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特許7503436含フッ素化合物並びにその重合体及び表面改質剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】含フッ素化合物並びにその重合体及び表面改質剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/28 20060101AFI20240613BHJP
   C07C 67/08 20060101ALI20240613BHJP
   C07C 67/14 20060101ALI20240613BHJP
   C07C 69/653 20060101ALI20240613BHJP
   C08L 33/16 20060101ALI20240613BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
C08F20/28
C07C67/08
C07C67/14
C07C69/653 CSP
C08L33/16
C09K3/18 102
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020117535
(22)【出願日】2020-07-08
(65)【公開番号】P2022014977
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】白井 智大
(72)【発明者】
【氏名】大塚 澪
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-261132(JP,A)
【文献】特開2008-195662(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110327842(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/28
C07C 67/08
C07C 67/14
C07C 69/653
C08L 33/16
C09K 3/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される含フッ素化合物。
【化1】
(式(1)中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1~のパーフルオロアルキル基であり、X、X及びXは、それぞれ独立して、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~8の直鎖のアルキレン基であり、Yは式(1)において存在しないか、2価の有機基であり、Rは水素原子またはメチル基である。)
【請求項2】
一般式(1)におけるX、X及びXが、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキレン基であり、Yが存在しない、請求項1に記載の含フッ素化合物。
【請求項3】
下記一般式(2)で示される構造単位を含む、含フッ素重合体。
【化2】
(式(2)中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1~のパーフルオロアルキル基であり、X、X及びXは、それぞれ独立して、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~8の直鎖のアルキレン基であり、Yは式(2)において存在しないか、2価の有機基であり、Rは水素原子またはメチル基である。)
【請求項4】
一般式(2)におけるX、X及びXが、炭素数1~4のアルキレン基であり、Yが存在しない、請求項3に記載の含フッ素重合体。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の含フッ素重合体及び溶媒を含んでなる、表面改質剤組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の一般式(1)で示される含フッ素化合物の製造方法であって、下記一般式(3)で示される含フッ素化合物と、(メタ)アクリル酸とを、酸触媒としてp-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸またはトリフルオロメタンスルホン酸を用いて反応させる工程を含む製造方法。
【化3】
(式(3)中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1~のパーフルオロアルキル基であり、X、X及びXは、それぞれ独立して、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~8の直鎖のアルキレン基であり、Yは式(3)において存在しないか、2価の有機基である。)
【請求項7】
請求項1に記載の一般式(1)で示される含フッ素化合物の製造方法であって、下記一般式(3)で示される含フッ素化合物と、(メタ)アクリル酸クロリド又は(メタ)アクリル酸無水物とを、塩基としてトリエチルアミン、ジエチルアミン、ピリジン、ピリミジン、炭酸ナトリウム、または炭酸水素ナトリウムを用いて反応させる工程を含む、製造方法。
【化4】
(式(3)中、Rf 、Rf 及びRf は、それぞれ独立して、炭素数1~2のパーフルオロアルキル基であり、X 、X 及びX は、それぞれ独立して、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~8の直鎖のアルキレン基であり、Yは式(3)において存在しないか、2価の有機基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な含フッ素化合物並びにその重合体及び表面改質剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物は、炭素-フッ素結合の性質に基づき、耐熱性、耐薬品性、撥水撥油性、低摩擦性、剥離性等の特徴的な機能を示す。これらの性質を利用して、含フッ素化合物は、例えば撥水撥油剤、防汚剤、離型剤、防湿剤等、種々の基材に機能を付与する表面改質剤として用いられている。
【0003】
これまで、含フッ素表面改質剤の原料としては、フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを重合単位として含む含フッ素重合体が用いられてきた。特に、炭素数が8以上のパーフルオロアルキル基を有する含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを重合単位として含む含フッ素重合体は、動的撥水性に優れ、表面に付着した水滴等を効果的に滑落させられることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、炭素数が8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物は、生体蓄積性等、環境及び生体に対して悪影響を与える可能性が問題視されている。
このため、生体蓄積性が低いとされる短鎖パーフルオロアルキル基を有する含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを重合単位として含む含フッ素重合体による代替が検討されてきた。しかし、短鎖パーフルオロアルキル基を有する含フッ素重合体からなる表面改質剤は撥水撥油性に劣り、特に付着した液滴等の除去性に関わる動的撥水性が低下することが知られている。
【0004】
動的撥水性を改善した含フッ素表面改質剤として、例えば特許文献1、特許文献2には含フッ素化合物を含む単量体から構成される共重合体が開示されている。しかし、含フッ素化合物単独の重合体が動的撥水性を示すわけではなく、共重合体の組成が限定される等の課題があった。特許文献3には含フッ素環式炭化水素基を有する含フッ素化合物を含む表面改質剤が開示されているが、鎖状の含フッ素炭化水素基を有する含フッ素化合物と比較して製造方法が煩雑である等、さらなる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-253240号公報
【文献】国際公開2020/004000号
【文献】特開2007-254451号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Macromoelcules, 2010年, 第43巻, 454-460
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、動的撥水性に優れた表面改質剤として利用可能な、新規な含フッ素化合物及びその重合体、並びにこれを含有する表面改質剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下に示す分岐構造を有する含フッ素化合物を重合単位として含む含フッ素重合体を用いた表面改質剤が、優れた動的撥水性を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下に係る。
[1] 下記一般式(1)で示される含フッ素化合物。
【化1】
(式(1)中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基であり、X、X及びXは、それぞれ独立して、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~8の直鎖のアルキレン基であり、Yは式(1)において存在しないか、2価の有機基であり、Rは水素原子またはメチル基である。)
[2] 一般式(1)におけるX、X及びXが、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキレン基であり、Yが存在しない、[1]に記載の含フッ素化合物。
[3] 下記一般式(2)で示される構造単位を含む、含フッ素重合体。
【化2】
(式(2)中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基であり、X、X及びXは、それぞれ独立して、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~8の直鎖のアルキレン基であり、Yは式(2)において存在しないか、2価の有機基であり、Rは水素原子またはメチル基である。)
[4] 一般式(2)におけるX、X及びXが、炭素数1~4のアルキレン基であり、Yが存在しない、[3]に記載の含フッ素重合体。
[5] [3]または[4]に記載の含フッ素重合体及び溶媒を含んでなる、表面改質剤組成物。
[6] 一般式(1)で示される含フッ素化合物の製造方法であって、下記一般式(3)で示される含フッ素化合物と、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸クロリド及び(メタ)アクリル酸無水物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物とを反応させる工程を含む製造方法。
【化3】
(式(3)中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基であり、X、X及びXは、それぞれ独立して、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~8の直鎖のアルキレン基であり、Yは式(3)において存在しないか、2価の有機基である。)
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の上記一般式(1)に示される含フッ素化合物において、式(1)中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基である。中でも、直鎖の炭素数1~6のパーフルオロアルキル基が好ましく、直鎖の炭素数1~4のパーフルオロアルキル基がさらに好ましく、炭素数1~2のパーフルオロアルキル基が特に好ましい。
Rf、Rf及びRfは、すべて同一であってもよく、互いにいずれも異なっていてもよく、またはそれらの2つが同一でありかつそれらの1つが異なっていてもよい。これらの中でも、Rf、Rf及びRfが、すべて同一であることが好ましい。
【0011】
本発明の一般式(1)に示される含フッ素化合物において、X、X及びXは、それぞれ独立して、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~8の直鎖のアルキレン基である。好ましい構造としては、-CH-、-CHCH-、-CHCHCH-、-CH-O-CHCH-、-CHCH-O-CHCH-、-CHCHCH-O-CHCH-等が挙げられる。中でも、炭素数1~3のアルキレン基である-CH-、-CHCH-または-CHCHCH-が好ましい。
、X及びXは、すべて同一であってもよく、互いにいずれも異なっていてもよく、またはそれらの2つが同一でありかつそれらの1つが異なっていてもよい。これらの中でも、X、X及びXが、すべて同一であることが好ましく、X、X及びXがすべて-CH-であるか、X、X及びXがすべて-CHCH-であるか、X、X及びXがすべて-CHCHCH-であることが特に好ましい。
【0012】
本発明の一般式(1)に示される含フッ素化合物において、Yは存在しないか、2価の有機基である。中でも、Yが存在しないか、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~8の直鎖のアルキレン基であることが好ましく、Yが存在しないことがさらに好ましい。
【0013】
本発明の一般式(1)に示される含フッ素化合物において、Rは水素原子またはメチル基である。中でも、Rがメチル基であることが好ましい。
【0014】
本発明は、一般式(2)で示される構造単位を含む、含フッ素重合体を提供する。本発明の含フッ素重合体は、一般式(1)で示される含フッ素化合物を単独重合させて得られた単独重合体であってもよく、一般式(1)で示される含フッ素化合物と他の単量体を共重合させて得られた共重合体であってもよい。共重合体の場合、単量体成分の総量の内、一般式(1)で示される含フッ素化合物の量が約5重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがさらに好ましい。
【0015】
他の単量体としては、一般式(1)で示される含フッ素化合物と共重合しうる単量体であれば特に限定されないが、(メタ)アクリル酸もしくはそのエステル類、スチレン類、脂肪酸ビニルエステル類、ハロゲン化ビニルまたはビニリデン類、脂肪酸アリルエステル類、アクリルアミド類等が挙げられる。具体的には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のメチル、エチル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、プロピル、2-エチルヘキシル、ヘキシル、デシル、ラウリル、ステアリル、イソボルニル、ベヘニル、β-ヒドロキシエチル、グリシジル、フェニル、ベンジル、4-シアノフェニル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、メトキシポリエチレングリコール、メトキシポリプロピレングリコール、トリフルオロエチル、トリフルオロプロピル、ペンタフルオロプロピル、ペンタフルオロブチル、ノナフルオロブチル、ノナフルオロヘキシル、トリデカフルオロオクチル、ヘプタデカフルオロデシルエステル類、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、フッ化ビニル、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニリデン、塩化ビニリデン、ヘプタン酸アリル、カプリル酸アリル、カプロン酸アリル、N-メチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド等が挙げられる。これらの他の単量体は単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0016】
本発明の含フッ素重合体は、一般式(1)で示される含フッ素化合物単独または一般式(1)で示される含フッ素化合物と他の単量体を用いて、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等により製造できる。これらの重合においては、重合開始剤を用いることにより、重合反応を進行させることができる。
【0017】
本発明の含フッ素重合体の製造に用いられる重合開始剤は、特に限定されないが、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1'-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等のアゾ系開始剤、過酸化ベンゾイル、ジ-t-ブチルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシピバレート、ラウリルパーオキシド等の過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、ベンゾフェノン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ベンゾケトン誘導体、フェニルチオエーテル誘導体、アジド誘導体、ジアゾ誘導体、ジスルフィド誘導体等が挙げられる。これらの重合開始剤は単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
本発明の含フッ素重合体の製造に用いられる重合開始剤の量は、重合反応に具する単量体の総量に対し、好ましくは0.001重量%~50重量%、さらに好ましくは0.005重量%~20重量%、特に好ましくは0.01重量%~10重量%である。
【0018】
本発明の含フッ素重合体の溶液重合による製造に用いられる溶媒は、特に限定されないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素系溶媒、n-ヘキサン、n-ヘプタン、ミネラルスピリット、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素系溶媒、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、メチレンジクロライド、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、オルトジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系又はエステルエーテル系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ-n-ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、2-エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン等の複素環式化合物系溶媒、トリフルオロメチルベンゼン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロ-3,3-ジクロロプロパン、1,1,2,2,3-ペンタフルオロ-1,3-ジクロロプロパン、ペンタフルオロブタン、デカフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロデカリン、ヘキサフルオロベンゼン、メチルノナフルオロブチルエーテル(HFE7100)、エチルノナフルオロブチルエーテル(HFE7200)、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)ペンタン(HFE7300)等のハイドロフルオロエーテル類等のフッ素系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
溶液重合において用いられる溶媒の量は、重合反応に具する単量体の総量に対し、好ましくは1重量倍量~100重量倍量、さらに好ましくは2重量倍量~10重量倍量である。
【0019】
本発明の含フッ素重合体は、例えば水を分散媒とし、界面活性剤を含む混合物中で懸濁重合、乳化重合により製造してもよい。
重合反応は常圧、加圧密閉下、又は減圧下で行われ、装置及び操作の簡便さから常圧下
で行うのが好ましい。また、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。重合反応
の温度は、好ましくは40℃~150℃、さらに好ましくは40℃~100℃である。これらの反応温度及び反応時間の条件は、単量体の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量に応じて適宜調整することでよい。
【0020】
重合反応の終了後、得られた含フッ素重合体を任意の方法で回収し、必要に応じて洗浄等の後処理を行う。反応溶液から重合体を回収する方法としては、濃縮、再沈殿等公知の方法が利用できる。
【0021】
得られた含フッ素ポリマーの重量平均分子量(以下、Mwと略記)は、ゲル浸透クロマ
トグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算で好ましくは1,000~1,000,000、さらに好ましくは10,000~500,000である。
【0022】
本発明の含フッ素重合体は、溶媒に溶解し、含フッ素重合体及び溶媒を含んでなる表面改質剤組成物として用いることができる。ここで、表面改質剤組成物中の含フッ素重合体は固体となることがあり、溶媒に溶解し溶液状の組成物として、塗布、浸漬等により基材を処理可能な形態とすることができる。
本発明の表面改質剤組成物において、含フッ素重合体の濃度としては0.01重量%~30重量%が好ましく、0.05重量%~20重量%がさらに好ましい。
本発明の表面改質剤組成物は、得られた含フッ素重合体と溶媒を混合することにより調製してもよく、溶液重合により得られた含フッ素重合体溶液をそのまま表面改質剤として用いてもよく、溶液重合により得られた含フッ素重合体溶液をさらに溶媒で希釈することにより調製してもよい。
【0023】
本発明の表面改質剤組成物に用いられる溶媒としては、特に限定はされないが、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、n-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、オルトジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系又はエステルエーテル系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ-n-ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、2-エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒、トリフルオロメチルベンゼン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロ-3,3-ジクロロプロパン、1,1,2,2,3-ペンタフルオロ-1,3-ジクロロプロパン、ペンタフルオロブタン、デカフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロデカリン、ヘキサフルオロベンゼン、メチルノナフルオロブチルエーテル(HFE7100)、エチルノナフルオロブチルエーテル(HFE7200)、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)ペンタン(HFE7300)等のハイドロフルオロエーテル類等のフッ素系溶媒等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。これらの溶媒については、使用する目的に応じて適宜選択して用いることでよい。
【0024】
本発明の表面改質剤組成物により処理される基材としては、特に限定されないが、金属、繊維、皮革、布製品、紙等が挙げられる。
本発明の表面改質剤において、基材の処理は、刷毛塗り、ワイプやウエス等による塗布、浸漬、霧吹き等による噴射、スプレーガンによる噴射、エアゾール噴射等、通常用いられる任意の方法により行うことができる。
【0025】
本発明の表面改質剤組成物の用途は、特に限定されないが、例えば撥水撥油剤、防錆剤、防汚剤、耐水化剤、剥離剤、離型剤、オイルバリア剤、フラックス這い上がり防止剤等として用いることができる。
【0026】
本発明の一般式(1)に示される含フッ素化合物は、一般式(2)で示される含フッ素化合物と、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸クロリド及び(メタ)アクリル酸無水物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物とを反応させる工程を含む製造方法により製造することができる。
具体的には、以下の製造方法1~製造方法3により製造できる。
【0027】
製造方法1
本発明の一般式(1)に示される含フッ素化合物の製造方法において、一般式(3)で示される含フッ素化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させる場合は、酸触媒を用いることが好ましい。酸触媒は特に限定されないが、塩酸、硫酸等の無機酸、酢酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸等が挙げられる。
製造方法1において、反応に用いられる(メタ)アクリル酸の量は、反応に具する含フッ素化合物に対して、好ましくは1当量~10当量、さらに好ましくは1当量~5当量、特に好ましくは1当量~3当量である。
製造方法1において、反応に用いられる酸触媒の量は、反応に具する含フッ素化合物に対して、好ましくは0.1モル%~50モル%、さらに好ましくは0.5モル%~40モル%、特に好ましくは1モル%~30モル%である。
製造方法1において、反応系中に重合禁止剤を共存させてもよい。重合禁止剤は特に限定されないが、ヒドロキノン、p-メトキシフェノール等が挙げられる。
製造方法1において、溶媒として有機溶媒を用いてもよい。有機溶媒は反応に不活性なものであれば特に限定はされないが、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
製造方法1において、反応温度は室温~160℃の範囲が好ましく、50℃~150℃の範囲がさらに好ましく、80℃~120℃の範囲が特に好ましい。
製造方法1において、反応時間は1時間~48時間の範囲が好ましく、1時間~24時間の範囲がさらに好ましく、1時間~12時間の範囲が特に好ましい。
【0028】
製造方法2
本発明の一般式(1)に示される含フッ素化合物の製造方法において、一般式(3)で示される含フッ素化合物と(メタ)アクリル酸クロリドとを反応させる場合は、塩基を共存させることが好ましい。塩基は特に限定されないが、トリエチルアミン、ジエチルアミン等の含窒素脂肪族化合物、ピリジン、ピリミジン等の含窒素芳香族複素環化合物等が例示でき、無機塩基であれば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩又は炭酸水素塩等が挙げられる。
製造方法2において、反応に用いられる(メタ)アクリル酸クロリドの量は、反応に具する含フッ素化合物に対して、好ましくは0.5当量~5当量、さらに好ましくは0.8当量~4当量、特に好ましくは1当量~3当量である。
製造方法2において、反応に用いられる塩基の量は、反応に具する含フッ素化合物に対して、好ましくは0.5当量~5当量、さらに好ましくは0.8当量~4当量、特に好ましくは1当量~3当量である。
製造方法2において、反応系中に重合禁止剤を共存させてもよい。重合禁止剤は特に限定されないが、ヒドロキノン、p-メトキシフェノール等が挙げられる。
製造方法2において、溶媒として有機溶媒を用いてもよい。有機溶媒は反応に不活性なものであれば特に限定はされないが、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の極性非プロトン性溶媒等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
製造方法2において、反応温度は-20℃~100℃の範囲が好ましく、-10℃~60℃の範囲がさらに好ましく、0℃~40℃の範囲が特に好ましい。
製造方法2において、反応時間は30分~48時間の範囲が好ましく、1時間~24時間の範囲がさらに好ましく、1時間~12時間の範囲が特に好ましい。
【0029】
製造方法3
本発明の一般式(1)に示される含フッ素化合物の製造方法において、一般式(3)で示される含フッ素化合物と(メタ)アクリル酸無水物とを反応させる場合は、塩基を共存させることが好ましい。塩基は特に限定されないが、トリエチルアミン、ジエチルアミン等の含窒素脂肪族化合物、ピリジン、ピリミジン等の含窒素芳香族複素環化合物等が例示でき、無機塩基であれば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩又は炭酸水素塩等が挙げられる。
製造方法3において、反応に用いられる(メタ)アクリル酸無水物の量は、反応に具する含フッ素化合物に対して、好ましくは0.5当量~5当量、さらに好ましくは0.8当量~4当量、特に好ましくは1当量~3当量である。
製造方法3において、反応に用いられる塩基の量は、反応に具する含フッ素化合物に対して、好ましくは0.5当量~5当量、さらに好ましくは0.8当量~4当量、特に好ましくは1当量~3当量である。
製造方法3において、反応系中に重合禁止剤を共存させてもよい。重合禁止剤は特に限定されないが、ヒドロキノン、p-メトキシフェノール等が挙げられる。
製造方法3において、溶媒として有機溶媒を用いてもよい。有機溶媒は反応に不活性なものであれば特に限定はされないが、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の極性非プロトン性溶媒等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
製造方法3において、反応温度は-20℃~100℃の範囲が好ましく、-10℃~60℃の範囲がさらに好ましく、0℃~40℃の範囲が特に好ましい。
製造方法3において、反応時間は30分~48時間の範囲が好ましく、1時間~24時間の範囲がさらに好ましく、1時間~12時間の範囲が特に好ましい。
【0030】
本発明の一般式(1)に示される含フッ素化合物の製造において、精製の操作としては、例えば、中和、水洗、溶媒抽出、乾燥、ろ過、濃縮、蒸留、再結晶、シリカゲルろ過、カラムクロマトグラフィー等、公知の方法により目的物を得ることができる。
【0031】
本発明の一般式(3)で示される含フッ素化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば下記一般式(4)で示されるアルコールを下記一般式(5)で示される化合物と反応させて下記一般式(6)で示される化合物を得た後、下記一般式(6)で示される化合物を脱保護することにより製造できる。
Rf-X-OH (4)
(式(4)中、Rfは炭素数1~6のパーフルオロアルキル基であり、Xはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~8の直鎖のアルキレン基である)
【化4】
(式(5)中、Pはアセタール系保護基である。)
【化5】
(式(6)中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基であり、X、X及びXは、それぞれ独立して、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~8の直鎖のアルキレン基であり、Pはアセタール系保護基である。)
【0032】
本発明の一般式(5)に示される化合物において、Pはアセタール系保護基である。その中でも、テトラヒドロピラニル基またはエトキシエチル基が好ましい。
【0033】
本発明の一般式(4)に示されるアルコールについては、Rfは直鎖又は分岐の炭素数1~6のパーフルオロアルキル基である。中でも、直鎖の炭素数1~6のパーフルオロアルキル基が好ましく、直鎖の炭素数1~4のパーフルオロアルキル基がさらに好ましく、炭素数1~2のパーフルオロアルキル基が特に好ましい。
【0034】
一般式(4)において、Xはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~8の直鎖のアルキレン基であり、好ましい構造としては、-CH-、-CHCH-、-CHCHCH-、-CH-O-CHCH-、-CHCH-O-CHCH-、-CHCHCH-O-CHCH-等が挙げられる。中でも、炭素数1~3のアルキレン基である-CH-、-CHCH-または-CHCHCH-が好ましい。
【0035】
本発明の一般式(5)に示される化合物は、ペンタエリトリトールトリブロミドを公知の方法でアセタール保護することにより得られる。例えば、p-トルエンスルホン酸ピリジニウム等の酸触媒の存在下、ペンタエリトリトールトリブロミドをジヒドロピランまたはエチルビニルエーテルと反応させる方法を用いることができる。
【0036】
本発明の一般式(5)に示される化合物の精製方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、中和、溶媒抽出、乾燥、ろ過、濃縮、再結晶、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等を用いることができる。
【0037】
本発明において、一般式(4)で示されるアルコールを、式(5)で示される化合物と反応させて式(6)で示される化合物を得る方法は特に限定されるものではなく、例えば、溶媒中で塩基の存在下、式(4)で示されるアルコールと式(5)で示される化合物を反応させる方法(ウィリアムソン合成)を用いることができる。
【0038】
本発明において、一般式(6)で示される化合物を得る反応に適用可能な溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルム等の(ハロゲン化)炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の極性非プロトン性溶媒、水など、反応に不活性な溶媒であればあらゆるものが使用できる。これらの溶媒は単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0039】
本発明において、一般式(6)で示される化合物を得る反応に適用可能な塩基は、特に限定されないが、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等の無機塩基、カリウムtert-ブトキシド等の金属アルコキシド等を用いることができる。
式(6)に示される化合物の精製方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、中和、溶媒抽出、乾燥、ろ過、濃縮、再結晶、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等を用いることができる。
【0040】
本発明において、一般式(5)で示される化合物を脱保護して式(2)で示される含フッ素化合物を得る方法は特に限定されるものではなく、例えば、溶媒中で酸触媒の存在下、脱保護する方法を用いることができる。
【0041】
本発明において、一般式(3)で示される化合物を得る脱保護に適用可能な溶媒は、特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、水等を用いることができる。
【0042】
本発明において、一般式(3)で示される化合物を得る脱保護に適用可能な酸触媒は、特に限定されないが、塩酸、硫酸等の無機酸、p-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸ピリジニウム等の有機酸などを用いることができる。
【0043】
本発明において、一般式(3)で示される化合物の精製方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、中和、溶媒抽出、乾燥、ろ過、濃縮、再結晶、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等を用いることができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明の一般式(1)で示される含フッ素化合物から製造される含フッ素重合体を含んでなる表面改質剤組成物を用いることにより、動的撥水性に優れた表面改質剤を提供できる。
【実施例
【0045】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0046】
なお、分析に当たっては下記機器を使用した。
<NMR>
H-NMR,19F-NMR:ブルカー製AVANCE II 400
<ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)>
装置:東ソー製HLC-8320GPC
カラム:TSKgel G4000H/G3000H/G2500H/G2000H
溶離液:テトラヒドロフラン
流量:1mL/min
【0047】
<接触角の測定>
測定対象試料(以降に示す重合体)について、純水及びジヨードメタンの静的接触角、並びに拡張/収縮法による純水の動的接触角を測定した。
具体的に、測定対象試料である重合体の所定量を、酢酸エチルまたはエチルノナフルオロブチルエーテル(HFE-7200)に溶解させた後、孔径0.45μmのシリンジフィルターでろ過し、て所定濃度の重合体溶液を調製した。この重合体溶液を直径2インチのシリコンウェハー上にスピンコーティングにより製膜した。
スピンコーティングには、アクティブ製マニュアル・スピンコーターACT-300AIIを用い、接触角測定には、協和界面科学製接触角計DMs-401を用いた。
【0048】
ここで、静的接触角について、ぬれ性の数値化などの測定のために測定する。液滴を固体表面に接触させて着滴したとき,試料面とのなす角度を接触角θとする。本発明では、解析はθ/2法を使用した。静的接触角が大きい方が撥水撥油性に優れる。
また動的接触角について、液除去性の数値化などのために測定する。ぬれ拡がるとき(拡張)の接触角を(動的)前進角、収縮するときの接触角を(動的)後退角とする。 本発明では、拡張/収縮法を使用し、解析は真円フィッティング法を使用した。動的接触角測定で得られる前進接触角と後退接触角の差である接触角ヒステリシスが小さい方が動的撥水性に優れる。
【0049】
参考例1
ペンタエリトリトールトリブロミドのTHP保護体(1)の合成
【化6】
窒素雰囲気下、1Lの四つ口フラスコにトルエン300g(富士フイルム和光純薬製)、ペンタエリトリトールトリブロミド(a)100.00g(東京化成工業製、307.8mmol)、p-トルエンスルホン酸ピリジニウム塩(上記反応式中、「PPTS」と表示)3.86g(富士フイルム和光純薬製、15.4mmol)、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン(a)77.69g(富士フイルム和光純薬製、923.5mmol)を仕込み、室温下で8時間反応した。反応液を10%炭酸ナトリウム水溶液400g中に滴下し、水層を除去した後、有機層を純水200gで2回洗浄した。有機層を減圧濃縮し、化合物(1)122.00gを無色油状物として取得した。収率は96.9%(モル換算、以下同じ)であった。
【0050】
分析結果は以下の通りであった。
H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):4.60(t,J=2.8Hz,1H,CH),3.83(m,1H,CH),3.78(d,1H,CH),3.50(d,6H,CH),3.47(m,1H,CH)3.35(d,1H,CH)1.73-1.45(m,6H,CH)
GC-MS:計算値[C1017Br+H]:407、実測値:407
【0051】
参考例2
ペンタエリトリトールトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテルのTHP保護体(2)の合成
【化7】
窒素雰囲気下、2Lの四つ口フラスコにジメチルスルホキシド740g(超脱水(試薬グレード)、富士フイルム和光純薬製)、水素化ナトリウム63.55g(油性(試薬グレード)、富士フイルム和光純薬製、1.589mol)を仕込み、20℃の水浴で冷却しながら、滴下ロートを用いて2,2,2-トリフルオロエタノール(a)146.77g(東ソー・ファインケム製、1.467mmol)を30分かけて滴下した。反応液を60℃に加熱し、別途調製した化合物(1)100.00g(244.52mmol)とジメチルスルホキシド100gの混合液を、上記反応液に15分かけて滴下した。60℃で18時間反応した後、5%塩酸500gを加え、ジイソプロピルエーテル500g(富士フイルム和光純薬製)で抽出した。有機層を純水500gで2回洗浄し、水層を廃棄した後、減圧濃縮して化合物(2)109.86gを単黄色油状物として取得した。収率は96.3%であった。
【0052】
分析結果は以下の通りであった。
H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):4.56(t,J=2.8Hz,1H,CH),3.82(m,1H,CH),3.80(q,J=8.8Hz,6H,CH),3.63(d,6H,CH),3.51(m,1H,CH),3.33(d,1H,CH)1.85-1.45(m,6H,CH)
19F-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:ベンゾトリフルオリド) δ(ppm):-74.85(t,J=8.0Hz,9F,CF
GC-MS:計算値[C1623-H]:465、実測値:465
【0053】
参考例3
ペンタエリトリトールトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル(3)の合成
【化8】
1Lの四つ口フラスコにメタノール300g(富士フイルム和光純薬製)、化合物(2)100.00g(214.44mmol)、p-トルエンスルホン酸一水和物(上記反応式中、「p-TsOH」と表示)6.80g(富士フイルム和光純薬製、21.4mmol)を仕込み、室温下で3時間反応した。反応液を10%炭酸水素ナトリウム水溶液300g中に滴下し、ジイソプロピルエーテル300gで抽出した後、有機層を純水300gで2回洗浄した。有機層を減圧濃縮し、精密蒸留により1.0kPaで105~110℃の留分の化合物(3)46.88gを無色油状物として取得した。収率は57.2%であった。
【0054】
分析結果は以下の通りであった。
H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):3.79(q,J=8.8Hz,6H,CH),3.69(s,2H,CH OH),3.63(s,6H,CH),2.06(s,1H,OH)
19F-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:ベンゾトリフルオリド) δ(ppm):-74.87(t,J=8.0Hz,9F,CF
GC-MS:計算値[C1115+H]:383、実測値:383
【0055】
実施例1
メタクリル酸ペンタエリトリトールトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(1)の合成
【化9】
200mLの三つ口フラスコにジイソプロピルエーテル(上記反応式中、「IPE」と表示)30g(富士フイルム和光純薬製)、化合物(a)10.00g(26.16mmol)、トリエチルアミン(上記反応式中、「EtN」と表示)3.18g(富士フイルム和光純薬製、31.4mmol)を仕込み、0℃に冷却した。メタクリル酸クロリド(上記反応式中、「MACl」と表示)4.10g(東京化成工業製、31.4mmol)を10分かけて滴下した後、室温下で16時間反応した。反応液を10%炭酸ナトリウム水溶液50g中に滴下し、ジイソプロピルエーテル50gで2回抽出した後、有機層を10%塩化アンモニウム水溶液50gで洗浄した。有機層を減圧濃縮し、ヘキサンを展開溶媒とするシリカゲルろ過により不純物を溶出させた後、ヘキサン/酢酸エチル=9/1(v/v)で目的物を溶出させ、減圧濃縮することにより化合物(1)7.96g(17.7mmol)を無色油状物として取得した。収率は67.6%(モル換算、以下同じ)であった。
【0056】
分析結果は以下の通りであった。
H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):6.14(m,1H,CH),5.62(m,1H,CH)4.26(s,2H,CH OCO),3.84(q,J=4.0Hz,6H,CH CF),3.70(s,6H,CH OCH),1.99(m,3H,CH
19F-NMR (溶媒:重水、内部標準:ベンゾトリフルオリド) δ(ppm):-74.82(t,J=8.0Hz,9F,CF
【0057】
実施例2
アクリル酸ペンタエリトリトールトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(2)の合成
【化10】
100mLの三つ口フラスコにジイソプロピルエーテル(上記反応式中、「IPE」と表示)20g(富士フイルム和光純薬製)、化合物(a)5.00g(13.1mmol)、トリエチルアミン(上記反応式中、「EtN」と表示)1.59g(富士フイルム和光純薬製、15.7mmol)を仕込み、0℃に冷却した。アクリル酸クロリド(上記反応式中、「ACl」と表示)1.42g(東京化成工業製、15.7mmol)を10分かけて滴下した後、室温下で16時間反応した。反応液を10%炭酸ナトリウム水溶液20g中に滴下し、ジイソプロピルエーテル20gで2回抽出した後、有機層を10%塩化アンモニウム水溶液30gで洗浄した。有機層を減圧濃縮し、ヘキサン/酢酸エチル=9/1(v/v)を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより化合物(2)2.33g(5.34mmol)を無色油状物として取得した。収率は41.3%であった。
【0058】
分析結果は以下の通りであった。
H-NMR (溶媒:重クロロホルム、内部標準:テトラメチルシラン) δ(ppm):6.14(m,1H,CH),6.16(m,1H,CH),5.88(m,1H,CH)4.28(s,2H,CH OCO),3.83(q,J=4.0Hz,6H,CH CF),3.69(s,6H,CH OCH
19F-NMR (溶媒:重水、内部標準:ベンゾトリフルオリド) δ(ppm):-74.43(t,J=8.0Hz,9F,CF
【0059】
実施例3
メタクリル酸ペンタエリトリトールトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(1)の合成
【化11】
ディーン・スターク装置を備えた50mLの三つ口フラスコにトルエン20g(富士フイルム和光純薬製)、化合物(a)10.00g(26.16mmol)、メタクリル酸(上記反応式中、「MAA」と表示)3.38g(富士フイルム和光純薬製、39.24mmol)、及びヒドロキノン20mg(富士フイルム和光純薬製)を仕込み、110℃の加熱還流下で4時間反応した。反応液を室温まで冷却した後、10%炭酸ナトリウム水溶液50g中に滴下し、ジイソプロピルエーテル20gで2回抽出した。有機層を減圧濃縮し、ヘキサンを展開溶媒とするシリカゲルろ過により不純物を溶出させた後、ヘキサン/酢酸エチル=9/1で目的物を溶出させ、減圧濃縮することにより化合物(1)10.09g(22.4mmol)を無色油状物として取得した。収率は85.6%であった。
【0060】
実施例4
重合体1の合成
10mlの試験管中に化合物(1)1.00g(2.22mmol)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)3.8mg(富士フイルム和光純薬製、0.023mmol)及び2-ブタノン2.00g(富士フイルム和光純薬製)を仕込み、窒素置換した後、70℃で12時間攪拌した。反応液をヘキサン20g(富士フイルム和光純薬製)に滴下してポリマーを沈殿させ、上澄み液をデカンテーションした後、真空乾燥して、0.78gの重合体1を白色固体として得た。収率は78%(重量換算、以下同じ)であった。得られた目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される数平均分子量Mnは20,000、分散度Mw/Mnは1.9であった。
【0061】
実施例5
重合体2の合成
10mlの試験管中に化合物(2)1.00g(2.29mmol)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)3.8mg(富士フイルム和光純薬製、0.023mmol)及び2-ブタノン2.00gを仕込み、窒素置換した後、70℃で12時間攪拌した。反応液をヘキサン20gに滴下してポリマーを沈殿させ、上澄み液をデカンテーションした後、真空乾燥して、0.90gの重合体2を無色粘稠物として得た。収率は90%であった。得られた重合体2のGPCによるポリスチレン換算で測定される数平均分子量Mnは5,200、分散度Mw/Mnは1.3であった。
【0062】
比較例1
重合体3の合成
10mlの試験管中にメタクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル1.00g(東ソー・ファインケム製、5.95mmol)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)9.8mg(富士フイルム和光純薬製、0.06mmol)及び2-ブタノン2.00g(富士フイルム和光純薬製)を仕込み、窒素置換した後、70℃で12時間攪拌した。反応液をヘキサン20g(富士フイルム和光純薬製)に滴下してポリマーを沈殿させ、上澄み液をデカンテーションした後、真空乾燥して、0.94gの重合体3を白色固体として得た。収率は94%であった。得られた目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される数平均分子量Mnは10,000、分散度Mw/Mnは1.9であった。
【0063】
比較例2
重合体4の合成
10mlの試験管中にアクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル1.00g(東京化成工業製、6.49mmol)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)11mg(富士フイルム和光純薬製、0.065mmol)及び2-ブタノン2.00g(富士フイルム和光純薬製)を仕込み、窒素置換した後、70℃で12時間攪拌した。反応液をヘキサン20g(富士フイルム和光純薬製)に滴下してポリマーを沈殿させ、上澄み液をデカンテーションした後、真空乾燥して、0.91gの重合体4を無色粘稠物として得た。収率は91%であった。得られた目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される数平均分子量Mnは18,000、分散度Mw/Mnは2.3であった。
【0064】
実施例6
実施例4で得られた重合体1の20mgを、酢酸エチル1.98gに溶解させた後、孔径0.45μmのシリンジフィルターでろ過し、て1.0重量%の重合体溶液を調製した。この重合体溶液を直径2インチのシリコンウェハー上にスピンコーティング(slope5秒間、次いで2,000rpm10秒間、さらにslope5秒間)により製膜した。得られた薄膜について、前記した方法により、純水及びジヨードメタンの静的接触角(液滴量2μL)、並びに拡張/収縮法による純水の動的接触角を測定した。
【0065】
比較例3
実施例6において、重合体1に替えて重合体3を用いて、同様の測定を行った。
【0066】
実施例7
実施例6において、重合体1に替えて重合体2を用いて、同様の測定を行った。
【0067】
比較例4
実施例6において、重合体1に替えて重合体4を用いて、同様の測定を行った。
【0068】
以上、得られた結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1の結果から、含フッ素メタクリレート重合体である重合体1と重合体3を比較した場合、本発明の側鎖に分岐構造を有する含フッ素メタクリレート重合体は接触角ヒステリシスが小さく、動的撥水性に優れることがわかる。また、含フッ素アクリレート重合体である重合体2と重合体4を比較した場合、本発明の側鎖に分岐構造を有する含フッ素アクリレート重合体は接触角ヒステリシスが小さく、動的撥水性に優れることがわかる。
すなわち、本発明の含フッ素化合物を重合させて得られる含フッ素重合体を含んでなる表面改質剤が、従来の含フッ素化合物から製造される含フッ素重合体を含んでなる表面改質剤と比較して、動的撥水性(水滴除去性)に優れていることが分かる。
【0071】
実施例8
重合体5の合成
10mlの試験管中にメタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-n-オクチル0.80g(東京化成工業製、1.85mmol)、化合物(1)0.20g(0.44mmol)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)6.2mg(富士フイルム和光純薬製、0.038mmol)及び2-ブタノン2.00g(富士フイルム和光純薬製)を仕込み、窒素置換した後、70℃で12時間攪拌した。反応液をヘキサン20g(富士フイルム和光純薬製)に滴下してポリマーを沈殿させ、上澄み液をデカンテーションした後、真空乾燥して、0.79gの重合体5を無色固体として得た。収率は79%であった。得られた目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される数平均分子量Mnは25,000、分散度Mw/Mnは1.9であった。
【0072】
実施例9
重合体6の合成
実施例8において、メタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-n-オクチル及び化合物(1)の使用量を、それぞれ0.50g、0.50gとした以外、同様の操作で0.92gの重合体6を無色固体として得た。収率は92%であった。得られた目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される数平均分子量Mnは31,000、分散度Mw/Mnは2.0であった。
【0073】
実施例10
重合体7の合成
実施例8において、メタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-n-オクチル及び化合物(1)の使用量を、それぞれ0.20g、0.80gとした以外、同様の操作で0.90gの重合体7を無色固体として得た。収率は90%であった。得られた目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される数平均分子量Mnは50,000、分散度Mw/Mnは2.0であった。
【0074】
比較例5
実施例4において、化合物(1)に替えてメタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-n-オクチル(東京化成工業製)5.00gを用いた以外、同様の操作で3.50gの重合体8を無色固体として得た。収率は70%であった。得られた目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される数平均分子量Mnは6,400、分散度Mw/Mnは1.5であった。
【0075】
実施例8~実施例10
実施例6において、重合体1に替えて重合体5~重合体7を用い、酢酸エチルに替えてエチルノナフルオロブチルエーテル(HFE-7200、東京化成工業製)を用いて、同様の測定を行った。
【0076】
比較例5
実施例8において、重合体5に替えて重合体8を用いて、同様の測定を行った。
【0077】
以上、得られた結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
表2の結果から、本発明の含フッ素化合物を共重合させて得られる含フッ素重合体を含んでなる表面改質剤が、従来の含フッ素化合物を単独重合させて得られる含フッ素重合体を含んでなる表面改質剤と比較して、接触角ヒステリシスが小さく、動的撥水性に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の含フッ素化合物から製造される含フッ素重合体を含んでなる組成物を用いることにより、優れた動的撥水性を示す表面改質剤が提供でき、産業上有用である。