(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】放射性廃液の処理方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/12 20060101AFI20240613BHJP
G21F 9/22 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
G21F9/12 501J
G21F9/22 Z
(21)【出願番号】P 2020149654
(22)【出願日】2020-09-07
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】住谷 貴子
(72)【発明者】
【氏名】山根 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】勝又 一
(72)【発明者】
【氏名】増子 雄太
(72)【発明者】
【氏名】島田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】菅野 真貴
(72)【発明者】
【氏名】大橋 利正
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-203678(JP,A)
【文献】特開2016-065787(JP,A)
【文献】特開2016-118407(JP,A)
【文献】特開2015-040826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00-9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性核種および非放射性核種がストロンチウムである放射性廃液を吸着材が充填される吸着塔に通水する前記放射性廃液の処理方法において、
吸着塔を複数備える第一の廃液処理設備へ第一の放射性廃液を通水する第一処理工程と、
吸着塔を複数備える第二の廃液処理設備へ第二の放射性廃液を通水する第二処理工程とを行い、
前記第一処理工程において、前記第一の放射性廃液に対して平衡状態となった吸着剤を充填した前記第一の廃液処理設備の最上流の吸着塔を前記第一の廃液処理設備から取り除く際に、以下に示す(1)(2)(3)の条件を満たす、または(1)(2)(4)の条件を満たす場合、前記第一の廃液処理設備から取り除かれた吸着塔は、前記第二の廃液処理設備の直列に接続された吸着塔のうち、最下流の吸着塔へ移動させることを特徴とする放射性廃液の処理方法。
条件(1):
前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記放射性核種と前記非放射性核種の合計の濃度よりも、
前記第二処理工程後の前記第二の放射性廃液に含まれる前記放射性核種と前記非放射性核種の合計の濃度の方が高い。
条件(2):
前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記放射性核種の濃度よりも、
前記第二処理工程後の前記第二の放射性廃液に含まれる前記放射性核種の濃度の方が高い。
条件(3):
前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記非放射性核種の濃度が、
前記第二処理工程後の前記第二の放射性廃液に含まれる前記非放射性核種の濃度と同程度である。
条件(4):
前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記非放射性核種の濃度よりも、
前記第二処理工程後の前記第二の放射性廃液に含まれる前記非放射性核種の濃度のほうが低い。
【請求項2】
放射性核種および非放射性核種がストロンチウムである放射性廃液を吸着材が充填される吸着塔に通水する前記放射性廃液の処理方法において、
吸着塔を複数備える第一の廃液処理設備へ第一の放射性廃液を通水する第一処理工程と、
吸着塔を複数備える第二の廃液処理設備へ第二の放射性廃液を通水する第二処理工程とを行い、
前記第一処理工程において、前記第一の放射性廃液に対して平衡状態となった吸着剤を充填した前記第一の廃液処理設備の最上流の吸着塔を前記第一の廃液処理設備から取り除く際に、以下に示す(11)(12)(13)の条件を満たす場合、前記第一の廃液処理設備から取り除かれた吸着塔は、前記第二の廃液処理設備の直列に接続された吸着塔のうち、最下流の吸着塔へ移動させることを特徴とする放射性廃液の処理方法。
条件(11):
前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記放射性核種と前記非放射性核種の合計の濃度と、
前記第二処理工程後の前記第二の放射性廃液に含まれる前記放射性核種と前記非放射性核種の合計の濃度が同じである。
条件(12):
前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記放射性核種の濃度よりも、
前記第二処理工程後の前記第二の放射性廃液に含まれる前記放射性核種の濃度の方が高い。
条件(13):
前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記放射性核種の存在割合よりも前記第二処理工程後の前記第二の放射性廃液に含まれる前記放射性核種の存在割合の方が高い。
【請求項3】
放射性核種および非放射性核種がストロンチウムである放射性廃液を吸着材が充填される吸着塔に通水する前記放射性廃液の処理方法において、
吸着塔を複数備える第一の廃液処理設備へ第一の放射性廃液を通水する第一処理工程と、
吸着塔を複数備える第二の廃液処理設備へ第二の放射性廃液を通水する第二処理工程とを行い、
前記第一処理工程において、前記第一の放射性廃液に対して平衡状態となった吸着剤を充填した前記第一の廃液処理設備の最上流の吸着塔を前記第一の廃液処理設備から取り除く際に、以下に示す(21)(22)の条件を満たす場合、前記第一の廃液処理設備から取り除かれた吸着塔は、前記第二の廃液処理設備の直列に接続された吸着塔のうち、最下流の吸着塔へ移動させることを特徴とする放射性廃液の処理方法。
条件(21):
前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記非放射性核種よりも、
前記第二処理工程後の前記第二の放射性廃液に含まれる前記非放射性核種の濃度が低い。
条件(22):
前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記放射性核種の濃度よりも、
前記第二処理工程後の前記第二の放射性廃液に含まれる前記放射性核種の濃度の方が高い。
【請求項4】
さらに、前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記放射性核種と前記非放射性核種の合計の濃度よりも、
前記第二処理工程後の前記第二の放射性廃液に含まれる前記放射性核種と前記非放射性核種の合計の濃度の方が低い場合に、前記最下流の吸着塔へ移動させることを特徴とする請求項3に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項5】
さらに、前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記放射性核種と前記非放射性核種の合計と、
前記第二処理工程後の前記第二の放射性廃液に含まれる前記放射性核種と前記非放射性核種の合計の濃度が同じである場合に、前記最下流の吸着塔へ移動させることを特徴とする請求項3に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項6】
放射性核種および非放射性核種がストロンチウムである放射性廃液を吸着材が充填される吸着塔に通水する前記放射性廃液の処理方法において、
吸着塔を複数備える第一の廃液処理設備へ第一の放射性廃液を通水する第一処理工程と、
吸着塔を複数備える第二の廃液処理設備へ第二の放射性廃液を通水する第二処理工程とを行い、
前記第一処理工程において、前記第一の放射性廃液に対して平衡状態となった吸着剤を充填した前記第一の廃液処理設備の最上流の吸着塔を前記第一の廃液処理設備から取り除く際に、以下に示す(31)(32)(33)の条件を満たす、または(31)(32)(34)の条件を満たす場合、前記第一の廃液処理設備から取り除かれた吸着塔は、前記第二の廃液処理設備の直列に連結された吸着塔のうち、上流から数えてn番目の吸着塔と
なるように吸着塔を移動させることを特徴とする放射性廃液の処理方法。
条件(31):
前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記放射性核種と前記非放射性核種の合計の濃度よりも、
前記第二の廃液処理設備の上流から数えてn番目の吸着塔へ通水する前記第二の放射性廃液に含まれる前記放射性核種と前記非放射性核種の合計の濃度の方が高い。
条件(32):
前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記放射性核種の濃度よりも、
前記第二の廃液処理設備の上流から数えてn番目の吸着塔へ通水する前記第二の放射性廃液に含まれる前記放射性核種の濃度の方が高い。
条件(33):
前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記非放射性核種の濃度が、
前記第二の廃液処理設備の上流から数えてn番目の吸着塔へ通水する前記第二の放射性廃液に含まれる前記非放射性核種の濃度と同程度である。
条件(34):
前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記非放射性核種の濃度よりも、
前記第二の廃液処理設備の上流から数えてn番目の吸着塔へ通水する前記第二の放射性廃液に含まれる前記非放射性核種の濃度のほうが低い。
【請求項7】
放射性核種および非放射性核種がストロンチウムである放射性廃液を吸着材が充填される吸着塔に通水する前記放射性廃液の処理方法において、
吸着塔を複数備える第一の廃液処理設備へ第一の放射性廃液を通水する第一処理工程と、
吸着塔を複数備える第二の廃液処理設備へ第二の放射性廃液を通水する第二処理工程とを行い、
前記第一処理工程において、前記第一の放射性廃液に対して平衡状態となった吸着剤を充填した前記第一の廃液処理設備の最上流の吸着塔を前記第一の廃液処理設備から取り除く際に、以下に示す(41)(42)(43)の条件を満たす場合、前記第一の廃液処理設備から取り除かれた吸着塔は、前記第二の廃液処理設備の直列に連結された吸着塔のうち、上流から数えてn番目の吸着塔となるように吸着塔を移動させることを特徴とする放射性廃液の処理方法。
条件(41):
前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記放射性核種と前記非放射性核種の合計の濃度と、
前記第二の廃液処理設備の上流から数えてn番目の吸着塔へ通水する前記第二の放射性廃液に含まれる前記放射性核種と前記非放射性核種の合計の濃度が同じである。
条件(42):
前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記放射性核種の濃度よりも、
前記第二の廃液処理設備の上流から数えてn番目の吸着塔へ通水する前記第二の放射性廃液に含まれる前記放射性核種の濃度の方が高い。
条件(43):
前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記放射性核種の存在割合よりも前記第二処理工程後の上流から数えてn番目の吸着
塔へ通水する前記第二の放射性廃液に含まれる前記放射性核種の存在割合の方が高い。
【請求項8】
前記第一の廃液処理設備から前記第二の廃液処理設備へ吸着塔を移動させる際、
前記第一の廃液処理設備内で直列に接続された吸着塔のうち最上流の吸着塔を取り除き、新しい吸着塔を前記第一の廃液処理設備の最下流へ追加し、通水順を繰り上げるメリーゴーラウンド運用を行い、
前記第二の廃液処理設備内で直列に接続された吸着塔のうち、最上流の吸着塔を取り除き、前記第一の廃液処理設備で取り除かれた吸着塔を前記第二の廃液処理設備へ追加し、
追加された吸着塔よりも上流の吸着塔は通水順を繰り上げるメリーゴーラウンド運用を行うことを特徴とする請求項1乃至7いずれか1項に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項9】
前記第一の放射性廃液に対して平衡状態となった吸着材を通水せずに所定期間保管すること
を特徴とする請求項1乃至8いずれか1項に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項10】
保管期間は3日以上であること
を特徴とする請求項9に記載の放射性廃液の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
放射性廃液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸着材を使用して放射性廃液を処理する設備では、その処理量が多い場合、頻繁に吸着材またはその吸着材を充填している吸着塔を交換する必要がある。そのため、多量の使用済吸着材(吸着塔)が発生すると同時に、さらに吸着材費用も増加する。
上記の問題を解決するため、排水処理設備の一部ではメリーゴーラウンド方式が採用されている。
【0003】
メリーゴーラウンド方式を採用した技術として、特許文献1があるが、その要約書には、「n個の吸着塔10-1~10-5を上流側から順に1~n番目まで直列に配置して、放射性セシウムを含有する放射性セシウム含有水を1~n番目の吸着塔10-1~10-5に順に通水する工程と、1番目の吸着塔10-1における放射性セシウム含有水の入口側及び出口側の表面の放射線量率を測定し、それぞれの放射線量率の経時変化が一定となった時に、1番目の吸着塔10-1を新しい吸着塔に交換して、k番目の吸着塔を(k-1)番目とし、かつ新しい吸着塔をn番目となるように直列に配置して、放射性セシウム含有水を1~n番目の吸着塔に順に通水する工程とを備え、吸着塔の表面の放射線量率の測定では、γ線検出部をγ線減衰用材料で覆った状態で、γ線を測定する。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、メリーゴーラウンド方式の特許文献1では、頻繁に吸着塔を交換することで、使用済吸着塔が廃棄物として多量に発生する。また、処理に必要な吸着材および吸着塔の費用も増加する。さらに、吸着塔から吸着材をスラリーとして抜き出した場合も、その抜き出したスラリー状の使用済吸着材を保管貯蔵する容器が多量に発生するとともに、その容器費用も増加する。このように、廃棄物が多量に発生することと費用が増加することが課題である。さらに、敷地が狭い環境では、廃棄物の保管場所の確保も課題となる。
【0006】
そこで本発明では、効率的に放射性核種を除去可能な放射性廃液の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明に係る放射性廃液の処理方法は、放射性核種および非放射性核種がストロンチウムである放射性廃液を吸着材が充填される吸着塔に通水する前記放射性廃液の処理方法において、吸着塔を複数備える第一の廃液処理設備へ第一の放射性廃液を通水する第一処理工程と、吸着塔を複数備える第二の廃液処理設備へ第二の放射性廃液を通水する第二処理工程とを行い、前記第一処理工程において、前記第一の放射性廃液に対して平衡状態となった吸着剤を充填した前記第一の廃液処理設備の最上流の吸着塔を前記第一の廃液処理設備から取り除く際に、以下に示す(1)(2)(3)の条件を満たす、または(1)(2)(4)の条件を満たす場合、前記第一の廃液処理設備から取り除かれた吸着塔は、前記第二の廃液処理設備の直列に接続された吸着塔のうち、最下流の吸着塔へ移動させることを特徴とする。(1):前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記放射性核種と前記非放射性核種の合計の濃度よりも、前記第二処理工程後の前記第二の放射性廃液に含まれる前記放射性核種と前記非放射性核種の合計の濃度の方が高い。(2):前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記放射性核種の濃度よりも、前記第二処理工程後の前記第二の放射性廃液に含まれる前記放射性核種の濃度の方が高い。(3):前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記非放射性核種の濃度が、前記第二処理工程後の前記第二の放射性廃液に含まれる前記非放射性核種の濃度と同程度である。(4):前記第一処理工程前の前記第一の放射性廃液に含まれる前記非放射性核種の濃度よりも、前記第二処理工程後の前記第二の放射性廃液に含まれる前記非放射性核種の濃度のほうが低い。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、効率的に放射性核種を除去可能な放射性廃液の処理方法を提供することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第一実施形態に係る放射性廃液の処理設備を用いて行う放射性廃液の処理方法を示す図である。
【
図3】吸着材の非放射性核種と放射性核種の存在割合を示す図である。
【
図4】第一実施形態に係る放射性廃液の処理設備を用いて行う放射性廃液の処理方法の変形例を示す図である。
【
図5】第二実施形態に係る放射性廃液の処理設備を用いて行う放射性廃液の処理方法を示す図である。
【
図6】通水系統から取り除いて時間を置いたときの吸着材粒子が吸着した放射性核種濃度の変化を示す図である。
【
図7】第三実施形態に係る放射性廃液の処理設備を用いて行う放射性廃液の処理方法を示す図である。
【
図8】第四実施形態に係る放射性廃液の処理設備を用いて行う放射性廃液の処理方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(「本実施形態」という。)を、図等を参照しながら説明する。説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する
【0011】
<第一実施形態>
本実施形態に係る放射性廃液処理装置について説明する。
図1に示すように、放射性廃液処理装置100は、第一の廃液処理設備10と、第二の廃液処理設備20とを含んで構成される。
【0012】
第一の廃液処理設備10は、吸着塔5と、吸着塔6と、吸着塔7と、吸着塔8を備えて構成されている。吸着塔5と、吸着塔6と、吸着塔7と、吸着塔8とは、配管によって接続されており、放射性廃液Aをそれぞれに通水できるように通水系統が構成されている。放射性廃液Aを通水する順番は、バルブ操作または吸着塔そのものの位置を入れ替えることによって入れ替えることが可能である。本実施形態では、吸着塔5を上流、吸着塔8を下流として、通水できるように設定する。なお、本実施形態では、第一の廃液処理設備10は、吸着塔5から吸着塔8の4塔で構成されているが、本発明はこれに限定されるものでなく、吸着塔の数は5以上としてもよいし、3以下としてもよい。
【0013】
吸着塔5から吸着塔8には、それぞれ放射性核種と非放射性核種(すなわち放射性や非放射性のストロンチウム)を吸着可能な吸着材が充填されている。よって、放射性廃液Aを上流側である吸着塔5から下流側の吸着塔8に向かって順番に通水することで吸着材に放射性核種を吸着させて、放射性廃液A中に含まれる放射性核種を除去することができる。ここでいう放射性核種の除去とは放射性廃液Aに含まれる放射性核種の濃度を一定値まで下げることである。
【0014】
したがって、放射性廃液Aが吸着材を通過する度に、放射性核種は吸着材に吸着されて核種濃度は低下する。そのため、吸着材に吸着される放射性核種の濃度は上流側から下流側に向けて低くなる。すなわち、
図1の第一の廃液処理設備10では、吸着塔5に充填される吸着材が吸着する放射性核種の濃度が最も高く、吸着塔8に装填された吸着材が吸着する放射性核種の濃度が最も低い。
【0015】
第二の廃液処理設備20は、吸着塔1と、吸着塔2と、吸着塔3と、吸着塔4とを備えて構成されている。吸着塔1と、吸着塔2と、吸着塔3と、吸着塔4とは、配管によって接続されており、放射性廃液Bをそれぞれに通水できるように通水系統が構成されている。放射性廃液Bを通水する順番は、バルブ操作または吸着塔そのものの位置を入れ替えることによって入れ替えることが可能である。本実施形態では、初めに、吸着塔1を上流、吸着塔4を下流として、通水できるように設定する。なお、本実施形態では、第二の廃液処理設備20は、吸着塔5から吸着塔8の4塔で構成されているが、本発明はこれに限定されるものでなく、吸着塔の数は5以上としてもよいし、3以下としてもよい。
【0016】
吸着塔1から吸着塔4には、それぞれ放射性核種と非放射性核種を吸着可能な吸着材が充填されている。よって、放射性廃液Bを上流側である吸着塔1から下流側の吸着塔4に向かって順番に通水することで吸着材に放射性核種を吸着させて、放射性廃液B中に含まれる放射性核種を除去することができる。ここでいう放射性核種の除去とは放射性廃液Bに含まれる放射性核種の濃度を一定値まで下げることである。
【0017】
したがって、放射性廃液Bは吸着材を通過する度に、放射性廃液Bに含まれる放射性核種が吸着材に吸着されて核種濃度は低下する。そのため、吸着材に吸着される放射性核種の濃度は上流側から下流側に向けて低くなる。すなわち、
図1の第一の廃液処理設備10では、吸着塔5に充填される吸着材が吸着する放射性核種の濃度が最も高く、吸着塔8に装填された吸着材が吸着する放射性核種の濃度が最も低い。
【0018】
(処理方法)
次に、放射性廃液処理装置100を使用して行う放射性廃液の処理方法について説明する。ここでは、放射性廃液Aおよび放射性廃液Bに含まれる、放射性核種として、ストロンチウムの放射性核種、Sr-90を処理する場合とする。
【0019】
本実施形態に係る放射性廃液処理装置100で使用される吸着材は、吸着塔1から吸着塔8に充填され、ストロンチウムを吸着することができる吸着材である。本実施形態の吸着塔1から吸着塔8には、ストロンチウムおよびセシウムを吸着することができる吸着材によってストロンチウムを吸着させる。
【0020】
ストロンチウムおよびセシウムを吸着する吸着材としては、ケイチタン酸およびケイチタン酸化合物、チタン酸およびチタン酸化合物、ゼオライトなどが使用できる。
【0021】
また、本実施形態では、放射性廃液Aおよび放射性廃液Bは、海水もしくは、地下水などによって発生した汚染水であるが、本実施形態で処理できる放射性廃液は海水および地下水に限定されるものではない。
【0022】
第一の廃液処理設備10の吸着塔5に充填される吸着材がストロンチウムを吸着できなくなると(以下、適宜平衡状態と呼ぶ)通常であれば、吸着塔5は、廃棄されるが、本実施形態では第二の廃液処理設備20で再利用する。平衡状態となった吸着材が充填された、吸着塔5は、第一の廃液処理設備10から取り除かれて、第二の廃液処理設備20の最下流(吸着塔4の位置)で使用する。
【0023】
吸着塔5が第二の廃液処理設備20の最下流に設置されると、最下流にあった吸着塔4は吸着塔3の位置に移動し、吸着塔3は吸着塔2の位置に移動し、吸着塔2は吸着塔1の位置に繰り上がる(メリーゴーラウンド運用)。つまり、第二の廃液処理設備20の通水順番は、吸着塔2(上流)→吸着塔3→吸着塔4→吸着塔5(下流)となる。
第二の廃液処理設備20における一番上流だった吸着塔1は、第二の廃液処理設備20から取り除かれて、廃棄または、別の廃液処理設備で再利用される。
【0024】
第一の廃液処理設備10では、上流の吸着塔5が取り除かれ、一番上流を吸着塔6として、第二の廃液処理設備20と同様のメリーゴーラウンド方式によって吸着塔の通水順番を繰り上げる。つまり、第一の廃液処理設備10の通水順番は、吸着塔6(上流)→吸着塔7→吸着塔8→新吸着塔(下流)となる。
【0025】
また、同一の廃液設備内では、吸着塔同士が配管によって接続されており、通水順は、バルブを操作することで容易に変更ができる。
【0026】
続いて、平衡状態となった吸着塔5を吸着塔4の位置で再利用することができる原理について説明する。
【0027】
図2は、処理廃液中のストロンチウム濃度を横軸に、吸着材で吸着可能なストロンチウム濃度を縦軸にプロットした吸着等温線である。ここで、放射性廃液Aに含まれるストロンチウム(放射性核種αA+非放射性核種γA)の濃度をβA、放射性廃液Bに含まれるストロンチウム(放射性核種αB+非放射性核種γB)の濃度をβBとする。
また、放射性廃液Aに含まれるSr-90(放射性核種)をαA、非放射性核種をγAとし、放射性廃液Bに含まれるSr-90(放射性核種)をαB、非放射性核種をγBとする。なお、ここでいう廃液に含まれるとは、吸着塔に通水する前の放射性廃液Aおよび放射性廃液Bに含まれることを意味する。
【0028】
このとき、
図2に示すように、第一の廃液処理設備10で平衡状態となった吸着塔5に充填された吸着材は、放射性廃液Aのストロンチウム濃度βAに対して吸着可能なストロンチウム濃度qAを吸着した状態となっている。放射性廃液Aのストロンチウム濃度βAに対して、吸着材は吸着材中のストロンチウム濃度がqAになるまでストロンチウムを吸着することができる。
【0029】
吸着材は、一般的に処理廃液中のストロンチウム濃度が高いほど吸着材にストロンチウムを多く吸着させることができる。
図2に示すように、放射性廃液Bのストロンチウム濃度βBが放射性廃液Aのストロンチウム濃度βAと同等の場合、吸着材が吸着できるストロンチウム濃度qBはqAと同等である。また、放射性廃液Bのストロンチウム濃度βBが放射性廃液Aのストロンチウム濃度βAよりも高くなると、吸着材が吸着できるストロンチウム濃度qBはqAよりも大きくなる。
【0030】
また、吸着材が放射性廃液を処理している間に吸着材と放射性廃液が平衡状態となった場合、吸着材中の放射性ストロンチウムと非放射性ストロンチウムとの存在割合は、放射性廃液の放射性ストロンチウムと非放射性ストロンチウムとの存在割合と同等となる。
【0031】
吸着材への元素の吸着量は、温度、液体中の濃度、および吸着材と液体間の吸着相互作用ポテンシャルの関数によって決定される。温度一定条件では吸着相互作用ポテンシャルは一定となるため、液体中の濃度の関数で表される。この関係を吸着等温線と呼ぶ。吸着等温線にはいろいろな種類があるが、一般に液体中の濃度が高いほど吸着量が大きくなる関係がある。このことは、吸着材中の吸着サイトが吸着物質(ここでは除去対象元素)に占有される割合は、液体中の吸着物質の濃度が高いほど大きく、逆に液体中の吸着物質の濃度が低いほど占有割合が小さく、吸着に使用されていない空き吸着サイトが多いことを示している。
【0032】
つまり、吸着塔4を通過した後の放射性廃液Bと第一の廃液処理設備10で処理する前の放射性廃液Aと比較して、式1または、式1Aの条件を満たすとき、第一の廃液処理設備10で使用した(平衡状態となった)、吸着塔5を第二の廃液処理設備20の最下流の吸着塔4として再利用することができる。すなわち、第一の廃液処理設備10から取り除かれた吸着塔5は、第二の廃液処理設備20の最下流の吸着塔4へ移動させることができる。式1は、条件(1)かつ(2)かつ(3)に相当する。式1Aは、条件(1)かつ(2)かつ(4)に相当する。
【0033】
βA<βB、αA<αB 、γA≒γB・・・(式1)
βA<βB、αA<αB 、γA>γB・・・(式1A)
【0034】
よって、放射性廃液Aに対して平衡状態となった吸着材を充填した吸着塔5にストロンチウム濃度の高い放射性廃液Bを通水することで、再び吸着材にストロンチウムを吸着させることができるようになる。なお、式1の条件の場合、放射性廃液Aに含まれる非放射性核種γAの濃度と放射性廃液Bに含まれる非放射性核種βBの濃度は同程度である(式1の「≒」)。
【0035】
このように本実施形態に係る放射性廃液処理装置100を使用して行う放射性廃液の処理方法によれば、第一の廃液処理設備10で平衡状態となった吸着材を充填した吸着塔を第二の廃液処理設備20の吸着塔として再利用することができる。そのため、使用済み吸着材および吸着塔の発生量を低減することができる。
【0036】
<第二実施形態>
本実施形態では、放射性核種と非放射性核種の濃度関係が第一実施形態とは異なる。本実施形態では、第一実施形態と相違する点を中心に説明する。第一実施形態では、ストロンチウムの濃度が放射性廃液Aよりも高い放射性廃液Bで吸着塔の再利用が可能であることを説明した。本実施形態では、第一の廃液処理設備10で処理前のストロンチウムの濃度と、第二の廃液処理設備20へ通水後の放射性廃液のストロンチウム濃度が同じであるときの条件について説明する。なお、その他の構成については第一実施形態と同様である。
【0037】
図3は、放射性廃液Aおよび放射性廃液Bを吸着材に吸着させた際の吸着サイトの占有率の関係を示す図である。
【0038】
図3の符号aのグラフは、放射性廃液Aを吸着材で処理した場合の放射性ストロンチウム(Sr-90)と非放射性ストロンチウムの割合を示している。
図3の符号のグラフaに示すように、放射性廃液AのSr-90と非放射性ストロンチウムの割合が1:3であるとすると、吸着材に吸着されるSr-90と非放射性ストロンチウムの割合も1:3の平衡状態となる。
【0039】
図3の符号bのグラフは放射性廃液Bを吸着材で処理した場合のSr-90と非放射性ストロンチウムの割合を示している。
図3の符号bのグラフに示すように、放射性廃液BのSr-90と非放射性ストロンチウムの割合が1:1であるとすると、吸着材に吸着されるSr-90と非放射性ストロンチウムの割合も1:1の平衡状態となる。
【0040】
図3の符号cのグラフは放射性廃液Aを処理した吸着材を放射性廃液Bの処理に再利用した場合のSr-90と非放射性ストロンチウムの割合を示している。
図3の符号cのグラフに示すように、Sr-90の存在割合が高い放射性廃液Bで吸着材を再利用すると、Sr-90が増加した分だけ再び吸着材にSr-90を吸着させることができる。
【0041】
すなわち、放射性廃液BのSr-90濃度が放射性廃液AのSr-90濃度よりも高い場合、放射性廃液Aに対して平衡状態となった吸着材に放射性廃液Bを通水すると、吸着材中の非放射性ストロンチウムと放射性ストロンチウムの存在割合は放射性廃液A中のものから放射性廃液B中のものに変わる。
【0042】
この関係により、第一の廃液処理設備10で平衡状態となった吸着材を充填する吸着塔5を第二の廃液処理設備20の最下流の吸着塔として使用すると、吸着材は放射性廃液Aと放射性廃液Bの濃度差分のSr-90を吸着することができる。これにより、第一の廃液処理設備10で平衡状態となった吸着塔5を第二の廃液処理設備20の吸着塔4で使用することで、放射性廃液Bに含まれるSr-90を除去することが可能である。
【0043】
以上に説明したように、ストロンチウム濃度に差がなくても、放射性核種であるSr-90に濃度差があれば、濃度差分のSr-90を吸着して除去することが可能である。
【0044】
つまり、吸着塔4を通過した後の放射性廃液Bと第一の廃液処理設備10で処理する前の放射性廃液Aと比較して、式2且つ式2A(
図3で示す放射性廃液AおよびBの放射性ストロンチウムの存在割合の関係式)の条件を満たすとき、第一の廃液処理設備10で使用した(平衡状態となった)、吸着塔5を第二の廃液処理設備20の最下流の吸着塔4として再利用することができる。すなわち、第一の廃液処理設備10から取り除かれた吸着塔5は、第二の廃液処理設備20の最下流の吸着塔4へ移動させることができる。なお、放射性廃液Aに含まれるストロンチウム濃度βAと、放射性廃液Bに含まれるストロンチウム濃度βBは同じ濃度である(式2の「≒」)。ちなみに、同じとは、同一と略同一を含む。略同一とは、例えば差や比が所定値以内等、適宜設定できる。
【0045】
βA≒βB、αA<αB ・・・(式2)
αA/βA<αB/βB ・・・(式2A)
【0046】
以上、説明した放射性廃液の処理方法であっても、第一実施形態と同等の効果を奏することができる。
【0047】
<第三実施形態>
第一実施形態では、ストロンチウム濃度(合計濃度)と放射性核種濃度に着目して条件を示したが、本実施形態では、ストロンチウム濃度(合計濃度)と非放射性核種濃度に着目して説明する。なお、その他の構成については第一実施形態と同様である。
【0048】
前記したとおり、第一の廃液処理設備10から取り除かれて第二の廃液処理設備20へ移動した吸着塔4に充填される吸着剤は、放射性廃液Bに対して平衡状態となる。放射性核種の濃度差分だけ、吸着剤に放射性核種を吸着させることができるため、吸着塔4を通過した後の放射性廃液Bと第一の廃液処理設備10で処理する前の放射性廃液Aと比較して、式3の条件を満たすとき、第一の廃液処理設備10で使用した(平衡状態となった)、吸着塔5を第二の廃液処理設備20の最下流の吸着塔4として再利用することができる。すなわち、第一の廃液処理設備10から取り除かれた吸着塔5は、第二の廃液処理設備20の最下流の吸着塔4へ移動させることができる。
【0049】
γA>γB、αA<αB ・・・(式3)
【0050】
式3の条件であったとしても、第一の廃液処理設備10で平衡状態となった吸着剤で、第二廃液処理設備20で処理する放射性廃液Bの放射性核種を吸着することができる。
【0051】
また、このときの放射性廃液Aに含まれるストロンチウム濃度βAは、放射性廃液Bに含まれるストロンチウム濃度βBよりも高くてもよいし、同等であってもよい。
【0052】
以上、説明した放射性廃液の処理方法であっても、第一実施形態と同等の効果を奏することができる。
【0053】
<第四実施形態>
本実施形態では、吸着塔を交換する位置が第一実施形態と相違する。本実施形態では、第一実施形態と相違する点を中心に説明する。なお、放射性廃液処理装置100の構成については、第一実施形態と同様である。第一実施形態では、放射性廃液Aよりも放射性廃液Bのストロンチウム濃度の方が明らかに高い場合には、βA<βBとなるため、吸着塔5を第二の廃液処理設備20の最下流に追加すればよい。しかし、最下流に通水前の放射性廃液Bのストロンチウム濃度と放射性廃液Aのストロンチウム濃度との関係が、βA>βBとなる場合、吸着塔5は、第二の廃液処理設備の最下流の吸着塔4よりも上流の位置に追加する必要がある。
【0054】
図4に示すように、吸着塔5を交換する位置は、吸着塔3、吸着塔2または、吸着塔1の位置であってもよい。ここでは、第二の廃液処理設備20の最下流の吸着塔ではなく、上流側から数えてn番目の吸着塔と吸着塔5を交換するときの条件について説明する。
【0055】
第一の廃液処理設備10で平衡状態となった吸着材を充填する吸着塔5を第二の廃液処理設備20で再利用する。この時、第二の廃液処理設備20のn番目の吸着塔に通水される前のストロンチウム濃度をβBnとする。放射性廃液Aに含まれるストロンチウム濃度αAより高い吸着塔と吸着塔5を交換すればよい。つまり式4または式4Aを満たす吸着塔と吸着塔5を交換するとよい。
βA<βBn、αA<αBn γA≒γBn・・・(式4)
βA<βBn、αA<αBn γA>γBn・・・(式4A)
【0056】
例えば、吸着塔3に通水する前の放射性廃液Bに含まれるストロンチウム濃度βB3がβAよりも高い場合、吸着塔5は吸着塔3かそれより前段の位置に設置する。吸着塔3の位置に設置する場合、それまでの吸着塔3にあった吸着塔は、吸着塔2の位置になるように通水順を繰り上げ、以降続きの既設の吸着塔も繰り上げていき、第二の廃液処理設備20の先頭塔であった吸着塔1は、廃棄するかまたは別設備(放射性廃液Bよりもストロンチウム濃度が高い放射性廃液を処理する設備)で使用してもよい。
【0057】
吸着塔3に通水する前の放射性廃液Bに含まれるストロンチウム濃度βB3がβAより低く、βB2がβAよりも高い場合、吸着塔5は、吸着塔2の位置に設置する。この場合も同様にそれまで吸着塔2にあった吸着塔は、吸着塔1の位置になるように通水順を繰り上げる。βB2がβAよりも低く、βB1がβAよりも高い場合、吸着塔5は、吸着塔1の位置に設置する。この場合も吸着塔1にあった吸着塔は、第二の廃液処理設備20から取り除かれて、処理または、別の廃液処理設備で再利用される。
【0058】
以上説明したように、第一の廃液処理設備20の吸着塔5は、式4または式4Aの条件を満たす様な第二の廃液処理設備の吸着塔と交換することで、再利用ができるため、第一実施形態と同等の効果を奏することができる。
【0059】
<第五実施形態>
本実施形態では、吸着塔を交換する位置が第一実施形態と相違する。本実施形態では、第一実施形態と相違する点を中心に説明する。なお、放射性廃液処理装置100の構成については、第一実施形態と同様である。
【0060】
第一実施形態では、放射性廃液Aよりも放射性廃液Bの放射性核種濃度の方が明らかに高い場合には、αA<αBとなるため、吸着塔5を第二の廃液処理設備20の最下流に追加すればよい。しかし、放射性廃液Aと放射性廃液Bのストロンチウム濃度に大きな差がない場合では、処理前の放射性廃液Aに含まれるSr-90濃度αAが吸着塔4通過後のSr-90濃度αBよりも高い場合がある。その場合吸着塔5は、第二の廃液処理設備の最下流の吸着塔4よりも上流の位置に追加する必要がある。
【0061】
図4に示すように、吸着塔5を交換する位置は、吸着塔3、吸着塔2または、吸着塔1の位置であってもよい。ここでは、第二の廃液処理設備20の最下流の吸着塔ではなく、上流側から数えてn番目の吸着塔と吸着塔5を交換するときの条件について説明する。
【0062】
第一の廃液処理設備10で平衡状態となった吸着材を充填する吸着塔5を第二の廃液処理設備20で再利用する。この時、第二の廃液処理設備20のn番目の吸着塔に通水される前のSr-90濃度をαBnとする。放射性廃液Aに含まれるSr-90濃度αAより高い吸着塔と吸着塔5を交換すればよい。つまり、式5且つ式5Aの条件を満たす吸着塔と吸着塔5を交換するとよい。なお、放射性廃液Aに含まれるストロンチウム濃度βAと、放射性廃液Bに含まれるストロンチウム濃度βBは同じ濃度である(式5の「≒」)。ちなみに、同じとは、同一と略同一を含む。略同一とは、例えば差や比が所定値以内等、適宜設定できる。
βA≒βBn、αA<αBn ・・・(式5)
αA/βA<αBn/βBn ・・・(式5A)
【0063】
例えば、吸着塔3に通水する前の放射性廃液Bに含まれるSr-90濃度αB3がαAよりも高い場合、吸着塔5は吸着塔3かそれより前段の位置に設置する。吸着塔3の位置に設置する場合、それまでの吸着塔3にあった吸着塔は、吸着塔2の位置になるように通水順を繰り上げ、以降続きの既設の吸着塔も繰り上げていき、第二の廃液処理設備20の先頭塔であった吸着塔1は、廃棄するかまたは別設備(放射性廃液BよりもSr-90濃度が高い放射性廃液を処理する設備)で使用してもよい。
【0064】
吸着塔3に通水する前の放射性廃液Bに含まれるSr-90濃度αB3がαAより低く、αB2がαAよりも高い場合、吸着塔5は、吸着塔2の位置に設置する。この場合も同様にそれまで吸着塔2にあった吸着塔は、吸着塔1の位置になるように通水順を繰り上げる。αB2がαAよりも低く、αB1がαAよりも高い場合、吸着塔5は、吸着塔1の位置に設置する。この場合も吸着塔1にあった吸着塔は、第二の廃液処理設備20から取り除かれて、処理または、別の廃液処理設備で再利用される。
【0065】
なお、このときの放射性廃液Aのストロンチウム濃度βAと、第一の廃液処理設備10の吸着塔5と交換する第二の廃液処理設備20のn番目の吸着塔に処理される前の放射性廃液Bに含まれるストロンチウム濃度βBnは同等である。
【0066】
図4に示すように本実施形態では、第二の廃液処理設備20の吸着塔3に通水する前の放射性廃液Bに含まれるストロンチウム濃度βB3と放射性廃液Aのストロンチウム濃度βAが同等である。これにより、放射性廃液Aのストロンチウム濃度とSr-90濃度の比率で平衡状態になっている吸着材に、放射性廃液Aに含まれるSr-90濃度よりも濃度の高い廃液を通水することで吸着平衡の関係が変化し、吸着材に吸着していたSr-90が廃液中に放出されることを抑制できる。このため、吸着塔5を吸着塔3の位置に設置した場合、吸着塔4に吸着塔5から放出されたSr-90の負荷がかかることを回避できる。
【0067】
以上、説明した放射性廃液の処理方法であっても、第一実施形態と同等の効果を奏することができる。
【0068】
<第六実施形態>
次に本実施形態に係る放射性廃液処理装置200について説明する。本実施形態では、第一の廃液処理設備10から第二の廃液処理設備20に吸着材を交換する際に、吸着材を通水系統から取り除き一定期間保管する点で第一実施形態とは相違する。本実施形態では、第一実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0069】
図5に示すように、放射性廃液処理装置200を使用した廃液処理方法は、第一の廃液処理設備10から第二の廃液処理設備20へ吸着塔を移動する前に、吸着塔を廃液の通水系統から取り除く。取り除かれた吸着塔は、通水せずに一定期間保管し、保管後に第二の廃液処理設備20の吸着塔として再利用する。その他の処理方法は、第一実施形態と同様であるため詳細な説明は省略する。
【0070】
吸着塔を一定期間保管することで、吸着塔が再利用可能となる原理について説明する。
図6に示すようにStep1は、第一の廃液処理設備10で吸着塔5が平衡状態であることを示している。この時、吸着材粒子の表面のストロンチウム濃度は、放射性廃液A中のストロンチウム濃度に対して吸着可能な濃度に達している。しかし、吸着材粒子の内部まで均等な濃度ではなく、濃度勾配が生じている。吸着材粒子の内部に行くほど、ストロンチウム濃度が低い状態となっている。
【0071】
濃度勾配が生じているため、吸着塔5を通水系統から取り除き一定期間保管する。すると、Step2に示すように、保管期間中、吸着材粒子内部ではストロンチウムが拡散して濃度が均一になる方向に進んでいく。この時、吸着材粒子表面のストロンチウム濃度はStep1の時より低下する。
【0072】
Step3は、吸着塔5を第二の廃液処理設備20に設置して放射性廃液Bの処理に使用する時の状態を示している。第一実施形態と同様の原理により、ストロンチウム濃度の高い廃液を処理する第二の廃液処理設備20で吸着塔5を再利用することでストロンチウムを再び吸着することができる。さらに、一定期間吸着塔5を保管したことで第二の廃液処理設備20でより効率的にストロンチウムを吸着することができる。
【0073】
なお、保管した吸着塔の表面のストロンチウム濃度は低下しているため、第二の廃液処理設備20で再利用するのではなく、第一の廃液処理設備10で使用することもできる。その場合、そこでもう一度ストロンチウムを限界まで吸着させたあと、第二の廃液処理設備20で再利用すればよいため、吸着材や吸着塔の廃棄量を削減することができる。
【0074】
保管時間と濃度の低下率は吸着材粒子内のストロンチウムの拡散係数によって決まり、拡散係数は吸着材の材質によって異なるが、一般的なストロンチウム吸着材では数日保管することで吸着材粒子表面のストロンチウム濃度は一定量低下する。
【0075】
一方で、第一の廃液処理設備10で使用した吸着塔5を第二の廃液処理設備20に設置するためには、第一の廃液処理設備10の運転停止と吸着塔の取り外し、第二の廃液処理設備20への移送、第二の廃液処理設備20の運転停止と吸着塔の取り付け、第二の廃液処理設備20の運転前点検と運転開始、の各作業が発生する。これらの作業には3日程度の期間が必要である。
【0076】
これらを踏まえると、第一の廃液処理設備10で使用した吸着塔5を第二の廃液処理設備20で再利用するまでの保管期間は、3日以上であることが望ましい。一方、保管期間が数年間等の長期に渡る場合、吸着塔内部での吸着材粒子同士の固着、吸着塔材料からの腐食生成物の発生、微生物の繁殖等が生じ、再利用の効果を低減することを防止するために再利用実施前に吸着塔の内部状況の確認や、吸着材粒子を一部取り出して事前に性能評価を実施することが望ましい。
【0077】
以上、説明した放射性廃液の処理方法であっても、第一実施形態と同等の効果を奏することができる。
【0078】
<第七実施形態>
次に、本発明の第五実施形態に係る放射性廃液処理装置300について説明する。本実施形態では、放射性廃液処理装置100に吸着材交換設備30が備えられている点で、第一実施形態とは相違する。本実施形態では、第一実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0079】
図7に示すように、放射性廃液処理装置300は、第一の廃液処理設備10と、第二の廃液処理設備20と、吸着材交換設備30とを含んで構成される。
【0080】
吸着材交換設備30は、吸着材移送ポンプP1と、水供給タンク31と、フィルタ32と、水移送ポンプP2とを備えて構成されている。なお、放射性廃液処理装置300のその他の構成については第一実施形態と同様である。
【0081】
次に、放射性廃液処理装置300を使用して行う放射性廃液の処理方法について説明する。
第一の廃液処理設備10の吸着塔5に充填される吸着材が平衡状態になると、吸着塔5に充填される吸着材は、吸着材交換設備30によって引き抜かれる。吸着塔5から引き抜かれた吸着材は、水供給タンク31と、吸着材移送ポンプP1によって、第二の廃液処理設備20の吸着塔へと送られる。
【0082】
水供給タンク31は、吸着塔5に対して水移送ポンプP2を用いて水を供給する。水供給タンク31から水が供給されると、吸着塔5内の吸着材はスラリー状となる。スラリー状になった吸着材は、吸着材移送ポンプP1によって吸着塔5から引き抜かれて、第二の廃液処理設備20の吸着塔4へと直接詰め替えられる。その後、吸着材が詰め替えられた新たな吸着塔4は放射性廃液Bの処理に使用される。
【0083】
第一の廃液処理設備10において、平衡状態となった吸着材を詰め替える吸着塔は、吸着塔4に限定されず、第一実施形態で説明したとおり、ストロンチウム濃度によって適切な位置に設置することが可能である。つまり、吸着材を詰め替える吸着塔は、吸着塔3、吸着塔2、吸着塔1の位置であってもよい。
【0084】
第二の廃液処理設備20内の吸着塔へと詰め替えられた吸着材と同伴していた水は、水移送ポンプP2を用いて水供給タンク31へと返送され再利用される。第二の廃液処理設備20から水供給タンク31に水を返送する際に途中に設けられたフィルタ32を通過する。フィルタ32を通過する際に海水などの不純物は除去される。このように、水供給タンク31からの水を循環する経路を構成することにより第一の廃液処理設備10の吸着塔と第二の廃液処理設備20で使用する吸着塔の両方に通水をすることができる。
【0085】
以上、説明した放射性廃液の処理方法であっても、第一実施形態と同等の効果を奏することができる。また、本実施形態の放射性廃液の処理方法では、吸着材を直接吸着塔へ詰め替えることができるため、新しい吸着塔や、使用済みの吸着塔をさらに削減することができる。
【0086】
<第八実施形態>
次に、本実施形態に係る放射性廃液処理装置400について説明する。本実施形態では、吸着材交換設備40に一時受入タンク42が備えられている点で、第六実施形態とは相違する。本実施形態では、第六実施形態相違とする点を中心に説明する。
【0087】
図8に示すように、吸着材交換設備40は、使用済みの吸着材移送ポンプP1と、水移送ポンプP2、水移送ポンプP3と、吸着材を一時的に保管する一時受入タンク42と、吸着材撹拌装置44と、水供給タンク41と、フィルタ43とを備えている。
【0088】
第一の廃液処理設備10で平衡状態となった吸着材は、吸着材交換設備40によって吸着塔5から引き抜かれる。吸着材交換設備40に引き抜かれた吸着材は、水供給タンク41と、吸着材移送ポンプP1によって、一時受入タンク42に送られて、一時的に保管される。さらに一時受入タンク42は、吸着材撹拌装置44に接続されている。
【0089】
水供給タンク41は、吸着塔5に対して、水移送ポンプP3を用いて水を供給する。水供給タンク41から水が供給されると吸着塔5内の吸着材はスラリー状となる。スラリー状となった吸着材は、吸着材移送ポンプP1によって吸着塔5から引き抜かれて、吸着材交換設備40に設けられた一時受入タンク42へと詰め替えられる。引き抜かれた吸着材は、一時受入タンク42内で保管される。
【0090】
吸着材撹拌装置44は、一時受入タンク42に接続されており、一時受入タンク42内の使用済み吸着材を撹拌することができる。吸着塔5内で平衡状態となった吸着材は、塔の上部ではSr-90の吸着量が多く、塔の下部では、Sr-90の吸着量が少ない分布を示す。そのため、吸着材を吸着塔4に詰替える前に、吸着材撹拌装置44を用いて吸着材を攪拌する。これにより、Sr-90の除去性能を均一にすることができる。
【0091】
一時受入タンク42内で吸着材撹拌装置44によって撹拌された吸着材は、撹拌後、水供給タンク41から水移送ポンプP3によって水を供給され、スラリー状となる。スラリー状となった使用済吸着材は、吸着材移送ポンプP1を用いて一時受入タンク42から引き抜かれて、吸着塔4へと詰め替えられる。
【0092】
一時受入タンク42および吸着塔4に詰替えられた際に同伴していた水は、水移送ポンプP2を用いて水供給タンク41に返送し、再利用する。返送する際は、不純物を除去するためのフィルタ43を通す。このように、水供給タンク41からの水を循環する経路を構成することにより第一の廃液処理設備10の吸着塔と第二の廃液処理設備20で使用する吸着塔の両方に通水をすることができる。
【0093】
以上、説明した放射性廃液の処理方法であっても、第一実施形態と同等の効果を奏することができる。また、本実施形態の放射性廃液の処理方法では、第七実施形態と比べて一時受入タンク42が増えるが、第一の廃液処理設備10の吸着塔の吸着材容量が第二の廃液処理設備20の吸着塔の吸着材容量より多い場合、一次受入タンクで使用済吸着材を撹拌することでその性能を均一化してから、第二の廃液処理設備20の吸着塔に充填することができる。
【0094】
以上、本発明について説明したが、本発明は、前記の実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変化が可能である。
【0095】
例えば、第六実施形態で一時保管した吸着塔5が第二の廃液処理設備20内で使用できる位置は、吸着塔4の位置だけでなく、ストロンチウム濃度やSr-90濃度次第で、別の位置にすることもできる。第四実施形態や第五実施形態と同様に、吸着塔3で使用することもできるし、吸着塔2や吸着塔1であってもよい。
【0096】
例えば、第一実施形態の吸着塔1は、廃棄または、別の設備で用いると説明したが、第五実施形態の保管を吸着塔1に適用してもよい。つまり、第二の廃液処理設備20の廃液通水系統から取り除かれた、吸着塔1を一定期間保管し、吸着材の濃度勾配が一定になった後、再び第二の廃液処理設備20に戻して使用することもできる。
【符号の説明】
【0097】
1,2,3,4,5,6,7,8 吸着塔
100 放射性廃液処理装置
200 放射性廃液処理装置
300 放射性廃液処理装置
400 放射性廃液処理装置
10 第一の廃液処理設備
20 第二の廃液処理設備
30、40 吸着材交換設備
31、41 水供給タンク
32、43 フィルタ
42 一時受入タンク
44 吸着材撹拌装置
P1 吸着材移送ポンプ
P2、P3 水移送ポンプ
A 放射性廃液(第一の放射性廃液)
B 放射性廃液(第二の放射性廃液)