(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】糸状真菌宿主細胞によって発現された組換えシュウ酸デカルボキシラーゼ
(51)【国際特許分類】
C12N 9/88 20060101AFI20240613BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240613BHJP
C12N 15/60 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
C12N9/88 ZNA
C12N1/15
C12N15/60
(21)【出願番号】P 2020570612
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(86)【国際出願番号】 CN2018107053
(87)【国際公開番号】W WO2019169855
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-09-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-18
(31)【優先権主張番号】201810177819.3
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520344350
【氏名又は名称】武漢康復得生物科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】汪 衛
(72)【発明者】
【氏名】汪 小鋒
(72)【発明者】
【氏名】劉 艶紅
(72)【発明者】
【氏名】黄 荷
(72)【発明者】
【氏名】陳 火晴
(72)【発明者】
【氏名】陳 先橋
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】藤井 美穂
【審判官】田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/161455(WO,A2)
【文献】特表2008-516592(JP,A)
【文献】特表2014-503171(JP,A)
【文献】特開2010-213703(JP,A)
【文献】特表2000-507458(JP,A)
【文献】特開2009-291207(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0027835(US,A1)
【文献】特開2010-81826(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第115927433(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105695441(CN,A)
【文献】Database GenBank [online], Accession No. GAT30832, <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/GAT30832>08-Feb-2017 uploaded, [retrieved on 26-Aug-2021], Yamada,O. et al., Definition: oxalate decarboxylase [Aspergillus luchuensis]
【文献】Bioresource Technology,2004年,Vol.91, No.3,pp.259-262,https://doi.org/10.1016/S0960-8524(03)00195-0
【文献】Current Opinion in Biotechnology, 1995, Vol.6, p.534-537
【文献】Microbial Cell Factories, 2012, Vol.11, #84
【文献】Trends in Biotechnology, 2016, Vol. 34, No. 12, p.970-982
【文献】Microbiology, 2012, Vol.158, p.46-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N9/00-9/99
C12N15/00-15/90
C12N1/00-1/38
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え糸状真菌宿主細胞であって、
前記組換え糸状真菌宿主細胞の染色体DNAは、組換えシュウ酸デカルボキシラーゼをコードするシュウ酸デカルボキシラーゼ遺伝子配列を含み、
前記糸状真菌宿主細胞はトリコデルマ属(Trichoderma)宿主細胞であり、
前記組換えシュウ酸デカルボキシラーゼは前記糸状真菌宿主細胞によって組換え発現されたものであり、当該組換えシュウ酸デカルボキシラーゼにおけるグリコシル化修飾の形式及び程度はオリジナルの宿主細胞によって発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼとは異なり、当該組換えシュウ酸デカルボキシラーゼは糸状真菌宿主細胞に固有するグリコシル化修飾の形式及び程度を有し、
前記組換えシュウ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列は配列番号
1における20~470位のアミノ酸配
列からなる、ことを特徴とする組換え糸状真菌宿主細胞
(ただし、配列番号1に示される1~19位のアミノ酸配列からなるチャジュタケ由来のシュウ酸デカルボキシラーゼのシグナルペプチドをコードする配列を、シグナルペプチドコード配列として含む場合を除く)。
【請求項2】
前記組換えシュウ酸デカルボキシラーゼは、pH値1.5~7.0においてその酵素活性が全て又は一部保持され、且つ、pH値1.5~2.5において至適pHおけるその酵素活性が10%以上保持され、pH値2.5~4.5において至適pHにおけるその酵素活性が50%以上保持され、pH値4.5~7.0において至適pHにおけるその酵素活性が25%以上保持される
請求項1に記載の組換え糸状真菌宿主細胞。
【請求項3】
前記組換えシュウ酸デカルボキシラーゼの至適pH値は2.5~3.5である
請求項1に記載の組換え糸状真菌宿主細胞。
【請求項4】
前記糸状真菌宿主細胞は、トリコデルマ属のトリコデルマ・ハルチアナム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・コニンギイ(T.koningii)、トリコデルマ・リーセイ(T.reesei)、トリコデルマ・ロンギブラキアタム(T.longibrachiatum)、又はトリコデルマ・ビリデ(T.viride)の菌株である
請求項1に記載の組換え糸状真菌宿主細胞。
【請求項5】
前記糸状真菌は、トリコデルマ・リーセイである
請求項1に記載の組換え糸状真菌宿主細胞。
【請求項6】
前記シュウ酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子のヌクレオチド配列で少なくとも10%の塩基は、前記糸状真菌宿主細胞のコドンの選好度に基づきコドンの最適化が行われている
請求項1ないし5のいずれかに記載の組換え糸状真菌宿主細胞。
【請求項7】
前記ヌクレオチド配列は、配列番号9
であるか、又は配列番号
9と少なくとも70%の相同性を有する配列から選ばれる
、請求項6に記載の組換え糸状真菌宿主細胞。
【請求項8】
組換えシュウ酸デカルボキシラーゼの生産方法であって、
プロモーター、シグナルペプチドコード配列
(ただし、配列番号1に示される1~19位のアミノ酸配列からなるチャジュタケ由来のシュウ酸デカルボキシラーゼのシグナルペプチドをコードする配列を除く)、シュウ酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子及びターミネーターを含むシュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットを構築し、発現ベクターにより糸状真菌宿主細胞に導入して、前記糸状真菌宿主細胞ゲノムに1つ以上のシュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットを組み込み、組換え糸状真菌宿主細胞を培養してシュウ酸デカルボキシラーゼを発現させ、最後に前記組換え糸状真菌宿主細胞培養基質から発現産物を分離して精製し、
前記組換え糸状真菌宿主細胞の染色体DNAは、前記組換えシュウ酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子配列を含み、
前記糸状真菌宿主細胞によって組換え発現された組換えシュウ酸デカルボキシラーゼであって、当該組換えシュウ酸デカルボキシラーゼにおけるグリコシル化修飾の形式及び程度はオリジナルの宿主細胞によって発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼとは異なり、当該組換えシュウ酸デカルボキシラーゼは糸状真菌宿主細胞に固有するグリコシル化修飾の形式及び程度を有し、
前記組換えシュウ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列は配列番号
1における20~470位のアミノ酸配
列からなり、
前記糸状真菌宿主細胞はトリコデルマ属(Trichoderma)宿主細胞である
ことを特徴とする組換えシュウ酸デカルボキシラーゼの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
「関連出願の相互参照」
本願は、特許文献1の優先権を主張し、当該出願の全ての内容が参照により本願に援用される。
【0002】
本発明は遺伝子工学技術の分野に関し、具体的に言えば、シュウ酸デカルボキシラーゼを高発現できる組換え糸状真菌宿主細胞、及び組換えシュウ酸デカルボキシラーゼ、組換えシュウ酸デカルボキシラーゼの生産方法及びその適用に関する。
【背景技術】
【0003】
シュウ酸(oxalic acid)はエタン二酸とも称され、生物体におけるひとつの代謝産物であり、シュウ酸塩の形で植物、動物及び真菌体に幅広く存在している。ヒトとその他の哺乳動物の様々な食物、例えば、ホウレンソウ、イチゴ、テンサイ、カカオ、サトイモ、サツマイモ、ダイオウ及び茶などは、いずれもシュウ酸塩の含有量が高い。ヒト及びその他の哺乳動物において、体内にシュウ酸塩の分解に関連する酵素がないため、シュウ酸塩は代謝の終産物になり、食物から吸収された外因性シュウ酸塩及び生理的な代謝により生成された内因性シュウ酸塩は主に腎臓によって尿に排泄される。ヒトとその他の哺乳動物はシュウ酸塩の含有量が高い食物を食べる時、ヒトの血液と尿でシュウ酸塩の濃度上昇が生じやすく、カルシウムイオンと結合すると不溶性のシュウ酸カルシウムが生成され、シュウ酸カルシウムは泌尿器系の結石における主な成分である。また、高濃度のシュウ酸塩は、高シュウ酸尿症、心臓伝導障害、クローン病(Crohn’s disease)及び消化器不調などその他の様々な疾患にも関係する。従って、体外又は体内環境で食物に由来するシュウ酸塩を分解し、体内におけるシュウ酸塩の吸収を軽減させることにより、尿路結石をはじめとする関連疾患が発生するリスクを低減することができる。
【0004】
近年、酵素を用いてシュウ酸を分解することでシュウ酸カルシウム結石症等の関連する疾患を予防・治療することに関する研究は盛んに行われている。現在、生物界に存在するシュウ酸分解機能を有する酵素として、シュウ酸デカルボキシラーゼ、シュウ酸オキシダーゼ及びオキサリルCoAデカルボキシラーゼが知られている。シュウ酸デカルボキシラーゼは活性中心にマンガンイオンを含有し、シュウ酸を触媒分解してギ酸と二酸化炭素を生産できる酵素である。現在発見されているシュウ酸デカルボキシラーゼは主に一部の植物、細菌及び真菌、例えば、クロコウジカビ、コニオチリウム・ミニタンス(Coniothyrium minitans)、エノキタケ、白色腐朽菌(T.versicolor)、ツクリタケ、褐色腐朽菌、枯草菌(Bacillus subtilis)、アグロバクテリウム・ツメファシェンス(Agrobacterium tumefaciens)等に存在する。しかしながら、上記各種の天然種の中でも、シュウ酸デカルボキシラーゼの収率も収量も極めて低いため、生産コスト及び価格が高くなるだけでなく、商品化された適用及び普及は難しい。
【0005】
従って、シュウ酸デカルボキシラーゼを組換え発現により生産し、その生産コストを削減することで、その商品化された適用を可能にすることは、必然的な選択になる。従来、原核細胞で細菌に由来するシュウ酸デカルボキシラーゼの組換え発現が実現されている、例えば、枯草菌YvrK遺伝子に由来するシュウ酸デカルボキシラーゼを得ているものの、細菌に由来するシュウ酸デカルボキシラーゼは低pH(pH値3.0未満)において不安定になり活性を持たず、ヒトの胃でpHは常に3.0より低く、細菌に由来するシュウ酸デカルボキシラーゼがペプシンの作用により消化されて活性を失いやすいため、その適用範囲、分野及び有効性は大いに制限されている。細菌に由来するシュウ酸デカルボキシラーゼの使用性能を改善するために、オーレナ・ファーマシューティカルズ社はタンパク質結晶としてのシュウ酸デカルボキシラーゼ(特許文献2)を製造し、グルタルアルデヒドで架橋させることでその安定性を向上させ、これらの結晶を胃と腸中のシュウ酸塩を分解するための経口剤として製造するという試みを行っていた。臨床試験によって証明されるように、重度の高シュウ酸尿症の患者の場合、当該酵素製剤を高用量で経口投与しても、尿中シュウ酸を13%低減できる程度にとどまる。Oxthera社は当該シュウ酸デカルボキシラーゼを酸不溶ポリマーと混合し、噴霧乾燥により微粒子を製造する(商品名:Oxazyme、Oxthera社製)ことにより別の剤形の製剤を製造しているが、臨床試験により、Oxazymeには尿中シュウ酸を低減する効果がないことは証明されていた。
【0006】
真菌に由来するシュウ酸デカルボキシラーゼは低pHにおいて優れた安定性及びペプシンに対する優れた耐性を有するため、シュウ酸を分解させる経口酵素製剤として特に好適である。これまでにたくさんの鋭意検討と試みがなされたにも関わらず、現在公開されている報告によれば、真菌に由来するシュウ酸デカルボキシラーゼは原核発現系を用いる場合でも真核発現系を用いる場合でも、その組換え発現の結果はいずれも理想的とはいえない。中でも最も多くの研究がなされているのはエノキタケに由来するシュウ酸デカルボキシラーゼで、Meenuら(非特許文献1)はタバコを用いてその組換え発現を行っていたが、発現結果を検出したところ活性が確認されていたが、発現量は極めて低く、他にも原核(大腸菌(E.coli))による発現が行われていたが、酵素活性は確認されていない。Mohammadら(非特許文献2)は出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)及び分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)においてその組換え発現を行っていたが、出芽酵母では酵素活性が検出されず、分裂酵母では酵素活性が検出されているが、発現量が極めて低いため、商品化された適用は不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】2017年3月7日出願、中国特許出願201710130999.5、「真核微生物によるシュウ酸デカルボキシラーゼの発現に用いられる発現カセット、菌株、方法及びその適用」
【文献】PCT/US2007/075091
【非特許文献】
【0008】
【文献】Meenu Kesarwani,et.al,Oxalate Decarboxylase from Collybia velutipes,THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2000
【文献】Mohammad Azam,et.al,A Secretion Signal Is Present in the Collybia velutipesOxalate Decarboxylase Gene,doi:10.1006/bbrc.2001.6049
【文献】Jeffrey L.Smithら.Curr Genet,1991,19:27-23
【文献】An,G.et.al Binary vectors,in Plant Molecular Biology Manual,1988
【文献】Analytical Biochemistry,59(2016)79-81
【文献】Matthias G.Steiger,APPLIED AND ENVIRONMENTALMICROBIOLOGY,Jan.2011,p.114-121
【文献】Matthias G.Steiger,APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,Jan.2011,p.114-121
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
真菌に由来するシュウ酸デカルボキシラーゼは効果的な組換え発現を実現できないという従来技術における課題を解決するために、本発明は、事前に長期にわたる大量の試験と鋭意検討を重ね、様々な発現系において検証し、様々なバイオテクノロジー的方法を利用することにより、真菌に由来するシュウ酸デカルボキシラーゼの効果的な組換え発現を実現させようとする。原核発現系に関して発明者は、異なる種類の大腸菌発現細胞、枯草菌細胞、バチルス・リケニフォルミス細胞、バチルス・プミルス細胞、ラクトバシラス細胞等原核細胞において、発現に関するたくさんの試みや発現要素及び発現方法の最適化作業を行っていたが、いずれも効果的な組換え発現が得られなかった。真核発現系に関して発明者は、植物としてタバコ及びエンドウにおいて一過性発現及び安定な形質転換発現を行い、タバコ細胞を用いる浮遊培養発現も、昆虫細胞、出芽酵母細胞及びピキア・パストリス細胞等サッカロミケス属細胞を用いる発現、発現要素及び発現方法の最適化も行っていたが、酵素活性が検出されなかったか、発現量が極めて低い結果であったため、いずれも産業化された生産の可能性がない。長期にわたる鋭意検討と関連研究を行い、各プロセスを組み合わせその最適化を行った結果、発明者は最終的に糸状真菌において効果的な組換え発現を実現している。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、組換えシュウ酸デカルボキシラーゼを提供することを目的とし、前記組換えシュウ酸デカルボキシラーゼは糸状真菌宿主細胞によって組換え発現されるものであり、これによって組換えシュウ酸デカルボキシラーゼにおけるグリコシル化修飾の形式及び程度はオリジナルの宿主細胞によって発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼとは異なり、前記組換えシュウ酸デカルボキシラーゼは糸状真菌宿主細胞に固有するグリコシル化修飾の形式及び程度を有する。
【0011】
前記組換えシュウ酸デカルボキシラーゼはpH値1.5~7.0においてその酵素活性が全て又は一部保持され、且つ、pH値1.5~2.5において至適pHおけるその酵素活性が10%以上保持され、pH値2.5~4.5において至適pHにおけるその酵素活性が50%以上保持され、pH値4.5~7.0において至適pHにおけるその酵素活性が25%以上保持される。
【0012】
任意選択的に又は好ましくは、前記組換えシュウ酸デカルボキシラーゼの至適pH値が2.5~3.5である。
【0013】
任意選択的に又は好ましくは、前記組換えシュウ酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子が真核生物に由来し、前記真核生物はチャジュタケ、ヤナギマツタケ、エノキタケ、カワラタケ、褐色腐朽菌、アスペルギルス・リュウキュウエンシス、ツクリタケ又はキシメジ等真菌である。
【0014】
任意選択的に又は好ましくは、前記組換えシュウ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列が配列番号1又は配列番号5における20~470位のアミノ酸配列、又は配列番号2における25~472位のアミノ酸配列、又は配列番号3における20~455位のアミノ酸配列、又は配列番号4における21~447位のアミノ酸配列、又は配列番号6における21~455位のアミノ酸配列、又は配列番号7における25~440位のアミノ酸配列、配列番号8における24~472位のアミノ酸配列と少なくとも60%の相同性を有し、好ましくは少なくとも65%の相同性、少なくとも70%の相同性、少なくとも75%の相同性、少なくとも80%の相同性、少なくとも85%の相同性、少なくとも90%の相同性、又は少なくとも95%の相同性を有する。
【0015】
好ましくは、前記組換えシュウ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列が配列番号1又は配列番号5における20~470位のアミノ酸配列、又は配列番号2における25~472位のアミノ酸配列、又は配列番号3における20~455位のアミノ酸配列、又は配列番号4における21~447位のアミノ酸配列、又は配列番号6における21~455位のアミノ酸配列、又は配列番号7における25~440位のアミノ酸配列、配列番号8における24~472位のアミノ酸配列からなる。
【0016】
本発明は、シュウ酸デカルボキシラーゼの新規な発現方法を提供することをもう一つの目的とし、当該方法は、シュウ酸デカルボキシラーゼ遺伝子を高発現することができ、発現量及び酵素活性はいずれも従来の発現方法をはるかに上回り、実際に適用することができる。
【0017】
上述した目的を達成するために、本発明の第1の態様として、組換え糸状真菌宿主細胞を提供し、前記組換え糸状真菌宿主細胞の染色体DNAは上記いずれかの組換えシュウ酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子配列を含む。
【0018】
具体的に、当該宿主細胞は、そのゲノムに組み込まれたシュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットの1つ以上のコピーを含み、前記シュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットはプロモーター、シグナルペプチドコード配列、シュウ酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子及びターミネーターを含む。
【0019】
発明者は大量の研究を行ったところ、シュウ酸デカルボキシラーゼが糸状真菌宿主細胞において効果的に組換え・分泌発現されることを見出した。糸状真菌宿主細胞において組換え発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼに対し、各種の翻訳後加工、例えば、グリコシル化修飾等を行うことができ、組換え発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼは天然宿主細胞において製造されたシュウ酸デカルボキシラーゼに類似する酵素学的性質を有する。シュウ酸デカルボキシラーゼの5’末端に分泌誘導においてコードするためのシグナルペプチド配列を添加することにより、組換え発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼを培養基質に効果的に分泌することができ、これによって後続の分離精製が容易になり、生産コストが低減される。
【0020】
前記シグナルペプチドコード配列とは、シュウ酸デカルボキシラーゼが細胞の特定区画又は分泌チャネルに入るよう誘導できるシグナルペプチドコーディング領域を指し、それはシュウ酸デカルボキシラーゼに由来するオリジナルシグナルペプチド、トリコデルマに由来するセロビオースヒドロラーゼI、トリコデルマに由来するセロビオースヒドロラーゼII、トリコデルマに由来するエンドグルカナーゼI、トリコデルマに由来するエンドグルカナーゼII、クロコウジカビに由来する中性アミラーゼ、クロコウジカビに由来するグルコアミラーゼ、ニホンコウジカビに由来するタカアミラーゼ、フミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)に由来するセルラーゼ、フミコーラ・インソレンスに由来するエンドグルカナーゼV、フミコーラ・ラヌギノーサ(Humicola lanuginosa)に由来するリパーゼ及びリゾムコール・ミーヘイ(Rhizomucor miehei)に由来するアスパラギン酸プロテアーゼ等遺伝子から得たシグナルペプチドコード配列とすることができるが、これらに限定されるものではなく、シュウ酸デカルボキシラーゼを糸状真菌宿主細胞の分泌経路に誘導できるシグナルペプチドコーディング領域であればいずれも本発明に用いることができる。いくつかの実施形態において、好ましくはシグナルペプチドコード配列がトリコデルマ・リーセイに由来するセロビオースヒドロラーゼI遺伝子(cbh1)から得たシグナル配列である。
【0021】
前記プロモーターとは、RNAポリメラーゼとの結合に関与し、シュウ酸デカルボキシラーゼ遺伝子の発現における転写及び翻訳を仲介できる制御配列を含有するものを指す。プロモーターは所定の宿主細胞で転写活性を有するあらゆるヌクレオチド配列とすることができ、宿主細胞と相同又は非相同のタンパク質をコードする遺伝子に由来するものとすることができる。プロモーターは誘導型プロモーター又は構成型プロモーターとすることができる。
【0022】
本発明においてシュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットの糸状真菌宿主細胞における転写を仲介するために用いられるプロモーターの例として、SV40、hCMV、CaMV 35S、アスペルギルス・ニデュランスに由来するアセトアミダーゼ、ニホンコウジカビに由来するアルカリプロテアーゼ、ニホンコウジカビに由来するトリオースリン酸イソメラーゼ、ニホンコウジカビに由来するタカアミラーゼ、クロコウジカビに由来する中性α-アミラーゼ、クロコウジカビに由来する酸安定性α-アミラーゼ、クロコウジカビ又はアワモリコウジカビに由来するグルコアミラーゼ(glaA)、リゾムコール・ミーヘイに由来するリパーゼ、トリコデルマに由来するピルビン酸デカルボキシラーゼ、トリコデルマに由来するβ-グルコシダーゼ、トリコデルマに由来するセロビオースヒドロラーゼI、トリコデルマに由来するセロビオースヒドロラーゼII、トリコデルマに由来するエンドグルカナーゼI、トリコデルマに由来するエンドグルカナーゼII、トリコデルマに由来するエンドグルカナーゼIII、トリコデルマに由来するエンドグルカナーゼIV、トリコデルマに由来するエンドグルカナーゼV、トリコデルマに由来するキシラナーゼI、トリコデルマに由来するキシラナーゼII、又はトリコデルマに由来するβ-キシロシダーゼ等酵素の遺伝子から得たプロモーター、及び前記遺伝子から得たプロモーターに突然変異、短縮又はハイブリダイゼーションが行われた同じ機能を有する配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
いくつかの好ましい実施形態において、プロモーターはトリコデルマ・リーセイに由来するセロビオースヒドロラーゼI遺伝子に由来するプロモーター(Pcbh1)であり、いくつかの好ましい実施形態において、プロモーターはトリコデルマ・リーセイに由来するピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子に由来するプロモーター(Ppdc)である。
【0024】
前記ターミネーターとは、糸状真菌宿主細胞によって認識されると転写を終結できる配列を指す。宿主細胞の中で機能できるターミネーターであればいずれも本発明に用いることができる。本発明においてシュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットの糸状真菌宿主細胞における転写終結を仲介するために用いられるターミネーターの例として、アスペルギルス・ニデュランスに由来するアセトアミダーゼ、ニホンコウジカビに由来するアルカリプロテアーゼ、ニホンコウジカビに由来するトリオースリン酸イソメラーゼ、ニホンコウジカビに由来するタカアミラーゼ、クロコウジカビに由来する中性α-アミラーゼ、クロコウジカビに由来する酸安定性α-アミラーゼ、クロコウジカビ又はアワモリコウジカビに由来するグルコアミラーゼ(glaA)、リゾムコール・ミーヘイに由来するリパーゼ、トリコデルマに由来するピルビン酸デカルボキシラーゼ、トリコデルマに由来するβ-グルコシダーゼ、トリコデルマに由来するセロビオースヒドロラーゼI、トリコデルマに由来するセロビオースヒドロラーゼII、トリコデルマに由来するエンドグルカナーゼI、トリコデルマに由来するエンドグルカナーゼII、トリコデルマに由来するエンドグルカナーゼIII、トリコデルマに由来するエンドグルカナーゼIV、トリコデルマに由来するエンドグルカナーゼV、トリコデルマに由来するキシラナーゼI、トリコデルマに由来するキシラナーゼII、トリコデルマに由来するβ-キシロシダーゼ等酵素の遺伝子から得たターミネーターとすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
いくつかの好ましい実施形態において、ターミネーターはトリコデルマ・リーセイに由来するセロビオースヒドロラーゼI遺伝子に由来するターミネーター(Tcbh1)であり、いくつかの好ましい実施形態において、ターミネーターはトリコデルマ・リーセイに由来するピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子に由来するターミネーター(Tpdc)である。
【0026】
任意選択的に又は好ましくは、上記組換え糸状真菌宿主細胞において、前記糸状真菌がアスペルギルス属、コリオラス属、ムコール属、フレビア属、アクレモニウム属、クリプトコッカス属、フザリウム属、フミコーラ属、ミセリオフトラ属、アウレオバシジウム属、トラメテス属、プレロータス属、ニューロスポラ属、ペニシリウム属、ペシロマイセス属、ファネロカエテ属、ブジェルカンデラ属、セリポリオプシス属、チエラビア属、クリソスポリウム属、スキゾフィルム、コプリヌス属、マグナポルテ属、ネオカリマスティクス属、トリポクラディウム属、タラロマイセス属、サーモアスカス属又はトリコデルマ属等の真菌である。
【0027】
任意選択的に又は好ましくは、上記組換え糸状真菌宿主細胞において、前記糸状真菌がアスペルギルス属のクロコウジカビ、アスペルギルス・ニデュランス、ニホンコウジカビ又はアワモリコウジカビの菌株である。
【0028】
任意選択的に又は好ましくは、上記組換え糸状真菌宿主細胞において、前記糸状真菌がトリコデルマ属のトリコデルマ・ハルチアナム、トリコデルマ・コニンギイ、トリコデルマ・リーセイ、トリコデルマ・ロンギブラキアタム又はトリコデルマ・ビリデの菌株である。
【0029】
より好ましくは、糸状真菌宿主細胞がトリコデルマ・リーセイ細胞であり、ATCC(アメリカンタイプカルチャーコレクション)受託番号56765、ATCC受託番号13631、ATCC受託番号26921、ATCC受託番号56764、ATCC受託番号56767及びNRRL(ノーザンリージョナルリサーチラボラトリー)受託番号15709等のトリコデルマ・リーセイ株細胞を含むが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態において、前記糸状真菌宿主細胞はトリコデルマ・リーセイ株Rut-C30細胞である。いくつかの実施形態において、糸状真菌宿主細胞はトリコデルマ・リーセイ株Rut-C30の変異細胞とすることができ、遺伝子改変により、トリコデルマ・リーセイ宿主細胞における、オロチジン-5’-リン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子(pyr4)及び非相同組換えプロセスに関与する遺伝子(mus53)を含む様々な天然遺伝子がノックアウトされたものを含む。オロチジン-5’-リン酸デカルボキシラーゼをコードする前記遺伝子がノックアウトされた菌株はウラシル栄養要求性株(pyr4-)であり、pyr4遺伝子に基づく栄養要求性選別マーカーが効果的なものであることは既に証明されており、様々な真核微生物での適用にも成功していた(Long et al.2008;Weidner et al.1998)。非相同組換えプロセスに関与する前記遺伝子をノックアウトすれば、トリコデルマ・リーセイ宿主細胞における非相同組換えの頻度を顕著に低減し、相同組換えに対する選別を容易にすることができる。
【0030】
任意選択的に又は好ましくは、上記組換え糸状真菌宿主細胞において、前記シュウ酸デカルボキシラーゼ遺伝子のヌクレオチド配列で少なくとも10%の塩基は糸状真菌宿主細胞のコドンの選好度に基づきコドンの最適化が行われている。最適化された遺伝子はシュウ酸デカルボキシラーゼタンパク質をコードするか、又は少なくともその一部をコードする。ここで、その一部をコードするとは、一部アミノ酸配列が削除された後、依然としてシュウ酸デカルボキシラーゼの機能を有することを指す。
【0031】
任意選択的に又は好ましくは、上記ヌクレオチド配列は配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15及び配列番号16のヌクレオチド配列から選ばれるか、又は配列番号9~16のいずれかと少なくとも50%の相同性を、好ましくは少なくとも60%の相同性、少なくとも70%相同性、少なくとも80%相同性を有するもしくは少なくとも90%の相同性を有する配列から選ばれる。
【0032】
当然ながら、当業者が理解できることだろうが、上記組換え糸状真菌宿主細胞を製造するプロセスにおいて、シュウ酸デカルボキシラーゼ遺伝子の発現ベクターを構築しておく必要があり、発現ベクターはシュウ酸デカルボキシラーゼ遺伝子発現カセットを含有する他に、選択マーカーをコードする遺伝子発現カセットをも含有する。
【0033】
前記選択マーカーとは、形質転換された宿主細胞に対する単純選択を提供できるマーカー遺伝子を指す。適切な選択マーカーの例として、ハイグロマイシン及びbar等耐性遺伝子を含むが、これらに限定されるものではない。また、栄養選択性マーカー、例えば、アセトアミダーゼ(amdS)、オルニチントランスカルバミラーゼ(argB)及びオロチジン-5’-リン酸デカルボキシラーゼ等を使用することもできる。
【0034】
選択マーカーをコードする発現カセットの5’フランキング領域及び3’フランキング領域に350~500bpの同方向反復配列を有し、逆方向選択圧において自発的なDNA分子内相同組換えにより除去することができる。一つの実施形態において、選択マーかーはpyr4遺伝子であり、栄養要求性選別マーカーであるオロチジン-5’-リン酸デカルボキシラーゼはウリジンを合成するための鍵酵素であり、当該遺伝子の欠失によりウリジンの合成が阻害されるため、当該酵素が決失した栄養要求性株はウラシル/ウリジンを添加しないと成長できない。pyr4遺伝子のpyr4遺伝子欠失株への形質転換に成功すると、当該遺伝子の発現により受容菌自体がウラシル/ウリジンを合成できるため、ウラシル/ウリジンを添加しなくても成長できるようになり、正方向選別の役割が果たされる。また、5-フルオロオロチン酸(5’-fluorooroticacid、略称5’-FOA)はウラシル合成前駆体のアナログであり、pyr4が作用すると細胞毒性物質が生成されるため、野生型株は5’-FOAの存在下において成長できないが、pyr4遺伝子欠失菌に変わると5’-FOA耐性を有し、逆方向選別が実現される(非特許文献3)。これにより、形質転換された宿主細胞に対する単純選択を提供する。
【0035】
上記シュウ酸デカルボキシラーゼ遺伝子の発現ベクターは、ランダム組込み型発現ベクター及び部位特異性の組込み型発現ベクターを含む。例えば、ランダム組込み型発現ベクターがアグロバクテリウムの仲介によりトリコデルマ・リーセイを形質転換させると、シュウ酸デカルボキシラーゼの発現カセットはトリコデルマ・リーセイゲノムにランダムに組み込まれ、そして、Tail-PCR法によりゲノムに組み込まれたその位置及びコピー数を分析する。一つの実施例において、2回の形質転換及び選別により組込み部位及びコピー数が異なる形質転換株を得ることができ、振盪フラスコを用いる発酵により酵素の生成状況を比較することで、一連の遺伝子組換え菌株を選別し、そのコピー数及びトリコデルマ・リーセイゲノムに組み込まれたその部位を分析する。部位特異性の組込み発現ベクターはシュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットの両端に5’ホモロジーアーム及び3’ホモロジーアームとして、トリコデルマ・リーセイの特定部位と同一のDNA配列セグメントを含有し、部位特異性の組込み発現ベクターを用いれば、シュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットを特定部位に導入するとともにこれらの特定部位における遺伝子をノックアウトすることができる。一つの実施例において、部位特異性の組込み部位として、トリコデルマ・リーセイの細胞外分泌タンパク質に占める主な成分のいくつかのセルラーゼ遺伝子(CBH1、CBH2、EG1及びEG2)を選択し、シュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットに組み込むとともにこれらの遺伝子をコードするカセットをノックアウトすることにより、4コピー発現株を構築し、当該菌株が発酵条件において組換え・分泌発現したシュウ酸デカルボキシラーゼの細胞外総タンパクにおける含有量は、90%以上に達する。
【0036】
本発明の第2の態様として、上記いずれかの組換え糸状真菌宿主細胞の構築方法(ランダム組込み法)を提供し、前記組換え糸状真菌宿主細胞はそのゲノムに組み込まれたシュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットの1つ以上のコピーを含み、前記シュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットはプロモーター、シグナルペプチドコード配列、シュウ酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子及びターミネーターを含み、当該方法は、
選択マーカー遺伝子発現カセット及びシュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットを含む少なくとも1つの組込み型発現ベクターを構築する、ステップS1と、
組込み型発現ベクターによる糸状真菌宿主細胞の形質転換後、選別してシュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットの1つ以上のコピーを含有する組換え糸状真菌宿主細胞を得る、ステップS2とを含む。
【0037】
任意選択的に又は好ましくは、上記方法において、ステップS2に記載の糸状真菌宿主細胞が人工的に構築された栄養要求性細胞であり、前記組込み型発現ベクターが前記糸状真菌宿主細胞ゲノムに組み込まれると当該タイプの栄養要求性を修復できる。
【0038】
任意選択的に又は好ましくは、上記方法において、糸状真菌宿主細胞の形質転換後、前記組込み型発現ベクターは非相同組換えにより糸状真菌宿主細胞ゲノムにランダムに組み込まれる。
【0039】
任意選択的に又は好ましくは、上記方法において、前記組込み型発現ベクターは糸状真菌宿主細胞ゲノムにおける特異性遺伝子座の所定の長さのヌクレオチド配列と相同の5’末端ホモロジーアーム及び3’末端ホモロジーアームを含み、これによって糸状真菌宿主細胞の形質転換後に前記組込み型発現ベクターは相同組換えの方式によりゲノムの特定部位に組み込まれ、好ましくは細胞外タンパク質をコードする遺伝子に組み込まれ、より好ましくは細胞外プロテアーゼ類又は細胞外グリコシドヒドロラーゼ類をコードする遺伝子に組み込まれ、最も好ましくはCBH1、CBH2、EG1又はEG2遺伝子に組み込まれる。
【0040】
一つの実施例(ランダム組込み法)において、親株は人工的に構築されたpyr4遺伝子欠失型トリコデルマ・リーセイであり、当該方法は、以下のステップを含む。
少なくとも1つのランダム組込み発現ベクターを構築し、凍結融解法によりアグロバクテリウム・ツメファシェンスAGL-1形質転換受容性細胞に導入することにより、上記ランダム組込み発現ベクターを含むアグロバクテリウム・ツメファシェンスAGL-1細胞を得て、当該細胞の感染液を製造してpyr4遺伝子が欠失されたトリコデルマ・リーセイと共培養し、選別してシュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットの1つ以上のコピーを含有するトリコデルマ・リーセイ株、すなわち目的宿主細胞を得る。
【0041】
本発明の第3の態様として、上記方法(ランダム組込み法)により製造された宿主細胞の培養に適用される培地を提供し、当該培地の組成は、グルコース 3~8g/L、微結晶セルロース 10~25g/L、コーンスティープリカー 5~15g/L、(NH4)2SO4 0.5~5g/L、MgSO4・7H2O 1.56g/L、CaCl2 0.5g/L、KH2PO4 2~8g/L、尿素 0~1g/L、ふすま粉 0.2~2g/L、Mandels微量元素(1000×) 1ml、MnCl2 0.5~5mMであり、pHは3.0~4.5である。
【0042】
本発明の第4の態様として、上記いずれかの組換え糸状真菌宿主細胞のもう一つの構築方法(部位特異性組込み法)を提供し、一つの実施例において、当該方法は、以下のステップ(1)~ステップ(3)を含む。
(1)トリコデルマ・リーセイのCBH1、CBH2、EG1、EG2の4つの遺伝子座部位をターゲットとするシュウ酸デカルボキシラーゼ発現ベクターをそれぞれ構築する。
(2)pyr4及びmus53遺伝子が欠失されたトリコデルマ・リーセイ株において、部位特異性組込みノックインの方式によりCBH1、CBH2、EG1及びEG2部位ゲノムにステップ(1)の各部位に対応する発現ベクターにおける発現カセットを組み込む。これらの部位に部位特異的に組み込まれた後、細胞外分泌総タンパクにおける夾雑タンパク質の含有量が極めて少なく、ほぼ全てが目的タンパク質であるため、当該方法により生産されたシュウ酸デカルボキシラーゼ発酵液の後続の処理はより簡単で且つ経済的である。mus53遺伝子がノックアウトされると部位特異的組込みの確率は大幅に向上するため、後続の部位特異性組込み株の選別は容易になる。
(3)pyr4及びmus53遺伝子修復ベクターを用いて、ステップ(2)で得た菌株に対しmus53及びpyr4遺伝子の修復を行う。修復が成功した菌株はすなわち目的宿主細胞である。pyr4遺伝子が修復されると、発酵中に培地にさらにウラシル又はウリジンを加える必要がなく、宿主細胞は固有する代謝平衡を保持できるため、発酵コストが上がらない。また、mus53遺伝子が修復されると、宿主細胞は固有する安定性を保持し、mus53遺伝子の欠失がもたらすゲノムが不安定になる要因を解消することができる。
【0043】
本発明の第5の態様として、上記方法(部位特異性組込み法)により製造された宿主細胞の培養に適用されるもう一つの培地を提供し、当該培地の組成は、グルコース 3~6g/L、ラクトース 30~40g/L、コーンスティープリカー 7~10g/L、(NH4)2SO4 0.5~1g/L、MgSO4・7H2O 1.56g/L、CaCl2 0.5g/L、KH2PO4 2~4g/L、尿素 0~1g/L、ふすま粉 10~20g/L、Mandels微量元素(1000×) 1ml、MnCl2 0.5~5mMであり、pHは3.5~4.0である。
【0044】
本発明の第6の態様として、シュウ酸デカルボキシラーゼの生産方法を提供し、すなわち、プロモーター、シグナルペプチドコード配列、シュウ酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子及びターミネーターを含むシュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットを構築し、発現ベクターにより糸状真菌宿主細胞に導入して、宿主細胞ゲノムに1つ以上のシュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットを組み込み、宿主細胞を培養してシュウ酸デカルボキシラーゼを発現させ、最後に宿主細胞培養基質から発現産物を分離して精製する。
【0045】
本発明の第7の態様として、薬物、食品の製造における上記いずれかの組換えシュウ酸デカルボキシラーゼ又は組換え糸状真菌宿主細胞の培養後に分泌発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼの適用を提供する。
【0046】
任意選択的に又は好ましくは、上記適用において、前記薬物が泌尿器系結石を予防及び/又は治療する薬物である。
【0047】
本発明の第8の態様として、薬物組成物を提供し、当該薬物組成物は、尿中シュウ酸過剰に関連する疾患の予防又は治療に用いられ、上記方法により製造されたシュウ酸デカルボキシラーゼを含む。
【発明の効果】
【0048】
従来技術と比べ、本発明は以下の有益な効果を有する。
本発明は、真菌に由来するシュウ酸デカルボキシラーゼが効果的な組換え発現を実現できないという技術的課題を解決し、糸状真菌宿主細胞によって組換え発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼに対し、各種の翻訳後加工を行うことができ、効果的に分泌発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼは天然宿主細胞において製造されたシュウ酸デカルボキシラーゼに類似する酵素学的性質を有する。当該宿主細胞の培養は簡単であり、シュウ酸デカルボキシラーゼの分泌量が多く酵素活性が高い。本発明による2種の培地の配合はそれぞれ2種の組換え糸状真菌宿主細胞に適用され、収量を効果的に向上させることができる。シュウ酸デカルボキシラーゼの生産において、発現カセットの構築、ベクター構築、宿主細胞の構築及び培地配合の最終的な調整により、収率及び製品の酵素活性はいずれも大幅に向上し、シュウ酸デカルボキシラーゼの人力生産は大規模な産業化を実現できず、酵素学的特性が不安定であり、生産コストが高いという従来技術における課題を効果的に解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】
図1は、ベクターpMDT05の構築を示す図である。
【
図2】
図2は、トリコデルマ・リーセイRut-C30株pyr4遺伝子ノックアウトベクターpMDT05-pyr4KOの構築を示す図である。
【
図3】
図3は、トリコデルマ・リーセイランダム組込み誘導型発現ベクターpMGU-cbh1-TRA2の構築を示す図である。
【
図4】
図4は、トリコデルマ・リーセイランダム組込み構成型発現ベクターpDGU-pdc-TRA2の構築を示す図である。
【
図5】
図5は、トリコデルマ・リーセイ形質転換体pyr4遺伝子修復ベクターpMDT05-pyr4KIの構築を示す図である。
【
図6】
図6は、発酵144時間及び168時間における発酵液上清のSDS-PAGE結果を示す図であり、矢印の箇所は組換えシュウ酸デカルボキシラーゼを示すバンドである。
【
図7】
図7は、mus53遺伝子ノックアウトベクターの構築を示す図である。
【
図8】
図8は、CBH1部位における部位特異的組込みノックインベクターの構築を示す図である。
【
図9】
図9は、CBH2部位における部位特異的組込みノックインベクターの構築を示す図である。
【
図10】
図10は、EG1部位における部位特異的組込みノックインベクターの構築を示す図である。
【
図11】
図11は、在EG2部位における部位特異的組込みノックインベクターの構築を示す図である。
【
図12】
図12は、mus53遺伝子修復ベクターの構築を示す図である。
【
図13】
図13は、7L発酵タンクにおける発酵活性の変化を示す図である。
【
図14】
図14は、7L発酵タンク発酵における136時間及び160時間の試料が10倍希釈されたもののSDS-PAGE結果を示す図である。
【
図15】
図15は、160時間の試料が200倍及び500倍希釈されたもののウエスタンブロッティング検出分析結果を示す図である。
【
図16】
図16は、pH値1.5~7.0におけるシュウ酸デカルボキシラーゼの相対活性を示す図である。
【
図17】
図17は、3種類の発現系により発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼのSDA-PAGE結果を示す図であり、レーン1及びレーン2はトリコデルマ・リーセイによって発現された組換えシュウ酸デカルボキシラーゼで、レーン3及びレーン4は天然宿主のチャジュタケによって発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼで、レーン5及びレーン6は原核発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼである。
【
図18】
図18は、トリコデルマ・リーセイによって発現された組換えシュウ酸デカルボキシラーゼのMALDI-TOF-MSスペクトルである。
【
図19】
図19は、トリコデルマ・リーセイによって発現された組換えシュウ酸デカルボキシラーゼのトリプシン消化後のMALDI-TOF-MSスペクトルである。
【
図20】
図20は、天然宿主のチャジュタケによって発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼのトリプシン消化後のMALDI-TOF-MSスペクトルである。
【
図21】
図21は、原核発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼのトリプシン消化後のMALDI-TOF-MSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明は、チャジュタケに由来するシュウ酸デカルボキシラーゼの糸状真菌トリコデルマ・リーセイにおける組換え発現を具体的な実施例として説明し、これによって当業者は本発明の理解を深め実施に付することができるが、挙げられる実施例は本発明を限定するためのものではない。
【0051】
特段の説明がない限り、本明細書に出現する技術用語はいずれも当業者同士の間でよく使用される用語である。本明細書において、具体的な条件が示されない実験方法はいずれも通常の実験方法である。また、本明細書で使用される試験材料、試薬は、特段の説明がない限りいずれも市販されている製品であり、各種試薬及び培地の成分及び調製方法は実験マニュアルに記載の通常操作を参照できる。
【0052】
本発明において使用されるトリコデルマ・リーセイRut-C30(ATCC受託番号:56765)は広東微生物菌種寄託センターから購入したものである。
【0053】
本発明において使用されるクロコウジカビ(CICC寄託番号:2439)は中国工業微生物菌種寄託センターから購入したものである。
【0054】
実施例1:シュウ酸デカルボキシラーゼ(OXDC)遺伝子のコドン最適化及び人工合成
【0055】
発明者は大量の実験と研究を行ったところ、糸状真菌発現系によって発現される真核生物に由来するシュウ酸デカルボキシラーゼは、チャジュタケ、ヤナギマツタケ、エノキタケ、カワラタケ、褐色腐朽菌、アスペルギルス・リュウキュウエンシス、ツクリタケ及びキシメジ等真菌に由来するシュウ酸デカルボキシラーゼが好ましいということを見出した。
【0056】
シュウ酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子はチャジュタケに由来するものとすることができ、前記シュウ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列は配列番号1に示されるアミノ酸配列であり、ただし前記シュウ酸デカルボキシラーゼのシグナルペプチド配列は配列番号1に示される1~19位のアミノ酸配列であり、成熟ペプチド配列は配列番号1に示される20~470位のアミノ酸配列である。
【0057】
チャジュタケに由来するOXDC遺伝子に対し、トリコデルマ・リーセイコドンの選好度(Codon Usage Database:Hypocrea jecorina)を参照してそれぞれ最適化を行うことにより、新規なシュウ酸デカルボキシラーゼの成熟ペプチドのDNAコード配列の人工設計及び合成を実現した。最適化されたOXDC配列は最適化前と比べ、CAI(Codon Adaptation Index)が0.51から0.99に、G+Cの含有量が53.09%から69.23%に変化し、最適化された配列は配列番号17に示すとおりである。最適化されたチャジュタケのOXDC遺伝子における成熟ペプチドのDNAコード配列をTRA2と新たに命名した。
【0058】
実施例2:トリコデルマ・リーセイRut-C30(pyr4-)栄養要求性株の構築
【0059】
真核系で真核に由来するOXDCを発現するために用いられる糸状真菌宿主細胞は、アスペルギルス属、コリオラス属、ムコール属、フレビア属、アクレモニウム属、クリプトコッカス属、フザリウム属、フミコーラ属、ミセリオフトラ属、アウレオバシジウム属、トラメテス属、プレロータス属、ニューロスポラ属、ペニシリウム属、ペシロマイセス属、ファネロカエテ属、ブジェルカンデラ属、セリポリオプシス属、チエラビア属、クリソスポリウム属、スキゾフィルム、コプリヌス属、マグナポルテ属、ネオカリマスティクス属、トリポクラディウム属、タラロマイセス属、サーモアスカス属又はトリコデルマ属の細胞、又はこれらの有性型又は異名同種型の細胞から選ばれ、ただしこれらに限定されるものではない。
【0060】
トリコデルマ属宿主細胞は、トリコデルマ・ハルチアナム、トリコデルマ・コニンギイ、トリコデルマ・リーセイ、トリコデルマ・ロンギブラキアタム及びトリコデルマ・ビリデであり、好ましくはトリコデルマ・リーセイ及びトリコデルマ・ビリデである。次に、トリコデルマ・リーセイを例に本発明を説明する。
【0061】
1.トリコデルマ・リーセイゲノムの抽出
トリコデルマ・リーセイRut-C30(ATCC寄託番号:56765)をPDA培地に接種し、28℃の恒温で胞子が成熟するまで7日培養した。無菌水で胞子を溶出させて、適量の胞子懸濁液を調製し、液体培地20mlに接種し、28℃で170rpmの条件において36~48時間培養した。吸引濾過により菌糸体を収集し、脱イオン水で2回洗浄し、液体窒素冷凍において菌糸体を微粉に粉砕し、上海Sangon Biotech社製のEzup型カラム型真菌ゲノムDNA抽出キットを使用してゲノムDNAを分離した。
【0062】
なお、上記PDA培地は以下のように調製した。皮を剥いたジャガイモ薄片200gに水1000mlを加えて煮沸させ、30分継続し、8重ガーゼで濾過し、濾液にグルコース20gを加え、水を補足して1Lとし、pHを調節せず、そのまま2%寒天末を加えた。115℃で30分滅菌した。
【0063】
上記液体培地は以下のように調製した。グルコース15g、酵母抽出物20g、硫酸アンモニウム2.5g、硫酸マグネシウム七水和物0.8g及び無水塩化カルシウム1.0gを混合した後、蒸留水で溶解し1Lに定容し、pHを4.8に調節した。
【0064】
2.ベクターpMDT05の構築
pCAMBIA1300プラスミドをテンプレートとして、次の表1に示すプライマーpMDT05-F1及びpMDT05-R1を使用してPCR増幅を行い、1%アガロースゲル電気泳動によりPCR産物を分離し、ゲルから約6.8kbの断片を切り出し、omega社提供のゲル抽出キットを用いて回収し、回収した断片を精製して制限酵素XhoI及びXbaIを用いて1時間消化し、消化完了後、omega社提供のPCR産物回収キットを用いて精製・回収を行った。
【0065】
上述したように抽出されたトリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、表1に示すプライマーHyg-Pgpd-F及びpMDT05-R2を使用してプロモーターPgpdを増幅した(約1.4kb)。pCAMBIA1300プラスミドをテンプレートとして、表1に示すプライマーpMDT05-F2及びPgpd-Hyg-Rを使用してhygromycin遺伝子を増幅した(約1kb)。上述したように増幅して得たプロモーターPgpd断片及びhygromycin遺伝子をモル比1:1で混合してテンプレートとし、プライマーpMDT05-F2及びpMDT05-R2をフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してSOE-PCR増幅を行う(増幅条件は94℃、10分;98℃、10秒、60℃、30秒、68℃、1分20秒、30サイクル;68℃、10分)ことにより約2.4kbの融合断片を得て、1%アガロースゲル電気泳動により融合断片を分離し、ゲルから約2.4kbの断片を切り出し、omega社提供のゲル回収キットを用いて回収を行い、回収した断片を精製して制限酵素XhoI及びXbaIを用いて1時間消化し、消化完了後、omega社提供のPCR産物回収キットを用いて精製・回収を行った。
【0066】
上述したように消化後の6.8kb及び2.4kbの断片をモル比1:3で混合し、T4 DNAリガーゼ及びリガーゼ緩衝液を加え、22℃で3時間ライゲーションさせ、ライゲーションされた産物で大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、50μg/mLカナマイシン耐性プレートに塗布してクローンを選別し、プライマーpMDT05-F2及びpMDT05-R2を使用してPCR検証及びシークエンシング検証を行い、シークエンシング検証して正しく構築されているプラスミドベクターをpMDT05と命名し、
図1はベクターpMDT05の構築を示す。
【0067】
【0068】
3.トリコデルマ・リーセイRut-C30株pyr4遺伝子ノックアウトベクターの構築
公開文献に記載されたトリコデルマ・リーセイpyr4遺伝子(オロチジン-5’-リン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子)の情報(非特許文献3)を参照し、BLASTNプログラムを利用してトリコデルマ・リーセイのゲノムデータベースでpyr4遺伝子の位置における遺伝子座配列情報を検索した(http://genome.jgi-psf.org/Trire2/Trire2.home.html)。上述したように抽出されたトリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、表2に示すプライマーpyr4-3F/pyr4-3R及びpyr4-5F/pyr4-5Rを使用してそれぞれ増幅することにより約1.3kbのpyr4遺伝子の上流ホモロジーアーム断片及び約1.3kbのpyr4遺伝子の下流ホモロジーアーム断片を得た。pyr4遺伝子の上流ホモロジーアーム断片及びpyr4遺伝子の下流ホモロジーアーム断片をモル比1:1の比率で混合してテンプレートとし、pyr4-3F及びpyr4-5Rをフォワードプライマー及びリバースプライマーとし、SOE-PCR増幅することにより約2.6kbのpyr4遺伝子ノックアウトカセットを得た。
【0069】
pMDT05ベクター及び上記2.6kbのpyr4遺伝子ノックアウトカセットを制限酵素XbaI及びBglIIで1時間消化し、omega社提供のゲル抽出キットを用いて消化された断片をそれぞれ回収し、ゲル精製されたXbaI/BglII消化後のpMDT05ベクター及び消化された2.6kbの断片をモル比1:3で混合し、T4 DNAリガーゼ及びリガーゼ緩衝液を加え、22℃で3時間ライゲーションさせ、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpMDT05-pyr4KOと命名し、
図2はトリコデルマ・リーセイRut-C30株pyr4遺伝子ノックアウトベクターpMDT05-pyr4KOの構築を示す。
【0070】
4.アグロバクテリウム・ツメファシェンスの仲介によるトリコデルマ・リーセイpyr4遺伝子欠失突然変異株の構築
凍結融解法(非特許文献4)により上記ノックアウトベクターpMDT05-pyr4KOをアグロバクテリウム・ツメファシェンスAGL-1形質転換受容性細胞に導入し、28℃で3~4時間活性化させた後、適量の菌液を採取してkan(50μg/mL)及びGent(50μg/mL)を含有するLBプレート培地に塗布し、28℃で48~72時間倒置培養した後、モノクローナルをピッキングしてkan(50μg/mL)及びGent(50μg/mL)を含有するLB液体培地に接種し、振盪培養機を用いて28℃で220rpmにおいて24時間培養し、少量の菌液を採取してコロニーのPCR検証を行うことにより陽性形質転換体を選別した。
【0071】
形質転換用アグロバクテリウム・ツメファシェンスの製造:上述したように検証された陽性形質転換体をkan(50μg/mL)及びGent(50μg/mL)を含有するLB液体培地に接種し、振盪培養機を用いて28℃で220rpmにおいて20~24時間培養し、菌体を収集し、IM培地で2回洗浄し、IM培地でOD600=0.15~0.20になるよう希釈し、アセトシリンゴンを加え終濃度を200μmol/Lとし、28℃で220rpmにおいて、OD600=0.6~0.8になるよう約6~10時間培養した。
【0072】
トリコデルマ・リーセイ形質転換受容体の製造:無菌水4~5mlを用いて6~7日培養されたPDAプレートからトリコデルマ・リーセイの胞子を溶出させ、綿栓濾過して胞子懸濁液を得て、遠心分離して胞子を収集し、IM培地で2回洗浄し、IM培地で再懸濁して胞子濃度を107個/mlに調整し、28℃で3~4時間培養して発芽させた。
【0073】
アグロバクテリウム・ツメファシェンスとトリコデルマ・リーセイの共培養:調製されたアグロバクテリウム・ツメファシェンス菌液を100μl採取して発芽処理後の胞子懸濁液100μlと混合し、IM固体培地プレートのセロファンに塗布し、24℃で36時間暗所培養した。セロファンを剥がし裏返して、5-FOAを5mg/ml、セファロスポリンを300μg/mL、ウリジンを10mM含有する固体MM一次選別培地プレートに敷き、形質転換体が確認されるまで28℃で4~6日培養した。
【0074】
形質転換体の二次選別:ハイグロマイシンを100μg/mL含有するPDA固体プレート、及び5-FOAを5mg/ml、ウリジンを10mM含有する固体MM培地プレートに形質転換体をそれぞれスポットし、28℃で2~3日培養し、ハイグロマイシンを100μg/mL含有するPDA固体プレートでは成長できず5-FOAを5mg/ml、ウリジンを10mM含有する固体MM培地プレートで正常に成長する形質転換体をピッキングし、二次選別された形質転換体ゲノムDNAを抽出し、上流ホモロジーアーム及び下流ホモロジーアームの両末端外側のゲノムのプライマーpyr4-CX-F及びpyr4-CX-Rを用いて(配列は表2に示す)PCR検証を行い、pyr4遺伝子がノックアウトされた場合、増幅して得た断片は約2.8kbで、ノックアウトがされなかった場合、増幅して得た断片は約4.2kbのはずである。
【0075】
本実施例において合計で23の形質転換体(番号1#~23#)が選別され、PCR検証した結果全ての二次選別された形質転換体はいずれも増幅後に約2.8kbだけの断片を得た、このうちに、ハイグロマイシンを100μg/mL含有するPDA固体プレートにおいても5-FOAを5mg/ml、ウリジンを10mM含有する固体MM培地プレートにおいても正常に成長する形質転換体は1つであり、当該形質転換体は相同組換えと共にランダム組込み挿入が発生しているため除去し、従ってpyr4遺伝子の有効ノックアウト率は95.6%に達する。
【0076】
単胞子の分離・精製:上記23の形質転換体のうち番号8#のノックアウト株の菌糸体を、ウリジンを10mM含有するPDA培地プレートに接種し、胞子が成熟するまで28℃で7日培養した。無菌水4~5mlで成熟した胞子を溶出させ、無菌水で勾配希釈し、ウリジンを10mM、0.1%Triton-100を含有するPDA培地プレートに塗布し、28℃で3日培養し後、ピッキングして単胞子コロニーを分離させ、ウリジンを10mM含有するPDA培地プレートに再接種し、28℃で分生子の培養を行った。上述したように分離された単胞子コロニーをPCR検出し、依然として陽性であった菌株をウラシル栄養要求性株とし、Rut-C30(pyr4-)と命名した。
【0077】
【0078】
実施例3:シュウ酸デカルボキシラーゼのランダム組込み型組換え発現ベクターの構築
【0079】
1.ランダム組込み誘導型発現ベクターpMGU-cbh1-TRA2の構築
【0080】
ベクターpMGUの構築:
実施例2で製造されたプラスミドベクターpMDT05をテンプレートとして、表3に示すプライマーF1及びR1をフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してPCR増幅することにより約6.6kbのベクター骨格断片を得て、ゲルを用いて当該断片を回収後、制限酵素DpnIで3時間消化し、目的断片を回収しておく。
【0081】
実施例2に記載のトリコデルマ・リーセイゲノムの抽出方法を参照して、クロコウジカビ(CICC寄託番号:2439)ゲノムDNAを抽出し、当該ゲノムDNAをテンプレートとして、表3に示すプライマーpyrG-F及びpyrG-Rを使用して増幅することにより約2.9kbのクロコウジカビpyrG遺伝子発現カセットを得て、目的断片をゲル回収しておく。トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、表2に示すプライマーPcbh-DR-F及びPcbh-DR-Rを使用してCBH1遺伝子プロモーターPcbh1を増幅することによりサイズが0.4kbの断片を得て、ゲル回収しておく。2.9kbのクロコウジカビpyrG遺伝子発現カセット及びPcbh1の0.4kbの断片をモル比1:1で混合してテンプレートとし、プライマーPcbh-DR-F及びpyrG-Rをフォワードプライマー及びリバースプライマーとして、SOE-PCR増幅を行い、増幅条件は、94℃、10分;98℃、10秒、60℃、30秒、68℃、1分50秒、30サイクル;68℃、10分とし、約3.3kbの融合断片を得て、当該目的断片をゲル回収しておく。
【0082】
ClonExpress(登録商標)IIによるワンステップ法クローニングキットを用いて、上述したように消化後のベクター骨格断片及びSOE-PCR増幅後に回収された3.3kbの断片を組み立て、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、プレートに塗布し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpMGUと命名した。
【0083】
誘導型発現カセットpUC19-Pcbh1-sig-TRA2-Tcbh1の構築:
トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、表3に示すプライマーPcbh1-F及びPcbh1-Rをフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してCBH1遺伝子のプロモーター及びCBH1遺伝子のシグナルペプチドコード配列Pcbh1-sigをPCR増幅し、トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、表3に示すプライマーTcbh1-F及びTcbh1-Rをフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してCBH1遺伝子のターミネーター配列Tcbh1をPCR増幅した。Pcbh1-sig断片及びTcbh1断片をモル比1:1で混合してテンプレートとし、プライマーPcbh1-F及びTcbh1-Rをフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してPCR増幅することにより、約3.3kbの融合断片Pcbh1-sig-Tcbh1を得て、目的断片を回収しEcoRI及びPstIで当該断片を消化し、ゲル回収しておく。プラスミドpUC19に対して同様に制限酵素EcoRI及びPstIで3時間消化し、ベクター骨格断片をゲル回収し、消化・回収後のPcbh1-sig-Tcbh1断片とT4 DNAリガーゼでライゲーションさせて、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpUC19-Pcbh1-sig-Tcbh1と命名した。
【0084】
プラスミドpUC19-Pcbh1-sig-Tcbh1をテンプレートとして、表3に示すプライマーWF-CBH-R及びWF-CBH-Fをフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してPCR増幅することにより、約5.8kbのベクター骨格断片を得て、DpnIで3時間消化してゲル回収しておく。合成されたTRA2遺伝子を含有するプラスミドpUC57-TRA2(遺伝子合成分野会社提供)をテンプレートとして、表3に示すプライマーWF-TRA2-F及びWF-TRA2-Rをフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してTRA2遺伝子の成熟ペプチドをコードする配列をPCR増幅した。ClonExpress(登録商標)IIによるワンステップ法クローニングキットを用いて、消化・回収後のベクター骨格断片及びTRA2断片を組み立て、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpUC19-Pcbh1-sig-TRA2-Tcbh1と命名した。
【0085】
ランダム組込み誘導型発現ベクターpMGU-cbh1-TRA2の構築:
制限酵素EcoRI及びXbaIで、上述したように製造されたベクターpMGUを3時間消化し、ベクター骨格断片をゲル回収しておく。上述したように製造されたベクターpUC19-Pcbh1-sig-TRA2-Tcbh1をテンプレートとして、表3に示すプライマーF2及びR2をフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してPcbh1-sig-TRA2-Tcbh1断片をPCR増幅し、当該目的断片をゲル回収しておく。制限酵素EcoRI及びXbaIでpMGUを消化して回収したベクター骨格及びPcbh1-sig-TRA2-Tcbh1断片を、ClonExpress(登録商標)IIによるワンステップ法クローニングキットを用いて組み立て、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpMGU-cbh1-TRA2と命名し、
図3はトリコデルマ・リーセイのランダム組込み誘導型発現ベクターpMGU-cbh1-TRA2の構築を示す。
【0086】
2.ランダム組込み構成型発現ベクターpDGU-pdc-TRA2の構築
【0087】
ベクターpDGUの構築:
実施例2で製造されたベクターpMDT05をテンプレートとして、表3に示すプライマーF1及びR1を使用してPCR増幅することにより6.6kbのベクター骨格を得て、当該断片をゲル回収して制限酵素DpnIで3時間消化し、目的断片を回収しておく。
【0088】
クロコウジカビ(CICC寄託番号:2439)のゲノムDNAをテンプレートとして、表3に示すプライマーpdcDR-pyrG-F及びpyrG-Rを使用して増幅することにより2.9kbのクロコウジカビpyrG遺伝子の発現カセットを得て、目的断片をゲル回収しておく。トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、表3に示すプライマーPpdc-DR-F及びpyrG-pdcDR-Rでpdc遺伝子プロモーターPpdcの5’末端を増幅することにより0.4kbの断片を得て、ゲル回収しておく。2.9kbのクロコウジカビpyrG遺伝子発現カセット及びPpdcの5’末端の0.4kb断片をモル比1:1で混合してテンプレートとし、プライマーPpdc-DR-F及びpyrG-Rをフォワードプライマー及びリバースプライマーとして、SOE-PCR増幅することにより3.3kbの断片を得て、当該目的断片をゲル回収しておく。
【0089】
ClonExpress(登録商標)IIによるワンステップ法クローニングキットを用いて、上述したように消化後の6.6kbpのベクター骨格断片、及び94℃、10分;98℃、10秒、60℃、30秒、68℃、1分50秒、30サイクル;68℃、10分の条件でSOE-PCR増幅し回収して得た3.3kbの断片を組み立て、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、プレートに塗布し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpDGUと命名した。
【0090】
構成型発現カセットベクターpUC19-Ppdc-sig-TRA2-Tpdcの構築:
【0091】
トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、表3に示すプライマーNdeI-Pdc-F及びPpdc-Rをフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してPCR増幅することにより、約1.4kbのPDC遺伝子のプロモーター配列Ppdcを得て、トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、表2に示すプライマーTpdc-F及びPstI-Tpdc-Rをフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してPCR増幅することにより、約1.0kbのPDC遺伝子のターミネーター配列Tpdcを得た。このように得たPpdc断片及びTpdc断片をモル比1:1で混合してテンプレートとし、プライマーNdeI-Pdc-F及びPstI-Tpdc-Rをフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してPCR増幅することにより、約2.5kbの融合断片Ppdc-Tpdcを得て、目的断片を回収してNdeI及びPstIで当該断片を消化し、ゲル回収しておく。プラスミドpUC19に対して同様にNdeI及びPstIで消化し、ベクター骨格をゲル回収して、消化・回収後のPpdc-Tpdc断片とライゲーションさせて、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpUC19-Ppdc-Tpdcと命名した。
【0092】
プラスミドpUC19-Ppdc-Tpdcをテンプレートとして、表3に示すプライマーWF-pdc-R及びWF-pdc-Fをフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してPCR増幅することにより約5.0kbのベクター骨格断片を得て、DpnIで3時間消化後にゲル回収しておく。プラスミドpUC19-Pcbh1-sig-TRA2-Tcbh1をテンプレートとして、表3に示すプライマーWF-TRA2-F2及びWF-TRA2-R2をフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してPCR増幅することにより、約1.4kbのsig-TRA2配列を得た。ClonExpress(登録商標)IIによるワンステップ法クローニングキットを用いて、消化・回収後の約5.0kbのベクター骨格断片及びsig-TRA2断片を組み立て、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpUC19-Ppdc-sig-TRA2-Tpdcと命名した。
【0093】
ランダム組込み構成型発現ベクターpDGU-pdc-TRA2の構築:
上述したように製造されたベクターpDGUを制限酵素XbaIで3時間消化切断し、次に制限酵素EcoRIを加えて5分消化切断して不完全消化を行い、サイズが大きなベクター骨格断片をゲル回収しておく。プラスミドpUC19-Ppdc-sig-TRA2-Tpdcをテンプレートとして、表3に示すプライマーF3及びR3をフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用して、Ppdc-sig-TRA2-Tpdc断片をPCR増幅し、目的断片をゲル回収しておく。ClonExpress(登録商標)IIによるワンステップ法クローニングキットを用いて、上記pDGUを消化・回収後のベクター骨格断片及びPpdc-sig-TRA2-Tpdc断片を組み立て、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpDGU-pdc-TRA2と命名し、これは即ちトリコデルマ・リーセイのランダム組込み構成型発現ベクターpDGU-pdc-TRA2であり、
図4はその構築を示す図である。
【0094】
【0095】
実施例4:ランダム組込みによるトリコデルマ・リーセイに由来するシュウ酸デカルボキシラーゼ発現株の構築、及び形質転換体の選別と分子同定
【0096】
凍結融解法により、実施例3における上記2種のランダム組込み組換え発現ベクターpMGU-cbh1-TRA2及びpDGU-pdc-TRA2をアグロバクテリウム・ツメファシェンスAGL-1形質転換受容性細胞にそれぞれ導入した。実施例2の方法を利用して、PCR検証を行って正しく構築されている陽性クローンで形質転換用のアグロバクテリウム・ツメファシェンス菌液を調製した。
【0097】
トリコデルマ・リーセイ形質転換受容体の製造:無菌水4~5mlを用いて、6~7日培養されたPDA(ウリジンを10mM含有する)プレートからトリコデルマ・リーセイRut-C30(pyr4-)株の胞子を溶出させ、綿栓濾過して胞子懸濁液を得て、遠心分離して胞子を収集し、IM培地で2回洗浄し、IM培地(終濃度10mMのウリジンを加えた)で再懸濁して胞子濃度を107個/mlに調整し、28℃で3~4時間培養して発芽させた。
【0098】
アグロバクテリウム・ツメファシェンスとトリコデルマ・リーセイの共培養:調製されたアグロバクテリウム・ツメファシェンス菌液を100μl採取して発芽処理後の胞子懸濁液100μlと混合し、固体IM培地プレートのセロファンに塗布し、24℃で36時間暗所培養した。セロファンを剥がし裏返して、セファロスポリンを300μg/mL含有する固体MM一次選別培地プレートに敷き、形質転換体が確認されるまで28℃で4~6日培養した。本実施例において、組換え発現ベクターpMGU-cbh1-TRA2の、実施例2で製造されたトリコデルマ・リーセイRut-C30(pyr4-)株への形質転換を3ロット行って、230の形質転換株を得て、組換え発現ベクターpDGU-pdc-TRA2によるトリコデルマ・リーセイRut-C30(pyr4-)株の形質転換では1ロット当たり73の形質転換株を得た。
【0099】
形質転換体の二次選別:上述したように得た形質転換株を、セファロスポリンを300μg/mL含有する固体MM培地プレートにスポットし、28℃で2~3日培養し、成長スピード及び形態が正常であった形質転換体をピッキングし、PDAプレートに移して28℃で7日分生子の培養を行った。胞子が成熟すると、無菌水で胞子を溶出させて胞子懸濁液を調製し、勾配希釈を行い、0.1%Triton-100を含有するPDA培地に塗布して単胞子株の分離を行い、28℃で3日培養し、単胞子がコロニーに成長したら、それぞれ3つの単胞子分離株をピッキングしてPDA培地に移して28℃で3日培養し、少量の菌糸をピッキングして無菌水20μlに入れ、98℃で10分加熱し、遠心分離して上清を採取してプライマーTRA2-F及びTRA2-Rを用いてPCR同定を行い、それぞれの形質転換体に対してPCR同定を行って陽性形質転換体であった単胞子分離株を胞子が成熟するまで引き続き7日培養した。
【0100】
PCR同定用プライマー配列(5’-3’):
TRA2-F:ATGTATCGGAAGTTGGCCGTCATC
TRA2-R:TTAGGCAGGGCCGACGACAATAGG
【0101】
上記IM培地の配合は、K2HPO4 10mmol/L、KH2PO4 10mmol/L、NaCl 2.5mmol/L、MgSO4・7H2O 2mmol/L、CaCl2 0.7mmol/L、(NH4)2SO4 4mmol/L、グルコース 10mmol/L、グリセリン 0.5%、AS 200μmol/L、Mandels微量元素(1000×) 1mlであり、pHは5.3である。
【0102】
上記MM培地の配合(g/L)は、グルコース 20、ペプトン 2、(NH4)2SO4 5、MgSO4・7H2O 0.6、CaCl2 0.6、KH2PO4 15、Mandels微量元素(1000×) 1ml/Lであり、pHは4.5~5.5である。
【0103】
上記Mandels微量元素(1000×)の配合は、FeSO4・7H2O 5g/L、MnSO41.6g/L、ZnSO4・7H2O 1.7g/L、CoCl・6H2O 3.7g/Lである。
【0104】
実施例5:トリコデルマ・リーセイに由来するランダム組込み形質転換体の振盪フラスコにおける発酵発現及び選別
【0105】
無菌水4~5mlで、実施例4における上記分離株の成熟した胞子を溶出させ、1%の接種量でトリコデルマ・リーセイ液体シード培地に接種し、24時間培養後に10%の接種量で異なるタイプのプロモーターに用いられるトリコデルマ・リーセイ形質転換体発現培地に移し、28℃で170rpmにおいて168時間培養後に、発酵液上清におけるシュウ酸デカルボキシラーゼの活性を分析した。
【0106】
上記トリコデルマ・リーセイ液体シード培地の配合は、グルコース 15g/L、ペプトン 2g/L、(NH4)2SO4 2.5g/L、MgSO4・7H2O 0.8g/L、CaCl2 1.0g/L、クエン酸緩衝液(pH=4.5) 50mM、尿素 0.3g/L、KH2PO4 2g/L、Mandels微量元素(1000×) 1ml/L、ポリソルベート80 1~2g/Lである。
【0107】
本実施例において、誘導型プロモーターでシュウ酸デカルボキシラーゼを発現するトリコデルマ・リーセイ形質転換体発現培地の配合は、ラクトース 18g/L、微結晶セルロース 10g/L、コーンスティープリカー 12g/L、(NH4)2SO4 0.5g/L、MgSO4・7H2O 1g/L、CaCl2 1.0g/L、KH2PO4 6g/L、ふすま粉 2g/L、Mandels微量元素(1000×) 1ml、MnCl2 5mMであり、pHは4.5である。
【0108】
上記Mandels微量元素(1000×)の配合は、FeSO4・7H2O 5g/L、MnSO41.6g/L、ZnSO4・7H2O 1.7g/L、CoCl・6H2O 3.7g/Lである。
【0109】
本実施例において、構成型プロモーターでシュウ酸デカルボキシラーゼを発現するトリコデルマ・リーセイ形質転換体発現培地の配合は、グルコース 50g/L、ペプトン 4.5g/L、(NH4)2SO4 1.4g/L、MgSO4・7H2O 0.3g/L、CaCl2 0.4g/L、クエン酸緩衝液(pH=4.5) 50mM、尿素 0.3g/L、KH2PO4 2g/L、Mandels微量元素(1000×) 1ml、ポリソルベート80 1~2g/Lであり、pHは4.5である。
【0110】
シュウ酸を基質として、所定の条件(37℃、pH3.0)において1分間にシュウ酸1μmolを分解する又は1分間にギ酸1μmolを生成するのに必要な酵素量を1つの活性ユニット(IU)に定義する。振盪フラスコ発酵により全ての形質転換体を選別し、誘導型プロモーターでシュウ酸デカルボキシラーゼを発現するトリコデルマ・リーセイ形質転換体は168時間の発酵における最大酵素活性が17940IU/Lに達する。構成型プロモーターでシュウ酸デカルボキシラーゼを発現するトリコデルマ・リーセイ形質転換体は168時間の発酵における最大酵素活性が8800IU/Lに達する。
【0111】
実施例6:トリコデルマ・リーセイ形質転換体の振盪フラスコ発酵条件の最適化
【0112】
本実施例において、初期培地における異なる炭素源成分、初期濃度及び窒素源成分、初期濃度が誘導型組換え菌株によるシュウ酸デカルボキシラーゼの発現に与える影響について最適化を行って、発酵した結果、最適化前の発酵培地(組成:ラクトース 18g/L、微結晶セルロース 10g/L、コーンスティープリカー 12g/L、(NH4)2SO4 0.5g/L、MgSO4・7H2O 1.56g/L、CaCl2 0.5g/L、KH2PO4 6g/L、ふすま粉 2g/L、Mandels微量元素(1000×) 1ml、MnCl2 5mM、pH=4.0)を使用して168時間発酵後の発酵液上清におけるシュウ酸デカルボキシラーゼの活性は3000IU/L前後であることが判明した。最適化後の培地を使用すると、そのグルコース初期濃度が8g/Lで、微結晶セルロースが23g/Lである場合に発現効果が最良であった。振盪フラスコによる168時間発酵発現後における上清発酵液中のシュウ酸デカルボキシラーゼの活性は50876IU/Lに達する。好ましくは、培地組成が、グルコース 3~8g/L、微結晶セルロース 10~25g/L、コーンスティープリカー 5~15g/L、(NH4)2SO4 0.5~5g/L、MgSO4・7H2O 1.56g/L、CaCl2 0.5g/L、KH2PO4 2~8g/L、尿素 0~1g/L、ふすま粉 0.2~2g/L、Mandels微量元素(1000×) 1ml、MnCl2 0.5~5mMであり、pHは3.0~4.5である。
【0113】
実施例7:トリコデルマ・リーセイのランダム組込み形質転換体の挿入部位におけるフランキング領域配列分析
【0114】
実施例2に記載の方法を利用してトリコデルマ・リーセイ形質転換体菌株のゲノムDNAを抽出し、Song Gaoら(非特許文献5)によるTD-TAIL PCR(Touchdown TAIL-PCR、以下タッチダウンPCRという)方法を採用してトリコデルマ・リーセイ形質転換体T-DNA(即ちシュウ酸デカルボキシラーゼ発現カセットを含有する形質転換DNA断片)の挿入部位におけるフランキング領域配列を分析した。本実施例においてランダムプライマー(LAD1~LAD5)及び特異的プライマーAC1、RB-1、RB-2、Tail-CX-Fを採用した(表4参照)。ただし、プライマー配列で略記された部分として、VはA/G/Cを、NはA/G/C/Tを、BはG/C/Tを、DはA/G/Tを、HはA/C/Tを表す。
【0115】
まず、ddH2Oでトリコデルマ・リーセイのゲノムDNAを20~30ng/μlに希釈し、これを予備増幅PCR反応(Pre-amplification)のテンプレートとし、LAD1~LAD5をそれぞれランダムプライマーとして、特異的プライマーRB-1とともに予備増幅PCRを行い、次に予備増幅PCR反応の産物を50倍に希釈してタッチダウンPCRのテンプレートとし、タッチダウンPCR増幅の産物に対し1%アガロースゲル電気泳動を行い、ゲルを切って比較的単純で明度が高いバンドを回収して表3に示すTail-CX-Fプライマーでシークエンシング分析を行った。シークエンシングして得た結果配列に対し、トリコデルマ・リーセイのゲノムデータベースにおいてBLASTNプログラムを用いて検索し、その挿入されたゲノム部位を分析した。
【0116】
【0117】
予備増幅反応系(20μl):ゲノムDNA 20~30ng、LADプライマー 1.0μM、RB-1プライマー 0.3μM、dNTP 2μl、10×緩衝液 2μl、Taqポリメラーゼ 0.5Uとし、ddH2Oを補足して20μlとした。
【0118】
予備増幅PCR反応条件:
93℃、120秒;
95℃、60秒;
94℃、30秒;60℃、60秒;72℃、180秒;10サイクル;
94℃、30秒;25℃、120秒;150秒以内に、72℃に均一昇温;72℃、180秒;
94℃、20秒;58℃、60秒;72℃、120秒;25サイクル;
最後に72℃、300秒。
【0119】
タッチダウンPCR反応系(50μl):予備増幅PCR反応の産物を50倍に希釈、AC1プライマー 0.3μM、RB-1プライマー 0.3μM、dNTP 5μl、10×緩衝液 5μl、Taqポリメラーゼ 1Uとし、ddH2Oを補足して50μlとした。
【0120】
タッチダウンPCR反応条件:
94℃、120秒;
94℃、20秒;68℃(-1℃/サイクル)、60秒;72℃、180秒;15サイクル;
94℃、20秒;53℃、60秒;72℃、180秒;15サイクル;
最後に72℃、300秒。
【0121】
本実施例において合計で、振盪フラスコによる発酵発現において酵素活性が25000~65000IU/Lであるトリコデルマ・リーセイ形質転換体35株を選択してT-DNA挿入部位におけるフランキング領域配列分析を行い、得られた全てのT-DNAフランキング領域配列のうち、6本にはRB境界外の約0.5kbのベクター配列が同定され、ゲノムにおけるその挿入位置は同定されておらず、42本にはT-DNAフランキング領域配列のゲノムにおける対応する位置が同定された。42本のT-DNAフランキング領域配列のうち、8本には完全なRB境界配列が保持され、34本のT-DNAには右境界配列に欠失の現象が発生した。
【0122】
トリコデルマ・リーセイ形質転換体35株に対し、複数回のPCRを行ってさらに分析したところ、25株が単一コピーT-DNAの挿入であり、5株が同一部位に同方向反復の形式で2つのコピーが存在し、3株が同一部位に逆方向反復の形式で2つのコピーが存在し、2株が2つの異なる部位にそれぞれ1つのコピーの挿入が存在すると推定した。
【0123】
選択された35株のトリコデルマ・リーセイ形質転換体のうち、2コピーの形質転換体の振盪フラスコ発酵における酵素活性は単一コピーより60%~100%高くなることから、優れた遺伝子量の関係性が判明された。後続の単胞子の分離・精製及び並行発酵実験において、同一部位に同方向反復の形式で2つのコピーが存在する菌株は不安定であり、同一形質転換体から分離された単胞子同士の間に発酵発現における酵素活性に大きな差があり、同一の発酵条件において、大半は母体発現による酵素活性より低かった。同一部位に逆方向反復の形式で2コピーが存在する形質転換体から分離された単胞子同士の間に、発酵発現における酵素活性に優れた並行性が確認され、同一の発酵条件において母体発現による酵素活性に相当する。
【0124】
このうち、発酵発現における酵素活性が高い(50000IU/Lより大きい)、且つ、同一部位に逆方向反復の形式で2つのコピーが存在する1つの分離株をB4-6と命名した。分析したところ、分離株B4-6の挿入部位はTrire2|scaffold_12:102924~105333にあることが判明した。
【0125】
実施例8:トリコデルマ・リーセイ形質転換体選別マーカー遺伝子pyrGの削除
【0126】
実施例7におけるB4-6株を、PDA培地(ウリジンを10mM含有する)に接種し、胞子が成熟するまで28℃で7日培養し、無菌水4~5mlで胞子を溶出させて胞子懸濁液を調製し、適量の胞子懸濁液を採取して5-FOAを5mg/ml、0.1%Trinton-100を含有し、ウリジンを10mM含有するPDA培地に塗布し、単一コロニーが確認されるまで28℃で4~5日培養した。5-FOA耐性を有する約100の分離株を得た。5-FOA耐性を有する分離株を5つ選択してウリジンを10mM含むPDA培地に移し、胞子が成熟するまで28℃で7日培養した。プライマーpyrG-F2及びpyrG-R2を使用してPCRを行うことにより相同組換えが発生しpyrG発現カセットが除去されたコロニーを同定し、その結果、5つの胞子分離株にはいずれもpyrG発現カセットが除去されたことが判明した。上記プライマー配列は、pyrG-F2:5’-TTATAGTATTAGTTTTCCGCCGAC-3’、pyrG-R2:5’-ATGTCCTCCAAGTCGCGATTGAC-3’である。このうちのpyrG発現カセットが除去された1つの分離株をB4-6(pyr4-)と命名した。
【0127】
実施例9:ランダム組込み組換え発現ベクターpMGU-cbh1-TRA2によるトリコデルマ・リーセイB4-6(pyr4-)株の形質転換による多コピー形質転換体の構築
【0128】
実施例4に記載の方法及びそのステップを利用して、アグロバクテリウム仲介による形質転換の方法により発現ベクターpMGU-cbh1-TRA2でトリコデルマ・リーセイB4-6(pyr4-)株を形質転換することにより、42の形質転換体を得た。各形質転換体をそれぞれ、セファロスポリンを300μg/mL含有する固体MM培地プレートに移して二次選別を行い、28℃で3日培養し、このうちの二次選別された39の形質転換体を選別してPDAプレートに移し、28℃で7日培養した。
【0129】
プライマーpyrG-F3及びプライマーWF-CBH-Rを使用してPCRを行って、全ての39の形質転換体に対し選別することにより、初期のコピー数からコピーの追加があるかを確認した。
【0130】
各形質転換体に対し、3日培養されたPDAプレートから少量の菌糸体を抽出して無菌水20μlに加え、98℃で10分加熱し、遠心分離して上清を採取してプライマーpyrG-F3及びWF-CBH-RでPCR同定を行って、増幅後に約2.3kbの断片を得るのは陽性形質転換体である。上記プライマー配列は、pyrG-F3:5’-TTACTTGTGGTGTTCTCAGCTTG-3’であり、プライマーWF-CBH-Rの配列は表2に示すとおりである。
【0131】
実施例6で最適化された培地を使用して発酵を行って全ての形質転換体に対して選別し、72時間より酵素活性を測定し、24時間が経過するごとに測定し、168時間の発酵終了まで継続した結果、26#形質転換体の活性が最大で、168時間発酵における酵素活性は103951IU/Lに達することが判明した。144時間及び168時間における発酵液上清試料をそれぞれ5倍希釈して、SDS-PAGE電気泳動を行って検出し、電気泳動結果を
図6に示す。
図6において、レーン1及びレーン2はそれぞれ144時間及び168時間発酵における発酵液上清であり、ローディング量は発酵液上清10μlである。実施例7に記載の方法を利用して活性最大の形質転換体における新規コピーの挿入部位を分析し、シークエンシング分析した結果、当該形質転換体は2つの異なる部位にそれぞれ1つの新規コピーが挿入され、挿入部位はそれぞれTrire2|scaffold_7:1288320~1288321及びTrire2|scaffold_1:1129134~1129157であることが判明した。実施例8に記載の方法を利用して選別マーカー遺伝子pyrGを除去し、当該形質転換体をHH03-26-8(pyr4
-)と命名した。
【0132】
実施例10:トリコデルマ・リーセイ形質転換体HH03-26-8(pyr4-)におけるpyr4遺伝子の修復
【0133】
トリコデルマ・リーセイRut-C30のゲノムDNAをテンプレートとして、プライマーpyr4-F1及びpyr4-R1をフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してpyr4の完全な発現カセット及びpyr4遺伝子の両側のホモロジーアーム断片をPCR増幅し、PCR増幅の産物に対し1%アガロースゲル電気泳動を行って分離し、約4.0kbのバンドを除去し、ゲル抽出キットを用いて回収・精製し、制限酵素BglII及びXbaIで1時間消化後、PCR産物回収キットを用いて目的断片を回収しておく。ベクターpMDT05は同様に制限酵素BglII及びXbaIで3時間消化後、ゲル抽出キットでベクター断片を回収・精製し、これを消化回収後の4.0kbの断片とモル比1:3で混合し、T4 DNAリガーゼを加えて22℃で3時間ライゲーションさせ、ライゲーション産物で大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、PCRを行って陽性クローンを選別し、シークエンシングして検証を行った。シークエンシングして検証を行って正しく構築されているベクターをpMDT05-pyr4 KIと命名し、
図5はその構築を示す。上記プライマー配列は以下のとおりである。
pyr4-F1:5’-TCAGATCTAGTGTTTGATGCTCACGCTCGGAT-3’;
pyr4-R1:5’-TTTCTAGATGAACAGTAAGGTGTCAGCA-3’。
【0134】
実施例4に記載の方法及びそのステップを利用して、アグロバクテリウム仲介による形質転換の方法により発現ベクターpMDT05-pyr4KIでトリコデルマ・リーセイHH03-26-8(pyr4-)株を形質転換することにより、153の形質転換体を得た。形質転換体を固体MM培地にスポットし、菌糸体が外側に成長して直径が約1cmのプラークが確認されるまで、28℃で48時間培養した。MMプレートにおける全ての形質転換体に番号をつけ、それぞれ一部菌糸体をピッキングしてハイグロマイシンを100μg/mL含有するPDA固体プレートにスポットし、28℃で48時間培養した。ハイグロマイシンを100μg/mL含有するPDA固体プレートにおいて成長できない形質転換体の番号を記録して、35の当該形質転換体を得た。MM固体プレートから対応する番号の形質転換体の菌糸体をピッキングしてPDAプレートに移し、28℃で培養し、3日培養後、少量の菌糸体をピッキングして無菌水20μlに加え、98℃で10分加熱し、遠心分離して上清を採取してプライマーpyr4-F2及びpyr4-R2でPCRを行って検証した。上記プライマー配列は、pyr4-F2:5’-CAAACGAACACATCACTTTCAAAG-3’;pyr4-R2:5’-GTGGGCTTCCTTGTTTCTCGACC-3’である。pyr4遺伝子部位に相同組換えが発生してpyr4発現カセットが修復された場合、PCR増幅バンドは約4.2kbであり、相同組換えが発生せずに増幅した場合、バンドは約2.7kbである。PCR分析により、35の形質転換体のうち、28の形質転換体には増幅後に約4.2kbの断片が得られ、7つの形質転換体には増幅後に約2.7kbの断片が得られ、この7つの形質転換体はpyr4遺伝子座以外のその他の位置にもランダム挿入の発生とともにハイグロマイシン耐性を失ったと推定した。
【0135】
実施例11:トリコデルマ・リーセイRut-C30(pyr4-)株におけるmus53遺伝子ノックアウト
【0136】
公開された文献報告(非特許文献6Matthias G.Steiger,APPLIED AND ENVIRONMENTALMICROBIOLOGY,Jan.2011,p.114-121)によると、mus53遺伝子(ヒトLig4遺伝子と相同である)は非相同末端結合(NHEJ)機能に必要とされており、その機能が欠損すると、100%近くの相同組換え効率がもたらされる。本実施例において、後続の部位特異的組込みノックイン実施例の準備として、トリコデルマ・リーセイRut-C30(pyr4-)株におけるmus53遺伝子をノックアウトしておく。
【0137】
1.mus53遺伝子ノックアウトベクターpMDT05-mus53KOの構築
公開文献に記載のトリコデルマ・リーセイmus53遺伝子(タンパク質Id:58509)の情報(非特許文献7)を参照して、トリコデルマ・リーセイゲノムデータベースにおけるmus53遺伝子の位置の遺伝子座配列情報を検索した(http://genome.jgi-psf.org/Trire2/Trire2.home.html)。
【0138】
トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、表5に示すプライマーmus53-3F/mus53-3R及びmus53-5F/mus53-5Rを使用してそれぞれ増幅することにより約1.4kbのmus53遺伝子の上流ホモロジーアームアップ断片及び約1.3kbのmus53遺伝子の下流ホモロジーアームダウン断片を得て、プライマーmus53-mid-F/mus53-mid-Rでmus53遺伝子座を増幅することにより約1.3kbのミドル断片を得た。
【0139】
トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、プライマーpyr4-TprC-F/pyr4-Rを使用して増幅することにより約1.5kbのpyr4遺伝子コーディング領域及びそのターミネーターを得て、プラスミドpBARGPE1をテンプレートとして、プライマーpyr4-F/pyr4-TrpC-Rを使用してPtrpCプロモーターを386bp増幅した。
【0140】
omega社提供のゲル回収キットを用いて、PCR増幅して得た上記5つの断片を回収し、回収後に等モル比で混合してPCR増幅用テンプレートとし、プライマーmus53-3R/mus53-mid-Fをフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してSOE-PCR増幅することにより約6.1kbの融合断片を得て、omega社提供のゲル回収キットを用いて目的断片の回収を行った。
【0141】
制限酵素EcoRIとXbaIでプラスミドpMDT05を3時間消化し、ベクター骨格断片をゲル回収し、ClonExpress(登録商標)IIによるワンステップ法クローニングキットを用いて回収された6.1kbの断片と組み立て、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpMDT05-mus53KOと命名し、当該ベクターの構築は
図7に示すとおりである。
【0142】
2.トリコデルマ・リーセイRut-C30(pyr4-)におけるmus53遺伝子ノックアウト
実施例4に記載の方法及びステップを利用して、アグロバクテリウム仲介による形質転換の方法によりmus53遺伝子ノックアウトベクターpMDT05-mus53KOでトリコデルマ・リーセイRut-C30(pyr4-)株を形質転換することにより、294の形質転換体を得て、各形質転換体を固体MM培地(セファロスポリン300μg/mL及びハイグロマイシン200μg/mL)プレート及び固体MM培地(セファロスポリン300μg/mL)プレートにそれぞれスポットして二次選別を行い、28℃で3日培養して、ハイグロマイシン耐性を有しない44の形質転換体を得て、このうちの31の形質転換体を選択してPDAプレートに移し、28℃で7日培養した。
【0143】
プライマーMUS-F/TrpC-CX-F及びpyr4-LB-R/MUS-Rを使用してPCRを行って全ての31の形質転換体に対し選別を行うことにより、mus53遺伝子座部位においてアップ領域及びミドル領域によって相同組換えが発生したか否かを決定した。プライマーRB-YZ-FとプライマーRB-YZ-Rを使用してPCR増幅して形質転換体を選別することにより、mus53遺伝子座部位以外にランダム組込みが発生したか否かを決定した。
【0144】
本実施例において、各形質転換体に対し、3日培養されたPDAプレートから少量の菌糸体を抽出して無菌水20μlに加え、98℃で10分加熱し、遠心分離し上清を採取してテンプレートとし、プライマーMUS-F/TrpC-CX-F及びpyr4-LB-R/MUS-Rを使用して増幅するとそれぞれ約3.1kb及び1.6kbの断片を得る場合、対応する領域には予期された形式の相同組換えが発生したことが示され、またプライマーRB-YZ-F及びプライマーRB-YZ-Rで増幅すると425bpの断片を得ない場合、ランダム組込みが発生しなかったが示され、本実施例においてこれらの条件を全て満たす陽性形質転換体として15株が選別された。このうちの1つの陽性形質転換体をPDA培地(ウリジンを10mM含有する)に接種し、胞子が成熟するまで28℃で7日培養し、無菌水4~5mlで胞子を溶出させて胞子懸濁液を調製し、適量の胞子懸濁液を採取して5-FOAを5mg/ml、0.1%Trinton-100を含有し、ウリジンを10mM含むPDA培地に塗布し、単一コロニーが確認されるまで28℃で4~5日培養し、このうちの3つのコロニーを選択してウリジンを10mM含有するPDA培地に移し、胞子が成熟するまで28℃7日培養した。プライマーMUS-F/MUS-Rを使用してPCRを行うことにより相同組換えが発生しpyr4発現カセットが除去されたコロニーを同定し、相同組換えが発生しpyr4が除去されたものを増幅すると約2.9kbの断片を得ることから、3つのコロニーはいずれもpyr4発現カセットが除去されていることが判明した。検証後の陽性株をRut-C30(pyr4-、mus53-)と命名した。プライマー配列は表5に示すとおりである。
【0145】
【0146】
実施例12:部位特異的組込み発現ベクターの構築
【0147】
1.CBH1部位に対する部位特異的組込み発現ベクターpMDT05-CBH1-TRA2(KI)の構築
キーワード検索により、トリコデルマ・リーセイゲノムデータベース(http://genome.jgi-psf.org/Trire2/Trire2.home.html)からCBH1(Cel7A)遺伝子座に対応するDNA配列情報を取得した。
【0148】
プラスミドpMGU-cbh1-TRA2をテンプレートとして、プライマーCBH1-F1及びCBH1-R1を使用してPcbh1の一部を含むPcbh1-TRA2-Tcbh1断片を増幅し、1115bpの一部Pcbh1を5’末端ホモロジーアーム配列とした。トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、プライマーCBH1-F2及びCBH1-R2を使用してTcbh1ターミネーター後の500bpの配列セグメントを増幅して反復配列(DR)とした。プラスミドpMDT05-mus53KOをテンプレートとして、プライマーCBH1-F3及びCBH1-R3を使用してpyr4発現カセットを増幅した。トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、プライマーCBH1-F4及びCBH1-R4を使用してTcbh1ターミネーター後の1041bpの配列を増幅して3’末端ホモロジーアーム配列とした。
【0149】
PCR増幅して得た全ての断片はomega社提供のゲル回収キットを用いて回収し、回収された断片を等モル比で混合してPCR増幅用テンプレートとし、プライマーCBH1-F1及びCBH1-R4をフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してSOE-PCR増幅することにより約7kbの融合断片を得た。プライマーpMDT-SpeI-R及びpMDT-XbaI-Fを使用して増幅することにより線形化されたベクターpMDT-05を得て、DpnIで増幅産物を3時間消化した。omega社提供のゲル回収キットを用いて上記2断片の回収を行い、ClonExpress(登録商標)IIによるワンステップ法クローニングキットを用いて回収された目的断片を組み立て、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpMDT05-CBH1-TRA2(KI)と命名し、その構築は
図8に示すとおりである。プライマー配列は表6に示すとおりである。
【0150】
2.CBH2部位に対する部位特異的組込み発現ベクターpMDT05-CBH2-TRA2(KI)の構築
キーワード検索によりトリコデルマ・リーセイゲノムデータベース(http://genome.jgi-psf.org/Trire2/Trire2.home.html)からCBH2(Cel6A)遺伝子座に対応するDNA配列情報を取得した。
【0151】
トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、プライマーCBH2-F1及びEcoRI-CBH2-URを使用してその5’末端ホモロジーアーム配列を増幅した(1087bp)。プラスミドpMDT05-mus53KOをテンプレートとして、プライマーEcoRI-CBH2-TrpC-F及びCBH2-D-TU-Rを使用してpyr4発現カセットを増幅した。トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、プライマーTpyr4-CBH2-D-F及びCBH2-R3を使用してその3’末端ホモロジーアーム配列を増幅した(1187bp)。
【0152】
PCR増幅して得た全ての断片はomega社提供のゲル回収キットを用いて回収し、回収された断片を等モル比で混合してPCR増幅用テンプレートとし、プライマーCBH2-F1及びCBH2-R3をフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してSOE-PCR増幅することにより約4.2kbの融合断片を得た。プライマーpMDT-SpeI-R及びpMDT-XbaI-Fを使用して増幅することにより線形化されたベクターpMDT-05を得て、DpnIで増幅産物を3時間消化した。omega社提供のゲル回収キットを用いて上記2断片の回収を行い、ClonExpress(登録商標)IIによるワンステップ法クローニングキットを用いて回収された目的断片を組み立て、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpMDT05-CBH2-pyr4と命名し、これは
図9に示すとおりである。
【0153】
プラスミドpMGU-cbh1-TRA2をテンプレートとして、プライマーE-CBH2-PCBH-F及びCBH2-DR-R2を使用して発現カセットPcbh1-TRA2-Tcbh1を約4.7kb増幅した。トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、プライマーCBH-DR-F及びE-CBH2-DR-Rを使用して増幅することにより437bpの配列を得て反復配列(DR)とした。
【0154】
omega社提供のゲル回収キットを用いて上記2つのPCR断片の回収を行い、回収された断片を等モル比で混合してPCR増幅用テンプレートとし、プライマーE-CBH2-PCBH-F及びE-CBH2-DR-Rをフォワードプライマー及びリバースプライマーとしてSOE-PCR増幅することにより約5.1kbの融合断片を得て、omega社提供のゲル回収キットを用いて目的断片の回収を行った。ClonExpress(登録商標)IIによるワンステップ法クローニングキットを用いて、回収された断片及びEcoRI消化後のベクターpMDT05-CBH2-pyr4(EcoRI)を組み立て、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpMDT05-CBH2-TRA2(KI)と命名した。プライマー配列は表6に示すとおりである。
【0155】
3.EG1部位に対する部位特異的組込み発現ベクターpMDT05-EG1-TRA2(KI)の構築
キーワード検索によりトリコデルマ・リーセイゲノムデータベース(http://genome.jgi-psf.org/Trire2/Trire2.home.html)からEG1(Cel7B)遺伝子座に対応するDNA配列情報を取得した。
【0156】
トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、プライマーWF-EG1-UF1及びP-EG1-Rを使用してその5’末端ホモロジーアーム配列を増幅した(1149bp)。プラスミドpMDT05-mus53KOをテンプレートとして、プライマーEG1-pyr4-F及びCBH2-R6を使用してpyr4発現カセットを増幅した。トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、プライマーCBH2-F5及びEG1-TRA2-Rを使用して増幅することにより501bpの配列を得て反復配列(DR)とした。トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、プライマーEG1-DW-F及びEG1-DW-Rを使用してその3’末端ホモロジーアーム配列を増幅した(1211bp)。
【0157】
PCR増幅して得た全ての断片はomega社提供のゲル回収キットを用いて回収し、回収された断片を等モル比で混合してPCR増幅用テンプレートとし、プライマーWF-EG1-UF1及びEG1-DW-Rをフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してSOE-PCR増幅することにより約4.8kbの融合断片を得た。プライマーpMDT-SpeI-R及びpMDT-XbaI-Fを使用して増幅することにより線形化されたベクターpMDT-05を得て、DpnIで増幅産物を3時間消化した。omega社提供のゲル回収キットを用いて上記2断片の回収を行い、ClonExpress(登録商標)IIによるワンステップ法クローニングキットを用いて回収された目的断片を組み立て、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpMDT05-EG1-pyr4と命名した。
【0158】
プラスミドpMGU-cbh1-TRA2をテンプレートとして、プライマーEG1-TRA2-F及びCBH2-R22を使用して発現カセットPcbh1-TRA2-Tcbh1を約4.7kb増幅した。プラスミドpMDT05-EG1-pyr4をテンプレートとして、プライマーCBH2-F66及びP-EG1-Rを使用して増幅することにより線形化されたベクターを得て、DpnIで増幅後の産物を3時間消化した。omega社提供のゲル回収キットを用いて上記2つの断片の回収を行い、ClonExpress(登録商標)IIによるワンステップ法クローニングキットを用いて回収された断片を組み立て、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpMDT05-EG1-TRA2(KI)と命名し、これは
図10に示すとおりである。プライマー配列は表6に示すとおりである。
【0159】
4.EG2部位に対する部位特異的組込み発現ベクターpMDT05-EG2-TRA2(KI)の構築
キーワード検索によりトリコデルマ・リーセイゲノムデータベース(http://genome.jgi-psf.org/Trire2/Trire2.home.html)からEG2(Cel5B)遺伝子座に対応するDNA配列情報を取得した。
【0160】
トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、プライマーWF-EG2-UF1及びP-EG2-Rを使用してその5’末端ホモロジーアーム配列を増幅した(1100bp)。プラスミドpMDT05-mus53KOをテンプレートとして、プライマーEG2-pyr4-F及びCBH2-R6を使用してpyr4発現カセットを増幅した。トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、プライマーCBH2-F5及びEG2-TRA2-Rを使用して増幅することにより501bpの配列を得て反復配列(DR)とした。トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、プライマーEG2-DW-F及びEG2-DW-Rを使用してその3’末端ホモロジーアーム配列を増幅した(1098bp)。
【0161】
PCR増幅して得た全ての断片はomega社提供のゲル回収キットを用いて回収し、回収された断片を等モル比で混合してPCR増幅用テンプレートとし、プライマーWF-EG2-UF1及びEG2-DW-Rをフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してSOE-PCR増幅することにより約4.6kbの融合断片を得た。プライマーpMDT-SpeI-R及びpMDT-XbaI-Fを使用して増幅することにより線形化されたベクターpMDT-05を得て、DpnIで増幅産物を3時間消化した。omega社提供のゲル回収キットを用いて上記2断片の回収を行い、ClonExpress(登録商標)IIによるワンステップ法クローニングキットを用いて回収された目的断片を組み立て、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpMDT05-EG2-pyr4と命名した。
【0162】
プラスミドpMGU-cbh1-TRA2をテンプレートとして、プライマーEG2-TRA2-F及びCBH2-R22を使用して発現カセットPcbh1-TRA2-Tcbh1を約4.7kb増幅した。プラスミドpMDT05-EG2-pyr4をテンプレートとして、プライマーCBH2-F66及びP-EG2-Rを使用して増幅することにより線形化されたベクターを得て、DpnIで増幅産物を3時間消化した。omega社提供のゲル回収キットを用いて上記2つの断片の回収を行い、ClonExpress(登録商標)IIワンステップ法クローニングキットを用いて回収された断片を組み立て、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpMDT05-EG2-TRA2(KI)と命名し、これは
図11に示すとおりである。プライマー配列は表6に示すとおりである。
【0163】
【0164】
実施例13:4コピー部位特異的組込み発現株の構築
【0165】
トリコデルマ・リーセイセルラーゼによる誘導発現において、その細胞外セルラーゼ系でCBH1、CBH2、EG1及びEG2が細胞外総タンパクに占める割合は75%以上である。誘導型プロモーターPcbh1は目的遺伝子TRA2の発現を誘導するとともに、大量のセルラーゼ系遺伝子の発現も誘導するため、発酵液上清において夾雑タンパク質として多くのセルラーゼ系成分が存在し、下流処理が不利になる要素をもたらすとともに、一部の原料はこれらのセルラーゼ系成分の合成に消費される。本実施例において、Rut-C30(pyr4-、mus53-)株を元に、部位特異的組込みノックインの方法によりCBH1、CBH2、EG1及びEG2部位のゲノムに合計で4コピーの目的遺伝子発現カセットを組み込んでいた。
【0166】
1.CBH1部位に対する部位特異的組込み発現株の構築
実施例4に記載の方法及びステップを利用して、アグロバクテリウム仲介による形質転換の方法により、CBH1部位に対する部位特異的組込み発現ベクターpMDT05-CBH1-TRA2(KI)でトリコデルマ・リーセイRut-C30(pyr4-、mus53-)株を形質転換し、36の形質転換体をピッキングして固体MM培地(セファロスポリン300μg/mL)プレートにスポットして二次選別を行い、28℃で3日培養し、このうちから20をピッキングして成長状態が良好な形質転換体菌糸をPDAプレートにスポットし、28℃で7日分生子の培養を行った。
【0167】
プライマーNdeI-Pcbh1-F2/TRA2-CX-R1及びpyr4-LB-R/CBH-down-Rを使用してPCRすることによりこの20の形質転換体に対して選別することにより、CBH1遺伝子座部位において5’末端ホモロジーアーム及び3’末端ホモロジーアームによって相同組換えが発生したか否かを決定した。プライマーRB-YZ-F及びプライマーRB-YZ-R(表5参照)を使用してPCR増幅して形質転換体を選別することにより、CBH1遺伝子座部位以外にランダム組込みが発生したか否かを決定した。本実施例において、各形質転換体に対し、3日培養されたPDAプレートから少量の菌糸体を抽出して無菌水20μlに加え、98℃で10分加熱し、遠心分離して上清を採取してテンプレートとし、プライマーNdeI-Pcbh1-F2/TRA2-CX-R1及びpyr4-LB-R/CBH-down-Rで増幅するとそれぞれ約2.7kb及び1.3kbの断片を得る場合、対応する領域に予期された形式の相同組換えが発生したことが示され、プライマーRB-YZ-F及びプライマーRB-YZ-Rで増幅すると425bpの断片を得ない場合、ランダム組込みが発生しなかったことが示され、本実施例においてこれらの条件を全て満たす陽性形質転換体として14株が選別された。このうちから1つの陽性形質転換体を選択し、実施例11に記載の方法を利用してpyr4遺伝子発現カセットを削除し、プライマーHC2-JD-F2及びCBH1-JD-R2を使用して検証を行い、削除が発生したのは増幅して698bpの断片が得られ、検証して陽性であった菌株をLYH-D1(pyr4-、mus53-)と命名した。プライマー配列は表7に示すとおりである。
【0168】
2.CBH2部位に対する部位特異的組込み発現株の構築
菌株LYH-D1(pyr4-、mus53-)を元に、上述したCBH1部位に対する部位特異的組込みノックインの方法及びステップを利用して、アグロバクテリウム仲介による形質転換の方法によりCBH2部位に対する部位特異的組込み発現ベクターpMDT05-CBH2-TRA2(KI)でトリコデルマ・リーセイLYH-D1(pyr4-、mus53-)株を形質転換することにより、2コピーの部位特異的組込み株LYH-D2(pyr4-、mus53-)を得た。
【0169】
本実施例において、プライマーCBH2-F/Pcbh1-CX及びpyr4-LB-R/CBH2-Rを使用してPCRして形質転換体を選別することにより、CBH2遺伝子座部位において5’末端ホモロジーアーム及び3’末端ホモロジーアームによって相同組換えが発生したか否かを決定した。プライマーRB-YZ-F及びプライマーRB-YZ-R(表5参照)を使用してPCR増幅して形質転換体を選別することにより、CBH2遺伝子座部位以外にランダム組込みが発生したか否かを決定した。プライマーTcbh1-CX-F及びCBH2-R2を使用してpyr4遺伝子発現カセットが削除されたか否かを検証した。プライマー配列は表7に示すとおりである。
【0170】
3.EG1部位に対する部位特異的組込み発現株の構築
菌株LYH-D2(pyr4-、mus53-)を元に、上述したCBH1部位に対する部位特異的組込みノックインの方法及びステップを利用して、アグロバクテリウム仲介による形質転換の方法によりEG1部位に対する部位特異的組込み発現ベクターpMDT05-EG1-TRA2(KI)でトリコデルマ・リーセイLYH-D2(pyr4-、mus53-)株を形質転換することにより、3コピーの部位特異的組込み株LYH-D3(pyr4-、mus53-)を得た。
【0171】
本実施例において、プライマーEG1-UF1/Pcbh1-CX及びpyr4-LB-R/EG1-Rを使用してPCRして形質転換体を選別することにより、EG1遺伝子座部位において5’末端ホモロジーアーム及び3’末端ホモロジーアームによって相同組換えが発生したか否かを決定した。プライマーRB-YZ-F及びプライマーRB-YZ-R(表5参照)を使用してPCR増幅して形質転換体を選別することにより、EG1遺伝子座部位以外にランダム組込みが発生したか否かを決定した。プライマーTcbh1-CX-F及びEG1-DR1を使用してpyr4遺伝子発現カセットが削除された否かを検証した。プライマー配列は表7に示すとおりである。
【0172】
4.EG2部位に対する部位特異的組込み発現株の構築
菌株LYH-D3(pyr4-、mus53-)を元に、上述したCBH1部位に対する部位特異的組込みノックインの方法及びステップを利用して、アグロバクテリウム仲介による形質転換の方法によりEG2部位に対する部位特異的組込み発現ベクターpMDT05-EG2-TRA2(KI)でトリコデルマ・リーセイLYH-D3(pyr4-、mus53-)株を形質転換することにより、4コピーの部位特異的組込み株LYH-D4(pyr4-、mus53-)を得た。
【0173】
本実施例において、プライマーEG2-UF1/Pcbh1-CX及びpyr4-LB-R/EG22-Rを使用してPCRして形質転換体を選別することにより、EG2遺伝子座部位において5’末端ホモロジーアーム及び3’末端ホモロジーアームによって相同組換えが発生したか否かを決定した。プライマーRB-YZ-F及びプライマーRB-YZ-R(表5参照)を使用してPCR増幅して形質転換体を選別することにより、EG1遺伝子座部位以外にランダム組込みが発生したか否かを決定した。プライマーTcbh1-CX-F及びEG2-DR1を使用してpyr4遺伝子発現カセットが削除されたか否かを検証した。プライマー配列は表7に示すとおりである。
【0174】
【0175】
実施例14:トリコデルマ・リーセイmus53遺伝子修復ベクターpMDT05-mus53(KI)の構築
【0176】
トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、プライマーmus53-up-F及びmus53-up-Rを使用してその5’末端ホモロジーアーム配列及び反復配列(DR)を含む断片を増幅した(2209bp)。プラスミドpMDT05-mus53KOをテンプレートとして、プライマーmus53-pyr4-F及びmus53-pyr4-Rを使用してpyr4発現カセットを増幅した。omega社提供のゲル回収キットを用いて上記2つのPCR増幅断片の回収を行い、回収された断片を等モル比で混合してPCR増幅用テンプレートとし、プライマーmus53-up-F及びmus53-pyr4-Rをフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用してSOE-PCR増幅することにより約4.0kbの融合断片を得た。使用プライマーpMDT-SpeI-R及びpMDT-XbaI-Fを使用して増幅することにより線形化されたベクターpMDT-05を得て、DpnIで増幅産物を3時間消化した。omega社提供のゲル回収キットを用いて上記2つの断片の回収を行い、ClonExpress(登録商標)IIによるワンステップ法クローニングキットを用いて回収された目的断片を組み立て、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpMDT05-mus53-pyr4と命名した。
【0177】
トリコデルマ・リーセイのゲノムDNAをテンプレートとして、mus53-down-F及びmus53-down-Rを使用してその3’末端ホモロジーアーム及びmus53修復領域を含む断片を増幅した(4343bp)。制限酵素EcoRIを使用してベクターpMDT05-mus53-pyr4を3時間消化した。omega社提供のゲル回収キットを用いて上記PCR増幅断片及び消化後の線形化されたpMDT05-mus53-pyr4(EcoRI)ベクターの回収を行い、ClonExpress(登録商標)IIによるワンステップ法クローニングキットを用いて回収された目的断片を組み立て、大腸菌TOP10形質転換受容性細胞を形質転換し、検証及びシークエンシングを行って正しく構築されているベクターをpMDT05-mus53(KI)と命名し、
図12はその構築を示す。
【0178】
実施例15:4コピー菌株LYH-D4(pyr4-、mus53-)におけるmus53及びpyr4遺伝子の修復
【0179】
トリコデルマ・リーセイLYH-D4(pyr4-、mus53-)株においてトリコデルマ・リーセイmus53遺伝子の修復を行い、実施例4に記載の方法及びステップを利用して、アグロバクテリウム仲介による形質転換の方法によりmus53遺伝子修復ベクターpMDT05-mus53(KI)でトリコデルマ・リーセイLYH-D4(pyr4-、mus53-)株を形質転換し、27の形質転換体をピッキングして固体MM培地(セファロスポリン300μg/mL)プレートにスポットして二次選別を行い、28℃で3日培養し、このうちから15をピッキングして成長状態が良好な形質転換体菌糸をPDAプレートにスポットし、28℃で7日分生子の培養を行った。
【0180】
プライマーMUS-F/TrpC-CX-F及びMUS-YZ-F2/MUS-Rを使用してPCRして15の形質転換体を選別することにより、mus53遺伝子座部位においてその5’末端ホモロジーアーム及び3’末端ホモロジーアームによって相同組換えが発生したか否かを決定した。プライマーRB-YZ-FとプライマーRB-YZ-Rを使用してPCR増幅して形質転換体を選別することにより、mus53遺伝子座部位以外にランダム組込みが発生したか否かを決定した。実施例11に記載の方法を利用してpyr4遺伝子発現カセットを削除し、プライマーmus3-YZ-F及びMUS-YZ-R2を使用して検証を行うことによりpyr4遺伝子発現カセットが削除されたか否を決定し、mus53遺伝子が修復された陽性菌株をLYH-D4(pyr4-)と命名した。検証用プライマー配列は以下のとおりである(一部表5参照)。
MUS-YZ-F2:GTGCTGGGAGACGATGTGATG
mus3-YZ-F:CAGCAGCGACGCGATTCCTTC
MUS-YZ-R2:CTGCTTCAGAATGATGCGGATG
【0181】
mus53遺伝子が修復されると、実施例10に記載の方法及びステップを利用して、pyr4遺伝子修復ベクターpMDT05-pyr4KIでLYH-D4(pyr4-)におけるpyr4遺伝子を修復し、最終的に得られた陽性菌株をLYH-D4と命名した。
【0182】
実施例16:部位特異的組込み4コピー菌株LYH-D4の振盪フラスコ発酵の最適化
【0183】
トリコデルマ・リーセイLYH-D4株における4つの主なセルラーゼ遺伝子がノックアウトされているため、微結晶セルロースを誘導物質及び炭素源として使用することができず、実施例6においてランダム組込み形質転換株の最適化のために用いられる培地はトリコデルマ・リーセイLYH-D4株に適用されない。
【0184】
本実施例において、培地成分に対する一連の一因子実験、PB実験及び応答曲面法実験を行って培地の配合を最適化し、トリコデルマ・リーセイLYH-D4株の単位体積の発酵活性を向上させて、最適化した結果により、最適化前の発酵培地(組成:ラクトース 30g/L、コーンスティープリカー 12g/L、(NH4)2SO4 0.5g/L、MgSO4・7H2O 1.56g/L、CaCl2 0.5g/L、KH2PO4 6g/L、ふすま粉 2g/L、Mandels微量元素(1000×) 1ml、MnCl2 5mM、pH=4.0)を使用する場合、168時間発酵における発酵液上清中のシュウ酸デカルボキシラーゼ活性は6800IU/L前後であり、最適化された培地を使用する場合、振盪フラスコ発酵による168時間発現後における上清発酵液中のシュウ酸デカルボキシラーゼ活性は26500IU/Lに達することが判明した。好ましくは、培地の組成が、グルコース 3~6g/L、ラクトース 30~40g/L、コーンスティープリカー 7~10g/L、(NH4)2SO4 0.5~1g/L、MgSO4・7H2O 1.56g/L、CaCl2 0.5g/L、KH2PO42~4g/L、尿素 0~1g/L、ふすま粉 10~20g/L、Mandels微量元素(1000×) 1ml、MnCl2 0.5~5mMであり、pHは3.5~4.0である。
【0185】
実施例17:発酵タンクによる部位特異的組込み4コピー株LYH-D4の発酵
【0186】
1.シード培養液の調製
組換えトリコデルマ・リーセイ菌LYH-D4の菌糸を複数のPDA固体斜面培地に接種し、28℃で7日培養し、分生子が成長して緑色になると、無菌水で洗い流して胞子懸濁液を収集し、胞子濃度を1.0×108個/ml前後に調整し、1%の接種量でMM液体培地500mLに接種し、28℃で24~36時間暗所振盪(170rpm)して培養し、これを7L発酵タンクによる発酵のシード培養液とした。
【0187】
2.7L発酵タンクにおけるトリコデルマ・リーセイ株LYH-D4の発酵
トリコデルマ・リーセイの発酵プロセスは以下の2つ段階に分かれる。第1段階の菌糸体成長段階(0~72時間):7L発酵タンク(上海保興生物設備工程有限公司提供)に基礎発酵培地(グルコース 20g/L、コーンスティープリカー 7g/L、KH
2PO
4 4g/L、尿素 1g/L、硫酸アンモニウム 2g/L、MgSO
4・7H
2O 0.5g/L、CaCl
2 1g/L、MnCl
2 1mM、Mandels微量元素(1000×) 1ml/L、pH=4.0)4.5Lを加え、10%の比率で調製されたトリコデルマ・リーセイのシード培養液に接種し、28℃で約72時間通気攪拌しながら培養し、溶存酸素量を30%以上に保持し、攪拌回転数は溶存酸素量に基づき調整し、一般に250~500rpmに制御し、pHは3.5~4.0前後に保持した。菌糸体成長段階において、トリコデルマ・リーセイ菌体が成長するにつれて、一般に24~28時間経過後にグルコースがほぼ完全に消費され、このとき、12ml/時間のスピードで250g/Lのラクトース溶液を補足した。約72時間培養後に菌体の乾燥重量は15~18g/Lに達する。第2段階の誘導発現段階(72~168時間):発酵開始後72時間に、蠕動運動ポンプを用いて250g/Lのラクトース溶液を流加し、作業環境濃度を常に2g/l以下、溶存酸素量を常に20%より大きくし、28℃で接種後約168時間まで通気攪拌培養し、pHは4.0前後に保持した。24時間経過するごとに発酵液上清をサンプリングしてシュウ酸デカルボキシラーゼ活性を検出し、約160時間発酵後における発酵液上清の活性は271756U/Lに達する(
図13参照)。136時間及び160時間発酵液上清を採取して10倍希釈してSDS-PAGE検出を行うと、分子量が約60KDaの目的タンパク質バンドは明確に確認された(
図14参照)。160時間発酵液試料を200倍及び500倍希釈してウエスタンブロッティング検出分析を行った(
図15参照)。
【0188】
実施例18:組換えシュウ酸デカルボキシラーゼの回収及び抽出
【0189】
常温で、5000rpmで発酵液を15分遠心分離し、上清を取得した。孔径100nmのセラミック膜(三達膜環境技術股▼ふん▲有限公司提供)で発酵液上清を濾過し、透過液を収集し、透過液を清澄化させた後、攪拌しながら濃度10%のタンニン酸を加え、タンニン酸の終濃度を1%前後とし、室温で1時間静置し、次に常温で、8000rpmで15分遠心分離し、シュウ酸デカルボキシラーゼとタンニン酸が生成した錯体沈殿を収集した。透過液の体積の1/2の無菌水で当該錯体沈殿を充分に再懸濁させて洗浄し、8000rpmで15分遠心分離して、錯体沈殿を取得し、このようにして1回繰り返した。当該錯体沈殿に清澄液の体積の2/5のポリエチレングリコール溶液(ポリエチレングリコールの使用量は清澄液の体積の0.3~0.5%)を加え、常温で継続的に4時間攪拌し、ポリエチレングリコールとタンニン酸とのより強い結合作用を利用してタンニン酸のタンパク質錯体の中からシュウ酸デカルボキシラーゼを析出させた。次に室温で、8000rpmで15分遠心分離してタンニン酸のポリエチレングリコールポリマーを除去し、上清を取得し、当該上清はすなわち2.5倍濃縮された濃縮酵素液である。最後に、濃縮酵素液に糖類用活性炭を2%加えて脱色させて、淡黄色のシュウ酸デカルボキシラーゼ液を得て、酵素回収率は90~95%に達した。分画分子量が10KDaの限外濾過膜で脱色されたシュウ酸デカルボキシラーゼ液を10~30倍濃縮させ、濃縮後、噴霧乾燥して粉末シュウ酸デカルボキシラーゼを得た。
【0190】
実施例19:組換えシュウ酸デカルボキシラーゼの性質及び対照分析
【0191】
トリコデルマ・リーセイ糸状真菌宿主細胞によって発現された組換えシュウ酸デカルボキシラーゼ及び天然宿主のチャジュタケによって誘導発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼに対し、pH値1.5~7.0において相対酵素活性を測定し、結果を
図16に示す。異なるpH値において、組換えシュウ酸デカルボキシラーゼ及び天然宿主のチャジュタケによって誘導発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼは類似する相対酵素活性を有する。組換えシュウ酸デカルボキシラーゼはpH値1.5~7.0においてその酵素活性が全て又は一部保持され、且つ、pH値1.5~2.5において至適pHおけるその酵素活性が10%以上保持され、pH値2.5~4.5において至適pHにおけるその酵素活性が50%以上保持され、pH値4.5~7.0において至適pHにおけるその酵素活性が25%以上保持され、至適pH値は2.5~3.5である。
【0192】
トリコデルマ・リーセイ糸状真菌宿主細胞によって発現された組換えシュウ酸デカルボキシラーゼ、天然宿主のチャジュタケによって誘導発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼ及び原核発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼに対し、SDS-PAGE分析を行い、結果を
図17に示す。トリコデルマ・リーセイによって発現された組換えシュウ酸デカルボキシラーゼ及びチャジュタケによって発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼは、グリコシル化修飾の形式及び程度が異なるため、見かけの分子量に差異があり、天然宿主のチャジュタケによって発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼの分子量は70kDa前後で、トリコデルマ・リーセイによって発現された組換えシュウ酸デカルボキシラーゼの分子量は60kDa前後であり、両者のいずれもグリコシル化修復なしの原核発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼの分子量より大きく、原核発現されたグリコシル化修飾なしのシュウ酸デカルボキシラーゼの分子量は50kDa前後であった。MALDI-TOF-MSを利用して、トリコデルマ・リーセイによって発現された組換えシュウ酸デカルボキシラーゼの分子量分析を行い、
図18に示すように、その真分子量は57.1kDaであった。
【0193】
上記3種類の発現系によって発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼをTPCK処理後のトリプシン酵素でそれぞれ分解消化した後、MALDI-TOF-MS分析を行い、そのマススペクトルを
図19、
図20及び
図21に示す。当該3種類の発現系によって発現されたシュウ酸デカルボキシラーゼはグリコシル化修飾の形式及び程度が異なるため、トリプシン酵素による分解消化後のマススペクトルに差異性が認められ、しかもこのような差異性は宿主細胞特異性を有する。
【0194】
本発明に記載の配列番号10~16の配列でトリコデルマ・リーセイにおいて単一コピー組換え発現を行うと、配列番号9の場合と類似する実験結果を得ることができる。
【0195】
上述した実施例は本発明を説明するために挙げられる好ましい実施例に過ぎず、本発明の保護範囲はこれに限定されるものではない。当業者が本発明に対して行う同等な置換又は変換は、いずれも本発明の保護範囲に含まれる。本発明の保護範囲は特許請求の範囲に準拠する。
【配列表】