(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】屋外使用に適した装飾体の製造方法及び屋外使用に適した装飾体
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20240613BHJP
B41M 5/52 20060101ALI20240613BHJP
B41M 5/50 20060101ALI20240613BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M5/52 100
B41M5/00 120
B41M5/50 120
B41J2/01 101
B41J2/01 123
B41J2/01 109
(21)【出願番号】P 2020187637
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】592194624
【氏名又は名称】株式会社千代田テクニカルアーツ
(74)【代理人】
【識別番号】100111257
【氏名又は名称】宮崎 栄二
(74)【代理人】
【識別番号】100110504
【氏名又は名称】原田 智裕
(72)【発明者】
【氏名】和田 治郎
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-040952(JP,A)
【文献】特開2004-237542(JP,A)
【文献】特開2001-235558(JP,A)
【文献】特開2004-237536(JP,A)
【文献】特開平09-174995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
B41M 5/52
B41M 5/50
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸送機の製品部材である三次元形状を有する金属部材にインクジェット印刷用の染料系インキよりなる色材で装飾部が施された輸送機における装飾体の製造方法であって、
前記金属部材の表面にアルマイト処理を施して防錆層を形成する工程と、
防錆層上に紫外線防止剤を含有する透明樹脂受容層を形成する工程と、
吸水分散性を備えたインクジェット記録用媒体シートにインクジェット印刷により所定の装飾部を施すための染料系インキよりなる色材を内部に入り込ませ、このインクジェット記録用媒体シートを透明樹脂受容層の表面に重ね合わせる工程と、
加熱加圧によりインクジェット記録用媒体シートから色材を昇華させて透明樹脂受容層の内部に入り込ませて定着させる工程と、
色材転写後のインクジェット記録用媒体シートを除去する工程と
、
インクジェット記録用媒体シートを除去した透明樹脂受容層上に、耐光性、耐水性及び耐擦傷性を備えた透明なハードコート層を形成する工程と、から構成され、
前記インクジェット記録用媒体シートには、前記金属部材の三次元形状を二次元化した印刷データに基づいて装飾部が印刷されており、
前記インクジェット記録用媒体シートは、細孔が多数形成されている多孔質アルミナ微粒子を基材樹脂に含有する多孔質シートであり、色材である染料系インキ中の溶媒が吸収され色素成分が内部に保持されて色材がドット径の拡大を抑えた状態で保持されており、
前記加熱加圧の工程は、加圧によりインクジェット記録用媒体シートを金属部材の三次元形状にならって透明樹脂受容層に密着させて、加熱によりインクジェット記録用媒体シートに保持された色材がドット径の拡大を抑えた状態で透明樹脂受容層に転写されるように構成されており、
前記透明なハードコート層は、紫外線硬化型樹脂又は熱硬化型樹脂から形成されており、紫外線防止剤と、シリカ、金属又は金属酸化物の微粒子と、酸化防止剤とが含有されている、装飾体の製造方法。
【請求項2】
前記輸送機は、自転車、バイク又はドローンである、請求項1に記載
の装飾体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外使用に適した装飾体の製造方法及び屋外使用に適した装飾体に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外使用の製品として、例えば、自転車、バイク、ドローン等の輸送機等があり、このような屋外使用の製品の表面には、絵、文字、模様等の装飾が施されている。従来、製品表面の装飾部をインクジェット印刷によって施すものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
屋外使用の製品は、日光、雨等に晒されることが多い。インクジェット印刷用インキとしての染料系インキは、発色の繊細さ再現性に優れるが、日光、雨等に晒されると変色、退色等しやすく、耐光性、耐水性に劣るため、屋外使用の製品の装飾に使用するには不向きであった。
【0005】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、装飾部の形成にインクジェット印刷用インキとして染料系インキを使用しても、装飾部が屋外使用に十分に耐える機能を備える、屋外使用に適した装飾体の製造方法及び屋外使用に適した装飾体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る装飾体の製造方法は、
輸送機の製品部材である三次元形状を有する金属部材にインクジェット印刷用の染料系インキよりなる色材で装飾部が施された輸送機における装飾体の製造方法であって、
前記金属部材の表面にアルマイト処理を施して防錆層を形成する工程と、
防錆層上に紫外線防止剤を含有する透明樹脂受容層を形成する工程と、
吸水分散性を備えたインクジェット記録用媒体シートにインクジェット印刷により所定の装飾部を施すための染料系インキよりなる色材を内部に入り込ませ、このインクジェット記録用媒体シートを透明樹脂受容層の表面に重ね合わせる工程と、
加熱加圧によりインクジェット記録用媒体シートから色材を昇華させて透明樹脂受容層の内部に入り込ませて定着させる工程と、
色材転写後のインクジェット記録用媒体シートを除去する工程と、
インクジェット記録用媒体シートを除去した透明樹脂受容層上に、耐光性、耐水性及び耐擦傷性を備えた透明なハードコート層を形成する工程と、から構成され、
前記インクジェット記録用媒体シートには、前記金属部材の三次元形状を二次元化した印刷データに基づいて装飾部が印刷されており、
前記インクジェット記録用媒体シートは、細孔が多数形成されている多孔質アルミナ微粒子を基材樹脂に含有する多孔質シートであり、色材である染料系インキ中の溶媒が吸収され色素成分が内部に保持されて色材がドット径の拡大を抑えた状態で保持されており、
前記加熱加圧の工程は、加圧によりインクジェット記録用媒体シートを金属部材の三次元形状にならって透明樹脂受容層に密着させて、加熱によりインクジェット記録用媒体シートに保持された色材がドット径の拡大を抑えた状態で透明樹脂受容層に転写されるように構成されており、
前記透明なハードコート層は、紫外線硬化型樹脂又は熱硬化型樹脂から形成されており、紫外線防止剤と、シリカ、金属又は金属酸化物の微粒子と、酸化防止剤とが含有されている、構成とする。
前記輸送機は、例えば、自転車、バイク又はドローンである。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、装飾部となる色材の染料系インキを紫外線防止剤を含有する透明樹脂受容層の内部に入り込んで定着させるので、染料系インキによる装飾部に対して、紫外線による変色、退色等を防止でき、耐光性を向上することができる。また、色材を透明樹脂受容層の内部に定着させることにより、装飾部に対して耐水性を向上することができる。また、透明樹脂受容層上に透明なハードコート層を形成することにより、装飾部に対して、耐光性、耐水性及び耐擦傷性を向上することができる。従って、色材にインクジェット印刷用インキとして染料系インキを使用しても、屋外使用に十分に耐える機能を備える屋外使用装飾体が得られる。
【0009】
また、吸水分散性を備えたインクジェット記録用媒体シートを介して染料系インキの装飾部を転写形成することにより、再現性に優れ、鮮明かつ高解像度に、フルカラーの装飾部を形成することができる。インクジェット記録用媒体シートに部材の三次元形状を二次元化した印刷データに基づいて印刷し、このインクジェット記録用媒体シートにより三次元形状の部材に装飾部を転写形成することにより、三次元形状の部材に対しても簡単に良好な装飾部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態の屋外使用装飾体を示す断面図である。
【
図2】実施形態の屋外使用装飾体の製造工程を示す断面図である。
【
図3】インクジェット記録用媒体シート及び色材の転写を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
図1に示す屋外使用装飾体1は、自転車の車体フレームに適用したものであり、車体フレームの金属部材(アルミ)上に、防錆層11、透明樹脂受容層12、透明ハードコート層13がこの順に形成されたものである。なお、本発明は、自転車の車体フレームに限らず、自転車の他の部材、また、バイク、ドローン等の輸送機等、様々な屋外使用の製品部材に適用することができる。
【0012】
透明樹脂受容層12には、その内部に、インクジェット印刷用の染料系インキよりなる色材21が入り込んで定着した所定の装飾部2が形成されている。透明樹脂受容層12の材料は、ウレタン系樹脂が使用されるが、これに限らず、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂等を使用することができる。
【0013】
透明樹脂受容層12には、紫外線防止剤が含有されている。これにより、装飾部2の色材21に染料系インキを使用しても、紫外線による変色、退色等を防止でき、耐光性を良好に付与できる。
【0014】
透明ハードコート層13にも、紫外線防止剤が含有されて耐光性が付与されている。
これにより、透明樹脂受容層12の内部の色材21に対して、透明樹脂受容層12と透明樹脂受容層12の表面を覆う透明ハードコート層13とによって紫外線カットによる耐光性をさらに向上することができる。従って、色材21にインクジェット印刷用インキとして染料系インキを使用しても、紫外線による変色、退色等を防止でき、屋外使用に十分に耐える機能を備える屋外使用装飾体が得られる。
【0015】
前記紫外線防止剤とは、紫外線吸収剤又は紫外線散乱剤をいう。紫外線吸収剤は、紫外線を吸収し、装飾部2を形成する色材21に対して紫外線の影響を防ぐものであり、例えば、メトキシケイヒ酸オクチル、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、ジメチルPABAオクチル、ジメチルPABAエチルヘキシル、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン等が例示される。紫外線散乱剤は、紫外線を乱反射させて、装飾部2を形成する色材21に対して紫外線の影響を防ぐものであり、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン等が例示される。紫外線散乱剤として、酸化亜鉛、酸化チタン等の粉体を使用する場合は白浮きしやすいことから、装飾部2が濁って見えることがないよう上層の透明樹脂保護層13には使用しない方が好ましく、一方、装飾部2を内部に定着させた透明樹脂受容層12に対して紫外線散乱剤を含有させた場合は、白浮きにより装飾部2の色を際立たせることができる。
【0016】
透明ハードコート層13は、紫外線吸収剤の含有による耐光性に加え、耐水性及び耐擦傷性を備える。この透明ハードコート層13は、鉛筆硬度がH以上有するものである。透明ハードコート層13の材料には、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、有機シリケート化合物、シリコーン系樹脂等を使用することができる。中でも、硬度と耐久性等の点では、シリコーン系樹脂やアクリル系樹脂を使用するのが好ましい。透明ハードコート層13は、硬化性、可撓性及び生産性の点で、紫外線硬化型樹脂又は熱硬化型樹脂が使用されるが、形成が容易なことから紫外線硬化型樹脂を使用するのが好ましい。また、透明ハードコート層13には、シリカ微粒子、金属、金属酸化物等の微粒子を含有させることができ、これにより、耐擦傷性をさらに向上することができる。また、透明ハードコート層13には、酸化防止剤を含有させることができ、これにより、耐候性を向上することができる。
【0017】
次に、製造方法について説明する。
図2を参照して、まず、金属部材10の表面にアルマイト処理を施して防錆層11を形成し、次いで、防錆層11上に紫外線防止剤を含有する透明樹脂からなる塗料を塗布して、透明樹脂受容層12を形成する(
図2(a)参照)。なお、金属部材10でなくプラスチック製の部材の場合は、防錆層11を形成しなくてもよい。前記透明樹脂塗料の塗布方法としては、例えば、はけ塗り、ローラー塗り等の直接法、エアースプレー塗り、エアーレススプレー塗り等の噴霧法、他にコータ法など、様々な塗装方法により実施できる。
【0018】
透明樹脂受容層12の形成後、透明樹脂受容層12の表面に、色材21を内部に入り込ませたインクジェット記録用媒体シート20を重ね合わせる(
図2(b)参照)。インクジェット記録用媒体シート20は、基材シートに色材21のインクジェット印刷用インキに染料系インキを用いてインクジェット印刷することで所定の装飾部2を形成したものである。インクジェット印刷に使用するインクジェット印刷機は、複数色(例えば、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラック等)のインキを噴射するプリンタヘッドを有し、フルカラー印刷できるものである。
【0019】
インクジェット記録用媒体シート20の基材シートは、例えば、直線的な細孔が形成されている多孔質アルミナ微粒子を基材樹脂に含有させた多孔質シート等が使用される。この多孔質シートは、吸水分散性、すなわち色材21のインキを素早く吸収してインクジェットのドットの拡散を防ぐ性質を備えたものである。インクジェットプリンタのプリンタヘッドから噴射された染料系インキよりなる色材21は、多孔質の基材シートの内部まで浸透して保持される。このとき、インキ中の溶媒(水分)がインクジェット記録用媒体シート20に吸収されながら色素成分が内部に保持される(
図3(a)参照)。これにより、インクジェット記録用媒体シート20におけるインクジェットのドット径の拡大を抑えることができる。従って、インクジェット記録用媒体シート20には、フルカラーの装飾部2が鮮明かつ高解像度に形成される。
【0020】
次いで、透明樹脂受容層12の表面にインクジェット記録用媒体シート20を重ね合わせた積層体を加熱加圧する。加熱加圧には、例えば、ホットプレスを用いることができる。加圧により、インクジェット記録用媒体シート20が基材の形状にならって密着される。従って、基材の3D形状にもならってインクジェット記録用媒体シート20が密着される。加熱により、インクジェット記録用媒体シート20の内部に保持された色材21の染料系インキが昇華して透明樹脂受容層12の内部に入り込む(
図2(c)参照)。このとき、インクジェット記録用媒体シート20には、装飾部2の色材21がドット径の拡大を抑えた状態で保持されている(
図3(b)参照)。これにより、色材21の染料系インキが昇華により透明樹脂受容層12に転写されるときのドット径も拡大を抑えた状態で透明樹脂受容層12の内部に入り込ませることができる。従って、透明樹脂受容層12には、フルカラーの装飾部2が鮮明かつ高解像度に転写形成される。そして、加熱加圧の終了後、色材転写後のインクジェット記録用媒体シート20を剥がして基材の透明樹脂受容層12上から除去する。
【0021】
次いで、透明樹脂受容層12上に透明ハードコート層13の形成用塗料を塗布して、透明ハードコート層13を形成する(
図2(d)参照)。透明ハードコート層13の形成用塗料としては、例えば、紫外線照射によって硬化するとともに含有成分の紫外線防止剤その他の機能剤が有機骨格に結合する樹脂材料と、光開始剤とを有機溶媒又は水に溶解させた塗料を使用するのが好ましい。透明ハードコート層13の形成用塗料の塗布方法としては、例えば、はけ塗り、ローラー塗り等の直接法、エアースプレー塗り、エアーレススプレー塗り等の噴霧法、他にコータ法など、様々な塗装方法により実施できる。そして、透明ハードコート層13の形成用塗料を透明樹脂受容層12上に塗布した後、紫外線照射を行うことにより、透明ハードコート層13を形成することができる。
以上で、インクジェット印刷用の染料系インキよりなる色材21で装飾部2が施された屋外使用装飾体1が完成する。
【0022】
以上のように、本実施形態によれば、装飾部2となる色材21の染料系インキを紫外線防止剤を含有する透明樹脂受容層12の内部に入り込んで定着させるので、染料系インキによる装飾部2に対して、紫外線による変色、退色等を防止でき、耐光性を向上することができる。また、色材21を透明樹脂受容層12の内部に定着させることにより、装飾部2に対して耐水性を向上することができる。また、透明樹脂受容層12上に透明ハードコート層13を形成することにより、装飾部2に対して、耐光性、耐水性及び耐擦傷性を向上することができる。従って、色材21にインクジェット印刷用インキとして染料系インキを使用しても、屋外使用に十分に耐える機能を備える屋外使用装飾体1が得られる。
【0023】
また、吸水分散性を備えたインクジェット記録用媒体シート20を介して染料系インキの装飾部2を転写形成することにより、再現性に優れ、鮮明かつ高解像度に、フルカラーの装飾部2を形成することができる。
【0024】
また、曲面等の三次元形状を有する部材に対してインクジェット印刷機で印刷する場合はプリンタヘッドを三次元形状に沿って動かす制御が複雑であり、また液だれ等のおそれもあるが、インクジェット記録用媒体シート20に部材の三次元形状を二次元化した印刷データに基づいて印刷し、このインクジェット記録用媒体シート20により三次元形状の部材に装飾部2を転写形成することにより、三次元形状の部材に対しても簡単に良好な装飾部2を形成することができる。
【0025】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載内で様々な変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 屋外使用装飾体
2 装飾部
10 金属部材
11 防錆層
12 透明樹脂受容層
13 透明ハードコート層
20 インクジェット記録用媒体シート
21 色材(染料系インキ)