(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】人工毛髪用繊維及びその製造方法、並びに、頭髪装飾品
(51)【国際特許分類】
A41G 3/00 20060101AFI20240613BHJP
D06M 11/83 20060101ALN20240613BHJP
D06M 13/46 20060101ALN20240613BHJP
【FI】
A41G3/00 A
D06M11/83
D06M13/46
(21)【出願番号】P 2022542602
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(86)【国際出願番号】 JP2021025649
(87)【国際公開番号】W WO2022034761
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2020136282
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021010998
(32)【優先日】2021-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 宏治
(72)【発明者】
【氏名】村岡 喬梓
(72)【発明者】
【氏名】相良 祐貴
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/094176(WO,A1)
【文献】特開平02-251604(JP,A)
【文献】特開2004-277903(JP,A)
【文献】特開2012-251256(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179803(WO,A1)
【文献】国際公開第2001/000920(WO,A1)
【文献】特開2012-193462(JP,A)
【文献】特開2002-285470(JP,A)
【文献】特開2011-184831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
D06M11/59
D06M11/83
D06M13/17
D06M13/432
D06M13/46
D06M15/263
D06M15/53
D06M15/643
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材繊維と、金属イオンと、帯電防止剤と、を有し、
前記金属イオン及び前記帯電防止剤が前記基材繊維の表面の少なくとも一部に存在し、
前記金属イオンが、銀イオン、亜鉛イオン及び銅イオンからなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
前記金属イオンの含有量が
、人工毛髪用繊維の全質量を基準として5.0×10
-5~1.0×10
-2質量%であり、
前記帯電防止剤が、カチオン性帯電防止剤及び非イオン性帯電防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
前記帯電防止剤の含有量が
、人工毛髪用繊維の全質量を基準として0.001~1質量%である、人工毛髪用繊維。
【請求項2】
前記基材繊維が塩化ビニル系樹脂を含む、請求項1に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項3】
前記基材繊維がポリエステル系樹脂を含む、請求項1又は2に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項4】
前記基材繊維がポリオレフィン系樹脂を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項5】
前記金属イオンが銀イオンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項6】
前記金属イオンが、高分子化合物と複合体を形成している、請求項1~5のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項7】
前記金属イオンが、高分子化合物の金属塩を形成している、請求項1~6のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項8】
前記帯電防止剤が、第4級アンモニウム塩及びグアニジン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項9】
前記帯電防止剤が、ポリアルキレングリコール及びプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドとの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項10】
前記カチオン性帯電防止剤及び前記非イオン性帯電防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種が、硫黄原子を含有しない帯電防止剤を含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項11】
前記基材繊維の表面の少なくとも一部に存在するアンモニア成分を更に有する、請求項1~
10のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維を備える、頭髪装飾品。
【請求項13】
金属イオン及び帯電防止剤を含有する処理剤に基材繊維を接触させる工程を備え、
前記金属イオンが、銀イオン、亜鉛イオン及び銅イオンからなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
前記金属イオンの含有量が、前記処理剤の全質量を基準として3.0×10
-4~3.0×10
-2質量%であり、
前記帯電防止剤が、カチオン性帯電防止剤及び非イオン性帯電防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
前記帯電防止剤の含有量が、前記処理剤の全質量を基準として0.005~4質量%である、人工毛髪用繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工毛髪用繊維及びその製造方法、頭髪装飾品等に関する。
【背景技術】
【0002】
人工毛髪用繊維(人工毛髪に用いられる繊維)は、頭髪装飾品において用いることができる。下記特許文献1には、繊維処理剤を用いて基材繊維に対して処理を施す技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
頭髪装飾品を使用する消費者は、頻繁には洗髪を行わない場合があることから、頭皮又は頭髪装飾品を清潔に保つことができず、菌が繁殖し、悪臭等が生じることがある。そのため、頭髪装飾品に用いられる人工毛髪用繊維に対しては抗菌性が求められる。
【0005】
また、静電気の発生を抑制する観点から、帯電防止性を付与するために人工毛髪用繊維において帯電防止剤を用いることが考えられる。しかしながら、本発明者の知見によれば、帯電防止剤を用いると、べたつき、ざらつき等の触感を劣化させる場合があり、人工毛髪用繊維においては、使用者に違和感を覚えさせることを防止する観点から、べたつき、ざらつき等の触感に優れることが求められる。
【0006】
本発明の一側面は、べたつき及びざらつきを抑制しつつ優れた抗菌性及び帯電防止性を有する人工毛髪用繊維を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、このような人工毛髪用繊維を備える頭髪装飾品を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、このような人工毛髪用繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、基材繊維と、金属イオンと、帯電防止剤と、を有し、前記金属イオン及び前記帯電防止剤が前記基材繊維の表面の少なくとも一部に存在し、前記金属イオンが、銀イオン、亜鉛イオン及び銅イオンからなる群より選ばれる少なくとも一種であり、前記金属イオンの含有量が、当該人工毛髪用繊維の全質量を基準として5.0×10-5~1.0×10-2質量%であり、前記帯電防止剤が、カチオン性帯電防止剤及び非イオン性帯電防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、前記帯電防止剤の含有量が、当該人工毛髪用繊維の全質量を基準として0.001~1質量%である、人工毛髪用繊維に関する。
【0008】
本発明の他の一側面は、上述の人工毛髪用繊維を備える、頭髪装飾品に関する。
【0009】
本発明の他の一側面は、金属イオン及び帯電防止剤を含有する処理剤に基材繊維を接触させる工程を備え、前記金属イオンが、銀イオン、亜鉛イオン及び銅イオンからなる群より選ばれる少なくとも一種であり、前記金属イオンの含有量が、前記処理剤の全質量を基準として3.0×10-4~3.0×10-2質量%であり、前記帯電防止剤が、カチオン性帯電防止剤及び非イオン性帯電防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、前記帯電防止剤の含有量が、前記処理剤の全質量を基準として0.005~4質量%である、人工毛髪用繊維の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面によれば、べたつき及びざらつきを抑制しつつ優れた抗菌性及び帯電防止性を有する人工毛髪用繊維を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、このような人工毛髪用繊維を備える頭髪装飾品を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、このような人工毛髪用繊維の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
数値範囲の「A以上」とは、A、及び、Aを超える範囲を意味する。数値範囲の「A以下」とは、A、及び、A未満の範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実験例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸、及び、それに対応するメタクリル酸の少なくとも一方を意味する。
【0013】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、基材繊維(繊維状の基材)と、金属イオンと、帯電防止剤と、を有し、金属イオン及び帯電防止剤が基材繊維の表面の少なくとも一部に存在している。本実施形態に係る人工毛髪用繊維において、金属イオンは、銀イオン、亜鉛イオン及び銅イオンからなる群より選ばれる少なくとも一種(以下、「金属イオンA」という)であり、金属イオンAの含有量は、当該人工毛髪用繊維の全質量を基準として5.0×10-5~1.0×10-2質量%であり、帯電防止剤は、カチオン性帯電防止剤及び非イオン性帯電防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種(以下、「帯電防止剤A」という)であり、帯電防止剤Aの含有量は、当該人工毛髪用繊維の全質量を基準として0.001~1質量%である。
【0014】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、べたつき及びざらつきを抑制しつつ優れた抗菌性及び帯電防止性を有する。「べたつき」とは、繊維に接触した際に感じる繊維表面のねばりを意味する。「ざらつき」とは、繊維に接触した際に感じる繊維表面の粗さを意味する。本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、優れた抗菌性として、黄色ブドウ球菌に対する優れた抗菌性を有することができる。
【0015】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、人工毛髪として用いることが可能であり、人工毛髪を得るために用いることもできる。本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、延伸処理後の繊維であってよく、未延伸の繊維であってもよい。
【0016】
基材繊維の材料としては、塩化ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂(塩化ビニル系樹脂に該当する樹脂を除く)、ポリオレフィン系樹脂(塩化ビニル系樹脂又は(メタ)アクリル系樹脂に該当する樹脂を除く)、ポリエステル系樹脂(塩化ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂に該当する樹脂を除く)、ポリアミド系樹脂等が挙げられ、これらの混合物を用いてよい。例えば、基材繊維は、塩化ビニル系樹脂を含む態様、ポリエステル系樹脂を含む態様、ポリオレフィン系樹脂を含む態様等であってよい。基材繊維は、塩化ビニル系樹脂、及び、塩化ビニル系樹脂とポリマーアロイを形成可能な成分の混合物を含んでよい。塩化ビニル系樹脂とポリマーアロイを形成可能な成分としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン樹脂(MBS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等が挙げられる。
【0017】
基材繊維は、優れた難燃性を得やすい観点、及び、頭髪装飾品への加工性に優れる観点から、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、塩化ビニル系樹脂を含むことがより好ましい。塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル由来の構造単位を有する重合体であり、塩化ビニルを単量体単位として有する重合体である。塩化ビニル系樹脂は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等により得ることが可能であり、繊維の初期着色性等に優れる観点から、懸濁重合により得られることが好ましい。
【0018】
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルの単独重合体(ホモポリマー、ポリ塩化ビニル)、塩化ビニルと他の単量体との共重合体等が挙げられ、これらの混合物を用いてもよい。塩化ビニルと他の単量体との共重合体としては、塩化ビニルとビニルエステル類との共重合体(塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-プロピオン酸ビニル共重合体等);塩化ビニルと(メタ)アクリル酸化合物((メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等)との共重合体(塩化ビニル-アクリル酸ブチル共重合体、塩化ビニル-アクリル酸2-エチルヘキシル共重合体等);塩化ビニルとオレフィン類との共重合体(塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体等);塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体などが挙げられる。塩化ビニル系樹脂は、(メタ)アクリル酸化合物由来の構造単位を有さなくてもよい。共重合体において、塩化ビニルとは異なる単量体の含有量は、成型加工性、糸特性等の要求品質に応じて決めることができる。塩化ビニル系樹脂は、頭髪装飾品への加工性に優れる観点から、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニルと(メタ)アクリル酸化合物との共重合体、及び、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、塩化ビニルの単独重合体、及び、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことがより好ましい。
【0019】
基材繊維における塩化ビニル系樹脂の含有量は、基材繊維の全質量を基準として、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上又は99質量%以上であってよい。基材繊維は、塩化ビニル系樹脂のみからなる(基材繊維の実質的に100質量%が塩化ビニル系樹脂である)態様であってもよい。
【0020】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸化合物((メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等)由来の構造単位を有する重合体であり、(メタ)アクリル酸化合物を単量体単位として有する重合体である。
【0021】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0022】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリメチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0023】
ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/10、ナイロン6/12等が挙げられる。
【0024】
基材繊維の平均繊度は、細繊度の人工毛髪用繊維を得るために延伸倍率を小さくすることが可能であり、延伸処理後の人工毛髪用繊維に光沢が発生しにくい観点から、未延伸時において、300デシテックス以下が好ましく、200デシテックス以下がより好ましい。
【0025】
金属イオンAは、基材繊維の表面の少なくとも一部に存在しており、例えば、基材繊維の表面の少なくとも一部に付着している。金属イオンAは、抗菌成分として用いることができる。金属イオンAは、基材繊維の表面の少なくとも一部に存在する金属塩に含まれていてよい。金属イオンAは、抗菌性が向上しやすい観点から、銀イオンを含むことが好ましい。
【0026】
金属イオンAは、高分子化合物と複合体(例えば高分子化合物の金属塩)を形成してよく、金属イオンA及び高分子化合物の複合体が基材繊維の表面の少なくとも一部に存在してよい。金属イオンAが高分子化合物と複合体を形成することにより、金属イオンAが基材繊維の表面に付着しやすい。金属イオンAは、例えば、高分子化合物と錯体を形成してよい。
【0027】
高分子化合物は、各種単量体由来の構造単位を有することができる。高分子鎖を与える単量体としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(ポリ(アルキレングリコール)アルキルエーテル(メタ)アクリレート(ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(メタ)アクリレート等)、(メタ)アクリル酸ブチルなど)、ビニル化合物(ビニルイミダゾール(1-ビニルイミダゾール等)、ビニルピリジン(4-ビニルピリジン等)など)、エチレン、ブタジエン、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、イソプレン、スチレンなどが挙げられる。高分子化合物は、(メタ)アクリル酸エステル由来の構造単位を有してよく((メタ)アクリル酸エステルを単量体単位として有してよく)、(メタ)アクリル酸エステル由来の構造単位と、ビニル化合物由来の構造単位と、を有してよい((メタ)アクリル酸エステル及びビニル化合物を単量体単位として有してよい)。
【0028】
金属イオンAの含有量は、優れた抗菌性を得る観点から、人工毛髪用繊維の全質量を基準として5.0×10-5質量%以上である。金属イオンAの含有量は、人工毛髪用繊維の優れたざらつき抑制効果を得る観点から、人工毛髪用繊維の全質量を基準として1.0×10-2質量%以下である。金属イオンAの含有量は、銀イオン、亜鉛イオン及び銅イオンの合計量である。
【0029】
金属イオンAの含有量、銀イオンの含有量、亜鉛イオンの含有量、又は、銅イオンの含有量は、優れた抗菌性を得やすい観点から、人工毛髪用繊維の全質量を基準として、8.0×10-5質量%以上、1.0×10-4質量%以上、2.0×10-4質量%以上、3.0×10-4質量%以上、4.0×10-4質量%以上、5.0×10-4質量%以上、7.0×10-4質量%以上、8.0×10-4質量%以上、1.0×10-3質量%以上、3.0×10-3質量%以上、4.0×10-3質量%以上、4.5×10-3質量%以上、5.0×10-3質量%以上、6.0×10-3質量%以上、7.0×10-3質量%以上、又は、8.0×10-3質量%以上が好ましい。
【0030】
金属イオンAの含有量、銀イオンの含有量、亜鉛イオンの含有量、又は、銅イオンの含有量は、人工毛髪用繊維の優れた触感(べたつき抑制効果、ざらつき抑制効果等)を得やすい観点から、人工毛髪用繊維の全質量を基準として、8.0×10-3質量%以下、7.0×10-3質量%以下、6.0×10-3質量%以下、5.0×10-3質量%以下、4.5×10-3質量%以下、4.0×10-3質量%以下、3.0×10-3質量%以下、1.0×10-3質量%以下、8.0×10-4質量%以下、7.0×10-4質量%以下、5.0×10-4質量%以下、4.0×10-4質量%以下、又は、3.0×10-4質量%以下が好ましい。
【0031】
金属イオンAの含有量、銀イオンの含有量、亜鉛イオンの含有量、又は、銅イオンの含有量は、抗菌性及び触感を高度に両立しやすい観点から、人工毛髪用繊維の全質量を基準として、8.0×10-5~8.0×10-3質量%、2.0×10-4~7.0×10-3質量%、4.0×10-4~6.0×10-3質量%、5.0×10-4~5.0×10-3質量%、1.0×10-3~5.0×10-3質量%、又は、3.0×10-3~5.0×10-3質量%が好ましい。
【0032】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、基材繊維の表面の少なくとも一部に存在する帯電防止剤Aを有する。帯電防止剤Aを用いることにより、帯電防止性を向上させることができる。帯電防止剤Aは、例えば、基材繊維の表面の少なくとも一部に付着している。帯電防止剤Aとしては、金属イオンAを含まない化合物を用いることができる。
【0033】
帯電防止剤Aは、帯電防止剤を基材繊維の表面の少なくとも一部に存在させやすい(人工毛髪用繊維の製造時においては、後述の繊維処理剤の安定性を高めやすい)ため優れた帯電防止性を得やすい観点から、カチオン性帯電防止剤及び非イオン性(ノニオン性)帯電防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
【0034】
カチオン性帯電防止剤としては、第4級アンモニウム塩、グアニジン化合物、イミダゾリン化合物、ピリジニウム化合物等が挙げられる。グアニジン化合物は、グアニジン及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことができる。第4級アンモニウム塩としては、テトラアルキルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムサルフェート、テトラアルキルアンモニウムハイドロサルフェート、トリアルキルアンモニウムクロライド、アリールトリアルキルアンモニウムクロライド等が挙げられる。グアニジン塩としては、グアニジン塩酸塩、グアニジンリン酸塩等が挙げられる。帯電防止剤Aは、べたつき及びざらつきを抑制しつつ優れた抗菌性及び帯電防止性を得やすい観点から、第4級アンモニウム塩及びグアニジン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0035】
非イオン性帯電防止剤としては、多価アルコール(例えば、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール)、多価アルコールの脂肪酸エステル、アルキレンオキサイド重合体(例えばプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドとの共重合体)などが挙げられる。帯電防止剤Aは、べたつき及びざらつきを抑制しつつ優れた抗菌性及び帯電防止性を得やすい観点から、多価アルコール及びアルキレンオキサイド重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、ポリアルキレングリコール及びプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドとの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことがより好ましい。
【0036】
ポリアルキレングリコール(例えばポリエチレングリコール)の重量平均分子量は、べたつき及びざらつきを抑制しつつ優れた抗菌性及び帯電防止性を得やすい観点から、下記の範囲であってよい。重量平均分子量は、100以上、200以上、300以上、400以上、500以上、550以上、又は、600以上であってよい。重量平均分子量は、2000以下、1500以下、1000以下、800以下、700以下、650以下、又は、600以下であってよい。これらの観点から、重量平均分子量は、100~2000、300~1000、又は、550~650であってよい。
【0037】
カチオン性帯電防止剤及び非イオン性帯電防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種は、帯電防止剤を基材繊維の表面の少なくとも一部に存在させやすい(人工毛髪用繊維の製造時においては、硫黄含有化合物の沈殿を抑制しやすいことにより、後述の繊維処理剤の安定性を高めやすい)ため優れた帯電防止性を得やすい観点から、硫黄原子を含有しない帯電防止剤を含むことが好ましい。
【0038】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、基材繊維の表面の少なくとも一部に存在する帯電防止剤としてアニオン性帯電防止剤、イオン液体等を有してよい。
【0039】
アニオン性帯電防止剤としては、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩(例えばポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩)等が挙げられる。
【0040】
イオン液体としては、イオン(陽イオン及び陰イオン)のみから構成される液体化合物塩を用いることができる。イオン液体の陽イオンとしては、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピロリニウムイオン、ピペリジニウムイオン、ピラジニウムイオン、ピリミジニウムイオン、トリアゾリウムイオン、トリアジニウムイオン、キノリニウムイオン、イソキノリニウムイオン、インドリニウムイオン、キノキサリニウムイオン、ピペラジニウムイオン、オキサゾリニウムイオン、チアゾリニウムイオン、モルホリニウムイオン等が挙げられる。イオン液体の陰イオンとしては、ハロゲン系イオン、ホウ素系イオン、リン系イオン、スルホン酸アニオン等が挙げられる。イオン液体としては、アミノ基を有するイオンを含むアミン塩を用いることができる。
【0041】
帯電防止剤Aの含有量は、優れた帯電防止性を得る観点から、人工毛髪用繊維の全質量を基準として0.001質量%以上である。帯電防止剤Aの含有量は、人工毛髪用繊維の優れたべたつき抑制効果を得る観点から、1質量%以下である。帯電防止剤Aの含有量は、カチオン性帯電防止剤及び非イオン性帯電防止剤の合計量である。
【0042】
帯電防止剤Aの含有量、カチオン性帯電防止剤の含有量、又は、非イオン性帯電防止剤の含有量は、優れた帯電防止性を得やすい観点から、人工毛髪用繊維の全質量を基準として、0.005質量%以上、0.01質量%以上、0.015質量%以上、0.02質量%以上、0.03質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.15質量%以上、0.19質量%以上、0.2質量%以上、0.25質量%以上、0.3質量%以上、0.35質量%以上、0.4質量%以上、0.5質量%以上、0.6質量%以上、0.8質量%以上、又は、0.9質量%以上が好ましい。
【0043】
帯電防止剤Aの含有量、カチオン性帯電防止剤の含有量、又は、非イオン性帯電防止剤の含有量は、人工毛髪用繊維の優れたべたつき抑制効果を得やすい観点から、人工毛髪用繊維の全質量を基準として、0.9質量%以下、0.8質量%以下、0.6質量%以下、0.5質量%以下、0.4質量%以下、0.35質量%以下、0.3質量%以下、0.25質量%以下、0.2質量%以下、0.19質量%以下、0.15質量%以下、0.1質量%以下、0.05質量%以下、0.03質量%以下、0.02質量%以下、0.015質量%以下、0.01質量%以下、又は、0.005質量%以下が好ましい。
【0044】
これらの観点から、帯電防止剤Aの含有量、カチオン性帯電防止剤の含有量、又は、非イオン性帯電防止剤の含有量は、人工毛髪用繊維の全質量を基準として、0.005~0.9質量%、0.01~0.9質量%、0.01~0.5質量%、0.02~0.5質量%、0.02~0.4質量%、0.02~0.3質量%、0.03~0.3質量%、又は、0.05~0.2質量%が好ましい。
【0045】
帯電防止剤Aの含有量、カチオン性帯電防止剤の含有量、又は、非イオン性帯電防止剤の含有量は、100質量部の金属イオンAに対して下記の範囲が好ましい。
【0046】
帯電防止剤Aの含有量、カチオン性帯電防止剤の含有量、又は、非イオン性帯電防止剤の含有量は、べたつき及びざらつきを抑制しつつ優れた抗菌性及び帯電防止性を得やすい観点から、1.0×102質量部以上、1.1×102質量部以上、2.0×102質量部以上、2.2×102質量部以上、3.0×102質量部以上、4.0×102質量部以上、4.4×102質量部以上、5.0×102質量部以上、6.0×102質量部以上、6.3×102質量部以上、7.0×102質量部以上、1.0×103質量部以上、1.1×103質量部以上、2.0×103質量部以上、2.2×103質量部以上、3.0×103質量部以上、4.0×103質量部以上、4.4×103質量部以上、5.0×103質量部以上、6.0×103質量部以上、8.0×103質量部以上、1.0×104質量部以上、1.7×104質量部以上、2.0×104質量部以上、3.0×104質量部以上、5.0×104質量部以上、又は、6.0×104質量部以上が好ましい。
【0047】
帯電防止剤Aの含有量、カチオン性帯電防止剤の含有量、又は、非イオン性帯電防止剤の含有量は、べたつき及びざらつきを抑制しつつ優れた抗菌性及び帯電防止性を得やすい観点から、1.0×105質量部以下、8.0×104質量部以下、6.0×104質量部以下、5.0×104質量部以下、3.0×104質量部以下、2.0×104質量部以下、1.7×104質量部以下、1.0×104質量部以下、8.0×103質量部以下、6.0×103質量部以下、5.0×103質量部以下、4.4×103質量部以下、4.0×103質量部以下、3.0×103質量部以下、2.2×103質量部以下、2.0×103質量部以下、1.1×103質量部以下、1.0×103質量部以下、7.0×102質量部以下、6.3×102質量部以下、6.0×102質量部以下、5.0×102質量部以下、4.4×102質量部以下、4.0×102質量部以下、3.0×102質量部以下、2.2×102質量部以下、2.0×102質量部以下、又は、1.1×102質量部以下が好ましい。
【0048】
これらの観点から、帯電防止剤Aの含有量、カチオン性帯電防止剤の含有量、又は、非イオン性帯電防止剤の含有量は、1.0×102~1.0×105質量部、3.0×102~5.0×104質量部、5.0×102~3.0×104質量部、7.0×102~2.0×104質量部、又は、1.0×102~1.0×104質量部が好ましい。
【0049】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、基材繊維の表面の少なくとも一部に存在するアンモニア成分(帯電防止剤Aに該当する成分を除く)を有してよく、このようなアンモニア成分を有さなくてもよい。アンモニア成分を用いることにより、金属イオン又は帯電防止剤を基材繊維の表面の少なくとも一部に存在させやすい(人工毛髪用繊維の製造時においては、後述の繊維処理剤の安定性を高めやすい)ため、べたつき及びざらつきを抑制しつつ優れた抗菌性及び帯電防止性を得やすい。アンモニア成分としては、アンモニア、アンモニウムカチオン(NH4
+)等が挙げられる。アンモニア成分は、水酸化アンモニウムとして存在してよい。
【0050】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、基材繊維の表面の少なくとも一部に存在する他の添加剤(金属イオンA、帯電防止剤A又はアンモニア成分に該当する成分を除く)を有してよい。このような添加剤としては、抗菌加工剤、消臭加工剤、防カビ加工剤、UVカット剤、柔軟剤、SR加工剤、芳香加工剤、難燃剤、消泡剤、香料等が挙げられる。添加剤としては、アミン化合物(例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)。帯電防止剤に該当する化合物を除く)、シリコーン化合物、アルカリ金属、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等を用いてよい。アミン化合物は、キレート効果を有する化合物であってよい。本実施形態に係る人工毛髪用繊維では、シリコーン化合物が基材繊維の表面に存在しなくてよい。本実施形態に係る人工毛髪用繊維では、ゼオライト及び炭化ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種が基材繊維の表面に存在しなくてよく、基材繊維が、ゼオライト及び炭化ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有しなくてよい。
【0051】
上述の金属イオンA、帯電防止剤A、アンモニア成分及び添加剤のそれぞれは、基材繊維の表面において、互いに同一箇所に存在してよく、互いに異なる箇所に存在してよい。本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、基材繊維の表面の少なくとも一部に存在する繊維処理剤(処理剤)を有してよく、繊維処理剤によって表面が処理された人工毛髪用繊維であってよい。
【0052】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の単繊度は、延伸処理後において下記の範囲が好ましい。単繊度は、20デシテックス以上が好ましい。単繊度は、100デシテックス以下が好ましい。これらの観点から、単繊度は、20~100デシテックスが好ましい。
【0053】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、金属イオンA及び帯電防止剤Aを含有する繊維処理剤(処理剤)に基材繊維を接触させることにより得られてよく、金属イオンA、帯電防止剤A等の各成分を個別に基材繊維に接触させることにより得られてよい。人工毛髪用繊維の製造方法の一例として、本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、金属イオンA及び帯電防止剤Aを含有する繊維処理剤(処理剤)に基材繊維を接触させる繊維処理工程を備える。繊維処理剤は、水等の液状成分を含有する処理液であってよい。繊維処理剤は、金属イオンA及び帯電防止剤Aに加えて上述のアンモニア成分、添加剤等を含有してよい。
【0054】
繊維処理剤において金属イオンAの含有量は、優れた抗菌性を得る観点から、繊維処理剤の全質量を基準として3.0×10-4質量%以上である。繊維処理剤において金属イオンAの含有量は、人工毛髪用繊維の優れたざらつき抑制効果を得る観点から、繊維処理剤の全質量を基準として3.0×10-2質量%以下である。すなわち、繊維処理剤において金属イオンAの含有量は、繊維処理剤の全質量を基準として3.0×10-4~3.0×10-2質量%である。
【0055】
金属イオンAの含有量、銀イオンの含有量、亜鉛イオンの含有量、又は、銅イオンの含有量は、優れた抗菌性を得やすい観点から、繊維処理剤の全質量を基準として、5.0×10-4質量%以上、8.0×10-4質量%以上、9.0×10-4質量%以上、9.8×10-4質量%以上、1.0×10-3質量%以上、3.0×10-3質量%以上、5.0×10-3質量%以上、8.0×10-3質量%以上、1.0×10-2質量%以上、1.5×10-2質量%以上、2.0×10-2質量%以上、又は、2.5×10-2質量%以上が好ましい。
【0056】
金属イオンAの含有量、銀イオンの含有量、亜鉛イオンの含有量、又は、銅イオンの含有量は、人工毛髪用繊維の優れた触感(べたつき抑制効果、ざらつき抑制効果等)を得やすい観点から、繊維処理剤の全質量を基準として、2.5×10-2質量%以下、2.0×10-2質量%以下、1.5×10-2質量%以下、1.0×10-2質量%以下、8.0×10-3質量%以下、5.0×10-3質量%以下、3.0×10-3質量%以下、1.0×10-3質量%以下、又は、9.8×10-4質量%以下が好ましい。
【0057】
金属イオンAの含有量、銀イオンの含有量、亜鉛イオンの含有量、又は、銅イオンの含有量は、抗菌性及び触感を高度に両立しやすい観点から、繊維処理剤の全質量を基準として、5.0×10-4~2.5×10-2質量%、9.0×10-4~2.5×10-2質量%、1.0×10-3~2.0×10-2質量%、5.0×10-3~2.0×10-2質量%、又は、1.0×10-3~2.0×10-2質量%が好ましい。
【0058】
繊維処理剤において帯電防止剤Aの含有量は、優れた帯電防止性を得る観点から、繊維処理剤の全質量を基準として0.005質量%以上である。繊維処理剤において帯電防止剤Aの含有量は、人工毛髪用繊維の優れたべたつき抑制効果を得る観点から、繊維処理剤の全質量を基準として4質量%以下である。すなわち、繊維処理剤において帯電防止剤Aの含有量は、繊維処理剤の全質量を基準として0.005~4質量%である。
【0059】
帯電防止剤Aの含有量、カチオン性帯電防止剤の含有量、又は、非イオン性帯電防止剤の含有量は、優れた帯電防止性を得やすい観点から、繊維処理剤の全質量を基準として、0.01質量%以上、0.02質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.15質量%以上、0.18質量%以上、0.19質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、0.8質量%以上、0.9質量%以上、1質量%以上、1.8質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、3.5質量%以上、又は、3.6質量%以上が好ましい。
【0060】
帯電防止剤Aの含有量、カチオン性帯電防止剤の含有量、又は、非イオン性帯電防止剤の含有量は、人工毛髪用繊維の優れたべたつき抑制効果を得やすい観点から、繊維処理剤の全質量を基準として、3.6質量%以下、3.5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1.8質量%以下、1質量%以下、0.9質量%以下、0.8質量%以下、0.5質量%以下、0.3質量%以下、0.2質量%以下、0.19質量%以下、0.18質量%以下、0.15質量%以下、0.1質量%以下、0.05質量%以下、又は、0.02質量%以下が好ましい。
【0061】
これらの観点から、帯電防止剤Aの含有量、カチオン性帯電防止剤の含有量、又は、非イオン性帯電防止剤の含有量は、繊維処理剤の全質量を基準として、0.01~3.6質量%、0.02~3質量%、0.05~1質量%、0.1~0.8質量%、0.1~0.5質量%、又は、0.1~0.3質量%が好ましい。
【0062】
繊維処理剤を用いる場合、繊維処理剤を基材繊維の表面の少なくとも一部に塗布することができる。この場合、繊維に液体を塗布する従来公知の手段を用いることができる。例えば、繊維処理剤が付着した表面を有するロールにより繊維処理剤を人工毛髪用繊維に塗布する手段(ロール転写法);繊維処理剤を貯めた液体槽に基材繊維を浸す手段;ブラシ、刷毛等の塗り具を介して基材繊維に繊維処理剤を付着させる手段等が挙げられる。
【0063】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、繊維処理工程の前に、基材繊維の材料を含有する組成物を紡糸することにより基材繊維を得る紡糸工程を備えてよい。紡糸工程では、基材繊維の材料を含有する組成物を溶融紡糸(溶融変形)することができる。
【0064】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、紡糸工程の前に、基材繊維の材料を含有する組成物を溶融混練する混練工程を備えてよい。溶融混練するための装置としては、種々の一般的な混練機を用いることができる。混練機としては、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー等が挙げられる。
【0065】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、繊維処理工程の前に、紡糸工程で得られた糸(未延伸糸)を延伸処理する延伸工程を備えてよい。
【0066】
延伸工程における延伸倍率は、繊維の強度発現が起こりやすい観点から、1.5倍以上が好ましく、2.0倍以上がより好ましい。延伸倍率は、延伸処理時に糸切れが発生しにくい観点から、5.0倍以下が好ましく、4.0倍以下がより好ましい。これらの観点から、延伸倍率は、1.5~5.0倍が好ましく、2.0~4.0倍がより好ましい。
【0067】
延伸処理は、未延伸糸を一旦ボビンに巻き取った後、紡糸工程と連続しない工程で延伸する2工程法で行われてよく、未延伸糸をボビンに巻き取ることなく紡糸工程と連続する工程で延伸する直接紡糸延伸法で行われてもよい。延伸処理は、1回で目的の延伸倍率まで延伸する一段延伸法で行われてよく、2回以上の延伸によって目的の延伸倍率まで延伸する多段延伸法で行われてよい。
【0068】
延伸処理の温度は、80~120℃が好ましい。温度が80℃以上であると、繊維の強度を充分に確保しやすいと共に糸切れが発生しにくい。温度が120℃以下であると、繊維の好適な触感が得られやすい。
【0069】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、延伸工程の後に、延伸工程で得られた糸(延伸糸)を熱処理(アニール)する熱処理工程を備えてよい。熱処理工程を行うことにより延伸糸の熱収縮率を低下させることができる。
【0070】
熱処理温度は、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。熱処理温度は、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。熱処理は、延伸処理の後に連続して行ってよく、一旦巻き取った後に時間をあけて行ってもよい。
【0071】
本実施形態に係る頭髪装飾品は、本実施形態に係る人工毛髪用繊維を備える。本実施形態に係る頭髪装飾品は、頭部に装脱着可能な物品であり、本実施形態に係る人工毛髪用繊維からなる態様(例えば、人工毛髪用繊維の繊維束)であってもよい。頭髪装飾品としては、かつら、ヘアウィッグ、ヘアピース、ブレード、エクステンションヘアー、つけ毛等が挙げられる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下において、「1.0E-03」、「1.0E+10」等の表記は「1.0×10-3」、「1.0×1010」等を意味する。
【0073】
<基材繊維の準備>
表1~4に示す下記基材繊維を準備した。
基材繊維A:塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニル(大洋塩ビ株式会社、商品名「TH-700」)を用いた繊維、弱軸の断面二次モーメントが10×10-4mm4である出口断面を有するノズルから紡糸された繊維(溶液紡糸法により作製された繊維)、平均繊度40~70デシテックス(100本の繊維の繊度の平均値)
基材繊維B:塩化ビニルとアクリル酸エステルとの共重合体の繊維、弱軸の断面二次モーメントが10×10-4mm4である出口断面を有するノズルから紡糸された繊維(溶液紡糸法により作製された繊維)、平均繊度40~70デシテックス(100本の繊維の繊度の平均値)
基材繊維C:ポリプロピレン繊維、弱軸の断面二次モーメントが10×10-4mm4である出口断面を有するノズルから紡糸された繊維(溶融紡糸法により作製された繊維)、平均繊度40~70デシテックス(100本の繊維の繊度の平均値)
基材繊維D:PET繊維、弱軸の断面二次モーメントが10×10-4mm4である出口断面を有するノズルから紡糸された繊維(溶融紡糸法により作製された繊維)、平均繊度40~70デシテックス(100本の繊維の繊度の平均値)
【0074】
<繊維処理剤の調製>
表1~4に示す成分(金属イオン源、帯電防止剤、アンモニウム水等)を混合することにより繊維処理剤を調製した。各表に示す成分として下記試薬を用いた。
【0075】
(金属イオン源)
金属イオン源A(Ag):自社調製品、銀イオン0.1質量%を含有する硝酸銀水溶液
金属イオン源B(Zn):自社調製品、亜鉛イオン0.1質量%を含有する硝酸亜鉛水溶液
金属イオン源C(Cu):自社調製品、銅イオン0.1質量%を含有する硝酸銅水溶液
金属イオン源D(Ag):デュポン社、商品名「SILVADUR 930 Flex Antimicrobial」、銀イオン、水酸化アンモニウム及び重合体を含有する水系分散液(銀イオン量:0.098質量%、水酸化アンモニウム量:0.25~1.0質量%、重合体:1-ビニルイミダゾール由来の構造単位及びポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート由来の構造単位を有する共重合体(銀イオンと複合体を形成する高分子化合物))
【0076】
(帯電防止剤)
[カチオン性帯電防止剤]
カチオン性帯電防止剤A:吉村油化学株式会社、商品名「GST-8」、グアニジン塩酸塩20質量%を含有する水溶液
カチオン性帯電防止剤B:自社調製品、第一工業製薬株式会社の商品名「カチオーゲンTML」を水で希釈して得られる水溶液(テトラアルキルアンモニウムクロライド20質量%を含有する水溶液(第4級アンモニウムクロライド水溶液))
カチオン性帯電防止剤C:自社調製品、第一工業製薬株式会社の商品名「カチオーゲンES-O」を水で希釈して得られる水溶液(テトラアルキルアンモニウム硫酸塩20質量%を含有する水溶液(第4級アンモニウム硫酸塩水溶液))
[非イオン性帯電防止剤]
非イオン性帯電防止剤A:自社調製品、重量平均分子量550~650のポリエチレングリコール(吉村油化学株式会社、商品名「PEG-600」)20質量%を含有する水溶液
非イオン性帯電防止剤B:吉村油化学株式会社、商品名「TYO-11」、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドとの共重合体20質量%を含有する水溶液
[アニオン性帯電防止剤]
自社調製品、日本乳化剤株式会社の商品名「アントックスEHD-PNA」を水で希釈して得られる水溶液(ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩20質量%を含有する水溶液(リン酸アニオン塩水溶液))
【0077】
(アンモニウム水)
富士フイルム和光純薬株式会社、商品名「アンモニア水」、アンモニア25質量%を含有するアンモニア水溶液
【0078】
<繊維処理剤の安定性>
目視確認により繊維処理剤における沈殿の有無を確認し、下記基準で評価した。具体的には、繊維処理剤を撹拌後、静置し、室温下で沈殿の有無を観察した。結果を表1~4に示す。
A:1週間以上沈殿形成せず
B:1日以上1週間未満で沈殿形成
C:半日以上1日未満で沈殿形成
D:半日未満で沈殿形成
【0079】
<評価用繊維の作製>
上述の基材繊維を100℃で延伸した後、基材繊維に対してロール転写法によって上述の繊維処理剤を塗布した。ロール転写の条件として、ロールの半径が125mmであり、ロールの下端から20mmの高さまでロールが繊維処理剤に浸かっており、ロール回転速度は8m/minであった。その後、120℃でアニールを行い、単繊度20~100デシテックスの評価用繊維(人工毛髪用繊維)を得た。延伸倍率は3.25倍であり、アニール時の弛緩率は25%であった。アニール時の弛緩率は、「(アニール炉のローラの出口最寄り部分の円周)/(アニール炉のローラの入口最寄り部分の円周)」で算出される値である。
【0080】
評価用繊維の表面における金属イオン及び帯電防止剤の付着量(単位:質量%)を評価用繊維中の有効成分の含有量として各表に示す。付着量は、繊維処理剤の減少量における固形分が評価用繊維の表面に付着していると仮定し、「((繊維処理工程における繊維処理剤の減少量×(繊維処理剤中の各試薬の有効成分割合[%]/100))/評価用繊維の総量)×100」により算出した。
【0081】
<評価>
上述の評価用繊維を用いて抗菌性、帯電防止性、触感及び難燃性を評価した。結果を表1~4に示す。各表に示されるとおり、実施例では、べたつき及びざらつきを抑制しつつ優れた抗菌性及び帯電防止性が得られることが分かる。
【0082】
(抗菌性)
JIS L 1902に基づき評価用繊維の抗菌性を評価した。試験菌として黄色ブドウ球菌を用い、37℃で18時間放置した前後の抗菌活性値(生菌数の差)を測定した。「抗菌活性値」とは、JIS L 1902の「菌液吸収法」で定義される下記の値である。
A=(logCt-logC0)-(logTt-logT0)
A:抗菌活性値
Ct:18時間培養後の対象試料3検体の生菌数の算術平均の常用対数
C0:接種直後の対象試料3検体の生菌数の算術平均の常用定数
Tt:18時間培養後の試験試料3検体の生菌数の算術平均の常用対数
T0:接種直後の試験試料3検体の生菌数の算術平均の常用対数
【0083】
(帯電防止性)
上述の評価用繊維を束ねて長さ250mm、質量20gの繊維束を得た。続いて、23℃、50%RHの環境下で繊維束を24時間放置した後、デジタル超高抵抗/微少電流計(株式会社ADVANTEST、商品名:R8340)を用いて印加電圧10Vの条件で表面抵抗値を測定した。5回の測定の平均値に基づき帯電防止性を評価した。各表に平均値を示す。
【0084】
(触感)
触感としてべたつき及びざらつきを評価した。上述の評価用繊維を束ねて長さ250mm、質量20gの繊維束を得た。人工毛髪用繊維処理技術者(実務経験5年以上)10人の手触りによって下記基準で繊維束のべたつき及びざらつきを評価した。NG評価が一人でも存在する場合には「NG」と判定し、NG評価がない場合には、合計点数を算出した。各表に合計点数を示す。
[べたつき]
3点:べたつきがない
1点:許容範囲のべたつきがある
NG:許容し得ないべたつきがある
[ざらつき]
3点:ざらつきがない
1点:許容範囲のざらつきがある
NG:許容し得ないざらつきがある
【0085】
(難燃性)
上述の評価用繊維を束ねて長さ200mm、質量1gの繊維束を10本得た。続いて、23℃、50%RHの環境下で繊維束を24時間放置した。その後、着火器具(株式会社東海、商品名:CRチャッカマン)を用いて繊維束を3秒間火に曝し、自然に火が消えるか否かを確認した。下記基準で判定した。
A:10本全ての繊維束で火が消える
B:1~9本の繊維束で火が消える
C:全ての繊維束で火が消えない
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】