(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】極性マトリクス、金属ドーパントおよび銀製カソードを含んでいる、有機発光デバイス
(51)【国際特許分類】
H10K 50/16 20230101AFI20240613BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240613BHJP
H05B 33/26 20060101ALI20240613BHJP
H05B 33/28 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
H05B33/22 B
H05B33/14 A
H05B33/26 Z
H05B33/28
(21)【出願番号】P 2021078763
(22)【出願日】2021-05-06
(62)【分割の表示】P 2017566731の分割
【原出願日】2016-06-22
【審査請求日】2021-05-12
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-29
(32)【優先日】2015-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503180100
【氏名又は名称】ノヴァレッド ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ゲルフェルト,ウーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】カルステン,ローテ
(72)【発明者】
【氏名】ヤンクス,ヴィニギンタス
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】宮澤 浩
【審判官】西岡 貴央
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-270729(JP,A)
【文献】特開2006-73581(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0119191(US,A1)
【文献】特開2004-95221(JP,A)
【文献】国際公開第2015/052284(WO,A1)
【文献】特開2014-103312(JP,A)
【文献】特開2008-244012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC H01L51/50-51/56
H01L27/32
H05B33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと実質的に銀製のカソードとの間に、少なくとも1つの発光層を備えている電子デバイスであって、
上記デバイスは、上記カソードと上記アノードとの間に、少なくとも1つの混合層をさらに備えており、
上記混合層は、
(i)
少なくとも1つのホスフィンオキシド
基を有している、少なくとも1種類の実質的に共有結合性の電子輸送マトリクス化合物、ならびに
(ii)実質的に非放射性である元素であって、
Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Yb、SmおよびEuから選択される、実質的に元素形態である陽性元素、
を含んでおり、
上記混合層は、上記カソードに隣接してい
る電子輸送層または電子注入層である、電子デバイス。
【請求項2】
同じ条件下におけるサイクリックボルタンメトリーで測定した場合、上記電子輸送マトリクス化合物の還元電位の値は、トリス(2-ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)フェノキシアルミニウムから得られる値よりも負である、請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項3】
上記カソード中の上記銀の含有量は、少なくとも99.5重量%である、請求項1または2に記載の電子デバイス。
【請求項4】
上記ホスフィンオキシド基は、実質的に共有結合性である構造の一部であり、
上記実質的に共有結合性である構造は、上記ホスフィンオキシド基のリン原子に直接結合している、少なくとも3つの炭素原子を有しており、
上記実質的に共有結合性である構造はさらに、共有結合している原子の総数が、16~250個の範囲にある、請求項1~
3のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項5】
上記ホスフィンオキシド基は、下記(a)または(b)で置換されているホスフィンオキシド基から選択され、
(a)3つの1価ヒドロカルビル基、または
(b)リン原子と環を形成している1つの2価ヒドロカルビレン基、および1つの1価ヒドロカルビル基、
上記ヒドロカルビル基および上記ヒドロカルビレン基の全体の炭素原子数は、8~80個である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項6】
上記電子輸送マトリクス化合物は、少なくとも10個の非局在化電子の共役系を有している、請求項1~
5のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項7】
上記電子輸送マトリクス化合物は、少なくとも1つの芳香環または複素芳香環を有している、請求項1~
6のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項8】
上記電子輸送マトリクス化合物は、少なくとも2つの芳香環または複素芳香環を有しており、
当該環は、共有結合で連結されているか、または縮合しているかのいずれかである、
請求項
7に記載の電子デバイス。
【請求項9】
上記陽性元素の上記電子輸送化合物に対するモル比は、0.5未満である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項10】
上記陽性元素の上記電子輸送化合物に対するモル比は、0.01を超えている、請求項1~
9のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項11】
逆構造型素子である、請求項1~
10のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項12】
上記電子デバイスは、上記カソードの厚さが30nm未満の、トップ・エミッション型素子である、請求項1~
10のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項13】
上記銀製のカソードは、(a)波形がつけられている、および(b)光散乱層と組み合わされている、のうち少なくとも一方を満たしている、請求項1~
12のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子特性を改善した有機発光デバイスと関係がある。具体的には、(a)銀製のカソードと併せて、改良された電子輸送層および/または電子注入層を備えている素子、および/または、(b)当該改良された電子輸送層および/または電子注入層、ならびに任意構成である改良された電荷発生層を備えているOLED積層体、と関係がある。
【背景技術】
【0002】
有機化学により調達される材料を、その少なくとも一部に含んでいる電子デバイスの中でも、有機発光ダイオード(organic light emitting diodes;OLED)は、重要な地位を占めている。1987年、効果的なOLEDがTang et al.によって発表されて以降(C.W. Tang et al., Appl. Phys. Lett. 51 (12), 913 (1987))、OLEDは、将来有望な候補から、高性能な商用ディスプレイへと発展してきた。OLEDは、実質的に有機材料からなる一連の薄層を備えている。通常、これらの層の厚さは1nm~5μmの範囲である。一般的に、これらの層は、真空蒸着によって形成されるか、あるいは溶液から形成されるか(例えば、スピンコーティングまたはジェット印刷によって)のいずれかである。
【0003】
カソードおよびアノードから、これらの間に配置されている有機層へと電荷キャリアが注入された後、OLEDは光を放射する(カソードからは電子、アノードからは正孔の形で注入される)。電荷キャリアの注入は、外部電圧の印加によってもたらされる。これに続いて、発光部において励起子が形成され、励起子の発光再結合が生じる。少なくとも1つの電極は、透明または半透明である。多くの場合、このような電極は、透明酸化物(酸化インジウムスズ(indium tin oxide;ITO)など)または金属の薄層の形をとる。
【0004】
OLEDの発光層(light emitting layer;LEL)または電子輸送層(electron transporting layer;ETL)で用いられているマトリクス化合物の中でも、ホスフィンオキシドおよびジアゾールから選択される少なくとも1つの極性基を有している化合物は、重要な地位を占めている。半導体材料の電子注入特性および/または電子輸送特性が、このような極性基によってしばしば顕著に向上する理由は、未だ完全には解明されていない。このような極性基の高い双極子モーメントが、何らかの有利な役割を果たしていると考えられている。半導体材料用途について特に推奨されているのは、ホスフィンオキシド基に直接結合している少なくとも1つの縮合芳香基または縮合複素芳香基を有している、トリアリールホスフィンオキシドである(例えばJP4,876,333B2を参照)。ジアゾール基の中でもフェニルベンゾイミダゾール基は、新規な電子輸送マトリクス化合物を設計するために、特に広く利用されている(例えば、US5,645,948に記載のTPBI)。また、他の構造部分(2つ以上の芳香環または複素芳香環中に非局在化π電子を有している)と連結されているベンゾイミダゾール構造部分を有する、何種類かの化合物(例えばLG-201化合物)は、今日では工業標準であると考えられている(例えばUS6,878,469)。
【0005】
【0006】
電子特性(特に導電性)を改善するために、電荷輸送半導体材料を電子ドープすることが、1990年代以降知られている(例えば、US5,093,698Aを参照)。真空蒸着によって作製されるETLにおいて、特に単純なn型ドーピングの方法は、一方の蒸着源からはマトリクス化合物を蒸着させ、他方の蒸着源からは陽性の強い元素を蒸着させて、これらを固体基板上に共堆積させる方法である(なお、ディスプレイの工業生産などにおいては、真空蒸着は、最も頻繁に利用されている最新の標準的方法である)。トリアリールホスフィンオキシド・マトリクス化合物に有用なn型ドーパントとして、JP4,725,056B2は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属に言及している(実施例においては、ドーパントとしてセシウムが上首尾に用いられている)。実際のところ、最も陽性の強い元素であるセシウムならば、最も広範にマトリクス化合物を選択することができる。上記の文献において、セシウムのみがn型ドーピング金属として選択された理由も、恐らくはこのためであろう。
【0007】
工業用途に関して、ドーパントとしてのセシウムには、いくつかの重大な欠点が存在する。第一に、セシウムは非常に反応性が高い物質で、取り扱いが難しい(水分に対する安定性が低く、空気に対する安定性が非常に低い)。そのため、高度な安全装置や、セシウムの使用とは切って離せない火災を緩和するための、大きな追加コストが必要となる。第二に、セシウムの標準沸点は非常に低い(678℃)ため、高真空条件下における揮発性が非常に高い可能性がある。現に、真空蒸着(vacuum thermal evaporation;VTE)用の工業用設備で用いられる、10-2Pa未満の圧力では、蒸発温度より少し低い温度において既に、セシウム金属は激しく蒸発してしまう。有機半導体材料に用いられる一般的なマトリクス化合物の蒸発温度は、10-2Pa未満の圧力においては、通常、150~400℃である。このことを考慮に入れると、設備の温度の低い部分(例えば、有機マトリクス蒸着源からくる熱放射から遮蔽されている部分)に対する予期せぬ堆積・汚染につながるような、制御外のセシウムの蒸発を防止することは、非常に困難な課題である。
【0008】
上記の欠点を克服し、有機電子デバイスにおいてセシウムによるn型ドーピングを工業利用できるようにするための、いくつかの方法が公開されている。安全な取扱いに関しては、蒸着源が排気された環境下でのみ開く密閉箱の中に、セシウムを配置してもよい(好ましくは、作業温度まで熱する間)。このような技術的解決は、例えば、WO2007/065685によって与えられている。しかし、この方法では、セシウムの高揮発性の問題は解決されない。
【0009】
US7,507,694B2およびEP1,648,042B1は、セシウム合金という形で、他の解決方法を提供している。上記セシウム合金は低温で融解し、純粋な金属と比べてセシウム蒸気圧が非常に低い。WO2007/109815に開示されているビスマス合金は、圧力:10-4Pa程度、温度:最大で約450℃においてセシウム蒸気を放出するものであり、これもまた他の解決方法を表している。しかし、これらの合金は、依然として空気および水分に対する安定性が非常に低い。加えて、実のところ、この解決方法はさらなる欠点を有している。蒸発の間、合金の蒸気圧が、セシウム濃度の減少に伴って変化するのである。そのため、適切な堆積速度制御(例えば、蒸着源の温度をプログラムすることによる)という、新たな問題が生じる。現在のところ、このような製造方法を工業スケールで行う場合のロバスト性に関する品質保証(quality assurance;QA)上の懸念のため、大量生産工程においては、この技術的解決方法の広範な応用が妨げられている。
【0010】
Csドーピングに対する実現可能な代案としては、陽性の強い遷移金属複合体(W2(hpp)4など)が挙げられる。この複合体はイオン化ポテンシャルがセシウムと比較して低く、一般的な有機マトリクスの揮発性と同程度の揮発性である。実際に、WO2005/086251において、上記複合体は初めて電子ドーパントとして開示されており、何種類かの炭化水素マトリクスを除けば、ほとんどの電子輸送マトリクスに対して効果を奏した。上記複合体は空気および水分に対する安定性が低いが、WO2007/065685に記載の箱の中に配置するならば、工業用途において充分満足できるn型ドーピングの解決方法を提供した。上記複合体の主な短所は、(a)含まれるリガンドが化学的には比較的複雑であり、(b)最終的な複合体には多段階合成が必要であるために、高価であることである。さらに、保護箱を使用する必要によって、および/または、当該箱の再使用および再充填に関するQAおよびロジスティック上の問題によって、追加のコストも発生する。
【0011】
他の代替案としては、追加のエネルギーを供給することによって(例えば、紫外線(UV)または適切な波長の可視光の形で)、ドープされたマトリクス中にてin situで、比較的安定な前駆体から強力なn型ドーパントを生成させることが挙げられる。この解決方法に好適な化合物は、例えば、WO2007/107306A1に開示されている。それでもなお、現在の技術水準の工業用蒸着源には、非常に温度安定性が高い物質が要求される。つまり、蒸着される物質と併せて配置される蒸着源の作業サイクル程全体を通じて(例えば、300℃にて1週間)、作業温度まで加熱しても、当該蒸着源が全く分解しない必要がある。有機n型ドーパントまたは有機n型ドーパント前駆体に上述のような長期にわたる熱安定性を与えることは、現時点においては正しく技術上の課題である。さらに、マトリクス中に堆積しているドーパント前駆体をin situで活性化させることによって、再現性をもって所望のドーピング・レベルを達成するために、明確かつ再現性のある追加エネルギー供給が可能となるよう、製造設備に複雑な準備を施すこともまた、別の技術上の困難である。このことは、大量生産における、別のCA上の問題の源泉でもある。
【0012】
Yook et al.は、空気安定性を有するCs前駆体としてアジ化セシウムを用いることに、研究室レベルで成功した(Advanced Functional Materials 2010, 20, 1797-1802)。この化合物は、300℃超に加熱すると分解し、セシウム金属および窒素分子となることが知られている。しかしこの製造方法は、今日の工業用VTE源には応用しがたい。というのも、このような異種物質への分解反応を、大スケールで制御することは困難であるためである。さらに、この反応において、副生成物として窒素ガスを放出することによって、以下の危険性が生じる(とりわけ、大量生産において、高速度の堆積が望ましい場合には)。つまり、膨脹したガスが、蒸着源からアジ化セシウム固体粒子を吹き飛ばすことによって、ドープされた半導体材料の堆積層中に重大な欠陥が生じるかもしれない。
【0013】
電子輸送マトリクスをn型電子ドーピングするための他のアプローチとしては、金属塩または金属複合体でドープすることが挙げられる。このようなドーパントの、最も頻繁に用いられている例に、8-ヒドロキシキノリノラート-リチウム(LiQ)がある。この物質は、ホスフィンオキシド基を有するマトリクスにおいて、特に効果的である(例えば、WO2012/173370A2を参照)。金属塩ドーパントの主要な短所は、基本的には隣接する層への電子注入能のみを改善して、ドープされた層の導電性を上昇させないことである。したがって、電子デバイスにおける駆動電圧を低下させるための、これらの物質の利用は、非常に薄い電子注入層または電子輸送層に限定される。また、例えば、約25nmよりも厚いETLを用いることによって、光学空洞を調整することは難しい(高い導電性を有する、酸化還元ドープされたETLならば可能である)。さらに、ドープされた層中での新たな電荷キャリアの発生が重要である場合には、金属塩は一般的に電子ドーパントたりえない。例えば、タンデム型OLEDの機能に必須である電荷発生層(charge generating layer;CGL、pn接合とも呼ぶ)の場合が、これに当たる。
【0014】
以上の理由のために、とりわけ約30nmよりも厚いETLにおける電子ドーピングのために、昨今の技術慣行では、リチウムを工業用の酸化還元n型ドーパントとすることが好まれている(例えば、US6,013,384B2を参照)。この金属は比較的廉価で、やや反応性が低い点において(とりわけ、揮発性が非常に低い(標準沸点:約1340℃)点において)、他のアルカリ金属とは異なっている。このため、温度:350~550℃のVTE装備で蒸着させることができる。
【0015】
しかし、Liはn型ドーピング力が大きく、一般的な種類の電子輸送マトリクスの大部分をドープすることができるとは言っても、この金属はまた、反応性の度合いが高いのである。リチウムは、たとえ乾燥窒素下であっても常温で反応する。また、今日の工業的QA標準に従う、再現性の非常に高い製造プロセスでリチウムを使用するためには、閉鎖的な高純度希ガス環境下での保存・取扱いが必須である。さらに、(a)Liと、(b)蒸発温度が150~300℃であるマトリクス化合物と、を共蒸着させる場合、Liの蒸発温度はマトリクスの蒸発温度と比較して非常に高いため、VTE設備中での相互汚染の問題が生じる。
【0016】
多くの文献により、ほとんど全ての金属元素が、代替的なn型ドーパントとして提案されている。例えば、還元性が低く揮発性の高い元素(Zn、Cd、Hg)、還元性の低い元素(Al、Ga、In、Tl、Bi、Sn、Pb、Fe、Co、Ni)、あるいは貴金属までも(Ru、Rh、Irなど)、および/または、知られている中では最も沸点が高い耐熱金属(Mo、W、Nb、Zrなど)が挙げられる(例えば、JP2009/076508またはWO2009/106068を参照)。残念ながら、ここで例示した2文献のみならず、科学文献および特許文献の全体にも、実のところ、これらの提案の一部ですら実験的に確かめたという証拠は、何ら存在しない。
【0017】
より具体的に言えば、WO2009/106068は、考えられるドーパントの全てに言及しているのみならず、固有名のある半金属元素の全てを有機電子デバイスのn型ドーパントとしてクレームすることを目指していたのである。その根拠となったのは、「ガス状の前駆体化合物が、加熱されたノズル中の高温で分解する」ということが応用できるという、出願人の主張である。しかし同文献は、(a)主張によると作製されたことになっているドープされた材料の物理的パラメータ、および/または、(b)主張によると作製されたことになっている素子の技術的性能、を記録した数値を、一つたりとも提示していない。
【0018】
一方、US2005/0042548(WO2009/106068の優先日前に公開)は、段落〔0069〕に以下のことを記載している(第7頁の左欄最後の2行~右欄最初の3行を参照)。すなわち、ペンタカルボニル鉄をUV放射によって活性化し、一酸化炭素リガンドを分離させるならば、当該化合物を有機ETMのn型ドープに用いることができる。そして、配位性の不飽和鉄化合物は、マトリクスと反応して実際にドーピング効果を与える。この先行技術が、「追加のエネルギーを供給して活性化した場合、金属カルボニル(WO2009/106068の実施例とされるものにおいて用いられている)は、有機マトリクスにおける公知のn型ドーパントとなる」旨を開示していることを鑑みると、以下のことが非常にもっともらしく思われる。すなわち、WO2009/106068の出願人が、実際に、「電気加熱により白熱しているセラミックノズルを通した、ペンタカルボニル鉄のジェット流(上記PCT出願のドイツ語書面の第12頁最終段落を参照)」によって、標的であるバソクプロイン層に何らかのドーピング効果を得たとしても、当該効果は、US2005/0042548においてUVの照射によって生成した配位性の不飽和鉄-カルボニル複合体と同じものにより、もたらされたのである。そして、WO2009/106068の出願人が推測したように、元素鉄が効果をもたらしているのではない。この推測は、上記PCT出願の第13頁第4段落によりさらに支持される。当該箇所には、「ペンタカルボニル鉄の流れに赤外線レーザを照射し、当該赤外線の波長を、ペンタカルボニル鉄複合体中のCO基の吸光周波数に設定した場合は、常温のノズルを用いても同じ結果が得られる」旨が記載されている。ここにおいて、レーザによる活性化よって生じたのは、配位子のない金属元素または金属原子のクラスターではなかったことが、より一層もっともらしくなる。そうではなくて、UV光による活性化で形成された反応性の複合体と同様に、カルボニルリガンドを依然としていくつか担っている、反応性かつ配位性の不飽和鉄複合体が生じたのである。
【0019】
一般的に、酸化還元n型ドーピングを扱う文献は、標準酸化還元電位が大きく負である金属(アルカリ土類金属またはランタニドなど)について、アルカリ金属以外の代替n型ドーパントとして言及している。しかし、アルカリ金属以外の何らかの金属を用いてn型ドープを行った証拠となる記録は、ごく僅かしかない。
【0020】
マグネシウムは、アルカリ金属と比較して、反応性が非常に低い。マグネシウムは、常温において、液体の水とは非常に緩やかにしか反応しない。また空気中では、金属光沢を保ち、数箇月にわたって重量が増加しない。したがってマグネシウムは、実用上の空気安定性を有すると考えてよい。さらに、マグネシウムの標準沸点は低い(約1100℃)。そのため、共蒸着させる有機マトリクスにとって最適な温度範囲で行うVTEに関して、大いに期待が持てる。
【0021】
一方、本願の出願人は、現在の技術水準にある数十種類のETMに対するスクリーニングにより、通常のETM(ホスフィンオキシド基などの強い極性基を有していない)に対しては、Mgでは充分なドーピング強度が得られないことを確認した。唯一の好ましい結果は、マグネシウムでドープされた特定の種類のトリアリールホスフィンオキシド・マトリクス(金属をキレートするように設計された、特別なトリス-ピリジル単位を有している)からなる、薄い電子注入層を備えているOLEDから得られたものであった(EP2,452,946A1に記載の通り)。EP2,452,946A1においてマグネシウムとともに試験した例示的なマトリクスは、構造特異性を有しており、ドープ能も非常に好ましかった(絶対エネルギー・スケールにおいて、LUMO準位が真空準位よりも非常に深い点において)。このn型ドープされた半導体材料から得られた好ましい結果によって、実質的に空気安定性を有する金属を用いたn型ドーピングに注目した、さらなる研究が促されたのである。
【0022】
本発明の目的は、従来技術の欠点を克服し、良好な特性(特に低電圧)の有機発光ダイオードを提供することにある。より具体的には、低電圧かつ高効率のOLED、好ましくは、実質的に空気安定性の金属をn型ドーパントとして利用しているOLEDを提供することにある。
【発明の概要】
【0023】
上記の目的は、以下の電子デバイスによって達せられる。すなわち、
アノードと実質的に銀製のカソードとの間に、少なくとも1つの発光層を備えている電子デバイスであって、
上記デバイスは、上記カソードと上記アノードとの間に、少なくとも1つの混合層(「実質的な有機層」とも呼ぶ)をさらに備えており、
上記混合層は、
(i)ホスフィンオキシド基またはジアゾール基から選択される少なくとも1つの極性基を有している、少なくとも1種類の実質的に共有結合性の電子輸送マトリクス化合物、ならびに
(ii)実質的に非放射性である元素であって、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、および、陽子数が22、23、24、25、26、27、28、29である周期表の第4周期の遷移金属から選択される、実質的に元素形態である陽性元素、
を含んでいる、電子デバイス。
【0024】
「実質的に銀製の」とは、銀の含有量が少なくとも99重量%であることを意味すると理解されたい。好ましくは、カソード中の銀の含有量は少なくとも99.5重量%であり、より好ましくは少なくとも99.8重量%であり、より一層好ましくは少なくとも99.9重量%であり、最も好ましくは少なくとも99.95重量%である。
【0025】
上記極性基がホスフィンオキシド基である場合は、同じ条件下におけるサイクリックボルタンメトリーで測定したときに、上記電子輸送マトリクス化合物の還元電位の値は、好ましくは、トリス(2-ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)フェノキシアルミニウムから得られる値よりも負であり;好ましくは、9,9’,10,10’-テトラフェニル-2,2’-ビアントラセンまたは2,9-ジ([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンよりも負であり;より好ましくは、2,4,7,9-テトラフェニル-1,10-フェナントロリンよりも負であり;より一層好ましくは、9,10-ジ(ナフタレン-2-イル)-2-フェニルアントラセンよりも負であり;より一層好ましくは、2,9-ビス(2-メトキシフェニル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンよりも負であり;より一層好ましくは、9,9’-スピロビ[フルオレン]-2,7-ジイルビス(ジフェニルホスフィンオキシド)よりも負であり;より一層好ましくは、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンよりも負であり;より一層好ましくは、1,3,5-トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)ベンゼンよりも負であり;最も好ましくは、ピレンよりも負であり;さらに好ましくは、[1,1’-ビナフタレン]-2,2’-ジイルビス(ジフェニルホスフィンオキシド)から得られる値よりも負である。
【0026】
上記極性基がイミダゾール基である場合は、同じ条件下におけるサイクリックボルタンメトリーで測定したときに、上記電子輸送マトリクス化合物の還元電位の値は、好ましくは、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンから得られる値よりも負であり;好ましくは、(9-フェニル-9H-カルバゾール-2,7-ジイル)ビス(ジフェニルホスフィンオキシド)よりも負であり;より好ましくは、(9,9-ジヘキシル-9H-フルオレン-2,7-ジイル)ビス(ジフェニルホスフィンオキシド)よりも負であり;非常に好ましくは、1,3,5-トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)ベンゼンよりも負であり;より一層好ましくは、3-フェニル-3H-ベンゾ[b]ジナフト[2,1-d:1’,2’-f]ホスフェピン-3-オキシドよりも負であり;最も好ましくは、ピレンよりも負であり;さらに好ましくは、[1,1’-ビナフタレン]-2,2’-ジイルビス(ジフェニルホスフィンオキシド)よりも負である。
【0027】
「実質的に共有結合性」とは、大部分が共有結合によって互いに結合している元素を含む化合物を意味すると理解されたい。実質的に共有結合性である分子構造の例としては、有機化合物、有機金属化合物、多原子のリンカーを有する金属複合体、有機酸の金属塩が挙げられる。この意味において、用語「実質的な有機層」とは、実質的に共有結合性の電子輸送マトリクス化合物を含んでいる層であると理解されたい。
【0028】
用語「実質的に共有結合性の化合物」には、有機電子デバイスを製造するための通常の技法および設備(真空蒸着または溶液処理など)によって製造できる物質が包含されることもまた、理解されたい。純粋な無機結晶またはガラス状の半導体材料(シリコンまたはゲルマニウムなど)が、用語「実質的に共有結合性の化合物」に包含されないことは明白である。これらの物質は、非常に蒸発温度が高く、かつ溶媒に溶解しないため、有機電子デバイス用の設備では作製できないからである。
【0029】
好ましくは、上記ホスフィンオキシドである極性基は、当該ホスフィンオキシド基のリン原子に直接結合している、少なくとも3つの炭素原子を有している。上記ホスフィンオキシドである極性基はさらに、共有結合している原子(好ましくはC、H、B、Si、N、P、O、S、F、Cl、BrおよびIから選択される)の総数が、16~250個の範囲にあり;より好ましくは32~220個の範囲にあり;より一層好ましくは48~190個の範囲にあり;最も好ましくは64~160個の範囲にある。
【0030】
また好ましくは、上記電子輸送マトリクス化合物は、少なくとも10個の非局在化電子の共役系を有している。
【0031】
非局在電子の共役系の例としては、π結合とσ結合とが交互に並ぶ系が挙げられる。任意で、原子間にπ結合を有する2原子単位の1つ以上を、1つ以上の孤立原子対を担う原子によって置き換えることができる(通常は、O、S、Se、Teから選択される2価の原子によって。あるいは、N、P、As、Sb、Biから選択される3価の原子によって)。好ましくは、上記非局在電子の共役系は、ヒュッケル則を守っている少なくとも1つの芳香環を有している。
【0032】
より好ましくは、上記実質的に共有結合性の電子輸送マトリクス化合物は、少なくとも2つの芳香環または複素芳香環を有しており、当該環は、共有結合で連結されているか、または縮合しているかのいずれかである。また好ましくは、上記ホスフィンオキシドである極性基は、下記(a)または(b)で置換されているホスフィンオキシドから選択される:(a)3つの1価ヒドロカルビル基;または(b)リン原子と環を形成している1つの2価ヒドロカルビレン基、および1つの1価ヒドロカルビル基。このとき、上記ヒドロカルビル基および上記ヒドロカルビレン基の全体の炭素原子数は、8~80であり;好ましくは14~72であり;より好ましくは20~66であり;より一層好ましくは26~60であり;最も好ましくは32~54である。他の好ましい実施形態においては、2種類の実質的に共有結合性である化合物が、半導体材料中に含まれている。一方は、ホスフィンオキシド基またはジアゾール基から選択される極性基を有している、第1化合物である。ここで、上記第1化合物は、(a)非局在化電子の共役系がないか、または(b)10個未満の非局在化電子の共役系を有している。他方は、少なくとも10個の非局在化電子の共役系を有している、第2化合物である。より好ましくは、上記第2化合物は、ホスフィンオキシド基および/またはジアゾール基から選択される極性基を有していない。
【0033】
少なくとも10個の非局在化電子を有する縮合芳香骨格を有している化合物の例としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、キノリン、インドールまたはカルバゾールが挙げられる。上記非局在化電子の共役系は、少なくとも2つの直接結合している芳香環からなっていてもよい。このような系の最も単純な例としては、ビフェニル、ビチエニル、フェニルチオフェン、フェニルピリジンなどが挙げられる。一方、5価のリン原子(例えば、ホスフィンオキシド基中のリン原子)は、当該5価のリン原子が結合している非局在化電子の系における共役には、関与しないことが知られている。この意味において、5価のリン原子は、sp3混成炭素(例えば、メチレン基中の炭素原子)に類似している。最も好ましくは、上記第2化合物が有している少なくとも10個の非局在化電子の共役系は、C14~C50のアレーン構造部分またはC8~C50のヘテロアレーン構造部分に含まれている。ここで、炭素数の合計には、可能な置換基も含まれている。本発明の趣旨によれば、非局在化電子の共役系を有している構造部分における置換基の数、位置および空間配置は、本発明の機能にとって決定的な要素ではない。上記ヘテロアレーン構造部分中の好ましいヘテロ原子は、B、O、NおよびSである。上記第2の化合物においては、当該化合物に含まれる非局在化電子の系を担っているコア原子も、C、Si、Bなどの多価原子(好ましくは、これらの原子は、コア原子に結合している周辺的な置換基を形成している)も、いずれも、分子の末端原子で置換されていてもよい。分子の末端原子は、通常、有機化合物中で1価であり、より好ましくは、H、F、Cl、BrおよびIから選択される。好ましくは、上記少なくとも10個の非局在化電子の共役系は、C14~C50のアレーン構造部分またはC8~C50のヘテロアレーン構造部分に含まれている。また好ましくは、上記ジアゾール基は、イミダゾール基である。
【0034】
好ましい一実施形態において、上記電子デバイスは、(a)少なくとも1種類の金属カチオン、および(b)少なくとも1種類のアニオン、からなる金属塩添加物をさらに含んでいる。好ましくは、上記金属カチオンは、Li+またはMg2+である。また好ましくは、上記金属塩添加物は、(a)窒素原子を含んでいる、5員環、6員環または7員環、および(b)上記金属カチオンに結合している酸素原子、を含んでいる金属複合体から選択され;かつ、下記式(II)の構造を有する複合体から選択される。
【0035】
【0036】
式中、A1は、(a)C6~C30のアリーレン、または(b)O、SおよびNから選択される少なくとも1つの原子を芳香環中に含んでいる、C2~C30のヘテロアリーレンである。A2およびA3はいずれも、(a)C6~C30のアリール、または(b)O、SおよびNから選択される少なくとも1つの原子を芳香環中に含んでいる、C2~C30のヘテロアリール、から独立に選択される。同程度に好ましくは、上記アニオンは、ホスフィンオキシド基で置換されているフェノラート、8-ヒドロキシキノリノラートおよびピラゾリルボレートからなる群より選択される。好ましくは、上記金属塩添加物は、第2のn型電子ドーパントとして作用する。より好ましくは、上記金属塩添加物は、元素形態で存在している上記の金属元素と相乗的に作用して、第1のn型電子ドーパントとして作用する。
【0037】
上記実質的に元素形態である陽性元素は、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Sm、Eu、Tb、Yb、Lu、Ti、VおよびMnから選択されることが好ましく;Li、Mg、Ca、Sr、Ba、Sm、Eu、Tb、Ybから選択されることがより好ましく;Li、Mg、Ybから選択されることが最も好ましい。好ましくは、上記陽性元素の上記第1化合物に対するモル比は、0.5未満であり;好ましくは0.4未満であり;より好ましくは0.33未満であり;より一層好ましくは0.25未満であり;より一層好ましくは0.20未満であり;より一層好ましくは0.17未満であり;最も好ましくは0.15未満であり;さらに好ましくは0.13未満であり;好ましさは劣るが好ましくは0.10未満である。
【0038】
さらに好ましくは、上記陽性元素の上記第1化合物に対するモル比は、0.01を超えており;好ましくは0.02を超えており;より好ましくは0.03を超えており;より一層好ましくは0.05を超えており;最も好ましくは0.08を超えている。
【0039】
好ましくは、上記陽性元素は、電子輸送層、電子注入層または電荷発生層に含まれている。より好ましくは、上記電子輸送層または電子注入層は、化合物からなる層と隣接している。ここで、同じ条件下におけるサイクリックボルタンメトリーで測定した場合、上記化合物の還元電位は、隣接する電子輸送層または電子注入層の電子輸送マトリクス化合物よりも負である。好ましい一実施形態において、本発明の半導体材料製の層と隣接している層は、発光層である。
【0040】
さらに好ましくは、上記発光層は、青色光または白色光を放射する。好ましい一実施形態において、上記発光層は、少なくとも1種類の高分子を含んでいる。より好ましくは、上記高分子は、青色光を放射する高分子である。
【0041】
また好ましくは、上記電子輸送層または電子注入層は、5nmよりも厚く;好ましくは10nmよりも厚く;より好ましくは15nmよりも厚く;より一層好ましくは20nmよりも厚く;最も好ましくは25nmよりも厚く;さらに好ましくは50nmよりも厚く;さらに好ましくは100nmよりも厚い。
【0042】
好ましい一実施形態において、上記電子輸送層または電子注入層は、上記カソードと隣接している。
【0043】
本発明のさらに他の実施形態は、金属ドープしたpn接合を有する、タンデム型OLED積層体である。上記OLED積層体は、以下を含んでいる:
(i)実質的に非放射性である元素であって、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、および、陽子数が22、23、24、25、26、27、28、29である周期表の第4周期の遷移金属から選択される、実質的に元素形態である陽性元素、ならびに、
(ii)ホスフィンオキシド基またはジアゾール基から選択される少なくとも1つの極性基を有している、少なくとも1種類の実質的に共有結合性の電子輸送マトリクス化合物。
【0044】
好ましくは、本発明の素子は、以下の製造方法によって作製される。すなわち、
(i)実質的に非放射性である元素であって、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、および、陽子数が22、23、24、25、26、27、28、29である周期表の第4周期の遷移金属から選択される、陽性元素、ならびに、
(ii)ホスフィンオキシド基またはジアゾール基から選択される少なくとも1つの極性基を有している、少なくとも1種類の実質的に共有結合性の電子輸送マトリクス化合物、を、減圧下で共蒸着および共堆積させて、実質的な有機層を形成する工程を、少なくとも1つ含む製造方法である。このとき、上記陽性元素は、当該陽性元素の元素形態または実質的な元素形態で堆積される。
【0045】
好ましくは、上記陽性元素を、当該陽性元素の元素形態または実質的な元素形態から蒸着させる。より好ましくは、上記陽性元素を、実質的な空気安定性を有する、元素形態または実質的な元素形態から蒸着させる。また好ましくは、圧力は10-2Pa未満であり、より好ましくは10-3Pa未満であり、最も好ましくは10-4Pa未満である。
【0046】
上記陽性元素の標準沸点は、好ましくは3000℃未満であり、より好ましくは2200℃未満であり、より一層好ましくは1800℃未満であり、最も好ましくは1500℃未満である。標準沸点に関して、これは標準大気圧(101.325kPa)における沸点のことであると理解されたい。
【0047】
用語「実質的に空気安定性」とは、環境条件下での大気ガスおよび水分との反応が充分に緩やかである、金属およびその実質的な元素形態(例えば、他の金属との合金)を表すと理解されたい。そのため、このような物質を工業プロセスにおける環境条件下で取り扱ったとしても、品質保持の問題が発生しない。より具体的に言うと、以下の場合には、本願の目的に関して、「金属の形態が実質的な空気安定性を有する」とすべきである。すなわち、上記形態のサンプル(重量1g以上、空気に暴露される表面積1cm2以上)を、標準温度25℃、圧力101,325Pa、相対湿度80%の下に、1時間以上(好ましくは4時間以上、より好ましくは24時間以上、最も好ましくは240時間以上)置いたときに、統計的に有意な重量の増加を示さない場合である(ただし、計量の精度は0.1mg以上とする)。
【0048】
最も好ましくは、上記陽性元素を、線状の蒸着源から蒸着させる。好ましい一実施形態において、本発明の電子デバイスは、逆構造型素子である。
【0049】
他の好ましい実施系他において、上記デバイスはトップ・エミッション型素子である。このとき、上記デバイスのカソードの厚さは、30nm未満;好ましくは25nm未満;より好ましくは20nm未満;最も好ましくは15nm未満である。
【0050】
好ましい一実施形態において、上記銀製のカソードは、(a)波形がつけられている、および(b)光散乱層と組み合わされている、のうち少なくとも一方を満たしている。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】本発明を組み込むことのできる素子の、模式図である。
【
図2】本発明を組み込むことのできる素子の、模式図である。
【
図3】2種類のn型ドープ半導体材料の、吸光度曲線である。丸印は、10重量%の化合物F1(強力な還元性ラジカルを形成する)でドープされている、比較マトリクス化合物10を表す。三角印は、5重量%のMgでドープされている、化合物E10を表す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
[素子の構造]
図1は、アノード(10)、発光層を備えている有機半導体層(11)、電子輸送層(ETL)(12)およびカソード(13)の積層体を示している。本明細書において説明するように、これらの描かれている層の間に、他の層を挿入することができる。
【0053】
図2は、アノード(20)、正孔注入・輸送層(21)、正孔輸送層(この層は、電子を遮断する機能をも統合しうる)(22)、発光層(23)、ETL(24)およびカソード(25)の積層体を示している。本明細書において説明するように、これらの描かれている層の間に、他の層を挿入することができる。
【0054】
「素子(デバイス)」という表現には、有機発光ダイオードが包含される。
【0055】
[物質の特性-エネルギー準位]
イオン化ポテンシャル(ionization potential;IP)を測定する方法には、紫外光電子分光法(ultraviolet photo spectroscopy;UPS)がある。通常は、固体物質に関するイオン化ポテンシャルを測定する。しかし、気相においてもIPを測定することができる。両者の値は、固体効果の分だけ異なる。固体効果とは、例えば、光イオン化過程において生じる、正孔の分極エネルギーである。通常、分極エネルギーの値は、約1eVである。しかし、より大きな値の乖離が生じる場合もある。IPは、光電子の大きな運動エネルギー(すなわち、最も弱く結合している電子のエネルギー)近傍にある、光電子放出スペクトルの立ち上がりと関連している。UPSに関連する方法として、逆光電分光法(inverted photo electron spectroscopy;IPES)を用いて、電子親和力(electron affinity;EA)を測定することができる。しかし、この方法は一般的ではない。その代わり、固体の酸化電位(Eox)および還元電位(Ered)を測定するのではなく、溶液中における電気化学的測定が成される。適切な方法としては、例えば、サイクリックボルタンメトリーがある。混乱を避けるため、請求項に記載のエネルギー準位は、レファレンス化合物との比較によって定義する。標準的な手順で測定した場合、レファレンス化合物のサイクリックボルタンメトリーにおける酸化還元電位は明確である。酸化還元電位を電子親和力およびイオン化ポテンシャルに変換するために、簡単な規則が頻繁に使用されている。すなわち、それぞれ、
IP(eV)=4.8eV+e*Eox(Eoxは、V vs. フェロセニウム/フェロセン(Fc+/Fc)で与えられる)
EA(eV)=4.8eV+e*Ered(Eredは、V vs. Fc+/Fcで与えられる)
である([B.W. D’Andrade, Org. Electron. 6, 11-20 (2005)]を参照。e*は電気素量)。他の参照電極または他の参照酸化還元対の場合に、電気化学ポテンシャルを再計算するための変換因子も知られている([A.J. Bard, L.R. Faulkner, "Electrochemical Methods: Fundamentals and Applications", Wiley, 2. Ausgabe 2000]を参照)。使用する溶液の影響に関する情報は、[N.G. Connelly et al., Chem. Rev. 96, 877 (1996)]に見られる。完全に正しい訳ではないが、イオン化エネルギーおよび電子親和力の同義語として、用語「HOMOのエネルギー(E(HOMO))」および「LUMOのエネルギー(E(LUMO))」を、それぞれ用いるのが一般的である(Koopmans Theorem)。考慮に入れねばならないことには、イオン化ポテンシャルおよび電子親和力は、通常、「これらの値が大きいほど、放出電子または吸収電子の結合がより強いことをそれぞれ意味する」と述べられている。フロンティア軌道(HOMO、LUMO)のエネルギー規模は、これとは反対である。したがって、粗い近似としては、以下の方程式が成立する:
IP=-E(HOMO)、EA=E(LUMO)(真空をエネルギー0とする)。
【0056】
選択したレファレンス化合物に関して、本発明者らは、以下の還元電位の値を得た。この還元電位は、テトラヒドロフラン(THF)溶液、vs. Fc+/Fcとした、標準化サイクリックボルタンメトリーによるものである。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
(a)ホスフィン基、および(b)少なくとも10個の非局在化電子の共役系を有しているマトリクス化合物を基礎とする、現在の技術水準にある電子ドープ型半導体材料用のマトリクス化合物の例としては、以下が挙げられる。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
比較化合物としては、以下を用いた。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
[基板]
基板は、柔軟性があってもよく、柔軟性がなくてもよく、透明でもよく、不透明でもよく、反射性があってもよく、半透明であってもよい。OLEDによって生成された光が基板を通過して伝播する場合は、基板は透明または半透明であるべきである(ボトム・エミッション型)。OLEDによって生成された光が基板とは反対方向に放射される場合は、基板は不透明であってもよい(いわゆるトップ・エミッション型)。また、OLEDも、透明であってもよい。カソードまたはアノードに隣接するように、基板を配置することができる。
【0070】
[電極]
電極とは、アノードおよびカソードのことである。これらは、ある程度の導電性を有しており、優先的には導体であらねばならない。好ましくは、「第1電極」はカソードである。少なくとも1つの電極は、素子外に光を伝播させられるように、半透明または透明でなくてはならない。一般的な電極は、層または積層体であり、金属および/または透明導電性酸化物を含んでいる。他の可能な電極は、薄いバスバー(例えば、薄い金属格子)から作られていて、ある程度の導電性を有する透明物質(例えばグラフェン、カーボンナノチューブ、ドープされた有機半導体など)で当該バスバーの隙間が満たされている(被覆されている)。
【0071】
一実施形態においては、アノードが最も基板に近い電極である(順構造と呼ばれる)。他の形態においては、カソードが最も基板に近い電極である(逆構造と呼ばれる)。
【0072】
アノードの一般的な材料は、ITOおよびAgである。
【0073】
本発明者らは、金属銀で作製された電極を用いることが特に有利であることを見出した。これは、純銀は、純銀は最良の反射性を有しており、それゆえ、最高の効率が得られるからである。具体的には、例えば、透明な基板上に積層されており、透明導電性酸化物製のアノードを有するボトム・エミッション型素子において、最高の効率が得られる。その代わり、透明なカソードを有するトップ・エミッション型素子に関しては、陽性元素(アルミニウムなど)は基本的に適用できない。これは、非常に薄い薄層であっても、反射性/吸光性が高いためである。また、透明な薄層を形成することができる、仕事関数の高い他の金属(金など)も、電子注入能が低い。したがって現在のところ、実質的に銀製の電極を、空気安定性のある素子(例えば、ドープされていないETL、または金属塩添加物でドープされたETLを備えている素子)に用いることは難しい。このような素子は、純銀から電子があまり注入されないので、駆動電圧が高く、効率が低いからである。
【0074】
カソードを、基板上に予め形成させておくことができる(このとき、素子は逆構造型素子となる)。あるいは、順構造型素子においては、金属の真空蒸着またはスパッタリングによって、カソードを形成することもできる。薄い銀製のカソード(厚さ30nm未満、好ましくは25nm未満、より好ましくは20nm未満、最も好ましくは15nm未満)は透明であるため、トップ・エミッション型素子に有利に利用できる。本発明の一実施形態は、透明なアノードと併せて透明な銀製カソードを備えている、透明な素子である。
【0075】
厚い(光を反射する)カソードも薄い(半透明または透明な)カソードも、いずれも、光散乱層と組み合わせることができ、および/または、波形をつけることができる。このことは有用である(WO2011/115738またはWO2013/083712に開示されている通り)。
【0076】
[正孔輸送層(Hole-Transporting Layer;HTL)]
HTLは、ワイドギャップ半導体を含んでいる層であり、アノードまたはCGLから発光層(LEL)への、正孔の輸送を担っている。HTLは、アノードとLELとの間、または、CGLの正孔を発生させる側とLELとの間、に備えられている。HTLは、他の物質(例えばp型ドーパント)と混合することができる。この場合、上記HTLはp型ドープされていると言える。組成の異なるいくつかの層によって、HTLを構成させることができる。HTLをp型ドープすることにより、抵抗率が低減され、ドープしていない半導体の高い抵抗率に起因する出力の減衰を避けられる。また、ドープしたHTLを、光学スペーサとして用いることもできる。というのも、HLTは、抵抗率を顕著に上昇させることなく、非常に肉厚に作ることができるからである(最大1000nm以上)。
【0077】
好適な正孔輸送マトリクス(hole transport matrices;HTM)は、例えば、ジアミン類由来の化合物でありうる。これらの化合物においては、窒素原子の孤立電子対と共役している非局在化したπ電子系が、少なくとも、ジアミン分子の2つの窒素原子の間に生じている。例としては、N4,N4’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N4,N4’-ジフェニル-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジアミン(HTM1)、N4,N4,N4’’,N4’’-テトラ([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-[1,1’:4’,1’’-テルフェニル]-4,4’’-ジアミン(HTM2)が挙げられる。ジアミンの合成は、各種文献によく説明されている。多くのジアミン製HTMが市販されており、容易に入手できる。
【0078】
[正孔注入層(Hole-Injecting Layer;HIL)]
HILは、アノードまたはCGLの正孔を発生させる側から、隣接するHTL中へと、正孔の注入を促進する層である。通常、HTLは非常に薄い層である(10nm未満)。正孔注入層は、厚さ1nm程度の、p型ドーパントの純粋な層でありうる。HTLがドープされている場合は、HILは必要でない場合もある。注入の機能が、HTLによって既に与えられているためである。
【0079】
[発光層(Light-Emitting Layer;LEL)]
発光層は、少なくとも1種類の発光物質を含んでいなければならない。また、任意構成で、他の層を備えていてもよい。LELが2種類以上の物質の混合物を含んでいる場合、異なる物質間において(例えば、発光物質ではない物質において)、電荷キャリアの注入が生じる場合がある。あるいは、発光物質に対して直接、電荷キャリアの注入が生じる場合もある。LELの内部または近傍では、多くの異なるエネルギー移動過程が生じうる。その結果、異なる種類の発光が生じる。例えば、ホスト化合物が励起し、次に、一重項励起子または三重項励起子として発光物質に移動されることがある。すると、上記発光物質は、一重項状態または三重項状態の発光物質となり、光を放射することができる。異なる種類の発光物質を混合することにより、高効率が達成される。発光ホストおよび発光ドーパントからの発光を利用することにより、白色光が得られる。本発明の好ましい一実施形態において、発光層は、少なくとも1種類の高分子を含んでいる。
【0080】
LEL中の電荷キャリアをより強く閉じ込めておくために、遮断層を用いてもよい。遮断層については、US7,074,500B2にさらなる説明がある。
【0081】
[電子輸送層(Electron-Transporting Layer;ETL)]
ETLは、ワイドギャップ半導体を含んでいる層であり、カソードまたはCGLもしくはEIL(後述)からLELへの、電子の輸送を担っている。ETLは、カソードとLELの間、または、CGLの電子を発生させる側とLELとの間、に備えられている。ETLは、n型電子ドーパントと混合することができる。この場合、上記ETLは、n型ドープされていると言える。組成の異なるいくつかの層によって、ETLを構成させることができる。ETLをn型電子ドープすることにより、抵抗率が低減され、および/または、隣接する層への電子注入能が向上する。さらに、ドープしていない半導体の高い抵抗率(および/または低い注入能)に起因する、出力の減衰を避けられる。電子ドープすることによって、ドープされた半導体材料の導電率を、ドープされていないETMと比較して実質的に増加させる程度の新たな電荷キャリアが発生するならば、このドープされたETLを光学スペーサとして用いることもできる。というのも、このドープされているETLを備える素子の駆動電圧を顕著に上昇させることなく、ETLを非常に肉厚に作ることができるからである(最大1000nm以上)。新たな電荷キャリアを発生させると期待される、好ましい電子ドーピングの形態は、いわゆる酸化還元ドーピングである。n型ドーピングの場合の酸化還元ドーピングは、ドーパントからマトリクス分子への電子の移動に相当する。
【0082】
実質的に元素形態である金属をドーパントとして用いるn型電子ドーピングの場合、金属原子からマトリクス分子への電子の移動の結果、金属カチオンおよびマトリクス分子のアニオンラジカルが生じると考えられている。アニオンラジカルから近傍にある通常のマトリクス分子へと、一つの電子が移動することが、n型酸化還元ドープ半導体における電荷移動のメカニズムであると、昨今では考えられている。
【0083】
しかしながら、酸化還元電子ドーピングの観点から、金属でn型ドープされた半導体の全ての特性を(とりわけ、本発明の半導体材料のそれを)十全に理解することは困難である。そこで、本発明の半導体材料は、(a)酸化還元ドーピングと、(b)ETMと金属原子および/またはそのクラスターとを混合することによる、未知の好ましい効果と、を有利に結びつけていると仮定することにする。本発明の半導体材料は、添加された実質的に元素形態である陽性元素を、有意な割合で含んでいると考えられる。用語「実質的に元素形態」とは、電子状態およびエネルギーの点において、金属カチオンまたは正電荷を帯びている金属原子のクラスターよりも、自由原子または金属原子のクラスターに近い状態、である形態として理解されたい。
【0084】
理論には拘束されないが、従来技術のn型ドープされた有機半導体材料と、本発明のn型ドープされた半導体材料との間には、重要な違いがあると考えられる。従来技術における通常の有機ETM(還元電位がおよそ-2.0~-3.0V vs. Fc+/Fcの範囲にあり、少なくとも10個の非局在電子の共役系を有している)においては、強力なn型酸化還元ドーパント(アルカリ金属またはW2(hpp)4など)によって、添加したドーパントの個々の原子数または分子数に比例する量の電荷キャリアが発生していると考えられる。そして、実際に経験されていることであるが、従来のマトリクスにおいては、このような強力なドーパントを一定レベル以上に増加させても、ドープされた物質の電子特性が実質的には全く改善されないのである。
【0085】
一方、本発明のマトリクス(もともと極性基を有するが、非局在化電子の共役系がごく小さいか存在しない)において、なぜ陽性元素のn型ドーピングが強化されるのかを推測することは難しい。
【0086】
しかし恐らくは、このようなマトリクスにおいては、最も強力な陽性元素(アルカリ金属など)であっても、n型ドーパントとして添加した陽性元素の一部の原子のみしか、対応する金属カチオンの形成に基づく酸化還元機構によってマトリクス分子と反応していないと考えられる。より正確には、添加した金属元素の量よりもマトリクスの量の方が実質的に多い場合は、稀釈度が高くても、当該金属元素の大部分は実質的に元素形態として存在すると考えられる。また、本発明の金属元素と本発明のマトリクス化合物とを同等量で混合した場合、添加した金属元素の大部分は、得られるドープされた半導体材料中において、実質的に元素形態として存在するとも考えられる。この仮説により、従来技術の強力なドーパントとよりも弱いドーパントであるにもかかわらず、本発明の金属元素が、ドープされたマトリクスに対して非常に広汎な比率で効果的に用いられうる理由に対する、合理的な説明が与えられるよう思われる。本発明のドープされた半導体材料において適用できる金属元素の含有率は、およそ0.5~25重量%の範囲であり、好ましくは1~20重量%の範囲であり、より好ましくは2~15重量%の範囲であり、最も好ましくは3~10重量%の範囲である。
【0087】
正孔遮断層および電子遮断層も、通常通り採用することができる。
【0088】
異なる機能を有する他の層が備わっていてもよい。また、当業者に知られるところにより、素子の構造を改造することができる。例えば、金属、金属複合体または金属塩製の電子注入層(Electron-Injecting Layer;EIL)を、カソードとETLとの間に用いることができる。
【0089】
[電荷発生層(Charge generation layer;CGL)]
OLEDは、CGLを備えていてもよい。積層OLEDにおいては、CGLを電極と結合させて逆接合点(inversion contact)として用いることができるし、接合ユニットとして用いることもできる。CGLには、非常に多くの異なる構成および名称がある(例えば、pn接合、接合ユニット、トンネル接合など)。最良の例は、US2009/0045728A1およびUS2010/0288362A1に開示されている、pn接合である。金属層または絶縁層を用いることもできる。
【0090】
[積層型OLED]
OLEDが、CGLによって隔てられている2つ以上のLELを備えている場合、当該積層型OLEDと呼ぶ(そうでないものは、シングルユニット型OLEDと呼ぶ)。(a)最も近い2つのCGLの間にある層の群、または(b)電極の1つと最も近いCGLとの間にある層の群のことを、エレクトロルミネッセント単位(electroluminescent unit;ELU)と呼ぶ。したがって、積層型OLEDは次のように表すことができる:アノード/ELU1/{CGLX/ELU1+X}X/カソード(xは正の整数である。それぞれのCGLXまたはELU1+Xは、同じであっても異なっていてもよい)。また、US2009/0009072A1に開示されているように、2つのELUに隣接する層によってCGLを形成させることもできる。積層型OLEDについては、例えば、US2009/0045728A1、US2010/0288362A1およびこれらが援用する文献にて、さらに説明されている。
【0091】
[有機層の堆積]
本発明のディスプレイの任意の有機半導体層は、公知の技法により積層することができる(例えば、真空蒸着(VTE)、有機気相蒸着、レーザ熱転写、スピンコーティング、ブレードコーティング、スロットダイコーティング、インクジェット印刷など)。本発明に係るOLEDを作製するための好適な方法は、真空蒸着である。重合性の材料は、適切な溶媒中の溶液を用いたコーティング技法によって、好適に加工される。
【0092】
好ましくは、ETLは蒸着によって形成される。追加材料をETLに用いる場合は、電子輸送マトリクス(ETM)と当該追加材料との共蒸着によって、ETLを形成することが好ましい。追加材料は、ETL中に均一に混合されていてもよい。本発明の一形態においては、ETL中での追加材料の濃度には変差があり、積層体の厚さ方向に濃度が変化している。また、ETLを副次的な層から構成し、一部の(全部ではない)副次的な層に追加材料を含ませることも予期される。
【0093】
本発明の半導体材料は、添加された実質的に元素形態である陽性元素を、有意な割合で含んでいると考えられる。それゆえ、本発明の製造方法では、元素形態または実質的に元素形態である陽性元素を蒸着させる必要がある。これに関連して、用語「実質的に元素形態」とは、電子状態およびエネルギーならびに化学結合の観点において、金属塩、共有結合性金属化合物または配位金属化合物の形態よりも、単体金属、自由金属原子または金属原子のクラスターに近い形態として理解されたい。典型的には、EP1,648,042B1またはWO2007/109815に記載されている合金からの金属蒸気の放出が、実質的に元素形態からの金属蒸着として理解される。
【0094】
[電子ドーピング]
最も信頼性が高いとともに、最も効率的であるOLEDとは、電子ドープされた層を備えているOLEDである。一般的に、電子ドーピングとは、電子特性を向上させること(とりわけ、ドーパントを含まない純粋な電荷発生マトリクスと比較して、ドープされた層の導電性および/または注入能を向上させること)を意味する。狭義には(通常は、酸化還元ドーピングまたは電荷輸送ドーピングと呼ばれている)、正孔輸送層が適切なアクセプター物質でドープされているか(p型ドーピング)、あるいは、電子輸送層が適切なドナー物質でドープされている(n型ドーピング)。酸化還元ドーピングによって、有機固相中の電荷キャリア密度を(したがって導電率を)、実質的に上昇させることができる。換言すれば、酸化還元ドーピングによって、半導体マトリクスの電荷キャリア密度を、ドープされていないマトリクスの電荷キャリア密度と比較して上昇させることができる。有機発光ダイオードにおけるドープされた電荷輸送層の使用(アクセプター様分子の混合による正孔輸送層のp型ドーピング、ドナー様分子の混合による電子輸送層のn型ドーピング)については、例えば、US2008/203406およびUS5,093,698に記載されている。
【0095】
US2008227979は、無機および有機ドーパントを用いた有機輸送物質の電荷輸送ドーピングについて、詳細に開示している。基本的に、ドーパントからマトリクスへと効率的に電子輸送されると、マトリクスのフェルミ準位が増加する。p型ドーピングの場合の効率的な輸送に関しては、ドーパントのLUMOエネルギーが、(a)マトリクスのHOMOエネルギーよりも負であるか、(b)少なくとも僅かに正である(好ましくは、マトリクスのHOMOエネルギーよりも0.5eV未満だけ正である)、ことが好ましい。n型ドーピングの場合は、ドーパントのHOMOエネルギーが、(a)マトリクスのLUMOエネルギーよりも正であるか、(b)少なくとも僅かに負である(好ましくは、マトリクスのLUMOエネルギーと比べて0.5eV未満だけ負である)、ことが好ましい。より望ましくは、ドーパントからマトリクスへとエネルギー移動させる際のエネルギー準位の差は、+0.3eV未満である。
【0096】
公知の酸化還元ドープされた正孔輸送材料の典型例としては、以下が挙げられる:テトラフルオロ-テトラシアノキノンジメタン(F4TCNQ、LUMO準位:約-5.2eV)でドープした、銅フタロシアニン(CuPc、HOMO準位:約-5.2eV);F4TCNQでドープした、亜鉛フタロシアニン(ZnPc、HOMO=-5.2eV);F4TCNQでドープした、α-NPD(N,N’-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン);2,2’-(ペルフルオロナフタレン-2,6-ジイリデン)ジマロノニトリル(PD1)でドープした、α-NPD;2,2’,2’’-(シクロプロパン-1,2,3-トリイリデン)トリス(2-(p-シアノテトラフルオロフェニル)アセトニトリル)(PD2)でドープした、α-NPD。本願の素子例においては、p型ドーピングは全て、3mol%のPD2によって行った。
【0097】
公知の酸化還元ドープされた電子輸送材料の典型例としては、以下が挙げられる:アクリジンオレンジベース(AOB)でドープされた、フラーレンC60;ロイコクリスタルバイオレットでドープされた、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボキシル-3,4,9,10-二無水物(PTCDA);テトラキス(1,3,4,6,7,8-ヘキサヒドロ-2H-ピリミドロ[1,2-a]ピリジアミナト)ジタングステン(II)(W2(hpp)4)でドープされた、2,9-ジ(フェナントレン-9-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン;3,6-ビス-(ジメチルアミノ)-アクリジンでドープされた、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA);ビス(エチレン-ジチオ)テトラチアフルバレン(BEDT-TTF)でドープされた、NTCDA。
【0098】
酸化還元ドーパント以外に、ある種の金属塩を代わりに用いてn型電子ドープすることができる。この場合も、ドープされた層を備えている素子の駆動電圧を、金属塩を用いていない同じ素子と比較して低減することができる。電子デバイス中で、これらの金属塩(「電子ドーピング添加物」と呼ばれることもある)が電圧の低下に寄与する真のメカニズムは、未だ解明されていない。これらの金属塩は、ドープされた層の導電率というよりも、隣接する層との間の界面におけるポテンシャル障壁を変化させると考えられている。というのも、この駆動電圧に関する有利な効果は、これらの添加物でドープされた層が非常に薄い場合に限って得られるからである。上述の電子ドープされていない層または添加物でドープされている層は、通常は50nmよりも薄く、好ましくは40nmよりも薄く、より好ましくは30nmよりも薄く、より一層好ましくは20nmよりも薄く、最も好ましくは15nmよりも薄い。製造工程が充分に緻密であるならば、添加物でドープされている層を10nmよりも薄く(または5nmよりも薄く)作製することができ、これは有用である。
【0099】
本発明における第2電子ドーパントとして効果的な金属塩の代表例としては、1または2の素電荷を帯びた金属カチオンを含んでいる塩が挙げられる。好ましくは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩が用いられる。好ましくは、上記塩のアニオンは、当該塩に充分な揮発性を与えるアニオンである。この揮発性のために、高真空条件下において(とりわけ、電子輸送マトリクスの堆積に好適な温度および圧力の範囲と同等な、温度および圧力の範囲において)、上記塩を堆積させることができる。
【0100】
このようなアニオンの例としては、8-ヒドロキシキノリノラートアニオンが挙げられる。その金属塩としては、例えば、下記式D1で表される8-ヒドロキシキノリノラート-リチウム(LiQ)が、電子ドーピング添加物として周知である。
【0101】
【0102】
本発明の電子輸送マトリクスにおける電子ドーパントとして有用な、他の金属塩類としては、PCT/EP2012/074127(WO2013/079678)に開示されている、一般式IIを有する化合物が挙げられる。
【0103】
【0104】
式中、式中、A1は、C6~C20のアリーレンであり;A2およびA3はそれぞれ、C6~C20のアリールから独立に選択される。このとき、上記アリールおよびアリーレンは、(a)置換されていなくてもよいし、(b)CおよびHを含んでいる基によって置換されていてもよいし、(c)LiOによってさらに置換されていてもよい(ただし、アリール基またはアリーレン基における上述の炭素数には、これらの基が有する全ての置換基も含まれる)。用語「置換または未置換のアリーレン」とは、置換または未置換のアレーンに由来する2価のラジカルを意味すると理解されたい。このとき、隣接する構造部分はいずれも(式(I)においては、OLi基およびジアリールホスフィンオキシド基)、アリーレン基の芳香環に直接結合している。本願の実施例においては、この類のドーパントは、化合物D2に該当する(式中、Phはフェニルである)。
【0105】
【0106】
本発明の電子輸送マトリクスにおける電子ドーパントとして有用な、さらに他の金属塩類としては、PCT/EP2012/074125(WO2013/079676)に開示されている、一般式(III)を有する化合物が挙げられる。
【0107】
【0108】
式中、Mは金属イオンである。A4~A7のそれぞれは、(a)H、(b)置換もしくは未置換のC6~C20アリール、および(c)置換もしくは未置換のC2~C20ヘテロアリール、から独立に選択される。nは、上記金属イオンの価数である。本願の実施例においては、この類のドーパントは、化合物D3に該当する。
【0109】
【0110】
〔本発明の有利な効果〕
本発明の電子輸送マトリクスとドーパントとの組み合わせではなく、本技術分野において知られている他のマトリクスとドーパントとの組み合わせを含んでいる比較素子、と比較することによって、本発明の電子ドープ型半導体材料の好ましい効果が示される。使用した素子については、実施例にて詳述する。
【0111】
第1のスクリーニング段階では、実施例1の素子において、32種類のマトリクス化合物を、ドーパントである5重量%のMgと組み合わせて試験した。(a)ホスフィンオキシド・マトリクスを含んでおり、(b)還元電位(vs. Fc+/Fc;THF中でのサイクリックボルタンメトリーによって測定される)で表されるLUMOレベルが、化合物B0(標準条件を使用すると-2.21V)よりも高い、電子輸送マトリクスは、素子の駆動電圧および/または量子効率の観点において、C1およびC2よりも優れた性能であった。また、LUMOレベルとは関係なく、ホスフィンオキシド基を有さないマトリクスよりも著しく優れていた。これらの結果は、いくつかの他の2価金属(具体的には、Ca、Sr、Ba、SmおよびYb)についても確認された。
【0112】
結果を表1にまとめる。表中、電圧および効率の相対変化は、レファレンスである従来技術のC2/Mg系に対して算出されている(電圧および効率は、いずれも10mA/cm2の電流密度で測定した)。合計スコアは、効率の相対変化から電圧の相対変化を引くことによって算出されている。
【0113】
【0114】
【0115】
研究の第2段階では、マトリクスE1、E2およびC1を含んでいる素子2において、種々の金属を試験した。本試験では、(a)2種類の異なるETL厚さ(40nm(U1およびU3)ならびに80nm(U2およびU4))、(b)2種類の異なるドーピング濃度(5重量%(U1およびU2)ならびに25重量%(U3およびU4))を採用し、電流密度は全て10mA/cm2とした。
【0116】
表2にまとめた結果からは、以下の暫定的な結論が導かれる。すなわち、酸化状態IIにおいて安定な化合物を形成することができる金属は、ホスフィンオキシド・マトリクスのn型ドーピングに特に好適である(反応性が最も低いアルカリ金属(Li)と比較しても、反応性が著しく低く、かつ大気安定性が著しく高いにもかかわらず)。試験した2価金属のうち、亜鉛のみがn型ドーパントとして機能しなかった(亜鉛は、第1イオン化ポテンシャルおよび第2イオン化ポテンシャルの合計が非常に大きい)。通常は酸化状態IIIであるアルミニウムは、ドープしたETL中に25重量%という高濃度で存在する場合にのみ、ある程度低い駆動電圧を示した(しかし、これではETLの光吸収率が非実用的なまでに高くなってしまう)。ドーピング濃度が25重量%の場合についてのみ、透過率(「OD(optical density)」と示される)を、表2に記載した(OD3:層の厚さ40nm、OD4:層の厚さ80nm)。低いドーピング濃度についての測定は再現性が悪かったためである。
【0117】
一般的には3価であるビスマスは、n型ドーパントとして全く使用できなかった。ビスマスのイオン化ポテンシャルは、例えばマンガンとは、それほど違いがないにもかかわらず、である(かなり驚くべきことに、マンガンは、少なくともE1では良好なドーピング作用を示した)。
【0118】
U1-U2およびU3-U4の差の値が小さいと、高い導電性を有するドープされた材料を得ることができる。素子の電圧は、ドープされた層の厚さのみに弱く依存する。
【0119】
【0120】
【0121】
LUMOが深いマトリクス(C1など)では、本発明に係る範囲のLUMOレベルのマトリクスを含んでいる素子よりも、一般的に、駆動電圧が驚くほど高くなることが観察されている(C1を用いるドープされた半導体材料の多くが、良好な導電率を示すにもかかわらず)。半導体材料の良好な導電率は、当該材料を含んでいる素子が低い駆動電圧を示すための充分条件ではないようである。この知見に基づくと、本発明に係るドープされた半導体材料は、適度な導電性を示すことに加えて、ドープされた層から隣接する層へと効率的に電荷を注入することができると推測される。
【0122】
第3の研究段階では、上記で観察された効果を、実施例3のOLED(異なる発光系を備えている)で確認した。また、実施例4~7に説明されている、本発明のさらなる実施形態を実施した。得られた結果を、表3にまとめた。この結果によると、従来技術のホスフィンオキシド・マトリクス(C1など)と比較した際の、LUMOレベルが高い(真空レベルにより近い)ホスフィンオキシドETLマトリクスの驚くべき優位性が確認された。これらのマトリクスを、本発明で使用されている比較的弱い還元金属でドープすることは、より困難であるはずにもかかわらず、である。一方、従来技術のホスフィンオキシド・マトリクスは、(a)深いLUMO(真空レベルを遥かに超える)、および(b)金属複合ユニットを含んでいる特定の構造、を理由に、Mgでドープできると考えられていたのである。
【0123】
また、この一連の実験によって、比較的LUMOエネルギーレベルが高いマトリクス化合物(E1およびE2など)は、他の発光体を用いても、他のホスフィンオキシド・マトリクス化合物よりも良好な性能を示し、ホスフィンオキシド基を有さないマトリクスと比較するとより良好な性能を示すことが実証された。
【0124】
これらの結果から示されたことによると、充分にLUMOレベルが高いホスフィンオキシド・マトリクスと組み合わせる場合、実質的に空気安定性を有する金属であっても、技術的に有利な特徴(良好な蒸着性など)をさらに有しているならば、電子ドープ型半導体性マトリクスを提供できるのである。加えて、本技術分野において利用できる素子と、同等またはそれ以上に優れた素子を提供できるのである。
【0125】
【0126】
【0127】
最後に、論点を始まりに戻す。残された目的は、以下の二点であった:(a)比較化合物C2の酸化還元電位を、より一層負とすること;(b)当該酸化電位に対応するLUMOレベル(絶対エネルギー・スケールにおいてゼロに近づいている)が、10個未満の非局在電子の小さい共役系を有しているホスフィンオキシド化合物において、上述のマトリクス化合物と同様の好ましい効果を奏するか否かを試験すること。この課題は、市販の化合物A1~A4によって、比較的容易に解決された。これらの化合物の全て、標準的な方法(溶媒としてTHFを用いる)による酸化還元電位の測定が難しい。なぜならば、還元電位が、化合物B7よりもさらに負であるためである。
【0128】
【0129】
C2類似体および塩添加物を用いた以前の実験の結果は、大部分が期待外れであった。このため、(a)非局在電子の共役系を有していないマトリクス、または(b)共役系中に10個未満の非局在電子を有しているマトリクスを金属ドープすることからは、どちらかといえば否定的な結果が予想された。このような予想とは裏腹に、上記化合物が、ホスフィンオキシドおよびジアゾールから選択される極性基をさらに有している場合には、驚くべきことが判明した。すなわち、充分に強いドーパントによれば、小さな非局在電子の共役系(隔離されている芳香環またはヘテロ芳香環におけるヒュッケル系と同じ、僅か6電子の共役系)を有する化合物を用いても、良質な半導体材料を提供できるのである。その後確認されたことによると、金属および第1の化合物(6個の非局在化電子の共役系しか有していない)からなる非常に単純な2成分半導体材料は、性能を落とすことなく、より大きな非局在電子の共役系を有している第2化合物と有利に混合されうる(たとえ、当該第2化合物が全く極性基を有していない場合でも)。さらに驚くべきことには、(a)極性基と、10未満の非局在電子の共役系とを有しているか、または(b)極性基を有しており、非局在電子の共役系を有していない、マトリクスにおいては、2価の陽性金属と、他の陽性金属(アルカリ金属など)および通常は3価の希土類金属(Sc、Y、LaまたはLuなど)との間に、著しいドーピング性能の差が存在する訳ではないことが判った。これは、極性基と少なくとも10個の非局在電子の共役系との両方を有している電子輸送化合物を用いて得た、以前の結果とは逆である。この意味において、(a)ドープされている陽性元素とマトリクスとの間の電荷移動の程度について、何らかの考察をすることや、(b)本発明に係る半導体材料においてn型ドーパントとして使用される陽性元素を、「強い」ドーパントおよび「弱い」ドーパントの群に分類しようとすることには、必要性がないように思われる。したがって、本発明の半導体材料中においては、少なくとも部分的には、陽性元素が実質的に元素形態で存在していると考えられる。また、ホスフィンオキシド基またはジアゾール基である極性基を有しているマトリクスにおいて観察される好ましい結果は、(a)当該極性基と、(b)陽性元素の原子または原子クラスターとの特定の相互作用に結びついていると考えられる。
【0130】
最後に、続けて行われた、大きな非局在電子の系を有するマトリクス化合物を用いた実験からは、(a)還元電位が4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンよりも負であるマトリクスと、(b)Li、Na、K、Be、Sc、Y、La、Lu、TiおよびVから選択される陽性元素と、によれば、優れたOLED性能が達成できることが確認された。この効果は、本発明において説明されている、極性基を有している実質的な有機電子輸送化合物中の非局在電子の共役系の存在および/または程度とは、基本的に関係ない。
【0131】
まさに最終段階において、極性マトリクスとドーピング金属との種々の組み合わせが、銀製のカソードとの組み合わせにおいて有利に使用できることも併せて判明した。とりわけカソードが、極性マトリクスおよび陽性金属を含んでいる実質的な有機層に隣接している場合には、有利さが際立つ。
【実施例】
【0132】
<補助的な材料>
【0133】
【0134】
【0135】
<補助的な手順>
[サイクリックボルタンメトリー]
特定の化合物の酸化還元電位は、試験物質のTHF(0.1M;アルゴンにより脱気し、乾燥させてある)溶液中で、アルゴン雰囲気下にて測定した。支持電解質として、0.1M テトラブチルアンモニウム・ヘキサフルオロホスフェートを使用した。白金製作用電極間にて、塩化銀で被覆されている銀ワイヤーからなるAg/AgCl疑似基準電極を用いて測定した。測定溶液に直接浸漬し、スキャン速度は100mV/sとした。1回目の測定は、作用電極間に最も大きな範囲の電位を設定し、その後の測定に際して、当該範囲を適宜調整した。最後の3回の測定は、標準としてフェロセンを添加して行った(濃度:0.1M)。試験化合物の陰極ピークおよび陽極ピークに対応する電位の平均は、Fc+/Fc標準酸化還元対について測定した陰極電位および陽極電位の平均を差し引いた後で、最終的な値を得た(上述)。試験した全てのホスフィンオキシド化合物は、上述の比較化合物と同様に、明確に可逆的な電子化学的ふるまいを示した。
【0136】
〔合成例〕
ホスフィンオキシドELTマトリクス化合物の合成については、上記に列挙されている特定の化合物の箇所で挙げられている文献以外にも、多くの文献に記載されており、これらの化合物に使用される一般的な多段工程製法について説明されている。化合物E6は、[Bull. Chem. Soc. Jpn., 76, 1233-1244 (2003)]に従って調製した(より具体的には、化合物E2のアニオン転位によって調製した)。
【0137】
未公開の化合物については、一般的な製法を用いた。化合物E5およびE8については、以下に具体的に例示されている。全ての合成工程は、アルゴン雰囲気下で行った。市販材料を、さらに精製することなく使用した。溶媒を適当な方法で乾燥させ、アルゴンで飽和させることにより脱気した。
【0138】
[合成例1]
[1,1’:4’,1’’-テルフェニル]-3,5-ジイルビス-ジフェニルホスフィンオキシド(E5)
(工程1)
3,5-ジブロモ-1,1’:4’,1’’-テルフェニル
【0139】
【0140】
全ての成分(10.00g(1.0eq、50.50mmol)の[1,1’-ビフェニル]-4-イル-ボロン酸;23.85g(1.5eq、75.75mmol)の1,3,5-トリブロモベンゼン;1.17g(2.0mol%、1.01mmol)のテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0);、10.70g(2eq、101mmol)の炭酸ナトリウム(50mLの水中);100mLのエタノール;および310mLのトルエン)を混合し、還流下にて21時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、200mLのトルエンで希釈した(3層が出現する)。100mLのトルエンで水層を抽出し、合一した有機層を200mLの水で洗浄し、乾燥させ、蒸発させて乾燥状態とした。粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製した(SiO2;ヘキサン/DCM4:1 v/v)。合一した画分を蒸発させ、ヘキサン中で懸濁し、濾過して、光沢のある白色固体9.4gを得た(収量:48%、HPLCによる純度:99.79%)。
【0141】
(工程2)
[1,1’:4’,1’’-テルフェニル]-3,5-ジイルビス-ジフェニルホスフィンオキシド
【0142】
【0143】
全ての成分(5.00g(1.0eq、12.9mmol)の3,5-ジブロモ-1,1’:4’,1’’-テルフェニル(前述の工程より);12.0g(5.0eq、64.4mmol)のジフェニルホスフィン;114mg(5mol%、6.44×10-4mol)の塩化パラジウム(II);3.79g(3.0eq、38.6mmol)の酢酸カリウム;および100mLのN,N-ジメチルホルムアミド)を混合し、還流下にて21時間撹拌した。次に、反応混合物を室温まで冷却させた。すなわち、水を加え(100mL)、混合物を30分間撹拌した後、濾過した。固体をDCM(100mL)に再度溶解させ、H2O2(30重量%水溶液)を滴下し、溶液を室温にて一晩撹拌した。次に、有機層を静かに注ぎ、水(100mL)で2回洗浄し、MgSO4で乾燥させ、蒸発させて乾燥状態とした。得られた油分を、固体の形成を誘導する温めたMeOH(100mL)中で粉砕した。濾過物を加熱した後、得られた固体をMeOHですすぎ、乾燥させ、9.7gの粗生成物を得た。粗生成物をDCMに再度溶解させ、ショートシリカカラム中でクロマトグラフィーを課し、酢酸エチルで溶出させた。溶出物を蒸発により乾燥状態にした後、得られた固体を温めたMeOH(100mL)中で粉砕し、その後、温酢酸エチル(50mL)中で粉砕した。乾燥させた後、所望の化合物を収率70%で得た(5.71g)。最後に、真空昇華によって生成物を精製した。
【0144】
昇華させた精製化合物は非結晶であり、DSC曲線において溶解ピークが検出されなかった。ガラス転移が86℃で始まり、490℃で分解が始まった。
【0145】
[合成例2]
(9,9-ジヘキシル-9H-フルオレン-2,7-ジイル)ビス-ジフェニルホスフィンオキシド(E8)
【0146】
【0147】
2,7-ジブロモ-9,9-ジヘキシルフルオレン(5.00g、1.0eq、10.2mmol)をフラスコに仕込み、アルゴンで脱気した。次に、無水THF(70mL)を加え、混合物を-78℃まで冷却させた。次に、9.7mL(2.5Mのヘキサン溶液、2.4eq、24.4mmol)のn-ブチルリチウムを滴下し、得られた溶液を-78℃にて1時間撹拌し、その後、-50℃まで徐々に温めた。純粋なクロロジフェニルホスフィン(4.0mL、2.2eq、22.4mmol)を緩やかに加えた後、室温になるまで、混合物を一晩撹拌し続けた。MeOH(20mL)を加えて反応を停止させ、溶液を蒸発させて乾燥状態とした。固形物をDCM(50mL)に再度溶解させ、H2O2(30重量%水溶液、15mL)を滴下し、混合物を撹拌し続けた。24時間後、有機相を分離させ、その後、水および塩水で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、蒸発させて乾燥状態にした。クロマトグラフィー(シリカ;濃度勾配:開始時=ヘキサン/酢酸エチル 1:1 v/v、終了時=酢酸エチルのみ)による精製で、所望の化合物を収量34%で得た(2.51g)。次に、この物質を、真空昇華によってさらに精製した。
【0148】
昇華させた精製化合物は非晶質であり、DSC曲線における溶融ピークが検出されなかった。485℃で分解した。
【0149】
[合成例3]
ジフェニル-(3-(スピロ[フルオレン-9,9’-キサンテン]-2-イル)フェニル)ホスフィンオキシド(E14)
(工程1)
2-ブロモスピロ[フルオレン-9,9’-キサンテン]の合成
【0150】
【0151】
2-ブロモ-9-フルオレノン(10.00g、1.0eq、38.6mmol)およびフェノール(34.9g、9.6eq、0.37mol)を二口フラスコに仕込み、アルゴンで脱気した。メタンスルホン酸(10.0mL、4.0eq、0.15mol)を加え、生じた混合物を135℃にて4日間還流した。室温まで冷却した後、DCM(80mL)および水(130mL)を加えた。攪拌しながら、物質を沈殿させた。濾過し、MeOHで充分に洗浄した後、熱したEtOH(60mL)中で1時間粉砕した。濾過した後、目的の化合物を得た(11.0g、69%、GCMによる純度:99%超)。
【0152】
(工程2)
ジフェニル-(3-(スピロ[フルオレン-9,9’-キサンテン]-2-イル)フェニル)ホスフィンオキシドの合成
【0153】
【0154】
2-ブロモスピロ[フルオレン-9,9’-キサンテン](10.0g、1.2eq、24.3mmol)を二口フラスコに仕込み、アルゴンで脱気し、無水THF(240mL)中に溶解させた。この溶液にMg0(827mg、1.4eq、34.0mmol)を加え、その後ヨウ化メチル(414mg、0.12eq、2.92mmol)をさらに加えて、生じた混合物を2時間還流した。次に、このグリニャール溶液を、(3-ブロモフェニル)ジフェニルホスフィンオキシド(7.23g、1.0eq、20.3mmol)および[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)クロリド(263mg、2.0mol%、0.49mmol)の無水溶液(THF 200mL中)に、細管で注入した。生じた混合物を一晩還流した後、水(5mL)を加えて急冷した。減圧下で有機溶媒を除去し、CHCl3(200mL)および水(100mL)で化合物を抽出した。すなわち、有機相を静かに注ぎ、水でさらに洗浄し(200mL、2回)、MgSO4で乾燥させ、蒸発させて乾燥状態とした。粗生成物をシリカで濾過した。すなわち、n-ヘキサン/DCM(2:1)で溶出させ、無極性の不純物を除去した。目的物は、精製DCMを用いて分離した。DCMを除去した後、生成物を酢酸エチル(100mL)中で粉砕し、濾過し、減圧下で乾燥させて、標記の化合物を得た(7.5g、61%)。最後に、昇華によって生成物を精製した(収率:78%)。
【0155】
<材料特性>
DSC 昇華物の融点:264℃(ピーク)
CV LUMO vs. Fc(THF):-2.71V(可逆)。
【0156】
[合成例4]
ジフェニル-(4-(スピロ[フルオレン-9,9’-キサンテン]-2-イル)フェニル)ホスフィンオキシド(E15)
【0157】
【0158】
2-ブロモスピロ[フルオレン-9,9’-キサンテン](10.0g、1.2eq、24.3mmol)を二口フラスコに仕込み、アルゴンで脱気し、無水THF(240mL)中に溶解させた。この溶液にMg0(827mg、1.4eq、34.0mmol)を加え、その後ヨウ化メチル(414mg、0.12eq、2.92mmol)をさらに加えて、生じた混合物を2時間還流した。次に、このグリニャール溶液を、(4-ブロモフェニル)ジフェニルホスフィンオキシド(7.23g、1.0eq、20.3mmol)および[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)クロリド(263mg、2.0mol%、0.49mmol)の無水溶液(THF 200mL中)に、細管で注入した。生じた混合物を一晩還流した後、水(5mL)を加えて急冷した。減圧下で有機溶媒を除去し、DCM(2L)および水(500mL)で化合物を抽出した。すなわち、有機相を静かに注ぎ、MgSO4で乾燥させ、蒸発させて乾燥状態とした。粗生成物を、シリカによるクロマトグラフィーで濾過した(DCM/MeOH(99:1)で溶出)。生成物を含む画分を集め、蒸発させて乾燥状態とした。次に、得られた固形物を酢酸エチル(50mL)中で粉砕し、濾過し、減圧下で乾燥させて、標記の化合物を得た(4.0g、32%)。最後に、昇華によって生成物を精製した(収率:77%)。
【0159】
<材料特性>
DSC 昇華物の融点:255℃(ピーク)
CV LUMO vs. Fc(THF):-2.65V(可逆)。
【0160】
〔素子例〕
[比較例1](青色OLED)
ITOガラス基板上に、PD2でドープしたHTM2層(厚さ:40nm;マトリックス:ドーパントの重量比=97重量%:3重量%)を、その次にドープしていないHTM1層(厚さ:90nm)を堆積させて、第1の青色発光デバイスを作製した。続いて、NUBD370(Sun Fine Chemicals)でドープしたABH113(Sun Fine Chemicals)の青色蛍光発光層(97:3重量%)を堆積させた(厚さ:20nm)。所望の量の金属元素(通常は、5重量%のMg)と併せて試験化合物を、ETLとして発光層上に堆積させた(厚さ:36nm)。続いて、カソードとしてアルミニウム層を堆積させた(厚さ:100nm)。
【0161】
表1に、電流密度10mA/cm2における電圧および量子効率を示す。
【0162】
[比較例2](有機ダイオード)
発光体を省略した以外は、実施例1と同様に素子を作製した。2種類の異なるETL厚さ(40および80nm)、および2種類の異なるドーパント濃度(5および25重量%)にて、マトリクス-ドーパントのそれぞれの組み合わせを試験した。電流密度10mA/cm2にて測定した電圧、および電圧を測定した場合の全てに関して素子の光学的吸光度を、表2に記載する。
【0163】
[比較例3](青色または白色OLED)
(a)ETL中の種々の組成の半導体材料と、(b)種々の発光系と、を組み合わせた以外は、実施例1と同様に素子を作製した。実施例1と同様に結果を評価し、表3にまとめる。
【0164】
[比較例4](青色OLED)
実施例1の素子において、A1製のカソードを、スパッタリングした酸化インジウムスズ(ITO)で置き換えた(MgまたはBaでドープしたETLと組み合わせた)。
その結果によると、2価金属でドープしたホスフィンオキシド・マトリクス(酸化還元電位(vs Fc+/Fc)が-2.24V~-2.81Vの範囲にある)を用いるETLは、透明半導体酸化物からなるカソードを用いるトップ・エミッション型OLEDにも適用可能であることが示された。
【0165】
[比較例5](透明OLED)
実施例1のようなp側(ITOアノード、HTL、EBLを備えている基板)を有し、実施例4のようにITOカソード(厚さ:100nm)をスパッタリングさせた透明デバイスにおいて、青色発光ポリマー(Cambridge Display Technology製)を含む重合性発光層を、首尾よく試験した。表4に、上記素子のn側の構成を示す。全ての例において、F2からなるHBL(厚さ:20nm)ならびに、E2およびD3(重量比7:3)からなるETL1(厚さ:表に記載)が備えられている。この結果によると、約-2.8Vという非常に高いLUMOレベル(酸化還元電位(vs. Fc+/Fc)基準)を有する重合性LELに対しても、2価金属でドープしたホスフィンオキシド化合物を用いるETLを適用できることが示された。金属でドープしたETLがない場合は、純金属製のEILをITO電極の下に堆積させた場合でも、素子は非常に高い電圧を示した(10mA/cm2において)。
【0166】
【0167】
[比較例6](線状蒸着源を用いた金属の堆積)
線状の蒸着源における、Mgの蒸着挙動を試験した。線状蒸着源からは、1nm/sの高速度で、スピッティングを発生させることなくMgを蒸着させることができた。しかし点状蒸着源では、同じ蒸着速度において、Mg粒子が激しくスピッティングすることが示された。
【0168】
[比較例7](同じETLにおける、金属+金属塩による電子ドーピング)
(a)LiQと、(b)MgまたはW2(hpp)4のいずれかと、と組み合わせたマトリクスを含んでいる混合ETL(2成分ドーピング系との組み合わせ)によって、塩と金属との組み合わせの優位性が示された。
【0169】
[比較例8](タンデム白色OLED)
ITO基板上に、以下の層を真空蒸着によって堆積した:
8重量%のPD2でドープした92重量%の補助材料F4からなるHTL(厚さ:10nm);
純粋なF4の層(厚さ:135nm);
NUBD370(Sun Fine Chemicals)でドープしたABH113(Sun Fine Chemicals)の青色発光層(厚さ:25nm、97重量%:3重量%);
ABH036(Sun Fine Chemicals)の層(厚さ:20nm);
5重量%のMgでドープした95重量%の本発明の化合物E12からなるCGL(厚さ:10nm);
10重量%のPD2でドープした90重量%の補助材料F4からなるHTL(厚さ:10nm);
純粋なF4の層(厚さ:30nm);
純粋なF3の層(厚さ:15nm);
黄色蛍光体の発光層(厚さ:30nm);
補助材料F5のETL(厚さ:35nm);
LiF層(厚さ:1nm);および、
アルミニウム製カソード
6.81Vで駆動させたダイオードのEQEは、24.4%であった。
【0170】
[比較例9](タンデム型白色OLED)
CGL中のMgをYbに代えて、実施例8を再度行った。6.80Vで駆動させたダイオードのEQEは、23.9%であった。
【0171】
[比較例10](タンデム型白色OLED)
CGL中のE12を化合物E6に代えて、実施例9を再度行った。6.71Vで駆動させたダイオードのEQEは、23.7%であった。
【0172】
[比較例11](青色OLEDにおける、隣接層への電荷注入、またはLUMOの高いETMとの混合)
以下の通り変更して、実施例1を再度行った:
ITO基板上に、8重量%のPD2でドープした92重量%の補助材料F4からなるHTL(厚さ:10nm)を、その次に純粋なF4の層(厚さ:130nm)を、VTEで堆積させた。実施例1と同じ発光層の上部に、F6のHBL(厚さ:31nm)を、その上部にドープしたETL(表5に記載)を堆積させた。次に、アルミニウムカソードを堆積させた。全ての堆積工程は、10-2Pa未満の圧力下におけるVTEで行った。
【0173】
【0174】
実験から説得力をもって示されるように、化合物A2およびA4、ならびに当該化合物と極性基を含まないETMとの混合物は、より複雑で非常に高価なETM(具体的には、1分子中に(a)極性基、および(b)少なくとも10個の非局在電子の共役系が存在する分子と、組み合わせるように設計されているETM)のような、優れた電子注入能を有していた。F6の層は、還元電位が大きく負であり、かつ極性が低い。そのため、モデル素子は、発光性高分子製の発光層を備えている素子の特性にも類似している。
【0175】
[比較例12](青色OLEDにおける、隣接層への電荷注入、またはLUMOの高いETMとの混合)
HBL中のF6をB10に代えて、実施例11を再度行った。ELTの組成および結果を、表6に示す。
【0176】
【0177】
この結果によると、2価金属でドープしたホスフィンオキシドを用いる半導体材料によれば、上述の実施例のHBLマトリクスよりも酸化還元電位がさらに負であるCBP層にさえも、効率的に電子を注入できることが示された。
【0178】
[実施例および比較例13](非常に肉厚なELTにおける、2価金属でドープしたホスフィンオキシド・マトリクスを用いる半導体材料の応用可能性)
厚さ150nmのELTを用いて、実施例11を再度行った。結果を表7に示す。
【0179】
【0180】
表5との比較により示されることには、本発明の素子に使用されているELTは、還元電位が大きく負であるホスフィンオキシド化合物(E5、E6、E7、E13、E14、A2およびA4)を含んでいる。そして、上記素子は、ETLの厚さが4倍超に増加しているにもかかわらず、実施例11の素子と実用上同等の駆動電圧であった。本実験の示すところによると、本発明に係るOLEDの設計によって、酸化還元電位が大きく負である発光層(例えば発光性高分子)を備えている電子デバイスにおいて、光学空洞の大きさを容易に調整することもできる。
【0181】
[実施例14](反射性の銀製カソードを備えている、ボトム・エミッション型OLED)
以下の(a)~(c)を変更して、実施例11の素子を再構成した:(a)カソードのアルミニウムを銀に変更した;(b)化合物C1を電子輸送マトリクスとした;(c)Mgを陽性元素とした。Ag製カソードでもAl製カソードでも、素子の駆動電圧は同等であった(4.0Vおよび3.9V)が、量子効率はAgが5.3%であったのに対し、Alは4.9%であった。また、ELT化合物としてD1でドープしたC1を含んでいる比較素子においては、Al製カソードを用いた場合、電圧4.7V、量子効率3.3%で駆動した。一方、Ag製カソードを用いた場合は、電圧5.7V、量子効率2.5%であった。
【0182】
上記の明細書、特許請求の範囲および添付の図面に開示されている特徴点は、個別であったとしても、任意の組み合わせであったとしても、いずれも、本発明を種々の形態において実現するための材料でありうる。本発明に関連する物理化学的特性の参照値を、表8にまとめた(第1イオン化ポテンシャルおよび第2イオン化ポテンシャル、標準沸点、標準酸化還元電位)。
【0183】
【表8】
〔使用した略称〕
CGL 電荷発生層
CV サイクリックボルタンメトリー
DCM ジクロロメタン
DSC 示差走査熱量測定
EIL 電子注入層
EQE エレクトロルミネッセンスの外部量子効率
ETL 電子輸送層
ETM 電子輸送マトリクス
EtOAc 酢酸エチル
Fc
+/Fc フェロセニウム/フェロセン標準系
h 時間
HBL 正孔遮断層
HIL 正孔注入層
HOMO 最高被占軌道
HTL 正孔輸送層
HTM 正孔輸送マトリクス
ITO 酸化インジウムスズ
LUMO 最低空軌道
LEL 発光層
LiQ 8-ヒドロキシキノリノラート-リチウム
MeOH メタノール
mol% モルパーセント
mp 融点
OLED 有機発光ダイオード
QA 品質保証
RT 室温
THF テトラヒドロフラン
UV 紫外線(光)
vol% 体積パーセント
v/v 体積/体積(割合)
VTE 真空蒸着
wt% 重量(質量)パーセント