(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】複合梁
(51)【国際特許分類】
E04C 3/29 20060101AFI20240613BHJP
E04B 1/30 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
E04C3/29
E04B1/30 C
(21)【出願番号】P 2020118196
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 洋三
(72)【発明者】
【氏名】森田 仁彦
(72)【発明者】
【氏名】小室 努
(72)【発明者】
【氏名】高橋 章夫
(72)【発明者】
【氏名】小山 智子
(72)【発明者】
【氏名】相馬 智明
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-227807(JP,A)
【文献】特開昭53-016422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 3/00 - 3/46
E04B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材と鉄筋コンクリートで構成されて軸方向に延びる複合梁であって、
梁主筋とせん断補強筋とが埋設され、前記軸方向と直交する縦断面がT形状または矩形状をなす鉄筋コンクリート部と、
前記鉄筋コンクリート部の少なくとも両側側面に設けられる木質部と、
前記鉄筋コンクリート部と前記木質部とに跨がって埋設されてこれらを接合し、前記鉄筋コンクリート部に作用する応力を前記木質部に分担せしめる鋼製の応力分担手段と、を備え、
前記鉄筋コンクリート部の少なくとも下端面は露出し
、
前記木質部の下端面は、前記鉄筋コンクリート部の下端面よりも下方に突出していることを特徴とする複合梁。
【請求項2】
木質材と鉄筋コンクリートで構成されて軸方向に延びる複合梁であって、
梁主筋とせん断補強筋とが埋設され、前記軸方向と直交する縦断面がT形状または矩形状をなす鉄筋コンクリート部と、
前記鉄筋コンクリート部の少なくとも両側側面に設けられる木質部と、
前記鉄筋コンクリート部と前記木質部とに跨がって埋設されてこれらを接合し、前記鉄筋コンクリート部に作用する応力を前記木質部に分担せしめる鋼製の応力分担手段と、を備え、
前記木質部は、前記鉄筋コンクリート部を挟むように、前記両側側面に設けられる側面木質材と、前記鉄筋コンクリート部の下面に、前記側面木質材と非接合状態で設置される下面木質材と、を備えることを特徴とする複合梁。
【請求項3】
前記鉄筋コンクリート部には、前記軸方向に間隔をおいて、幅方向の外側に突出するように、コッターが設けられ、前記木質部には、前記コッターに対応して、前記コッターを収容して前記コッターに係合するように形成された、コッター収容凹部が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の複合梁。
【請求項4】
前記鉄筋コンクリート部は、ウエブ部と、前記ウエブ部の上に形成されたフランジ部と、を有して、前記縦断面がT形状をなし、前記フランジ部は、スラブの少なくとも一部を形成し、
前記木質部は、幅方向において前記ウエブ部の両側に配置され、
前記木質部の上端面は、前記フランジ部の下面に当接して設けられ、前記幅方向の外側において、下方に切りかかれて段部が形成されることで、前記木質部と前記フランジ部の前記下面との間に、上下方向に隙間が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の複合梁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質材と鉄筋コンクリートで構成される複合梁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築構造物の躯体として、鉄骨材や鉄筋コンクリートと、木質材を組み合わせたハイブリッド構造材が用いられている。
例えば、特許文献1には、金属からなる剛性のある強化材と木質材とを挟んで積層化してなる複合梁材の構成が開示されている。この構成において、強化材と木質材は接着剤で固着されている。
特許文献1に開示されたようなハイブリッド構造材では、強化材と木質材との間で、強化材と木質材との接合面に沿った方向の応力は、接着剤による固着力のみによって伝達される。このため、強化材と木質材との間で大きな応力が作用すると、接着剤により固着部分が剥離してしまうことがある。このような構成は、強化材と木質材との積層方向の荷重を主に支持する使用形態には適してはいるが、強化材と木質材との接合面に沿った方向の荷重や応力を担う使用形態には適さない。このため、特許文献1に開示された構成は、例えば梁として使用することは難しい。
【0003】
これに対し、特許文献2には、中心鋼材と、中心鋼材に沿うように設けられた木質部材と、中心鋼材と木質部材とを接合する接合部材と、を備えるハイブリッド構造材が開示されている。このハイブリッド構造材において、接合部材は、中心鋼材の長軸方向に延び、一端部が木質部材に定着され、他端部が受圧部に定着されている。
特許文献2に開示されたようなハイブリッド構造材では、中心鋼材と木質部材との間で、荷重や応力が伝達されるので、中心鋼材と木質部材が其々荷重や応力が負担している。しかしながら、このような構成では、中心鋼材の側面と木質鋼材との接合面では、荷重や応力の伝達がなされない。このため、梁の曲げ剛性及び曲げ耐力を向上させることのできる技術の提供が望まれる。
【0004】
また、特許文献3には、木材で構成される複数の被覆体層と、被覆体層の間に充填されたセメント系組成物で構成される構造体層を備え、被覆体層における構造体層との対向側側面に凹部または開孔を設け、凹部または開孔にセメント系組成物を充填してシアキーを形成する積層部材の構成が開示されている。
特許文献3に開示された積層部材では、被覆体層の凹部または開口内に形成されるシアキーを介して、構造体層と被覆体層との間で、構造体層と被覆体層との接合面に沿った方向の荷重や応力が伝達される。しかしながら、シアキーはセメント系組成物からなり、しかも構造体層の表面から突出する突起状に形成されるため、大きな荷重や応力が作用した場合に、破断してしまう可能性がある。このため、梁の曲げ剛性及び曲げ耐力を、より有効に向上させることのできる技術の提供が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-226715号公報
【文献】特開2017-179838号公報
【文献】特開2019-52451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、曲げ剛性及び曲げ耐力に優れた、木質材と鉄筋コンクリートで構成される複合梁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、長スパン化が可能な複合梁構造として、鉄筋コンクリート部と、その両側表面に木質部を設けて、双方を鋼製の応力分担手段で連結させて複合梁を形成することで、鉄筋コンクリート部が木質部で補剛されるために、鉄筋コンクリート梁単体に比べて、曲げ剛性および曲げ耐力に優れた木質系の複合梁が実現できる点に着目して、本発明に至った。なお、鉄筋コンクリート部は、コンクリートに鉄筋のみが埋設された従来の鉄筋コンクリート造、繊維補強コンクリート造、及びPC鋼材を介してコンクリートに圧縮応力を与えることで補強されたプレストレストコンクリート造で形成する。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の複合梁は、木質材と鉄筋コンクリートで構成されて軸方向に延びる複合梁であって、梁主筋とせん断補強筋とが埋設され、前記軸方向と直交する縦断面がT形状または矩形状をなす鉄筋コンクリート部と、前記鉄筋コンクリート部の少なくとも両側側面に設けられる木質部と、前記鉄筋コンクリート部と前記木質部とに跨がって埋設されてこれらを接合し、前記鉄筋コンクリート部に作用する応力を前記木質部に分担せしめる鋼製の応力分担手段と、を備え、前記鉄筋コンクリート部の少なくとも下端面は、露出していることを特徴とする。
このような構成によれば、鉄筋コンクリート部と木質部とに跨がるように、鋼製の応力分担手段が埋設されている。これにより、応力分担手段を介し、鉄筋コンクリート部と木質部との接合部に沿った方向において、鉄筋コンクリート部に作用する応力が木質部に有効に伝達される。したがって、鉄筋コンクリート部に作用する応力が、鉄筋コンクリート部だけでなく両側の木質部によっても分担して負担される。その結果、曲げ剛性及び曲げ耐力に優れた、木質材と鉄筋コンクリートで構成される複合梁を提供することが可能となる。
この複合梁では、梁断面の中央部に剛性と強度に優れた鉄筋コンクリート部を設け、当該鉄筋コンクリート部の両側側面に木質部を補剛材として設けることで、木質材単体では実現することが困難であった、長スパン化が可能となる。さらに、複合梁の幅方向の両側が、木質部によって形成されるため、木質系の材料ならではの、温かみのある外観を呈することができる。つまり、このような複合梁により、鉄筋コンクリート部が両側の木質部によって補剛かつ補強された、木質系の複合構造部材を構成することができる。
また、複合梁は、鉄筋コンクリート部と木質部が鋼製の応力分担手段で接合されて一体化されることで、木質部が鉄筋コンクリート部の補剛材となり、鉄筋コンクリート部に生じるむくり、または撓みを低減することができる。更に、複合梁では、鉄筋コンクリート部の下端面は木質部で覆われていなく、下端面が露出していることで、複合梁がたわむ際には、複合梁の断面中央側に設けた鉄筋コンクリート部は木質部の影響を受けることなく下方側に向けて変形できる。よって、複合梁は、鉄筋コンクリート部の両側側面のみ木質部を設ければよく、デザイン性の高い複合梁の形態が実現可能となる。
【0008】
また、本発明は、木質材と鉄筋コンクリートで構成されて軸方向に延びる複合梁であって、梁主筋とせん断補強筋とが埋設され、前記軸方向と直交する縦断面がT形状または矩形状をなす鉄筋コンクリート部と、前記鉄筋コンクリート部の少なくとも両側側面に設けられる木質部と、前記鉄筋コンクリート部と前記木質部とに跨がって埋設されてこれらを接合し、前記鉄筋コンクリート部に作用する応力を前記木質部に分担せしめる鋼製の応力分担手段と、を備え、前記木質部は、前記鉄筋コンクリート部を挟むように、前記両側側面に設けられる側面木質材と、前記鉄筋コンクリート部の下面に、前記側面木質材と非接合状態で設置される下面木質材と、を備えることを特徴とする複合梁を提供する。
このような構成によれば、鉄筋コンクリート部と木質部とに跨がるように、鋼製の応力分担手段が埋設されている。これにより、応力分担手段を介し、鉄筋コンクリート部と木質部との接合部に沿った方向において、鉄筋コンクリート部に作用する応力が木質部に有効に伝達される。したがって、鉄筋コンクリート部に作用する応力が、鉄筋コンクリート部だけでなく木質部によっても分担して負担される。その結果、曲げ剛性及び曲げ耐力に優れた、木質材と鉄筋コンクリートで構成される複合梁を提供することが可能となる。
この複合梁では、梁断面の中央部に剛性と強度に優れた鉄筋コンクリート部を設け、木質部を補剛材として設けることで、木質材単体では実現することが困難であった、長スパン化が可能となる。さらに、複合梁が木質部によって形成されるため、木質系の材料ならではの、温かみのある外観を呈することができる。つまり、このような複合梁により、鉄筋コンクリート部が木質部によって補剛かつ補強された、木質系の複合構造部材を構成することができる。
また、複合梁が、鉄筋コンクリート部と、当該鉄筋コンクリート部の両側側面に設ける側面木質材に加え、側面木質材と非接合状態で設置される下面木質材を備えることで、複合梁が大変形状態に至った際には、下面木質材の変形が側面木質材で拘束されることなく、鉄筋コンクリート部と下面木質材が一体として抵抗可能となる。また、複合梁では、側面木質材と下面木質材が非接合状態で設置されるために、双方の接合部分に損傷、破壊を抑制可能であり、優れた変形性能を確保することができる。
【0009】
本発明の別の態様においては、前記鉄筋コンクリート部は、プレストレストコンクリート構造であり、前記梁主筋の少なくとも一部に緊張力が導入されている。
このような構成によれば、鉄筋コンクリート部の一部に緊張力を導入してプレストレストコンクリート構造とすることで、鉄筋コンクリート部を現場打ちのコンクリートによる鉄筋コンクリート構造とする場合に比較して、曲げ剛性及び曲げ耐力を高めることができる。これにより、長スパン化が可能な複合梁を実現することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、曲げ剛性及び曲げ耐力に優れた、木質材と鉄筋コンクリートで構成される複合梁を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る複合梁を備えた構造物の一例を示す平面図である。
【
図3】
図2に示した複合梁のI-I矢視断面図である。
【
図4】
図2に示した複合梁のII-II矢視断面図である。
【
図5】
図2に示した複合梁のIII-III矢視断面図である。
【
図6】複合梁の施工方法の過程を示す図であり、梁主筋及びせん断補強筋を配筋し、型枠を組み立てた状態を示す断面図である。
【
図7】複合梁の施工方法の過程を示す図であり、鉄筋コンクリート部の梁形成部にコンクリートを打設した状態を示す断面図である。
【
図8】本発明の実施形態の第1変形例に係る複合梁を示す断面図である。
【
図9】第1変形例の複合梁の施工方法の過程を示す図であり、梁主筋及びせん断補強筋を配筋し、型枠を組み立てた状態を示す断面図である。
【
図10】本発明の実施形態の第2変形例に係る複合梁を示す断面図である。
【
図11】本発明の複合梁を模擬した複合梁試験体の設置状況と、その曲げ試験装置の概略構成を示す図である。
【
図12】複合梁試験体の曲げモーメントと中央たわみ関係の実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、梁断面の中央に鉄筋コンクリート部を設け、その両側側面、または両側側面と下端面に木質部を設けて、鉄筋コンクリート部と木質部とを鋼製の応力分担手段を介して接合させた複合梁である。
第1実施形態は、鉄筋コンクリート部の両側側面のみに木質部が設けられた複合梁であり、鉄筋コンクリート部と木質部は双方を貫通する応力分担手段(ボルト)で接合されている。第1変形例は、鉄筋コンクリート部と木質部を接合する応力分担手段のみ第1実施形態と異なる複合梁であり、応力分担手段は双方を貫通するボルトではなく、木質部を貫通して鉄筋コンクリート部の断面内に留まる構造用ビスである。第2変形例は、鉄筋コンクリート部の両側側面、及び下端面に木質部が設置されている。なお、第2変形例の特徴は、木質部を構成する鉄筋コンクリート部の両側側面に設ける側面木質材と、下端面に設ける下面木質材とは非接合状態で設置される点である。
以下、添付図面を参照して、本発明による複合梁を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
【0013】
本発明の実施形態に係る複合梁を備えた構造物の一例を示す平面図を
図1に示す。
図2は、
図1の複合梁の側面図である。
図1に示されるように、本実施形態にかかる複合梁10を備えた構造物1の躯体は、構造物1の外周部に沿って設けられた外周架構2と、外周架構2の内側に設けられた内側架構3と、を有している。
外周架構2は、構造物の1の外周部に沿って間隔をあけて配置された複数本の外周柱4(
図2参照)と、互いに隣り合う外周柱4同士の間に架設された外周梁5と、を備えている。
【0014】
内側架構3は、
図1のように複数本の柱6と、第一内側梁7と、第二内側梁8と、を主に備えている。複数本の柱6は、外周架構2の内側で、水平方向の第一方向D1に間隔をあけて配置されている。第一内側梁7は、第一方向D1に延び、複数本の柱6に支持されている。第一内側梁7は、第一方向D1の両側に位置する外周梁5A同士を連結するように設けられている。このような第一内側梁7(および第一内側梁7を支持する複数本の柱6)は、構造物1において第一方向D1に水平面内で直交する第二方向D2の中央部に、第二方向D2に間隔をあけて二組が設けられている。
第二内側梁8は、
図1のように第二方向D2に延びている。第二内側梁8は、第二方向D2の両側に位置する外周梁5Bと第一内側梁7との間(及び第二方向D2に間隔をあけて配置された二本の第一内側梁7同士の間)に架設されている。第二内側梁8は、第一方向D1に間隔をあけて複数組が設けられている。
【0015】
図3は、
図2に示した複合梁のI-I矢視断面図である。
図4は、
図2に示した複合梁のII-II矢視断面図である。
図5は、
図2に示した複合梁のIII-III矢視断面図である。
各第二内側梁8は、本実施形態にかかる複合梁10によって構成されている。
複合梁10は、木質材と鉄筋コンクリートで構成されている。複合梁10は、軸方向Daを第二方向D2に沿わせて延びるように設けられている。
図2~
図5に示すように、複合梁10は、鉄筋コンクリート部20と、木質部30と、応力分担手段40と、を有している。
【0016】
鉄筋コンクリート部20は、複合梁10に作用する荷重や応力を主として負担する主材として機能する。鉄筋コンクリート部20は、軸方向Daの両端部が、外周架構2の外周梁5(あるいは外周柱4)、又は第一内側梁7(あるいは柱6)に接合されている。
図3~
図5に示すように、鉄筋コンクリート部20は、コンクリート部21と、梁主筋24と、せん断補強筋25と、を主に備えている。
【0017】
本実施形態において、鉄筋コンクリート部20(のコンクリート部21)は、軸方向Daに直交する縦断面形状が、例えばT形状とされている。鉄筋コンクリート部20は、ウエブ部22と、フランジ部23と、を一体に有している。ウエブ部22は、軸方向Daに直交する縦断面形状が、上下方向Dvに長い矩形状(縦長の長方形状)をなしている。フランジ部23は、ウエブ部22上に形成されている。フランジ部23は、ウエブ部22の上端から、軸方向Da及び上下方向Dvに直交する幅方向Dwの両側に延びている。フランジ部23は、上階のスラブの少なくとも一部を形成する。フランジ部23は、第一方向D1で互いに隣り合う複合梁10のフランジ部23同士を互いに突き合わせて上階のスラブを形成してもよい。また、第一方向D1で互いに隣り合う複合梁10のフランジ部23同士を跨ぐように、例えば木質材料、プレキャストコンクリート材料、あるいは鋼製材料からなるスラブパネルを設置することで上階のスラブを形成してもよい。
【0018】
梁主筋24、及びせん断補強筋25は、コンクリート部21のウエブ部22に埋設されている。梁主筋24は、ウエブ部22の上部と下部に、それぞれ、幅方向Dwに間隔をあけて複数本(例えば4本ずつ)が配置されている。各梁主筋24は、軸方向Daに延びている。複数本の梁主筋24の少なくとも一部(例えば、ウエブ部22の下部に配置された梁主筋24)は、PC鋼材からなり、コンクリート部21の軸方向Daの両端部に、図示しない定着具により所定の緊張力が導入されている。これにより、本実施形態において、鉄筋コンクリート部20はプレストレストコンクリート構造とされている。
せん断補強筋25は、複数本の梁主筋24を取り囲むように設けられている。せん断補強筋25は、軸方向Daに間隔をあけて複数配置されている。
【0019】
図2、
図4に示すように、鉄筋コンクリート部20には、軸方向Daに間隔をあけた複数個所に、肉抜き(軽量化)のための孔26が形成されている。各孔26は、鉄筋コンクリート部20を、幅方向Dwに貫通して形成されている。
図4に示すように、梁主筋24は、各孔26と干渉しないよう、孔26の上方と下方とにそれぞれ配筋されている。また、せん断補強筋25は、孔26の上下の部分においては、孔26の上方に配筋された上部梁主筋24Aを取り囲むように設けられた上部せん断補強筋25Aと、孔26の下方に配筋された下部梁主筋24Bを取り囲むように設けられた下部せん断補強筋25Bと、を有している。
【0020】
本実施形態においては、木質部30は、側面木質材として実現されている。すなわち、
図3~
図5に示すように、木質部30は、鉄筋コンクリート部20のウエブ部22の幅方向Dwの両側に配置されている。
図2に示すように、本実施形態において、木質部30は、複合梁10の全長ではなく、複合梁10の軸方向Daの両端部の所定長部分を除いた部分に設けられている。
図3~
図5に示すように、各木質部30は、鉄筋コンクリート部20のウエブ部22の幅方向Dwの両側の側面22sにそれぞれ沿うように設けられている。各木質部30は、軸方向Daに直交する縦断面形状が、上下方向Dvに長い矩形状(縦長の長方形状)をなしている。
図3に示すように、各木質部30の幅方向Dwにおける厚みT2は、鉄筋コンクリート部20のウエブ部22の幅方向Dwにおける厚みT1よりも小さい。木質部30は、例えば、厚さ120mmのカラマツ集成材からなる。
各木質部30の上端面30aは、フランジ部23の下面23bに当接して設けられている。木質部30の上端面30aは、幅方向Dwの外側において、下方に切り欠かれることにより、段部30dが形成されている。これにより、各木質部30の上端の幅方向Dw外側には、木質部30とフランジ部23の下面23bとの間に、上下方向Dvに隙間Sが設けられている。また、複合梁10に接続する床スラブを構築する際に、この隙間Sに型枠を設置することで、鉄筋コンクリート造の床スラブを形成するために使用可能である。各木質部30の上端面30aとフランジ部23が当接されるために、フランジ部23から木質部30に応力が伝達される。
各木質部30の下端面30bは、上下方向Dvの下方から見て、鉄筋コンクリート部20のウエブ部22の両側に露出している。本実施形態において、各木質部30の下端面30bは、鉄筋コンクリート部20のウエブ部22の下端面22bよりも下方に突出している。
本実施形態においては、鉄筋コンクリート部20の下端面22bには、木質部は設けられておらず、したがって、鉄筋コンクリート部20の少なくとも下端面22bは、外部に露出している。
【0021】
図4に示すように、木質部30には、鉄筋コンクリート部20の各孔26と連通する位置に、貫通孔33が形成されている。
木質部30において、少なくとも鉄筋コンクリート部20に対向して接触する部分には、防水塗装等の防水膜32が形成されている。防水膜32は、後に詳述する複合梁10の施工工程において、コンクリート部21を形成するコンクリートの打設、養生時に、コンクリートに含まれる水分が木質部30に染みこむのを抑える。
【0022】
図5に示すように、応力分担手段40は、鉄筋コンクリート部20のウエブ部22の幅方向Dwの両側において、鉄筋コンクリート部20と木質部30とをそれぞれ接合する。応力分担手段40は、鉄筋コンクリート部20と木質部30とに跨がるように埋設されている。応力分担手段40は、軸方向Daに定められた間隔おきに、鉄筋コンクリート部20及び木質部30の上部側及び下部側にそれぞれ設けられている。応力分担手段40は、鋼製で、本実施形態では、ボルト41、及びナット42を有している。
図2、及び
図5に示すフランジ部23を含む複合梁10は、例えば、スパン長さが10.6mであり、鉄筋コンクリート造のフランジ部23の厚さが130mmで、鉄筋コンクリート造のウエブ部22が高さ620mm、幅が270mmで、かつウエブ部22の両側に側面木質材としての木質部30が720mm、厚さ120mmで設置される。また、応力分担手段40は、例えばM16ボルトであり、梁中央部側では梁せいの上部側と、下部側に750mm間隔で配置し、梁端部側に向かって、675、525、450mm間隔となるように密に配置されている。また、梁せいの上部側に設置される応力分担手段40と、下部側に設置される応力分担手段40との鉛直間距離は、例えば330mmである。
上記のとおり複合梁10では、下方側に撓んだ際に鉄筋コンクリート部20と木質部30との間でずれを生じさせるせん断応力は梁中央部側に比べて、梁端部側が大きいために、梁端部側に応力分担手段40を多く設置することで、鉄筋コンクリート部20と木質部30の接合強度を高めて、一体性の確保を目指した。
ボルト41は、ねじ軸部41aと、ねじ頭部41bと、を一体に有している。ねじ軸部41aは、幅方向Dwに延びている。ねじ軸部41aは、ウエブ部22の幅よりも長い軸長を有している。ねじ頭部41bは、ねじ軸部41aの基端部に一体に形成されている。ボルト41は、ねじ軸部41aをウエブ部22と両側の木質部30に形成された軸挿通孔34とに貫通させ、ねじ頭部41bを、幅方向Dwの一方の側の木質部30Lに突き当てている。幅方向Dw両側の木質部30には、それぞれ、各ボルト41が挿通される位置に、木質部30の外側面30sから幅方向Dwの内側に窪んだ凹部31が形成されている。ねじ頭部41bは、凹部31の底面に突き当てられている。ねじ軸部41aの先端部は、幅方向Dwの他方の側の木質部30Rの凹部31内に突出している。ねじ軸部41aの先端部には、ナット42が締結されている。ナット42は、木質部30Rの凹部31の底面に突き当てられている。このようなボルト41及びナット42からなる鋼製の応力分担手段40は、鉄筋コンクリート部20に作用する応力を木質部30に伝達する。応力分担手段40は、鉄筋コンクリート部20と木質部30との接合面(幅方向Dwに直交する鉛直面)に沿った方向の応力を木質部30に伝達する。これにより、木質部30は、鉄筋コンクリート部20に作用する応力の一部を分担する。また、ねじ頭部41b、ナット42が内部に配置された凹部31は、ねじ頭部41b、ナット42の外側から、木質材からなる塞ぎ材45で塞がれている。
応力分担手段40として使用する構造ビスの設置本数と間隔については、初めに、4本の構造ビス(パネリード鋼、L=110mm)が打ち込まれたビスのせん断接合部の押抜き型せん断試験を行い、構造ビス1本あたりの平行剛性2.45kN/mmと、直交剛性2.28kN/mmを算出した後、本願発明の複合梁10をメッシュ分割した曲げ試験体を対象として、予備実験で得られた構造ビスを仮に所定の間隔で設置して、複合梁10を構成する鉄筋コンクリート部20と木質部30が構造ビスを介して一体化の曲げ挙動が再現できるように構造ビスの間隔を決定した。
【0023】
また、本実施形態においては、応力分担手段40に対応して、軸方向Daに定められた間隔おきに、コッター(シアコッター)50が設けられている。コッター50は、ウエブ部22の幅方向Dwの両側に、ウエブ部22(コンクリート部21)と一体に形成されている。コッター50は、ウエブ部22の幅方向Dw両側の側面22sから、幅方向Dwの外側に突出している。コッター50は、鉄筋コンクリート部20及び木質部30の上部側に配置された上部応力分担手段40Pと、鉄筋コンクリート部20及び木質部30の下部側に配置された下部応力分担手段40Qと、を跨がるように、上下方向Dvに連続して延びている。コッター50において、幅方向Dwの外側の先端面50sは、側面22sと平行に形成されている。上部応力分担手段40P、及び下部応力分担手段40Qのねじ軸部41aは、コッター50を幅方向Dwに貫通している。コッター50の上下には、傾斜面50a、50bが形成されている。これら傾斜面50a、50bは、ウエブ部22の側面22sから幅方向Dwの外側に向かって、コッター50の上下方向Dvの長さが漸次縮小するように形成されている。
木質部30において、側面22sに対向する側には、コッター50が嵌め合うコッター収容凹部35が形成されている。コッター収容凹部35は、木質部30において、側面22sに対向する内側面30tから幅方向Dwの外側に窪むように形成されている。コッター収容凹部35は、コッター50を補形する形状に形成されている。
【0024】
次に、上記複合梁10の施工方法について説明する。
図6は、上記複合梁の施工方法の過程を示す図であり、梁主筋及びせん断補強筋を配筋し、型枠を組み立てた状態を示す断面図である。
図7は、上記複合梁の施工方法の過程を示す図であり、鉄筋コンクリート部の梁形成部にコンクリートを打設した状態を示す断面図である。
図6に示すように、複合梁10を形成するには、まず、梁主筋24及びせん断補強筋25を配筋する。次いで、形成すべき複合梁10の軸方向Daの両端面となる位置にバットレス(図示無し)を設け、ウエブ部22の下部に配置される梁主筋24に、所定の引張力を導入する。
次いで、配筋した梁主筋24及びせん断補強筋25の周囲に、所定形状の型枠60を組み立てる。この型枠60の一部は、木質部30を形成する木材によって構成される。木質部30を形成する木材は、配筋した梁主筋24及びせん断補強筋25の幅方向Dwの両側に配置する。この木質部30を形成する木材には、少なくとも鉄筋コンクリート部20に対向して接触する部分に、防水塗装等の防水膜32が予め形成されている。幅方向Dwの両側の木質部30に形成された軸挿通孔34には、ボルト41を挿入し、ナット42を締結させる。ねじ頭部41b、ナット42が内部に配置された凹部31は、木質材からなる塞ぎ材45で塞ぐ。
また、幅方向Dwの両側の木質部30の下端同士の間は、下型枠材63によって閉塞する。その他、隙間Sを形成するための補助型枠材64等を木質部30の段部30dに適宜取り付ける。
型枠60の組立後、
図7に示すように、型枠60内に、少なくともウエブ部22を形成するコンクリートを打設する。ウエブ部22を形成するコンクリートを打設した後、フランジ部23を形成するコンクリートを打設する。ウエブ部22のコンクリートの打設と、フランジ部23のコンクリートの打設は、連続して行ってもよいし、別途行ってもよい。
打設したコンクリートを所定期間養生し、コンクリートが所要の強度を発現した後、下型枠材63、補助型枠材64、バットレス(図示無し)等を撤去する。これにより、
図3~
図5に示すような、所定形状の複合梁10が形成される。
【0025】
ところで、複合梁10を大スパン化する場合、複合梁10を形成する際にむくりを設ける。むくりとは、複合梁10の自重による撓みとは逆方向に、軸方向Daの両端部に対して中央部を上向に反らせておくことを言う。ウエブ部22の下部に配置される梁主筋24に緊張力を導入することで、ウエブ部22の上端部を引張応力状態とし、ウエブ部22の下端部を圧縮応力状態としておく。型枠60内に打設したコンクリートが硬化すると、ウエブ部22の上端部におけるむくり量が減少する。これに伴い、ウエブ部22の上端部の引張応力度が低下し、下端部の圧縮応力度が増大する。このとき、鉄筋コンクリート部20のウエブ部22の幅方向Dwの両側に設けられた木質部30によって、ウエブ部22が補剛されている。これによって、ウエブ部22に生じさせるむくり量を小さくすることができる。すると、むくりによってウエブ部22がフランジ部23に埋め込まれる量を抑えることができ、製造上合理的となる。
【0026】
(作用効果)
本発明の複合梁10について、下記に本実施形態での作用効果を述べる。
上述したような複合梁10によれば、複合梁10は、木質材と鉄筋コンクリートで構成されて軸方向Daに延びる複合梁10であって、梁主筋24とせん断補強筋25とが埋設され、軸方向Daと直交する縦断面がT形状をなす鉄筋コンクリート部20と、鉄筋コンクリート部20の少なくとも両側側面22sに設けられる木質部30と、鉄筋コンクリート部20と木質部30とに跨がって埋設されてこれらを接合し、鉄筋コンクリート部20に作用する応力を木質部30に分担せしめる鋼製の応力分担手段40と、を備え、鉄筋コンクリート部20の少なくとも下端面22bは露出している。
このような構成によれば、鉄筋コンクリート部20とそのウエブ部22の両側に設けられる木質部30とに跨がるように、鋼製の応力分担手段40が埋設されることで、応力分担手段40を介し、鉄筋コンクリート部20と木質部30との接合部(接合面)に沿った方向において、鉄筋コンクリート部20に作用する応力が木質部30に有効に伝達される。これにより、鉄筋コンクリート部20に作用する応力が、鉄筋コンクリート部20だけでなく両側の木質部30によっても分担して負担される。したがって、曲げ剛性及び曲げ耐力に優れた、木質材と鉄筋コンクリートで構成される複合梁10を提供することが可能となる。
この複合梁10では、梁断面の中央部に剛性と強度に優れた鉄筋コンクリート部20を設け、鉄筋コンクリート部20の両側側面22sに木質部30を補剛材として設けることで、長スパン化が可能となる。さらに、複合梁10の幅方向Dwの両側が、木質部30によって形成されるため、木質系の材料ならではの温かみのある外観を呈することができる。つまり、このような複合梁10により、鉄筋コンクリート部20が両側の木質部30によって補剛かつ補強された、木質系の複合構造部材を構成することができる。
また、複合梁10は、鉄筋コンクリート部20と木質部30が鋼製の応力分担手段40で接合されて一体化されることで、木質部30が鉄筋コンクリート部20の補剛材となり、鉄筋コンクリート部20に生じるむくり、または撓みを低減することができる。更に、複合梁10では、鉄筋コンクリート部20の下端面22bは木質部30で覆われていなく、下端面22bが露出していることで、複合梁10がたわむ際には、複合梁10の断面中央側に設けた鉄筋コンクリート部20は木質部30の影響を受けることなく下方側に向けて変形できる。よって、複合梁10は、鉄筋コンクリート部20の両側側面22sのみ木質部30を設ければよく、デザイン性の高い複合梁10の形態が実現可能となる。
【0027】
また、鉄筋コンクリート部20が、プレストレストコンクリート構造であり、梁主筋24の少なくとも一部に緊張力が導入されている。
このような構成によれば、鉄筋コンクリート部20の一部に緊張力を導入してプレストレストコンクリート構造とすることで、鉄筋コンクリート部20を現場打ちのコンクリートによる鉄筋コンクリート構造とする場合に比較して、曲げ剛性及び曲げ耐力を高めることができる。これにより、長スパン化が可能な複合梁10を実現することができる。
【0028】
また、応力分担手段40が、ボルト41であり、応力分担手段40は、軸方向Daに定められた間隔おきに、鉄筋コンクリート部20のウエブ部22及び木質部30の上部側及び下部側にそれぞれ設けられている。
このような構成によれば、鉄筋コンクリート部20のウエブ部22及び木質部30の上部側及び下部側に、複合梁10の軸方向Daに定められた間隔おきに応力分担手段40を設けることで、鉄筋コンクリート部20と木質部30とを良好に一体化させて複合梁10を構成することができる。
【0029】
また、鉄筋コンクリート部20のウエブ部22には、応力分担手段40に対応して、軸方向Daに定められた間隔おきに、コッター50が設けられ、木質部30には、コッター50に対応して、コッター50を収容してコッター50に係合するように形成された、コッター収容凹部35が設けられている。
このような構成によれば、鉄筋コンクリート部20と木質部30とを、更に良好に一体化させて、鉄筋コンクリート部20に作用する応力を木質部30によっても分担して負担可能な、複合梁10を構成することができる。
【0030】
(実施形態の第1変形例)
なお、本発明の複合梁は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、応力分担手段40として、ボルト41(及びナット42)を用い、さらにコッター50によってウエブ部22と木質部30とを係合するようにしたが、これに限らない。
図8は、本発明の実施形態の第1変形例に係る複合梁を示す断面図である。
図9は、
図8の複合梁の施工方法の過程を示す図であり、梁主筋及びせん断補強筋を配筋し、型枠を組み立てた状態を示す断面図である。
例えば、
図8に示す複合梁10Bは、応力分担手段40Bとして、鋼製の構造用ビス48を備えている。応力分担手段40Bとしての構造用ビス48は、鉄筋コンクリート部20のウエブ部22の幅方向Dwの両側において、鉄筋コンクリート部20と木質部30Bとをそれぞれ接合する。構造用ビス48は、鉄筋コンクリート部20と木質部30Bとに跨がるように埋設されている。
構造用ビス48は、幅方向Dwに延びている。構造用ビス48は、その両端部が、ウエブ部22と、各木質部30Bに形成された貫通孔36とに埋設されている。貫通孔36は、木質部30Bの外側面30sから幅方向Dwの内側に窪んだ凹部31Bの底面と、木質部30Bがウエブ部22の側面22sに対向する内側面30uとを貫通している。構造用ビス48は、木質部30Bの凹部31Bにおいて、外側面30s側から内側面30u側に向けてねじ込まれ、その先端がウエブ部22内に位置するように設けられている。凹部31Bは、木質材からなる塞ぎ材45Bで塞がれている。
具体的には、構造用ビス48は、例えばΦ8mm、長さ120mmの棒状鋼材であり、梁せいの上部側と下部側に其々、3本1組で打ち込まれている。構造用ビス48は、梁中央部側では、例えば0.75m間隔で設置され、梁中央部側から梁端部側に向かって、675mm、525mm、及び450mm、間隔で設置される。
また、
図8の例では、コッター50を設けず、木質部30Bは、内側面30uをウエブ部22の側面22sに単に沿わせて配置されている。
【0031】
このような複合梁10Bを施工するには、上記実施形態と同様、まず、
図9に示すように、梁主筋24及びせん断補強筋25を配筋する。
次いで、配筋した梁主筋24及びせん断補強筋25の周囲に、所定形状の型枠60Bを組み立てる。この型枠60Bの一部は、木質部30Bを形成する木材によって構成される。木質部30Bには、予め貫通孔36を形成し、構造用ビス48を木質部30Bの外側面30s側からねじ込んでおく。また、木質部30Bを形成する木材には、予め少なくとも鉄筋コンクリート部20に対向して接触する部分に、防水塗装等の防水膜32を形成しておく。凹部31Bは、木質材からなる塞ぎ材45Bで塞いでおく。また、幅方向Dwの両側の木質部30Bの下端同士の間は、下型枠材63によって閉塞する。隙間Sを形成する部分には、補助型枠材64を配置する。
型枠60の組立後、型枠60内にコンクリートを打設する。打設したコンクリートを所定期間養生し、コンクリートが所要の強度を発現した後、下型枠材63、補助型枠材64等を撤去する。これにより、
図8に示したような、所定形状の複合梁10Bが形成される。
【0032】
上述したような複合梁10Bによっても、鉄筋コンクリート部20とその両側に設けられる木質部30Bとに跨がるように、鋼製の応力分担手段40Bが埋設されることで、鉄筋コンクリート部20に作用する応力が、鉄筋コンクリート部20だけでなく両側の木質部30Bによっても分担して負担される。したがって、曲げ剛性及び曲げ耐力に優れた、木質材と鉄筋コンクリートで構成される複合梁10Bを提供することが可能となる。
【0033】
(実施形態の第2変形例)
図10は、本発明の実施形態の第2変形例に係る複合梁を示す断面図である。
本変形例においては、木質部30C、70は、側面木質材30Cと、下面木質材70を備えている。
図10に示す複合梁10Cのように、応力分担手段40Cとしての構造用ビス48を、側面木質材30Cにおいてウエブ部22の側面22sに対向する内側面30vから幅方向Dwの外側に向けてねじ込むようにして設けてもよい。この場合、凹部31Bや塞ぎ材45Bを設ける必要が無く、施工のより一層の容易化が図れる。
下面木質材70は、
図10に示すように、ウエブ部22の下端面22bから下方に突出する側面木質材30Cの間に、変形吸収手段80を挟んで設けられている。複合梁を、鉄筋コンクリートと木質材を組み合わせて構成する場合には、これらは複合梁の耐火性能の面からは密着させるのが望ましい。しかし、本変形例においては、木質材の変形が他の木質材に及ばないようにするため、木質材の間に変形吸収手段80が設けられている。本変形例においては、変形吸収手段80は、耐火性能に影響を及ぼすことの少ない程度の、3mm以下の隙間が設けられている。或いは、変形吸収手段80としては、下面木質材70より低剛性の薄層の木質材または充填材による成形体が設けられてもよい。このように、下面木質材70は、側面木質材30Cとの間に変形吸収手段80を挟んで側面木質材30Cと非接合状態となるように設けられて、鉄筋コンクリート部20のウエブ部22の外側を木質部30C、70でコ字形状に覆うように設置される。このように、変形吸収手段80で、側面木質材30Cと下面木質材70を幾何学的に分離し、非接合状態を実現している。鉄筋コンクリート部20を挟んで対向する側面木質材30Cの間に下面木質材70を設置することで、複合梁が曲げ変形した際に鉄筋コンクリート部と側面木質材30Cが一体として下方側にたわむ場合であっても、側面木質材30Cと下面木質材70との間に変形吸収手段80が設けられ、かつ側面木質材30Cの内側に下面木質材70が設置されていることで、側面木質材30Cが下面木質材70を押し下げることを防止でき、複合梁の変形性能を高めることが可能である。
下面木質材70は、構造用ビス49または接着剤を用いて、鉄筋コンクリート部20の下端面22bに固定されている。下面木質材70は、コンクリート打設時の型枠60Dの一部として用いられるとともに、仕上げ材としても用いられる。構造用ビス49も、側面木質材30Cを鉄筋コンクリート部20に接合する応力分担手段40Cと同様に、鉄筋コンクリート部20に作用する応力を下面木質材70に分担せしめる応力分担手段49として作用する。
また、
図10の例では、鉄筋コンクリート部20にフランジ部23を一体に形成せず、鉄筋コンクリート部20を、軸方向Daに直交する縦断面が矩形状をなすウエブ部22のみとしている。この場合、複合梁10C上に、例えば木質系材料、プレキャストコンクリート材料、鋼製材料等、他の材料からなるスラブ9を敷設するようにしてもよい。
【0034】
本変形例の複合梁10Cは、木質材と鉄筋コンクリートで構成されて軸方向Daに延びる複合梁10Cであって、梁主筋24とせん断補強筋25とが埋設され、軸方向Daと直交する縦断面が矩形状をなす鉄筋コンクリート部20と、鉄筋コンクリート部20の少なくとも両側側面22sに設けられる木質部30C、70と、鉄筋コンクリート部20と木質部30C、70とに跨がって埋設されてこれらを接合し、鉄筋コンクリート部20に作用する応力を木質部30C、70に分担せしめる鋼製の応力分担手段40C、49と、を備え、木質部30C、70は、鉄筋コンクリート部20を挟むように、両側側面22sに設けられる側面木質材30Cと、鉄筋コンクリート部20の下面に、側面木質材30Cと非接合状態で設置される下面木質材70と、を備える。
このような構成によれば、鉄筋コンクリート部20と木質部30C、70とに跨がるように、鋼製の応力分担手段40C、49が埋設されている。これにより、応力分担手段40C、49を介し、鉄筋コンクリート部20と木質部30C、70との接合部に沿った方向において、鉄筋コンクリート部20に作用する応力が木質部30C、70に有効に伝達される。したがって、鉄筋コンクリート部20に作用する応力が、鉄筋コンクリート部20だけでなく木質部30C、70によっても分担して負担される。その結果、曲げ剛性及び曲げ耐力に優れた、木質材と鉄筋コンクリートで構成される複合梁10Cを提供することが可能となる。
この複合梁10Cでは、梁断面の中央部に剛性と強度に優れた鉄筋コンクリート部20を設け、木質部30C、70を補剛材として設けることで、木質材単体では実現することが困難であった、長スパン化が可能となる。さらに、複合梁10Cが木質部30C、70によって形成されるため、木質系の材料ならではの、温かみのある外観を呈することができる。つまり、このような複合梁10Cにより、鉄筋コンクリート部20木質部30C、70によって補剛かつ補強された、木質系の複合構造部材を構成することができる。
また、複合梁10Cが、鉄筋コンクリート部20と、当該鉄筋コンクリート部20の両側側面22sに設ける側面木質材30Cに加え、側面木質材30Cと非接合状態で設置される下面木質材70を備えることで、複合梁10Cが大変形状態に至った際には、下面木質材70の変形が側面木質材30Cで拘束されることなく、鉄筋コンクリート部20と下面木質材70が一体として抵抗可能となる。また、複合梁10Cでは、側面木質材30Cと下面木質材70が非接合状態で設置されるために、双方の接合部分に損傷、破壊を抑制可能であり、優れた変形性能を確保することができる。
【0035】
(実施形態の他の変形例)
また、上記実施形態では、応力分担手段40としてのボルト41に対応して、軸方向Daに定められた間隔おきに、コッター50が設けられていたが、応力分担手段40としてボルト41を用いつつ、上記第1変形例と同様に、コッター50を設けず、木質部30を、内側面をウエブ部22の側面22sに単に沿わせて配置してもよい。
この場合においては、上記実施形態のようなコッター式の接合構造に比較し、鉄筋コンクリート部20や木質部30の断面欠損部を小さくすることができる。これにより、想定外の荷重が作用した場合に、断面欠損部を起因とした損傷や破壊が生じるのを抑えることができる。
【0036】
また、上記実施形態では、ウエブ部22の下側の梁主筋24に、緊張力(プレストレス)を導入せず、鉄筋コンクリート部20のコンクリート部21を、通常の鉄筋コンクリート造としてもよい。
また、上記実施形態と各変形例を適宜組み合わせた構成としてもよい。例えば、上記の実施形態では、応力分担手段40として鉄筋コンクリート部20と木質部30の双方を貫通するようにボルト41が設置されたが、これら双方を貫通するボルトに限定することなく、鉄筋コンクリート部20と木質部30を構造用ビスで接合させてもよい。また、第1変形例と第2変形例では、応力分担手段40B、40Cとして構造用ビス48を使用しているが、構造用ビスに限定することなく、鉄筋コンクリート部20と木質部30の双方を貫通するようなボルトであってもよい。
あるいは、上記実施形態の、鉄筋コンクリート部20がウエブ部22とフランジ部23の双方を備える構成に対して下面木質材70を設けるようにしてもよいし、上記第2変形例の、鉄筋コンクリート部20がウエブ部22のみを備える構成が下面木質材70を備えず、下面木質材70を除いた構成としてもよい。
また、上記実施形態では、
図5に示すように、コッター50は鉄筋コンクリート部20の側面に対向するように各1段設け、かつ側面木質材30にコッター50が嵌め合うコッター収容凹部35を形成したが、鉛直方向に設けるコッター数は1段に限定することなく、鉄筋コンクリート部20の両側側面にコッターを2段設置し、かつ各コッターに対応するように側面木質材30にコッター収容凹部35を2段形成してもよい。コッター50を2段設けた場合は、1段設ける場合に比べて、コッター50を形成する傾斜面が2倍となることで、鉄筋コンクリート部と側面木質材との傾斜面を含む接合面積が増加するために、高い接合強度が確保可能となる。
また、上記実施形態および各変形例においては、木質部に段部30dが設けられていたが、これを備えず、隙間Sを設けない構成としてもよい。
【0037】
(曲げ試験結果)
上記実施形態で示したような構成について、曲げ試験を行ったのでその結果を以下に示す。
図11は、上記実施形態で示した複合梁の曲げ試験を行う試験装置の概略構成を示す図である。
図12は、上記実施形態で示した複合梁の曲げ試験の結果を示す図である
図11に示すように、試験体としては、上記実施形態で示したような、応力分担手段40としてボルト41及びコッター50を備えた複合梁10(実施例)を用意した。試験体は、軸方向Daの中央部を中心として、木質部30を軸方向Daに10000mmの長さにわたって設けた。試験体は、その両端部を、軸方向Daに12000mmの間隔で設置した支持台101上に載せ、中央部に荷重付与体Wを載せて垂直荷重を付与した。荷重付与体Wにより、上方から複合梁10の中央部に垂直荷重を付与したときのひずみ量を測定した。
その結果を、
図12に示す。
図12中、上記実施形態に対応する、ボルト41とコッター50を用いた場合の実験結果が実施例1であり、上記第1変形例に対応する、構造用ビス48を用いた場合の実験結果が実施例2である。比較例としては、木質部を設けない通常の鉄筋コンクリート梁を使用した。
【0038】
図12に示されるように、実施例1、2では、木質部を備えない比較例よりも、大幅に高い耐力を有していることが確認された。また、実施例1、2では、いずれも、緊張力を導入した梁主筋24(緊張材)に1段目の降伏が生じて以降、変形が増大した領域で最大耐力に達している。これらの実施例1、2は、双方とも最大耐力付近までモーメントとたわみ関係の包絡性はほぼ等しく、実施例1と実施例2の間に応力分担手段の優劣はほぼないと考えられる。
これにより、木質部30が鉄筋コンクリート部20に作用する応力を分担することで、複合梁10の曲げ剛性及び耐力特性が向上することが確認された。
【0039】
なお、実施例1及び実施例2に示す複合梁は、鉄筋コンクリート部20の両側面に木質部30を備えた梁断面を有しており、鉄筋コンクリート部のみで梁断面が構成される比較例に比べて、曲げモーメントに対するはり部材の変形のしにくさを表す断面二次モーメントが4.3倍程(2520000cm4/590000cm4)高いために、鉄筋コンクリート部に曲げひび割れが発生した後も耐力上昇を示した。特に、木質部の下端面を、鉄筋コンクリート部の下端面より100mm下方側に設けることで、鉄筋コンクリート部の曲げ変形に対して、鉄筋コンクリート部より下方側に突出する木質部が曲げ耐力の増加に大きく影響したと推測される。よって、本曲げ実験結果からも、本発明の木質材と鉄筋コンクリートで構成される複合梁の優れた曲げ耐力を確認することができた。
【符号の説明】
【0040】
10、10B、10C、 複合梁 30b 下端面
20 鉄筋コンクリート部 40、40B、40C 応力分担手段
22 ウエブ部 41 ボルト
22b 下端面 48、49 構造用ビス(応力分担手段)
22s 側面 70 木質部(下面木質材)
23 フランジ部 80 変形吸収手段
24 梁主筋 Da 軸方向
25 せん断補強筋 Dw 幅方向
30、30B、30C 木質部(側面木質材)