(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】金属不純物含有量の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/96 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
G01N30/96 B
(21)【出願番号】P 2022561345
(86)(22)【出願日】2021-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2021037874
(87)【国際公開番号】W WO2022102326
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2020188471
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】蔦野 恭平
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/221186(WO,A1)
【文献】特開平11-153586(JP,A)
【文献】特開2001-015384(JP,A)
【文献】特開2014-028370(JP,A)
【文献】特開2010-243476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中の金属不純物の含有量を分析する方法であって、
該液体をイオン交換体に通液する通液工程と、
該イオン交換体に捕捉された金属不純物を溶離液で溶離して回収する溶離工程と、
該溶離した金属不純物を含む溶離液を分析して、該液体中の金属不純物の含有量を測定する測定工程と
を有し、
前記イオン交換体は、同イオン形のイオン交換体を2単位以上直列に接続して使用し、
前記イオン交換体の1単位あたりの体積が0.5~5.0mlであり、かつ、該1単位あたりの差圧係数が0.01MPa/LV/m以下であ
り、
上段から順番に前記溶離工程と測定工程を前記イオン交換体の1単位毎に行い、前記測定工程で測定した前記液体中の金属不純物の含有量が定量下限値未満となった場合に、定量下限値未満になるまでの前記液体中の金属不純物の含有量の合計量を、前記液体中の金属不純物の含有量とすることを特徴とする分析方法。
【請求項2】
前記イオン交換体へ通液する前記液体における分析対象の金属不純物の濃度は、一つの金属元素に基づく金属不純物の濃度が1ng/L未満であることを特徴とする請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記イオン交換体がモノリス状有機多孔質イオン交換体である請求項1または2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記イオン交換体の単位数は、最後段のイオン交換体に基づいて分析した金属不純物の含有量が定量下限値未満となる最小数である請求項1~3のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項5】
前記測定工程で測定した前記液体中の金属不純物の含有量が最下段のイオン交換体で定量下限値未満にならなかった場合は、該最下段のイオン交換体の下流側に同イオン形のイオン交換体の単位をさらに直列に接続し、1単位接続する毎に前記通液工程と前記溶離工程と前記測定工程を行い、前記測定工程で測定した前記液体中の金属不純物の含有量が定量下限値未満となった時点で、定量下限値未満になるまでの前記液体中の金属不純物の含有量の合計量を、前記液体中の金属不純物の含有量とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項6】
前記通液工程において、前記イオン交換体として並列に接続された第1のイオン交換体及び第2のイオン交換体を用い、
前記第1のイオン交換体は、第1のイオン形のイオン交換体を2単位以上直列に接続して使用し、
前記第2のイオン交換体は、第2のイオン形のイオン交換体を2単位以上直列に接続して使用する、請求項1~5のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項7】
前記通液工程において、前記イオン交換体は、第1のイオン形のイオン交換体を含む第1のイオン交換体と、第2のイオン形のイオン交換体を含む第2のイオン交換体とを直列に接続して使用し、前記第1及び第2のイオン交換体の少なくとも一方は、同イオン形のイオン交換体を2単位以上直列に接続して使用する、請求項1~5のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項8】
前記イオン交換体がモノリス状有機多孔質イオン交換体であり、該モノリスイオン交換体の体積当たりのイオン交換量が0.1~1.0mg当量/mL(水湿潤状態)又は0.2~1.0mg当量/mL(水湿潤状態)である、請求項1~7のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項9】
分析対象の金属不純物が、Li,Be、B、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、As、Sr、Zr、Mo、Pd、Ag、Cd、Sn、Ba、W、Au、Pbのうちのいずれか1種又は2種以上の元素である、請求項1~8のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の分析方法に使用され、液体中の金属不純物の含有量を測定する測定キットであって、
前記液体が通液されるイオン交換体と、
該イオン交換体に通液された液体の量を計測するための積算流量計と、
を有し、
前記イオン交換体は同イオン形のイオン交換体を2単位以上直列に接続して設けられ、前記イオン交換体の1単位あたりの体積が0.5~5.0mlであり、かつ、該1単位あたりの差圧係数が0.01MPa/LV/m以下であることを特徴とする測定キット。
【請求項11】
前記イオン交換体がモノリス状有機多孔質イオン交換体である請求項
10に記載の測定キット。
【請求項12】
前記イオン交換体の単位数は、最後段のイオン交換体に基づいて分析した金属不純物の含有量が定量下限値未満となる最小数である請求項
10または
11に記載の測定キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水や超純水製造工程中の工程水、半導体洗浄に用いる薬剤や有機溶媒などの液体中に微量に含まれる金属不純物の含有量を分析するための分析方法及びそれに用いられる測定キットに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスや医薬品製造プロセスでは、イオン性不純物の含有量が極めて低い超純水が用いられている。そのため、半導体製造プロセスや医薬品製造プロセスに用いられる超純水の製造においては、最終的に製造される超純水、又は超純水製造工程の工程水に微量に含有されているイオン性不純物の含有量を把握することが重要である。
【0003】
特許文献1には、イオン交換機能を有する官能基を持つ多孔質膜に流体を所定量通過させ、多孔質膜に流体中の不純物を捕捉させ、捕捉した不純物を多孔質膜から溶離して、溶離液中の不純物濃度を測定し、この測定濃度から流体中の不純物濃度を算出する分析方法が開示される。
【0004】
ところで、超純水中の金属不純物は、種類や形態は定かではないが、イオンの他、凝集状態のコロイドや分散状態の微粒子で存在する可能性がある。コロイドや微粒子の表面電荷密度はイオンに比べて小さく、イオン交換樹脂との静電気的な相互作用が小さい。
【0005】
特許文献2では、多孔質膜に代えてモノリス状有機多孔質イオン交換体を使用して、超純水中の微量の金属不純物を分析する方法を開示している。
【0006】
モノリス状有機多孔質イオン交換体は網目状の流路を持っており、静電気的な相互作用に加えて、微粒子を物理的に吸着又は捕捉する作用を有する。また、モノリス状有機多孔質アニオン交換体を使用することで、錯形成したアニオン状態の金属不純物の吸着又は捕捉が出来る。また、モノリス状有機多孔質カチオン交換体を使用することで、カチオン状態の金属イオンを吸着または捕捉できる。すなわち、超純水中の金属不純物を効果的に吸着又は捕捉することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-153854号公報
【文献】国際公開第2019/221186号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の分析方法では、サブμg/Lレベル(サブppbレベル)での分析が可能となる。さらに近年では、超純水中の不純物のようにより低濃度の不純物の分析が必要となっている。
【0009】
特許文献2では、分析対象水を、モノリス状有機多孔質アニオン交換体に通液することにより、該分析対象水中の金属不純物を、該モノリス状有機多孔質アニオン交換体に捕捉させる不純物捕捉工程と、溶離液を、該分析対象水中の金属不純物を捕捉させた該モノリス状有機多孔質アニオン交換体に通液し、排出液を回収することにより、該モノリス状有機多孔質アニオン交換体から溶離した該分析対象水中の金属不純物を含有する回収溶離液を得る溶離工程と、該回収溶離液中の各金属不純物の含有量を測定する測定工程と、を有し、ng/L(ppt)レベルの金属不純物の分析が可能となっている。さらに上記モノリス状有機多孔質アニオン交換体をモノリス状有機多孔質カチオン交換体に変更したり、アニオン交換体とカチオン交換体とを組み合わせて使用したりする態様も開示されている。
【0010】
アルカリ金属やアルカリ土類金属はアニオン交換体では吸着されにくく、ホウ素などは逆にカチオン交換体では吸着されにくい。モノリスの種類によって吸着性能に差があるものでもアニオン交換体とカチオン交換体とを組み合わせて使用することで99%超のほぼ完全な吸着が可能となる。
【0011】
ここで、分析対象となる金属不純物の濃度が低くなるほど、分析対象以外に含まれる金属不純物の影響が問題となる。そのため、通液量を多くしてイオン交換等での濃縮倍率を高める必要がある。しかし、濃縮量が高くなるとイオン交換体でイオンが十分に吸着・捕捉できず、漏れ出す場合があり、液体中の金属不純物の含有量の正確な分析ができなくなる。
【0012】
従って、本発明の目的は、低濃度の金属不純物を含む液体中の金属不純物の含有量をより正確に分析する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、以下に示す本発明により解決される。
すなわち、本発明の一態様によれば、
液体中の金属不純物の含有量を分析する方法であって、
該液体をイオン交換体に通液する通液工程と、
該イオン交換体に捕捉された金属不純物を溶離液で溶離して回収する溶離工程と、
該溶離した金属不純物を含む溶離液を分析して、該溶離液中の金属不純物の含有量を測定する測定工程と
を有し、
前記イオン交換体は、同イオン形のイオン交換体を2単位以上直列に接続して使用し、
前記イオン交換体の1単位あたりの体積が0.5~5.0mlであり、かつ、該1単位あたりの差圧係数が0.01MPa/LV/m以下であることを特徴とする液体中の金属不純物の分析方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、液体中の1ng/L未満の金属不純物の含有量を、より正確に分析できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のイオン交換体の組み合わせ(測定キット)の一例を説明する概念図である。
【
図2】本発明のイオン交換体の組み合わせ(測定キット)の他の一例を説明する概念図である。
【
図3】本発明のイオン交換体の組み合わせ(測定キット)の他の一例を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の分析方法は、液体中の金属不純物の含有量を分析する方法であって、
該液体をイオン交換体に通液する通液工程と、
該イオン交換体に捕捉された金属不純物を溶離液で溶離して回収する溶離工程と、
該溶離した金属不純物を含む溶離液を分析して該溶離液中の金属不純物の含有量を測定する測定工程と
を有し、
前記イオン交換体は、同イオン形のイオン交換体を2単位以上直列に接続して使用し、前記イオン交換体の1単位あたりの体積が0.5~5.0mlであることを特徴とする。
特に本発明では、上段から順番に前記溶離工程と測定工程を前記イオン交換体の1単位毎に行い、前記測定工程で測定した前記液体中の金属不純物の含有量が定量下限値未満となった場合に、定量下限値未満になるまでの前記液体中の金属不純物の含有量の合計量を、前記液体中の金属不純物の含有量とすることを特徴とする。
【0017】
本発明において、使用するイオン交換体としては、特に制限されず、膜状、粒状(樹脂)、多孔質材料など、イオン交換能を有する官能基が導入されたものであれば、無機系あるいは有機系のいずれも使用することができる。特に後述する多孔質イオン交換体、中でも、モノリス状有機多孔質イオン交換体であることが好ましい。以下、モノリス状有機多孔質イオン交換体(単にモノリスイオン交換体という)を用いる場合について説明する。また、分析対象となる液体としては、超純水や超純水製造工程中の工程水、半導体洗浄に用いる薬剤や有機溶媒など、極微量の金属不純物の存在が問題となる液体が挙げられる。以下、液体として超純水を例に説明する。
【0018】
(通液工程)
分析対象となる超純水を多孔質イオン交換体(モノリスイオン交換体)に通液して、超純水中の金属不純物をモノリスイオン交換体に捕捉させる。
本発明において分析対象となる超純水としては、半導体製造プロセス、医薬品製造プロセス等のユースポイントで用いられる超純水を製造するための超純水製造工程により得られる超純水、又は超純水製造工程の途中の工程水が挙げられる。本発明では、この超純水中に含まれる1ng/L未満の金属不純物を分析する。ここで、「1ng/L未満」とは一つの金属元素に基づく金属不純物の濃度である。
なお、本発明において、超純水製造工程の途中の工程水とは、例えば、超純水製造工程の一次純水製造系から二次純水製造系に移送される水、二次純水製造系の紫外線酸化装置からイオン交換樹脂が充填された非再生式のカートリッジポリッシャーに移送される水、イオン交換樹脂が充填された非再生式のカートリッジポリッシャーから脱気膜装置に移送される水、脱気膜装置から限外ろ過膜装置に移送される水、限外ろ過膜装置からユースポイントに移送される水等の超純水製造工程の途中で生じる水全般を指す(以下において同じ)。
【0019】
分析対象の金属不純物としては、Li,Be、B、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、As、Sr、Zr、Mo、Pd、Ag、Cd、Sn、Ba、W、Au、Pbのうちのいずれか1種又は2種以上の元素である。特にアルカリ金属及びアルカリ土類金属元素であることが好ましい。
また、半導体製造プロセスに用いられる超純水中には、微粒子が含まれることがある。この微粒子は、例えば、原料水中に元々含まれている微粒子や、超純水の送液ライン中の配管材又は継手などから発生する金属酸化物微粒子等である。そのようなことから、半導体製造プロセスに用いられる超純水においては、イオン性の不純物の含有量の分析に加えて、そのような微粒子の含有量の分析をすることが必要になる。金属微粒子の大きさは特に制限されないが、例えば、1~100nmである。
【0020】
また、金属不純物は、イオン性不純物、コロイド状や単分散等の微粒子、錯体の状態で存在している。
分析対象水中で各イオン性不純物元素は、カチオンの状態で、あるいは、オキソアニオンの状態で、あるいは、カチオンの状態とオキソアニオンの状態が混在した状態で存在している。また、分析対象水中で、金属不純物微粒子は、コロイド状、又は単分散の状態で存在している。
【0021】
モノリスイオン交換体は所定の大きさ・形状に成形されたものを所定の容器内に封入し、複数直列に接続して使用する。モノリスイオン交換体の形状としては、柱状構造であることが好ましく、円柱状や角柱状(例えば3~8角柱)などの形状が好ましい。
1単位あたりのイオン交換体とは、体積が0.5~5.0mlであり、かつ、差圧係数が0.01MPa/LV/m以下である。
また、本発明における「1単位」とは、一つの容器に封入されるイオン交換体のことである。
このようなイオン交換体は1単位毎に流入口と流出口とを備える容器に収納され、「直列に接続」するとは、上流のイオン交換体を内包する容器の流出口と下流のイオン交換体を内包する容器の流入口とを接続することを意味する。
また、複数とは、2個以上の容器を接続することを意味するが、接続数が増加するほど圧力損失が大きくなる傾向にあり、過度に多くの容器を接続する必要はない。
本発明において、接続数の上限は、後述する使用するイオン交換体の特性、大きさにより、一概に限定できるものではないが、最後段のイオン交換体に基づいて分析した金属不純物の含有量が定量下限値未満となる最小数を接続することが好ましい。
複数の容器を直列に接続した場合、例えば、上段側(液体の流れ方向の上流側)から順番に溶離工程(後述する)及び測定工程(後述する)を1単位毎に行い、測定工程で測定した液体中の金属不純物の含有量が定量下限値未満となった場合に、定量下限値未満になるまでの液体中の金属不純物の含有量の合計量を、液体中の金属不純物の含有量とすることができる。
また、最下段(液体の流れ方向の下流側)のイオン交換体で定量下限値にならなかった場合には、最下段のイオン交換体の下流側に更にイオン交換体を追加したり、或いは、イオン交換体の濃縮量(イオン交換体に流す全体流量)を減らすことが望ましい。
なお、一つの容器に収納したイオン交換体を称して「フローセル」と言うことがある。
【0022】
本発明に係るモノリスイオン交換体は、モノリス状有機多孔質体にイオン交換基(カチオン交換基又はアニオン交換基)が導入されている多孔質体である。モノリスイオン交換体に係るモノリス状有機多孔質体は、骨格が有機ポリマーにより形成されており、骨格間に液の流路となる連通孔を多数有する多孔質体である。そして、モノリスイオン交換体は、このモノリス状有機多孔質体の骨格中にイオン交換基が均一に分布するように導入されている多孔質体である。
【0023】
なお、本明細書中、「モノリス状有機多孔質体」を単に「モノリス」とも言い、該モノリスにイオン交換基を導入した「モノリス状有機多孔質イオン交換体」を単に「モノリスイオン交換体」という。また、アニオン交換基を導入したものを「アニオン形モノリスイオン交換体」と言い、該モノリスにカチオン交換基を導入したものを「カチオン形モノリスイオン交換体」と言う。
【0024】
本発明に係るモノリスイオン交換体は、モノリスにイオン交換基を導入することで得られるものであり、その構造は、連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体であって、連続骨格の厚みは1~100μm、連続空孔の平均直径は1~1000μm、全細孔容積は0.5~50mL/gであることが好ましい。
【0025】
モノリスイオン交換体の乾燥状態での連続骨格の厚みは1~100μmであることが好ましい。モノリスイオン交換体の連続骨格の厚みが、1μm以上であると、体積当りのイオン交換容量が低下することがなく、機械的強度の低下が抑制され、特に高流速で通液した際にモノリスイオン交換体の変形が抑制できる。一方、モノリスイオン交換体の連続骨格の厚みが、100μm以下であれば、骨格が太くなり過ぎることはない。なお、連続骨格の厚みは、SEM観察により決定される。
【0026】
モノリスイオン交換体の乾燥状態での連続空孔の平均直径は、1~1000μmであることが好ましい。モノリスイオン交換体の連続空孔の平均直径が、1μm以上であれば、通水時の圧力損失の上昇を抑制できる。一方、モノリスイオン交換体の連続空孔の平均直径が、1000μm以下であれば、被処理液とモノリスイオン交換体との接触が十分となり、所定の捕捉力を維持することができる。なお、モノリスイオン交換体の乾燥状態での連続空孔の平均直径は、水銀圧入法により測定され、水銀圧入法により得られた細孔分布曲線の極大値を指す。
【0027】
モノリスイオン交換体の乾燥状態での全細孔容積は0.5~50mL/gであることが好ましい。モノリスイオン交換体の全細孔容積が、0.5mL/g以上であると、被処理液の接触効率が十分確保でき、更に、単位断面積当りの透過液量も問題なく、処理量の低下を抑制できる。一方、モノリスイオン交換体の全細孔容積が、50mL/g以下であれば、体積当りの所望のイオン交換容量が確保でき、所定の捕捉力を維持できる。また、機械的強度の低下が抑制され、特に高速で通液した際にモノリスイオン交換体が大きく変形し、通液時の圧力損失が急上昇してしまうことを防止できる。なお、全細孔容積は、水銀圧入法で測定される。
【0028】
このようなモノリスイオン交換体の構造例としては、特開2002-306976号公報や特開2009-62512号公報に開示されている連続気泡構造や、特開2009-67982号公報に開示されている共連続構造や、特開2009-7550号公報に開示されている粒子凝集型構造や、特開2009-108294号公報に開示されている粒子複合型構造等が挙げられる。
【0029】
モノリスイオン交換体の体積当りのイオン交換容量は、0.2~1.0mg当量/mL(水湿潤状態)であることが好ましい。モノリスイオン交換体のイオン交換容量が、0.2mg当量/mL以上であれば、破過するまでの処理水量が本発明の一回当たりの処理水量を十分に確保できる。一方、イオン交換容量が1.0mg当量/mL以下であれば、通水時の圧力損失は問題のない範囲となる。なお、イオン交換基が骨格表面のみに導入された多孔質体のイオン交換容量は、多孔質体やイオン交換基の種類により一概には決定できないものの、せいぜい500μg当量/gである。
【0030】
<溶離工程>
本発明では、次に多孔質イオン交換体(モノリスイオン交換体)に捕捉された金属不純物を溶離液で溶離して回収する工程を実施する。この工程を「溶離工程」と呼ぶ。
【0031】
溶離液は、酸を含有する水溶液である。溶離液に含有される酸としては、イオン交換体に影響しないものであれば特に制限されず、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸等の無機酸、メタンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。これらのうち、溶離液に含有される酸としては、モノリスイオン交換体からのイオン性不純物元素が溶離し易く、また、高純度の試薬が必要である点から、硝酸、硫酸、塩酸が好ましい。
【0032】
溶離液中の酸濃度は、特に制限されないが、本発明の分析方法は、溶離液中の酸濃度を低くすることができるため、定量下限値を低くすることができる。そのため、溶離液中の酸濃度は、定量下限値が低くなる点で、好ましくは0.1~2.0N、より好ましくは0.5~2.0Nである。酸濃度が0.1N以上であると回収する液量が増加することを抑制できる。一方、酸濃度が2.0N以下であれば、分析装置の定量下限値が高くなることを抑制できる。また、溶離液としては、各金属不純物の含有量が100ppt以下のものが好ましく、各金属不純物の含有量が100ppt以下の硝酸又は塩酸がより好ましく、各金属不純物の含有量が10ppt以下の硝酸又は塩酸が特に好ましい。
【0033】
溶離工程において、モノリスイオン交換体に通液する溶離液の量は、モノリスイオン交換体の種類や厚み、通水速度、等により、適宜選択される。本発明の分析方法では、モノリスイオン交換体から金属元素が溶離し易いので、本発明の金属不純物の分析方法は、溶離液の通液量を少なくすることができる。そして、溶離液の通液量の減少は、測定時間の短縮に繋がる。
【0034】
溶離工程において、モノリスイオン交換体に溶離液を通液するときの通液条件は、特に制限されない。空間速度(Space Velocity:SV)で表される通液速度は、好ましくは20000h-1以下、より好ましくは10~4000h-1、特に好ましくは300~1000h-1である。また、線速度(Linear Velocity:LV)で表される通液速度は、好ましくは1000m/h以下で、特に好ましくは500m/h以下である。また、通液時間は、溶離液の総通液量と通液速度により、適宜選択される。
【0035】
溶離工程では、モノリスイオン交換体に捕捉されていた分析対象の金属不純物が、溶離液により溶離され、溶離液中に移行する。そして、溶離工程を行うことにより、分析対象の金属不純物を含有する回収溶離液を得る。
【0036】
<分析・測定工程>
次に該溶離した金属不純物を含む溶離液を分析して該溶離液中の金属不純物の含有量を測定する測定工程を行う。
【0037】
回収溶離液中の各金属不純物の含有量を測定する方法としては、特に制限されず、プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を用いる方法、プラズマ発光分光分析装置(ICP)、原子吸光光度計、イオンクロマト分析装置等が挙げられる。測定条件は、適宜選択される。
【0038】
本発明の分析方法では、測定工程を行うことにより得られる回収溶離液中の各金属不純物の種類と含有量とを求め、回収溶離液の回収量と、超純水の通液工程において、モノリスイオン交換体に通液した超純水の総通液量とから、分析対象の超純水中の各金属不純物の含有量を求める。
【0039】
本発明の分析方法の実施の形態例を説明する。例えば、
図1に示すように、超純水製造装置(不図示)で得られる超純水(UPW)が、ユースポイントに供給される超純水の製造工程において、ユースポイントに超純水を移送するための超純水移送管11の途中に、分析対象水抜出管12を繋ぎ、分析対象水抜出管12の他端側を、モノリスイオン交換体を備えるフローセル13A及び13Bを直列に繋ぎその下流に積算流量計14を設置した測定キット15の入口に接続する。なお、ここでは2個のフローセルに配置されるモノリスイオン交換体は同じイオン形のものであり、フローセル13Aにカチオン形のモノリスイオン交換体を設置した場合、フローセル13Bも同じくカチオン形のモノリスイオン交換体を設置する。
【0040】
次いで、所定量の超純水を通液させた後、測定キット15を、分析対象水抜出管12から、取り外す。このとき、測定キット15の内部へ、外部からの不純物の混入が起こらない方法で取り外すと共に、内部を密閉する。次いで、超純水の製造工程を行っている場所とは違う場所に設けられている溶離装置に、測定キット15から取り外したフローセル13Aおよび13Bを取り付ける。溶離装置の溶離液供給管より、硝酸または塩酸をフローセル13Aおよび13Bにそれぞれ通液し、溶離液で金属不純物を溶離してそれぞれ回収する溶離工程を行う。次いで、回収した溶離液中の金属不純物の含有量を測定する測定工程を行う。なお、国際公開第2019/221186号に記載されているように、分析対象水抜出管12又は後述する第一及び第二分岐管(16,16’)に、あるいは測定キット15自体に溶離液を通水するための溶離液の導入管(不図示)を配置してもよい。これにより、測定キット15(フローセル)を超純水製造装置に取り付けた状態で溶離液をフローセルに通液して溶離工程を行い、回収した溶離液について金属不純物の含有量を測定することもできる。
【0041】
また、本発明の他の実施形態例を説明する。例えば、
図2に示すように、超純水製造装置(不図示)で得られる超純水(UPW)が、ユースポイントに供給される超純水の製造工程において、ユースポイントに超純水を移送するための超純水移送管11の途中に、分析対象水抜出管12を繋ぎ、分析対象水抜出管12の他端側を、第一分岐管16と第二分岐管16’とに分岐させ、第一分岐管16を、モノリスイオン交換体、例えば、カチオン形のイオン交換体を備えるフローセル13A及び13Bを直列に繋ぎその下流に積算流量計14を設置した測定キット15の入口に接続する。同様に第二分岐管16’を、モノリスイオン交換体、例えばアニオン形のイオン交換体を備えるフローセル13A’及び13B’を直列に繋ぎその下流に積算流量計14’を設置した測定キット15’の入口に接続する。このとき、積算流量計14及び14’で、測定キット15及び15’への超純水の通液総量を測定する。その後は、同様に溶離工程、測定工程を行う。この例では、同じイオン形のモノリスイオン交換体は直列に接続され、異なるモノリスイオン交換体同士は並列に接続されている。
【0042】
さらに別の実施形態においては、カチオン形モノリスイオン交換体とアニオン形モノリスイオン交換体を直列に接続して用いることができる。
図3はカチオン形モノリスイオン交換体(CEM)とアニオン形モノリスイオン交換体(AEM)を直列に接続して用いる場合の測定キットの構成例を示す。順序として、
図3(a)に示すCEM1→CEM2→AEM1→AEM2と
図3(b)に示すCEM1→AEM1→CEM2→AEM2とのいずれも可能である。特に
図3(b)に示すように、同じイオン形のモノリスイオン交換体が連続していなくても、直列に接続されていることになる。また、1つのフローセルにCEMとAEMを封入して使用してもよい。その場合、図示するような4個ではなく、2個となる。なお、カチオン形とアニオン形の順序は特に制限はなく、
図3に示す以外の順序でもよい。また、
図3の例では各イオン形毎に2個(2単位)のモノリスイオン交換体を直列に接続しているが、超純水に含まれる金属不純物によっては、カチオン形モノリスイオン交換体の2単位とアニオン形モノリスイオン交換体の1単位の計3単位の組み合わせとしてもよい。特に本発明ではカチオン種の漏洩が起こりやすいことから、少なくともカチオン形モノリスイオン交換体の2単位を直列に接続しておくことが好ましい。
【0043】
さらに、
図1~3では、同じイオン形のモノリスイオン交換体をそれぞれに2単位直列に接続した例を示しているが、これに限定されず上述した通り3単位以上を接続してもよい。
【0044】
モノリスイオン交換体において、導入されているイオン交換基は、モノリスの表面のみならず、モノリスの骨格内部にまで均一に分布している。ここで言う「イオン交換基が均一に分布している」とは、イオン交換基の分布が少なくともμmオーダーで表面および骨格内部に均一に分布していることを指す。イオン交換基の分布状況は、電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer;EPMA)を用いることで簡単に確認される。また、イオン交換基が、モノリスの表面のみならず、モノリスの骨格内部にまで均一に分布していると、表面と内部の物理的性質及び化学的性質を均一にできるため、膨潤及び収縮に対する耐久性が向上する。
【0045】
カチオン形モノリスイオン交換体に導入されているカチオン交換基としては、スルホン酸基、カルボキシル基、イミノ二酢酸基、リン酸基、リン酸エステル基等が挙げられる。
【0046】
アニオン形モノリスイオン交換体に導入されているアニオン交換基としては、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基、メチルジヒドロキシエチルアンモニウム基等の四級アンモニウム基や、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等が挙げられる。
【0047】
モノリスイオン交換体において、連続骨格を構成する材料は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.1~30モル%、好適には0.1~20モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.1モル%以上では、機械的強度が不足することはなく、一方、30モル%以下では、イオン交換基の導入が困難になることがない。該ポリマー材料の種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、ポリビニルトルエン、ポリビニルベンジルクロライド、ポリビニルビフェニル、ポリビニルナフタレン等の芳香族ビニルポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化ポリオレフィン);ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸グリシジル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー等の架橋重合体が挙げられる。上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、連続構造形成の容易さ、イオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸又はアルカリに対する安定性の高さから、芳香族ビニルポリマーの架橋重合体が好ましく、特に、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド-ジビニルベンゼン共重合体が好ましい材料として挙げられる。
【0048】
<モノリスイオン交換体の形態例>
モノリスイオン交換体の形態例としては、以下に示す第1のモノリスイオン交換体や第2のモノリスイオン交換体が挙げられる。また、イオン交換基が導入されるモノリスの形態例としては、以下に示す第1のモノリスや第2のモノリスが挙げられる。
【0049】
<第1のモノリス及び第1のモノリスイオン交換体の説明>
第1のモノリスイオン交換体は、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に平均直径が乾燥状態で1~1000μmの共通の開口(メソポア)を有する連続気泡構造を有し、乾燥状態での全細孔容積が1~50mL/gであり、イオン交換基を有しており、イオン交換基が均一に分布しており、体積当りのイオン交換容量は、0.1~1.0mg当量/mL(水湿潤状態)であるモノリスイオン交換体である。また、第1のモノリスは、イオン交換基が導入される前のモノリスであり、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に平均直径が乾燥状態で1~1000μmの共通の開口(メソポア)を有する連続気泡構造を有し、乾燥状態での全細孔容積が1~50mL/gである有機多孔質体である。
【0050】
第1のモノリスイオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が乾燥状態で平均直径1~1000μm、好ましくは10~200μm、特に好ましくは20~100μmの共通の開口(メソポア)となる連続マクロポア構造体であり、その大部分がオープンポア構造のものである。オープンポア構造は、液体を流せば該マクロポアと該メソポアで形成される気泡内が流路となる。マクロポアとマクロポアの重なりは、1個のマクロポアで1~12個、多くのものは3~10個である。メソポアの乾燥状態での平均直径が1μm以上では、モノリスイオン交換体内部への被処理液の拡散性が低下することはなく、メソポアの乾燥状態での平均直径が1000μm以下では、被処理液とモノリスイオン交換体との接触が十分となる。第1のモノリスイオン交換体の構造が上記のような連続気泡構造となることにより、マクロポア群やメソポア群を均一に形成できると共に、特開平8-252579号公報等に記載されるような粒子凝集型多孔質体に比べて、細孔容積や比表面積を格段に大きくすることができる。
【0051】
なお、本発明では、乾燥状態の第1のモノリスの開口の平均直径、乾燥状態の第1のモノリスイオン交換体の開口の平均直径は、水銀圧入法により測定され、水銀圧入法により得られる細孔分布曲線の極大値を指す。
【0052】
第1のモノリスイオン交換体の乾燥状態での重量当りの全細孔容積は、1~50mL/g、好適には2~30mL/gである。全細孔容積が1mL/g以上であると、被処理液の接触効率が低下することなく、更に、単位断面積当りの透過量が十分となり、処理能力の低下が抑制できる。一方、全細孔容積が50mL/g以下では、機械的強度が十分得られ、特に高流速で通液した際にモノリスイオン交換体が大きく変形してしまうことを抑制できる。更に、被処理液とモノリスイオン交換体との接触効率が十分に満たされ、捕捉性の問題もない。全細孔容積は、従来の粒子状多孔質イオン交換樹脂では、せいぜい0.1~0.9ml/gであるから、それを越える従来には無い1~50ml/gの高細孔容積、高比表面積のものとして使用できる。
【0053】
第1のモノリスイオン交換体において、骨格を構成する材料は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.3~10モル%、好適には0.3~5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.3モル%以上では、機械的強度が不足することなく、一方、10モル%以下では、イオン交換基の導入が阻害されることはない。
【0054】
第1のモノリスイオン交換体の骨格を構成する有機ポリマー材料の種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、ポリビニルトルエン、ポリビニルベンジルクロライド、ポリビニルビフェニル、ポリビニルナフタレン等の芳香族ビニルポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化ポリオレフィン);ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸グリシジル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー等の架橋重合体が挙げられる。上記有機ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、連続マクロポア構造形成の容易さ、イオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸又はアルカリに対する安定性の高さから、芳香族ビニルポリマーの架橋重合体が好ましく、特に、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド-ジビニルベンゼン共重合体が好ましい材料として挙げられる。
【0055】
第1のモノリスイオン交換体に導入されているイオン交換基としては、前述のイオン交換基を上げることができる。第2のモノリスイオン交換体においても同様である。
【0056】
第1のモノリスイオン交換体において(第2のモノリスイオン交換体においても同じ)、導入されているイオン交換基は、多孔質体の表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布している。イオン交換基の分布状況は、前述のようにEPMAを用いることで確認される。また、イオン交換基のこのような均一分布により、表面と内部の物理的性質及び化学的性質を均一にできるため、膨潤及び収縮に対する耐久性が向上する。
【0057】
第1のモノリスイオン交換体の体積当りのイオン交換容量は、0.1~1.0mg当量/mL(水湿潤状態)、である。水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が、上記範囲にあることにより、除去性能が高く且つ寿命が長くなる。なお、イオン交換基が表面のみに導入された多孔質体のイオン交換容量は、多孔質体やイオン交換基の種類により一概には決定できないものの、せいぜい500μg当量/gである。
【0058】
<第1のモノリス及び第1のモノリスイオン交換体の製造方法>
第1のモノリスの製造方法としては、特に制限されないが、特開2002-306976号公報記載の方法に準じた、製造方法の一例を以下示す。すなわち、第1のモノリスは、イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び必要に応じて重合開始剤とを混合し、油中水滴型エマルジョンを得、これを重合させてモノリスを形成することにより得られる。このような、第1のモノリスの製造方法は、モノリスの多孔構造の制御が容易である点で、好ましい。
【0059】
第1のモノリスの製造で用いられるイオン交換基を含まない油溶性モノマーとしては、カルボン酸基、スルホン酸基等のカチオン交換基及び四級アンモニウム基等のアニオン交換基のいずれも含まず、水に対する溶解性が低く、親油性のモノマーを指すものである。これらモノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ジビニルベンゼン、エチレン、プロピレン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、トリメチロールプロパントリアクリレート、ブタンジオールジアクリレート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル、エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。これらモノマーは、一種単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。ただし、本発明においては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート等の架橋性モノマーを少なくとも油溶性モノマーの一成分として選択し、その含有量を全油溶性モノマー中、0.3~10モル%、好適には0.3~5モル%とすることが、後の工程でイオン交換基を定量的に導入し、かつ、実用的に十分な機械的強度を確保できる点で好ましい。
【0060】
第1のモノリスの製造で用いられる界面活性剤は、イオン交換基を含まない油溶性モノマーと水とを混合した際に、油中水滴型(W/O)エマルジョンを形成できるものであれば特に制限はなく、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等の非イオン界面活性剤;オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等の陰イオン界面活性剤;ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤;ラウリルジメチルベタイン等の両性界面活性剤を用いることができる。これら界面活性剤は一種単独又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、油中水滴型エマルジョンとは、油相が連続相となり、その中に水滴が分散しているエマルジョンを言う。上記界面活性剤の添加量としては、油溶性モノマーの種類および目的とするエマルジョン粒子(マクロポア)の大きさによって大幅に変動するため一概には言えないが、油溶性モノマーと界面活性剤の合計量に対して約2~70質量%の範囲で選択することができる。また、必ずしも必須ではないが、モノリスの気泡形状やサイズを制御するために、メタノール、ステアリルアルコール等のアルコール;ステアリン酸等のカルボン酸;オクタン、ドデカン、トルエン等の炭化水素;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテルを系内に共存させることもできる。
【0061】
また、第1のモノリスの製造において、重合によりモノリスを形成する際、必要に応じて用いられる重合開始剤は、熱及び光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は水溶性であっても油溶性であってもよく、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素-塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム-酸性亜硫酸ナトリウム、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。ただし、場合によっては、重合開始剤を添加しなくても加熱のみや光照射のみで重合が進行する系もあるため、そのような系では重合開始剤の添加は不要である。
【0062】
第1のモノリスの製造において、イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び重合開始剤とを混合し、油中水滴型エマルジョンを形成させる際の混合方法としては、特に制限はなく、各成分を一括して一度に混合する方法、油溶性モノマー、界面活性剤及び油溶性重合開始剤である油溶性成分と、水や水溶性重合開始剤である水溶性成分とを別々に均一溶解させた後、それぞれの成分を混合する方法などが使用できる。エマルジョンを形成させるための混合装置についても特に制限はなく、通常のミキサー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーや、被処理物を混合容器に入れ、該混合容器を傾斜させた状態で公転軸の周りに公転させながら自転させることで、被処理物を攪拌混合する、所謂遊星式攪拌装置等を用いることができ、目的のエマルジョン粒径を得るのに適切な装置を選択すればよい。また、混合条件についても特に制限はなく、目的のエマルジョン粒径を得ることができる攪拌回転数や攪拌時間を、任意に設定することができる。これらの混合装置のうち、遊星式攪拌装置はW/Oエマルジョン中の水滴を均一に生成させることができ、その平均径を幅広い範囲で任意に設定できるため、好ましく用いられる。
【0063】
第1のモノリスの製造において、このようにして得られた油中水滴型エマルジョンを重合させる重合条件は、モノマーの種類、開始剤系により様々な条件が選択できる。例えば、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、30~100℃で1~48時間、加熱重合させればよく、開始剤として過酸化水素-塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム-酸性亜硫酸ナトリウム等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、0~30℃で1~48時間重合させればよい。重合終了後、内容物を取り出し、イソプロパノール等の溶剤でソックスレー抽出し、未反応モノマーと残留界面活性剤を除去して第1のモノリスを得る。
【0064】
第1のモノリスイオン交換体の製造方法としては、特に制限されず、上記第1のモノリスの製造方法において、イオン交換基を含まないモノマーに代えて、イオン交換基を含むモノマー、例えば、上記イオン交換基を含まない油溶性モノマーに、モノメチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム基、トリメチルアンモニウム基等のアニオン交換基が導入されているモノマーを用いて重合させ、一段階でモノリスアニオン交換体にする方法、イオン交換基を含まないモノマーを用いて重合させ第1のモノリスを形成し、次いで、アニオン交換基を導入する方法などが挙げられる。これらの方法のうち、イオン交換基を含まないモノマーを用いて重合させ第1のモノリスを形成し、次いで、イオン交換基を導入する方法は、モノリスイオン交換体の多孔構造の制御が容易であり、イオン交換基の定量的導入も可能であるため好ましい。
【0065】
第1のモノリスにイオン交換基を導入する方法としては、特に制限はなく、高分子反応やグラフト重合等の公知の方法を用いることができる。例えば、四級アンモニウム基を導入する方法としては、モノリスがスチレン-ジビニルベンゼン共重合体等であればクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法;
モノリスをクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合により製造し、三級アミンと反応させる方法;
モノリスに、均一にラジカル開始基や連鎖移動基を骨格表面及び骨格内部導入し、N,N,N-トリメチルアンモニウムエチルアクリレートやN,N,N-トリメチルアンモニウムプロピルアクリルアミドをグラフト重合する方法;
同様にグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、官能基変換により四級アンモニウム基を導入する方法
等が挙げられる。これらの方法のうち、四級アンモニウム基を導入する方法としては、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体にクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法やクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合によりモノリスを製造し、三級アミンと反応させる方法が、イオン交換基を均一かつ定量的に導入できる点で好ましい。なお、導入するイオン交換基としては、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基、メチルジヒドロキシエチルアンモニウム基等の四級アンモニウム基や、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等が挙げられる。
【0066】
<第2のモノリス及び第2のモノリスイオン交換体の説明>
第2のモノリスイオン交換体は、全構成単位中、架橋構造単位を0.1~5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる平均太さが乾燥状態で1~60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が乾燥状態で10~200μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であって、乾燥状態での全細孔容積が0.5~10mL/gであり、イオン交換基を有しており、体積当りのイオン交換容量が、0.2~1.0mg当量/mL(水湿潤状態)であり、イオン交換基がモノリスイオン交換体中に均一に分布しているモノリスイオン交換体である。また、第2のモノリスは、イオン交換基が導入される前のモノリスであり、全構成単位中、架橋構造単位を0.1~5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる平均太さが乾燥状態で1~60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が乾燥状態で10~200μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であって、乾燥状態での全細孔容積が0.5~10mL/gである有機多孔質体である。
【0067】
第2のモノリスイオン交換体は、平均太さが乾燥状態で1~60μm、好ましくは3~58μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が乾燥状態で10~200μm、好ましくは15~180μm、特に好ましくは20~150μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体である。
【0068】
三次元的に連続した空孔の平均直径が乾燥状態で10μm以上であると、被処理液が拡散しやすく、200μm以下では、被処理液とモノリスイオン交換体との接触が十分となり、その結果、除去性能が十分となる。また、骨格の平均太さが乾燥状態で1μm以上であると、体積当りのイオン交換容量が低下することがなく、機械的強度の低下が抑制される。更に、反応液とモノリスイオン交換体との接触効率が低下することなく、捕捉性能が十分に得られる。一方、骨格の太さが60μm以下では、骨格が太くなり過ぎることはなく、被処理液の拡散が均一になる。
【0069】
乾燥状態の第2のモノリスの開口の平均直径、乾燥状態の第2のモノリスイオン交換体の開口の平均直径及び以下に述べる第2のモノリスの製造のI工程で得られる、乾燥状態の第2のモノリス中間体の開口の平均直径は、水銀圧入法により求められ、水銀圧入法により得られた細孔分布曲線の極大値を指す。また、第2のモノリスイオン交換体の骨格の乾燥状態での平均太さは、乾燥状態の第2のモノリスイオン交換体のSEM観察により求められる。具体的には、乾燥状態の第2のモノリスイオン交換体のSEM観察を少なくとも3回行い、得られた画像中の骨格の太さを測定し、それらの平均値を平均太さとする。なお、骨格は棒状であり円形断面形状であるが、楕円断面形状等異径断面のものが含まれていてもよい。この場合の太さは短径と長径の平均である。
【0070】
また、第2のモノリスイオン交換体の乾燥状態での重量当りの全細孔容積は、0.5~10mL/gである。全細孔容積が0.5mL/g以上では、被処理液との接触効率が確保でき、更に、単位断面積当りの透過液量も問題なく、処理量の低下が抑制される。一方、全細孔容積が10ml/g以下では、被処理液とモノリスイオン交換体との接触効率が低下することなく、捕捉性能の低下が抑制される。三次元的に連続した空孔の大きさ及び全細孔容積が上記範囲にあれば、被処理液との接触が極めて均一で接触面積も大きくなる。
【0071】
第2のモノリスイオン交換体において、骨格を構成する材料は、全構成単位中、0.1~5モル%、好ましくは0.5~3.0モル%の架橋構造単位を含んでいる芳香族ビニルポリマーであり疎水性である。架橋構造単位が0.1モル%以上では、機械的強度が不足することはなく、一方、5モル%以下では、多孔質体の構造が共連続構造から逸脱し難くなる。芳香族ビニルポリマーの種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、ポリビニルトルエン、ポリビニルベンジルクロライド、ポリビニルビフェニル、ポリビニルナフタレン等が挙げられる。上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、共連続構造形成の容易さ、イオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸又はアルカリに対する安定性の高さから、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド-ジビニルベンゼン共重合体が好ましい。
【0072】
第2のモノリスイオン交換体に導入されているイオン交換基は、第1のモノリスイオン交換体に導入されているイオン交換基と同様である。
第2のモノリスイオン交換体において、導入されたイオン交換基は、多孔質体の表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布している。
【0073】
第2のモノリスイオン交換体は、体積当り、0.2~1.0mg当量/mL(水湿潤状態)のイオン交換容量を有する。第2のモノリスイオン交換体は、三次元的に連続した空孔の連続性や均一性が高いため、基質や溶媒が均一に拡散する。そのため、反応の進行が速い。イオン交換容量が上記範囲にあることにより、除去性能が高く且つ寿命が長くなる。
【0074】
<第2のモノリス及び第2のモノリスイオン交換体の製造方法>
第2のモノリスは、イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤及び水の混合物を撹拌することにより油中水滴型エマルジョンを調製し、次いで油中水滴型エマルジョンを重合させて全細孔容積が16mL/gを超え、30mL/g以下の連続マクロポア構造のモノリス状の有機多孔質中間体(以下、モノリス中間体とも記載する。)を得るI工程、芳香族ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する全油溶性モノマー中、0.3~5モル%の架橋剤、芳香族ビニルモノマーや架橋剤は溶解するが芳香族ビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製するII工程、II工程で得られた混合物を静置下、且つI工程で得られたモノリス中間体の存在下に重合を行い、共連続構造体である有機多孔質体である第2のモノリスを得るIII工程、を行うことにより得られる。
【0075】
第2のモノリスの製造方法に係るI工程において、モノリス中間体を得るI工程は、特開2002-306976号公報記載の方法に準拠して行えばよい。
すなわち、第2のモノリスの製造方法に係るI工程において、イオン交換基を含まない油溶性モノマーとしては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、三級アミノ基、四級アンモニウム基等のイオン交換基を含まず、水に対する溶解性が低く、親油性のモノマーが挙げられる。これらモノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のα-オレフィン;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系モノマー;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等のハロゲン化オレフィン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。これらモノマーの中で、好適なものとしては、芳香族ビニルモノマーであり、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらモノマーは、一種単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。ただし、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート等の架橋性モノマーを少なくとも油溶性モノマーの一成分として選択し、その含有量を全油溶性モノマー中、0.3~5モル%、好ましくは0.3~3モル%とすることが、共連続構造の形成に有利となるため好ましい。
【0076】
第2のモノリスの製造方法に係るI工程で用いられる界面活性剤は、イオン交換基を含まない油溶性モノマーと水とを混合した際に、油中水滴型(W/O)エマルジョンを形成できるものであれば特に制限はなく、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等の非イオン界面活性剤;オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等の陰イオン界面活性剤;ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤;ラウリルジメチルベタイン等の両性界面活性剤を用いることができる。これら界面活性剤は一種単独又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、油中水滴型エマルジョンとは、油相が連続相となり、その中に水滴が分散しているエマルジョンを言う。上記界面活性剤の添加量としては、油溶性モノマーの種類および目的とするエマルジョン粒子(マクロポア)の大きさによって大幅に変動するため一概には言えないが、油溶性モノマーと界面活性剤の合計量に対して約2~70%の範囲で選択することができる。
【0077】
また、第2のモノリスの製造方法に係るI工程では、油中水滴型エマルジョン形成の際、必要に応じて重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤は、熱又は光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は水溶性であっても油溶性であってもよく、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、テトラメチルチウラムジスルフィド、過酸化水素-塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム-酸性亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0078】
第2のモノリスの製造方法に係るI工程において、イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び重合開始剤とを混合し、油中水滴型エマルジョンを形成させる際の混合方法としては、特に制限はなく、各成分を一括して一度に混合する方法、油溶性モノマー、界面活性剤及び油溶性重合開始剤である油溶性成分と、水や水溶性重合開始剤である水溶性成分とを別々に均一溶解させた後、それぞれの成分を混合する方法などが使用できる。エマルジョンを形成させるための混合装置についても特に制限はなく、通常のミキサーやホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等を用いることができ、目的のエマルジョン粒径を得るのに適切な装置を選択すればよい。また、混合条件についても特に制限はなく、目的のエマルジョン粒径を得ることができる攪拌回転数や攪拌時間を、任意に設定することができる。
【0079】
第2のモノリスの製造方法に係るI工程で得られるモノリス中間体(2)は、架橋構造を有する有機ポリマー材料、好適には芳香族ビニルポリマーである。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.1~5モル%、好ましくは0.3~3モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくない。一方、5モル%を超えると、モノリスの構造が共連続構造を逸脱し易くなるため好ましくない。特に、全細孔容積が16~20ml/gの場合には、共連続構造を形成させるため、架橋構造単位は3モル%未満とすることが好ましい。
【0080】
第2のモノリスの製造方法に係るI工程において、モノリス中間体のポリマー材料の種類は、第1のモノリスのポリマー材料と同じものが挙げられる。
【0081】
第2のモノリスの製造方法に係るI工程で得られるモノリス中間体の乾燥状態での重量当りの全細孔容積は、16mL/gを超え、30mL/g以下、好適には16mL/gを超え、25mL/g以下である。すなわち、このモノリス中間体は、基本的には連続マクロポア構造ではあるが、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)が格段に大きいため、モノリス構造を構成する骨格が二次元の壁面から一次元の棒状骨格に限りなく近い構造を有している。これを重合系に共存させると、モノリス中間体の構造を型として共連続構造の多孔質体が形成される。全細孔容積が小さ過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの構造が共連続構造から連続マクロポア構造に変化してしまうため好ましくなく、一方、全細孔容積が大き過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの機械的強度が低下したり、イオン交換基を導入する場合は、体積当たりのイオン交換容量が低下してしまうため好ましくない。モノリス中間体の全細孔容積を上記範囲とするには、モノマーと水の比を、概ね1:20~1:40とすればよい。
【0082】
また、第2のモノリスの製造方法に係るI工程で得られるモノリス中間体は、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)の平均直径が乾燥状態で5~100μmである。開口の平均直径が乾燥状態で5μm以上では、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が小さくなることを抑制でき、流体透過時の圧力損失が大きくなることを抑制できる。一方、100μm以下では、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が大きくなりすぎることなく、被処理液とモノリスイオン交換体との接触が十分となり、その結果、捕捉性能の低下が抑制できる。モノリス中間体は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。
【0083】
第2のモノリスの製造方法に係るII工程は、芳香族ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する全油溶性モノマー中、0.3~5モル%の架橋剤、芳香族ビニルモノマーや架橋剤は溶解するが芳香族ビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製する工程である。なお、I工程とII工程の順序はなく、I工程後にII工程を行ってもよく、II工程後にI工程を行ってもよい。
【0084】
第2のモノリスの製造方法に係るII工程で用いられる芳香族ビニルモノマーとしては、分子中に重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒に対する溶解性が高い親油性の芳香族ビニルモノマーであれば、特に制限はないが、上記重合系に共存させるモノリス中間体(2)と同種類もしくは類似のポリマー材料を生成するビニルモノマーを選定することが好ましい。これらビニルモノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらモノマーは、一種単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。好適に用いられる芳香族ビニルモノマーは、スチレン、ビニルベンジルクロライド等である。
【0085】
第2のモノリスの製造方法に係るII工程で用いられる芳香族ビニルモノマーの添加量は、重合時に共存させるモノリス中間体に対して、重量で5~50倍、好ましくは5~40倍である。芳香族ビニルモノマー添加量がモノリス中間体に対して5倍以上であると、棒状骨格を太くでき、また、イオン交換基を導入する場合、イオン交換基導入後の体積当りのイオン交換容量が小さくなることを抑制できる。一方、芳香族ビニルモノマー添加量が50倍以下では、連続空孔の径が小さくなりすぎることがなく、通液時の圧力損失が大きくなることを抑制できる。
【0086】
第2のモノリスの製造方法に係るII工程で用いられる架橋剤は、分子中に少なくとも2個の重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒への溶解性が高いものが好適に用いられる。架橋剤の具体例としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ブタンジオールジアクリレート等が挙げられる。これら架橋剤は、一種単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。好ましい架橋剤は、機械的強度の高さと加水分解に対する安定性から、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル等の芳香族ポリビニル化合物である。架橋剤使用量は、ビニルモノマーと架橋剤の合計量(全油溶性モノマー)に対して0.3~5モル%、特に0.3~3モル%である。架橋剤使用量が0.3モル%以上では、モノリスの機械的強度が不足することがなく、一方、5モル%以下では、イオン交換基を導入する場合、イオン交換基の定量的導入が困難になることがない。なお、上記架橋剤使用量は、ビニルモノマー/架橋剤重合時に共存させるモノリス中間体の架橋密度とほぼ等しくなるように用いることが好ましい。両者の使用量があまりに大きくかけ離れると、生成したモノリス中で架橋密度分布の偏りが生じ、また、イオン交換基を導入する場合、イオン交換基導入反応時にクラックが生じやすくなる。
【0087】
第2のモノリスの製造方法に係るII工程で用いられる有機溶媒は、芳香族ビニルモノマーや架橋剤は溶解するが芳香族ビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒、言い換えると、芳香族ビニルモノマーが重合して生成するポリマーに対する貧溶媒である。有機溶媒は、芳香族ビニルモノマーの種類によって大きく異なるため一般的な具体例を列挙することは困難であるが、例えば、芳香族ビニルモノマーがスチレンの場合、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、デカノール、ドデカノール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等のアルコール類;ジエチルエーテル、ブチルセロソルブ、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の鎖状(ポリ)エーテル類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、ドデカン等の鎖状飽和炭化水素類;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸セロソルブ、プロピオン酸エチル等のエステル類が挙げられる。また、ジオキサンやTHF、トルエンのようにポリスチレンの良溶媒であっても、上記貧溶媒と共に用いられ、その使用量が少ない場合には、有機溶媒として使用することができる。これら有機溶媒の使用量は、上記芳香族ビニルモノマーの濃度が30~80質量%となるように用いることが好ましい。有機溶媒使用量が上記範囲から逸脱して芳香族ビニルモノマー濃度が30質量%以上では、重合速度が低下したり、重合後のモノリス構造が第2のモノリスの範囲から逸脱したりしてしまうことを抑制できる。一方、芳香族ビニルモノマー濃度が80質量%以下では、重合の暴走が抑制できる。
【0088】
第2のモノリスの製造方法に係るII工程で用いられる重合開始剤は、熱又は光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は油溶性であるほうが好ましい。重合開始剤の具体例としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、モノマーの種類や重合温度等によって大きく変動するが、ビニルモノマーと架橋剤の合計質量に対して、約0.01~5質量%の範囲で使用することができる。
【0089】
第2のモノリスの製造方法に係るIII工程は、II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス中間体の存在下に重合を行い、該モノリス中間体の連続マクロポア構造を共連続構造に変化させ、共連続構造モノリスである第2のモノリスを得る工程である。III工程で用いるモノリス中間体は、本発明の構造を有するモノリスを創出する上で、極めて重要な役割を担っている。特表平7-501140号等に開示されているように、モノリス中間体不存在下でビニルモノマーと架橋剤を特定の有機溶媒中で静置重合させると、粒子凝集型のモノリス状有機多孔質体が得られる。それに対して、第2のモノリスのように上記重合系に特定の連続マクロポア構造のモノリス中間体を存在させると、重合後のモノリスの構造は劇的に変化し、粒子凝集構造は消失し、上述の共連続構造を持つ第2のモノリスが得られる。その理由は詳細には解明されていないが、モノリス中間体が存在しない場合は、重合により生じた架橋重合体が粒子状に析出・沈殿することで粒子凝集構造が形成されるのに対し、重合系に全細孔容積が大きな多孔質体(中間体)が存在すると、ビニルモノマー及び架橋剤が液相から多孔質体の骨格部に吸着又は分配され、多孔質体中で重合が進行し、モノリス構造を構成する骨格が二次元の壁面から一次元の棒状骨格に変化して共連続構造を有する第2のモノリスが形成されると考えられる。
【0090】
第2のモノリスの製造方法において、反応容器の内容積は、モノリス中間体を反応容器中に存在させる大きさのものであれば特に制限されず、反応容器内にモノリス中間体を載置した際、平面視でモノリスの周りに隙間ができるもの、反応容器内にモノリス中間体が隙間無く入るもののいずれであってもよい。このうち、重合後の骨太のモノリスが容器内壁から押圧を受けることなく、反応容器内に隙間無く入るものが、モノリスに歪が生じることもなく、反応原料などの無駄がなく効率的である。なお、反応容器の内容積が大きく、重合後のモノリスの周りに隙間が存在する場合であっても、ビニルモノマーや架橋剤は、モノリス中間体に吸着、分配されるため、反応容器内の隙間部分に粒子凝集構造物が生成することはない。
【0091】
第2のモノリスの製造方法に係るIII工程において、反応容器中、モノリス中間体は混合物(溶液)で含浸された状態に置かれる。II工程で得られた混合物とモノリス中間体の配合比は、前述の如く、モノリス中間体に対して、ビニルモノマーの添加量が重量で3~50倍、好ましくは4~40倍となるように配合するのが好適である。これにより、適度な開口径を有しつつ、骨太の骨格を有する第2のモノリスを得ることができる。反応容器中、混合物中のビニルモノマーと架橋剤は、静置されたモノリス中間体の骨格に吸着、分配され、モノリス中間体の骨格内で重合が進行する。また、適度な大きさの空孔が三次元的に連続し、且つ骨太の骨格が3次元的に連続する共連続構造の第2のモノリスを得ることができる。
【0092】
第2のモノリスの製造方法に係るIII工程の重合条件は、モノマーの種類、開始剤の種類により様々な条件が選択される。例えば、開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、30~100℃で1~48時間加熱重合させればよい。加熱重合により、モノリス中間体の骨格に吸着、分配したビニルモノマーと架橋剤が骨格内で重合し、骨格を太らせる。重合終了後、内容物を取り出し、未反応ビニルモノマーと有機溶媒の除去を目的に、アセトン等の溶剤で抽出して第2のモノリスを得る。
【0093】
第2のモノリスイオン交換体は、III工程で得られた第2のモノリスにイオン交換基を導入するIV工程を行うことにより得られる。
第2のモノリスにイオン交換基を導入する方法は、第1のモノリスにイオン交換基を導入する方法と同様である。
【0094】
第2のモノリス及び第2のモノリスイオン交換体は、3次元的に連続する空孔の大きさが格段に大きいにもかかわらず、骨太骨格を有するため機械的強度が高い。また、第2のモノリスイオン交換体は、骨格が太いため、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量を大きくでき、更に、被処理液を低圧、大流量で長期間通液することが可能である。
【0095】
モノリスイオン交換体は、他のイオン性不純物の含有量の分析方法で用いられる多孔質膜やイオン交換樹脂に比べ、捕捉したイオン性不純物元素が溶離液により溶離され易いので、本発明の分析方法は、溶離液の酸濃度を低くすることができ、そのため、定量下限値が低くなる。
【0096】
モノリスイオン交換体は、他の金属不純物含有量の分析方法で用いられる多孔質膜やイオン交換樹脂に比べ、捕捉した金属元素が溶離液により溶離され易いので、本発明の分析方法は、溶離工程にかかる時間が短くなるため、分析時間を短くすることができる。
【0097】
モノリスイオン交換体は、他の金属不純物含有量の分析方法で用いられる多孔質膜やイオン交換樹脂に比べ、分析対象水の通液速度を高くすることができるので、本発明の分析方法は、通液工程にかかる時間が短くなるため、分析時間を短くすることができる。
【0098】
従来、分析対象水中の金属不純物含有量が非常に低い場合、例えば、1ppt以下である場合、吸着材に多量の分析対象水を通液する必要がある。本発明の分析方法では、分析対象水(超純水)中の金属不純物が1ng/L未満と非常に低いが、前記多孔質イオン交換体の1単位あたりの体積が0.5~5.0mlおよび、差圧係数が0.01 MPa/LV/m以下であるため、捕捉した金属不純物元素が溶離液により溶離され易い。このために、溶離液の使用量を少なくでき、多孔質(モノリス)イオン交換体への超純水の通液量を少なくすることができる。溶離工程で使用する、硝酸または塩酸の液量は、国際公開第2019/221186号より、体積の最低でも10倍量必要である。また、分析機器で汚染なく分析するための最低限必要な溶離液量は5mlであるまた、低濃度まで分析するための濃縮量をすくなくするため、溶離液量は最大でも50mlであることが望ましい。このことから、1単位あたりに必要なモノリス交換体の体積は0.5~5.0mlであることが望ましい。また、イオン交換体の差圧係数は0.01MPa/LV/m以下、好ましくは0.005MPa/LV/m以下であることが望ましい。さらに、超純水の通液速度を高くすることができるため、短時間で多量の通液が可能であるので、分析における捕捉工程にかける時間を非常に短くすることができる。また、この場合、本発明の分析方法の捕捉工程における圧力係数は、好ましくは0.1~10.0L/min./MPa、特に好ましくは2.0~10.0L/min./MPaである。
【0099】
本発明の第一の形態の測定キット(金属不純物捕捉装置)は、
液体中の金属不純物の含有量を測定する測定キットであって、
前記液体が通液されるイオン交換体と、
該イオン交換体に通液された液体の量を計測するための積算流量計と、
を有し、
前記イオン交換体は同イオン形のイオン交換体を2単位以上直列に接続して設けられ、前記イオン交換体の1単位あたりの体積が0.5~5.0mlであり、かつ、該1単位あたりの差圧係数が0.01 MPa/LV/m以下であることを特徴とする測定キットである。
フローセルに使用する容器の大きさは特に限定されないが、充填する上記体積のイオン交換体の大きさに併せて設定することが望ましい。充填する容器の断面積が、小さすぎると圧力損失が大きくなり、濃縮に時間がかかる、また、断面積が大き過ぎると、交換体の長さが短くなり、イオンが捕捉されず正しい分析が出来なくなる。このため、断面積の径はφ0.2~5cmであることが望ましい。また、容器の形状は特に限定しないが、円柱状などショートパスを軽減できる形状が望ましい。
【0100】
本発明の測定キットは、
図1~
図3に示す種々の形態を有することができる。
本発明の測定キットに係る積算流量計は、導入される液の量を計測し積算できるものであれば、特に制限されない。
【0101】
本発明の測定キットは、フローセル内のモノリスイオン交換体に、分析対象液及び溶離液を供給するための供給管と、多孔質イオン交換体から排出される排出液を、積算流量計に導入するための導入管と、積算流量計から排出される排出液を、キット外に排出するための排出管と、を有することができる。また、流量を制御するためにフローセルと積算流量計の間、または積算流量計の直後にバルブを設けてもよい。
【0102】
本発明の測定キットは、キットを分析対象液が供給される管から取り外した後、内部への不純物混入が起こらないように、内部を密閉するための密閉手段が付設されていることが好ましい。
【0103】
本発明の測定キットに係るイオン交換体としては、上記のモノリスイオン交換体を用いることができる。
【実施例】
【0104】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0105】
特開2010-234357号公報に係る明細書の実施例の参考例17と同様の方法で、第2のカチオン形モノリスイオン交換体を製造した。
【0106】
(参考例1)
<カチオン形モノリスイオン交換体の製造>
(I工程;モノリス中間体の製造)
スチレン5.4g、ジビニルベンゼン0.17g、ソルビタンモノオレエート(以下SMOと略す)1.4gおよび2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.26gを混合し、均一に溶解させた。次に、当該スチレン/ジビニルベンゼン/SMO/2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)混合物を180gの純水に添加し、遊星式撹拌装置である真空撹拌脱泡ミキサー(イーエムイー社製)を用いて5~20℃の温度範囲において減圧下撹拌して、油中水滴型エマルションを得た。このエマルションを速やかに反応容器に移し、密封後静置下で60℃、24時間重合させた。重合終了後、内容物を取り出し、メタノールで抽出した後、減圧乾燥して、連続マクロポア構造を有するモノリス中間体を製造した。このようにして得られたモノリス中間体(乾燥体)の内部構造をSEM画像により観察したところ、隣接する2つのマクロポアを区画する壁部は極めて細く棒状であるものの、連続気泡構造を有しており、水銀圧入法により測定したマクロポアとマクロポアが重なる部分の開口(メソポア)の平均直径は70μm、全細孔容積は21.0ml/gであった。
【0107】
(共連続構造モノリスの製造)
次いで、スチレン76.0g、ジビニルベンゼン4.0g、1-デカノール120g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.8gを混合し、均一に溶解させた(II工程)。次に上記モノリス中間体を直径70mm、厚さ約40mmの円盤状に切断して4.1gを分取した。分取したモノリス中間体を内径110mmの反応容器に入れ、当該スチレン/ジビニルベンゼン/1-デカノール/2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)混合物に浸漬させ、減圧チャンバー中で脱泡した後、反応容器を密封し、静置下60℃で24時間重合させた。重合終了後、厚さ約60mmのモノリス状の内容物を取り出し、アセトンでソックスレー抽出した後、85℃で一夜減圧乾燥した(III工程)。
【0108】
このようにして得られたスチレン/ジビニルベンゼン共重合体よりなる架橋成分を3.2モル%含有したモノリス(乾燥体)の内部構造をSEMにより観察したところ、当該モノリスは骨格及び空孔はそれぞれ3次元的に連続し、両相が絡み合った共連続構造であった。また、SEM画像から測定した骨格の太さは17μmであった。また、水銀圧入法により測定した当該モノリスの三次元的に連続した空孔の大きさは41μm、全細孔容積は2.9ml/gであった。
【0109】
(共連続構造のカチオン形モノリスイオン交換体(CEM)の製造)
上記の方法で製造したモノリスを、直径75mm、厚み約15mmの円柱状に切断した。モノリスの重量は18gであった。これにジクロロメタン1500mlを加え、35℃で1時間加熱した後、10℃以下まで冷却し、クロロ硫酸99gを徐々に加え、昇温して35℃で24時間反応させた。その後、メタノールを加え、残存するクロロ硫酸をクエンチした後、メタノールで洗浄してジクロロメタンを除き、更に純水で洗浄して共連続構造を有するカチオン形モノリスイオン交換体CEMを得た。
【0110】
(カチオン形モノリスイオン交換体CEMの分析)
また、得られたカチオン形モノリスイオン交換体を一部切り出し、乾燥させた後、その内部構造をSEMにより観察したところ、当該モノリスイオン交換体は共連続構造を維持していることを確認した。また、該モノリスイオン交換体の反応前後の膨潤率は1.4倍であり、体積当りのカチオン交換容量は水湿潤状態で0.72mg当量/mlであった。水湿潤状態でのモノリスの連続空孔の大きさを、モノリスの値と水湿潤状態のカチオン交換体の膨潤率から見積もったところ70μmであり、骨格の直径は23μm、全細孔容積は2.9ml/gであった。
【0111】
また、水を透過させた際の圧力損失の指標である差圧係数は、0.005MPa/m・LVであった。更に、該モノリスイオン交換体のナトリウムイオンに関するイオン交換帯長さを測定したところ、LV=20m/hにおけるイオン交換帯長さは16mmであり、市販の強酸性カチオン交換樹脂であるアンバーライトIR120B(商品名、ロームアンドハース社製)の値(320mm)に比べて圧倒的に短いばかりでなく、従来の連続気泡構造を有するカチオン形モノリスイオン交換体の値に比べても短かった。
【0112】
次に、該モノリスイオン交換体中のスルホン酸基の分布状態を確認するため、EPMAにより硫黄原子の分布状態を観察した。その結果、スルホン酸基は該モノリスイオン交換体の骨格表面及び骨格内部(断面方向)にそれぞれ均一に導入されていることが観察された。
【0113】
(比較例1)
上記のカチオン形モノリスイオン交換体を、直径10mm×高さ50mm(2.87mL)の形状に切り出し、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製の充填容器に充填した。
次いで、充填容器内に、超純水を、濃縮量が5000Lとなるように、約500mL/min.(SV=8000h-1、LV=400m/h)で、通液し、1単位のカチオン形モノリスイオン交換体(CEM1)への通液を行った。
次いで、溶離液として2Nの硝酸を用い、液量50mLで回収した。回収液を、ICP-MSで測定し、表1に示す各金属元素の濃度を測定した。
【0114】
(分析)
カチオン形モノリスイオン交換体に捕捉された各元素の含有量を、ICP-MS(アジレントテクノロジー社製、8900)にて測定した。
なお、ICP-MSでの含有量の分析においては、予め、複数の含有量の標準試料を用いてカウント値(CPS)と金属含有量の検量線を作製しておき、試験サンプル(試験水又は処理水)を測定し、検量線に基づいて、そのカウント値に対応する金属含有量を、試験水又は処理水の金属含有量とした。
【0115】
(実施例1)
上記カチオン形モノリスイオン交換体のフローセルを直列に2単位(CEM1、CEM2)接続した以外は比較例1と同様にして超純水の通液工程、溶離工程及び分析工程を実施した。結果を表1に示す。
【0116】
(実施例2)
上記カチオン形モノリスイオン交換体のフローセルを、直列に3単位(CEM1、CEM2、CEM3)接続した以外は比較例1と同様にして超純水の通液工程、溶離工程及び分析工程を実施した。結果を表1に示す。
【0117】
【0118】
表中、「<1[pg/L]」は本手法の定量下限未満であることを示す。したがって、Mgについては、比較例1、実施例1、実施例2から超純水中の濃度が10pg/Lであることが確認されたが、その他の元素では、実施例1,2の結果から1単位のモノリスイオン交換体では十分に捕捉しきれず、正しい超純水中の金属濃度を示していないことが確認された。実施例2に示すように、CEM3がすべての金属元素で定量下限未満であり、CEM1+CEM2の濃度が超純水中の金属濃度であることが確認された。
【0119】
濃度の算出方法としては、以下の式(1)で表される。
【0120】
【0121】
従来の方法(加熱濃縮法)では0.1ng/Lが限界であったが、本発明の吸着濃縮法では定量下限1pg/L(0.001ng/L)を分析することができる。
【0122】
(アニオン形モノリスイオン交換体の製造)
上記の方法で製造したモノリスを、外径70mm、厚み約15mmの円盤状に切断した。これにジメトキシメタン1400ml、四塩化スズ20mlを加え、氷冷下クロロ硫酸560mlを滴下した。滴下終了後、昇温して35℃、5時間反応させ、クロロメチル基を導入した。反応終了後、母液をサイフォンで抜き出し、THF/水=2/1の混合溶媒で洗浄した後、更にTHFで洗浄した。このクロロメチル化モノリス状有機多孔質体にTHF1000mlとトリメチルアミン30%水溶液600mlを加え、60℃、6時間反応させた。反応終了後、生成物をメタノール/水混合溶媒で洗浄し、次いで純水で洗浄して単離して、アニオン形モノリスイオン交換体を得た。
【0123】
(比較例2)
上記アニオン形モノリスイオン交換体を、直径10mm×高さ50mmの形状に切り出し、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製の充填容器に充填して、アニオン形モノリスイオン交換体のフローセルを得た。
次いで、充填容器内に、超純水を、濃縮量が100Lとなるように、約100mL/min.(SV=1600h-1、LV=80m/h)で通液し、1単位のアニオン形モノリスイオン交換体(AEM1)への通液を行った。
次いで、溶離液として2Nの硝酸を用い、液量50mLで回収した。回収液を、ICP-MSで測定し、表2に示すホウ素元素の濃度を測定した。
【0124】
(分析)
モノリスイオン交換体に捕捉された各元素の含有量を、ICP-MS(アジレントテクノロジー社製、8900)にて測定した。
なお、ICP-MSでの含有量の分析においては、予め、複数の含有量の標準試料を用いてカウント値(CPS)と金属含有量の検量線を作製しておき、試験サンプル(試験水又は処理水)を測定し、検量線に基づいて、そのカウント値に対応する金属含有量を、試験水又は処理水の金属含有量とした。
【0125】
(実施例3)
上記アニオン形モノリスイオン交換体のフローセルを直列に2単位(AEM1、AEM2)接続した以外は比較例2と同様にして超純水の通液工程、溶離工程及び分析工程を実施した。結果を表2に示す。
【0126】
(実施例4)
上記アニオン形モノリスイオン交換体のフローセルを、直列に3単位(AEM1、AEM2、AEM3)接続した以外は比較例1と同様にして超純水の通液工程、溶離工程及び分析工程を実施した。結果を表2に示す。
【0127】
【0128】
表2中、「<0.05[ng/L]」は本手法の定量下限未満であることを示す。
表2に示すように、比較例2では超純水中のホウ素濃度が0.22ng/Lであると確認されたが、実施例3,4の結果から1単位のアニオン形モノリスイオン交換体では十分に捕捉しきれず、正しい超純水中のホウ素濃度を示していないことが確認された。実施例4に示すように、AEM3が定量下限未満であり、AEM1+AEM2の濃度0.37ng/Lが超純水中のホウ素濃度であることが確認された。このように、イオン交換体の直列に接続する単位数は最下流のイオン交換体からの溶離液中の不純物成分の含有量が定量下限未満となる最小数であることが好ましい。
【符号の説明】
【0129】
11 超純水移送管
12 分析対象水抜出管
13 フローセル
13A、13A’、13B、13B’ フローセル
14、14’ 積算流量計
15、15’ 測定キット
16 第一分岐管
16’ 第二分岐管
CEM カチオン形モノリスイオン交換体
AEM アニオン形モノリスイオン交換体
UPM 超純水