(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】電池管理システム、電池管理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20240613BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20240613BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240613BHJP
H02J 7/02 20160101ALI20240613BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H01M10/48 A
H01M10/44 P
H02J7/00 Y
H02J7/00 302C
H02J7/02 F
H02J7/00 A
(21)【出願番号】P 2020200050
(22)【出願日】2020-12-02
(62)【分割の表示】P 2020551588の分割
【原出願日】2020-03-09
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】518134356
【氏名又は名称】InsuRTAP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】小杉 伸一郎
【審査官】大濱 伸也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-191500(JP,A)
【文献】特開2014-082120(JP,A)
【文献】特開2016-163400(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114147(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
H01M 10/42-10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がPCS(power conditioning system)、BMS(battery management system)及び電池を有する複数の電池システムの対象年月日おいて確保するSOH(state of health)の下限を記憶する記憶手段と、
前記電池システムごとに、単位累積充電量[Wh]又は単位累積放電量[Wh]あたりのSOHの減少量で示される劣化速度を算出する劣化速度算出手段と、
前記電池システム各々の基準タイミングのSOHを特定するSOH特定手段と、
前記電池システムごとに、前記対象年月日、前記SOHの下限、前記劣化速度、及び、前記基準タイミングのSOHに基づき、前記対象年月日におけるSOHが前記SOHの下限となる条件下で、前記基準タイミングから前記対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量を算出する状態算出手段と、
前記状態算出手段による算出結果に基づき、複数の前記電池システムに対して、充放電の優先度を決定する優先度決定手段と
、
を有する電池管理システム。
【請求項2】
前記記憶手段は、前記電池システムごとに前記対象年月日及び前記SOHの下限を記憶する請求項1に記載の電池管理システム。
【請求項3】
前記状態情報算出手段は、
前記電池システムごとに、所定の対象期間内の日数と、前記基準タイミングから前記対象年月日までの日数とに比例した割合で前記基準タイミングから前記対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量を按分することで、前記所定の対象期間内に利用可能な累積充電量又は累積放電量を算出し、
前記電池システムごとに、前記所定の対象期間内に利用可能な累積充電量又は累積放電量から、前記所定の対象期間内に利用した累積充電量又は累積放電量を差し引くことで、前記所定の対象期間内に利用可能な残りの累積充電量又は累積放電量を算出する請求項1又は2に記載の電池管理システム。
【請求項4】
前記優先度決定手段は、
前記所定の対象期間内に利用可能な残りの累積充電量又は累積放電量に基づき、前記充放電の優先度を決定する請求項3に記載の電池管理システム。
【請求項5】
前記劣化速度算出手段は、
過去の複数の測定タイミングにおけるSOHの測定値と、累積充電量又は累積放電量の測定値とに基づき、前記劣化速度を算出する請求項1から4のいずれか1項に記載の電池管理システム。
【請求項6】
前記状態算出手段は、
前記基準タイミングにおけるSOHと、前記劣化速度とに基づき、前記基準タイミングより後のメーカー保証期限においてSOHがメーカー保証値を下回る確率を算出する請求項1から5のいずれか1項に記載の電池管理システム。
【請求項7】
前記優先度決定手段は、前記確率に基づき、複数の前記電池システムに対して、充放電の優先度を決定する請求項6に記載の電池管理システム。
【請求項8】
前記確率を出力する出力手段をさらに有する請求項6又は7に記載の電池管理システム。
【請求項9】
コンピュータが、
各々がPCS、BMS及び電池を有する複数の電池システムの対象年月日おいて確保するSOHの下限を記憶し、
前記電池システムごとに、単位累積充電量[Wh]又は単位累積放電量[Wh]あたりのSOHの減少量で示される劣化速度を算出し、
前記電池システム各々の基準タイミングのSOHを特定し、
前記電池システムごとに、前記対象年月日、前記SOHの下限、前記劣化速度、及び、前記基準タイミングのSOHに基づき、前記対象年月日におけるSOHが前記SOHの下限となる条件下で、前記基準タイミングから前記対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量を算出し、
当該算出結果に基づき、複数の前記電池システムに対して、充放電の優先度を決
定する電池管理方法。
【請求項10】
コンピュータを、
各々がPCS、BMS及び電池を有する複数の電池システムの対象年月日おいて確保するSOHの下限を記憶する記憶手段、
前記電池システムごとに、単位累積充電量[Wh]又は単位累積放電量[Wh]あたりのSOHの減少量で示される劣化速度を算出する劣化速度算出手段、
前記電池システム各々の基準タイミングのSOHを特定するSOH特定手段、
前記電池システムごとに、前記対象年月日、前記SOHの下限、前記劣化速度、及び、前記基準タイミングのSOHに基づき、前記対象年月日におけるSOHが前記SOHの下限となる条件下で、前記基準タイミングから前記対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量を算出する状態算出手段、
前記状態算出手段による算出結果に基づき、複数の前記電池システムに対して、充放電の優先度を決定する優先度決定手段
、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理装置、処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電力需要家が保持する電池システムや発電装置を制御する技術を開示している。非特許文献1は、電池の将来の性能を予測する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】江澤徹、他1名、"EV搭載電池の将来性能予測技術"、[online]、東芝レビューVol.69 No.2 (2014)、[令和2年2月13日検索]、インターネット<URL: https://www.toshiba.co.jp/tech/review/2014/02/69_02pdf/f03.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電池システムが普及しつつある。そして、複数の電池システムを所有し、それらを統合的に制御して使用するオーナーも存在する。
【0006】
ところで、複数の電池システムを統合的に制御して使用する方法として、複数の電池システムを同じように使用する方法が考えられる。すなわち、複数の電池システムに同電力量[Wh]の充放電を実行させる。この場合、
図1に示すように、複数の電池システムの使用マイル(累積充放電電力量[Wh])は同じように増加していく。
【0007】
しかし、複数の電池システムを同じように使用する方法の場合、次のような問題が発生する。
【0008】
前提として、複数の電池システムの劣化速度はばらつく。当然、メーカーの違い、型番の違い、製造時期の違い、ロットの違い、設置環境の違い等に応じてばらつくし、たとえこれらの条件が完全に一致していたとしても、任意の個体差に基づきばらつき得る。このような劣化速度の違いが生じ得るにも関わらず、複数の電池システムを同じように使用すると、
図1に示すように、複数の電池システムの劣化具合はばらつき、ばらつきの程度は年々大きくなっていく。
図1では、SOH(state of health))の値により劣化具合を示している。
【0009】
劣化があるレベル(安全使用限界レベル)に達した電池システムは、安全性を考慮して、使用できなくなる。
図1の例のように複数の電池システムの劣化速度がばらつくと、一部の電池システムが他の電池システムよりも先に安全使用限界レベル(
図1の場合、メーカーが定める安全使用限界SOH)に達し、使用できなくなる。
【0010】
このようにオーナーが所有する複数の電池システムにおいて、一部の電池システムの劣化が他の電池システムよりも進行し、使用できなくなってしまうと、複数の電池システム全体で充放電できる電力[W]や電力量[Wh]が小さくなる。その結果、オーナーが所有する複数の電池システム全体での商品価値が低くなってしまう。
【0011】
本発明の課題は、統合的に制御して使用される複数の電池システム全体での商品価値の低下を抑制する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、
各々がPCS(power conditioning system)、BMS(battery management system)及び電池を有する複数の電池システムの対象年月日おいて確保するSOH(state of health)の下限を記憶する記憶手段と、
前記電池システムごとに、単位累積充電量[Wh]又は単位累積放電量[Wh]あたりのSOHの減少量で示される劣化速度を算出する劣化速度算出手段と、
前記電池システム各々の基準タイミングのSOHを特定するSOH特定手段と、
前記電池システムごとに、前記対象年月日、前記SOHの下限、前記劣化速度、及び、前記基準タイミングのSOHに基づき、前記対象年月日におけるSOHが前記SOHの下限となる条件下で、前記基準タイミングから前記対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量を算出する状態算出手段と、
前記状態算出手段による算出結果に基づき、複数の前記電池システムに対して、充放電の優先度を決定する優先度決定手段と、
前記充放電の優先度に基づき、複数の前記電池システムの充放電を制御する充放電制御手段と、
を有する電池管理システムが提供される。
【0013】
また、本発明によれば、
コンピュータが、
各々がPCS、BMS及び電池を有する複数の電池システムの対象年月日おいて確保するSOHの下限を記憶し、
前記電池システムごとに、単位累積充電量[Wh]又は単位累積放電量[Wh]あたりのSOHの減少量で示される劣化速度を算出し、
前記電池システム各々の基準タイミングのSOHを特定し、
前記電池システムごとに、前記対象年月日、前記SOHの下限、前記劣化速度、及び、前記基準タイミングのSOHに基づき、前記対象年月日におけるSOHが前記SOHの下限となる条件下で、前記基準タイミングから前記対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量を算出し、
当該算出結果に基づき、複数の前記電池システムに対して、充放電の優先度を決定し、
前記充放電の優先度に基づき、複数の前記電池システムの充放電を制御する電池管理方法が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、
コンピュータを、
各々がPCS、BMS及び電池を有する複数の電池システムの対象年月日おいて確保するSOHの下限を記憶する記憶手段、
前記電池システムごとに、単位累積充電量[Wh]又は単位累積放電量[Wh]あたりのSOHの減少量で示される劣化速度を算出する劣化速度算出手段、
前記電池システム各々の基準タイミングのSOHを特定するSOH特定手段、
前記電池システムごとに、前記対象年月日、前記SOHの下限、前記劣化速度、及び、前記基準タイミングのSOHに基づき、前記対象年月日におけるSOHが前記SOHの下限となる条件下で、前記基準タイミングから前記対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量を算出する状態算出手段、
前記状態算出手段による算出結果に基づき、複数の前記電池システムに対して、充放電の優先度を決定する優先度決定手段、
前記充放電の優先度に基づき、複数の前記電池システムの充放電を制御する充放電制御手段、
として機能させるプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、統合的に制御して使用される複数の電池システム全体での商品価値の低下を抑制する技術が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本実施形態の作用効果を説明するための図である。
【
図3】本実施形態の処理システムの全体像を説明するための図である。
【
図4】本実施形態の電池管理システムのハードウエア構成の一例を示す図である。
【
図5】本実施形態の電池管理システムの機能ブロック図の一例である。
【
図6】本実施形態の処理システムの処理の流れの一例を示すシーケンス図である。
【
図7】本実施形態の電池管理システムの処理を説明するための図である。
【
図8】本実施形態の処理システムの処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図9】本実施形態の処理システムの処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<<第1の実施形態>>
「概要」
本実施形態の電池管理システムは、統合的に制御して使用される複数の電池システム各々の劣化速度を算出する。そして、電池管理システムは、算出した劣化速度に基づき複数の電池システムに対して充放電の優先度を決定し、当該優先度に基づき複数の電池システムの充放電を制御する。
【0018】
図2に示すように、このような電池管理システムに制御される複数の電池システムの使用マイル(累積充放電電力量[Wh])の変化態様は、互いに異なり得る。具体的には、優先度が高い電池システムは、優先度が低い電池システムよりも、累積充放電電力量(使用マイル)の増加速度が速くなる。
【0019】
図2に示す例の場合、当初のSOHの劣化速度は、遅い方から順に、001の電池システム、002の電池システム、003の電池システムとなっている。この場合、電池管理システムは、001の電池システムに最も高い優先度を付し、次に高い優先度を002の電池システムに付し、003の電池システムに最も低い優先度を付す。結果、使用マイルの増加速度は、速い方から順に、001の電池システム、002の電池システム、003の電池システムとなる。
【0020】
このような制御の結果、複数の電池システムの劣化具合(SOH)のばらつきは小さくなっていく。そして、複数の電池システムの一部が他の電池システムよりも先に安全使用限界レベル(
図2の場合、SOHの下限)に達し、使用できなくなる不都合が抑制される。
【0021】
「処理システムの全体像」
図3を用いて、電池管理システム10を含む処理システムの全体像を説明する。
【0022】
統合的に制御して使用される複数の電池システム30各々は、PCS31、EMS(energy management system)32、BMS33、電池34、エッジ35を有する。
【0023】
PCS31は、直流電力/交流電力の変換を行う。電池34は、電力を貯蔵する。電池34は、例えば、エネルギーを貯めるセルスタックや、セル温度及びセル電圧等を監視するバッテリモニタ等を含んで構成される。電池34は、充放電を繰り返し行うことができる二次電池であり、その種類は特段制限されない。BMS33は、電池34の状態を監視する。エッジ35は、電池34に関する各種測定データ(温度、電流、SOC(state of charge)等)を取得し、電池管理システム10に送信する。EMS32は、情報通信技術を用いて電力需要家内の電力の使用状況を把握したり、電池34の充放電を制御したりする。
【0024】
電力取引メータ40は、各種測定を行い、VPP管理システム20に測定結果を送信する。例えば、電力取引メータ40は、電池システム30の充電電力[W]や放電電力[W]、累積充電電力量[Wh]、累積放電電力量[Wh]等を測定する。
【0025】
VPP管理システム20は、複数の電池システム30のオーナーが管理するシステムである。VPP管理システム20は、複数の電池システム30や電力取引メータ40などから情報を取得し、電池管理システム10に送信する処理などを行う。
【0026】
電池管理システム10は、複数の電池システム30及びVPP管理システム20から取得した情報に基づき、複数の電池システム30各々の劣化速度を算出する。そして、電池管理システム10は、算出した劣化速度に基づき複数の電池システム30に対して充放電の優先度を決定し、当該優先度に基づき複数の電池システムの充放電を制御する。制御内容は、電池管理システム10から各電池システム30に送信されてもよいし、電池管理システム10からVPP管理システム20経由で各電池システム30に送信されてもよい。
【0027】
データベース50は、複数の電池システム30に関する各種情報を記憶する。
【0028】
ここで、処理システムの全体像の変形例を説明する。上記例では、電池管理システム10は、処理に必要な情報の一部を電池システム30のエッジ35から受信し、残りをVPP管理システム20から受信した。変形例として、電池管理システム10は、エッジ35からの情報を、VPP管理システム20経由で受信してもよい。
【0029】
「電池管理システム10の構成」
次に、電池管理システム10の構成を詳細に説明する。まず、電池管理システム10のハードウエア構成の一例を説明する。電池管理システム10が備える各機能部は、任意のコンピュータのCPU(Central Processing Unit)、メモリ、メモリにロードされるプログラム、そのプログラムを格納するハードディスク等の記憶ユニット(あらかじめ装置を出荷する段階から格納されているプログラムのほか、CD(Compact Disc)等の記憶媒体やインターネット上のサーバ等からダウンロードされたプログラムをも格納できる)、ネットワーク接続用インターフェイスを中心にハードウエアとソフトウエアの任意の組合せによって実現される。そして、その実現方法、装置にはいろいろな変形例があることは、当業者には理解されるところである。
【0030】
図4は、電池管理システム10のハードウエア構成を例示するブロック図である。
図4に示すように、電池管理システム10は、プロセッサ1A、メモリ2A、入出力インターフェイス3A、周辺回路4A、バス5Aを有する。周辺回路4Aには、様々なモジュールが含まれる。電池管理システム10は周辺回路4Aを有さなくてもよい。なお、電池管理システム10は物理的及び/又は論理的に分かれた複数の装置で構成されてもよいし、物理的及び/又は論理的に一体となった1つの装置で構成されてもよい。電池管理システム10が物理的及び/又は論理的に分かれた複数の装置で構成される場合、複数の装置各々が上記ハードウエア構成を備えることができる。
【0031】
バス5Aは、プロセッサ1A、メモリ2A、周辺回路4A及び入出力インターフェイス3Aが相互にデータを送受信するためのデータ伝送路である。プロセッサ1Aは、例えばCPU、GPU(Graphics Processing Unit)などの演算処理装置である。メモリ2Aは、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などのメモリである。入出力インターフェイス3Aは、入力装置、外部装置、外部サーバ、外部センサー、カメラ等から情報を取得するためのインターフェイスや、出力装置、外部装置、外部サーバ等に情報を出力するためのインターフェイスなどを含む。入力装置は、例えばキーボード、マウス、マイク、物理ボタン、タッチパネル等である。出力装置は、例えばディスプレイ、スピーカ、プリンター、メーラ等である。プロセッサ1Aは、各モジュールに指令を出し、それらの演算結果をもとに演算を行うことができる。
【0032】
次に、電池管理システム10の機能構成を説明する。
図5に、電池管理システム10の機能ブロック図の一例を示す。図示するように、電池管理システム10は、記憶部11と、劣化速度算出部12と、SOH特定部13と、状態算出部14と、優先度決定部15と、充放電制御部16とを有する。以下、
図6のシーケンス図を用いて、電池管理システム10の処理の流れとともに、各機能部の機能構成を説明する。
【0033】
まず、複数の電池システム30のオーナーは、VPP管理システム20を操作して、複数の電池システム30各々の電池システム情報を電池管理システム10に登録する操作を行う。当該操作に応じて、VPP管理システム20は、電池システム情報を電池管理システム10に送信する(S10)。そして、電池管理システム10は、受信した電池システム情報を記憶部11に記憶させる(S11)。
【0034】
なお、オーナーは、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、パーソナルコンピュータ等のその他の通信装置を操作して、複数の電池システム30各々の電池システム情報を電池管理システム10に登録する処理を行ってもよい。
【0035】
ここで登録する電池システム情報は、電池システム30の劣化速度に影響し得る情報であり、例えば、電池システム30のメーカー、型番、製造時期、ロット、設置環境、電池材料、性能情報(電池エネルギー容量、定格出力等)、寿命性能情報等が例示されるが、これらに限定されない。
【0036】
また、オーナーは、VPP管理システム20を操作して、電池システム30ごとに、対象年月日、当該対象年月日おいて確保するSOHの下限、及び、電池システム30の運転パターンを入力し、登録する操作を行う。当該操作に応じて、VPP管理システム20は、これらの情報を電池管理システム10に送信する(S12)。電池管理システム10は、受信した情報を記憶部11に記憶させる(S13)。
【0037】
対象年月日及びSOHの下限は、オーナーが任意に決定する。運転パターンは、電池システム30の充放電の仕方を示す。例えば、予め複数の運転パターンが用意されており、オーナーはその中から1つを選択してもよい。運転パターンとしては、以下の内容が例示されるが、これに限定されない。
【0038】
<運転パターン1>
昼間に太陽光で発電された電力を充電し、夜間に放電する。1日1回充放電を行う。
【0039】
<運転パターン2>
電力グリッドの周波数調整等の目的で充放電する。典型的には、電池が最も耐久性のあるSOC範囲(例:20%-80%)で充放電を繰り返す。
【0040】
<運転パターン3>
電力需要家のピーク電力をカットする目的で充放電する。この場合、電力需要家の電力使用量が多い昼間の時間帯に放電し、他の時間帯に充電する。典型的には、電池が最も耐久性のあるSOC範囲(例:20%-80%)で充放電を繰り返す。
【0041】
次に、劣化速度算出部12は、電池システム30ごとに、各種計算を行う(S14)。以下、劣化速度算出部12が行う計算の一例を説明する。
【0042】
<劣化速度の算出>
例えば、劣化速度算出部12は、電池システム30ごとに、単位累積充電量[Wh]又は単位累積放電量[Wh]あたりのSOHの減少量で示される劣化速度[%/Wh]を算出する。すなわち、当該劣化速度は、電池システム30が単位累積充電量[Wh]又は単位累積放電量[Wh]分の充電又は放電を行った時のSOHの減少量を示す。
【0043】
なお、以下で説明するが、劣化速度算出部12は、過去の複数の測定タイミングにおけるSOHの測定値と、累積充電量又は累積放電量の測定値とに基づき、劣化速度を算出することができる。しかし、S10乃至S13の登録直後は、劣化速度を算出するのに十分な量のデータ(測定値)が存在しない。
【0044】
このため、劣化速度を算出するのに十分な量のデータが得られるまで(例:2年位)は、劣化速度算出部12は、電池システム30のメーカー、型番、製造時期、ロット、設置環境、電池材料、性能情報(電池エネルギー容量、定格出力等)、寿命性能情報等の電池システム30各々の固有の情報を用いて、各電池システム30の劣化速度を推定する。例えば、これらのパラメータの値を入力すると劣化速度が算出される演算式や推定モデル(機械学習の結果)が予め用意されてもよい。そして、劣化速度算出部12は、それらに基づき、電池システム30毎に劣化速度を推定してもよい。この場合、上記パラメータの値が完全に一致する電池システム30の劣化速度は、同じ値となる。
【0045】
<基準タイミングから対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量(目標使用マイル)の算出>
状態算出部14は、電池システム30ごとに、対象年月日、SOHの下限、劣化速度、及び、基準タイミングのSOHに基づき、対象年月日におけるSOHが当該SOHの下限となる条件下で、基準タイミングから対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量を算出する。
【0046】
「基準タイミングから対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量」は、基準タイミングから対象年月日までに電池システム30に充電することが可能な電力量の累積値、又は、基準タイミングから対象年月日までに電池システム30から放電することが可能な電力量の累積値を意味する。
【0047】
基準タイミングのSOHは、SOH特定部13が特定する。基準タイミングは、S14の計算処理を実行するタイミングである。SOH特定部13は、S14の計算処理を実行するタイミング又はその周辺のタイミングで、複数の電池システム30各々からその時点のSOHを示す情報を取得する。電池システム30がSOHを測定する方法は広く知られた技術であるので、ここでの説明は省略する。
【0048】
状態算出部14は、基準タイミングのSOHからSOHの下限を引いた差を、劣化速度で割ることで、基準タイミングから対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量を算出する。例えば、基準タイミングのSOHが95%、SOHの下限が70%、劣化速度がX[%/Wh]である場合、基準タイミングから対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量は25/X[Wh]となる。なお、累積受電量と累積放電量は、基本的には同じ値となる。
【0049】
<所定の対象期間内に利用可能な累積充電量又は累積放電量(期間目標マイル)の算出>
状態算出部14は、電池システム30ごとに、所定の対象期間内の日数と、基準タイミングから対象年月日までの日数とに比例した割合で基準タイミングから対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量を按分することで、所定の対象期間内に利用可能な累積充電量又は累積放電量を算出する。
【0050】
まず、基準タイミングから対象年月日までの期間は、複数の子期間に分割される。例えば、1月1日から12月31日までの1年間を1つの子期間として、基準タイミングから対象年月日までの期間を1年単位で複数の子期間に分割してもよい。なお、ここで例示した子期間の分割の仕方は一例であり、これに限定されない。例えば、1か月単位又は1週間単位で、基準タイミングから対象年月日までの期間を複数の子期間に分割してもよい。
【0051】
そして、状態算出部14は、基準タイミングから対象年月日までの期間に含まれる複数の子期間各々を対象期間として、各対象期間内に利用可能な累積充電量又は累積放電量を算出する。
【0052】
例えば、基準タイミングが2020年1月1日であり、対象年月日が2024年12月31日であり、基準タイミングから対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量が、M[Wh]である場合、各対象期間(各子期間)内に利用可能な累積充電量又は累積放電量は、N/5[Wh]となる。
【0053】
<所定の対象期間内に利用可能な残りの累積充電量又は累積放電量(期間目標マイル-期間使用済みマイル)の算出>
状態算出部14は、電池システム30ごとに、所定の対象期間内に利用可能な累積充電量又は累積放電量から、所定の対象期間内に利用した累積充電量又は累積放電量を差し引くことで、所定の対象期間内に利用可能な残りの累積充電量又は累積放電量を算出する。
【0054】
「所定の対象期間内に利用した累積充電量又は累積放電量」は、所定の対象期間内に実際に充電した電力量の累積値、又は、所定の対象期間内に実際に放電した電力量の累積値である。
【0055】
<充放電の優先度の決定>
優先度決定部15は、状態算出部14による算出結果に基づき、複数の電池システム30に対して、充放電の優先度を決定する。
【0056】
例えば、優先度決定部15は、所定の対象期間内に利用可能な残りの累積充電量又は累積放電量が多い電池システム30から順に、より高い優先度を決定してもよい。この場合の「所定の対象期間」は、優先度を決定する時点を含む対象期間である。このように優先度を決定した場合、所定の対象期間内に利用可能な残りの累積充電量又は累積放電量が多い電池システム30ほど、優先的に充放電されることとなる。
【0057】
その他、優先度決定部15は、所定の対象期間内に利用可能な残りの累積充電量又は累積放電量が基準値以上の電池システム30群に対し、所定の対象期間内に利用可能な残りの累積充電量又は累積放電量が基準値未満の電池システム30群よりも高い優先度を決定してもよい。そして、優先度決定部15は、各電池システム30群に含まれる複数の電池システム30に対し、劣化速度が遅い方から順に、より高い優先度を決定してもよい。この場合の「所定の対象期間」も、優先度を決定する時点を含む対象期間である。
【0058】
その他、優先度決定部15は、基準タイミングから対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量が多い順に、複数の電池システム30の充放電の優先度を決定してもよい。この場合、基準タイミングから対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量が多い電池システム30ほど、優先的に充放電されることとなる。
【0059】
その他、優先度決定部15は、基準タイミングから対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量が基準値以上の電池システム30群に対し、基準タイミングから対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量が基準値未満の電池システム30群よりも高い優先度を決定してもよい。そして、優先度決定部15は、各電池システム30群に含まれる複数の電池システム30に対し、劣化速度が遅い方から順に、より高い優先度を決定してもよい。
【0060】
図6に戻り、電池管理システム10は、S14の計算結果の少なくとも一部を、VPP管理システム20に送信する(S15)。VPP管理システム20は、S15で受信した情報に基づき、充放電する電力量を複数の電池システム30に分配し(S16)、その分配の結果を示す充放電指令をEMS32に送信する(S17)。
【0061】
すなわち、VPP管理システム20は、まず、複数の電池システム30で充電又は放電すべき電力量[Wh]を示す情報を取得する。当該情報の取得手段は、特段制限されない。そして、VPP管理システム20は、当該充電又は放電すべき電力量[Wh]を、S15で受信した情報に基づき、複数の電池システム30に分配する。
【0062】
VPP管理システム20は、優先度が相対的に高い電池システム30に、優先度が相対的に低い電池システム30よりも、多くの電力量[Wh]を充放電させるように分配してもよい。
【0063】
また、VPP管理システム20は、優先度が相対的に高い電池システム30から順に、各電池システム30が充放電可能な電力量の上限を、各電池システム30から充放電する電力量として分配してもよい。
【0064】
また、VPP管理システム20は、所定の対象期間内に利用可能な残りの累積充電量又は累積放電量が残っていない(0以下)電池システム30には、充放電を実行させなくてもよい。すなわち、VPP管理システム20は、このような電池システム30には充放電する電力量を分配しなくてもよい。
【0065】
また、VPP管理システム20は、基準タイミングから対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量が0である(基準タイミングのSOHがSOHの下限に達している)電池システム30には、充放電を実行させなくてもよい。すなわち、VPP管理システム20は、このような電池システム30には充放電する電力量を分配しなくてもよい。
【0066】
EMS32は、VPP管理システム20からの指令に基づき、電池34の充放電を制御する。BMS33は、電池34の状態を監視し、エッジ35を介して、SOH、累積充放電量、電池温度、電流値、SOC等の測定値を電池管理システム10に送信する(S18、S19)。SOHの測定タイミングや、BMS33から電池管理システム10に測定データを送信するタイミングは設計的事項である。
【0067】
なお、SOH等の取得手法はBMS33からの取得に限定されない。BMS33がSOHを出力しない場合には、BMS33が測定したセル電圧、電流、温度データの履歴を用いて電池管理システム10等の他の装置で計算することもできる。当該前提は、以下のすべての実施形態において同様である。
【0068】
電池管理システム10は、受信した測定データを記憶部11に記憶させる。電池管理システム10は、S18及びS19で受信した情報に基づき、電池システム30ごとに、使用開始からの累積充放電量(Wh)や、所定の対象期間内における累積充放電量(Wh)等を管理することができる。なお、電池管理システム10は、上記所定の対象期間(子期間)が終了するごとに累積充放電量(Wh)をリセットすることで、所定の対象期間(子期間)内における累積充放電量(Wh)を管理してもよい。
【0069】
その後、電池管理システム10は、S14乃至S19の処理を繰り返し実行する。すなわち、S14における各種計算は繰り返し実行され、充放電の優先度は最新の状態に基づき随時更新される。
【0070】
なお、記憶部11に測定データが蓄積されると、劣化速度算出部12は、各電池システム30の過去の複数の測定タイミングにおけるSOHの測定値と、累積充電量又は累積放電量の測定値とに基づき、各電池システム30の劣化速度を算出する。
【0071】
例えば、劣化速度算出部12は、ある測定タイミングからその直後の測定タイミングまでの期間におけるSOHの減少量と、その期間における累積充電量又は累積放電量の変化量とに基づき、劣化速度を算出する。すなわち、劣化速度算出部12は、時間的に前後する2つの測定タイミング間の劣化速度を算出する。そして、劣化速度算出部12は、その算出結果の平均値、最大値、最小値、最頻値、中央値等の統計値を、電池システム30の劣化速度として算出してもよい。又は、状態算出部14は、最新の2つの測定タイミング間の劣化速度を、電池システム30の劣化速度として算出してもよい。また、状態算出部14は、上記算出結果の標準偏差を算出してもよい。
【0072】
そして、状態算出部14は、このようにして算出した電池システム30の劣化速度に基づき、基準タイミングから対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量や、所定の対象期間内に利用可能な累積充電量又は累積放電量や、所定の対象期間内に利用可能な残りの累積充電量又は累積放電量や、充放電の優先度等を算出する。
【0073】
劣化速度の算出方法を、各電池システム30の過去の測定データに基づき算出する方法に切り替えるタイミングは、例えば、上記標準偏差の値が閾値以下になったタイミングであってもよいし、累積充電量又は累積放電量が閾値以上になったタイミングであってもよいし、閾値以上の回数分の測定タイミングの測定データが記憶部11に記憶されたタイミングであってもよいし、電池システム30の使用開始タイミングからの経過時間が閾値を超えたタイミングであってもよいし、その他であってもよい。このようなタイミングとした場合、十分に信頼度の高い劣化速度を算出できるだけの測定データが集まったタイミングで、劣化速度の算出方法を切り替えることができる。
【0074】
また、VPP管理システム20は、S15で受信した計算結果の少なくとも一部を、ディスプレイ等の出力装置を介して出力してもよい。そして、VPP管理システム20は、複数の電池システム30の充放電の優先度を変更する入力を受付けてもよい。このようにすると、複数の電池システム30のオーナーが、複数の電池システム30の状況を把握し、自身で複数の電池システム30の充放電の優先度を決定することができる。VPP管理システム20は、受付けた優先度の変更内容を電池管理システム10に送信する。そして、VPP管理システム20は、変更後の優先度に基づき、複数の電池システム30の充放電を制御する。
【0075】
「作用効果」
以上、本実施形態の電池管理システム10によれば、統合的に制御して使用される複数の電池システム30各々の劣化速度を算出し、算出した劣化速度に基づき複数の電池システム30に対して充放電の優先度を決定し、当該優先度に基づき複数の電池システム30の充放電を制御することができる。
【0076】
当該制御により、劣化速度が相対的に遅い電池システム30の充放電が促進され、劣化速度が相対的に速い電池システム30の充放電は抑制される。結果、一部の電池システム30が他の電池システム30よりも早く劣化が進行する不都合を抑制できる。そして、複数の電池システムの一部が他の電池システムよりも先に安全使用限界レベルに達し、使用できなくなる不都合が抑制される。
【0077】
また、当該制御により、対象年月日におけるSOHが、予め設定したSOHの下限を下回る電池システム30が現れることを抑制できる。
【0078】
また、当該制御の場合、複数の電池システム30全体での使用可能容量[Wh]の劣化は、平均的劣化曲線に従うので計画通りの事業運営を行うことができる。
【0079】
また、電池管理システム10によれば、オーナーは、複数の電池システム30各々の状態を各種値に基づき把握できるので、適切に利用計画を立てることができる。例えば、オーナーは、目標使用マイル(基準タイミングから対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量)が大のグループを選定し、劣化目標(SOHの下限)を高く設定して売却利益を狙うなどの事業運営を容易に検討することができる。
【0080】
また、電池システム30毎に各種値が算出され、オーナーに提供されるので、オーナーはその値に基づき複数の電池システム30各々の状態を把握し、適切な優先度を設定することができる。
【0081】
<<第2の実施形態>>
本実施形態の電池システム30には、メーカー保証が付与される。具体的には、メーカー保証期限より前にSOHがメーカー保証値を下回る場合、原則、メーカーは電池34を交換する等のSOHを回復するためのサービスを提供することとなる。例外は、電池システム30の使用方法が条件を満たさない場合などである。
【0082】
メーカー保証を受けた電池システム30は、SOHが回復し、商品価値が高まる。複数の電池システム30全体での商品価値の低下を抑制する観点から、メーカー保証を受けられる電池システム30は、積極的にメーカー保証を受けて、その商品価値を高めるのが好ましい。
【0083】
そこで、本実施形態では、メーカー保証期限より前にSOHがメーカー保証値を下回る確率が高い電池システム30ほど優先的に充放電を行わせ、メーカー保証を受けられるようにする。以下、詳細に説明する。
【0084】
本実施形態の状態算出部14は、基準タイミングにおけるSOHと、基準タイミングで算出した劣化速度とに基づき、基準タイミングより後のメーカー保証期限においてSOHがメーカー保証値を下回る確率(以下、「当該確率」という場合がある)を算出する。
【0085】
メーカー保証期限は、例えば、累積充電電力量や累積放電電力量等で定められる(例:10M[Wh])。
【0086】
ここで、
図7を用いて、当該確率を算出する方法の一例を説明する。例えば、状態算出部14は、ある測定タイミングからその直後の測定タイミングまでの期間におけるSOHの減少量と、その期間における累積充電量又は累積放電量の変化量とに基づき、劣化速度を算出する。すなわち、状態算出部14は、時間的に前後する2つの測定タイミング間の劣化速度を算出する。そして、状態算出部14は、その算出結果の平均値、及び、標準偏差を算出する。
【0087】
そして、状態算出部14は、当該確率を算出するタイミング(基準タイミング)におけるSOHと、算出した劣化速度の平均値及び標準偏差とに基づき、累積充電電力量又は累積放電電力量がメーカー保証期限に達したタイミングにおけるSOHの確率密度分布を算出する。そして、状態算出部14は、当該確率密度分布に基づき、メーカー保証期限においてSOHがメーカー保証値を下回る確率を算出する。
【0088】
その他、状態算出部14は、非特許文献1に開示されている方法で、所定のタイミング(メーカー保証期限)における電池システム30の性能の存在範囲を確率分布で表すことで、メーカー保証期限においてSOHがメーカー保証値を下回る確率を算出してもよい。
【0089】
優先度決定部15は、当該確率に基づき、複数の電池システム30に対して充放電の優先度を決定することができる。
【0090】
例えば、優先度決定部15は、当該確率が閾値以上である電池システム30に対し、当該確率が閾値未満である電池システム30より高い優先度を決定してもよい。このように優先度を決定した場合、メーカー保証期限までにSOHがメーカー保証値を下回る確率が高い電池システム30ほど、優先的に充放電されることとなる。
【0091】
また、電池管理システム10は、当該確率を出力する出力手段を有してもよい。出力手段は、当該確率をVPP管理システム20に送信する。VPP管理システム20は、当該確率を、ディスプレイ等の出力装置を介して出力する。そして、VPP管理システム20は、複数の電池システム30の充放電の優先度を変更する入力を受付けてもよい。このようにすると、複数の電池システム30のオーナーが、複数の電池システム30各々の上記確率に基づき、自身で複数の電池システム30の充放電の優先度を決定することができる。VPP管理システム20は、受付けた優先度の変更内容を電池管理システム10に送信する。そして、VPP管理システム20は、変更後の優先度に基づき、複数の電池システム30の充放電を制御する。
【0092】
電池管理システム10のその他の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0093】
以上説明した本実施形態の電池管理システム10によれば、第1の実施形態と同様の作用効果が実現される。また、電池管理システム10によれば、メーカー保証を受けられる確率が高い電池システム30に優先的に充放電させることで、メーカー保証を受けるための条件を満たすように導くことができる。結果、メーカー保証を受けることにより、電池システム30の商品価値を高めることができる。
【0094】
<<第3の実施形態>>
複数の電池システム30は、オーナーが決めた任意の運転パターン(第1の実施形態参照)で充放電するが、オーナーがその運転パターンを途中で変更する場合がある。運転パターンが変わると、電池システム30の劣化速度も変わる。このため、運転パターン変更後に、変更前に収集した測定データに基づき算出された劣化速度をそのまま使用して第1の実施形態で説明した各種計算を行うことは不適切である。本実施形態の電池管理システム10は、当該不都合を改善する手段を有する。以下、詳細に説明する。
【0095】
劣化速度算出部12は、「運転パターン変更前に収集した測定データに基づき算出された劣化具合」、「各種パラメータに基づくシミュレーションで算出された運転パターン変更前の劣化具合」、「各種パラメータに基づくシミュレーションで算出された運転パターン変更前の劣化具合」に基づき、運転パターン変更後の劣化速度を精度良く算出することができる。以下、
図8及び
図9のフローチャートを用いて、処理の一例を説明する。
【0096】
まず、
図8に示すフローチャートに基づき、実際の劣化速度とシミュレーションで算出した劣化速度との差分を補正するための補正係数Rを求める処理の流れを説明する。
【0097】
S20乃至S25は、運転パターン変更前の劣化速度をシミュレーションで算出する処理の流れを示す。S20では、初期値を設定する。nは、測定タイミングを示す。n=0は、電池システム30の使用を開始したタイミングである。SOHc(n)は、測定タイミングnにおけるSOHのシミュレーション結果を示す。SOHc(0)=100%と定義される。
【0098】
S21では、nを「1」カウントアップし、そのタイミングにおける各種パラメータの実測値を、運転パターン変更前に収集された測定データの中から取得する。そして、S22では、S21で取得されたパラメータの値と、予め電池システム30ごとに用意された活性化エネルギーEa及び頻度因子Aの表とに基づき、その測定タイミングにおける活性化エネルギーEa及び頻度因子Aを求める。なお、表では、電流と、SOCと、活性化エネルギーEa及び頻度因子Aとの関係を示すが、パラメータは電流及びSOC以外としてもよい。
【0099】
S23では、S22で求めた活性化エネルギーEa及び頻度因子Aや、S21で取得された各種パラメータの値に基づき、そのタイミングにおける劣化反応の速度定数kを求める。
【0100】
S24では、S23で求めた速度定数k、及び、その直前の測定タイミングにおけるSOHc(n-1)に基づき、その測定タイミングにおけるSOHc(n)を求める。
【0101】
nの値が運転パターン変更時の測定タイミングに到達していなければ(S25のNo)、S21に戻り、同様の処理を繰り返す。一方、nの値が運転パターン変更時の測定タイミングに到達していれば(S25のYes)、S26に進む。
【0102】
S26では、上記処理で求めた運転パターン変更時のSOHのシミュレーション結果であるSOHc(n)と、運転パターン変更時のSOHの実測値であるSOHmとの比として、補正係数Rを算出する。また、S26では、SOHc(n)と、運転パターン変更時の使用マイル(累積充放電電力量[Wh])の実績値(Milem(n))とに基づき、劣化速度V1を求めることができる。さらに、S26では、SOHmと、運転パターン変更時の使用マイル(累積充放電電力量[Wh])の実績値(Milem(n))とに基づき、劣化速度V2を求めることができる。なお、補正係数Rは、各電池システム30に固有の値であり、運転パターンや測定タイミング等に関わらず固定値とすることができる。
【0103】
次に、
図9に示すフローチャートに基づき、
図8に示す処理で求めた補正係数Rに基づき、運転パターン変更前及び運転パターン変更後の各測定タイミングにおけるSOHc(n)をシミュレーションで求める処理の流れを説明する。
【0104】
S30では、初期値を設定する。nは、測定タイミングを示す。n=0は、電池システム30の使用を開始したタイミングである。SOHc(n)は、測定タイミングnにおけるSOHのシミュレーション結果を示す。SOHc(0)=100%と定義される。
【0105】
S31では、nを「1」カウントアップし、そのタイミングにおける各種パラメータの実測値を、運転パターン変更前に収集された測定データの中から取得する。そして、S32では、S31で取得されたパラメータの値と、予め電池システム30ごとに用意された活性化エネルギーEa及び頻度因子Aの表とに基づき、その測定タイミングにおける活性化エネルギーEa及び頻度因子Aを求める。なお、表では、電流と、SOCと、活性化エネルギーEa及び頻度因子Aとの関係を示すが、パラメータは電流及びSOC以外としてもよい。
【0106】
S33では、S32で求めた活性化エネルギーEa及び頻度因子Aや、S31で取得された各種パラメータの値に基づき、そのタイミングにおける劣化反応の速度定数kを求める。
【0107】
S34では、S33で求めた速度定数k、及び、その直前の測定タイミングにおけるSOHc(n-1)に基づき、その測定タイミングにおけるSOHc(n)を求める。そして、求めたSOHc(n)に補正係数Rをかけてシミュレーション結果を補正し、補正後のシミュレーション結果であるSOHe(n)を求める。そして、その結果をデータベースに記録し、Aに進む。
【0108】
S35では、t(n+1)が運転パターン変更時よりも過去か未来かを判断する。過去である場合、S31に進み、同様の処理を繰り返す。一方、未来である場合、S36に進む。
【0109】
S36では、nを「1」カウントアップし、変更後の運転パターンに基づき、そのタイミングにおけるマイルを予測する。次いで、S37では、変更後の運転パターンに基づき、そのタイミングにおける電池の温度、SOC、電流等の予測値を算出する。
【0110】
そして、S32では、S37で取得されたパラメータの値と、予め電池システム30ごとに用意された活性化エネルギーEa及び頻度因子Aの表とに基づき、その測定タイミングにおける活性化エネルギーEa及び頻度因子Aを求める。なお、表では、電流と、SOCと、活性化エネルギーEa及び頻度因子Aとの関係を示すが、パラメータは電流及びSOC以外としてもよい。
【0111】
S33では、S32で求めた活性化エネルギーEa及び頻度因子Aや、S37で取得された各種パラメータの値に基づき、そのタイミングにおける劣化反応の速度定数kを求める(Tcm(n)には、S37で求めたTc(n)を代入)。
【0112】
S34では、S33で求めた速度定数k、及び、その直前の測定タイミングにおけるSOHc(n-1)に基づき、その測定タイミングにおけるSOHc(n)を求める。そして、求めたSOHc(n)に補正係数Rをかけてシミュレーション結果を補正し、補正後のシミュレーション結果であるSOHe(n)を求める。そして、その結果をデータベースに記録し、Aに進む。
【0113】
以上の処理により、nをカウントアップしながらSOHe(n)を求めて蓄積していくことができる。このSOHe(n)の経時データに基づき、電池システム30の劣化速度を求めることができる。例えば、運転パターン変更以降のSOHe(n)の経時データに基づき、運転パターン変更後の電池システム30の劣化速度を求めることができる。
【0114】
状態算出部14は、このようにして算出した運転パターン変更後の各電池システム30の劣化速度に基づき、基準タイミングから対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量や、所定の対象期間内に利用可能な累積充電量又は累積放電量や、所定の対象期間内に利用可能な残りの累積充電量又は累積放電量や、充放電の優先度等を算出する。
【0115】
電池管理システム10のその他の構成は、第1及び第2の実施形態と同様である。
【0116】
以上説明した本実施形態の電池管理システム10によれば、第1及び第2の実施形態と同様の作用効果が実現される。また、電池管理システム10によれば、複数の電池システム30の運転パターンが途中で変わっても、変更前に収集した測定データ等を利用して、精度よく、変更後の各電池システム30の劣化速度を算出することができる。結果、複数の電池システム30の運転パターンが途中で変わるような状況が発生しても、適切に電池システム30を制御し、複数の電池システム30全体での商品価値の低下を適切に抑制することができる。
【0117】
<変形例>
ここで、すべての実施形態に適用可能な変形例を説明する。上記実施形態では、電池システム30の劣化速度の算出等にSOHを利用したが、SOHに代えて内部抵抗等の他の指標を用いてもよい。
【0118】
また、上記実施形態では、単位累積充電量[Wh]又は単位累積放電量[Wh]あたりのSOHの減少量で示される劣化速度[%/Wh]を算出したが、単位時間(例:1か月、1年)あたりのSOHの減少量で示される劣化速度[%/単位時間]を算出してもよい。
【0119】
また、リチウムイオン電池の性能劣化は使用マイルや使用時間に対してリニアーに劣化するものもあれば、(kWh)^(1/2)、(Year)^(1/2)に対してリニアーに劣化する電池種もある。ルート則に従う劣化を起こすリチウムイオンの電池種に対しては、例えば(単位累積充電量[Wh]又は単位累積放電量[Wh]あたりのSOHの減少量)を(単位累積充電量[Wh]又は単位累積放電量[Wh])^(1/2)で割ることで劣化速度を算出してもよいし、(単位時間あたりのSOHの減少量)を(単位時間)^(1/2)で割ることで劣化速度を算出してもよい。このようにすることで、より確からしい結果が得られる。
【0120】
また、ここで説明した複数の変形例を組み合わせてもよい。
【0121】
なお、本明細書において、「取得」とは、ユーザ入力に基づき、又は、プログラムの指示に基づき、「自装置が他の装置や記憶媒体に格納されているデータを取りに行くこと(能動的な取得)」、たとえば、他の装置にリクエストまたは問い合わせして受信すること、他の装置や記憶媒体にアクセスして読み出すこと等、および、ユーザ入力に基づき、又は、プログラムの指示に基づき、「自装置に他の装置から出力されるデータを入力すること(受動的な取得)」、たとえば、配信(または、送信、プッシュ通知等)されるデータを受信すること、また、受信したデータまたは情報の中から選択して取得すること、及び、「データを編集(テキスト化、データの並び替え、一部データの抽出、ファイル形式の変更等)などして新たなデータを生成し、当該新たなデータを取得すること」の少なくともいずれか一方を含む。
【0122】
以上、実施形態(及び実施例)を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態(及び実施例)に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0123】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限定されない。
1. 各々がPCS、BMS及び電池を有する複数の電池システムの対象年月日おいて確保するSOHの下限を記憶する記憶手段と、
前記電池システムごとに、単位累積充電量[Wh]又は単位累積放電量[Wh]あたりのSOHの減少量で示される劣化速度を算出する劣化速度算出手段と、
前記電池システム各々の基準タイミングのSOHを特定するSOH特定手段と、
前記電池システムごとに、前記対象年月日、前記SOHの下限、前記劣化速度、及び、前記基準タイミングのSOHに基づき、前記対象年月日におけるSOHが前記SOHの下限となる条件下で、前記基準タイミングから前記対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量を算出する状態算出手段と、
前記状態算出手段による算出結果に基づき、複数の前記電池システムに対して、充放電の優先度を決定する優先度決定手段と、
前記充放電の優先度に基づき、複数の前記電池システムの充放電を制御する充放電制御手段と、
を有する電池管理システム。
2. 前記記憶手段は、前記電池システムごとに前記対象年月日及び前記SOHの下限を記憶する1に記載の電池管理システム。
3. 前記状態情報算出手段は、
前記電池システムごとに、所定の対象期間内の日数と、前記基準タイミングから前記対象年月日までの日数とに比例した割合で前記基準タイミングから前記対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量を按分することで、前記所定の対象期間内に利用可能な累積充電量又は累積放電量を算出し、
前記電池システムごとに、前記所定の対象期間内に利用可能な累積充電量又は累積放電量から、前記所定の対象期間内に利用した累積充電量又は累積放電量を差し引くことで、前記所定の対象期間内に利用可能な残りの累積充電量又は累積放電量を算出する1又は2に記載の電池管理システム。
4. 前記優先度決定手段は、
前記所定の対象期間内に利用可能な残りの累積充電量又は累積放電量に基づき、前記充放電の優先度を決定する3に記載の電池管理システム。
5. 前記劣化速度算出手段は、
過去の複数の測定タイミングにおけるSOHの測定値と、累積充電量又は累積放電量の測定値とに基づき、前記劣化速度を算出する1から4のいずれかに記載の電池管理システム。
6. 前記状態算出手段は、
前記基準タイミングにおけるSOHと、前記劣化速度とに基づき、前記基準タイミングより後のメーカー保証期限においてSOHがメーカー保証値を下回る確率を算出する1から5のいずれかに記載の電池管理システム。
7. 前記優先度決定手段は、前記確率に基づき、複数の前記電池システムに対して、充放電の優先度を決定する6に記載の電池管理システム。
8. 前記確率を出力する出力手段をさらに有する6又は7に記載の電池管理システム。
9. コンピュータが、
各々がPCS、BMS及び電池を有する複数の電池システムの対象年月日おいて確保するSOHの下限を記憶し、
前記電池システムごとに、単位累積充電量[Wh]又は単位累積放電量[Wh]あたりのSOHの減少量で示される劣化速度を算出し、
前記電池システム各々の基準タイミングのSOHを特定し、
前記電池システムごとに、前記対象年月日、前記SOHの下限、前記劣化速度、及び、前記基準タイミングのSOHに基づき、前記対象年月日におけるSOHが前記SOHの下限となる条件下で、前記基準タイミングから前記対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量を算出し、
当該算出結果に基づき、複数の前記電池システムに対して、充放電の優先度を決定し、
前記充放電の優先度に基づき、複数の前記電池システムの充放電を制御する電池管理方法。
10. コンピュータを、
各々がPCS、BMS及び電池を有する複数の電池システムの対象年月日おいて確保するSOHの下限を記憶する記憶手段、
前記電池システムごとに、単位累積充電量[Wh]又は単位累積放電量[Wh]あたりのSOHの減少量で示される劣化速度を算出する劣化速度算出手段、
前記電池システム各々の基準タイミングのSOHを特定するSOH特定手段、
前記電池システムごとに、前記対象年月日、前記SOHの下限、前記劣化速度、及び、前記基準タイミングのSOHに基づき、前記対象年月日におけるSOHが前記SOHの下限となる条件下で、前記基準タイミングから前記対象年月日までに利用可能な累積充電量又は累積放電量を算出する状態算出手段、
前記状態算出手段による算出結果に基づき、複数の前記電池システムに対して、充放電の優先度を決定する優先度決定手段、
前記充放電の優先度に基づき、複数の前記電池システムの充放電を制御する充放電制御手段、
として機能させるプログラム。