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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】場所打ちコンクリート杭の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/34 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
E02D5/34 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021071166
(22)【出願日】2021-04-20
(65)【公開番号】P2022165705
(43)【公開日】2022-11-01
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】富田 菜都美
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 定幸
(72)【発明者】
【氏名】成原 弘之
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-084576(JP,A)
【文献】特開昭59-213863(JP,A)
【文献】特開昭52-014005(JP,A)
【文献】特開2006-016787(JP,A)
【文献】特公昭47-034449(JP,B1)
【文献】特開平08-201264(JP,A)
【文献】特開2002-054137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22-5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部コンクリートの打設面よりも下方から前記下部コンクリートとは異なる種類のコンクリートからなる上部コンクリートを打設することで、前記下部コンクリートの一部を所定の高さまで押し上げる切替工程を有する場所打ちコンクリート杭の施工方法であって、
スランプコーン内に前記下部コンクリートと同様の配合からなるコンクリート試料を投入して一定時間静置させる静置スランプ試験を実施して前記コンクリート試料のスランプを測定し、
前記上部コンクリートは、前記コンクリート試料のスランプにより前記下部コンクリートの流動性が低下したことを確認した後に打設を開始することを特徴とする場所打ちコンクリート杭の施工方法。
【請求項2】
下部コンクリートの打設面よりも下方から前記下部コンクリートとは異なる種類のコンクリートからなる上部コンクリートを打設することで、前記下部コンクリートの一部を所定の高さまで押し上げる切替工程を有する場所打ちコンクリート杭の施工方法であって、
前記切替工程の前に、
前記下部コンクリートと同様の配合からなるコンクリートを用いた静置スランプ試験から得られるスランプを取得するスランプ取得作業と、
前記スランプに基づいて、数値流体力学を用いた流動解析を実施して、前記スランプと前記打設面から前記所定の高さまでの高低差である切替高さとの関係を推定する切替高さ推定作業と、を行い、
前記スランプと前記切替高さとの関係に基づいて、前記上部コンクリートの打設開始時期を判断することを特徴とする場所打ちコンクリート杭の施工方法。
【請求項3】
下部コンクリートの打設面よりも下方から前記下部コンクリートとは異なる種類のコンクリートからなる上部コンクリートを打設することで、前記下部コンクリートの一部を所定の高さまで押し上げる切替工程を有する場所打ちコンクリート杭の施工方法であって、
前記切替工程の前に、
前記下部コンクリートと同様の配合からなるコンクリートを用いた静置スランプ試験から得られるスランプを取得するスランプ取得作業と、
前記スランプに基づいて、数値流体力学を用いた流動解析を実施して、前記スランプと前記打設面から前記所定の高さまでの高低差である切替高さとの関係を推定する切替高さ推定作業と、を行い、
前記スランプと前記切替高さとの関係に基づいて、前記下部コンクリートの配合を決定することを特徴とする場所打ちコンクリート杭の施工方法。
【請求項4】
下部コンクリートの打設面よりも下方から前記下部コンクリートとは異なる種類のコンクリートからなる上部コンクリートを打設することで、前記下部コンクリートの一部を所定の高さまで押し上げる切替工程を有する場所打ちコンクリート杭の施工方法であって、
前記切替工程の前に、
前記下部コンクリートと同様の配合からなるコンクリートを用いた静置スランプ試験から得られるスランプを取得するスランプ取得作業と、
前記スランプに基づいて、数値流体力学を用いた流動解析を実施して、前記スランプと前記打設面から前記所定の高さまでの高低差である切替高さとの関係を推定する切替高さ推定作業と、を行い、
前記切替高さに応じて前記下部コンクリートの前記打設面の高さを決定することを特徴とする場所打ちコンクリート杭の施工方法。
【請求項5】
前記切替高さ推定作業では、前記静置スランプ試験の再現解析を行い、前記スランプ取得作業で得られたスランプに相当するコンクリートの降伏値を設定し、前記降伏値をパラメータとして前記流動解析を実施することを特徴とする、請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の場所打ちコンクリート杭の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、場所打ちコンクリート杭の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基礎と剛結合される場所打ちコンクリート杭は、通常、上部ほど地震時の応力が大きくなる。そのため、場所打ちコンクリート杭を設計する場合には、杭頭部において必要な曲げ耐力およびせん断耐力を確保できるコンクリート強度および断面寸法により、杭全体を設計するのが一般的である。ところが、曲げ応力およびせん断応力が最大となる杭頭部に必要な設計耐力は、その他の部分において必要な設計耐力を大きく上回っている場合があるため、杭頭部で杭全体のコンクリート強度等を設計すると、コスト高になるおそれがある。また、基礎と半剛接合される場所打ちコンクリート杭は、地震時に杭頭部に発生する応力を低減できるものの、上端面に支圧応力が作用するため、支圧強度を高める必要がある。
そのため、場所打ちコンクリート杭を構成するコンクリートの強度を、深さ方向で変化させることにより、部位毎に必要な強度を確保した場所打ちコンクリート杭を構築する場合がある。例えば、本出願人は、特許文献1に示すように、所定高さまで下部コンクリートを打設する第一工程と、下部コンクリートのコンクリート打設面よりも下方から上部コンクリートの打設を開始して、下部コンクリートの一部を切替完了高さまで押し上げる第二工程と、切替完了高さの上方に上部コンクリートを打設する第三工程とを備える場所打ちコンクリート杭の施工方法を開示している。ここで、上部コンクリートは、下部コンクリートよりも高強度のコンクリートからなる。
このような場所打ちコンクリート杭では、トレミー管の先端を既打設コンクリートに挿入した状態で打設する。そのため、下部コンクリートと上部コンクリートとの切り換え部では、強度の異なるコンクリートが混在した遷移区間が生じる。設計上、遷移区間を安全側に評価するため、遷移区間のコンクリートを強度の弱い方のコンクリート(下部コンクリート)と見做して構造計算を行う。そのため、遷移区間が短い方が、高強度のコンクリート(上部コンクリート)の数量を低減でき、合理的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-020192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上部と下部とで強度の異なるコンクリートを打ち分ける場所打ちコンクリート杭について、合理的にコンクリートを打ち分けることを可能とした場所打ちコンクリート杭の施工方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明は、下部コンクリートの打設面よりも下方から前記下部コンクリートとは異なる種類のコンクリートからなる上部コンクリートを打設することで、前記下部コンクリートの一部を所定の高さまで押し上げる切替工程を有する場所打ちコンクリート杭の施工方法であって、前記上部コンクリートの打設は前記下部コンクリートの流動性が低下するまで時間を空けた後に行うものである。
かかる場所打ちコンクリート杭の施工方法によれば、下部コンクリートの流動性が低下したタイミングで前記上部コンクリートの打設を開始するため、切替高さを小さく抑えた合理的な場所打ちコンクリート杭の施工を実施できる。
下部コンクリートの流動性は、スランプコーン内に前記下部コンクリートと同様の配合からなるコンクリート試料を投入して一定時間静置させる静置スランプ試験を実施して前記コンクリート試料のスランプを測定し、このスランプにより確認してもよい。
なお、前記切替工程の前に、前記下部コンクリートと同様の配合からなるコンクリートを用いた静置スランプ試験から得られるスランプを取得するスランプ取得作業と、前記スランプに基づいて、数値流体力学を用いた流動解析を実施して、前記スランプと前記打設面から前記所定の高さまでの高低差である切替高さとの関係を推定する切替高さ推定作業とを行うのが望ましい。前記切替高さ推定作業では、前記静置スランプ試験の再現解析を行い、前記スランプ取得作業で得られたスランプに相当するコンクリートの降伏値を設定し、前記降伏値をパラメータとして前記流動解析を実施するのが望ましい。
この場所打ちコンクリート杭の施工方法において、前記スランプと前記切替高さとの関係に基づいて、前記上部コンクリートの打設開始時期を決定すれば、切替高さを小さく抑えた合理的な場所打ちコンクリート杭の施工を実施できる。
また、前記スランプと前記切替高さとの関係に基づいて、前記下部コンクリートの配合を決定すれば、下部コンクリートの練り上がりから上部コンクリートの打設開始までのおおよその時間が既知の場合において、合理的な場所打ちコンクリート杭の施工を実施できる。
さらに、前記切替高さに応じて前記下部コンクリートの前記打設面の高さを決定することで合理的な場所打ちコンクリート杭の施工に適したコンクリートの配合の設計が可能となる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の場所打ちコンクリート杭の施工方法によれば、上部と下部とで強度の異なるコンクリートを打ち分ける場所打ちコンクリート杭について、合理的にコンクリートを打ち分けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリート杭の一部を示す断面図である。
図2】(a)は場所打ちコンクリート杭の施工方法の手順を示すフローチャート、(b)は準備工程の詳細を示すフローチャートである。
図3】場所打ちコンクリート杭の施工状況を示す断面図であって、(a)は下部コンクリート打設工程、(b)は切替工程および上部コンクリート打設工程である。
図4】先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの模式図である。
図5】上部コンクリートの供給により押し上げられた下部コンクリートの環状領域の模式図である。
図6】静置スランプ試験の結果と降伏値の関係を示すグラフである。
図7】下部コンクリートのスランプ毎のコンクリート分布を示す断面図であって、(a)はスランプ21cm、(b)はスランプ15cm、(c)はスランプ10cm、(d)はスランプ5cmである。
図8】下部コンクリートのスランプと切替高さの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<第一実施形態>
第一実施形態では、場所打ちコンクリート杭1において、合理的な杭の構築を目的として、強度の異なる二種類のコンクリートを深さ方向に連続して打設する場合について説明する(図1参照)。すなわち、本実施形態の施工方法は、地震時に応力が大きくなる杭上部のコンクリート強度を高くするために、下部コンクリート2の上に下部コンクリート2よりも設計基準強度が高い上部コンクリート3を打ち継ぐ場所打ちコンクリート杭1の施工方法である。なお、図1は、第一実施形態の場所打ちコンクリート杭1である。
図2に本実施形態の場所打ちコンクリート杭1の施工方法を示す。本実施形態の場所打ちコンクリート杭1の施工方法は、図2(a)に示すように、準備工程S1と、下部コンクリート打設工程S2と、切替工程S3と、上部コンクリート打設工程S4とを備えている。
【0009】
準備工程S1では、図2(b)に示すように、基準値算出作業S11と、スランプ取得作業S12と、切替高さ推定作業S13と、打設開始時期判定作業S14とを行う。
基準値算出作業S11では、式1により切替高さの基準値である基準切替高さh1を算出する。
【0010】
h1=V/S ・・・式1
V=V1+V2
S=π/4×(φ -φ
V1=πφ /4×Δh
V2=2/3×πφ /4×Δh
h1 :基準切替高さ
:先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの体積
V1 :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの円柱部分の体積
V2 :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの先端部分の体積
:環状領域の断面積
φ :場所打ちコンクリート杭の外径
φ :環状領域の内径
φ :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの円柱部分の直径
Δh :上部コンクリート打設開始時に下部コンクリートに挿入するトレミー管の深さ
Δh:上部コンクリートの下端からトレミー管先端までの距離である下部流出深さ
【0011】
ここで、上部コンクリート3は、図3(a)に示すように、トレミー管5の下端が下部コンクリート2の打設面(先行打設高さ)よりも下に位置した状態で供給を開始し、トレミー管5を引き上げつつ切替完了高さHまで供給する。なお、図3は、場所打ちコンクリート杭1の施工状況を示す断面図である。上部コンクリート3を供給すると、図3(b)に示すように、上部コンクリート3が下部コンクリート2を押しのけながら注入される。上部コンクリート3は、下部コンクリート2内において供給開始時点のトレミー管5の直下に半楕円状または半円状(先端部分31)に供給された後、先端部分31の直上に上部コンクリート3が円柱状(円柱部分32)に供給される。一方、下部コンクリート2は、上部コンクリート3が供給されることによって、先行打設高さHの下側に供給された上部コンクリート3と同等の体積の下部コンクリート2が先行打設高さHの下側から先行打設高さよりも上側に移動する。このとき、先行打設高さHの上側に移動した下部コンクリート2は、先行打設高さHよりも上側の鉄筋籠の形状保持筋の外側部分(トレミー管5を中心とした環状領域21)に移動する。
【0012】
切替高さh(基準切替高さh1)は、下部コンクリート2が環状に押し上げられた領域の高さである。基準切替高さh1は、先行打設高さHよりも下側に供給された上部コンクリート3の体積Vが、環状領域21に移動した下部コンクリート2の体積であるとして、環状領域21の体積から算出する。ここで、先行打設高さHよりも下側に供給された上部コンクリート3は、図4に示すように、先端部分31と円柱部分32の体積の合計とする。一方、環状領域21は、図5に示すように、内径φ、外径φの円筒状体とする。
【0013】
スランプ取得作業S12では、場所打ちコンクリート杭1の一部を構成する下部コンクリート2と同様の配合からなるコンクリートに対して静置スランプ試験を行い、スランプを取得する。
【0014】
切替高さ推定作業S13では、まず、スランプ取得作業S12で得られたスランプに相当するコンクリートの降伏値を設定する。続いて、この降伏値をパラメータとして、数値流体力学(Computational Fluid Dynamics : CFD)を用いた流動解析を実施して、スランプと切替高さとの関係を推定する。なお、コンクリートの流動挙動はビンガム流体として取り扱われることが一般的である。ビンガム流体は、せん断応力が降伏値に達するまでは流動せず、降伏値以上の応力が作用すると流動し、応力の増大とともに変形速度が増加し、その比例係数が塑性粘度であるような材料である。しかしながら、せん断応力が降伏値を超えるまでのひずみ速度がゼロになるため、その区間の応力が計算できなくなる。そのため、本実施形態では、コンクリートを粘性の高い流体として扱い、流動速度を非常に小さくすることで不動状態とみなすBi-viscosityモデルを用いた。
【0015】
ここで、切替高さは、下部コンクリート2の打設終了時における打設面(先行打設高さ)から断面全体が上部コンクリート3に切り替わる高さ(切替完了高さ)までの高低差である。切替高さは、上部コンクリート3と下部コンクリート2の流動性の違いが大きいほど小さくなる。そのため、下部コンクリート2の経時変化によりスランプが小さくなるほど、上部コンクリート3との流動性の違いが大きくなり、切替高さは小さくなる。
本実施形態では、流動解析によりスランプ初期値の場合の解析結果に基づく切替高さと、スランプの経時変化に基づく解析結果との差分Δhを算出する。そして、基準切替高さh1から差分Δhを差し引くことで、切替高さhとする(式2)。
h=h1-Δh ・・・ 式2
【0016】
次に、推定された切替高さhと、杭頭部において上部コンクリート3を打設する必要がある区間の高さ(切替完了高さH)に基づいて、式3により下部コンクリート2の打設高さ(先行打設高さ)を決定する。式3は、場所打ちコンクリート杭1の作用応力に基づいて設定された切替完了高さHから、上部コンクリート3の供給により上側に押し上げられる下部コンクリート2の切替高さhを差し引くことにより先行打設高さHを算出するものである。ここで、先行打設高さHは、下部コンクリート2の充填が完了する位置である切替完了高さHの下方に設定する。すなわち、場所打ちコンクリート杭1に作用する応力の推定値(設計値)から切替完了高さH(コンクリート強度を高くする範囲)を設定し、この切替完了高さHにおいてコンクリートが完全に切り替えられるように、先行打設高さHを設定する。
=H-h ・・・ 式3
【0017】
打設開始時期判定作業S14では、切替高さ推定作業S13において推定したスランプと切替高さとの関係に基づいて、上部コンクリート3の打設開始時期を判断する。すなわち、時間とともに変化する下部コンクリート2のスランプの経時変化と切替高さの関係から、下部コンクリート2の打設後に切替高さを最小限に抑えることが可能なタイミング(下部コンクリート2を打設してから上部コンクリート3の打設を開始するまでの時間や、上部コンクリート3の打設を開始する際の下部コンクリート2のスランプ)を推定する。
【0018】
下部コンクリート打設工程S2は、先行打設高さまで下部コンクリート2を打設する工程である。
下部コンクリート打設工程S2では、図3(a)に示すように、準備工程S1で決定した先行打設高さHまで下部コンクリート2を打設する。下部コンクリート2は、地中に形成された掘削孔6内に挿入されたトレミー管5を利用して掘削孔6の下端から供給する。トレミー管5は、コンクリート打設面2aの上昇に伴って上昇させる。本実施形態では、下部コンクリート2の打設に先立ち、掘削孔6に鉄筋(鉄筋かご)を配筋しておく。
【0019】
切替工程S2は、下部コンクリート2の打設面(先行打設高さ)よりも下方から上部コンクリート3を打設することで、下部コンクリート2の一部を所定の高さまで押し上げる工程である。本実施形態では、スランプコーン内に試料を一定時間静置させる静置スランプ試験を実施し、下部コンクリート2のスランプが所定の値以下になったことを確認してから上部コンクリート3の打設を開始する。
切替工程S2では、図3(b)に示すように、トレミー管5の下端が先行打設高さHの下方に位置した状態で上部コンクリート3の供給を開始し、トレミー管5を引き上げつつ切替完了高さHまで上部コンクリート3を供給する。上部コンクリート3を先行打設高さHよりも下側に供給すると、上部コンクリート3が下部コンクリート2を押しのけながら注入される。上部コンクリート3は、下部コンクリート2内において供給開始時点のトレミー管5の直下に半楕円状または半円状(先端部分31)に供給された後、先端部分31の直上に上部コンクリート3が円柱状(円柱部分32)に供給される。一方、下部コンクリート2は、上部コンクリート3が供給されることによって、先行打設高さHの下側に供給された上部コンクリート3と同等の体積の下部コンクリート2が先行打設高さHの下側から先行打設高さよりも上側に移動する。このとき、先行打設高さHの上側に移動した下部コンクリート2は、先行打設高さHよりも上側の鉄筋籠の形状保持筋の外側部分(トレミー管5を中心とした環状領域21)に移動する。先行打設高さHの上側に移動した下部コンクリート2(環状領域21)の上端は、切替完了高さH以下に位置する。
【0020】
上部コンクリート打設工程S3は、切替完了高さの上方に上部コンクリート3を打設する工程である。
上部コンクリート打設工程では、既打設コンクリート(上部コンクリート3)に下端を挿入した状態で、トレミー管5を引き上げつつ切替完了高さHの上方に上部コンクリート3を打設する。
【0021】
以上、本実施形態の場所打ちコンクリート杭1の施工方法によれば、設計上の切替完了高さの近傍で、コンクリートの切り替えを完了させることができるため、強度が異なるコンクリートを高さ方向で連続して打設する場合において、打設コンクリートの強度の変化点を合理的に設定することが可能となる。その結果、必要な耐力を有した場所打ちコンクリート杭1を経済的に施工することができる。
スランプと切替高さとの関係に基づいて、上部コンクリート3の打設開始時期を決定するため、切替高さを最も小さく抑えた合理的な場所打ちコンクリート杭1の施工を実施することができる。
下部コンクリート2は、先行打設高さの上側において鉄筋籠の外周側を移動することが予想されるため、鉄筋籠の形状保持筋の外側部分を環状領域と仮定することで、切替完了高さをより合理的に算出することができる。
【0022】
<第二実施形態>
第二実施形態では、第一実施形態と同様に、場所打ちコンクリート杭1において、合理的な杭の構築を目的として、強度の異なる二種類のコンクリートを深さ方向に連続して打設する場合について説明する(図1参照)。本実施形態の場所打ちコンクリート杭1の施工方法は、準備工程S1と、下部コンクリート打設工程S2と、切替工程S3と、上部コンクリート打設工程S4とを備えている(図2(a)参照)。
【0023】
準備工程S1では、図2(b)に示すように、基準値算出作業S11と、スランプ取得作業S12と、切替高さ推定作業S13と、配合決定作業S15とを行う。なお、基準値算出作業S11,スランプ取得作業S12および切替高さ推定作業S13の詳細は、第一実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
配合決定作業S15では、切替高さ推定作業S13において推定したスランプと切替高さとの関係に基づいて、下部コンクリート2の配合を決定する。すなわち、時間とともに変化する下部コンクリート2のスランプの経時変化と切替高さの関係や、下部コンクリート2の練り上がりから上部コンクリート3の打設開始までに要する時間等を考慮して、切替高さを最小限に抑えることができるスランプを判定し、このスランプを有するコンクリートの配合を決定する。
以下、下部コンクリート打設工程S2、切替工程S3および上部コンクリート打設工程S4の詳細は、第一実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0024】
以上、本実施形態の場所打ちコンクリート杭1の施工方法によれば、設計上の切替完了高さの近傍で、コンクリートの切り替えを完了させることができるため、強度が異なるコンクリートを高さ方向で連続して打設する場合において、打設コンクリートの強度の変化点を合理的に設定することが可能となる。その結果、必要な耐力を有した場所打ちコンクリート杭1を経済的に施工することができる。
また、スランプと切替高さとの関係に基づいて、下部コンクリート2の配合を決定するため、下部コンクリート2の練り上がりから上部コンクリート3の打設開始までのおおよその時間が既知の場合において、合理的な場所打ちコンクリート杭1の施工を実施できる。
【0025】
<第三実施形態>
第三実施形態では、第一実施形態と同様に、場所打ちコンクリート杭1において、合理的な杭の構築を目的として、強度の異なる二種類のコンクリートを深さ方向に連続して打設する場合について説明する(図1参照)。本実施形態の場所打ちコンクリート杭1の施工方法は、準備工程S1と、下部コンクリート打設工程S2と、切替工程S3と、上部コンクリート打設工程S4とを備えている(図2(a)参照)。
【0026】
準備工程S1では、図2(b)に示すように、基準値算出作業S11と、スランプ取得作業S12と、切替高さ推定作業S13と、先行打設高さ決定作業S16とを行う。なお、基準値算出作業S11,スランプ取得作業S12および切替高さ推定作業S13の詳細は、第一実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
先行打設高さ決定作業S16では、切替高さ推定作業S13において推定したスランプと切替高さとの関係に基づいて、下部コンクリート2の打設を終了する打設面の高さ(先行打設高さ)を決定する。すなわち、時間とともに変化する下部コンクリート2のスランプの経時変化と切替高さの関係や、場所打ちコンクリート杭1に作用する応力の推定値(設計値)から設定された切替完了高さH(コンクリート強度を高くする範囲)を考慮して、切替完了高さHにおいてコンクリートが完全に切り替えられるように、先行打設高さHを設定する。
以下、下部コンクリート打設工程S2、切替工程S3および上部コンクリート打設工程S4の詳細は、第一実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0027】
以上、本実施形態の場所打ちコンクリート杭1の施工方法によれば、設計上の切替完了高さの近傍で、コンクリートの切り替えを完了させることができるため、強度が異なるコンクリートを高さ方向で連続して打設する場合において、打設コンクリートの強度の変化点を合理的に設定することが可能となる。その結果、必要な耐力を有した場所打ちコンクリート杭1を経済的に施工することができる。
また、切替高さに応じて下部コンクリート2の先行打設高さ(打設を終了する打設面の高さ)を決定するため、合理的な場所打ちコンクリート杭1の施工に適したコンクリートの配合の設計が可能となる。
【0028】
以下、参考として、コンクリートの降伏値をパラメータとした数値流体力学を用いた流動解析の結果を示す。
本解析では、杭径が1.3mの場所打ちコンクリートを施工する場合について行った。解析モデルは、軸対称モデルとし、解析領域は0.65m×高さ10m、メッシュサイズは20mmとした。鉄筋は帯鉄筋のみをモデル化対象とし、一辺20mmの正方形を160mmピッチで配置し、かぶりは100mmとした。トレミー管5の側面(内側、外側)はSlip条件とし、型枠底面、側面および鉄筋側面はNon-slip条件とした。時間刻みは0.02秒とした。表1に本解析に使用した下部コンクリート2および上部コンクリート3の各定数を示す。解析定数は、別途実施したスランプ試験の結果をもとに設定した。降伏値、塑性粘度、流動限界ひずみ速度をパラメータとした解析により、一般的に用いられる場所打ちコンクリート杭のコンクリートのスランプは、降伏値を変化させることにより概ね再現できることが確認されている。スランプに対応する降伏値として、図6および表1に示す値を使用した。図6は静置スランプと降伏値の関係を示すグラフである。
【0029】
【表1】
【0030】
下部コンクリート2のスランプ(降伏値)をパラメータとして、スランプ=21cm、15cm、10cm、5cmの4ケースについて解析を実施した。図7、8に解析結果を示す。図7(a)~(d)は下部コンクリート2のスランプ毎の切替高さを模式的に示す断面図、図8は下部コンクリート2のスランプと切替高さの関係を示すグラフである。
図7および図8に示すように、下部コンクリート2のスランプが21cmの場合、切替高さが1.5mであった。また、スランプが15cmの場合は切替高さが1.1m、スランプが10cmの場合は切替高さが1.0mとなった。下部コンクリート2のスランプが小さいほど上部へ流動し難くなり、切替高さを小さくできることが確認できた。すなわち、下部コンクリート2の打設から上部コンクリート3の打設開始までの経過時間が長いほど、切替高さが小さくなる。なお、スランプが5cmの場合は切替高さが1.0mとなり、スランプが10cmの場合と同等であった。したがって、下部コンクリート2の打設から一定時間を経過すると(スランプが所定値以下になると)、切替高さが同等になる結果となった。
【0031】
以上に示した通り、下部コンクリート2上に下部コンクリート2とは強度が異なる上部コンクリート3を打設する場合の切替高さは、下部コンクリート2のスランプ(降伏値)に関係が深いことが確認できた。そのため、下部コンクリート2のスランプに応じて、上部コンクリート3の打設のタイミングの設定や下部コンクリート2の打設高さ(先行打設高さ)を設定できる。また、下部コンクリート2の配合をスランプと切替高さとの関係により決定してもよい。
【0032】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、基準値算出作業S11,スランプ取得作業S12および切替高さ推定作業S13を実施する場合について説明したが、これらの各作業は必要に応じて実施すればよい。例えば、既往文献や既往データ等に基づいてスランプの経時変化を推定する場合には、スランプ取得作業S12を省略してもよい。また、数値流体力学を用いた流動解析は必要に応じて実施すればよい。
前記実施形態では、流動解析を実施する際に使用するパラメータは、スランプであってもよいし、スランプに対応する降伏値であってもよい。
上部コンクリート3の打設開始時期の設定、下部コンクリート2の配合の決定、下部コンクリート2の打設面の高さを決定は、現場毎に実施した下部コンクリート2のスランプと切替高さの関係の解析結果に基づいて行ってもよいし、過去に実施した解析結果のデータに基づいて決定してもよい。
上部コンクリート3の打設開始時期の設定、下部コンクリート2の配合の決定、下部コンクリート2の打設面の高さを決定に使用する流動解析のデータは、施工時のコンクリート打設条件と同等の条件で実施した解析結果を使用してもよいし、異なる条件において実施された複数の解析結果を総合して使用してもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 場所打ちコンクリート杭
2 下部コンクリート
3 上部コンクリート
4 鉄筋かご
5 トレミー管
6 掘削孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8