IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クラレノリタケデンタル株式会社の特許一覧

特許7503464歯科用ミルブランク製造用の容器、及び歯科用ミルブランクの製造方法
<>
  • 特許-歯科用ミルブランク製造用の容器、及び歯科用ミルブランクの製造方法 図1
  • 特許-歯科用ミルブランク製造用の容器、及び歯科用ミルブランクの製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】歯科用ミルブランク製造用の容器、及び歯科用ミルブランクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/087 20060101AFI20240613BHJP
   A61C 5/30 20170101ALI20240613BHJP
   A61C 5/70 20170101ALI20240613BHJP
【FI】
A61C13/087
A61C5/30
A61C5/70
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020158979
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022052540
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】井上 将史
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-097854(JP,A)
【文献】特開2000-031177(JP,A)
【文献】特表2004-516066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/087
A61C 5/30
A61C 5/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペースト状の硬化性組成物を充填するための歯科用ミルブランク製造用の容器であって、
前記硬化性組成物の稠度が8~40mmであり、
前記容器の上方に開放口を有し、
前記容器が、一つ以上の貫通孔を有する壁面と、前記開放口とを含む組成物充填部を備える、歯科用ミルブランク製造用の容器。
【請求項2】
前記貫通孔の断面形状が、円形状である、請求項1に記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
【請求項3】
前記貫通孔の直径を(ra)mm、貫通孔を有する壁面の面積を(S)mm2としたときに、以下の式(I)及び(II)を満たす、請求項1又は2に記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
0.1 ≦ ra ≦ 5 (I)
S/10000 ≦ π*(ra/2)2 ≦ S/6 (II)
【請求項4】
前記容器内の組成物充填部の形状が多角柱である、請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
【請求項5】
前記壁面が底面であり、前記底面の各頂点の内、特定の貫通孔の最も近傍に位置する頂点X1と当該貫通孔の重心Y1との距離Z1が、該頂点X1を成す前記組成物充填部の底面の2辺の長さの平均値の30%以内となる位置に前記貫通孔を有する、請求項4に記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
【請求項6】
前記貫通孔を有する壁面が底面であり、前記底面における貫通孔の総数が、前記底面における頂点の総数に対して50%以上である、請求項4又は5に記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
【請求項7】
前記容器内の組成物充填部の形状が円柱状である、請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
【請求項8】
前記組成物充填部の底面の内周と特定の貫通孔の重心Y2との最短距離Z2が、前記組成物充填部の底面の内周と組成物充填部の底面の重心との最短距離Wの30%以内となる位置に貫通孔を有する、請求項7に記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
【請求項9】
前記貫通孔の総数が2つ以上である、請求項7又は8に記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
【請求項10】
前記容器の材質が、熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂、及び金属からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1~9のいずれか一項に記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の歯科用ミルブランク製造用の容器の中に硬化性組成物を充填する工程と、前記容器に充填された硬化性組成物を加圧し、前記容器に充填された硬化性組成物を加熱する重合工程と、を含み、前記硬化性組成物の稠度が8~40mmである、歯科用ミルブランクの製造方法。
【請求項12】
前記重合工程における加圧圧力が0.2~4.0MPaであり、加熱温度が60~180℃である、請求項11に記載の歯科用ミルブランクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用ミルブランクを製造するための容器、及びその容器を用いた歯科用ミルブランクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性単量体、無機充填材及び重合開始剤から構成される歯科用硬化性組成物は、歯の欠損部や虫歯を修復するための材料として多用される歯科材料となっている。また近年では、インレー、クラウン等の歯科用補綴物をコンピューターによって設計し、ミリング装置により切削加工して作製するCAD/CAMシステムが普及しているおり、本システムに用いられる被切削材料として、硬化性組成物から製造される歯科用ミルブランクの検討が行われている。歯科用ミルブランクとしては、適当な大きさを有する直方体、円柱、ディスク等の形状のブロック体が供給され、素材としては、ガラスセラミックス、ジルコニア、チタン、アクリル樹脂、ポリマー樹脂と無機充填材を含む複合材料等、種々の材料が提案されている。歯科用ミルブランクは、口腔内に長期に渡り装着されることから亀裂や気泡等の欠陥がないことや、天然歯と置換可能な十分な機械的強度等が要求される。
【0003】
このような要求特性を満たすことを目的とした歯科用ミルブランクを製造する方法として、例えば、特許文献1には金属製ではない凹型容器に硬化前の硬化性組成物を入れ、凹型容器ごと全体的に所定の圧力とすることが可能な容器に入れて1.0MPa以上の圧力で加圧しながら加熱をし、型の内外の圧力が等しくなるように重合させる、歯科用ミルブランクの製造方法が開示されている。この製造方法により、気泡及び亀裂を抑制することができ、CAMにおける切削時に細部が欠けてしまうチッピングが発生しない等、品質の高い歯科用ミルブランクを提供することができる。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の硬化性組成物の稠度はいずれも30~68mmと比較的流動性の高いものであった。一方で、機械的強度の向上等を目的として硬化性組成物における無機充填材の含有率を高めた場合、硬化性組成物のペーストの稠度が低くなる、すなわち流動性が低くなることは極めて避けにくい。本発明者らが検討した結果、このような比較的流動性の低いペーストを該凹型容器に充填すると、容器内の空気が抜けず、容器容積に対して不足なく充填することが困難であることがわかった。故に得られた歯科用ミルブランクは所望の形状に成型することが困難であり、CAMでの切削用に供給するために、後工程にて直方体、円柱、ディスク等の形状に加工する必要があり、コストアップ及び廃棄物量増加等の問題があった。さらに、容器内に空気が残存する状態で重合させると、残存空気中の酸素により重合反応が阻害されることで歯科用ミルブランクに亀裂が多く入ることや、機械的強度が低くなるといった問題もあることがわかった。
【0005】
また、他の方法としては、特許文献2には、凹型容器に硬化前の硬化性組成物を入れた後、凹型容器に少なくとも斜め上方に向かう傾斜軸線を中心とした自転を与えることにより、硬化性組成物を撹拌する方法が開示されている。この製造方法により、凹型容器に硬化性組成物を充填する際に伴う気泡の巻き込みや色むらが発生したとしても、撹拌によって巻き込まれた気泡が脱泡作用をうけ、色むらが解消されることになり、気泡や色むらがなく、高強度の歯科用ミルブランクが得られる。
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討した結果、稠度30mm未満の流動性の低い硬化性組成物を用いた場合、上記撹拌力のみでは気泡を排除することができないという問題があった。さらには、特許文献2に示されるような凹型容器に所定の自転を与える方法では、自転運動によりもたらされる遠心力によって、硬化性組成物に過度な荷重がかかり無機充填材と重合性単量体が分離する問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/045698号
【文献】特開2018-2610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術が抱える上記の課題を解決すべくなされたものであって、流動性の低い硬化性組成物を充填した場合において、容器への硬化性組成物の充填性を向上させることができ、歯科用ミルブランクを製造する際の歩留まりを改善できる歯科用ミルブランク製造用の容器、及びその容器を用いた歯科用ミルブランクの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、流動性の低い硬化性組成物を用いる場合において、亀裂及び気泡が少なく、かつ機械的強度に優れる歯科用ミルブランクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、空気が通過することのできる程度の貫通孔を有する容器を用いることで、無機充填材と重合性単量体が分離することなく、容器容積に対して不足なく硬化性組成物を充填することができ、重合硬化後の歯科用ミルブランクにおいて亀裂及び気泡が少なく、かつ機械的強度に優れることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下の発明を包含する。
[1]ペースト状の硬化性組成物を充填するための歯科用ミルブランク製造用の容器であって、
前記容器の上方に開放口を有し、
前記容器が、一つ以上の貫通孔を有する壁面と、前記開放口とを含む組成物充填部を備える、歯科用ミルブランク製造用の容器。
[2]前記貫通孔の断面形状が、円形状である、[1]に記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
[3]前記貫通孔の直径を(ra)mm、貫通孔を有する壁面の面積を(S)mm2としたときに、以下の式(I)及び(II)を満たす、[1]又は[2]に記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
0.1 ≦ ra ≦ 5 (I)
S/10000 ≦ π*(ra/2)2 ≦ S/6 (II)
[4]前記容器内の組成物充填部の形状が多角柱である、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
[5]前記壁面が底面であり、前記底面の各頂点の内、特定の貫通孔の最も近傍に位置する頂点X1と当該貫通孔の重心Y1との距離Z1が、該頂点X1を成す前記組成物充填部の底面の2辺の長さの平均値の30%以内となる位置に前記貫通孔を有する、[4]に記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
[6]前記貫通孔を有する壁面が底面であり、前記底面における貫通孔の総数が、前記底面における頂点の総数に対して50%以上である、[4]又は[5]に記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
[7]前記容器内の組成物充填部の形状が円柱状である、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
[8]前記組成物充填部の底面の内周と特定の貫通孔の重心Y2との最短距離Z2が、前記組成物充填部の底面の内周と組成物充填部の底面の重心との最短距離Wの30%以内となる位置に貫通孔を有する、[7]に記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
[9]前記貫通孔の総数が2つ以上である、[7]又は[8]に記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
[10]前記容器の材質が、熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂、及び金属からなる群より選ばれる少なくとも一種である、[1]~[9]のいずれかに記載の歯科用ミルブランク製造用の容器。
[11][1]~[10]のいずれかに記載の歯科用ミルブランク製造用の容器の中に硬化性組成物を充填する工程と、前記容器に充填された硬化性組成物を加圧し、前記容器に充填された硬化性組成物を加熱する重合工程と、を含む、歯科用ミルブランクの製造方法。
[12]前記重合工程における加圧圧力が0.2~4.0MPaであり、加熱温度が60~180℃である、[11]に記載の歯科用ミルブランクの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、流動性の低い硬化性組成物を充填した場合において、容器への硬化性組成物の充填性を向上させることでき、歯科用ミルブランクを製造する際の歩留まりを改善できる歯科用ミルブランク製造用の容器、及びその容器を用いた歯科用ミルブランクの製造方法を提供できる。また、本発明は、流動性の低い硬化性組成物を用いる場合において、亀裂及び気泡が少なく、かつ機械的強度に優れる歯科用ミルブランクを提供できる。さらに、本発明は、流動性の高い硬化性組成物を用いる場合においても、容器への硬化性組成物の充填性を向上させることでき歯科用ミルブランクを製造する際の歩留まりを改善できる歯科用ミルブランク製造用の容器、及びその容器を用いた歯科用ミルブランクの製造方法を提供できる。また、本発明は、流動性の高い硬化性組成物を用いる場合においても、亀裂及び気泡が少なく、かつ機械的強度に優れる歯科用ミルブランクを提供できる。さらに、本発明では、特殊な自転を容器に与える等の操作を必要とせず、歯科用ミルブランクを製造する際の歩留まりを改善できる歯科用ミルブランク製造用の容器、及びその容器を用いた歯科用ミルブランクの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る歯科用ミルブランク製造用の容器の組成物充填部が多角柱である場合における組成物充填部の底面の平面図を示す。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る歯科用ミルブランク製造用の容器の組成物充填部が円柱状である場合における組成物充填部の底面の平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の歯科用ミルブランク製造用の容器は、上方に開放口が設けられた凹型容器であり、空気が通過することのできる程度の一つ以上の貫通孔を有する壁面と、前記開放口とを含む組成物充填部を備えることを特徴とする。これにより、容器への硬化性組成物の充填性を向上させることでき、結果的に歯科用ミルブランクを製造する際の歩留まりが改善される。また、該容器を用いることで亀裂及び気泡が少なく、かつ機械的強度に優れる歯科用ミルブランクを提供できる。なお、本明細書において「壁面」とは容器内部の少なくとも一つの面を意味し、「底面」及び「側面」を含む。「底面」は開放口に対向する面であってもよい。凹部は組成物充填部を構成する。ある実施形態では、本発明に係る歯科用ミルブランク製造用の容器は、上方に開放口を有し、前記開放口と接続された組成物充填部を有し、容器の外部と組成物充填部とを連通する貫通孔を壁面に一つ以上有する。
【0014】
この効果が発現する要因としては、例えば以下のように推測される。通常、充填用容器に流動性が低く硬いペースト状の硬化性組成物(以下、「ペースト状組成物」と称することがある)を充填する場合、容器の中で前記ペースト状組成物同士が重なり合う際に空気を巻き込むリスクを回避するために、充填用容器の内寸と同等以上の内寸を有するノズルからペースト状組成物を押込み充填することが一般的である。この時、充填用容器のペースト充填口はペースト状組成物により封鎖されてしまう。これに対して、本発明に係る歯科用ミルブランク製造用の容器は、一つ以上の貫通孔を壁面に有することより、充填用容器内に元より存在する空気を抜くことができる。例えば、ある好適な実施形態では、本発明に係る歯科用ミルブランク製造用の容器は、ペースト充填口と反対側に貫通孔が設けられた構造(組成物充填部)を備えることより、充填用容器内に元より存在する空気を抜くことができる。また、本発明に係る歯科用ミルブランク製造用の容器においては、空気が通過することのできる程度の貫通孔が形成された容器を用いることで、充填されたペースト状組成物により開放口が封鎖されたとしても、壁面に設けられた貫通孔より空気が抜けることで容器内の組成物充填部の容積に対して不足なくペースト状組成物を充填することができるものと推察される。歯科用ミルブランク製造用の容器について、空気を巻き込むリスクを回避する観点より、充填用容器が有する開放口の内寸と同等以上の内寸を有するノズルからペースト状組成物を充填する方法が好適に適用される。一方で、特許文献1(国際公開第2015/045698号)にあるような従来の凹型容器は、空気の通過する孔を備える貫通構造ではないため、ペースト状組成物により開放口が封鎖されると空気の抜ける箇所がなくなり、空気の反発によりペースト状組成物が押し返されてしまい容器容積に対して不足なく充填することができないものと推察される。
【0015】
前記凹型容器は、従来から一般工業界にて公知の成型方法にて作製することができる。例えば、真空成形法、射出成形、プレス成形、ブロー成形、切削加工、ワイヤー放電加工等が挙げられる。その中でも、熱可塑性樹脂等の柔らかい材質に関しては真空成形、射出成形が好適に用いられる。また金属等の硬い材質に関しては切削加工成形、ワイヤー放電加工成形が好適に用いられる。
【0016】
また、貫通孔の形成方法としては、従来から一般工業界にて公知の方法を用いることができる。例えば、パンチャー加工、熱針加工、レーザー加工、切削加工、ワイヤー放電加工等が挙げられる。その中でも、熱可塑性樹脂等の柔らかい材質に関してはパンチャー加工、レーザー加工が好適に用いられる。また金属等の硬い材質に関しては切削加工成形、ワイヤー放電加工成形が好適に用いられる。
【0017】
貫通孔の断面の形状は特に限定されるものではないが、貫通孔の形成のしやすさの観点より、円形状(真円状、楕円状等)に形成されることが好ましく、真円状であることがより好ましい。貫通孔の高さ(深さ)方向の形状は、空気の通過できる貫通孔である限り特に限定されるものではなく、円柱状、テーパー状等であってもよいが、貫通孔の形成のしやすさの観点より、円柱状が好ましい。また、貫通孔の断面の形状は、円形状である場合、中心部分が非貫通である中空の形状であってもよい。
【0018】
前記ペースト状組成物が充填される凹型の容器内の組成物充填部の形状は、硬化後の歯科用ミルブランクの形状に影響する因子である。容器内の組成物充填部の形状は特に限定されるものではないが、ミリング装置により切削加工して作製するCAD/CAMシステムへ適用する観点より、多角柱又は円柱状であることが好ましく、その中でも直方体又は真円からなる円柱状であることがより好ましい。本発明に係る歯科用ミルブランク製造用の容器としては、容器内の組成物充填部の形状が多角柱又は円柱状であれば、ペースト状組成物を開放口から充填した際に、貫通孔による空気抜けの効果が得られ、流動性の高い硬化性組成物を充填した場合のみならず、流動性の低い硬化性組成物を充填した場合においても、容器への硬化性組成物の充填性を向上させることでき、組成物充填部の未充填体積率を低下できるため、容器の外観としては多角柱又は円柱状に限定されない。本発明に係る歯科用ミルブランク製造用の容器としては、例えば、底面に1つ以上の貫通孔を有し、該貫通孔により組成物充填部(空間)と外部が連通された多角柱又は円柱状の組成物充填部を有し、側面が厚みを持つ形状(例えば、上方向から見た場合に卵形、星形等の断面形状)であってもよい。
【0019】
前記貫通孔の位置は特に限定されるものではないが、容器の組成物充填部の形状が多角柱である場合には、組成物充填部の空間においてペースト状組成物が最も充填されにくい多角柱の頂点付近への充填性を容易にするという観点より、底面の頂点近傍に貫通孔を形成することが好ましい。図1に示されるように、具体的には底面の各頂点の内、特定の貫通孔の最も近傍に位置する頂点X1と当該貫通孔の重心Y1との距離Z1が、該頂点X1を成す前記組成物充填部の底面の2辺の長さの平均値の30%以内となるように貫通孔が形成されることが好ましく、20%以内がより好ましく、15%以内がさらに好ましい。また、前記した底面が貫通孔を有する場合、さらに側面に貫通孔が形成されていてもよい。このような実施形態としては、例えば、底面の貫通孔について、前記距離Z1が頂点X1を成す前記組成物充填部の底面の2辺の長さの平均値の30%以内であり、さらに側面に貫通孔を有する組成物充填部を備える、歯科用ミルブランク製造用の容器が挙げられる。
【0020】
前記貫通孔の位置は以下の式によって求められる。すなわち、本明細書において容器の組成物充填部の形状が角柱状である場合に「貫通孔がa1%(例えば、30%)の位置にある」とは、特定の貫通孔の位置について下記式の結果がa1(例えば、30)であることを示している。
貫通孔の位置(%)=100×[最も近傍する頂点X1と貫通孔の重心Y1との距離Z1(mm)/{(辺Aの長さ(mm)+辺Bの長さ(mm))/2}]
【0021】
また、本発明に係る容器内の組成物充填部の形状が多角柱又は円柱状であり、組成物充填部の壁面が有する貫通孔の断面形状が、円形状である場合において、貫通孔の直径は、空気が通過できる限り特に限定されないが、前記貫通孔の直径を(ra)mm、貫通孔が付与された壁面の面積を(S)mm2としたときに、以下の式(I)及び(II)を満たすことが好ましい。
0.1 ≦ ra ≦ 5 (I)
S/10000 ≦ π*(ra/2)2 ≦ S/6 (II)
【0022】
式(I)を言い換えると、貫通孔の直径は、0.1~5mmであることが好ましく、0.3~4.5mmであることがより好ましく、0.5~4mmであることがさらに好ましい。貫通孔の直径が0.1mm以上であることで、貫通孔の形成が容易となり、かつ空気が抜けやすくなることで容器内の組成物充填部の容積に対してさらに不足なくペースト状組成物を充填することができる。また、貫通孔の直径が5mm以下であることで貫通孔からペースト状組成物が多量に漏れることが抑制されるため、コストアップや廃棄物量の増加をより低減することができる。また、式(II)に規定の面積比は、S/10000 ≦ π*(ra/2)2 ≦ S/6が好ましく、S/8000 ≦ π*(ra/2)2 ≦ S/15がより好ましく、S/6000 ≦ π*(ra/2)2 ≦ S/50がさらに好ましい。式(II)に規定の面積比の下限値以上であることで、貫通孔の形成が容易となり、かつ空気が抜けやすくなることで容器内の組成物充填部の容積に対してさらに不足なくペースト状組成物を充填することができる。また、式(II)に規定の面積比の上限値以下であることで、貫通孔からペースト状組成物が多量に漏れることが抑制されるため、コストアップや廃棄物量の増加をより低減することができる。
【0023】
また、ある実施形態では、容器内の組成物充填部の形状が多角柱であり、貫通孔の断面形状が円形状である場合、特定の貫通孔の断面における円形は近傍に存在する他の円形と一部が重複していてもよい。特定の貫通孔の断面における円形が近傍に存在する他の円形と一部重複した形状である場合、重複した複数の円形のうちの1つの円形(好適には最長径を有するもの)について、硬いペースト状組成物であっても容器内の組成物充填部の容積に対して不足なくペースト状組成物を充填しやすい点から、最も近傍に位置する頂点X1と当該円形の重心Y1との距離Z1が、該頂点X1を成す前記容器底面の2辺の長さの平均値の30%以内となっていることが好ましく、20%以内がより好ましく、15%以内がさらに好ましい。
【0024】
図2に示されるように、本発明に係る容器の組成物充填部の形状が円柱状である場合、組成物充填部の空間においてペースト状組成物が最も充填されにくい組成物充填部の内周付近への充填性を容易にするという観点より、組成物充填部の底面の内周近傍に形成することが好ましい。具体的には組成物充填部の底面の内周と貫通孔の重心Y2との最短距離Z2が、組成物充填部の底面の内周と前記底面の重心との最短距離Wの30%以内となるように貫通孔が形成されることが好ましく、20%以内がより好ましく、15%以内がさらに好ましい。
【0025】
前記貫通孔の位置(%)は以下の式によって求められる。すなわち、本明細書において容器の形状が円柱状である場合に「貫通孔がa2%(例えば、30%)に位置にある」とは、特定の貫通孔の位置について下記式の結果がa2(例えば、30)であることを示している。容器の組成物充填部の内周と貫通孔の重心Y2との最短距離Z2は、貫通孔の重心Y2と、貫通孔の重心Y2から円周への垂線の交点X2との距離である。
貫通孔の位置(%)=100×[容器の組成物充填部の内周と貫通孔の重心Y2との最短距離Z2(mm)/容器の組成物充填部の内周と容器底面の重心との最短距離W(mm)
【0026】
また、ある実施形態では、容器内の組成物充填部の形状が円柱状であり、貫通孔の断面形状が円形状である場合、特定の貫通孔の断面における円形は近傍に存在する他の円形と一部が重複していてもよい。特定の貫通孔の断面積における円形が近傍に存在する他の円形と一部重複した形状である場合、重複した複数の円形のうちの1つの円形(好適には最長径を有するもの)について、硬いペースト状組成物であっても容器内の組成物充填部の容積に対して不足なくペースト状組成物を充填しやすい点から、前記最短距離Z2が、前記組成物充填部の底面の内周と容器底面の重心との最短距離Wの30%以内となっていることが好ましく、20%以内がより好ましく、15%以内がさらに好ましい。
【0027】
形成された貫通孔の数は特に限定されるものではないが、貫通孔による空気抜け効果を高めるという観点より、多く形成することが好ましい。容器内の組成物充填部の形状が多角柱であり、底面に貫通孔を有する場合、底面における貫通孔の総数が容器内の組成物充填部の底面の頂点の総数に対して50%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。貫通孔の数の上限値は特に限定されないが、例えば容器の頂点の数に対して200%以下とすることができる。前記貫通孔の総数は底面における総数に関し、容器内の組成物充填部は側面にさらに貫通孔を有していてもよい。前記貫通孔の総数は、容器内の組成物充填部が底面に貫通孔を有する場合、底面に貫通している貫通孔の総数を意味する。また、他の実施形態としては、例えば、容器内の組成物充填部の形状が多角柱であり、特定の貫通孔に最も近傍に位置する頂点X1と当該貫通孔の重心Y1との距離Z1が、該頂点X1を成す前記容器底面の2辺の長さの平均値の30%以内となり、さらに前記貫通孔に加えて、距離Z1が前記範囲を満たさない他の貫通孔を壁面に有する歯科用ミルブランク製造用の容器が挙げられる。
【0028】
容器内の組成物充填部の形状が円柱状である場合において、貫通孔を有する壁面(好適には底面)における貫通孔の総数が2つ以上であることが好ましく、3つ以上であることがより好ましく、4つ以上であることがさらに好ましい。貫通孔の総数の上限値は特に限定されないが、例えば8つ以下とすることができる。また、他の実施形態としては、例えば、容器内の組成物充填部の形状が円柱状であり、前記組成物充填部において、一つ以上の貫通孔を特定の壁面(例えば、底面)に有し、当該壁面(例えば、底面)の内周と、当該壁面に形成された特定の貫通孔の重心Y2との最短距離Z2が、前記組成物充填部の壁面(例えば、底面)の内周と、前記組成物充填部の壁面(例えば、底面)の重心との最短距離Wの30%以内となり、さらに前記貫通孔に加えて、最短距離Z2が前記範囲を満たさない他の貫通孔(好適には、直径0.1~5mm)を壁面に有する歯科用ミルブランク製造用の容器が挙げられる。図2に、容器内の組成物充填部の形状が円柱状であり、貫通孔を底面に有する場合における前記最短距離Z2、及び最短距離Wを示す。
【0029】
歯科用ミルブランク製造用の容器の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂、及び金属からなる群より選ばれる少なくとも一種とすることができる。その中でも、製造コストと容器の寸法精度や成型性の観点から、熱可塑性樹脂又はシリコーン樹脂が好適に用いられ、熱可塑性樹脂がさらに好適に用いられる。熱可塑性樹脂の例としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂などが挙げられる。これらの中では、耐熱性や離形性の観点からポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂が好ましく、その中でもポリプロピレンがさらに好ましい。
【0030】
本発明の歯科用ミルブランク製造用の容器は、充填されるペースト状組成物の稠度が低く、硬いペースト状組成物であっても、容器内の組成物充填部の容積に対して不足なくペースト状組成物を充填することができることが特徴である。該容器に充填されるペースト状組成物の稠度には特に制限はないが、8~50mmが好ましく、10~40mmがより好ましく、12~30mmがさらに好ましい。稠度が8mm以上であることで混練工程において均一に混練しやすく、又は脱泡工程において容易に気泡することができる。また、稠度が50mm以下であることで本発明の歯科用ミルブランク製造用の容器の貫通孔からペースト状組成物が多量に漏れることが抑制されるため、コストアップや廃棄物量の増加をより低減することができる。稠度の測定方法は後述する実施例に記載のとおりである。また、本明細書において、「稠度」は高い値ほど組成物のペーストが柔らかく、流動性が高いことを意味し、低い値ほど組成物のペーストが硬く、流動性が低いことを意味する。
【0031】
ペースト状組成物の稠度は、ガラス板上にペースト状組成物を計量し、その上からガラス板を載せ、一定時間経過後のサンプルの長径と短径をガラス板越しに測定することで求められる。具体的な測定方法は実施例に記載する。
【0032】
本発明に係るペースト状組成物の組成は特に限定されないが、例えば、無機充填材(A)、重合性単量体(B)及び重合開始剤(C)を含むことができる。
【0033】
〔無機充填材(A)〕
本発明における無機充填材(A)としては、例えば歯科用コンポジットレジンの充填材として用いられている公知の無機粒子を用いることができる。当該無機粒子としては、例えば、各種ガラス類(例えば、二酸化珪素(石英、石英ガラス、シリカゲル等)、珪素を主成分とし各種重金属とともにホウ素及び/又はアルミニウムを含有するものなど)、アルミナ、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、シリカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)、二酸化チタン(チタニア)、ヒドロキシアパタイトなどが挙げられる。なお、無機充填材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
歯科材料に望まれる重要な物性として、天然歯と同様の透明性とX線造影性とが挙げられる。このうち透明性は無機充填材(A)と重合性単量体の重合体の屈折率をできるだけ一致させることにより達成することができる。一方、X線造影性は、無機充填材(A)として、ジルコニウム、バリウム、チタン、ランタン、ストロンチウム等の重金属元素を含む無機充填材(酸化物など)を用いることにより付与することができる。このような重金属元素を含む無機充填材の屈折率は通常高く、1.5~1.6の範囲内にある。本発明において、例えば、重合体を形成する重合性単量体を構成する1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)及びモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の硬化物の屈折率は通常、1.5~1.6の範囲内にあることから、このようなX線造影性を有する屈折率の高い無機充填材と組み合わせても屈折率差を小さく調節することができ、得られる歯科材料の透明性を向上させることができる。
【0035】
上記したX線造影性を付与することのできる屈折率の高い無機充填材としては、例えば、バリウムボロシリケートガラス(例えば、Esstech社製の「E-3000」やショット社製の「8235」、「GM27884」、「GM39923」等)、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス(例えば、Esstech社製の「E-4000」やショット社製の「G018-093」、「GM32087」等)、ランタンガラス(例えば、ショット社製の「GM31684」等)、フルオロアルミノシリケートガラス(例えば、ショット社製の「G018-091」、「G018-117」等)、ジルコニアを含有するガラス(例えば、ショット社製の「G018-310」、「G018-159」等)、ストロンチウムを含有するガラス(例えば、ショット社製の「G018-163」、「G018-093」、「GM32087」等)、酸化亜鉛を含有するガラス(例えば、ショット社製の「G018-161」等)、カルシウムを含有するガラス(例えば、ショット社製の「G018-309」等)などが挙げられる。
【0036】
無機充填材(A)の形状に特に制限はなく、例えば、破砕状、板状、鱗片状、繊維状(短繊維、長繊維等)、針状、ウィスカー、球状など、各種形状のものを用いることができる。無機充填材は、本発明の要件を満たす限り上記の形状の内、異なる形状のものが組み合わさったものであってもよい。
【0037】
本発明における無機充填材(A)の平均一次粒子径は、特に限定されないが、0.01~5μmが好ましく、0.02μm以上であることがより好ましく、0.04μm以上であることがさらに好ましく、また、3μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることがさらに好ましい。平均一次粒子径が0.01μmよりも小さいと機械的強度が損なわれやすく、また5μmよりも大きいと硬化物の研磨性が損なわれ、歯科材料に求められる審美性が低下するおそれがある。
【0038】
前記無機充填材(A)の平均一次粒子径は、レーザー回折散乱法や粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.1μm以上の粒子の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が簡便であり、0.1μm未満の粒子の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。0.1μm以上であるか否かの判別にはレーザー回折散乱法を採用すればよい。
【0039】
レーザー回折散乱法では、例えば、レーザー回折式粒子径分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製「SALD-2300」等)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準で測定することで平均一次粒子径を求めることができる。
【0040】
電子顕微鏡観察では、例えば、粒子の走査型電子顕微鏡(SEM;例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製作所製「SU3500H-800NA型」等)画像写真を撮り、そのSEM画像写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製「Mac-View」等)を用いて測定することにより平均一次粒子径を求めることができる。このとき、粒子の粒子径は、その粒子の面積と同一の面積をもつ円の直径である円相当径として求められ、粒子の数とその粒子径より平均一次粒子径が算出される。
【0041】
本発明における無機充填材(A)の含有量としては、重合性単量体(B)100質量部に対して、100~600質量部が好ましく、150~550質量部がより好ましく、200~500質量部がさらに好ましい。また、本発明に係る硬化性組成物における無機充填材(A)の含有量としては、70質量%以上が好ましく、72質量%以上がより好ましく、75質量%以上がさらに好ましい。また、本発明に係る硬化性組成物における無機充填材(A)の含有量としては、99質量%以下が好ましく、98質量%以下がより好ましく、97質量%以下がさらに好ましい。
【0042】
本発明における無機充填材(A)は、予め表面処理が施されたものであることが好ましい。表面処理が施された無機充填材(A)を用いることで、得られる硬化性組成物の硬化後の機械的強度をより向上させることができる。なお、2種以上の無機充填材(A)を用いる場合、そのうちのいずれかの1種のみが、表面処理が施されたものであってもよく、全てが、表面処理が施されたものであってもよい。後者の場合、個々に表面処理された無機充填材(A)を混合してもよいし、予め複数の無機充填材を混合し、纏めて表面処理を施してもよい。
【0043】
かかる表面処理剤としては、公知の表面処理剤を用いることができ、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物などの有機金属化合物、及びリン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を少なくとも1個有する酸性基含有有機化合物を用いることができる。表面処理剤を2種以上使用する場合は、2種以上の表面処理剤の混合物の表面処理剤層としてもよいし、複数の表面処理剤層を積層した複層構造の表面処理剤層としてもよい。また、表面処理方法としては、特に制限なく公知の方法を用いることができる。
【0044】
有機ケイ素化合物としては、R1 nSiX(4-n)で表される化合物が挙げられる(式中、R1は炭素数1~12の置換又は無置換の炭化水素基であり、Xは炭素数1~4のアルコキシ基、アセトキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子又は水素原子を示し、nは0~3の整数であり、但し、R1及びXが複数ある場合にはそれぞれ、同一でも異なっていてもよい)。
【0045】
具体的には、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル-3,3,3-トリフルオロプロピルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルシラノール、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、トリメチルブロモシラン、ジエチルシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12、例、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等〕、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12、例、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等〕等が挙げられる。なお、本発明において「(メタ)アクリロイルオキシ」との表記は、メタクリロイルオキシとアクリロイルオキシの両者を包含する意味で用いられる。
【0046】
この中でも、重合性単量体と共重合し得る官能基を有するカップリング剤、例えばω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12〕、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12〕、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が好ましく用いられる。
【0047】
有機チタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn-ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート等が挙げられる。
【0048】
有機ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn-ブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムアセテート等が挙げられる。
【0049】
有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウム有機酸塩キレート化合物等が挙げられる。
【0050】
リン酸基を含有する酸性基含有有機化合物としては、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシ-(1-ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0051】
また、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を有する酸性基含有有機化合物としては、例えば、国際公開第2012/042911号に記載のものを好適に用いることができる。
【0052】
上記の表面処理剤は、1種単独を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、無機充填材(A)と重合性単量体との化学結合性を高めて硬化物の機械的強度を向上させるために、重合性単量体と共重合し得る官能基を有する酸性基含有有機化合物を用いることがより好ましい。
【0053】
表面処理剤の使用量は、特に限定されず、例えば、無機充填材(A)100質量部に対して、0.1~50質量部が好ましい。
【0054】
〔重合性単量体(B)〕
本発明で用いられる重合性単量体(B)は、例えば歯科用コンポジットレジン等に使用される公知の重合性単量体が何ら制限無く用いられるが、一般には、ラジカル重合性単量体が好適に用いられる。ラジカル重合性単量体の具体例としては、α-シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α-ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のエステル類;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体等の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体;ビニルエステル類;ビニルエーテル類;モノ-N-ビニル誘導体;スチレン誘導体等が挙げられる。これらの中では、(メタ)アクリレート系重合性単量体及び(メタ)アクリルアミド系重合性単量体からなる群から選ばれる1種以上の重合性単量体であることが好ましく、(メタ)アクリレートがより好ましい。なお、本発明において「(メタ)アクリル」との表記は、メタクリルとアクリルの両者を包含する意味で用いられ、「(メタ)アクリレート」との表記はメタクリレートとアクリレートの両者を包含する意味で用いられる。
【0055】
(i)一官能性の(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリルアミド誘導体
例えば、メチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3-ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロミド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロリド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロリド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロリド、10-メルカプトデシル(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0056】
(ii)二官能性の(メタ)アクリル酸エステル
例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-〔3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-〔3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン(Bis-GMA)、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート(UDMA)、2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロ-1,5-ペンチルジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0057】
(iii)三官能性以上の(メタ)アクリル酸エステル
例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、N,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタンなどが挙げられる。
【0058】
なお、重合性単量体としては、前記ラジカル重合性単量体の他に、オキシラン化合物、オキセタン化合物等のカチオン重合性単量体を使用することもできる。
【0059】
重合性単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、重合性単量体は液体状であることが好ましいが、常温で液体状である必要は必ずしもなく、さらに、固体状の重合性単量体であっても、その他の液体状の重合性単量体と混合溶解して使用することもできる。
【0060】
重合性単量体の粘度(25℃)は、10Pa・s以下であることが好ましく、5Pa・s以下であることがより好ましく、2Pa・s以下であることがさらに好ましい。一方、2種以上の重合性単量体を混合して用いる場合、又は溶剤に希釈して用いる場合は、個々の重合性単量体の粘度が上記範囲内にある必要はなく、使用される状態(混合・希釈された状態)において、その粘度が上記範囲内にあることが好ましい。
【0061】
〔重合開始剤(C)〕
次に、重合開始剤(C)について説明する。重合開始剤(C)は、光重合開始剤と熱重合開始剤、化学重合開始剤に大別され、厚みがあっても均一に重合できる、又は加熱により重合性単量体の粘度を下げて重合反応効率を上げ機械的強度を向上させることができる観点から加熱重合開始剤がより好ましく用いられる。本発明で使用される加熱重合開始剤は、一般工業界で使用されている加熱重合開始剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に用いられている加熱重合開始剤が好ましく用いられる。加熱重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物類、アゾ化合物類などが挙げられる。
【0062】
前記有機過酸化物類としては、例えば、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネートなどが挙げられる。
【0063】
前記ケトンペルオキシドとしては、例えば、メチルエチルケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、メチルシクロヘキサノンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシドなどが挙げられる。
【0064】
前記ヒドロペルオキシドとしては、例えば、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシドなどが挙げられる。
【0065】
前記ジアシルペルオキシドとしては、例えば、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシドなどが挙げられる。
【0066】
前記ジアルキルペルオキシドとしては、例えば、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシンなどが挙げられる。
【0067】
前記ペルオキシケタールとしては、例えば、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)オクタン、4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレリン酸n-ブチルエステルなどが挙げられる。
【0068】
前記ペルオキシエステルとしては、例えば、α-クミルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、2,2,4-トリメチルペンチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルペルオキシイソフタレート、ジ-t-ブチルペルオキシヘキサヒドロテレフタレート、t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシマレエートなどが挙げられる。
【0069】
前記ペルオキシジカーボネートとしては、例えば、ジ-3-メトキシペルオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)ペルオキシジカーボネート、ジアリルペルオキシジカーボネートなどが挙げられる。
【0070】
前記アゾ化合物類としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリン酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビス(イソブチラート)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロリドなどが挙げられる。
【0071】
これらの加熱重合開始剤の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ヒドロペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ジアシルペルオキシドが好ましく、その中でもヒドロペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステルがより好ましい。なお、加熱重合開始剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0072】
重合性単量体(B)と重合開始剤(C)とを混合することで、重合性単量体含有組成物となる。
【0073】
ここで、重合性単量体含有組成物に配合される重合開始剤(C)の配合量は、重合性単量体100質量部に対して、0.1~5質量部含有することが好ましい。より好適には0.3~3質量部、さらに好適には0.5~2質量部である。重合開始剤(C)の配合量が少なすぎると、未重合分が残存することで強度の低下を招く恐れがあり、多すぎると硬化物の変色のリスクがある。
【0074】
本発明の硬化性組成物には、前記成分以外に、目的に応じて、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、顔料、抗菌剤、X線造影剤、増粘剤、蛍光剤、消泡剤などをさらに添加することも可能である。
【0075】
前記顔料としては、例えば、歯科用コンポジットレジン又は歯科用セメントに用いられている公知の顔料が何ら制限なく用いられる。前記顔料としては、無機顔料及び/又は有機顔料のいずれでもよく、無機顔料としては、例えば、黄鉛、亜鉛黄、バリウム黄等のクロム酸塩;紺青等のフェロシアン化物;銀朱、カドミウム黄、硫化亜鉛、カドミウムレッド等の硫化物;硫酸バリウム、硫酸亜鉛、硫酸ストロンチウム等の硫酸塩;アンチモン白、亜鉛華、チタン白、ベンガラ、鉄黒、酸化クロム等の酸化物;水酸化アルミニウム等の水酸化物;ケイ酸カルシウム、群青等のケイ酸塩; カーボンブラック、グラファイト等の炭素等が挙げられる。有機顔料としては、例えば、ナフトールグリーンB、ナフトールグリーンY等の二トロン系顔料;ナフトールイエローS、リソールファストイエロー2G等のニトロ系顔料;パーマネントレッド4R、ブリリアントファストスカーレット、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー等の不溶性アゾ系顔料;リソールレッド、レーキレッドC、レーキレッドD等の難溶性アゾ系顔料;ブリリアントカーミン6B、パーマネントレッドF5R、ピグメントスカーレット3B、ボルドー10B等の可溶性アゾ系顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、スカイブルー等のフタロシアニン系顔料;ローダミンレーキ、マラカイトグリーンレーキ、メチルバイオレットレーキ等の塩基性染料系顔料;ピーコックブルーレーキ、エオシンレーキ、キノリンイエローレーキ等の酸性染料系顔料等が挙げられる。前記顔料は1種又は2種以上の組み合わせで用いることができ、目的とする色調に応じて適宜選択される。
【0076】
硬化性組成物における顔料の含有量は、所望の色調によって適宜調整されるため、特に限定されないが、硬化性組成物100質量部に対して、好ましくは0.000001質量部以上であり、より好ましくは0.00001質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは1質量部以下である。また、顔料の含有量は、硬化性組成物100質量部に対して、好ましくは0.000001~5質量部であり、より好ましくは0.00001~1質量部である。
【0077】
本発明の歯科用ミルブランク製造用の容器に充填される硬化性組成物の製造方法は特に限定されないが、以下の工程(1)~(3)を含むことが好ましい。
(1)重合性単量体(B)と重合開始剤(C)を含む重合性単量体含有組成物(以下、単に「重合性単量体含有組成物」という)と、無機充填材(A)とを、40~60℃で混練してペースト状組成物を作製する工程;
(2)工程(1)で得たペースト状組成物を、真空度5~200Torrにて3~30分間保持する工程;
(3)工程(2)の後に、ペースト状組成物を圧力0.5~5MPaにて3~30分間保持する工程。
上記工程(1)は混練工程、工程(2)及び(3)は脱泡工程であり、その詳細な手順を以下に説明する。
【0078】
〔混練工程〕
混練工程は混練作業を行う工程であり、混練機内で、重合性単量体含有組成物と、無機充填材(A)とを投入し混練を行うことでペースト状組成物を作製する。混練工程において、本発明の効果を奏する限り特に混練する方法は限定されず、公知の方法を採用することができるが、混練時間を短縮しペーストのバラツキの発生を防止する観点より、加温しながら混練することが好ましい。混練温度としては40℃~60℃が好ましい。40℃以上であることで、混練時間の短縮効果が十分に得られる。混練温度が60℃以下であることで、混練中に重合硬化が起こることを抑制できる。また、混練中、必要に応じて真空脱泡の処理を行うこともできる。この時、真空度は特に限定されないが、効率よく気泡を抜くために、真空度は5~200Torrであることが好ましい。
【0079】
〔脱泡工程〕
脱泡工程は脱泡作業を行う工程であり、脱泡機容器内で、前記ペースト状組成物に対して、減圧によってペースト内部の気泡を抜きながら、シリンダーによって圧力をかけながら押し潰すことによって脱泡を行う。脱泡条件は特に限定されないが、効率よく気泡を抜くこと、及び重合性単量体含有組成物と無機充填材(A)との分離を抑制するために、真空度は5~200Torrが好ましい。脱泡条件としての減圧時間は3~30分間が好ましい。また、脱泡時の圧力は0.5~5MPaが好ましい。脱泡時の加圧時間は3~30分間が好ましい。また、脱泡中、必要に応じて加熱処理を行うこともできる。この時、温度は特に限定されないが、効率よく気泡を抜くために、温度は35~60℃が好ましい。
【0080】
本発明の歯科用ミルブランクの製造方法としては、上記工程(混練工程、脱泡工程)を経て得た硬化性組成物を加熱重合等により硬化させる重合工程を有していれば特に限定されないが、以下の工程(4)及び(5)を含むことが好ましい。
(4)本発明の歯科用ミルブランク製造用の容器に、ペースト状組成物を充填する工程;
(5)ペースト状組成物の入った前記容器を、全体的に所定の圧力とすることが可能なチャンバーに入れ、加圧及び加熱し、型の内外の圧力が等しくなるように重合させる工程。
上記工程(4)は充填工程、工程(5)は重合工程であり、その詳細な手順を以下に説明する。
【0081】
〔充填工程〕
充填工程は重合するための歯科用ミルブランク製造用の容器に、前記ペースト状組成物を充填する工程であり、前記脱泡機容器内からシリンダーによって荷重をかけながら押し出すことによって歯科用ミルブランク製造用の容器内に充填する。充填条件は特に限定されないが、効率良く充填するためにシリンダーによる押出し荷重は1~100kNが好ましく、3~80kNがより好ましく、5~50kNがさらに好ましい。また、充填中、必要に応じて加熱処理を行うこともできる。この時、温度は特に限定されないが、効率よく充填するために温度は35~60℃が好ましい。また、歯科用ミルブランク製造用の容器に充填する際に空気を巻き込まないように、容器の開放口の内径(直径)と同等以上の内径を有するノズルを介して充填されることが好ましく、ノズル口形状は開放口形状と同じであることが好ましく、ノズル内径は開放口内径の100~120%であることがより好ましい。該範囲であることで、容器の中で前記ペースト状組成物同士が重なり合う際に空気を巻き込むリスクがない一方で、ペースト状組成物により開放口が封鎖されており開放口からの空気が抜けない状態であり、本発明の貫通孔による空気抜けの効果がより得られる。ノズル内径は開放口内径の101~115%がより好ましく、102~110%がさらに好ましい。
【0082】
〔重合工程〕
重合工程は前記ペースト状組成物を重合反応により硬化させる工程であり、ペースト状組成物が充填された容器を、全体的に所定の圧力とすることが可能なチャンバーに入れ、加圧及び加熱し、型の内外の圧力が等しくなるように重合する。このチャンバーとしては、産業界で使用されているオートクレーブや圧力釜等の加圧加熱容器を用いることができる。重合条件は特に限定されないが、重合時の圧力としては0.2~4.0MPaが好ましく、0.3~2.0MPaがより好ましく、0.4~0.9MPaがさらに好ましい。この圧力範囲であることで製造コストを抑えつつ、亀裂及び気泡をより抑制することができる。また、重合時の温度としては60~180℃が好ましい。また、より高い機械的強度を発現するという観点より、重合時の温度は加熱重合開始剤(C)の10時間半減期温度(τ)に合わせることが好ましく、τ-20℃~τ+30℃がより好ましく、τ-15℃~τ+25℃がさらに好ましい。また、重合時の加圧加熱状態における保持時間は10~120分が好ましく、20~110分がより好ましく、30~90分がさらに好ましい。この時間範囲であることで未重合分が残存しにくく、且つより高い製造効率で重合を行うことができる。
【0083】
重合時の圧力媒体としては特に限定されるものではないが、ラジカル重合反応への影響を排除する観点から、一般には不活性ガスが好適に用いられる。不活性ガスの具体例としては、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられる。これらの中では、製造コストの観点から窒素又はアルゴンを用いることが好ましく、その中でも窒素がさらに好ましい。また、重合時のチャンバー内を不活性ガスで満たすために、不活性ガスによる加圧と減圧工程を繰り返す置換作業を行うこともできる。この時、製造コストと不活性ガスの置換効率の観点より、一度に加圧する不活性ガスの圧力を低くし、置換回数を多くすることが好ましい。具体的には不活性ガス圧力0.12~0.3MPaで3~15回置換することが好ましく、0.14~0.25MPaで5~13回置換することがより好ましく、0.15~0.2MPaMPaで6~12回置換することがさらに好ましい。この範囲の不活性ガス置換条件であることで、チャンバー内のラジカル重合反応の阻害因子となる酸素の残存量を効率的に低減することができる。その他の置換方法としては、真空ポンプを用いて一度チャンバー内を真空にした後に、不活性ガスを導入する方法も行うことができる。
【0084】
さらに重合硬化後に、より高い温度で加熱処理することで、硬化物の内部に生じた応力歪を緩和し、機械的強度をさらに向上させることができる。
【0085】
かくして本発明により、製造の歩留まりが改善され、亀裂や気泡が少なく、かつ機械的強度に優れる歯科用ミルブランクを提供することができる。
【0086】
本発明で製造される歯科用ミルブランクは歯科材料として好適に用いることができる。具体的には、歯科医療の分野において、天然歯の一部分又は全体を代替し得る歯科材料に好適に用いることができる。
【実施例
【0087】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0088】
[無機充填材(A)]
UF2.0:バリウムボロシリケートガラス「GM27884(平均一次粒子径2.0μm)」(ショット社製)
UF0.7:バリウムボロシリケートガラス「GM27884(平均一次粒子径0.7μm)」(ショット社製)
NF180:バリウムボロシリケートガラス「GM27884(平均一次粒子径0.180μm)」(ショット社製)
Ox50:微粒子シリカ(平均一次粒子径0.04μm、日本アエロジル株式会社製)
[表面処理剤]
γ-MPS:γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)
11-MUS:11-メタクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)
【0089】
[重合性単量体(B)]
UDMA:[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート(共栄社化学株式会社製)
D2.6E:2,2-ビス〔4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン(エトキシ基の平均付加モル数:2.6)
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業株式会社製)
NPG:ネオペンチルグリコールジメタクリレート
【0090】
[重合開始剤(C)]
THP:1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド(τ=152.9℃、日油株式会社製)
BPO:ベンゾイルペルオキシド(τ=73.6℃、日油株式会社製)
【0091】
[容器の材質]
PP:ポリプロピレン
A6061:アルミ合金
【0092】
〔無機充填材の製造例1〕
80質量部のUF2.0及び20質量部のNF180の混合物をエタノール300質量部に分散し、γ-MPS2.25質量部、酢酸0.15質量部及び水5質量部を加えて室温で2時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、さらに90℃で3時間乾燥することによって表面処理して、無機充填材(F1)を得た。
【0093】
〔無機充填材の製造例2〕
90質量部のUF0.7及び10質量部のOx50の混合物をエタノール300質量部に分散し、γ-MPS6質量部、酢酸0.15質量部及び水5質量部を加えて室温で2時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、さらに90℃で3時間乾燥することによって表面処理して、無機充填材(F2)を得た。
【0094】
〔無機充填材の製造例3〕
100質量部のNF180をエタノール300質量部に分散し、11-MUS11質量部、酢酸0.15質量部及び水5質量部を加えて室温で2時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、さらに90℃で3時間乾燥することによって表面処理して、無機充填材(F3)を得た。
【0095】
各無機充填材の製造例を下記表2に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
〔重合性単量体含有組成物の製造例1(M1)〕
97質量部のUMDA及び3質量部のNPGに、重合開始剤としてTHPを1質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M1)を調製した。
【0098】
〔重合性単量体含有組成物の製造例2(M2)〕
97質量部のD2.6E及び3質量部のNPGに、重合開始剤としてTHPを1質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M2)を調製した。
【0099】
〔重合性単量体含有組成物の製造例3(M3)〕
70質量部のUMDA及び30質量部のTEGDMAに、重合開始剤としてBPOを1質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M3)を調製した。
【0100】
〔重合性単量体含有組成物の製造例4(M4)〕
70質量部のD2.6E及び30質量部のTEGDMAに、重合開始剤としてTHPを1質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M4)を調製した。
【0101】
【表2】
【0102】
実施例1
厚さ1mmのポリプロピレンシートを真空成型して、内寸が15mm×15mm、深さが20mmであり、容器内面の形状(組成物充填部の形状)が直方体状の凹型容器を得た。該凹型容器は、直方体の壁面のうち、1つを有しておらず、この部分を開放口とした凹型容器であり、以下、開放口部分を「上方開放口」と称する。次いで、パンチャー加工により直径1mmの貫通孔(断面形状が円形状)を底面に4つ形成した。ここで、底面は、上方開放口に相対する壁面を意味する。該貫通孔のそれぞれは、底面(内寸:15mm×15mm)において、最も近傍に位置する各頂点から5%の位置に存在する。表1及び表2に記載の無機充填材及び重合性単量体含有組成物を混合練和して均一にしたものを真空脱泡し、ペースト状の硬化性組成物を得た。得られたペースト状の硬化性組成物を、16mm×16mmの内寸を有する充填用ノズルに接続されたカートリッジに入れた。前記カートリッジの上部に設置されたシリンダーを用いてペースト状の硬化性組成物に対して20kNの荷重をかけ、前記カートリッジの下部に接続された充填用ノズルを介して、ペースト状の硬化性組成物を凹型容器内へ充填した。その後、ペースト状組成物が充填された凹型容器をオートクレーブ(株式会社協真エンジニアリング製)が有するチャンバー内に固定し、濃度99.9%の窒素を0.15MPaで12回置換して酸素濃度を1000ppm未満とした。なお、ppmはvol ppmを意味する。次いで、窒素で0.4MPaまで昇圧し、昇圧完了と同時にチャンバー内を130℃に昇温させ60分間保持することで重合硬化させた。重合した歯科用ミルブランクを該容器から取り出した。得られた歯科用ミルブランクについて以下の特性評価試験(試験例1~4)を実施した。結果を表3に示す。
【0103】
実施例2~7、10、12
厚さ1mmのポリプロピレンシートを真空成型して、実施例1と同様に、内寸が15mm×15mm、深さが20mmである、容器内面の形状(組成物充填部の形状)が直方体状の凹型容器を得た。次いで、パンチャー加工により表3記載の直径を有する貫通孔を、表3記載の位置及び数量を形成した。表1及び表2に記載の無機充填材及び重合性単量体含有組成物を混合練和して均一にしたものを真空脱泡し、ペースト状の硬化性組成物を得た。得られたペースト状の硬化性組成物を、16mm×16mmの内寸を有する充填用ノズルに入れ、前記凹型容器の上方開放口とノズル口を接続し、シリンダーを用いて20kNの荷重をかけながら容器内に充填した。その後、ペースト状組成物の充填された凹型容器をオートクレーブ(株式会社協真エンジニアリング製)のチャンバー内に固定し、濃度99.9%の窒素を0.15MPaで12回置換して酸素濃度を1000ppm未満とした。次いで、窒素で0.4MPaまで昇圧し、昇圧完了と同時にチャンバー内を130℃に昇温させ60分間保持することで重合硬化させた。重合した歯科用ミルブランクを該容器から取り出した。得られた歯科用ミルブランクについて以下の特性評価試験(試験例1~4)を実施した。結果を表3に示す。
【0104】
実施例8
厚さ1mmのポリプロピレンシートを真空成型して、一辺が15mm、深さが20mmである、容器内面の形状(組成物充填部の形状)が正三角柱状の凹型容器を得た。次いで、パンチャー加工により直径1mmの貫通孔を底面に3つ形成した。該貫通孔のそれぞれは、底面(内寸:15mm×15mm)において、最も近傍に位置する各頂点から5%の位置に存在する。表1及び表2に記載の無機充填材及び重合性単量体含有組成物を混合練和して均一にしたものを真空脱泡し、ペースト状の硬化性組成物を得た。得られたペースト状の硬化性組成物を、一辺が16mmの正三角形状の内寸を有する充填用ノズルに入れ、前記凹型容器の上方開放口とノズル口を接続し、シリンダーを用いて20kNの荷重をかけながら容器内に充填した。その後、ペースト状組成物の充填された凹型容器をオートクレーブ(株式会社協真エンジニアリング製)のチャンバー内に固定し、濃度99.9%の窒素を0.15MPaで12回置換して酸素濃度を1000ppm未満とした。次いで、窒素で0.4MPaまで昇圧し、昇圧完了と同時にチャンバー内を130℃に昇温させ60分間保持することで重合硬化させた。重合した歯科用ミルブランクを該容器から取り出した。得られた歯科用ミルブランクについて以下の特性評価試験(試験例1~4)を実施した。結果を表3に示す。
【0105】
実施例9
アルミ合金(A6061)をワイヤー放電加工成形して、実施例1と同様に、内寸が15mm×15mm、深さが20mmである、容器内面の形状(組成物充填部の形状)が直方体状の凹型容器を得た。次いで、ワイヤー放電加工により直径1mmの貫通孔を底面に4つ形成した。該貫通孔のそれぞれは、最も近傍に位置する各頂点から5%の位置に存在する。表1及び表2に記載の無機充填材及び重合性単量体含有組成物を混合練和して均一にしたものを真空脱泡し、ペースト状の硬化性組成物を得た。得られたペースト状の硬化性組成物を、16mm×16mmの内寸を有する充填用ノズルに入れ、前記凹型容器の上方開放口とノズル口を接続し、シリンダーを用いて20kNの荷重をかけながら容器内に充填した。その後、ペースト状組成物の充填された凹型容器をオートクレーブ(株式会社協真エンジニアリング製)のチャンバー内に固定し、濃度99.9%の窒素を0.15MPaで12回置換して酸素濃度を1000ppm未満とした。次いで、窒素で0.4MPaまで昇圧し、昇圧完了と同時にチャンバー内を130℃に昇温させ60分間保持することで重合硬化させた。重合した歯科用ミルブランクを該容器から取り出した。得られた歯科用ミルブランクについて以下の特性評価試験(試験例1~4)を実施した。結果を表3に示す。
【0106】
実施例11
厚さ1mmのポリプロピレンシートを真空成型して、実施例1と同様に、内寸が15mm×15mm、深さが20mmである、容器内面の形状(組成物充填部の形状)が直方体状の凹型容器を得た。次いで、パンチャー加工により直径1mmの貫通孔を底面に4つ形成した。該貫通孔のそれぞれは、最も近傍に位置する各頂点から5%の位置に存在する。表1及び表2に記載の無機充填材及び重合性単量体含有組成物を混合練和して均一にしたものを真空脱泡し、得られたペースト状の硬化性組成物を、16mm×16mmの内寸を有する充填用ノズルに入れ、前記凹型容器の上方開放口とノズル口を接続し、シリンダーを用いて20kNの荷重をかけながら容器内に充填した。その後、ペースト状組成物の充填された凹型容器をオートクレーブ(株式会社協真エンジニアリング製)のチャンバー内に固定し、濃度99.9%の窒素を0.15MPaで12回置換して酸素濃度を1000ppm未満とした。次いで、窒素で0.4MPaまで昇圧し、昇圧完了と同時にチャンバー内を80℃に昇温させ60分間保持することで重合硬化させた。重合した歯科用ミルブランクを該容器から取り出した。得られた歯科用ミルブランクについて以下の特性評価試験(試験例1~4)を実施した。結果を表3に示す。
【0107】
実施例13
厚さ1mmのポリプロピレンシートを真空成型して、内径がφ15mm、深さが20mmである、容器内面の形状(組成物充填部の形状)が円柱状の凹型容器を得た。次いで、パンチャー加工により直径1mmの貫通孔を底面に4つ形成した。該貫通孔のそれぞれは、底面(内径:φ15mm)において、最も近傍する底面の内周部分から5%の位置に存在する。表1及び表2に記載の無機充填材及び重合性単量体含有組成物を混合練和して均一にしたものを真空脱泡し、ペースト状の硬化性組成物を得た。得られたペースト状の硬化性組成物を、内径がφ16mmの円形状の内寸を有する充填用ノズルに入れ、前記凹型容器の上方開放口とノズル口を接続し、シリンダーを用いて20kNの荷重をかけながら容器内に充填した。その後、ペースト状組成物の充填された凹型容器をオートクレーブ(株式会社協真エンジニアリング製)のチャンバー内に固定し、濃度99.9%の窒素を0.15MPaで12回置換して酸素濃度を1000ppm未満とした。次いで、窒素で0.4MPaまで昇圧し、昇圧完了と同時にチャンバー内を130℃に昇温させ60分間保持することで重合硬化させた。重合した歯科用ミルブランクを該容器から取り出した。得られた歯科用ミルブランクについて以下の特性評価試験(試験例1~4)を実施した。結果を表3に示す。
【0108】
比較例1
厚さ1mmのポリプロピレンシートを真空成型して、実施例1と同様に、内寸が15mm×15mm、深さが20mmである、容器内面の形状が直方体状の凹型容器を得た。表1及び表2に記載の無機充填材及び重合性単量体含有組成物を混合練和して均一にしたものを真空脱泡し、ペースト状の硬化性組成物を得た。得られたペースト状の硬化性組成物を、16mm×16mmの内寸を有する充填用ノズルに入れ、前記貫通孔が形成されていない凹型容器の上方開放口とノズル口を接続し、シリンダーを用いて20kNの荷重をかけながら容器内に充填した。その後、ペースト状組成物の充填された凹型容器をオートクレーブ(株式会社協真エンジニアリング製)のチャンバー内に固定し、濃度99.9%の窒素を0.15MPaで12回置換して酸素濃度を1000ppm未満とした。次いで、窒素で0.4MPaまで昇圧し、昇圧完了と同時にチャンバー内を130℃に昇温させ60分間保持することで重合硬化させた。重合した歯科用ミルブランクを該容器から取り出した。得られた歯科用ミルブランクについて以下の特性評価試験(試験例1~4)を実施した。結果を表3に示す。
【0109】
比較例2
無機充填材(F1)及び重合性単量体含有組成物(M1)を表3に示す組成比で混合練和して均一にしたものを真空脱泡し、ペースト状の硬化性組成物を製造した。次いで、比較例1に記載の貫通孔の形成されていない凹型容器内に手動充填し、自転公転式撹拌機(株式会社スギノマシン製)に装着し、公転速度1090rpm、自転速度970rpmで120秒間撹拌した。その後、硬化性組成物の充填された容器をオートクレーブ(株式会社協真エンジニアリング製)内に固定し、濃度99.9%の窒素を0.15MPaで12回置換して酸素濃度を1000ppm未満とした。次いで窒素で0.4MPaまで昇圧し、昇圧完了と同時に炉内を130℃に昇温させ1時間重合硬化させた。重合した歯科用ミルブランクを該容器から取り出した。得られた歯科用ミルブランクについて以下の特性評価試験(試験例1~4)を実施した。結果を表3に示す。
【0110】
試験例1〔稠度〕
製造した硬化性組成物を25℃の恒温室(湿度50%)に1日間静置した後、ガラス板上に該硬化性組成物のペーストをサンプルとして0.5mL計量した。その上にPETフィルム(5cm×5cm)を載せ、その上から1kgの荷重をかけた。30秒経過後のサンプルの長径と短径をガラス板越しに測定し、その両者の算術平均を算出し、これを稠度(mm)とした(n=2)。測定した平均値を表3に示す。なお、稠度が低いほどペーストは固く、18mm以下で固いと判断し、15mm以下でさらに固く、12mm以下では非常に固い。
【0111】
試験例2〔充填性〕
製造した硬化性組成物の、実施例及び比較例に記載の容器への充填性を以下の方法により評価した。すなわち、3Dスキャナ型三次元測定機(VL-500、株式会社キーエンス製)を用いて容器の容積を測定した。次に、該容器を用いて製造した歯科用ミルブランクの体積を、3Dスキャナ型三次元測定機(VL-500、株式会社キーエンス製)を用いて測定した(n=10)。測定した平均値を表3に示す。そして、以下の式により未充填体積率を算出した。未充填体積率は、容器内側体積の内、硬化性組成物が充填されていない体積の割合を示し、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。
未充填体積率(%)=100×{(容器の容積(cm3)-歯科用ミルブランクの体積(cm3))}/容器の容積(cm3
【0112】
試験例3〔亀裂及び気泡発生率〕
製造した各実施例及び各比較例の歯科用ミルブランクについて、卓上型マイクロフォーカスX線CTシステム(株式会社島津製作所製、inspeXio SMX-90CT)を用いて、歯科用ミルブランクの内部及び外観の亀裂及び気泡の有無を評価した(n=10)。硬化物の気泡発生率の評価として、気泡のある硬化物の個数が1個以下であることが好ましく、0個であることが最も好ましい。一方で、3個以上であると機械的強度の低下や外観が悪くなる等の観点より品質が悪いと判断される。
【0113】
試験例4〔曲げ試験〕
製造した各実施例及び各比較例の歯科用ミルブランクの曲げ強さを以下の方法により測定した。すなわち、製造した歯科用ミルブランクから、ダイヤモンドカッターを用いて、試験片(1.2mm×4mm×14mm)を作製し、#2000研磨紙で研磨した。これをそのまま(浸漬なし)、及び、37℃の水中に1ヶ月間浸漬した後(37℃水中浸漬(1ヶ月)後)、万能試験機(株式会社島津製作所製)にセットし、クロスヘッドスピード1mm/分、支点間距離12mmの条件で3点曲げ試験法により曲げ強さを測定した(n=10)。測定した平均値を表3に示す。なお、当該曲げ強さは、浸漬なしについて、250MPa以上であることが好ましく、270MPa以上であることがより好ましく、280MPa以上であることがさらに好ましく、290MPa以上であることが特に好ましい。また、当該曲げ強さは、37℃水中浸漬(1ヶ月)後について、200MPa以上であることが好ましく、220MPa以上であることがより好ましく、240MPa以上であることがさらに好ましい。
【0114】
【表3】
【0115】
実施例1~13において得られた歯科用ミルブランクは、未充填体積率が低く充填性に優れ、亀裂及び気泡等の欠陥が少なく、高い機械的強度を有していることがわかった。また、実施例12のように、硬化性組成物のペーストが柔らかく、流動性が高い場合であっても、得られた歯科用ミルブランクは、未充填体積率が低く充填性に優れ、亀裂及び気泡等の欠陥が少なく、高い機械的強度を有していることがわかった。これに対して、比較例1で得られた歯科用ミルブランクは未充填体積率が高く容器底面まで充填することができず、それに伴い亀裂が多く発生し、機械的強度も低かった。また、比較例2で自転公転式撹拌機後の硬化性組成物に関して、表面に重合性単量体が分離していた。さらに、重合硬化後に得られた歯科用ミルブランクは気泡が多く残存しており、前記重合性単量体の分離により著しく機械的強度が低かった。
【0116】
以上の結果より、本発明の歯科用ミルブランク製造用の容器を用いた歯科用ミルブランクの製造方法は歩留まり改善に効果的であり、該製造方法により作製された歯科用ミルブランクは亀裂及び気泡等の欠陥が少なく、高い機械的強度を有していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の歯科用ミルブランク製造用の容器及びそれを用いた歯科用ミルブランクの製造方法は、歩留まり改善に効果的であり、その製造方法により作製された歯科用ミルブランクは、亀裂及び気泡等の欠陥が少なく、機械的強度に優れる。すなわち天然歯と置換可能な十分な機械的強度を有しており、歯の欠損部や齲蝕を修復するための材料として好適に用いられる。
【0118】
1 歯科用ミルブランク製造用の容器
2 貫通孔
3 辺A
4 辺B
X1 貫通孔が最も近傍に位置する頂点
Y1 貫通孔の重心
Z1 X1とY1との距離
X2 貫通孔の重心からの垂線と円周の交点
Y2 貫通孔の重心
Z2 X2とY2との最短距離
W 組成物充填部の底面の内周と容器底面の重心との最短距離
図1
図2