(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂金属複合部材及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20240613BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20240613BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240613BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20240613BHJP
B32B 15/092 20060101ALI20240613BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
C08L63/00 A
C08L67/00
C08L21/00
C08K5/3492
B32B15/092
B60C1/00 Z
B60C1/00 C
(21)【出願番号】P 2021563809
(86)(22)【出願日】2020-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2020042592
(87)【国際公開番号】W WO2021117419
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2019224542
(32)【優先日】2019-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】京 壮一
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-001361(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108034182(CN,A)
【文献】国際公開第2019/021671(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103382359(CN,A)
【文献】特開昭62-267378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00-63/10
C08L 67/00-67/08
C08L 21/00
C08K 5/3492
B32B 15/092
B60C 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂として熱可塑性エラストマー及びエポキシ樹脂と、シアヌル酸亜鉛とを含
み、前記熱可塑性エラストマーがポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む、樹脂組成物。
【請求項2】
前記シアヌル酸亜鉛の樹脂組成物全体における含有率は0.1質量%~5質量%である、に対して請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂の樹脂組成物全体における含有率は15質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂の樹脂組成物全体における含有率は1質量%以上である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量は100g/eq~300g/eqである、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂の樹脂組成物全体における含有率をA(質量%)、前記エポキシ樹脂のエポキシ当量をB(g/eq)としたときのA/Bの値が0.003~0.15である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
樹脂として熱可塑性樹脂をさらに含む、請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
樹脂全体の重量平均分子量が40,000以上である、請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
金属部材と、前記金属部材の周囲に配置される樹脂層と、を有し、前記樹脂層は請求項1~請求項
8のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる、樹脂金属複合部材。
【請求項10】
請求項
9に記載の樹脂金属複合部材を備えるタイヤ。
【請求項11】
前記樹脂金属複合部材が、前記タイヤの補強ベルト部材及びビード部材の少なくとも一方に含まれる、請求項
10に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物、樹脂金属複合部材及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤの耐久性(耐応力、耐内圧及び剛性)を高める試みのひとつとして、タイヤの外周に、金属製のワイヤを含む補強コードを螺旋状に巻回した補強ベルト部材を設けることが行なわれている。
また、通常、タイヤがリムと接する位置にはリムへの固定の役割を担うビード部材が設けられており、このビード部材にも補強コードが用いられている。
【0003】
補強コードとして、例えば、特開2019-1359号公報には、金属部材と接着層と被覆樹脂層とをこの順に有するタイヤ用樹脂金属複合部材であって、接着層が極性官能基を有するポリエステル系熱可塑性エラストマーを含むものが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2019-1359号公報に記載の樹脂金属複合部材では、金属部材と被覆樹脂層との間に設けられる接着層を極性官能基を有するポリエステル系熱可塑性エラストマーを用いて形成することで、金属部材に対する接着性を高めている。その一方で、極性官能基を有するポリエステル系熱可塑性エラストマーを用いて形成した接着層は、耐亀裂性に改善の余地があることがわかった。
【0005】
以上のように、金属部材に対する接着性と耐亀裂性とに優れる樹脂組成物の提供が望まれている。さらには、金属部材に対する接着性と耐亀裂性とに優れる樹脂組成物を用いて得られる樹脂金属複合部材及びタイヤの提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
樹脂として熱可塑性エラストマー及びエポキシ樹脂と、シアヌル酸亜鉛とを含む樹脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、金属部材に対する接着性と耐亀裂性とに優れる樹脂組成物、並びにこの樹脂組成物を用いて得られる樹脂金属複合部材及びタイヤが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】第一の実施形態に係るタイヤの一部の断面を示す斜視図である。
【
図2】第一の実施形態のタイヤのタイヤ骨格体のクラウン部に補強コード部材が埋設された状態を示すタイヤ回転軸に沿った断面図である。
【
図3】補強コード部材加熱装置、およびローラ類を用いてタイヤ骨格体のクラウン部に補強コード部材を設置する動作を説明するための説明図である。
【
図4】第二の実施形態に係るタイヤの一部の断面を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0010】
本明細書において「樹脂」とは、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、及び熱硬化性樹脂を含む概念であり、加硫ゴムは含まない。また、以下の樹脂の説明において「同種」とは、エステル系同士、スチレン系同士等、樹脂の主鎖を構成する骨格と共通する骨格を備えたものを意味する。
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において「工程」との語には、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その目的が達成されるものであれば、当該工程も本用語に含まれる。
【0011】
また、本明細書において「熱可塑性樹脂」とは、温度上昇とともに材料が軟化、流動し、冷却すると比較的硬く強度のある状態になるが、ゴム状弾性を有しない高分子化合物を意味する。
本明細書において「熱可塑性エラストマー」とは、ハードセグメント及びソフトセグメントを有する共重合体を意味する。熱可塑性エラストマーとしては、温度上昇とともに材料が軟化、流動し、冷却すると比較的硬く強度のある状態になり、かつゴム状弾性を有するものが挙げられる。熱可塑性エラストマーとして具体的には、例えば、結晶性で融点の高いハードセグメント又は高い凝集力のハードセグメントを構成するポリマーと、非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成するポリマーと、を有する共重合体が挙げられる。
なお、上記ハードセグメントは、ソフトセグメントよりも相対的に硬い成分を指す。ハードセグメントは塑性変形を防止する架橋ゴムの架橋点の役目を果たす分子拘束成分であることが好ましい。例えばハードセグメントとしては、主骨格に芳香族基若しくは脂環式基等の剛直な基を有する構造、又は分子間水素結合若しくはπ-π相互作用による分子間パッキングを可能にする構造等のセグメントが挙げられる。
また、上記ソフトセグメントは、ハードセグメントよりも相対的に柔らかい成分を指す。ソフトセグメントはゴム弾性を示す柔軟性成分であることが好ましい。例えばソフトセグメントとしては、主鎖に長鎖の基(例えば長鎖のアルキレン基等)を有し、分子回転の自由度が高く、伸縮性を有する構造のセグメントが挙げられる。
【0012】
<樹脂組成物>
本実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂として熱可塑性エラストマー及びエポキシ樹脂と、シアヌル酸亜鉛とを含む。
【0013】
上記構成を有する樹脂組成物は、金属部材に対する接着力に優れ、かつ極性官能基を有する熱可塑性エラストマーよりも耐亀裂性に優れる。
樹脂組成物が優れた接着力を示す理由は必ずしも明らかではないが、まず、樹脂組成物中に存在するエポキシ基と金属部材の表面との間に接着力を高める何らかの相互作用が生じることが考えられる。さらに、本発明者らの検討により、樹脂組成物がエポキシ樹脂とともにシアヌル酸亜鉛を含むと金属部材に対する接着力がさらに向上することがわかった。このような知見はこれまでに報告されていないものである。
樹脂組成物が極性官能基を有する熱可塑性エラストマーよりも優れた耐亀裂性を示す理由は必ずしも明らかではないが、極性官能基を有する熱可塑性エラストマーは極性官能基を分子中に導入する過程で分子が切断され分子量が小さくなる傾向にあるのに対し、熱可塑性エラストマーと異なる成分としてエポキシ樹脂を配合することで熱可塑性エラストマーの分子量の低下が抑えられることが考えられる。
【0014】
以下、樹脂組成物に含まれる成分について説明する。
本開示において「エポキシ樹脂」には、熱可塑性エラストマー又は熱可塑性樹脂のいずれかに該当する樹脂(例えば、分子中にエポキシ基を有する熱可塑性エラストマー又は熱可塑性樹脂)は含まないものとする。
【0015】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂の種類は特に制限されない。例えば、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0016】
熱可塑性エラストマーとの混合性の観点からは、エポキシ樹脂は常温で固体であることが好ましい。例えば、環球法で測定される軟化点が50℃~100℃であるエポキシ樹脂が好ましい。
【0017】
耐湿性の観点からは、低吸水性のエポキシ樹脂を用いることが好ましく、例えば分子中に脂環構造又はナフタレン構造を含むエポキシ樹脂が好ましい。脂環構造として具体的には、シクロプロパン構造、シクロブタン構造、シクロペンタン構造、シクロヘキサン構造、シクロヘプタン構造、シクロオクタン構造、キュバン構造、ノルボルナン構造、テトラヒドロジシクロペンタジエン構造、アダマンタン構造、ジアダマンタン構造、ビシクロ[2.2.2]オクタン構造、デカヒドロナフタレン構造、スピロ[5.5]ウンデカン構造等のスピロ環構造などが挙げられる。これらの中でもテトラヒドロジシクロペンタジエン構造を有するエポキシ樹脂(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂)が好ましい。
【0018】
充分な耐亀裂性の改善効果を得る観点からは、エポキシ樹脂の樹脂組成物全体における含有率は15質量%以下であることが好ましく、12.5質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
充分な接着力の向上効果を得る観点からは、エポキシ樹脂の樹脂組成物全体における含有率は1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい
【0020】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100g/eq~300g/eqであることが好ましい。エポキシ当量が100g/eq以上であると一定の配合量で充分なエポキシ基を樹脂層中に存在させることができ、金属部材に対する接着性を効果的に改善できる傾向にあり、300g/eq以下であるとエポキシ樹脂が少ない比率でも添加する樹脂の物性を大きく損なうことなくエポキシ基を充分に樹脂中に存在させることができ、金属部材に対する接着性を効果的に改善できる傾向にある。
【0021】
樹脂組成物中に存在するエポキシ基の数を最適化する観点からは、エポキシ樹脂の樹脂全体における含有率をA(質量%)、エポキシ当量をB(g/eq)としたときのA/Bの値が0.003~0.15であることが好ましく、0.017~0.1であることがより好ましく、0.04~0.06であることがさらに好ましい。
【0022】
(熱可塑性エラストマー)
樹脂組成物に含まれる熱可塑性エラストマーの種類は特に制限されない。例えば、JIS K6418に規定されるポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、熱可塑性ゴム架橋体、その他の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。樹脂組成物に含まれる熱可塑性エラストマーは1種のみでも2種以上であってもよい。
【0023】
耐亀裂性を改善する観点からは、樹脂組成物に含まれる熱可塑性エラストマーは極性官能基(エポキシ基、カルボキシ基、酸無水物基、アミノ基等)を有していないことが好ましい。ただし、上述した効果が損なわれない範囲内であれば極性官能基を有する熱可塑性エラストマーを樹脂組成物中に含んでもよい。
【0024】
エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基との反応を抑制する観点からは、熱可塑性エラストマーとしてポリエステル系熱可塑性エラストマーを含むことが好ましい。
【0025】
-ポリエステル系熱可塑性エラストマー-
ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、少なくともポリエステルが結晶性で融点の高いハードセグメントを形成し、他のポリマー(例えば、ポリエステル又はポリエーテル等)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを形成している材料が挙げられる。
【0026】
ハードセグメントを形成するポリエステルとしては、芳香族ポリエステルを用いることができる。芳香族ポリエステルは、例えば、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールとから形成することができる。芳香族ポリエステルは、好ましくは、テレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートと、1,4-ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンテレフタレートであり、更に、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、或いは、これらのエステル形成性誘導体等のジカルボン酸成分と、分子量300以下のジオール、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(2-ヒドロキシ)フェニル]スルホン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-p-ターフェニル、4,4’-ジヒドロキシ-p-クオーターフェニル等の芳香族ジオール等から誘導されるポリエステル、或いはこれらのジカルボン酸成分及びジオール成分を2種以上併用した共重合ポリエステルであってもよい。また、3官能以上の多官能カルボン酸成分、多官能オキシ酸成分、多官能ヒドロキシ成分等を5モル%以下の範囲で共重合することも可能である。
ハードセグメントを形成するポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0027】
また、ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、例えば、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリエーテル等が挙げられる。
脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとの共重合体等が挙げられる。
脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等が挙げられる。
これらの脂肪族ポリエーテル及び脂肪族ポリエステルの中でも、得られるポリエステルブロック共重合体の弾性特性の観点から、ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等が好ましい。
【0028】
また、ソフトセグメントを形成するポリマーの数平均分子量は、強靱性及び低温柔軟性の観点から、300~6000が好ましい。さらに、ハードセグメント(x)とソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、99:1~20:80が好ましく、98:2~30:70が更に好ましい。
【0029】
上述のハードセグメントとソフトセグメントとの組合せとしては、例えば、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。これらの中でも、上述のハードセグメントとソフトセグメントとの組合せとしては、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレートであり、ソフトセグメントが脂肪族ポリエーテルである組み合わせが好ましく、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレートであり、ソフトセグメントがポリ(エチレンオキシド)グリコールである組み合わせが更に好ましい。
【0030】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、東レ・デュポン(株)製の「ハイトレル」シリーズ(例えば、3046、4047、4767、5557、6347、6377、7247等)、東洋紡(株)製の「ペルプレン」シリーズ(例えば、P30B、P40B、P40H、P55B、P70B、P150B、P280B、P450B、P150M、S1001、S2001、S5001、S6001、S9001等)等を用いることができる。
【0031】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントを形成するポリマー及びソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
【0032】
-ポリアミド系熱可塑性エラストマー-
ポリアミド系熱可塑性エラストマーとは、結晶性で融点の高いハードセグメントを形成するポリマーと非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを形成するポリマーとを有する共重合体からなる熱可塑性の樹脂材料であって、ハードセグメントを形成するポリマーの主鎖にアミド結合(-CONH-)を有するものを意味する。
ポリアミド系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、少なくともポリアミドが結晶性で融点の高いハードセグメントを形成し、他のポリマー(例えば、ポリエステル、ポリエーテル等)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを形成している材料が挙げられる。また、ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメント及びソフトセグメントの他に、ジカルボン酸等の鎖長延長剤を用いて形成されてもよい。
ポリアミド系熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、JIS K6418:2007に規定されるアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)等や、特開2004-346273号公報に記載のポリアミド系エラストマー等を挙げることができる。
【0033】
ポリアミド系熱可塑性エラストマーにおいて、ハードセグメントを形成するポリアミドとしては、例えば、下記一般式(1)又は一般式(2)で表されるモノマーによって生成されるポリアミドを挙げることができる。
【0034】
【0035】
[一般式(1)中、R1は、炭素数2~20の炭化水素の分子鎖(例えば炭素数2~20のアルキレン基)を表す。]
【0036】
【0037】
[一般式(2)中、R2は、炭素数3~20の炭化水素の分子鎖(例えば炭素数3~20のアルキレン基)を表す。]
【0038】
一般式(1)中、R1としては、炭素数3~18の炭化水素の分子鎖、例えば炭素数3~18のアルキレン基が好ましく、炭素数4~15の炭化水素の分子鎖、例えば炭素数4~15のアルキレン基が更に好ましく、炭素数10~15の炭化水素の分子鎖、例えば炭素数10~15のアルキレン基が特に好ましい。
また、一般式(2)中、R2としては、炭素数3~18の炭化水素の分子鎖、例えば炭素数3~18のアルキレン基が好ましく、炭素数4~15の炭化水素の分子鎖、例えば炭素数4~15のアルキレン基が更に好ましく、炭素数10~15の炭化水素の分子鎖、例えば炭素数10~15のアルキレン基が特に好ましい。
一般式(1)又は一般式(2)で表されるモノマーとしては、ω-アミノカルボン酸又はラクタムが挙げられる。また、ハードセグメントを形成するポリアミドとしては、これらω-アミノカルボン酸又はラクタムの重縮合体、ジアミンとジカルボン酸との共縮重合体等が挙げられる。
【0039】
ω-アミノカルボン酸としては、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、10-アミノカプリン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等の炭素数5~20の脂肪族ω-アミノカルボン酸等を挙げることができる。また、ラクタムとしては、ラウリルラクタム、ε-カプロラクタム、ウデカンラクタム、ω-エナントラクタム、2-ピロリドン等の炭素数5~20の脂肪族ラクタム等を挙げることができる。
ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、3-メチルペンタメチレンジアミン、メタキシレンジアミン等の炭素数2~20の脂肪族ジアミン等のジアミン化合物を挙げることができる。
また、ジカルボン酸は、HOOC-(R3)m-COOH(R3:炭素数3~20の炭化水素の分子鎖、m:0又は1)で表すことができ、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の炭素数2~20の脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
ハードセグメントを形成するポリアミドとしては、ラウリルラクタム、ε-カプロラクタム、又はウデカンラクタムを開環重縮合したポリアミドを好ましく用いることができる。
【0040】
また、ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、例えば、ポリエステル、ポリエーテル等が挙げられ、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ABA型トリブロックポリエーテル等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、ポリエーテルの末端にアンモニア等を反応させることによって得られるポリエーテルジアミン等も用いることができる。
ここで、「ABA型トリブロックポリエーテル」とは、下記一般式(3)に示されるポリエーテルを意味する。
【0041】
【0042】
[一般式(3)中、x及びzは、1~20の整数を表す。yは、4~50の整数を表す。]
【0043】
一般式(3)において、x及びzは、それぞれ、1~18の整数が好ましく、1~16の整数がより好ましく、1~14の整数が更に好ましく、1~12の整数が特に好ましい。また、一般式(3)において、yは、5~45の整数が好ましく、6~40の整数がより好ましく、7~35の整数が更に好ましく、8~30の整数が特に好ましい。
【0044】
ハードセグメントとソフトセグメントとの組合せとしては、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。これらの中でも、ハードセグメントとソフトセグメントとの組合せとしては、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリエチレングリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリプロピレングリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリテトラメチレンエーテルグリコールの組合せ、又はラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せが好ましく、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せがより好ましい。
【0045】
ハードセグメントを形成するポリマー(ポリアミド)の数平均分子量は、溶融成形性の観点から、300~15000が好ましい。また、ソフトセグメントを形成するポリマーの数平均分子量としては、強靱性及び低温柔軟性の観点から、200~6000が好ましい。さらに、ハードセグメント(x)及びソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、50:50~90:10が好ましく、50:50~80:20がより好ましい。
【0046】
ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントを形成するポリマー及びソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
【0047】
ポリアミド系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、宇部興産(株)の「UBESTA XPA」シリーズ(例えば、XPA9063X1、XPA9055X1、XPA9048X2、XPA9048X1、XPA9040X1、XPA9040X2XPA9044等)、ダイセル・エポニック(株)の「ベスタミド」シリーズ(例えば、E40-S3、E47-S1、E47-S3、E55-S1、E55-S3、EX9200、E50-R2等)等を用いることができる。
【0048】
-ポリスチレン系熱可塑性エラストマー-
ポリスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、少なくともポリスチレンがハードセグメントを形成し、他のポリマー(例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリエチレン、水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレン等)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを形成している材料が挙げられる。ハードセグメントを形成するポリスチレンとしては、例えば、公知のラジカル重合法、イオン性重合法等で得られるものが好ましく用いられ、具体的には、アニオンリビング重合を持つポリスチレンが挙げられる。また、ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(2,3-ジメチル-ブタジエン)等が挙げられる。
【0049】
ハードセグメントとソフトセグメントとの組合せとしては、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。これらの中でも、ハードセグメントとソフトセグメントとの組合せとしては、ポリスチレン/ポリブタジエンの組合せ、又はポリスチレン/ポリイソプレンの組合せが好ましい。また、熱可塑性エラストマーの意図しない架橋反応を抑制するため、ソフトセグメントは水素添加されていることが好ましい。
【0050】
ハードセグメントを形成するポリマー(ポリスチレン)の数平均分子量は、5000~500000が好ましく、10000~200000がより好ましい。
また、ソフトセグメントを形成するポリマーの数平均分子量としては、5000~1000000が好ましく、10000~800000がより好ましく、30000~500000が更に好ましい。さらに、ハードセグメント(x)及びソフトセグメント(y)との体積比(x:y)は、成形性の観点から、5:95~80:20が好ましく、10:90~70:30がより好ましい。
【0051】
ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントを形成するポリマー及びソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
ポリスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン系共重合体[SBS(ポリスチレン-ポリ(ブチレン)ブロック-ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック-ポリスチレン)]、スチレン-イソプレン共重合体(ポリスチレン-ポリイソプレンブロック-ポリスチレン)、スチレン-プロピレン系共重合体[SEP(ポリスチレン-(エチレン/プロピレン)ブロック)、SEPS(ポリスチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック-ポリスチレン)、SEEPS(ポリスチレン-ポリ(エチレン-エチレン/プロピレン)ブロック-ポリスチレン)、SEB(ポリスチレン(エチレン/ブチレン)ブロック)]等が挙げられる。
【0052】
ポリスチレン系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、旭化成(株)製の「タフテック」シリーズ(例えば、H1031、H1041、H1043、H1051、H1052、H1053、H1062、H1082、H1141、H1221、H1272等)、(株)クラレ製の「SEBS」シリーズ(8007、8076等)、「SEPS」シリーズ(2002、2063等)等を用いることができる。
【0053】
-ポリウレタン系熱可塑性エラストマー-
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、少なくともポリウレタンが物理的な凝集によって疑似架橋を形成しているハードセグメントを形成し、他のポリマーが非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを形成している材料が挙げられる。
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、JIS K6418:2007に規定されるポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)が挙げられる。ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、下記式Aで表される単位構造を含むソフトセグメントと、下記式Bで表される単位構造を含むハードセグメントとを含む共重合体として表すことができる。
【0054】
【0055】
[式中、Pは、長鎖脂肪族ポリエーテル又は長鎖脂肪族ポリエステルを表す。Rは、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、又は芳香族炭化水素を表す。P’は、短鎖脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、又は芳香族炭化水素を表す。]
【0056】
式A中、Pで表される長鎖脂肪族ポリエーテル又は長鎖脂肪族ポリエステルとしては、例えば、分子量500~5000のものを使用することができる。Pは、Pで表される長鎖脂肪族ポリエーテル及び長鎖脂肪族ポリエステルを含むジオール化合物に由来する。このようなジオール化合物としては、例えば、分子量が前記範囲内にある、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリ(ブチレンアジベート)ジオール、ポリ-ε-カプロラクトンジオール、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオール、ABA型トリブロックポリエーテル等が挙げられる。
これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
式A及び式B中、Rは、Rで表される脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、又は芳香族炭化水素を含むジイソシアネート化合物に由来する。Rで表される脂肪族炭化水素を含む脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、1,2-エチレンジイソシアネート、1,3-プロピレンジイソシアネート、1,4-ブタンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
また、Rで表される脂環族炭化水素を含むジイソシアネート化合物としては、例えば、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4-シクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。さらに、Rで表される芳香族炭化水素を含む芳香族ジイソシアネート化合物としては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等が挙げられる。
これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
式B中、P’で表される短鎖脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、又は芳香族炭化水素としては、例えば、分子量500未満のものを使用することができる。また、P’は、P’で表される短鎖脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、又は芳香族炭化水素を含むジオール化合物に由来する。P’で表される短鎖脂肪族炭化水素を含む脂肪族ジオール化合物としては、例えば、グリコール及びポリアルキレングリコールが挙げられ、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等が挙げられる。
また、P’で表される脂環族炭化水素を含む脂環族ジオール化合物としては、例えば、シクロペンタン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,3-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール等が挙げられる。
さらに、P’で表される芳香族炭化水素を含む芳香族ジオール化合物としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシン、クロロヒドロキノン、ブロモヒドロキノン、メチルヒドロキノン、フェニルヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、フェノキシヒドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルサルファイド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、ビスフェノールA、1,1-ジ(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,2-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)エタン、1,4-ジヒドロキシナフタリン、2,6-ジヒドロキシナフタリン等が挙げられる。
これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
ハードセグメントを形成するポリマー(ポリウレタン)の数平均分子量は、溶融成形性の観点から、300~1500が好ましい。また、ソフトセグメントを形成するポリマーの数平均分子量としては、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの柔軟性及び熱安定性の観点から、500~20000が好ましく、500~5000が更に好ましく、500~3000が特に好ましい。また、ハードセグメント(x)及びソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、15:85~90:10が好ましく、30:70~90:10が更に好ましい。
【0060】
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントを形成するポリマー及びソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。ポリウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、特開平5-331256号公報に記載の熱可塑性ポリウレタンを用いることができる。
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、芳香族ジオールと芳香族ジイソシアネートとからなるハードセグメントと、ポリ炭酸エステルからなるソフトセグメントとの組合せが好ましく、より具体的には、トリレンジイソシアネート(TDI)/ポリエステル系ポリオール共重合体、TDI/ポリエーテル系ポリオール共重合体、TDI/カプロラクトン系ポリオール共重合体、TDI/ポリカーボネート系ポリオール共重合体、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)/ポリエステル系ポリオール共重合体、MDI/ポリエーテル系ポリオール共重合体、MDI/カプロラクトン系ポリオール共重合体、MDI/ポリカーボネート系ポリオール共重合体、及びMDI+ヒドロキノン/ポリヘキサメチレンカーボネート共重合体から選ばれる少なくとも1種が好ましく、TDI/ポリエステル系ポリオール共重合体、TDI/ポリエーテル系ポリオール共重合体、MDI/ポリエステルポリオール共重合体、MDI/ポリエーテル系ポリオール共重合体、及びMDI+ヒドロキノン/ポリヘキサメチレンカーボネート共重合体から選ばれる少なくとも1種が更に好ましい。
【0061】
また、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、BASF社製の「エラストラン」シリーズ(例えば、ET680、ET880、ET690、ET890等)、(株)クラレ社製「クラミロンU」シリーズ(例えば、2000番台、3000番台、8000番台、9000番台等)、日本ミラクトラン(株)製の「ミラクトラン」シリーズ(例えば、XN-2001、XN-2004、P390RSUP、P480RSUI、P26MRNAT、E490、E590、P890等)等を用いることができる。
【0062】
-オレフィン系熱可塑性エラストマー-
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、少なくともポリオレフィンが結晶性で融点の高いハードセグメントを形成し、他のポリマー(例えば、ポリオレフィン、他のポリオレフィン、ポリビニル化合物等)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを形成している材料が挙げられる。ハードセグメントを形成するポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイソタクチックポリプロピレン、ポリブテン等が挙げられる。
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン-α-オレフィンランダム共重合体、オレフィンブロック共重合体等が挙げられ、具体的には、プロピレンブロック共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-4-メチル-1ペンテン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-4-メチル-ペンテン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、1-ブテン-1-ヘキセン共重合体、1-ブテン-4-メチル-ペンテン、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、プロピレン-メタクリル酸共重合体、プロピレン-メタクリル酸メチル共重合体、プロピレン-メタクリル酸エチル共重合体、プロピレン-メタクリル酸ブチル共重合体、プロピレン-メチルアクリレート共重合体、プロピレン-エチルアクリレート共重合体、プロピレン-ブチルアクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0063】
これらの中でも、オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、プロピレンブロック共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-4-メチル-1ペンテン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-4-メチル-ペンテン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、プロピレン-メタクリル酸共重合体、プロピレン-メタクリル酸メチル共重合体、プロピレン-メタクリル酸エチル共重合体、プロピレン-メタクリル酸ブチル共重合体、プロピレン-メチルアクリレート共重合体、プロピレン-エチルアクリレート共重合体、プロピレン-ブチルアクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びプロピレン-酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種が好ましく、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、及びエチレン-ブチルアクリレート共重合体から選ばれる少なくとも1種が更に好ましい。
また、エチレンとプロピレンといったように2種以上のオレフィン樹脂を組み合わせて用いてもよい。また、オレフィン系熱可塑性エラストマー中のオレフィン樹脂含有率は、50質量%以上100質量%以下が好ましい。
【0064】
オレフィン系熱可塑性エラストマーの数平均分子量は、5000~10000000であることが好ましい。オレフィン系熱可塑性エラストマーの数平均分子量が5000~10000000であると、熱可塑性樹脂材料の機械的物性が十分であり、加工性にも優れる。同様の観点から、オレフィン系熱可塑性エラストマーの数平均分子量は、7000~1000000であることが更に好ましく、10000~1000000が特に好ましい。これにより、熱可塑性樹脂材料の機械的物性及び加工性を更に向上させることができる。また、ソフトセグメントを形成するポリマーの数平均分子量としては、強靱性及び低温柔軟性の観点から、200~6000が好ましい。更に、ハードセグメント(x)及びソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、50:50~95:15が好ましく、50:50~90:10が更に好ましい。
オレフィン系熱可塑性エラストマーは、公知の方法によって共重合することで合成することができる。
【0065】
オレフィン系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、三井化学(株)製の「タフマー」シリーズ(例えば、A0550S、A1050S、A4050S、A1070S、A4070S、A35070S、A1085S、A4085S、A7090、A70090、MH7007、MH7010、XM-7070、XM-7080、BL4000、BL2481、BL3110、BL3450、P-0275、P-0375、P-0775、P-0180、P-0280、P-0480、P-0680等)、三井・デュポンポリケミカル(株)製の「ニュクレル」シリーズ(例えば、AN4214C、AN4225C、AN42115C、N0903HC、N0908C、AN42012C、N410、N1050H、N1108C、N1110H、N1207C、N1214、AN4221C、N1525、N1560、N0200H、AN4228C、AN4213C、N035C)等、「エルバロイAC」シリーズ(例えば、1125AC、1209AC、1218AC、1609AC、1820AC、1913AC、2112AC、2116AC、2615AC、2715AC、3117AC、3427AC、3717AC等)、住友化学(株)の「アクリフト」シリーズ、「エバテート」シリーズ等、東ソー(株)製の「ウルトラセン」シリーズ等、プライムポリマー製の「プライムTPO」シリーズ(例えば、E-2900H、F-3900H、E-2900、F-3900、J-5900、E-2910、F-3910、J-5910、E-2710、F-3710、J-5910、E-2740、F-3740、R110MP、R110E、T310E、M142E等)等も用いることができる。
【0066】
(熱可塑性樹脂)
樹脂組成物は、熱可塑性樹脂をさらに含んでもよい。熱可塑性樹脂を含むことで、例えば、樹脂組成物の弾性率を所望の範囲に調節することができる。熱可塑性樹脂は一般に熱可塑性エラストマーよりも弾性率が高いため、熱可塑性樹脂を配合することで樹脂組成物の弾性率が高くなる傾向にある。
【0067】
樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は、樹脂組成物に含まれる熱可塑性エラストマーと同種であることが好ましい。例えば、樹脂組成物に含まれる熱可塑性エラストマーがポリエステル系熱可塑性エラストマーである場合はポリエステル系熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0068】
樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂としては、ポリエステル系熱可塑性樹脂、ポリアミド系熱可塑性樹脂、オレフィン系熱可塑性樹脂、ポリウレタン系熱可塑性樹脂、塩化ビニル系熱可塑性樹脂、ポリスチレン系熱可塑性樹脂等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
-ポリエステル系熱可塑性樹脂-
ポリエステル系熱可塑性樹脂としては、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ-3-ブチル酪酸、ポリヒドロキシ-3-ヘキシル酪酸、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等の脂肪族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等の芳香族ポリエステルなどを例示することができる。これらの中でも、耐熱性及び加工性の観点から、ポリエステル系熱可塑性樹脂としては、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0070】
ポリエステル系熱可塑性樹脂の市販品としては、例えば、ポリプラスチック(株)製の「ジュラネックス」シリーズ(例えば、2000、2002等)、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製の「ノバデュラン」シリーズ(例えば、5010R5、5010R3-2等)、東レ(株)製の「トレコン」シリーズ(例えば、1401X06、1401X31等)等を用いることができる。
【0071】
-ポリアミド系熱可塑性樹脂-
ポリアミド系熱可塑性樹脂としては、ε-カプロラクタムを開環重縮合したポリアミド(アミド6)、ウンデカンラクタムを開環重縮合したポリアミド(アミド11)、ラウリルラクタムを開環重縮合したポリアミド(アミド12)、ジアミンと二塩基酸とを重縮合したポリアミド(アミド66)、メタキシレンジアミンを構成単位として有するポリアミド(アミドMX)等を例示することができる。
【0072】
アミド6は、例えば、{CO-(CH2)5-NH}nで表すことができる。アミド11は、例えば、{CO-(CH2)10-NH}nで表すことができる。アミド12は、例えば、{CO-(CH2)11-NH}nで表すことができる。アミド66は、例えば、{CO(CH2)4CONH(CH2)6NH}nで表すことができる。アミドMXは、例えば、下記構造式(A-1)で表すことができる。ここで、nは繰り返し単位数を表す。
アミド6の市販品としては、例えば、宇部興産(株)製の「UBEナイロン」シリーズ(例えば、1022B、1011FB等)を用いることができる。アミド11の市販品としては、例えば、アルケマ(株)製の「Rilsan B」シリーズを用いることができる。アミド12の市販品としては、例えば、宇部興産(株)製の「UBEナイロン」シリーズ(例えば、3024U、3020U、3014U等)を用いることができる。アミド66の市販品としては、例えば、宇部興産(株)製の「UBEナイロン」シリーズ(例えば、2020B、2015B等)を用いることができる。アミドMXの市販品としては、例えば、三菱ガス化学(株)製の「MXナイロン」シリーズ(例えば、S6001、S6021、S6011等)を用いることができる。
【0073】
【0074】
ポリアミド系熱可塑性樹脂は、上記の構成単位のみで形成されるホモポリマーであってもよく、上記の構成単位と他のモノマーとのコポリマーであってもよい。コポリマーの場合、各ポリアミド系熱可塑性樹脂における上記構成単位の含有率は、40質量%以上であることが好ましい。
【0075】
-ポリオレフィン系熱可塑性樹脂-
ポリオレフィン系熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン系熱可塑性樹脂、ポリプロピレン系熱可塑性樹脂、ポリブタジエン系熱可塑性樹脂等を例示することができる。これらの中でも、耐熱性及び加工性の点から、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系熱可塑性樹脂が好ましい。
ポリプロピレン系熱可塑性樹脂の具体例としては、プロピレンホモ重合体、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体等が挙げられる。α-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等の炭素数3~20程度のα-オレフィン等が挙げられる。
【0076】
(シアヌル酸亜鉛)
樹脂組成物に含まれるシアヌル酸亜鉛の樹脂組成物全体における含有率は、接着力改善効果と他の成分とのバランスの観点から、0.1質量%~5質量%であることが好ましく、0.5質量%~2質量%であることがより好ましい。
【0077】
(その他の成分)
樹脂組成物は、必要に応じて樹脂及びシアヌル酸亜鉛以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、ゴム、充填剤(シリカ、炭酸カルシウム、クレイ等)、老化防止剤、可塑剤、着色剤、耐候剤、補強材等が挙げられる。
【0078】
樹脂組成物が樹脂及びシアヌル酸亜鉛以外の成分を含む場合、樹脂及びシアヌル酸亜鉛の合計が樹脂組成物に占める割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0079】
耐亀裂性の観点からは、樹脂組成物に含まれる樹脂の重量平均分子量は35,000以上であることが好ましく、37,500以上であることがより好ましく、40,000以上であることがさらに好ましい。
樹脂組成物に含まれる樹脂の重量平均分子量の上限値は特に制限されないが、100,000以下であってもよい。
本開示において樹脂組成物に含まれる樹脂の重量平均分子量は、樹脂組成物に含まれる樹脂全体の重量平均分子量である。樹脂の重量平均分子量は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0080】
必要な剛性を確保する観点からは、樹脂組成物は、引張弾性率が500MPa以上であることが好ましく、550MPa以上であることがより好ましく、600MPa以上であることがさらに好ましい。樹脂組成物の引張弾性率の上限値は特に制限されないが、1,000MPa以下であってもよい。
本開示において樹脂組成物の引張弾性率は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0081】
取り扱い性の観点からは、樹脂組成物は固体であることが好ましい。具体的には、示差走査熱量測定(DSC)において20℃以上に融点もしくはガラス転移温度を発現することが好ましい。
【0082】
(樹脂組成物の用途)
樹脂組成物の用途は、特に制限されない。上述したように、樹脂組成物は金属部材に対する優れた接着力を示すため、金属部材同士又は金属部材と金属でない部材(樹脂部材等)とを接着させる接着剤として好適に使用できる。さらに、樹脂組成物は優れた耐亀裂性を示すため、物理的な力が加わる場所にも好適に使用できる。
ある実施態様では、樹脂組成物は、後述する樹脂金属複合部材の樹脂層を形成するために使用される。
【0083】
<樹脂金属複合部材>
本実施形態に係る樹脂金属複合部材は、金属部材と、前記金属部材の周囲に配置される樹脂層と、を有し、前記樹脂層は上述した樹脂組成物からなる、樹脂金属複合部材である。
【0084】
樹脂金属複合部材の形状は特に制限されない。例えば、コード状、シート状、板状等が挙げられる。樹脂金属複合部材は一つの金属部材のみを含んでも、複数の金属部材を含んでもよい。
【0085】
樹脂金属複合部材の用途は特に制限されない。例えば、タイヤを構成するタイヤ骨格体又はカーカスの外周に配置される補強ベルト部材、タイヤがリムと接する場所に配置されるビード部材等が挙げられる。
【0086】
樹脂層の厚みは特に制限されないが、例えば、0.5μm~500μmであることが好ましく、1μm~150μmであることがより好ましく、1μm~100μmであることがさらに好ましい。
【0087】
樹脂層の平均厚みは、金属部材と樹脂層の積層方向に沿って樹脂金属複合部材を切断して得られる断面のSEM画像を任意の5箇所から取得し、得られたSEM画像から測定される接着層の厚みの算術平均値とする。各SEM画像における樹脂層の厚みは、最も厚みの小さい部分で測定される値とする。
【0088】
樹脂金属複合部材は、樹脂層の周囲に配置される被覆樹脂層をさらに有していてもよい。この場合の樹脂層は、例えば、金属部材と被覆樹脂層の間に配置される接着層として機能する。
すなわち、本実施形態に係る樹脂金属複合部材は、金属部材と、前記金属部材の周囲に配置される接着層と、前記接着層の周囲に配置される被覆樹脂層と、を有し、前記接着層は樹脂として熱可塑性エラストマーと、エポキシ樹脂とを含むものであってもよい。
【0089】
被覆樹脂層を構成する材料は、特に制限されない。例えば、樹脂層に含まれてもよい熱可塑性エラストマー及び熱可塑性樹脂として上述したものから選択してもよい。
【0090】
樹脂層に対する親和性の観点からは、被覆樹脂層は接着層に含まれる樹脂と同種の樹脂を含むことが好ましい。例えば、樹脂層がポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む場合は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー又はポリエステル系熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
【0091】
被覆樹脂層は、必要に応じて樹脂以外の成分を含んでいてもよい。樹脂以外の成分としては、例えば、ゴム、充填剤(シリカ、炭酸カルシウム、クレイ等)、老化防止剤、可塑剤、着色剤、耐候剤、補強材等が挙げられる。
【0092】
被覆樹脂層が樹脂以外の成分を含む場合、樹脂全体が被覆樹脂層に占める割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0093】
被覆樹脂層の厚みは、特に制限されない。例えば、10μm~1000μmの範囲であってもよく、50μm以上700μm以下の範囲であってもよい。
被覆樹脂層の平均厚みは、樹脂層の厚みと同様にして測定される。
【0094】
樹脂金属複合部材に用いる金属部材は特に制限されず、例えば、金属製のコード、金属板等を適宜用いることができる。
金属製のコードとしては、例えば、一本の金属コードからなるモノフィラメント(単線)、複数本の金属コードを撚ったマルチフィラメント(撚線)等が挙げられる。タイヤの耐久性を向上させる観点からは、金属部材はマルチフィラメントがより好ましい。
【0095】
金属部材の断面形状、サイズ(直径)等は、特に限定されるものではなく、用途に応じて適したものを用いることができる。
金属部材が複数本のコードを含むマルチフィラメントである場合、複数本のコードの数としては、例えば2本~10本が挙げられ、5本~9本が好ましい。
【0096】
樹脂金属複合部材をタイヤの補強に用いる場合、タイヤの耐内圧性と軽量化とを両立する観点からは、金属部材の太さは、0.2mm~2mmであることが好ましく、0.8mm~1.6mmであることがより好ましい。金属部材の太さは、任意に選択した5箇所において測定した太さの算術平均値とする。
【0097】
金属部材自体の引張弾性率は、通常、100000MPa~300000MPa程度であり、120000MPa~270000MPaであることが好ましく、150000MPa~250000MPaであることが更に好ましい。金属部材の引張弾性率は、引張試験機にてZWICK型チャックを用いて応力-歪曲線を描き、その傾きから算出する。
【0098】
金属部材自体の破断伸び(引張破断伸び)は、通常、0.1%~15%程度であり、1%~15%が好ましく、1%~10%が更に好ましい。金属部材の引張破断伸びは、引張試験機にてZWICK型チャックを用いて応力-歪曲線を描き、歪から求めることができる。
【0099】
<タイヤ>
本実施形態に係るタイヤは、前述の樹脂金属複合部材を備える。
樹脂金属複合部材は、例えば、タイヤを構成するタイヤ骨格体又はカーカスの外周部に周方向に巻回される補強ベルト部材、ビード部材等として用いられる。以下、本実施形態に係るタイヤを構成するタイヤ骨格体又はカーカスについて説明する。
【0100】
〔タイヤ骨格体又はカーカス〕
本開示において「カーカス(carcass)」には、従来のゴム製のタイヤにおけるいわゆるラジアルカーカス、バイアスカーカス、セミラジアルカーカス等が含まれる。カーカスは一般に、コード、繊維等の補強材がゴム材料で被覆された構造を有する。
本開示において「タイヤ骨格体(tire frame)」とは、樹脂材料で形成された骨格部材(いわゆる樹脂タイヤ用のタイヤ骨格体)を言う。
【0101】
カーカスを形成する弾性材料としては後述するゴム材料が挙げられ、タイヤ骨格体を形成する弾性材料としては後述する樹脂材料が挙げられる。
【0102】
(弾性材料:ゴム材料)
ゴム材料は、ゴム(ゴム成分)を少なくとも含んでいればよく、本実施形態の効果を損なわない範囲で、添加剤等の他の成分を含んでもよい。ただし、前記ゴム材料中におけるゴム(ゴム成分)の含有量は、ゴム材料の総量に対して、50質量%以上が好ましく、90質量%以上が更に好ましい。
【0103】
ゴム成分としては、特に限定はなく、従来より公知のゴム配合に使用される天然ゴム及び各種合成ゴムを、単独もしくは2種以上混合して用いることができる。例えば、下記に示す様なゴム、もしくはこれらの2種以上のゴムブレンドを使用することができる。
上記天然ゴムとしては、シートゴムでもブロックゴムでもよく、RSS#1~#5の総てを用いることができる。
上記合成ゴムとしては、各種ジエン系合成ゴムやジエン系共重合体ゴム及び特殊ゴムや変性ゴム等を使用できる。具体的には、例えば、ポリブタジエン(BR)、ブタジエンと芳香族ビニル化合物との共重合体(例えばSBR、NBRなど)、ブタジエンと他のジエン系化合物との共重合体等のブタジエン系重合体;ポリイソプレン(IR)、イソプレンと芳香族ビニル化合物との共重合体、イソプレンと他のジエン系化合物との共重合体等のイソプレン系重合体;クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR);エチレン-プロピレン系共重合体ゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン系共重合体ゴム(EPDM)及びこれらの任意のブレンド物等が挙げられる。
【0104】
ゴム材料は、目的に応じてゴムに添加物等の他の成分を加えてもよい。
添加物としては、例えば、カーボンブラック等の補強材、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、脂肪酸又はその塩、金属酸化物、プロセスオイル、老化防止剤等が挙げられ、これらを適宜配合することができる。
【0105】
ゴム材料で形成されるカーカスは、未加硫のゴム材料を加熱によってゴムを加硫することで得られる。
【0106】
(弾性材料:樹脂材料)
樹脂材料は、樹脂(樹脂成分)を少なくとも含んでいればよく、本実施形態の効果を損なわない範囲で、添加剤等の他の成分を含んでもよい。ただし、前記樹脂材料中における樹脂(樹脂成分)の含有量は、樹脂材料の総量に対して、50質量%以上が好ましく、90質量%以上が更に好ましい。
【0107】
樹脂材料に含まれる樹脂(樹脂成分)としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、及び熱硬化性樹脂が挙げられる。走行時の乗り心地の観点から、樹脂材料は、熱可塑性エラストマーを含むことが好ましい。
【0108】
熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーとしては、樹脂組成物に含まれてもよい熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーとして上述したものが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0109】
接着性の観点からは、タイヤ骨格体を形成する樹脂材料としては、樹脂金属複合部材に含まれる被覆樹脂層と同種の樹脂を含むものを用いることが好ましい。例えば、被覆樹脂層がポリエステル系熱可塑性樹脂又はポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む場合、タイヤ骨格体もポリエステル系熱可塑性樹脂又はポリエステル系熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
【0110】
弾性材料(ゴム材料又は樹脂材料)は、所望に応じて、ゴム又は樹脂以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、充填剤(シリカ、炭酸カルシウム、クレイ等)、老化防止剤、オイル、可塑剤、着色剤、耐候剤、補強材等が挙げられる。
【0111】
<タイヤの構造>
以下、図面に従って、本開示の実施形態に係るタイヤについて説明する。
【0112】
なお、以下に示す各図は、模式的に示した図であり、各部の大きさ及び形状は、理解を容易にするために、適宜誇張して示している。また、以下の実施形態では樹脂金属複合部材をベルト部に適用しているが、ベルト部に加えてビード部等のその他の部位に樹脂金属複合部材を適用してもよい。
【0113】
(第一の実施形態)
第一の実施形態に係るタイヤは、樹脂を含むタイヤ骨格体を備える。
図1Aは、第一の実施形態に係るタイヤの一部の断面を示す斜視図である。
図1Bは、タイヤのビード部をリム(タイヤとは別体である)に装着した状態の断面図である。
図1Aに示すように、第一の実施形態に係るタイヤ10は空気入りタイヤであり、従来の一般的なゴム製の空気入りタイヤと略同様の断面形状を呈している。
【0114】
タイヤ10は、リム20のビードシート21とリムフランジ22とに接触する1対のビード部12と、ビード部12からタイヤ径方向外側に延びるサイド部14と、一方のサイド部14のタイヤ径方向外側端と他方のサイド部14のタイヤ径方向外側端とを連結するクラウン部(外周部)16と、からなるタイヤ骨格体17を備えている。タイヤ骨格体17は、樹脂材料を用いて形成されている。
【0115】
タイヤ骨格体17は、一つのビード部12と一つのサイド部14と半幅のクラウン部16とを一体として射出成形された同一形状の円環状のタイヤ骨格体半体(タイヤ骨格片)17Aを互いに向かい合わせ、タイヤ赤道面部分で接合することにより形成されている。
【0116】
ビード部12には、スチールコードからなる円環状のビードコア18が埋設されている。また、ビード部12のリム20と接触する部分や、少なくともリム20のリムフランジ22と接触する部分には、タイヤ骨格体17を構成する樹脂材料よりもシール性に優れた材料であるゴムからなる円環状のシール層24が形成されている。
【0117】
クラウン部16には、補強コードである樹脂金属複合部材26が、タイヤ骨格体17の軸方向に沿った断面視で、少なくとも一部がクラウン部16に埋設された状態で、タイヤ骨格体17の周方向に螺旋状に巻回されている。また、樹脂金属複合部材26のタイヤ径方向外周側には、タイヤ骨格体17を構成する樹脂材料よりも耐摩耗性に優れた材料であるゴムからなるトレッド30が配置されている。なお、樹脂金属複合部材26の詳細については、後述する。
【0118】
第一の実施形態に係るタイヤ10では、タイヤ骨格体17が樹脂材料で形成されている。タイヤ骨格体半体17Aは左右対称形状、即ち、一方のタイヤ骨格体半体17Aと他方のタイヤ骨格体17Aとが同一形状であるので、タイヤ骨格体半体17Aを成形する金型が1種類で済むというメリットがある。
【0119】
なお、第一の実施形態に係るタイヤ10では、タイヤ骨格体17は、単一の樹脂材料で形成されているが、このような態様に限定されない。例えば、ゴム製の空気入りタイヤと同様に、タイヤ骨格体17の各部位(例えば、サイド部14、クラウン部16、ビード部12等)毎に異なる特徴を有する樹脂材料を用いてもよい。また、タイヤ骨格体17の各部位(例えば、サイド部14、クラウン部16、ビード部12等)に、補強材(高分子材料や金属製の繊維、コード、不織布、織布等)を埋設配置し、該補強材でタイヤ骨格体17を補強してもよい。補強材の埋設配置は、なくてもよい。
【0120】
第一の実施形態に係るタイヤ10では、タイヤ骨格体半体17Aが射出成形により成形されているが、これに限定されず、例えば、真空成形、圧空成形、メルトキャスティング等により成形されていてもよい。また、第一の実施形態に係るタイヤ10では、タイヤ骨格体17は、2つの部材(タイヤ骨格体半体17A)を接合して形成されているが、これに限定されず、低融点金属を用いた溶融中子方式、割り中子方式、又はブロー成形によってタイヤ骨格体を1つの部材としてもよく、3つ以上の部材を接合して形成されていてもよい。
【0121】
タイヤ10のビード部12には、スチールコード等の金属製のコードからなる円環状のビードコア18が埋設されている。なお、ビードコア18を含む部材として、前述の本実施形態に係る樹脂金属複合部材を用いることができ、例えばビード部12を樹脂金属複合部材で構成することができる。
また、ビードコア18は、スチールコード以外に、有機繊維コード、樹脂被覆した有機繊維コード、又は硬質樹脂で形成されていてもよい。なお、ビードコア18は、ビード部12の剛性が確保され、リム20との嵌合に問題がないのであれば、省略してもよい。
ビード部12のリム20と接触する部分や、少なくともリム20のリムフランジ22と接触する部分には、ゴムからなる円環状のシール層24が形成されている。シール層24は、タイヤ骨格体17(ビード部12)とビードシート21とが接触する部分にも形成されていてもよい。シール層24の形成材料としてゴムを用いる場合には、従来の一般的なゴム製の空気入りタイヤのビード部外面に用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。なお、タイヤ骨格体17を樹脂材料で形成する場合、ゴムのシール層24は、タイヤ骨格体17を形成する樹脂材料のみでリム20との間のシール性が確保できるのであれば、省略してもよい。
【0122】
シール層24は、タイヤ骨格体17を形成する樹脂材料よりもシール性に優れる他の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーを用いて形成されてもよい。
【0123】
次に、
図2を参照しながら、樹脂コード部材26で形成される補強ベルト部材について説明する。なお、この樹脂コード部材26に、前述の本実施形態に係る樹脂金属複合部材を用いることができる。
図2は、第一の実施形態に係るタイヤ10のタイヤ回転軸に沿った断面図であり、樹脂コード部材26がタイヤ骨格体17のクラウン部に埋設された状態を示す。
図2に示すように、樹脂コード部材26は、タイヤ骨格体17の軸方向に沿った断面視で、その少なくとも一部がクラウン部16に埋設された状態で螺旋状に巻回されている。そして、樹脂コード部材26のクラウン部16に埋設された部分は、クラウン部16(タイヤ骨格体17)を構成する樹脂材料と密着した状態となっている。
図2におけるLは、クラウン部16(タイヤ骨格体17)に対する樹脂コード部材26のタイヤ回転軸方向への埋設深さを示す。ある実施態様では、樹脂コード部材26のクラウン部16に対する埋設深さLは、樹脂コード部材26の直径Dの1/2である。
【0124】
樹脂コード部材26は、金属部材27(例えば、スチール繊維を撚ったスチールコード)を芯として、金属部材27の外周が、接着層25を介して、被覆樹脂層28で被覆された構造を有している。
樹脂コード部材26のタイヤ径方向外周側には、ゴム製のトレッド30が配置されている。また、トレッド30には、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、路面との接地面に複数の溝からなるトレッドパターンが形成されている。
【0125】
ある実施態様では、タイヤ10では、熱可塑性エラストマーを含む被覆樹脂層28で被覆した樹脂コード部材26が、同種の熱可塑性エラストマーを含む樹脂材料で形成されているタイヤ骨格体17に密着した状態で埋設されている。そのため、金属部材27を被覆する被覆樹脂層28とタイヤ骨格体17との接触面積が大きくなり、樹脂コード部材26とタイヤ骨格体17との耐久性が向上し、その結果、タイヤの耐久性が優れたものとなる。
【0126】
樹脂コード部材26がクラウン部16に埋設されている場合、樹脂コード部材26のクラウン部16に対する埋設深さLは、樹脂コード部材26の直径Dの1/5以上であれば好ましく、1/2を超えることがより好ましい。そして、樹脂コード部材26の全体がクラウン部16に埋設されることが更に好ましい。樹脂コード部材26の埋設深さLが、樹脂コード部材26の直径Dの1/2を超えると、樹脂コード部材26の寸法上、埋設部から飛び出し難くなる。そして、樹脂コード部材26の全体がクラウン部16に埋設されると、表面(外周面)がフラットになり、樹脂コード部材26が埋設されたクラウン部16上に部材が載置された場合であっても、樹脂コード部材26の周辺部に空気が入るのを抑制することができる。
【0127】
第一の実施形態に係るタイヤ10では、トレッド30がゴムで形成されているが、ゴムの代わりに、耐摩耗性に優れる熱可塑性樹脂材料で形成したトレッドを用いてもよい。
【0128】
ついで、第一の実施形態に係るタイヤの製造方法について説明する。
[タイヤ骨格体成形工程]
まず、薄い金属の支持リングに支持されたタイヤ骨格体半体同士を互いに向かい合わせる。次に、タイヤ骨格体半体の突き当て部分の外周面と接するように、接合金型を設置する。ここで、上記接合金型は、タイヤ骨格体半体の接合部(突き当て部分)周辺を所定の圧力で押圧するように構成されている(図示せず)。次に、タイヤ骨格体半体の接合部周辺を、タイヤ骨格体を形成する樹脂材料の融点(又は軟化点)以上で押圧する。タイヤ骨格体半体の接合部が接合金型によって加熱・加圧されると、上記接合部が溶融し、タイヤ骨格体半体同士が融着し、これら部材が一体となってタイヤ骨格体17が形成される。
【0129】
[樹脂コード部材成形工程]
次に、本実施形態に係る樹脂金属複合部材である樹脂コード部材成形工程について説明する。
まず、例えば、リールから金属部材27を巻出し、その表面を洗浄する。次に、金属部材27の外周を、押出機から押し出した接着層を形成する材料で被覆して、接着層25を形成する。さらにその上を押出機から押し出した樹脂で被覆することで、被覆樹脂層28を形成する。そして、得られた樹脂コード部材26をリール58に巻き取る。
【0130】
[樹脂コード部材巻回工程]
次に、
図3を参照しながら、樹脂コード部材巻回工程について説明する。
図3は、樹脂コード部材加熱装置及びローラ類を用いてタイヤ骨格体のクラウン部に樹脂コード部材を設置する動作を説明するための説明図である。
図3において、樹脂コード部材供給装置56は、樹脂コード部材26を巻き付けたリール58と、リール58のコード搬送方向下流側に配置された、樹脂コード部材加熱装置59と、樹脂コード部材26の搬送方向下流側に配置された第1のローラ60と、第1のローラ60をタイヤ外周面に対して接離する方向に移動する第1のシリンダ装置62と、第1のローラ60の樹脂コード部材26の搬送方向下流側に配置される第2のローラ64と、第2のローラ64をタイヤ外周面に対して接離する方向に移動する第2のシリンダ装置66と、を備えている。第2のローラ64は、金属製の冷却用ローラとして利用することができる。また、第1のローラ60又は第2のローラ64の表面は、溶融又は軟化した樹脂材料の付着を抑制するために、フッ素樹脂(例えば、テフロン(登録商標))でコーティングされている。以上により、加熱された樹脂コード部材は、タイヤ骨格体のケース樹脂に強固に一体化される。
【0131】
樹脂コード部材加熱装置59は、熱風を生じさせるヒーター70及びファン72を備えている。また、樹脂コード部材加熱装置59は、内部に熱風が供給される、内部空間を樹脂コード部材26が通過する加熱ボックス74と、加熱された樹脂コード部材26を排出する排出口76とを備えている。
【0132】
本工程では、まず、樹脂コード部材加熱装置59のヒーター70の温度を上昇させ、ヒーター70で加熱された周囲の空気をファン72の回転によって生じる風によって加熱ボックス74へ送る。次に、リール58から巻き出した樹脂コード部材26を、熱風で内部空間が加熱された加熱ボックス74内へ送り、加熱(例えば、樹脂コード部材26の温度を100℃~250℃程度に加熱)する。加熱された樹脂コード部材26は、排出口76を通り、
図3の矢印R方向に回転するタイヤ骨格体17のクラウン部16の外周面に、一定のテンションをもって螺旋状に巻きつけられる。ここで、加熱された樹脂コード部材26の被覆樹脂層がクラウン部16の外周面に接触すると、接触部分の樹脂材料が溶融又は軟化し、タイヤ骨格体の樹脂と溶融接合してクラウン部16の外周面に一体化される。このとき、樹脂コード部材は隣接する樹脂コード部材とも溶融接合される為、隙間のない状態で巻回される。これにより、樹脂コード部材26を埋設した部分へのエア入りが抑制される。
【0133】
樹脂コード部材26の埋設深さLは、樹脂コード部材26の加熱温度、樹脂コード部材26に作用させるテンション、及び第1のローラ60による押圧力等によって調整することができる。ある実施態様では、樹脂コード部材26の埋設深さLが、樹脂コード部材26の直径Dの1/5以上となるように設定される。
【0134】
次に、樹脂コード部材26が埋設されたタイヤ骨格体17の外周面に帯状のトレッド30を巻き付け、これを加硫缶やモールドに収容して加熱(加硫)する。トレッド30は、未加硫ゴムであっても、加硫ゴムであってもよい。
【0135】
そして、タイヤ骨格体17のビード部12に、加硫済みのゴムからなるシール層24を、接着剤等を用いて接着すれば、タイヤ10の完成となる。
【0136】
第一の実施形態に係るタイヤの製造方法では、接合金型を用いてタイヤ骨格体半体17Aの接合部を加熱したが、本実施形態はこれに限定されず、例えば、別に設けた高周波加熱機等によって上記接合部を加熱したり、予め熱風や赤外線の照射等によって軟化又は溶融させ、接合金型によって加圧したりして、タイヤ骨格体半体17Aを接合させてもよい。
【0137】
第一の実施形態に係るタイヤの製造方法では、樹脂コード部材供給装置56は、第1のローラ60及び第2のローラ64の2つのローラを有しているが、本実施形態はこれに限定されず、何れか一方のローラのみ(即ち、ローラ1個)を有していてもよい。
【0138】
第一の実施形態に係るタイヤの製造方法では、樹脂コード部材26を加熱し、加熱した樹脂コード部材26が接触する部分のタイヤ骨格体17の表面を溶融又は軟化させる態様としたが、本実施形態はこの態様に限定されず、樹脂コード部材26を加熱せずに熱風生成装置を用い、樹脂コード部材26が埋設されるクラウン部16の外周面を加熱した後、樹脂コード部材26をクラウン部16に埋設するようにしてもよい。
また、第一の実施形態に係るタイヤの製造方法では、樹脂コード部材加熱装置59の熱源をヒーター及びファンとする態様としたが、本実施形態はこの態様に限定されず、樹脂コード部材26を輻射熱(例えば、赤外線等)で直接加熱する態様としてもよい。
【0139】
さらに、第一の実施形態に係るタイヤの製造方法では、樹脂コード部材26を埋設した熱可塑性の樹脂材料が溶融又は軟化した部分を、金属製の第2のローラ64で強制的に冷却する態様としたが、本実施形態はこの態様に限定されず、熱可塑性の樹脂材料が溶融又は軟化した部分に冷風を直接吹きかけて、熱可塑性の樹脂材料の溶融又は軟化した部分を強制的に冷却固化する態様としてもよい。
樹脂コード部材26は、螺旋巻きすることが製造上は容易であるが、幅方向で樹脂コード部材26を不連続に配置する方法等も考えられる。
本実施形態のタイヤでは、樹脂コード部材26は1層のみであるが、2層以上としてもよい。
【0140】
第一の実施形態に係るタイヤの製造方法では、樹脂コード部材26が埋設されたタイヤ骨格体17の外周面に帯状のトレッド30を巻き付け、その後に加熱(加硫)する態様としたが、本実施形態はこの態様に限定されず、加硫済みの帯状のトレッドをタイヤ骨格体17の外周面に接着剤等により接着する態様としてもよい。加硫済みの帯状のトレッドとしては、例えば、更生タイヤに用いられるプレキュアトレッドが挙げられる。
【0141】
第一の実施形態に係るタイヤ10は、ビード部12をリム20に装着することでタイヤ10とリム20との間で空気室を形成する、いわゆるチューブレスタイヤであるが、本実施形態はこの態様に限定されず、完全なチューブ形状であってもよい。
【0142】
(第二の実施形態)
第二の実施形態に係るタイヤは、タイヤ骨格体に代えてカーカスを備える。
図4は、本実施形態に係るタイヤ11の構成を概略的に示す、タイヤ幅方向断面図である。
図4には、便宜のため、タイヤ11が組み付けられるリムRを、破線により示している。
【0143】
タイヤ11は、
図4に示すように、タイヤ赤道面CLに対して両側に配置される一対のビード部112と、一対のビード部112からそれぞれタイヤ径方向外側へ延びる一対のサイド部111と、前記一対のサイド部111をつなぐトレッド部110と、を備えている。一対のビード部112は、それぞれビードコア160を含んでいる。
【0144】
図4の例において、一対のビード部112に含まれるビードコア160の間には、少なくとも1層(図の例では1層)のカーカスプライを含むカーカス120が、トロイド状に延びている。カーカス120のカーカスプライは、例えば、スチール製又は有機繊維製等のコードがゴムにより被覆された構成を有する。
【0145】
図4の例において、カーカス120は、一対のビードコア160の間をトロイド状に延びる本体部120aと、タイヤ赤道面CLに対する両側のそれぞれにおいて、本体部120aのタイヤ径方向最内端から、ビードコア160の周りでタイヤ幅方向外側に向けて折り返された、一対の折り返し部120bと、を含んでいる。
【0146】
図4の例において、トレッド部110及びサイド部111の内側には、タイヤの空気漏れを防ぐためのインナーライナー180が配置されている。さらに、トレッド部110の、カーカス120のクラウン域よりもタイヤ径方向外側には、少なくとも1層(図の例では1層)のベルト層からなるベルト130が配置されている。ベルト層は、例えば、樹脂で被覆された補強コードをベルト層を形成する部分に巻きつけて形成される。
【0147】
図4の例において、ビード部112には、ビードフィラー170と、ビードフィラー170のタイヤ径方向内側に位置し、スチールコード等の金属製のコードを含むビードコア160とから構成されるビード部材150が配置されている。
図4の例では、ビード部材150は、ゴム140内に埋設されている。
【0148】
図4の例において、ベルト130及びビードコア160は、それぞれ前述の実施形態に係る樹脂金属複合部材を用いて形成されてもよい。この場合、ベルト130及びビードコア160のいずれか一方が前述の実施形態に係る樹脂金属複合部材を用いて形成されてもよく、双方が前述の実施形態に係る樹脂金属複合部材を用いて形成されてもよい。
【0149】
以上、各種実施形態を挙げて説明したが、これらの実施形態は一例であり、本開示は、その要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加えて実施することができる。また、本開示の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0150】
本開示には、以下に示す態様のタイヤが含まれる。
<1>樹脂として熱可塑性エラストマー及びエポキシ樹脂と、シアヌル酸亜鉛とを含む樹脂組成物。
<2>前記シアヌル酸亜鉛の樹脂組成物全体における含有率は0.1質量%~5質量%である、に対して<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記エポキシ樹脂の樹脂組成物全体における含有率は15質量%以下である、<1>又は<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記エポキシ樹脂の樹脂組成物全体における含有率は1質量%以上である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
<5>前記エポキシ樹脂のエポキシ当量は100g/eq~300g/eqである、<1>~<4>のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
<6>前記エポキシ樹脂の樹脂組成物全体における含有率をA(質量%)、前記エポキシ樹脂のエポキシ当量をB(g/eq)としたときのA/Bの値が0.003~0.15である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
<7>前記熱可塑性エラストマーがポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
<8>樹脂として熱可塑性樹脂をさらに含む、<1>~<7>のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
<9>樹脂全体の重量平均分子量が40,000以上である、<1>~<8>のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
<10>金属部材と、前記金属部材の周囲に配置される樹脂層と、を有し、前記樹脂層は<1>~<9>のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる、樹脂金属複合部材。
<11><10>に記載の樹脂金属複合部材を備えるタイヤ。
<12>前記樹脂金属複合部材が、前記タイヤの補強ベルト部材及びビード部材の少なくとも一方に含まれる、<11>に記載のタイヤ。
【実施例】
【0151】
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0152】
<樹脂組成物の調製>
表1に記載の材料を表1に示す量(質量部)で混合して、樹脂組成物を調製した。表1に示す材料の詳細は、下記の通りである。得られた樹脂組成物に対し、(1)~(3)の評価を実施した結果を表1に示す。
【0153】
TPC1…ポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レ・デュポン社製、「ハイトレル6367」)
TPC2…ポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レ・デュポン社製、「ハイトレル7247」)
TPC3…ポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レ・デュポン社製、「ハイトレル6377」)
TPC4…無水マレイン酸基を含有するポリエステル系熱可塑性エラストマー(三菱ケミカル(株)製、「プリマロイGQ741」、無水マレイン酸基当量:約9.5×10-5eq/g)
PBT…ポリブチレンテレフタレート(東レ(株)製、「トレコン1401X06」)
エポキシ樹脂1…下記式(A)で示されるエポキシ樹脂(日本化薬(株)製、「XD-1000」、エポキシ当量245g/eq~260g/eq、軟化点68℃~78℃)
エポキシ樹脂2…下記式(B)で示されるエポキシ樹脂(日本化薬(株)製、「NC-7000L」、エポキシ当量223g/eq~238g/eq、軟化点83℃~93℃)
添加剤…シアヌル酸亜鉛(日産化学(株)製、「スターファインF-10」)
【0154】
【0155】
調製した樹脂組成物の引張弾性率、黄銅剥離力及び重量平均分子量を、下記の手法で測定した。結果を表1に示す。
【0156】
(1)引張弾性率
引張弾性率の測定は、JIS K7113:1995に準拠して行う。具体的には、例えば、A&D社製、テンシロンRTF-1210(1KN)を用い、引張速度を100mm/minに設定し、樹脂組成物の引張弾性率(単位:MPa)の測定を行う。
なお、樹脂組成物の引張弾性率は、樹脂組成物と同じ材料の測定試料を別途準備して弾性率を測定してもよい。具体的には、射出成形にて樹脂組成物で形成した厚さ2mmの板を作製し、JIS3のダンベル試験片を打ち抜いた測定サンプルを用意し、引張弾性率の測定を行ってもよい。
【0157】
(2)黄銅剥離力
樹脂組成物の金属部材に対する接着力は、剥離試験により行う。具体的には、樹脂組成物からなる樹脂板と、黄銅(Cu/Zn=65/35)からなる幅20mmの試験片とを用意し、230℃のプレス機で樹脂板を溶融し試験片に圧着させて積層体を作製する。この積層体を用いて、引張試験機として島津製作所社製の島津オートグラフAGS-J(5KN)を用い、室温環境(25℃)で引張速度100mm/minで180°剥離試験を行って、剥離力(単位:N)を測定する。得られた測定値を、実施例1の測定値を100とした指数に変換する。
【0158】
(3)重量平均分子量
重量平均分子量(Mw)はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)におけるポリスチレン換算にて算出する。具体的には、樹脂組成物をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)等の溶媒に溶解後、不溶分をフィルターでろ過し、GPCにより基準物質からの相対分子量として導出する。測定機器としては東ソー社製のECOSEC(HLC-8320GPC)を用い、溶媒としてはHFIPを用いる。
【0159】
(4)耐亀裂性
実施例1と比較例1で得た樹脂組成物を用いて形成した接着層を備える樹脂金属複合部材、及びこの樹脂金属複合部材をクラウン部に配置したタイヤを作製し、接着層の耐亀裂性の評価を行った。
具体的には、平均直径φ1.15mmのマルチフィラメント(φ0.35mmのモノフィラメント(スチール製、強力:280N、伸度:3%)7本を撚った撚り線)と、接着層形成用の樹脂組成物と、被覆樹脂層形成用のポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レ・デュポン社製、「ハイトレル5557」)とを用いて、マルチフィラメントの周囲に接着層及び被覆樹脂層がこの順に形成されたコード状の樹脂金属複合部材を押出成形により作製する。接着層の厚みは1μm~500μm、被覆樹脂層の厚みは10μm~1000μmとなるようにそれぞれ調整する。
【0160】
作製した樹脂金属複合部材をクラウン部に巻回してゴムタイヤ(サイズ:225/40R18)を作製し、25±2℃の室内中で内圧3.0kg/cm2に調整した後、24時間放置した。その後、空気圧の再調整を行い、1010Kgの荷重をタイヤに負荷し、直径約3mのドラム上で速度60km/時で6000km走行させた。走行後のタイヤを径方向に沿って切断し、接着層の断面を光学顕微鏡で観察して亀裂の発生の状態を調べた。
【0161】
試験の結果、比較例1では走行試験後の接着層における亀裂の数が断面あたり5個以上であったのに対し、実施例1では走行試験後の接着層における亀裂の数が断面あたり5個未満であった。
【0162】
【0163】
表1において、実施例2の重量平均分子量は予測値である。
以上の結果に示すように、エポキシ樹脂とシアヌル酸亜鉛を含む実施例の樹脂組成物は、エポキシ樹脂とシアヌル酸亜鉛のいずれも含まない比較例1及び比較例2の樹脂組成物、及び、エポキシ樹脂を含むがシアヌル酸亜鉛を含まない比較例3の樹脂組成物に比べて優れた黄銅剥離力を示す。また、タイヤの樹脂金属複合体の接着層として用いた場合に優れた耐亀裂性を示す。
【0164】
日本国特許出願第2019-224542号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。