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特許7503318固体酸化物形電解セル、その運転方法及び運転システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】固体酸化物形電解セル、その運転方法及び運転システム
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/023 20210101AFI20240613BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20240613BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240613BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240613BHJP
   C25B 11/02 20210101ALI20240613BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240613BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20240613BHJP
   C25B 11/067 20210101ALI20240613BHJP
   C25B 11/069 20210101ALI20240613BHJP
   C25B 11/077 20210101ALI20240613BHJP
   C25B 15/00 20060101ALI20240613BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240613BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20240613BHJP
   H01M 8/0656 20160101ALI20240613BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240613BHJP
   H01M 8/1253 20160101ALI20240613BHJP
【FI】
C25B15/023
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B11/02 301
C25B11/052
C25B11/054
C25B11/067
C25B11/069
C25B11/077
C25B15/00 303
H01M4/86 U
H01M8/00 Z
H01M8/0656
H01M8/12 101
H01M8/1253
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021509304
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2020012237
(87)【国際公開番号】W WO2020196236
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2019059530
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(先端的低炭素化技術開発(ALCA))、「(研究課題)高効率水素製造水蒸気電解/燃料電池可逆作動デバイスの開発・(研究題目)可逆作動SOEC/SOFC用の高性能・高耐久電極の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】西野 華子
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-034727(JP,A)
【文献】特開平08-162120(JP,A)
【文献】“Important Roles of Ceria-Based Materials on Durability of Hydrogen and Oxygen Electrodes for Reversible SOEC/SOFC”,ECS Transactions,2017年,Vol.78, No.1,p.3189-3195
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B1/00-15/08
H01M8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素極と、酸素極と、その間に配置された電解質層を備える固体酸化物形電解セルの運転方法であって、
前記水素極は、電子-イオン混合伝導性酸化物の多孔体にNi含有粒子を分散して担持させて構成される触媒層を備え、
前記方法は、水蒸気電解動作と燃料電池動作とを交互に繰り返す交互運転工程を備え、
前記水素極は、前記触媒層と、前記触媒層に接する集電層とからなる二重層構造を有し、
前記集電層は、Ni含有粒子と、イットリア安定化ジルコニアとのサーメットで構成され、
前記電解セルの動作開始時点から始まる期間をエージング期間とし、前記エージング期間の終了時点から始まる期間を運用期間とし、1サイクルでの前記水蒸気電解動作の時間及び前記燃料電池動作の時間をそれぞれT1,T2とし、[T1/(T1+T2)]を電解動作時間比率とすると、
前記エージング期間での電解動作時間比率は、前記運用期間での電解動作時間比率よりも小さい、方法。
【請求項2】
水素極と、酸素極と、その間に配置された電解質層を備える固体酸化物形電解セルであって、
前記水素極は、電子-イオン混合伝導性酸化物の多孔体にNi含有粒子を分散して担持させて構成される触媒層を備え、
前記Ni含有粒子のうち、前記Ni含有粒子の平均埋没高さ割合が0.1以上で、埋没高さ割合が0.2以上の個数割合が50%以上である、固体酸化物形電解セル。
【請求項3】
請求項2に記載の固体酸化物形電解セルであって、
前記水素極は、前記触媒層と、前記触媒層に接する集電層とからなる二重層構造を有し、
前記集電層は、Ni含有粒子と、イットリア安定化ジルコニアとのサーメットで構成される、固体酸化物形電解セル。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の固体酸化物形電解セルであって、
前記電子-イオン混合伝導性酸化物は、セリウム系複合酸化物である、固体酸化物形電解セル。
【請求項5】
請求項2請求項4の何れか1つに記載の固体酸化物形電解セルであって、
前記電解質層は、イットリア安定化ジルコニアで構成される、固体酸化物形電解セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形電解セルと、その運転方法及び運転システムに関する。
【背景技術】
【0002】
CO排出削減と同時に、自然災害にも強い分散電力システム構築に向けて、太陽光、風力発電等の再生可能エネルギー発電の導入が急速に増加しつつある。これらは出力の変動が激しいため、今後、系統へ大量投入するためには電力を平準化するための技術開発が必須である。リチウムイオン電池やナトリウム-硫黄電池等は短期間・中小規模の蓄電に適しているものの、長期・大規模蓄電にはコストと設置体積が過大になるため、例えば、GWhを超える大規模蓄電には、水電解により水素として貯蔵する"Power to Gas"への取組みがドイツを中心に積極的に検討されている。
【0003】
2014年6月に経産省から発表され、2016年3月に改訂された水素・燃料電池戦略ロードマップでは、水電解による水素製造が本格化するのは2040年頃と想定されていた。ただし、2018年、九州電力で行われた太陽光や風力発電の出力抑制が大きな問題となり、さらなる前倒し実施が必要となってきた。また、2015年6月に閣議決定された日本再興戦略改訂では、地方に豊富に存在する再生可能電力で水素を電解製造し、これを都市部等の高需要地へ輸送する水素社会モデルの構築を図ることが明記されている。そのために出力変動に対応可能で、安価、安定的、かつ高効率な水電解技術の研究開発を現段階から進める必要がある。
【0004】
水電解技術の中で、従来のアルカリ水電解は安価であるが、電解液中にガス発生するので高電流密度運転や電力変動に対応できず、システムでの効率は約70%で低い。他方、高効率(スタック85%,システム80%)で高電流密度・出力変動に対応可能な固体高分子形水電解は高価な貴金属触媒と高分子電解質膜が必要で小規模な用途に限られる。上記の要件を満たし、約90%の高効率が期待できる水蒸気電解(固体酸化物形電解セル:SOEC)が非常に有望である。SOECは固体酸化物形燃料電池(SOFC)として可逆作動が可能で、貯蔵した水素を燃料として高効率発電ができるため、低炭素社会実現に大きく寄与できる。
【0005】
SOECを大規模再生可能エネルギーの蓄電に用いるためには、高効率・高耐久性セル・スタックの開発が最も重要である。最近、SOEC水素極のNi減少による劣化が深刻な問題として報告されている。最近の研究では、電流密度が高いほど、水蒸気分圧p(HO)が高いほど、温度が高いほど、YSZ固体電解質界面に近い部分でのNi減少速度が大きくなると報告されているが、その機構や劣化抑制法は全く不明である(非特許文献1)。
【0006】
従来の水素極は、例えば、μmサイズのNiとガドリニアドープセリア(GDC)またはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を混合焼結しており、YSZ固体電解質近傍で両者の接触する領域のみに有効反応領域(ERZ)が限定されるため、電流集中が起こりやすいこと、そのための対応策として、例えば二重層構造水素極(非特許文献2)が、本発明の発明者らによりなされている。
【0007】
このようにSOECとSOFC両方に利用される固体酸化物形電解セルは、水素極の劣化に対し、さらなる改善が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】M. P. Hoerlein et al., Electrochim. Acta, 276, 162 (2018).
【文献】H. Uchida et al., ECS Trans., 7(1), 365 (2007); J. Electrochem. Soc. , 164, F889 (2017).
【文献】C. Graves et al., Nat. Mater.,14, 239 (2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、水素極の劣化を抑制可能な固体酸化物形電解セルの運転方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、水素極と、酸素極と、その間に配置された電解質層を備える固体酸化物形電解セルの運転方法であって、前記水素極は、電子-イオン混合伝導性酸化物の多孔体にNi含有粒子を分散して担持させて構成される触媒層を備え、前記方法は、水蒸気電解動作と燃料電池動作とを交互に繰り返す交互運転工程を備える、方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水素極の劣化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明で用いる固体酸化物形電解セル1の概要構造を示す図である。
図2図2Aは、電解セル1の水素極構造の一例を示す図であり、図2Bは、触媒層金属粒子を高分散担持した電子-イオン混合伝導性セリウム系複合酸化物多孔体の詳細図である。
図3図3Aは、運転開始前の多孔体13aとNi含有粒子13bの状態を模式的に示す断面図であり、図3Bは、交互運転後の多孔体13aとNi含有粒子13bの状態を模式的に示す断面図である。
図4】電解セル1の連続運転時の電位Eおよびオーム抵抗Rohmの連続動作時間との関係を示す図である。
図5】交互運転の結果を示す図である。
図6】交互運転時のSOECモードでの電位EとRohmの経時変化を、SOEC連続運転での変化と比較した結果を示す図である。
図7】SOEC/SOFC交互運転条件を示す図である。
図8】比較例1及び実施例1~3でのRohmの経時変化を示すグラフである。
図9】比較例1、実施例1及び実施例4でのRohmの経時変化を示すグラフである。
図10】触媒層のFIB-SIM像であり、図10Aは運転開始前の状態を示し、図10Bは実施例1の交互運転後の状態を示し、図10Cは、図10B中の這い上がり部に白丸をつけたものである。
図11】運転開始前の触媒層及び実施例1~3の交互運転後の触媒層について測定した埋没高さ割合のヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0014】
1.固体酸化物形電解セル1
図1に示すように、本発明の一実施形態の固体酸化物形電解セル1は、水素極10、電解質層20、酸素極30を備える。水素極10側には水素極セパレータ11が配置され、酸素極30側には酸素極セパレータ31が配置されている。セパレータ11,31は区別が不要な場合は、「セパレータ」と総称する。
【0015】
1-1.水素極10
図2Aに示すように、水素極10は、触媒層(CL)13と、集電層(CCL)12を備える。図2Aにおいては、触媒層13と集電層12との境界を境界線BLとして示す。水素極10は、集電効率を高めるという観点から触媒層13と集電層12を有する二重層構造であることが好ましいが、集電層12は不要な場合には省略可能である。
【0016】
1-1-1.水素極10の触媒層13
水素極10の触媒層13は、電子-イオン混合伝導性酸化物の多孔体13aにNi含有粒子13bを分散して担持させて構成される。触媒層13は、多孔体13a上にNi含有粒子13bを均一に分散(つまり、高分散)させることによって有効反応面積が広げられている。触媒層13の厚さは、10~20μmが好ましく、15μmがより好ましい。
【0017】
<電子-イオン混合伝導性酸化物>
電子-イオン混合伝導性酸化物としては、化学式(H1)~(H7)に示すものが挙げられる。化学式(H1)は、希土類またはアルカリ土類をドープした酸化セリウムである。化学式(H2)~(H3)は、LaCrO,LaFeO,LaTiOをベースとする複合酸化物である。x,y,zは、それぞれ、化学式(H1)~(H7)で規定される範囲内の数値であり、具体的には例えば、0、0.01、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、0.99、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、1.99、2.0であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。各化学式において、δは、酸素欠陥または過剰量を表し、これは作動条件によって変化する値である。
【0018】
(H1) (CeO1-x(MO
(式中、y=1.5の場合、M=Sm,Gd,Dy,Y,Ho,Yb,La,Nd,Eu又はこれらの混合ドープであり0<x<1の範囲である。y=1の場合、M=Sr,Ca,Baで0<x<0.5の範囲である。)
【0019】
(H2) La1-x(M1)1-y-z(M2)(M3)3±δ
(式中、A=Ca,Sr,Baであり、M1=Fe,Cr,Niであり、M2又はM3=Mn,Ni,Tiであり、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1である。)
【0020】
(H3) La2-x(M1)2-y(M2)6±δ
(式中、A=Ca,Sr,Baであり、M1=Fe,Cr,Niであり、M2=Mo,Mn,Ni,Tiであり、;0≦x≦2,0≦y≦2である。)
【0021】
(H4) SrTi1-x-yNbNi3±δ
(式中、0≦x≦1,0≦y≦1である。)
【0022】
(H5) LaCo1-xNi3±δ
(式中、0≦x≦1である。)
【0023】
(H6) (R1-xTi7±δ
(式中、A=Ca,Srであり、R=Gd,Sm,Yであり、0≦x≦1である。)
【0024】
(H7) R(Ti1-x7±δ
(式中、R=Gd,Sm,Yであり、M=Ru,Fe,Ni,Nbであり、0≦x≦1である。)
【0025】
電子-イオン混合伝導性酸化物は、セリウム系複合酸化物が好ましく、サマリアドープセリア(SDC)(組成の一例:[CeO0.8[SmO1.50.2)、又はガドリニアドープセリア(GDC)がさらに好ましい。
【0026】
<多孔体13a>
多孔体13aの空隙率は、例えば40~80%であり、50~70%が好ましい。空隙率が小さすぎると表面積が小さくなりすぎて触媒性能が低下する場合がある。空隙率が大きすぎると機械強度が不十分になる場合がある。空隙率は、具体的には例えば、40、45、50、55、60、65、70、75、80%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0027】
多孔体13aを構成する粒子の大きさは、触媒層金属粒子であるNi含有粒子13bがその表面に高分散できる程度に大きいものが好ましい。平均粒径0.5μmの酸化物(例:SDC)粒子を空気中1150℃で4時間焼結すると好適である。
【0028】
<Ni含有粒子13b>
Ni含有粒子13bは、Niを含有する粒子であり、Ni粒子及びNi合金粒子が挙げられる。Ni合金粒子としては、Ni-Co(一例では、Ni0.9Co0.1)粒子が好ましい。Ni含有粒子中のNiの含有量は、例えば50~100原子%であり、具体的には例えば、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100原子%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0029】
Ni含有粒子13bの平均粒子径は、例えば10~500nmである。平均粒子径が小さすぎるとNi含有粒子13bが消失しやすい場合があり、平均粒子径が大きすぎると触媒性能が不十分になる場合がある。平均粒子径は、図10に示すようなFIB-SIM画像において、ランダムに選択した200個以上のNi含有粒子13bの円相当径を測定し、測定値を平均することによって算出することができる。平均粒子径は、具体的には例えば、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500nmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0030】
触媒層13内のNi含有粒子13bの体積割合(Ni含有粒子13bの体積/触媒層13のみかけ体積)は、6~20体積%が好ましい。この割合は、具体的には例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20体積%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0031】
Ni含有粒子13bは、Ni粒子又はNi合金粒子に含まれる金属の金属塩溶液を多孔体13aに含浸させた後に焼成して金属塩を金属酸化物に変化させ、金属酸化物を還元することによって多孔体13aに担持することができる。金属塩としては、硝酸塩が例示される。金属酸化物の還元は、電解セル1を作動させる前に行ってもよく、電解セル1を水蒸気電解動作させることによって発生する水素によって行ってもよい。
【0032】
触媒層13は、複数のNi含有粒子13bが連珠状に融着連結して連珠化された連珠体を含むことが好ましい。連珠体の添加によって水素極の初期性能を向上させるとともに水素極の劣化を抑制することが可能である。連珠化されたNi含有粒子13bとしては、連珠化Ni粒子や連珠化Ni-Co粒子が挙げられる。なお、連珠化されたNi含有粒子13bは、その酸化物(例:連珠化NiOや連珠化NiO-CoO)を多孔体13aと混合して焼結した後に還元することによって多孔体13aに担持することができる。
【0033】
図2A中の領域Aの多孔体13aの一つを取り出したものを図2Bに示す。図2Bに示すように、Ni含有粒子13bは、多孔体13a上に高分散するように担持されている。Ni含有粒子13bと多孔体13aとの接触部分付近が有効反応領域13c(ERZ:Effective Reaction Zone)となる。本実施形態では、Ni含有粒子13bを高分散させているので、従来のサーメット型電極(μmサイズの金属粒子とYSZまたはセリア系複合酸化物を単に混合焼結した電極)に比べて、有効反応領域13cが広くなっている。
【0034】
上記方法によって製造した直後の状態(つまり、運転開始前の状態)では、図3Aに示すように多孔体13a上に多数の小さなNi含有粒子13bが担持されており、多孔体13aを構成する酸化物は、Ni含有粒子13bの側面に這い上がっていない。この状態では、Ni含有粒子13bは比較的不安定であり、水蒸気電解動作を長時間続けるとNi含有粒子13bの重量が減少して、水素極10が劣化する。製造直後のNi含有粒子13bの平均粒子径は、例えば10~100nmであり、20~80nmが好ましく、具体的には例えば、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100nmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0035】
一方、水蒸気電解動作と燃料電池動作とを交互に繰り返す交互運転をするように電解セル1を動作させると(交互運転の詳細は後述する。)、図3Bに示すように、Ni含有粒子13bが凝集して肥大化すると共に、多孔体13aを構成する酸化物がNi含有粒子13bの側面に這い上がって這い上がり部13dが形成される。這い上がり部13dは椀状に形成される。這い上がり部13dが形成されることによって、Ni含有粒子13bが多孔体13aに埋没した特徴となり、結合がより強固になると共に、Ni含有粒子13bと多孔体13aと気相で構成される三相界面の領域が広がるので反応が促進される。交互運転によって図3Bに示す埋没構造が形成されると、以後は、水蒸気電解動作の連続運転を行ったとしても水素極10の劣化が抑制される。つまり、交互運転によって水素極10が安定化される。
【0036】
図3Bの状態では、Ni含有粒子13bの平均粒子径は、例えば100~500nmであり、200~400nmが好ましく、具体的には例えば、100、150、200、250、300、350、400、450、500nmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。また、図3Bにおいて、多孔体13aとNi含有粒子13bの界面からNi含有粒子13bの最高位置までの高さをHとし、前記界面から這い上がり部13dの最高位置までの高さをhとすると、Ni含有粒子の埋没高さ割合はh/Hで示すことが出来る。平均埋没高さ割合は、図10に示すようなFIB-SIM画像において、ランダムに選択した200個以上のh/Hの平均値であり、0.1以上であることが好ましい。またh/Hが0.2以上となるNi含有粒子13bの個数割合が50%以上であることが好ましい。平均埋没高さ割合は、0.2以上が好ましく、0.25以上がさらに好ましく、0.3以上がさらに好ましく、0.35以上がさらに好ましい。例えば0.1~0.6であり、具体的には例えば、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。個数割合は、例えば50~100%であり、具体的には例えば、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0037】
1-1-2.水素極10の集電層12
水素極10の集電層12は、基材粒子12aと、Ni含有粒子12bを備える。基材粒子12aは、一例では、イットリア安定化ジルコニア-サーメット(YSZ-サーメット)で構成されるが、多孔体13aと同様の酸化物(例:SDC)で構成してもよい。Ni含有粒子12bの組成の説明は、Ni含有粒子13bと同様である。基材粒子12aの平均粒子径は、Ni含有粒子12bの平均粒子径の0.5~2倍(好ましくは、0.8~1.5倍)であることが好ましい。Ni含有粒子12bの平均粒子径は、例えば0.3~1.5μmであり、0.5~1μmが好ましい。集電層12は、Ni含有粒子12bの酸化物と、基材粒子12aを混合して焼結した後に、Ni含有粒子12bの酸化物を還元することによって得ることができる。焼結温度は、例えば、1000~1300℃であり、1100~1200℃が好ましく、1150℃がさらに好ましい。還元は、例えば、水素ガスを用いて行うことができる。集電層12内のNi含有粒子12bの体積割合(Ni含有粒子12bの体積/集電層12のみかけ体積)は、40~60体積%が好ましい。この割合は、具体的には例えば、40、45、50、55、60体積%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。集電層12の厚さは、5~20μmが好ましく、5~10μmがより好ましい。
【0038】
1-1-3.水素極10の二重層構造
水素極10の二重層構造は、Ni-Co高分散SDC触媒層とNi-YSZ集電層とから成る構成が好ましいが、この他、Ni高分散SDC触媒層とNi-YSZ集電層、Ni-Co高分散SDC触媒層とNi-SDC集電層、Ni高分散SDC触媒層とNi-SDC集電層のように構成してもよい。また、Ni-Co高分散GDC触媒層とNi-YSZ集電層、Ni高分散GDC触媒層とNi-YSZ集電層、Ni-Co高分散GDC触媒層とNi-SDC集電層、Ni高分散GDC触媒層とNi-SDC集電層のように構成してもよい。
【0039】
1-1-4.水素極セパレータ11
水素極セパレータ11は、水素極10に接触して集電を行う。水素極セパレータ11と電解質層20の間に水素極10が配置される。水素極セパレータ11は、複数の電解セル1を直列に接続するためのものであり、電子伝導性体材料(耐熱性合金または電子伝導性セラミックス)で構成することができる。
【0040】
1-2.電解質層20
電解質層20は、水素極10と酸素極30との間に配置される。水素極10から見た場合、水素極10の触媒層13側が電解質層20と接触するように構成される。この電解質層20は電子絶縁性を備えかつ酸化物イオン(O2-)を伝導する材料が選択され、例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)やスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などが利用できる。
【0041】
1-3.酸素極30
酸素極30は、触媒層の単層構造であってもよく、触媒層と、集電層の二重層構造であってもよい。二重層構造の場合、触媒層が電解質層20側に配置される。
【0042】
1-3-1.酸素極30の触媒層
酸素極30の触媒層は、酸化物の多孔体で構成される。多孔体の空隙率は、例えば40~80%であり、50~70%が好ましい。空隙率が小さすぎるとガス拡散性も乏しくなり、また有効反応表面積が小さくなりすぎて触媒性能が低下する場合がある。空隙率が大きすぎると機械強度が不十分になる場合がある。空隙率は、具体的には例えば、40、45、50、55、60、65、70、75、80%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0043】
触媒層に含まれるベース酸化物は、一般に良く知られた、LSC(ランタン・ストロンチウム・コバルト酸化物)、LSCF(ランタン・ストロンチウム・コバルト・鉄酸化物)、LaMnO(ランタン・マンガン・鉄酸化物)等の電子-イオン混合伝導性酸化物を用いることができるがこれに縛られるものではなく、以下の化学式(O1)~(O10)で示す構成を有するものであってもよい。化学式(O1)~(O6)は、LaCoO,LaMnO,LaTiO,SrTiO,LaNiOをベースとする複合酸化物である。x,yは、それぞれ、例えば、0、0.01、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、0.99、1.0であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0044】
(O1) La1-xCo1-yFe3±δ
(O2) Ln1-xMnO3±δ
(O3) La1-xTi1-yMO3±δ
(O4) SrTi1-x3±δ
(O5) La1-xNi1-yMO3±δ
(O6) LnNi1-xCo4±δ
(O7) Ca1-xCeMnO3±δ
(O8) PrNi1-xFe3±δ
(O9) Sm1-xCo1-yFe3±δ
(O10) BaCo1-x-yFeZr3±δ
(式中、A=Ca,Sr,Baであり、Ln=La,Prであり、M=Fe,Coであり、0≦x≦1,0≦y≦1であり、δは、酸素欠陥または過剰量を表す。)
【0045】
触媒層は、上記のベース酸化物と、イオン伝導性酸化物を含むことが好ましい。これによって、ガス-イオン-電子が会合する有効反応場(三相帯界面)を増加させることが可能となり、電極反応の促進という効果が奏される。イオン伝導性酸化物としては、セリウム系酸化物やジルコニウム系酸化物が挙げられる。
【0046】
触媒層は、例えばスクリーンプリント法、ドクターブレード法やスプレー法などによって形成することができる。
【0047】
1-3-2.酸素極30の集電層
酸素極30の集電層は、上記のベース酸化物によって形成することができる。集電層は、触媒層の形成方法と同様に、例えばスクリーンプリント法、ドクターブレード法やスプレー法などによって形成することができる。
【0048】
1-3-3.酸素極セパレータ31
酸素極セパレータ31は、酸素極30に接触して集電を行う。酸素極セパレータ31と電解質層20の間に酸素極30が配置される。酸素極セパレータ31は、複数の電解セル1を直列に接続するためのものであり、電子伝導性体材料(耐熱性合金または電子伝導性セラミックス)で構成することができる。
【0049】
1-4.その他の構成
水素極10と電解質層20との間、および酸素極30と電解質層20との間に中間層を備えていてもよい。これにより、酸素極30と電解質層20との固相反応を抑制し、電解質層20の劣化を防止することが可能である。中間層にはセリウム系複合酸化物を好適に用いることができる。セリウム系複合酸化物はイオン伝導性に優れているため、酸化物イオンが水素極10から電解質層20を経て酸素極30への移動することを促進することが可能である。また、水素極にも膜厚の薄い中間層を電解質層20と水素極10の間に入れることにより、接触を良くすることができる。
【0050】
2.電解セル1の動作
電解セル1は、外部電源から供給される電力によって、水蒸気電解セル(SOEC:Solid Oxide Electrolysis Cell)として動作する。この場合、水素極10において水蒸気を電気分解して水素ガスおよび酸化物イオンを生成し、電解質層20を通過した酸化物イオンの電子を酸素極30において放出させることによって、酸素極30では酸素ガスを生成することができる(水蒸気電解反応/水蒸気電解動作)。この時、与える水蒸気温度は、セルの作動温度付近が好ましく、例えば500~1000℃であり、好ましくは750~850℃である。この温度は、具体的には例えば、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。水蒸気温度が低すぎると電解に必要な電力量が大きくなり、水蒸気温度が高すぎると水素極10の劣化が助長される。
【0051】
一方、上述した電解セル1は、反応方向(電流の向き)を変更することにより、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)としても機能する。SOFCとして機能させる場合には、水素極10と酸素極30の間に負荷を接続する。SOFCとして動作する場合は、酸素極30において酸素を還元して酸化物イオンとし、電解質層20を通過した酸化物イオンを、水素極10において燃料である水素と反応させることによって発電を行う(燃料電池反応/燃料電池動作)。
【0052】
3.電解セル1の交互運転
本発明の一実施形態の電解セル1の運転方法は、水蒸気電解動作と燃料電池動作とを交互に繰り返す交互運転工程を備える。
【0053】
水素極10は製造直後の状態では不安定であり、水蒸気電解動作の連続運転を行うとNi含有粒子13bの重量が減少して、水素極10が劣化する。これに対して、製造直後の水素極10に対して交互運転を行うと、交互運転中に水素極10の劣化が抑制されることに加えて、交互運転によって水素極10が安定化されるために、交互運転の後に、水蒸気電解動作の連続運転を行った場合でも、水素極10の劣化が抑制される。
【0054】
交互運転中の1サイクルでの水蒸気電解動作の時間及び燃料電池動作の時間をそれぞれT1,T2とし、[T1/(T1+T2)]を電解動作時間比率Pとすると、比率Pは、例えば0.1~0.95であり、0.3~0.9が好ましい。この比率が小さすぎると、水蒸気電解による水素発生量が少なくなりすぎる場合がある。この比率が大きすぎると水素極10の劣化抑制が不十分な場合がある。この比率は、具体的には例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、0.95であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0055】
交互運転の1サイクルでの水蒸気電解動作時間は、例えば0.5~100時間であり、1~50時間が好ましく、2~25時間がさらに好ましく、3~20時間が好ましい。この時間が短すぎると、水蒸気電解による水素発生量が少なくなりすぎる場合がある。この時間が長すぎると、水素極10の劣化が進みやすくなる場合がある。この時間は、具体的には例えば、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、50、100時間であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0056】
交互運転の1サイクルの時間は、例えば、1~200時間であり、2~100時間が好ましく、3~30時間がさらに好ましい。サイクル時間が短すぎると、運転を切り替える際のロスが大きくなりすぎる場合がある。サイクル時間が長すぎると、水蒸気電解動作が連続して行われる時間が長くなって水素極10の劣化が進みやすくなる場合がある。この時間は、具体的には例えば、1、2、5、10、15、20、25、30、50、100、200時間であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0057】
電解セル1の動作開始時点から始まる期間をエージング期間とし、エージング期間の終了時点から始まる期間を運用期間とすると、エージング期間での電解動作時間比率P1は、運用期間での電解動作時間比率P2よりも小さいことが好ましい。エージング期間には、電解セル1の交互運転による水素極10が安定化を促進するために比率Pが小さくなるように運転条件を設定し、運用期間には、水蒸気電解による水素発生量を多くするために、比率Pが大きくなるように運転条件を設定する。
【0058】
比率P1の好ましい範囲は、比率Pについて上述した通りである。比率P2の好ましい範囲は、例えば0.2~1であり、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0である。比率P2が1である場合、水蒸気電解動作の連続運転となる。エージング期間の交互運転によって水素極10が安定化されているので、その後の運用期間で比率P2を大きくしたり、水蒸気電解動作の連続運転としたりした場合でも、水素極10の劣化が抑制される。比率P1と比率P2の差は、例えば0.1~0.9であり、具体的には例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0059】
エージング期間の長さは、50時間以上であり、100時間以上が好ましく、200時間以上がさらに好ましい。エージング期間が短すぎると水素極10の安定化が不十分となる場合があり、エージング期間が長すぎると水蒸気電解による水素発生量が少なくなりすぎる場合がある。この長さは、例えば50~1000時間であり、具体的には例えば、50、100、150、200、250、300、500、1000時間であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0060】
交互運転の際の電流密度は、例えば、0.1~1.0A・cm-2であり、0.2~0.8A・cm-2が好ましい。この電流密度は、具体的には例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0A・cm-2であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0061】
3.固体酸化物形電解セルシステム
本発明の一実施形態の固体酸化物形電解セルシステムは、上記の運転方法を制御する制御システムを備える。このようなシステムによれば、水素極10の劣化を抑制することができる。また、このような固体酸化物形電解セルシステムは、出力の変動が激しい太陽光、風力発電等の再生可能エネルギー発電おける電力を平準化のために利用することが可能である。
【実施例
【0062】
1.比較例1(電解セル1の連続運転)
比較例1では、電解セル1を水蒸気電解動作で連続運転させた。
【0063】
電解セル1は、水素極10の集電層12としてNi-YSZ集電層、触媒層13としてNi含有粒子13bを高分散したSDC触媒層とし、酸素極はLSCF-SDCとして構成した。水素極10と酸素極30に挟まれる電解質層20はYSZを用い、酸素極30と電解質層20との間にはSDCよりなる中間層を形成した。また、Ni含有粒子13bはNi0.9Co0.1の組成比のNi-Coを利用し担持量は7.2体積%とした。また、触媒層13の電子伝導性を高めるため、連珠化したNiあるいは連珠化したNi0.8Co0.2を10体積%添加した。なお、この実験に際してはセパレータに代えて集電メッシュを電解セル1に備える構成とした。なお、実際の運用にあたってはセパレータを用いてセルを積層する。
【0064】
また、酸素極30は、LSCFとSDCとの混合物であるLSCF-SDCを利用した。なお、水素極10の触媒層13のサマリアドープセリア(SDC)は、(CeO0.8(SmO1.50.2、酸素極30のLSCFは、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8の組成比のものを利用した。酸素極のSDCの割合は40体積%であった。
【0065】
このように構成した水素極10は高い初期性能と耐久性を両立しており、750℃でも高性能に作動した。この時、触媒層13の電子伝導性を高めるために、連珠化Niや連珠化Ni-Coの10体積%の添加が有効であった。
【0066】
このように構成した電解セル1を水蒸気電解動作で連続運転させたときの、電位E(V)又はオーム抵抗Rohm(Ωcm)と、動作時間(Operationtime(h))の関係を図4に示す。図4の(a)~(d)は、表1の条件での結果を示す。電位(E)は、E(IR-Free) vs air(V)を示す。
【表1】
【0067】
図4により明らかなように、動作温度が800℃(条件(a))の場合に比べて、750℃(条件(b)~(d))の場合には、水素極10の初期劣化速度が抑制できたが、約200時間後からオーム抵抗Rohmが急激に増加した(条件(d))。微細構造の変化を観察した結果、触媒層13のNi-Coナノ粒子はやや粒径が増大しても組成は変化せずに残存していたが、添加した連珠化Niが顕著に減少していることがわかった。そこで連珠化Ni-Coを新たに合成して触媒層13に添加すると(条件(c))、初期性能は向上したが、耐久性向上効果はほとんど無かった。他方、実用化を考えて、集電体を従来のPtメッシュ(80メッシュ)からNiメッシュ(200メッシュ)に変更すると、初期性能と耐久性が顕著に向上することがわかった(条件(b))。Ptメッシュよりも細かなNiメッシュ集電体によって、より均一に集電されてERZが広がったためと解釈できる。このように本発明の二重層水素極を用いると初期性能や耐久性の向上がはかれる。しかしながら、水蒸気電解動作で連続運転させると、水素極電位の負側へのシフトとオーム抵抗の上昇が起こっていた。
【0068】
2.実施例1(電解セル1のSOEC/SOFC交互運転)
上述したようにSOECを逆作動させると、貯蔵した水素を燃料として高効率発電が可能なSOFCとして作動できる。実施例1では、「1.電解セル1の連続運転」の条件(b)と同様の電解セル1を用いて、SOEC/SOFC交互運転(以下、[交互運転])を行った。
【0069】
交互運転では、図7に示すように、電流密度の絶対値は0.5A・cm-2に、保持時間は各11時間で電流密度の変化速度を1A・cm-2-1として1サイクル24時間で運転した。動作温度は、水素極の劣化を促進するためにあえて800℃とした。
【0070】
交互運転の結果を図5に示す。図5上段は、電解セル1の交互運転時の酸素極及び水素極の電位Eと運転時間(Operation time)との関係を示す。図5下段は、オーム抵抗Rohmと運転時間(Operation time)との関係を示す。
【0071】
図5上段の(a1)は酸素極30のSOEC運転時、(a2)は酸素極30のSOFC運転時の結果を示す。また、図5上段の(b1)は水素極10のSOFC運転時、(b2)は水素極10のSOEC運転時の結果を示す。
【0072】
図5下段の(c)及び(d)は、それぞれ、酸素極30側のオーム抵抗、及び水素極10側のオーム抵抗を示す。(c)及び(d)は、SOEC/SOFC両モードを混在して示すが両者に差はほぼ無い。
【0073】
図5上段から明らかなように、このように、SOEC、SOFC両方のモードで、酸素極30、水素極10ともに電位Eは安定していた。SOECでの水素極電位E(図5上段の(b2))は正側にシフトして性能がむしろ向上する傾向が見られた。オーム抵抗Rohm図5の(c)及び(d))は、水素極10のオーム抵抗Rohm図5の(d))は初期にやや増加したことを除き、1200時間まで極めて安定していた。
【0074】
交互運転時のSOECモードでの電位EとRohmの経時変化を、SOEC連続運転での変化と比較した。図6にその結果を示す。なお、図6において運転時間は、SOECとして-0.5A・cm-2で作動した実時間のみで示してある。ここで(a1)は、連続運転させた場合の酸素極30の電位E、(a2)は、交互運転させた場合の酸素極30の電位E、(b1)は、連続運転させた場合の水素極10の電位E、(b2)は、交互運転させた場合の水素極10の電位Eを示す。また、(c1)は、連続運転させた場合の酸素極のオーム抵抗Rohm、(c2)は、交互運転させた場合の酸素極のオーム抵抗Rohm、(d1)は、連続運転させた場合の水素極のオーム抵抗Rohm、(d2)は、交互運転させた場合の水素極のオーム抵抗Rohmを示す。
【0075】
図6の(a1)~(d2)の結果から、連続運転に比べて、交互運転により水素極10の劣化が顕著に抑制されることがわかった。他方、酸素極30の電位Eとオーム抵抗Rohmは、交互運転と連続運転でほとんど差異が無く、ほとんど劣化は見られなかった。
【0076】
交互運転によりLa1-xSrMnO(LSM:本実施例のLSCF-SDCよりも可逆性が低い)酸素極の劣化が抑制される報告例はあった(非特許文献3)が、水素極の劣化抑制は本発明で初めて見出した。
【0077】
以上の通り、交互運転によって、水素極10の劣化が抑制可能であることが分かった。また、効率を高めるために、水素極10は、触媒層13と集電層12の二重層構造を有することが好ましいが、集電層12を有さない水素極10を用いて電解セル1を構成した場合でも、交互運転によって水素極10の劣化抑制が可能である。
【0078】
3.実施例2~3(交互運転の条件変更)
交互運転の条件を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様に交互運転を行い、水素極のオーム抵抗Rohmの経時変化を測定した。その結果を図8に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
図8に示すように、実施例1~3の何れにおいても、比較例1の連続運転の場合に比べて、水素極10の劣化が抑制されていた。また、T1/(T1+T2)の値が小さいほど、水素極10の劣化抑制が顕著であることが分かった。
【0081】
3.実施例4(交互運転後に連続運転)
実施例4では、実施例1と同様の条件で交互運転を開始してから360時間を経過した後に水蒸気電解動作の連続運転を行った。その結果を図9に示す。
【0082】
図9に示すように、交互運転を行った後に水蒸気電解動作の連続運転を行った場合にも、水素極10の劣化が抑制されることが分かった。この結果は、交互運転によって水素極10が安定化されるためにその後に水蒸気電解動作の連続運転を行っても劣化が進行しにくくなることを示している。
【0083】
また、水素極10の安定化の要因が調べるために、図10に示すように、運転開始前の触媒層と実施例1の交互運転後の触媒層のFIB-SIM像を比較した。図10A図10Bに示すように、交互運転によって、Ni含有粒子13bの粒子径が大きくなると共に、図10Cに示すように、多孔体13aを構成する酸化物がNi含有粒子13bの側面に這い上がって這い上がり部(白丸部分)が形成されていることが分かる。
【0084】
4.埋没高さ割合の測定
運転開始前の触媒層と、実施例1~3の交互運転後の触媒層に含まれる200個以上のNi含有粒子13bについて、埋没高さ割合を測定した。その結果を図11及び表3に示す。
【0085】
【表3】
【0086】
表3に示すように、実施例1~3の交互運転後の触媒層では、平均埋没高さ割合が0.1以上となり、埋没高さ割合が0.2以上の個数割合が50%以上であった。この結果は、交互運転による水素極10の構造変化が、水素極10の安定化に寄与していることを強く示唆している。
【符号の説明】
【0087】
1:固体酸化物形電解セル、10:水素極、11:水素極セパレータ、12:集電層、12a:基材粒子、12b:Ni含有粒子、13:触媒層、13a:多孔体、13b:Ni含有粒子、13c:有効反応領域、13d:這い上がり部、20:電解質層、30:酸素極、31:酸素極セパレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11