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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】人工毛髪用繊維及び頭髪装飾品
(51)【国際特許分類】
   A41G 3/00 20060101AFI20240613BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20240613BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20240613BHJP
   D06M 101/22 20060101ALN20240613BHJP
【FI】
A41G3/00 A
D06M15/263
D06M15/643
D06M101:22
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022542601
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(86)【国際出願番号】 JP2021025647
(87)【国際公開番号】W WO2022034760
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2020136282
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 宏治
(72)【発明者】
【氏名】村岡 喬梓
(72)【発明者】
【氏名】相良 祐貴
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/094176(WO,A1)
【文献】特開平02-251604(JP,A)
【文献】特開2004-277903(JP,A)
【文献】特開2012-251256(JP,A)
【文献】特開2001-172887(JP,A)
【文献】特開平4-316675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
D06M11/59
D06M11/83
D06M13/17
D06M13/432
D06M13/46
D06M15/263
D06M15/53
D06M15/643
D06M101/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材繊維と、当該基材繊維の表面の少なくとも一部に存在する高分子化合物の金属塩と、を有し、
前記金属塩が、銀、亜鉛及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含む、人工毛髪用繊維。
【請求項2】
前記金属塩が銀を含む、請求項1に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項3】
前記金属の含有量が、当該人工毛髪用繊維の全質量を基準として5.0×10-5~5.0×10-3質量%である、請求項1又は2に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項4】
前記金属塩が高分子鎖を有し、
前記高分子鎖が(メタ)アクリル酸エステル由来の構造単位を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項5】
前記基材繊維の表面の少なくとも一部に存在する帯電防止剤を更に有し、
前記帯電防止剤の含有量が、当該人工毛髪用繊維の全質量を基準として0.020~0.400質量%である、請求項1~のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項6】
前記基材繊維の表面の少なくとも一部に存在するシリコーン化合物を更に有し、
前記シリコーン化合物の含有量が、当該人工毛髪用繊維の全質量を基準として0.010~0.300質量%である、請求項1~のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項7】
前記基材繊維が塩化ビニル系樹脂を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維を備える、頭髪装飾品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工毛髪用繊維、頭髪装飾品等に関する。
【背景技術】
【0002】
人工毛髪用繊維(人工毛髪に用いられる繊維)は、頭髪装飾品において用いることができる。下記特許文献1には、繊維処理剤を用いて基材繊維に対して処理を施す技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-285470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
頭髪装飾品を使用する消費者は、頻繁には洗髪を行わない場合があることから、頭皮又は頭髪装飾品を清潔に保つことができず、菌が繁殖し、悪臭等が生じることがある。そのため、頭髪装飾品に用いられる人工毛髪用繊維に対しては抗菌性が求められる。
【0005】
本発明の一側面は、抗菌性を有する人工毛髪用繊維を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、このような人工毛髪用繊維を備える頭髪装飾品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、基材繊維と、当該基材繊維の表面の少なくとも一部に存在する高分子化合物の金属塩と、を有し、前記金属塩が、銀、亜鉛及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含む、人工毛髪用繊維に関する。
【0007】
本発明の他の一側面は、上述の人工毛髪用繊維を備える、頭髪装飾品に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一側面によれば、抗菌性を有する人工毛髪用繊維を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、このような人工毛髪用繊維を備える頭髪装飾品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0010】
数値範囲の「A以上」とは、A、及び、Aを超える範囲を意味する。数値範囲の「A以下」とは、A、及び、A未満の範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実験例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸、及び、それに対応するメタクリル酸の少なくとも一方を意味する。
【0011】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、基材繊維(繊維状の基材)と、当該基材繊維の表面の少なくとも一部に存在する高分子化合物の金属塩(以下、「金属塩A」という)と、を有し、金属塩Aが、銀、亜鉛及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属(以下、「金属A」という)を含む。本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、人工毛髪として用いることが可能であり、人工毛髪を得るために用いることもできる。本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、延伸処理後の繊維であってよく、未延伸の繊維であってもよい。
【0012】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、抗菌性を有しており、大腸菌に対する抗菌性を有している。また、本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を有することもできる。
【0013】
基材繊維の材料としては、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等が挙げられる。基材繊維は、塩化ビニル系樹脂、及び、塩化ビニル系樹脂とポリマーアロイを形成可能な成分の混合物を含んでよい。塩化ビニル系樹脂とポリマーアロイを形成可能な成分としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン樹脂(MBS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等が挙げられる。
【0014】
基材繊維は、頭髪装飾品への加工性に優れる観点から、塩化ビニル系樹脂を含むことが好ましい。塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル由来の構造単位を有する重合体であり、塩化ビニルを単量体単位として有する重合体である。塩化ビニル系樹脂は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等により得ることが可能であり、繊維の初期着色性等に優れる観点から、懸濁重合により得られることが好ましい。
【0015】
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルの単独重合体(ホモポリマー、ポリ塩化ビニル)、塩化ビニルと他の単量体との共重合体等が挙げられ、これらの混合物を用いてもよい。塩化ビニルと他の単量体との共重合体としては、塩化ビニルとビニルエステル類との共重合体(塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-プロピオン酸ビニル共重合体等);塩化ビニルと(メタ)アクリル酸化合物((メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等)との共重合体(塩化ビニル-アクリル酸ブチル共重合体、塩化ビニル-アクリル酸2-エチルヘキシル共重合体等);塩化ビニルとオレフィン類との共重合体(塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体等);塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体などが挙げられる。塩化ビニル系樹脂は、(メタ)アクリル酸化合物由来の構造単位を有さなくてもよい。共重合体において、塩化ビニルとは異なる単量体の含有量は、成型加工性、糸特性等の要求品質に応じて決めることができる。塩化ビニル系樹脂は、頭髪装飾品への加工性に優れる観点から、塩化ビニルの単独重合体、及び、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0016】
基材繊維における塩化ビニル系樹脂の含有量は、基材繊維の全質量を基準として、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上又は99質量%以上であってよい。基材繊維は、塩化ビニル系樹脂のみからなる(基材繊維の実質的に100質量%が塩化ビニル系樹脂である)態様であってもよい。
【0017】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリメチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0018】
ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/10、ナイロン6/12等が挙げられる。
【0019】
基材繊維の平均繊度は、細繊度の人工毛髪用繊維を得るために延伸倍率を小さくすることが可能であり、延伸処理後の人工毛髪用繊維に光沢が発生しにくい観点から、未延伸時において、300デシテックス以下が好ましく、200デシテックス以下がより好ましい。
【0020】
金属塩Aは、基材繊維の表面の少なくとも一部に存在していればよく、例えば、基材繊維の表面の少なくとも一部に付着している。金属塩Aは、抗菌剤として用いることができる。金属塩Aは、高分子鎖を有することにより基材繊維の表面に付着しやすい。金属塩Aは、銀、亜鉛及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属Aを含み、抗菌性が向上しやすい観点から、銀を含むことが好ましい。
【0021】
金属塩Aの高分子鎖は、各種単量体由来の構造単位を有することができる。高分子鎖を与える単量体としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(ポリ(アルキレングリコール)アルキルエーテル(メタ)アクリレート(ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(メタ)アクリレート等)、(メタ)アクリル酸ブチルなど)、ビニル化合物(ビニルイミダゾール(1-ビニルイミダゾール等)、ビニルピリジン(4-ビニルピリジン等)など)、エチレン、ブタジエン、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、イソプレン、スチレンなどが挙げられる。金属塩Aの高分子鎖は、(メタ)アクリル酸エステル由来の構造単位を有してよく((メタ)アクリル酸エステルを単量体単位として有してよく)、(メタ)アクリル酸エステル由来の構造単位と、ビニル化合物由来の構造単位と、を有してよい((メタ)アクリル酸エステル及びビニル化合物を単量体単位として有してよい)。
【0022】
金属Aの含有量、銀の含有量、亜鉛の含有量、又は、銅の含有量は、抗菌性が向上しやすい観点から、人工毛髪用繊維の全質量を基準として、1.0×10-5質量%以上、3.0×10-5質量%以上、5.0×10-5質量%以上、7.0×10-5質量%以上、1.0×10-4質量%以上、2.0×10-4質量%以上、3.0×10-4質量%以上、4.0×10-4質量%以上、5.0×10-4質量%以上、7.0×10-4質量%以上、1.0×10-3質量%以上、3.0×10-3質量%以上、又は、5.0×10-3質量%以上が好ましい。
【0023】
本発明者の知見によれば、金属Aの含有量、銀の含有量、亜鉛の含有量、又は、銅の含有量が増加するに伴い人工毛髪用繊維の触感が劣化する。そのため、金属Aの含有量、銀の含有量、亜鉛の含有量、又は、銅の含有量は、人工毛髪用繊維の優れた触感(滑り性向上効果、べたつき抑制効果等)を得やすい観点から、人工毛髪用繊維の全質量を基準として、1.0×10-2質量%以下、7.0×10-3質量%以下、5.0×10-3質量%以下、3.0×10-3質量%以下、1.0×10-3質量%以下、7.0×10-4質量%以下、5.0×10-4質量%以下、4.0×10-4質量%以下、3.0×10-4質量%以下、2.0×10-4質量%以下、1.0×10-4質量%以下、7.0×10-5質量%以下、5.0×10-5質量%以下、又は、3.0×10-5質量%以下が好ましい。
【0024】
金属Aの含有量、銀の含有量、亜鉛の含有量、又は、銅の含有量は、抗菌性及び触感を高度に両立する観点から、1.0×10-5~1.0×10-2質量%、1.0×10-5~5.0×10-3質量%、5.0×10-5~5.0×10-3質量%、5.0×10-5~4.0×10-4質量%、又は、1.0×10-4~4.0×10-4質量%が好ましい。金属Aの含有量は、銀、亜鉛及び銅の合計量である。
【0025】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、基材繊維の表面の少なくとも一部に存在する帯電防止剤(金属塩Aに該当する成分を除く)を有してよい。帯電防止剤を用いることにより、帯電防止性を向上させることができる。帯電防止剤は、例えば、基材繊維の表面の少なくとも一部に付着している。
【0026】
帯電防止剤としては、イオン液体、アニオン性帯電防止剤、カチオン性帯電防止剤、非イオン性(ノニオン性)帯電防止剤等が挙げられる。
【0027】
イオン液体としては、イオン(陽イオン及び陰イオン)のみから構成される液体化合物塩を用いることができる。イオン液体の陽イオンとしては、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピロリニウムイオン、ピペリジニウムイオン、ピラジニウムイオン、ピリミジニウムイオン、トリアゾリウムイオン、トリアジニウムイオン、キノリニウムイオン、イソキノリニウムイオン、インドリニウムイオン、キノキサリニウムイオン、ピペラジニウムイオン、オキサゾリニウムイオン、チアゾリニウムイオン、モルホリニウムイオン等が挙げられる。イオン液体の陰イオンとしては、ハロゲン系イオン、ホウ素系イオン、リン系イオン、スルホン酸アニオン等が挙げられる。イオン液体としては、アミノ基を有するイオンを含むアミン塩を用いることができる。
【0028】
アニオン性帯電防止剤としては、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩(例えばポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩)等が挙げられる。
【0029】
カチオン性帯電防止剤としては、第4級アンモニウム塩、グアニジン化合物、イミダゾリン化合物、ピリジニウム化合物等が挙げられる。
【0030】
非イオン性帯電防止剤としては、多価アルコール(例えば、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール)、多価アルコールの脂肪酸エステル、アルキレンオキサイド重合体(例えばプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドとの共重合体)などが挙げられる。
【0031】
帯電防止剤の含有量は、人工毛髪用繊維の全質量を基準として下記の範囲が好ましい。帯電防止剤の含有量は、帯電防止性を向上させやすい観点から、0.010質量%以上、0.015質量%以上、0.020質量%以上、0.030質量%以上、0.050質量%以上、0.100質量%以上、0.200質量%以上、0.250質量%以上、0.300質量%以上、0.350質量%以上、0.400質量%以上、0.500質量%以上、又は、0.600質量%以上が好ましい。帯電防止剤の含有量は、人工毛髪用繊維の優れた触感(滑り性向上効果、べたつき抑制効果等)を得やすい観点から、1.000質量%以下、0.800質量%以下、0.600質量%以下、0.500質量%以下、0.400質量%以下、0.350質量%以下、0.300質量%以下、0.250質量%以下、0.200質量%以下、0.100質量%以下、0.050質量%以下、0.030質量%以下、0.020質量%以下、又は、0.015質量%以下が好ましい。これらの観点から、帯電防止剤の含有量は、0.010~1.000質量%、0.010~0.500質量%、0.020~0.500質量%、0.020~0.400質量%、0.020~0.300質量%、0.050~0.300質量%、又は、0.200~0.300質量%が好ましい。
【0032】
帯電防止剤の含有量は、100質量部の金属Aに対して下記の範囲が好ましい。帯電防止剤の含有量は、帯電防止性を向上させやすい観点から、1.0×10質量部以上、3.0×10質量部以上、5.0×10質量部以上、6.0×10質量部以上、8.0×10質量部以上、1.0×10質量部以上、2.0×10質量部以上、4.0×10質量部以上、5.0×10質量部以上、6.0×10質量部以上、8.0×10質量部以上、1.0×10質量部以上、1.5×10質量部以上、2.0×10質量部以上、3.0×10質量部以上、4.0×10質量部以上、5.0×10質量部以上、又は、8.0×10質量部以上が好ましい。帯電防止剤の含有量は、人工毛髪用繊維の優れた触感(べたつき抑制効果等)を得やすい観点から、1.0×10質量部以下、8.0×10質量部以下、5.0×10質量部以下、4.0×10質量部以下、3.0×10質量部以下、2.0×10質量部以下、1.5×10質量部以下、1.0×10質量部以下、8.0×10質量部以下、6.0×10質量部以下、5.0×10質量部以下、4.0×10質量部以下、2.0×10質量部以下、1.0×10質量部以下、8.0×10質量部以下、6.0×10質量部以下、又は、5.0×10質量部以下が好ましい。これらの観点から、帯電防止剤の含有量は、1.0×10~1.0×10質量部、1.0×10~5.0×10質量部、1.0×10~5.0×10質量部、1.0×10~4.0×10質量部、又は、5.0×10~4.0×10質量部が好ましい。
【0033】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、基材繊維の表面の少なくとも一部に存在するシリコーン化合物(金属塩A又は帯電防止剤に該当する成分を除く)を有してよい。シリコーン化合物は、触感調整剤として用いることができる。シリコーン化合物を用いることにより、人工毛髪用繊維の滑り性を向上させることができる。シリコーン化合物は、例えば、基材繊維の表面の少なくとも一部に付着している。
【0034】
シリコーン化合物は、人工毛髪用繊維の滑り性が向上しやすい観点から、アミノ変性シリコーン(アミノ変性シリコーン化合物)を含むことが好ましい。アミノ変性シリコーンを用いることにより、帯電防止剤(例えば、アミノ基を有するイオンを含むアミン塩)に対する優れた相溶性及び分散性を得ることもできる。アミノ変性シリコーンは、直接又は置換基を介してシリコーン骨格にアミノ基が結合したシリコーン化合物である。
【0035】
アミノ変性シリコーンに該当しないシリコーン化合物としては、ストレートシリコーンオイル、変性シリコーンオイル等のシリコーンオイルなどが挙げられる。ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジエンシリコーンオイル等が挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、エポキシ変性シリコーンオイル、シラノール変性シリコーンオイル、アクリル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0036】
シリコーン化合物の含有量は、人工毛髪用繊維の全質量を基準として下記の範囲が好ましい。シリコーン化合物の含有量は、人工毛髪用繊維の優れた触感(滑り性向上効果等)を得やすい観点から、0.001質量%以上、0.005質量%以上、0.006質量%以上、0.010質量%以上、0.012質量%以上、0.020質量%以上、0.050質量%以上、0.060質量%以上、0.100質量%以上、0.120質量%以上、0.150質量%以上、又は、0.180質量%以上が好ましい。シリコーン化合物の含有量は、人工毛髪用繊維の優れた触感(べたつき抑制効果等)を得やすい観点から、1.000質量%以下、0.500質量%以下、0.400質量%以下、0.300質量%以下、0.250質量%以下、0.200質量%以下、又は、0.180質量%以下が好ましい。これらの観点から、シリコーン化合物の含有量は、0.001~1.000質量%、0.001~0.500質量%、0.010~0.500質量%、0.010~0.300質量%、0.050~0.300質量%、0.050~0.200質量%、0.100~0.200質量%、又は、0.100~0.180質量%が好ましい。シリコーン化合物の含有量は、0.200質量%以上、0.250質量%以上、0.300質量%以上、又は、0.350質量%以上であってよい。シリコーン化合物の含有量は、0.150質量%以下、0.120質量%以下、0.100質量%以下、0.060質量%以下、0.050質量%以下、0.020質量%以下、0.012質量%以下、0.010質量%以下、又は、0.006質量%以下であってよい。
【0037】
シリコーン化合物の含有量は、100質量部の金属Aに対して下記の範囲が好ましい。シリコーン化合物の含有量は、人工毛髪用繊維の優れた触感(滑り性向上効果等)を得やすい観点から、1.0×10質量部以上、2.0×10質量部以上、3.0×10質量部以上、4.0×10質量部以上、5.0×10質量部以上、1.0×10質量部以上、2.0×10質量部以上、3.0×10質量部以上、4.0×10質量部以上、5.0×10質量部以上、又は、6.0×10質量部以上が好ましい。シリコーン化合物の含有量は、人工毛髪用繊維の優れた触感(べたつき抑制効果等)を得やすい観点から、1.0×10質量部以下、5.0×10質量部以下、4.0×10質量部以下、2.0×10質量部以下、1.0×10質量部以下、9.0×10質量部以下、8.0×10質量部以下、又は、7.0×10質量部以下が好ましい。これらの観点から、シリコーン化合物の含有量は、1.0×10~1.0×10質量部、1.0×10~5.0×10質量部、2.0×10~5.0×10質量部、2.0×10~2.0×10質量部、又は、1.0×10~2.0×10質量部が好ましい。シリコーン化合物の含有量は、7.0×10質量部以上、8.0×10質量部以上、9.0×10質量部以上、1.0×10質量部以上、2.0×10質量部以上、又は、4.0×10質量部以上であってよい。シリコーン化合物の含有量は、6.0×10質量部以下、5.0×10質量部以下、4.0×10質量部以下、3.0×10質量部以下、2.0×10質量部以下、1.0×10質量部以下、5.0×10質量部以下、4.0×10質量部以下、又は、3.0×10質量部以下であってよい。
【0038】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、基材繊維の表面の少なくとも一部に存在する他の添加剤(金属塩A、帯電防止剤又はシリコーン化合物に該当する成分を除く)を有してよい。このような添加剤としては、抗菌加工剤、消臭加工剤、防カビ加工剤、UVカット剤、柔軟剤、SR加工剤、芳香加工剤、難燃剤、消泡剤、香料等が挙げられる。添加剤としては、アミン化合物(例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA))、水酸化アンモニウム、アルカリ金属、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等を用いてよい。本実施形態に係る人工毛髪用繊維では、ゼオライト及び炭化ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種が基材繊維の表面に存在しなくてよく、基材繊維が、ゼオライト及び炭化ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有しなくてよい。
【0039】
上述の金属塩A、帯電防止剤、シリコーン化合物及び添加剤のそれぞれは、基材繊維の表面において、互いに同一箇所に存在してよく、互いに異なる箇所に存在してよい。本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、基材繊維の表面の少なくとも一部に存在する繊維処理剤を有してよく、繊維処理剤によって表面が処理された人工毛髪用繊維であってよい。繊維処理剤は、上述の金属塩A、帯電防止剤、シリコーン化合物、添加剤等を含んでよい。
【0040】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の単繊度は、延伸処理後において下記の範囲が好ましい。単繊度は、20デシテックス以上が好ましい。単繊度は、100デシテックス以下が好ましい。これらの観点から、単繊度は、20~100デシテックスが好ましい。
【0041】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、基材繊維と金属塩Aとを互いに接触させる繊維処理工程を備える。繊維処理工程では、基材繊維に対して、金属塩Aに加えて上述の帯電防止剤、シリコーン化合物、添加剤等を接触させてよい。繊維処理工程では、基材繊維と上述の繊維処理剤とを互いに接触させてよく、各成分を個別に基材繊維に接触させてよい。
【0042】
繊維処理剤を用いる場合、繊維処理剤を基材繊維の表面の少なくとも一部に塗布することができる。この場合、繊維に液体を塗布する従来公知の手段を用いることができる。例えば、繊維処理剤が付着した表面を有するロールにより繊維処理剤を人工毛髪用繊維に塗布する手段(ロール転写法);繊維処理剤を貯めた液体槽に基材繊維を浸す手段;ブラシ、刷毛等の塗り具を介して基材繊維に繊維処理剤を付着させる手段等が挙げられる。
【0043】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、繊維処理工程の前に、基材繊維の材料を含有する組成物を紡糸することにより基材繊維を得る紡糸工程を備えてよい。紡糸工程では、基材繊維の材料を含有する組成物を溶融紡糸(溶融変形)することができる。
【0044】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、紡糸工程の前に、基材繊維の材料を含有する組成物を溶融混練する混練工程を備えてよい。溶融混練するための装置としては、種々の一般的な混練機を用いることができる。混練機としては、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー等が挙げられる。
【0045】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、繊維処理工程の前に、紡糸工程で得られた糸(未延伸糸)を延伸処理する延伸工程を備えてよい。
【0046】
延伸工程における延伸倍率は、繊維の強度発現が起こりやすい観点から、1.5倍以上が好ましく、2.0倍以上がより好ましい。延伸倍率は、延伸処理時に糸切れが発生しにくい観点から、5.0倍以下が好ましく、4.0倍以下がより好ましい。これらの観点から、延伸倍率は、1.5~5.0倍が好ましく、2.0~4.0倍がより好ましい。
【0047】
延伸処理は、未延伸糸を一旦ボビンに巻き取った後、紡糸工程と連続しない工程で延伸する2工程法で行われてよく、未延伸糸をボビンに巻き取ることなく紡糸工程と連続する工程で延伸する直接紡糸延伸法で行われてもよい。延伸処理は、1回で目的の延伸倍率まで延伸する一段延伸法で行われてよく、2回以上の延伸によって目的の延伸倍率まで延伸する多段延伸法で行われてよい。
【0048】
延伸処理の温度は、80~120℃が好ましい。温度が80℃以上であると、繊維の強度を充分に確保しやすいと共に糸切れが発生しにくい。温度が120℃以下であると、繊維の好適な触感が得られやすい。
【0049】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、延伸工程の後に、延伸工程で得られた糸(延伸糸)を熱処理(アニール)する熱処理工程を備えてよい。熱処理工程を行うことにより延伸糸の熱収縮率を低下させることができる。
【0050】
熱処理温度は、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。熱処理温度は、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。熱処理は、延伸処理の後に連続して行ってよく、一旦巻き取った後に時間をあけて行ってもよい。
【0051】
本実施形態に係る頭髪装飾品は、本実施形態に係る人工毛髪用繊維を備える。本実施形態に係る頭髪装飾品は、頭部に装脱着可能な物品であり、本実施形態に係る人工毛髪用繊維からなる態様(例えば、人工毛髪用繊維の繊維束)であってもよい。頭髪装飾品としては、かつら、ヘアウィッグ、ヘアピース、ブレード、エクステンションヘアー、つけ毛等が挙げられる。
【実施例
【0052】
以下、本発明を実験例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。以下において、「3.0E-05」、「1.0E+10」等の表記は「3.0×10-5」、「1.0×1010」等を意味する。
【0053】
<評価用繊維の作製>
基材繊維として塩化ビニル系繊維(ポリ塩化ビニル(大洋塩ビ株式会社、商品名:TH-700)を用いた繊維)を準備した。繊維の平均繊度は55~70デシテックスであった。平均繊度は、100本の繊維の繊度の平均値として求めた。
【0054】
続いて、表1~3に示す成分を混合することにより繊維処理剤を調製した。各表に示す成分として下記試薬を用いた。
【0055】
金属塩A(Ag):デュポン社、商品名「SILVADUR 930 Flex Antimicrobial」、銀イオン、水酸化アンモニウム及び重合体を含有する水系分散液(銀イオン量:0.098質量%、水酸化アンモニウム量:0.25~1.0質量%、重合体:1-ビニルイミダゾール由来の構造単位及びポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート由来の構造単位を有する共重合体(銀イオンと金属塩を形成する高分子化合物))
金属塩B(Zn):自社調製品、亜鉛イオン、水酸化アンモニウム及び重合体を含有する水系分散液(亜鉛イオン量:0.098質量%、水酸化アンモニウム量:0.25~1.0質量%、重合体:1-ビニルイミダゾール由来の構造単位及びポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート由来の構造単位を有する共重合体(亜鉛イオンと金属塩を形成する高分子化合物))
金属塩C(Cu):自社調製品、銅イオン、水酸化アンモニウム及び重合体を含有する水系分散液(銅イオン量:0.098質量%、水酸化アンモニウム量:0.25~1.0質量%、重合体:1-ビニルイミダゾール由来の構造単位及びポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート由来の構造単位を有する共重合体(銅イオンと金属塩を形成する高分子化合物))
帯電防止剤:日本乳化剤株式会社、商品名「アミノイオンAS300」、アミノ基を有するイオンを含むアミン塩を98質量%以上含有するイオン液体
触感調整剤:吉村油化学株式会社、商品名「TCS-382」、シリコーン化合物(アミノ変性シリコーン)及びポリオキシエチレンアルキルエーテルを合計で50質量%含有するシリコーンエマルジョン(アミノ変性シリコーンの含有量:44質量%)
【0056】
上述の基材繊維を100℃で延伸した後、基材繊維に対してロール転写法によって上述の繊維処理剤を塗布した。ロール転写の条件として、ロールの半径が125mmであり、ロールの下端から20mmの高さまでロールが繊維処理剤に浸かっており、ロール回転速度は8m/minであった。その後、120℃でアニールを行い、単繊度20~100デシテックスの評価用繊維(人工毛髪用繊維)を得た。延伸倍率は3.25倍であり、アニール時の弛緩率は25%であった。アニール時の弛緩率は、「(アニール炉のローラの出口最寄り部分の円周)/(アニール炉のローラの入口最寄り部分の円周)」で算出される値である。
【0057】
評価用繊維の表面における金属塩の金属、帯電防止剤及びシリコーン化合物の付着量(単位:質量%)を評価用繊維中の有効成分の含有量として各表に示す。付着量は、繊維処理剤の減少量における固形分が評価用繊維の表面に付着していると仮定し、「((繊維処理工程における繊維処理剤の減少量×(繊維処理剤中の各試薬の有効成分割合[%]/100))/評価用繊維の総量)×100」により算出した。
【0058】
<評価>
上述の評価用繊維を用いて抗菌性、帯電防止性及び触感を評価した。結果を表1~3に示す。
【0059】
(抗菌性)
JIS Z 2801に基づき評価用繊維の抗菌性を評価した。試験菌として大腸菌及び黄色ブドウ球菌を用い、35℃で24時間放置した前後の生菌数の差(抗菌活性値)を測定した。3回の測定の平均値に基づき抗菌性を評価した。各表に平均値を示す。
【0060】
(帯電防止性)
上述の評価用繊維を束ねて長さ250mm、質量20gの繊維束を得た。続いて、23℃、50%RHの環境下で繊維束を24時間放置した後、デジタル超高抵抗/微少電流計(株式会社ADVANTEST、商品名:R8340)を用いて印加電圧10Vの条件で表面抵抗値を測定した。5回の測定の平均値に基づき帯電防止性を評価した。各表に平均値を示す。
【0061】
(触感)
触感として滑り性及びべたつきを評価した。上述の評価用繊維を束ねて長さ250mm、質量20gの繊維束を得た。人工毛髪用繊維処理技術者(実務経験5年以上)10人の手触りによって下記基準で繊維束の滑り性及びべたつきを判定した。
[滑り性]
A:技術者全員が、滑り性が良いと評価
B:滑り性が良いと評価した技術者が9割以上10割未満
C:滑り性が良いと評価した技術者が7割以上9割未満
D:滑り性が良いと評価した技術者が7割未満
[べたつき]
A:技術者全員が、べたつきがなく触感が良いと評価
B:べたつきがなく触感が良いと評価した技術者が9割以上10割未満
C:べたつきがなく触感が良いと評価した技術者が7割以上9割未満
D:べたつきがなく触感が良いと評価した技術者が7割未満
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
各表に示されるとおり、高分子化合物の金属塩として、銀、亜鉛及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含む金属塩を用いることにより、人工毛髪用繊維において抗菌性を付与できることが分かる。