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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】パワー半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 25/07 20060101AFI20240613BHJP
   H01L 25/18 20230101ALI20240613BHJP
【FI】
H01L25/04 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021015673
(22)【出願日】2021-02-03
(65)【公開番号】P2022118878
(43)【公開日】2022-08-16
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】株式会社 日立パワーデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】楠川 順平
(72)【発明者】
【氏名】井出 英一
(72)【発明者】
【氏名】三間 彬
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-177006(JP,A)
【文献】国際公開第2014/128899(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L23/28-23/31
H01L25/00-25/07
H01L25/10-25/11
H01L25/16-25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、前記絶縁基板の表面に設けられた半導体素子と、前記半導体素子を封止するゲル状の第1の絶縁材と、を備えるパワー半導体装置において、
前記半導体素子と外部機器とを電気的に接続するための板状端子を有し、
前記板状端子の前記第1の絶縁材に囲まれる部分の全てが、前記第1の絶縁材よりも硬度の高い第2の絶縁材で被覆されていることを特徴とするパワー半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパワー半導体装置において、
前記板状端子は一端が前記絶縁基板の表面の電極に接合されていることを特徴とするパワー半導体装置。
【請求項3】
請求項1に記載のパワー半導体装置において、
前記絶縁基板、前記半導体素子および前記第1の絶縁材を収容するケースを有し、
前記板状端子は前記ケースに設けられ、金属ワイヤを介して前記絶縁基板の表面の電極または前記半導体素子の電極と電気的に接続されていることを特徴とするパワー半導体装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のパワー半導体装置において、
前記半導体素子と前記絶縁基板の電極との接合部が、前記第2の絶縁材で被覆されていることを特徴とするパワー半導体装置。
【請求項5】
請求項4記載のパワー半導体装置において、
前記半導体素子と前記絶縁基板の電極とが焼結金属により接合されていることを特徴とするパワー半導体装置。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のパワー半導体装置において、
前記第2の絶縁材は、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂およびシリコーン樹脂のうちの少なくとも1つであることを特徴とするパワー半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模での環境や資源の問題がクローズアップされており、資源の有効活用、省エネルギー化の推進、地球温暖化ガスの排出抑制のため、パワー半導体素子のスイッチングを利用したインバータ装置を代表とする高効率な電力変換装置が注目されている。こうした電力変換装置は、冷蔵庫やエアコンなどの家電製品をはじめ、産業機械、ハイブリッド自動車(Hybrid Electric Vehicle;HEV)、電気自動車(Electric Vehicle;EV)、鉄道、電力および社会インフラ関連機器等に幅広く応用展開されている。
【0003】
電力変換装置は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体素子を内蔵したパワー半導体装置(パワーモジュール)、バスバー、コンデンサ、インダクター、各種センサおよび制御回路等の数多くの部品から構成されている。設置面積の小スペース化や安全性のため、小型で信頼性の高い電力変換装置が求められている。これには、電力変換装置の主要構成部品であるパワー半導体装置の小型化および高信頼化が重要である。
【0004】
パワー半導体装置のパワー半導体素子には、現在、主としてSiを材料とするIGBTやダイオード等が使用されている。パワー半導体装置は、上述した通り小型化および大容量化が進んでおり、これに伴い高温での安定動作が求められている。また、パワー半導体素子には「高耐圧」、「低オン抵抗」および「高速スイッチング」特性も求められており、絶縁破壊電界強度がSiの10倍、バンドギャップがSiの3倍の特性を有するSiCが次世代パワー半導体素子として適用され始め、普及が期待されている。この次世代パワー半導体素子ではSiデバイスよりもさらに高温での素子の使用が可能となるため、パワー半導体装置には高温動作での高い信頼性が必要である。
【0005】
高温動作における高い信頼性を実現することを目的とした半導体装置として、例えば特許文献1がある。特許文献1には、絶縁基板1の表面に表面電極パターン2が、裏面に裏面電極パターン3が、それぞれ形成された半導体素子基板4と、表面電極パターン2の表面に接合材7を介して設けられた半導体素子5,6と、半導体素子5,6および表面電極パターン2を覆う第一の封止樹脂12と、絶縁基板1の表面で、少なくとも表面電極パターン2または裏面電極パターン3が形成されていない部分と第一の封止樹脂12とを覆う第二の封止樹脂120とを備える半導体装置が開示されている。特許文献1において、第二の封止樹脂120の弾性率は、第一の封止樹脂12の弾性率よりも小さいとともに、第一の封止樹脂12の半導体素子5,6に対応する中央部分が周辺部分よりも厚みが厚くなるように段差が設けられている。
【0006】
特許文献1の構成によれば、絶縁基板1が露出している部分は、第一の封止樹脂12よりも弾性率が低い第二の封止樹脂120で覆われているため、ヒートサイクルが生じた場合、第一の封止樹脂12よりも低弾性率、すなわち柔らかい第二の封止樹脂120の部分で、第一の封止樹脂12と絶縁基板1との膨張係数の違いにより発生する応力が緩和され、第一の封止樹脂12の剥離や亀裂が生じ難く、信頼性の高い半導体装置を得ることができるとされている。また、上記段差によって、半導体素子5,6を押さえつける力が強く、接合材7の剥がれを抑制することができ、また、第一の封止樹脂12と表面電極パターン2とが接する部分の、第一の封止樹脂12の端部E点における第一の封止樹脂12に発生するせん断応力が緩和され、剥離が生じ難くなるとされている。
【0007】
また、特許文献2には、単純な構造で剥離やクラックを抑制した高い信頼性を有する半導体装置として、表面電極3b上に半導体素子1a,1bが固着された半導体素子基板3と、半導体素子1a,1bの上面及び表面電極3bにそれぞれ接合された複数の主端子5a,5bと、表面電極3bの周辺部に設けた第1のケース4の内部を、半導体素子1a,1bと半導体素子基板3とを覆うように封止する第1の封止樹脂9とを備えた内部モジュールが複数配置された放熱板10と、放熱板10の周辺部に設けられた第2のケース12の内部を、第1の封止樹脂9と第1のケース4と半導体素子基板3とを覆うように封止する第2の封止樹脂13と、を備えた半導体装置100が開示されている。
【0008】
そして、第1のケース4内の表面電極3bは、絶縁基板3a全体を被覆し、かつ、表面電極3bと裏面電極3cは、絶縁基板3aに対して対称に形成されており、複数の主端子5a,5bは第2の封止樹脂13の外部に露出するとともに、第2の封止樹脂13の弾性率が第1の封止樹脂9の弾性率よりも小さい半導体装置100が開示されている。特許文献2によれば、半導体素子基板3のうち、絶縁基板3aと封止樹脂が接する部分は封止樹脂としては弾性率が小さい第2の封止樹脂13となっているため、応力が低減され、この部分での剥離が抑制されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-16684号公報
【文献】特開2015-130457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した特許文献1および特許文献2は、半導体素子を、比較的硬い第1の封止樹脂(エポキシ系樹脂等)で覆い、その周囲を、第1の封止樹脂よりも柔らかい第2の封止樹脂(シリコーン系やウレタン系)によって覆う構成を有している。このような構成によって、絶縁基板と接触する樹脂が第1の封止樹脂よりも柔らかい第2の封止樹脂となるため、絶縁基板の応力を緩和し、半導体素子がヒートサイクルを受ける場合も封止樹脂に亀裂が入ることや、基板から剥離することを抑制できるとされている。
【0011】
一方、パワー半導体装置において、高温動作によって主端子が加熱されると、主端子と封止樹脂との間に存在するボイド(気泡)や半導体装置外部から封止樹脂を通って侵入してきた水蒸気が加熱されて気化された際に発生するボイドが部分放電の起点となり、半導体装置が絶縁破壊されるおそれがある。上述した特許文献1および特許文献2の技術では、主端子が加熱された際に発生するボイドに起因する部分放電を防止することについては何ら検討されておらず、この点について更なる改善が必要であった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、主端子が加熱された際に、主端子と封止樹脂との間に発生するボイドや半導体装置外部から封止樹脂を通って侵入してきた水蒸気によって発生するボイドを起点とする部分放電を防止し、小型で信頼性の高いパワー半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、絶縁基板と、絶縁基板の表面に設けられた半導体素子と、半導体素子を封止するゲル状の第1の絶縁材と、を備えるパワー半導体装置において、半導体素子と外部機器とを電気的に接続するための板状端子を有し、板状端子の第1の絶縁材に囲まれる部分の全てが、第1の絶縁材よりも硬度の高い第2の絶縁材で被覆されていることを特徴とするパワー半導体装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、主端子と封止樹脂との間に発生するボイドや半導体装置外部から封止樹脂を通って侵入してきた水蒸気によって発生するボイドを起点とする部分放電を防止し、小型で信頼性の高いパワー半導体装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のパワー半導体装置の第1の実施形態を示す断面模式図
図2】本発明のパワー半導体装置の第2の実施形態を示す断面模式図
図3】比較例1(従来の第1の例)のパワー半導体装置の断面模式図
図4図3の主端子とその周囲の拡大図
図5】比較例2(従来の第2の例)のパワー半導体装置の断面模式図
図6図5のパワー半導体装置において主端子間で発生する電流リークを示す図
図7図3の回路電極との接合部周囲の断面拡大図
図8】本発明のパワー半導体装置の第3の実施形態を示す断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1の実施形態]
図1は本発明のパワー半導体装置の第1の実施形態を示す断面模式図である。図1に示すパワー半導体装置100Aは、絶縁回路基板1と、パワー半導体素子(単に「半導体素子」とも称する。)2と、絶縁回路基板1およびパワー半導体素子2を封止するゲル状の第1の絶縁材8とを有する。絶縁回路基板1およびパワー半導体素子2は樹脂ケース7に収容されており、樹脂ケース7の内部に第1の絶縁材8が充填され、樹脂ケース蓋9で密閉されることで封止されている。
【0017】
絶縁回路基板1は、絶縁基板1Aを有し、絶縁基板1Aの一方の面に回路電極1Bが、もう一方の面に裏面電極1Cが、それぞれろう材(図示なし)を介して接合されている。裏面電極1Cは、はんだ等の接合材3によって放熱ベース6に固定されている。回路電極1Bには、はんだや焼結金属などの接合材3によってパワー半導体素子2が固定されている。
【0018】
放熱ベース6および絶縁回路基板1は、パワー半導体素子2で発生した熱を効率良く逃がす必要がある。このため放熱ベース6には、アルミニウム(Al)やアルミニウムと炭化ケイ素の複合材料(Al-SiC)等が使用されている。また絶縁回路基板1の絶縁基板1Aには、酸化アルミニウム(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si)等が、回路電極1Bにはアルミニウム(Al)、銅(Cu)等が使用されている。
【0019】
回路電極1Bのパワー半導体素子2が搭載されていない部分には主端子5が接合され、パワー半導体素子2と主端子5とが、回路電極1Bもしくは回路電極1Bおよび金属ワイヤ4を介して電気的に接続される。主端子5は、装置内外に電力を伝達するための板状の金属端子であり、回路電極1Bと接合されていない方の端部がケースの外側で図示しない外部機器と接続されており、パワー半導体装置100Aの入出力端子となる。この他、図示しないが、半導体装置100Aは制御端子および補助端子を有する。
【0020】
本発明の半導体装置100Aは、主端子5が板状の部材からなる板状端子であり、板状端子の第1の絶縁材8に囲まれる部分の全てが、第1の絶縁材8よりも硬度の高い第2の絶縁材10で被覆されている。このような構成とすることで、主端子5が加熱された際に、主端子5と第1封止樹脂8との間に発生するボイドや半導体装置100Aの外部から第1の封止樹脂8を通って侵入してきた水蒸気によって発生するボイドを起点とする部分放電を防止することができる。
【0021】
上述した本発明の効果について、従来の半導体装置の構成と比較しながら詳述する。図3は比較例1(従来の第1の例)のパワー半導体装置の断面模式図であり、図4図3の主端子とその周囲の拡大図である。図3のような構造におけるパワー半導体装置100Cにおいて、パワー半導体素子2に流す電流を大きくして高温動作させると、絶縁回路基板1に接続されている主端子5も加熱されて温度が上昇する。主端子5の表面には、ミクロに見ると凹凸が形成されている。また、主端子5は、銅等の金属板を切断して作製されるため、切断面は表面よりもさらに凹凸が大きく形成されている。主端子5の一部と、主端子5と絶縁回路基板1との接合部は第1の絶縁材(シリコーンゲル)8によって封止されているが、シリコーンゲルは主端子5に化学的に接着した状態ではなく、密着した状態で封止されているので、主端子5の表面の凹凸部分には、シリコーンゲル8が存在しないボイドが存在する場合がある。
【0022】
また、シリコーンゲル8は水滴をはじき、吸湿しにくい材料であるが、水蒸気を透過しやすい材料である。このため、高温高湿下にパワー半導体装置100Cが置かれる場合、シリコーンゲル8を透過した水蒸気成分が主端子5との界面に到達、蓄積し、主端子5が加熱されると、界面に蓄積された水分が気化し、図4に示すように、主端子5の周囲のシリコーンゲル8中にボイド11が発生することがある。主端子5と放熱ベース6間には電圧が印加され、シリコーンゲル8の比誘電率が約3.0、ボイド(空気)の比誘電率が1.0であるため、ボイドに高い電圧が分担されることとなり、印加電圧が高い場合、ボイド内で部分放電が発生する恐れがある。また、印加電圧が高く、部分放電が継続的に発生する場合、主端子5と放熱ベース6間が絶縁破壊に至る可能性もある。
【0023】
本発明のパワー半導体装置100Aにおいては、主端子5のゲル状の第1の絶縁材8に囲まれる(封止される)部分の全てが、第1の絶縁材8よりも硬度の高い第2の絶縁材10で被覆されているのが特徴である。第2の絶縁材10としては、ゲル状の第1の絶縁材8より硬度が高い樹脂であれば良く、特に限定するものでないが、主端子5と強固に接着する樹脂が好ましい。図1に示すパワー半導体装置100Aにおいては、ポリアミドイミド樹脂(PAI)を用いた。PAI以外としては、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂およびシリコーン樹脂等を使用することができる。ゲル状の第1の絶縁材8はゲル状で柔らかく、このため水分が気化された場合にボイドが形成しやすい。第2の絶縁材10は、ゲルよりも硬度が高い樹脂なので、例え第2の絶縁材10と主端子5との界面に水分が蓄積したとしても、ボイドとして膨らまない。
【0024】
上記構成によって、本実施形態のパワー半導体装置100Aでは、パワー半導体装置の設置される環境が高温高湿な状態にあっても、主端子5の第1の絶縁材8に囲まれる部分の全てが第2の絶縁材10で被覆され、主端子5と第2の絶縁材10が接着されているため、ゲル状の第1の絶縁材8を透過した水蒸気が、第2の絶縁材10を透過せず、主端子5と第2の絶縁材10の界面に蓄積しない。また、主端子5の表面の凹凸と第2の絶縁材10との間にボイドが存在していたとしても、第2の絶縁材10が硬い材料であるので、主端子5の加熱によってボイドが膨らむことはない。よって、主端子5が加熱された時もボイドの形成は抑えられる。ボイドの形成がないので、主端子5と放熱ベース6間に高電圧が印加された場合でも、部分放電の発生は無い。
【0025】
上述した構成を有するパワー半導体装置100Aは、以下の手順で作製される。パワー半導体素子2は、例えばIGBT等のスイッチング動作可能な素子やダイオードであり、はんだや焼結金属などの接合材3を介して絶縁回路基板1の回路電極1Bに接合する。そして、パワー半導体素子2の、絶縁回路基板1の回路電極1Bに接合されていないもう一方の面にある電極と、絶縁回路基板1の回路電極1Bのうちパワー半導体素子2が接合されていない回路電極1Bとの間を金属ワイヤ4で接続する。次に、パワー半導体素子2が搭載された絶縁回路基板1を放熱ベース6にはんだ等の接合材を介して接合する。その後、放熱ベースの外周部に樹脂ケース7を接着剤等を介して取付け、主端子5を絶縁回路基板1の回路電極1Bの表面に接合する。主端子5の表面に、第2の絶縁材10を塗布し、乾燥する。そして、最後に樹脂ケース7の内側にゲル状の第1の絶縁材8(シリコーンゲル)を注入硬化させ、樹脂ケース蓋9を被せてパワー半導体装置100Aが完成する。
【0026】
ここで、上述した特許文献1および特許文献2と本発明の構成について比較する。特許文献1においては、ケース側板11に配置された主端子(端子14)は、第二の封止樹脂(シリコーンゲル)120で封止されており、図3および図4に示した構成のように、シリコーンゲルにボイドが発生する可能性があるが、このボイドの発生に関しての記載は無く、ボイドの発生による部分放電の防止についての対策はなされていない。
【0027】
図5は比較例2(従来の第2の例)のパワー半導体装置の断面模式図であり、図6図5のパワー半導体装置において主端子間で発生する電流リークを示す図である。図5のパワー半導体装置100Dの構成は、特許文献2に相当する構成であり、絶縁回路基板1と主端子5の接合部とその近傍は第1の絶縁材8(特許文献2の第2の封止樹脂13)よりも弾性率が高い第2の絶縁材10(特許文献2の第1の封止樹脂9)で覆われている。主端子5の第2の絶縁材10で覆われていない箇所は第1の絶縁材8で覆われている。すなわち、主端子5の第1の絶縁材8と接触する部分において、第2の絶縁材10で覆われていない部分が存在し、主端子5の表面のボイド発生を完全には防止できない。
【0028】
また、図6に示すように、図の左側の主端子5と図の右側の主端子5との間に第1の絶縁材8と第2の絶縁材10の界面が形成されており、このように界面が形成されると界面に水分が蓄積し、図の左側の主端子5と図の右側の主端子5との間で電流がリークする(図6中矢印14で図示)という問題も発生する可能性がある。これに対し、本発明では、主端子5の第1の絶縁材8に囲まれる部分の全てが第2の絶縁材10で被覆されるため、仮に図6のように図の左側の主端子5と図の右側の主端子5との間に第1の絶縁材8と第2の絶縁材10の界面が形成されこの界面に水分が蓄積していたとしても、水分が蓄積する部分においては主端子5は第2の絶縁材10で被覆されているため図6で発生するような電流のリークを防止できる。
【0029】
[第2の実施形態]
図2は本発明のパワー半導体装置の第2の実施形態を示す断面模式図である。本実施形態に係るパワー半導体装置100Bにおいては、主端子5の第1の絶縁材8に囲まれる部分の全てに加えて、パワー半導体素子2と絶縁回路基板1の回路電極1Bとの接合部が、第1の絶縁材8よりも硬度の高い第2の絶縁材10で被覆されていることが特徴である。
【0030】
図7はパワー半導体素子2と絶縁回路基板の回路電極1Bとの接合材3に銅や銀等の焼結金属を用いた場合の断面模式図である。焼結金属は、金属粉末を融点よりも低い温度で加熱することにより固まる焼結体で、多孔質である。このため、接合材3に焼結金属を用いた場合、第1の絶縁材8と接合材3の間に水分が蓄積し、接合材3の周囲でボイド11が発生する可能性がある。
【0031】
このため、本発明の第2の実施形態に係るパワー半導体装置100Bにおいては、図2に示すように、主端子5の第1の絶縁材8に囲まれる部分の全てに加えて、パワー半導体素子2と絶縁回路基板1の回路電極1Bとの接合部を、第1の絶縁材8よりも硬度の高い第2の絶縁材10で被覆した。このような構成とすることで、本実施形態のパワー半導体装置100Bでは、パワー半導体装置の設置される環境が高温高湿な状態にあっても、主端子5と絶縁回路基板1の回路電極1Bとの接合部およびパワー半導体素子2と絶縁回路基板1の回路電極1Bとの接合部が第2の絶縁材10で被覆されて接着されているため、第1の絶縁材8を透過した水蒸気が、第2の絶縁材10を透過せず、主端子5と第2の絶縁材10の界面、および、主端子5と絶縁回路基板1の回路電極1Bとの接合部と第2の絶縁材10の界面、および、パワー半導体素子2と絶縁回路基板1の回路電極1Bの接合部と第2の絶縁材10の界面に蓄積しない。よって主端子5およびパワー半導体素子2が加熱された際も、図7に示すようなボイド11の形成は抑えられる。ボイド11の形成がないので、主端子5と放熱ベース6間、パワー半導体素子2の電極間、回路電極1Bと他の回路電極1B間に高電圧が印加された場合でも部分放電12の発生は無い。
【0032】
[第3の実施形態]
図8は本発明のパワー半導体装置の第3の実施形態を示す断面模式図である。図8は、図1の主端子5の位置を変更した変形例に相当する。図8に示すパワー半導体装置100Eは、絶縁回路基板1、パワー半導体素子2および第1の絶縁材8を収容する樹脂ケース7を有している。主端子5は樹脂ケース7に設けられ、金属ワイヤ4を介して絶縁基板1Aの表面の回路電極1Bまたはパワー半導体素子2の電極と電気的に接続されている。そして、主端子5の第1の絶縁材8に囲まれる部分の全てが、第1の絶縁材8よりも硬度の高い第2の絶縁材10で被覆されている。このように、板状端子である主端子5が樹脂ケース7に設けられている場合であっても、主端子5の第1の絶縁材8に囲まれる部分の全てを、第1の絶縁材8よりも硬度の高い第2の絶縁材10で被覆することで、本発明の効果を得ることができる。
【0033】
さらに、図示しないが、上述した第2の実施形態のように、パワー半導体素子2と絶縁回路基板1の回路電極1Bとの接合部が、第1の絶縁材8よりも硬度の高い第2の絶縁材10で被覆されていても良い。このような構成でも、本発明の効果を得ることができる。
【実施例
【0034】
[パワー半導体装置の作製および試験・評価]
次に、本発明の実施形態に係るパワー半導体装置のサンプルを作製し、評価を行った。以下では、本発明によるパワー半導体装置の絶縁信頼性についての効果を検証するため、第1、第2の実施形態でそれぞれ説明したパワー半導体装置100A,100Bと、第1、第2の比較例でそれぞれ説明したパワー半導体装置100C,100Dとを作製し、それぞれに高温高湿での加湿処理後、ホットプレート上で加熱し、ボイドの発生状態観察と部分放電試験、端子間の絶縁抵抗測定を実施した結果を説明する。
【0035】
なお、前述のように本発明の目的は、主端子5がゲル状の第1の絶縁材8で封止されたパワー半導体装置が高温高湿環境に設置された場合の、主端子5周囲で発生する第1の絶縁材8中のボイドの発生、部分放電の発生を防止することである。そのため本試験では、パワー半導体装置100A,100B,100C,100Dのそれぞれに対して、ケース蓋を取付けず、第1の絶縁材8を水蒸気が透過しやすいように、またパワー半導体装置の内部のボイド発生状態を観察できるようにした。
【0036】
本試験では、パワー半導体装置100A,100B,100C,100Dのそれぞれに対応する各サンプルを、温湿度条件85℃85%R.H.(相対湿度)の高温高湿槽内に配置し、1000時間加湿処理を実施した。1000時間の加湿処理後、高温高湿槽から各サンプルを取り出し、最初に2つの主端子5間の絶縁抵抗の測定を実施した。絶縁抵抗計にて端子間に500Vを印加し、主端子間の絶縁抵抗の1分値を測定した。
【0037】
絶縁抵抗測定後、直ちにサンプルをホットプレート上に置き、120℃で15分間加熱した。加熱しながらサンプルの主端子5およびパワー半導体素子2と絶縁回路基板1の回路電極1Bとの接合材3の周囲から発生するボイドを目視で観察した。
【0038】
そして、加熱後すぐに部分放電測定装置を用いて、主端子5と制御端子、補助端子を全て短絡し、全端子と放熱ベース間に交流電圧を印加し、交流電圧を0Vから徐々に上昇させたときに、各サンプルで部分放電が発生する電圧(部分放電開始電圧)を測定した。ここで、部分放電が発生したと判断する閾値は10pCとした。なお、部分放電の試験電圧は最大7kVrms(実効値)とした。
【0039】
表1は、本発明の実施形態および比較例による各パワー半導体装置のボイド発生状態観察、部分放電試験、絶縁抵抗の測定結果をまとめたものである。表1に示すように、第1の実施形態のパワー半導体装置100Aに対応するサンプル(実施例1)、第2の実施形態のパワー半導体装置100Bに対応するサンプル(実施例2)において、主端子5周囲及びパワー半導体素子2周囲での第1の絶縁材8中のボイドの発生がないことを確認した。これに対し、第1の比較例のパワー半導体装置100Cに対応するサンプル(比較例1)、第2の比較例のパワー半導体装置100Dに対応するサンプル(比較例2)において、主端子5周囲で第1の絶縁材8中にボイドが発生していた。
【0040】
部分放電試験においては、実施例1、実施例2、比較例2において試験電圧最大の7kVrmsでの部分放電の発生は無かった。これに対し、比較例1においては5.6kVrmsで部分放電が発生した。これは、主端子5周囲に発生したボイドを起点とする部分放電であると考えられる。
【0041】
主端子5間の絶縁抵抗測定においては、実施例1、実施例2、比較例1では絶縁抵抗はそれぞれ1010Ω以上の高い抵抗値を示した。これに対し、比較例2では4.6×10Ωと低い抵抗値であった。これは、主端子5間の第1の絶縁材8および第2の絶縁材10の界面にリークが発生したことによるものと考えられる。
【0042】
【表1】
【0043】
以上説明した本発明の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。パワー半導体装置100A,100Bは、主端子5のゲル状の第1の絶縁材8に囲まれる部分の全てが第1の絶縁材8よりも硬度の高い第2の絶縁材10で被覆されている。このようにしたので、主端子5と第1の絶縁材8との界面に蓄積する水分を抑制、ボイドの発生を抑制、さらには部分放電の発生を抑制でき、小型で信頼性に優れたパワー半導体装置100A,100Bを提供することができる。
【0044】
以上、説明した通り、本発明によれば、主端子が加熱された際に、主端子と封止樹脂との間に発生するボイドや半導体装置外部から封止樹脂を通って侵入してきた水蒸気によって発生するボイドを起点とする部分放電を防止し、小型で信頼性の高いパワー半導体装置を提供できることが示された。
【0045】
以上説明した実施形態や各種変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0046】
1…絶縁回路基板、1A…絶縁基板、1B…回路電極、1C…裏面電極、2…パワー半導体素子、3…接合材、4…金属ワイヤ、5…主端子、6…放熱ベース、7…樹脂ケース、8…第1の絶縁材、9…樹脂ケース蓋、10…第2の絶縁材、11…ボイド(気泡)、12…部分放電、13…絶縁破壊、14…電流リーク、100A,100B,100C,100D,100E…パワー半導体装置。
図1
図2
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図5
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図7
図8