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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】はんだ組成物および電子基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/363 20060101AFI20240613BHJP
   H05K 3/34 20060101ALI20240613BHJP
   B23K 35/26 20060101ALN20240613BHJP
   C22C 13/00 20060101ALN20240613BHJP
【FI】
B23K35/363 C
B23K35/363 E
H05K3/34 512C
B23K35/26 310A
C22C13/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022124745
(22)【出願日】2022-08-04
(65)【公開番号】P2023036536
(43)【公開日】2023-03-14
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2021143444
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗川 裕里加
(72)【発明者】
【氏名】木造 理萌子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 忠宏
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 市朗
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-006687(JP,A)
【文献】特開2019-171467(JP,A)
【文献】特開2015-145476(JP,A)
【文献】特開2017-064761(JP,A)
【文献】特許第6928296(JP,B1)
【文献】特開2020-055035(JP,A)
【文献】特開2017-064758(JP,A)
【文献】特開2016-026882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/363
H05K 3/32 - 3/34
C23G 1/00 - 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、および(D)溶剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、
前記(A)成分が、重合ロジン(但し、軟化点が138℃であり、酸価が145mgKOH/gである重合ロジンを除く)を含有し、
前記(B)成分が、(B1)ジカルボン酸、および(B2)芳香族カルボン酸からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、
前記(C)成分が、(C1)分子量が400未満であるか、または、水酸基当量が350以下であるアマイド系チクソ剤、(C2)水酸基当量が350以下であるグリセロール系チクソ剤からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、
前記(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であり、
前記重合ロジンの配合量が、前記(A)成分に対して、30質量%超であり、
前記(B1)成分および前記(B2)成分の配合量の合計が、前記(B)成分100質量%に対して、85質量%以上であり、
前記(C1)成分および前記(C2)成分の配合量の合計が、前記(C)成分100質量%に対して、85質量%以上である、
はんだ組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のはんだ組成物において、
前記(B1)成分は、炭素数が4以上12以下であるジカルボン酸であり、
前記(B2)成分は、1分子中に水酸基およびアミノ基を有するか、または、1分子中に複素環を有する芳香族カルボン酸である、
はんだ組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のはんだ組成物において、
前記(B)成分は、前記(B1)成分および前記(B2)成分の両方を含有する、
はんだ組成物。
【請求項4】
請求項1に記載のはんだ組成物において、
前記(C1)成分が、1分子中に水酸基を有するビスアマイド系チクソ剤である、
はんだ組成物。
【請求項5】
請求項1に記載のはんだ組成物において、
前記(C)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、3質量%以上12質量%以下である、
はんだ組成物。
【請求項6】
請求項3に記載のはんだ組成物において、
前記(B)成分が、前記(B1)成分として、コハク酸およびグルタル酸のうちの少なくとも1つと、前記(B2)成分として、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸およびピコリン酸のうちの少なくとも1つとの両方を含む、
はんだ組成物。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のはんだ組成物を用いてはんだ付けを行う電子基板の製造方法であって、
電子基板上に、前記はんだ組成物を塗布する工程と、
前記はんだ組成物上に電子部品を配置する工程と、
リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品を前記電子基板に実装する工程と、
水系洗浄剤を用いて、前記電子基板上のフラックス残さを洗浄する工程と、を備える、
電子基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ組成物および電子基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
はんだ組成物は、はんだ粉末にフラックス組成物(ロジン系樹脂、活性剤および溶剤など)を混練してペースト状にした混合物である(特許文献1参照)。
はんだ組成物を用いてはんだ付けを行うと、はんだ付け後、接合部周辺にフラックス残さが残留する。この残さには活性剤成分などが含まれ、特に結露などによって電極間をまたぐように分布する残さ中に水分が侵入することでイオンマイグレーションを引き起こす懸念がある。また、表面にフラックス残さが存在することで、モールド工程またはコーティング工程で不良、或いはワイヤボンディングの接合不良を引き起こす場合がある。そこで、接合後にこの残さを洗浄によって除去することが望ましい。
【0003】
従来は、洗浄力の高い有機溶剤を主成分とする洗浄剤などを用いた洗浄が行われてきた。しかし、溶剤分が多いことで、水質汚染、火災および大気汚染などの防止の観点、また労働衛生上の観点から規制が強化されている。
そこで、近年は、溶剤使用量を減らし、水を主成分とする水系洗浄剤が用いられるようになった。そのため、洗浄剤成分が変化したことにより、フラックス残さの洗浄性は悪化傾向にあり、問題となっている。
一方で、高密度実装対応のため、印刷性の要求が高まっている。印刷性向上、すなわち印刷時のだれ防止のためにチクソ剤などを多く用いたフラックスは、フラックス残さの洗浄性が悪化傾向にある。以上のように、水系洗浄剤でのフラックス残さの洗浄性に優れ、印刷時のだれ性に優れるはんだ組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5887330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水系洗浄剤でのフラックス残さの洗浄性に優れ、印刷時のだれ性に優れるはんだ組成物、並びに、これを用いた電子基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、および(D)溶剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、前記(B)成分が、(B1)ジカルボン酸、および(B2)芳香族カルボン酸からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、前記(C)成分が、(C1)分子量が400未満であるか、または、水酸基当量が350以下であるアマイド系チクソ剤、(C2)水酸基当量が350以下であるグリセロール系チクソ剤からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、前記(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下である、はんだ組成物が提供される。
【0007】
本発明の一態様によれば、前記本発明の一態様に係るはんだ組成物を用いてはんだ付けを行う電子基板の製造方法であって、電子基板上に、前記はんだ組成物を塗布する工程と、前記はんだ組成物上に電子部品を配置する工程と、リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品を前記電子基板に実装する工程と、水系洗浄剤を用いて、前記電子基板上のフラックス残さを洗浄する工程と、を備える、電子基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水系洗浄剤でのフラックス残さの洗浄性に優れ、印刷時のだれ性に優れるはんだ組成物、並びに、これを用いた電子基板の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[フラックス組成物]
まず、本実施形態に用いるフラックス組成物について説明する。本実施形態に用いるフラックス組成物は、はんだ組成物におけるはんだ粉末以外の成分であり、以下説明する(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、および(D)溶剤を含有するものである。
【0010】
[(A)成分]
本実施形態に用いる(A)ロジン系樹脂としては、ロジン類およびロジン系変性樹脂が挙げられる。ロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジンおよびトール油ロジンなどが挙げられる。ロジン系変性樹脂としては、不均化ロジン、重合ロジン、水素添加ロジンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。水素添加ロジンとしては、完全水添ロジン、部分水添ロジン、並びに、不飽和有機酸((メタ)アクリル酸などの脂肪族の不飽和一塩基酸、フマル酸、マレイン酸などのα,β-不飽和カルボン酸などの脂肪族不飽和二塩基酸、桂皮酸などの芳香族環を有する不飽和カルボン酸など)の変性ロジンである不飽和有機酸変性ロジンの水素添加物(「水添酸変性ロジン」ともいう)などが挙げられる。これらのロジン系樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらのロジン系樹脂の中でも、水系洗浄剤でのフラックス残さの洗浄性の観点から、重合ロジン、または、水酸基で置換されたロジン系変性樹脂が好ましく、重合ロジンが特に好ましい。
【0011】
(A)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であることが必要である。(A)成分の配合量が前記下限以上であれば、はんだ付ランドの銅箔面の酸化を防止してその表面に溶融はんだを濡れやすくする、いわゆるはんだ付け性を向上でき、はんだボールを十分に抑制できる。また、(A)成分の配合量が前記上限以下であれば、フラックス残さを十分に洗浄できる。同様の観点から、(A)成分の配合量は、40質量%以上60質量%以下であることが好ましく、45質量%以上55質量%以下であることがより好ましい。
【0012】
[(B)成分]
本実施形態に用いる(B)活性剤は、(B1)ジカルボン酸、および(B2)芳香族カルボン酸からなる群から選択される少なくとも1つを含有することが必要である。
(B1)成分としては、公知のジカルボン酸を適宜選択できる。また、(B1)成分は、フラックス残さの洗浄性および活性作用の観点から、炭素数が4以上12以下のジカルボン酸が好ましく、炭素数が4以上5以下のジカルボン酸がより好ましい。
(B1)成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、およびエイコサン二酸などが挙げられる。これらの中でも、フラックス残さの洗浄性および活性作用の観点から、コハク酸、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、またはドデカン二酸が好ましく、コハク酸、またはグルタル酸がより好ましく、コハク酸が特に好ましい。
(B2)成分としては、公知の芳香族カルボン酸を適宜選択できる。また、(B2)成分は、フラックス残さの洗浄性および活性作用の観点から、1分子中に水酸基およびアミノ基を有するか、または、1分子中に複素環を有する芳香族カルボン酸であることが好ましい。
(B2)成分としては、2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、安息香酸、アントラニル酸、サリチル酸、およびピコリン酸などが挙げられる。これらの中でも、フラックス残さの洗浄性および活性作用の観点から、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、アントラニル酸、サリチル酸、またはピコリン酸が好ましく、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、サリチル酸、またはピコリン酸がより好ましく、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、またはピコリン酸が特に好ましい。
【0013】
また、本実施形態においては、フラックス残さの洗浄性や、はんだ付け性などの諸物性のバランスの観点から、(B1)成分と(B2)成分を併用することが好ましく、コハク酸およびグルタル酸のうちの少なくとも1つと、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸およびピコリン酸のうちの少なくとも1つとを併用することがより好ましく、コハク酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸およびピコリン酸を併用することが特に好ましい。
【0014】
(B)成分は、本発明の課題を達成できる範囲において、(B1)成分および(B2)成分以外に、その他の活性剤(以下(B3)成分とも称する)をさらに含有してもよい。(B3)成分としては、(B1)成分および(B2)成分以外の有機酸、ハロゲン系活性剤、およびアミン系活性剤などが挙げられる。ただし、(B3)成分がフラックス残さの洗浄性に悪影響を与えうるという観点から、(B)成分は、(B1)成分および(B2)成分のみからなることが好ましい。また、(B1)成分および(B2)成分の配合量の合計は、(B)成分100質量%に対して、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0015】
(B)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、3質量%以上20質量%以下であることが好ましく、4質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上12質量%以下であることが特に好ましい。(B)成分の配合量が前記下限以上であれば、活性作用を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0016】
[(C)成分]
本実施形態に用いる(C)チクソ剤は、(C1)分子量が400未満であるか、または、水酸基当量が350以下であるアマイド系チクソ剤、(C2)水酸基当量が350以下であるグリセロール系チクソ剤からなる群から選択される少なくとも1つを含有することが必要である。
(C1)成分は、アマイド系チクソ剤である。このアマイド系チクソ剤が水酸基を有さない場合、分子量が400以上であると、水系洗浄剤でのフラックス残さの洗浄性が不十分となる。また、このアマイド系チクソ剤が水酸基を有する場合、水酸基当量が350超であると、水系洗浄剤でのフラックス残さの洗浄性が不十分となる。
(C1)成分としては、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド(分子量:625、水酸基当量:313)、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド(分子量:681、水酸基当量:341)、ラウリン酸アミド(分子量:199)、ステアリン酸アミド(分子量:284)、ヒドロキシステアリン酸アミド(分子量:299、水酸基当量:299)、およびエチレンビスカプリン酸アミド(分子量:369)が挙げられる。これらの中でも、印刷時のだれ性の観点から、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、またはヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミドが好ましく、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミドが特に好ましい。
(C2)成分は、水酸基当量が350以下であるグリセロール系チクソ剤である。このグリセロール系チクソ剤の水酸基当量が350超であると、水系洗浄剤でのフラックス残さの洗浄性が不十分となる。
(C2)成分としては、硬化ひまし油などが挙げられる。
【0017】
(C)成分は、本発明の課題を達成できる範囲において、(C1)成分および(C2)成分以外に、その他のチクソ剤(以下(C3)成分とも称する)をさらに含有してもよい。(C3)成分としては、(C1)成分以外のアマイド系チクソ剤、(C2)成分以外のグリセロール系チクソ剤、カオリン、コロイダルシリカ、有機ベントナイト、およびガラスフリットなどが挙げられる。ただし、(C3)成分がフラックス残さの洗浄性に悪影響を与えうるという観点から、(C)成分は、(C1)成分および(C2)成分のみからなることが好ましい。また、(C1)成分および(C2)成分の配合量の合計は、(C)成分100質量%に対して、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0018】
(C)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、3質量%以上15質量%以下であることが好ましく、4質量%以上12質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。(C)成分の配合量が前記下限以上であれば、印刷時のだれ性をさらに向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス残さの洗浄性をさらに向上できる傾向にある。
【0019】
[(D)成分]
本実施形態に用いる(D)溶剤としては、公知の溶剤を適宜用いることができる。このような溶剤としては、沸点170℃以上の溶剤を用いることが好ましい。また、グリコール系溶剤が好ましい。
このような溶剤としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、ヘキシルジグリコール、1,5-ペンタンジオール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、オクタンジオール、フェニルグリコール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、およびジブチルマレイン酸などが挙げられる。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
(D)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。(D)成分の配合量が前記範囲内であれば、得られるはんだ組成物の粘度を適正な範囲に適宜調整できる。
【0021】
[酸化防止剤]
本実施形態のフラックス組成物においては、はんだ溶融性などの観点から、さらに酸化防止剤を含有することが好ましい。ここで用いる酸化防止剤としては、公知の酸化防止剤を適宜用いることができる。酸化防止剤としては、硫黄化合物、ヒンダードフェノール化合物、およびホスファイト化合物などが挙げられる。これらの中でも、ヒンダードフェノール化合物が好ましい。
【0022】
ヒンダードフェノール化合物としては、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、N,N’-ビス[2-[2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ]エチル]オキサミド、および、N,N’-ビス{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル}ヒドラジンなどが挙げられる。
【0023】
[他の成分]
本実施形態に用いるフラックス組成物には、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、および酸化防止剤の他に、必要に応じて、その他の添加剤、更には、その他の樹脂を加えることができる。その他の添加剤としては、消泡剤、改質剤、つや消し剤、および発泡剤などが挙げられる。これらの添加剤の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。その他の樹脂としては、アクリル系樹脂などが挙げられる。
【0024】
[はんだ組成物]
次に、本実施形態のはんだ組成物について説明する。本実施形態のはんだ組成物は、前述の本実施形態のフラックス組成物と、以下説明する(E)はんだ粉末とを含有するものである。
フラックス組成物の配合量は、はんだ組成物100質量%に対して、5質量%以上35質量%以下であることが好ましく、7質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上12質量%以下であることが特に好ましい。フラックス組成物の配合量が5質量%未満の場合(はんだ粉末の配合量が95質量%を超える場合)には、バインダーとしてのフラックス組成物が足りないため、フラックス組成物とはんだ粉末とを混合しにくくなる傾向にあり、他方、フラックス組成物の配合量が35質量%を超える場合(はんだ粉末の配合量が65質量%未満の場合)には、得られるはんだ組成物を用いた場合に、十分なはんだ接合を形成できにくくなる傾向にある。
【0025】
[(E)成分]
本実施形態に用いる(D)はんだ粉末は、鉛フリーはんだ粉末のみからなることが好ましいが、有鉛のはんだ粉末であってもよい。また、このはんだ粉末におけるはんだ合金は、スズ(Sn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、アンチモン(Sb)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
このはんだ粉末におけるはんだ合金としては、スズを主成分とする合金が好ましい。また、このはんだ合金は、スズ、銀および銅を含有することがより好ましい。さらに、このはんだ合金は、添加元素として、アンチモン、ビスマスおよびニッケルのうちの少なくとも1つを含有してもよい。本実施形態のフラックス組成物によれば、アンチモン、ビスマスおよびニッケルなどの酸化しやすい添加元素を含むはんだ合金を用いた場合でも、ボイドの発生を抑制できる。
ここで、鉛フリーはんだ粉末とは、鉛を添加しないはんだ金属または合金の粉末のことをいう。ただし、鉛フリーはんだ粉末中に、不可避的不純物として鉛が存在することは許容されるが、この場合に、鉛の量は、300質量ppm以下であることが好ましい。
【0026】
鉛フリーのはんだ粉末の合金系としては、具体的には、Sn-Ag-Cu系、Sn-Cu系、Sn-Ag系、Sn-Bi系、Sn-Ag-Bi系、Sn-Ag-Cu-Bi系、Sn-Ag-Cu-Ni系、Sn-Ag-Cu-Bi-Sb系、Sn-Ag-Bi-In系、Sn-Ag-Cu-Bi-In-Sb系などが挙げられる。
【0027】
(E)成分の平均粒子径は、通常1μm以上40μm以下であるが、はんだ付けパッドのピッチが狭い電子基板にも対応するという観点から、1μm以上35μm以下であることがより好ましく、2μm以上35μm以下であることがさらにより好ましく、3μm以上32μm以下であることが特に好ましい。なお、平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径測定装置により測定できる。
【0028】
[はんだ組成物の製造方法]
本実施形態のはんだ組成物は、上記説明したフラックス組成物と上記説明した(E)はんだ粉末とを上記所定の割合で配合し、撹拌混合することで製造できる。
【0029】
[電子基板]
次に、本実施形態の電子基板の製造方法について説明する。本実施形態の電子基板は、以上説明したはんだ組成物を用いてはんだ付けを行うことを特徴とする方法である。本発明の電子基板の製造方法によれば、前記はんだ組成物を用いて電子部品を電子基板(プリント配線基板など)に実装することで製造できる。
前述した本実施形態のはんだ組成物は、水系洗浄剤でのフラックス残さの洗浄性に優れ、印刷時のだれ性に優れる。そのため、はんだ付けを行った後に、水系洗浄剤で容易にフラックス残さを洗浄することができる。
本実施形態の電子基板の製造方法においては、まず、電子基板上に、はんだ組成物を塗布装置にて塗布する。
ここで用いる塗布装置としては、スクリーン印刷機、メタルマスク印刷機、ディスペンサー、およびジェットディスペンサーなどが挙げられる。
また、前記塗布装置にて塗布したはんだ組成物上に電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品をプリント配線基板に実装するリフロー工程により、電子部品を電子基板に実装できる。
【0030】
リフロー工程においては、前記はんだ組成物上に前記電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱する。このリフロー工程により、電子部品およびプリント配線基板の間に十分なはんだ接合を行うことができる。その結果、前記電子部品を前記プリント配線基板に実装することができる。
リフロー条件は、はんだの融点に応じて適宜設定すればよい。例えば、プリヒート温度は、140℃以上200℃以下であることが好ましく、150℃以上160℃以下であることがより好ましい。プリヒート時間は、60秒間以上120秒間以下であることが好ましい。ピーク温度は、230℃以上270℃以下であることが好ましく、240℃以上255℃以下であることがより好ましい。また、220℃以上の温度の保持時間は、20秒間以上60秒間以下であることが好ましい。
【0031】
リフロー工程後には、水系洗浄剤を用いて、前記電子基板上のフラックス残さを洗浄する。
洗浄の方法としては、浸漬方式、および噴流方式などを採用できる。
例えば、浸漬方式では、水系洗浄剤中に電子基板を浸漬すればよい。なお、このときに、超音波をかけてもよい。
水系洗浄剤としては、公知の水系のフラックス残さの洗浄剤を使用できる。ここで水系とは、水を主成分(水が50質量%以上)であるものをいう。市販品としては、ゼストロンジャパン社製の「VIGON US」、および、荒川化学工業社製の「パインアルファST-180K」などが挙げられる。
洗浄時の水系洗浄剤の温度は、例えば、30℃以上70℃以下である。
洗浄時間は、例えば、1分間以上10分間以下である。
水系洗浄剤を用いた洗浄後には、リンスを行ってもよい。リンスの条件は、特に制限されず、20℃以上50℃以下の水で、0.5分間以上5分間以下程度であればよい。また、リンスを2回以上行ってもよい。
【0032】
また、本実施形態のはんだ組成物および電子基板は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
例えば、前記電子基板の製造方法では、リフロー工程により、プリント配線基板と電子部品とを接着しているが、これに限定されない。例えば、リフロー工程に代えて、レーザー光を用いてはんだ組成物を加熱する工程(レーザー加熱工程)により、プリント配線基板と電子部品とを接着してもよい。この場合、レーザー光源としては、特に限定されず、金属の吸収帯に合わせた波長に応じて適宜採用できる。レーザー光源としては、例えば、固体レーザー(ルビー、ガラス、YAGなど)、半導体レーザー(GaAs、およびInGaAsPなど)、液体レーザー(色素など)、並びに、気体レーザー(He-Ne、Ar、CO、およびエキシマーなど)が挙げられる。
【実施例
【0033】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A)成分)
ロジン系樹脂A:重合ロジン、商品名「中国重合ロジン」、荒川化学工業社製
ロジン系樹脂B:水添酸変性ロジン、商品名「パインクリスタルKE-604」、荒川化学工業社製
ロジン系樹脂C:完全水添ロジン、商品名「フォーラルAX」、理化ファインテク社製
ロジン系樹脂D:変性ロジン、商品名「ハリタック FG-90」、ハリマ化成社製
((B1)成分)
ジカルボン酸A:コハク酸
ジカルボン酸B:グルタル酸
ジカルボン酸C:アゼライン酸
ジカルボン酸D:セバシン酸
ジカルボン酸E:ドデカン二酸
ジカルボン酸F:エイコサン二酸、商品名「SL-20」、岡村製油社製
((B2)成分)
芳香族カルボン酸A:2-ナフトエ酸
芳香族カルボン酸B:3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
芳香族カルボン酸C:安息香酸
芳香族カルボン酸D:アントラニル酸
芳香族カルボン酸E:サリチル酸
芳香族カルボン酸F:ピコリン酸
((B3)成分)
モノカルボン酸A:パルミチン酸
モノカルボン酸B:ドデカン酸
((C1)成分)
アマイド系チクソ剤A:エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド(分子量:625、水酸基当量:313)、商品名「スリパックスH」、三菱ケミカル社製
アマイド系チクソ剤B:ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド(分子量:681、水酸基当量:341)、商品名「スリパックスZHH」、三菱ケミカル社製
アマイド系チクソ剤C:ラウリン酸アミド(分子量:199)、商品名「ダイヤミッドY」、三菱ケミカル社製
アマイド系チクソ剤D:ステアリン酸アミド(分子量:284)
アマイド系チクソ剤E:ヒドロキシステアリン酸アミド(分子量:299、水酸基当量:299)、商品名「ダイヤミッドKH」、三菱ケミカル社製
アマイド系チクソ剤F:エチレンビスカプリン酸アミド(分子量:369)、商品名「スリパックスC-10」、三菱ケミカル社製
((C2)成分)
グリセロール系チクソ剤:ひまし油(分子量:939、水酸基当量:313)、商品名「ヒマコウ」、ケイエフ・トレーディング社製
((C3)成分)
アマイド系チクソ剤G:エチレンビスステアリン酸アミド(分子量:593)、商品名「スリパックスE」、日化トレーディング社製
アマイド系チクソ剤H:メチレンビスステアリン酸アミド(分子量:579)、商品名「ビスアマイドLA」、日化トレーディング社製
アマイド系チクソ剤I:高級脂肪酸ポリアミド、商品名「ターレンVA-79」、共栄社化学社製
ポリエチレングリコール系チクソ剤:ポリエチレングリコール(分子量:360~440)、商品名「ポリエチレングリコール400」、富士フィルム和光純薬社製
((D)成分)
溶剤:ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル(2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、沸点:272℃)、日本乳化剤社製
((E)成分)
はんだ粉末:合金組成はSn-3.0Ag-0.5Cu、粒子径分布は20~38μm(IPC-J-STD-005Aのタイプ4に相当)、はんだ融点は217~220℃
【0034】
[実施例1]
ロジン系樹脂A50質量%、ジカルボン酸A1質量%、芳香族カルボン酸B3質量%、芳香族カルボン酸F1質量%、溶剤40質量%、およびチクソ剤A5質量%を容器に投入し、プラネタリーミキサーを用いて混合してフラックス組成物を得た。
その後、得られたフラックス組成物11質量%、およびはんだ粉末89質量%(合計で100質量%)を容器に投入し、プラネタリーミキサーにて混合することではんだ組成物を調製した。
【0035】
[実施例2~15]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
[比較例1~8]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
【0036】
[実施例16~36]
表2に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
[比較例9~10]
表2に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
[実施例37~41]
表3に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
【0037】
<はんだ組成物の評価>
はんだ組成物の評価(洗浄性(チップ下、チップ横)、印刷時のだれ性、はんだボール、ディウェッティング)を以下のような方法で行った。得られた結果を表1~表3に示す。
(1)洗浄性(チップ下、チップ横)
チップ部品を搭載できる基板に、はんだ組成物を印刷し、チップ部品(大きさ:1.6mm×0.8mm)を搭載し、リフロー炉(タムラ製作所社製)で、はんだ組成物を溶解させて、はんだ付けを行って、評価用基板を得た。なお、リフロー条件は、プリヒート温度が130~180℃(約100秒間)であり、温度220℃以上の時間が約60秒間であり、ピーク温度が240℃である。
次に、得られた評価用基板を、水系洗浄剤(ゼストロンジャパン社製の「VIGON US」、20%濃度)の入った容器中に、浸漬して、超音波をかけながら洗浄(液温度:60℃、洗浄時間:5分間)した。その後、エアナイフで液切りを行った後に、常温の純水の入った容器中に、浸漬して、1回目のリンス(リンス時間:1~2分間)を行い、さらに、45℃の純水の入った容器中に、浸漬して、2回目のリンス(リンス時間:1~2分間)を行った。その後、エアガンで液切りを行った後に、熱風乾燥炉(炉内温度:70℃)の中で10分間の乾燥を行った。
水系洗浄剤での洗浄後の評価用基板から、全てのチップを取り外し、チップ下のフラックス残さの有無と、チップ横のフラックス残さの有無を観察した。そして、フラックス残さの残留していたチップの数と、全てのチップの数に対する比率(残留比率)を測定し、この残留比率に基づいて、下記の基準に従って、洗浄性(チップ下、チップ横)を評価した。
◎:残留比率が、10%未満である。
○:残留比率が、10%以上20%未満である。
△:残留比率が、20%以上50%未満である。
×:残留比率が、50%以上である。
(2)印刷時のだれ性
両面銅張積層板に、はんだ組成物を、0.1mmピッチから1.2mmピッチまで、0.1mm刻みで、パターン印刷した。その後、温度25℃湿度50%環境に、10分間放置後、はんだのだれがない最小ピッチを計測した。そして、最小ピッチの平均値に基づいて、下記の基準に従って、印刷時のだれ性を評価した。
◎:最小ピッチの平均値が、0.2mmピッチ未満である。
○:最小ピッチの平均値が、0.2mmピッチ以上0.4mmピッチ未満である。
△:最小ピッチの平均値が、0.4mmピッチ以上0.6mmピッチ未満である。
×:最小ピッチの平均値が、0.6mmピッチ以上である。
(3)はんだボール
はんだ組成物について、JIS Z 3284付属書11で定める条件に準じて、試験片を作製した、そして、試験片にはんだボール試験を実施し、試験後の試験片の外観全体について、以下の基準に従って、はんだボールを評価した。なお、作製した試験片は180℃のホットプレートを用いて60秒間プリヒート処理した後に275℃のはんだ槽にて溶融させた。
◎:はんだが一つの大きな球となり、周囲にはんだボールがない。
○:はんだが一つの大きな球となり、周囲に直径75μm以下のはんだボールが点在している。
△:はんだが一つの大きな球となり、周囲に多数の細かい球が半連続の環状に並んでいる。
×:上記以外の状態となっている。
(4)ディウェッティング
JIS Z 3284のディウェッティング試験に準拠した方法で、ディウェッティングを評価した。すなわち、まず、銅板の表面を、2-プロパノールで洗い、銅板の片面を、2-プロパノールを滴下しながら研磨紙を用いて研磨した後、2-プロパノールで表面の汚れを洗い、室温で十分乾燥させた。そして、メタルマスクを用いて、銅板の中央にはんだ組成物を塗布し、試験板とした。次に、255℃のはんだ槽にて試験板上のはんだ組成物を溶融させ、その後、試験板をはんだ槽から水平に保ちながら引き上げ、室温まで冷却した。その後、フラックス残さを、2-プロパノールで取り除いた状態で、はんだの広がりの度合を観察し、以下の基準に従って、ディウェッティングを評価した。
◎:はんだ組成物を塗布した部分はすべてはんだでぬれた状態である。
○:はんだ組成物を塗布した部分の7割以上は、はんだでぬれた状態である。
△:はんだ組成物を塗布した部分の5割以上7割未満は、はんだでぬれた状態である。
×:はんだ組成物を塗布した部分の5割未満は、はんだでぬれた状態である。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
表1、表2および表3に示す結果からも明らかなように、本発明のはんだ組成物(実施例1~41)は、洗浄性(チップ下、チップ横)、印刷時のだれ性、はんだボール、およびディウェッティングの全ての結果が良好であることが確認された。
従って、本発明のはんだ組成物によれば、水系洗浄剤でのフラックス残さの洗浄性に優れ、印刷時のだれ性に優れることが確認された。
なお、洗浄性の評価として、水系洗浄剤(ゼストロンジャパン社製の「VIGON US」、20%濃度)に代えて、荒川化学工業社製の「パインアルファST-180K」を使用した場合でも、ほぼ同様の結果が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のはんだ組成物は、電子機器のプリント配線基板などの電子基板に電子部品を実装するための技術として好適に用いることができる。