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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】塩基性アミノ酸の分離
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/10 20060101AFI20240613BHJP
   C05F 11/00 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
C12P13/10 B
C05F11/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020545623
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 SE2019050188
(87)【国際公開番号】W WO2019172825
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】1850233-6
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518404503
【氏名又は名称】アレボ・アクチボラゲット
【氏名又は名称原語表記】AREVO AB
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ネスホルム,トルグニ
(72)【発明者】
【氏名】ラブ,ヨナタン
(72)【発明者】
【氏名】ホルムルンド,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】スコグルンド,ニルス・ベルティル
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/200468(WO,A1)
【文献】特表2008-502728(JP,A)
【文献】特開平06-041028(JP,A)
【文献】特開昭60-087277(JP,A)
【文献】米国特許第05177069(US,A)
【文献】国際公開第2008/078448(WO,A1)
【文献】特開2007-238577(JP,A)
【文献】化学と生物, 1973, Vol.11, No.1, pp.13-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 13/00-13/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液からのアルギニンの分離方法であって、
a)アミノ酸とタンパク質および/またはタンパク質分解物とを含む水溶液を提供する工程と、
b)前記水溶液をリン酸と合わせる工程と、
c)アミノ酸リン酸塩の沈殿が得られるまで、前記リン酸を含む水溶液を室温で維持する工程と、
d)前記水溶液から前記沈殿を分離する工程とを含み、
前記アミノ酸リン酸塩を、アルギニンの一リン酸塩として選択的に沈殿させ
前記工程a)で提供される水溶液は、細胞による発酵によってタンパク質、ペプチド、および/またはアミノ酸が生成されることによって得られるブロスであり、
前記細胞は、エシェリキア、コリネバクテリウム、およびアグロバクテリウムからなる群より選択される株である、方法。
【請求項2】
e)前記分離した沈殿を再溶解してアルギニンとリン酸塩との水溶液とする工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記沈殿させたアルギニンの一リン酸塩は結晶形態の一リン酸塩である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程a)で提供される溶液中における、その一リン酸塩として沈殿させることになる遊離アルギニンの濃度を求める工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記リン酸は、前記水溶液のアルギニンの濃度に対して等モル比にて、前記水溶液と組み合わされる、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程b)は、前記水溶液をリン酸溶液に添加することによって行なわれる、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記アルギニンの一リン酸塩を沈殿させた水溶液に、少なくとも1種のゼオライトを添加する工程f)をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程f)において、アルギニンを含むゼオライトが除去され、さらなる吸着工程においてさらなるゼオライトが添加される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程a)で提供される水溶液は、アルギニンが生成された発酵ブロスである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記沈殿させたアルギニンの一リン酸塩を造粒する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記沈殿させたアルギニンの一リン酸塩を少なくとも1種のバインダと合わせて植物用肥料とすることによって肥料を調製する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記沈殿させたアルギニンの一リン酸塩を少なくとも1種のバインダおよび1種以上のさらなる栄養剤と合わせて植物用肥料とすることによって肥料を調製する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸生成の領域に関する。より具体的には、本発明は、多種の異なるタンパク質性および/または栄養性の成分を含む複合液体から塩基性アミノ酸を選択的に分離する方法に関する。本発明に従って分離されるアミノ酸は、たとえば、植物用の緩和放出肥料として、食物成分として、または飼料添加剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
背景
アミノ酸は、アミン(-NH)官能基およびカルボキシ(-COOH)官能基と、そのアミノ酸に特有の側鎖(R基)とを含有する有機化合物である。いくつかのアミノ酸の側鎖には他の元素も見られるが、アミノ酸の重要な元素は、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、および窒素(N)である。
【0003】
アミノ酸は、生物学的な意義をもつため、栄養補給において重要であり、栄養補助食品、肥料、および食物技術において広く使用されている。工業用途としては、薬物、生分解性プラスチック、およびキラル触媒の製造が含まれる。
【0004】
US4,006,004(Seferianら)は、リン酸塩強化ピートモス(peat moss)用肥料に関する。より具体的には、遊離アミノ酸を含有しかつリン酸塩が強化された高有機含有肥料の製造方法であって、ピートモス1重量部に対して最大5重量部の水にてピートモスをスラリー化する工程と、酸性リン酸一カリウム1重量部とオルトリン酸1~4重量部との酸性リン酸塩反応溶液と、ピートモススラリーとを、ピートモス1重量部に対して酸性リン酸塩反応物1~4重量部の量にて混合する工程と、得られた混合物を約90℃において4時間以上加熱することによって、ピートモス中のタンパク質性材料を加水分解して遊離アミノ酸とする工程と、遊離アミノ酸を含有しかつリン酸塩およびカリウムが強化されたピートモス肥料を生成物として回収する工程とを含み得る。このリン酸反応物としては、オルトリン酸が好ましく、特にその市販形態、すなわち、85パーセントのHPO水溶液が好ましい。酸性リン酸塩反応物は、アルカリ金属、すなわち、カリウム、ナトリウム、リチウム、またはセシウム金属の、モノまたはジ酸性塩であってよい。この特許が示唆するところによると、ピートモス中のタンパク質性材料の加水分解によって、利用可能な遊離アミノ酸が生成物中に生成されるが(一見して類似するプロセスではこれが生成されない)、その理由は、リン酸および相補的なリン酸塩が共存しているために、酸のpHが酸自体よりも約25%~50%高く緩衝され、したがって加水分解が、高温においても、長時間の加熱時間にわたって進行し、緩衝された加水分解の効によってシステインリン酸塩、アルギニンリン酸塩、アラニンリン酸塩、グリシンリン酸塩、およびヒスチジンリン酸塩などのアミノ酸が提供されるからである。
【0005】
さらに近年になって、WO2017/200468(SweTree Nutrition AB)によって、アルギニンまたはリシンの一リン酸塩などの塩基性L-アミノ酸の一リン酸塩を含む肥料組成物が示唆されている。実験部分において、アルギニンリン酸塩の過飽和溶液に等モル量のオルトリン酸を添加したものからアルギニンの一リン酸塩の結晶を調製する方法が教示される。溶液の温度を約80℃に上げ、アルギニンリン酸塩溶液を約5℃/時間の速度でゆっくりと冷却している。温度がさらに下がる間にも結晶成長が継続している。温度が5℃に達した後、残りの母液を捨てている。真空ろ過によって粗結晶を乾燥させ、続いて加熱キャビネット内で35℃において約24時間乾燥させている。
【0006】
US9,682,026(Colgate-Palmolive)は、アルギニンリン酸塩、モノフルオロリン酸ナトリウム、およびリン酸二カルシウム二水和物を含み、有機リン酸塩を実質的に含まない、口腔ケア組成物に関する。このような口腔ケア組成物の製造方法が開示されており、この方法は、塩基性アミノ酸成分、可溶性フッ化物塩、および無機酸のカルシウム塩を合わせる工程を含む。組成物中におけるフッ化物の安定性を高めるために、上述される合わせ工程に先立って、塩基性アミノ酸を無機酸で中和して、塩基性アミノ酸の塩を形成している。
【0007】
工業の場においては、微生物発酵によってアミノ酸を生成する場合、精製物を得るために多くの分離工程が必要である。たとえば、Utagawaは、発酵ブロスのろ過、カチオン交換、アニオン交換、および脱色、続いて限外ろ過、濃縮、結晶化、および乾燥という工程を要するプロセスにてL-アルギニンを生成するプロセスを記載している(Takashi Utagawa in American Society for Nutritional Sciences,p2854-2857:Production of Arginine by Fermentation(2004))。このプロセス工程は、材料、人員、および時間の点でリソースを必要とするため、結果として費用のかかるアミノ酸調製法である。
【0008】
EP0175309(東レ株式会社)は、L-リシンの生成に関し、より具体的には、従来の発酵プロセスにおいて高収量の生成が可能な突然変異体に関する。この高収量は、突然変異体が1種以上のα置換アミノ-イプシロン-カプロラクタム化合物に対して抵抗性を有するために得られる。培地に依存して、結晶形態のL-リシンを培地から直接得ることができる、と記載されている。
【0009】
上述されるような状況はあるものの、この分野においては、依然として、改善されたアミノ酸生成方法、特に、複合溶液から調製する場合に高純度および高収率で塩基性L-アミノ酸を生成するための方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本発明のひとつの目的は、改善された、微生物発酵によるアルギニンまたはリシンなどの塩基性L-アミノ酸の製造方法であって、複数の精製工程を単一のアミノ酸沈殿工程で置き換えることによって、現在使用されている方法を単純化した方法の提供である。
【0011】
より具体的には、この目的は、水溶液からのアルギニンまたはリシンの分離方法によって達成され得るものであり、この方法は、
a)アミノ酸とタンパク質および/またはタンパク質分解物とを含む水溶液を提供する工程と、
b)水溶液をリン酸とを合わせる工程と、
c)アミノ酸リン酸塩の沈殿が得られるまで、リン酸を含む水溶液を室温で維持する工程と、
d)水溶液から沈殿を分離する工程と、
e)分離した沈殿を再溶解してアミノ酸およびリン酸塩の水溶液とする工程とを少なくとも含み、
アミノ酸リン酸塩を、アルギニンまたはリシンの一リン酸塩として選択的に沈殿させる、方法である。
【0012】
本発明の別の目的は、アミノ酸を含みかつタンパク質および/またはタンパク質分解物などのタンパク質性成分の複合物を有する液体から、アルギニンまたはリシンなどの塩基性アミノ酸のリン酸塩を高効率で生成する方法の提供である。
【0013】
より具体的には、水溶液からのアルギニンまたはリシンの分離方法によって達成され得るものであり、この方法は、
a)アミノ酸とタンパク質および/またはタンパク質分解物とを含む水溶液を提供する工程と、
b)水溶液をリン酸とを合わせる工程と、
c)アミノ酸リン酸塩の沈殿が得られるまで、リン酸を含む水溶液を室温で維持する工程と、
d)水溶液から沈殿を分離する工程とを少なくとも含み、
アミノ酸リン酸塩を、アルギニンまたはリシンの一リン酸塩として選択的に沈殿させる、方法である。
【0014】
本発明の他の目的、詳細、および利点は、従属請求項に定義されるとおりに得られてよく、かつ、以降の明細書中にさらに詳細に記載され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】異なる発酵ブロス(アグロバクテリウム(図1a)、大腸菌(図1b)、およびコリネバクテリウム(図1c))から本発明に従って得られる、3つの異なるアルギニンの一リン酸塩の結晶の写真である。
図2a】本発明に従って、以降の実験部分中に記載されるとおりに生成される一リン酸塩のガスクロマトグラムである。
図2b】本発明に従って、以降の実験部分中に記載されるとおりに生成される一リン酸塩のガスクロマトグラムである。
図2c】本発明に従って、以降の実験部分中に記載されるとおりに生成される一リン酸塩のガスクロマトグラムである。
図3a】それぞれ、a)改変された発酵ブロスのクロマトグラムと、b)当該改変された発酵ブロスに由来するアルギニンリン酸塩の結晶を溶解したものと、についてのクロマトグラムである。
図3b】それぞれ、a)改変された発酵ブロスのクロマトグラムと、b)当該改変された発酵ブロスに由来するアルギニンリン酸塩の結晶を溶解したものと、についてのクロマトグラムである。
図4a】酸が塩基に添加される際の、本発明に係る方法の反応時間を示す。
図4b】酸が塩基に添加される際の、本発明に係る方法の反応時間を示す。
図5a】塩基が酸に添加される際の、本発明に係る方法の反応時間を示す。
図5b】塩基が酸に添加される際の、本発明に係る方法の反応時間を示す。
図6図5および図6にそれぞれ示す2通りの方法において水の加熱に使用されるエネルギーを示す。
図7a】実施例6中に記載される方法の後にそのままの大腸菌発酵ブロスから得ることができるアルギニンの収率を示す。
図7b】実施例6中に記載される方法の後にそのままの大腸菌発酵ブロスから得ることができるアルギニンの収率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、水溶液からアルギニンまたはリシンなどの塩基性アミノ酸を分離する総合的な方法であって、
a)アミノ酸とタンパク質および/またはタンパク質分解物とを含む水溶液を提供する工程と、
b)水溶液をリン酸とを合わせる工程と、
c)アミノ酸リン酸塩の沈殿が得られるまで、リン酸を含む水溶液を室温で維持する工程と、
d)水溶液から沈殿を分離する工程と、任意に、
e)分離した沈殿を再溶解してアミノ酸およびリン酸塩の水溶液とする工程とを少なくとも含み、
アミノ酸リン酸塩を、アルギニンまたはリシンの一リン酸塩として選択的に沈殿させる、方法に関する。
【0017】
当業者には理解されるように、本発明は塩基性アミノ酸に関し、このアミノ酸は、アルギニン、リシン、およびヒスチジンからなる群より選択されてよい。さらに、このアミノ酸は、最も有利にはたとえば同じく培養細菌から生成される植物用肥料において使用されるL-アルギニンまたはL-リシンなどのL-アミノ酸であってよい。
【0018】
一実施形態において、リン酸塩はアルギニンの一リン酸塩であり、この場合、リン酸は、工程a)で提供される溶液中のアルギニン濃度に対しておよそ等モル量(1:1)にて添加される。異なるモル比でリン酸:アミノ酸を使用することで、一リン酸塩以外のリン酸塩を得てもよい。
【0019】
工程b)において、リン酸を水溶液と合わせる際、「酸を塩基に」の原理に従うことによって、すなわちリン酸を水溶液中に添加(titer)することによって、酸が使用される場合には、慣習的に勧められるとおりに行なってよい。しかしながら、本発明者らは、驚くことに、この手順を逆にすることによって、すなわち水溶液をリン酸に添加(titer)することによって、予想外に高純度の結晶が迅速に得られ得ることを見いだした。このことは、以降の実施例5中にさらに記載される。
【0020】
さらに、「塩基を酸に」の原理を用いることによって、結果として生じる発熱反応で発生する熱を、外部から加熱する代わりに利用でき、これにより、リソースの観点から非常に効率の高いプロセスを提供できる。
【0021】
当業者には理解されるように、pHは、分離対象である特定のアミノ酸に依存して、適切な値に設定してよい。したがって、上述される方法は、多段階プロセスであってよく、まず始めに、第1のpHにおいて1種のアミノ酸をその一リン酸塩として選択的に沈殿させ、次に、溶液を第2のpHに調節して、このpHにおいて第2のアミノ酸を選択的に沈殿させるものであってよい。
【0022】
本発明は、高度に精製されたアミノ酸を得るために利用でき、その場合、工程e)は、沈殿させたアミノ酸リン酸塩を元の溶液から除去した後で再溶解し、続いて、液体クロマトグラフィーまたは沈殿法などの任意の従来の方法によってリン酸塩を除去するという要領で行なう。
【0023】
代替的には、本発明は、後にたとえば植物用肥料として使用されるアルギニンまたはリシンの一リン酸塩などのリン酸塩を得るために利用できる。
【0024】
アミノ酸とタンパク質および/またはタンパク質分解物とを含む水溶液中に含有されるアルギニンまたはリシンの利用を最適化するために、本発明者らは、上述される沈殿方法に続いて、アルギニンまたはリシンの一リン酸塩を沈殿させた水溶液に、少なくとも1種のゼオライトを添加する1つ以上の工程を行なうことができることを見いだした。こうしたさらなる工程により、以降の実験部分においてさらに詳細に記載されるとおり、沈殿自体の場合よりも多量のアルギニンまたはリシンを水溶液から回収することが可能となる。
【0025】
したがって、本発明は、複合溶液からのアルギニンまたはリシンなどの塩基性アミノ酸の回収方法であって、
a)アミノ酸とタンパク質および/またはタンパク質分解物とを含む水溶液を提供する工程と、
b)水溶液をリン酸とを合わせる工程と、
c)アルギニンまたはリシンの一リン酸塩の沈殿が得られるまで、リン酸を含む水溶液を室温で維持する工程と、
d)水溶液からアルギニンまたはリシンの一リン酸塩を分離する工程と、
e)任意に、分離した沈殿を再溶解してアミノ酸およびリン酸塩の水溶液とする工程と、
f)工程d)において分離された水溶液と、少なくとも1種のゼオライトとを、このゼオライトにアルギニンまたはリシンが吸着できる条件下において合わせる工程とを少なくとも含む方法にも関する。
【0026】
塩基性L-アミノ酸がゼオライトに吸着するための条件はWO2017/222464中に記載されており、この文献から、当業者は、多段階プロセスを設計する際に、アルギニンを沈殿させた後で残存するアルギニンまたはリシンを適切な特性を有する少なくとも1種のゼオライトに吸着させるゼオライト工程に関する教示を使用し得る。工程f)から得られる任意の液体に対して、さらなるゼオライト吸着工程を行なってもよく、任意に、それより前の吸着工程で使用されたものとは異なる特性を有するゼオライトを使用してもよい。
【0027】
塩基性アミノ酸の供給源としては、多様な液体を使用してよく、さらなる詳細は以降に記載される。
【0028】
本発明の一態様は、アルギニンまたはリシンなどの塩基性アミノ酸を、これが生成されている液体から選択的に分離することである。したがって、工程a)で提供される水溶液は、細胞による発酵によってタンパク質、ペプチド、および/またはアミノ酸が未定義の増殖培地(LB培地、または任意の他の組成など)中に生成されることによって得られるブロスであってよい。このような培地には、一般的に、成長のために添加された糖および栄養剤などの多くの成分と、当該細胞により発現された多様な生成物とが含まれ得るが、これらは、従来の生物工学的アミノ酸製造においては、別個の精製工程によって除去する必要があり得る。したがって、この態様において、本発明に係る方法は、アミノ酸リン酸塩の沈殿を再溶解してリン酸塩からアミノ酸を分離する工程e)を含んでよい。当業者には理解されるように、従来の、リン酸塩からアミノ酸を分離するさらなる工程が必要となり得る。
【0029】
一実施形態において、細胞は、エシェリキア、コリネバクテリウム、およびアグロバクテリウムからなる群より選択される細菌株である。
【0030】
背景部分において上述されるとおり、現在使用できる、発酵ブロスからのアミノ酸の分離方法は、複数の液体クロマトグラフィー工程などを含むリソース要求の厳しい多段階精製法であるが、こうした工程は、本発明に従ってリン酸塩として沈殿させることによって、不要となりかつ置き換えられ得る。
【0031】
したがって、本態様によれば、従来使用される精製プロトコールよりも高い効率でアミノ酸を生成することが可能となる。
【0032】
さらに、この態様は、後に植物用肥料の製造に使用するためのアミノ酸リン酸塩を生成する目的で用いてもよい。アミノ酸は、ほとんどのタンパク質発現において共通して生成されるため、この態様によれば、たとえば主目的であるタンパク質を回収した後のブロスを高効率で利用できる。
【0033】
別の一態様において、工程a)で提供される水溶液は、動物質または植物質の加水分解から得られる液体である。商業的関心がもたれる供給源は、羽毛の加水分解から得られる溶液である。羽毛は、家禽屠殺場で生じる副産物として容易に入手でき、85%~90%がケラチンである。ケラチンの加水分解は頻繁に行なわれており、ジスルフィド結合およびペプチド結合が切断されて、より小さなタンパク質、ペプチド、およびアミノ酸が形成される。しかしながら、従来の工業的な羽毛タンパク質処理方法は熱圧力加水分解であり、これには、高純度のアミノ酸を得るためにクロマトグラフィーおよび他の精製技術を使用するさらなる処理が必要とされる。したがって、本発明は、羽毛工業からアミノ酸を回収するための有利な代案を提示するものである。
【0034】
第1の態様と同様に、高度に精製されたアミノ酸および/またはアミノ酸リン酸塩が得られ得る。
【0035】
さらに別の一態様において、工程a)で提供される水溶液は、パルプ製造から得られる残留流体である。用語「パルプ」は、本明細書中において、木、繊維作物、古紙、または布きれから化学的または機械的にセルロース繊維を分離することによって調製されるリグノセルロース繊維材料に対して使用される。製紙工場から得られる残留流体は高度に複雑な溶液であり、リグニンおよびセルロースならびに多様な化学物質を含み得る。
【0036】
流体中の含有物に依存して、事前に溶液をろ過する工程が含まれてもよい。第1の態様と同様に、この溶液から、高度に精製された塩基性アミノ酸および/またはアミノ酸の一リン酸塩が得られ得る。
【0037】
上述されるように、本発明に係る方法は、後に1種以上の栄養剤と合わせて植物用肥料とするアルギニンの一リン酸塩またはリシンの一リン酸塩などの塩基性アミノ酸のリン酸塩を生成するために使用され得る。
【0038】
本発明に係る方法は、さらに、沈殿させたアルギニンまたはリシンの一リン酸塩を造粒して、固体肥料組成物における使用に好適な形態を得る工程をも含んでよい。
【0039】
さらに、本発明に係る方法は、上述されるとおりに沈殿させたアルギニンまたはリシンの一リン酸塩を少なくとも1種のバインダおよび任意に1種以上のさらなる栄養剤と合わせて植物用肥料とすることによって肥料を調製する工程を含んでもよい。肥料組成物中においてアルギニンまたはリシンの一リン酸塩と共に使用するのに好適なバインダは、WO2017/200468中に記載される。
【0040】
本発明は、上述されるとおりに沈殿させたアルギニンまたはリシンの一リン酸塩を、任意に少なくとも1種のバインダおよび/または1種以上のさらなる栄養剤と合わせて含む肥料組成物にも関する。このような肥料は、顆粒などの固体組成物であってよい。
【0041】
最後に、本発明は、アルギニンまたはリシンの一リン酸塩(任意に好適なバインダとの顆粒として)と、アルギニンまたはリシンを吸着した少なくとも1種のゼオライトとを含む固体肥料組成物に関する。これら2種の成分(アルギニンまたはリシンの一リン酸塩、およびゼオライト)の相対的割合は、個々の具体的な配合により、当該肥料に所望される特性(放出速度など)に基づいて異なっていてよく、かつ、決定されてよい。
【0042】
図面の詳細な説明
図1は、3種の異なる発酵ブロスから本発明に従って得られる3つのアルギニンの一リン酸塩の結晶の写真であり、各ブロスは、アグロバクテリウム(図1a)および大腸菌(図1b)にアルギニン100g/Lを添加して、アルギニン過産生株から得られるブロスを模倣したものと、アルギニン濃度300g/Lの、アルギニンを過産生するコリネバクテリウムを、等モル量のリン酸(アルギニン1.72モル/リン酸1.72モル)を用いて処理して室温で5日間放置したものから得た、改変された発酵ブロス(図1c)である。この期間にアルギニンの一リン酸塩の結晶が形成され、溶液から回収した。この例においては、75%オルトリン酸を使用した。目視によると、結晶の純度は非常に高い。
【0043】
図2は、以降の実験部分中に記載されるとおりに、本発明に従って生成された一リン酸塩を、十分に確立されたプロトコールによるガスクロマトグラフィーに供して得られた、ガスクロマトグラムを示す。
【0044】
より具体的には、図2aは、1)純粋なアルギニン標準と、2)改変された発酵ブロスと、についてのガスクロマトグラムである。アルギニン以外の含有物に対する感受性を増大させるために、412~422秒、492~497秒、および540~555秒におけるアルギニンのピークを隠してある。597秒におけるピークは、純粋なアルギニン標準に由来する。クロマトグラム2中における非常に多くのピーク(たとえば、323秒、365秒、391秒、395秒、400秒、432秒、434秒、473秒、510秒、519秒、523秒、525秒、527秒、535秒、575秒、575秒、579秒、581秒、583秒、および587秒)が、クロマトグラム1においては振幅が小さいまたは不明瞭であり、このことは、発酵ブロスにおいて予期された組成の複雑性が、純粋なアルギニン標準には存在しないことを示す。
【0045】
図2bは、1)純粋なアルギニン標準の溶液と、2)本明細書中に記載される方法による改変された発酵ブロスに由来するアルギニンの一リン酸塩の結晶と、についてのガスクロマトグラムである。アルギニン以外の含有物に対する感受性を増大させるために、412~422秒、492~497秒、および540~555秒におけるアルギニンのピークを隠してある。結晶中に含有されるリン酸塩は、クロマトグラム2中、およそ421秒において明瞭である。このリン酸塩の特別なピークのほか、2つのクロマトグラムは非常によく類似しており、このことは、アルギニンリン酸塩の結晶が高純度であることを示す。
【0046】
図2cは、1)発酵ブロスに由来するアルギニンリン酸塩の結晶から調製した溶液から沈殿させた結晶と、2)改変された発酵ブロス溶液と、についてのガスクロマトグラムである。アルギニン以外の含有物に対する感受性を増大させるために、412~422秒、492~497秒、および540~555秒におけるアルギニンのピークを隠してある。結晶中に含有されるリン酸塩は、クロマトグラム3中、およそ421秒において明瞭である。クロマトグラム2中における非常に多くのピーク(たとえば、323秒、365秒、391秒、395秒、400秒、432秒、434秒、473秒、510秒、519秒、523秒、525秒、527秒、535秒、575秒、575秒、579秒、581秒、583秒、および587秒)が、クロマトグラム1においては振幅が小さいまたは不明瞭であり、このことは、含有されるアルギニンに対して等モル濃度にてリン酸を添加し、複合溶液から結晶を沈殿させることによって、精製工程が行なわれたということを示す。
【0047】
図3は、それぞれ、a)改変された発酵ブロスと、b)改変された発酵ブロスに由来するアルギニンリン酸塩の結晶を溶解したものと、についてのクロマトグラムである。より具体的には、図3a中、1.6分のピークは誘導残基(derivation residues)、2.2分はアンモニウム、2.8分はアルギニン、3.1分はグリシン、3.9分はグルタミン酸、4.1分はトレオニン、4.6分はアラニン、4.7分はGABA、5.3分はプロリン、6.3分はオルニチン、6.7分は割り当てなし、7.2分はメチオニン、7.6分はノルバリン(内部標準)、8.3分はロイシンを表す。図3b中、いくつかのピークは振幅が小さいまたは全く存在せず、このことは、アルギニンリン酸塩の結晶が形成される間に発酵ブロス中の不純物が除去されたことを示す。
【0048】
図4は、酸が塩基に添加される際の、本発明に係る方法の反応時間を示す。より具体的には、図4aは、アルギニン塩基を500mlかつ60℃のdHO中に溶解する方法1を示す。このアルギニン溶液を撹拌し、このアルギニン溶液に、75%リン酸(アルギニン:リン酸塩の比を1:1とする)を、温度が60℃を越えない速度(図4b)で添加(titer)した。図4a中、垂直の点線は、アルギニンとリン酸とが完全に混合された時間を示す。
【0049】
図5は、塩基が酸に添加される際の、本発明に係る方法の反応時間を示す。より具体的には、図5aは、スラリー中、15℃のdHO中にアルギニン塩基の一部のみが溶解している(62.5gが溶解、187.5gが非溶解)、方法2を示す。このアルギニン溶液を、75%リン酸溶液中に、撹拌しながら、温度が60℃を越えない速度で添加(titer)し、アルギニンとリン酸とを完全に混合した(図5b)。図5a中、垂直の点線は、アルギニンとリン酸とが完全に混合された時間を示す。
【0050】
図6は、図5および図6にそれぞれ示す2通りの方法において水の加熱に使用されるエネルギーを示す。より具体的には、「酸を水に添加する(酸を添加)」という慣習的な順序に則った方法1はほぼ200キロジュール/リットルを使用し、これよりも使用頻度の低い「水を酸に添加する」という順序でのエネルギー消費は、発熱を利用しているために、ゼロに近い。
【0051】
図7は、実施例6中に記載される方法の後、すなわち、結晶化に続いてゼオライト添加を行なう回収工程を繰り返した後に、そのままの大腸菌発酵ブロスから得ることができるアルギニンの収率を示す。より具体的には、図7aは、リン酸を使用したアルギニンの結晶化(1)、ゼオライトを使用した発酵ブロスの処理(2)、およびゼオライトを使用した発酵ブロスの処理の繰り返し(3)の後にそのままの発酵ブロス中に残存するアルギニンの濃度(初期の溶液中の濃度(アルギニン140g/lに対応)に対する%)を示す。
【0052】
図7aは、上述される、すなわち、リン酸を使用したアルギニンの結晶化(1)、ゼオライトを使用した発酵ブロスの処理(2)、およびゼオライトを使用した発酵ブロスの処理の繰り返し(3)の後のそのままの発酵ブロスからのアルギニンの収率(初期量(アルギニン140g/lに対応)に対する%)を示す。
【0053】
実験
提示される実施例は、本明細書中において、例示目的のみにて提供されるものであり、付属の請求項により定義される本発明の限定を意図するものではない。本出願の以下または他の箇所にて提供されるすべての先行技術文献を、引用により本明細書に含む。
【0054】
実施例1
アルギニンを過産生するコリネバクテリウムから得たアルギニン濃度300g/Lの発酵ブロスを、リン酸(75%オルトリン酸)を等モル量(アルギニン1.72モル/リン酸1.72モル)で用いて処理し、室温で5日間放置した。この期間にアルギニンの一リン酸塩の結晶が形成され、溶液から回収した。結晶をガスクロマトグラフィー-質量分析で分析してアルギニンおよびリン酸塩以外の化合物の混入を調べたところ、不純物の含量が総質量の0.01%未満であることがわかった。図1および図2
【0055】
実施例2
大腸菌を用いた発酵ブロスにアルギニンを濃度100g/Lで添加して、アルギニン過産生細菌株を模倣した。このアルギニン添加ブロスを、リン酸(75%オルトリン酸)を等モル量(アルギニン0.57モル/リン酸0.57モル)で用いて処理し、室温で5日間放置した。この期間にアルギニンリン酸塩の結晶が形成され、溶液から回収した。結晶をガスクロマトグラフィー-質量分析で分析してアルギニンおよびリン酸塩以外の化合物の混入を調べたところ、不純物の含量が総質量の0.01%未満であることがわかった。図1
【0056】
実施例3
アグロバクテリウムを用いた発酵ブロスにアルギニンを濃度100g/Lで添加して、アルギニン過産生細菌株を模倣した。このアルギニン添加ブロスを、リン酸(75%オルトリン酸)を等モル量(アルギニン0.57モル/リン酸0.57モル)で用いて処理し、室温で5日間放置した。この期間にアルギニンリン酸塩の結晶が形成され、溶液から回収した。結晶をガスクロマトグラフィー-質量分析で分析してアルギニンおよびリン酸塩以外の化合物の混入を調べたところ、不純物の含量が総質量の0.01%未満であることがわかった。図1
【0057】
実施例4
大腸菌を用いた発酵ブロスにL-アルギニンを濃度140g/Lで添加して、アルギニン過産生細菌株からの発酵ブロスを模倣した。このアルギニン添加ブロスを、リン酸を等モル量(アルギニン0.80モル/リン酸0.80モル)で用いて処理し、室温で5日間放置した。この期間にアルギニンリン酸塩の結晶が形成され、溶液から回収した。改変された発酵ブロスおよび結晶を超高速液体クロマトグラフィー(Ultra Performance Liquid Chromatography)で分析して、アンモニウムおよびアミノ酸の組成を調べた。発酵ブロス中に存在していた、たとえばアンモニウム、グリシン、トレオニン、アラニン、GABA、プロリン、オルニチン、バリン、およびロイシンといった多くの化合物は、結晶を溶解した溶液中には存在しなかった。結晶中、不純物の含量が総質量の0.01%未満であることがわかった(図3aおよび3bを参照)。
【0058】
実施例5
複合溶液からアルギニンリン酸塩の結晶を生成し、本発明に係る2通りの異なる手順を比較した。
【0059】
「酸を塩基に」法とも称される第1の手順において、アルギニン塩基(CAS:74-79-3)250gを500mlかつ60℃のdHO中に溶解した。このアルギニン溶液を撹拌し、このアルギニン溶液に、119mlの75%リン酸(アルギニン/リン酸塩1:1)を、温度が60℃を越えない速度で添加(titer)した。アルギニン溶液を60℃より高温で加熱するとアルギニンが分解してオルニチンおよびアンモニウムが生じることが知られている。アルギニンとリン酸の混合が完了するまでの時間を測定した(図4aおよび4bを参照)。
【0060】
「塩基を酸に」法とも称される別の手順を、以下のように設定した。250gのアルギニン塩基の一部を15℃のdHO中に溶解した(62.5gが溶解、187.5gが非溶解)。酸を塩基中に添加(titer)する代わりに、手順を逆にして、アルギニンスラリーを119mlの75%リン酸中に、撹拌しながら、温度が60℃を越えない速度で添加(titer)した。発熱反応によって、温度が15℃から60℃に上昇し、これに付随して、アルギニンの溶解度が、15℃において131.3g/lだったものが60℃において544g/lに増大し、アルギニンが100%溶解した(図5aおよび5bを参照)。アルギニンとリン酸とが完全に混合される時間を測定した。一部が溶解していないアルギニンを75%リン酸中に直接混合するという、この別の手順に従うことによって、アルギニンとリン酸の混合が完了するまでの時間が8.8分の1に低減でき、加熱に要する追加のエネルギーが不要となった(図6を参照)。
【0061】
「酸を塩基に」法を用いる場合、リン酸の取り込み速度は、発熱(温度が60℃を超えるとアルギニン分解の危険を伴う)によって厳しく限定され得る。第1の手順において必要とされるエネルギーは、水を15℃から60℃に加熱するための190キロジュール/lである(図6、方法1を参照)。もう一方の方法においては、アルギニン溶液を加熱するためのエネルギーは、アルギニンスラリーをリン酸中に添加した際の発熱反応によって提供されたため、加熱のためのエネルギーは不要であった(図6、方法2を参照)。
【0062】
実施例6
本実施例は、複合溶液から純粋なアルギニンリン酸塩の結晶を高収率で生成するプロセスにおいて本発明をどのように利用できるかを説明するために設定した。
【0063】
材料および方法
以下のようにアルギニンをゼオライト中に取り込ませた。クリノプチロライトという天然ゼオライト21.5g(1~3mm)(CAS:12173-10-3)に、アルギニンを52.5g/l含有する大腸菌発酵ブロス100mlを用いて、アルギニンを添加した。ゼオライト処理後に残った溶液をUPLCで分析して、アルギニン濃度を調べた。この処理を2回繰り返した。
【0064】
アンモニウムおよびアミノ酸の分析は以下のように行なった:Waters Tunable UV(TUV)detectorを備えたWaters Ultra High Performance(UPLC)systemを使用する逆相液体クロマトグラフィーによる分析。
【0065】
試料の誘導体化は、アミノ酸分析用のWaters AccQ-Tag Ultra Derivatization kitを用いて、Inselsbacherら(2011)により記載されるとおりに行なった(例外:内部標準10μlの代わりに、ここでは標準20μlを使用した)。試料10μlをホウ酸緩衝液(1M)70μlに添加し、内部標準(ノルバリン、100μモルN/l)20μl、その後にAccQ-Tag誘導体化試薬20μlを添加して、速やかに入念に混合した後、10分間かけて55℃まで加熱した。
【0066】
AccQ-Tag Ultra columnで分離した後、ギ酸99.9%およびアセトニトリル10%の混合物で、下記の勾配をかけて溶出することによって、アミノ酸を特定した。勾配:0~5.74分はギ酸を99.9%の一定濃度とし、5.74分~7.74分でギ酸を90.9%まで下げ、8.24分にてギ酸を78.8%とし、次いで8.74分にてギ酸を40.4%とした後、8.74~9.54分でギ酸を99.9%にて再平衡化した。流速は0.6ml/分とし、カラム温度は55℃に設定した。
【0067】
実験の手順
大腸菌を用いた発酵ブロスにアルギニンを濃度140g/Lで添加して、アルギニン過産生細菌株を模倣した。このアルギニン添加ブロスを、リン酸を等モル量(アルギニン0.80モル/リン酸0.80モル)で用いて処理し、室温で5日間放置した。この期間にアルギニンリン酸塩の結晶が形成され、溶液から回収した。結晶化後の発酵ブロス中のアルギニン濃度は52.5g/Lであった。この溶液に、天然ゼオライトであるクリノプチロライト21.5g(直径1~3mm)を添加した。
【0068】
ゼオライトの添加後にアルギニン濃度を測定したところ、発酵ブロス中のアルギニン濃度は37.5g/Lであった。ゼオライト処理を繰り返したところ、発酵ブロス中のアルギニン濃度は22.5g/Lとなった。こうした工程の実施後、発酵ブロスからのアルギニンの総収率は84%であった(図7aおよび7bを参照)。
図1
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図4a
図4b
図5a
図5b
図6
図7a
図7b