IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社小松製作所の特許一覧

<>
  • 特許-作業機械 図1
  • 特許-作業機械 図2
  • 特許-作業機械 図3
  • 特許-作業機械 図4
  • 特許-作業機械 図5
  • 特許-作業機械 図6
  • 特許-作業機械 図7
  • 特許-作業機械 図8
  • 特許-作業機械 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 3/85 20060101AFI20240613BHJP
   E02F 3/76 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
E02F3/85 D
E02F3/76 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020146962
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2022041636
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2022-05-17
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植村 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 裕輔
【合議体】
【審判長】有家 秀郎
【審判官】加藤 範久
【審判官】土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-252859(JP,A)
【文献】特開昭63-118426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/85
E02F 3/76
E02F 9/20
E02F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体に支持されるブレードと、
前記ブレードを前後および左右に傾斜させる左油圧シリンダおよび右油圧シリンダと、
前記左油圧シリンダへの作動油の供給方向および供給流量を制御する左制御弁と、
前記右油圧シリンダへの作動油の供給方向および供給流量を制御する右制御弁とを備え、
前記左油圧シリンダと前記右油圧シリンダとは、非対称に前記ブレードに取り付けられ、
前記ブレードが前後方向に傾斜するピッチ動作中に前記左油圧シリンダと前記右油圧シリンダとを異なる速度で伸縮するように前記左制御弁および前記右制御弁を制御するコントローラをさらに備える、作業機械。
【請求項2】
前記ブレードにおける前記左油圧シリンダが取り付けられる左取付位置と、前記ブレードにおける前記右油圧シリンダが取り付けられる右取付位置とが、上下方向において異なり、
前記左油圧シリンダおよび前記右油圧シリンダのうち、前記左取付位置と前記右取付位置とのうち前記上下方向において相対的に低いいずれか一方の取付位置に取り付けられるいずれか一方の油圧シリンダの伸縮速度が、前記左取付位置と前記右取付位置とのうち前記上下方向において相対的に高いいずれか他方の取付位置に取り付けられるいずれか他方の油圧シリンダの伸縮速度よりも小さい、請求項1に記載の作業機械。
【請求項3】
前記左取付位置は、前記上下方向において前記右取付位置よりも低い位置であり、
前記左油圧シリンダの伸縮速度が前記右油圧シリンダの伸縮速度よりも小さい、請求項2に記載の作業機械。
【請求項4】
前記ブレードを最前傾姿勢から最後傾姿勢まで移動させるための、前記左油圧シリンダのストローク量が、前記右油圧シリンダのストローク量よりも小さい、請求項3に記載の作業機械。
【請求項5】
前記ブレードが前記車体に対して左右方向に傾斜していないときの、前記左油圧シリンダが前記ブレードに対してなす角度と、前記右油圧シリンダが前記ブレードに対してなす角度とが異なる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項6】
前記左油圧シリンダと前記右油圧シリンダとは、同一の最大ストローク長を有する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項7】
前記コントローラは、前記左油圧シリンダと前記右油圧シリンダとの少なくともいずれか一方の伸縮速度の設定値を変更可能である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項8】
前記左油圧シリンダに供給される作動油が通過する左方向制御弁と、
前記右油圧シリンダに供給される作動油が通過する右方向制御弁と、をさらに備える、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2005-188276号公報(特許文献1)には、ブルドーザの車両本体と、車両本体の前部に取り付けられたブレードとの間に左右一対の油圧シリンダが設けられ、両方の油圧シリンダが同時に同じ方向に伸縮駆動されてブレードがピッチダンプ動作(前傾動作)またはピッチバック動作(後傾動作)することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-188276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブルドーザにおいて、ブレードが運土姿勢であるフルピッチバック姿勢のときにブレードが右または左に傾いたチルト姿勢とするために、左右の油圧シリンダのブレードへの取付位置を上下方向に異ならせたり、左右の油圧シリンダのブレードに対する取り付け角度を異ならせたりすることがある。左右の油圧シリンダのブレードへの取り付け姿勢が異なる場合には、ブレードを前後に傾斜させるピッチ動作中に、ブレードがオペレータの意図に反する動作をしないことが望まれる。
【0005】
本開示では、ブレードの意図しない動作を回避できる作業機械が提案される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従うと、車体と、車体に支持されるブレードと、ブレードを前後および左右に傾斜させる左油圧シリンダおよび右油圧シリンダと、左油圧シリンダへの作動油の供給方向および供給流量を制御する左制御弁と、右油圧シリンダへの作動油の供給方向および供給流量を制御する右制御弁とを備える、作業機械が提案される。左油圧シリンダと右油圧シリンダとは、非対称にブレードに取り付けられている。作業機械は、コントローラをさらに備えている。コントローラは、左油圧シリンダと右油圧シリンダとを異なる速度で伸縮するように、左制御弁および右制御弁を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る作業機械は、ブレードの意図しない動作を容易に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に基づく作業機械の一例としてのブルドーザの斜視図である。
図2図1に示されるブレード付近を拡大して示す左側面図である。
図3】右チルトシリンダがフレームおよびブレードに対してなす角度を示す模式図である。
図4】左チルトシリンダがフレームおよびブレードに対してなす角度を示す模式図である。
図5】実施形態のブルドーザのシステム構成を示すブロック図である。
図6】EPC弁への指令値とシリンダ伸縮速度との関係を示すグラフである。
図7】ブレードのピッチ動作とシリンダの伸縮とを示す模式図である。
図8】ブレードのチルト動作とシリンダの伸縮とを示す模式図である。
図9】第二実施形態のブルドーザのシステム構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について図面に基づいて説明する。以下の説明では、同一部品には、同一の符号を付している。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0010】
[第一実施形態]
(作業車両の構成)
実施形態においては、作業機械の一例としてブルドーザ10について説明する。図1は、実施形態に基づく作業機械の一例としてのブルドーザ10の斜視図である。
【0011】
図1に示されるように、ブルドーザ10は、履帯式走行体を備え左右方向に離れた一対の走行装置13と、左右一対の走行装置13間に配置された車体11と、車体11の前方に配置されたブレード12と、車体11の後方に配置されたリッパ装置17とを主に備えている。
【0012】
車体11は、キャブ(運転室)18とエンジン室19とを有している。キャブ18は、車体11の後上部に配置されている。ブルドーザ10を操作する運転員は、キャブ18に搭乗する。キャブ18は、運転員が着座するための運転席を内部に有している。エンジン室19は、キャブ18の前方に配置されている。エンジン室19は、キャブ18とブレード12との間に配置されている。エンジン室19内には、ブルドーザ10の駆動源、たとえば内燃エンジンが設置されている。
【0013】
実施形態では、ブルドーザ10が直進走行する方向を、ブルドーザ10の前後方向という。ブルドーザ10の前後方向において、車体11からブレード12が突き出している側を、前方向とする。ブルドーザ10の前後方向において、前方向と逆側の、車体11からリッパ装置17が突き出している側を、後方向とする。ブルドーザ10の左右方向とは、平面視において前後方向と直交する方向である。前方向を見て左右方向の右側、左側が、それぞれ右方向、左方向である。ブルドーザ10の上下方向とは、前後方向および左右方向によって定められる平面に直交する方向である。上下方向において地面のある側が下側、空のある側が上側である。
【0014】
前後方向とは、キャブ18内の運転席に着座した運転員の前後方向である。左右方向とは、運転席に着座した運転員の左右方向である。左右方向とは、ブルドーザ10の車幅方向である。上下方向とは、運転席に着座した運転員の上下方向である。運転席に着座した運転員に正対する方向が前方向であり、運転席に着座した運転員の背後方向が後方向である。運転席に着座した運転員が正面に正対したときの右側、左側がそれぞれ右方向、左方向である。運転席に着座した運転員の足元側が下側、頭上側が上側である。
【0015】
ブルドーザ10は作業機として、車体11の前方にブレード12を備えている。ブレード12は、地表の掘削および整地などの作業を行なうための作業機である。ブルドーザ10は他の作業機として、車体11の後方にリッパ装置17を備えている。リッパ装置17は、岩石などの硬質材料を貫通し破砕するための作業機である。
【0016】
図2は、図1に示されるブレード12付近を拡大して示す左側面図である。ブレード12は、車体11の前方に、車体11との間に隙間を空けて配置されている。ブレード12は、その下縁に、作業時に地面に接触する刃先12Cを有している。図1および図2に示されるように、ブレード12は、左右両側でフレーム14により支持されている。ブレード12は、フレーム14を介して車体11に支持されている。
【0017】
フレーム14は、四角柱状の部材である。フレーム14の前端は、ブレード12の背面に、回転自在の支持部により取り付けられている。フレーム14の後端は、走行装置13の側面に回転自在に支持されている。
【0018】
チルトシリンダ15およびリフトシリンダ16は、油圧シリンダである。ブレード12は、チルトシリンダ15およびリフトシリンダ16によって駆動される。図1には、車体11の左右両側に一対のリフトシリンダ16を備えるブルドーザ10が図示されているが、リフトシリンダ16は1本でもよい。
【0019】
チルトシリンダ15の前端は、ブレード12の背面に回転自在に支持されている。チルトシリンダ15の後端は、フレーム14の上面に回転自在に支持されている。チルトシリンダ15は、左チルトシリンダ15Lと、右チルトシリンダ15Rとを含んでいる。左チルトシリンダ15Lは、車体11の左側のフレーム14とブレード12とに連結されている。右チルトシリンダ15Rは、車体11の右側のフレーム14とブレード12とに連結されている。左チルトシリンダ15Lは、実施形態の左油圧シリンダに相当する。右チルトシリンダ15Rは、実施形態の右油圧シリンダに相当する。
【0020】
右チルトシリンダ15Rは、シリンダ部21とピストンロッド22とを有している。左チルトシリンダ15Lは、シリンダ部31とピストンロッド32とを有している。シリンダ部21,31は、フレーム14に取り付けられている。シリンダ部21,31は、フレーム14および走行装置13を介して、車体11に取り付けられている。ピストンロッド22の前端は、接続ピン23を介して、ブレード12の背面の右側に取り付けられている。ピストンロッド32の前端は、接続ピン33を介して、ブレード12の背面の左側に取り付けられている。
【0021】
シリンダ部21,31は、中空円筒の形状を有している。ピストンロッド22,32は、シリンダ部21,31内に、シリンダ部21,31の軸方向に往復移動可能に支持されている。ピストンロッド22,32は、シリンダ部21,31の端部からシリンダ部21,31の外部に突出する長さを変更可能に構成されている。右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lは、ピストンロッド22,32の往復移動に伴ってその全体の長さを伸縮可能に構成されている。
【0022】
右チルトシリンダ15Rと左チルトシリンダ15Lとは、同一の仕様を有している。右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lのシリンダの長さは同じである。右チルトシリンダ15Rと左チルトシリンダ15Lとは、同一の最大ストローク長を有している。
【0023】
接続ピン23は、右チルトシリンダ15Rのピストンロッド22がブレード12に取り付けられる実施形態の右取付位置に相当する。接続ピン33は、左チルトシリンダ15Lのピストンロッド32がブレード12に取り付けられる実施形態の左取付位置に相当する。図2に示されるように、接続ピン23と接続ピン33との配置は、上下方向において互いに異なっている。具体的には、左取付位置を構成する接続ピン33は、上下方向において、右取付位置を構成する接続ピン23よりも低い位置に配置されている。
【0024】
図3は、右チルトシリンダ15Rがフレーム14およびブレード12に対してなす角度を示す模式図である。図4は、左チルトシリンダ15Lがフレーム14およびブレード12に対してなす角度を示す模式図である。図2および図3,4に示されるように、フレーム14またはブレード12に対する右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lの取り付け角度が異なっている。ブレード12が車体11に対して左右方向に傾斜していないときの、左チルトシリンダ15Lがフレーム14またはブレード12に対してなす角度と、右チルトシリンダ15Rがフレーム14またはブレード12に対してなす角度とが異なっている。
【0025】
具体的には、ブレード12が車体11に対して左右方向に傾斜していないとき、右チルトシリンダ15Rが右のフレーム14に対してなす角度θ1は、左チルトシリンダ15Lが左のフレーム14に対してなす角度θ3よりも大きい。ブレード12が車体11に対して左右方向に傾斜していないとき、左チルトシリンダ15Lがブレード12の背面に対してなす角度θ2は、右チルトシリンダ15Rがブレード12の背面に対してなす角度θ4よりも大きい。
【0026】
接続ピン23と接続ピン33との配置が上下方向において異なり、フレーム14またはブレード12に対する右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lの取り付け角度が異なることにより、右チルトシリンダ15Rと左チルトシリンダ15Lとは、左右方向におけるブルドーザ10の中心線(車体11の中心線)を含み上下方向を含む平面に対して、非対称に配置されている。
【0027】
リフトシリンダ16の前端は、ブレード12の背面に回転自在に取り付けられている。車体11の左右の側面に回転自在にヨーク20(図1)が取り付けられており、リフトシリンダ16の中間部は、ヨーク20を介して車体11の側面に回転自在に支持されている。リフトシリンダ16を油圧によって伸縮することにより、ブレード12は、フレーム14の後端を中心に回転して、上下方向に移動する。車体11には、車体11に対するヨーク20の回転角度を検出するためのヨーク角センサ(図1には不図示)が取り付けられている。ヨーク角センサは、ロータリーエンコーダに代表される回転角センサであってもよい。
【0028】
図5は、実施形態のブルドーザ10のシステム構成を示すブロック図である。図5に示されるように、ブルドーザ10は、上述した右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lに加えて、方向制御弁24,34と、EPC弁(電磁比例制御弁)27,28,37,38と、メイン油圧ポンプ41と、パイロット油圧ポンプ42と、コントローラ50とを主に備えている。
【0029】
メイン油圧ポンプ41とパイロット油圧ポンプ42とは、エンジン室19(図1)内のエンジンに連結され、エンジンの動力によって駆動する。メイン油圧ポンプ41は、オイルタンク43内に溜められた油を、作動油用油路44に供給する。パイロット油圧ポンプ42は、オイルタンク43内に溜められた油を、パイロット油路45に供給する。
【0030】
メイン油圧ポンプ41は、右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15L、ならびにリフトシリンダ16の駆動に用いられる、作動油を供給する。メイン油圧ポンプ41から吐出された作動油は、作動油用油路44を経由して方向制御弁24,34に流入し、方向制御弁24,34の作動により右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lに供給される。メイン油圧ポンプ41と方向制御弁24,34との間の作動油用油路44に、作動油の圧力を一定の圧力に減圧する減圧弁が設けられてもよい。右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15L、ならびにリフトシリンダ16からの戻り油は、戻り管路を経由して、オイルタンク43へ戻る。
【0031】
方向制御弁24,34は、各々ロッド状のスプールを有し、スプールを動かして作動油が流れる方向を切り換えるスプール方式の弁である。方向制御弁24のスプールが軸方向に移動することにより、右チルトシリンダ15Rに対する作動油の供給方向および供給流量が調整される。方向制御弁34のスプールが軸方向に移動することにより、左チルトシリンダ15Lに対する作動油の供給方向および供給流量が調整される。
【0032】
本例においては、油圧アクチュエータである右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lを作動するために、右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lに供給される油は作動油と称される。方向制御弁24,34のスプールを作動するために、方向制御弁24,34に供給される油はパイロット油と称される。パイロット油の圧力はパイロット油圧とも称される。
【0033】
図5では、作動油を送出するメイン油圧ポンプ41と、パイロット油を送出するパイロット油圧ポンプ42とが、別々に設けられている。作動油およびパイロット油は、同一の油圧ポンプから送出されてもよい。たとえば、メイン油圧ポンプ41から送出される作動油の一部が減圧弁で減圧され、その減圧された油がパイロット油として使用されてもよい。
【0034】
EPC弁27,28,37,38は、パイロット油路45に設けられている。EPC弁27,28,37,38は、コントローラ50からの制御信号(EPC電流)に基づいて制御される。EPC弁27,28,37,38は、コントローラ50からの指令値であるEPC電流を受けて、電流値に基づいてパイロット油圧を調整する。
【0035】
EPC弁27,28は、方向制御弁24の一対の受圧室25の各々に供給されるパイロット油のパイロット油圧を調整することにより、スプールを軸方向に移動させ、方向制御弁24の開度を調整する。これによりEPC弁27,28は、方向制御弁24を介して右チルトシリンダ15Rに供給される作動油を調整可能である。EPC弁27,28は、右チルトシリンダ15Rへの作動油の供給方向および供給流量を制御する、実施形態の右制御弁に相当する。
【0036】
EPC弁37,38は、方向制御弁34の一対の受圧室35の各々に供給されるパイロット油のパイロット油圧を調整することにより、スプールを軸方向に移動させ、方向制御弁34の開度を調整する。これによりEPC弁37,38は、方向制御弁34を介して左チルトシリンダ15Lに供給される作動油を調整可能である。EPC弁37,38は、左チルトシリンダ15Lへの作動油の供給方向および供給流量を制御する、実施形態の左制御弁に相当する。
【0037】
コントローラ50は、少なくともEPC弁27,28,37,38を含む一部構成を制御、またはブルドーザ10全体を制御する。コントローラ50は、CPU(Central Processing Unit)、不揮発性メモリ、タイマなどを有している。
【0038】
(ピッチ動作時のシリンダ伸縮速度)
右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lが油圧により伸縮することで、ブレード12が前後方向に傾斜する。このブレード12が前後方向に傾斜する動作はピッチ動作と呼ばれる。右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lが伸長することで、ブレード12がピッチダンプ動作(前傾動作)する。右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lが収縮することで、ブレード12がピッチバック動作(後傾動作)する。
【0039】
ブレード12が車体11に対して左右方向に傾斜する動作はチルト動作と呼ばれる。右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lのいずれか一方のみを伸縮させることで、ブレード12にチルト動作をさせることができる。右チルトシリンダ15Rが伸縮しない状態で、左チルトシリンダ15Lだけが伸長することでブレード12は右方に傾斜(右チルト)し、左チルトシリンダ15Lだけが収縮することでブレード12は左方に傾斜(左チルト)する。左チルトシリンダ15Lが伸縮しない状態で、右チルトシリンダ15Rだけが伸長することでブレード12は左チルトし、右チルトシリンダ15Rだけが収縮することでブレード12は右チルトする。
【0040】
実施形態10のブルドーザ10では、接続ピン23と接続ピン33との配置が上下方向において異なり、フレーム14またはブレード12に対する右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lの取り付け角度が異なる。これにより、右チルトシリンダ15Rと左チルトシリンダ15Lとは、左右方向におけるブルドーザ10の中心線(車体11の中心線)を含み上下方向を含む平面に対して、非対称に配置されている。
【0041】
レバー操作や、ボタン操作等により、非対称に配置された右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lを等速で伸縮させて、ブレード12をピッチ動作させると、ブレード12が左右にも傾斜(チルト動作)し、ピッチ動作の途中でブレード12の左端部が下方に傾いてしまうことを本発明者らは見出した。本発明者らは、ブレード12がピッチ動作中にチルト動作するという意図しない動作を回避するための検討を進め、右チルトシリンダ15RのEPC電流の指令値と左チルトシリンダ15LのEPC電流の指令値とを個別設定できるようにし、ピッチ動作時に右チルトシリンダ15Rに対する左チルトシリンダ15LのEPC電流の指令値を調整して、左チルトシリンダ15Lと右チルトシリンダ15Rとを異なる速度で伸縮させることを知見した。
【0042】
図6は、EPC弁への指令値とシリンダ伸縮速度との関係を示すグラフである。図6に示されるグラフの横軸は、ブレード12をピッチ動作させるときにコントローラ50からEPC弁に出力される電流値を示す。電流値IRは、右チルトシリンダ15Rへの作動油の供給を制御するためのEPC弁27,28に出力される電流値を示す。電流値ILは、左チルトシリンダ15Lへの作動油の供給を制御するためのEPC弁37,38に出力される電流値を示す。
【0043】
図6の縦軸は、ブレード12をピッチ動作させるときのチルトシリンダ15の伸縮速度を示す。シリンダ伸縮速度VRは、右チルトシリンダ15Rの伸縮速度を示す。シリンダ伸縮速度VLは、左チルトシリンダ15Lの伸縮速度を示す。
【0044】
図2を参照して説明した通り、左チルトシリンダ15Lがブレード12に取り付けられる左取付位置(接続ピン33)が、右チルトシリンダ15Rがブレード12に取り付けられる右取付位置(接続ピン23)よりも、上下方向において低い位置にある。この場合、図6に示されるように、左チルトシリンダ15Lの伸縮速度を、右チルトシリンダ15Rの伸縮速度よりも小さくする。右チルトシリンダ15Rのシリンダ伸縮速度VRと、左チルトシリンダ15Lのシリンダ伸縮速度VLとは、0よりも大きく1未満の係数αを用いて、VL=α×VRと表記される。
【0045】
この係数αは、ブレード12を最前傾姿勢から最後傾姿勢まで移動させるための、右チルトシリンダ15Rと左チルトシリンダ15Lとのストローク量の比に従って、設定される。図7は、ブレード12のピッチ動作と右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lの伸縮とを示す模式図である。図7には、左側方から見たブレード12を模式的に示し、そのブレード12の姿勢に対応する右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lの伸縮状態を模式的に示す。図7(A)はブレード12が最前傾姿勢である状態に相当し、図7(B)はブレード12が最後傾姿勢である状態に相当する。
【0046】
図7(A)に示されるように、ブレード12が最前傾姿勢であるとき、右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lは両方とも、シリンダ長が最大となっている。図7(A)に示される右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lはいずれも最も伸長した状態であり、ピストンロッド22,32はいずれもストロークエンドの位置にある。
【0047】
図7(B)に示されるように、ブレード12が最後傾姿勢であるとき、右チルトシリンダ15Rはシリンダ長が最小となっている。図7(B)に示される右チルトシリンダ15Rは最も収縮した状態であり、ピストンロッド22はストロークエンドの位置にある。一方、左チルトシリンダ15Lは、シリンダ長が最小ではなく、ピストンロッド32はストロークエンドの位置にはない。ブレード12を最前傾姿勢から最後傾姿勢まで移動させるための、左チルトシリンダ15Lのストローク量が、右チルトシリンダ15Rのストローク量よりも小さくなっている。
【0048】
ブレード12を最前傾姿勢から最後傾姿勢まで移動させるための、左チルトシリンダ15Lのストローク量が、たとえば右チルトシリンダ15Rのストローク量に対して10%短い場合には、左チルトシリンダ15Lのシリンダ伸縮速度VLを右チルトシリンダ15Rのシリンダ伸縮速度VRに対して10%遅くし、上述した係数α=0.9とすることができる。左チルトシリンダ15Lのシリンダ伸縮速度VLが右チルトシリンダ15Rのシリンダ伸縮速度VRの0.9倍であるときの電流値ILが、図6のグラフを用いて求められる。EPC弁37,38に対し、EPC弁27,28に入力される電流値IRよりも小さい適切な値の電流値ILを入力することにより、左右のチルトシリンダ15の速度の比が適切に設定される。
【0049】
図8は、ブレード12のチルト動作と右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lの伸縮とを示す模式図である。図8には、前方から見たブレード12を模式的に示し、そのブレード12の姿勢に対応する右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lの伸縮状態を模式的に示す。図8中に二点鎖線で示される直線LNは、走行装置13の履帯の下面に平行な線を示す。
【0050】
図8(A)に示されるブレード12は、最後傾姿勢にある。最後傾姿勢において、前方から見たブレード12は、チルトしていない。上記の設定により左チルトシリンダ15Lと右チルトシリンダ15Rとの伸縮速度を制御することにより、最前傾姿勢から最後傾姿勢までピッチ動作する間、ブレード12は、チルトしていない姿勢を維持している。図8(A)に示される右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lは、図7(B)と同じ伸縮状態である。右チルトシリンダ15Rはシリンダ長が最小である。左チルトシリンダ15Lはシリンダ長が最小ではなくさらなる収縮が可能である。
【0051】
図8(A)と比較して図8(B)では、右チルトシリンダ15Rはシリンダ長を最小としたまま伸縮しておらず、右チルトシリンダ15Rは収縮してシリンダ長が最小となっている。左チルトシリンダ15Lは最も収縮した状態であり、ピストンロッド32はストロークエンドの位置にある。上述した通り、右チルトシリンダ15Rが伸縮しない状態で左チルトシリンダ15Lだけが収縮することで、ブレード12は左方に傾斜(左チルト)する。ブレード12が最後傾姿勢(フルピッチバック姿勢)のときに、ブレードを左右に傾けるチルト動作が可能とされている。
【0052】
(作用および効果)
上述した説明と一部重複する記載もあるが、本実施形態の特徴的な構成および作用効果についてまとめて記載すると、以下の通りである。
【0053】
実施形態のブルドーザ10は、図5に示されるように、コントローラ50を備えている。コントローラ50は、EPC弁27,28,37,38を制御する。図2に示されるように、左チルトシリンダ15Lと右チルトシリンダ15Rとは、非対称にブレード12に取り付けられている。図5に示されるEPC弁27,28は、右チルトシリンダ15Rへの作動油の供給方向および供給流量を制御する、実施形態の右制御弁に相当する。EPC弁37,38は、左チルトシリンダ15Lへの作動油の供給方向および供給流量を制御する、実施形態の左制御弁に相当する。図7に示されるように、コントローラ50は、左チルトシリンダ15Lと右チルトシリンダ15Rとを異なる速度で伸縮するように、EPC弁27,28およびEPC弁37,38を制御する。
【0054】
コントローラ50は、EPC弁27,28およびEPC弁37,38への指令値を各々調整でき、左右の方向制御弁24,34へのパイロット油圧を個別に設定可能である。これによりコントローラ50は、ブレード12が前後方向に傾斜するピッチ動作中に、左チルトシリンダ15Lと右チルトシリンダ15Rとの収縮する速度を個別に設定可能である。
【0055】
ピッチ動作中の左右非対称の右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lを異なる速度で収縮させることで、ブレード12をチルトさせずに最前傾姿勢から最後傾姿勢までピッチ動作させるような制御が可能である。ピッチ動作中にブレード12がオペレータの意図に反してチルト動作することを回避できることにより、左右に傾斜したブレード12の姿勢を正す操作が不要になることで、操作性を向上することができる。
【0056】
図2に示されるように、ブレード12に左チルトシリンダ15Lが取り付けられる接続ピン33の位置と、ブレード12に右チルトシリンダ15Rが取り付けられる接続ピン23の位置とが、上下方向において互いに異なっており、接続ピン33は上下方向において接続ピン23の位置よりも低く配置されている。図7に示されるように、左チルトシリンダ15Lが収縮する速度が、右チルトシリンダ15Rが収縮する速度よりも小さくされている。このように、右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lの配置に対応させて左右のチルトシリンダ15のシリンダ伸縮速度を調整することで、ピッチ動作中のブレード12のチルト動作を確実に回避することができる。
【0057】
図7に示されるように、ブレード12を最前傾姿勢から最後傾姿勢まで移動させるための左チルトシリンダ15Lのストローク量が、ブレード12を最前傾姿勢から最後傾姿勢まで移動させるための右チルトシリンダ15Rのストローク量よりも小さい。図8に示されるように、ブレード12が最後傾姿勢のときに左チルトシリンダ15Lをさらに収縮させることができるので、最後傾姿勢においてブレード12をチルト動作させることが可能になる。
【0058】
図2に示されるように、ブレード12が車体11に対して左右方向に傾斜していないときの、左チルトシリンダ15Lがブレード12に対してなす角度と、右チルトシリンダ15Rがブレード12に対してなす角度とが異なっている。ブレード12に対する取り付け角度に対応させて左右のチルトシリンダ15のシリンダ伸縮速度を調整することで、ピッチ動作中のブレード12のチルト動作を確実に回避することができる。
【0059】
図7,8に示されるように、左チルトシリンダ15Lと右チルトシリンダ15Rとは、同一の最大ストローク長を有している。同一の仕様の油圧シリンダを左右のチルトシリンダ15に用い、左右の油圧シリンダを共通品とすることで、ブルドーザ10の製造コストを低減することができる。
【0060】
コントローラ50は、左チルトシリンダ15Lと右チルトシリンダ15Rとの少なくともいずれか一方の伸縮速度の設定値を変更可能であってもよい。図5に示されるEPC弁27,28およびEPC弁37,38は、コントローラ50からの指令値であるEPC電流を受けて、右チルトシリンダ15Rおよび左チルトシリンダ15Lに供給される作動油を制御する。コントローラ50は、EPC弁27,28への指令値とEPC弁37,38への指令値との少なくともいずれか一方を、変更可能であってもよい。
【0061】
左右のチルトシリンダ15は、同一の仕様であっても個体のバラつきを有していることがある。各々のチルトシリンダ15の個体差に対応してシリンダ伸縮速度の設定値を調整可能とすることで、ブレード12のピッチ動作中に、ブレード12を確実にチルト動作させることなく最前傾姿勢から最後傾姿勢まで移動させることができる。たとえば、シリンダ伸縮速度が相対的に大きい右チルトシリンダ15Rのシリンダ伸縮速度を固定し、左チルトシリンダ15Lのシリンダ伸縮速度を右チルトシリンダ15Rに対して相対的に速度調整することで、ブレード12がチルトしない姿勢を維持することが可能である。
【0062】
[第二実施形態]
図9は、第二実施形態のブルドーザ10のシステム構成を示すブロック図である。第二実施形態では、リフトシリンダ16のセンシング機能を活用したフィードバック制御を用いる例について説明する。
【0063】
図9に示されるように、リフトシリンダ16は、車体11の左方に配置される左リフトシリンダ16Lと、車体11の右方に配置される右リフトシリンダ16Rとを含んでいる。図1を参照して説明したように、右リフトシリンダ16Rと左リフトシリンダ16Lとは、ヨーク20を介して車体11の側面に回転自在に支持されている。車体11には、ヨーク角センサ52が取り付けられている。ヨーク角センサ52は、車体11に対する左右のヨーク20の回転角度(ヨーク角)を検出する。ヨーク角センサ52に替えて、左右のリフトシリンダ16にシリンダストロークセンサが取り付けられて、左右のリフトシリンダ16の伸縮量が検出されてもよい。
【0064】
ヨーク角センサ52で検出された左右のヨーク角、またはシリンダストロークセンサで検出された左右のリフトシリンダ16の伸縮量は、コントローラ50に入力される。コントローラ50は、この入力された検出結果に基づいて、ヨーク角またはリフトシリンダ16の伸縮量の左右差がなくなるように、EPC弁27,28,37,38へ出力されるEPC電流を調整する。図6を併せて参照して、右チルトシリンダ15Rへの作動油を制御するためのEPC弁27,28に出力される電流値IRを一定とし、左チルトシリンダ15Lへの作動油を制御するためのEPC弁37,38に出力される電流値ILを調整してもよい。
【0065】
左右のリフトシリンダ16に関する検出結果に基づいて、EPC弁27,28およびEPC弁37,38に出力される指令値を調整して左チルトシリンダ15Lと右チルトシリンダ15Rとの伸縮速度の設定値を変更するフィードバック制御をする。これにより、ブレード12の姿勢を補正しながらのピッチ動作が可能となり、ブレード12がチルトしない姿勢をより確実に維持することができる。ブレード12の姿勢を初期調整する必要がなくなり、操作性をさらに向上することができる。
【0066】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0067】
10 ブルドーザ、11 車体、12 ブレード、12C 刃先、13 走行装置、14 フレーム、15,15L,15R チルトシリンダ、16,16L,16R リフトシリンダ、17 リッパ装置、18 キャブ、19 エンジン室、20 ヨーク、21,31 シリンダ部、22,32 ピストンロッド、23,33 接続ピン、24,34 方向制御弁、25,35 受圧室、27,28,37,38 EPC弁、41 メイン油圧ポンプ、42 パイロット油圧ポンプ、43 オイルタンク、44 作動油用油路、45 パイロット油路、50 コントローラ、52 ヨーク角センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9