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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】消音器および鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   F01N 13/14 20100101AFI20240613BHJP
   F01N 13/08 20100101ALI20240613BHJP
【FI】
F01N13/14
F01N13/08 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020120732
(22)【出願日】2020-07-14
(65)【公開番号】P2022017897
(43)【公開日】2022-01-26
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 剛
(72)【発明者】
【氏名】松井 諒
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-156914(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2012/0273299(US,A1)
【文献】特開平08-312326(JP,A)
【文献】特開2003-322009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 1/00- 1/24
F01N 5/00- 5/04
F01N 13/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンの排気系に接続される消音器であって、排気ガスの流れる方向に沿って中心軸を有する中空円筒部を備え、前記中心軸に対し直角に配置されるとともに前記中空円筒部の内周面に結合された仕切り板により、前記中空円筒部の内部空間が、複数の消音室に区切られた消音器において、
前記ディーゼルエンジンは、鉄道車両用であること、
前記仕切り板の、前記消音室を形成する両側端面の全面を覆うように、前記仕切り板への熱の伝達を抑えることで前記仕切り板の膨脹を抑えるための断熱材が取り付けられていること、
を特徴とする消音器。
【請求項2】
請求項1に記載の消音器において、
前記断熱材は、前記仕切り板と網目部材とに挟まれることで固定されること、
前記断熱材は、前記ディーゼルエンジンの負荷が最大とされる連続時間に前記仕切り板への排気ガスの熱の伝達を抑えられる厚みを有していること、
を特徴とする消音器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の消音器において、
前記断熱材は、厚みが15mm以上のグラスウールであること、
を特徴とする消音器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載された消音器を備えること、を特徴とする鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気系に接続される消音器であって、排気ガスの流れる方向に沿って中心軸を有する中空円筒部を備え、前記中心軸に対し直角に配置されるとともに前記中空円筒部の内周面に結合された仕切り板により、前記中空円筒部の内部空間が、複数の消音室に区切られた消音器および鉄道車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関としてディーゼルエンジンを備える鉄道車両には、特許文献1に示すように、ディーゼルエンジンの爆発音、排気音を消音するための消音器が用いられている。
【0003】
消音器は、例えば図5に示すような構成を有する。図5は、従来技術に係る消音器6の構成を表す図であり、内部の構成を可視化するために一部を断面としたものである。消音器6は、鉄道車両において、ディーゼルエンジンの排気系に接続され、ディーゼルエンジンの爆発音、排気音を消音するために用いられる。
【0004】
消音器6は、胴板611と、胴板611の両端部を閉塞する側板612A,612Bにより、円筒状に形成された中空円筒部61を備えている。胴板611の内面全周には、吸音材(例えば、グラスウール)65が、パンチングメタル67によって、押さえつけられるようにして、取り付けられている。
【0005】
中空円筒部61の内部空間は、胴板611の内周面に結合された円盤状の仕切り板613A,613Bによって、第1消音室614と、第2消音室615と、第3消音室616とに区切られている。
【0006】
消音器6は、ディーゼルエンジンから排気される排気ガスを消音器6に流入させるインレットパイプ62を備えている。インレットパイプ62は、側板612Aを貫通し、第1消音室614に挿入されており、第1消音室614に挿入されている部分の外周面621には、多数の排出孔(不図示)が設けられている。これにより、消音器6の外部と第1消音室614とが連通されている。
【0007】
さらに、消音器6は、2枚の仕切り板613A,613Bを貫通し、第1消音室614、第2消音室615、第3消音室616を横架する3本の連通パイプ64を有する。連通パイプ64は、外周面641に、多数の排出孔(不図示)を有しており、連通パイプ64によって、第1消音室614、第2消音室615、第3消音室616が連通されている。
【0008】
さらにまた、消音器6は、消音器6に流入された排気ガスを排出するアウトレットパイプ63を備えている。アウトレットパイプ63は、側板612Bを貫通し、第3消音室616に挿入されており、第3消音室616に挿入されている部分の外周面631には、多数の排出孔(不図示)が設けられている。これにより、消音器6の外部と第3消音室616とが連通されている。
【0009】
消音器6は、以上のような構成を有することで、排気ガスがインレットパイプ62から第1消音室614へと流入されるようになっている。第1消音室614に流入された排気ガスは、第2消音室615を通り、第3消音室616まで流れ、アウトレットパイプ63から、消音器6の外部へ排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭59-50857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来技術には次のような問題があった。
鉄道車両が加速していく場合や、長い上り坂を走行する場合で、ディーゼルエンジンの負荷が大きくなったとき、ディーゼルエンジンから排出される排気ガスの温度は最大で摂氏450~500度となる。このように温度の高い排気ガスが、消音器6に流入されると、仕切り板613A,613Bが熱せられ、膨脹する。特に、仕切り板613A,613Bの半径方向の膨張は、胴板611に過大な負荷を加え、過大な応力を発生させるため、胴板611に割れが生じるおそれがある。胴板611に割れが生じると、排気ガスが漏れ、火災の原因となり得る。よって、鉄道車両の走行時の安全性確保のために、胴板611の割れを防止することが可能な消音器およびそのような消音器を備える鉄道車両が求められている。
【0012】
本発明は、上記問題点を解決するためのものであり、胴板の割れを防止し、鉄道車両の走行時の安全性を確保することが可能な消音器およびそのような消音器を備える鉄道車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の消音器は次のような構成を有している。
(1)ディーゼルエンジンの排気系に接続される消音器であって、排気ガスの流れる方向に沿って中心軸を有する中空円筒部を備え、前記中心軸に対し直角に配置されるとともに前記中空円筒部の内周面に結合された仕切り板により、前記中空円筒部の内部空間が、複数の消音室に区切られた消音器において、前記ディーゼルエンジンは、鉄道車両用であること、前記仕切り板の、前記消音室を形成する両側端面の全面を覆うように、前記仕切り板への熱の伝達を抑えることで前記仕切り板の膨脹を抑えるための断熱材が取り付けられていること、を特徴とする。
【0014】
(1)に記載の消音器によれば、仕切り板に断熱材(例えばグラスウール)が取り付けられているため、摂氏450~500度の排気ガスが消音器に流入されたとしても、仕切り板への熱の伝達を抑えることができる。仕切り板への熱の伝達を抑えることができれば、仕切り板の膨脹を抑えることができる。仕切り板の膨脹を抑えることができれば、膨脹による胴板への負荷が抑えられ、胴板に過大な応力が発生することを防ぐことができる。よって、胴板に割れが生じるおそれ、胴板の割れにより排気ガスが漏れるおそれを低減させることができ、ひいては、鉄道車両の走行時の安全性を確保することが可能となる。
【0015】
(2)(1)に記載の消音器において、前記断熱材は、前記仕切り板と網目部材とに挟まれることで固定されること、前記断熱材は、前記ディーゼルエンジンの負荷が最大とされる連続時間に前記仕切り板への排気ガスの熱の伝達を抑えられる厚みを有していること、を特徴とする。
【0016】
(2)に記載の消音器によれば、断熱材が網目部材(例えばパンチングメタル)によって固定されるため、消音器に侵入するディーゼルエンジンの爆発音や排気音が、網目部材を透過し、断熱材に到達することができる。よって、仕切り板に取り付けられた断熱材を、吸音材として活用可能となる。
【0017】
(3)(1)または(2)に記載の消音器において、前記断熱材は、厚みが15mm以上のグラスウールであること、を特徴とする。
【0018】
鉄道車両が加速していき、最高速度に達した後、ディーゼルエンジンはアイドリング状態となるため、加速のためにディーゼルエンジンの負荷が最大とされる連続時間は、最大で10分間程度である。つまり、仕切り板が摂氏450~500度の排気ガスに曝される時間は最大で10分間程度である。そして、ディーゼルエンジンがアイドリング状態となれば、排気ガスの温度が摂氏200度程度まで低下するため、仕切り板は摂氏450~500度の排気ガスに曝されていた状態から急激に冷却される。ここで、仕切り板に取り付けられる断熱材の厚みが15mm未満であると、摂氏450~500度の排気ガスに曝された場合に、10分間以内で仕切り板に排気ガスの熱が伝達され、十分に膨張を抑えることができないおそれがある。そのため、仕切り板への熱の伝達を可能な限り抑えるため、断熱材は、厚みが15mm以上のグラスウールであることが好ましい。
【0019】
また、本発明の鉄道車両は、次のような構成を有している。
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された消音器を備えること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の消音器および鉄道車両によれば、胴板の割れを防止し、鉄道車両の走行時の安全性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係る鉄道車両の側面図である。
図2】消音器の外観を表す斜視図である。
図3】消音器の内部構成を表す部分断面図である。
図4】消音器の、中空円筒部の中心軸に平行に切断した側断面図である。
図5】従来技術に係る消音器の構成を表す図である。
図6図4のX部分の部分拡大図であり、仕切り板が排気ガスにより熱せられた場合を想定した解析結果(変形状態および応力分布)を表した図である。
図7】従来技術に係る消音器の、図6に対応する図である。
図8】仕切り板が排気ガスにより熱せられた場合を想定した解析結果(温度分布)を表す図である。
図9】従来技術に係る消音器6の、図8に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る消音器および鉄道車両の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明の実施形態に係る鉄道車両1の側面図である。図1に示されるように、鉄道車両1の車体2は、床面をなす台枠11と、台枠11の軌道方向の一方の端部に立設されることで車体2の先頭部をなす前面妻構体12と、台枠11の他方の端部に立設されることで車体2の連結部をなす連妻構体15と、台枠11の枕木方向の両端部に立設されることで車体2の側面をなす側構体13と、前面妻構体12,連妻構体15および側構体13の上端部に配置されることで車体2の屋根をなす屋根構体14とにより6面体をなすように構成される。そして、車体2は、枕ばね18を介して、車輪17を備えた台車16によって支持されている。側構体13には、乗務員室に通じる乗務員乗降口20A、客室に通じる乗客乗降口20Bおよび窓20Cが設けられている。また、台枠11の軌道方向の両端部には、前面妻構体12および連妻構体15よりも車両長手方向の外方に突出するように連結器19が設けられており、隣接する鉄道車両同士を連結することが可能である。
【0024】
また、鉄道車両1は駆動源として、ディーゼルエンジン3を備えており、該ディーゼルエンジン3は、台枠11に吊り下げられている。さらに、ディーゼルエンジン3は、消音器4を有しており、該消音器4は、ディーゼルエンジン3の枕木方向の端部に隣接して、固定部材5によって、台枠11に吊り下げられている。
【0025】
図2は、消音器4の外観を表す斜視図である。図3は、消音器4の内部構成を表す部分断面図である。図4は、消音器4の、中空円筒部41の中心軸に平行に切断した側断面図である。
【0026】
消音器4は、鉄道車両1において、ディーゼルエンジン3の排気系に接続され、ディーゼルエンジン3の爆発音、排気音を消音するために用いられる。
【0027】
消音器4は、中空円筒部41と、インレットパイプ42と、アウトレットパイプ43と、を備えており、ディーゼルエンジン3から排出される排気ガスが、消音器4の内部を、インレットパイプ42から、アウトレットパイプ43まで流れる(図4中の、消音器4の、左端から右端までが排気ガスの流れる方向である)。
【0028】
中空円筒部41は、胴板411と、胴板411の両端部を閉塞する側板412A,412Bにより、直径が500mmの円筒状に形成されており、その中心軸は、排気ガスが流れる方向と平行な方向となっている。なお、胴板411と側板412A,412Bとは、溶接により結合されている。
【0029】
胴板411の内面全周には、厚さ20mmのグラスウール45が、パンチングメタル47によって、押さえつけられるようにして、取り付けられている。このグラスウール45は、吸音材としても用いられるものである。
【0030】
また、消音器4は、中空円筒部41の内部に、円盤状の仕切り板413A,413Bを備える。仕切り板413A,413Bは、相互に対向して配置されるとともに、それぞれ中空円筒部41の中心軸に対して直角に配置されており、中空円筒部41の内部空間を3つの消音室に区切っている。3つの消音室は、消音器4の上流側から、第1消音室414、第2消音室415、第3消音室416の順に並んでいる。なお、仕切り板413A,413Bは、それぞれの外周端が、中空円筒部41の内周面に、溶接により結合されている。
【0031】
仕切り板413Aは、一方の端面が第1消音室414を形成し、他方の端面が第2消音室415を形成している。また、仕切り板413Bは、一方の端面が第2消音室415を形成し、他方の端面が第3消音室416を形成している。この、仕切り板413A,413Bの、それぞれの消音室を形成する端面(すなわち両面)には、仕切り板413A,413Bの両面の全面を覆うように、厚さ20mmのグラスウール(断熱材の一例)46が取り付けられている。
【0032】
グラスウール46は、仕切り板413A,413Bとパンチングメタル(網目部材の一例)48とにより挟まれることで、仕切り板413A,413Bの全面に密着するようにして固定されている。なお、パンチングメタル48は、不図示のリベットによって、仕切り板413A,413Bと結合されることで、固定される。
【0033】
インレットパイプ42は、中空円筒状に形成されており、側板412Aを貫通し、第1消音室414に挿入されている。インレットパイプ42の、消音器4の外部に突出する側の端部は、フランジ部422を備えており、ディーゼルエンジン3から延伸する排気管に接続される。インレットパイプ42の、第1消音室414に挿入されている側の外周面421には、内周面まで貫通する多数の排出孔(不図示)が設けられている。さらに、第1消音室414に挿入されている側の端部423は閉塞されている。よって、ディーゼルエンジン3から排気される排気ガスは、インレットパイプ42に流入されると、外周面421に設けられた排出孔から第1消音室414に流入されるようになっている。
【0034】
さらに、消音器4は、2枚の仕切り板413A,413Bを貫通し、第1消音室414、第2消音室415、第3消音室416を横架する3本の連通パイプ44を有する。連通パイプ44は、中空円筒状に形成されており、外周面441には、内周面まで貫通する多数の排出孔(不図示)が設けられている。連通パイプ44の中空部および外周面441に設けられた排出孔によって、第1消音室414、第2消音室415、第3消音室416が連通されている。これにより、第1消音室414に流入された排気ガスが、第2消音室415を通り、第3消音室416まで流れることが可能となっている。
【0035】
アウトレットパイプ43は、中空円筒状に形成されており、側板412Bを貫通し、第3消音室416に挿入されている。アウトレットパイプ43の、第3消音室416に挿入されている側の外周面431には、内周面まで貫通する多数の排出孔(不図示)が設けられている。さらに、第3消音室416に挿入されている側の端部433は閉塞されている。また、アウトレットパイプ43の、消音器4の外部に突出する側の端部は、フランジ部432を備えており、排気管が接続される。よって、消音器4に流入され、第3消音室416まで流れた排気ガスは、外周面431に設けられた排出孔からアウトレットパイプ43の中空部に排出され、さらに消音器4の外部に排出される。
【0036】
次に、仕切り板413A,413Bにグラスウール46を取り付けたことによる作用および効果について、図6図9を用いて説明する。図6は、図4のX部分の部分拡大図であり、仕切り板413Aが排気ガスにより熱せられた場合を想定した解析結果(変形状態および応力分布)を表した図である。なお、グラスウール45,46や、パンチングメタル47,48は省略している。図7は、従来技術に係る消音器6の、図6に対応する図である。図8は、仕切り板413Aが排気ガスにより熱せられた場合を想定した解析結果(温度分布)を表す図である。図9は、従来技術に係る消音器6の、図8に対応する図である。
【0037】
鉄道車両1が加速していく場合などにおいて、ディーゼルエンジン3の負荷が大きくなったとき、ディーゼルエンジン3から排出される排気ガスの温度は最大で摂氏450~500度となる。また、鉄道車両1が加速していき、最高速度に達した後、ディーゼルエンジン3はアイドリング状態とされるため、加速のためにディーゼルエンジンの負荷が最大とされる連続時間は、最大で10分間程度である。よって、以下の説明は、摂氏500度の排気ガスが、10分間、本実施形態に係る消音器4または従来技術に係る消音器6に流入し、消音器4の仕切り板413A,413Bまたは消音器6の仕切り板613A,613Bが熱せられた場合を想定したものである。なお、仕切り板413Aと仕切り板413Bとが同一のものであり、仕切り板613Aと仕切り板613Bとが同一のものであるため、以下においては、仕切り板413A、仕切り板613Aのみを例に挙げて説明する。
【0038】
従来技術に係る消音器6に、摂氏500度の排気ガスが流入されると、仕切り板613Aが熱せられ、膨脹する。仕切り板613Aの半径方向の膨張は、図7に示すように、胴板611を半径方向に押し広げ、変形させる。図7に示す仕切り板613Aは、膨脹したことにより、図中左側に膨出するように撓んだ状態を表している。なお、破線は、撓む前の状態の仕切り板613Aを表している。
【0039】
膨脹した仕切り板613Aが胴板611を半径方向に押し広げるため、胴板611には、過大な応力が発生する。図7に示す応力分布が表すように、胴板611には、仕切り板613Aの周囲で高い応力が発生しており、特に、胴板611の外周面であって、仕切り板613Aが結合されている部分の反対側で、最も高い応力が発生していることが分かる。この応力は、約460MPaである。このように、過大な応力が発生することで、胴板611に割れが生じるおそれがる。胴板611に割れが生じると、排気ガスが漏れ、火災の原因となり得るため、鉄道車両の走行時の安全性確保のために、胴板の割れを防止する必要がある。
【0040】
一方で、本実施形態において、消音器4に、摂氏500度の排気ガスが流入され、仕切り板413Aが熱せられた場合、仕切り板413Aは膨脹し、胴板411を半径方向に押し広げるが、仕切り板413Aの膨脹量が従来よりも抑えられるため、図6に示すように、胴板411の変形量が、従来技術に係る消音器6よりも軽減されている。なお、図6に示す仕切り板413Aが、図中左側に膨出しているのは、膨脹による撓みを表しており、破線は、撓む前の状態の仕切り板413Aを表している。
【0041】
仕切り板413Aの膨脹量が従来よりも抑えられることで、胴板411に発生する応力が、従来よりも緩和される。図6に示す応力分布が表すように、仕切り板413Aの周囲において発生している応力が、従来と比べて大きく緩和されている。胴板411の外周面であって、仕切り板413Aが結合されている部分の反対側が、最も応力の高い部分であるが、その応力は約150MPaであり、従来と比べ、300MPa以上低減されている。
【0042】
仕切り板413Aの膨脹量が従来よりも抑えられているのは、グラスウール46により、排気ガスの温度が仕切り板413Aに伝達されにくくなっており、仕切り板413Aの温度が上昇しにくくなっていることによる。
【0043】
従来技術に係る消音器6の仕切り板613Aは、直接に摂氏500度の排気ガスに曝されるため、非常に高温となる。図9に示すように、特に、排気ガスが流入されるインレットパイプ62の周囲の温度が高くなっており、摂氏約350~400度まで温度が上昇する。
【0044】
一方で、本実施形態においては、消音器4の仕切り板413Aは、グラスウール46により、直接に排気ガスに曝されることがないため、図8に示すように、仕切り板413Aの全体において、温度の上昇が抑えられている。
従来技術においては最も温度が高くなっていたインレットパイプ42の周囲は、摂氏約200~250度であり、従来よりも150度程度、温度の上昇が抑えられている。排気ガスが流れる三本の連通パイプ44は、仕切り板413Aに接触しているため、仕切り板413Aの、連通パイプ44の周辺が最も高い温度となっているが、その温度は、摂氏約250~280度であり、従来技術における最も高い温度である摂氏約350~400度に比べて、100度程度、温度の上昇が抑えられている。
【0045】
10分間連続で摂氏500度の排気ガスが消音器4に流入されることで、排気ガスの熱がグラスウール46を徐々に伝わり、仕切り板413Aが熱せられるが、グラスウール46が20mmの厚さを有しているため、上記のように、仕切り板413Aの温度の上昇を従来よりも抑えることができる。よって、仕切り板413Aの膨脹量を、胴板411に割れが発生することを防止するに十分な膨脹量に抑えることが可能である。なお、グラスウール46の厚みは、20mmに限定されるものではない。グラスウール46の厚みが15mm未満であると、10分間以内で仕切り板413A,413Bに排気ガスの熱が伝達され、十分に膨張を抑えることができないおそれがある。そのため、仕切り板413A,413Bへの熱の伝達を可能な限り抑えるため、グラスウール46は、厚みが15mm以上であることが好ましい。
【0046】
以上説明したように、本実施形態に係る消音器4によれば、
(1)ディーゼルエンジン3の排気系に接続される消音器4であって、排気ガスの流れる方向に沿って中心軸を有する中空円筒部41を備え、中心軸に対し直角に配置されるとともに中空円筒部41の内周面に結合された仕切り板413A,413Bにより、中空円筒部41の内部空間が、複数の消音室(例えば、第1消音室414、第2消音室415、第3消音室416)に区切られた消音器4において、ディーゼルエンジン3は、鉄道車両用であること、仕切り板413A,413Bの、消音室(第1消音室414、第2消音室415、第3消音室416)を形成する面に、断熱材(例えば、グラスウール46)が取り付けられていること、を特徴とする。
【0047】
(1)に記載の消音器4によれば、仕切り板413A,413Bに断熱材(グラスウール46)が取り付けられているため、摂氏450~500度の排気ガスが消音器4に流入されたとしても、仕切り板413A,413Bへの熱の伝達を抑えることができる。仕切り板413A,413Bへの熱の伝達を抑えることができれば、仕切り板413A,413Bの膨脹を抑えることができる。仕切り板413A,413Bの膨脹を抑えることができれば、膨脹による胴板411への負荷が抑えられ、胴板411に過大な応力が発生することを防ぐことができる。よって、胴板411に割れが生じるおそれ、胴板411の割れにより排気ガスが漏れるおそれを低減させることができ、ひいては、鉄道車両1の走行時の安全性を確保することが可能となる。
【0048】
(2)(1)に記載の消音器4において、断熱材(グラスウール46)は、仕切り板413A,413Bと網目部材(例えばパンチングメタル48)とに挟まれることで固定されること、を特徴とする。
【0049】
(2)に記載の消音器4によれば、断熱材(グラスウール46)が網目部材(パンチングメタル48)によって固定されるため、消音器4に侵入するディーゼルエンジンの爆発音や排気音が、網目部材(パンチングメタル48)を透過し、断熱材(グラスウール46)に到達することができる。よって、仕切り板413A,413Bに取り付けられた断熱材(グラスウール46)が、吸音材として活用可能となる。
【0050】
(3)(1)または(2)に記載の消音器4において、断熱材は、厚みが15mm以上のグラスウール46であること、を特徴とする。
【0051】
鉄道車両が加速していき、最高速度に達した後、ディーゼルエンジン3はアイドリング状態となるため、加速のためにディーゼルエンジン3の負荷が最大とされる連続時間は、最大で10分間程度である。つまり、仕切り板413A,413Bが摂氏450~500度の排気ガスに曝される時間は最大で10分間程度である。そして、ディーゼルエンジン3がアイドリング状態となれば、排気ガスの温度が摂氏200度程度まで低下するため、仕切り板413A,413Bは摂氏450~500度の排気ガスに曝されていた状態から急激に冷却される。ここで、仕切り板413A,413Bに取り付けられる断熱材の厚みが15mm未満であると、摂氏450~500度の排気ガスに曝された場合に、10分間以内で仕切り板に排気ガスの熱が伝達され、十分に膨張を抑えることができないおそれがある。そのため、仕切り板への熱の伝達を可能な限り抑えるため、断熱材は、厚みが15mm以上のグラスウール46であることが好ましい。
【0052】
また、本実施形態に係る鉄道車両1によれば、
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された消音器4を備えること、を特徴とするので、胴板411の割れを防止し、鉄道車両1の走行時の安全性を確保することが可能となる。
【0053】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。例えば、駆動源として、ディーゼルエンジン3のみでなく交流機やバッテリを備えるハイブリッド型の鉄道車両としても良い。
【符号の説明】
【0054】
1 鉄道車両
3 ディーゼルエンジン
4 消音器
41 中空円筒部
46 グラスウール(断熱材の一例)
413A 仕切り板
413B 仕切り板
414 第1消音室(消音室の一例)
415 第2消音室(消音室の一例)
416 第3消音室(消音室の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図9