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  • 特許-サイホン排水システム 図1
  • 特許-サイホン排水システム 図2
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  • 特許-サイホン排水システム 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】サイホン排水システム
(51)【国際特許分類】
   E03C 1/122 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
E03C1/122 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021073274
(22)【出願日】2021-04-23
(65)【公開番号】P2022167473
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前川 健人
【審査官】秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-89369(JP,A)
【文献】特開2016-108750(JP,A)
【文献】特開2007-217999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/122
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下流側に向かって下方へ傾斜し、水廻り機器からの排水を流す勾配管と、
前記勾配管の下流側に接続され、内径が前記勾配管の内径より小径とされ、排水を横方向に流す横引き管と、
前記横引き管の下流側に接続され、前記横引き管からの前記排水を流下させることによりサイホン力を発生させる竪管と、
前記勾配管の途中に設けられた分岐部から分岐する分岐管と、
排水を貯留可能とされ、前記分岐管に接続され排水が流入する流入口、及び排水が流出する流出口を備えた貯留槽と、
前記流出口と前記横引き管を接続する合流管と、
を有するサイホン排水システム。
【請求項2】
前記分岐部における前記分岐管側への流路の底部は、前記分岐部における前記勾配管側の流路の底部よりも高く、かつ該流路の天井部よりも低い位置に設定されている請求項1に記載のサイホン排水システム。
【請求項3】
前記合流管には、前記横引き管から前記貯留槽への排水の流入を抑制する流入抑制部が設けられている請求項1又は請求項2に記載のサイホン排水システム。
【請求項4】
前記勾配管の下流端及び前記合流管の下流端は、前記横引き管の上流端に接続されている請求項1~請求項3の何れか1項に記載のサイホン排水システム。
【請求項5】
前記分岐部には、管内の空気を排出可能とする通気管が接続されている請求項1~請求項4の何れか1項に記載のサイホン排水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイホン排水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
浴室からの排水を考慮したサイホン排水システムに使用される貯留槽が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-199682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
浴室からの排水には、浴槽からの排水のように流量の多い排水と、シャワーからの排水のように流量が少ない排水がある。流量が少ない排水については、サイホン排水管が満流となってサイホン力が発生するまでの時間が長くなり、サイホン力によるサイホン排水管の自浄作用が発生し難くなる。
【0005】
本発明は、排水の流量が少ない場合におけるサイホン力が発生するまでの時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様に係るサイホン排水システムは、下流側に向かって下方へ傾斜し、水廻り機器からの排水を流す勾配管と、前記勾配管の下流側に接続され、内径が前記勾配管の内径より小径とされ、排水を横方向に流す横引き管と、前記横引き管の下流側に接続され、前記横引き管からの前記排水を流下させることによりサイホン力を発生させる竪管と、前記勾配管の途中に設けられた分岐部から分岐する分岐管と、排水を貯留可能とされ、前記分岐管に接続され排水が流入する流入口、及び排水が流出する流出口を備えた貯留槽と、前記流出口と前記横引き管を接続する合流管と、を有する。
【0007】
このサイホン排水システムでは、浴槽からの排水のように流量が多い排水の場合に、該排水が勾配管から横引き管に直接流入すると共に、勾配管の水位が上昇することで排水が分岐管を通じて貯留槽にも流入する。貯留槽で多量の排水を受け入れることで、水廻り機器からの排水が円滑に行われる。横引き管は、内径が勾配管の内径よりも小さいので満流が生じ易く、満流の排水が竪管を流れ落ちることでサイホン力が発生する。これにより、勾配管及び貯留槽からの排水が速やかに行われる。
【0008】
一方、シャワーからの排水のように、流量が比較的少ない排水の場合でも、該排水が横引き管に直接流入するので、横引き管の水位が速やかに上昇し、横引き管に満流が生じ易い。したがって、すべての排水が貯留槽を通ってから横引き管に流入する構成と比較して、サイホン力が発生するまでの時間が短縮される。
【0009】
第2の態様は、第1の態様に係るサイホン排水システムにおいて、前記分岐部における前記分岐管側への流路の底部が、前記分岐部における前記勾配管側の流路の底部よりも高く、かつ該流路の天井部よりも低い位置に設定されている。
【0010】
このサイホン排水システムでは、勾配管から分岐管が分岐する分岐部において、分岐管側への流路の底部が、分岐部における勾配管側の流路の底部よりも高い位置に設定されている。したがって、分岐管側への流路の底部が、分岐部における勾配管側の流路の底部と同等の高さに設定されている場合と比較して、分岐部へ排水が流れ始めるときの勾配管の水位が高くなる。したがって、横引き管に満流が更に生じ易くなる。このため、サイホン力が発生するまでの時間が更に短縮される。
【0011】
また、分岐管側への流路の底部が、分岐部における勾配管側の流路の天井部よりも低い位置に設定されているので、勾配管の水位が天井部に達したときには排水が確実に岐管へ流れる。
【0012】
第3の態様は、第1の態様又は第2の態様に係るサイホン排水システムにおいて、前記合流管には、前記横引き管から前記貯留槽への排水の流入を抑制する流入抑制部が設けられている。
【0013】
このサイホン排水システムでは、貯留槽の流出口と横引き管を接続する合流管に流入抑制部が設けられているので、横引き管から貯留槽へ排水が逆流することが抑制され、横引き管から竪管に流れる排水が多くなる。したがって、横引き管に満流がより一層生じ易くなる。このため、サイホン力が発生するまでの時間がより一層短縮される。
【0014】
第4の態様は、第1~第3の態様の何れか1態様に係るサイホン排水システムにおいて、前記勾配管の下流端及び前記合流管の下流端が、前記横引き管の上流端に接続されている。
【0015】
このサイホン排水システムでは、勾配管の下流端及び合流管の下流端が、横引き管の上流端に接続されているので、これらが互いに異なる位置に接続されている場合と比較して、点検口の数を少なくすることができ、メンテナンスが容易である。
【0016】
第5の態様は、第1~第4の態様の何れか1態様に係るサイホン排水システムにおいて、前記分岐部には、管内の空気を排出可能とする通気管が接続されている。
【0017】
このサイホン排水システムでは、勾配管から分岐管が分岐する分岐部に通気管が接続されているので、排水が勾配管に流入したときに勾配管内の空気が通気管を通じて外部に排出される。これにより、空気が上流に押し出されることによる水廻り機器からの排水の溢れ出しを抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、排水の流量が少ない場合におけるサイホン力が発生するまでの時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係るサイホン排水システムの全体構成を示す部分破断正面図である。
図2】本実施形態に係るサイホン排水システムの全体構成を示す平面図である。
図3】勾配管を軸方向下流側から見た分岐部を示す拡大正面図である。
図4】(A)は、勾配管の水位が、分岐部における分岐管側の流路の底部の高さに達していない状態を示す断面図である。(B)は、勾配管の水位が、分岐部における分岐管側の流路の底部に達した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一又は同様の構成要素であることを意味する。なお、以下に説明する実施形態において重複する説明及び符号については、省略する場合がある。また、以下の説明において用いられる図面は、いずれも模式的なものであり、図面に示される、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは必ずしも一致していない。また、複数の図面の相互間においても、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は必ずしも一致していない。
【0021】
図1において、本実施形態に係るサイホン排水システム10は、サイホン力を利用して水廻り機器の一例としての浴室17からの排水を効率よく排出する排水システムである。サイホン排水システム10は、勾配管22と、横引き管30Aと、竪管30Bと、分岐管36と、貯留槽24と、合流管38とを有している。
【0022】
建物12のスラブ14の上側において、浴室17を構成する領域には、スラブ14と間隔を開けて、洗い場の床パネル16、及び浴槽18が設けられている。床パネル16には、封水式のトラップ20が設けられている。トラップ20は、上部が床パネル16に開口していると共に、排水管19によって浴槽18と接続されている。これにより、トラップ20には、洗い場の床パネル16上の排水と、浴槽18からの排水が流入するようになっている。なお、このトラップ20は、浴室に設けられる一般的な構造のものであり、内部構造に関する説明は省略する。
【0023】
(勾配管)
トラップ20には、排水のための勾配管22が接続されている。勾配管22は、下流側に向かって下方へ傾斜し、水廻り機器からの排水を流す管である。勾配管22の下流側端部には、継手42を介してサイホン排水管30が接続されている。図2に示されるように、勾配管22は、貯留槽24の位置を避けるように例えば平面視でクランク状に屈曲しているが、これに限られず、平面視で直線状に構成されていてもよい。勾配管22は、例えば、塩ビ製の管であるが、他の合成樹脂で形成されていてもよい。
【0024】
(サイホン排水管)
図2において、サイホン排水管30は、横引き管30Aと竪管30Bを有している。横引き管30Aは、勾配管22の下流側に接続され、内径が勾配管22の内径より小径とされ、排水を横方向に流す管である。横引き管30Aの上端は、例えば継手42に接続されている。横引き管30Aは、スラブ14の上で横方向に無勾配で配設されている。
【0025】
竪管30Bは、横引き管30Aの下流側に接続され、横引き管30Aからの排水を流下させることによりサイホン力を発生させる管であり、下方向(鉛直方向下向き)に延びている。
【0026】
建物12には、鉛直方向に延びる立て管32が配設されている。立て管32には、合流継手34が取り付けられている。サイホン排水管30で流された排水は、合流継手34を介して立て管32に排出されるようになっている。
【0027】
サイホン排水管30は、例えばポリブテンで形成されているが、可撓性を有する他の合成樹脂で形成されていてもよい。
【0028】
(分岐管)
図2において、分岐管36は、勾配管22の途中に設けられた分岐部40から分岐する管である。分岐管36の下流側端部は、貯留槽24の流入口24Aに接続されている。分岐管36は、下流側に向かって下方へ傾斜する勾配管である。
【0029】
分岐部40は、例えば継手である。分岐部40は、横引き管30Aの上流端から、勾配管22の上流側に離れた位置に設けられている。図3に示されるように、分岐部40における分岐管36側への流路の底部40Aの高さHは、分岐部40における勾配管22側の流路の底部40Bの高さH1よりも高く、該流路の天井部40Cの高さH2よりも低い位置に設定されてもよい。つまり、高さHは、高さH1,H2の間に位置してもよい。ここで、分岐部40における勾配管22側の流路とは、勾配管22の方向に沿った流路を意味する。
【0030】
なお、底部40Aの高さHは、分岐部40に接続された分岐管36の流路の底部36Aの高さと同等である。底部36A,40Aの高さHが一定でない場合、底部36A,40Aのうち最も高い位置の高さをHとする。排水は、分岐部40で水位がこの高さHを越えることで分岐管36へ流入する。
【0031】
また、図4に示されるように、底部40Aの高さHを、横引き管30Aの流路の天井部の高さH3より高い位置に設定してもよい。排水の水位が高さHまで上昇したときに、横引き管30Aに満流が生じ易くなるためである。
【0032】
図1から図3に示されるように、分岐部40に、管内の空気を排出可能とする通気管46が接続されていてもよい。通気管46の一端は、分岐部40の分岐管36側の流路よりも更に高い位置の流路に接続されている。これは、通気管46内への排水の流入を抑制するためである。
【0033】
(貯留槽)
図1図2において、貯留槽24は、排水を貯留可能とされ、分岐管36に接続され排水が流入する流入口24A、及び排水が流出する流出口24Bを備えている。貯留槽24は、スラブ14の上に配置され、サイホン排水システム10の一部を構成する。また、貯留槽24は、浴槽18からの多量の排水を一時的に貯留可能とするために、例えば略直方体とされている。貯留槽24は、例えば、塩ビ等の合成樹脂材料で形成されている。
【0034】
(合流管)
図2において、合流管38は、流出口24Bと横引き管30Aを接続する配管である。勾配管22の下流端及び合流管38の下流端は、横引き管30Aの上流端に接続されている。具体的には、勾配管22、合流管38及び横引き管30Aの接続部には、継手42が設けられており、継手42の三方に勾配管22の下流端、横引き管30Aの上流端、及び合流管38の下流端がそれぞれ接続されている。
【0035】
合流管38には、横引き管30Aから貯留槽24への排水の流入を抑制する流入抑制部44が設けられていてもよい。流入抑制部44は、例えば逆止弁や部分的な小径部(絞り)であり、流出口24Bから貯留槽24への排水の流入(逆流)を抑制するようになっている。
【0036】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図1図2図4において、本実施形態に係るサイホン排水システム10では、浴槽18からの排水のように流量が多い排水の場合に、該排水が勾配管22から横引き管30Aに矢印A方向に直接流入すると共に(図4(A))、勾配管22の水位が上昇することで(図4(B))排水が分岐部40から分岐管36を通じて貯留槽24にも流入する(矢印B方向)。貯留槽24で多量の排水を受け入れることで、水廻り機器からの排水が円滑に行われる。横引き管30Aは、内径が勾配管22の内径よりも小さいので満流が生じ易く、満流の排水が竪管30Bを流れ落ちることでサイホン力が発生する。これにより、勾配管22及び貯留槽24からの排水が速やかに行われる。このとき、貯留槽24に貯留された排水は、合流管38及び継手42を通じて横引き管30Aへ流出する。
【0037】
ここで、勾配管22から分岐管36が分岐する分岐部40において、分岐管36側への流路の底部40Aが、分岐部40における勾配管22側の流路の底部40Bよりも高い位置に設定されている。したがって、分岐管36側への流路の底部40Aが、分岐部40における勾配管22側の流路の底部40Bと同等の高さに設定されている場合と比較して、分岐部40へ排水が流れ始めるときの勾配管22の水位が高くなる。したがって、横引き管30Aに満流が更に生じ易くなる。
【0038】
また、分岐管36側への流路の底部40Aが、分岐部40における勾配管22側の流路の天井部40Cよりも低い位置に設定されているので、勾配管22の水位が天井部40Cに達したときには排水が確実に分岐管36へ流れる。
【0039】
一方、シャワーからの排水のように、流量が比較的少ない排水の場合でも、該排水が勾配管22から横引き管30Aに直接流入するので、横引き管30Aの水位が速やかに上昇し、横引き管30Aに満流が生じ易い。したがって、すべての排水が貯留槽24を通ってから横引き管30Aに流入する構成と比較して、サイホン力が発生するまでの時間が短縮される。
【0040】
また、貯留槽24の流出口24Bと横引き管30Aを接続する合流管38に流入抑制部44が設けられているので、横引き管30Aから貯留槽24へ排水が逆流することが抑制され、横引き管30Aから竪管30Bに流れる排水が多くなる。したがって、横引き管30Aに満流がより一層生じ易くなる。
【0041】
更に、勾配管22の下流端及び合流管38の下流端が、横引き管30Aの上流端に接続されているので、これらが互いに異なる位置に接続されている場合と比較して、点検口の数を少なくすることができ、メンテナンスが容易である。
【0042】
また、勾配管22から分岐管36が分岐する分岐部40に通気管46が接続されているので、排水が勾配管22に流入したときに勾配管22内の空気が通気管46を通じて外部に排出される。一例として、勾配管22内の空気は、通気管46及び合流継手34から立て管32内に排出される。これにより、勾配管22の内側の空気が上流に押し出されることによる水廻り機器からの排水の溢れ出しを抑制できる。
【0043】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明の実施形態は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0044】
勾配管22の下流端及び合流管38の下流端が、横引き管30Aの上流端に接続されるものとしたが、合流管38が横引き管30Aの上流端より下流側に接続されていてもよい。
【0045】
貯留槽24内の空気を排出するための通気管(図示せず)が、貯留槽24に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10…サイホン排水システム、17…浴室(水廻り機器)、22…勾配管、24…貯留槽、24A…流入口、24B…流出口、30A…横引き管、30B…竪管、36…分岐管、38…合流管、40…分岐部、40A…分岐管側への流路の底部、40B…勾配管側の流路の底部、44…流入抑制部、46…通気管
図1
図2
図3
図4