IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日揮触媒化成株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】ニッケル触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/00 20060101AFI20240613BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20240613BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20240613BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240613BHJP
   B28B 3/20 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B01J37/00 D
B01J23/755 M
B01J37/04 102
B01J37/08
B28B3/20 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020163928
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022056114
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 達哉
(72)【発明者】
【氏名】秋田 駿介
(72)【発明者】
【氏名】首藤 優弥
(72)【発明者】
【氏名】児玉 貴志
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-185349(JP,A)
【文献】特開2010-005555(JP,A)
【文献】特開2009-213968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B28B 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル化合物およびアミロペクチン含有物を含む捏和物を調製する工程、
前記捏和物を押出成形して押出成形体を調製する工程、および、
前記押出成形体を焼成してニッケル触媒を調製する工程を含み、
前記捏和物に含まれるニッケルとアミロペクチンとの質量比が0.01以上、0.1以下の範囲にある、
ニッケル触媒の製造方法。
【請求項2】
前記ニッケル触媒に含まれるニッケルの含有量が、ニッケル触媒の総質量に対して50質量%以上、80質量%以下の範囲にある、請求項1に記載のニッケル触媒の製造方法。
【請求項3】
前記押出成形体を350℃以上、450℃以下の範囲で焼成する、請求項1に記載のニッケル触媒の製造方法。
【請求項4】
前記捏和物に含まれるニッケルとアミロペクチンとの質量比が、0.01以上、0.08以下の範囲にある、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のニッケル触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロペクチンを用いたニッケル触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル触媒は、古くから工業触媒として、世界中で広く使用されている。ニッケル触媒は、主に有機物の水素化反応に使用される。ニッケル触媒が使用される水素化反応は、例えば、水素化脱硫反応、樹脂の水素化反応およびメタネーション反応等がある。
【0003】
これらのニッケル触媒は、様々な形状に成形されて使用される。例えば、特許文献1には、ニッケル触媒の成形方法には、特に制限がなく、打錠成形、押出し成形、噴霧乾燥、または転動造粒等の方法があることが開示されている。打錠成形法で成形されたニッケル触媒は、一般的に強度が高く、粉化しにくいものの、生産効率が悪く高コストになりやすい。一方、押出成形法で成形されたニッケル触媒は、打錠成形法で成形されたニッケル触媒と比べて、生産効率が良く低コストであるものの、強度が低く、粉化しやすいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-182207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
押出成形法により成形されたニッケル触媒は、その圧壊強度が低くなりやすいという課題を有していた。
本発明は、押出成形を用いても圧壊強度が高いニッケル触媒を得ることができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ニッケル化合物およびアミロペクチン含有物を含み、ニッケルとアミロペクチンとの質量比が0.01以上、0.1以下の範囲にある捏和物を押出成形して押出成形体を調製し、これを焼成して当該アミロペクチンを除去することで、圧壊強度が高いニッケル触媒を調製できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、押出成形を用いても圧壊強度が高いニッケル触媒を得ることができる製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本発明のニッケル触媒の製造方法の概要]
本発明のニッケル触媒の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう。)は、ニッケル化合物およびアミロペクチン含有物を含む捏和物を調製する工程、前記捏和物を押出成形して押出成形体を調製する工程、および、前記押出成形体を焼成してニッケル触媒を調製する工程を含み、前記捏和物に含まれるニッケルとアミロペクチンとの質量比が0.01以上、0.1以下の範囲にある、ニッケル触媒の製造方法である。
【0009】
本発明の製造方法は、ニッケル化合物およびアミロペクチン含有物を含む捏和物を調製し、これを押出成形した後、焼成して除去することを特徴としている。本発明の発明者らは、最初にニッケル化合物とアミロペクチンとの相性に注目し、塩基性炭酸ニッケル、酸化ニッケルといったニッケル化合物とアミロペクチンとを含む捏和物を用いて押出成形体を調製した。この押出成形体自体の圧壊強度は低いものの、これを焼成してアミロペクチンを除去したニッケル触媒は、圧壊強度が極めて高くなることが判明した。このような傾向は、ニッケル化合物以外の物質であるゼオライトでは見られなかったことから、ニッケル化合物とアミロペクチンとの相性によって、圧壊強度が高いニッケル触媒が得られるものと考えられる。
【0010】
[先行技術との対比]
アミロペクチンを用いて成形体を得る方法として、例えば、特開2007-1875号公報には、アミロースとアミロペクチンとを含有する混合物の粉末を用いる方法が開示されている。具体的には、保水量が400%以上、ゲル押込み荷重が100~3000g、水溶性成分が40~95%である機能性澱粉粉末を結合剤として用い、水への溶解度が0.0001~10g/Lの1種以上の活性成分を含む粉粒体を湿式造粒することを特徴とする、造粒組成物の製造方法が開示されている(上記公報の[請求項1])。また、当該機能性澱粉粉末が、澱粉質原料を水存在下60℃以上100℃未満で加熱し、澱粉質原料の澱粉粒子を膨潤させる工程、次いで該膨潤させた澱粉粒子を乾燥させ、澱粉粒子と該澱粉粒子の外部に存在するアミロースとアミロペクチンとを含有する混合物の粉末を得る工程を含む方法によって製造されるものであることも開示されている(上記公報の[請求項4])。更に、このような製造方法を用いて得られた造粒組成物は、適度な大きさで均一な粒度の分布を持ち、粒度毎の薬物含量均一性が高く、圧縮成形して得られる錠剤が高い硬度と良好な崩壊時間を兼ねそなえた圧縮成形特性を有する造粒組成物が得られることも開示されている。
これに対し、本発明の製造方法は、ニッケル化合物とアミロペクチンとを含む捏和物を用いて押出成形体を調製することおよび当該押出成形体を焼成してアミロペクチンを除去するという点で、少なくとも上記公報に記載された発明と相違する。また、上記公報に記載された製造方法は、造粒組成物中に特定の性状を有する機能性澱粉粉末を含ませることで発明の効果が得られるが、本発明の製造方法は、アミロペクチンを焼成して除去することで発明の効果が得られる。この点において、上記公報に記載された発明と本発明とは、その技術思想も相違する。
【0011】
[本発明の製造方法]
以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0012】
[捏和物調製工程]
本発明の製造方法は、ニッケル化合物およびアミロペクチン含有物を含む捏和物を調製する工程を含む。本発明における捏和物とは、粘性と可塑性を有する粘土状の組成物を指すものとする。この工程では、ニッケル化合物およびアミロペクチン含有物を捏和して前述の捏和物を調製する。
【0013】
この工程で調製する捏和物は、ニッケル化合物を含む。このニッケル化合物は、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル、塩基性炭酸ニッケル、ニッケル酸化物、硝酸ニッケル等であってよい。本発明の製造方法では、このニッケル化合物は、捏和物中において固体であることが好ましい。捏和物中でニッケルが固体状で存在すると、アミロペクチンの効果が最大限発揮される。したがって、この捏和物は、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル、塩基性炭酸ニッケル、ニッケル酸化物を含むことが好ましい。これらのニッケル化合物は、試薬を購入したものであってもよく、従来公知の沈殿反応等を用いて調製されたものであってもよい。また、これらのニッケル化合物に、後述する担体成分や助触媒成分が予め含まれていてもよい。特に、後述する焼成工程において分解しないニッケル化合物を含む場合、当該工程において分解により発生したガス等によってクラックが生じにくくなるので、最終的に得られるニッケル触媒の圧壊強度が高くなる。例えば、ニッケル酸化物の一つである酸化ニッケルを用いると、このような効果が得られやすい。
【0014】
この工程で調製する捏和物は、アミロペクチン含有物を含む。アミロペクチンは、多数のα-グルコース分子がグリコシド結合によって重合し、枝分かれの多い構造になった高分子であり、直鎖状のアミロースとは異なる構造を有している。このような構造により、本発明の効果が得られるものと考えられる。したがって、本発明の製造方法では、アミロペクチン含有物は、アミロースを実質的に含まないことが好ましい。したがって、この工程で用いるアミロペクチン含有物のアミロペクチン含有量が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。このようなアミロペクチン含有物として、実施例に記載されているようなアミロペクチンの試薬を用いることができる。また、工業的には、アミロペクチンが主成分でありアミロースをほとんど含まない糯米に由来する粉末等を使用することもできる。
【0015】
この工程で用いるアミロペクチン含有物は、糊化された(α化した)ものでもよく、糊化していない(β化した)ものでもよい。α化したアミロペクチン含有物は、捏和物中で糊化し、捏和物に粘性と可塑性を付与する。しかしながら、捏和する際に装置負荷が大きくなりやすく、例えば捏和に要するエネルギー消費が大きくなりやすく、装置へのダメージも大きくなってしまう。これに対し、β化されたアミロペクチン含有物は、捏和する際の装置負荷が小さくなるという特徴がある。したがって、工業的なハンドリング性という観点から、β化されたアミロペクチン含有物を使用することが好ましい。
【0016】
本発明の製造方法で使用するアミロペクチン含有物の水溶性成分量は、40質量%未満であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。捏和物を調製する際に水等の極性溶媒を用いる場合、水溶性成分量が少ないアミロペクチン含有物を用いることで、アミロペクチンの効果を最大限発揮させることができる。
【0017】
この工程で調製された捏和物に含まれるニッケルとアミロペクチンとの質量比(アミロペクチン/ニッケル)は、0.01以上、0.1以下の範囲にあり、0.01以上、0.08以下の範囲にあることが好ましく、0.01以上、0.05以下の範囲にあることがより好ましい。この質量比が前述の範囲にあると、最終的に得られるニッケル触媒の圧壊強度が特に高くなる。アミロペクチンを過度に添加しても、圧壊強度がそれに比例して高くなりつつづけることはない。むしろ焼成で除去される際に押出成形体中に空隙が多く生成し、圧壊強度が低下してしまうことがある。したがって、ニッケルの含有量に対するアミロペクチンの含有量の比を一定の範囲にコントロールすることが重要と考えられる。
【0018】
この工程で調製された捏和物には、ニッケル化合物およびアミロペクチン含有物の他に、増粘剤、可塑剤、溶媒等の添加剤を含んでいてもよい。この工程では、ニッケル化合物およびアミロペクチン含有物の他に、これらの添加剤を適宜添加して捏和することで、押出成形に適した粘度および可塑性を有する捏和物を得ることができる。なお、押出成形に適した粘度および可塑性は、押出成形の装置や運転条件によって異なるので、捏和物に含まれるこれらの添加剤の含有量を一義的に定めることはできない。
【0019】
この工程で用いることができる添加剤は、従来公知の材料から選択することができる。例えば、増粘剤として、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびポリエチレングリコール等を使用することができる。可塑剤としては、ポリエチレンオキサイド、オレイン酸、およびセルロース等を使用することができる。溶媒としては、水、エタノールプロパノール、ブタノール、およびテトラヒドロフラン等を使用することができる。
【0020】
この工程で調製された捏和物には、ニッケル化合物、アミロペクチン含有物および添加剤の他に、触媒構成成分として担体、助触媒、および無機バインダー等を含んでいてもよい。これらの成分は、ニッケル触媒を用いる反応の種類や条件によって異なるので、その目的によって適宜選択される。そして、捏和物中に含まれるこれらの成分の種類および含有量は、最終的に得られるニッケル触媒の設計に従って調整される。
【0021】
ニッケル化合物およびアミロペクチン含有物を捏和する装置として、例えば、ニーダー、ハイスピードミキサー、およびミックスマラー等の従来公知のものを使用することができる。これらの装置を用いて、押出成形に適した粘性および可塑性を有する捏和物となるまで、ニッケル化合物およびアミロペクチン含有物を捏和する。必要によって、前述の添加剤、または触媒構成成分をこれに添加してもよい。
【0022】
[押出成形工程]
本発明の製造方法は、前述の工程で得られた捏和物を押出成形して押出成形体を調製する工程を含む。この工程では、ディスクペレッター、およびスクリュー式押出成形機等の従来公知の押出成形機を用いて、捏和物を所望の形状に押出成形する。この押出成形機は、穴が開いたダイがセットされており、捏和物が押出成形機からダイを通して押し出される。このような機構によって、押出成形体が得られる。
【0023】
押出成形機にセットされるダイの穴の形状は、シリンダー状、三つ葉状、または四つ葉状等、最終的に得られるニッケル触媒の用途に合わせて適宜設定される。例えば、ニッケル触媒の外表面積を大きくしたい場合は、ダイの穴の径を小さくし、三つ葉状、または四つ葉状といった形状にするとよい。最終的に得られるニッケル触媒の圧壊強度を高めたい場合は、ダイの穴の径を大きくし、シリンダー状の形状にするとよい。
【0024】
この工程では、押し出された直後の押出成形体は、その表面が濡れているので、従来公知の方法で乾燥するとよい。表面が濡れたままの押出成形体は、その表面が粘着質となり、別の押出成形体とくっついてしまうことがある。そこで、例えば、風乾、バット乾燥、バンド乾燥、振動乾燥、または減圧乾燥等の乾燥方法を用いて、押出成形体を乾燥するとよい。乾燥の条件は、押出成形体の表面にひびが入ったり、ささくれ立ったりしないように、適宜調整される。これらの現象は、乾燥速度を速くしたり、乾燥中の押出成形体に振動を与えたりすることで発生するので、この工程では押出成形体を風乾することが好ましい。
【0025】
[焼成工程]
本発明の製造方法は、前述の工程で得られた押出成形体を焼成して、ニッケル触媒を得る工程を含む。この工程では、押出成形体中に含まれるアミロペクチン等を焼成して除去する。この工程を経て得られるニッケル触媒は、その圧壊強度が高くなる。この理由は必ずしも明確ではない。しかし、本発明の製造方法で得られるニッケル触媒は、アミロペクチンを用いずに得られるニッケル触媒と比較して、その細孔容積が小さくなっていることから、押出成形体内の空隙を少なくする働きを有しているものと考えられる。
【0026】
この工程では、押出成形体を350℃以上、450℃以下の範囲で焼成することが好ましい。この温度域で押出成形体を焼成すると、アミロペクチンが効率的に燃焼して除去される。また、押出成形体がニッケル酸化物以外のニッケル化合物を含んでいる場合、これらも同時に分解してニッケル酸化物が生成する。この工程では、押出成形体を370℃以上、430℃以下の範囲で焼成することがより好ましい。この温度域で押出成形体を焼成すると、押出成形体中に含まれるニッケル酸化物がシンタリングしにくくなる。ニッケル酸化物がシンタリングしてしまうと、触媒活性が低下することがあるので、好ましくない。
【0027】
この工程では、前述の温度域まで昇温するときの速度が、5℃/hr以上、100℃/hr以下の範囲にあることが好ましく、10℃/hr以上、75℃/以下であることがより好ましい。この範囲内の速度であれば、生産効率が高まるとともに、クラック等が発生しにくくなる。
【0028】
この工程では、押出成形体を前述の温度範囲でアミロペクチン等が除去されるまで焼成することが好ましい。焼成に要する時間は、押出成形体の仕込量等で変わるが、前述の温度範囲において概ね1時間以上、6時間以下の範囲にある。
【0029】
この工程では、酸素を含む雰囲気で押出成形体を焼成する。最も簡便な方法として、空気中で焼成すればよい。但し、アミロペクチンの燃焼を緩やかにするために、酸素が低い雰囲気で焼成することもできる。このような方法を用いれば、アミロペクチンの急激な燃焼によって押出成形体が破損するリスクを低減できる。
【0030】
[ニッケル触媒]
本発明の製造方法で得られるニッケル触媒は、触媒活性成分としてニッケルを含む。このニッケルは、金属ニッケルであってもよく、ニッケル酸化物であってもよい。このニッケル触媒に含まれるニッケルの含有量は、ニッケル触媒の総質量に対して10質量%以上、80質量%以下の範囲にあることが好ましい。本発明の製造方法は、特に、この含有量が50質量%以上、80質量%以下という、ニッケルの含有量が多いニッケル触媒の製造方法として好適である。一般的に、触媒構成成分としてニッケルの含有量が多くなるにつれて、担体、無機結合剤といった成分が少なくなるので、ニッケル触媒の圧壊強度が低下しやすくなるが、本発明の製造方法を用いればニッケルの含有量が多くても圧壊強度が高いニッケル触媒が得られる。
【0031】
本発明の製造方法で得られるニッケル触媒は、触媒構成成分として担体を含んでいてもよい。ニッケル触媒中において、担体は、その表面にニッケルを分散させ、固定化する働きを有する。したがって、担体の表面に分散したニッケルは、熱によりシンタリングしにくくなる。また、担体の表面にニッケルを分散することで、これを効率よく触媒反応に利用することができる。本発明の製造方法では、触媒の分野で使用される従来公知の担体を使用することができる。例えば、珪藻土、シリカ、アルミナ、またはシリカ・アルミナ等を担体として使用することができる。ニッケル触媒の用途によってこれらの中から担体成分を選定する。このとき、担体の比表面積は、ニッケルを表面に分散させるという観点から、10m/g以上、500m/g以下の範囲にあることが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法で得られるニッケル触媒は、触媒構成成分として助触媒を含んでいてもよい。ニッケル触媒中において、助触媒は、触媒反応の活性をさらに向上させたり、副反応を抑制して目的の化合物を選択的に合成したりする働きを有する。本発明の製造方法では、ニッケル触媒の分野で使用される従来公知の助触媒成分を使用することができる。例えば、ホウ素、マグネシウム、銅、クロム、マンガン、コバルト、モリブデン、またはジルコニウム等を助触媒として使用することができる。これらは、通常、酸化物の状態でニッケル触媒中に存在する。これらの成分の原料は、前述の焼成で分解して酸化物を生成する化合物(例えば、炭酸塩、硝酸塩、または水酸化物等)を使用することができる。
【0033】
本発明の製造方法で得られるニッケル触媒は、触媒構成成分として無機バインダーを含んでいてもよい。ニッケル触媒中において、無機バインダーは、触媒構成成分どうしの隙間を埋め、触媒の強度を高める働きを有する。本発明の製造方法では、触媒の分野で使用される従来公知の無機バインダーを使用することができる。例えば、シリカゾル、アルミナゾル、またはセピオライト等を無機バインダーとして使用することができる。
【0034】
本発明の製造方法で得られるニッケル触媒の形状は、ニッケル触媒を用いた反応の条件によって、最適な形状がある。このニッケル触媒の形状は、押出成形で得られる形状であればどのような形状であってもよい。例えば、シリンダー状、三つ葉状、または四つ葉状であってもよい。工業触媒として使用されるニッケル触媒の径は、概ね1mmφ以上、10mmφ以下の範囲にあることが好ましい。強度を保ちつつ外表面積を大きくするという観点から、1mmφ以上、3mmφ以下の範囲にあることがより好ましい。
【0035】
本発明の製造方法では、得られたニッケル触媒を還元処理してもよい。この還元処理によって、ニッケル触媒に含まれるニッケル化合物が金属ニッケルに還元され、触媒活性が発現する。通常、このような還元処理は、ニッケル触媒を使用する前の前処理として行われる。しかしながら、ニッケル触媒に含まれるニッケル化合物を予め金属ニッケルに還元し、その表面に安定化処理を施すことで、前述の前処理に要する時間を少なくすることができる。この安定化処理は、通常、二酸化炭素や酸素で行われる。
【0036】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、実施例、比較例における各物性の測定方法は以下の通りである。
【0037】
(水溶性成分量)
アミロペクチン含有物1.0gに20℃±5℃の純水99.0gを加えてマグネチックスターラーで2時間攪拌して分散させ、得られた分散液40cmを50cmの遠沈管に移し、5000Gで15分間遠心分離し、この上澄液30cmを秤量瓶に入れ、110℃で一定質量になるまで乾燥した。アミロペクチン含有物1.0g中の絶乾質量W(g)と、乾燥後の質量W(g)から下式により水溶性成分量を求めた。ここで絶乾質量は、アミロペクチン含有物を105℃±2℃で乾燥し、30分間での質量変化が1%未満になったときの質量とした。
水溶性成分量(%)=(W×100/30)/W×100
【0038】
(ニッケルの含有量)
試料0.1gを溶解して得られた水溶液を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(SII製、SPS5520)して、ニッケルの含有量を算出した。なお、検量線は3点で作成した。
【0039】
(平均径・平均長さ測定)
試料からランダムにペレットを10個抽出し、その径および長さをノギスで測定した。それぞれの平均値を、平均径および平均長さとした。
【0040】
(圧壊強度)
試料の圧壊強度を測定した。また、その測定は以下の条件で行った。
測定装置:圧壊強度計(インストロン社製、型式3365)
測定回数:10回(1ペレットあたりの圧壊強度の平均値を圧壊強度とした)
測定方向:縦、横、長さ方向で最も薄い面(圧壊強度が最も低い面)を測定した。
1ペレットあたりの圧壊強度[N/mm]=圧壊強度[N]/ペレット長さ[mm]
【0041】
[実施例1]
(捏和物調製工程)
70℃の温水29.76kgに硫酸ニッケル(日本化学産業社製:工業用)25.39kgを溶解し、硫酸ニッケル水溶液を調製した。次に、70℃の温水26.22kgに、水ガラス(SiO換算濃度:24質量%)3.69kgと炭酸ナトリウム(トクヤマ社製:工業用)16.69kgとを添加し、水ガラス・炭酸ナトリウム混合水溶液を調製した。撹拌状態の前記硫酸ニッケル水溶液に、前記水ガラス・炭酸ナトリウム混合水溶液を80分かけて一定の速度で添加した後、120分間撹拌を継続した。その後、この溶液中に含まれる固形分を濾別し、乾燥することで、塩基性炭酸ニッケルとシリカの混合物を得た。この混合物10gを1000℃で1時間、空気中で焼成した後の質量を仕込量で除した値をドライ割合とし、その値は、0.745であった。また、この混合物のニッケル含有量は、混合物の質量にドライ割合を掛けた値(ドライ換算)を基準として、63質量%であった。
【0042】
この混合物1208gとイオン交換水900gとをニーダーで混合した。その後、シリカゾル(日揮触媒化成株式会社製:Cataloid Si-550、SiO換算濃度20.5質量%)488gを混合し、粘土状になるまで混錬した。この粘土状の混合物に、増粘剤として、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」ともいう、日本酢・ビ社製:工業用)15gおよびメチルセルロース(以下、「MC」ともいう、信越化学工業社製:食添用)10gを混合した後、更にアミロペクチン含有物として寒梅粉(日の本穀粉社製:国産米グレード、水溶性成分量2%、α化)30gを混合した。このまま90分混合を継続した後、可塑剤としてポリエチレンオキサイド(以下、「PEO」ともいう、明成化学社製:アルコックス)5gを添加し、イオン交換水を50g添加して成形用の捏和物を得た。この工程で用いたニーダーの動力は、最大で7Aであった。また、捏和物のアミロペクチン/ニッケル仕込質量比は、0.047であった。なお、寒梅粉は糯米を原料とした米粉であり、糯米のアミロペクチン含有量はほぼ100質量%であることが知られているため、寒梅粉の質量をアミロペクチンの質量として上記比を算出した。
【0043】
(押出成形工程)
1.8mmφのダイスがセットされたディスクペレッターを用い、前述の工程で得られた捏和物を押出成形した。得られた押出成形体を空気中、120℃で乾燥した。
【0044】
(焼成工程)
マッフル炉を用い、前述の工程で得られた押出成形体を380℃で3時間焼成し、ニッケル触媒を得た。得られたニッケル触媒について、前述の測定方法を用い、ニッケル含有量、平均直径、平均長さおよび圧壊強度を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例2]
寒梅粉を試薬のアミロペクチン(富士フィルム Wako純薬社製、品名:アミロペクチン、β)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、ニッケル触媒を調製した。得られたニッケル触媒について、実施例1と同様の方法で各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例3]
塩基性炭酸ニッケルを酸化ニッケルに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、ニッケル触媒を調製した。得られたニッケル触媒について、実施例1と同様の方法で各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
[比較例1]
寒梅粉をセルロース(関東化学社製、品名:セルロース)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、ニッケル触媒を調製した。得られたニッケル触媒について、実施例1と同様の方法で各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
[比較例2]
塩基性炭酸ニッケルとシリカの混合物をY型ゼオライト(平均粒子径2μm、ケイバン比5)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でゼオライト触媒を調製した。得られたゼオライト触媒について、実施例1と同様の方法で各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
[比較例3]
塩基性炭酸ニッケルとシリカの混合物をY型ゼオライト(平均粒子径2μm、ケイバン比5)に変更したこと以外は、実施例2と同様の方法でゼオライト触媒を調製した。得られたゼオライト触媒について、実施例1と同様の方法で各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】