(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 1/12 20060101AFI20240613BHJP
B43K 1/00 20060101ALI20240613BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20240613BHJP
B43K 8/04 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B43K1/12 B
B43K1/00 110
B43K8/02 100
B43K8/02 110
B43K8/02 120
B43K8/04 100
(21)【出願番号】P 2020147295
(22)【出願日】2020-09-02
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】中島 徹
(72)【発明者】
【氏名】中田 瑛太
(72)【発明者】
【氏名】神谷 俊史
(72)【発明者】
【氏名】佐川 弥
(72)【発明者】
【氏名】米谷 彩
(72)【発明者】
【氏名】六樂内 新也
(72)【発明者】
【氏名】福田 千絵
(72)【発明者】
【氏名】江藤 菜美子
【審査官】砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-291689(JP,A)
【文献】実開昭61-12782(JP,U)
【文献】特開2014-46476(JP,A)
【文献】特開2008-6668(JP,A)
【文献】特開2000-33797(JP,A)
【文献】特開2000-6576(JP,A)
【文献】実開平6-32083(JP,U)
【文献】実開昭61-126911(JP,U)
【文献】特開平11-138085(JP,A)
【文献】特開平7-213982(JP,A)
【文献】実開昭50-85330(JP,U)
【文献】実開昭58-9778(JP,U)
【文献】特開昭55-130798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00-1/12
B43K 5/00-8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記具本体となる軸筒内のインクを軸筒先端側に設けたペン芯に供給して筆記可能となる筆記具であって、前記ペン芯の外周に径方向に拡径する段部を設けると共に、最大外径部の軸線方向に空気置換用の空間部を形成
し、軸筒内には弁機構を有すると共に、前記ペン芯の後端部は、弁機構の弁体と把持用コマ部材を介して連結してなる筆記具と、該筆記具に用いる別のペン芯として、外周にホルダ部材と内周に細ペン芯とを有すると共に、前記ホルダ部材には軸線方向に空気置換用の離間状の空気置換部とから構成される別のペン芯とを備え、かつ、前記筆記具のペン芯と該別のペン芯とは互いに交換可能な構造となることを特徴とする筆記具セット。
【請求項2】
前記把持用コマ部材は、先端側にペン芯の後端部に形成した嵌合用の凹部に嵌合する突起部と、上記ペン芯の後端部の外径が同じ本体部と、後端側に弁体の開口内に嵌合する後端部とから構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の筆記具セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記描線幅が太めとなるペン芯を用いても、その筆記描線幅を維持しつつ、筆記具の軸径を細くできる筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、筆記具において、筆記描線幅が太めとなる太めのペン芯を用いる場合にはそれに合わせて筆記具の軸径も太くなるものであり、また、筆記描線幅が細いものなる細めのペン芯を用いる場合にはそれに合わせて筆記具の軸径も細いものであった。
筆記描線幅が太めとなるペン芯を備えたマーキングペンなどは、軸径も太いものであるため、筆箱などに収納する場合、スペースを取り、例えば、ペン芯が太い複数本のマーキングペンと軸径が細い筆記具などを一緒に筆箱に収容する場合、筆箱自体大きいサイズを用意しなければならないなどの煩わしさがあった。
【0003】
筆記具のペン芯の大きさ、形状、インク供給機構などを考慮した筆記具としては、例えば、
1) ペン先とインキを収容する本体部の間にバルブ機構を 備え、ペン先の押圧によりバルブ機構が開放し、本体部内のインキがペン先に誘導される筆記具であって、キャップ体装着時にバルブ機構が開放されていることを特徴とする筆記具(例えば、特許文献1参照)。
2) 複数のペン体を有し、軸筒に設けたインク貯蔵部内のインクをペン体に供給するマーキングペンにおいて、ペン体はインクを導通する材料からなり、複数のペン体同士が直接接して前記インク貯蔵部内のインクがペン体に導通可能に連結されていることを特徴とするマーキングペン(例えば、特許文献2参照)
3) 軸筒と、該軸筒に収容されるインキ吸蔵体と、該インキ吸蔵体に接続される交換可能なペン先とからなるペン先交換式筆記具であって、交換後ペン先のインキ吸蔵体との差し込み長さが、交換前ペン先のインキ吸蔵体との差し込み長さより長いことを特徴とするペン先交換式筆記具、並びに、前記ペン先が係止用段部と、該係止用段部の前方に形成される縮径部とを備え、交換後ペン先の縮径部の長さが、交換前ペン先の縮径部の長さより長いことを特徴とするペン先交換式筆記具(例えば、特許文献3参照)、
4) 筆記具軸筒の先端部に、細いペン先体より、太い径の太ペン先体を装着したホルダを着脱自在に装着し、装着した状態で、細いペン先体の先端面と太ペン先体の後端面とが接触するように設けたことを特徴とする筆記具(例えば、特許文献4参照)
【0004】
しかしながら、上記特許文献1~3の筆記具等は、ペン先体などの外径の変化はなく、筆記具の軸径を細くできるという技術思想はないものである。上記特許文献4の筆記具は、細いペン先体に、太い径の太ペン先体を装着したホルダを単に着脱自在に装着したものであり、筆記具の軸径を変化させずに、筆記目的に応じて、細いペン先体又は太いペン先体による筆記により、筆記描線の太さを選択することができるものであるが、太いペン先体による筆記の場合に、空気置換などは考慮されておらず、良好な筆記を行うことができないなどの課題があるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-265147号公報(特許請求の範囲、
図1~
図4)
【文献】特開2017- 52248号公報(特許請求の範囲、
図1等)
【文献】特開2005-131896号公報(特許請求の範囲、
図1~
図4)
【文献】特開2012-176527号公報(特許請求の範囲、
図1~
図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題などに鑑み、これを解消しようとするものであり、筆記描線幅が太めとなる太めのペン芯を用いても、その筆記描線幅を維持しつつ、筆記具の軸径を細くできる筆記具などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来の課題等を解決するために鋭意検討した結果、筆記具本体となる軸筒内のインクを軸筒の先端側に設けたペン芯に供給して筆記可能となる筆記具であって、前記ペン芯の外周を特定構造とすると共に、最大外径部の軸線方向に特定の構造を形成することにより、上記目的の筆記具が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明の筆記具は、筆記具本体となる軸筒内のインクを軸筒の先端側に設けたペン芯に供給して筆記可能となる筆記具であって、前記ペン芯の外周に径方向に拡径する段部を設けると共に、最大外径部の軸線方向に空気置換用の空間部を形成したことを特徴とする。
軸筒内には弁機構を備えると共に、ペン芯の後端部の最小外径部は、弁機構の弁体と連結していることが好ましい。
上記構成の筆記具に用いるペン芯であって、該ペン芯は外周にホルダ部材と内周に細ペン芯とで構成し、かつ、上記構成の筆記具のペン芯と互いに交換可能な構造であることが好ましい。
本発明の筆記具セットは、上記構成の筆記具と、上記構成のペン芯とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、筆記描線幅が太めとなる太めのペン芯を用いても、その筆記描線幅を維持しつつ、筆記具の軸径を細く(スリム化)できる筆記具が提供される。
また、本発明の筆記具セットによれば、太ペン芯と細ペン芯との交換により生じるインク供給の不良などはなく、スムーズなインクの供給、太め、細めの良好な筆記描線が得られるものとなる。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態の一例を示す筆記具の図面であり、(a)は正面図、(b)は縦断面図である。
【
図2】
図1の筆記具に用いるペン芯の図面であり、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は左側面図、(d)は正面図、(e)は右側面図である。
【
図3】本発明の実施形態の他例を示す筆記具の図面であり、(a)は正面図、(b)は縦断面図である。
【
図4】
図3の筆記具に用いるペン芯の図面であり、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は左側面図、(d)は正面図、(e)は右側面図、(f)は縦断面図である。
【
図5】本発明の筆記具に用いるペン芯の他例を示す図面であり、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は左側面図、(d)は正面図、(e)は右側面図である。
【
図6】本発明の実施形態の他例を示す筆記具の図面であり、(a)は正面図、(b)は縦断面図である。
【
図7】
図6の筆記具において、ペン芯の後端部と弁機構の弁部とを連結する連結部材となる把持用コマ部材の一例を示す図面であり、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述するそれぞれの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0012】
図1は、本発明の実施形態の一例を示す筆記具の正面図と縦断面図であり、
図2は
図1の筆記具に用いるペン芯の各図面である。
本実施形態の筆記具Aは、
図1~
図2に示すように、筆記具本体となる軸筒10と、該軸筒10内に直接収容した筆記具用インク15と、先軸20、ペン芯30、弁機構40とを少なくとも有し、筆記具本体となる軸筒10内のインク15を軸筒10の先端側に固着した先軸20に保持したペン芯30に供給して筆記可能とするものである。
【0013】
筆記具本体となる軸筒10は、例えば、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂などの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂(以下、上記各々の樹脂を単に「各樹脂」という)や金属等を用いて形成されるものであり、筒状体で、後端部は閉鎖しており、先端側は開口部11となっており、その開口部11内には先軸20が嵌合により固着されている。
【0014】
軸筒10内に収容される筆記具用インク15の組成は、特に限定されず、筆記具の用途等に応じて、水性インク、油性インク、熱変色性インクなどの好適な配合処方とすることができ、例えば、アンダーラインペン等ではインクに蛍光色素、例えば、ベーシックバイオレット11、ベーシックイエロー40などを用いることができ、また、熱変色性マイクロカプセル顔料などを含有させることができる。
【0015】
より好適には、水と、水溶性有機溶剤と、着色剤と、グリセリルグルコシドとを少なくとも含む筆記具用インクを組成物とすることで、ペン先乾燥の抑制効果に優れ、筆跡の表面が早く乾燥して筆跡を擦っても伸びず、低温環境下においても筆跡がカスレたりすることをさらに防ぐことができる。
【0016】
用いるグリセリルグルコシドとは、グリセリンとグルコースがα結合で縮合したαグリセリルグルコシドと、β結合で縮合したβグリセリルグルコシドであり、マルトオリゴ糖とグリセリンの混合液にα-グルコシダーゼを作用させることで得られる酵素反応生成物であっても、グリセリンとグルコースの縮合反応によって得られる生成物であっても良い。グリセリルグルコシドとしては、αグリセリルグルコシドとβグリセリルグルコシドが挙げられ、αグリセリルグルコシドがより好ましく、αグリセリルグルコシドの具体例としてαGG、αGG-L(以上、JST株式会社製)などが挙げられる。これらのグリセリルグルコシドの添加量はインク組成物全量に対し、0.5質量%以上30.0質量%以下が好ましい。これらのグリセリルグルコシドは、単独、あるいは2種以上混合して使用しても良い。
【0017】
筆記具用インクで用いることができる水としては、水道水、地下水、イオン交換水、純水、超純水などが挙げられ、特に限定されることなく使用できる。
【0018】
筆記具用インクで用いることができる着色剤は、特に制限されることなく染料、顔料が使用できる。
【0019】
染料は、水溶性染料が使用できる。水溶性染料の具体的としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料などが挙げられる。これらの染料は、単独、あるいは2種以上混合して使用しても良い。
【0020】
顔料の具体例としては、ファーネストブラック、コンタクトブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、群青、紺青、コバルトブルー、チタンイエロー、ターコイズ、モリブデートオレンジ、酸化チタン、金粉、銀粉、銅粉、アルミニウム粉、真鍮粉、錫粉、雲母系顔料、C.I.PIGMENT RED 2、同3、同5、同17、同22、同38、同41、同48:2、同48:3、同49、同50:1、同53:1、同57:1、同58:2、同60、同63:1、同63:2、同64:1、同88、同112、同122、同123、同144、同146、同149、同166、同168、同170、同176、同177、同178、同179、同180、同185、同190、同194、同206、同207、同209、同216、同245、C.I.PIGMENT ORANGE 5、同10、同13、同16、同36、同40、同43、C.I.PIGMENT VIOLET 19、同23、同31、同33、同36、同38、同50、C.I.PIGMENT BLUE 2、同15、同15:1、同15:2、同15:3、同15:4、同15:5、同16、同17、同22、同25、同60、同66、C.I.PIGMENT BROWN 25、同26、C.I.PIGMENT YELLOW 1、同3、同12、同13、同24、同93、同94、同95、同97、同99、同108、同109、同110、同117、同120、同139、同153、同166、同167、同173、C.I.PIGMENT GREEN 7、同10、同36、などが挙げられる。これらの顔料は、単独、あるいは2種以上混合して使用しても良い。また、着色剤として顔料と染料を併用して用いることもできる。
【0021】
着色剤に顔料を用いた場合は、顔料を安定に分散させるために分散剤を使用することもできる。分散剤として、従来一般に用いられている水溶性樹脂もしくは水可溶性樹脂や、アニオン系もしくはノニオン系の界面活性剤などの、顔料の分散剤として用いられるものを用いることができる。これらの水可溶性樹脂および界面活性剤の添加量は顔料10.0重量%に対し、0.05質量%以上20.0質量%以下が好ましい。これらの水可溶性樹脂および界面活性剤は、単独、あるいは2種以上混合して使用しても良い。
【0022】
また、顔料を水性媒体に分散した顔料分散体も用いることができる。顔料分散体としては、無機顔料、有機顔料、蛍光顔料などが使用でき、単独、あるいは2種以上混合して使用しても良い。ただし、着色された樹脂粒子を着色剤として用いる場合は、樹脂粒子が有機溶剤に溶解しないものを用いる。
【0023】
上記で記載された着色剤以外に、色味を調整するために樹脂粒子やワックス粒子、樹脂エマルションのような無色粒子を用いることができる。中でも酸化ポリエチレンワックス粒子を用いることで筆跡の裏移りを同時に抑制することができる。
【0024】
着色剤、無色粒子に限らず、筆記具用インク中の固形分濃度を25質量%以上にすることで筆跡の裏移りを抑制することができるため好ましい。また、酸化ポリエチレンワックス粒子を用いると筆記具インク中の固形分濃度が25質量%以下であっても筆跡の裏移りを抑制でき、酸化ポリエチレンワックス粒子の含有量は、インク組成物全量に対し、0.1質量%以上50.0質量%以下が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上23.0質量%以下であり、最も好ましくは1.0質量%以上15.0質量%以下である。
【0025】
筆記具用インクに用いられる水溶性有機溶剤は、水100gに対して10g以上溶解することのできる有機溶剤を示す。これらの水溶性有機溶剤の中でも、筆跡の紙への浸透性とペン先乾燥抑制の観点から、グリコールエーテルや環状構造を持つ水溶性有機溶剤が好ましく、環状構造を持つ水溶性有機溶剤がより好ましい。また、これらの水溶性有機溶剤の中でも、グリコールエーテル及び/または環状構造を持つ水溶性有機溶剤と多価アルコールとを併用することで、グリセリルグルコシドと水溶性有機溶剤との相互作用によって、ペン先乾燥の抑制と筆跡の紙への浸透性が一層向上するため好ましい。これらの水溶性有機溶剤の添加量は、インク組成物全量に対し0.1質量%以上50.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以上20.0質量%以下がより好ましい。これらの水溶性有機溶剤は、単独、あるいは2種以上混合して使用しても良い。
【0026】
筆記具用水性インクの粘度は、測定温度25℃、剪断速度76.6s-1において1.0mPa・s以上20.0mPa・s以下が好ましい。また、表面張力は30~60mN/mであることが好ましい。
【0027】
上記成分の他に、必要に応じて、潤滑剤、粘度調整剤、潤滑剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤、消泡剤、pH調整剤などの添加剤を併用して用いることができる。これらの、添加剤は、単独、あるいは2種以上混合して使用しても良い。
【0028】
筆記具用水性インクを製造するには、上記の顔料及び/又は顔料分散体と、染料とから選ばれる1種もしくは2種以上の着色剤と、水及び/又は有機溶剤と、分散剤と、をホモミキサー等の分散機にて充分に混合攪拌した後、他の添加剤、例えば粘度調整剤や、pH調整剤、色調調整のための染料、潤滑剤等を混合し、更に均一になるまで溶解、混合することで得られるが、場合によって混合したインクをさらに分散機にて分散したり、得られたインクを濾過や遠心分離機に掛けて粗大粒子や不溶解成分を除いたりすることは何ら差し支えない。
【0029】
先軸20は、概略管状構造であり、軸線方向の中央部外周にフランジ部21を有し、フランジ部21の後方側筒状部22が軸筒10の開口部11内に嵌合し、フランジ部21の前方側は先細の筒状部23となっており、先軸20内にペン芯30が配置される。
【0030】
ペン芯30は、
図2(a)~(e)に示すように、先端側が筆記部31となる大径部32、中央部側の中径部33、後端側が小径部34と順に段状に縮径したものであり、中径部33前方側外周に径方向に拡径する段部35を設けると共に、最大外径部となる大径部32の軸線方向に空気置換用の溝状(凹状)の空間部36が形成されている。空気置換用の空間部35の形状は、筆記の際にインクの供給と空気置換が効率よく順調に行われるものであれば、その形状、長さ、個数などは特に限定されず、例えば、平面状としてもよいものである。
このペン芯30は、先端となる筆記部31側が砲弾状(丸芯)を呈ししている。なお、丸芯の他、角芯であってもよい。
【0031】
上記構成のペン芯30は、全体が多孔質部材から構成されるものであり、例えば、天然繊維、獣毛繊維、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂などの1種又は2種以上の組み合わせからなる並行繊維束、フェルト等の繊維束を加工又はこれらの繊維束を樹脂加工した繊維芯、または、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の熱可塑性樹脂などのプラスチック粉末などを焼結したポーラス体(焼結芯)、押し出し成形した押出成形芯などから構成される。
好ましいペン芯30としては、繊維束芯、繊維芯、焼結芯、フェルト芯、無機多孔体芯などが挙げられ、これらの外周を更に樹脂フィルムなどで被覆した被覆繊維芯などであってもよいものである。また、用いるペン芯30の気孔率、硬度などは、インク種、筆記具の種類等により、変動するものであり、例えば、気孔率では30~60%とすることが好ましい。また、本発明において、「気孔率」は、下記のようにして算出される。まず、既知の質量及び見掛け体積を有する筆記芯を水中に浸し、十分に水を浸み込ませた後、水中から取り出した状態で質量を測定する。測定した質量から、筆記芯に浸み込ませた水の体積が導出される。この水の体積を筆記芯の気孔体積と同一として、下記式から、気孔率が算出される。
気孔率(単位:%)=(水の体積)/(ペン芯30の見掛け体積)×100
【0032】
前記軸筒10内に固着した先軸20の後端側には、弁(バルブ)機構40が内蔵されている。この弁機構40は、
図1(b)に示すように、弁ホルダ41、弁体42、弁座43及びスプリングからなる弾性部材44とを備えている。
前記弁ホルダ41は、先端にフランジ41aを備え、後部面にインク流通孔41bの形成された筒状体である。このインク流通孔内41bに、弁体42の後部が進退動可能に装着される。
前記弁体42は、その中央部の周面に傘状の環状突起42aが形成されている。前記弁体42の先端部は中空開口42bを備え、前記開口42b(弁体42の先端面)にはペン芯30の後端部の最小外径部34の後端が嵌合して連結されている。
【0033】
また、弁ホルダ41の先端部には、長さ寸法が弁ホルダ41よりも短い筒状の弁座43 が装着されている。弁座43の周囲のフランジ部43aが、弁ホルダ41のフランジの先 端面に当接することによって、弁座43は弁ホルダ41に位置決めされる。その弁座43の後部の凹部形状の座面43bに、前記弁体42周面が当接・離脱して弁機能を奏するように構成されている。
更に、弾性部材44が、弁体42と弁ホルダ41との間に装着されている。この弾性部材44は、弁座43から離脱した弁体42を、弾性部材44の反発力によって、弁体42が弁座43に当接する状態に戻すものである。なお、前記弁ホルダ41、弁体42、弁座43は樹脂材からなる。弾性部材44はSUSや樹脂等のスプリング部材から構成される。
本実施形態では、先軸20の筒状部23の後端側にはペン芯30の中径部33の外周に円筒状のインク吸液部材37が装着されている。この吸液部材37は、弁操作により、弁機構40からペン芯30側に流入等し、過剰等となるインクを吸液(吸収)し、筆記具Aからのインクの漏れを抑制するものである。
【0034】
このように構成される筆記具Aでは、以下の動作、作用によりペン芯30の筆記部31に対して、インクの供給、遮断がなされる。
筆記部31を紙面に対して、弾性部材44の反発力に抗しながら、押圧(ポンピング)すると、筆記部31は前方側筒状部23に対して、後方に移動し、弁体42を後方に押す。そして、押された弁体42は、弁座43から離脱し、弁を開放し、軸筒10内に収容されたインクをペン芯30の毛管により筆記部31へと供給する。
一方、筆記部31を紙面から離すと、弾性部材44の反発力によって、ペン芯30の筆記部31及び弁体42は先方に移動する。そして、先方に移動した弁体42は、弁座43に当接し、弁を閉じ、インクの供給を遮断している。
本実施形態では、ペン芯30は、後方側へいくほど段落としとなっており、ポンピング時に弁機構(バルブ)40内に潜り込む構成となっている。
【0035】
本実施形態は、太めのペン芯〔筆記描線幅(実寸)が1.8~2.5mm〕を用いても、軸径を60%スリム化(内径φを16.5mmから10.3mm)するもの、すなわち、細めのペン芯〔筆記描線幅(実寸)が0.9~1.4mm〕用の軸径10.3mmの筆記具に太めのペン芯〔筆記描線幅(実寸)が1.8~2.5mm〕を用いても、太めのペン芯30には空気置換用の溝状(凹状)の空間部35が形成されているので、インクの供給がスムーズであり、筆記も良好に行うことができ、その筆記描線幅(1.8~2.5mm)を維持しつつ、筆記具の軸径を細く(60%スリム化)できることが判った。これにより、太めのペン芯を用いても軸径をスリム化した今までにない斬新なスマートな筆記具では、持ち運びの煩わしさを解消でき、多色のペンセットを持ち運ぶなどの日常使いしてもらうことによりアートクラフト意欲等も満足できるものとなる。
本実施形態では、筆記描線幅が太めとなる太めのペン芯を用いても、筆記具としての機能を損なうことなく軸径を細くできることを効果的に発揮させる点から、ペン芯30の最大外径は、軸筒(筆記具本体)10の軸径の20%~50%であることが好ましい。
また、インク吸液部材37の内径よりもペン芯30の外径が大きいペン芯を搭載しており、ペン芯30の外径端面とインク吸液部材37の端面の距離(隙間)が2mm以上、更に好ましくは、2mm以上6mm以下空いている構造としている。これにより、ポンピング時に圧縮して泡が発生してインク流出を阻害してしまうことを防止することができるものとなる。
【0036】
図3及び
図4は、本発明の実施形態の他例を示す筆記具の正面図と縦断面図、並びに、この筆記具に用いるペン芯の各図面である。なお、
図3以降の各実施形態において、
図1及び
図2の筆記具A、ペン芯と同様の構成は、同じ図示符号を示して、その説明を省略する。
本実施形態の筆記具Bは、
図3~
図4に示すように、ペン芯38の構成が、上記実施形態の筆記具Aのペン芯30の外径(大径部32)より小さい細字ペン芯38aを用いたものであり、大径部を省略して中径部33aと小径部34aで構成した点、細字ペン芯38aの外径(中径部33a)が上記実施形態の筆記具Aのペン芯30の外径(大径部32)より小さいため、ペン芯30の外径(大径部32)と同じ外径となるホルダ部材50を細字ペン芯38aの外周に装着して先軸10内に固着した点、該ホルダ部材50には、軸線方向に空気置換用の離間状の空間部51を備えた点、外周にホルダ部材50と内周に細ペン芯38aとで構成したペン芯38と上記ペン芯30とが互いに交換可能な構造とした点で、上記実施形態の筆記具Aと相違するものである。
【0037】
このように構成される筆記具B、また、筆記具Aとペン芯38との筆記具セットでは、ホルダ部材50を装着したペン芯38aと外径が同じとなる、上述の太めのペン芯30〔筆記描線幅(実寸)が1.8~2.5mm〕を用いた筆記具の軸体10(先軸20)に固着することができ、しかも、ホルダ部材50には、軸線方向に空気置換用の離間状の空間部51(上述のペン芯30の空間部36より小さい体積分となる空間部51)を備えているので、細めのペン芯38aへのインクの供給もスムーズであり、筆記も良好に行うことができ、しかも、ペン芯30とペン芯38とは互いに交換可能に装着できる構造としたので、太ペン芯と細ペン芯との交換により生じるインク供給の不良などはなく、スムーズなインクの供給、太め、細めの良好な筆記描線が得られる筆記具、筆記具セットが得られるものとなる。
【0038】
図5は、本発明の実施形態の他例となるペン芯の各図面である。
本実施形態のペン芯39は、
図5(a)~(e)に示すように、ペン芯38の構成が、上記実施形態の筆記具Aのペン芯30の、軸線方向に空気置換用の溝状(凹状)の空間部50の長さを小さくした面削ぎ状の空間部39aとした点で、上記実施形態の筆記具Aと相違するものである。
このペン芯39を用いて
図1の筆記具としても、筆記具Aと同様に、インクの供給がスムーズであり、筆記も良好に行うことができ、太めのペン芯を用いても、その筆記描線幅を維持しつつ、筆記具の軸径を細く(60%スリム化)できることが判った。
【0039】
図6及び
図7は、本発明の実施形態の他例を示す筆記具の正面図と縦断面図、並びに、ペン芯の各図面である。
本実施形態の筆記具Cは、
図6~
図7に示すように、ペン芯30の後端部の最小外径部を弁機構40の弁体42と連結することなく、ペン芯30の後端部と弁体20との先端とを把持用コマ部材60を介して連結している点で、上記筆記具A、Bと相違するものである。
この把持用コマ部材60は、先端側にペン芯30の後端部の中径部33に形成した嵌合用の凹部33aに嵌合する突起部61と、上記中径部33の外径が同じ本体部62と、後端側に弁体42の開口42b内に嵌合する後端部63とから構成されている。上記嵌合の他、把持用コマ部材60を用いる場合、接着剤にて連結してもよいものである。
この実施形態の筆記具Cも、筆記具A、Bと同様に、インクの供給がスムーズであり、筆記も良好に行うことができ、太めのペン芯を用いても、その筆記描線幅を維持しつつ、筆記具の軸径を細く(60%スリム化)でき、しかも、筆記具Bのペン芯38と互いに交換可能に装着できる構造であるので、筆記具Bと同様に、太ペン芯と細ペン芯との交換により生じるインク供給の不良などはなく、スムーズなインクの供給、太め、細めの良好な筆記描線が得られる筆記具、筆記具セットが得られるものとなる。
【0040】
更にまた、上記各実施形態の筆記具A~Cでは、筆記具用のインク(水性インク、油性インク、熱変色性インク)で説明したが、液状化粧料、液状薬剤、塗布液、修正液などの液状体としてもよいものである。
【実施例】
【0041】
次に、実施例により、本発明を更に詳述するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0042】
〔実施例1〕
下記構成及び
図1、
図2及び
図4に準拠するペン芯を有する筆記具、ペン芯、下記組成の筆記具用インクを使用した。ペン芯、筆記具の寸法等は下記に示す大きさ等を使用した。
【0043】
(筆記具の構成)
軸筒10:ポリプロピレン製、長さ120mm、中央部内径φ7mm;外径φ10mm
ペン芯30:ポリエステル製繊維芯、全長25mm、最大外径部φ4mm、中径部φ2mmm、最小外径部φ1.5mm、空気置換用空間部36:幅1mm、深さ0.4mm、気孔率70%
インク吸液部材37:ウレタン製、気孔率80%、大きさ:φ7×2mm
弁機構:弾性部材44(ステンレス製)以外、ポリプロピレン製
ペン芯38:ポリエステル製繊維芯、全長30mm、中径部33a:φ2mm、最小外径部34a:φ1.5mm、気孔率70%
ホルダ部材50:ポリアセタール製、全長10mm、肉厚1mm
空気置換用空間部51:幅1mm、深さ1mm
【0044】
(筆記具用インク組成、インク色:黒色)
筆記具用インクとして、下記組成のインク(合計100質量%)を使用した。
活性剤:メガファック F410(フッ素系アニオン界面活性剤、パーフルオロアルキル基含有カルボン酸塩、DIC株式会社製) 1質量%
防黴剤:ベンゾイソチアゾリン-3-オン 0.2質量%
グリセリルグルコシド水溶液:αGG(高濃度αグリセリルグルコシド水溶液、αグリセリルグルコシド60%水溶液、株式会社JTS製) 3質量%
顔料水分散体:FUJI SP BLACK 8041(黒色顔料水分散体、固形分20%、冨士色素株式会社製) 20質量%
水溶性有機溶剤:グリセリン 5質量%
水溶性有機溶剤:エチレングリコール 5質量%
水(溶媒):イオン交換水 65.8質量%
粘度(25℃):3.6mPa・s(コンプレート型粘度計、TOKIMEC社製、TV-20)
表面張力(25℃):40mN/m(自動表面張力計、協和界面科学社製、DY-300)
【0045】
上記構成となる筆記具用インクを搭載した筆記具Aでは、太めのペン芯30〔筆記描線幅(実寸)が1.8~2.5mm〕を用いても、軸径を60%スリム化(内径φを11.6mmから7mm)するもの、すなわち、細めのペン芯38〔筆記描線幅(実寸)が0.9~1.4mm〕用の軸径(外径)10mmの筆記具に太めのペン芯30〔筆記描線幅(実寸)が1.8~2.5mm〕を用いても、太めのペン芯30には空気置換用の溝状(凹状)の空間部35が形成されているので、インクの供給がスムーズであり、筆記も良好に行うことができ、その筆記描線幅(1.8~2.5mm)を維持しつつ、筆記具の軸径を細く(60%スリム化)できることが確認できた。
また、上記筆記具Aとペン芯38との筆記具セットでは、ホルダ部材50を装着したペン芯38と外径が同じとなる、上述の太めのペン芯30〔筆記描線幅(実寸)が1.8~2.5mm〕を用いた筆記具の軸体10(先軸20)に固着することができ、しかも、ホルダ部材50には、軸線方向に空気置換用の離間状の空間部51(上述のペン芯30の空間部36より小さい体積分となる空間部51)を備えているので、細めのペン芯38へのインクの供給もスムーズであり、筆記も良好に行うことができ、しかも、ペン芯30とペン芯38とは互いに交換可能に装着できる構造としたので、太ペン芯30と細ペン芯38との交換により生じるインク供給の不良などはなく、スムーズなインクの供給、太め、細めの良好な筆記描線が得られるスマートな筆記具、筆記具セットが得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明では、太めのペン芯を用いても、その筆記描線幅を維持しつつ、筆記具の軸径を細く(スリム化)できるマーキングペン、サインペン、ペイントマーカーなどの筆記具に好適に使用される。
【符号の説明】
【0047】
10 軸筒
18 筆記具用インク
20 先軸
30 ペン芯(太めのペン芯)
36 空気置換用の空間部
38 ペン芯(細めのペン芯)
40 弁機構
42 弁体
50 ホルダ部材
60 把持用コマ部材