(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】レゾルバ
(51)【国際特許分類】
G01D 5/20 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
G01D5/20 110Z
(21)【出願番号】P 2020112777
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】落合 貴晃
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-107869(JP,A)
【文献】特開2013-027118(JP,A)
【文献】特開2013-089487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00 ~ 5/252
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のステータコアと、
前記ステータコアの内側に回転可能に配置されたロータと、
前記環状のステータコアに装着されたインシュレータと、
前記環状のステータコアから径方向に突出する複数のティースに前記インシュレータを介して巻回されたステータ巻線と、
撚り合わせた複数本の導線で形成された芯線と、当該芯線の外周面を覆う保護被膜と、を有するリード線と、
を備え、
前記インシュレータには、径方向外側に延在する端子ピン基台部が設けられ、
前記端子ピン基台部には複数の端子ピンが設けられ、
前記端子ピンは、その一方端に前記ステータ巻線の端線が接続される第1の接続部が設けられ、その他方端にリード線の芯線が接続される第2の接続部が設けられ、
前記第2の接続部は、前記径方向外側に向かって延在するターミナルを備え、
前記リード線は、前記保護被膜から露出した先端と、当該保護被膜で覆われた部分とを備え、
前記ターミナルの長手方向に沿って、前記保護被膜から露出した前記芯線の先端が前記ターミナルに接続されており、
前記芯線の先端は、充填材に覆われており、
前記芯線の前記保護被膜で覆われた部分と当該保護被膜の間には間隙が形成されており、
前記充填材は、前記端子ピン基台部から離れた位置における前記間隙を満たしている、レゾルバ。
【請求項2】
前記端子ピンは、断面L字形に形成されており、
前記端子ピンの前記一方端は
前記ロータの回転軸方向に延在して、前記ステータ巻線を絡げる巻線絡げ部である前記第1の接続部を有する、請求項1に記載のレゾルバ。
【請求項3】
前記ターミナルは、平たい面を備え、
前記平たい面には、前記芯線の先端が載置されており、
前記平たい面は、前記芯線の根元側と
前記ロータの回転軸方向で対向している、請求項1または2に記載のレゾルバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレゾルバに関し、特にターミナルに接続したリード線へのオイルの浸入を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
回転角度を検出する手段としてレゾルバが知られている。レゾルバは、モータ等の回転電機の回転軸に固定されて回転するロータと、ハウジング等に固定されてロータと径方向で対向配置されるステータとを備えている。ステータには励磁巻線と検出巻線からなるステータ巻線が巻回され、検出巻線はsin信号とcos信号を出力する巻線から構成されている。励磁電圧を励磁巻線に印加し、レゾルバのロータが回転すると、ロータとステータとの間に形成されたギャップの寸法が変化し、この変化に応じた電圧が検出巻線に誘起される。この検出巻線に生じた電圧はロータの回転角度を反映した信号であり、この信号によって回転軸の角度を検出することができる。
【0003】
ステータ巻線の巻線端末が接続される端子ピンは、インシュレータと一体的に形成された端子ピン基台部にインサート成形にて植設されている。端子ピンの一方端には、ステータ巻線の巻線端末が絡げ接続される絡げ接続部が形成され、端子ピンの他方端には、外部機器と接続するためのリード線の芯線が接続されるターミナルが形成されている。
【0004】
レゾルバを装着したモータ等の回転電機が、オイル(冷却オイルや潤滑オイル等)に浸された環境の中で使用された場合、リード線の芯線を覆う保護被覆はグロメットなどでシールされ、外部へのオイルの漏出を防止している。しかし、オイルが保護被覆の一方端から、複数の導線を撚り合わせた芯線を伝わって、保護被覆の内側に浸入した場合、オイルが外部機器と接続するリード線の他方端に至り、場合によっては、外部機器を汚染する虞がある。
【0005】
これに対して、レゾルバにおける端子ピンに接続した巻線の端末、及びターミナルに接続したリード線の腐食を防止することができるレゾルバが提案されている(例えば特許文献1参照)。
図8は特許文献1に開示されたレゾルバを示す図である。この図に示すレゾルバは、ステータコア5に装着された環状のインシュレータに径外方に延在する端子ピン基台部10が一体に形成され、端子ピン基台部10には複数の端子ピン11が植設され、端子ピン11の一方端にステータの巻線が接続される第1の接続部が設けられ、他端側に外部からのリード線12が接続される第2の接続部が設けられ、端子ピンカバー13と端子ピン基台部10との間に形成された第1の空間、スライドカバー14と端子ピン基台部10との間に形成された第2の空間にワニスが充填され、端子ピン11の第1の接続部と第2の接続部とがワニスの中に封止される。ステータコア1に装着された環状のインシュレータ2に、径方向外側に延在する端子ピン基台部3が一体的に形成されたものである。端子ピン基台部3には、複数の端子ピン4が植設され、端子ピン4の一方端にステータの巻線1aの端末が接続される第1の接続部4aが設けられ、他方端に外部からのリード線5の芯線が接続される第2の接続部(ターミナル)4bが設けられ、端子ピンカバー6と端子ピン基台部3との間に形成された第1の空間7aと、スライドカバー8と端子ピン基台部3との間に形成された第2の空間7bにワニス9が充填され、端子ピン4の第1の接続部4aと第2の接続部4bとがワニス9の中に封止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のレゾルバでは、リード線5の芯線が接続される第2の接続部4bがワニス9の中に封止されるため、オイルがリード線5の芯線を覆う保護被覆の一方端から、複数の導線を撚り合わせた芯線を伝わって保護被覆の内側に浸入するような不都合が回避され、オイルが外部機器と接続するリード線5の他方端に至ることを防止することができる。
【0008】
しかしながら、特許文献1のレゾルバでは、ワニス9でリード線5の芯線が接続される第2の接続部4bを封止するためには、端子ピン基台部3の軸方向上面に、端子ピン基台部3と端子ピン4を覆う端子ピンカバー6を取り付け、端子ピン基台部3の軸方向下面に、スライドカバー8を取り付け、端子ピンカバー6の開口からワニス9を注入する必要がある。このため、レゾルバの部品点数が増えて構造が複雑化すると共に、作業工程における作業効率を高めることができないという問題がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、レゾルバがオイルに浸された環境の中で使用された場合であっても、簡易な構造で、オイルがリード線の保護被覆の内側に浸入することを防止できるレゾルバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、環状のステータコアと、前記ステータコアの内側に回転可能に配置されたロータと、前記環状のステータコアに装着されたインシュレータと、前記環状のステータコアから径方向に突出する複数のティースに前記インシュレータを介して巻回されたステータ巻線と、撚り合わせた複数本の導線で形成された芯線と、当該芯線の外周面を覆う保護被膜と、を有するリード線と、を備え、前記インシュレータには、径方向外側に延在する端子ピン基台部が設けられ、前記端子ピン基台部には複数の端子ピンが設けられ、前記端子ピンは、その一方端に前記ステータ巻線の端線が接続される第1の接続部が設けられ、その他方端にリード線の芯線が接続される第2の接続部が設けられ、前記第2の接続部は、前記径方向外側に向かって延在するターミナルを備え、前記リード線は、前記保護被膜から露出した先端と、当該保護被膜で覆われた部分とを備え、前記ターミナルの長手方向に沿って、前記保護被膜から露出した前記芯線の先端が前記ターミナルに接続されており、前記芯線の先端は、充填材に覆われており、前記芯線の前記保護被膜で覆われた部分と当該保護被膜の間には間隙が形成されており、前記充填材は、前記端子ピン基台部から離れた位置における前記間隙を満たしている、レゾルバである。
【0011】
上記構成のレゾルバにあっては、充填材がリード線の保護被覆の内部にも充填され、保護被覆の内部で芯線が充填材の中に封止されているから、レゾルバがオイルに浸された環境の中で使用された場合であっても、オイルがリード線の保護被覆の内側に浸入することを防止することができる。しかも、保護被覆の内部に充填材が充填されているので充填材が破損し難く、長期に亘って品質を維持することができる。
【0012】
上記のような構成は簡単に得ることができる。たとえば、芯線を複数の導線を撚り合わせたもので構成し、保護被覆から露出させた芯線に充填材を塗布することで、充填材を毛細管現象により導線の間に浸透させることができる。そして、充填材に熱を加えるなどして硬化させることにより、個々の導線が充填材によって封止される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易な構造で、芯線を充填材で封止できるので、レゾルバがオイルに浸された環境の中で使用された場合であっても、オイルがリード線の保護被覆の内側に浸入し、外部に漏出することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係るレゾルバの構成を示す平面図である。
【
図2】
図1におけるステータ構造の構成を示す斜視図である。
【
図3】
図2におけるステータ構造の構成を示す平面図である。
【
図4】
図3におけるステータ構造の半断面図であり、リード線の保護被覆の内部を充填材で封止する工程を説明する図である。
【
図5】
図4における充填材をリード線の芯線に塗布した状態を示す図である。
【
図6】
図5における充填材がリード線の保護被覆の内部に充填される状態を示す図である。
【
図7】
図6における充填材がリード線の保護被覆の内部に充填される状態を示すリード線の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.全体構成
図1は、実施形態のレゾルバ10を示す平面図である。レゾルバ10は、インナーロータ形のVR(バリアブルリラクタンス)型レゾルバである。レゾルバ10は、ステータ構造12と、ステータ構造12の内側において回転可能なロータ13を備えている。ロータ13は、外周面に2つの凸部を形成した軸倍角2Xの構造を有しており、モータ等の回転電機の回転軸11に取り付けられている。
図2は
図1に示すステータ構造12の斜視図である。
図3は
図2に示すステータ構造12の平面図である。
【0016】
ロータ13は、薄板状の軟磁性のコアを複数枚数積層して構成され、モータ(図示せず)の回転軸11に固定されている。ステータ構造12は、軟磁性のコアを複数枚数積層してなる環状のステータコア15と、ステータコア15の軸方向両端からそれぞれ装着した第1のインシュレータ17と第2のインシュレータ18からなる樹脂製のインシュレータ16と、インシュレータ16を介してステータコア15に巻回されたステータ巻線19とを備えている。ステータ巻線19は、励磁巻線と、sin信号を出力するsin相およびcos信号を出力するcos相の2相の検出巻線とから構成されている。
【0017】
ステータコア15を構成する軟磁性の薄板状のコアは、環状ヨーク部から径方向内側(ロータ13の方向)に延在する複数のティース(極歯)(本実施例では10個のティース)14を有している(
図2参照)。このコアを複数枚転積(回転させながら積層)してカシメ固定することで、ステータコア15が構成されている。
【0018】
図4に示すように、ステータコア15の軸方向一方端から第1のインシュレータ17が装着され、ステータコア15の軸方向他方端から第2のインシュレータ18が装着され、インシュレータ16を介してすべてのティース14に励磁巻線が巻回され、所定のティース14に検出巻線が巻回されている。
【0019】
図4に示すように、樹脂製の第1のインシュレータ17には、径方向外側に延在する端子ピン基台部20が一体成形にて形成されている。端子ピン基台部20には、複数(この例では6本)の端子ピン21が植設されている。端子ピン21はL字形で、一方端は軸方向に延在し、そこには巻線の端末を絡げる巻線絡げ部(第1の接続部)21aが設けられている。端子ピン21の他端は、径方向外側に向かって延在し、その先端部分は、外部からの配線であるリード線22が接続されるターミナル(第2の接続部)21bとなる。
【0020】
端子ピン基台部20の端部には、リード線22の先端22a(保護被覆22bを剥き芯線22cを露出させた先端部分)を収めるリード線収容部27がリード線22の数に合わせて(この場合は、6カ所)設けられている。上述した端子ピン21のターミナル21bは、平たい形状に加工されており、各リード線収容部27の底の部分に位置し、充填材が充填される前の状態では、そこで露出している。リード線22の先端22aを端子ピン21のターミナル21bに載せ、リード線22の先端22aとターミナル21bとを抵抗溶接で接合している。なお、接合方法は、抵抗溶接に限定されるものではなく、電気的に接続される手段であれば半田付け等の他の方法であってもよい。
【0021】
励磁巻線と検出巻線の巻線端線19aは、対応するそれぞれの位置の端子ピン21の巻線絡げ部21aに絡げられて電気的に接続される。接続の方法としては、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接が用いられるが、それに限定されるものではなく、電気的に接続される手段であれば半田付け等の他の方法であってもよい。
【0022】
2.充填材の塗布
リード線22の保護被覆の内部に充填する充填材の塗布について、
図4~
図7に基づいて説明する。
図4及び
図5に示すように、抵抗溶接にてターミナル21bに接合したリード線22の芯線22cの根元側(保護被覆22b側)の部分全体を覆うように、充填材塗布機30を用いて充填材31を塗布する。充填材31としては、絶縁性、耐熱性、耐油性、耐候性にすぐれたワニスが好ましく、例えば、エポキシ樹脂系ワニスが好適であるが、他のワニス(例えば、シリコーンワニスなど)であってもよい。充填材31は、リード線22の芯線22cの中に容易に浸透させるために低粘度のワニスが好ましい。
【0023】
図5は芯線22cの先端22aに充填材31が塗布された状態を示している。リード線22の芯線22cは、銅や銅合金等の導電性金属材からなる導線22dを複数本撚り合わせたもので、芯線22cの外周面は合成樹脂製の保護被覆22bで覆っている。
【0024】
上述のように、芯線22cは、複数本の導線22dを撚り合わせたものであるため、芯線22cに塗布した充填材31は、毛細管現象によって導線22dの間に浸透し、保護被覆22bの内部まで浸透する。そして、充填材31を塗布した後、所定の温度の下で充填材31を硬化させる。この結果、
図7に示すように、芯線22cは、保護被覆22bの内部に充填された充填材31によって封止される。なお、
図7は模式図のため、導線22dの間に浸透した充填材31の図示を省略しているが、導線22dの間にも浸透した充填材31が充填されている。
【0025】
このように、上記構成のレゾルバ10によれば、簡易な構造で、芯線22cを充填材31で封止できるので、レゾルバ10がオイルに浸された環境の中で使用された場合であっても、オイルがリード線22の保護被覆22bの内側に浸入し、外部に漏出することを防止することができる。しかも、保護被覆22bの内部に充填材31が充填されているので、充填材が破損し難く、長期に亘って品質を維持することができる。
【0026】
3.変更例
なお、上述のインシュレータ16は、第1のインシュレータ17と第2のインシュレータ18とで半割に構成されているが、これに限定されるものではなく、一体物のインシュレータとして構成することができる。その場合には、端子ピン基台部20を有するインシュレータを射出成形する際に、ステータコア15と端子ピン21をインサート成形して、一体に形成すればよい。
【符号の説明】
【0027】
10…レゾルバ、11…回転軸、12…ステータ構造、13…ロータ、14…ティース、15…ステータコア、16…インシュレータ、17…第1のインシュレータ、18…第2のインシュレータ、19…ステータ巻線、19a…巻線端線、20…端子ピン基台部、21…端子ピン、21a…巻線絡げ部(第1の接続部)、21b…ターミナル(第2の接続部)、22…リード線、22a…先端、22b…保護被覆、22c…芯線、22d…導線、27…リード線収容部、30…充填材塗布機、31…充填材。