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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】自己抗体の直接イムノアッセイ測定法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20240613BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
G01N33/543 501A
G01N33/543 541B
G01N33/543 545A
G01N33/543 575
G01N33/53 N
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020573123
(86)(22)【出願日】2019-07-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 US2019040167
(87)【国際公開番号】W WO2020010009
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-02-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】62/693,439
(32)【優先日】2018-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508147326
【氏名又は名称】シーメンス・ヘルスケア・ダイアグノスティックス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・フリーマン
(72)【発明者】
【氏名】マライア・アークリ
(72)【発明者】
【氏名】シェリル・クラム
(72)【発明者】
【氏名】エディーン・メラベット
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】加々美 一恵
【審判官】松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/087634(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101470117(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0011860(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N33/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象からの生物学的サンプル中の抗体を検出する方法であって:
a)対象からの該生物学的サンプルを:
非標識抗原が結合した固体支持体であって、ここで該非標識抗原が抗体によって特異的に認識され、該固体支持体がビーズまたは粒子を含む、前記固体支持体;および
標識抗原であって、ここで該標識抗原が固体支持体に結合せず、抗体によって特異的に認識される、前記標識抗原
とともにインキュベートすることであり、
ここで、抗体の存在下で、固体支持体/標識抗原複合体が形成されることと;
b)該固体支持体/標識抗原複合体を、該抗体により結合されていない該標識抗原から分離することと;
c)該固体支持体/標識抗原複合体を検出することであり、該固体支持体/標識抗原複合体の存在が該生物学的サンプル中の抗体の存在を示すことと
を含む前記方法。
【請求項2】
抗体が自己抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
自己抗体がサイログロブリンに特異的に結合する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
非標識抗原がサイログロブリンであり、標識抗原が標識サイログロブリンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
固体支持体が、磁性粒子を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
非標識抗原が固体支持体に間接的に連結している、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
非標識抗原がビオチン化されており、固体支持体がストレプトアビジンを含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
標識抗原が検出可能な標識を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
検出可能な標識が、酵素コンジュゲート、蛍光プローブ、放射性同位元素、化学発光標識、生物発光標識またはそれらの組み合わせを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
対象からの生物学的サンプル中の抗体のレベルを決定することをさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
対象からの生物学的サンプル中の抗体のレベルが、固体支持体/標識抗原複合体のレベルに正比例している、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
生物学的サンプル中の抗体を検出するためのキットであって、
ビーズまたは粒子を含む固体支持体;
非標識抗原;および
標識抗原、ここで、該抗体は該非標識抗原と該標識抗原の両者に結合することができる、
を含むキット。
【請求項13】
固体支持体が非標識抗原には結合することができるが、標識抗原には結合することができない、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
生物学的サンプル中の抗体を検出するためのキットであって、
非標識抗原が結合した固体支持体であって、ビーズまたは粒子を含む前記固体支持体;および
標識抗原、ここで、該抗体は該非標識抗原と該標識抗原の両者に結合することができる、
を含むキット。
【請求項15】
抗原がサイログロブリンであり、標識抗原が標識サイログロブリンである、請求項12~14のいずれか1項に記載のキット。
【請求項16】
対象の自己免疫疾患を診断する際に使用するための情報を得る方法であって:
a)対象からの生物学的サンプルを:
非標識抗原が結合した固体支持体であって、ここで該非標識抗原が対象の自己抗体によって特異的に認識され、該固体支持体がビーズまたは粒子を含む、前記固体支持体;および
標識抗原であって、ここで該標識抗原が固体支持体に結合しておらず、前記自己抗体によって特異的に認識される、前記標識抗原
とともにインキュベートすることであり、
ここで、該自己抗体の存在下で、固体支持体/標識抗原複合体が形成されることと;
b)該固体支持体/標識抗原複合体を、該抗体により結合されていない該標識抗原から分離することと;
c)該固体支持体/標識抗原複合体が検出された場合、それは該対象自己免疫疾患を有することの肯定的情報であることと、
を含む前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年7月2日出願の米国仮出願第62/693,439号の優先権を主張し、その全体を参照によって本明細書に組み入れる。
【0002】
本明細書で開示するのは、対象からの生物学的サンプル中の抗体を検出する方法および対象の自己免疫疾患を診断する方法である。
【背景技術】
【0003】
対象からの生物学的サンプル中の自己抗体のような抗体の評価は、試薬およびアッセイの感度および特異性の欠如が妨げとなってきた。現在、対象からの生物学的サンプル中の自己抗体を検出するためには競合アッセイが使用されている。これらのアッセイでは、標識対照抗体を抗原に結合させ、次にこれらを固体支持体に結合させ、この標識対照抗体/抗原複合体を自己抗体を含む疑いのある生物学的サンプルとともにインキュベートする。自己抗体がサンプル中に存在する場合、標識対照抗体が標識対照抗体/抗原複合体から離れ、複合体から生成されるシグナルの減少が引き起こされる。サンプル中に存在する自己抗体の量はシグナルの減少に反比例する。このような競合アッセイは、自己抗体および対照抗体が抗原の同じエピトープをめぐって競合するという前提に基づいているが、常にそうであるとは限らない。したがって、競合アッセイ形式の有用性は限られている。
【0004】
抗原を固相に結合させ、生物学的サンプルとインキュベートし、洗浄/単離し、標識された抗ヒト二次抗体とインキュベートする間接結合アッセイも開発されている。しかし、このようなアッセイは時間がかかり、追加の試薬も必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示するのは、対象からの生物学的サンプル中の抗体を検出する方法であって、この方法は:a)対象からの生物学的サンプルを:非標識抗原が結合した固体支持体であって、ここで、前記非標識抗原が抗体によって特異的に認識される、前記固体支持体;および標識抗原であって、ここで標識抗原が固体支持体に結合せず、抗体によって特異的に認識される、前記標識抗原とともにインキュベートすることであり、ここで、抗体の存在下で、固体支持体/標識抗原複合体が形成されることと;b)固体支持体/標識抗原複合体を検出することであって、固体支持体/標識抗原複合体の存在が生物学的サンプル中の抗体の存在を示すこと
とを含む。
【0006】
対象の自己免疫疾患を診断する方法も提供される。この方法は:a)対象からの生物学的サンプルを:非標識抗原が結合した固体支持体であって、ここで非標識抗原が対象からの自己抗体によって特異的に認識される、前記固体支持体;および標識抗原であって、ここで標識抗原が固体支持体に結合せず、自己抗体によって特異的に認識される、前記標識抗原とともにインキュベートすることであり、ここで、自己抗体の存在下で、固体支持体/標識抗原複合体が形成されることと;b)固体支持体/標識抗原複合体が検出された場合、対象を自己免疫疾患と診断することとを含む。
【0007】
1)固体支持体、非標識抗原および標識抗原;または2)非標識抗原が結合している固体支持体および標識抗原を含むキットがさらに本明細書で開示される。
【0008】
添付の図面と併せて読むと、要約および以下の詳細な説明はさらに理解される。開示された方法およびキットを例示する目的で、方法およびキットの実施形態例が図面に示されているが、方法およびキットは、開示された特定の実施形態に限定されない。図面の説明は以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本明細書では抗原架橋イムノアッセイと呼ばれる開示されたイムノアッセイの反応スキーム例を示した図である。
図2】開示されたイムノアッセイを実施するためのタイムライン例を示した図である。
図3】開示されたイムノアッセイの用量反応曲線例(観察されたシグナル(RLU)の関数としての抗サイログロブリン抗原の濃度)を示した図である。
図4】開示されたイムノアッセイを使用して未希釈(ひし形)と希釈(正方形)の抗体サンプルを比較する用量反応曲線例を示した図である。
図5】アクリジニウムエステルの量の増加の影響を分析する用量反応曲線例を示した図である。三角=20×アクリジニウムエステル;正方形=10×アクリジニウムエステル;およびひし形=5×アクリジニウムエステル。
【発明を実施するための形態】
【0010】
開示された方法およびキットは、本開示の一部を形成する添付の図面に関連して記載された以下の詳細な説明を参照することにより、より容易に理解することができる。開示された方法およびキットは、本明細書に記載および/または提示した特定の方法およびキットに限定されず、本明細書で使用した用語は、例として特定の実施形態を説明することを目的としているだけであり、特許請求の範囲に記載した方法およびキットを限定するものではないことを理解されたい。
【0011】
別途明記しない限り、可能性のあるメカニズムまたは作用機序または改善の理由に関するいかなる説明も例示のみを意図しており、開示された方法およびキットは、そのような示唆されたメカニズムまたは作用機序または改善の理由の正誤によって制約されるべきではない。
【0012】
この文書全体を通して、説明は抗体を検出する方法および自己免疫疾患を診断する方法を指す。本開示が抗体を検出する方法に関連している構成または実施形態を記載または特許請求している場合、このような構成または実施形態は自己免疫疾患を診断する方法に同様に適用可能である。同様に、本開示が自己免疫疾患を診断する方法に関連している構成または実施形態を記載または特許請求している場合、このような構成または実施形態は抗体を検出する方法に同様に適用可能である。
【0013】
数値の範囲が本明細書に記載または規定されている場合、その範囲はその終点ならびに範囲内の個々の整数および分数全てを含み、記載した範囲内の値の大きなグループの中の部分グループを同程度で形成するために、それらの終点ならびに内部の整数および分数の様々な可能性のある全ての組み合わせによって形成されるより狭い範囲の各々も、これらのより狭い範囲の各々が明示的に記載されているかのように含む。数値の範囲が記載された値よりも大きいと本明細書に記載されている場合であっても、範囲は有限であり、本明細書に記載されているような本発明の文脈内で操作可能な値によってその上限が制限される。数値の範囲が記載された値よりも小さいと本明細書に記載されている場合であっても、その範囲はゼロ以外の値によってその下限が制限される。本発明の範囲は、範囲を定義するときに記載された特定の値に限定されることを意図するものではない。範囲は全て、包括的で組み合わせ可能である。
【0014】
値を近似値として表している場合、先行詞「約」を使用することによって特定の値が別の実施形態を形成しているものと理解されたい。特定の数値を参照することについては、文脈で明確に別途指示されていない限り、少なくともその特定の値を含む。
【0015】
明確にするために本明細書では別々の実施形態の文脈で記載されている開示された方法およびキットのある種の構成は、単一の実施形態で組み合わせて提供することもできることを理解されたい。逆に、簡潔にするために単一の実施形態の文脈で説明されている開示された方法およびキットの様々な構成は、別々にまたは任意の部分的組み合わせで提供することもできる。
【0016】
本明細書で使用したように、単数形「a」、「an」および「the」には複数形が含まれる。
【0017】
記載の態様に関連した様々な用語が、明細書および特許請求の範囲全体で使用されている。このような用語には、別途示さない限り、当技術分野におけるそれらの通常の意味を与えられるべきである。その他の詳細に定義された用語は、本明細書で提供された定義と一致する方法で解釈されるべきである。
【0018】
「含む(comprising)」という用語は、「から本質的になる(consisting essentially of)」および「からなる(consisting of)」という用語に包含される例を含むことを意図しており;同様に、「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、「からなる(consisting of)」という用語に包含される例を含むことを意図している。
【0019】
本明細書で開示するのは、対象からの生物学的サンプル中の抗体を検出するための、および/または対象の自己免疫疾患を診断するためのイムノアッセイである。開示されたイムノアッセイは、一段階の直接工程を使用して抗体を捕捉抗原(例えば、固体支持体に結合した非標識抗原)および固体支持体に結合していない標識抗原に同時に結合させることによって、サンプル中の抗体のレベルを評価する。抗体の二価的性質により、生物学的サンプル中に存在する抗体は、固体支持体に結合した非標識抗原および標識抗原に同時に結合し、固体支持体および標識抗原を含む複合体を形成する。アッセイからの読み取り(すなわち、抗体によって固体支持体に連結した標識抗原のシグナル)は、サンプル中に存在する抗体のレベルに正比例する。
【0020】
一部の実施形態では、イムノアッセイは「抗原架橋」イムノアッセイを含むことができ、そのための反応スキーム例を図1に示す。目的の抗体10を有することが知られている、または有することが疑われる生物学的サンプルを、標識抗原20および非標識抗原が結合した固体支持体30とインキュベートする。抗体が存在していない場合、標識抗原は固体支持体に結合せず、あるいは相互作用もしない。したがって、抗体が存在していない場合、標識抗原は溶液中に残存し、固体支持体を単離しても標識抗原を単離することにはならないであろう。抗体10が生物学的サンプル中に存在している場合、抗体10は固体支持体30に結合した非標識抗原および標識抗原20に同時に結合し、それによって標識抗原20および固体支持体30を連結し、固体支持体/標識抗原複合体40の形成を引き起こす。インキュベーションが行われる順番は、図1に例示した順番とは異なる可能性があることを理解されたい。例えば、目的の抗体10を有することが知られている、または有することが疑われる生物学的サンプルを、最初に非標識抗原が結合した固体支持体30とインキュベートし、続いて標識抗原20とインキュベートすることができる。あるいは、目的の抗体10を有することが知られている、または有することが疑われる生物学的サンプルを、非標識抗原が結合した固体支持体30および標識抗原20と同時にインキュベートすることができる。
【0021】
開示されたイムノアッセイを実施するためのタイムライン例を図2に例示する。図2において、目的の抗体10を有することが知られている、または有することが疑われる生物学的サンプルを、約3分未満の間、標識抗原20とインキュベートする。非標識抗原が結合した固体支持体30を添加し、抗体/標識抗原混合物と約6.5分間インキュベートする。その後、固体支持体/標識抗原複合体40を検出することができる(図示せず)。
【0022】
開示されたイムノアッセイは、対象からの生物学的サンプル中の抗体を検出する方法を含む。対象からの生物学的サンプル中の抗体を検出する方法は:
a)対象からの生物学的サンプルを:
非標識抗原が結合した固体支持体であって、ここで非標識抗原が抗体によって特異的に認識される、前記固体支持体;および
標識抗原であって、ここで標識抗原が固体支持体に結合せず、抗体によって特異的に認識される、前記標識抗原
とともにインキュベートすることであり、
ここで、抗体の存在下で、固体支持体/標識抗原複合体が形成されることと;
b)固体支持体/標識抗原複合体を検出することであり、固体支持体/標識抗原複合体の存在が生物学的サンプル中の抗体の存在を示すことと、
を含む。
【0023】
一部の実施形態では、抗体は自己抗体である。したがって、開示された方法は、対象からの生物学的サンプル中の自己抗体を検出するために使用することができる。開示された方法によって検出することができる自己抗体例は、サイログロブリンに特異的に結合する自己抗体(すなわち、抗サイログロブリン抗体)である。自己抗体がサイログロブリンに特異的に結合する実施形態では、非標識抗原はサイログロブリンであり、標識抗原は標識サイログロブリンである。
【0024】
開示されたイムノアッセイは、対象の自己免疫疾患を診断する方法を含む。対象の自己免疫疾患を診断する方法は:
a)対象からの生物学的サンプルを:
非標識抗原が結合した固体支持体であって、ここで非標識抗原が対象の自己抗体によって特異的に認識される、前記固体支持体;および
標識抗原であって、ここで標識抗原が固体支持体に結合せず、自己抗体によって特異的に認識される、前記標識抗原
とともにインキュベートすることであり、
ここで、自己抗体の存在下で、固体支持体/標識抗原複合体が形成されることと;
b)固体支持体/標識抗原複合体が検出された場合、対象を自己免疫疾患と診断することと、
を含む。
【0025】
開示された方法は、自己抗体によって認識される抗原が知られている任意の自己免疫疾患を診断するために使用することができる。一部の実施形態では、自己免疫疾患は、グレーブス病(GD)および橋本甲状腺炎(HT)を含む自己免疫性甲状腺疾患である。自己免疫疾患が自己免疫性甲状腺疾患である実施形態では、抗原(非標識および標識)はサイログロブリンである。
【0026】
以下の開示は、抗体を検出する方法および自己免疫疾患を診断する方法に同様に適用される。
【0027】
適切な生物学的サンプルには、血清、血漿、全血、唾液、尿、精液、汗、涙および体組織を含むがそれだけに限定されない目的の抗原を含有する、または含有していると疑われる対象からの任意の生物学的サンプルが含まれる。
【0028】
一部の実施形態では、インキュベーション工程の前に、対象からの生物学的サンプルを希釈してサンプルの濃度を低下させることができる。適切な希釈には、例えば、1:2、1:5、1:10、1:20、1:50、1:100、1:1000などが含まれる。
【0029】
固体支持体は、非標識抗原を直接的または間接的に結合または連結することができる任意の材料であってよい。固体支持体例には、カラムマトリックス材料、培養プレート、チューブ、皿、フラスコ、マイクロタイタープレート、ビーズ/粒子、熱殺菌ホルマリンで(もしくはその他の化学的方法で)固定された原核もしくは真核細胞、顕微鏡スライド、ACLAR(登録商標)フィルムもしくは任意のその他の光学的に透明なポリマーまたはそれらの組み合わせが含まれるが、それらだけに限定されない。固体支持体は、プラスチック、セルロース、セルロース誘導体、ニトロセルロース、ガラス、ガラス繊維、ラテックスまたはそれらの組み合わせから、完全にまたは部分的に構成される。一部の実施形態では、固体支持体には磁性粒子が含まれる。適切な磁性粒子には、常磁性粒子(PMP)およびラテックス磁性粒子(LMP)が含まれる。
【0030】
非標識抗原は、固体支持体に直接結合するか、または間接的に連結することができ、それによって非標識抗原が結合した固体支持体を形成する。非標識抗原は、固体支持体に直接結合することができる。非標識抗原を固体支持体に直接結合するために適切な技術には、例えば、共有結合、吸着、非共有相互作用またはそれらの組み合わせが含まれる。あるいは、非標識抗原は固体支持体に間接的に連結することができる。非標識抗原を固体支持体に間接的に連結するための適切な手段には、例えば、ペプチド、タンパク質、抗体、リンカーまたはそれらの組み合わせを介した連結が含まれる。一部の実施形態では、非標識抗原は、ストレプトアビジンおよびビオチンを介して固体支持体に間接的に連結することができる。例えば、非標識抗原をビオチン化することができ、固体支持体はストレプトアビジンを含むことができる。
【0031】
非標識抗原が結合した固体支持体は、1つまたはそれ以上の塩、1つまたはそれ以上の安定剤および1つまたはそれ以上の界面活性剤を含む緩衝液中に存在させることができる。一部の実施形態では、緩衝液は、HEPES塩、塩化ナトリウム、ウシアルブミン、ウシグロブリンおよびTween20を含むことができる。一部の実施形態では、緩衝液は、HEPES塩(HEPES酸16.9g/LおよびHEPESナトリウム塩7.6g/L)、300mM塩化ナトリウム、1%ウシアルブミン、0.1%ウシグロブリンおよび0.2%Tween20を含むことができる。
【0032】
標識抗原は、抗体が存在しない場合、固体支持体と結合したりその他の相互作用をしたりしない。したがって、固体支持体がストレプトアビジンを含む実施形態では、標識抗原はビオチン化されない。
【0033】
標識抗原は検出可能な標識を含む。適切な検出可能な標識には、酵素コンジュゲート(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)、グルコースオキシダーゼおよびβ-ガラクトシダーゼ)、蛍光プローブ、放射性同位体、化学発光および生物発光標識またはそれらの組み合わせが含まれるが、それらだけに限定はされない。一部の実施形態では、検出可能な標識には、アクリジニウムエステルまたはその類似体が含まれる。アクリジニウムエステル類似体には、ジメチルアクリジニウムエステル(DMAE)、N-スルホプロピルジメチルアクリジニウムエステル(NSP-DMAE)、高量子収率アクリジニウムエステル(HQYAE)、双性イオンアクリジニウムエステル(ZAE)、ヘキサ(エチレン)グリコールアクリジニウムエステル(HEGAE)、N-スルホプロピル-2-イソプロポキシジメチルアクリジニウムエステル(イソ-Di-ZAE)、トリスルホプロピルアクリジニウムエステル(TSP-AE)またはヘキサ(エチレン)グリコールリンカーを含むN-スルホプロピルジメチルアクリジニウムエステル(HEG-GLU-AE)が含まれるが、それらだけには限定されない。一部の実施形態では、検出可能な標識には、ルテニウムエステルまたはその類似体が含まれる。検出可能な標識は、抗原と1:1のモル比で存在することができ、またはモル過剰で存在することができる。例えば、検出可能な標識は5、10、20または50モル過剰で存在することができる。
【0034】
標識抗原は、1つまたはそれ以上の塩、1つまたはそれ以上の安定剤および1つまたはそれ以上の界面活性剤を含む緩衝液中に存在させることができる。一部の実施形態では、緩衝液は、HEPES塩、塩化ナトリウム、ウシアルブミン、ウシグロブリンおよびTween20を含むことができる。一部の実施形態では、緩衝液は、HEPES塩(HEPES酸16.9g/LおよびHEPESナトリウム塩7.6g/L)、300mM塩化ナトリウム、1%ウシアルブミン、0.1%ウシグロブリンおよび0.2%Tween20を含むことができる。
【0035】
開示された方法は、現在使用されている間接的2段階アッセイよりも速く実行することができ、約1時間のオーダーで行うことができる。例えば、開示された方法において、抗体を有することが知られている、または有することが疑われる生物学的サンプルは、反応混合物中で約1分、約2分、約3分、約4分、約5分間または約10分未満インキュベートすることができる。標識抗原を添加して、生物学的サンプルと約1分、約2分、約3分、約4分間または約5分未満インキュベートすることができる。非標識抗原が結合した固体支持体を生物学的サンプルおよび標識抗原の混合物に添加し、約1分、約2分、約3分、約4分、約5分、約6分、約7分または約10分未満インキュベートすることができる。一部の実施形態では、インキュベーション工程は、合計で約10分から約20分で実行する。その後の検出または診断工程は、約5分未満で実行することができる。アッセイに必要な時間の長さは、生物学的サンプル中の抗体のレベルおよび抗原に対する抗体の親和性を含むいくつかの要因に基づいて変化し得ることを理解されたい。したがって、開示された方法は、任意の適切な時間の長さで実行することができる。
【0036】
この方法は、対象からの生物学的サンプル中の抗体のレベルを決定することをさらに含むことができる。対象からの生物学的サンプル中の抗体のレベルは、固体支持体/標識抗原複合体のレベルに正比例する。したがって、抗体のレベルは、固体支持体/標識抗原複合体のレベルを決定することによって決定することができ、例えば、複合体からのシグナルを測定することによって実行することができる。同様に、対象の自己免疫疾患を診断するためにこの方法を使用する実施形態では、固体支持体/標識抗原複合体は、固体支持体に連結した標識抗原からのシグナルを測定することによって検出される。
【0037】
開示された方法は手動で実行するか、または自動化することができる。例えば、開示された方法は、ADVIA CENTAUR(登録商標)イムノアッセイシステムまたはATELLICA(商標)システムを使用して実行することができる。
【0038】
開示された方法を実施するためのキットも提供されている。キットは、固体支持体、非標識抗原および標識抗原を含むことができる。適切な固体支持体には、上記に開示されたものが含まれる。固体支持体は非標識抗原には結合するが、標識抗原には結合しない。したがって、一部の実施形態では、キットは非標識抗原が結合した固体支持体および標識抗原を含む。一部の実施形態では、抗原はサイログロブリンであり、標識抗原は標識サイログロブリンである。適切な標識には、方法について上記に開示されたものが含まれる。
【実施例
【0039】
以下の実施例は、本明細書で開示した実施形態のいくつかをさらに説明するために提供されている。実施例は、開示された実施形態を例示するものであって、限定するものではない。
【0040】
試薬の製造
サイログロブリンを結合した固相試薬 - アッセイ固相は、HEPES塩(HEPES酸16.9g/LおよびHEPESナトリウム塩7.6g/L)、イオン強度を提供するための300mM塩化ナトリウム、安定剤としての1%ウシアルブミンおよび0.1%ウシグロブリンならびに0.2%Tween20を含有する緩衝生理食塩水中において、標的粒子濃度0.6g/Lで、ビオチン化ヒトサイログロブリンと結合したストレプトアビジン被覆磁性粒子(Thermo Fisher Scientific、Dynabeads(商標)M270 REF 34353)を含有した。
【0041】
標識サイログロブリン試薬 - アッセイ標識試薬は、HEPES塩(HEPES酸16.9g/LおよびHEPESナトリウム塩7.6g/L)、イオン強度を提供するための300mM塩化ナトリウム、安定剤としての1%ウシアルブミンおよび0.1%ウシグロブリンならびに0.2%Tween20を含有する緩衝生理食塩水中において、ZAE型アクリジニウムエステルで標識したヒトサイログロブリンをサイログロブリン標的濃度1.2μg/mLで含有した。
【0042】
試料の製造
WHO参照物質(抗サイログロブリン血清、ヒトNIBSCコード65/093)のサンプル(10レベル)は、推奨されている希釈手順に従って製造した。各サンプル内の抗サイログロブリンの予測濃度を表1に示す。同様に、患者血清標準物は、高濃度のヒト抗サイログロブリン抗体(例えば、10,000~50,000IU/mL)を用いて製造し、広い濃度範囲にわたって10レベルになるように希釈した(表2)。全サンプルは、開示されたイムノアッセイ(「抗原架橋イムノアッセイ」と呼ばれる)およびADVIA CENTAUR(登録商標)システムで現在使用されている競合アッセイを使用して分析した。
【0043】
抗原架橋イムノアッセイの反応手順
図2に例示したように、以下の工程はADVIA CENTAUR(登録商標)システムによって実行した:
・ 抗サイログロブリン抗体を含有しているサンプル25μLをキュベットに分注し;
・ サンプルを4.75分間インキュベートし;
・ 標識サイログロブリン試薬の試薬プローブ1 100μLを分注し、混合物を2.75分間インキュベートし;
・ サイログロブリン結合固相試薬の試薬プローブ2 200μLを分注し、混合物を37℃で6.5分間インキュベートし;
・ 形成された複合体は磁石を使用して分離し、複合体を吸引し、洗浄緩衝液で洗浄し;
・ 酸試薬(HCL)および塩基(NaOH)試薬各300μLを分注して、化学発光反応を開始し;
・ 相対発光単位(RLU)の結果を報告した。
【0044】
競合イムノアッセイの反応手順
以下の工程は、手動で実行したか、またはADVIA CENTAUR(登録商標)システムを使用して実行した。
・ 抗サイログロブリン抗体を含有しているサンプル40μLをキュベットに分注し;
・ 標識試薬100μLをキュベットに添加し、37℃で2.5分間インキュベートした。標識試薬は、BSA、タンパク質安定剤および保存剤を含有する緩衝食塩水中で、ヒトサイログロブリン(約0.38μg/mL)をアクリジニウムエステルと混合することによって製造し;
・ 固相200μLをキュベット中で混合し、37℃で5.0分間インキュベートした。固相試薬は、BSA、タンパク質安定剤および保存剤を含有する緩衝液中で、常磁性粒子に共有結合したポリクローナルヤギ抗ヒト抗体(約49.5μg/mL)に結合したポリクローナルヒト抗サイログロブリン抗体(約1.98μg/mL)を混合することによって製造し;
・ 次に、磁石を適用して分離し、吸引し、試薬水でキュベットを洗浄し;
・ 酸試薬(HCl)および塩基試薬(NaOH)各300μLを分注して、化学発光反応を開始し;
・ RLU結果を報告した。
【0045】
データ分析
反応から生じるRLUは、mLあたりの抗体活性の国際単位の予測濃度(IU/mL)の関数として決定された(WHO参照サンプルについては表1、患者血清サンプルについては表2)。抗原架橋イムノアッセイでは、シグナル(RLU)はサンプル中に存在する自己抗体の濃度に正比例したが、一方、競合アッセイでは、シグナルはサンプル中に存在する自己抗体の濃度に反比例した。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
架橋アッセイは、低濃度での競合アッセイで認められたシグナルの相対的減少と比較して、有意に高いシグナルの相対的増加を示した。低濃度でのシグナルの相対的増加または減少は、アッセイの検出能力に直接影響を及ぼす。例えば、抗体が95%のケースで検出され得る最低濃度である検出限界(LoD)は、アッセイの検出能力に依存している。上記に示した実験では、LoDは架橋アッセイおよび競合アッセイでそれぞれ1IU/mLおよび45IU/mLと計算された。上記の結果は、開示された抗原架橋イムノアッセイが現在使用されている競合アッセイよりも感度が高いことを示した。
【0049】
抗原架橋イムノアッセイの最適化
1段階工程イムノアッセイの1つの潜在的な欠点は「フック効果」で、これは分析物濃度が増加するにつれて検出可能なシグナルが減少し、潜在的に誤った低い結果が生じることである。図3に示したように、例えば、より低い抗サイログロブリン抗体濃度では、抗原架橋アッセイは抗体の濃度と相対的シグナル(RLU)との間に直接的な関係が示された。しかし、抗体の濃度が増加するにつれて、図3では相対的シグナルが飽和し始めた(約500UI/mL)。抗サイログロブリン抗体濃度が低い場合、限られた数の抗体が多数の固体支持体/非標識サイログロブリン複合体に遭遇する。抗体の濃度が増加するにつれて、固体支持体/非標識サイログロブリン複合体が不足するようになり、したがって、抗体の総量のごく一部のみが固体支持体/非標識サイログロブリン複合体に結合し、固体支持体/非標識サイログロブリン複合体と結合した一部の抗体を完全に検出することはできない。開示されたイムノアッセイでは、この「フック効果」は、標識サイログロブリンおよび結合した非標識サイログロブリンに対する抗体のモル比を最適化することによって克服することができた。図4に示したように、抗サイログロブリン抗体サンプルを希釈すると(正方形)、抗体測定範囲が広がり、希釈していない(ひし形)サンプルと比較して、シグナルと抗体濃度との間に直線関係が得られた。
【0050】
イムノアッセイで得られた相対的シグナルに対する標識の影響を分析するために、サイログロブリンへのアクリジニウムエステルの添加量を変化させて、アクリジニウムエステル標識の比を5、10および20モル過剰にした。図5に示したように、アクリジニウムエステルの量が多いほど、より高い相対的シグナルが得られた。
【0051】
同様に、抗サイログロブリン抗体の固体支持体/非標識サイログロブリン複合体に対する比を最適化して、所望する用量反応を実現し、分析感度および測定範囲を拡大することができる。
【0052】
当業者であれば、本発明の好ましい実施形態に対して多数の改変および修正を行うことができ、そのような改変および修正は、本発明の精神から逸脱することなく行うことができることを理解するであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲内にあるこのような同等の変更を全て包含することが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5