(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】放射冷却装置及び冷却方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/26 20060101AFI20240613BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240613BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20240613BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240613BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240613BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20240613BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
G02B5/26
B32B7/023
B32B7/027
B32B27/00 B
B32B27/00 N
B32B27/20 A
G02B5/08 A
G02B5/22
(21)【出願番号】P 2020058630
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-12-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】末光 真大
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-203610(JP,A)
【文献】特開2003-127259(JP,A)
【文献】国際公開第2020/022156(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/26
G02B 5/22
B32B 27/00
B32B 7/023
B32B 7/027
B32B 27/20
G02B 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、
当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置
し、前記赤外放射層を透過した光を反射する光反射層と、
着色部位と、を備え、
前記赤外放射層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整された樹脂材料層であり、
前記着色部位が、可視光領域の光を吸収する着色料を含有する放射冷却装置。
【請求項2】
前記着色料が、波長が350nm以上850nm以下の領域に可視光の吸収ピークを有する請求項1に記載の放射冷却装置。
【請求項3】
前記樹脂材料層を形成する樹脂材料は、炭素-フッ素結合、シロキサン結合、炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エーテル結合、エステル結合、ベンゼン環のいずれかを1つ以上有する樹脂材料から選択される請求項1又は2に記載の放射冷却装置。
【請求項4】
前記樹脂材料層を形成する樹脂材料が、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル樹脂、主成分をシロキサンとする樹脂、フッ素樹脂、シリコーンゴム、及びシリコーン樹脂のうち少なくとも一つを含む請求項1から3のいずれか1項に記載の放射冷却装置。
【請求項5】
前記光反射層が、銀又は銀合金で構成されている請求項1から4のいずれか1項に記載の放射冷却装置。
【請求項6】
前記樹脂材料層と前記光反射層との間に位置する保護層を備え、
前記保護層が、ポリオレフィン系樹脂、エチレンテレフタラート樹脂、又はアクリル樹脂で構成されている請求項1から5のいずれか1項に記載の放射冷却装置。
【請求項7】
前記保護層と前記樹脂材料層とを接合する接合層を備え、
前記接合層が、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、又はエチレン酢酸ビニル系樹脂で構成されている請求項6に記載の放射冷却装置。
【請求項8】
前記着色部位は、前記接合層における一部の部位又は前記接合層の全体である請求項7に記載の放射冷却装置。
【請求項9】
前記着色部位は、前記接合層と前記保護層との間に設けられた層状の部位、又は、前記接合層と前記樹脂材料層との間に設けられた層状の部位である請求項7又は8に記載の放射冷却装置。
【請求項10】
前記着色部位が、前記赤外放射層における前記放射面の存在側と同じ側に位置する層状の部位である請求項1から9のいずれか1項に記載の放射冷却装置。
【請求項11】
前記着色部位が、前記赤外放射層における一部の部位又は前記赤外放射層の全体である請求項1から10のいずれか1項に記載の放射冷却装置。
【請求項12】
前記着色料が、アゾ系、キノン系、トリアリールメタン系、シアニン系、フタロシアニン系、インジゴ系、及びポルフィリン系の化合物のうち少なくとも一つを含むである請求項1から11のいずれか1項に記載の放射冷却装置。
【請求項13】
前記着色部位に含有される前記着色料の総量を前記放射面の全体の面積で除した値である着色料含有量が、0.1185g/m
2未満である請求項1から12のいずれか1項に記載の放射冷却装置。
【請求項14】
前記赤外放射層に対して前記光反射層の存在側と反対側の最も外側に位置するハードコート層を備える請求項1から13のいずれか1項に記載の放射冷却装置。
【請求項15】
前記ハードコート層が、アクリル系樹脂で構成されている請求項14に記載の放射冷却装置。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の放射冷却装置を用いる冷却方法であって、
前記赤外放射層の前記放射面が空に向く状態で前記放射冷却装置を配置する工程と、
当該放射面から赤外光を放射させる工程と、を含む冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる光反射層と、を備える放射冷却装置、及び、当該放射冷却装置を用いる冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる放射冷却装置は、赤外放射層の放射面から放射される赤外光を大気の窓(例えば、波長が8μm以上14μm以下の大気が赤外光をよく透過させる波長域等)を通して透過させて、光反射層における赤外放射層の存在側とは反対側に位置する冷却対象を冷却する等、各種の冷却対象の冷却に用いられるものである。
【0003】
ちなみに、光反射層は、赤外放射層を透過した光(可視光、紫外光、赤外光)を反射して放射面から放射させることにより、赤外放射層を透過した光(可視光、紫外光、赤外光)が冷却対象に投射されて、冷却対象が加温されることを回避することになる。
尚、光反射層は、赤外放射層を透過した光に加えて、赤外放射層から光反射層の存在側に放射される赤外光を赤外放射層に向けて反射する作用も有することになるが、以下の説明においては、光反射層が、赤外放射層を透過した光(可視光、紫外光、赤外光)を反射するために設けられるものであるとして説明する。
【0004】
このような放射冷却装置の従来例として、赤外放射層が、SiO2の層とMgOの層とSi3N4の層とからなる層状体や、ガラス(光学ガラス)にて構成され、光反射層が、拡散反射体や、銀からなる金属層と、TiO2の層とSiO2の層とを交互に並べた多段層とを積層した状態にする多層状体にて構成されたものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2015/0338175号明細書
【文献】国際公開第2020/022156号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
放射冷却装置は、赤外放射層と光反射層とを積層した状態での反射率が、太陽光のエネルギーの強度が高い波長域(例えば、400nm以上1800nm以下の波長)に対して高い状態となるよう構成されることになる。
つまり、赤外放射層は、太陽光のエネルギーの強度が高い波長域に対する透過率が高いものであるが、光反射層が、赤外放射層を透過した光を十分に反射するように反射率が高い状態に構成されることになる。
【0007】
太陽光のエネルギーの強度が高い波長域(例えば、400nm以上1800nm以下)には、可視光の領域(400nm以上800nm以下)が含まれることになるが、光反射層が可視光の領域の光を高い反射率で反射する状態に構成される結果、赤外放射層の放射面の存在側から放射冷却装置を見ると、例えば、鏡面と同様な状態を感じる等、着色状態を感じ取れないものであった。
【0008】
しかしながら、意匠性を向上するため、赤外放射層の放射面の存在側から放射冷却装置を見たときに、ブルー、ピンク等、種々の色に着色されていることが望まれるものであった。
つまり、放射冷却装置は、例えば、家屋の屋根や自動車の屋根等に設置して使用することが想定されるが、そのような場合において、赤外放射層の放射面の存在側から放射冷却装置を見たときの色を、周囲の色と調和する色にする等の目的のために、赤外放射層の放射面の存在側から放射冷却装置を見たときに着色されていることが望まれる場合がある。
尚、以下の記載においては、赤外放射層の放射面の存在側から放射冷却装置を見たときに着色されていることを、放射面が着色されている状態と略称する。
【0009】
特許文献2に記載された放射冷却装置では、光反射層が、第1金属層、透明誘電体層、及び第2金属層を積層した状態に構成されている。この光反射層により、放射面が着色された状態が実現されている。しかし、この光反射層は構造が複雑であり、製造に比較的高いコストを要する。この点で、特許文献1の放射冷却装置には改善の余地がある。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みて為されたものであって、その目的は、放射面が着色されている状態となる放射冷却装置を低コストで提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の放射冷却装置の特徴構成は、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置し、前記赤外放射層を透過した光を反射する光反射層と、着色部位と、を備え、前記赤外放射層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整された樹脂材料層であり、前記着色部位が、可視光領域の光を吸収する着色料を含有する点にある。
【0012】
すなわち、赤外放射層としての樹脂材料層の放射面から入射する太陽光は、樹脂材料層を透過した後、樹脂材料層の放射面の存在側とは反対側にある光反射層で反射され、放射面から系外へ逃がされる。
なお、本明細書の記載において、単に光と称する場合、当該光の概念には紫外光(紫外線)、可視光、赤外光を含む。これらを電磁波としての光の波長で述べると、その波長が10nmから20000nm(0.01μmから20μmの電磁波)の電磁波を含む。
【0013】
また、放射冷却装置への伝熱(入熱)は、樹脂材料層で赤外線に変換されて、放射面から系外へ逃がされる。
このように、上記構成によれば、放射冷却装置へ照射される太陽光を反射し、また、放射冷却装置への伝熱(例えば、大気からの伝熱や、放射冷却装置が冷却する冷却対象物からの伝熱)を赤外光として系外へ放射することができる。
【0014】
また、樹脂材料層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整されているから、昼間の日射環境下においても、冷却機能を発揮することができる。
【0015】
加えて、放射冷却装置が着色部位を備えることにより、赤外放射層の放射面の存在側から放射冷却装置を見たときに、放射冷却装置における着色部位が、着色された状態に見えることになる。そして、着色部位が可視光領域の光を吸収する着色料を含有するので、着色部位を低コストで構成することができる。すなわち、本発明によれば、放射面が着色されている状態となる放射冷却装置を低コストで提供することができる。
【0016】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記着色料が、波長が350nm以上850nm以下の領域に可視光の吸収ピークを有する点にある。
【0017】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、着色料が、波長が350nm以上850nm以下の領域に可視光の吸収ピークを有するので、着色部位が着色された状態となる。すなわち、本発明によれば、放射面が着色されている状態となる放射冷却装置を低コストで提供することができる。
【0018】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記樹脂材料層を形成する樹脂材料は、炭素-フッ素結合、シロキサン結合、炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エーテル結合、エステル結合、ベンゼン環のいずれかを1つ以上有する樹脂材料から選択される点にある。
【0019】
すなわち、樹脂材料層を形成する樹脂材料として、炭素-フッ素結合(C-F)、シロキサン結合(Si-O-Si)、炭素-塩素結合(C-Cl)、炭素-酸素結合(C-O)、エーテル結合(R-COO-R)、エステル結合(C-O-C)、ベンゼン環のいずれかを1つ以上有する無色の樹脂材料を用いることができる。
【0020】
キルヒホッフの法則により、輻射率(ε)と光吸収率(A)は等しい。光吸収率(A)は吸収係数(α)から下記式1で求めることができる。
A=1-exp(-αt)・・・(式1) 尚、tは膜厚である。
つまり、樹脂材料層の厚みを厚くすると、吸収係数の大きな波長帯域で大きな熱輻射が得られる。屋外で放射冷却する場合、大気の窓の波長帯域である波長8μmから14μmにおいて吸収係数の大きな材料を用いるとよい。また、太陽光の吸収を抑制するためには、波長0.3μmから4μm、特に0.4μmから2.5μmの範囲で吸収係数を持たない、或いは小さな材料を用いるとよい。上記式1の吸収係数と光吸収率の関係式からわかるように、光吸収率(輻射率)は樹脂材料層の膜厚によって変化する。
【0021】
日射環境下での放射冷却によって周囲の大気より温度を下げるためには、樹脂材料層を形成する樹脂材料として、大気の窓の波長帯域で大きな吸収係数をもち、太陽光の波長帯域で吸収係数を殆ど持たない材料を選ぶと、樹脂材料層の膜厚の調整によって、太陽光は殆ど吸収しないが、大気の窓の熱輻射を多く出す、つまりは太陽光の入力よりも放射冷却による出力の方が大きな状態を作り出すことができる。
【0022】
樹脂材料層を形成する樹脂材料の吸収スペクトルについて説明を加える。
炭素-フッ素結合(C-F)に関しては、CHF及びCF2に起因する吸収係数が大気の窓である波長8μmから14μmにかけた広帯域に大きく広がっており、特に8.6μmで吸収係数が大きい。併せて、太陽光の波長帯域に関しては、エネルギーが大きな波長0.3μmから2.5μmで目立った吸収係数がない。
【0023】
C-F結合を有する樹脂材料としては、
完全フッ素化樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、
部分フッ素化樹脂であるポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリフッ化ビニル(PVF)、
フッ素化樹脂共重合体であるペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、
四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、
エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、
エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)が挙げられる。
【0024】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を代表としての基本構造部のC-C結合、C-H結合、C-F結合の結合エネルギーを求めると、4.50eV、4.46eV、5.05eVとなる。それぞれ、波長0.275μm、波長0.278μm、波長0.246μmに対応し、これら波長より短波長側の光を吸収する。
太陽光スペクトルは波長0.300μmより長波しか存在しないため、フッ素樹脂を用いた場合、太陽光の紫外線、可視光線、近赤外線をほとんど吸収しない。
尚、紫外線は波長0.400μmよりも短波長側の範囲とし、可視光線は波長0.400μmから0.800μmの範囲とし、近赤外線は波長0.800μmから3μmの範囲とし、中赤外線は波長3μmから8μmの範囲とし、遠赤外線は波長8μmよりも長波長側の範囲とする。
【0025】
シロキサン結合(Si-O-Si)をもつ樹脂材料としては、シリコーンゴム及びシリコーン樹脂が挙げられる。当該樹脂は、C-Siの結合の伸縮に起因する大きな吸収係数が波長13.3μmを中心にブロードに表れ、CSiH2の対象面外変角(縦揺れ)に起因する吸収係数が波長10μmを中心にブロードに表れ、CSiH2の対象面内変角(はさみ)に起因する吸収係数が波長8μm付近に小さく表れる。このように、大気の窓において大きな吸収係数を持つ。紫外領域に関しては、主鎖のSi-O-Siの結合エネルギーが4.60eVであり、波長0.269μmに対応し、この波長より短波長側の光を吸収する。太陽光スペクトルは波長0.300μmより長波しか存在しないため、シロキサン結合を用いた場合、太陽光の紫外線、可視光線、近赤外線をほとんど吸収しない。
【0026】
炭素-塩素結合(C-Cl)に関しては、C-Cl伸縮振動による吸収係数が波長12μmを中心に半値幅1μm以上の広帯域に現れる。
また、炭素-塩素結合(C-Cl)を持つ樹脂材料としてはポリ塩化ビニル(PVC)が挙げられるが、ポリ塩化ビニルの場合、塩素の電子吸引の影響で、主鎖に含まれるアルケンのC-Hの変角振動に由来する吸収係数が波長10μmあたりに現れる。つまり、大気の窓の波長帯域で大きな熱輻射を出すことが可能である。なお、アルケンの炭素と塩素の結合エネルギーは3.28eVであり、その波長は0.378μmに対応し、この波長より短波長側の光を吸収する。つまり、太陽光の紫外線を吸収するが、可視域については吸収をほとんど持たない。
【0027】
エーテル結合(R-COO-R)、エステル結合(C-O-C)に関しては、波長7.8μmから9.9μmにかけて吸収係数を持つ。また、エステル結合、エーテル結合に含まれる炭素-酸素結合に関しては、波長8μmから10μmの波長帯域にかけて強い吸収係数が現れる。
ベンゼン環を炭化水素樹脂の側鎖に導入すると、ベンゼン環自身の振動や、ベンゼン環の影響による周りの元素の振動によって、波長8.1μmから18μmにかけて広く吸収が現れるようになる。
これらの結合をもつ樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂、エチレンテレフタラート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートがある。例えばメタクリル酸メチルのC-C結合の結合エネルギーは3.93eVであり、波長0.315μmに対応し、この波長より短波長の太陽光を吸収するが、可視域については吸収をほとんど持たない。
【0028】
樹脂材料層を形成する樹脂材料が、前述の輻射率、吸収率特性を有すれば、樹脂材料層としては、一種類の樹脂材料の単層膜、あるいは、複数種類の樹脂材料の多層膜、複数種類がブレンドされた樹脂材料の単層膜、複数種類がブレンドされた樹脂材料の多層膜でも構わない。なお、ブレンドには、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体といった共重合体や側鎖を置換した変性品も含まれる。
【0029】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、太陽光の入力よりも放射冷却による出力の方が大きな状態を作り出すことができる。
【0030】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記樹脂材料層を形成する樹脂材料が、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル樹脂、主成分をシロキサンとする樹脂、フッ素樹脂、シリコーンゴム、及びシリコーン樹脂のうち少なくとも一つを含む点にある。
【0031】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、樹脂材料層を形成する樹脂材料が上述の樹脂であることにより、太陽光の入力よりも放射冷却による出力の方が大きな状態を作り出すことができる。
【0032】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記光反射層が、銀又は銀合金で構成されている点にある。
【0033】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、光反射層より太陽光を効率的に反射して、太陽光からのエネルギー吸収を抑制し、樹脂材料層による放射冷却を良好に行うことができる。
【0034】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記樹脂材料層と前記光反射層との間に位置する保護層を備え、前記保護層が、ポリオレフィン系樹脂、エチレンテレフタラート樹脂、又はアクリル樹脂で構成されている点にある。
【0035】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、保護層が、ポリオレフィン系樹脂、エチレンテレフタラート樹脂、又はアクリル系樹脂で構成されているので、昼間の日射環境下においても、光反射層の銀又は銀合金が変色することを抑制できるため、光反射層にて太陽光を適切に反射させるようにしながら、昼間の日射環境下においても、冷却機能を発揮することができる。
【0036】
しかも、保護層が柔軟性の高い樹脂材料にて形成されることになるから、放射冷却装置に柔軟性を持たせることが可能となる。
【0037】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記保護層と前記樹脂材料層とを接合する接合層を備え、前記接合層が、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、又はエチレン酢酸ビニル系樹脂で構成されている点にある。
【0038】
すなわち、樹脂材料層と保護層とを、接着剤又は粘着剤の接合層にて接合するものであるから、例えば、光反射層と保護層とを積層状態に形成し、別途製作した樹脂材料層と保護層とを接合層にて接合する手順にて、樹脂材料層と保護層と光反射層とが積層された状態に良好に形成することができる。
【0039】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記着色部位は、前記接合層における一部の部位又は前記接合層の全体である点にある。
【0040】
接合層の材料に可視光領域の光を吸収する着色料を含有させることにより、接合層(一部又は全体)を低コストで着色部位とすることができる。要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、放射面が着色されている状態となる放射冷却装置を低コストで提供することができる。
【0041】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記着色部位は、前記接合層と前記保護層との間に設けられた層状の部位、又は、前記接合層と前記樹脂材料層との間に設けられた層状の部位である点にある。
【0042】
接合層と保護層との間、又は、接合層と樹脂材料層との間に層状の部位を設け、当該層状の部位の材料に可視光領域の光を吸収する着色料を含有させることにより、低コストで着色部位を設けることができる。要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、放射面が着色されている状態となる放射冷却装置を低コストで提供することができる。
【0043】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記着色部位が、前記赤外放射層における前記放射面の存在側と同じ側に位置する層状の部位である点にある。
【0044】
赤外放射層における放射面の存在側と同じ側に層状の部位を設け、当該層状の部位の材料に可視光領域の光を吸収する着色料を含有させることにより、低コストで着色部位を設けることができる。要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、放射面が着色されている状態となる放射冷却装置を低コストで提供することができる。
【0045】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記着色部位が、前記赤外放射層における一部の部位又は前記赤外放射層の全体である点にある。
【0046】
赤外放射層の材料に可視光領域の光を吸収する着色料を含有させることにより、赤外放射層(一部又は全体)を低コストで着色部位とすることができる。要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、放射面が着色されている状態となる放射冷却装置を低コストで提供することができる。
【0047】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記着色料が、アゾ系、キノン系、トリアリールメタン系、シアニン系、フタロシアニン系、インジゴ系、及びポルフィリン系の化合物のうち少なくとも一つを含む点にある。
【0048】
上述した着色料は低コストで入手可能である。要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、放射面が着色されている状態となる放射冷却装置を低コストで提供することができる。
【0049】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記着色部位に含有される前記着色料の総量を前記放射面の全体の面積で除した値である着色料含有量が、0.1185g/m2未満である点にある。
【0050】
着色料含有量が0.1185g/m2未満であれば、放射冷却装置への太陽光からの入熱が熱輻射による出熱よりも小さくなるので、冷却を効率的に行うことができる。要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、太陽光の吸収による放射冷却性能の低下を極力回避しながら、放射面が着色されている状態となる放射冷却装置を提供することができる。
【0051】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記赤外放射層に対して前記光反射層の存在側と反対側の最も外側に位置するハードコート層を備える点にある。
【0052】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、ハードコート層を備えることにより、赤外放射層や着色部位の破損を抑制することができる。
【0053】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記ハードコート層が、アクリル系樹脂で構成されている点にある。
【0054】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、ハードコート層が比較的硬いアクリル系樹脂で構成されているので、赤外放射層や着色部位の破損を効果的に抑制することができる。
【0055】
本発明の冷却方法の特徴構成は、上述の放射冷却装置を用いる冷却方法であって、前記赤外放射層の前記放射面が空に向く状態で前記放射冷却装置を配置する工程と、当該放射面から赤外光を放射させる工程と、を含む点にある。
【0056】
上記構成によれば、放射面から系外へ逃がされる赤外光を空に向けて放射し、空、すなわち宇宙に対して放出することができる。更に、太陽光の光吸収を抑制して、冷却性能を向上することができる。
【0057】
要するに、本発明の冷却方法の特徴構成によれば、放射面が着色されている状態となる放射冷却装置を用いて、冷却対象物を冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】放射冷却装置の基本構成を説明する図である。
【
図2】樹脂材料の吸収係数と波長帯域との関係を示す図である。
【
図3】樹脂材料の光吸収率と波長との関係を示す図である。
【
図4】シリコーンゴムの輻射率スペクトルを示す図である。
【
図6】塩化ビニル樹脂の輻射率スペクトルを示す図である。
【
図7】エチレンテレフタラート樹脂の輻射率スペクトルを示す図である。
【
図8】オレフィン変成材料の輻射率スペクトルを示す図である。
【
図9】放射面の温度と光反射層の温度との関係を示す図である。
【
図10】シリコーンゴム及びペルフルオロアルコキシフッ素樹脂の光吸収率スペクトルを示す図である。
【
図11】エチレンテレフタラート樹脂の光吸収率スペクトルを示す図である。
【
図12】銀をベースにした光反射層の光反射率スペクトルを示す図である。
【
図13】フルオロエチレンビニルエーテルの輻射率スペクトルを示す図である。
【
図14】塩化ビニリデン樹脂の輻射率スペクトルを示す図である。
【
図20】樹脂材料の光吸収率と波長との関係を示す図である。
【
図21】ポリエチレンの光透過率と波長との関係を示す図である。
【
図23】保護層がポリエチレンの場合の試験結果を示す図である。
【
図24】保護層が紫外線吸収アクリルの場合の試験結果を示す図である。
【
図25】ポリエチレンの輻射率スペクトルを示す図である。
【
図26】放射冷却装置の別構成を説明する図である。
【
図27】樹脂材料層にフィラーを混入させた構成を説明する図である。
【
図28】樹脂材料層の表裏を凹凸状にした構成を説明する図である。
【
図30】赤系統の測定サンプルの吸収率スペクトルを示す図である。
【
図31】青系統の測定サンプルの吸収率スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔放射冷却装置の基本構成〕
図1に示すように、放射冷却装置CPは、放射面Hから赤外光IRを放射する赤外放射層Aと、当該赤外放射層Aにおける放射面Hの存在側とは反対側に位置する光反射層Bと、着色部位Xとを備えている。本実施形態では、着色部位Xは、着色層Pである。着色層Pは、層状の部位であって、赤外放射層Aにおける放射面Hの存在側と同じ側に位置する。本実施形態では、放射冷却装置CPは、赤外放射層Aと光反射層Bとの間に位置する保護層Dを備えている。着色層P、赤外放射層A、保護層D、及び光反射層Bは、積層状態となっている。放射冷却装置CPは、全体としてフィルム状に形成されている。
つまり、放射冷却装置CPが、放射冷却フィルムとして構成されている。
【0060】
着色部位Xは、可視光領域の光を吸収する着色料を含有する。本実施形態では、着色料が、波長が350nm以上850nm以下の領域に可視光の吸収ピークを有する。着色部位Xの存在により、放射冷却装置CPを、放射面Hが着色されている状態とすることができる。着色部位Xは、1種類の着色料を含有してもよいし、2種類以上の着色料を含有してもよい。
【0061】
着色層Pは、樹脂材料層Jの放射面Hの全体に渡って設けられてもよいし、
図32に示されるように、放射面Hの一部を覆う形態で設けられてもよい。着色層Pにより、文字や記号、模様等が描かれてもよい。
【0062】
光反射層Bは、着色層P、赤外放射層A及び保護層Dを透過した太陽光等の光Lを反射するものであり、その反射特性が、波長400nmから500nmの反射率が90%以上、波長500nmより長波の反射率が96%以上である。
太陽光スペクトルは、
図10に示す如く、波長300nmから4000nmにかけて存在し、波長400nmから大きくなるにつれ強度が大きくなり、特に波長500nmから波長1800nmにかけての強度が大きい。
【0063】
尚、本実施形態において、光Lとは、紫外光(紫外線)、可視光、赤外光を含むものであり、これらを電磁波としての光の波長で述べると、その波長が10nmから20000nm(0.01μmから20μmの電磁波)の電磁波を含む。ちなみに、本書では、紫外光(紫外線)の波長域が、300nmから400nmの間であるとする。
【0064】
光反射層Bが、波長400nmから500nmにかけて90%以上の反射特性を示し、波長500nmより長波の反射率が96%以上の反射特性を示すことにより、放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)が光反射層Bで吸収する太陽光エネルギーを5%以下に抑えることができる。すなわち夏場の南中時に吸収する太陽光エネルギーを50W程度とすることができ、樹脂材料層Jによる放射冷却を良好に行うことができる。尚、本明細書では、太陽光について、断りのない場合、スペクトルはAM1.5Gの規格とする。
【0065】
光反射層Bは、銀あるいは銀合金で構成される、又は、保護層Dに隣接して位置する銀又は銀合金と保護層Dから離れる側に位置するアルミ又はアルミ合金の積層構造として構成されて、柔軟性を備えるものであって、その詳細は後述する。
【0066】
赤外放射層Aは、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整された樹脂材料層Jとして構成されるものであって、その詳細は後述する。
【0067】
従って、放射冷却装置CPは、放射冷却装置CPに入射した光Lのうちの一部の光を、赤外放射層Aの放射面Hにて反射し、放射冷却装置CPに入射した光Lのうちで樹脂材料層J及び保護層Dを透過した光(太陽光等)を、光反射層Bにて反射して、放射面Hから外部へ逃がすように構成されている。
【0068】
そして、光反射層Bにおける樹脂材料層Jの存在側とは反対側に位置する冷却対象物Eからの放射冷却装置CPへの入熱(例えば、冷却対象物Eからの熱伝導による入熱)を、樹脂材料層Jによって赤外光IRに変換して放射することにより、冷却対象物Eを冷却するように構成されている。
【0069】
つまり、放射冷却装置CPは、当該放射冷却装置CPへ照射される光Lを反射し、また、当該放射冷却装置CPへの伝熱(例えば、大気からの伝熱や冷却対象物Eからの伝熱)を赤外光IRとして外部に放射するように構成されている。
また、樹脂材料層J、保護層D及び光反射層Bが柔軟性を備えることによって、放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)が柔軟性を備えるように構成されている。
【0070】
加えて、放射冷却装置CPは、冷却方法を実施するために用いられる。冷却方法は、赤外放射層Aの放射面Hが空に向く状態で放射冷却装置CPを配置する工程と、当該放射面Hから赤外光IRを放射させる工程と、を含む。赤外光IRの放射により、冷却対象物Eが冷却される。
【0071】
〔樹脂材料層の概要〕
樹脂材料層Jを形成する樹脂材料は、厚みによって光吸収率や輻射率(光放射率)が変化する。そのため、太陽光をできるだけ吸収せず、いわゆる大気の窓の波長帯域(波長8μmから波長14μmの帯域)において大きな熱輻射を発するように樹脂材料層Jの厚みを調整する必要がある。
【0072】
具体的には、太陽光の光吸収率の観点で、樹脂材料層Jの厚みを、波長0.4μmから0.5μmの光吸収率の波長平均が13%以下であり、波長0.5μmから波長0.8μmの光吸収率の波長平均が4%以下であり、波長0.8μmから波長1.5μmまでの光吸収率の波長平均が1%以内であり、波長1.5μmから2.5μmまでの光吸収率の波長平均が40%以下であり、波長2.5μmから4μmまでの光吸収率の波長平均が100%以下である状態の厚みに調整する必要がある。
このような吸収率分布の場合、太陽光の光吸収率は10%以下となり、エネルギーで言うと100W以下となる。
【0073】
尚、波長0.4μmから0.5μmの光吸収率の波長平均とは、0.4μmから0.5μmの範囲の波長毎の光吸収率の平均値を意味するものであり、波長0.5μmから波長0.8μmの光吸収率の波長平均、波長0.8μmから波長1.5μmまでの光吸収率の波長平均、及び、1.5μmから2.5μmまでの光吸収率の波長平均も同様である。また、輻射率を含む他の同様な記載も同様な平均値を意味する。
【0074】
後述の如く、樹脂材料の光吸収率は樹脂材料の膜厚を厚くすると増加する。樹脂材料を厚膜にすると、大気の窓の輻射率はほぼ1となり、その際に宇宙に放出する熱輻射は125W/m2から160W/m2となる。保護層D及び光反射層Bでの太陽光吸収は50W/m2以下である。樹脂材料層J、保護層D及び光反射層Bにおける太陽光吸収の和が150W/m2以下であり、大気の状態がよければ冷却が進む。樹脂材料層Jを形成する樹脂材料は、以上のように太陽光スペクトルのピーク値付近の光吸収率が小さなものを用いるのが良い。
【0075】
また、樹脂材料層Jの厚みは、赤外放射(熱輻射)の観点では、波長8μmから14μmの輻射率の波長平均が40%以上となる状態の厚みに調整する必要がある。
保護層D及び光反射層Bで吸収される50W/m2程度の太陽光の熱エネルギーを、樹脂材料層Jの熱輻射より樹脂材料層Jから宇宙に放出させるには、それ以上の熱輻射を樹脂材料層Jが出す必要がある。
例えば、外気温が30℃のとき、8μmから14μmの大気の窓の熱輻射の最大は200W/m2である(輻射率1として計算)。この値が得られるのは、高山など、空気の薄いよく乾燥した環境の快晴時である。低地などでは大気の厚みが高山よりも厚くなるので、大気の窓の波長帯域は狭くなり、透過率は低下する。ちなみに、このことを「大気の窓が狭くなる」と呼ぶ。
【0076】
また、放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)を実際に使用する環境は多湿であることもあり、その場合においても大気の窓は狭くなる。低地で利用する際の大気の窓域で発生する熱輻射は、状態の良いときで30℃において160W/m2と見積もられる(輻射率1として計算)。また、日本ではよくあることであるが空に靄があるときや、スモッグが存在する場合、大気の窓は更に狭くなり、宇宙への放射は125W/m2程度となる。
かかる事情を鑑みて、波長8μmから14μmの輻射率の波長平均は40%以上(大気の窓帯での熱輻射強度が50W/m2)ないと中緯度帯の低地で用いることができない。
【0077】
従って、上記事項を鑑みた光学的規定の範囲になるように樹脂材料層Jの厚みを調整すると、太陽光の光吸収による入熱よりも大気の窓における出熱の方が大きくなり、日射環境下でも屋外で放射冷却により外気より低温とすることができるようになる。
【0078】
〔樹脂材料の詳細〕
樹脂材料には、炭素-フッ素結合(C-F)、シロキサン結合(Si-O-Si)、炭素-塩素結合(C-Cl)、炭素-酸素結合(C-O)、エステル結合(R-COO-R)、エーテル結合(C-O-C結合)、ベンゼン環を含む無色の樹脂材料を用いることができる。
それぞれの樹脂材料(炭素-酸素結合を除く)について、大気の窓の波長帯域における吸収係数を持つ波長域を
図2に示す。
【0079】
キルヒホッフの法則により、輻射率(ε)と光吸収率(A)は等しい。光吸収率は吸収係数(α)からA=1-exp(-αt)の関係式(以下、光吸収率関係式と呼ぶ)で求めることができる。尚、tは膜厚である。
つまり、樹脂材料層Jの膜厚を調整すると、吸収係数の大きな波長帯域で大きな熱輻射が得られる。屋外で放射冷却する場合、大気の窓の波長帯域である波長8μmから14μmにおいて吸収係数の大きな材料を用いるとよい。
また、太陽光の吸収を抑制するために波長0.3μmから4μm、特に0.4μmから2.5μmの範囲で吸収係数を持たない、或いは小さな材料を用いるとよい。吸収係数と吸収率の関係式からわかるように、光吸収率(輻射率)は樹脂材料の膜厚によって変化する。
【0080】
日射環境下での放射冷却によって周囲の大気より温度を下げるためには、大気の窓の波長帯域において大きな吸収係数をもち、太陽光の波長帯域では吸収係数を殆ど持たない材料を選ぶと、膜厚の調整によって太陽光は殆ど吸収しないが、大気の窓の熱輻射を多く出す、つまりは太陽光の入力よりも放射冷却による出力の方が大きな状態を作り出すことができる。
【0081】
炭素-フッ素結合(C-F)に関しては、CHF及びCF2に起因する吸収係数が大気の窓である波長8μmから14μmにかけた広帯域に大きく広がっており、特に8.6μmで吸収係数が大きい。併せて、太陽光の波長帯域に関しては、エネルギー強度が大きな0.3μmから2.5μmの波長で目立った吸収係数がない。
【0082】
炭素-フッ素結合(C-F)を有する樹脂材料としては、
完全フッ素化樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、
部分フッ素化樹脂であるポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリフッ化ビニル(PVF)、
フッ素化樹脂共重合体であるペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、
四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、
エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、
エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)が挙げられる。
【0083】
シロキサン結合(Si-O-Si)をもつ樹脂材料としては、シリコーンゴム及びシリコーン樹脂が挙げられる。
当該樹脂は、C-Siの結合の伸縮に起因する大きな吸収係数が波長13.3μmを中心にブロードに表れ、CSiH2の対象面外変角(縦揺れ)に起因する吸収係数が波長10μmを中心にブロードに表れ、CSiH2の対象面内変角(はさみ)に起因する吸収係数が波長8μm付近に小さく表れる。
【0084】
炭素-塩素結合(C-Cl)に関しては、C-Cl伸縮振動による吸収係数が波長12μmを中心に半値幅1μm以上の広帯域に現れる。
また、樹脂材料としては塩化ビニル樹脂(PVC)、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)が挙げられるが、塩化ビニル樹脂の場合、塩素の電子吸引の影響で、主鎖に含まれるアルケンのC-Hの変角振動に由来する吸収係数が波長10μmあたりに現れる。
【0085】
エステル結合(R-COO-R)、エーテル結合(C-O-C結合)に関しては、波長7.8μmから9.9μmにかけて吸収係数を持つ。また、エステル結合、エーテル結合に含まれる炭素-酸素結合に関しては、波長8μmから10μmの波長帯域にかけて強い吸収係数が現れる。
ベンゼン環を炭化水素樹脂の側鎖に導入すると、ベンゼン環自身の振動や、ベンゼン環の影響による周りの元素の振動によって、波長8.1μmから18μmにかけて広く吸収が現れるようになる。
【0086】
これらの結合をもつ樹脂としては、メタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、エチレンテレフタラート樹脂、トリメチレンテレフタレート樹脂、ブチレンテレフタレート樹脂、エチレンナフタレート樹脂、ブチレンナフタレート樹脂がある。
【0087】
〔光吸収の考察〕
上記した結合及び官能基を持つ樹脂材料の紫外-可視領域における光吸収、つまり、太陽光吸収について考察する。紫外線から可視光の吸収の起源は結合に寄与する電子の遷移である。この波長域の吸収は、結合エネルギーを計算するとわかる。
先ずは、炭素-フッ素結合(C-F)をもった樹脂材料の紫外から可視域に吸収係数が生じる波長について考える。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を代表としての基本構造部のC-C結合、C-H結合、C-F結合の結合エネルギーを求めると、4.50eV、4.46eV、5.05eVとなる。それぞれ、波長0.275μm、波長0.278μm、波長0.246μmに対応し、これら波長の光を吸収する。
【0088】
太陽光スペクトルは波長0.300μmより長波しか存在しないため、フッ素樹脂を用いた場合、太陽光の紫外線、可視光線、近赤外線をほとんど吸収しない。なお、紫外線の定義は波長0.400μmよりも短波長側、可視光線の定義は波長0.400μmから0.800μm、近赤外線は波長0.800μmから3μmの範囲とし、中赤外線は3μmから8μmの範囲とし、遠赤外線は波長8μmよりも長波とする。
【0089】
厚さ50μmのPFA(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂)の紫外から可視域の吸収率スペクトルを
図3に示すが、殆ど吸収率を持っていないことがわかる。なお、0.4μmよりも短波長側で若干の吸収率スペクトルの増加がみられるが、この増加は測定に用いたサンプルの散乱の影響が表れているだけであり、実際には吸収率は増大していない。
【0090】
シロキサン結合(Si-O-Si)の紫外領域に関しては、主鎖のSi-O-Siの結合エネルギーが4.60eVであり、波長269nmに対応する。太陽光スペクトルは波長0.300μmより長波しか存在しないため、シロキサン結合が大多数の場合、太陽光の紫外線、可視光線、近赤外線をほとんど吸収しない。
【0091】
厚さ100μmのシリコーンゴムの紫外から可視域の吸収率スペクトルを
図3に示すが、殆ど吸収率を持っていないことがわかる。なお、波長0.4μmよりも短波長側で若干の吸収率スペクトルの増加がみられるが、この増加は測定に用いたサンプルの散乱の影響が表れているだけであり、実際には吸収率は増大していない。
【0092】
炭素-塩素結合(C-Cl)に関して、アルケンの炭素と塩素の結合エネルギーは3.28eVであり、その波長は0.378μmであるので、太陽光の内紫外線を多く吸収するが、可視域については吸収をほとんど持たない。
厚さ100μmの塩化ビニル樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを
図3に示すが、波長0.38μmよりも短波長側で光吸収が大きくなる。
厚さ100μmの塩化ビニリデン樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを
図3に示すが、波長0.4μmよりも短波長側で若干の吸収率スペクトルの増加がみられる。
【0093】
エステル結合(R-COO-R)、エーテル結合(C-O-C結合)、ベンゼン環をもつ樹脂としては、メタクリル酸メチル樹脂、エチレンテレフタラート樹脂、トリメチレンテレフタレート樹脂、ブチレンテレフタレート樹脂、エチレンナフタレート樹脂、ブチレンナフタレート樹脂がある。例えばアクリルのC-C結合の結合エネルギーは3.93eVであり、波長0.315μmより短波長の太陽光を吸収するが、可視域については吸収をほとんど持たない。
【0094】
これら結合及び官能基を持つ樹脂材の一例として、厚さ5mmのメタクリル酸メチル樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを
図3に示す。尚、例示するメタクリル酸メチル樹脂は、一般的に市販されているものであって、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が混入している。
5mmと厚板であるために、吸収係数の小さな波長も大きくなり、波長0.315よりも長波の0.38μmよりも短波側で光吸収が大きくなる。
【0095】
これら結合及び官能基を持つ樹脂材の一例として厚さ40μmのエチレンテレフタラート樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを
図3に示す。
図示のように、波長0.315μmに近づくほどに吸収率が大きくなり、波長0.315μmで急激に吸収率が大きくなる。なお、エチレンテレフタラート樹脂も、厚みを増していくと、波長0.315μmより少し長波側において、C-C結合由来の吸収端による吸収率が大きくなり、市販されているメタクリル酸メチル樹脂同様に紫外線における吸収率が増大する。
【0096】
樹脂材料層Jは、前述の輻射率(光放射率)、光吸収率の特性を有する樹脂材料を用いるものであれば、一種類の樹脂材料の単層膜、複数種類の樹脂材料の多層膜、複数種類の樹脂材料がブレンドされた樹脂材料の単層膜、複数種類の樹脂材料がブレンドされた樹脂材料の多層膜でも構わない。
なお、ブレンドには、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体といった共重合体や側鎖を置換した変性品も含まれる。
【0097】
〔シリコーンゴムの輻射率〕
図4に、シロキサン結合をもつシリコーンゴムの大気の窓における輻射率スペクトルを示す。
シリコーンゴムからは、C-Siの結合の伸縮に起因する大きな吸収係数が波長13.3μmを中心にブロードに表れ、CSiH
2の対象面外変角(縦揺れ)に起因する吸収係数が波長10μmを中心にブロードに表れ、CSiH
2の対象面内変角(はさみ)に起因する吸収係数が波長8μm付近に小さく表れる。
この影響で、厚さ1μmの輻射率の波長平均は、波長8μmから14μmにおいて80%であり、波長平均40%以上という規定の中に入る。図示の通り、膜厚が厚くなると大気の窓領域における輻射率は増大する。
【0098】
ちなみに、
図4には、無機材料である厚み1μmの石英が銀上に存在するときの放射スペクトルを併せて示す。石英は厚み1μmのとき、波長8μmから14μmの間で狭帯域な輻射ピークしか持たない。
この熱輻射を波長8μmから14μmの波長域で波長平均をすると、波長8μmから14μmの輻射率は32%となり、放射冷却性能を示すことが難しい。
【0099】
樹脂材料層Jを用いた本発明の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)は、光反射層Bとして無機材料を用いる従来技術よりも薄い赤外放射層Aでも放射冷却性能が得られる。つまり、無機材料である石英やテンパックスガラスにて赤外放射層Aを形成する場合には、赤外放射層Aが膜厚1μmでは放射冷却性能が得られないが、樹脂材料層Jを用いた本発明の放射冷却装置CPでは、樹脂材料層Jが膜厚1μmでも放射冷却性能を示す。
【0100】
〔PFAの輻射率〕
図5に、炭素-フッ素結合を持つ樹脂の代表例として、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)の大気の窓における輻射率を示す。CHF及びCF
2に起因する吸収係数が大気の窓である波長8μmから14μmにかけた広帯域に大きく広がっており、特に8.6μmで吸収係数が大きい。
この影響で、厚さ10μmの輻射率の波長平均は、波長8μmから14μmにおいて45%であり、波長平均40%以上という規定の中に入る。図示の通り、膜厚が厚くなると大気の窓領域における輻射率は増大する。
【0101】
〔塩化ビニル樹脂及び塩化ビニリデン樹脂の輻射率〕
図6に、炭素-塩素結合をもつ樹脂の代表例として、塩化ビニル樹脂(PVC)の大気の窓における輻射率を示す。また、
図14に、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)の大気の窓における輻射率を示す。
炭素-塩素結合に関しては、C-Cl伸縮振動による吸収係数が波長12μmを中心に半値幅1μm以上の広帯域に現れる。
また、塩化ビニル樹脂の場合、塩素の電子吸引の影響で、主鎖に含まれるアルケンのC-Hの変角振動に由来する吸収係数が波長10μmあたりに現れる。塩化ビニリデン樹脂についても同様である。
これらの影響で、厚さ10μmの輻射率の波長平均は、波長8μmから14μmにおいて43%であり、波長平均40%以上という規定の中に入る。図示の通り、膜厚が厚くなると大気の窓領域における輻射率は増大する。
【0102】
〔エチレンテレフタラート樹脂〕
図7に、エステル結合やベンゼン環を持つ樹脂の代表例として、エチレンテレフタラート樹脂の大気の窓における輻射率を示す。
エステル結合に関しては、波長7.8μmから9.9μmにかけて吸収係数を持つ。また、エステル結合に含まれる炭素-酸素結合に関しては、波長8μmから10μmの波長帯域にかけて強い吸収係数が現れる。ベンゼン環を炭化水素樹脂の側鎖に導入すると、ベンゼン環自身の振動や、ベンゼン環の影響による周りの元素の振動によって、波長8.1μmから18μmにかけて広く吸収が現れる。
これらの影響で、厚さ10μmの輻射率の波長平均は、波長8μmから14μmにおいて71%であり、波長平均40%以上という規定の中に入る。図示の通り、膜厚が厚くなると大気の窓領域における輻射率は増大する。
【0103】
〔オレフィン変成材料の輻射率〕
図8には、炭素-フッ素結合(C-F)、炭素-塩素結合(C-Cl)、エステル結合(R-COO-R)、エーテル結合(C-O-C結合)、ベンゼン環を含まない、主成分がオレフィンである、オレフィン変性材料の輻射率スペクトルを示す。サンプルは、蒸着した銀上にオレフィン樹脂をバーコーターで塗布し乾燥させることによって作製した。
図示の通り、大気の窓領域での輻射率は小さく、この影響で、厚さ10μmの輻射率の波長平均は、波長8μmから14μmにおいて27%であり、波長平均40%以上という規定の中に入らない。
【0104】
図示の輻射率はバーコーターとして塗布するために変性されたオレフィン樹脂のものであり、純粋なオレフィン樹脂の場合には、更に、大気の窓領域における輻射率は小さい。
このように、炭素-フッ素結合(C-F)、炭素-塩素結合(C-Cl)、エステル結合(R-COO-R)、エーテル結合(C-O-C結合)、ベンゼン環を含まないと放射冷却できない。
【0105】
〔光反射層及び樹脂材料層の表面の温度〕
樹脂材料層Jの大気の窓の熱輻射は樹脂材料の表面近傍で発生する。
図4より、シリコーンゴムの場合は10μmより厚いと大気の窓領域における熱輻射は増大しない。つまり、シリコーンゴムの場合、大気の窓における熱輻射の大部分は表面から深さ約10μm以内の部分で生じており、より深い部分の輻射は外に出てこない。
【0106】
図5より、フッ素樹脂の場合は100μmより厚くなっても大気の窓領域における熱輻射の増大は殆どなくなる。つまり、フッ素樹脂場合、大気の窓における熱輻射は表面から深さ約100μm以内の部分で生じており、より深い部分の輻射は外に出てこない。
図6より、塩化ビニル樹脂の場合は100μmより厚くなっても大気の窓領域における熱輻射の増大は殆どなくなる。つまり、塩化ビニル樹脂場合、大気の窓における熱輻射は表面から深さ約100μm以内の部分で生じており、より深い部分の輻射は外に出てこない。
図14より、塩化ビニリデン樹脂は、塩化ビニル樹脂と同様であることが分かる。
【0107】
図7より、エチレンテレフタラート樹脂の場合は125μmより厚くなっても大気の窓領域における熱輻射の増大は殆どなくなる。つまり、エチレンテレフタラート樹脂場合、大気の窓における熱輻射は表面から深さ約100μmの部分で生じており、より深い部分の輻射は外に出てこない。
【0108】
以上のように、樹脂材料表面から発生する大気の窓領域の熱輻射は、表面からの深さが概ね100μm以内の部分で生じており、それ以上に樹脂の厚みが増していくと、熱輻射に寄与しない樹脂材料によって、放射冷却装置CPの放射冷却した冷熱が断熱される。
理想的に太陽光を全く吸収しない樹脂材料層Jを光反射層Bの上に作製することを考える。この場合、太陽光は放射冷却装置CPの光反射層Bでのみ吸収される。
樹脂材料の熱伝導率はおしなべて0.2W/m/K程度であり、この熱伝導性を考慮して計算すると、樹脂材料層Jの厚みが20mmを超えると、冷却面(光反射層Bにおける樹脂材料層Jの存在側とは反対側の面)の温度が上昇する。
【0109】
太陽光をまったく吸収しない理想的な樹脂材料が存在したとしても、樹脂材料の熱伝導率はおしなべて0.2W/m/K程度であるので、
図9のように20mmを超えると光反射層Bが日射を受けて加熱されてしまい、光反射層側に設置された冷却対象物Eは加熱される。つまり、放射冷却装置CPの樹脂材料の厚みは20mm以下にする必要がある。
【0110】
なお、
図9は、真夏の西日本の良く晴れた日の南中を想定して計算した放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)の放射面Hの表面温度と光反射層Bの温度のプロットである。太陽光はAM1.5とし、1000W/m
2のエネルギー密度としている。外気温は30℃であり、放射エネルギーは温度によって変わるが30℃において100Wである。樹脂材料層Jで太陽光の吸収はないものとしての計算である。無風状態を仮定し、対流熱伝達率は5W/m
2/Kとしている。
【0111】
〔シリコーンゴム等の光吸収率について〕
図10に、側鎖がCH
3であるシリコーンゴムの厚さが100μmのときの太陽光スペクトルに対する光吸収率、及び、厚さ100μmのペルフルオロアルコキシフッ素樹脂の太陽光スペクトルに対する光吸収率スペクトルを示す。先に述べた通り、両樹脂ともに紫外域においては光吸収率を殆ど持たないことがわかる。
【0112】
シリコーンゴムに関して、近赤外域においては、光吸収率が波長2.35μmより長波側の域で増加する。但し、この波長域における太陽光スペクトルの強度は弱いため、波長2.35μmより長波側の光吸収率が100%となっても吸収される太陽光エネルギーは20W/m2である。
【0113】
ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂に関しては、波長0.3μmから2.5μmの波長範囲では光吸収率を殆ど持たず、波長2.5μmより長波長側で光吸収を持つ。但し、当該樹脂の膜厚を厚くし、波長2.5μmより長波長側の光吸収率が100%になったとしても、吸収される太陽光エネルギーは7W程度である。
【0114】
尚、樹脂材料層Jの厚さ(膜厚)を厚くしていくと、大気の窓領域の輻射率はほぼ1となる。つまり、厚膜の場合、低地で利用する際の大気の窓域で宇宙に放射する熱輻射は、30℃において160W/m2から125W/m2程度となる。光反射層Bにおける光吸収は、上述の規定の如く、50W/m2程度であり、光反射層Bの光吸収とシリコーンゴム又はペルフルオロアルコキシフッ素樹脂を厚膜にした際の太陽光吸収を足しても宇宙に放射する熱輻射より小さい。
以上より、シリコーンゴム及びペルフルオロアルコキシフッ素樹脂の最大の膜厚は、熱伝導性の観点から20mmとなる。
【0115】
〔炭化水素系樹脂の光吸収について〕
樹脂材料層Jを形成する樹脂材料が、炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エステル結合、エーテル結合、ベンゼン環を1つ以上有する炭化水素を主鎖とする樹脂であった場合、或いは、シリコーン樹脂であり側鎖の炭化水素の炭素数が2個以上の場合、先述の共有結合電子による紫外線吸収以外に、近赤外域に結合の変角や伸縮などの振動に基づく吸収が観測される。
【0116】
具体的には、CH3、CH2、CHの第一励起状態への遷移の基準音による吸収がそれぞれ波長1.6μmから1.7μm、波長1.65μmから1.75μm、波長1.7μmに現れる。更に、CH3、CH2、CHの結合音の基準音による吸収がそれぞれ波長1.35μm、波長1.38μm、波長1.43μmに現れる。更に、CH2、CHの第二励起状態への遷移の倍音がそれぞれ波長1.24μmあたりに現れる。C-H結合の変角や伸縮の基準音は波長2μmから2.5μmにかけて広帯域に分布している。
【0117】
また、エステル結合(R-COO-R)、エーテル結合(C-O-C)を有する場合、波長1.9μmあたりに大きな光吸収が存在する。
これらに起因する光吸収率は、上述の光吸収率関係式より、樹脂材料の膜厚が薄いと小さくなり目立たなくなるが、膜厚が厚いと大きくなる。
【0118】
図11には、エステル結合とベンゼン環を持つエチレンテレフタラート樹脂の膜厚を変化させた場合における光吸収率と太陽光のスペクトルとの関係を記す。
図示の如く、膜厚が25μm、125μm、500μmと大きくなるごとに、それぞれの振動に起因する波長1.5μmよりも長波域の光吸収が増加する。
また、長波長側だけでなく、紫外線領域から可視領域にかけての光吸収も増加する。これは、化学結合に起因する光の吸収端に広がりがあることに起因している。
【0119】
膜厚が薄い時は最も大きな吸収係数を持つ波長で光吸収率が大きくなるが、膜厚が厚くなると、上述の光吸収率関係式より、広がりを持った吸収端の弱い吸収係数が吸収率となり出現する。このことにより、膜厚が厚くなると紫外線領域から可視領域にかけての光吸収が増加する。
厚さが25μmのときの太陽光スペクトルの吸収は15W/m2、厚さが125μmのとき太陽光スペクトルの吸収は41W/m2、厚さが500μmの時の太陽光スペクトルの吸収は88W/m2である。
【0120】
光反射層Bの光吸収は、上述の規定により50W/m2であるから、膜厚が500μmである場合、エチレンテレフタラート樹脂の太陽光吸収と光反射層Bの太陽光吸収の和が138W/m2となる。日本の低地の夏場における、大気の窓の波長帯域の赤外放射の最大値は先述の通り30℃において大気の状態の良い日で160W程度、通常は125W程度である。
以上より、エチレンテレフタラート樹脂の膜厚が500μm以上では、放射冷却性能を発揮しなくなる。
【0121】
1.5μmから4μmの波長帯域の吸収スペクトルの起源は、官能基でなく主鎖の炭化水素の振動であり、炭化水素系樹脂であればエチレンテレフタラート樹脂と同様の挙動を示す。また、炭化水素系樹脂は紫外域に化学結合に起因する光吸収を有しており、紫外から可視についてもエチレンテレフタラート樹脂と同様の挙動を示す。
つまり、炭化水素樹脂であれば波長0.3μmから4μmまでエチレンテレフタラート樹脂と同様の挙動をとる。以上から、炭化水素系の樹脂の膜厚は500μmよりも薄い必要がある。
【0122】
〔ブレンド樹脂の光吸収について〕
樹脂材料が、炭素-フッ素結合或いはシロキサン結合を主鎖とする樹脂と、炭化水素を主鎖とする樹脂とをブレンドした樹脂材料である場合には、ブレンドされた炭化水素を主鎖とする樹脂の割合に応じてCH、CH2、CH3などに起因する近赤外域の光吸収が現れる。
炭素-フッ素結合或いはシロキサン結合が主成分の場合、炭化水素に起因する近赤外域の光吸収は小さくなるので、熱伝導性の観点での上限の20mmまで厚くすることができる。しかし、ブレンドされる炭化水素樹脂が主成分となる場合は厚さを500μm以下にする必要がある。
【0123】
フッ素樹脂或いはシリコーンゴムと炭化水素とのブレンドには、フッ素樹脂或いはシリコーンゴムの側鎖を炭化水素に置換したものや、フッ素モノマー及びシリコーンモノマーと炭化水素モノマーの交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体も含まれる。なお、フッ素モノマーと炭化水素モノマーの交互共重合体としては、フルオロエチレン・ビニルエステル(FEVE)、フルオロオレフィン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)が挙げられる。
【0124】
置換する炭化水素側鎖の分子量及び割合に応じてCH、CH2、CH3などに起因する近赤外域の光吸収が現れる。側鎖や共重合として導入されるモノマーが低分子であるとき、あるいは、導入されるモノマーの密度が小さいときには、炭化水素に起因する近赤外域の光吸収は小さくなるので、熱伝導性の観点での限界の20mmまで厚くすることができる。
フッ素樹脂或いはシリコーンゴムの側鎖や共重合されるモノマーとして高分子の炭化水素を導入する場合、樹脂の厚みを500μm以下にする必要がある。
【0125】
〔樹脂材料層の厚みについて〕
放射冷却装置CPの実用の観点では、樹脂材料層Jの厚みは薄い方がよい。樹脂材料の熱伝導率は、金属やガラスなどよりも一般に低い。冷却対象物Eを効果的に冷却するには、樹脂材料層Jの膜厚は必要最低限であるのがよい。樹脂材料層Jの膜厚を厚くするほどに大気の窓の熱輻射は大きくなり、ある膜厚を超えると大気の窓における熱輻射エネルギーは飽和する。
【0126】
飽和する膜厚は樹脂材料にもよるが、フッ素樹脂の場合は概ね300μmもあれば十分に飽和する。従って、熱伝導度の観点で500μmよりも300μm以下に膜厚を抑えるのが望ましい。更に、熱輻射は飽和していないが、厚みが100μm程度であっても大気の窓領域において十分な熱輻射を得ることができる。厚さが薄い方が、熱貫流率が高まり被冷却物の温度をより効果的に下げられるので、フッ素樹脂の場合、100μm程度以下の厚さにするのがよい。
【0127】
C-F結合に起因する吸収係数よりも炭素-ケイ素結合、炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エステル結合、エーテル結合に由来する吸収係数の方が大きい。当然、熱伝導度の観点で500μmよりも300μm以下に膜厚を抑えるのが望ましいが、更に膜厚を薄くして熱伝導性を上げると更に大きな放射冷却効果が期待できる。
炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エステル結合、エーテル結合、ベンゼン環を含む樹脂の場合、厚みが100μmであっても飽和しており、厚さ50μmでも大気の窓領域において十分な熱輻射が得られる。樹脂材料の厚さが薄い方が、熱貫流率が高まり被冷却物の温度をより効果的に下げられるので、炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エステル結合、エーテル結合、ベンゼン環を含む樹脂の場合、50μm以下の厚さにすると断熱性が小さくなり冷却対象物Eを効果的に冷却することができる。炭素-塩素結合の場合には、100μm以下の厚さであれば、冷却対象物Eを効果的に冷却することができる。
【0128】
薄くする効用は断熱性を下げて冷熱を伝えやすくすること以外にもある。それは、炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エステル結合、エーテル結合を含む樹脂が呈する、近赤外域でのCH、CH2、CH3由来の近赤外域の光吸収の抑制である。薄くすると、これらによる太陽光吸収を小さくすることができるので、放射冷却装置CPの冷却能力が高まることになる。
以上の観点から、炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エステル結合、エーテル結合、ベンゼン環を含む樹脂の場合、50μm以下の厚さにするとより効果的に日照下において放射冷却効果を出すことができる。
【0129】
炭素-ケイ素結合の場合、厚さ50μmでも大気の窓領域において熱輻射が飽和しきっており、厚さ10μmでも大気の窓領域において十分な熱輻射が得られる。樹脂材料層Jの厚さが薄い方が、熱貫流率が高まり冷却対象物Eの温度をより効果的に下げられるので、炭素-ケイ素結合を含む樹脂の場合、10μm以下の厚さにすると断熱性が小さくなり冷却対象物Eを効果的に冷却することができる。薄くすると、太陽光吸収を小さくすることができるので、放射冷却装置CPの冷却能力が高まる。
以上の観点から、炭素-ケイ素結合を含む樹脂の場合、10μm以下の厚さにするとより効果的に日照下において放射冷却効果を出すことができる。
【0130】
〔光反射層の詳細〕
光反射層Bに上述の反射率特性を持たせるためには、放射面Hの存在側(樹脂材料層Jの存在側)の反射材料は銀又は銀合金である必要がある。
図12に示す通り、銀をベースとして光反射層Bを構成すれば、光反射層Bに求められる反射率が得られる。
【0131】
銀又は銀合金のみで太陽光を前記の反射率特性を持たせた状態で反射する場合、厚さが50nm以上必要である。
但し、光反射層Bに柔軟性を備えさせるためには、厚さを100μm以下にする必要がある。これ以上厚いと曲げにくくなる。
ちなみに、「銀合金」としては、銀に、銅、パラジウム、金、亜鉛、スズ、マグネシウム、ニッケル、チタンのいずれかを、例えば、0.4質量%から4.5質量%程度添加した合金を用いることができる。具体例としては、銀に銅とパラジウムを添加して作成した銀合金である「APC-TR(フルヤ金属製)」を用いることができる。
【0132】
光反射層Bに上述の反射率特性を持たせるためには、保護層Dに隣接して位置する銀又は銀合金と保護層Dから離れる側に位置するアルミ又はアルミ合金とを積層させた構造にしてもよい。尚、この場合においても、放射面Hの存在側(樹脂材料層Jの存在側)の反射材料は銀又は銀合金である必要がある。
銀(銀合金)とアルミ(アルミ合金)の2層で構成する場合、銀の厚みは10nm以上必要であり、アルミの厚みは30nm以上必要である。
但し、光反射層Bに柔軟性を備えさせるためには、銀の厚さとアルミの厚さとの合計を100μm以下にする必要がある。これ以上厚いと曲げにくくなる。
【0133】
ちなみに、「アルミ合金」としては、アルミに、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、機械構造用炭素鋼、イットリウム、ランタン、ガドリニウム、テルビウムを添加した合金を用いることができる。
【0134】
銀及び銀合金は雨や湿度に弱くそれらから保護をする必要があり、また、その変色を抑制する必要がある。そのために、
図16から
図19に示す如く、銀や銀合金に隣接させる形態で、銀を保護する保護層Dが必要である。
保護層Dの詳細は、後述する。
【0135】
〔実験結果について〕
ガラス基板上に銀を300nmの厚さで形成し、その上に、シロキサン結合を有するシリコーンゴム、炭素-フッ素結合を有するフルオロエチレンビニルエーテル、オレフィン変性体(オレフィン変成材料)、塩化ビニル樹脂をバーコーターで膜厚制御しつつ塗布し、放射冷却性能を測定した。
放射冷却性能の評価は外気温35℃の6月下旬の屋外の南中後3時間で実施し、基板を断熱性高く保持したうえで、基板裏面の温度(℃)を測定した。但し、塩化ビニル樹脂については、外気温が29℃のときに実施した。冶具に設置後5分後の温度が外気温より低いか、或いは高いかで放射冷却効果があるか否かを評価した。
放射冷却試験の結果を、
図15に示す。
【0136】
ちなみに、フルオロエチレンビニルエーテルの大気の窓領域の輻射率は、
図13に示す通りである。尚、シリコーンゴムの輻射率は、
図4に示す通りであり、オレフィン変性体(オレフィン変成材料)の輻射率は、
図8に示す通りであり、塩化ビニル樹脂の輻射率は、
図6に示す通りである。
【0137】
シロキサン結合を有するシリコーンゴムの場合、理論から予想された通り1μm以上の厚みで放射冷却能力を発揮することがわかった。
炭素-フッ素結合を有するフルオロエチレンビニルエーテルは、理論で予測される10μmよりも薄い5μmの膜厚で放射冷却能力を発揮することがわかった。この原因は、炭素-フッ素結合による大気の窓の光吸収のみならず、ビニルエーテルのエーテル結合による光吸収が加わり、それぞれ単独のときよりも大気の窓の光吸収率が増えたためである。
オレフィン変性体(オレフィン変成材料)は、大気の窓領域の熱輻射が殆どでないため放射冷却能力を持たない。
【0138】
〔放射冷却装置の具体構成〕
本発明の放射冷却装置CPは、
図16から
図19に示すように、フィルム構造にすることができる。樹脂材料層J及び保護層Dを形成する樹脂材料は柔軟であるために、光反射層Bを薄膜にすると、光反射層Bにも柔軟性を備えさせることができ、その結果、放射冷却装置CPを、柔軟性を備えるフィルム(放射冷却フィルム)とすることができる。
【0139】
フィルム状の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)は、糊をつけて、車の外周、倉庫や建屋の外壁、ヘルメットの外周にラッピングすることにより、放射冷却を発揮させる等、既設の物体に後付けして、容易に放射冷却能力を発揮させることができる。
フィルム状の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)を装着する対象としては、各種のテント類の外面、電気機器等を収納するボックスの外面、物品搬送用コンテナの外面、牛乳を貯留する牛乳タンクの外面、牛乳タンクローリーの牛乳貯留部の外面等、冷却が必要な諸々のものを対象とすることができる。
【0140】
放射冷却装置CPをフィルム状に作製するには、種々の形態が考えられる。例えば、フィルム状に作製された光反射層Bに保護層D及び樹脂材料層Jを塗布して作ることが考えられる。あるいは、フィルム状に作製された光反射層Bに保護層D及び樹脂材料層Jを貼り付けて作ることが考えられる。或いは、フィルム状に作製された樹脂材料層Jの上に、保護層Dを塗布あるいは貼り付けて作成し、保護層Dの上に、蒸着・スパッタリング・イオンプレーティング・銀鏡反応などによって光反射層Bを作製することが考えられる。
【0141】
具体的に説明すると、
図16の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)は、光反射層Bを、銀又は銀合金の一層として形成する場合や、銀(銀合金)とアルミ(アルミ合金)の2層で構成する場合において、当該光反射層Bの上側に、保護層Dを形成し、保護層Dの上部に、樹脂材料層Jを形成したものであり、かつ、光反射層Bの下側にも、下側保護層Dsを形成する。樹脂材料層Jの上側に、着色層Pが形成される。
【0142】
図16の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)の作成方法としては、フィルム状の樹脂材料層Jの上に、保護層D、光反射層B、下側保護層Dsを順次塗布して、一体的に成形する方法を採用することができる。
【0143】
図17の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)は、光反射層Bを、アルミ(アルミ合金)として機能するアルミ箔にて形成されたアルミ層B1と、銀又は銀合金からなる銀層B2とから構成し、当該光反射層Bの上側に、保護層Dを形成し、保護層Dの上部に、樹脂材料層Jを形成したものである。樹脂材料層Jの上側に、着色層Pが形成される。
【0144】
図17の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)の作成方法としては、アルミ箔にて構成されるアルミ層B1の上に、銀層B2、保護層D、樹脂材料層Jを順次塗布して、一体的に成形する方法を採用することができる。
尚、別の作成方法として、樹脂材料層Jをフィルム状に形成して、当該フィルム状の樹脂材料層Jの上に、保護層D、銀層B2を順次塗布し、アルミ層B1を銀層B2に貼り付ける方法を採用することができる。
【0145】
図18の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)は、光反射層Bを、銀又は銀合金の一層として形成する場合や、銀(銀合金)とアルミ(アルミ合金)の2層で構成する場合において、当該光反射層Bの上側に、保護層Dを形成し、保護層Dの上部に、樹脂材料層Jを形成し、光反射層Bの下側に、PET等のフィルム層Fを形成したものである。樹脂材料層Jの上側に、着色層Pが形成される。
【0146】
図18の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)の作成方法としては、PET(エチレンテレフタラート樹脂)等にてフィルム状に形成されたフィルム層F(基材に相当)の上に、光反射層B、保護層Dを順次塗布して、一体的に成形し、保護層Dに対して、別途形成したフィルム状の樹脂材料層Jをのり層N(接合層の一例)にて接合(接着)する方法を採用することができる。
のり層Nにて使用する接着剤(粘着剤)は、例えば、ウレタン系接着剤(粘着剤)、アクリル系接着剤(粘着剤)、EVA(エチレン酢酸ビニル)系接着剤(粘着剤)等があり、太陽光に対して高い透明性を持つものが望ましい。
【0147】
図19の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)は、光反射層Bを、アルミ(アルミ合金)として機能するアルミ層B1と、銀又は銀合金(代替銀)からなる銀層B2とから構成し、アルミ層B1を、PET(エチレンテレフタラート樹脂)等にてフィルム状に形成されたフィルム層F(基材に相当)の上部に形成し、銀層B2の上側に、保護層Dを形成し、保護層Dの上側に、樹脂材料層Jを形成したものである。樹脂材料層Jの上側に、着色層Pが形成される。
【0148】
図19の放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)の作成方法としては、フィルム層Fの上に、アルミ層B1を塗布して、フィルム層Fとアルミ層B1とを一体的に成形し、別途、フィルム状の樹脂材料層Jの上に、保護層D、銀層B2を塗布して、樹脂材料層J、保護層D、銀層B2を一体形成し、アルミ層B1と銀層B2とをのり層Nにて接着する方法を採用することができる。
のり層Nにて使用する接着剤(粘着剤)は、例えば、ウレタン系接着剤(粘着剤)、アクリル系接着剤(粘着剤)、EVA(エチレン酢酸ビニル)系接着剤(粘着剤)等があり、太陽光に対して高い透明性を持つものが望ましい。
【0149】
〔保護層の詳細〕
保護層Dは、厚さが300nm以上で、40μm以下のポリオレフィン系樹脂、又は、厚さが17μm以上で、40μm以下のポリエチレンテレフタラートである。
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン及びポリプロピレンがある。
【0150】
図20に、ポリエチレン、塩化ビニリデン樹脂、エチレンテレフタラート樹脂、塩化ビニル樹脂の紫外線の吸収率を示す。
また、
図21に、保護層Dを形成する合成樹脂として好適なポリエチレンの光透過率を示す。
【0151】
放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)は、夜間のみならず、日射環境下にても放射冷却作用を発揮するものであるから、光反射層Bが光反射機能を発揮する状態を維持するには、保護層Dにて光反射層Bを保護することにより、日射環境下で光反射層Bの銀が変色しないようにする必要がある。
【0152】
保護層Dが、ポリオレフィン系樹脂にて厚さが300nm以上で、40μm以下の形態に形成される場合には、ポリオレフィン系樹脂は、波長0.3から0.4μmの紫外線の波長域の全域において紫外線の光吸収率が10%以下である合成樹脂であるから、保護層Dが紫外線の吸収により劣化し難いものとなる。
【0153】
そして、保護層Dを形成するポリオレフィン系樹脂の厚さが、300nm以上であるから、樹脂材料層Jにて発生したラジカルが光反射層Bを形成する銀又は銀合金に到達することを遮断し、また、樹脂材料層Jを透過する水分が光反射層Bを形成する銀又は銀合金に到達することを遮断する等の遮断機能を良好に発揮することになり、光反射層Bを形成する銀又は銀合金の変色を抑制できることになる。
【0154】
ちなみに、ポリオレフィン系樹脂にて形成される保護層Dは、紫外線の吸収により、光反射層Bから離れる表面側にラジカルを形成しながら劣化することになるが、厚さが300nm以上であるから、形成したラジカルが光反射層Bに到達することはなく、また、ラジカルを形成しながら劣化するにしても、紫外線の吸収が低いことにより劣化の進み具合は遅いものであるから、上述の遮断機能を長期に亘って発揮することになる。
【0155】
保護層Dが、エチレンテレフタラート樹脂にて厚さが17μm以上で、40μm以下の形態に形成される場合には、エチレンテレフタラート樹脂は、ポリオレフィン系樹脂よりも、波長0.3から0.4μmの紫外線の波長域において紫外線の光吸収率が高い合成樹脂であるが、厚さが17μm以上であるから、樹脂材料層Jにて発生したラジカルが光反射層Bを形成する銀又は銀合金に到達することを遮断し、また、樹脂材料層Jを透過する水分が光反射層Bを形成する銀又は銀合金に到達することを遮断する等の遮断機能を長期に亘って良好に発揮することになり、光反射層Bを形成する銀又は銀合金の変色を抑制できることになる。
【0156】
つまり、エチレンテレフタラート樹脂にて形成される保護層Dは、紫外線の吸収により、光反射層Bから離れる表面側にラジカルを形成しながら劣化することになるが、厚さが17μm以上であるから、形成したラジカルが反射層に到達することはなく、また、ラジカルを形成しながら劣化するにしても、厚さが17μm以上であるから、上述の遮断機能を長期に亘って発揮することになる。
【0157】
説明を加えると、エチレンテレフタラート樹脂(PET)の劣化は紫外線によってエチレングリコールとテレフタル酸のエステル結合が開裂しラジカルが形成されることに起因する。この劣化は、エチレンテレフタラート樹脂(PET)における紫外線が照射される面の表面から順に進行する。
【0158】
例えば、大阪における強さの紫外線がエチレンテレフタラート樹脂(PET)に照射されると、1日あたり、照射される面より順に約9nmのエチレンテレフタラート樹脂(PET)のエステル結合が開裂していく。エチレンテレフタラート樹脂(PET)は十分に重合しているので、開裂した表面のエチレンテレフタラート樹脂(PET)が光反射層Bの銀(銀合金)を攻撃することはないが、エチレンテレフタラート樹脂(PET)の開裂端が光反射層B銀(銀合金)まで到達すると、銀(銀合金)が変色する。
【0159】
従って、屋外で使用するうえで、保護層Dを1年以上耐久させるためには、9nm/日と365日とを積算して、約3μmの厚さが必要となる。保護層Dのエチレンテレフタラート樹脂(PET)を3年以上耐久させるためには、厚さが10μm以上必要である。5年以上耐久させるためには、厚さが17μm以上必要である。
【0160】
尚、ポリオレフィン系樹脂及びエチレンテレフタラート樹脂にて保護層Dを形成する場合において、その厚さの上限を定める理由は、保護層Dが放射冷却に寄与しない断熱性を奏することを回避するためである。つまり、保護層Dは、厚さが厚くなるほど放射冷却に寄与しない断熱性を奏することになるから、光反射層Bを保護する機能を発揮させながらも、放射冷却に寄与しない断熱性を奏することを回避するために、厚さの上限が定められることになる。
【0161】
ところで、
図18に示すように、樹脂材料層Jと保護層Dとの間にのり層Nが位置する場合には、のり層Nからもラジカルが発生することになるが、保護層Dを形成するポリオレフィン系樹脂の厚さが300nm以上であり、保護層Dを形成するエチレンテレフタラート樹脂の厚さが17μm以上であれば、のり層Nにて発生したラジカルが光反射層Bに到達することを、長期に亘って抑制できる。
【0162】
ちなみに、上述の如く、保護層Dが厚くなると、光反射層Bの銀(銀合金)の着色を防ぐうえでのデメリットは生じないが、放射冷却するうえでの問題が発生する。つまり、厚くすると放射冷却材料の断熱性を上げることになる。
例えば、保護層Dを形成する合成樹脂として優れている主成分がポリエチレンの樹脂は、
図25に示すように、大気の窓における輻射率が小さいため、厚く形成しても放射冷却に寄与しない。それどころか、厚くすると放射冷却材料の断熱性を上げることになる。次に、厚くなると主鎖の振動に由来する近赤外域の吸収が増加し、太陽光吸収が増える効果が増加する。
これら要因により、保護層Dが厚いことは、放射冷却にとって不利である。このような観点から、ポリオレフィン系樹脂にて形成される保護層Dの厚さは、5μm以下であることが好ましく、更には、1μm以下であることが一層好ましい。
【0163】
〔保護層の考察〕
保護層Dによる銀の着色のされ方の違いを検討するために、
図22に示すような、赤外放射層Aとしての樹脂材料層Jを備えない保護層Dを露出させたサンプルを作製し、模擬太陽光が照射された後の銀の着色を調べた。
つまり、保護層Dとして、紫外線を吸収する一般的なアクリル系樹脂(例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が混入するメタクリル酸メチル樹脂)とポリエチレンとの二種類を、バーコーターで、光反射層Bとして銀を備えるフィルム層F(基材に相当)上に塗布したサンプルを形成し、保護層Dとしての機能を検討した。塗布した保護層Dの厚みは、それぞれ10μmと1μmである。
尚、フィルム層F(基材に相当)は、PET(エチレンテレフタラート樹脂)等にてフィルム状に形成されたものである。
【0164】
図24に示すように、保護層Dが紫外線を良く吸収するアクリル系樹脂の場合、保護層Dが紫外線で分解されラジカルを形成し、直ぐに銀が黄化して、放射冷却装置CPとして機能しなくなる(太陽光を吸収し、一般の材料のように日射が当たると温度上昇する)。
尚、図中の600hの線は、JIS規格5600-7-7の条件でキセノンウエザー試験(紫外光エネルギーは60W/m
2)を600h(時間)行った後の反射率スペクトルである。また、0hの線は、キセノンウエザー試験を行う前の反射率スペクトルである。
【0165】
図23に示すように、保護層Dが紫外線の光吸収率が低いポリエチレンの場合には、近赤外域から可視域での反射率の低下がみられないことがわかる。つまり、主成分がポリエチレンの樹脂(ポリオレフィン系樹脂)は、地上に届く太陽光が持つ紫外線を殆ど吸収しないため、太陽光が当たってもラジカルを形成し難いので、日射が当たっても、光反射層Bとしての銀の着色が発生しない。
尚、図中の600hの線は、JIS規格5600-7-7の条件でキセノンウエザー試験(紫外光エネルギーは60W/m
2)を600h(時間)行った後の反射率スペクトルである。また、0hの線は、キセノンウエザー試験を行う前の反射率スペクトルである。
【0166】
なお、この波長帯域の反射率スペクトルが波打つ理由は、ポリエチレン層のファブリペロー共振である。キセノンウエザー試験の熱などによってポリエチレン層の厚みが変化したことによる原因で、この共振位置が0hの線と600hの線とで多少変わっていることがわかるが、銀の黄化に由来する紫外-可視域における大きな反射率の低下は観測されない。
【0167】
尚、フッ素樹脂系も紫外線吸収の観点からは保護層Dを形成する材料に適用できるが、実際に保護層Dとして形成すると、形成段階で着色し、劣化するため、保護層Dを形成する材料としては用いることができない。
また、シリコーンも紫外線吸収の観点からは保護層Dを形成する材料に適用できるが、銀(銀合金)との密着性が極めて悪く、保護層Dを形成する材料としては用いることができない。
【0168】
〔放射冷却装置の別構成〕
図26に示すように、フィルム層F(基材に相当)の上部にアンカー層Gを備え、当該アンカー層Gの上部に、光反射層B、保護層D、赤外放射層Aを備える形態に構成してもよい。
尚、フィルム層F(基材に相当)は、例えば、PET(エチレンテレフタラート樹脂)等にてフィルム状に形成されたものである。
【0169】
アンカー層Gは、フィルム層Fと光反射層Bとの密着を強めるために導入されている。つまり、フィルム層Fに、直接、銀(Ag)を製膜しようとすると、簡単に剥がれが生じることになる。アンカー層Gは、アクリルやポリオレフィン、ウレタンが主成分であり、イソシアネート基を持つ化合物やメラミン樹脂が混合されているものが望ましい。太陽光に直接当たらない部分のコーティングであり、紫外線を吸収する素材であっても問題ない。
尚、フィルム層Fと光反射層Bとの密着を強める方法には、アンカー層Gを入れる以外の方法もある。例えば、フィルム層Fの製膜面にプラズマ照射して表面を荒らすと密着性は高まる。
【0170】
〔赤外放射層の別構成〕
図27に示すように、赤外放射層Aを構成する樹脂材料層Jに、無機材料のフィラーVを混入させて、光散乱構成を備えさせるようにしてもよい。また、
図28に示すように、赤外放射層Aを構成する樹脂材料層Jの表裏両面を凹凸状に形成して、光散乱構成を備えさせるようにしてもよい。
このように構成すれば、放射面Hを見たときに、放射面Hのギラツキを抑制できるものとなる。
【0171】
つまり、上記した樹脂材料層Jは、表裏両面が平坦で、フィラーVが混入しない構成であるが、このような構成の場合には、放射面Hが鏡面状となるため、放射面Hを見たときに、ギラツキを感じるものとなるが、光散乱構成を備えさせるとこのギラツキを抑制できる。これにより、着色層Pの色が視認しやすくなる。
また、樹脂材料層JにフィラーVを混入させた場合において、保護層D及び光反射層Bが存在すると、にフィラーVを混入させた樹脂材料層Jのみの場合や光反射層Bのみの場合よりも、光反射率が向上する。
【0172】
フィラーVを形成する無機材料としては、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)等を好適に使用できる。尚、樹脂材料層JにフィラーVを混入すると、樹脂材料層Jの表裏両面が凹凸状になる。
また、樹脂材料層Jの表裏両面を凹凸状にするには、エンボス加工や表面に傷を付ける加工等を行うことにより行うことができる。
【0173】
樹脂材料層Jの裏面が凹凸状になる場合には、
図18で説明した構成と同様に、樹脂材料層Jと保護層Dとの間にのり層N(接合層)が位置するようにすることが望ましい。
つまり、樹脂材料層Jの裏面が凹凸状であっても、樹脂材料層Jと保護層Dとの間にのり層N(接合層)が位置するから、樹脂材料層Jと保護層Dとを適切に接合することができる。
【0174】
尚、樹脂材料層Jの裏面が凹凸状になる場合において、例えば、プラズマ接合により、樹脂材料層Jと保護層Dとを直接的に接合するようにしてもよい。尚、プラズマ接合とは、樹脂材料層Jの接合面と保護層Dの接合面にプラズマの放射によりラジカルを形成し、そのラジカルにより接合する形態である。
【0175】
ちなみに、保護層DにフィラーVを混入すると、保護層Dの光反射層Bに接する裏面が凹凸状になり、光反射層Bの表面を凹凸状に変形させる原因になるため、保護層DにフィラーVを混入することは避ける必要がある。つまり、光反射層Bの表面が凹凸状に変形すると、光反射を適正通り行えないものとなり、その結果、放射冷却を適正通り行えないものとなる。
【0176】
この点に関する実験結果を、
図29に基づいて説明する。
図29における「光拡散層にAg層を直接形成」とは、フィラーVを混入させる或いは光反射層BであるAg層側にエンボス加工の凹凸がある赤外放射層A(樹脂材料層J)の表面に、銀(Ag)を蒸着等により成膜して光反射層Bを形成することを、意味するものである。
また、「鏡面Ag上に光拡散層」とは、光反射層BであるAg層の上面が鏡面状に形成され、当該Ag層の上部、保護層D、及び、フィラーVを混入させる或いはエンボス加工の凹凸がある赤外放射層A(樹脂材料層J)が積層されていることを、意味するものである。
【0177】
図29に示すように、「光拡散層にAg層を直接形成」の場合には、光反射層Bの表面が凹凸状になるため、光反射率が大きく低下するが、「鏡面Ag上に光拡散層」の場合には、光反射層Bの表面が鏡面状に維持され、適正通りの光反射率が得られる。
【0178】
〔着色層(着色部位)〕
本実施形態では、放射冷却装置CPは、着色部位Xとしての着色層Pを備えている。
図1に示されるように、着色層Pは、層状の部位であって、赤外放射層Aにおける放射面Hの存在側と同じ側に位置する。
【0179】
着色層Pの厚さは、20μm以下であれば放射冷却装置CPの作用(光の入射、反射、輻射等)を阻害せず好ましい。着色層Pの厚さが10μm以下であると特に好ましい。
【0180】
着色層Pは、可視光領域の光を吸収する着色料を含有する。着色料として、アゾ系、キノン系、トリアリールメタン系、シアニン系、フタロシアニン系、インジゴ系、又はポルフィリン系の化合物を用いることができる。着色料は、染料であってもよいし、顔料であってもよい。着色料は、蛍光を呈さないものであってもよいし、蛍光を呈する蛍光体であってもよい。
【0181】
着色層Pの形成は、上述の着色料、溶剤、バインダー樹脂、添加剤等を含むインクを用いて、樹脂材料層Jの放射面Hの上に印刷することにより行うことができる。印刷の手法としては、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、レーザープリント法等を用いることができる。
【0182】
インクの印刷後、形成された着色層Pは、着色料とバインダー樹脂とが残存する状態となる。バインダー樹脂としては、アクリル系樹脂(ブロック共重合体)、マレイン酸樹脂、ロジン、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)等を用いることができる。バインダー樹脂として、上述した樹脂材料層Jに使用可能な材料を用いると、着色層Pにおいても熱輻射による冷却を行うことができ好ましい。
【0183】
〔着色層における光吸収の実験・考察〕
着色層Pを模して、ポルフィリン系化合物である着色料を分散させた10μm厚のアクリル樹脂層を作成し、反射率スペクトルを測定した。着色料として、赤色を呈する山田化学工業製FDB-001(銅ポルフィリン錯体、以下「赤系統」と記す。)と、青色を呈する山田化学工業製FFDG-007(銅テトラアザポルフィリン錯体、以下「青系統」と記す。)の2種類を用いた。測定サンプルとして、アクリル樹脂層の単位面積あたりの着色料の量(以下「濃度」又は「着色料含有量」と記す。)を変化させた6種類の測定サンプルを、赤系統、青系統それぞれについて作成した。各測定サンプルの着色料含有量は、0.0g/m
2(着色料なし)、0.237g/m
2、0.1185g/m
2、0.05925g/m
2、0.0237g/m
2、0.01185g/m
2である。赤系統の結果を
図30に示す。青系統の結果を
図31に示す。何れのスペクトルにおいても、着色料の濃度が増加するにつれて、吸収ピークの深さが増加する(反射率が減少する)。
【0184】
図30、
図31の結果に基づいて、南中時の太陽光の元でアクリル樹脂層が吸収するエネルギーを計算した。結果を表1に示す。赤系統、青系統の何れにおいても、着色料含有量が増加するにつれて、吸収エネルギーが大きくなっている。
【0185】
【0186】
ここで、着色層Pを放射冷却装置CPに設けた場合の熱収支(冷却能力)について検討する。着色層Pを設けない場合、標準的な放射冷却装置CP(赤外放射層A:40μm厚塩化ビニル樹脂、のり層N:10μm厚ポリウレタン、保護層D:25μm厚PET樹脂、光反射層B:銀)の冷却能力は、乾燥した良く晴れた日において100W/m2程度、湿潤な環境で80W/m2程度である。
【0187】
着色料含有量が0.1185g/m2以上の場合、赤系統、青系統の何れにおいても、吸収エネルギーが、着色層Pを設けない放射冷却装置CPの冷却能力を上回ってしまう。そうすると、着色料含有量が0.1185g/m2以上である着色層Pを放射冷却装置CPに設けた場合には、冷却能力が阻害される。
【0188】
一方、着色料含有量が0.05925g/m2以下の場合、赤系統、青系統の何れにおいても、吸収エネルギーが、着色層Pを設けない放射冷却装置CPの冷却能力を下回る。そうすると、着色料含有量が0.05925g/m2以下である着色層Pを放射冷却装置CPに設けた場合には、冷却能力が阻害されず、冷却対象物Eの冷却を適切に行うことができる。
【0189】
以上の結果から、着色層P(着色部位X)の着色料含有量は、0.1185g/m2未満であると好ましく、0.05925g/m2以下であると更に好ましい。
【0190】
〔着色層の濃色化について〕
放射面Hの意匠性を高める観点から、着色層P(着色部位X)の色彩を濃くすることが求められる場合がある。濃い色彩を得るためには、望ましくは可視光領域で単峰な吸収スペクトルを有する着色料を複数組み合わせるのがよい。着色部位Xを黒色にする場合も、このような着色料の組み合わせで可視光領域の光のみを選択吸収するものを用いると、太陽光からのエネルギー吸収が最小限に抑えられるのでよい。そのような選択吸収着色料を用いて作製した黒色の場合、太陽光吸収率を約40%に抑制することができる。
【0191】
黒色が最も光を吸収するので、可視光のみを選択的に吸収する着色料を用いる場合、南中時の太陽光から着色層Pが吸収するエネルギーは約400W/m2となる。このような着色層Pを放射面Hの全体に設けた場合、放射冷却装置CPの冷却能力は南中時に100W/m2程度であるので、着色層Pが太陽光から吸収するエネルギーが冷却能力を上回ってしまう。ここで、着色層Pを放射面Hの一部を覆うように設け、放射面H全体に対する着色層Pの面積比を25%以下とすると、着色層Pが太陽光から吸収するエネルギーも25%、すなわち100W/m2程度となる。そうすると、放射冷却装置CPの冷却能力が、着色層Pが太陽光から吸収するエネルギーを上回るので、冷却対象物Eを冷却することができる。なお、着色層Pに覆われた赤外放射層Aも、覆われていない部分と同様に、100W/m2の熱輻射を行うことに留意されたい。
【0192】
別の例を説明する。上述した青系統の着色料を濃度0.237g/m2で用いた着色層Pを放射面Hの全体に設けた場合、太陽光からの吸収エネルギーは151W/m2となり、冷却能力100W/m2を上回る。ここで、放射面H全体に対する着色層Pの面積比を65%程度に小さくすると、着色層Pが太陽光から吸収するエネルギーが冷却能力100W/m2を下回り、冷却対象物Eを冷却することができる。このように、放射面H全体に対する着色層Pの面積比を小さくすることにより、着色層P(着色部位X)の着色料の濃度を高くして色を濃くすることができる。なお、この場合の「濃度」とは、放射面H全体を対象として算出する単位面積当たりの着色料の量ではなく、着色部位Xを対象として算出する単位面積当たりの着色料の量であり、着色部位Xにおける局所的な着色料の濃度である。
【0193】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態を列記する。
(1)上記実施形態では、着色部位Xとしての着色層Pが、赤外放射層Aにおける放射面Hの存在側と同じ側に位置している。例えば、
図18に示されるように、樹脂材料層Jの上側に、着色層Pが形成される。着色部位Xとしては、以下に示す他の形態も可能である。
例えば、
図33に示されるように、着色部位Xが樹脂材料層J(着色樹脂フィルムJ)であってもよい。この実施形態では、樹脂材料層Jが、上述の着色料を含有する。
【0194】
例えば、
図34に示されるように、樹脂材料層Jとのり層Nとの間に、着色層Pが設けられてもよい。
【0195】
例えば、
図35に示されるように、着色部位Xがのり層Nであってもよい。この実施形態では、のり層Nが、上述の着色料を含有する。
【0196】
例えば、
図36に示されるように、のり層Nと保護層Dとの間に、着色層Pが設けられてもよい。
【0197】
着色部位Xは、
図1に示されるように樹脂材料層Jの放射面Hの全体にわたって設けられてもよいし、
図32に示されるように樹脂材料層Jの放射面Hの一部に設けられてもよい。
図1、
図34及び
図36に係る実施形態のように、着色層Pが設けられる形態では、着色層Pが放射面Hの全体にわたって設けられてもよいし、放射面Hの一部に設けられてもよい。
【0198】
図33及び
図35に係る実施形態のように、樹脂材料層J又はのり層Nが着色部位Xである場合には、当該層(樹脂材料層J/のり層N)の全体が着色部位Xであってもよい。すなわち、当該層の全体に着色料が含有されてもよい。当該層の一部(放射面Hの延在方向の一部、又は、当該層の厚さ方向の一部)が着色部位Xであってもよい。すなわち、当該層の一部に着色料が含有されてもよい。換言すれば、当該層が、着色料を含有する層材料と、着色料を含有しない層材料とで構成されてもよい。
【0199】
(2)上記実施形態では、樹脂材料層Jを形成する樹脂材料として各種のものを例示したが、好適に使用できる樹脂材料としては、塩化ビニル樹脂(PVC)、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、フッ化ビニル樹脂(PVF)、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)を挙げることができる。
【0200】
(3)上記実施形態では、冷却対象物Eとして、放射冷却装置CP(放射冷却フィルム)の裏面に密着される物体を例示したが、冷却対象物Eとしては、冷却対象空間等、各種の冷却対象を適用できる。
【0201】
(4)上記実施形態では、樹脂材料層Jの放射面Hをそのまま露出させる形態を例示した。
図37に示されるように、放射面H及び着色層Pを覆うハードコート層Yを設けてもよい。
ハードコート層Yの材料としては、UV硬化アクリル系、熱硬化アクリル系、UV硬化シリコーン系、熱硬化シリコーン系、有機無機ハイブリッド系、塩化ビニルが存在し、いずれを用いてもよい。添加材として有機系帯電防止剤を用いてもよい。
UV硬化アクリル系の中でもウレタンアクリレートは特によい。
【0202】
ハードコート層Yの成膜方法としては、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などを用いることができる。
ハードコート(塗膜)の厚みは1~50μmであり、特に2~20μmが望ましい。
【0203】
樹脂材料層Jの樹脂材料として、塩化ビニル樹脂を用いる場合において、塩化ビニル樹脂の可塑剤の量を減らし、硬質塩化ビニル樹脂、或いは、半硬質塩化ビニル樹脂にしてもよい。この場合、赤外放射層Aの塩化ビニルそのものがハードコート層Yとなる。
【0204】
保護層Dが、アクリル樹脂であってもよい。好ましくは、保護層Dが、紫外線の吸収量が比較的小さいアクリル樹脂であるとよい。更に好ましくは、保護層Dが、紫外線吸収剤を含まないアクリル樹脂であるとよい。
【0205】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0206】
A 赤外放射層
B 光反射層
D 保護層
H 放射面
J 樹脂材料層
N のり層(接合層)
P 着色層
X 着色部位
Y ハードコート層