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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】傾動式重力鋳造装置、傾動式重力鋳造法
(51)【国際特許分類】
   B22D 23/00 20060101AFI20240613BHJP
   B22C 9/06 20060101ALI20240613BHJP
   B22D 18/02 20060101ALI20240613BHJP
   B22D 18/06 20060101ALI20240613BHJP
   B22D 27/08 20060101ALI20240613BHJP
   B22D 27/09 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B22D23/00 A
B22C9/06 A
B22C9/06 P
B22D18/02 B
B22D18/02 C
B22D18/02 V
B22D18/02 X
B22D18/06 509P
B22D23/00 H
B22D27/08
B22D27/09 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022114532
(22)【出願日】2022-07-19
(65)【公開番号】P2024012802
(43)【公開日】2024-01-31
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006943
【氏名又は名称】リョービ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003742
【氏名又は名称】弁理士法人海田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100128749
【弁理士】
【氏名又は名称】海田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】松村 正博
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-268082(JP,A)
【文献】特開2001-225161(JP,A)
【文献】特開2004-001074(JP,A)
【文献】特開昭62-296946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 1/00-47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型にラドルを備え、当該ラドルに溶湯を溜め、前記金型が傾けられたときに湯道を介して当該金型のキャビティに溶湯を注ぐとともに、前記キャビティに充填された溶湯を加圧ピンによって加圧することで鋳造品を得る傾動式重力鋳造装置において、
前記キャビティ内から空気を吸引することで真空引きを行う真空吸引部を備え、
前記真空吸引部は、溶湯が充填された状態の前記キャビティを真空引きするときに、前記キャビティ内に残留した空気のみを吸引するとともに、前記キャビティ内の溶湯は吸引せず、また、
前記金型には、鋳抜きピンと、前記鋳抜きピンを囲むように設けられたスリーブ押しピンと、が設置されており、
前記鋳抜きピンと前記スリーブ押しピンの間には、前記キャビティ内から外部に向けて空気を流通させるとともに溶湯の流通を阻害する流通溝が形成されており、
前記真空吸引部は、前記流通溝を介して前記キャビティの真空引きを行うことを特徴とする傾動式重力鋳造装置。
【請求項2】
請求項に記載の傾動式重力鋳造装置であって、
前記金型を構成する可動型又は固定型のいずれか一方に対して前記加圧ピンが設置され、
前記金型を構成する可動型又は固定型のいずれか他方に対して前記鋳抜きピンが設置され、
前記加圧ピンと前記鋳抜きピンが対向配置されることで、前記加圧ピンの加圧方向と、前記鋳抜きピンと前記スリーブ押しピンの間に形成された前記流通溝からの真空引きの方向とが、略平行方向であることを特徴とする傾動式重力鋳造装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の傾動式重力鋳造装置であって、
前記流通溝は、前記鋳抜きピンの周面に形成された複数の溝であることを特徴とする傾動式重力鋳造装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の傾動式重力鋳造装置を用いて鋳造することを特徴とする傾動式重力鋳造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾動式重力鋳造装置と、この傾動式重力鋳造装置を用いて鋳造する際に実行される傾動式重力鋳造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、開閉可能な一対の金型内に形成されたキャビティ内に溶解した金属溶湯を射出注入し、当該金属溶湯を冷却固化させることで鋳造品を成形する鋳造装置が公知である。この種の鋳造装置については、種々の形式のものが存在しているが、例えば、下記特許文献1には、金型に湯溜り(ラドル)を備え、この湯溜りに溶湯を溜め、金型が傾けられたときに湯道を介して金型のキャビティへ溶湯を注ぐ傾動式重力鋳造装置が開示されている。この傾動式重力鋳造装置を用いて行われる鋳造法は、金型を繰り返し使用できるため、高い生産性と良好な製品精度を得られる利点を有している。また、この鋳造法では、高速で溶湯を流し込むことはなく、金型に対して十分に水冷を効かせることができる。したがって、冷却速度を比較的早くすることができ、例えば、結晶粒の微細化を図って機械的性質に優れた鋳造品を製造できるなど、種々の利点を享受することのできる鋳造法となっている。
【0003】
また、この種の傾動式重力鋳造装置の中には、鋳造品の内部に巣が発生することを抑制するために、鋳造時に発生するガスを真空吸引する機構を有する傾動式重力鋳造装置が存在していた(例えば、下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-193099号公報
【文献】特開2004-268082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上掲した特許文献2に代表される従来の傾動式重力鋳造装置については、より確実な真空吸引を実行することで、鋳造品の内部品質の更なる向上を図りたいとする要請が産業界において存在していた。そのため、傾動式重力鋳造装置については、品質向上のための新たな機構の提案が求められていた。
【0006】
本発明は、上述した産業界における要請に鑑みて成されてものであって、その目的は、より確実な真空吸引を実行することで、鋳造品の内部品質の更なる向上を図ることのできる傾動式重力鋳造装置と、この傾動式重力鋳造装置を用いて鋳造する際に実行される傾動式重力鋳造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照番号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0008】
本発明に係る傾動式重力鋳造装置(1)は、金型(2)にラドル(7)を備え、当該ラドル(7)に溶湯(M)を溜め、前記金型(2)が傾けられたときに湯道(5)を介して当該金型(2)のキャビティ(6)に溶湯(M)を注ぐとともに、前記キャビティ(6)に充填された溶湯(M)を加圧ピン(23)によって加圧することで鋳造品(C)を得る傾動式重力鋳造装置(1)であって、前記キャビティ(6)内から空気を吸引することで真空引きを行う真空吸引部(41)を備え、前記真空吸引部(41)は、溶湯(M)が充填された状態の前記キャビティ(6)を真空引きするときに、前記キャビティ(6)内に残留した空気のみを吸引するとともに、前記キャビティ(6)内の溶湯は吸引せず、また、前記金型(2)には、鋳抜きピン(31)と、前記鋳抜きピン(31)を囲むように設けられたスリーブ押しピン(32)と、が設置されており、前記鋳抜きピン(31)と前記スリーブ押しピン(32)の間には、前記キャビティ(6)内から外部に向けて空気を流通させるとともに溶湯(M)の流通を阻害する流通溝(31a)が形成されており、前記真空吸引部(41)は、前記流通溝(31a)を介して前記キャビティ(6)の真空引きを行うことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係る傾動式重力鋳造装置(1)では、前記金型(2)を構成する可動型(4)又は固定型(3)のいずれか一方に対して前記加圧ピン(23)が設置され、前記金型(2)を構成する可動型(4)又は固定型(3)のいずれか他方に対して前記鋳抜きピン(31)が設置され、前記加圧ピン(23)と前記鋳抜きピン(31)が対向配置されることで、前記加圧ピン(23)の加圧方向と、前記鋳抜きピン(31)と前記スリーブ押しピン(32)の間に形成された前記流通溝(31a)からの真空引きの方向とが、略平行方向であることとすることができる。
【0011】
さらに、本発明に係る傾動式重力鋳造装置(1)において、前記流通溝(31a)は、前記鋳抜きピン(31)の周面に形成された複数の溝であることとすることができる。
【0012】
なお、本発明は、上述した傾動式重力鋳造装置(1)を用いて鋳造することを特徴とする傾動式重力鋳造法を含むものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より確実な真空吸引を実行することで、従来技術に比べて鋳造品の内部品質の更なる向上を図ることのできる傾動式重力鋳造装置と、この傾動式重力鋳造装置を用いて鋳造する際に実行される傾動式重力鋳造法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置の縦断面を示す図である。
図2】本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置が備える遮断部材を示した外観斜視図である。
図3図1の状態から金型を傾けて遮断部材で湯口を遮断した状態を示す図である。
図4図3の状態から更に金型を傾けて加圧ピンで溶湯を加圧している状態を示す図である。
図5】金型傾動工程が完了した状態を示す図である。
図6】本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置が備える鋳抜きピンとスリーブ押しピンの概略構成を示す模式図である。
図7図6で示した鋳抜きピンの具体的な形状を説明するための縦断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
まず、図1図5を用いて、本発明の一実施形態に係る傾動式重力鋳造装置1の基本的な構成を説明する。ここで、図1は、本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置の縦断面を示す図である。また、図2は、本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置が備える遮断部材を示した外観斜視図である。さらに、図3は、図1の状態から金型を傾けて遮断部材で湯口を遮断した状態を示す図であり、図4は、図3の状態から更に金型を傾けて加圧ピンで溶湯を加圧している状態を示す図であり、図5は、金型傾動工程が完了した状態を示す図である。
【0017】
図1に示されるように、本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置1は、下側の固定型3と上側の可動型4とから構成される金型2を備えており、一対の金型2である固定型3と可動型4とによって湯道5とキャビティ6を画成している。本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置1においては、可動型分割面4Aに形成された溝4Bと、固定型分割面3Aとにより湯道5が画成されている。固定型3にはラドル7が固定されており、このラドル7にアルミニウム合金等の溶湯Mが溜められている。
【0018】
固定型3はベース8の上面8aに固定されている。ガイド軸9の下端がベース8に固定され、ガイド軸9の上端がトッププレート10に固定されている。トッププレート10の上面10aには油圧シリンダ11が固定されており、トッププレート10を貫通したシリンダロッド12の先端がトッププレート10の下方に配設された可動プレート13に連結されている。油圧シリンダ11が駆動されると、可動プレート13はガイド軸9にガイドされてベース8とトッププレート10の間を図1の紙面上下方向に移動可能となっている。可動プレート13の下側には連結部材14が設けられ、この連結部材14によって可動プレート13と可動型4が連結されている。したがって、可動型4は可動プレート13とともにベース8とトッププレート10の間を図1の紙面上下方向に移動可能となっている。
【0019】
本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置1は、不図示の傾動機構を備えている。傾動機構は公知の構成であり、ベース8に設けられ、図1の紙面の表と裏を結ぶ方向に延出する不図示の傾動軸と、傾動軸を支持する不図示の支持アームと、この支持アームに取り付けられている不図示の傾動駆動手段とを備えている。不図示の傾動機構により、ベース8および金型2は、図1に示す水平状態から、符号αで示す矢印の方向に所定スピードで傾動することができるように構成されており、その傾動範囲は略90度の角度範囲となっている。
【0020】
可動型4の上面4aには油圧シリンダ15が固定されている。油圧シリンダ15のシリンダロッド16は、可動型4に形成された穴部4b内においてカップリング17により遮断部材18と連結されている。図2に示すように、遮断部材18はカップリング17内に収容される円柱状の頭部18aと、四角柱状の軸部18bとを備えている。遮断部材18は湯道5の出口5Aに比較的近い位置に配置されており、軸部18bの先端面は可動型4の溝4Bと固定型分割面3Aとともに湯道5を画成している。また、固定型3における遮断部材18の先端面に対向する位置には、凹部3Bが形成されており、この凹部3Bは遮断部材18の先端形状に対応した形状に形成されている。そして、油圧シリンダ15が駆動されると、軸部18bの先端面は湯道5内に侵入して固定型3に形成された凹部3Bに嵌まり込むことで、湯道5を遮断するように構成されている。
【0021】
ベース8の下面8bには、支持棒19によって加圧用油圧シリンダ20が固定されている。加圧用油圧シリンダ20のシリンダロッド21は、連結プレート22を介して加圧ピン23に連結されている。この加圧ピン23はベース8を貫通し、固定型3に形成された孔3a内に配置されている。この孔3aはキャビティ6に対して導通するように形成されているので、加圧用油圧シリンダ20が駆動されると、加圧ピン23の先端はキャビティ6内に侵入し、加圧ピン23がキャビティ6内の溶湯Mを加圧するように構成されている。
【0022】
可動型4には、鋳抜きピン31と、鋳抜きピン31を囲むように設けられたスリーブ押しピン32と、が設置されている。鋳抜きピン31は、キャビティ6の内部に突き出した状態で固定された部材であり、湯道5内とキャビティ6内で凝固した溶湯M(図5における鋳造品Cに相当)に穴形状などを設けるために用いられる。一方、スリーブ押しピン32は、固定された鋳抜きピン31に摺接された状態で軸方向に移動することが可能となっている。したがって、可動型4を固定型3から離間させた後に、スリーブ押しピン32で湯道5内とキャビティ6内で凝固した溶湯M(図5における鋳造品Cに相当)を押出すことで、鋳造品Cを金型2から取り出すことが可能となっている。なお、図1等で示した鋳抜きピン31とスリーブ押しピン32は、1組のみが示されているが、本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置1の金型2(固定型3および/又は可動型4)に対しては、鋳抜きピン31とスリーブ押しピン32を複数組設けることが可能である。
【0023】
また、本実施形態では、1組の鋳抜きピン31とスリーブ押しピン32に対して真空吸引部41が接続されている。真空吸引部41は、鋳抜きピン31とスリーブ押しピン32の箇所から空気を吸引することができるようになっており、キャビティ6における鋳抜きピン31とスリーブ押しピン32が設置された箇所から真空引きができるように構成されている。
【0024】
以上、本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置1の基本的な構成についての説明を行った。次に、図6および図7を参照図面に加えることで、本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置1が実行可能な真空引きの機構についての説明を行う。ここで、図6は、本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置が備える鋳抜きピン31とスリーブ押しピン32の概略構成を示す模式図である。また、図7は、図6で示した鋳抜きピン31の具体的な形状を説明するための縦断面模式図である。
【0025】
図6に示すように、本実施形態の鋳抜きピン31は、先端部分がキャビティ6の内部に突出するように設けられており、この鋳抜きピン31の先端部分が溶湯Mに接触して鋳造品Cに穴形状を形成する。一方、鋳抜きピン31の外周面の全周を覆うようにして摺接可能に設けられるスリーブ押しピン32は、その先端部分がキャビティ6の形成面に沿って配置されており、鋳造品Cの形状に影響を及ぼすことがないように配置されている。なお、本実施形態では、1組の鋳抜きピン31とスリーブ押しピン32が可動型4に配置された状態が示されている。
【0026】
スリーブ押しピン32の反キャビティ側の端部から端面にかけて、前側ピン板33と後側ピン板34が配置されている。さらに、後側ピン板34の反キャビティ側には、真空引き用取付部35が配置されている。
【0027】
上述したように、鋳抜きピン31とスリーブ押しピン32は、固定設置された鋳抜きピン31に対してスリーブ押しピン32が鋳抜きピン31の軸方向で摺接移動可能となっている。また、鋳抜きピン31には、図7で示すように、周面に対して12本の溝が形成されている。この溝は、キャビティ内から外部に向けて空気を流通させるための流通溝31aとなっている。そして、この流通溝31aは、図6に示すように、鋳抜きピン31とスリーブ押しピン32の間から、スリーブ押しピン32の反キャビティ側の端面に向けて抜けており、また、鋳抜きピン31と後側ピン板34との間の第1隙間31b、鋳抜きピン31と真空引き用取付部35との間の第2隙間31cへと続いており、さらに、真空引き用取付部35に形成された導通穴35aから真空吸引部41へと接続されている。したがって、真空吸引部41が空気を吸引すると、その空気はキャビティ6から流通溝31a、第1隙間31b、第2隙間31cを経由して、導通穴35aから真空引きされていくこととなる。
【0028】
なお、本実施形態の流通溝31aについては、真空吸引部41が溶湯Mの充填された状態のキャビティ6を真空引きするときに、キャビティ6内に残留した空気のみを吸引するとともに、キャビティ6内の溶湯Mは吸引しないように構成されている。この構成の条件としては、例えば、流通溝31aの大きさを、鋳抜きピン31の周面に形成された幅7.33mm×深さ0.15mmMAXの溝として形成することができる。なお、この条件が適用されている鋳抜きピン31の径寸法は、φ85mmとなっている。この様な条件値で本実施形態の流通溝31aを形成することで、真空吸引部41が真空引きを行った際に、キャビティ6内に残留した空気のみを吸引できるとともに、キャビティ6内の溶湯Mは吸引しないようにすることができる。ただし、本発明の範囲は前記の条件に限定されるものではない。例えば、本発明の流通溝の本数については、12本以外の本数としてもよい。また例えば、本発明の流通溝の大きさについては、上述した数値以外の寸法を有する溝として形成することができる。
【0029】
また、真空吸引部41が真空引きを行う箇所、すなわち、流通溝31aが形成される箇所については、キャビティ6の空隙形状が変化する形状変化点の近傍位置に配置することが好ましい。キャビティ6の空隙形状が変化する形状変化点の位置は、溶湯Mが澱んで十分に充填されず、巣などの内部欠陥が発生しやすい箇所である。そのような箇所に対して流通溝31aを配置することで、キャビティ6内の全ての領域に溶湯Mが満遍なく行きわたるので、溶湯Mが冷却固化した後の鋳造品Cの内部品質を向上させることが可能となる。
【0030】
さらに、本実施形態では、金型2を構成する固定型3に対して加圧ピン23が設置され、金型2を構成する可動型4に対して鋳抜きピン31が設置されているが、加圧ピン23と鋳抜きピン31を対向配置させることで、加圧ピン23の加圧方向と、鋳抜きピン31とスリーブ押しピン32の間に形成された流通溝31aからの真空引きの方向とを、略平行方向とすることが好ましい。溶湯Mに対して、加圧ピン23から加圧する方向の力と、真空吸引部41から流通溝31aを介して真空吸引する方向の力を平行方向にし、さらには重畳させることで、溶湯Mがキャビティ6に充填される際の力を最適化することができるので、溶湯Mが冷却固化した後の鋳造品Cの内部品質を更に向上させることが可能となる。
【0031】
以上、主に図6および図7を参照して、本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置1が実行可能な真空引きの機構についての説明を行った。次に、図1図7を参照して、本実施形態に係る傾動式重力鋳造装置1を用いて鋳造品を得る際に実行される傾動式重力鋳造法についての説明を行う。
【0032】
本実施形態に係る傾動式重力鋳造法においては、まず、ラドル7内に溶湯Mを溜める溶湯準備工程を行い、図1に示す状態とする。
【0033】
次に、図1に示す状態から、符号αで示す矢印の方向に金型2を略90°傾けてラドル7内の溶湯Mが湯道5を介してキャビティ6に注がれる金型傾動工程を開始する。金型2は、不図示の傾動機構によって所定スピードで傾動していく。この金型傾動工程の開始によって金型2が傾くと、ラドル7内の溶湯Mは湯道5を介してキャビティ6内に注がれる。図3に示すように、金型傾動工程の初期のタイミングにおいて溶湯Mが湯道5を閉鎖するような状態になったとしても、湯道5の入口から出口5Aに亘って形成された不図示のガス抜き溝によりキャビティ6内のガスは湯道5を介して外部に排出される。また、この金型傾動工程においては、湯道5を介してだけでなく、上述した鋳抜きピン31とスリーブ押しピン32の間に形成された流通溝31a等を介してガス抜きを行ってもよい。
【0034】
金型傾動工程が完了するまでの間に、湯道遮断工程と真空引き工程と加圧工程とが実行される。まず、図3に示すように、金型2が略45°傾いてキャビティ6が溶湯Mで満たされた後のタイミングにおいて、油圧シリンダ15を駆動し、遮断部材18を湯道5内に侵入させ、遮断部材18の先端面を固定型分割面3Aに近接させて凹部3Bに嵌め込み、湯道5を遮断する湯道遮断工程を行う。
【0035】
湯道遮断工程により湯道5が遮断部材18により遮断された後、従来技術であれば、加圧用油圧シリンダ20を駆動して加圧ピン23をキャビティ6内に侵入させる加圧工程が開始されるが(図4参照)、本実施形態では、この加圧工程の直前から、真空吸引部41が溶湯Mの充填された状態のキャビティ6を真空引きする真空引き工程が開始される。真空引き工程は、真空吸引部41の駆動が開始されることで、真空吸引部41が空気を吸引し、その空気はキャビティ6から流通溝31a、第1隙間31b、第2隙間31cを経由して、導通穴35aから真空引きされていくこととなる。真空引き工程が後述する加圧工程の直前から開始されることで、キャビティ6内に充填された溶湯Mをキャビティ6の全域に呼び込む作用が発揮されることになる。また、真空引き工程は、後述する加圧工程が開始され、完了するまでの間、あるいはそれ以降の時間帯も、継続して実行することができる。
【0036】
真空引き工程が開始された直後から、加圧用油圧シリンダ20を駆動して加圧ピン23をキャビティ6内に侵入させる加圧工程が開始される(図4参照)。このように金型傾動工程が完了するまでの所定タイミングにおいて湯道5を遮断した状態でキャビティ6の溶湯Mを真空引きしながら加圧ピン23で加圧する加圧工程を開始することにより、凝固収縮により金型2から離れようとするキャビティ6内の溶湯Mの表面層を金型2に押しつけることができる。また、凝固収縮分の溶湯Mを加圧補充することができ、鋳造品C(図5参照)の主要部でヒケ巣等の鋳造欠陥が生じることを充分に防ぐことができる。特に、本実施形態では、真空吸引部41が真空引きを行う箇所、すなわち、流通溝31aが形成される箇所については、キャビティ6の空隙形状が変化する形状変化点の近傍位置に配置されているので、キャビティ6内での溶湯Mの加圧補充が好適に実行されることとなる。なお、加圧工程が完了した後も傾動は継続され、図1の状態から略90°傾いた図5に示す状態になると傾動が停止され、金型傾動工程が完了する。その後、加圧工程と真空引き工程についても、順次終了する。
【0037】
金型傾動工程が完了し、不図示の金型冷却手段によりキャビティ6内の溶湯Mが凝固したら、型開き工程が実行される。型開き工程では、まず、加圧用油圧シリンダ20を駆動させてキャビティ6内から加圧ピン23を後退させる動作が実行される。続いて、油圧シリンダ15を駆動させて遮断部材18を後退させる動作が実行される。その後、油圧シリンダ11を駆動し、可動プレート13と共に可動型4を図5の右方向に移動させ、可動型4を固定型3から離間させる。そして、可動型4に設けられたスリーブ押しピン32等で鋳造品Cを押し出して可動型4から取り出す鋳造品取出し工程と、湯道5やキャビティ6に離型剤を塗布する離型剤塗布工程と、油圧シリンダ11を駆動し、可動プレート13と共に可動型4を図5の左方向に移動させ、可動型4を固定型3に当接させる型締め工程とを順次行う。最後に、不図示の傾動機構によって金型2を図1の状態に復帰させる復帰工程が実行される。復帰工程の完了により、再度の傾動式重力鋳造の実施が可能となる。以上で説明した内容が、本実施形態に係る傾動式重力鋳造法である。
【0038】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0039】
例えば、上述した実施形態では、加圧工程の直前から真空引き工程が開始される場合を例示して説明したが、本発明に係る傾動式重力鋳造法では、加圧工程と真空引き工程を同時に開始してもよい。
【0040】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0041】
1 傾動式重力鋳造装置、2 金型、3 固定型、3a 孔、3A 固定型分割面、3B 凹部、4 可動型、4a 上面、4b 穴部、4A 可動型分割面、4B 溝、5 湯道、5A 出口、6 キャビティ、7 ラドル、8 ベース、8a 上面、8b 下面、9 ガイド軸、10 トッププレート、10a 上面、11 油圧シリンダ、12 シリンダロッド、13 可動プレート、14 連結部材、15 油圧シリンダ、16 シリンダロッド、17 カップリング、18 遮断部材、18a 頭部、18b 軸部、19 支持棒、20 加圧用油圧シリンダ、21 シリンダロッド、22 連結プレート、23 加圧ピン、31 鋳抜きピン、31a 流通溝、31b 第1隙間、31c 第2隙間、32 スリーブ押しピン、33 前側ピン板、34 後側ピン板、35 真空引き用取付部、35a 導通穴、41 真空吸引部、M 溶湯、C 鋳造品。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7