を量産する際に、容器本体及び/又は蓋体に形成される段差構造に位置ずれが生じる、あるいはこの段差構造の突出部分の立体形状が芯板の立体形状とほぼ同じでない、いわゆる外形不良になるリスクを大幅に低減することができる。
この結果、第1の発明によれば、保温容器の容器本体に蓋体を被覆した際に、容器本体の開口に蓋体を嵌合させることができない不良品が生じる、あるいは容器本体の外底に段差構造を備えた複数の容器本体をスタッキングした際に、スタッキングさせることができない又は崩れやすくなるといった不具合が生じるのを好適に防ぐことができる。
よって、第1の発明によれば高品質で、かつその品質にばらつき少ない保温容器を容易に量産して提供することができる。
また、第1の発明によれば縫製作業のみで、パネルの平坦面上に段差構造を形成することができる。このことは、第1の発明の作製にあたり、ミシン以外の特殊な機器が必要ないことを意味している。よって、第1の発明によれば、高品質な保温容器を廉価に提供できるというメリットもある。
【0021】
第2の発明は、上述の第1の発明により製造された保温容器のうち、特に蓋体に段差構造が縫製により形成されたものを物の発明として特定したものである。
よって、第2の発明による効果は、上述の第1の発明による効果のうち、蓋体に段差構造が縫製により形成された保温容器による効果と同じである。
【0022】
第3の発明は、上述の第1の発明により製造された保温容器のうち、特に容器本体の外底に段差構造が縫製により形成されたものを物の発明として特定したものである。
よって、第3の発明による効果は、上述の第1の発明による効果のうち、容器本体の外底に段差構造が縫製により形成された保温容器による効果と同じである。
【0023】
第4の発明は、上述の第2の発明による効果と、上述の第3の発明による効果を組み合わせた効果を奏する。
【0024】
第5の発明は、上述の第2乃至第4のそれぞれの発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第5の発明によれば、パネルに突設される段差構造の厚みや外観を、そのミシン目の配置も含めて略対称にすることができる。
よって第5の発明によれば、保温容器の外観上の審美性を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る保温容器の断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る保温容器の容器本体の斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る保温容器の蓋体の斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る保温容器における容器本体を複数個スタッキングさせた状態の断面図である。
【
図5】(a)
図3に示す蓋体における段差構造のA-A線矢視断面図であり、(b)
図3に示す蓋体における段差構造のB-B線矢視断面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る段差構造における段差カバーの展開図(斜視図)である。
【
図7】本発明の実施形態に係る保温容器の製造方法のフローチャートである。
【
図8】段差カバーに薄板を縫着する様子を示す部分斜視図である。
【
図9】段差カバーへの薄板の縫着が完了した状態を示す部分斜視図である。
【
図10】外被上において段差カバーを位置決めする様子を示す斜視図である。
【
図11】段差カバーと外被の間に形成される空隙に芯板を収容する様子を示す斜視図である。
【
図12】段差カバーと外被の間に形成される空隙への芯板の格納を完了した状態を示す斜視図である。
【
図13】芯板と外被の隙間に薄板を差し込む前の状態を示す斜視図である。
【
図14】芯板と外被の隙間への薄板の差し込みが完了した状態を示す斜視図である。
【
図15】段差カバーにおいて薄板が縫着される側の縫い代を外被に縫着した状態を示す斜視図である。
【
図16】従来技術にかかる保温容器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態に係る保温容器及びその製造方法について
図1乃至
図15を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
[1-1;本発明の基本構成の構造について]
はじめに、
図1乃至
図3を参照しながら、本実施形態に係る保温容器の概要について説明する。
図1は本発明の実施形態に係る保温容器の断面図である。また、
図2は同保温容器の容器本体の斜視図である。さらに、
図3は同保温容器の蓋体の斜視図である。加えて、
図4は同保温容器における容器本体を複数個スタッキングさせた状態の断面図である。なお、
図1は
図2中のX-X線方向から見た断面図である。
本実施形態に係る保温容器1は、
図1乃至
図3に示すように、厚板状のパネル4を用いてなる容器本体2と、同パネル4を用いてなる蓋体3を備え、容器本体2及び/又は蓋体3を構成するパネル4の必要箇所に段差構造6を備えてなるものである。より具体的には、本実施形態に係る保温容器1は、以下に示す4つの態様がある。
【0028】
(1)段差構造6を有する蓋体3と、段差構造6を有しない容器本体2とを備えてなる保温容器1
(2)段差構造6を有しない蓋体3と、段差構造6を有する容器本体2とを備えてなる保温容器1
(3)段差構造6を有する容器本体2のみからなる保温容器1(ただし、使用時には段差構造6を有する容器本体2が複数個必要である)
(4)段差構造6を有する蓋体3と、段差構造6を有する容器本体2とを備えてなる保温容器1
【0029】
また、上述のような本実施形態に係る保温容器1を構成するパネル4は、特に図示しないが、例えば発泡樹脂等の断熱性を有する厚板の裸出面を、不透水性を有するシートからなる外被10(
図3を参照)を被覆したものである。
さらに、本実施形態に係る保温容器1の容器本体2は、例えば
図2に示すように、その側面に必要に応じて取手5を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
この場合、本実施形態に係る保温容器1の取扱いや持ち運びが容易になる。
【0030】
そして、本実施形態に係る保温容器1の上記態様(1),(4)では、
図1に破線で示すように、容器本体2の開口2aに蓋体3を覆設した際に、容器本体2の開口2aの内空に蓋体3に突設される段差構造6を嵌めることができる。
また、本実施形態に係る保温容器1の上記態様(2)~(4)では、
図4に示すように、複数の容器本体2をスタッキングさせた際に、容器本体2の開口2aの内空に、他の容器本体2の外底2bに突設される段差構造6を嵌めることができる。
なお、本実施形態に係る保温容器1では、パネル4の平坦面上に突設される段差構造6は縫製により形成されている。
【0031】
[1-2;段差構造の細部について]
本実施形態に係る保温容器1における段差構造6の内部構造について
図3及び
図5を参照しながら説明する。
図5(a)は先の
図3に示す蓋体における段差構造のA-A線矢視断面図であり、(b)は先の
図3に示す蓋体における段差構造のB-B線矢視断面図である。なお、
図1乃至
図4に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
パネル4の平坦面上に突設される段差構造6は、
図3及び
図5(a)に示すように、パネル4の裸出面を被覆する外被10に縫着される段差カバー7と、外被10と段差カバー7の間に形成される空隙Tに格納される芯板11を備えている。
さらに、この段差構造6を構成する段差カバー7は、外被10に単独で縫着される縫い代7c
1と[
図3及び
図5(a)を参照]、外被10に薄板8とともに縫着される縫い代7c
2[
図3及び
図5(b)を参照]の2種類を備えている。
より詳細には、段差カバー7の縫い代7c
2では、この縫い代7c
2に縫着される薄板8の端部8aが、芯板11と外被10の間に差し込まれている一方で、薄板8における端部8aと相対する側の端部8b寄りは、折り返された縫い代7c
2及びこの折り返し部分に挟持される薄板8とともに外被10に縫着されている[
図3及び
図5(b)を参照]。
したがって、本実施形態に係る段差構造6では、段差カバー7の縫い代7c
2に薄板8を縫着した際に形成されたミシン目9が、段差構造6の段差面[段差面被覆部7b
1に同じ、
図5(b)を参照]と外被10の境界に配設される。
【0032】
一般にミシンは、縫着する部分を「押さえ金」で一時的に押さえつけながら縫い目(ミシン目9)を形成する構造になっている。このため、ミシンの「押さえ金」を配置することができない場所、すなわち例えば段差構造における段差面の基部(きわ)等にミシン掛けすることはできない。
つまり、
図3に示すような段差構造6を、ミシンを用いて縫製により形成しようとする場合は、段差カバー7と外被10の間に形成される空隙Tに芯板11を格納した状態で、段差構造6の段差面と外被10の境界にミシン掛けすることができない。
これに対して、本実施形態に係る段差構造6では、段差構造6の段差面と外被10の境界にミシン掛けする代わりに、この部分に段差カバー7に薄板8を縫着した際に形成されるミシン目9を配置しておくことで、段差構造6の段差面と外被10の境界にあたかもミシン掛けしたかのような外観にすることができる。
この場合、段差カバー7の縫い代7c
2は、
図5(b)に示すように、段差構造6の段差面と外被10の境界に形成されるミシン目9と略平行に形成される別のミシン目9によって外被10に固定される。
つまり、
図3に示す本実施形態に係る段差構造6において、縫い代7c
2に形成される2本のミシン目9のうち、段差構造6寄りに形成されるミシン目9は、
図5(b)に示すように、実際には外被10を貫通していないが、外観上はあたかも外被10を貫通しているかのように見える(
図3を参照)。
【0033】
さらに、上述のような本実施形態に係る段差構造6は、
図3及び
図5(a)中に示す段差カバー7の縫い代7c
1,7c
1間の距離L
1が、先の
図2中に示す容器本体2の開口2aの長辺側の中空部の内内寸法L
1とほぼ同じになるように、また、
図3及び
図5(b)中に示す段差カバー7の縫い代7c
2,7c
2間の距離L
2が、先の
図2中に示す容器本体2の開口2aの長辺側の中空部の内内寸法L
2とほぼ同じになるように、形成されている。
このため、本実施形態に係る保温容器1では、容器本体2の開口2aの中空内に、蓋体3又は別の容器本体2に形成される段差構造6を確実に嵌め込むことができる。なお、容器本体2の開口2aとそこに嵌め込まれる段差構造6の間は、必要に応じてクリアランスを備えていてもよい。
なお、本実施形態に係る保温容器1では、段差構造6を平面視した際の短辺側に縫い代7c
1を、また長辺側に縫い代7c
2を設ける場合を例に挙げて説明しているが、段差カバー7における縫い代7c
1と縫い代7c
2を入れ替えてもよい。
【0034】
[1-3;基本構成の製造方法について]
ここで、本実施形態に係る保温容器1のパネル4の平坦面上に、縫製により段差構造6を形成する際の具体的な手順について
図3、
図5、
図6乃至
図15を参照しながら説明する。なお、ここでは段差構造6の平面形状が、特に各頂角が直角である四辺形である場合を例に挙げて説明している。
本実施形態に係る段差構造6を形成する前の準備として、段差カバー7、薄板8及び芯板11を所望形状及びサイズに切り抜く又は切断しておく必要がある。
【0035】
はじめに、段差カバーの形状について
図6を参照しながら説明する。
図6は本発明の実施形態に係る段差構造における段差カバーの展開図(斜視図)である。なお、
図1乃至
図5に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図6に示すように、段差カバー7は、各頂角が直角である四辺形である天面被覆部7aを備えている。また、この天面被覆部7aにおける一対の辺18a,18aのそれぞれに段差面被覆部7b
1,7b
1が延設されるとともに、この段差面被覆部7b
1,7b
1のそれぞれには縫い代7c
1が延設されている。
さらに、上記天面被覆部7aにおいて、一対の辺18a,18aと異なる他の一対の辺18b,18bのそれぞれに段差面被覆部7b
2,7b
2が延設されるとともに、この段差面被覆部7b
2,7b
2のそれぞれには縫い代7c
2が延設されている。
また、
図6に示すように、段差カバー7は、一対の段差面被覆部7b
1,7b
1の長手方向における端部のそれぞれに、舌状の折込み片7dを備えていてもよい(任意選択構成要素)。
【0036】
さらに、本実施形態に係る段差構造6に用いられる薄板8は、例えば合成樹脂からなる平板材を短冊状に切断してなるものを用いることができる。また、薄板8の長さは、段差カバー7における一対の辺18b,18b(
図6を参照)と略同一か、これよりもやや短くなるように設定しておくとよい。
さらに、薄板8の厚みは特に特定されないが、段差カバー7の厚みと同程度(1~3mm程度)であることが好ましく、ミシンによる縫合作業を支障なく行うことができるのであれば、薄板8の厚みは段差カバー7の厚みよりも大きくてもよい。
さらに、薄板8の幅(薄板8の挿入方向における長さ)についても特に特定されないが、芯板11と外被10の隙間への薄板8の差し込み動作に差し支えない程度の幅を有していればよい。
加えて、薄板8の材質は、必ずしも合成樹脂である必要はなく、同等以上の強度を有するものであれば金属製の薄板や防水加工を施した厚紙等を用いることもできる。
【0037】
加えて、本実施形態に係る段差構造6に用いられる芯板11の平面寸法は、段差カバー7における天面被覆部7a(
図6を参照)の平面寸法と略同一か、これよりもやや小さくなるよう設定しておくとよい。
また、芯板11の厚みは、段差面被覆部7b
1又は段差面被覆部7b
2の幅(辺18a又は辺18bと直交する方向の長さ;
図6を参照)に対してやや小さくなるように、より具体的には、段差面被覆部7b
1又は段差面被覆部7b
2の幅から段差カバー7の厚みの2倍と薄板8の厚みを合わせて差引いた厚みになるよう設定しておくとよい。
【0038】
続いて、
図7を参照しながら本実施形態に係る保温容器1の製造方法について説明する。
図7は本発明の実施形態に係る保温容器の製造方法のフローチャートである。より具体的には、
図7は本実施形態に係る段差構造6の作製手順を示すフローチャートである。
図7に示すように、本実施形態に係る保温容器の製造方法12において、パネル4の平坦面状に段差構造6を形成するための最初の工程は薄板縫着工程13である。この薄板縫着工程13について
図8及び
図9を参照しながら説明する。
図8は段差カバーに薄板を縫着する様子を示す部分斜視図である。また、
図9は段差カバーへの薄板の縫着が完了した状態を示す部分斜視図である。なお、
図1乃至
図7に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
薄板縫着工程13では、まず
図8に示すように段差カバー7における縫い代7c
2を、その幅方向(段差カバー7の辺18bと直交する方向)に折り返した状態にした後(
図8の紙面左側を参照)、この縫い代7c
2の折り返し部分で薄板8を挟持してから、縫い代7c
2と段差面被覆部7b
2の境界上をミシン掛けして、この境界上にミシン目9を形成する(
図8の紙面右側を参照)。
なお、段差カバー7における一対の縫い代7c
2, 7c
2のそれぞれに薄板8が縫着された状態を示したものが
図9である。
また、薄板8が縫着された縫い代7c
2, 7c
2は、段差カバー7の断面方向から見た際に、ミシン目9の形成位置を支点にして薄板8を、段差カバー7から離れる方向(
図9中の符号Uで示す方向)に回動させることができる。
この時、段差カバー7は、ミシン目9において断面L字状をなすように屈曲する(後段における
図13を参照)。
【0039】
さらに、薄板縫着工程13に続く工程は、
図7に示すように段差カバー位置決め工程14である。この段差カバー位置決め工程14について
図10を参照しながら説明する。
図10は外被上において段差カバーを位置決めする様子を示す斜視図である。なお、
図1乃至
図9に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
段差カバー位置決め工程14では、薄板8が縫着された段差カバー7における辺18aを外被10側に折り曲げつつ、縫い代7c
1を外被10上に重ね合わせてから、段差面被覆部7b
1と縫い代7c
1の境界にミシン掛けして、この境界上にミシン目9を形成する。この作業により、段差カバー7における一対の縫い代7c
1, 7c
1が外被10に縫着されて固定される。この作業は、外被10上の予め定められた位置に段差カバー7を縫着して固定するだけなので、外被10上において段差カバー7の縫合位置にずれが生じるリスクは極めて小さい。
この時、一対の縫い代7c
1間の距離、すなわち段差カバー7と外被10を縫着する一対のミシン目9間の距離は、天面被覆部7aの辺18bの長さと略同一になる。
そして、この作業により、外被10上における段差カバー7の位置決めが完了する。また、この作業により段差カバー7と外被10の間に、芯板11を収容するための空隙Tが形成される。
このように、本実施形態に係る保温容器の製造方法12では、段差カバー固定工程14を備えていることで、芯板11の収容作業に先立って、外被10上における段差カバー7の配置を確定することができる。
【0040】
また、段差カバー位置決め工程14に続く工程は、
図7に示すように芯板格納工程15である。この段差カバー位置決め工程14について
図11及び
図12を参照しながら説明する。
図11は段差カバーと外被の間に形成される空隙に芯板を収容する様子を示す斜視図である。また、
図12は段差カバーと外被の間に形成される空隙への芯板の格納を完了した状態を示す斜視図である。なお、
図1乃至
図10に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
芯板格納工程15では、
図11に示すように、外被10と段差カバー7の間に形成された空隙Tに、予め所望サイズに切断又は成形された芯板11を挿入して収容する。
また、外被10と段差カバー7の間に形成された空隙Tに芯板11が格納された状態を示したものが
図12である。
本実施形態に係る保温容器の製造方法12では、先の段差カバー固定工程14を備えていることで外被10上における段差カバー7の配置が確定されることで、自動的に芯板格納工程15における芯板11を配置すべき場所が確定される。
このため、本実施形態に係る保温容器の製造方法12では、外被10上における芯板11の位置ずれが生じ難い。
【0041】
そして、芯板格納工程15に続く工程は、
図7に示すように芯板固定工程16である。この芯板固定工程16について
図13及び
図14を参照しながら説明する。
図13は芯板と外被の隙間に薄板を差し込む前の状態を示す斜視図である。また、
図14は芯板と外被の隙間への薄板の差し込みが完了した状態を示す斜視図である。なお、
図1乃至
図12に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
芯板固定工程16では、
図13に示すように、段差カバー7の縫い代7c
2に縫着された薄板8の端部8aを、芯板11と外被10の隙間Sに差し込む。この時、薄板8の端部8aは、
図13中の符号Qで示す方向に回動するように動作する。なお、芯板11と外被10の隙間Sへの薄板8の端部8aの差し込みが完了した状態を示したものが
図14である。
この時、薄板8の端部8aの差し込み動作に伴い、段差カバー7における段差面被覆部7b
2と縫い代7c
2の境界(ミシン目9の形成位置)において段差カバー7がL字状に屈曲するため、芯板11の端面に密着又は近接するように段差カバー7の段差面被覆部7b
2を配設することができる(
図14を参照)。
【0042】
また、
図13及び
図14に示すように、本実施形態に係る保温容器の製造方法12によれば、段差カバー7の一対の縫い代7c
1,7c
1側においても、芯板11の端面に密着又は近接するように段差カバー7の段差面被覆部7b
1が配設される。
したがって、本実施形態に係る段差構造6では、上述の一連の工程を経ることで、芯板11の全ての端面に密着するように段差カバー7(より詳細には、段差カバー7の段差面被覆部7b
1及び段差面被覆部7b
2)を配設することができる[
図5(a),(b)を参照]。
この結果、外被10上に形成される段差構造6外形を、芯板11の外形とほぼ同じにすることができる。
さらに、芯板11と外被10の隙間Sへの薄板8の端部8aの差し込み動作により、外被10上における芯板11の位置決め作業が完了する。
【0043】
なお、
図7乃至
図13に示すように、段差カバー7が折込み片7dを備えている場合は、芯板11と外被10の隙間Sに薄板8の端部8aを差し込む前に、折込み片7dを芯板11の端面側へ折り込んでおくとよい。
このように、段差カバー7が折込み片7dを備えている場合は、芯板11を段差カバー7により被覆した際に、芯板11の角における段差面被覆部7b
1と段差面被覆部7b
2の隙間から芯板11が見えないので(
図3及び
図14を参照)、本実施形態に係る段差構造6の外観上の審美性を向上させることができる。
【0044】
さらに、芯板固定工程16に続く工程は、
図7に示すように段差カバー封止工程17である。この段差カバー封止工程17について
図15を参照しながら説明する。
図15は段差カバーにおいて薄板が縫着される側の縫い代を外被に縫着した状態を示す斜視図である。なお、
図1乃至
図14に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
先にも述べた通りミシンの構造上、先の
図14に示す状態で、段差カバー7における段差面被覆部7b
2と縫い代7c
2の境界にミシン掛けすることはできないが、この境界位置からやや離れた薄板8の端部8b寄りにミシン掛けすることは可能である。
これは、縫い代7c
2の折り返し部分の上であれば、ミシンの「押さえ金」を走行させることができるためである。
よって、縫い代7c
2の折り返し部分に近い位置、すなわち薄板8の端部8b寄りにミシン掛けすることで、縫い代7c
2を薄板8とともに外被10に縫合して固定することができる[
図3、
図5(b)及び
図15を参照]。
【0045】
また、本実施形態に係る段差構造6では、段差カバー7における段差面被覆部7b
2と縫い代7c
2の境界に、縫い代7c
2に薄板8を縫着した際に形成されたミシン目9が存在する。
このため、外観上は段差面被覆部7b
2と縫い代7c
2の境界にもあたかもミシン掛けがなされたような状態になる。ただし、このミシン目9は、先の
図5(b)に示すように、段差カバー7の縫い代7c
2と外被10とを縫合するものではないため、このミシン目9のみでは段差カバー7の縫い代7c
2が外被10に固定された状態にはならない。
よって、外被10と段差カバー7の間に形成される空隙Tを封止しつつ、段差カバー7の縫い代7c
2を外被10に固定するには、縫い代7c
2の折り返し部分に近い位置にミシン掛けする必要がある。
【0046】
[1-4;基本構成による効果について]
上述のような本実施形態に係る保温容器の製造方法12、すなわち外被10上への段差構造6の形成方法によれば、外被10上の所望の位置に正確に段差構造6を縫製により形成することができる。
この場合、外被10上に接着剤で貼付けて段差構造6を形成する場合に比べて、その耐久性を向上させることができる。
また、外被10上の所望の位置に正確に段差構造6を形成できるということは、保温容器1の容器本体2や蓋体3を構成するパネル4の所望の位置に正確に段差構造6を形成できることを意味している。
さらに、本実施形態に係る保温容器の製造方法12によれば、パネル4の平坦面上に突設される段差構造6の立体形状を、芯板11の立体形状とほぼ同じにすることができる。このことは、容器本体2の開口2aにおける中空形状を芯板11の平面形状と略符合させておくことで、容器本体2の開口2aに段差構造6を容易に嵌め合わせることができることを意味している。
【0047】
このため、本実施形態に係る保温容器1において段差構造6を備えた蓋体3を容器本体2の開口2aに覆設する場合や、外底2bに段差構造6を備えた複数の容器本体2をスタッキングする際に、パネル4上における段差構造6の位置がずれてしまっているせいで、容器本体2の開口2aに蓋体3を嵌め合わせることができないといった不具合や、容器本体2同士を安定した状態でスタッキングさせることができないといった不具合が生じるのを好適に防ぐことができる。
したがって、本実施形態に係る保温容器の製造方法12によれば、高品質で耐久性に優れた保温容器1を容易に量産することができる。
【0048】
また、本実施形態に係る保温容器1では、容器本体2の開口2aに段差構造6を容易に嵌め合わせることができるため、保温容器1内において物品を保温又は保冷しておく際の気密性も高まる。
よって、本実施形態に係る保温容器1によれば、保温性又は保冷性に優れた保温容器を提供することができる。
【0049】
また、本実施形態に係る保温容器1によれば、容器本体2の開口2aに段差構造6を備えた蓋体3を覆設する場合や、段差構造6を備えた他の容器本体2の外底2bを覆設する際に、容器本体2の開口2aの中空に段差構造6を嵌め込んで、これらをしっかりと固定することができる。
よって、本実施形態に係る保温容器1では、容器本体2の開口2aに段差構造6を備えた蓋体3を覆設する場合や、段差構造6を備えた他の容器本体2の外底2bを覆設する際に、上記嵌合構造以外の固定構造(例えば面ファスナを用いた固定構造等)を設ける必要がない。
したがって、本実施形態に係る保温容器1によれば、容器本体2の開口2aの開閉作業が容易でありながら、開口2aが閉じた状態を好適に維持することができ、かつその構造がシンプルな保温容器を提供することができる。
【0050】
[2;基本構成の細部構造について]
本実施形態に係る保温容器1の段差構造6を構成する芯板11の材質は特に限定されないが、パネル4を構成する厚板と同じ材質の発泡樹脂を用いてもよい(任意選択構成要素)。
この場合、段差構造6を備えた容器本体2や蓋体3を軽量化できる上、パネル4と協働して保温容器1の断熱性や保温性を向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態に係る保温容器1において、断熱性を有する厚板(図示せず)や芯板11を被覆する外被10や段差カバー7は、その表面に断熱皮膜(例えば金属製の被膜や、金属粉体を含有する塗膜)を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
この場合、本実施形態に係る保温容器1の断熱性や保温性を一層向上させることができる。
【0052】
さらに、本実施形態に係る保温容器1において、パネル4の平坦面上に突設される段差構造6の平面形状が、特に各頂角が直角である四辺形である場合は、段差構造6を形成する芯板11の下面側(外被10と対向する側の面)に、一対の薄板8を、略平行に配置することができる。
この場合、薄板8が芯板11を段差カバー7の天面被覆部7a側へ押し上げる力を均一化することができる。この結果、形成された段差構造6の外観上の厚みを略均一にすることができる。よって、形成された段差構造6の外観上の審美性を向上させることができる。
さらに、上述のような段差構造6では、芯板11の角において薄板8同士が重なることがない。このため、段差カバー7の天面被覆部7aにおける全ての角に作用する負荷が均一化され、特定の角のみが破損し易くなる等の不具合も生じない。
よって、上述のような段差構造6を備えた本実施形態に係る保温容器1の耐久性を向上させることができる。
【0053】
加えて、本実施形態に係る保温容器1では、
図3に示すように蓋体3を構成するパネル4の端縁4aに、容器本体2の開口2aに掛止させるための掛止用つば4bを突設しておいてもよい(任意選択構成要素)。
この場合、容器本体2の開口2aを蓋体3により隙間なく塞ぐことができるので、蓋体3を構成するパネル4の端縁4aに、容器本体2の側面側に折り込む折込み片(図示せず)を備えていない場合でも、外部から容器本体2内への雨水の浸入を好適に防ぐことができる。
よって、本実施形態に係る保温容器1の蓋体3が、上述のような掛止用つば4bを備えている場合は、保温容器1の水密性を一層向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態に係る保温容器1は、
図1及び
図4に示すように、保温容器1の外側面を、より詳細には容器本体2の外側面や蓋体3の外側面を、被覆する薄板状のパネル支持材19を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
この場合、保温容器1がパネル支持材19を備えていることで、容器本体2や蓋体3を構成するパネル4の保護効果及び防汚効果を発揮させることができる。
なお、パネル支持材19は例えば合成樹脂や金属からなる平板材をそのまま用いてもよいし、このような平板材の裸出面に不透水性を有するシートを覆設したものを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上説明したように本発明は、容器本体の開口の開閉動作が容易でありながら、容器本体の開口から蓋体や、スタッキングされた他の容器本体の外底が外れ難く、かつ耐久性に優れ、しかも寸法精度の高い製品を量産し易い保温容器の製造方法及びこの製法により製造された保温容器であり、物流設備やその付属品に関する分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…保温容器 2…容器本体 2a…開口 2b…外底 3…蓋体 4…パネル 4a…端縁 4b…掛止用つば 5…取手 6…段差構造 7…段差カバー 7a…天面被覆部 7b1,7b2…段差面被覆部 7c1,7c2…縫い代 7d…折込み片 8…薄板 8a…端部 8b…端部 9…ミシン目 10…外被 11…芯板 12…保温容器の製造方法 13…薄板縫着工程 14…段差カバー位置決め工程 15…芯板格納工程 16…芯板固定工程 17…段差カバー封止工程 18a,18b…辺 19…パネル支持材 20…保温容器 21…容器本体 21a…開口 22…蓋体 23…パネル T…空隙 S…隙間