IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シャープ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-インバータ装置 図1
  • 特許-インバータ装置 図2
  • 特許-インバータ装置 図3
  • 特許-インバータ装置 図4
  • 特許-インバータ装置 図5
  • 特許-インバータ装置 図6
  • 特許-インバータ装置 図7
  • 特許-インバータ装置 図8
  • 特許-インバータ装置 図9
  • 特許-インバータ装置 図10
  • 特許-インバータ装置 図11
  • 特許-インバータ装置 図12
  • 特許-インバータ装置 図13
  • 特許-インバータ装置 図14
  • 特許-インバータ装置 図15
  • 特許-インバータ装置 図16
  • 特許-インバータ装置 図17
  • 特許-インバータ装置 図18
  • 特許-インバータ装置 図19
  • 特許-インバータ装置 図20
  • 特許-インバータ装置 図21
  • 特許-インバータ装置 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】インバータ装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240613BHJP
【FI】
H02M7/48 R
H02M7/48 L
H02M7/48 F
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019110624
(22)【出願日】2019-06-13
(65)【公開番号】P2020202733
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】和泉 晃浩
【審査官】井上 弘亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-144531(JP,A)
【文献】特開2014-212631(JP,A)
【文献】特開2015-220835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換して交流電力系統に系統連系させる電力変換部を備えたインバータ装置であって、
前記電力変換部の出力に無効電力を注入する無効電力注入処理と、
前記無効電力の注入により生じる系統周波数の変化に基づき前記インバータ装置の単独運転を検出する第1の単独運転検出処理と、
前記無効電力注入処理後の、(A)系統電圧および前記電力変換部の出力電流に基づいて算出した、前記電力変換部から出力される無効電力または最近周期の無効電力と過去周期の無効電力の差である無効電力の偏差、または、(B)前記電力変換部の出力電流に基づいて前記インバータ装置の単独運転の可能性の有無を判定する第2の単独運転検出処理と、を実行し、
前記第2の単独運転検出処理が前記インバータ装置の単独運転の可能性有りと判定した場合、前記電力変換部の出力を停止させるための停止処理を実行する
インバータ装置。
【請求項2】
前記(A)に基づいて前記インバータ装置の単独運転の可能性の有無を判定する場合、
前記第2の単独運転検出処理は
出した前記無効電力と前記インバータ装置を系統連系状態で運転している場合に想定される無効電力との差、または算出した前記無効電力の偏差と前記インバータ装置を系統連系状態で運転している場合に想定される無効電力の変化量との差が所定の閾値を上回った場合、単独運転の可能性有りと判定する
請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記無効電力注入処理は、前記電力変換部の出力波形を定めるPWMデータのデータ列からPWMデータを読み出すアドレスを指定するカウンタの増加率を変更することにより前記出力波形に歪みを与えて前記電力変換部から出力される前記無効電力を調整し、
前記第2の単独運転検出処理は、前記想定される前記無効電力または前記無効電力の変化量を、前記電力変換部の有効出力電力および前記増加率から算出する
請求項2に記載のインバータ装置。
【請求項4】
前記(B)に基づいて前記インバータ装置の単独運転の可能性の有無を判定する場合、
前記第2の単独運転検出処理は、前記出力電流と、前記インバータ装置を系統連系状態で運転している場合に想定される前記電力変換部から出力される出力電流との差が所定の閾値を上回った場合、単独運転の可能性有りと判定する
請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項5】
前記停止処理は、前記電力変換部の出力を停止させる出力停止処理である
請求項1から4のいずれか1項に記載のインバータ装置。
【請求項6】
前記停止処理は、前記第1の単独運転検出処理の判定基準を緩める判定基準緩和処理である
請求項1から4のいずれか1項に記載のインバータ装置。
【請求項7】
前記判定基準は、最近周期の前記系統周波数と過去周期の前記系統周波数の差である系統周波数の偏差が所定の判定閾値を上回った場合に単独運転を検出するものであり、
前記判定基準緩和処理は、前記判定閾値を小さくする処理である
請求項6に記載のインバータ装置。
【請求項8】
前記判定基準は、所定の判定周期以上連続して、最近周期の前記系統周波数と過去周期の前記系統周波数の差である系統周波数の偏差が所定の判定閾値を上回った場合に単独運転を検出するものであり、
前記判定基準緩和処理は、前記判定周期の期間を短くする処理である
請求項6または7に記載のインバータ装置。
【請求項9】
前記判定閾値を小さくする量を、前記電力変換部から出力される無効電力と前記インバータ装置を系統連系状態で運転している場合に想定される無効電力との差に基づいて、または前記電力変換部から出力される最近周期の無効電力と過去周期の無効電力の差である無効電力の偏差と前記インバータ装置を系統連系状態で運転している場合に想定される無効電力の変化量との差に基づいて算出する
請求項7に記載のインバータ装置。
【請求項10】
前記停止処理は、前記第1の単独運転検出処理の判定基準を別の判定基準に切り替える判定基準切替処理である
請求項1から4のいずれか1項に記載のインバータ装置。
【請求項11】
前記判定基準切替処理は、前記系統電圧に含まれる電圧高調波が所定の判定閾値を超えた場合に前記第1の単独運転検出処理が単独運転を検出するように前記判定基準を切り替える処理である
請求項10に記載のインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交流電力系統に連系するインバータ装置には、交流電力系統の停電時において、自装置を交流電力系統から確実に解列させることを目的として、単独運転防止機能が具備されている。
【0003】
なお、上記に関連する従来技術の一例としては、本願出願人による特許文献1を挙げることができる。
【0004】
また、PV[photovoltaic]システム用PCS[power conditioning system]の新連系規程を定める非特許文献1では、能動的単独運転検出を行うための共通技術として、周波数フィードバック機能とステップ注入機能が提案されている。
【0005】
周波数フィードバック機能とは、PCSの動作周波数に生じる変動に基づいて無効電力注入を行い、動作周波数の変動を助長する機能である。PCSが単独運転状態に移行した場合に、PCS出力と需要家負荷がアンバランスであれば、PCSの動作周波数に意図しない変動が生じる。このとき、周波数フィードバック機能による無効電力注入を行えば、動作周波数の変動を助長することができるので、この変動を捉えてPCSの単独運転を検出することが可能となる。
【0006】
また、ステップ注入機能とは、PCS出力の高調波歪みが急増したときに無効電力注入をステップ的に行い、PCSの動作周波数を強制的に変動させる機能である。PCS出力と需要家負荷とがバランスしている領域においては、PCSが単独運転状態に移行しても、その動作周波数が安定し易い。そのため、単独運転検出を確実ならしめるための担保技術として、上記のステップ注入機能を具備しておくことが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6200196号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】日本電機工業会規格JEM1498(2012.8.27制定、2017.12.15改正)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の従来技術では、PCSが単独運転状態に移行しても無効電力の注入量が想定よりも小さくなる場合においては、PCSの単独運転を検出が遅くなるおそれがあった。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑み、より確実に単独運転を検出し、運転を停止させることができるインバータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書中に開示されたインバータ装置は、直流電力を交流電力に変換して交流電力系統に系統連系させる電力変換部を備え、系統周波数をモニタして単独運転を検出するインバータ装置であって、前記系統周波数の偏差に応じた無効電力を注入することで前記系統周波数の周波数変化を促し、高調波歪みの急増が検出されたときに前記無効電力をステップ注入することで強制的に前記系統周波数の偏差を生じさせ、単独運転可能性の有無を判定し、単独運転可能性有りと判定した場合、前記電力変換部の出力を停止させるための処理を実行する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るインバータ装置によれば、より確実に単独運転を検出し、運転を停止させることができるインバータ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の一形態に係るインバータ装置の構成例を示すブロック図
図2】PWMデータDp’の歪ませ方を説明する図
図3】PWMデータDp’における見かけ上の波形の第1例を示す図
図4】PWMデータDp’における見かけ上の波形の第2例を示す図
図5】PWMデータDp’における見かけ上の波形の第3例を示す図
図6】PWMデータDp’における見かけ上の波形の第4例を示す図
図7】インバータ出力周波数の変動具合の一例を示す図
図8】インバータ出力周波数の制御に用いる正帰還ループの一例を示す図
図9】標準形能動的単独運転方式の全体ブロック図
図10】系統周波数(周期)計測のアルゴリズムを示す図
図11】周波数偏差演算のイメージ図
図12】移動平均値の更新イメージ図
図13】周波数偏差-無効電力特性を示す図
図14】ステップ注入発生の第1条件(基本波電圧変動)を説明するための図
図15】ステップ注入発生の第2条件(高調波電圧変動)を説明するための図
図16】インバータ装置への適用例を示すブロック図
図17】単独運転可能性判定処理部を追加したPCSの第1構成例を示す全体ブロック図
図18】無効電力の算出値を保存した無効電力配列のイメージ図
図19図17に示される想定無効電力変化量算出部が保存する想定無効電力変化量のテーブル
図20】g-rateの数値と想定無効電力変化量との関係を示すグラフ
図21】単独運転可能性判定処理部を追加したPCSの第3構成例を示す全体ブロック図
図22図21に示される想定出力電流算出部における想定出力電流の算出例を説明するためのグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
<インバータ装置>
図1は、インバータ装置の構成例を示すブロック図である。インバータ装置1は、直流電源2から入力される直流電力を交流電力に変換して負荷3に供給するインバータ主回路4と、負荷3に供給される負荷供給電圧Voを検出する電圧検出器5と、負荷供給電圧Voを基にして出力同期信号Vsを作成するゼロクロス検出回路6と、インバータ主回路4の交流出力(以下、インバータ出力という)の出力電流Ioを検出する電流検出器7と、出力電流IoをA/D変換するA/D変換器8と、出力電流Ioと出力同期信号Vsを基にしてインバータ主回路4をPWM[pulse width modulation]制御するDSP[digital signal processor]9と、負荷3に供給される負荷供給電圧Voの電圧異常を検出する電圧異常検出回路10と、DSP9が出力するPWMデータを基にしてゲートパルス信号Gp’を作成するタイマ・カウンタ回路11と、ゲートパルス信号Gp’を基にしてインバータ主回路4のスイッチング素子(図示省略)をスイッチング制御するゲート駆動回路12とを備えている。インバータ主回路4と負荷3との間には、リアクトル13とコンデンサ14からなり、インバータ出力の高周波成分を除去するフィルタ15が設けられている。
【0015】
負荷3には、インバータ装置1とは別に、交流電力系統16から遮断器17および柱上トランス18を介して交流電力が供給されており、インバータ装置1は、交流電力系統16と連系して運転されている。
【0016】
DSP9は、電流基準波形データWbが格納された電流基準波形メモリ19と、電流基準波形メモリ19から電流基準波形データWbを順次読み出して、出力指令信号Vcと乗算して電流基準信号Icを作成する乗算部20と、出力電流Ioと電流基準信号Icとの誤差を算出して電流誤差信号eを作成する誤差信号作成部21と、出力同期信号Vsの周期を1区間とする電流誤差信号eの波形パターンの積分を行う誤差波形パターン積分回路22と、誤差波形パターン積分回路22から出力される積分データe’をパルス幅変調してPWMデータDpを作成するPWM処理回路23と、PWMデータDpを格納するPWMメモリ24と、負荷供給電圧Voの周波数の算出、負荷供給電圧Voの周波数異常を示す周波数異常信号Feの出力、さらには読み出しアドレス指定信号Cの出力を行うゼロクロス周期検出処理回路25とを備えている。
【0017】
次に、インバータ装置1の動作を、順を追って説明する。電流検出器7で検出されたインバータ出力の出力電流Ioは、A/D変換器8によってA/D変換されたのち、誤差信号作成部21に入力される。
【0018】
一方、電圧検出器5で検出された負荷供給電圧Voは、ゼロクロス検出回路6に入力される。ゼロクロス検出回路6では入力された負荷供給電圧Voを基にして出力同期信号Vsを作成して、電流基準波形メモリ19に出力する。電流基準波形メモリ19では、格納している電流基準波形データWbを、入力された出力同期信号Vsに同期して読み出して乗算部20に出力する。乗算部20では、入力された電流基準波形データWbと出力指令信号Vcとを乗算して電流基準信号Icを作成して誤差信号作成部21に出力する。
【0019】
出力電流Ioと電流基準信号Icとが入力された誤差信号作成部21では、出力電流Ioと電流基準信号Icとの誤差である電流誤差信号eを作成して、誤差波形パターン積分回路22に出力する。誤差波形パターン積分回路22には、出力同期信号Vsがゼロクロス検出回路6から入力されており、誤差波形パターン積分回路22では、出力同期信号Vsの周期を1区間として電流誤差信号eの波形パターンを積分する。このようにして作成された積分データe’は、次回のサンプリング時の積分演算に使用するために誤差波形パターン積分回路22内に記憶されるとともに、PWM処理回路23に出力される。
【0020】
PWM処理回路23では、入力された積分データe’をパルス幅変調してPWMデータDpを作成して、PWMメモリ24に格納する。PWMメモリ24では、ゼロクロス検出回路6から入力される出力同期信号Vsと同期を取りつつ、アドレス指定信号Cによって歪みが与えられたPWMデータDp’をサンプリング毎にタイマ・カウンタ回路11に出力する。
【0021】
タイマ・カウンタ回路11では、DSP9において上述した手順で作成されたPWMデータDp’を基にしてゲートパルス信号Gp’を作成して、ゲート駆動回路12に出力する。ゲート駆動回路12では、入力されるゲートパルス信号Gp’を基にしてインバータ主回路4のスイッチング素子(図示省略)をスイッチング制御して、インバータ主回路4を駆動させる。
【0022】
インバータ装置1では、交流電力系統16の停電等により、単独運転状態になると、次のようにして、単独運転状態を検知して、インバータ出力を停止している。すなわち、インバータ装置1が供給している無効電力と負荷3が要求している無効電力とが一致していない状態でインバータ装置1が単独運転状態になると、負荷供給電圧Vo(単独運転状態ではインバータ出力と等しくなる)の周波数は、定格周波数(50/60Hz)から変動し、これに伴って負荷供給電圧Voの電圧値も変動する。そこで、電圧異常検出回路10によって、負荷供給電圧Voに異常があるか否かを検出し、負荷供給電圧Voに過電圧異常ないし不足電圧異常が生じると、電圧異常信号Veをゲート駆動回路12に出力する。また、ゼロクロス周期検出処理回路25において、負荷供給電圧Voの周波数を検出し、さらに検出した負荷供給電圧Voの周波数と定格周波数f0を比較して両者の偏差を算出し、算出した偏差が予め決めておいた閾値を超過する場合には、周波数異常信号Feをゲート駆動回路12に出力する。
【0023】
ゲート駆動回路12では、電圧異常信号Veないしは周波数異常信号Feが入力されると、インバータ装置1が単独運転状態になったとして、インバータ主回路4のスイッチング制御を停止し、これによってインバータ主回路4はインバータ出力を停止する。
【0024】
次に、インバータ装置1の特徴となる動作を説明する。インバータ装置1が供給している無効電力と負荷3が要求している無効電力とがほぼ一致する(負荷インピーダンスの力率が1に近い)状態で、インバータ装置1が単独運転状態になると、負荷供給電圧Voの周波数はほとんど変動しなくなる。従って、電圧異常検出回路10やゼロクロス周期検出処理回路25において、負荷供給電圧Voの異常が検出できなくなる。そこで、インバータ装置1では、PWMメモリ24が出力するPWMデータDp’に対して、以下に示す歪みを付与することにより、負荷インピーダンスの力率に関係なく、単独運転状態の負荷供給電圧Voの周波数に変動を発生させて、インバータ装置1の単独運転状態を確実に検知している。以下、歪みの付与に付いて詳細に説明する。
【0025】
インバータ装置1は、インバータ出力に歪みを与えるゼロクロス周期検出処理回路25の構成に特徴がある。すなわち、ゼロクロス周期検出処理回路25は、PWMメモリ24に対して読み出しアドレス指定信号Cを出力している。
【0026】
ゼロクロス周期検出処理回路25がPWMメモリ24に対して与える読み出しアドレス指定信号Cは、次のような指定を行う信号である。すなわち、図2に示したように、読み出しアドレス指定信号Cは、PWMメモリ24に対して、PWMデータDpの読み出しに際して、読み出し用のカウンタ(g-count)の増加率(g-rate)をゼロクロス周期毎に変更することで、PWMデータDpに歪みを与えている。
【0027】
すなわち、読み出しアドレス指定信号Cは、PWMデータDpの読み出しアドレスをmとし、PWMメモリ24から取り出されるPWMデータDpの時間変化をY(n)とすると、
m=int(g-rate×g-count) …(1)
g-count=nmod N …(2)
Y(n)=Dpm …(3)
となるアドレス指定信号である。
【0028】
このように設定された読み出しアドレス指定信号Cに基づいてPWMメモリ24から読み出されたPWMデータDp’は、タイマ・カウンタ回路11に入力される。そして、このPWMデータDp’に基づいてタイマ・カウンタ回路11でゲートパルス信号Gp’を作成して、ゲート駆動回路12に出力する。ゲート駆動回路12では、入力されたゲートパルス信号Gp’によってインバータ主回路4をスイッチング制御する。
【0029】
ここで、g-rate>1とした場合には、インバータ出力波形には、図3に示したように、ゼロクロスポイントを期間終点する所定期間βが出力ゼロとなる歪みが付与されて、PWMデータDp’での見かけ上の周期T3が定格周波数f0の周期T0より短くなり、このPWMデータDp’を基にしてインバータ出力を作成すると、そのゼロクロスポイントの検出タイミングが期間βだけに早くなる結果、インバータ出力の周波数は定格周波数f0より上昇する。
【0030】
一方、g-rate<1とした場合には、インバータ出力波形には、図4に示したように、波高ピークからゼロクロスポイントに至る下降波形経路側に任意のオフセットを出力する歪みが付与されて、PWMデータDp’での見かけ上の周期T4が定格周波数f0の周期T0より長くなり、このPWMデータDp’を基にしてインバータ出力を作成すると、見かけ上の周期T4が長くなる分、そのゼロクロスポイントの検出タイミングが遅くなる結果、インバータ出力の周波数は定格周波数f0より下降する。
【0031】
このような周波数の変動は、たとえ負荷インピーダンスの力率がほぼ1であったとしても発生するので、このような周波数変動ないし周波数変動に伴う電圧変化をゼロクロス周期検出処理回路25ないし電圧異常検出回路10によって検出することで、インバータ装置1の単独運転状態は確実に検知される。
【0032】
インバータ装置1によるインバータ出力波形の歪ませ方は、図3図4に示した他、図5に示したように、ゼロクロスポイントを含んだその両側の所定期間γが出力レベルゼロとなる歪みをインバータ出力波形に付与してもよい。そうすれば、PWMデータDp’での見かけ上の周期TTは、定格周波数f0の周期T0より短くなる結果、インバータ出力(負荷供給電圧Vo)の周波数は、定格周波数f0から変動する。
【0033】
さらには、図6に示したように、ゼロクロスポイントが両波高ピーク側に任意のオフセットを出力する歪みをインバータ出力波形に付与してもよい。そうすれば、PWMデータDp’での見かけ上の周期T6は、定格周波数f0の周期T0より長くなる結果、インバータ出力の周波数は、定格周波数f0から変動する。
【0034】
図5図6に示したような歪ませ方をインバータ出力波形に付与するためには、読み出しアドレス指定信号Cにおける読み出しアドレスを指定する関数を変更すればよい。なお、図3図6において、実線はPWMデータDp’での見かけ上の出力波形を示し、点線は定格周波数f0の出力波形を示している。
【0035】
ところで、インバータ装置1が単独運転している時のインバータ出力の周波数は、インバータ装置1が接続される負荷3の種類によっても影響を受け、負荷3が誘導性負荷である場合には単独運転時のインバータ出力周波数は上昇し、負荷3が容量性負荷である場合には単独運転時のインバータ出力周波数は下降する。そのため、インバータ出力波形に歪みを付与することによる周波数変動と負荷3による周波数変動量とが互いに周波数変動量の絶対値が同等で、かつ、その変動方向が逆である場合等では、歪みの付与による周波数変動と、負荷3による周波数変動とが互いに相殺し合って、周波数変動が発生しにくい場合がある。
【0036】
これに対して、インバータ装置1では、先にも述べたように、読み出し用のカウンタ(g-count)の増加率(g-rate)をどのように設定するかによってインバータ出力周波数を定格周波数f0に対して上昇させることも下降させることもできる。そこで、インバータ装置1では、図7に示したように、インバータ出力周波数が所定の変動幅Δfだけ上昇する第1の歪み(図3参照)を付与する期間M1と、インバータ出力周波数が所定の変動幅Δfだけ下降する第2の歪み(図4参照)を付与する期間M2とを交互に繰り返し設定している。そのため、インバータ出力周波数は上昇と下降とを交互に繰り返し、ある期間M1(M2)において、歪みの付与による周波数変動作用と、負荷3による周波数変動作用とが相殺し合ったとしても、次の期間M2(M1)では、相殺しなくなるので、インバータ出力周波数は確実に変動することになる。従って、負荷3との電力バランスに関わりなく、確実に、インバータ装置1の単独運転状態が検出されることになる。
【0037】
また、インバータ装置1では、第1の歪みを付与する期間M1と第2の歪みを付与する期間M2との間に、定格周波数f0を維持する歪み無付与期間M3を設けている。これにより、インバータ装置1の通常の運転状態、すなわち、交流電力系統16と連系して定格周波数f0で運転している状態では、負荷供給電圧Voには歪みが発生しにくくなっている。
【0038】
なお、第1、第2の歪みを付与する期間M1、M2としては、例えば、インバータ出力周波数の7周期が適当であり、歪み無付与期間M3としては、インバータ出力周波数の3周期が適当であり、変動幅Δfとしては、例えば、±0.2Hzが適当である。しかしながら、これらの値は一例に過ぎず、各期間M1、M2、M3の変動幅Δfは、他の値であってもよいのは言うまでもない。
【0039】
さらには、インバータ装置1では、図8に示す正帰還ループでインバータ出力を制御している。なお、図8において、横軸はゼロクロス周期検出処理回路25で検出する負荷供給電圧Voの出力周波数(インバータ装置1の単独運転時ではインバータ出力の周波数に相当する)Finを示しており、縦軸はPWMデータDp’での見かけ上の周波数Foutを示している。この図から分かるように、インバータ装置1(具体的にはゼロクロス周期検出処理回路25)は、負荷供給電圧Voを、定格周波数f0を挟んだ所定周波数期間(例えば、±0.2Hzの期間が適当であるが、この期間に限定されるものでもない)である不感帯Kと、不感帯Kより高い周波数領域である+側異常周波数領域L+と、不感帯Kより低い周波数領域である-側異常周波数領域L-とに区分している。
【0040】
そして、不感帯Kでは、図7に示したように、インバータ出力周波数が上昇する第1の歪み(図3参照)を付与する期間M1と、歪み無付与期間M3と、インバータ出力周波数が下降する第2の歪み(図4参照)を付与する期間M2とが順次交互に設定されるようにしている。また、異常周波数領域L+では、負荷供給電圧Voの周波数Finよりも、この周波数Finを基にして形成されるPWMデータDp’での見かけ上の周波数Foutの方が高くなるような正帰還ループで、PWMデータDp’を作成してインバータ制御を行っている。さらには、異常周波数領域L-では、負荷供給電圧Voの周波数Finよりも、この周波数Finを基にして形成されるPWMデータDp’での見かけ上の周波数Foutの方が低くなるような正帰還ループで、PWMデータDp’を作成してインバータ制御を行っている。このような制御は、負荷供給電圧Voを基にした帰還制御により、読み出しアドレス指定信号Cにより読み出しアドレスを指定する関数を変更すればよい。
【0041】
上述した制御を行うことにより、負荷供給電圧Voの周波数は、インバータ装置1の単独運転時において、急速に周波数変動が起きることになる。すなわち、インバータ装置1は単独運転時において、負荷インピーダンスの力率がほぼ1であり、従来では負荷供給電圧Voが不感帯Kから離脱しない場合であっても、インバータ出力に、まず、第1の歪みと第2の歪みとが付与されることで、負荷供給電圧Voが不感帯Kから離脱して、異常周波数領域L+、L-に移行する。負荷供給電圧Voが異常周波数領域L+、L-に移行すれば、正帰還ループで周波数制御されることにより、周波数変動が加速されることになる。そのため、インバータ装置1が単独運転を始めれば、速やかに、ゼロクロス周期検出処理回路25や電圧異常検出回路10によって検知されることになる。
【0042】
さらに、インバータ装置1では、同じく図8に示したように、負荷供給電圧Voの周波数が、異常周波数領域L+、L-に停留すれば、周波数Finに対する周波数Foutの変化量が大きくなるように、正帰還ループの傾きを変更している。すなわち、ゼロクロス周期検出処理回路25において、周波数Finが異常周波数領域L+、L-にいる期間を測定し、周波数Finが予め設定された期間(例えば、Finの5周期の期間が適当であるが、この期間に限定されるものではない)を超過しない場合には、比較的傾きの小さい正帰還ループP1に基づいて制御を行う一方、周波数Finが予め設定された期間を超過した場合には、比較的傾きの大きい正帰還ループP2に基づいて制御を行う。これにより、異常周波数領域L+、L-に移行した周波数Finの周波数変動をさらに加速することができ、インバータ装置1が単独運転を始めれば、より速やかに、ゼロクロス周期検出処理回路25や電圧異常検出回路10によって検知されることになる。
【0043】
また、前述したように、負荷3が誘導性負荷であるか、容量性負荷であるか等により、負荷3側の作用で負荷供給電圧Voの周波数が変動し、負荷3による周波数変動と歪み付与による周波数変動とが相殺することが考えられる。このようになれば、負荷供給電圧Voの周波数の変動速度が遅くなって都合が悪い。しかしながら、図8に示したように、二つの正帰還ループP1、P2を切り替えるようにしているので、比較的傾きの小さい正帰還ループP1の制御において、負荷3による周波数変動と歪み付与による周波数変動とが相殺して周波数の変動速度が遅くなったとしても、比較的傾きの大きい正帰還ループP2に切り替わることで、この相殺関係が解消して、周波数は大きく変動するようになる。
<標準形能動的単独運転検出方式>
これまで説明した分散型電源の単独運転検出方式は、定常的に無効電力を注入するための能動信号となる周波数バイアスを与えて単独運転時に動作周波数の乖離を促し、周波数シフト動作により単独運転検出する方法であるが、複数台の分散型電源が設置された環境においては互いの分散型電源による能動信号同士が干渉して相殺される技術的欠点があった。この欠点を解消するため、集中連系対応可能な単独運転検出方法である標準形能動的単独運転検出方式が知られているが、概要は次のとおりである。特徴的な機能として、系統周波数の偏差から注入する無効電力を演算して周波数シフトを促す機能(周波数フィードバック機能)と、分散型電源の出力電力と系統負荷の消費電力とが平衡した状態において意図的に周波数変化を発生させる機能(無効電力ステップ注入機能)とを備えており、単独運転の高速検出が可能、不要動作がない、他方式との相互干渉がない、能動信号による系統への影響が小さい等の特長を持つ。このような単独運転検出方式を「標準形能動的単独運転検出方式(ステップ注入付き周波数フィードバック方式)」と呼び、その内容を詳細に説明する。
【0044】
図9は、上記能動的単独運転方式を採用したパワーコンディショナ(以下、PCS[power conditioning system]と呼ぶ場合がある)の全体ブロック図である。本構成例のPCS100は、系統周波数計測部110と、周波数フィードバック部(無効電力注入部)120と、無効電力ステップ注入部130と、単独運転検出部140と、電流制御処理部150と、インバータ部160と、を有する。
【0045】
系統周波数計測部110は、周波数偏差の演算に用いる系統周波数を計測する制御部であり、周波数検出回路111と、周波数計測処理部112と、位相差計測同期処理部113と、を含む。図10は、系統周波数(周期)計測のアルゴリズムを示す図である。
【0046】
周波数検出回路111は、系統電圧に同期した方形波信号を生成して周波数計測処理部112に出力する(図10の上段を参照)。周波数検出回路111は、ハードウェア部として実装される。
【0047】
周波数計測処理部112は、周波数検出回路111から入力される方形波信号を監視して系統電圧の周期データ(周波数データ)を計測する(図10の中段を参照)。より具体的に述べると、周波数計測処理部112は、方形波信号の立下りエッジから立上りエッジまでをカウントしたときの中間値と、次の立下りエッジから立上りエッジまでをカウントしたときの中間値との差分を周期データ(周波数データ)として取得する。周波数計測処理部112は、系統周波数の計測に十分な分解能(例えば2.5MHz以上(400ns以下))を備えている。周波数計測処理部112は、ソフトウェア部として実装される。
【0048】
位相差計測同期処理部113は、周波数計測処理部112で計測された周期データ(周波数データ)を方形波信号の立上りエッジで同期化する(図10の下段を参照)。位相差計測同期処理部113は、ソフトウェア部として実装される。
【0049】
周波数フィードバック部120は、移動平均処理により算出された系統周波数の周波数偏差(周期偏差)から注入する無効電力を演算して周波数シフトを促す制御部であり、第1移動平均算出部121と、第2移動平均算出部122と、周波数偏差算出部123と、無効電力注入量算出部124と、加算部125と、を含む。
【0050】
第1移動平均算出部121は、系統周波数(系統周期)の第1移動平均値(最近周期に相当)を算出する。第1移動平均算出部121は、ソフトウェア部として実装される。
【0051】
第2移動平均算出部122は、系統周波数(系統周期)の第2移動平均値(過去周期に相当)を算出する。第2移動平均算出部122は、ソフトウェア部として実装される。
【0052】
周波数偏差算出部123は、第1移動平均値と第2移動平均値との差分から系統周波数の周波数偏差(周期偏差)を算出する。周波数偏差算出部123は、ソフトウェア部として実装される。
【0053】
図11は、周波数偏差演算のイメージ図であり、図12は、移動平均値の更新イメージ図である。周波数偏差の演算に用いられる周期データは、系統電圧の1周期毎に更新される。周波数偏差の演算に用いられる移動平均値は、時間t1毎(例えばt1=5ms)に更新され、周波数偏差の演算自体も時間t1毎に行われる。なお、時間t1は、交流電力系統PWの周波数(50Hz/60Hz)に依ることなく一律とされている。第1移動平均値(最近周期)としては、最新周期の取得タイミングを終点として時間t2(例えばt2=40ms)分の移動平均値が用いられる。一方、第2移動平均値(過去周期)としては、最新周期の取得タイミングから時間t3(例えばt3=200ms)だけ過去に遡ったタイミングを終点として時間t4(例えばt4=320ms)分の移動平均値が用いられる。
【0054】
無効電力注入量算出部124は、周波数偏差算出部123で算出された周波数偏差(周期偏差)に応じて注入する無効電力を算出する。無効電力注入量算出部124は、ソフトウェア部として実装される。
【0055】
図13は、周波数偏差-無効電力特性を示す図である。本図に示したように、無効電力注入量算出部124は、周波数偏差が±f[Hz](例えばf=0.01Hz(±4.0μs@50Hz、±2.8μs@60Hz))を境にして無効電力演算のゲインを変える。なお、注入する無効電力の上下限値は±A[p.u.](例えばA=0.25p.u.)に設定されている。ここで、p.u.[per unit]は、単位法で基準値(定格容量)に対する比を表す際に用いられる記号である。例えば、基準値(定格容量)が4kWである場合、±0.25p.u.=±1kW(無効電力であれば±1Var)となる。
【0056】
加算部125は、無効電力注入量算出部124で算出された無効電力の注入量と、後出のステップ注入量算出部136で算出された無効電力のステップ注入量を足し合わせて、電流制御処理部150に伝達する。加算部125は、ソフトウェア部として実装される。
【0057】
無効電力ステップ注入部130は、分散型電源の単独運転時にPCS100の出力電力と負荷装置の消費電力とが平衡して系統周波数の偏差が微小となる条件下において、周波数シフトを促すために無効電力をステップ注入する制御部であり、基本波電圧計測回路131と、高調波電圧計測回路132と、基本波電圧算出部133と、高調波電圧算出部134と、ステップ注入発生条件判定部135と、ステップ注入量算出部136と、を含む。
【0058】
基本波電圧計測回路131は、PCS100の出力電流に含まれる基本波成分を基本波電圧として計測する。基本波電圧計測回路131は、ハードウェア部として実装される。
【0059】
高調波電圧計測回路132は、PCS100の出力電流に含まれる高調波成分を高調波電圧として計測する。高調波電圧計測回路132は、ハードウェア部として実装される。
【0060】
基本波電圧算出部133は、基本波電圧の変化量を算出する。基本波電圧算出部133は、ソフトウェア部として実装される。
【0061】
高調波電圧算出部134は、高調波電圧の変化量を算出する。高調波電圧の演算には、二次~七次以上の高調波が用いられる。また、高調波電圧の演算には、下記の離散フーリエ解析を用いてもよい。高調波電圧算出部134は、ソフトウェア部として実装される。
【0062】
【数1】
なお、上式中の変数について、nはサンプリング点(N個)(n=0,1,2,…,N-1)、f1は基本周波数(f1=1/(NT)=fs/N)、fsはサンプリング周波数、Tはサンプリング間隔(T=1/fs)、kは高調波の時数(k=0,1,2,…,N/2)、A[k]はk次余弦の振幅、B[k]はk次正弦の振幅、Harm[k]はk次高調波電圧(ピーク電圧)をそれぞれ示している。
【0063】
ステップ注入発生条件判定部135は、基本波電圧算出部133および高調波電圧算出部134の出力に応じてステップ注入発生条件が満足されたか否かを判定する。より具体的に述べると、ステップ注入発生条件判定部135は、周波数偏差が所定の微小範囲内(例えば±0.01Hz以内)であり、かつ、基本波電圧または高調波電圧の変化量が所定の条件を満たしたときに、ステップ注入の必要が生じたと判定する。なお、基本波電圧および高調波電圧は、単独運転発生時に生じる系統周波数以外の変化要素の一つである。ステップ注入発生条件判定部133は、ソフトウェア部として実装される。
【0064】
図14はステップ注入発生の第1条件(基本波電圧変動)を説明するための図である。本図中において、Miはiサイクル前の基本波電圧を示しており、Mavrは3サイクル前から5サイクル前までの3個の平均値を示している。基本波電圧算出部133では、基本波電圧の変化量(Mk-Mavr)(ただしk=0~5)が算出され、ステップ注入発生条件判定部135では、各々の変化量がいずれも所定の条件式を満足したときに、基本波電圧の変動が生じたと判定される。
【0065】
図15はステップ注入発生の第2条件(高調波電圧変動)を説明するための図である。本図中において、Niはiサイクル前の二次~七次の全高調波電圧実効値THD[total harmonic distortion]を示しており、Navrは3サイクル前から5サイクル前までの3個の平均値を示している。高調波電圧算出部134では、高調波電圧の変化量(Nk-Navr)(ただしk=0~5)が算出され、ステップ注入発生条件判定部135では、各々の変化量がいずれも所定の条件式を満足したときに、高調波電圧の変動が生じたと判定される。
【0066】
ステップ注入量算出部136は、ステップ注入発生条件判定部135の判定結果に応じて無効電力のステップ注入量を算出する。注入時間は、所定のサイクル数以下(例えば3サイクル以下)とされている。注入量には所定の上限値(例えば0.1p.u.)が定められている。無効電力は、PCS100から見て電流位相を遅らせる方向(周波数を低下させる方向)に注入される。無効電力のステップ注入は、先述の条件が満たされてから系統周波数(周期)の半サイクル以内に行われる。ステップ注入量算出部136は、ソフトウェア部として実装される。
【0067】
単独運転検出部140は、系統周波数の変化によって単独運転発生の有無を判定する制御部であり、能動的単独運転検出部141と、受動的単独運転検出部142と、を含む。
【0068】
電流制御処理部150は、系統周波数計測部110の出力に基づいて同期処理を行いつつ、適切な無効電力を注入するようにインバータ部160の電流制御を行う。なお、具体的な無効電力の注入方法については、例えば、先出の図1図8を参照して説明したようなインバータ部160の電流制御を行えばよい。
【0069】
インバータ部160は、直流電源(例えばPVパネル)から供給される直流電力を交流電力に変換して交流電力系統PWに系統連系させる電力変換部である。
【0070】
なお、図9では、上記の構成要素をハードウェア部(CPU以外)とソフトウェア部(CPU)に分割した例を示しているが、分割の境界はこれに限定されるものではない。
【0071】
このような能動的単独運転検出方式を採用したPCS100であれば、単独運転状態に陥ったPCS100を遅滞なく(例えば単独運転発生から0.2s以内に)高速に停止することが可能となる。
【0072】
また、PCS100であれば、過去の系統周波数(系統周期)を基準にCPU割込み時間(目標波形の間隔)を変化させることができるので、系統周波数(周期)が変化しても、歪み量を相対的に低減させることが可能となる。
【0073】
上記能動的単独運転検出方式により、多数の太陽光発電システムが共通の商用電力系統に連系される場合であっても、各PCSの単独運転検出機能が相互に干渉せず、保安上の要件を満たすことができる環境を構築することができるので、住宅等への太陽光発電システム導入の円滑な普及促進を図ることが可能となる。
【0074】
<適用例>
図16は、上記の能動的単独運転検出方式をPCS(インバータ装置)に適用した例を示すブロック図である。本適用例において、需要家Hには、太陽光発電システムXと負荷装置Yが設置されている。太陽光発電システムXは、分散型電源の一例であり、PCSX1とPVパネルX2を有する。
【0075】
PCSX1は、インバータ装置の一例であり、系統連系インバータ部X11を含むほかに、標準形能動的単独運転検出方式を実装するための手段として、単独運転防止機能部X12と単独運転防止助長部X13を含む。
【0076】
系統連系インバータ部X11は、PVパネルX2から供給される直流電力を交流電力に変換して交流電力系統PWに系統連系させる。
【0077】
単独運転防止機能部X12は、系統周波数や系統電圧の変化から単独運転を検出して系統連系インバータ部X11を停止させる機能ブロックであり、例えば、図9の単独運転検出部140がこれに相当する。
【0078】
単独運転防止助長部X13は、単独運転防止機能を助長するように系統連系インバータ部X11を制御する機能ブロックである。より具体的に述べると、単独運転防止助長部X13は、系統周波数を検出してその周波数変化を助長する方向へ系統連系インバータ部X11の動作周波数をフィードバック制御する機能ブロックであり、例えば、図9の系統周波数計測部110、周波数フィードバック部(無効電力注入部)120、無効電力ステップ注入部130、および、電流制御処理部150がこれに相当する。
【0079】
このように、本適用例のPCSX1であれば、単独運転状態に陥ったPCSX1を遅滞なく高速に停止することが可能となる。
【0080】
<単独運転発生可能性有り時におけるインバータ出力停止機能>
ここで、PCS100の構成では、g-rateの値が同じであったとしても、単独運転状態においては系統連系状態と比較して出力電流周波数が、通常運転時に対して変化しづらいことによりインバータ部160の単独運転検出が遅くなる可能性がある。
【0081】
詳しく説明すると、例えばg-rate>1の場合において、インバータ出力電圧は、図3に示したように周期T3=T0/g-rateとなる。この場合において、系統連系状態であれば、系統電圧はインバータ出力電圧によらず安定しているため、インバータ出力電流は、インバータ出力電圧と系統電圧との差に応じて出力されることになる。一方、単独運転状態である場合は、系統電圧とは切り離されているため、インバータ出力電圧がそのまま負荷に供給され、インバータ出力電流は、インバータ出力電圧に対して負荷が使用する電流と同様になる。すなわち、g-rateの演算を行う前の系統電圧周波数をF0とすると、単独運転時にg-rateの歪を与えた場合の出力電圧周波数F0'はF0'=F0/g-rateとなり、インバータ出力電流は、それまでの系統電圧の各位相に対する電流は変化せず、周波数だけが上記F0’となり出力される(ただし、単独運転時にg-rateで変化させた場合の出力電流は必ず出力電圧と一致する(無効電力が0になる)わけではない。)。これは、単独運転が、他のPCSを含む複数台同時に発生した場合等、系統電圧よりは安定していないもののやや安定した状態になる場合があるためである。
【0082】
従って、系統連系状態と単独運転状態とにおいては、同様のg-rateを用いて同様のPWMデータDp’を作成して出力した場合においても、異なる電流が出力されることになる。実際には、同様のg-rateを用いた場合においては、インバータ出力電流は、単独運転時と比較して、系統連系時により大きく周波数が変化する。そのため、単独運転時においては系統連系時に期待されたような出力電流周波数変化が発生せず、その結果としてインバータ出力電圧周波数の変化が想定よりも遅くなる。これにより、単独運転が発生してから電圧周波数変化を検知してインバータ部160を停止させる能動的単独運転検出部141が働くまでの時間が期待される時間より長くなる。その結果、単独運転の検出が遅れ、危険な状態が長引く可能性が考えられる。
【0083】
そこで、このような単独運転の検出遅れを防ぐために、単独運転可能性の有無を判定する単独運転可能性判定処理を実行し、単独運転可能性有りと判定された場合には、インバータ部160の出力を停止させるための処理(停止処理)を実行することが好ましい。
【0084】
なお、以下では、上記PCS100に単独運転可能性判定処理部を追加した構成を例にして説明するが、図1に示したインバータ装置1に単独運転可能性判定処理部を追加することも可能である。
【0085】
<単独運転可能性判定処理の動作>
(第1構成例)
図17は、単独運転可能性判定処理部170を追加したPCSの第1構成例を示す全体ブロック図である。このPCS101は、出力される無効電力が想定よりも小さいか否かに基づいて単独運転可能性の有無を判定する。具体的には、PCS101は、ソフト内で自装置が出力している無効電力を算出し、想定される無効電力が出力できていない場合には単独運転可能性有りと判定して、インバータ部160からの出力を停止させる処理を実行する。
【0086】
本図に示したように、PCS101は、単独運転可能性判定処理部170をさらに備える。単独運転可能性判定処理部170、は、第1無効電力算出部171、第2無効電力算出部172、第3無効電力算出部173、無効電力偏差算出部174、想定無効電力変化量算出部175、単独運転可能性判定部176を含む。単独運転可能性判定処理部170の各部は、いずれもソフトウェア部として実装される。
【0087】
第1無効電力算出部171は、インバータ部160が出力する無効電力を算出する。具体的には、第1無効電力算出部171は、例えばインバータ出力電流とインバータ目標電流とに基づいてスイッチングデューティー(duty)比を演算する高速(例えば、38kHz)の割り込み処理にてインバータ出力電流(I)および系統電圧(V)を検出する。これらの検出した数値を用いて、第1無効電力算出部171は、以下の演算により半周期分または1周期分の無効電力(var)を算出する。なお、無効電力を算出する期間は特に限定されない。
【数2】
よって、
【0088】
【数3】
第1無効電力算出部171は、上記演算によって求めた無効電力の算出値を第2無効電力算出部172および第3無効電力算出部173へ出力する。
【0089】
第2無効電力算出部172は、第1無効電力算出部171から入力される無効電力の算出値に基づいて、直近(例えば40ms期間)の無効電力の平均値(最近周期無効電力)を算出する。また、第3無効電力算出部173は、第1無効電力算出部171から入力される無効電力の算出値に基づいて、少し前(例えば200mS前)からのある期間(例えば320ms期間)の無効電力の平均値(過去周期無効電力)を算出する。
【0090】
図18は、第1無効電力算出部171から入力される無効電力の算出値を保存した無効電力配列のイメージ図である。第1無効電力算出部171から入力される各周期または半周期毎の無効電力の算出値は、ある期間(例えば520ms期間)メモリ等に保存される。本図に示したように、例えば28周期の期間にわたって、1周期ごとの無効電力の算出値が保存される。なお、無効電力の算出値を半周期ごとに保存してもよく、図11に示す周波数フィードバック用の周波数偏差演算のように5msごとに保存してもよい。
【0091】
このように保存された無効電力配列に基づいて、第2無効電力算出部172は、例えば直近2周期の無効電力の平均値(最近周期無効電力)を算出する。また、第3無効電力算出部173は、例えば最新周期の取得タイミングから12周期前から27周期前の無効電力の平均値(過去周期無効電力)を算出する。
【0092】
なお、第2無効電力算出部172は、最近周期無効電力として、直近1周期の無効電力のみを用いてもよい。また、第3無効電力算出部173は、最新周期の取得タイミングから200ms以上前を終点とする期間の平均値を過去周期無効電力として算出する。これにより、単独運転を200ms以内の検出することが可能となる。
【0093】
第2無効電力算出部172は、算出した最近周期無効電力を無効電力偏差算出部174へ出力する。また、第3無効電力算出部173は、算出した過去周期無効電力を無効電力偏差算出部174へ出力する。
【0094】
無効電力偏差算出部174は、第2無効電力算出部172から入力される最近周期無効電力と、第3無効電力算出部173から入力される過去周期無効電力とに基づいて、無効電力偏差を算出する。具体的には、無効電力偏差算出部174は、最近周期無効電力と過去周期無効電力との差(無効電力偏差=最近周期無効電力-過去周期無効電力)を算出することにより、無効電力偏差を算出する。無効電力偏差算出部174は、算出した無効電力偏差を単独運転可能性判定部176へ出力する。
【0095】
想定無効電力変化量算出部175は、g-rateの数値および現在のPCS101の出力有効電力に関する少なくとも1つのパラメータ(例えば、出力有効電力、出力指令信号、出力電流実効値または出力電流ピーク値等)に基づいて、想定無効電力変化量(系統連系状態で運転している場合におおよそこれだけ無効電力が変化すると想定される無効電力の値(変化量))を算出する。
【0096】
一例として、g-rateの数値および出力有効電力に基づいて想定無効電力変化量を算出する方法を以下に説明する。この場合、上記[数2]に示した出力有効電力「W」をさらに用いる。
【0097】
図19は、想定無効電力変化量算出部175が保存するg-rateの数値および出力有効電力と想定無効電力変化量との関係を示すテーブルの一例である。本図において、表中の数値は想定無効電力変換量[Var]を示す。
【0098】
想定無効電力変化量算出部175は、本図に示したようなg-rateの数値および出力有効電力に基づいた想定無効電力変化量のテーブルを保存しており、該テーブルに基づいて想定無効電力変化量を算出してもよい。
【0099】
または、想定無効電力変化量算出部175は、g-rateの数値および出力有効電力と想定無効電力変化量との演算式によって想定無効電力変化量を算出してもよい。
【0100】
図20は、g-rateの数値と想定無効電力変化量との関係を示すグラフである。本図に示したように、想定無効電力変化量算出部175は、以下の演算により想定無効電力変化量を算出してもよい。
想定無効電力変化量=((g-rate-1)×10×出力有効電力)[Var]
例えば出力有効電力5500W、g-rate=1.025の場合、
想定無効電力変化量=((1.025-1)×10×5500)=1100[Var]
となる(1100Varは定格電力5500WPCSの0.25p.u.に相当)。
【0101】
このように、g-rateの数値および出力有効電力に基づいた想定無効電力変化量のテーブル、またはg-rateの数値および出力有効電力と想定無効電力変化量との演算によって想定無効電力変化量を算出することにより、どのタイミングにおいてでも単独運転可能性判定が可能となる。
【0102】
想定無効電力変化量算出部175は、例えば上記テーブルまたは上記演算を用いて想定無効電力変換量を算出し、単独運転可能性判定部176へ出力する。
【0103】
なお、想定無効電力変化量算出部175は、出力有効電力に代えて、出力指令信号、出力電流実効値または出力電流ピーク値を用いて、想定無効電力変化量を算出してもよい。これらのパラメータを用いることにより、上述した出力有効電力の演算を省略することが可能となる。
【0104】
単独運転可能性判定部176は、無効電力偏差と想定無効電力変化量とに基づいて、単独運転可能性の有無を判定する。例えば、無効電力偏差と想定無効電力変化量との差が所定の閾値を上回った場合(無効電力偏差-想定無効電力変化量>閾値)、単独運転可能性判定部176は単独運転可能性有りと判定する。なお、上記差の絶対値に対して閾値を設定してもよい。また、上記所定の閾値は、正側と負側との偏差で異なる値を設定してもよい。
【0105】
なお、g-rateが連系運転時に注入される無効電力が例えば0.25p.u.に近い数値となるような値として設定されているリミット値となった場合にのみ単独運転可能性判定を行うことにより、誤判定を防止することが可能である。また、設定回数以上連続して閾値を超えた場合に単独運転可能性有りと判定することにより、誤判定を防止することが可能である。さらに、閾値について、マージンを持って設計することにより、誤判定を防止することが可能である。
【0106】
誤判定を防止するための具体的な数値例としては、有効電力5500Wで出力している場合に、g-rateがリミット値となっている状態でかつ無効電力偏差が140var以下を4半周期連続で下回れば単独運転可能性有りと判定する。
【0107】
単独運転可能性判定部176は、単独運転可能性有無の判定結果を電流制御処理部150へ出力する。
【0108】
電流制御処理部150は、単独運転可能性判定部176から出力される単独運転可能性有無の判定結果に基づいて、インバータ部160からの出力を停止させるための処理を実行する。例えば、電流制御処理部150は、単独運転可能性有りと判定された場合、インバータ部160の運転を停止させる(出力停止処理)。
【0109】
または、電流制御処理部150は、単独運転可能性有りと判定された場合、能動的単独運転検出部141における能動的単独運転検出の判定基準を緩めることにより、インバータ部160の出力が停止しやすくする(判定基準緩和処理)。
【0110】
例えば、能動的単独運転検出部141では、通常の能動的単独運転検出判定の判定基準として、5周期(判定周期)以上連続で同一方向に周波数が変動し、かつ直近周波数が数周期前の周波数に対して1.2Hz以上変動した場合に、単独運転を能動検出する。そのため、単独運転可能性判定部176によって単独運転可能性有りと判定がされた場合は、例えば3周期以上連続で同一方向に周波数が変動し、かつ直近周波数が数周期前の周波数に対して0.7Hz以上変動している場合に単独運転を能動検出するように、能動的単独運転検出の判定基準の閾値(判定閾値)を緩める。これにより、通常の能動的単独運転検出が行われる場合と比較して高速にインバータ部160の出力を停止させることが可能となる。
【0111】
また、判定基準を緩めるほかに、単独運転可能性判定部176によって単独運転可能性判定有りと判定された場合に、異なる別の判定基準に切り替えてもよい(判定基準切替処理)。例えば同一方向に何回か周波数が変動しているか否かを判定に含めず、直近周波数が数周期前の周波数に対してある閾値(例えば0.7Hz)以上変動しているか否かのみで能動的単独運転検出判定を行ってよい。あるいは、電圧高調波が判定閾値(例えば2V)以上変動していることを判定基準とする等の全く別の閾値を用いてもよい。
【0112】
さらに、閾値を緩める量に関して、無効電力の偏差と想定される無効電力変化量との差分に応じて緩める量を決定するとより単独運転検出の誤動作を防止することが可能となる。例えば、無効電力の偏差と想定される無効電力の変換量との差分が非常に大きい場合は大幅に閾値を緩め、差分が僅かな場合は少しだけ閾値を緩めるようにすることにより、誤動作を防止することができる。閾値を緩める量の数値は線形に演算により求めてもよいし、テーブルを持っていてもよい。
【0113】
このように、単独運転可能性有りと判定された場合にインバータ部160の出力を停止させる処理を実行することにより、より確実に単独運転を検出して、PCS101の運転を停止させることができる。
【0114】
(第2構成例)
上記第1構成例では、無効電力の偏差を算出して単独運転可能性判定処理を実行する構成であるが、無効電力の偏差ではなく、無効電力そのもので単独運転可能性判定処理を実行してもよい。すなわち、算出した無効電力と想定される無効電力との差が所定の閾値を上回った場合、単独運転可能性有りと判定してもよい。
【0115】
この場合、想定される無効電力を出力電流およびg-rateから算出し、実際に演算した無効電力と比較して単独運転可能性を判定する。
【0116】
このように算出した無効電力と想定される無効電力との差に基づいて単独運転可能性を判定する構成であれば、保存した過去の無効電力配列を用いることなく単独運転可能性を判定することができるため、過去の無効電力配列の保存が不要となる。
【0117】
(第3構成例)
図21は、単独運転可能性判定処理部170を備えたPCSの第3構成例を示す全体ブロック図である。このPCS102は、出力電流が想定と異なるか否かに基づいて単独運転可能性の有無を判定し、単独運転可能性有りと判定された場合にインバータ部160からの出力を停止させる処理を実行する。すなわち、PCS102は、出力電流に基づいて単独運転可能性の有無を判定する点において、無効電力に基づいて単独運転可能性の有無を判定する上記PCS101とは異なる。本図に示したように、PCS102の単独運転可能性判定処理部170は、想定出力電流算出部177、単独運転可能性判定部176を含む。
【0118】
想定出力電流算出部177は、g-rate≠1の場合における周期において、1周期または半周期内のいずれかの時点またはある期間のPWMデータDp’および系統電圧ゼロクロス点からの時間に対して、想定出力電流(出力電流が、系統連系状態の場合にはおおよそこれだけ出力されると想定される数値)を算出する。
【0119】
図22は、想定出力電流算出部177における想定出力電流の算出例を説明するためのグラフである。本図に示したように、系統連系時(図22の1002)と単独運転時(図22の1003)とでは、電圧ゼロクロスから同じ距離の点において電流が異なる。そのため、想定出力電流算出部177は、電圧ゼロクロスからの各ポイントおよび出力電流の大きさの2つを保存した想定出力電流のテーブルを有し、該テーブルを用いて想定無効電力変換量を算出することができる。または、想定出力電流算出部177は、演算により数値を算出してもよい。想定出力電流算出部177は、算出した想定出力電流を単独運転可能性判定部176へ出力する。
【0120】
PCS102では、単独運転可能性判定部176は、出力電流と想定出力電流算出部177から出力される想定出力電流とに基づいて、単独運転可能性の有無を判定する。例えば、出力電流と想定出力電流との差が所定の閾値を上回った場合(出力電流-想定出力電流>閾値)、単独運転可能性判定部176は単独運転可能性有りと判定する。
【0121】
このように出力電流に基づいて単独運転可能性の有無を判定することにより、上記第1構成例で説明した無効電力の演算を行う必要がなく、処理速度を高速にすることが可能となる。なお、この場合においても誤判定を防止するための上述した方法は有効である。
【0122】
(第4構成例)
単独運転可能性判定処理部170は、上記第1~3構成例での判定が行われた場合に、さらにPWMデータDp’に高調波歪を重畳させてもよい。その場合に想定される出力電流への高調波歪重畳量に比べて高調波歪重畳量が小さい場合、単独運転可能性有りと判定する。なお、高調波歪の重畳処理は、上記第1~3構成例に関係なく単独で行ってもよい。
【0123】
<その他の変形例>
なお、本発明の構成は、上記実施形態のほか、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち、上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【0124】
〔ソフトウェアによる実現例〕
上述したPCSの制御ブロック(CPU)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0125】
後者の場合、PCSは、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば少なくとも1つのプロセッサ(制御装置)を備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な少なくとも1つの記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路等を用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)等をさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0126】
(まとめ)
本発明の態様1に係るインバータ装置は、直流電力を交流電力に変換して交流電力系統に系統連系させる電力変換部を備え、系統周波数をモニタして単独運転を検出するインバータ装置であって、前記系統周波数の偏差に応じた無効電力を注入することで前記系統周波数の周波数変化を促し、高調波歪みの急増が検出されたときに前記無効電力をステップ注入することで強制的に前記系統周波数の偏差を生じさせ、単独運転可能性の有無を判定し、単独運転可能性有りと判定した場合、前記電力変換部の出力を停止させるための停止処理を実行する。
【0127】
上記の構成によれば、より確実に単独運転を検出し、運転を停止させることができるインバータ装置を提供することが可能となる。
【0128】
本発明の態様2に係るインバータ装置では、上記態様1において、前記電力変換部から出力される無効電力または無効電力の偏差を算出し、算出した前記無効電力または無効電力の偏差と、想定される前記無効電力または前記無効電力の変化量との差が所定の閾値を上回った場合、単独運転可能性有りと判定する構成であってもよい。
【0129】
本発明の態様3に係るインバータ装置では、上記態様2において、前記想定される前記無効電力または前記無効電力の変化量を、前記電力変換部の出力電流および前記電力変換部を制御するPWMデータの読み出しカウンタの増加率から算出する構成であってもよい。
【0130】
本発明の態様4に係るインバータ装置では、上記態様1において、前記電力変換部から出力される出力電流を計測し、計測した前記出力電流と、想定される前記電力変換部から出力される出力電流との差が所定の閾値を上回った場合、単独運転可能性有りと判定する構成であってもよい。
【0131】
本発明の態様5に係るインバータ装置では、上記態様1から4のいずれか態様において、前記停止処理は、前記電力変換部の出力を停止させる出力停止処理である構成であってもよい。
【0132】
本発明の態様6に係るインバータ装置では、上記態様1から4のいずれかの態様において、前記停止処理は、能動的単独運転検出の判定基準を緩める判定基準緩和処理である構成であってもよい。
【0133】
本発明の態様7に係るインバータ装置では、上記態様6において、前記判定基準は、前記系統周波数の偏差が所定の判定閾値を上回った場合に能動的単独運転検出を行うものであり、前記判定基準緩和処理は、前記判定閾値を小さくする処理である構成であってもよい。
【0134】
本発明の態様8に係るインバータ装置では、上記態様6または7において、前記判定基準は、所定の判定周期以上連続して、前記系統周波数の偏差が所定の判定閾値を上回った場合に能動的単独運転検出を行うものであり、前記判定基準緩和処理は、前記判定周期の期間を短くする処理である構成であってもよい。
【0135】
本発明の態様9に係るインバータ装置では、上記態様7において、前記判定閾値を小さくする量を、前記無効電力または前記無効電力の偏差と、想定される前記無効電力または前記無効電力の変化量との差に基づいて算出する構成であってもよい。
【0136】
本発明の態様10に係るインバータ装置では、上記態様1から4のいずれかの態様において、前記停止処理は、能動的単独運転検出の判定基準を別の判定基準に切り替える判定基準切替処理である構成であってもよい。
【0137】
本発明の態様11に係るインバータ装置では、上記態様10において、前記判定基準切替処理は、電圧高調波が閾値を超えた場合に能動的単独運転検出を行うように前記判定基準を切り替える処理である構成であってもよい。
【0138】
本発明の態様12に係る分散型電源システムは、直流電源と、前記直流電源から入力される直流電力を交流電力に変換して交流電力系統に系統連系させる上記態様1から11のいずれかのインバータ装置と、前記交流電力の供給を受けて動作する負荷とを有する。
【0139】
上記の構成によれば、より確実に単独運転を検出し、インバータ装置の運転を停止させることができる分散型電源システムを提供することが可能となる。
【0140】
本発明の態様13に係る分散型電源システムでは、上記態様12において、前記直流電源は、PVモジュールである構成であってもよい。
【0141】
なお、本発明の各態様に係るインバータ装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを上記インバータ装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより上記インバータ装置をコンピュータにて実現させるインバータ装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【符号の説明】
【0142】
1 インバータ装置
2 直流電源
3 負荷
4 インバータ主回路
5 電圧検出器
6 ゼロクロス検出回路
7 電流検出器
8 A/D変換器
9 DSP
10 電圧異常検出回路
11 タイマ・カウンタ回路
12 ゲート駆動回路
13 リアクトル
14 コンデンサ
15 フィルタ
16 交流電力系統
17 遮断器
18 柱上トランス
19 電流基準波形メモリ
20 乗算部
21 誤差信号作成部
22 誤差波形パターン積分回路
23 PWM処理回路
24 PWMメモリ
25 ゼロクロス周期検出処理回路
100 PCS(パワーコンディショナ)
101 PCS(パワーコンディショナ)
102 PCS(パワーコンディショナ)
110 系統周波数計測部
111 周波数検出回路
112 周波数計測処理部
113 位相差計測同期処理部
120 周波数フィードバック部(無効電力注入部)
121 第1移動平均算出部
122 第2移動平均算出部
123 周波数偏差算出部
124 無効電力注入量算出部
125 加算部
130 無効電力ステップ注入部
131 基本波電圧計測回路
132 高調波電圧計測回路
133 基本波電圧算出部
134 高調波電圧算出部
135 ステップ注入発生条件判定部
136 ステップ注入量算出部
140 単独運転検出部
141 能動的単独運転検出部
142 受動的単独運転検出部
150 電流制御処理部
160 インバータ部(電力変換部)
170 単独運転可能性判定処理部
PW 交流電力系統
X 太陽光発電システム(分散型電源)
X1 PCS(インバータ装置)
X2 PVパネル
X11 系統連系インバータ部
X12 単独運転防止機能部
X13 単独運転防止助長部
Y 負荷装置
H 需要家
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22