(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】構造体の接合部を検査するための接合部検査システム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20240613BHJP
H05H 13/02 20060101ALI20240613BHJP
H05H 9/00 20060101ALI20240613BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
G01N29/24
H05H13/02
H05H9/00 A
G21K5/04 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020114052
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-05-17
(32)【優先日】2019-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【氏名又は名称】齊藤 智和
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン ジェイ ティロットソン
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-073571(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0186973(US,A1)
【文献】特開2019-107560(JP,A)
【文献】特開平01-203966(JP,A)
【文献】特開2016-173336(JP,A)
【文献】特開昭58-205850(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0217381(US,A1)
【文献】特開2015-129774(JP,A)
【文献】神原 正,重イオン照射による超音波の観測ー「イオンビーム地震学」,日本物理学会誌,Vol.61, No.8,2008年,p.594-598
【文献】KAMBARA Tadashi,Detection of acoustic signals induced by heavy-ion impact: ion-beam seismology,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B: Interactions with Materials and Atoms,2005年04月,Vol. 230,p.601-607
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
H05H 13/02
H05H 9/00
G21K 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体の接合部を検査する方法であって、
イオンビーム源によって前記構造体の第1表面にイオンビームを照射して、前記構造体の内部において、前記イオンビームのブラッグピークに対応する深さで且つ前記接合部に隣接する位置に音響パルス源を形成し、
前記音響パルス源で生成された音響パルスの伝播時間及び大きさを、前記構造体の第2表面に配置された音響センサによって検出してレスポンスを形成する、ことを含み、前記接合部は、前記音響パルス源と前記第2表面との間に位置するものであ
り、
前記レスポンスを基準レスポンスと比較することと、
前記レスポンスの大きさが前記基準レスポンスの範囲外であれば、欠陥があると特定することと、をさらに含む、方法。
【請求項2】
前記構造体に前記イオンビームを照射する前に、前記イオンビームのイオンの運動エネルギーを制御して、前記音響パルス源の前記深さを調整することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオンビームのイオンの運動エネルギーを制御することは、前記イオンビーム源を調整すること、又は、前記イオンビーム源と前記構造体との間に減衰器を挿入すること、のうちの少なくとも一方を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記イオンビーム源によって前記構造体の前記第1表面に第2イオンビームを照射して、前記構造体の内部において、前記第2イオンビームのブラッグピークに対応する第2深さに第2音響パルス源を形成することと、
前記第2音響パルス源で生成された音響パルスの伝播時間及び大きさを、前記第2表面に配置された前記音響センサによって検出して第2レスポンスを形成することと、をさらに含む、請求項1~
3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記第2イオンビームを前記構造体に照射する前に、当該第2イオンビームのイオンの運動エネルギーを制御して、前記第2音響パルス源の前記第2深さが、前記深さとは異なる深さになるように調整することをさらに含む、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2イオンビームのイオンの運動エネルギーを制御することは、前記イオンビーム源を調整すること、又は、前記イオンビーム源と前記構造体との間に減衰器を挿入すること、のうちの少なくとも一方を含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記深さは、前記第1表面と前記接合部との間に位置する、請求項1~
6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
音響センサに向けて配置されたイオンビーム源と、
前記イオンビーム源から照射されたイオンビームのエネルギーによって形成される音響パルスを受信するよう配置された前記音響センサと、
前記イオンビーム源と前記イオンビーム源のターゲットとの間に配置された減衰器と、を含む、接合部検査システム。
【請求項9】
前記イオンビーム源によって生成された前記イオンビームの形状を変化させるよう構成されたビームステアリングシステムをさらに含む、請求項
8に記載の接合部検査システム。
【請求項10】
前記イオンビーム源は、サイクロトロン、ヴァンデグラフ起電機、又は直線加速器のうちの1つである、請求項
8又は
9に記載の接合部検査システム。
【請求項11】
前記イオンビーム源の経路上において前記音響センサと音響結合する状態に検査対象構造体を保持するよう構成された固定具をさらに含む、請求項
8~
10のいずれか1つに記載の接合部検査システム。
【請求項12】
前記固定具は、前記検査対象構造体を引張状態にするよう構成されている、請求項
11に記載の接合部検査システム。
【請求項13】
構造体の接合部を検査する方法であって、
前記構造体の第1表面にイオンビームを複数回繰り返し照射して、前記構造体における前記接合部の第1の側に位置する第1部分の内部に音響パルス源を形成し、
前記音響パルス源で生成された音響パルスの伝播時間及び大きさを、前記構造体の第2部分の第2表面において検出してレスポンスを形成し、
前記接合部に欠陥が含まれるか否かを前記レスポンスに基づいて特定する、ことを含み、前記接合部は、前記構造体における前記第1部分と前記第2部分との境界面に位置するものである、方法。
【請求項14】
前記複数回のイオンビームのうちの各回のイオンビームを前記構造体に照射する前に、当該イオンビームのイオンの運動エネルギーを制御して、当該イオンビームによって形成される音響パルス源の深さを調整することをさらに含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記複数回のイオンビームのうちの各回のイオンビームのイオンの運動エネルギーは、前記複数回のイオンビームが少なくとも2つのブラッグピークを有するように制御される、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記接合部に欠陥が含まれるか否かを特定することは、前記レスポンスの大きさを基準レスポンスの大きさと比較することを含む、請求項
13~
15のいずれか1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、非破壊検査に関し、より具体的には、構造体の接合部の検査に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接及び接着は、部材を接合するための一般的な方法である。部材間を接合すると、部材間の境界面に接合部が形成される。部材間の接合部には、接合強度を確認する試験や検査が行われる。しかしながら、溶接部におけるボイド、又は接合継手における未接合部分を検出することは、非常に困難である。
【0003】
したがって、上述した問題のうちの少なくともいくつか、及びその他の考えられる問題を考慮に入れた方法及び装置の提供が望まれる。
【発明の概要】
【0004】
本開示の例示的な実施形態は、構造体の接合部を検査する方法を提供する。イオンビーム源によって前記構造体の第1表面にイオンビームが照射され、前記構造体の内部において、当該イオンビームのブラッグピークに対応する深さに音響パルス源が形成される。前記音響パルス源は、前記接合部に隣接する。前記音響パルス源で生成された音響パルスの伝播時間及び大きさが、前記構造体の第2表面に配置された音響センサによって検出されてレスポンスが形成される。前記接合部は、前記音響パルス源と前記第2表面との間に位置する。
【0005】
本開示の別の例示的な実施形態では、接合部検査システムが提供される。前記接合部検査システムは、イオンビーム源と、前記イオンビーム源から照射されたイオンビームのエネルギーによって形成される音響パルスを受信するよう配置された音響センサと、を含む。
【0006】
本開示のさらに別の例示的な実施形態では、構造体の接合部を検査する方法が提供される。前記構造体の第1表面にイオンビームが繰り返し照射されて、前記構造体における前記接合部の第1の側に位置する第1部分の内部に音響パルス源が形成される。前記音響パルス源によって生成された音響パルスの伝播時間及び大きさが、前記構造体の第2部分の第2表面において検出されてレスポンスが形成される。前記接合部は、前記構造体における前記第1部分と前記第2部分との境界面に位置する。前記接合部に欠陥が含まれるか否か、前記レスポンスに基づいて特定される。
【0007】
これらの特徴及び機能は、本開示の様々な実施形態において個別に達成可能であり、また、他の実施形態との組み合わせも可能である。この詳細は、以下の記載と図面から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
例示的な実施形態に特有のものと考えられる新規な特徴は、添付の特許請求の範囲に記載されている。しかしながら、例示的な実施形態、並びに、好ましい使用形態、さらにその目的及び特徴は、以下に示す添付図面と共に本開示の例示的な実施形態の詳細な説明を参照することで最もよく理解されるであろう。
【0009】
【
図1】例示的な実施形態による接合部検査システムが動作する検査環境を示すブロック図である。
【
図2】例示的な実施形態による検査中の接合部の断面を示す図である。
【
図3】例示的な実施形態による接合部検査におけるレスポンス強度を示すグラフである。
【
図4】例示的な実施形態による、構造体接合部の検査方法を示すフローチャートである。
【
図5】例示的な実施形態による、構造体接合部の検査方法を示すフローチャートである。
【
図6】例示的な実施形態による航空機の製造及び保守方法を示すフローチャートである。
【
図7】例示的な実施形態を実施可能な航空機を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
例示的な実施例において、1つ以上の異なる事項が認識及び考慮されている。例示的な実施例において、従来の非破壊検査方法では検証できない接着部又は接合部があることが認識及び考慮されている。例示的な実施例において、X線は、大型構造物の接合部を検証するには、到達距離が不十分であることが認識及び考慮されている。例示的な実施例において、X線は、高密度の物質における透過が限定的であることが認識及び考慮されている。X線検査には、この他にも、深さ分解能が低すぎるという欠点があり、これを補うためには、断層撮影法が用いられるが、断層撮影法を用いると、処理時間が長くなってしまう。
【0011】
例示的な実施例において、超音波の感度及び分解能は、肉厚の物体に用いるには低すぎる可能性があることが認識及び考慮されている。例示的な実施例において、超音波の感度及び分解能は、構造物の材料の影響を受けることが認識及び考慮されている。
【0012】
例示的な実施例において、従来の超音波検査では、トランスデューサを用いて音響パルスを物体表面で生成することが認識及び考慮されている。音響エネルギーは、最初は、直接経路(direct path)に沿って進む。溶接部分や接合部分に欠陥が無ければ、音響エネルギーは、反対側の表面に配置された音響センサまで直接経路に沿って到達する。溶接部分や接合部分に欠陥がある場合には、センサまで直接到達する音響経路にはならず、代わりに、欠陥において散乱した音響エネルギーがセンサに到達する。しかしながら、この結果として形成される応答強度特性(intensity profile)は、許容可能な特性と大差ないものになる。このような物理的事情のため、従来の超音波検査における欠陥の検出感度には限界がある。
【0013】
超音波検査において、トランスデューサを用いることで、超音波の感度又は分解能のうちの少なくとも一方を改善することが可能である。例示的な実施例において、トランスデューサを用いると、コスト及び労力が増加することが認識及び考慮されている。加えて、超音波検査では、材料、形状、及び厚みの組み合わせによっては、検証が可能でない場合がある。
【0014】
次に、
図1を参照すると、例示的な実施形態による接合部検査システムが動作する検査環境のブロック図が示されている。検査環境102における接合部検査システム100は、構造体106の接合部104を検査するよう構成されている。接合部検査システム100は、イオンビーム源108及び音響センサ110を含む。イオンビーム源108は、音響センサ110に向けて設置される。音響センサ110は、イオンビーム源108からのイオンビーム114のエネルギーによって形成された音響パルス112を受信するように配置される。
【0015】
イオンビーム114に含まれる運動エネルギー120は、構造体206における短い距離領域内に放出される。この運動エネルギー120が熱エネルギーに変換されて、音響パルス源126の内部に熱膨張が発生する。音響パルス源126の熱膨張により、音響パルス112が発生する。
【0016】
イオンビーム源108は、イオンビーム114を生成する。イオンビーム114は、構造体106の内部に音響パルス112を発生させる。イオンビーム源108は、任意の形態を取ることができる。いくつかの例示的な実施例では、イオンビーム源108は、サイクロトロン、ヴァンデグラフ起電機、又は直線加速器のうちの1つである。
【0017】
いくつかの例示的な実施例では、接合部検査システム100は、イオンビーム114の形状を変化させるよう構成されたビームステアリングシステム116をさらに含む。いくつかの例示的な実施例では、ビームステアリングシステム116は任意の要素であってもよい。
【0018】
いくつかの例示的な実施例では、イオンビーム源108と当該イオンビーム源108のターゲットとの間に減衰器118が配置される。図示の通り、イオンビーム源108のターゲットは、構造体106である。これらの例示的な実施例では、減衰器118は、イオンビーム源108と構造体106との間に配置される。なお、減衰器118は、任意の要素である。減衰器118が含まれる場合、当該減衰器は、イオンビーム114のイオン122の運動エネルギー120を制御する。イオンビーム114のイオン122の運動エネルギー120を制御することによって、構造体106の内部に音響パルス源126が形成される位置の深さ(depth)124を調整することができる。
【0019】
いくつかの例示的な実施例では、イオンビーム114のイオン122の運動エネルギー120は、イオンビーム源108を調整することで制御される。いくつかの例示的な実施例では、イオンビーム源108は、イオンの種類128を変更することで調整される。
【0020】
動作について説明すると、イオンビーム源108は、構造体106にイオンビーム114を照射する。イオンビーム源108から構造体106の第1表面130にイオンビーム114が照射されると、構造体106の内部において、イオンビーム114のブラッグピーク132に対応する深さ124に音響パルス源126が形成される。深さ124は、音響パルス源126が接合部104に隣接する位置に形成されるように選択される。いくつかの例示的な実施例では、深さ124は、第1表面130と接合部104との間に位置する。
【0021】
第1表面130は、構造体106の第1部分134の一部である。第1部分134は、接合部104において構造体106の第2部分136に接合されている。接合部104は、構造体106の第1部分134と第2部分136との境界面138に位置する。
【0022】
音響センサ110は、構造体106の第2表面140に配置される。音響センサ110は、音響パルス源126によって生成される音響パルス112の伝播時間142及び大きさ144を検出して、レスポンス(response)146を形成する。接合部104は、第1表面130と第2表面140との間に位置する。接合部104は、音響パルス源126と第2表面140との間に位置する。
【0023】
レスポンス146は、基準レスポンス(acceptable response)147と比較される。レスポンス146の大きさが基準レスポンス147の範囲外であれば、欠陥があると特定される。例えば、音響パルス源126と音響センサ110との間に欠陥148があれば、大きさ144は基準レスポンス147の範囲外である可能性がある。音響パルス源126と音響センサ110との間に欠陥148があれば、当該欠陥148によって音響パルス112の一部がブロックされる。欠陥148によって音響パルス112の一部がブロックされるので、音響センサ110で感知される音響パルス112の大きさ144は小さくなる。
【0024】
いくつかの例示的な実施例では、レスポンス146と基準レスポンス147との比較は、オペレータによって行われる。別の例示的な実施例では、レスポンス146と基準レスポンス147との比較は、プロセッサ149によって行われる。
【0025】
この例示的な実施例では、プロセッサ149による前記比較は、コンピュータにより実施される命令を用いて実行される。場合によっては、プロセッサ149は、回路システム、特定用途向け集積回路(ASIC)、プログラマブル論理デバイスなどのハードウェアユニット、又は、その他の適当な種類のハードウェアユニットの形態を取ることができる。
【0026】
別の例として、音響パルス源126と音響センサ110との間に欠陥148があれば、伝播時間142が基準レスポンスの範囲外になる可能性がある。音響パルス源126と音響センサ110との間に欠陥148があれば、当該欠陥148によって音響パルス112に散乱が生じる。欠陥148によって音響パルス112が散乱するので、音響パルス112が音響センサ110に到達するまでの伝播時間142が長くなる可能性がある。
【0027】
接合部検査システム100は、構造体106にイオンビーム150を繰り返し照射して接合部104を検査する。いくつかの例示的な実施例では、接合部検査システム100は、第1表面130の全体にイオンビーム150を照射して、構造体106の接合部104における複数の箇所を検査する。
【0028】
いくつかの例示的な実施例では、接合部検査システム100は、複数の異なる運動エネルギーを有するイオンビーム150を構造体106に照射する。例えば、接合部検査システム100は、イオンビーム源108によって構造体106の第1表面130に第2イオンビーム152を照射し、これにより、構造体106の内部において、当該第2イオンビーム152のブラッグピーク154に対応する第2深さに第2音響パルス源を形成する。構造体106に第2イオンビーム152を照射する前に、第2イオンビーム152のイオンの運動エネルギーを調節することで音響パルス源の第2深さを調節して、当該第2深さが深さ124とは異なるようにする。異なる運動エネルギーのイオンビーム150を構造体106に照射することで、接合部104の両側を検査することが可能になる。
【0029】
第2表面140に配置された音響センサ110は、第2音響パルス源によって生成される音響パルスの伝播時間及び大きさを検出して、第2レスポンスを形成する。いくつかの例示的な実施例では、レスポンス146と第2レスポンスとは、互いに境界面138の反対の側から検出される。
【0030】
いくつかの例示的な実施例では、固定具(fixture)149は、検査中の構造体106を保持する。いくつかの例示的な実施例では、固定具149は、検査対象の構造体106をイオンビーム源108と音響センサ110との間に保持する。いくつかの例示的な実施例では、固定具149は、検査対象の構造体106をイオンビーム源108の経路上に保持して、音響センサ110と音響結合(acoustic contact)させる。
【0031】
図1に示す検査環境102は、例示的な実施形態を実現可能な態様に対する物理的限定又は構造的限定を示唆する意図ではない。図示した部材の追加又は代替として、他の部材を用いることも可能である。また、いくつかの部材を不要とすることも可能である。図中のブロックは、いくつかの機能的部材を示すためのものである。例示的な一実施形態において、これらのブロックの1つ以上を、組み合わせたり、分割したり、或いは、組み合わせて異なるブロックに分割してもよい。
【0032】
例えば、いくつかの例示的な実施例では、固定具149は、構造体106を引張状態に保持するよう構成されている。固定具149によって構造体106を構造的な引張状態にすることで、接合部104における未接合部分を検出できる場合がある。構造体106を引張状態にすると、構造体106の接合部104も引張状態に置かれる。接合部104を引張状態にすると、接合部104に未接合部分があれば、その部分が拡がる。未接合部分が拡がると、音響パルス112の散乱が大きくなる。このように、構造体106を引張状態にすることで、接合部検査システム100は、構造体106の接合部104における未接合部分をより容易に特定することが可能になる。
【0033】
図示では、プロセッサ149は、検査環境102に含まれているが、別の実施例では、プロセッサ149は、任意の位置に配置されてもよい。例えば、プロセッサ149は、検査環境102の外部のコンピュータシステムの一部であってもよい。
【0034】
次に、
図2を参照すると、例示的な実施形態による検査中の接合部の断面が示されている。図示200では、イオンビーム源202は、構造体206の第1の側204に配置されている。イオンビーム源202は、
図1のイオンビーム源108の物理的な実施態様である。イオンビーム源202は、構造体206に向けて配置される。
【0035】
イオンビーム源202は、構造体206の第1の側204における第1表面210にイオンビーム208を照射するよう構成されている。構造体206の第1表面210にイオンビーム208を照射することで、構造体206の内部における深さ214に音響パルス源212が形成される。この深さ214は、イオンビーム208のブラッグピーク216に対応する。図示のとおり、深さ214は、第1表面210と接合部218との間に位置する。この深さ214は、音響パルス源212が接合部218に隣接する位置に形成されるよう選択される。
【0036】
ブラッグピーク216を示すグラフ220は、イオンビーム208が構造体206中を進むにしたがって生じるエネルギー放出を示すために提示されている。ブラッグピーク216は、イオンビーム208のイオンが運動停止する直前に生じる。ブラッグピーク216は、深さ214の直前の位置で生じる。イオンビーム208の運動エネルギーの大部分は、ブラッグピーク216にて、構造体106における短い距離領域内に放出される。この運動エネルギーが熱エネルギーに変換されて、音響パルス源212の内部に熱膨張が発生する。音響パルス源212の熱膨張により、音響パルス226が発生する。
【0037】
イオンビーム208におけるイオンの運動エネルギーを制御することによって、音響パルス源212が形成される位置の深さ214を調整することができる。運動エネルギーは、イオンビーム源202を調整するか、或いは、イオンビーム源202と構造体206との間に減衰器(図示せず)を挿入するか、のいずれかを行うことで制御できる。
【0038】
音響センサ222は、構造体206の第2表面224に配置される。音響センサ222は、構造体206の内部から出射された音響パルスを受信するよう配置される。音響パルスは、イオンビーム源202のイオンビーム208によって生じた熱膨張によって生成される。接合部218は、第1表面210と第2表面224との間に位置する。音響パルス226は、音響パルス源212によって生成される。音響センサ222は、音響パルス源212によって生成される音響パルス226の伝播時間及び大きさを検出する。音響パルス源212で生成された音響パルス226の伝播時間及び大きさを検出することで、レスポンスが形成される。図示の通り、音響パルス226は、複数の矢印228で表される。
【0039】
図示の通り、複数の矢印228の一部が、欠陥230によってブロックされている。このことは、音響パルス226の一部が欠陥230によってブロックされることを表している。欠陥230によって音響パルス226がブロックされることにより、音響センサ222が受信する音響パルス226の大きさ又は伝播時間のうちの少なくとも一方が、欠陥230があることによる影響を受ける。
【0040】
接合部218における欠陥230は、ボイドである。接合部218は、構造体206の第1部分232と構造体206の第2部分234との間であって、第1部分232と第2部分234との境界面236に位置する。
【0041】
接合部検査システム238は、イオンビーム源202及び音響センサ222を含む。イオンビーム源202は、音響センサ222に向けて配置される。音響センサ222は、イオンビーム源202が出射するイオンビーム208のエネルギーによって形成された音響パルスを受信するように配置される。
【0042】
接合部検査システム238は、構造体206に向けて配置されたイオンビーム源202と、音響センサ222と、を含む。音響センサ222は、構造体206の内部から出射された音響パルスを受信する位置に配置される。音響パルス226を含む音響パルスは、イオンビーム源202のイオンビーム208によって生じた熱膨張によって生成される。
【0043】
イオンビーム208を構造体206に照射することで、構造体206の接合部218の非破壊検査が可能になる。接合部218の非破壊検査は、接合部検査システム238によって行われる。図示のように、接合部検査システム238は、イオンビーム源202及び音響センサ222を含む。ただし、接合部検査システム238は、他の部材を含んでもよい。
【0044】
図2に接合部検査システム238を示しているが、これは、例示的な実施形態を実現可能な態様に物理的限定又は構造的限定を課すことを示唆する意図ではない。図示した部材の追加又は代替として、他の部材を用いることも可能である。また、いくつかの部材を不要とすることも可能である。
【0045】
図示の都合上、イオンビーム源202は、ボックスで表されているが、イオンビーム源202は、任意の形態を取ることができる。いくつかの例示的な実施例では、イオンビーム源202は、サイクロトロン、ヴァンデグラフ起電機、又は直線加速器のうちの1つである。また、イオンビーム源202は、イオンビーム208を音響センサ222に向けて出射するように図示されているが、構造体206の内部に向けて任意の角度でイオンビーム208を出射することも可能である。
【0046】
いくつかの例示的な実施例では、イオンビーム源202と構造体206との間に、減衰器(図示せず)が配置される。いくつかの例示的な実施例では、固定具(図示せず)によって検査中の構造体206が保持される。例えば、いくつかの例示的な実施例では、固定具は、構造体206を引張状態に保持するよう構成されている。
【0047】
次に、
図3を参照すると、例示的な実施形態による接合部検査におけるレスポンス強度のグラフが示されている。グラフ300は、レスポンス302及びレスポンス304を示す。レスポンス302は、基準レスポンスである。レスポンス302は、音響パルスが透過する構造体に含まれる欠陥が許容可能なレベルである場合に生成される。レスポンス304は、音響パルスが構造体を透過する際に、許容されないレベルの欠陥に遭遇する場合に生成される。いくつかの例示的な実施例では、レスポンス304は、
図1に示す音響パルス112を受信した場合のレスポンス146を物理的に表したものである。
【0048】
グラフ300のx軸306は、時間を表し、グラフ300のy軸308は、強度を表す。x軸306は、
図1に示す伝播時間142などの伝播時間を表す。y軸308は、
図1に示す大きさ144などの大きさを表す。
【0049】
次に、
図4を参照すると、例示的な実施形態による、構造体接合部を検査する方法のフローチャートが示されている。方法400は、
図1の接合部検査システム100を用いて実行することができる。方法400は、
図2のイオンビーム源202及び音響センサ222を用いて実行することができる。いくつかの例示的な実施例では、レスポンス302又はレスポンス304は、方法400において生成されるレスポンスを物理的に表したものである。
【0050】
方法400では、イオンビーム源によって構造体の第1表面にイオンビームを照射して、前記構造体の内部において、前記イオンビームのブラッグピークに対応する深さで且つ接合部に隣接する位置に音響パルス源を形成する(処理402)。方法400では、前記音響パルス源で生成された音響パルスの伝播時間及び大きさを、前記構造体の第2表面に配置された音響センサによって検出してレスポンスを形成する(処理404)。前記接合部は、前記音響パルス源と前記第2表面との間に位置する。この後、方法400を終了する。
【0051】
いくつかの例示的な実施例における方法400では、前記構造体にイオンビームを照射する前に、前記イオンビームのイオンの運動エネルギーを制御して、前記音響パルス源が形成される深さを調整する(処理406)。いくつかの例示的な実施例では、前記イオンビームのイオンの運動エネルギーを制御することは、前記イオンビーム源を調整すること、或いは、前記イオンビーム源と前記構造体との間に減衰器を挿入すること、のうちの少なくとも一方を含む(処理408)。いくつかの例示的な実施例では、前記深さは、前記第1表面と前記接合部との間に位置する。
【0052】
いくつかの例示的な実施例における方法400では、前記構造体に前記イオンビームを照射する前に、前記構造体に固定具を接続して、前記構造体を機械的に引張状態にする(処理410)。前記構造体を引張状態にすることで、接合強度の検査が可能になる。
【0053】
方法400では、前記レスポンスを基準レスポンスと比較し(処理412)、前記レスポンスの大きさが前記基準レスポンスの範囲外であれば、欠陥があると特定する(処理414)。いくつかの例示的な実施例では、前記レスポンスの大きさは、前記基準レスポンスの大きさを大幅に下回る。このような例示的な実施例では、前記レスポンスの大きさが、前記基準レスポンスの大きさを大幅に下回る場合は、欠陥があると特定される。ここで特定されるのは、許容範囲外の欠陥である。
【0054】
いくつかの例示的な実施例では、前記基準レスポンスは、許容可能な強度を有する接合部に関連づけられたレスポンスであれば、当該基準レスポンスの大きさ以上になるように選択される。レスポンスの大きさが前記基準レスポンス以上であれば、欠陥の数及び欠陥の大きさは、許容範囲内である。前記基準レスポンスは、許容可能なレベルの欠陥を含む接合部に関連づけられたレスポンスであれば、前記基準レスポンスの大きさ以上になるように選択される。
【0055】
いくつかの例示的な実施例における方法400では、前記イオンビーム源によって、前記構造体の前記第1表面に第2イオンビームを照射し、前記構造体の内部において、前記第2イオンビームのブラッグピークに対応する第2深さに第2音響パルス源を形成する(処理416)。これらの実施例における方法400では、前記第2音響パルス源で生成された音響パルスの伝播時間及び大きさを、前記第2表面に配置された前記音響センサによって検出することで第2レスポンスを形成する(処理418)。
【0056】
いくつかの例示的な実施例における方法400では、前記第2イオンビームを前記構造体に照射する前に、前記第2イオンビームのイオンの運動エネルギーを制御して、前記第2音響パルス源の前記第2深さが、前記第1深さとは異なる深さになるように調整する(処理420)。いくつかの例示的な実施例では、前記第2イオンビームのイオンの運動エネルギーを制御することは、前記イオンビーム源を調整するか、又は、前記イオンビーム源と前記構造体との間に減衰器を挿入するか、の少なくとも一方を行うことを含む(処理422)。
【0057】
次に、
図5を参照すると、例示的な実施形態による、構造体接合部を検査する方法のフローチャートが示されている。方法500は、
図1の接合部検査システム100を用いて実行することができる。方法500は、
図2のイオンビーム源202及び音響センサ222を用いて実行することができる。いくつかの例示的な実施例では、レスポンス302又はレスポンス304は、方法500において生成されるレスポンスを物理的に表したものである。
【0058】
方法500では、前記構造体の第1表面にイオンビームを複数回繰り返し照射して、前記構造体における前記接合部の第1の側に位置する第1部分の内部に音響パルス源を形成する(処理502)。方法500では、前記音響パルス源で生成された音響パルスの伝播時間及び大きさを、前記構造体の第2部分の第2表面において検出することでレスポンスを形成する(処理504)。前記接合部は、前記構造体における前記第1部分と前記第2部分との境界面に位置する。方法500では、前記レスポンスに基づいて、前記接合部に欠陥が含まれるか否かを特定する(処理506)。この後、方法500を終了する。
【0059】
いくつかの例示的な実施例における方法500では、前記複数回のイオンビームのうちの各回のイオンビームを前記構造体に照射する前に、当該イオンビームのイオンの運動エネルギーを制御して、当該イオンビームによって形成される音響パルス源の深さを調整する(処理508)。いくつかの例示的な実施例では、前記複数回のイオンビームのうちの各回のイオンビームのイオンの運動エネルギーは、前記複数回のイオンビームが少なくとも2つのブラッグピークを有するように制御される(処理510)。前記複数回のイオンビームが少なくとも2つのブラッグピークを有することにより、前記構造体における少なくとも2つの異なる深さにおいてイオンのエネルギーが放出される。異なる深さにおいてエネルギーが放出されることにより、複数の音響パルス源が異なる深さに形成される。
【0060】
いくつかの例示的な実施例では、前記接合部に欠陥が含まれるか否かを特定することは、前記レスポンスの大きさを基準レスポンスの大きさと比較することを含む(処理512)。前記基準レスポンスの大きさは、許容可能な品質を有する同じ設計の複数の構造体の検査を利用して決定される。前記基準レスポンスの大きさは、当該基準レスポンスの大きさ以上のすべてのレスポンスが許容可能なレスポンスであるように選択される。
【0061】
本明細書において、「少なくとも1つの」なる表現がアイテムの列挙と共に用いられる場合は、列挙されたアイテムの1つ以上の様々な組み合わせを用いてもよいということであり、列挙された各アイテムの1つだけを必要とする場合もあることを意味する。例えば、「アイテムA、アイテムB、及びアイテムCのうちの少なくとも1つ」は、限定するものではないが、アイテムAを意味する場合、アイテムA及びアイテムBを意味する場合、或いは、アイテムBを意味する場合が含まれる。また、この例には、アイテムA、アイテムB、及びアイテムCを意味する場合、或いは、アイテムB及びアイテムCを意味する場合も含まれる。当然ながら、これらのアイテムのあらゆる組み合わせが可能である。別の例では、「~のうちの少なくとも1つ」は、限定するものではないが、例えば、2個のアイテムAであっても、1個のアイテムBであっても、10個のアイテムCであっても、4個のアイテムB及び7個のアイテムCであってもよく、或いは、他の適当な組み合わせであってもよい。アイテムは、ある特定の対象、物、又はカテゴリーなどである。換言すると、「少なくとも1つの」は、列挙されたアイテムから、あらゆる数のアイテムをあらゆる組み合わせで使用してもよいが、列挙されたアイテムのすべてを必須とするわけではないことを意味する。
【0062】
本明細書において、「所定数の」なる表現がアイテムの列挙と共に用いられている場合は、1つ又は複数のアイテムを意味する。
【0063】
上述した様々な実施形態におけるフローチャート及びブロック図は、例示的な一実施形態における装置及び方法について可能ないくつかの実施態様の構造、機能、及び動作を示すものである。この点において、フローチャート又はブロック図における各ブロックは、モジュール、セグメント、機能、又は動作もしくはステップの一部のうちの少なくとも1つを表す場合がある。
【0064】
例示的な一実施形態のいくつかの代替の態様においては、ブロックに示した機能が、図に示した順序とは異なる順序で行われてもよい。例えば、場合によっては、連続するものとして示されている2つのブロックを、関連する機能に応じて、実質的に同時に実行してもよいし、逆の順序で実行してもよい。また、フローチャート又はブロック図に示されたブロックに対して、さらに他のブロックを追加してもよい。いくつかのブロックは、任意であってもよい。例えば、処理406~処理422のうちのいくつかは、任意の処理であってもよい。別の例として、処理508~処理512のうちのいくつかは、任意の処理であってもよい。
【0065】
本開示の例示的な実施形態は、
図6に示す航空機の製造及び保守方法600、並びに、
図7に示す航空機700に関連させて説明することができる。先ず
図6を参照すると、例示的な実施形態による航空機の製造及び保守方法のフローチャートが示されている。生産開始前において、例示的な航空機の製造及び保守方法600は、
図7に示す航空機700の仕様決定及び設計602と、材料調達604とを含む。
【0066】
製造中には、航空機700の部品及び小組立品の製造606、並びに、システム統合608が行われる。その後、航空機700は、認証及び納品610の工程を経て、就航612に入る。顧客による就航612の間、航空機700は、改良、再構成、改修、又は他の適当な保守を含みうる定常的な整備及び保守614のスケジュールに組み込まれる。
【0067】
航空機の製造及び保守方法600の各工程は、システムインテグレータ、第三者、及び/又は、オペレータによって実行又は実施することができる。これらの例では、オペレータは、顧客であってもよい。なお、システムインテグレータは、航空機メーカ及び主要システム下請業者をいくつ含んでいてもよく、その数は特に限定されない。第三者は、売主、下請業者、供給業者をいくつ含んでいてもよい。オペレータは、例えば、航空会社、リース会社、軍事団体、サービス組織、及び他の適当なオペレータを含む。
【0068】
図7を参照すると、例示的な実施形態を実施可能な航空機のブロック図が示されている。この実施例では、航空機700は、
図6の航空機の製造及び保守方法600によって製造されており、複数のシステム704を備える機体702及び内装706を含む。複数のシステム704の例としては、駆動系708、電気系710、油圧系712、及び、環境系714のうちの1つ以上が挙げられる。また、その他のシステムをいくつ含んでもよい。
【0069】
本明細書において具現化される装置及び方法は、航空機の製造及び保守方法600における1つ以上のどの段階において採用してもよい。例えば、
図6に示す部品及び小組立品の製造606、システム統合608、就航612、又は、整備及び保守614のうちの少なくとも1つの工程において、1つ以上の例示的な実施形態を製造又は使用することができる。例えば、部品及び小組立品の製造606の工程で、接合部検査システム100を用いた構造体106の検査を実施することができる。いくつかの例示的な実施例では、整備及び保守614の工程で、接合部検査システム100を用いた構造体106の検査を実施することができる。例えば、部品及び小組立品の製造606の工程で、方法400又は方法500を用いて接合部104を検査することができる。構造体106は、航空機700の部材、例えば、機体702又は内装706の部材でもよい。
【0070】
例示的な実施例は、接合部検査システム及び接合部の検査方法を提供する。例示的な実施例では、構造体内部における選択された深さに超音波源が形成される。例えば、陽子線などの単一エネルギービーム(mono-energetic beam)のイオンは、材料を透過し、ブラッグピークと呼ばれる特定の深さに到達したところで、そのエネルギーの大部分を放出する。大量のイオン(burst of ions)によって、検査対象の構造体内部の狭い領域に急峻な熱パルス(sharp pulse of heat)を発生させる。この熱パルスにより、構造体の表面に向かう音響パルスが生成される。前記表面に配置された音響センサは、この音響パルスの伝播時間及び大きさを診断する。音響パルスの伝播時間及び大きさから、ボイドや未接合部分などの欠陥を明らかにすることができる。いくつかの例示的な実施例では、前記構造体にイオンビームを照射する前に、前記構造体は引張状態に置かれる。
【0071】
イオンエネルギーを変化させることで、選択された深さに音響パルスを発生させることができる。このエネルギーを変化させることで、接合部の一方の側から反対側に音響パルス源を移動させることができるので、いかなる欠陥部分についても感度を向上させることができる。
【0072】
接合部検査システムは、構造体内部の音響信号を測定する音響センサと、例えば、サイクロトロン、又はヴァンデグラフ起電機などのイオンビーム源と、を有する。検査対象の構造体が準備される。いくつかの例示的な実施例では、前記構造体をイオンビームの経路上に保持する固定具が提供される。いくつかの例示的な実施例では、前記固定具は、さらに減衰器も保持する。これらの例示的な実施例では、前記減衰器は、対象物に入射するイオンエネルギーを制御するために提供される。
【0073】
構造体を検査する際には、前記構造体は、固定具に設置される。前記構造体は、前記構造体における所望の部位がイオンビームの経路上に位置するように配向される。音響センサは、前記構造体の表面に配置される。イオンの運動エネルギーは、設定可能である。イオンの運動エネルギーは、イオンビーム源を調整するか、或いは、イオンビーム源と構造体との間に減衰器を挿入するか、のいずれかを行うことで調整される。イオンビーム源は、例えば陽子線などの単一エネルギーイオンのパルスを出射する。イオンパルスは、前記構造体に入射し、ブラッグピークと呼ばれる特定の深さにおいて、そのエネルギーの大部分を放出する。エネルギーの大部分を特定の深さ位置において放出することで、狭い領域に急峻な熱パルスが発生する。この領域が、僅かではあるが高速に膨張することで、当該構造体の表面に向かって進む音響パルスが生成される。前記表面に配置された少なくとも1つの音響センサは、この音響パルスの伝播時間及び大きさを記録する。
【0074】
前記音響パルスの伝播時間及び/又は大きさは、オペレータ又はコンピュータのうちの少なくとも一方によって基準値と比較される。当該基準値は、許容可能な値、又は、許容されない値のうちの少なくとも1つを含む。所望の品質を有する同種の構造体と比較して、前記構造体の内部からのパルスに遅延及び/又は減衰があれば、ボイドや未接合部分などの欠陥が相当程度に含まれる証拠になる。含まれる欠陥の個数が許容可能な範囲内の構造体と比較して、前記構造体内部からのパルスに遅延及び/又は減衰があれば、許容可能な範囲外の欠陥が含まれる証拠になる。
【0075】
前記イオンビームのイオンのエネルギーを変化させることで、選択された深さにおいて音響パルスを発生させることができる。例示的な実施例によれば、x線検査に比べて、厚みの大きな構造体の検査が可能になる。同一箇所に向けて異なる運動エネルギーのイオンビームを出射するチャープ方式(chirping technique)を用いれば、前記接合部検査システムは、従来の検査技術よりも優れた深さ分解能を実現する。
【0076】
例示的な実施例は、従来の超音波検査よりも優れた分解能及び感度を実現する。例示的な実施例も超音波を用いるが、超音波パルスは、構造体内部における検査対象領域の近傍に生成されるので、例示的な実施例の接合部検査システムでは、より少ない数のトランスデューサを用いて、より優れた分解能及び感度を実現することができる。
【0077】
エネルギー放出量と深度との関係(energy deposition vs. depth)は、イオンビームのイオンに固有のものである。エネルギー放出量は、急峻なピークを示す。このように、エネルギーが放出される深さ位置が狭い範囲に限定されていることで実現される利点がある。
【0078】
例示的な実施例では、音響トランスデューサによるパルスの生成は行っていない。代わりに、イオンパルスを対象物に入射させる。入射したイオンは、伝播経路の最初の部分でエネルギーの一部が放出されるが、エネルギーの大部分は、ブラッグピークに相当する深さにおける狭い範囲で放出される。ブラッグピークにおいてエネルギーが放出されることにより、対象物の内部で音響パルス源が発生する。音響エネルギーは、イオンビーム(パルス)源からの直接経路に沿って伝播する。欠陥が存在する場合は、ほとんどの直接経路がこの欠陥に遭遇する。
【0079】
従来の超音波検査に比べて、欠陥によって散乱する音響エネルギーの割合がはるかに大きい。従来の超音波検査に比べて、前記接合部検査システムの音響センサによれば、構造体に許容範囲外の欠陥が含まれる場合のレスポンスと、構造体に許容範囲外の欠陥が含まれない場合のレスポンスとの間に大きな差異が観測される。検査プロセスにおけるこのような物理的特性により、従来の超音波検査に比べて、欠陥検出の感度を高めることができる。
【0080】
様々な例示的な実施態様の説明は、例示及び説明のために提示したものであり、全てを網羅することや、開示した形態での実施に限定することを意図するものではない。多くの改変又は変形が当業者には明らかであろう。さらに、例示の実施形態によっては、他の好適な実施形態とは異なる特徴をもたらす場合がある。選択した実施形態は、実施形態の原理及び実際の用途を最も的確に説明するために、且つ、当業者が、想定した特定の用途に適した種々の改変を加えた様々な実施形態のための開示を理解できるようにするために、選択且つ記載したものである。