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特許7503460クローラ監視システム、クローラ装置、クローラ車およびクローラ監視方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】クローラ監視システム、クローラ装置、クローラ車およびクローラ監視方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 55/32 20060101AFI20240613BHJP
   B62D 55/08 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B62D55/32
B62D55/08 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020149691
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2022044184
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100179947
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮本 亮
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-276661(JP,A)
【文献】特開平07-108961(JP,A)
【文献】特開2005-035532(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102018209905(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0118290(US,A1)
【文献】実開昭54-111038(JP,U)
【文献】特開2011-011622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/32
B62D 55/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動突起が内周面に設けられている弾性クローラと、前記弾性クローラの前記駆動突起を押圧可能な駆動ピンを有しているとともに前記弾性クローラの前記内周面を回転可能な駆動スプロケットと、を備えているクローラ装置を監視するための、クローラ監視システムであって、
前記弾性クローラの前記内周面と前記駆動スプロケットとの間の距離に関する情報を取得するためのセンサと、
前記センサからの前記情報を取得し、前記情報を基に測定された前記弾性クローラの前記内周面と前記駆動スプロケットとの間の距離の測定値が予め設定された所定値以上であるかどうかを監視する監視部と、
を備えている、クローラ監視システム。
【請求項2】
前記監視部は、前記測定値が前記所定値以上であると判定したとき、前記駆動スプロケットの回転を減少もしくは停止させ又は前記測定値が前記所定値以上であることを報知する、請求項1に記載されたクローラ監視システム。
【請求項3】
前記センサを被覆する断熱部材を備えている、請求項1又は2に記載されたクローラ監視システム。
【請求項4】
前記センサを被覆する緩衝部材を備えている、請求項1~3のいずれか1項に記載されたクローラ監視システム。
【請求項5】
前記センサは、クローラ周方向に配置された複数のセンサを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載されたクローラ監視システム。
【請求項6】
前記センサは、クローラ周方向視のクローラ幅方向で前記弾性クローラの幅方向端部と重複する位置に配置されている、請求項1~5のいずれか1項に記載されたクローラ監視システム。
【請求項7】
前記センサは、スプロケットフレームに配置されている、請求項6に記載されたクローラ監視システム。
【請求項8】
前記駆動スプロケットは、当該駆動スプロケットと対をなす従動スプロケットよりも、高い位置に配置されている、請求項1~7のいずれか1項に記載されたクローラ監視システム。
【請求項9】
駆動突起が内周面に設けられている弾性クローラと、
前記弾性クローラの前記駆動突起を押圧可能な駆動ピンを有しているとともに前記弾性クローラの前記内周面を回転可能な駆動スプロケットと、
請求項1~8のいずれか1項に記載されたクローラ監視システムと、
を備えている、クローラ装置。
【請求項10】
駆動突起が内周面に設けられている弾性クローラと、前記弾性クローラの前記駆動突起を押圧可能な駆動ピンを有しているとともに前記弾性クローラの前記内周面を回転可能な駆動スプロケットと、を備えているクローラ装置が車両前側及び後側に配置された、クローラ車であって、
前記クローラ車は、請求項1~9のいずれか1項に記載されたクローラ監視システムを更に備えており、
前記センサは、車両前側の前記クローラ装置と車両後側の前記クローラ装置との、少なくともいずれ一方の当該クローラ装置に設けられている、クローラ車。
【請求項11】
前記センサは、前記車両前側の前記クローラ装置と前記車両後側の前記クローラ装置との、少なくとも荷重負荷の大きい当該クローラ装置に設けられている、請求項10に記載されたクローラ車。
【請求項12】
前記センサは、全ての前記クローラ装置に設けられている、請求項10又は11に記載されたクローラ車。
【請求項13】
弾性クローラの内周面に設けられた駆動突起を駆動スプロケットに設けられた駆動ピンで押圧しながら当該駆動スプロケットを前記弾性クローラの前記内周面で回転させているクローラ装置を監視するための、クローラ監視方法であって、
前記弾性クローラの内周面と前記駆動スプロケットとの間の距離に関する情報を取得することと、
前記情報を基に測定された前記弾性クローラの前記内周面と前記駆動スプロケットとの間の距離の測定値が予め設定された所定値以上であるかどうかを監視することと、
を含む、クローラ監視方法。
【請求項14】
前記測定値が前記所定値以上であると判定したとき、前記駆動スプロケットの回転を減少もしくは停止させ又は前記測定値が前記所定値以上であることを報知することを更に含む、請求項13に記載されたクローラ監視方法。
【請求項15】
前記情報をクローラ周方向の複数個所で取得する、請求項13又は14に記載されたクローラ監視方法。
【請求項16】
前記情報は、前記弾性クローラの幅方向端部における前記内周面と前記駆動スプロケットとの間の距離に関する情報である、請求項13~15のいずれか1項に記載されたクローラ監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローラ監視システム、クローラ装置、クローラ車およびクローラ監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術としては、センサで検知した検知振動データと、ICタグに記憶された製品情報を基に予測される予測振動データとに基づいて、ゴムクローラが異常であるかどうかを判定することが可能な、監視装置がある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-11622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、弾性クローラの駆動方式には、ガイド駆動方式といわれる方式がある。この駆動方式は、弾性クローラの内周面に設けられたガイド突起(駆動突起)を駆動スプロケットに設けられた駆動ピンで押圧しながら当該駆動スプロケットを前記弾性クローラの前記内周面で回転させることによって、当該弾性クローラを駆動させる方式である。
【0005】
上記ガイド駆動方式の場合、例えば、弾性クローラに大きな負荷が加わると、駆動スプロケットの駆動ピンが弾性クローラのガイド突起を乗り越えてしまうことがある。このように、駆動スプロケットの駆動ピンが弾性クローラのガイド突起を乗り越えてしまう現象を「歯飛び」ともいう。「歯飛び」には、ガイド突起の破損、脱落を生じさせるおそれがある。
【0006】
しかしながら、上記従来の技術は、弾性クローラの異常を判定するための監視装置であることから、歯飛びを未然に防ぐことはできない。
【0007】
本発明の目的は、歯飛びを未然に防ぐための、クローラ監視システム、クローラ装置、クローラ車およびクローラ監視方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るクローラ監視システムは、駆動突起が内周面に設けられている弾性クローラと、前記弾性クローラの前記駆動突起を押圧可能な駆動ピンを有しているとともに前記弾性クローラの前記内周面を回転可能な駆動スプロケットと、を備えているクローラ装置を監視するための、クローラ監視システムであって、前記弾性クローラの前記内周面と前記駆動スプロケットとの間の距離に関する情報を取得するためのセンサと、前記センサからの前記情報を取得し、前記情報を基に測定された測定値が予め設定された所定値以上であるかどうかを監視する監視部と、を備えている。本発明に係るクローラ監視システムによれば、歯飛びを未然に検知することができる。
【0009】
本発明に係るクローラ監視システムにおいて、前記監視部は、前記測定値が前記所定値以上であると判定したとき、前記駆動スプロケットの回転を減少もしくは停止させ又は前記測定値が前記所定値以上であることを報知することが好ましい。この場合、歯飛びを未然に防ぐことができる。
【0010】
本発明に係るクローラ監視システムは、前記センサを被覆する断熱部材を備えていることが好ましい。この場合、センサの耐久性を向上させることができる。
【0011】
本発明に係るクローラ監視システムは、前記センサを被覆する緩衝部材を備えていることが好ましい。この場合、センサの耐久性を向上させることができる。
【0012】
本発明に係るクローラ監視システムにおいて、前記センサは、クローラ周方向に配置された複数のセンサを含むことが好ましい。この場合、より高い精度で、歯飛びを未然に検知することができる。
【0013】
本発明に係るクローラ監視システムにおいて、前記センサは、クローラ周方向視のクローラ幅方向で前記弾性クローラの幅方向端部と重複する位置に配置されていることが好ましい。この場合、簡易な方法で、歯飛びを未然に検知することができる。
【0014】
本発明に係るクローラ監視システムにおいて、前記センサは、スプロケットフレームに配置されていることが好ましい。この場合、既存の部材を用いた簡易な方法で、歯飛びを未然に検知することができる。
【0015】
本発明に係るクローラ監視システムにおいて、前記駆動スプロケットは、当該駆動スプロケットと対をなす従動スプロケットよりも、高い位置に配置されているものとすることができる。この場合、簡易な方法で、歯飛びを未然に検知することができる。
【0016】
本発明に係るクローラ装置は、駆動突起が内周面に設けられている弾性クローラと、前記弾性クローラの前記駆動突起を押圧可能な駆動ピンを有しているとともに前記弾性クローラの前記内周面を回転可能な駆動スプロケットと、上記のいずれか1つのクローラ監視システムと、を備えている。本発明に係るクローラ装置によれば、歯飛びを未然に検知することができる。
【0017】
本発明に係るクローラ車は、駆動突起が内周面に設けられている弾性クローラと、前記弾性クローラの前記駆動突起を押圧可能な駆動ピンを有しているとともに前記弾性クローラの前記内周面を回転可能な駆動スプロケットと、を備えているクローラ装置が車両前側及び後側に配置された、クローラ車であって、前記クローラ車は、上記のいずれか1つのクローラ監視システムを更に備えており、前記センサは、車両前側の前記クローラ装置と車両後側の前記クローラ装置との、少なくともいずれ一方の当該クローラ装置に設けられている。本発明に係るクローラ車によれば、歯飛びを未然に検知することができる。
【0018】
本発明に係るクローラ車において、前記センサは、前記車両前側の前記クローラ装置と前記車両後側の前記クローラ装置との、少なくとも荷重負荷の大きい当該クローラ装置に設けられていることが好ましい。この場合、歯飛びを生じ易いクローラ装置での歯飛びを未然に検知することができる。
【0019】
本発明に係るクローラ車において、前記センサは、全ての前記クローラ装置に設けられていることが好ましい。この場合、全てのクローラ装置での歯飛びを未然に検知することができる。
【0020】
本発明に係るクローラ監視方法は、弾性クローラの内周面に設けられた駆動突起を駆動スプロケットに設けられた駆動ピンで押圧しながら当該駆動スプロケットを前記弾性クローラの前記内周面で回転させているクローラ装置を監視するための、クローラ監視方法であって、前記弾性クローラの内周面と前記駆動スプロケットとの間の距離に関する情報を取得することと、前記情報を基に測定された測定値が予め設定された所定値以上であるかどうかを監視することと、を含む。本発明に係るクローラ監視方法によれば、歯飛びを未然に検知することができる。
【0021】
本発明に係るクローラ監視方法は、前記測定値が前記所定値以上であると判定したとき、前記駆動スプロケットの回転を減少もしくは停止させ又は前記測定値が前記所定値以上であることを報知することを更に含むことが好ましい。この場合、歯飛びを未然に防ぐことができる。
【0022】
本発明に係るクローラ監視方法は、前記情報をクローラ周方向の複数個所で取得することが好ましい。この場合、より高い精度で、歯飛びを未然に検知することができる。
【0023】
本発明に係るクローラ監視方法において、前記情報は、前記弾性クローラの幅方向端部における前記内周面と前記駆動スプロケットとの間の距離に関する情報であることが好ましい。この場合、簡易な方法で、歯飛びを未然に検知することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、歯飛びを未然に防ぐための、クローラ監視システム、クローラ装置、クローラ車およびクローラ監視方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る、クローラ車を概略的に示す側面図である。
図2図1のクローラ車に設けられたクローラ装置を拡大して示す側面図である。
図3図2のクローラ装置の動作を説明する説明図である。
図4図1のクローラ車に採用可能な弾性クローラの一例を一部断面で示す斜視図である。
図5図1のクローラ車に採用可能な駆動スプロケットの一例を概略的に示す斜視図である。
図6】弾性クローラが駆動輪に対して歯飛びを生じる直前の状態を図3の拡大図で説明する説明図である。
図7】本発明の一実施形態に係る、クローラ監視システムを概略的に示すブロック図である。
図8図2のA-A断面図である。
図9】本発明の一実施形態に係る、クローラ監視方法を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る、クローラ監視システム、クローラ装置、クローラ車およびクローラ監視方法について説明をする。
【0027】
図1中、符号1は、本発明の一実施形態に係る、クローラ車である。クローラ車1は、車体2と、車体2に取り付けられているクローラ装置3とを備えている。本実施形態では、クローラ車1は、4つのクローラ装置3を備えている。本実施形態では、1組のクローラ装置3が車両前側及び車両後側にそれぞれ配置されている。1組のクローラ装置3は、車両左右方向(車両幅方向)に配置されている。
【0028】
図2には、クローラ装置3を拡大して示す。クローラ装置3は、後述するクローラ監視システム4を適用可能なクローラ装置である。また、図3は、クローラ装置3の動作を説明する説明図である。図3を参照すれば、クローラ装置3は、駆動突起31bが内周面31f1に設けられている弾性クローラ31と、弾性クローラ31の駆動突起31bを押圧可能な駆動ピン34bを有しているとともに弾性クローラ31の内周面31f1を回転可能な駆動輪34と、を備えている。
【0029】
図4には、弾性クローラ31の一例を一部断面で示す。本明細書において、「クローラ内周側」、「クローラ外周側」、「クローラ周方向」、「クローラ幅方向」、「クローラ厚さ方向」とは、それぞれ、クローラ本体31における内周側、外周側、周方向、幅方向、厚さ方向をいう。図では、それぞれ、便宜上、周方向を矢印CDで示し、幅方向を矢印WDで示し、厚さ方向を矢印TDで示す。
【0030】
本実施形態において、弾性クローラ31は、芯金レス弾性クローラである。弾性クローラ31は、弾性材料によって形成されている。この例では、前記弾性材料は、ゴムである。弾性クローラ31は、クローラ本体31aと、駆動突起31bと、ラグ31cと、を備えている。
【0031】
クローラ本体31aは、無端帯状に形作られている。本実施形態では、クローラ本体31aは、当該クローラ本体31aの内部に埋設されたスチールコード層32及び1層又は複数層(図の例では3層)の補強プライ33と、を備えている。スチールコード層32は、それぞれ、クローラ周方向に平行に延びる複数本のスチールコード32aからなる。各補強プライ33は、スチールコード層32よりもクローラ外周側に配置されている。補強プライ33は、例えば、クローラ周方向に対して傾斜した複数本のコードを含む。ただし、補強プライ33は、省略することもできる。
【0032】
本実施形態では、弾性クローラ31は、複数の駆動突起31bを備えている。複数の突起31bは、それぞれ、クローラ本体31aの内周面からクローラ内周側へ突出している。本実施形態では、クローラ本体31aの内周面は、弾性クローラ31の内周面31f1である。また、複数の駆動突起31bは、それぞれ、クローラ周方向に互いに一定の間隔を置いて配列されている。本実施形態では、駆動突起31bは、それぞれ、クローラ本体13aのクローラ幅方向中央に配置されている。
【0033】
また、本実施形態では、弾性クローラ31は、複数のラグ31cを備えている。複数のラグ31cは、それぞれ、クローラ本体31aの外周面からクローラ外周側へ突出している。本実施形態では、クローラ本体31aの外周面は、弾性クローラ31の外周面31f2である。ラグ31cの形状や配置は、各図に示すものに限られず、任意の形状、配置を採用することができる。
【0034】
本実施形態では、駆動突起31b及びラグ31cは、クローラ本体31aと共に一体に成形することができる。また、駆動突起31b及びラグ31cは、クローラ本体31aに対して加硫接着することができる。
【0035】
また、図3を参照すれば、クローラ装置3は、駆動輪(駆動スプロケット)34と、従動輪(従動スプロケット:アイドラ)35と、転輪(転輪スプロケット)36と、を備えている。駆動輪34、従動輪35及び転輪36は、車体2に取り付けられた回転体である。駆動輪34、従動輪35及び転輪36には、弾性クローラ31が巻き掛けられている。また、クローラ装置3は、後述するクローラ監視システム4を備えている。
【0036】
駆動輪34は、例えば、エンジン等の内燃機関、モータ、を駆動源10(図1参照。)として、回転軸線Oの周りを自発的に回転することができる。本実施形態では、駆動輪34は、かご型スプロケットである。前記かご型スプロケットは、回転軸線Oの周りに同一ピッチで配置された複数の駆動ピン34bを有している。本実施形態では、駆動輪34は、弾性クローラ31の内周面31f1に接触可能な外周面34f1を有している。
【0037】
図5には、駆動輪34の一例を概略的に示す。本実施形態では、駆動輪34は、2つのフランジ部34aを有している。2つのフランジ部34aは、軸線方向に間隔を置いて配置されている。2つのフランジ部34aは、複数の駆動ピン34bによって連結されている。複数の駆動ピン34bは、周方向に間隔を置いて配置されている。本実施形態では、フランジ部34aの外周面は、駆動輪34の外周面34f1である。なお、本実施形態では、軸線方向とは、回転軸線Oに対して平行に延在する方向をいう。また、周方向とは、軸線方向の周りに周回する方向をいう。
【0038】
再び図3を参照すれば、駆動輪34は、従動輪35よりも高い位置に配置されている。従動輪35は、駆動輪34と対をなす従動スプロケットである。従動輪35及び転輪36は、弾性クローラ31を介して駆動輪34の回転に追従するように回転する。本実施形態では、従動輪35及び転輪36は、駆動輪34と同様のかご型スプロケットである。本実施形態では、クローラ装置3は、2つの従動輪35と、3つの転輪36とを備えている。ただし、駆動輪34、従動輪35及び転輪36の個数、配列などの構成は、クローラ装置3の仕様要求などに応じて変更することができる。
【0039】
図3を参照すれば、駆動輪34の外周面34f1は、弾性クローラ31が架け渡されていることによって、弾性クローラ31の内周面31f1を接触する。これによって、駆動輪34の外周面34f1は、弾性クローラ31の内周面31f1を支持する。また、従動輪35の外周面35f1も同様に、弾性クローラ31が架け渡されていることによって、弾性クローラ31の内周面31f1を接触する。これによって、従動輪35の外周面35f1も、弾性クローラ31の内周面31f1を支持する。加えて、本実施形態において、転輪36の外周面36f1も同様に、弾性クローラ31が架け渡されていることによって、弾性クローラ31の内周面31f1を接触する。これによって、転輪36の外周面36f1も、弾性クローラ31の内周面31f1を支持する。
【0040】
クローラ装置3は、例えば、次のように動作する。図3の矢印Dに示すように、駆動輪34を回転軸線Oの周りに回転させると、当該駆動輪34の各駆動ピン34bは、それぞれ、当該駆動ピン34bに対応する弾性クローラ31の駆動突起31bのクローラ周方向側面31bfを順次押圧する。これによって、駆動輪34は、弾性クローラ31をクローラ周方向に牽引する。このとき、従動輪35及び転輪36は、弾性クローラ31の牽引力によって、駆動輪34と同一の方向に回転する。即ち、弾性クローラ31は、駆動輪34を回転させることによって、駆動輪34、従動輪35及び転輪36の周りを回転する。したがって、クローラ装置3は、駆動輪34を回転させることによって、弾性クローラ31を駆動させることができる。
【0041】
しかしながら、上述のとおり、弾性クローラ31の駆動方式が、駆動輪34の駆動ピン34bが弾性クローラ31の駆動突起31bを押圧することによって弾性クローラ31を駆動させる、いわゆるガイド駆動方式である場合、駆動輪34の駆動ピン34bが弾性クローラ31に設けた駆動突起31bを乗り越えることによって、いわゆる「歯飛び」といわれる現象が生じることがある。
【0042】
図6は、弾性クローラ31が駆動輪34に対して歯飛びを生じる直前の状態を図3の拡大図で示している。駆動輪34の駆動ピン34bが、図6の状態から弾性クローラ31の駆動突起31bを乗り越えるとき、当該駆動突起31bの破損、駆動突起31bの取れが生じる。これは、駆動ピン34bが駆動突起31bを乗り越えるときに、駆動突起31bに大きなひずみが生じるためである。「歯飛び」の現象は、製品寿命の低下、駆動力の低下、作業停止を招く。
【0043】
「歯飛び」は、駆動輪34の駆動ピン34bが弾性クローラ31の駆動突起31bを乗り越えることによって生じることから、駆動ピン34bの駆動突起31bに対する乗り越えを監視することによって、「歯飛び」を未然に防ぐことができる。
【0044】
弾性クローラ31が駆動輪34などに巻き掛かっているとき、弾性クローラ31の内周面31f1は、駆動輪34の外周面34f1に接触している。しかしながら、駆動輪34の駆動ピン34bが弾性クローラ31の駆動突起31bを乗り越えようとするとき、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34の外周面34f1との間には、図6の符号D1に示すように、隙間が生じる。
【0045】
そこで、本発明は、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34の外周面34f1との間の距離D1に関する情報Sを、センサ4aを用いて取得することによって、「歯飛び」の発生を監視する。本実施形態では、距離D1は、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34の外周面34f1との間の隙間である。
【0046】
距離D1は、測定値Dとして、センサ4aで取得した情報Sを基に算出することができる。情報Sを基に算出された距離D1が予め設定された所定値Dv1以上であると判定したときは、「歯飛び」を生じ得るとして、「歯飛び」を防止するための対策を行う。こうした対策としては、例えば、駆動輪34の回転を減少もしくは停止させ又は「歯飛び」が生じ得ることを、視覚的手段、聴覚的手段を用いてオペレータに報知する。
【0047】
図7は、本発明の一実施形態に係る、クローラ監視システム4を概略的に示すブロック図である。
【0048】
クローラ監視システム4は、クローラ装置3を監視するシステムである。ここで、クローラ監視システム4には、4つのクローラ装置3の少なくとも1つを全体として監視するシステムが含まれることは勿論、4つのクローラ装置3のそれぞれに設けられた個別のクローラ監視装置も含まれる。クローラ監視システム4は、センサ4aと、監視部4bと、を備えている。センサ4aは、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34との間の距離D1に関する情報Sを取得するためのセンサである。監視部4bは、センサ4aからの情報Sを取得し、情報Sを基に測定された測定値Dが予め設定された所定値Dv以上であるかどうかを監視する。測定値Dが距離D1である場合、所定値Dv1としては、例えば、駆動ピン34bが駆動突起31bを乗り越える直前の、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34の外周面34f1との間の隙間に相当する値Dv1(以下、「所定値Dv1」ともいう。)が挙げられる。より好ましくは、所定値Dv1としては、エンジン等の駆動部4cを停止させたとき、駆動突起31bの弾性力で駆動ピン34bが駆動突起31bを乗り越えることなく押し戻されるような、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34の外周面34f1との間の隙間に相当する値が挙げられる。
【0049】
センサ4aとしては、例えば、弾性クローラ31の内周面31f1までの距離Doの情報Sを取得するためのセンサが挙げられる。こうしたセンサとしては、例えば、変位センサ(変位計)が挙げられる。前記変位センサによれば、センサ4aと弾性クローラ31の内周面31f1との間の距離Doに関する情報Sは勿論、距離D1に関する情報Sとして、センサ4aに対する弾性クローラ31の内周面31f1の変位ΔDに関する情報Sをも取得することができる。
【0050】
本実施形態では、図1などに示すように、センサ4aは、1つのクローラ装置3に対して1つのセンサ4aである。ただし、センサ4aは、1つのクローラ装置3に対してクローラ周方向に配置された複数のセンサ4aを含むことが好ましい。センサ4aは、接触式、非接触式を問わないが、光学式変位センサ、リニア変位センサ、超音波変位センサなどの非接触式であることが好ましい。また、センサ4aは、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34との間の距離D1に関する情報Sを取得できるものであれば、変位センサに限定されるものではない。例えば、センサ4aは、距離センサであってもよい。
【0051】
ただし、前記変位センサのように、弾性クローラ31の内周面31f1がセンサ4aに対して変位したときの、当該変位ΔDに関する情報Sを取得することが好ましい。この場合、監視部4bは、センサ4aからの情報Sを取得し、情報Sを基に測定された変位ΔDを測定値Dとして、当該変位ΔDが予め設定された所定値Dv2以上であるかどうかを監視する。変位ΔDは、弾性クローラ31の内周面31f1がセンサ4aに対して変位したときの、当該弾性クローラ31の内周面31f1の位置の変位(変位量)である。図6を参照すれば、変位ΔDは、弾性クローラ31の内周面31f1が駆動輪34の外周面34f1と接触している位置(頂点P)を基準にした、弾性クローラ31の内周面31f1の変位である。前記変位のベクトルは、センサ4aから遠ざかる方向を正とする。この場合、所定値Dv2としては、例えば、駆動ピン34bが駆動突起31bを乗り越える直前の、弾性クローラ31の内周面31f1の変位に相当する値が挙げられる。より好ましくは、所定値Dv2としては、エンジン等の駆動部4cを停止させたとき、駆動突起31bの弾性力で駆動ピン34bが駆動突起31bを乗り越えることなく押し戻されるような、弾性クローラ31の内周面31f1の変位に相当する値が挙げられる。この場合、監視部4bは、距離D1を演算することなく、変位ΔDを演算し、当該変位ΔDと所定値Dv2との比較を行えばよい。このため、監視部4bでの演算処理を軽減することができる。こうした変位センサとしては、例えば、レーザー変位計が挙げられる。
【0052】
さらに、クローラ監視システム4において、監視部4bは、測定値Dが所定値Dv以上であると判定したとき、駆動輪34の回転を減少もしくは停止させ又は測定値Dが所定値Dv以上であることを報知することが好ましい。この場合、強制的に又は間接的に、駆動輪34の歯飛びを未然に防ぐことができる。
【0053】
クローラ監視システム4において、監視部4bは、歯飛びを未然に防ぐため、センサ4aから取得した情報Sを基に、駆動部4c及び報知部4dを制御する。
【0054】
図7を参照すれば、監視部4bは、演算制御部4b1と、記憶部4b2とを有している。演算制御部4b1は、記憶部4b2に記憶されたプログラムを実行することによって、測定値Dを演算し、当該測定値Dと所定値Dvとを比較する。また、演算制御部4b1は、記憶部4b2に記憶されたプログラムを実行することによって、駆動部4c及び報知部4dを制御する。演算制御部4b1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)などのプロセッサによって構成されている。演算制御部4b1は、少なくとも1つのプロセッサによって構成することができる、前記プロセッサは、例えば、IC(Integrated Circuit)で実現させることができる。また、前記プロセッサは、他の様々な既知の手段に基いて実現することができる。記憶部4b2は、センサ4aからの情報S、前記プログラムなどを記憶する。記憶部4b2は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などのメモリによって構成されている。記憶部4b2はまた、磁気ディスク、メモリーカード(例えば、USB)などの外部記憶装置によって構成することができる。監視部4bは、例えば、コンピュータによって構成することができる。
【0055】
図1を参照すれば、本実施形態に係るクローラ監視システム4は、クローラ車1全体のシステムとして、4つのクローラ装置3のそれぞれを1つの監視部4bで監視している。ただし、クローラ監視システム4は、4つのクローラ装置3のそれぞれに設けられたクローラ監視装置として、4つの監視部4bを、4つのクローラ装置3のそれぞれに設けることができる。
【0056】
また、図1を参照すれば、駆動部4cは、駆動輪34を回転させるための動力源10を含む。動力源10としては、例えば、エンジン、モータが挙げられる。動力源10がエンジンの場合、監視部4bが、燃料供給装置、点火装置、吸気制御装置などを制御することによって、駆動輪34の回転を減少又は停止させることができる。動力源10がモータの場合、監視部4bが、例えば、供給電力などを制御することによって、駆動輪34の回転を減少又は停止させることができる。
【0057】
報知部4dは、車体2の運転室2a内のオペレータ(運転手)に対して警報を行う、警報装置を含む。警報装置としては、例えば、視覚的装置、聴覚的装置などの知覚装置が挙げられる。報知部4dが視覚的装置の場合、監視部4bが視覚的装置を制御することによって、オペレータに対して警報を行う。前記視覚的装置は、色、文字、記号などの視覚情報を表示する。前記視覚的装置としては、例えば、運転室2a内に配置された、表示ディスプレイ、モニタ、警報ランプなどが挙げられる。報知部4dが聴覚的装置の場合、監視部4bが聴覚的装置を制御することによって、オペレータに対して警報を行う。前記聴覚的装置は、音声などの音を発生させる。前記聴覚的装置としては、例えば、ブザー、スピーカなどが挙げられる。
【0058】
さらに、本実施形態では、センサ4aは、クローラ周方向視のクローラ幅方向で弾性クローラ31の幅方向端部31eと重複する位置に配置されている。
【0059】
図8は、図2のA-A断面図である。図8を参照すれば、駆動輪34の軸線方向幅W34は、弾性クローラ31の幅(軸線方向幅)W31より狭い。このため、弾性クローラ31の幅方向端部(軸線方向幅部)31eは、駆動輪34の軸線方向端e34から露出している。したがって、弾性クローラ31の幅方向端部31eにおいて、当該弾性クローラ31の内周面31f1を検知できるように、センサ4aを配置すれば、駆動輪34の駆動ピン34bが弾性クローラ31の駆動突起31bを乗り上げたときに、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34の外周面34f1との間の距離D1が変位したことを容易に検知することができる。
【0060】
本実施形態において、センサ4aは、スプロケットフレーム37に配置されている。スプロケットフレーム37は、駆動輪34を車体2に対して固定するためのフレームである。図2を参照すれば、スプロケットフレーム37は、駆動輪34の回転軸線Oよりも下側の位置に配置されている。さらに図2を参照すれば、本実施形態において、センサ4aは、駆動輪34の回転軸線Oを通る垂線L上に配置されている。即ち、本実施形態において、センサ4aは、駆動輪34の外周面34f1のうちの最も上側の頂点Pでの、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34の外周面34f1との間の距離D1に関する情報Sを取得することができる。また、本実施形態において、センサ4aは、頂点Pから距離Doだけ離れた位置に配置されている。本実施形態では、変位ΔDは、距離Doよりもセンサ2aに遠ざかる方向を正とする。
【0061】
また、図8に示すように、クローラ監視システム4は、センサ4aを被覆する断熱部材5を備えていることが好ましい。断熱部材5は、温度に対してセンサ4aを保護することができる。例えば、スプロケットフレーム37は、主として金属製であることから、直射日光などによって温度上昇が想定される。実際に、スプロケットフレーム37の付近では、70°Cまで温度上昇することがわかっている。このため、断熱部材5は、少なくとも70°C以上の耐熱性を有するものが好ましい。断熱部材5としては、例えば、ポリウレタンフォーム、フッ素樹脂、シリコン材、ゴム材などが挙げられる。
【0062】
また、図8に示すように、クローラ監視システム4は、センサ4aを被覆する緩衝部材6を備えていることが好ましい。この場合、振動に対してセンサを保護することができる。緩衝部材6としては、例えば、ポリウレタンフォーム、ゴム材、シリコン材などが挙げられる。
【0063】
本実施形態では、センサ4aは、スプロケットフレーム37の内側面(機体側側面)37f1に固定されている。これによって、センサ4aが直射日光を浴びることを防止することができる。断熱部材5、緩衝部材6は、それぞれ、センサ4aの検知部を除いた当該センサ4aの全体を被覆することが好ましい。本実施形態では、センサ4aは、断熱部材5、緩衝部材6を介してスプロケットフレーム37に固定されている。なお、この場合、断熱部材5、緩衝部材6は、少なくともいずれか一方とすることができる。断熱部材5と緩衝部材6とを積層する場合には、スプロケットフレーム37からの断熱部材5と緩衝部材6との積層の順番は特に限定されない。また、断熱部材5と緩衝部材6とは、断熱性能性及び緩衝性能(防振・制振性能)の両方の機能を兼ね備える、1つの部材によって構成することができる。こうした部材としては、例えば、ポリウレタンフォーム、ゴム材、シリコン材が挙げられる。
【0064】
図9は、本発明の一実施形態に係る、クローラ監視方法を概略的に示すフローチャートである。本実施形態に係るクローラ監視方法は、クローラ装置3を監視するための方法である。本実施形態に係るクローラ監視方法によれば、センサ4aから取得した情報Sを入力として当該情報Sを基に監視部4bが演算処理を行い、当該演算処理の結果に応じた指令が駆動部4c及び報知部4dに出力されることによって、歯飛びを生じさせないように駆動部4c及び報知部4dを操作する。
【0065】
本実施形態に係るクローラ監視方法は、所定のサンプリング周波数でリアルタイムに行われる。本実施形態に係るクローラ監視方法は、エンジン、モータなどの動力源10を始動したことをトリガーに開始される。
【0066】
図9を参照すれば、ステップ101において、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34との間の距離D1に関する情報Sを取得する。
【0067】
本実施形態では、距離D1は、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34の外周面34f1との間の隙間である。D1≦0であるとき、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34の外周面34f1との間には、隙間がなく、互いに接触している。これに対して、D1>0であるとき、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34の外周面34f1との間には、隙間が形成され、互いに離間している。
【0068】
本実施形態では、センサ4aが取得する情報Sは、弾性クローラ31の内周面31f1の位置の、センサ4aに対する変位ΔDに関する情報である。変位ΔDは、上述のとおり、弾性クローラ31の内周面31f1が駆動輪34の外周面34f1と接触している位置(頂点P)を基準にした、弾性クローラ31の内周面31f1の変位である。前記変位のベクトルは、センサ4aから遠ざかる方向を正とする。本実施形態では、ΔD≦0であるとき、弾性クローラ31の内周面31f1の位置は、センサ4aに対して変位していない。したがって、センサ4aによって取得された情報Sからは、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34の外周面34f1との間には、隙間がなく、互いに接触していることがわかる。これに対して、本実施形態では、ΔD>0であるとき、弾性クローラ31の内周面31f1の位置は、センサ4aに対して、当該センサ4aから遠ざかる向きに変位している。したがって、センサ4aによって取得された情報Sからは、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34の外周面34f1との間には、隙間が形成され、互いに離間していることがわかる。
【0069】
次いで、ステップ102において、情報Sを基に測定された測定値Dが予め設定された所定値Dv以上であるかどうかを監視する。
【0070】
上述のとおり、センサ4aによって取得された情報Sは、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34の外周面34f1との間の距離(隙間)D1に関する情報である。例えば、情報Sが距離D1を測定するための情報である場合、所定値Dvとして、所定値Dv1を用いる。所定値Dv1は、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34の外周面34f1との間の距離D1が歯飛びを生じさせ得る隙間であるかどうかを判定するために用いられる。
【0071】
距離D1が所定値Dv1未満(D1<Dv1)であるとき、駆動輪34の駆動ピン34bが弾性クローラ31の駆動突起31bを乗り越えるまでに至らない隙間であると判定する。即ち、D1<Dv1であるとき、距離D1は、歯飛びを生じさせるまでに至らない狭い隙間であると判定する。したがって、この場合、歯飛びを生じることはないとして、ステップ101にリターンする。
【0072】
これに対して、測定値Dが所定値Dv以上(D1≧Dv)であるとき、駆動輪34の駆動ピン34bが弾性クローラ31の駆動突起31bを乗り越え得ると判定する。この例では、距離D1が所定値Dv1以上(D1≧Dv1)であるとき、駆動輪34の駆動ピン34bが弾性クローラ31の駆動突起31bを乗り越え得る隙間であると判定する。即ち、D1≧Dv1であるとき、距離D1は、歯飛びを生じさせ得る広い隙間であると判定する。したがって、この場合、歯飛びを生じ得るとして、ステップ103に移行して、歯飛びを防止するための対策を行う。前記対策としては、駆動部4cを制御することによって、駆動輪34の回転を減少もしくは停止させることができる。また、前記対策としては、測定距離D1が所定値Dv1以上であること、即ち、歯飛びを生じ得ることを、報知部4dを通して報知することはできる。あるいは、駆動部4c及び報知部4dの操作を併用することができる。
【0073】
特に、本実施形態では、ステップ101にて、センサ4aによって取得された情報Sは、上述のとおり、弾性クローラ31の内周面31f1がセンサ4aに対して変位したときの、当該弾性クローラ31の内周面31f1の位置の変位ΔDである。この場合、ステップ102において、情報Sを基に測定された変位ΔDを測定値Dとして、所定値Dv2を用いる。即ち、ステップ102において、変位ΔDが予め設定された所定値Dv2以上であるかどうかを監視する。この例では、所定値Dv2は、弾性クローラ31の内周面31f1の変位ΔDが歯飛びを生じさせ得る変位であるかどうかを判定するために用いられる。
【0074】
変位ΔDが所定値Dv2未満(ΔD<Dv2)であるとき、弾性クローラ31の内周面31f1の位置は、センサ4aに対してほとんど変位していないと判定する。即ち、ΔD<Dv2であるとき、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34の外周面34f1との間の隙間として距離D1で検討した場合と同様、駆動輪34の駆動ピン34bが弾性クローラ31の駆動突起31bを乗り越えることがないと判定する。したがって、この場合、歯飛びを生じることはないとして、ステップ101にリターンする。
【0075】
これに対して、変位ΔDが所定値Dv2以上(ΔD≧Dv2)であるとき、駆動輪34の駆動ピン34bが弾性クローラ31の駆動突起31bを乗り越え得ると判定する。即ち、ΔD2≧Dv2であるとき、弾性クローラ31の内周面31f1の変位ΔDは、歯飛びを生じさせ得る大きな変位であると判定する。したがって、この場合、歯飛びを生じ得るとして、ステップ103に移行して、歯飛びを防止するための対策を行う。前記対策としては、距離D1で検討した場合と同様、駆動部4cを制御することによって、駆動輪34の回転を減少もしくは停止させることができる。また、前記対策としては、測定距離ΔDが所定値Dv2以上であること、即ち、歯飛びを生じ得ることを、報知部4dを通して報知することはできる。あるいは、駆動部4c及び報知部4dの操作を併用することができる。
【0076】
本実施形態に係るクローラ監視方法は、センサ4aから取得した情報Sを監視部4bに入力することによって実行されている。本実施形態では、センサ4aからの情報Sを取得するときの、サンプリング周波数(Hz)は、1Hz以上とすることができる。好ましくは、サンプリング周波数(Hz)は、弾性クローラ31の駆動突起31bがセンサ4aを単位時間あたりの通過する回数と同一とする。この場合、弾性クローラ31の全ての駆動突起31bを監視することができる。例えば、弾性クローラ31の駆動突起31bが単位時間あたりの通過する回数が30Hzである場合、サンプリング周波数は、30Hzとする。より好ましくは、サンプリング周波数(Hz)は、弾性クローラ31の駆動突起31bが単位時間あたりの通過する回数の整数倍であることが好ましい。この場合、より詳細な監視を行うことができる。例えば、弾性クローラ31の駆動突起31bが単位時間あたりの通過する回数が30Hzである場合、サンプリング周波数は、60Hz、90Hzなどの30Hzの整数倍とすることができる。
【0077】
また、クローラ監視システム4において、センサ4aと監視部4bとの間の通信、監視部4bと駆動部4cとの間の通信、監視部4bと報知部4dとの間の通信は、有線、無線を問わない。
【0078】
クローラ監視システム4のためのクローラ監視システム用電源としては、例えば、車体2に搭載された車両用電源(車両用バッテリ)、クローラ監視システム4のために別途設けられた外部電源などが挙げられる。ただし、クローラ監視システム用電源は、車両用電源を利用することが好ましい。この場合、車両に電源を入れると同時に、クローラ監視システム4を起動させることができる。また、外部電源を用いた場合、クローラ監視システム4に供給される電力に限界があり、外部電源の交換作業を必要とするが、車両用電源を利用する場合には、車両使用中にバッテリチャージがなされるため、クローラ監視システム用電源としての、電源の交換作業が不要である。
【0079】
また、クローラ監視システム4は、後日、データを確認するため、当該データを記憶部4b2に保存することができる。或いは、クローラ監視システム4は、記憶部4b2と別体のデータロガーなどの記憶媒体を更に備えることができる。この場合、前記データは、前記記憶媒体に保存することができる。
【0080】
図7を参照すれば、クローラ監視システム4は、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34との間の距離D1に関する情報Sを取得するためのセンサ4aと、センサ4aからの情報Sを取得し、情報Sを基に測定された測定値(D1,ΔD)が予め設定された所定値Dv(Dv,Dv2)以上であるかどうかを監視する監視部4bと、を備えている。クローラ監視システム4によれば、駆動輪34での歯飛びを未然に検知することができる。
【0081】
また、クローラ監視システム4において、監視部4bは、測定値D(D1,ΔD)が所定値Dv(Dv1,Dv2)以上であると判定したとき、駆動部4cを制御することによって駆動輪34の回転を減少もしくは停止させ又は測定値D(D1,ΔD)が所定値Dv(Dv1,Dv2)以上であることを、報知部4dを通して報知する。この場合、歯飛びを未然に防ぐように駆動輪34の回転を制御することにより、又は、歯飛びを未然に報知することにより、歯飛びを未然に防ぐことができる。
【0082】
また、図8を参照すれば、クローラ監視システム4は、センサ4aを被覆する断熱部材5を備えている。この場合、温度に対してセンサ4aを保護することにより、当該センサ4aの耐久性を向上させることができる。
【0083】
また、図8を参照すれば、クローラ監視システム4は、センサ4aを被覆する緩衝部材6を備えている。この場合、振動に対してセンサ4aを保護することにより、当該センサ4aの耐久性を向上させることができる。
【0084】
また、クローラ監視システム4において、センサ4aは、クローラ周方向に配置された複数のセンサを含むことが好ましい。この場合、弾性クローラ31の内周面31f1の挙動を、より詳細に監視することにより、より高い精度で、歯飛びを未然に検知することができる。
【0085】
また、図8を参照すれば、クローラ監視システム4において、センサ4aは、クローラ周方向視のクローラ幅方向で弾性クローラ31の幅方向端部13eと重複する位置に配置されている。この場合、車体2、クローラ装置3が邪魔になることがなく、弾性クローラ31の内周面13f1の挙動の監視を容易に行うことができる。したがって、この場合、簡易な方法で、歯飛びを未然に検知することができる。
【0086】
また、図8を参照すれば、クローラ監視システム4において、センサ4aは、スプロケットフレーム37に配置されている。この場合、既存の部材を用いた簡易な方法で、歯飛びを未然に検知することができる。
【0087】
また、図2を参照すれば、クローラ監視システム4において、駆動輪34は、当該駆動輪34と対をなす従動輪35よりも、高い位置に配置されている。この場合、従動輪35は、弾性クローラ31によって引っ張り上げられた状態となることから、当該従動輪35の駆動ピンが弾性クローラ31の駆動突起31bに対して歯飛びを生じ難い。したがって、この場合、駆動輪34での歯飛びに着目するだけの簡易な方法で、歯飛びを未然に検知することができる。
【0088】
また、図1を参照すれば、クローラ装置3は、弾性クローラ31と、駆動輪34と、クローラ監視システム4と、を備えている。クローラ装置3によれば、歯飛びを未然に検知することができる。
【0089】
また、図1を参照すれば、クローラ車1は、クローラ装置3が車両前側及び後側に配置された、クローラ車である。クローラ車1は、上述したクローラ監視システム4を更に備えている。センサ4aは、車両前側のクローラ装置3と車両後側のクローラ装置3との、少なくともいずれ一方の当該クローラ装置3に設けることができる。したがって、クローラ車1によれば、駆動輪34での歯飛びを未然に検知することができる。
【0090】
また、クローラ車1において、センサ4aは、車両前側のクローラ装置3と車両後側のクローラ装置3との、少なくとも荷重負荷の大きい当該クローラ装置に設けられていることが好ましい。この場合、歯飛びを生じ易いクローラ装置3での歯飛びを未然に検知することができる。例えば、クローラ車1がトラクタである場合、インフルと呼ばれる作業機を車両後側に取り付けて牽引する。この場合、クローラ車1には、車両後側に大きな荷重負荷が加わる。したがって、この場合、センサ4aは、少なくとも車両後側のクローラ装置3に設けることが好ましい。
【0091】
また、クローラ車1において、センサ4aは、全てのクローラ装置3に設けられていることが好ましい。この場合、4つのクローラ装置3のうちの全てのクローラ装置3での歯飛びを未然に検知することができる。図1を参照すれば、クローラ車1は、全てのクローラ装置3にセンサ4aを備えている。
【0092】
また、図9で説明したクローラ監視方法は、弾性クローラ31の内周面31f1と駆動輪34との間の距離D1(ΔD)に関する情報Sを取得することと、情報Sを基に測定された測定距離D1(ΔD)が予め設定された所定値Dv1(Dv2)以上であるかどうかを監視することと、を含む。本発明に係るクローラ監視方法によれば、歯飛びを未然に検知することができる。
【0093】
また、図9で説明したクローラ監視方法は、測定値D(D1,ΔD)が所定値Dv(Dv1,Dv2)以上であると判定したとき、駆動部4cを用いて駆動輪34の回転を減少もしくは停止させること、又は、報知部4dを用いて測定値D(D1,ΔD)が所定値Dv(Dv1,Dv2)以上であることを報知することを更に含む。この場合、歯飛びを未然に防ぐように駆動輪34の回転を制御することにより、又は、歯飛びをオペレータなどに対して未然に報知することにより、歯飛びを未然に防ぐことができる。
【0094】
また、図9で説明したクローラ監視方法は、情報Sをクローラ周方向の複数個所で取得することが好ましい。この場合、弾性クローラ31の内周面13f1の挙動を、より詳細に監視することにより、より高い精度で、歯飛びを未然に検知することができる。
【0095】
また、図8を参照すれば、図9で説明したクローラ監視方法において、情報Sは、弾性クローラ31の幅方向端部31eにおける内周面13f1と駆動輪34との間の距離D1に関する情報Sである。この場合、弾性クローラ31の内周面31f1の挙動の監視を容易に行うことができる。したがって、この場合、簡易な方法で、歯飛びを未然に検知することができる。
【0096】
本発明によれば、歯飛びを未然に防ぐための、クローラ監視システム、クローラ装置、クローラ車およびクローラ監視方法を提供することができる。また、本発明によれば、歯飛びを未然に防ぐための対策を行うことによって、駆動突起34bの破損などの修理に伴う、クローラ装置3及び当該クローラ装置3を備えるクローラ車1の、ダウンタイムを無くすことができる。
【0097】
上述したところは、本発明の例示的な実施形態を説明したものであり、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で様々な変更を行うことができる。上述のとおり、本発明において、「クローラ監視システム」という用語は、「クローラ監視装置」と同意である。クローラ車1は、農業機械(例えば、トラクタ、コンバイン)に適用することができる。また、クローラ車1は、建設機械(例えば、ショベルカー、ダンプカー、クレーン車、高所作業車)に適用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1:クローラ車, 2:車体, 3:クローラ装置, 31:弾性クローラ, 31a:クローラ本体, 31b:弾性突起, 31c:ラグ, 31e:弾性クローラの幅方向端部, 31f1:弾性クローラの内周面, 34:駆動輪(駆動スプロケット), 34a:フランジ部, 34b:駆動ピン, 34f1:駆動輪の外周面, 35:従動輪(従動スプロケット), 36:転輪, 37:スプロケットフレーム, 4:クローラ監視システム, 4a:センサ, 4b:監視部, 4b1:演算制御部, 4b2:記憶部, 4c:駆動部, 4d:報知部, 5:断熱部材, 6:緩衝部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9