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特許7503342HIFU照射装置およびその状態を評価する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】HIFU照射装置およびその状態を評価する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20240613BHJP
   A61N 7/02 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
A61B8/00
A61N7/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023113658
(22)【出願日】2023-07-11
【審査請求日】2024-02-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】720007925
【氏名又は名称】ソニア・セラピューティクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根本 和人
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-055984(JP,A)
【文献】特開2014-030509(JP,A)
【文献】国際公開第2023/106740(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03366350(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
A61B 17/00-17/94
A61N 7/00-7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療用超音波を送信する治療用超音波振動子と、
複数の振動子を備える超音波プローブと、
前記治療用超音波振動子および前記超音波プローブを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記治療用超音波よりも強度が小さい評価用超音波を、前記治療用超音波振動子に送信させる超音波送信処理と、
各前記振動子で受信された超音波に基づく受信信号を、各前記振動子から取得する超音波受信処理と、
各前記振動子から取得された前記受信信号に基づいて、複数の前記振動子に到来する超音波の強度分布を測定する分布測定処理と、実行し、
前記制御部は、
複数の前記振動子の配列方向についての前記強度分布に基づいて、各前記振動子で受信される超音波の集中度合いを求める処理を実行することを特徴とするHIFU照射装置。
【請求項2】
請求項1に記載のHIFU照射装置であって、
前記強度分布は、複数の前記振動子の配列方向に延びる横軸に対し、縦軸の値について1つのピークを有する分布関数によって表され、
前記制御部は、
前記分布関数を規定する近似パラメータによって、前記治療用超音波が各前記振動子に与える影響を評価する評価処理を実行することを特徴とするHIFU照射装置。
【請求項3】
治療用超音波を送信する治療用超音波振動子と、
複数の振動子を備える超音波プローブと、
前記治療用超音波振動子および前記超音波プローブを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記治療用超音波よりも強度が小さい評価用超音波を、前記治療用超音波振動子に送信させる超音波送信処理と、
各前記振動子で受信された超音波に基づく受信信号を、各前記振動子から取得する超音波受信処理と、
各前記振動子から取得された前記受信信号に基づいて、複数の前記振動子に到来する超音波の強度分布を測定する分布測定処理と、を実行し、
記強度分布は、複数の前記振動子の配列方向に延びる横軸に対し、縦軸の値について1つのピークを有する分布関数によって表され、
前記制御部は、
前記分布関数を規定する近似パラメータによって、前記治療用超音波が各前記振動子に与える影響を評価する評価処理を実行することを特徴とするHIFU照射装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のHIFU照射装置であって、
前記分布関数は、ガウス関数またはローレンツ関数を含むことを特徴とするHIFU照射装置。
【請求項5】
治療用超音波を送信する治療用超音波振動子と、
複数の振動子を備える超音波プローブと、を備えるHIFU照射装置の状態を評価する方法であって、
前記治療用超音波よりも強度が小さい評価用超音波を、前記治療用超音波振動子に送信させるステップと、
各前記振動子で受信された超音波に基づく受信信号を、各前記振動子から取得するステップと、
各前記振動子から取得された前記受信信号に基づいて、複数の前記振動子に到来する超音波の強度分布を測定するステップと、
複数の前記振動子の配列方向についての前記強度分布に基づいて、各前記振動子で受信される超音波の集中度合いを求めるステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、
前記強度分布は、複数の前記振動子の配列方向に延びる横軸に対し、縦軸の値について1つのピークを有する分布関数によって表され、
前記方法は、
前記分布関数を規定する近似パラメータによって、前記治療用超音波が各前記振動子に与える影響を評価するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
治療用超音波を送信する治療用超音波振動子と、
複数の振動子を備える超音波プローブと、を備えるHIFU照射装置の状態を評価する方法であって、
前記治療用超音波よりも強度が小さい評価用超音波を、前記治療用超音波振動子に送信させるステップと、
各前記振動子で受信された超音波に基づく受信信号を、各前記振動子から取得するステップと、
各前記振動子から取得された前記受信信号に基づいて、複数の前記振動子に到来する超音波の強度分布を測定するステップと、を含み、
前記強度分布は、複数の前記振動子の配列方向に延びる横軸に対し、縦軸の値について1つのピークを有する分布関数によって表され、
前記方法は、
前記分布関数を規定する近似パラメータによって、前記治療用超音波が各前記振動子に与える影響を評価するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項6および請求項7に記載の方法であって、
前記分布関数は、ガウス関数またはローレンツ関数を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波イメージングプローブを備えるHIFU照射装置に関し、特に、HIFU照射装置の状態の評価に関する。
【背景技術】
【0002】
強力集束超音波(High Intensity Focused Ultrasound)を用いた治療装置が広く用いられている。この治療装置は、HIFU照射装置あるいはHIFU照射システムと称され、治療部位に集束超音波を照射して生体組織を壊死させる。
【0003】
一般に、HIFU照射装置は、凹面上に配置された治療用の複数の超音波振動子を備えている。複数の超音波振動子は、それぞれから発せられた超音波が一点に照射され焦点を形成するように配置されている。治療の際には、焦点の位置が治療部位に合わせられ超音波が照射される。照射位置の確認には、超音波画像上に焦点を表す超音波診断装置が用いられる。
【0004】
以下の特許文献1には、Bモード画像(断層画像)を表示する超音波診断装置を用いて焦点の位置を観測する超音波治療装置が記載されている。この装置では、組織に影響のない弱いレベルの超音波が治療用の超音波振動子から発せられると共に、超音波イメージングプローブによる超音波の送受信によって断層画像が表示される。患者の組織の音響特性は組織の温度変化に応じて変化するため、断層画像には焦点の位置が輝度の強弱によって示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-71069号公報
【文献】特開2014-30509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
HIFU照射装置では、患者の体内または体表面で治療用の超音波が反射し、超音波イメージングプローブの近傍に反射波が集中し、超音波イメージングプローブに熱的なストレスが与えられることがある。そこで、特許文献2に記載されているように、治療用プローブと撮像用プローブ(超音波イメージングプローブ)を備える超音波診断装置について、治療用プローブから照射される治療超音波の反射波により、診断用プローブの超音波受信面が受ける影響を算出する技術が記載されている。
【0007】
特許文献2に記載されているような従来の技術では、超音波イメージングプローブが治療用の超音波から受ける影響を評価する場合に、治療用の超音波振動子から、治療時と同程度の強度を有する超音波が送信される。この技術では、評価時にも超音波イメージングプローブに超音波による熱的なストレスが与えられ、超音波イメージングプローブの寿命が短くなってしまうことが考えられる。
【0008】
本発明の目的は、治療用の超音波振動子が送信した超音波から超音波イメージングプローブが受ける影響を評価することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、治療用超音波を送信する治療用超音波振動子と、複数の振動子を備える超音波プローブと、前記治療用超音波振動子および前記超音波プローブを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記治療用超音波よりも強度が小さい評価用超音波を、前記治療用超音波振動子に送信させる超音波送信処理と、各前記振動子で受信された超音波に基づく受信信号を、各前記振動子から取得する超音波受信処理と、各前記振動子から取得された前記受信信号に基づいて、複数の前記振動子に到来する超音波の強度分布を測定する分布測定処理と、実行し、前記制御部は、複数の前記振動子の配列方向についての前記強度分布に基づいて、各前記振動子で受信される超音波の集中度合いを求める処理を実行することを特徴とする。
【0010】
望ましくは、前記強度分布は、複数の前記振動子の配列方向に延びる横軸に対し、縦軸の値について1つのピークを有する分布関数によって表され、前記制御部は、前記分布関数を規定する近似パラメータによって、前記治療用超音波が各前記振動子に与える影響を評価する評価処理を実行する
【0011】
本発明は、治療用超音波を送信する治療用超音波振動子と、複数の振動子を備える超音波プローブと、前記治療用超音波振動子および前記超音波プローブを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記治療用超音波よりも強度が小さい評価用超音波を、前記治療用超音波振動子に送信させる超音波送信処理と、各前記振動子で受信された超音波に基づく受信信号を、各前記振動子から取得する超音波受信処理と、各前記振動子から取得された前記受信信号に基づいて、複数の前記振動子に到来する超音波の強度分布を測定する分布測定処理と、を実行し、前記強度分布は、複数の前記振動子の配列方向に延びる横軸に対し、縦軸の値について1つのピークを有する分布関数によって表され、前記制御部は、前記分布関数を規定する近似パラメータによって、前記治療用超音波が各前記振動子に与える影響を評価する評価処理を実行することを特徴とする
【0012】
望ましくは、前記分布関数は、ガウス関数またはローレンツ関数を含む。
【0013】
また、本発明は、治療用超音波を送信する治療用超音波振動子と、複数の振動子を備える超音波プローブと、を備えるHIFU照射装置の状態を評価する方法であって、前記治療用超音波よりも強度が小さい評価用超音波を、前記治療用超音波振動子に送信させるステップと、各前記振動子で受信された超音波に基づく受信信号を、各前記振動子から取得するステップと、各前記振動子から取得された前記受信信号に基づいて、複数の前記振動子に到来する超音波の強度分布を測定するステップと、複数の前記振動子の配列方向についての前記強度分布に基づいて、各前記振動子で受信される超音波の集中度合いを求めるステップと、を含むことを特徴とする。
【0014】
望ましくは、前記強度分布は、複数の前記振動子の配列方向に延びる横軸に対し、縦軸の値について1つのピークを有する分布関数によって表され、前記方法は、前記分布関数を規定する近似パラメータによって、前記治療用超音波が各前記振動子に与える影響を評価するステップを含む。また、本発明は、治療用超音波を送信する治療用超音波振動子と、複数の振動子を備える超音波プローブと、を備えるHIFU照射装置の状態を評価する方法であって、前記治療用超音波よりも強度が小さい評価用超音波を、前記治療用超音波振動子に送信させるステップと、各前記振動子で受信された超音波に基づく受信信号を、各前記振動子から取得するステップと、各前記振動子から取得された前記受信信号に基づいて、複数の前記振動子に到来する超音波の強度分布を測定するステップと、を含み、前記強度分布は、複数の前記振動子の配列方向に延びる横軸に対し、縦軸の値について1つのピークを有する分布関数によって表され、前記方法は、前記分布関数を規定する近似パラメータによって、前記治療用超音波が各前記振動子に与える影響を評価するステップを含むことを特徴とする。望ましくは、前記分布関数は、ガウス関数またはローレンツ関数を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、治療用の超音波振動子が送信した超音波から超音波イメージングプローブが受ける影響を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】HIFU照射装置の構成を示す図である。
図2】超音波イメージングプローブが備えるn個の振動子を模式的に示す図である。
図3】超音波イメージングプローブの近傍で生じる現象の例を説明する図である。
図4】複数の振動子について測定された複数個の測定値に、分布関数I(x)をフィッティングさせた例を示す図である。
図5】複数の振動子について測定された複数個の測定値に、分布関数I(x)をフィッティングさせた例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1には、本発明の実施形態に係るHIFU照射装置100の構成が示されている。HIFU照射装置100は、HIFU振動子ユニット10、超音波イメージングプローブ16、カップリング袋18、超音波送受信部20、制御部22、HIFU駆動部24および表示装置26を備えている。以下の説明では、簡略化のため「超音波イメージングプローブ16」を、単に「超音波プローブ16」と表現する。
【0018】
HIFU振動子ユニット10は、開口が下方に向けられた容器形状の筐体12と、筐体12に固定された複数の治療用超音波振動子14を備えている。複数の治療用超音波振動子14は、例えば上に凸の仮想的な湾曲面状に配置され、各治療用超音波振動子14が超音波を発したときに、筐体12の下方の治療基準点Qで、超音波の強度が強められるように筐体12に固定されている。すなわち、各治療用超音波振動子14は、治療基準点Qに焦点Fを形成するように筐体12に固定されている。
【0019】
超音波プローブ16は、筐体12の下方、かつ、治療基準点Qの上方の位置で超音波が送受信されるように、筐体12に取り付けられている。本実施形態では、筐体12の頂点部を超音波プローブ16が上下方向に貫通し、超音波を送受信する先端部が下方に向けられている。超音波プローブ16の先端部には、複数のイメージング超音波振動子28が配置されている。超音波プローブ16は、上下方向に移動自在であってもよい。また、超音波プローブ16は、長手方向の軸を中心に回転自在であってもよい。なお、以下の説明では、「イメージング超音波振動子28」を、簡略化のため、単に「振動子28」と表現する。
【0020】
HIFU振動子ユニット10の下方には、各治療用超音波振動子14と患者との間、および超音波プローブ16と患者との間の音響インピーダンスを整合させるカップリング袋18が設けられている。カップリング袋18は、水等の液体が充填された袋であってよい。
【0021】
制御部22は、パーソナルコンピュータ、タブレットコンピュータ等の演算装置によって構成されてよい。1つまたは複数の演算装置が制御部22を構成してもよい。複数の制御部22には、ユーザがHIFU照射装置100を操作するための操作機器(図示せず)が接続されている。操作機器は、マウス、表示装置26と一体化されたタッチパネル、スイッチ、キーボード等を含んでよい。
【0022】
HIFU駆動部24は、各治療用超音波振動子14を駆動して超音波を発生させる電気回路を含んでよい。HIFU駆動部24は、制御部22の制御に応じて、各治療用超音波振動子14に超音波を発生させる。また、HIFU駆動部24は、制御部22の制御に応じて、各治療用超音波振動子14が発生する超音波の強度を調整する。
【0023】
超音波送受信部20は、超音波プローブ16が備える複数の振動子28に電気信号を出力し、振動子28から出力された電気信号を取得する電気回路を含む。超音波送受信部20は、制御部22の制御に応じて、次のような処理を実行する。すなわち、超音波送受信部20は、超音波プローブ16にイメージング超音波を送信させ、送信されるイメージング超音波によるビーム(超音波ビーム)を走査させる。超音波ビームは、筐体12の最上部から上下に延びる中心軸Aを含む観測面で走査される。超音波送受信部20は、超音波ビームが向けられた方向から到来する反射超音波を超音波プローブ16に受信させ、超音波ビームが向けられた各方向から受信された反射超音波に基づく受信信号を取得し、制御部22に出力する。
【0024】
制御部22は、観測面で得られた受信信号に基づいて超音波データを生成する。超音波データは、患者の生体組織で高調波成分が発生した領域(キャビテーション領域)を示す照射領域データ、または、患者の生体組織に対して取得されたBモード画像(断層画像)を示すBモード画像データであってよい。
【0025】
治療用の超音波がHIFU振動子ユニット10から患者に照射される前には、例えば、以下のような位置決め処理が実行される。HIFU駆動部24は、各治療用超音波振動子14に、治療時よりも強度が小さい超音波を送信させる。超音波送受信部20は、制御部22の制御によって、観測面で超音波プローブ16に超音波ビームを走査させ、超音波データとしてBモード画像データを取得し、制御部22に出力する。制御部22は、Bモード画像を表示装置26に表示させる。施術者としてのユーザは、表示装置26に表示されたBモード画像を参照して、HIFU振動子ユニット10から送信される超音波の焦点Fと患部の位置との相違を確認する。
【0026】
ユーザは、焦点Fの位置と患部の位置との相違が許容範囲内でないときは、超音波プローブ16およびHIFU振動子ユニット10の位置または姿勢を変更する。ユーザは、焦点Fの位置と患部の位置とが一致していることを確認した後に、制御部22に対して治療のための操作を行う。制御部22は、ユーザによる操作に応じてHIFU駆動部24を制御する。HIFU駆動部24は、制御部22による制御に応じて、治療に必要な強度を有する治療用超音波を各治療用超音波振動子14に送信させる。これによって、焦点Fにおいて生体組織が焼灼され、治療が施される。
【0027】
HIFU照射装置100は、治療用超音波を患者に照射しながら、治療用超音波が照射された照射領域を示す画像を、Bモード画像に重ねて表示装置26に表示する処理を実行する。ここで、2つの画像を重ねて表示する処理は、一方の画像を透かして他方の画像が見通せるように画像データを合成して新たな画像データを生成し、その新たな画像データに基づく画像を表示する処理であってよい。
【0028】
図2には、超音波プローブ16が備えるn個の振動子28-1~28-nが模式的に示されている。振動子28-1~28-nは、超音波プローブ16の送受信面38において、振動子28-1、28-2、28-3・・・・・・28-nの順に、長軸方向(x軸方向)に直線状に配列されている。振動子28-1、28-2、28-3・・・・・・28-nのx軸上の位置は、それぞれ、x=x1、x2、x3、・・・・、xnである。各振動子28-1~28-nは、送受信面38から超音波を送信し、送受信面38に到来した超音波を受信する。
【0029】
図3は、超音波プローブ16の近傍で生じる現象の例を、Bモード画像50上で概念的に説明する図である。超音波プローブ16と治療用超音波の焦点F(治療基準点Q)との間には、超音波を反射する反射組織44がある。図3に示されている例では、反射組織44は横方向に広がる反射面を形成している。治療用の超音波は、焦点Fで交わる2本の仮想的な直線40に挟まれる領域を主に伝搬する。反射組織44で反射した超音波(反射波)は上方に伝搬し、超音波プローブ16の送受信面38付近の反射波焦点RFに向かう。反射波は、2本の仮想的な直線42に挟まれる領域を主に伝搬する。左側の直線42は、反射組織44の反射面と左側の直線40との交点から、直線40と反射面とがなす角度と同一の角度で右上に延びている。右側の直線42は、反射組織44の反射面と右側の直線40との交点から、直線40と反射面とがなす角度と同一の角度で左上に延びている。左右の直線42は、反射面から延びた先における反射波焦点RFで交わる。
【0030】
このように、超音波プローブ16と治療用超音波の焦点Fとの間に反射組織44がある場合には、治療用の超音波が反射組織44で上方に反射して反射波焦点RFに向かい、反射波焦点RFに反射波のエネルギーが集中することがある。超音波プローブ16が備える複数の振動子28のうち、反射波焦点RFの近傍にあるものは、反射波によって熱的なストレスを受け、寿命が短くなったり、本来の性能を発揮できなくなったりすることがある。
【0031】
そこで、本実施形態に係るHIFU照射装置100では、位置決め処理が終了し、治療用の超音波がHIFU振動子ユニット10から患者に照射される前に、以下に説明する評価処理が実行されてよい。評価処理では、超音波プローブ16が備える複数の振動子28のうち、反射波のエネルギーが集中するものが特定される。
【0032】
位置決め処理と同様、評価処理においても、HIFU駆動部24は、各治療用超音波振動子14に、治療時よりも強度が小さい超音波である評価用超音波を送信させる。評価用超音波は焦点Fに収束する一方、評価用超音波の一部は患者の体内で反射し、各振動子28の方向へ向かう。
【0033】
図1および図2に戻って説明する。振動子28-1~28-nのそれぞれは、患者の体内で反射した超音波を受信し、受信した超音波に応じた電気信号RS1~RSnを発生し、超音波送受信部20に出力する。超音波送受信部20は、電気信号RS1~RSnの大きさを測定し、測定値U1~Unを制御部22に出力する。
【0034】
制御部22は、横軸における位置x=x1~xnに対応する値が、それぞれ測定値U1~Unである、散布図におけるn個の測定点に、分布関数をフィッティングさせる。分布関数は、例えば、ガウス関数にオフセットBを加算した関数であってよい。具体的には、制御部22は、レーベンバーグマーカート法(Levenberg Marquardt)等の非線形最小二乗回帰法により、散布図におけるn個の測定点に関数の曲線が近付くように、近似パラメータとしてガウス関数の係数P、中心値μ、標準偏差σおよびオフセットBを求める。
【0035】
超音波プローブ16の送受信面38に到来する超音波(到来超音波)の強度分布を示す分布関数は、(数1)のように表される。
【数1】

【0036】
制御部22は、(数2)~(数5)に従って、到来超音波の集中度合いCを求める。集中度合いCは、(数3)、(数5)および(数6)によってそれぞれ求められるfa、fbおよびfeの積である。
【0037】
【数2】
【0038】
【数3】
【0039】
【数4】
【0040】
【数5】
【0041】
【数6】
【0042】
(数4)は、散布図上のn個の測定点のx座標をそれぞれ(数1)に代入して得られるn個の値の平均値mを示す。(数3)は、ガウス関数の係数Pが平均値mより大きい程、集中度合い要素faが1に近付き、到来超音波が特定の位置に集中することを意味する。(数5)は、オフセットBが平均値mより小さい程、集中度合い要素fbが1に近付き、到来超音波が特定の位置に集中することを意味する。(数6)は、標準偏差σが小さい程、集中度合い要素feが1に近付き、到来超音波が特定の位置に集中することを意味する。ここで、特定の位置とは、x=μとなる位置の近傍をいう。
【0043】
集中度合いCは、ガウス関数の係数Pが平均値mより大きい程、オフセットBが平均値mより小さい程、そして、標準偏差σが小さい程、1に近付き、到来超音波が特定の位置に集中することを意味する。
【0044】
集中度合いCは、集中度合い要素fa、fbおよびfeのうち、いずれか1つのみで定義されてもよい。また、集中度合いCは、集中度合い要素fa、fbおよびfeのうち、いずれか2つの積によって定義されてもよい。
【0045】
制御部22は、集中度合いCが判定値Dを超えるときは、警告情報を表示装置26に表示させる。警告情報は、超音波プローブ16が備える特定の振動子28に、到来超音波として反射波が集中する可能性があることを示す。警告情報を参照したユーザは、患者とHIFU振動子ユニット10との位置関係を調整する等して、特定の位置に反射波が集中することを回避してよい。
【0046】
制御部22は、散布図におけるn個の測定点、強度分布、近似パラメータ、集中度合いCのうち少なくともいずれかを表示装置26に表示させてもよい。
【0047】
図4および図5には、超音波プローブ16が備える複数個の振動子28について得られた複数個の測定点に、(数1)で表される分布関数I(x)をフィッティングさせた例が示されている。図4および図5のそれぞれにおける強度分布60は、複数個の振動子28のx座標値に測定値が対応付けられた複数個の測定点を曲線で結んだものである。強度分布62は、分布関数I(x)を強度分布60にフィッティングさせたものである。
【0048】
図4に示された例では、フィッティングによって、係数P=784.526、中心値μ=62.090、標準偏差σ=9.521、オフセットB=87.189として近似パラメータが求められた。また、平均値m=232.322が算出される。これらより集中度合い要素は、fa=0.996、fb=0,926、fe=0.905となり、集中度合いC=0.834と算出される。図4に示された例では、51~70の番号が付された振動子28に到来超音波が集中している。そのため、適切な判定値Dが設定さることで、図4に示された例については警告情報が表示装置26に表示されてよい。
【0049】
また、図5に示された例では、フィッティングによって、係数P=1227.765、中心値μ=139.820、標準偏差σ=8.555、オフセットB=47.3として近似パラメータが求められた。また、平均値m=66.306が算出される。これらより集中度合い要素はfa=1.000、fb=0.490、fe=0.015となり、集中度合いC=0.007と算出される。図5に示された例では、プローブの両端の超音波強度が高い。これは、振動子28がカップリング袋18を介して患者の体表部に接触していて、体表とわずかに隙間のある両端の振動子28のみに超音波が伝わっているためである。一般的には、この状態は到来超音波が集中していない状態であると判断される。そのため、適切な判定値Dが設定されることで、図5に示された例については警告情報が表示装置26に表示されなくてもよい。
【0050】
例えば、図4に示された例における集中度合いCと、図5に示された例における集中度合いCとの間の値に判定値Dを設定することで、超音波イメージングプローブへの熱的なストレスを防止できる警告情報が表示装置26に表示される。
【0051】
このように、本実施形態に係るHIFU照射装置100が備える制御部22は、超音波送信処理、超音波受信処理、および分布測定処理を実行する。超音波送信処理は、治療用超音波よりも強度が小さい評価用超音波を、治療用超音波振動子14に送信させる処理である。超音波受信処理は、各振動子28で受信された超音波に基づく受信信号を、各振動子28から取得する処理である。分布測定処理は、各振動子28から取得された受信信号に基づいて、複数の振動子28に到来する超音波の強度分布を測定する処理である。
【0052】
制御部22は、複数の振動子28の配列方向についての強度分布に基づいて、各振動子28で受信される超音波の集中度合いCを求め、集中度合いCに基づいて、治療用超音波が各振動子28に与える影響を評価する処理を実行する。
【0053】
複数の振動子28は、直線状に配列されてよい。強度分布は、複数の振動子28の配列方向に延びる横軸に対し、縦軸の値について1つのピークを有する分布関数によって表されてよい。また、制御部22は、分布関数を規定する近似パラメータによって、治療用超音波が各振動子28に与える影響を評価する評価処理を実行してもよい。評価処理は、強度分布に基づいて、治療用超音波が各振動子28に与える影響を評価する処理である。治療用超音波が各振動子28に与える影響には、治療用超音波が特定の振動子28に集中し、その特定の振動子28の動作特性が変化する等の影響がある。
【0054】
制御部22は、次の(i)~(vi)のステップを含む方法によって、HIFU照射装置100の状態を評価する。各ステップは、HIFU照射装置100の外部に設けられ、制御部22に接続されたコンピュータ等の演算装置が、ユーザの操作に従って実行してもよい。
【0055】
(i)治療用超音波よりも強度が小さい評価用超音波を、治療用超音波振動子14に送信させるステップ
(ii)各振動子28で受信された超音波に基づく受信信号を、各振動子28から取得するステップ
(iii)各振動子28から取得された受信信号に基づいて、複数の振動子28に到来する超音波の強度分布を測定するステップ
(iv)複数の振動子28の配列方向についての強度分布に基づいて、各振動子28で受信される超音波の集中度合いを求めるステップ
【0056】
なお、分布関数I(x)には、ガウス関数に代えて、(数7)に示されるような、ローレンツ関数にオフセットBを加算したものが用いられてよい。(数7)に示されるローレンツ関数は、x=μの位置を中心として、x座標値が中心値μから離れるに従って、2次関数の逆数に従ってオフセットBに漸近していく分布を示す。(数7)における尖度kは、値が小さい程分布が上に凸になる度合いを示す正の数である。尖度kは、正規分布を元に計算された値であってよい。
【0057】
【数7】
【0058】
分布関数として(数7)によって表されるローレンツ関数が用いられた場合、集中度合いCは、集中度合い要素faおよびfbのうち一方、または、集中度合い要素faおよびfbの積であってよい。
【符号の説明】
【0059】
10 HIFU振動子ユニット、12 筐体、14 治療用超音波振動子、16 超音波イメージングプローブ(超音波プローブ)、18 カップリング袋、20 超音波送受信部、22 制御部、24 HIFU駆動部、26 表示装置、28,28-1~28-n イメージング超音波振動子(振動子)、38 送受信面、40,42 直線、44 反射組織、50 Bモード画像、60,62 強度分布。
【要約】
【課題】本発明の目的は、治療用の超音波振動子が送信した超音波から超音波イメージングプローブが受ける影響を評価することである。
【解決手段】制御部22は、超音波送信処理、超音波受信処理、および分布測定処理を実行する。超音波送信処理は、治療用超音波よりも強度が小さい評価用超音波を、治療用超音波振動子14に送信させる処理である。超音波受信処理は、各振動子28で受信された超音波に基づく受信信号を、各振動子28から取得する処理である。分布測定処理は、各振動子28から取得された受信信号に基づいて、複数の振動子28に到来する超音波の強度分布を測定する処理である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5