(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240613BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240613BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
F16F15/02 L
F16F7/00 Z
(21)【出願番号】P 2020110132
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】592123923
【氏名又は名称】株式会社タカミヤ
(73)【特許権者】
【識別番号】508311008
【氏名又は名称】呉 東航
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100095212
【氏名又は名称】安藤 武
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼宮 一雅
(72)【発明者】
【氏名】平田 春彦
(72)【発明者】
【氏名】呉 東航
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-214746(JP,A)
【文献】米国特許第08327592(US,B2)
【文献】特開2020-007860(JP,A)
【文献】特開2000-274107(JP,A)
【文献】特開2011-047224(JP,A)
【文献】特開2002-129662(JP,A)
【文献】特開2011-127278(JP,A)
【文献】特開2008-031633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02
F16F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構築物を構成する左右2本の柱を含む4本の部材によって形成された四角フレームの内部に配置されている制振具と、この制振具を前記四角フレームに結合するための結合具と、を含んで構成された制振装置であって、
前記制振具が、前記左右2本の柱の間の中央部と、前記左右2本の柱のそれぞれとの間の2つの箇所に設けられ、前記四角フレームに作用する振動エネルギによる前記左右2本の柱の曲がり変形に対して抵抗するための左右2つの耐震部と、前記左右2本の柱の間の前記中央部に設けられ、前記振動エネルギを吸収して制振するための制振部と、を有している制振装置において、
前記制振具は、前記左右2本の柱の間に少なくとも1枚が配置された金属板を含んで構成され、厚さ方向が前記四角フレームの貫通方向となっている前記金属板における異なる部分により、前記左右2つの耐震部と前記制振部とが形成されて
おり、
前記金属板の枚数は1枚であり、この金属板の左右両端部には、左右2枚のフランジ部材が固着され、これらのフランジ部材が前記結合具により前記左右2本の柱に結合されることにより、前記1枚の金属板が前記左右2本の柱の間に配置されていることを特徴とする制振装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制振装置において、前記金属板と前記フランジ部材とに、前記四角フレームの貫通方向となっている前記金属板の厚さ方向の強度を補強するための補強部材が固着されていることを特徴とする制振装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の制振装置において、前記左右2枚のフランジ部材の上下両端部には、これらのフランジ部材を前記結合具により前記左右2本の柱に結合する以前において、仮止着具の軸部が挿入されることにより、前記左右2本の柱に前記左右2枚のフランジ部材を前記仮止着具によって仮止め可能とするための凹部が設けられていることを特徴とする制振装置。
【請求項4】
請求項3に記載の制振装置において、前記凹部は、V字状の凹部であることを特徴とする制振装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の制振装置において、前記左右2本の柱における互いに対向する側面には、前記1枚の金属板を配置すべき前記柱における前記四角フレームの貫通方向の位置を示すマークが表示されているとともに、前記左右2枚のフランジ部材には、これらのフランジ部材に前記左右両端部が固着されている前記1枚の金属板の配置位置を示すとともに、前記マークと一致させて前記左右2本の柱に前記左右2枚のフランジ部材を前記結合具によって結合することで前記1枚の金属板が、この1枚の金属板を配置すべき前記柱における前記四角フレームの貫通方向の前記位置に配置される目印が設けられて
いることを特徴とする制振装置。
【請求項6】
構築物を構成する左右2本の柱を含む4本の部材によって形成された四角フレームの内部に配置されている制振具と、この制振具を前記四角フレームに結合するための結合具と、を含んで構成された制振装置であって、
前記制振具が、前記左右2本の柱の間の中央部と、前記左右2本の柱のそれぞれとの間の2つの箇所に設けられ、前記四角フレームに作用する振動エネルギによる前記左右2本の柱の曲がり変形に対して抵抗するための左右2つの耐震部と、前記左右2本の柱の間の前記中央部に設けられ、前記振動エネルギを吸収して制振するための制振部と、を有している制振装置において、
前記制振具は、前記左右2本の柱の間に少なくとも1枚が配置された金属板を含んで構成され、厚さ方向が前記四角フレームの貫通方向となっている前記金属板における異なる部分により、前記左右2つの耐震部と前記制振部とが形成されており、
前記金属板の枚数は、前記四角フレームの貫通方向に並設された第1金属板と第2金属板とを含む少なくとも2枚であり、前記第1金属板は、前記左右2つの耐震部と前記制振部とが設けられている本体部と、この本体部の左右の外側に、前記本体部に対し前記四角フレームの貫通方向のうち、前記第2金属板側とは反対側へ折り曲げられることによって設けられている左右2個の端部と、を有し、これらの端部が前記結合具によって前記左右2本の柱に結合されることにより、前記第1金属板が前記左右2本の柱の間に配置され、前記第2金属板は、前記左右2つの耐震部と前記制振部とが設けられている本体部と、この本体部の左右の外側に、前記第2金属板の前記本体部に対し前記四角フレームの貫通方向のうち、前記第1金属板側とは反対側へ折り曲げられることによって設けられている左右2個の端部と、を有し、これらの端部が前記結合具によって前記左右2本の柱に結合されることにより、前記第2金属板が前記左右2本の柱の間に配置されていることを特徴とする制振装置。
【請求項7】
請求項6に記載の制振装置において、前記第1金属板の前記本体部と、前記第1金属板の前記左右2個の端部とに、前記四角フレームの貫通方向となっている前記金属板の厚さ方向の強度を補強するための補強部材が固着されているとともに、前記第2金属板の前記本体部と、前記第2金属板の前記左右2個の端部とに、前記四角フレームの貫通方向となっている前記金属板の厚さ方向の強度を補強するための補強部材が固着されていることを特徴とする制振装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の制振装置において、前記第1金属板と前記第2金属板との間に第3金属板が配置され、この第3金属板にも、前記左右2つの耐震部と前記制振部とが設けられていることを特徴とする制振装置。
【請求項9】
請求項6~8のいずれかに記載の制振装置において、前記金属板同士は、これらの金属板に設けられている前記左右2つの耐震部において、連結されていることを特徴とする制振装置。
【請求項10】
請求項6~9のいずれかに記載の制振装置において、前記金属板同士は、これらの金属板に設けられている前記制振部において、連結されていることを特徴とする制振装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の制振装置において、前記左右2つの耐震部のそれぞれは、前記金属板のうち、上下方向の寸法と左右方向の寸法とを有する大面積部となっており、これらの大面積部は前記制振部により繋がれており、この制振部は、前記金属板のうち、上下寸法が前記大面積部の上下方向の前記寸法よりも小さく、かつ左右方向の長さを有する細幅部となっており、この細幅部が前記振動エネルギにより塑性変形することで前記制振部が前記振動エネルギを吸収することを特徴とする制振装置。
【請求項12】
請求項11に記載の制振装置において、前記制振部の長さ方向における前記耐震部との接続部は、この接続部の上下両辺部が前記耐震部側へ末広がり状に湾曲している辺部となっていることによる末広がり状接続部となっていることを特徴とする制振装置。
【請求項13】
請求項11
又は12に記載の制振装置において、前記制振部は、上下の間隔をあけて複数個設けられていることを特徴とする制振装置。
【請求項14】
請求項13に記載の制振装置において、上下に隣接する2個の前記制振部の間は、前記金属板に形成された開口部となっており、この開口部は上下に複数個あることを特徴とする制振装置。
【請求項15】
請求項14に記載の制振装置において、上下に複数個ある前記開口部のうち、少なくとも1個の開口部は、残りの開口部よりも開口面積が大きくなっていることを特徴とする制振装置。
【請求項16】
請求項1~15のいずれかに記載の制振装置において、前記左右2つの前記耐震部と前記制振部とが異なる部分に形成されている前記金属板は、前記四角フレームの内部に上下方向に複数個配置されていることを特徴とする制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構築物を構成する4本の部材により形成されている四角フレームの内部に、耐震機能と制振機能を有する制振具を配置した制振装置に係り、例えば、木造軸組み工法により構築される建物等に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、住宅等の構築物を構成する左右2本の柱や土台、梁等による4本の部材により形成された四角フレームの内部に制振具を配置し、この制振具を四角フレームに結合具で結合することにより、地震等の発生時に制振具が耐震機能と制振機能を発揮する制振装置が示されている。この制振装置での制振具は、それぞれが左右2本の柱に結合具で結合され、厚さ方向が四角フレームの貫通方向となっている左右2枚の耐力板と、これらの耐力板と接続された2枚の板部材と、耐力板同士の間において、2枚の板部材に挟まれて配置された合成樹脂製の粘弾性部材とからなるものになっている。地震等の発生時に、振動エネルギにより左右2本の柱が曲がり変形することに左右2枚の耐力板が抵抗することによって耐震機能が生じ、また、2枚の板部材と粘弾性部材とによる粘弾性ダンパーによって振動エネルギが吸収されることより制振機能が生じ、これにより、四角フレームは大きく変形せず、また、四角フレームの振動は減衰する。
【0003】
このため、この制振装置では、左右2本の柱の間の中央部と、これらの柱のそれぞれとの間の2つの箇所に配置された左右2枚の耐力板により、左右2本の柱の曲がり変形に対して抵抗するための左右2つの耐震部が形成され、また、左右2本の柱の間の中央部に配置された2枚の板部材と粘弾性部材とによる粘弾性ダンパーにより、振動エネルギを吸収して制振するための制振部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の制振装置では、四角フレームの内部に配置されて、この四角フレームに結合具により結合される制振具に耐震機能と制振機能とを備えさせるために、この制振具を、左右2枚の耐力板と、これらの耐力板と接続された2枚の板部材と、これらの板部材に挟まれて配置された粘弾性部材とを用いて構成していることになる。
【0006】
本発明の目的は、耐震機能と制振機能の両方を備えたものとして、四角フレームの内部にこの四角フレームに結合具で結合されて配置される制振具を、形状や構造を単純化したものにして構成できるようになる制振装置を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る制振装置は、構築物を構成する左右2本の柱を含む4本の部材によって形成された四角フレームの内部に配置されている制振具と、この制振具を前記四角フレームに結合するための結合具と、を含んで構成された制振装置であって、前記制振具が、前記左右2本の柱の間の中央部と、前記左右2本の柱のそれぞれとの間の2つの箇所に設けられ、前記四角フレームに作用する振動エネルギによる前記左右2本の柱の曲がり変形に対して抵抗するための左右2つの耐震部と、前記左右2本の柱の間の前記中央部に設けられ、前記振動エネルギを吸収して制振するための制振部と、を有している制振装置において、制振具は、前記左右2本の柱の間に少なくとも1枚が配置された金属板を含んで構成され、厚さ方向が前記四角フレームの貫通方向となっている前記金属板における異なる部分により、前記左右2つの耐震部と前記制振部とが形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
このように本発明に係る制振装置では、構築物を構成する左右2本の柱を含む4本の部材によって形成された四角フレームの内部に配置されていて、この四角フレームに結合具により結合されている制振具は、左右2本の柱の間に少なくとも1枚が配置された金属板を含んで構成されたものとなっており、厚さ方向が四角フレームの貫通方向となっているこの金属板における異なる部分により、左右2つの耐震部と制振部とが形成されているため、耐震機能と制振機能の両方を備えた制振具を、形状や構造を単純化したものにして構成でき、これにより、制振具の製造コストを低減でき、また、四角フレームの内部への制振具の配置作業を容易に行えるようになる。
【0009】
また、左右2つの耐震部と制振部は、同じ金属板における異なる部分によって形成されているため、四角フレームに作用する振動エネルギを耐震部から制振部に直接伝達させることができ、これにより、耐震部に作用した振動エネルギが時間差なしで瞬時に制振部に作用するため、制振性能を向上させることができる。
【0010】
以上の本発明に係る制振装置において、四角フレームの内部に配置されてこの四角フレームに結合具で結合される制振具に耐震機能と制振機能とを備えさせるためには、例えば、左右2つの耐震部のそれぞれを、前記金属板のうち、上下方向の寸法と左右方向の寸法とを有する大面積部とし、これらの大面積部を制振部により繋ぐとともに、この制振部を、前記金属板のうち、上下寸法が大面積部の上下方向の寸法よりも小さく、かつ左右方向の長さを有する細幅部とし、この細幅部が振動エネルギにより塑性変形することで制振部が振動エネルギを吸収するようにしてもよい。
【0011】
また、以上のように左右2つの耐震部のそれぞれを、前記金属板のうち、上下方向の寸法と左右方向の寸法とを有する大面積部とし、これらの大面積部を制振部により繋ぐとともに、この制振部を、前記金属板のうち、上下寸法が大面積部の上下方向の寸法よりも小さく、かつ左右方向の長さを有する細幅部とし、この細幅部が振動エネルギにより塑性変形することにより、制振部が振動エネルギを吸収するようにする場合には、制振部の長さ方向における耐震部との接続部を、この接続部の上下両辺部を耐震部側へ末広がり状に湾曲している辺部とすることにより、末広がり状接続部とすることが好ましい。
【0012】
これによると、制振部の長さ方向における耐震部との接続部は、この接続部の上下両辺部を耐震部側へ末広がり状に湾曲している辺部とすることにより、末広がり状接続部となるため、振動エネルギが耐震部から制振部へ伝達されるときに、耐震部と制振部との間で応力集中が生ずることをなくすことができ、これにより、耐震部から振動エネルギが伝達される制振部に、この振動エネルギによる塑性変形を一層確実に生じさせることができて、振動エネルギを吸収する制振部の制振機能を向上させることができる。
【0013】
また、上述したように左右2つの耐震部のそれぞれを、前記金属板のうち、上下方向の寸法と左右方向の寸法とを有する大面積部とし、これらの大面積部を制振部により繋ぐとともに、この制振部を、前記金属板のうち、上下寸法が大面積部の上下方向の寸法よりも小さく、かつ左右方向の長さを有する細幅部とし、この細幅部が振動エネルギにより塑性変形することにより、制振部が振動エネルギを吸収するようにする場合においては、前記金属板に細幅部として設ける制振部の個数は、1個でもよく、あるいは、上下の間隔をあけて設けられた複数個でもよい。
【0014】
これらのうち、後者のように前記金属板に細幅部として設ける制振部の個数を、上下の間隔をあけて設けられた複数個とした場合には、耐震部から伝達される振動エネルギの吸収を、複数個の制振部により一層有効に行えるようになる。
【0015】
また、このように前記金属板に細幅部として設ける制振部の個数を、上下の間隔をあけて設けられた複数個とする場合には、上下に隣接する2個の制振部の間は、前記金属板に形成された開口部となるが、この開口部の個数を上下に設けられた複数個とする場合には、それぞれの開口部の面積を同じにしてもよく、あるいは、これらの開口部のうち、少なくとも1個の開口部を、残りの開口部よりも開口面積が大きいものとしてもよい。
【0016】
これらのうち、後者のように上下に複数個設けられた開口部のうち、少なくとも1個の開口部を、残りの開口部よりも開口面積が大きいものとすると、制振具が内部に配置されている前記四角フレームの表面に壁用面材を取り付け、この面材に電気スイッチ等の電気器具を配置する場合に、この電気器具から延びる電気配線を、開口面積が大きい開口部に通すことにより四角フレームの内部に容易に配線することができるようになる。
【0017】
また、以上述べたように四角フレームの内部に、制振具を構成する金属板を配置し、四角フレームの貫通方向を厚さ方向とするこの金属板における異なる部分により、左右2つの耐震部と制振部とを形成することは、金属板の枚数を1枚とすることによっても実施でき、また、金属板の枚数を、四角フレームの貫通方向に並設された複数枚とすることによっても実施できる。
【0018】
これらのうち、前者のように金属板の枚数を1枚とする場合には、この金属板の左右両端部に左右2枚のフランジ部材を溶接等で固着し、これらのフランジ部材を木ねじ等の結合具によって四角フレームを形成している左右2本の柱に結合することにより、1枚の金属板を左右2本の柱の間に配置するようにしてもよい。
【0019】
また、このように1枚の金属板の左右両端部に左右2枚のフランジ部材を固着し、これらのフランジ部材を結合具によって四角フレームを形成している左右2本の柱に結合することにより、1枚の金属板を左右2本の柱の間に配置する場合には、左右2枚のフランジ部材の上下両端部に、これらのフランジ部材を結合具により左右2本の柱に結合する以前において、仮止着具の軸部が挿入されることにより、左右2本の柱に左右2枚のフランジ部材を仮止着具によって仮止め可能とするための凹部を設けてもよい。
【0020】
これによると、左右2枚のフランジ部材を結合具により左右2本の柱に結合する以前において、左右2枚のフランジ部材の上下両端部に設けられた凹部に仮止着具の軸部を挿入することにより、左右2本の柱に左右2枚のフランジ部材を仮止着具によって仮止めすることが可能となるため、左右2枚のフランジ部材を結合具により左右2本の柱に結合するための作業を、一人の作業者により容易かつ短時間で行えるようになる。
【0021】
なお、左右2枚のフランジ部材の上下両端部に設ける凹部は、V字状の凹部とすることが好ましい。
【0022】
このように左右2枚のフランジ部材の上下両端部に設ける凹部をV字状の凹部とすると、仮止着具が、軸部の直径がどのような寸法のものになっていても、左右2枚のフランジ部材を左右2本の柱に、上下方向と、四角フレームの貫通方向とに対して不動にして仮止めすることができる。
【0023】
また、上述したように1枚の金属板の左右両端部に左右2枚のフランジ部材を固着し、これらのフランジ部材を結合具によって四角フレームを形成している左右2本の柱に結合することにより、1枚の金属板を左右2本の柱の間に配置する場合には、左右2本の柱における互いに対向する側面には、前記1枚の金属板を配置すべき柱における四角フレームの貫通方向の位置を示すマークを表示するとともに、左右2枚のフランジ部材には、これらのフランジ部材に左右両端部が固着されている前記1枚の金属板の配置位置を示すとともに、前記マークと一致させて左右2本の柱に左右2枚のフランジ部材を結合具によって結合することで前記1枚の金属板が、この1枚の金属板を配置すべき柱における四角フレームの貫通方向の前記位置に配置される目印を設けることが好ましい。
【0024】
これによると、左右2本の柱における互いに対向する側面に表示されているマークと、左右2枚のフランジ部材に設けられている目印とを一致させて、左右2本の柱に左右2枚のフランジ部材を結合具によって結合することにより、前記1枚の金属板を、この1枚の金属板を配置すべき柱における四角フレームの貫通方向の位置に正確に配置できるようになり、これにより、この1枚に金属板に設けられている左右2つの耐震部による本来の耐震機能と、制振部による本来の制振機能とを充分に発揮させることができる。
【0025】
なお、左右2本の柱における互いに対向する側面に表示するマークは、縦線のラインでもよく、あるいは、角部を上下方向に向けた三角形等の図形でもよい。
【0026】
また、左右2枚のフランジ部材に設ける目印も、これらのフランジ部の上下両端部に表示した縦線のラインでもよく、あるいは、角部を上下方向に向けた三角形等の図形でもよく、あるいは、フランジ部材の上下両端部に、上下方向となっているフランジ部材の長さ方向の外側へ突出して形成された三角状の突起でもよく、あるいは、フランジ部材の上下両端部に、上下方向となっているフランジ部材の長さ方向の内側へ窪んだV字状の凹部等でもよい。
【0027】
さらに、左右2枚のフランジ部材に設ける目印を、フランジ部材の上下両端部に、上下方向となっているフランジ部材の長さ方向の内側へ窪んだV字状の凹部とする場合には、これらのV字状の凹部を、前述した仮止着具の軸部が挿入されるV字状の凹部とすることにより、仮止着具の軸部を挿入するためのV字状の凹部を、左右2枚のフランジ部材に設ける目印として兼用化してもよい。これによると、左右2枚のフランジ部材に目印とV字状の凹部の両方を設ける必要がなくなり、それだけ左右2枚のフランジ部材を容易に製造できる。
【0028】
また、前述したように金属板の枚数を1枚とする場合には、この金属板を、前述した左右2つの耐震部と制振部とが設けられている本体部と、この本体部の左右の外側に、この本体部に対し四角フレームの貫通方向へ折り曲げられることによって設けられている左右2個の端部と、を有するものとし、これらの端部を木ねじ等の結合具によって四角フレームを形成する左右2本の柱に結合することにより、1枚の金属板をこれらの柱の間に配置して四角フレームに結合するようにしてもよい。
【0029】
これによると、1枚の金属板に、左右2つの耐震部と、制振部と、左右2本の柱に結合具により結合される左右の両端部と、を設けることができるため、制振具の形状や構造を一層単純化できる。
【0030】
なお、このように1枚の金属板に、左右2つの耐震部と、制振部と、左右2本の柱に結合具により結合される左右の両端部と、を設ける場合には、左右2つの耐震部と制振部が設けられる本体部に対し四角フレームの貫通方向に折り曲げられる左右の両端部の折り曲げ方向を、同じ方向にしてもよく、あるいは、互いに逆の方向にしてもよい。
【0031】
また、本発明に係る制振装置において、金属板の枚数を、四角フレームの貫通方向に並設された第1金属板と第2金属板とを含む少なくとも2枚としてもよい。このように金属板の枚数を、四角フレームの貫通方向に並設された第1金属板と第2金属板とを含む少なくとも2枚とする場合には、第1金属板を、左右2つの耐震部と制振部とが設けられている本体部と、この本体部の左右の外側に、この本体部に対し四角フレームの貫通方向のうち、第2金属板側とは反対側へ折り曲げられることによって設けられている左右2個の端部と、を有するものとし、これらの端部を木ねじ等の結合具によって左右2本の柱に結合することにより、第1金属板を左右2本の柱の間に配置して四角フレームに結合するとともに、第2金属板を、左右2つの耐震部と制振部とが設けられている本体部と、この本体部の左右の外側に、第2金属板の本体部に対し四角フレームの貫通方向のうち、第1金属板側とは反対側へ折り曲げられることによって設けられている左右2個の端部と、を有するものとし、これらの端部を木ねじ等の結合具によって左右2本の柱に結合することにより、第2金属板を左右2本の柱の間に配置して四角フレームに結合するようにしてもよい。
【0032】
さらに、本発明に係る制振装置において、金属板の枚数を、四角フレームの貫通方向に並設された第1金属板と第2金属板とを含む少なくとも2枚とする場合には、第1金属板と第2金属板との間に第3金属板を配置し、この第3金属板にも、左右2つの耐震部と制振部とを設けてもよい。
【0033】
また、以上のように金属板の枚数を、四角フレームの貫通方向に並設された第1金属板と第2金属板とを含む少なくとも2枚とする場合や、第1金属板と第2金属板との間に第3金属板を配置する場合には、これらの金属板同士を、これらの金属板に設けられている左右2つの耐震部において、連結してもよい。
【0034】
これによると、四角フレームの貫通方向に並設された複数枚の金属板同士は、耐震部において連結されるため、複数枚の金属板同士を一体化させて耐震部の耐震強度を大きくすることができ、また、複数枚の金属板同士は、制振部では連結されないため、それぞれの金属板に設けられている制振部の本来の制振機能を充分に発揮させることができる。
【0035】
なお、以上のように四角フレームの貫通方向に並設された複数枚の金属板同士を、これらの金属板に設けられている耐震部において連結することは、これらの耐震部に形成した孔にボルトの軸部を挿通し、この軸部の端部に螺合したナットを締め付けることによるボルト、ナット式締付連結具で行ってもよく、あるいは、複数枚の金属板の耐震部に形成した孔にリベットを挿入して行うリベット式締付連結具で行ってもよく、あるいは、複数枚の金属板の耐震部をスポット溶接で連結する溶接式連結により行ってもよい。
【0036】
また、複数枚の金属板同士を、制振部において、以上と同様のボルト、ナット式締付連結具や、リベット式締付連結具、溶接式連結等により連結してもよい。
【0037】
また、以上説明した本発明に係る制振装置は、左右2本の柱を含む4本の部材により形成される四角フレームが設けられる任意の構築物に用いることができ、この構築物は、木造軸組み工法により構築される建物や橋梁等の建造物でもよく、あるいは、軽量鉄骨を含む鉄骨を用いる鉄骨軸組み工法により構築される建物や橋梁等の建造物でもよい。
【発明の効果】
【0038】
本発明によると、耐震機能と制振機能とを備えたものとして、四角フレームの内部にこの四角フレームに結合具で結合されて配置される制振具を、形状や構造を単純化したものにして構成できるようになるという効果を得らえる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る制振装置の全体を示す正面図である。
【
図4】
図4は、
図1で示されている制振装置の制振具を示す全体斜視図である。
【
図8】
図8は、制振具のフランジ部材の上下両端部に設けられてV字状の凹部の部分を拡大して示す斜視図である。
【
図9】
図9は、V字状の凹部に軸部が挿入された仮止着具によりフランジ部材を四角フレームの柱に仮止めしたときの状態を示す
図8と同様の図である。
【
図10】
図10は、四角フレームに横荷重による振動エネルギが作用したときの状態を示す
図1と同様の図である。
【
図11】
図11は、
図10のときにおける制振具の制振部の変形を二点鎖線で示した正面図である。
【
図12】
図12は、四角フレームを形成する左右2本の柱のうち、1本の柱が通し柱となっている実施形態を示す
図1と同様の図である。
【
図13】
図13は、複数の制振装置を左右方向に連設した実施形態を示す
図1と同様の図である。
【
図14】
図14は、制振具を構成する金属板が1枚となっている別実施形態を示す
図4と同様の図である。
【
図16】
図16は、制振具を構成する金属板が2枚となっている実施形態を示す
図3と同様の図である。
【
図17】
図17は、制振具を構成する金属板が3枚となっている実施形態を示す
図3と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
図1には、本実施形態に係る制振装置の全体正面図が示されており、この制振装置は、木造軸組み工法により構築される住宅等の構築物に用いられているものであり、このため、この構築物の一部には、それぞれが木材となっている左右2本の柱1,2と土台3と梁4による4本の部材により形成された四角フレーム5が設けられている。この四角フレーム5は、表面に石膏ボード等による面材が左右2本の柱1,2に木ねじ等の止着具によって止着されることにより、構築物の壁を形成する部分となっている。このような面材が止着される以前において、四角フレーム5の内部には、制振装置の制振具10が配置され、この制振具10は、制振具10の本体部材となっている1枚の金属板11と、四角フレーム5の貫通方向が厚さ方向となっているこの金属板11の左右両端部に溶接により固着された左右2枚のフランジ部材12と、金属板11の左右両端部の上下に複数個が配置されているとともに、金属板11とフランジ部材12とに溶接により固着されている補強部材13とにより構成されたものとなっている。
【0041】
図2は、
図1のS2-S2線断面図であり、
図3は、
図1のS3-S3線断面図であり、これらの
図2及び
図3から分かるように、上下方向を長さ方向とするそれぞれのフランジ部材12は、四角フレーム5の貫通方向を幅方向とする縦長の板部材である。これらのフランジ部材12の幅方向の中央位置において、金属板11の左右両端部がフランジ部材12に溶接によって固着されているとともに、幅寸法が金属板11の厚さ寸法よりも大きくなっているそれぞれのフランジ部材12は、金属板11の厚さ方向両側において、結合具である上下複数本の木ねじ14により左右2本の柱1,2に結合されている。これにより、金属板11と左右2枚のフランジ部材12と複数の補強部材13とからなる制振具10は、左右2本の柱1,2において、四角フレーム5に木ねじ14により結合され、制振具10と木ねじ14とからなる制振装置が、四角フレーム5の内部に配置される。
【0042】
なお、
図1では、制振具10は、四角フレーム5の内部に間隔をあけて上下2個配置されている。
【0043】
図4には、制振具10の全体斜視図が示され、
図5は、制振具10の全体正面図であり、
図6は、
図5のS6-S6断面図、
図7は、
図5のS7-S7断面図である。制振具10の前述した本体部材となっている金属板11は、スチール又はアルミ合金等を材料とするものであって、打ち抜き加工やレーザー加工により左右対称及び上下対称の形状に形成されており、このような金属板11の上下には、
図5に示されているように、金属板11の内側へ大きく切り込まれた切り込み部20が形成され、これらの切り込み部20には、さらに金属板11の内側へ窪んだ窪み部21が設けられており、このため、金属板11の上下には、2個の窪み部21が設けられている。これらの窪み部21の左右方向の中央位置は、制振具10全体の左右方向の中心線Nが通る位置と一致しているとともに、これらの窪み部21の間には、4個の開口部22と1個の開口部23が上下の間隔をあけて形成されている。これらの開口部22,23のうち、開口部23の上下に2個ずつ設けられている開口部22の形状及び寸法は同じであって、これらの開口部22は、上下方向の寸法よりも左右方向の寸法が大きい横長の開口部となっており、また、開口部23は、左右方向の寸法が開口部22と同じであって、上下方向の寸法が開口部22よりも大きいものとなっている。
【0044】
以上により本実施形態では、金属板11の左右両端部に固着された左右2枚のフランジ部材12が、木ねじ14により四角フレーム5の構成部材となっている左右2本の柱1,2に結合されたときには、金属板11に上下方向に合計5個形成されている開口部22,23は、左右2本の柱1,2の間の中央部に配置されることになり、そして、これらの開口部22,23のうち、1個の開口部23は、残りの4個の開口部22よりも大きい面積で開口している。
【0045】
図5に示されているように、金属板11のうち、開口部22,23の左右両側は、金属板11の厚さ方向に貫通する開口部等が形成されてない大面積部となっており、それぞれが上下方向の寸法と左右方向の寸法とを有するこれらの大面積部は、金属板11における耐震部24となっている。そして、
図5に示されているように、上述の上下2個の切り込み部20により左右方向の外側へ全体として拡大した形状となっているこれらの耐震部24は、金属板11の左右方向中央部において、上下方向に並設されている開口部22,23の間に形成された複数個の制振部25により繋がれており、上下方向に並設されているこれらの制振部25は、金属板11のうち、開口部22,23の間の部分であるため、これを言い換えると、開口部22,23は、上下に複数設けられている制振部25の間に形成されているため、それぞれの制振部25は、金属板11のうち、左右方向を長さ方向とし、上下方向を幅方向とする細幅部となっている。このような細幅部によるそれぞれの制振部25の上下寸法は、耐震部24の上下寸法よりも小さくなっており、また、それぞれの制振部25の上下寸法は同じになっていて、それぞれの制振部25の左右寸法も同じになっている。
【0046】
そして、それぞれの制振部25の長さ方向の両端部は、制振部25と耐震部24とを接続するための接続部26となっている。これらの接続部26の上下両辺部26A,26Bは、前述した窪み部21における左右両端辺部や、開口部22,23における左右両端辺部により形成されており、
図5に示されているように、上下2個の窪み部21のうち、上側の窪み部21における左右両端辺部は、上側へ湾曲して広がっており、下側の窪み部21における左右両端辺部は、下側へ湾曲して広がっており、また、それぞれの開口部22,23における左右両端辺部は、半円状の辺部となっている。このため、接続部26の上下両辺部26A,26Bは、耐震部24側へ末広がりに湾曲した形状になっており、これにより、それぞれの制振部25の長さ方向の端部を耐震部24に接続している接続部26は、全体として耐震部24側へ末広がり状となった末広がり状接続部となっている。
【0047】
制振具10を構成する部材のうち、左右2枚のフランジ部材12には、
図4及び
図6に示されているように、前述した木ねじ14を挿入するための小孔12Aが、フランジ部材12の長さ方向である上下方向と、金属板11の厚さ方向ともなっているフランジ部材12の幅方向とに複数個形成されている。また、これらのフランジ部材12の長さ方向となっている上下方向の寸法は、金属板11の上下方向の寸法よりも大きくなっており、これらのフランジ部材12の上下両端部には、フランジ部材12の長さ方向である上下方向の内側へ窪んだ凹部12Bが形成され、これらの凹部12Bは、フランジ部材12に前述したように溶接で固着されている金属板11の固着位置と一致するフランジ部材12の幅方向の中央位置において、V字状の凹部として形成されている。
【0048】
なお、左右2枚のフランジ部材12及び前述した補強部材13は、金属板11と同じ金属材料によって形成されている。
【0049】
図8には、制振具10を構成する部材となっている左右2枚のフランジ部材12を、四角フレーム5を形成する部材となっている左右2本の柱1,2に木ねじ14により結合する作業を行う以前や、左右2本の柱1,2と土台3と梁4とにより四角フレーム5を形成する以前等において、予め左右2本の柱1,2に実施される作業が示されている。この作業は、左右2本の柱1,2における互いに左右方向に対向する側面において、金属板11を配置すべき位置を、墨出し作業やケガキ作業等により、金属板11を配置すべき位置を示すためのマークとなっている縦線のライン15を表示する作業であり、この縦線のライン15は、本実施形態では、柱1,2における互いに左右方向に対向する側面における四角フレーム5の貫通方向の中央位置に表示される。
【0050】
制振具10の左右2枚のフランジ部材12を木ねじ14により左右2本の柱1,2に結合するためには、作業者は、はじめに、
図8に示されているように、制振具10に設けられている左右2枚のフランジ部材12を、それぞれのフランジ部材12の上下両端部に設けられたV字状の凹部12Bの位置を柱1,2に表示されたライン15の位置と一致させて、左右2本の柱1,2の互いに左右方向に対向する側面に配置し、この後に、作業者は、
図9に示されているように、それぞれのV字状の凹部12Bに、木ねじ等の仮止着具16の軸部16Aを挿入して、この軸部16Aを柱1,2の内部に侵入させ、これにより、それぞれのフランジ部材12を、柱1,2に止着された上下2本の仮止着具16により柱1,2に仮止めする。
【0051】
次いで、作業者は、左右2枚のフランジ部材12に複数個が設けられている前述の小孔12Aに木ねじ14の軸部を挿入することにより、これらのフランジ部材12を複数本の木ねじ14により左右2本の柱1,2に結合する作業を行い、これにより、左右2枚のフランジ部材12が構成部材となっている制振具10は、左右2本の柱1,2に複数本の木ねじ14によって結合されて、四角フレーム5の内部に配置される。この後に、作業者は、それぞれの柱1,2から仮止着具16を取り外すための作業を行い、また、四角フレーム5の表面に、前述した石膏ボード等による面材を取り付ける作業を行う。
【0052】
以上のようにして制振具10を四角フレーム5の内部に配置する作業を行うと、
図1に示されているように、金属板11に設けられている耐震部24は、左右2本の柱1,2の間の中央部と、これらの柱1,2のそれぞれのとの間の2つの箇所に配置されることになり、また、金属板11に設けられている制振部25は、左右2本の柱1,2の間の中央部に配置されることになる。
【0053】
図10には、内部に制振具10が配置された四角フレーム5に地震等による横荷重Wによる振動エネルギが作用したときの状態が示されている。このときの左右2本の柱1,2には、二点鎖線で示されているように、土台3と接続されている下端部を中心に横荷重Wの作用方向である左右方向への曲がり変形が生ずるが、制振具10の本体部材となっている金属板11のうち、左右2つの耐震部24は、これらの耐震部24の厚さ方向が左右方向と直交する四角フレーム5の貫通方向となっているものであって、全体形状は左右方向の外側へ拡大した形状となっているため、この曲がり変形に対して左右2つの耐震部24は有効に抵抗することになり、このため、左右2本の柱1,2は大きく曲がり変形することはなく、したがって四角フレーム5の変形は小さく抑えられる。
【0054】
また、
図10に示されているように、四角フレーム5に横荷重Wが作用すると、梁4は、二点鎖線で示されているように、柱1,2のうち、柱1側が低くなって、柱2側が高くなる傾斜状態となり、このため、金属板11に設けられている制振部25には、
図5で示した制振具10全体の左右方向の中心線Nが、
図11に示されているように、鉛直方向に対して傾くことにより、
図11の二点鎖線で示されているように、制振部25を上下に変形させるせん断荷重が作用し、このせん断荷重による塑性変形が制振部25に生ずることにより、上述の振動エネルギが制振部25により吸収され、これにより、振動エネルギによる四角フレーム5の振動が制振されて減衰することになる。
【0055】
以上の本実施形態に係る制振具10における主要な部材は、この制振具10の本体部材となっている1枚の金属板11であり、本実施形態では、以上の説明から分かるように、この金属板11における異なる部分により、左右2本の柱1,2の曲がり変形に対して抵抗するための左右2つの耐震部24と、塑性変形することにより振動エネルギを吸収して四角フレーム5の振動を制振、減衰させるための制振部25とが形成されている。このため、これらの耐震部24と制振部25を、異なる部材の組み合わせによって構成する必要がなく、このため、耐震機能と制振機能の両方を備えた本実施形態に係る制振具10を、形状や構造を単純化したものにして構成できる。また、これにより、制振具10の製造コストを低減でき、さらに、四角フレーム5の内部への制振具10の配置作業を容易に行える。
【0056】
また、制振部25は、金属板11において、上下に複数設けられているため、大きな振動エネルギを充分に吸収することができる。
【0057】
また、左右2つの耐震部24と上下複数個の制振部25は、同じ金属板11における異なる部分によって形成されているため、四角フレーム5に作用する振動エネルギを耐震部24から制振部25に直接伝達することができ、これにより、耐震部24に作用した振動エネルギが時間差なしで瞬時に制振部25に作用することになるため、制振部25の制振機能を向上させることができる。
【0058】
また、前述したように、制振部25の長さ方向における耐震部24との接続部26は、全体として耐震部24側へ末広がり状となっている末広がり状接続部となっているため、振動エネルギが耐震部24から制振部25へ伝達されるときに、耐震部24と制振部25との間で応力集中は発生ぜず、このため、制振部25に、振動エネルギによる塑性変形を一層確実に生じさせることができて、振動エネルギを吸収する制振部25の制振機能をこの点でも向上させることができる。
【0059】
さらに、金属板11と左右2枚のフランジ部材12は、これらの金属板11とフランジ部材12とに溶接で固着された補強部材13により結合されていて、金属板11は、この金属板11の厚さ方向の強度が補強部材13により補強されたものとなっているため、金属板11に
図10の横荷重Wによる振動エネルギが作用したとき、金属板11がこの金属板11の厚さ方向に変形することを防止することができ、これにより、金属板11に設けられた左右2つの耐震部24は、左右2本の柱1,2の曲がり変形に対して一層確実に抵抗することになる。
【0060】
また、制振具10は、
図1で示されているように、四角フレーム5の内部に間隔をあけて上下2個配置され、これらの制振具10の本体部材となっている金属板11に、耐震部24と制振部25とが設けられているため、それぞれの金属板11に設けられた耐震部24と制振部25により、大きな耐震機能と制振機能を得られる。さらに、
図10の横荷重Wが四角フレーム5に作用したときには、この四角フレーム5を形成している柱1,2のうち、土台3と梁4に図示しない連結金具等で連結されている上下両端部と、柱1,2の長さ方向の中央箇所は、大きく曲がり変形しない箇所となっており、上下2個の制振具10は、大きく曲がり変形する柱1,2における上下2つの箇所に配置されているため、これらの上下2つの箇所における曲がり変形を有効に抑えることができる。
【0061】
また、金属板11には、上下方向に複数の制振部25を形成するために複数個の開口部22,23が上下に形成され、これらの開口部22,23のうち、1個の開口部23は、残りの開口部22よりも開口面積が大きいものとなっているため、制振具10が内部に配置された四角フレーム5の表面に壁用面材を取り付け、この面材における制振具10が配置されている箇所と対応する箇所において、電気スイッチ等の電気器具を配置する場合に、この電気器具から延びる電気配線を、開口面積が大きい開口部23に通すことにより、四角フレームの内部に容易に配線することができる。
【0062】
さらに、本実施形態では、制振具10を構成している左右2枚のフランジ部材12の上下両端部には、
図9で示したように、これらのフランジ部材12を左右2本の柱1,2に仮止着具16により仮止めするために、仮止着具16の軸部16Aを挿入するための凹部12Bが設けられているため、フランジ部材12に形成されている小孔12Aに木ねじ14を挿入して、左右2枚のフランジ部材12を左右2本の柱1,2に木ねじ14により結合する作業を行うまでの間、仮止着具16により、これらのフランジ部材12を左右2本の柱1,2に仮止めしておくことができる。このため、この仮止めにより、左右2枚のフランジ部材12を左右2本の柱1,2に木ねじ14によって結合するための作業を、一人の作業者によって容易かつ短時間で行える。
【0063】
また、左右2枚のフランジ部材12の上下両端部に設けられている凹部12Bは、V字状の凹部であるため、仮止着具16が、軸部16Aの直径がどのような寸法のものであっても、この軸部16AをV字状の凹部12Bにおける傾斜した左右両辺部に接触させて、この凹部12Bに軸部16Aを挿入することにより、左右2枚のフランジ部材12を左右2本の柱に、上下方向と四角フレーム5の貫通方向との両方の方向に対して不動にして仮止めすることができる。
【0064】
また、左右2枚のフランジ部材12の上下両端部に設けられているV字状の凹部12Bは、これらのフランジ部材12に左右両端部が溶接で固着されている金属板11についてのフランジ部材12の幅方向における固着位置と一致して設けられているため、V字状の凹部12Bは、フランジ部材12における金属板11の配置位置を示す目印ともなっている。前述したように、左右2枚のフランジ部材12を左右2本の柱1,2に木ねじ14により結合する際には、V字状の凹部12Bを、これらの柱1,2における互いに対向する側面に表示されている前述のマークとなっているライン15と一致させ、この後に、左右2枚のフランジ部材12を左右2本の柱1,2に木ねじ14により結合する作業を行うため、作業者が、V字状の凹部12Bとライン15とを一致させて四角フレーム5の内部に制振具10を配置したときには、金属板11は、ライン15で示されている柱1,2における四角フレーム5の貫通方向の所定位置、本実施形態では、柱1,2における四角フレーム5の貫通方向の中央位置であって、ライン15で表示されている金属板11を配置すべき正確な位置に配置されることになる。
【0065】
このため、本実施形態によると、左右2枚のフランジ部材12を左右2本の柱1,2に木ねじ14により結合する作業を行うことにより、金属板11に、左右2つの耐震部24と上下複数個の制振部25とによる本来の耐震機能と制振機能とを確実に生じさせることができる。
【0066】
また、左右2枚のフランジ部材12の上下両端部に設けられているV字状の凹部12Bは、前述したように、仮止着具16の軸部16Aが挿入されることにより、左右2枚のフランジ部材12を左右2本の柱1,2に仮止めするためのものでもあるため、V字状の凹部12Bは、仮止着具16により左右2本の柱1,2に左右2枚のフランジ部材12を仮止めするための凹部と、フランジ部材12における金属板11の配置位置を示す目印とを兼ねるものとなっている。これらのV字状の凹部と目印は、左右2枚のフランジ部材12に別々に設けてもよいが、これらが本実施形態では兼用化されているため、本実施形態によると、それだけ左右2枚のフランジ部材12の製造を容易に行える。
【0067】
図12で示されている四角フレーム35は、柱31と、通し柱32と、土台33と、梁34とによる4本の部材により形成されている。制振具10は、このような四角フレーム35にも適用することができる。
【0068】
図13では、柱41と、柱42と、土台43と、梁44とによる4本の部材により形成された四角フレーム45の内部に制振具10が配置されているとともに、柱42と、柱46と、土台43と、梁44とによる4本の部材により形成されていて、四角フレーム45に左右方向に隣接して形成されている四角フレーム47の内部にも制振具10が配置されている。この実施形態に示されているように、制振具10は、左右方向に隣接して形成されている複数の四角フレーム45,47の内部に連設して配置してもよい。また、制振具10は、上層階と下層階のように、上下方向に隣接して形成されている複数の四角フレームの内部に連設して配置してもよい。
【0069】
なお、この実施形態では、四角フレーム45の内部に配置された制振具10と、四角フレーム47の内部に配置された制振具10は、高さ位置のずれをもって配置され、これにより、四角フレーム45の内部に配置された制振具10を柱42に結合するための木ねじ14と、四角フレーム47の内部に配置された制振具10を柱42に結合するための木ねじ14とが、柱42の内部で干渉しないようにしている。
【0070】
図14は、別実施形態の制振具を構成している1枚の金属板51を示す。この金属板51にも、前記実施形態の金属板11と同様に、大面積部となっている左右2つの耐震部24と、これらの耐震部24を繋いでいる細幅部による上下複数個の制振部25とが設けられており、これらの左右2つの耐震部24と、上下複数個の制振部25は、金属板51の本体部51Aに形成されている。
【0071】
この実施形態では、金属板51の左右両端部51B,51は、金属板51の本体部51Aに対して四角フレーム5の貫通方向である金属板51の厚さ方向に直角に折り曲げられており、本体部51Aと右端部51Bとに上下複数個の補強部材13が溶接で結合されているとともに、本体部51Aと左端部51Cとに上下複数個の補強部材13が溶接で結合され、これらの金属板51と補強部材13とにより、
図15で示されているこの実施形態の制振具50が構成されている。そして、本体部51Aの左右外側において設けられている金属板51の左右2個の端部51B,51Cには、金属板51を四角フレーム5の左右2本の柱1,2に結合するための結合具となっている木ねじ14を挿入するための
図14の小孔51Dが、上下に複数個形成されており、これらの木ねじ14によって金属板51を左右2本の柱1,2に結合することにより、制振具50と木ねじ14とで構成される制振装置が四角フレーム5に内部に配置される。
【0072】
なお、この実施形態の制振具50は、金属板51の本体部51Aを
図8及び
図9で示されている左右2本の柱1,2に表示されているライン15の位置と一致させて、木ねじ14によりこれらの柱1,2に結合される。
【0073】
この実施形態によると、左右2枚のフランジ部材を省略できるため、耐震機能と制振機能の両方を有する制振具50を、それだけ形状や構造を一層単純化したものにすることができる。
【0074】
なお、
図14及び
図15では、金属板51の左右両端部51B,51は、本体部51Aに対して互いに逆の方向に折り曲げられているが、これらの折り曲げ方向を同じ方向としてもよい。
【0075】
図16の実施形態に係る制振具60は、金属板が四角フレーム5の貫通方向に並設された第1金属板61と第2金属板62になっているものであり、これらの金属板61,62は、
図14及び
図15の金属板51と同様に、大面積部となっている左右2つの耐震部24と、これらの耐震部24を繋いでいる細幅部による上下複数個の制振部25とが設けられている本体部61A,62Aを有し、第1金属板61の左右両端部61B,61Cは、この第1金属板61の本体部61Aに対して第2金属板62側とは反対側へ直角に折り曲げられており、第2金属板62の左右両端部62B,62Cは、この第2金属板62の本体部62Aに対して第1金属板61側とは反対側へ直角に折り曲げられている。そして、第1金属板61の本体部61Aと左右両端部61B,61Cとに上下複数個の補強部材13が溶接で結合されているとともに、第2金属板62の本体部62Aと左右両端部62B,62Cとに上下複数個の補強部材13が溶接で結合されていることにより、これらの第1及び第2金属板61,62と補強部材13とにより、この実施形態の制振具60が構成されている。第1及び第2金属板61,62の左右両端部61B,61C,62B,62Cに形成された上下複数個の小孔に木ねじ14を挿入することにより、これらの木ねじ14によって第1及び第2金属板61,62は、四角フレーム5の貫通方向に重ね合わせられた状態で四角フレーム5に配置され、制振具60と木ねじ14とで構成される制振装置が四角フレーム5に内部に配置される。
【0076】
なお、この実施形態の制振具60は、第1金属板61と第2金属板62の本体部61A,62A同士の重ね合わせ部を
図8及び
図9で示されている左右2本の柱1,2に表示されているライン15の位置と一致させて、木ねじ14によりこれらの柱1,2に結合される。
【0077】
この実施形態の制振具60によると、左右2本の柱1,2が曲がり変形することに対して抵抗する制振具60全体の耐震部の強度を、金属板の枚数が1枚となっている前述した実施形態の制振具10,50よりも大きくすることができ、また、制振具60全体の制振部によって吸収する振動エネルギも大きくすることができる。
【0078】
図17の実施形態に係る制振具70は、第1金属板61と第2金属板62との間に間隔をあけて、この間隔に、第1及び第2金属板61,62の本体部61A,62Aと同様に、大面積部となっている左右2つの耐震部24と、これらの耐震部24を繋いでいる細幅部による上下複数個の制振部25とが設けられている第3金属板71を配置することにより、3枚の金属板61,62,71を四角フレーム5の貫通方向に並設したものとなっている。第3金属板71には、第1及び第2金属板61,62の左右両端部61B,61C,62B,62Cに相当するものは設けられておらず、3枚の金属板61,62,71同士は、これらの金属板61,62,71に設けられている耐震部24において、ボルト81及びナット82により連結されている。
【0079】
すなわち、3枚の金属板61,62,71には、耐震部24において、ボルト81の軸部81Aが挿入される孔が形成され、これらの孔に挿入されて突出した軸部81Aの端部にナット82を螺合し、このナット82を締め付けることにより、3枚の金属板61,62,71同士は、これらの金属板61,62,71に設けられている耐震部24において、ボルト81及びナット82による締付連結具により連結され、この締付連結具は、左右2つの耐震部24のそれぞれについて、上下方向に複数個設けられている。
【0080】
そして、3枚の金属板61,62,71と、第1及び第2金属板61,62に設けられている補強部材13とにより、制振具70が構成され、第1及び第2金属板61,62の左右両端部61B,61C,62B,62Cに形成された上下複数個の小孔に木ねじ14を挿入することにより、これらの木ねじ14によって3枚の金属板61,62、71は、四角フレーム5の貫通方向に重ね合わせられた状態で四角フレーム5に配置され、制振具70と木ねじ14とで構成される制振装置が四角フレーム5に内部に配置される。
【0081】
なお、この実施形態の制振具70は、第3金属板71を
図8及び
図9で示されている左右2本の柱1,2に表示されているライン15の位置と一致させて、木ねじ14によりこれらの柱1,2に結合される。
【0082】
この実施形態の制振具70によると、横荷重Wによる振動エネルギによって左右2本の柱1,2が曲がり変形することに対して抵抗する制振具70全体の耐震部の強度を、
図16の実施形態の制振具60よりもさらに大きくすることができ、また、制振具70全体の制振部によって吸収することができる振動エネルギも、
図16の実施形態の制振具60よりもさらに大きくすることができる。また、3枚の金属板61,62,71のそれぞれの耐震部24は、ボルト81及びナット82による連結具により連結されているため、四角フレーム5に振動エネルギが作用したときに、それぞれの耐震部24の間にずれ移動が生ずることを防止でき、これにより、左右2本の柱1,2が曲がり変形することに対して抵抗する制振具70全体の耐震部の強度を、さらに一層大きなものにできる。また、3枚の金属板61,62,71のそれぞれの制振部25は、連結されないため、これらの制振部25の本来の制振機能を充分に発揮させることができる。
【0083】
なお、3枚の金属板61,62,71のそれぞれの制振部25を、ボルト81及びナット82による連結具等により連結してもよい。
【0084】
なお、金属板の枚数が第1金属板61と第2金属板62の2枚となっている
図16の制振具60についても、この
図16に示されているように、第1金属板61と第2金属板62を、これらの金属板61,62に設けられている耐震部24において、ボルト81及びナット82による連結具により連結してもよく、あるいは、連結しなくてもよい。また、
図16の制振具60についても、第1金属板61と第2金属板62を、これらの金属板61,62に設けられている制振部25において、ボルト81及びナット82による連結具により連結してもよく、あるいは、連結しなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、左右2本の柱を含む4本の部材により形成されている四角フレームを有する建物等の構築物に利用できるものである。
【符号の説明】
【0086】
1,2,31,32,41,42,47 四角フレームを形成する部材となっている柱
3,33,43 四角フレームを形成する部材となっている土台
4,34,44 四角フレームを形成する部材となっている梁
5,35,45,47 四角フレーム
10,50,60,70 制振具
11 金属板
12 フランジ部材
12B 凹部であって、目印でもあるV字状の凹部
13 補強部材
14 結合具である木ねじ
15 マークであるライン
16 仮止着具
16A 軸部
22,23 開口部
24 耐震部
25 制振部
26 接続部
26A,26B 接続部の上下両辺部
51 金属板
51A 本体部
51B,51C 左右2個の端部
61 第1金属板
61A 本体部
61B,61C 左右2個の端部
62 第2金属板
62A 本体部
62B,62C 左右2個の端部
71 第3金属板
81 ボルト、
82 ナット