(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】フィルム及び衛生用品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/15 20060101AFI20240613BHJP
A61L 15/28 20060101ALI20240613BHJP
A61L 15/42 20060101ALI20240613BHJP
A61F 13/514 20060101ALI20240613BHJP
D04H 1/4382 20120101ALI20240613BHJP
D04H 1/425 20120101ALI20240613BHJP
【FI】
A61F13/15 110
A61L15/28
A61L15/42 300
A61F13/514 100
D04H1/4382
D04H1/425
(21)【出願番号】P 2020014275
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(72)【発明者】
【氏名】林 蓮貞
(72)【発明者】
【氏名】福井 俊巳
(72)【発明者】
【氏名】丸田 彩子
(72)【発明者】
【氏名】伊東 結
【審査官】西尾 元宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/168393(WO,A1)
【文献】特開2018-167019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/15-13/84
A61L 15/16-15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が3nm~500nm、表面の水酸基がアセチル化修飾されたアセチル化修飾セルロースナノファイバーより構成され、前記アセチル化修飾セルロースナノファイバーのアセチル基の平均置換度が、
0.15~0.83であり、平均細孔径5~100nmの細孔を有することを特徴とする
水中分解性フィルム。
【請求項2】
前記アセチル化修飾セルロースナノファイバーのアスペクト比が50倍以上であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のフィルムを防漏材に使用したことを特徴とする衛生用品。
【請求項4】
前記衛生用品がおむつ又は生理用ナプキンであることを特徴とする請求項3に記載の衛生用品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
水中分解性、生分解性、ガス透過性と水漏れ防止性を有するフィルムに関する。また、これらフィルムを使用することで水中分解と生分解が可能なおむつ、生理用品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工物であるプラスチックごみの増大が社会的に大きな問題となっており、生分解性を有する素材への期待が高まっている。しかし、生分解性を有する素材の多くは従来用いられているポリマー材料と同等の各種特性を発現することが容易ではない。このような中、各種機能性を付与した生分解性材料への要求が高まっている。耐水性、通気性、実用的な使用に耐えうる機械特性を有するフィルム材料としてポリオレフィンがあげられるが、同等の機能を有する生分解材料はいまだ開発されていない。例えば、生物由来のセルロースは生分解性を有するが、耐水性や機械特性に課題があるため薄いフィルム形成には適用できない。
【0003】
具体的な生分解性フィルムの適用が求められる分野として、おむつや生理用品があげられる。今後おむつなどの使用量は、将来的な高齢化社会を迎えにあたり大幅な需要の増加が見込まれる。簡便な処理方法が提供できなければ、その廃棄物処理が今後の大きな社会的な問題となり、おむつなどの簡便な処理方法の開発が求められている。
【0004】
おむつは、表面材(トップシート)、立体ギャザー、吸水材、防水材(バックシート)より構成されている。一般的なおむつは、表面材(トップシート)としてポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン、不織布と伸縮性素材で構成された立体ギャザー、吸水材として綿状パルプ、高分子吸水材、ポリオレフィン不織布などでの構成物、防水材(バックシート)として通気性のあるポリオレフィンシートが用いられている。
【0005】
また、ナプキンは、表面材、吸水材、防漏材、固定材より構成されている。一般的なナプキンは、表面材として不織布と開口フィルム(メッシュポリエチレン)、コットンなど、吸水材として綿状パルプ、高分子吸水材、ポリオレフィン不織布などの構成物、防漏材として不織布と伸縮性素材、フィルム素材や撥水性不織布、固定材は、粘着テープなどが用いられている。
ここで、生分解性を利用した処理が可能となれば、前記問題の重要な解決策の一つとなり、その技術開発への期待が高まっている。しかし、前記のようにその構成材料に一つでも生分解性を有さない素材が用いられた場合、その素材の分離などを行わない限り、生分解処理槽への投入は実施不可能である。
【0006】
生分解性を有する防水フィルムに関しては、水溶性防水フィルムの技術としてポリビニルアルコールと基材ポリマーをセラック樹脂誘導体とする生分解性防水層からなる防水フィルムに関する技術(特許文献1)及び米糠成分を除去したコメの外層組織成分を主成分とする所定粒径の固形粒を合成生分解性樹脂により結合された生分解性樹脂組成物をシート状に成型した生分解性シートに関する技術(特許文献2)等の先行技術がある。
しかし、単一材料で生分解性と水中分解性を有するフィルムではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-142426号
【文献】特開2013-142153号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、水中分解性、生分解性、ガス透過性と水漏れ防止性を有し、水中解砕できる機械的強度の良いフィルムを提供することにある。更には、水中分解性と生分解性を有する衛生用品(おむつの表面材、生理用品の防漏材等)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究の結果、水中分解性、生分解性、ガス透過性と水漏れ防止性を有するセルロースナノファイバーフィルム及び、これらフィルムを用いた衛生用品(おむつ、生理用品等)の防漏材を見出した。
本発明の課題の一つである水中分解性、生分解性を達成するためには、基本材料として生分解性を有しつつ、適度な繊維幅と繊維長を持つアセチル化修飾セルロースナノファイバーを用いる必要がある。一方、通気性と水漏れ防止性を両立するためには、繊維径の制御による適度な細孔が必要である。さらに、吸液しても一定時間、形状を保持可能な機械強度を保つためには、ナノファイバーの長さ又はアスペクト比が重要である。
【0010】
つまりは、上記課題を解決する本発明は、以下の技術的手段から構成される。
〔1〕 平均繊維径が3nm~500nm、表面の水酸基がアセチル化修飾されたアセチル化修飾セルロースナノファイバーより構成され、前記アセチル化修飾セルロースナノファイバーのアセチル基の平均置換度が、0.1~1.5であり、平均細孔径5~100nmの細孔を有する水中分解性と水漏れ防止性を具備することを特徴とするフィルム。
〔2〕 前記アセチル化修飾セルロースナノファイバーのアスペクト比が50倍以上であることを特徴とする前記〔1〕に記載のフィルム。
〔3〕 前記〔1〕又は〔2〕に記載のフィルムを防漏材に使用したことを特徴とする衛生用品。
〔4〕 前記衛生用品がおむつ又は生理用ナプキンであることを特徴とする前記〔3〕に記載の衛生用品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本来並立しにくい水中分解性、生分解性、通気性、水漏れ防止性及び機械的強度の良好性を達成することが可能になる。生分解性を有するアセチル化修飾セルロースナノファイバーをフィルムの基本部材とし、アセチル化修飾セルロースナノファイバーのアセチル基の平均置換度及び繊維径、さらには、アスペクト比を制御することにより達成される。また、本発明のフィルムが、従来おむつや生理用ナプキンに用いる防漏材のポリオレフィンシートに代えて用いることで、機能性を損なうことに加えて、水中分解と生分解性を付与することが可能となる。特に、無修飾セルロースナノファイバーのフィルムに比べて、セルロースのアセチル化修飾により機械的強度が向上し、機能性はさらに改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のフィルムを用いた生理用ナプキンの概略図
【
図2】本発明のフィルムを用いたおむつの断面の概略図
【
図3】実施例1のアセチル化修飾セルロースナノファイバーフィルムのSEM写真
【
図4】実施例1のアセチル化修飾セルロースナノファイバーフィルムの細孔分布
【
図5】実施例2のアセチル化修飾セルロースナノファイバーフィルムのSEM写真
【
図6】実施例2のアセチル化修飾セルロースナノファイバーフィルムの細孔分布
【
図7】実施例3のアセチル化修飾セルロースナノファイバーフィルムのSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のフィルムはアセチル化修飾セルロースナノファイバーを構成素材とする。アセチル化修飾率を制御することにより、フィルムの水中分解性及び生分解性を付与するとともに、フィルムの吸湿後の機械強度を高めることが可能となる。また、繊維径とアスペクト比を本発明の範囲にすることで水中分解性、水漏れ防止性、ガス透過性をフィルムに付与できる。
【0014】
これらの特性を満たすために、平均繊維径が3nm~500nmのセルロースナノファイバーが好ましい。より好ましくは4~400nm、最も好ましくは5~300nmである。3nmより細くなると、セルロースナノファイバーの結晶性が失う恐れがあるため好ましくない。結晶性が失うとフィルムの機械強度と通気性が低下したり、酢酸セルロースフィルムのように水中分解ができなくなったりするため好ましくない。一方、500nm以上になると形成されるフィルムの細孔が大きいため水漏れ防止効果が低下し、防漏材として適用できなくなるため好ましくない。
【0015】
アセチル化修飾セルロースナノファイバーのアセチル基の平均置換度は、0.1~1.5が好ましい。0.1以下になると、前記に記載されたアセチル化修飾に対する効果が低いため好ましくない。一方、アセチル化修飾率が1.5以上になると、セルロースナノファイバーの疎水性が強くなり、吸水性がなくなり、水中分解性と生分解性が失う恐れがあるため好ましくない。より好ましくは、0.15~1.2、最も好ましくは0.2~1.0である。
【0016】
アセチル化修飾セルロースナノファイバーのアスペクト比は、50倍以上であることを望ましい。さらに好ましくは60、もっと好ましくは70以上である。フィルムの機械強度、特に吸湿後フィルムの機械強度はアスペクトに大きく依存する。アスペクト比が50より小さくなるとフィルムが使用さる際に亀裂したり、水漏れしたりする恐れがあるため好ましくない。
【0017】
本発明で用いられるアセチル化修飾セルロースナノファイバーは特に制限しない。例えば、国際公開WO2017/159823号の実施例2から6、9及び11が記載の方法を参考して調製すればよい。
他の例を示せば、ジメチルスルホキシド90g、酢酸ビニル10、炭酸カリウム1gとセルロースパルプ3gを300mlの三口フラスコに加え、60℃のオイルバスにいれて加熱しながら2時間攪拌することによりアセチル化修飾セルロース微細繊維が得られた。水とエタノールの水溶液を用いて洗浄した後、水/エタノール(50/50、重量比)の混合溶媒に分散し、機械解繊によりアセチル化セルロースナノファイバーの分散液が得られる。解繊装置として、スーパーマスコロイダーに代えて、グラインダー、高圧ホモジナイザー、ビーズミールなども適用する。
原料として用いるセルロースパルプは特に制限しないが、木材パルプ、リンターパルプ又は農産物に由来するパルプが挙げられる。汎用性と流通の面から特に好ましくは木材パルプである。解繊溶媒におけるパルプの濃度は特に制限しないが、解繊効果を考慮して1~10重量%が好ましい。
【0018】
本発明のフィルムの成形法は特に制限しないが、例えば、セルロースナノファイバー分散液を流延して乾燥することにより作製できる。セルロースナノファイバーの分散溶媒として、例えば、水、アルコール類、アミド類、セロソルブ類などセルロースとの親和性が高い溶媒が好ましい。特に好ましくは、水、エタノールとジメチルアセトアミドである。分散液中のセルロースナノファイバー濃度は、流延性を考慮して0.2~10%が好ましい。もっと好ましくは、0.5%~5%、最も好ましくは0.7%~4%である。0.2より低くなると、生産性が低いことに加え、できたフィルムの機械強度と外観が良くないため好ましくない。また、10%を超えると、粘度が高くなり、流動性や流延性が低下し、フィルムの均一性が低下する恐れがあるため好ましくない。フィルムを成形する時、溶媒を蒸発させる温度は溶媒の種類に応じて調整すればよい。例えば、30~150℃、もっと好ましくは50~120℃である。温度が低すぎると乾燥時間が長い、逆に温度が高すぎると溶媒の激しく蒸発により気泡が発生し、物性が低下する恐れがある。
【0019】
本発明のフィルムは、適度な細孔を有するためガス透過できる。また、セルロースから得られたナノファイバーであるため、分解酵素と接触することにより分解できる。そのため、環境や地球にやさしい。このようなフィルムをおむつや生理用ナプキンの防漏材として用いると、トイレットに直接に流されて、自然界で生分解性させることも可能である。
【0020】
アセチル化修飾セルロースナノファイバーより構成されたフィルムの細孔径は、通気性は動的分子直径以上の細孔があれば良いが、小さすぎると通気性が低下するため平均細孔径が5nm以上であることが好ましい。水が通過可能であるかは、素材の水に対する親和性と細孔径により決定される。従って、水漏れ防止性を付与するためには、平均細孔径が500nm以下であることが必要である。より好ましくは、平均細孔径が100nm以下である。
【0021】
本発明で記載する細孔径は、下記の手法により計測されたものである。フィルムの電子顕微鏡(SEM)により得られた観察像を、画像処理ソフトImageJ(https://imagej.nih.gov/ij/)を用いて、二値化により細孔部のみをピックアップした後、細孔径と数を計測した。計測された細孔径と数を細孔径分布としてプロッとした。
【0022】
フィルムを廃棄した後の生分解性を効率的に行うためにフィルムの水中での物理的に分解又は解砕できる特性が重要となる。水中分解性は、素材の水に対する親和性が大きく影響し、本発明のフィルムは親水性の高いセルロースナノファイバーの集合体であるので水中粉砕生に優れる。
【0023】
一方、通気性を確保するためには、細孔径を5~500nmとすることが好ましい。この細孔径を達成するためには、使用するセルロースナノファイバーの繊維径は3~100nmであることが好ましい。より好ましくは、細孔径を5~100nmであり、セルロースナノファイバーの繊維径は3~50nmである。更に好ましくは、細孔径を5~50nmであり、セルロースナノファイバーの繊維径は3~10nmである。
【0024】
形成されたフィルムの機械的強度を維持するためには、セルロースナノファイバーの絡み合い構造の形成が重要となる。そのためには、セルロースナノファイバーの繊維長が重要となり、アスペクト比が50倍以上であることが好ましい。
【0025】
セルロースナノファイバーフィルムの膜厚は1μm~1000μmの範囲内であることが好ましい。この範囲より薄くなると使用の間に破ったり、亀裂生じたりする恐れがある。一方、この範囲より厚くなると水中分解し難くなったり、着用の風合が悪くなったりする恐れがあるため、好ましくない。
【0026】
本発明のフィルムは、平均繊維径が3nm~500nmで、表面の水酸基が平均置換度0.1~1.5でアセチル化修飾されたアセチル化修飾セルロースナノファイバーより構成されているため、無修飾セルロースナノファイバーのフィルムに比べて、吸水性が弱く機械的強度が向上するため、裂けにくく破れにくいフィルムとすることができる。
【0027】
本発明のフィルムは、水中分解性、水漏れ防止性、ガス透過性等の特徴を有るため、衛生用品の防漏材に使用することができる。本発明のフィルムを使用する防漏性を必要とする衛生用品の種類には制限はないが、例示するとおむつ、生理用ナプキン、おりもの吸収パッド、失禁者用パッド、包帯、絆創膏、サージカルテープ、ベッドシーツ、エプロン、マスク、手袋等があり、その中でもおむつ、生理用ナプキン、おりもの吸収パッド及び失禁者用パッドに使用するのが好適である。
【0028】
本発明のフィルムを用いた生理用ナプキンの一例として概略図を
図1に示す。
図1に示す生理用ナプキン1は、ガーゼを用いた透液性の表面シート層11と、脱脂綿を用いた吸液材層12とセルロースナノファイバー(CNF)を用いた防漏の裏シート層13を含んで構成される。表面シート層11は、着用者の排泄物の吸液材層への透過を促進する役割とする。吸液材層12は着用者の排泄物を吸収、吸着するためである。裏シート層13は着用者の排泄物の外への漏れを防止するためである。
【0029】
本発明のフィルムを用いたおむつの一例としてその断面の概略図を
図2に示す。
図2に示すおむつ2は、ガーゼを用いた透液性の表面シート層21と、CMCを用いた吸液材層22とセルロースナノファイバー(CNF)を用いた防漏の裏シート層23を含んで構成される。表面シート層21は、着用者の排泄物の吸液材層への透過を促進する役割とする。吸液材層22は着用者の排泄物を吸収、吸着するためである。裏シート層23は着用者の排泄物の外への漏れを防止するためである。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、用いた原料の詳細は以下の通りであり、得られた修飾セルロースナノファイバーの特性は以下のようにして測定した。
【0031】
(用いた原料と溶媒)
セルロースパルプ:市販針葉樹木材パルプ(Georgia Pacific社製、商品名:フラッフパルプARC48000GP)を用いた。1センチ角に千切ってから用いた。
ろ紙:アドバンテックのNo.5cを用いた
アセチル化セルロースフィルム:ダイセル(株)社製のセルロースジアセテート(L-20)1gとTHF15gを50mlのサンプル瓶に加え、磁性スターラーを用いて室温で透明な溶液になるまで攪拌した。得られた溶液をポリプロピレン基板の上に流延し、室温でTHFが完全に蒸発するまで放置することによりアセチル化セルロースフィルムを調製した。フィルムの厚みは12μmであった。
他の原料および溶媒:ナカライテスク(株)製の試薬を用いた。
【0032】
(セルロースナノファイバーの繊維径とアスペクト比の評価)
セルロースナノファイバーの形状はFE-SEM(日本電子(株)製「JSM-6700F」、測定条件:20mA、60秒)を用いて観察した。なお、平均繊維径および平均繊維長は、SEM写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出した。
【0033】
(アセチル化修飾セルロースナノファイバーの平均置換度)
平均置換度とは、セルロースの繰り返し単位1個当たりの修飾された水酸基の数(置換基の数)の平均値である。本発明は、下記手法によりアセチル基の平均置換度(DS)を評価した。即ち、水酸化ナトリウム、エタノールと蒸留水を含む加水分解溶液にアセチル化修飾セルロースナノファイバーを分散させ、23℃の室温で4hr撹拌することによりエステル結合を切断し、アセチル化修飾セルロースナノファイバーを無修飾セルロースナノファイバーに変化した。外れたアセチル基は酢酸ナトリウムになり、そのモル数は滴定法により定量し、下記式(1)により平均置換度を算出した。
平均置換度DS=C/M (1)
Mは、セルロースの構成単位である無水グルカンのモル数、Cはアセチル基のモル数である。
【0034】
(防漏試験)
20mlのガラスサンプル瓶に10mlの水を入れてから、サンプル瓶口に2.5cmの円形に裁断したセルロースナノファイバーフィルムを市販接着剤で粘着させて、サンプル瓶を逆置いた。サンプル瓶内の水量やセルロースフィルムの亀裂が生じるかを24時間観察し続いた。24時間が経ってもサンプル瓶内の水量が99%以上維持できるかつフィルムに亀裂が生じない場合、防漏性を◎で付けた。一方、8時間以上12時間以下の場合は〇で付けた。8時間以内の場合は×で付けた。
【0035】
(水中分解性の評価)
3cm角(厚み15μm)のセルロースナノファイバーフィルムと6mlの蒸留水を20mlのサンプル瓶に入れて磁性スターラーで攪拌し、フィルムは細かく解砕するまでの攪拌時間を水中分解時間とする。
【0036】
(乾燥状態のフィルムの引張物性)
23℃、湿度60%の環境で24時間保持したフィルムの引張強度をMinebea社の LTS-1KNB-S50の引張試験機で測定した。
【0037】
(吸水したフィルムの引張物性)
セルロースナノファイバーフィルム(5cm×5cm)と蒸留水200mlをステンレスバッドに入れて23℃の室温で24時間静置した後、Minebea社の LTS-1KNB-S50の引張試験機で引張物性を測定した。
【0038】
[実施例1]
3ジメチルスルホキシド90g、酢酸ビニル10、炭酸カリウム1gとセルロースパルプ3gを300mlの三口フラスコに加え、60℃のオイルバスにいれて加熱しながら2時間攪拌することによりアセチル化修飾セルロース微細繊維が得られた。水とエタノールの混合溶媒を洗浄溶媒として用い、濾過法により洗浄した。次に、水/エタノール(50/50、重量比)の混合溶媒に分散し、増幸産業社のスーパーマスコロイダーMKCA6-5JR(砥石型番:MKE6-46とMKGC6-80)を用いて追加解繊することによりアセチル化セルロースナノファイバーの分散液が得られた。得られたアセチル化修飾セルロースナノファイバーの分散液を遠心分離機で濃縮した後、DMAcに再分散してから再度度遠心分離により濃縮した。同じ作業を3回繰り返すことによりセルロースナノファイバーとDMAc混合ペースとが得られた。混合ペーストにDMAcを加えて、磁性スターラーでの攪拌により固形分濃度が約1.2%重量のアセチル化セルロースナノファイバーのDMAc分散液を調製した。得られたアセチル化修飾セルロースナノファイバーの平均置換度は0.83であった。DMAc分散液30mlを15cm×15cmのポリプロピレン基板の上に流延して、90℃のホットプレートの上にDMAcが全部揮発するまで静置することによりフィルムが得られた。得られたセルロースナノファイバーフィルムの厚さをマイクロメーターで測定した結果、14μmであった。フィルムの機械強度、防漏性、水中解砕を評価した結果を表1に示した。フィルムの電子顕微鏡(SEM)写真を
図3、細孔分布の測定結果を
図4に示す。セルロースナノファイバーの繊維径は約20nm、フィルムの細孔径は8~100nmに分布しており、平均細孔径は約22nmである。
【0039】
[実施例2]
炭酸カリウム1gに代えて炭酸カリウム0.5gを用いた以外は実施例1と同じ方法で平均置換度0.41のアセチル化修飾セルロースナノファイバーが得られた。同じ1.2重量%のDMAc分散液を調製し、実施例1と同じ手法と条件でアセチル化セルロースフィルムを調製した。厚みを評価した結果、11μmであった。フィルムの機械強度、防漏性、水中解砕を評価した結果を表1に示した。フィルムの電子顕微鏡(SEM)写真を
図5、細孔分布の測定結果を
図6に示す。セルロースナノファイバーの繊維径は約18nm、フィルムの細孔径は8~95nmに分布しており、平均細孔径は約21nmである。
【0040】
[実施例3]
酢酸ビニル10gに代えて、酢酸ビニル3gを用いた以外は実施例2と同じ方法で平均置換度0.15のアセチル化修飾セルロースナノファイバーが得られた。同じ1.2重量%のDMAc分散液を調製し、実施例1と同じ手法と条件でアセチル化セルロースフィルムを調製した。厚みを評価した結果、13μmであった。フィルムの機械強度、防漏性、水中解砕を評価した結果を表1に示した。フィルムの電子顕微鏡(SEM)写真を
図7に示す。セルロースナノファイバーの繊維径は約30nmである。
【0041】
[実施例4]
実施例1のアセチル化修飾セルロースナノファイバーフィルムを防漏材として用いたナプキンの評価について、実施例を用いて説明する。まず、
図7に示すような構造を持つ生理用ナプキンの作製手順について説明する。実施例1で作製したセルロースナノファイバーフィルムを長15cm×幅8cmの形状に裁断してナプキンの裏面の防漏シートとして用いる。その上に吸液材の脱脂綿(厚さ5mm)を貼り付け、脱脂綿の上に表面シートのガーゼを貼り付けた後、三層の周りをビニル粘着テープで固定することにより評価用ナプキンを組み合わせた。ナプキンの液漏れを次の手法で評価した。ナプキンの表面を上向けて、その上にコンゴレットで着色した蒸留水10mlを滴下し、滴下後に30分毎に、裏面から水が染み出すかを確認続いた。8時間まで水漏れが見られなかった。
【0042】
[実施例5]
実施例1のアセチル化修飾セルロースナノファイバーフィルムを防漏材として用いたおむつの評価について、実施例を用いて説明する。まず、テープ止めタイプおむつの作製手順について説明する。表面シート(ガーゼシート)と吸液材(脱脂綿)に代えてガーゼカバーに高吸水性のカルボキシメチルセルロース(CMC)を入れて吸液材として用いた以外実施例4の手法と同様に、テープ止めタイプおむつを作製した。イメージを
図8に示す。おむつの液漏れを実施例4と同じ手法で評価した。即ち、コンゴレットで着色した蒸留水10mlをガーゼの面から滴下後に30分毎に、裏面から水が染み出すかを確認続いた。8時間まで水漏れが見られなかった。
【0043】
[実施例6]
実施例2のアセチル化修飾セルロースナノファイバーフィルムを用いた以外実施例4と同様にナプキンの防漏材としての評価を行った。8時間まで水漏れが見られなかった。
【0044】
[実施例7]
実施例3のアセチル化修飾セルロースナノファイバーフィルムを用いた以外実施例6と同様にナプキンの防漏材としての評価を行った。8時間まで水漏れが見られなかった。
【0045】
実施例4~7のナプキンとおむつを水中に分散し、攪拌することでガーゼ以外は水中解砕が可能であることが確認された。
【0046】
[比較例1]
炭酸カリウム1gを炭酸カリウム1.5g、反応時間2時間を3時間に変更した以外は実施例1と同じ方法で平均置換度1.55のアセチル化修飾セルロースナノファイバーが得られた。同じ1.2重量%のDMAc分散液を調製し、実施例1と同じ手法と条件でアセチル化セルロースフィルムを調製した。厚みを評価した結果、10μmであった。フィルムの機械強度、防漏性、水中解砕を評価した結果を表1に示した。防漏性があったものの、水中で4時間以上攪拌し続いても全く分解しなかった。
【0047】
[比較例2]
アセチル化修飾セルロースナノファイバーフィルムに代えて、セルロースアセテートフィルムを用いた以外、実施例4と同様にナプキンを作成し、水漏れを観察した結果、水漏れがないものの、水中解砕は不可能であった。
【0048】
[比較例3]
パルプのアセチル化修飾反応をさせず、解繊溶媒をDMSOにした以外、実施例1と同じ解繊方法で無修飾セルロースナノファイバーとそれを用いてフィルムを成形した。厚みを評価した結果、13μmであった。フィルムの機械強度、防漏性、水中解砕を評価した結果を表1に示した。フィルムの電子顕微鏡(SEM)写真を
図3、細孔分布の測定結果を
図4に示す。形状は実施例1とほぼ同等であるが、24時間親水後、引張強度は1.5MPa、引張弾性率は100MPa以下まで低下した。吸水後強度が大きく低下したため、使用中に亀裂したり、破れたりする可能性が高いことを示唆された。
【0049】
以上の実施例と比較例から、実施例1~3と比較例1及び3の評価結果を比較して表1にまとめた。
【表1】
【0050】
防漏性はアセチル化修飾率に関係しなかった。また、アセチル化修飾率が高いほど、水中浸漬後の引張強度と弾性率の維持率が高くなり、フィルムの耐水性が良くなることを確認した。しかし、修飾率が1.55になると水中分解ができなくなった。これらの結果から、耐水性と水中分解性を兼備えるため、アセチル化の平均置換度を1.5以下に制御することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のフィルムは、水中分解性、生分解性、水漏れ防止性、ガス透過性等の特徴を有るため、衛生用品の防漏材に使用することができる。本発明のフィルムを使用する防漏性を必要とする衛生用品の種類には制限はないが、おむつ又は生理用ナプキンに使用するのが好適である。
【符号の説明】
【0052】
1 生理用ナプキン
2 おむつ
11、21 表面シート層
12、22 吸液材層
13、23 裏シート層