(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】喉頭癌上皮細胞用の培養培地、培養方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 5/09 20100101AFI20240613BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240613BHJP
C07K 14/62 20060101ALN20240613BHJP
C07K 14/50 20060101ALN20240613BHJP
C07K 14/79 20060101ALN20240613BHJP
A61K 31/519 20060101ALN20240613BHJP
【FI】
C12N5/09
C12Q1/04
C07K14/62
C07K14/50
C07K14/79
A61K31/519
(21)【出願番号】P 2022573183
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(86)【国際出願番号】 CN2020103428
(87)【国際公開番号】W WO2021237905
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】202010454162.8
(32)【優先日】2020-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522460863
【氏名又は名称】中科院合肥技▲術▼▲創▼新工程院
(74)【代理人】
【識別番号】110003845
【氏名又は名称】弁理士法人籾井特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 青松
(72)【発明者】
【氏名】胡 ▲潔▼
(72)【発明者】
【氏名】任 涛
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/073906(WO,A1)
【文献】X. Liu, et al.,The American Journal of Pathology,2012年,Vol.180, No.2,p.599-607
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
喉頭癌上皮細胞を培養するための初代細胞培養培地であって、
MST1/2キナーゼ阻害剤
;インスリン様成長因子1;線維芽細胞成長因子7;インスリン-トランスフェリン-セレン複合体;肝細胞成長因子;Y27632、ファスジル及びH-1152の少なくとも1つから選択されるROCKキナーゼ阻害剤;並びにA83-01、SB431542、Repsox、SB505124、SB525334、SD208、LY36494、及びSJN2511の少なくとも1つから選択されるTGFβ I型受容体阻害剤を含むことを特徴とし、
前記MST1/2キナーゼ阻害剤は、式(I):
【化1】
(式中、
R
1は、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、C2~C6スピロシクロアルキル、並びに1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたアリール、1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたアリールC1~C6アルキル、及び1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたヘテロアリールから選択され、
R
2及びR
3は、それぞれ独立して、C1~C6アルキルから選択され、
R
4及びR
5は、それぞれ独立して、水素、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、ヒドロキシルC1~C6アルキル、C1~C6ハロアルキル、C1~C6アルキルアミノC1~C6アルキル、C1~C6アルコキシC1~C6アルキル及びC3~C6ヘテロシクリルC1~C6アルキルから選択され、
R
6は、ハロゲン、C1~C6アルキル、C1~C6アルコキシ、及びC1~C6ハロアルキルから選択される)の化合物、又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を含
み、
前記MST1/2キナーゼ阻害剤の量が、1.25μM~10μMであり、
前記インスリン様成長因子1の量が、10ng/ml~80ng/mlであり、
前記繊維芽細胞成長因子7の量が、5ng/ml~80ng/mlであり、
前記インスリン-トランスフェリン-セレン複合体中のインスリン/トランスフェリン/亜セレン酸ナトリウムのそれぞれの量が、それぞれ5μg/ml~20μg/ml、2.5μg/ml~10μg/ml、2.5ng/ml~10ng/mlであり、
前記肝細胞成長因子の量が、10ng/ml~80ng/mlであり、
前記ROCKキナーゼ阻害剤の量が、1.25μM~20μMであり、
前記TGFβ I型受容体阻害剤の量が、125nM~1000nMである、
初代細胞培養培地。
【請求項2】
R
1が、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、C2~C6スピロシクロアルキル、並びに1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたフェニル、1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたナフチル、1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたフェニルメチル、及び1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたチエニルから選択され、
R
2及びR
3が、それぞれ独立して、C1~C3アルキルから選択され、
R
4及びR
5が、それぞれ独立して、水素、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、ヒドロキシルC1~C6アルキル、C1~C6ハロアルキル、C1~C6アルキルアミノC1~C6アルキル、C1~C6アルコキシC1~C6アルキル、ピペリジルC1~C6アルキル、及びテトラヒドロピラニルC1~C6アルキルから選択され、
R
6は、ハロゲン、C1~C6アルキル、C1~C6アルコキシ、及びC1~C6ハロアルキルから選択される、
請求項1に記載の初代細胞培養培地。
【請求項3】
前記MST1/2キナーゼ阻害剤が、式(Ia):
【化2】
(式中、
R
1は、C1~C6アルキル、1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたフェニル、1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたチエニル、及び1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたフェニルメチルから選択され、
R
5は、水素、C1~C6アルキル、及びC3~C6シクロアルキルから選択され、
R
6は、独立して、ハロゲン、C1~C6アルキル、及びC1~C6ハロアルキルから選択される)の化合物、又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を含む、請求項1に記載の初代細胞培養培地。
【請求項4】
R
1が1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたフェニルであり、
R
5が水素であり、
R
6が
、フルオロ、メチル又はトリフルオロメチルである、請求項3に記載の初代細胞培養培地。
【請求項5】
前記MST1/2キナーゼ阻害剤が、以下の化合物又はその薬学的に許容され得る塩から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の初代細胞培養培地:
【表1A】
【表1B】
【表1C】
【表1D】
【表1E】
【請求項6】
前記MST1/2キナーゼ阻害剤の量が
、2.5μM~10μMであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の初代細胞培養培地。
【請求項7】
前記インスリン様成長因子1の量が
、10ng/ml~40ng/mlであり、
前記繊維芽細胞成長因子7の量が
、20ng/ml~80ng/mlであり、
前記インスリン-トランスフェリン-セレン複合体中のインスリン/トランスフェリン/亜セレン酸ナトリウムのそれぞれの量が
、それぞれ10μg/ml~20μg/ml、5μg/ml~10μg/ml、5ng/ml~10ng/mlであり、
前記肝細胞成長因子の量が
、10ng/ml~40ng/mlであり、
前記ROCKキナーゼ阻害剤の量が
、2.5μM~10μMであり、
前記TGFβ I型受容体阻害剤の量が
、125nM~500nMであることを特徴とする、請求項
1~5のいずれか一項に記載の初代細胞培養培地。
【請求項8】
血清、ウシ下垂体抽出物、Wntアゴニスト、R-スポンジンファミリータンパク質、BMP阻害剤、ニコチンアミド、又はN-アセチルシステインを含まないことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の初代細胞培養培地。
【請求項9】
前記喉頭癌上皮細胞が、喉頭癌細胞、正常喉頭癌上皮細胞、及び喉頭癌上皮幹細胞から選択されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の初代細胞培養培地。
【請求項10】
喉頭癌上皮細胞を培養する方法であって、
(1)請求項1~
9のいずれか一項に記載の初代細胞培養培地を調製する工程と、
(2)X線又はγ線を照射した絨毛細胞を培養容器に予め敷き詰める工程と、
(3)喉頭癌組織から分離した初代喉頭癌上皮細胞を、絨毛細胞を予め敷き詰めた前記培養容器に接種し、工程(1)の前記初代細胞培養培地を用いて培養する工程と、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項11】
喉頭癌疾患を治療するための薬剤を評価又はスクリーニングする方法であって、
(1)請求項
10に記載される前記培養方法により、喉頭癌上皮細胞を培養する工程と、
(2)試験する前記薬剤を選択し、種々の薬剤濃度勾配に希釈する工程と、
(3)工程(1)で得られた前記喉頭癌上皮細胞に、勾配に希釈した前記薬剤を添加し、細胞生存率を検出する工程と、
を含むことを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療技術分野に関し、特に初代喉頭癌上皮細胞をin vitroで培養又は増殖させるための培養培地及び培養方法、更には培養細胞を薬物の有効性評価及びスクリーニングに用いる方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
喉頭癌の発生率は、全身の悪性腫瘍の5.7%~7.6%を占める。喉頭癌は、耳鼻咽喉科領域では、上咽頭癌、並びに鼻腔癌及び副鼻腔癌に次いで第3位となっている。蔓延している年齢は50歳~70歳である。中国では東北地方で最も発生率が高く、患者の大半は男性である。病因はあまり明らかではないが、大気汚染の激しい都市では、汚染が軽度の都市よりも発生率が高い。喉頭癌の分子病態は未だ不明であり、特に中期及び後期の喉頭癌を有する患者に対する治療法は未だ限られているため、臨床現場では5年生存率が低く、個別化された的確な服薬指導がなされていない。
【0003】
機能的試験とは、癌患者の細胞に対する抗腫瘍薬の感受性をin vitroで検出する方法を指す。この方法を適用する鍵となるのは、短い成長周期を有し、喉頭癌患者の生物学的特徴を表し得る腫瘍細胞モデルを開発することである。さらに、癌患者に適時に精密投薬指導を与えるには、この細胞モデルは、臨床投薬の有効性を迅速かつ効率的に予測する操作が容易であるべきである。しかしながら、癌患者の初代腫瘍細胞からの細胞モデルのin vitroでの樹立の成功率が通常低いこと、成長周期が長いこと、及び間葉系細胞(例えば、線維芽細胞等)の過剰増殖等の問題は全て、この分野における開発を制限する。現在、腫瘍細胞の機能的試験の分野において比較的成熟している初代上皮/幹細胞を培養する技術は2つ存在する。一方は、照射された絨毛細胞及びROCKキナーゼ阻害剤を使用して初代上皮細胞の成長を促進し、個別の患者の薬物感受性を調査することであり、つまり、条件付き細胞リプログラミング技術である(非特許文献1)。もう一方の技術は、成体幹細胞をin vitroで3D培養して、組織及び器官に類似したオルガノイドを得ることである(非特許文献2)。
【0004】
オルガノイド技術は、3D in vitro培養用の細胞外マトリックス内に患者の自己初代上皮細胞を埋め込む技術である。しかしながら、この技術の培養培地には、様々な特定の成長因子(例えば、Wntタンパク質、及びR-スポンジンファミリータンパク質等)を加える必要があることから、これは高価であり、臨床における広範な使用には適していない。さらに、培養過程全体を通して、オルガノイドは細胞外マトリックスゲル内に埋め込まれている必要があり、細胞接種、継代、及び薬物感受性試験の播種工程は、2D培養操作と比較して面倒で時間がかかる。さらに、この技術によって形成されるオルガノイドのサイズを制御することは困難であり、一部のオルガノイドは大きくなりすぎて内部壊死を引き起こす可能性がある。したがって、オルガノイド技術は2D培養技術よりも操作性及び適用性に劣っている。これには専門の技術者が操作する必要があるため、臨床におけるin vitroでの薬物感受性試験のための広範囲かつ幅広い使用には適していない(非特許文献3)。
【0005】
細胞リプログラミングは、患者の自己初代上皮細胞をマウス由来のフィーダー細胞と共培養する手法である。しかしながら、喉頭癌試料を試験することは文献に報告されていないため、文献に報告されている培地成分が初代喉頭癌細胞を急速に増殖させることができるかどうかは不明である。
【0006】
上記の技術の制限に鑑みて、短い培養期間、抑制可能なコスト、及び簡便な操作をもたらし得る、臨床における初代喉頭癌上皮細胞用の培養技術を開発することが必要とされている。この技術を適用して初代喉頭癌腫瘍細胞モデルを構築すると、培養喉頭癌細胞は、喉頭癌患者の生物学的特徴を表し得る。個別の癌患者に由来する細胞モデルにおいて抗腫瘍薬の感受性をin vitroで評価することにより、抗腫瘍薬の奏効率を臨床において改善することができ、不適切な薬物によって患者に引き起こされる痛み及び医療資源の浪費を減らすことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Liu et al., Am J Pathol, 180: 599-607, 2012
【文献】Hans Clevers et al., Cell, 11; 172(1-2): 373-386, 2018
【文献】Nick Barker, Nat Cell Biol, 18(3): 246-54, 2016
【発明の概要】
【0008】
従来技術の不足に鑑みて、本発明は、初代喉頭癌上皮細胞を培養する培養培地、及び該培養培地を使用して初代喉頭癌上皮細胞を培養する方法を提供することを意図している。本発明の初代喉頭癌上皮細胞のための培養培地及び培養方法は、in vitroでの培養期間が短く、コストを抑制可能であり、操作が簡便であるという目標を達成することができる。この技術を適用して初代喉頭癌腫瘍細胞モデルを構築すると、喉頭癌患者の生物学的特徴を有する初代喉頭癌細胞を得ることができ、これらを新薬スクリーニング及びin vitroでの薬物感受性試験において適用することができる。
【0009】
本発明の一態様は、MST1/2キナーゼ阻害剤を含む、初代喉頭癌上皮細胞を培養するための初代細胞培養培地を提供することであり、MST1/2キナーゼ阻害剤は式(I):
【化1】
(式中、
R
1は、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、C2~C6スピロシクロアルキル、及び1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたアリール(例えば、フェニル及びナフチル等)、1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたアリールC1~C6アルキル(例えば、フェニルメチル等)、及び1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたヘテロアリール(例えば、チエニル等)から選択され、
R
2及びR
3は、それぞれ独立して、C1~C6アルキル、好ましくはC1~C3アルキル、より好ましくはメチルから選択され、
R
4及びR
5は、それぞれ独立して、水素、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、ヒドロキシルC1~C6アルキル、C1~C6ハロアルキル、C1~C6アルキルアミノC1~C6アルキル、C1~C6アルコキシC1~C6アルキル及びC3~C6ヘテロシクリルC1~C6アルキル(ヘテロシクリルは、例えば、ピペリジル、テトラヒドロピラニル等から選択される)から選択され、
R
6は、ハロゲン(好ましくはフルオロ及びクロロ、より好ましくはフルオロ)、C1~C6アルキル(好ましくはメチル)、C1~C6アルコキシ(好ましくはメトキシ)、及びC1~C6ハロアルキル(好ましくはトリフルオロメチル)から選択される)の化合物、又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を含む。
【0010】
好ましい実施の形態において、MST1/2キナーゼ阻害剤は、式(Ia):
【化2】
(式中、
R
1は、C1~C6アルキル、1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたフェニル、1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたチエニル、及び1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたフェニルメチルから選択され、より好ましくは、R
1は1個~2個のR
6で任意に独立して置換されたフェニルであり、
R
5は、水素、C1~C6アルキル、及びC3~C6シクロアルキルから選択され、より好ましくは、R
5は、水素であり、
R
6は、ハロゲン、C1~C6アルキル、及びC1~C6ハロアルキルから独立して選択され、より好ましくは、R
6は、フルオロ、メチル又はトリフルオロメチルである)の化合物、又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を含む。
【0011】
好ましくは、MST1/2キナーゼ阻害剤は、以下の化合物又はその薬学的に許容され得る塩、若しくは溶媒和物から選択される少なくとも1つである:
【0012】
【表1A】
【表1B】
【表1C】
【表1D】
【表1E】
【0013】
最も好ましくは、本発明のMST1/2キナーゼ阻害剤は化合物1である。
【0014】
本発明の実施の形態では、培養培地中のMST1/2キナーゼ阻害剤の量は、通常1.25μM~10μM、好ましくは2.5μM~10μM、より好ましくは5μMである。
【0015】
好ましくは、本発明の初代細胞培養培地は、1つ以上の以下の因子:インスリン様成長因子1(IGF-1);線維芽細胞成長因子7(FGF7);インスリン-トランスフェリン-セレン複合体(ITS);肝細胞成長因子(HGF);Y27632、ファスジル及びH-1152の少なくとも1つから選択されるROCKキナーゼ阻害剤;並びにA83-01、SB431542、Repsox、SB505124、SB525334、SD208、LY36494、及びSJN2511の少なくとも1つから選択されるTGFβ I型受容体阻害剤を更に含む。
【0016】
好ましい実施の形態では、培養培地中の線維芽細胞成長因子7の量は、好ましくは5ng/ml~80ng/ml、より好ましくは20ng/ml~80ng/mlであり、インスリン-トランスフェリン-セレン複合体中のインスリン/トランスフェリン/亜セレン酸ナトリウムのそれぞれの量は、それぞれ5μg/ml~20μg/ml、2.5μg/ml~10μg/ml、2.5ng/ml~10ng/ml、好ましくはそれぞれ10μg/ml~20μg/ml、5μg/ml~10μg/ml、5ng/ml~10ng/mlであり、インスリン様成長因子1の量は、好ましくは10ng/ml~80ng/ml、より好ましくは10ng/ml~40ng/mlであり、肝細胞成長因子の量は、好ましくは10ng/ml~80ng/ml、より好ましくは10ng/ml~40ng/mlであり、ROCKキナーゼ阻害剤は、好ましくはY27632であり、ROCKキナーゼ阻害剤の量は、好ましくは1.25μM~20μM、より好ましくは2.5μM~10μMであり、TGFβ I型受容体阻害剤は好ましくはA83-01であり、TGFβ I型受容体阻害剤の量は、好ましくは125nM~1000nM、より好ましくは125nM~500nMである。
【0017】
条件付き細胞リプログラミング培地及びオルガノイド培地と比較すると、この培地の組成には、MST1/2キナーゼ阻害剤が添加されているが、血清、ウシ下垂体抽出物等の不確定成分、Wntアゴニスト、R-スポンジンファミリータンパク質、BMP阻害剤等、オルガノイド培養に必要なニッチ因子(niche factors)を含有せず、またニコチンアミド及びN-アセチルシステインを含まないことにより、培地の費用を大幅に削減し、培地調製の操作プロセスを簡略化し、コスト制御が可能で、操作性の良い初代喉頭癌上皮細胞のin vitro培養を実現する。
【0018】
本発明においては、初代喉頭癌上皮細胞は、喉頭癌細胞、正常喉頭癌上皮細胞、及び喉頭癌上皮幹細胞から選択され得る。
【0019】
本発明の一態様は、以下の工程を含む、初代喉頭癌上皮細胞を培養する方法を提供することである:
【0020】
(1)本発明の初代細胞培養培地を上記組成に従って調製する工程。
【0021】
(2)照射した絨毛細胞を培養容器に予め敷き詰める工程。
具体的には、絨毛細胞は、例えば、照射されたNIH-3T3細胞であり得、照射源はX線又はγ線、好ましくはγ線であり、照射線量は30Gy~50Gy、好ましくは35Gyである。具体的には、照射したNIH-3T3細胞を48ウェルプレート、24ウェルプレート、12ウェルプレート、6ウェルプレート、又はT25細胞培養フラスコ等の培養容器に2×104細胞/cm2の密度で接種し、壁に付着させた後使用のため保存する。
【0022】
(3)初代喉頭癌上皮細胞を喉頭癌組織から分離する工程。
【0023】
初代喉頭癌上皮細胞は、例えば、喉頭癌組織試料及び傍癌組織試料から取得され得る。例えば、喉頭癌組織試料は、説明を受けた上で同意した喉頭癌患者の癌組織から外科的切除によって取得され、傍癌組織試料は、喉頭組織から少なくとも5cm離れた喉頭癌組織から採集される。上述の組織試料の採集は、外科的摘除又は生検から30分以内に行われる。より詳細には、滅菌環境において、非壊死部位からの組織試料を0.5cm3を超えるその体積で切り取った後に、組織試料を予冷した3mL~5mLのDMEM/F12培地中に入れ、これを蓋付きのプラスチック製滅菌遠心分離チューブ内に入れて、氷上で研究室に輸送する。ここでは、DMEM/F12培地は、1体積%~2体積%のペニシリン/ストレプトマイシン、及び/又は0.2体積%~0.4体積%のプリモシン(Primocin)を含有する(以下、組織輸送液と称する)。ストレプトマイシン/ペニシリンを用いる場合、ストレプトマイシンの濃度範囲は25μg/mL~400μg/mL、好ましくは50μg/mL~200μg/mL、より好ましくは200μg/mLであり、ペニシリンの濃度範囲は25U/mL~400U/mL、好ましくは50U/mL~200U/mL、より好ましくは200U/mLであり、プリモシンを用いる場合、濃度範囲は25μg/mL~400μg/mL、好ましくは50μg/mL~200μg/mL、より好ましくは100μg/mLである。
【0024】
生物学的安全キャビネット内で、組織試料を細胞培養ディッシュに移した後に、これを輸送液ですすぎ、組織試料の表面上の血球を洗い流す。すすいだ組織試料を別の新しい培養ディッシュに移し、1mL~3mLの輸送液を加え、滅菌メス刃及び鉗子を使用して組織試料を体積3mm3未満の組織片に分ける。
【0025】
組織試料片を遠沈管に移し、卓上遠心機(Sigma、3-18K)にて1000rpm~3000rpmで3分~5分間遠心分離を行う。上清を捨てた後、組織輸送液と組織消化液を1:1の割合で加える(投与量は、組織10mg当たり組織消化液約5mLであり、組織消化液の調製方法は、1mg/mL~2mg/mLコラゲナーゼII、1mg/mL~2mg/mLコラゲナーゼIV、50U/mL~100U/mLデオキシリボ核酸I、0.5mg/mL~1mg/mLヒアルロニダーゼ、0.1mg/mL~0.5mg/mL塩化カルシウム、5mg/mL~10mg/mLウシ血清アルブミンを、体積比1:1のHBSS及びRPMI-1640に溶解させることを含む)。次いで、試料に番号を付け、シールフィルムで封をし、そして37℃、200回転~300回転の恒温式振盪機(Zhichu Instrument ZQLY-180N)で消化する。消化が完了したかどうかを1時間ごとの観察により判断する。明らかな組織ブロックが見つからない場合は、消化を終了することができ、そうでなければ、4時間~8時間の範囲の消化時間で、十分な消化が行われるまで消化を続ける。消化後、未消化の組織ブロックを細胞フィルタースクリーン(細胞スクリーンのメッシュサイズは、例えば70μmである)で濾過する。フィルタースクリーン上の組織ブロックを組織輸送液ですすぎ、残留細胞を遠沈管にすすぎ入れ、卓上遠心機で1000rpm~3000rpm、3分~5分間遠心分離を行う。上清を捨てた後、残った細胞塊を観察して血球が残っているかどうかを判断する。血球があれば血球溶解液(Sigmaから購入)1mL~5mLを加えた後よく混ぜ、5分に1回よく振って混ぜながら4℃で10分~20分間溶解する。溶解後に得られたものを取り出して1000rpm~3000rpmで3分~5分間遠心分離する。上清を捨てた後、本発明の初代細胞培養培地を加えて再懸濁する。フローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co., Ltd.)で計数し、細胞の総数を求める。
【0026】
(4)絨毛細胞を予め接種した培養容器に、工程(3)で分離した初代喉頭癌上皮細胞を接種し、工程(1)で得られた初代細胞培養培地を用いて培養する工程。
【0027】
より具体的には、35Gyの照射線量のγ線を照射したNIH-3T3細胞を、マルチウェルプレートの1ウェルにおいて2×104細胞/cm2~4×104細胞/cm2(例えば、2×104細胞/cm2)の密度で予め接種し、壁に付着させた後、初代喉頭癌細胞を2×104細胞/cm2~8×104細胞/cm2(例えば、4×104細胞/cm2)の密度で接種し、各ウェルに初代上皮細胞培養培地0.5mL~2mLを加え、次いでプレートを細胞インキュベーター内で8日~16日間、例えば37℃、5%CO2の条件下で培養し、培養中、4日ごとに新鮮な初代細胞培養培地を使用して交換し、初代喉頭癌上皮細胞がマルチウェルプレートの底面積の約80%~90%を占める細胞密度に成長した時点で消化及び継代を行う。
【0028】
オルガノイド技術と比較して、この工程は、初代細胞とマトリックスゲルとを氷上で均一に混合して、ゲル液滴を形成し、ゲル液滴の固化を待ってから培地を添加することを必要としない。さらに、高価な細胞外マトリックスゲルの使用量を削減し、操作工程が簡略化される。
【0029】
任意に、接種された初代喉頭癌上皮細胞を8日~16日間培養した後、培養容器内に形成された細胞クローンが底面積の80%を覆うように収束したら上清を捨て、0.25%トリプシン(Thermo Fisherから購入)1mL~2mLを加えて1分間消化を行い、0.25%トリプシンを除去した後、細胞消化のため再度0.05%トリプシンを1mL~2mL加え、次いで、これを室温で5分~20分間インキュベートする。消化された細胞を、例えば5%(体積/体積)のウシ胎児血清、100U/mLペニシリン、及び100μg/mLストレプトマイシンを含む2mL~4mLの培養液に再懸濁し、1000rpm~3000rpmで3分~5分間遠心分離する。消化された単細胞を本発明の初代細胞培養培地を用いて再懸濁し、得られた細胞懸濁液を、絨毛細胞を予め敷き詰めたT25細胞培養フラスコに入れ、連続培養を行う。T25細胞培養フラスコの前処理操作は、工程(2)と同じである。
【0030】
増殖した喉頭癌上皮細胞は2Dで成長することから、不均一なサイズのオルガノイドが避けられ、オルガノイド技術を使用した増殖において起こり得る過剰成長したオルガノイドの内部壊死が回避される。
【0031】
別の態様において、本発明の初代喉頭癌上皮細胞の培養方法によって培養した喉頭癌上皮細胞、特に喉頭癌細胞を、以下の工程を含む薬効評価及び薬物スクリーニングに使用することができる:
【0032】
(1)初代喉頭癌上皮細胞を得て、より好ましくは、喉頭癌患者に由来する癌組織試料又は生検癌組織試料を得て、初代喉頭癌上皮細胞を分離し、上記初代喉頭癌上皮細胞を培養する方法に従って初代喉頭癌上皮細胞(特に初代喉頭癌細胞)を少なくとも105個の大きさ、好ましくは少なくとも106個の大きさの細胞数まで培養して増殖させる工程。
【0033】
(2)試験する薬物を選択する工程。
【0034】
(3)基準として薬物の最大血漿濃度Cmaxに基づき、初期濃度としてCmaxの2倍~5倍を取り、薬物を種々の薬物濃度勾配、例えば5個~10個の薬物濃度勾配、好ましくは6個~8個の薬物濃度勾配へと希釈する工程。
【0035】
(4)工程(1)において培養した喉頭癌上皮細胞を消化して単一細胞懸濁液にし、フローイメージングカウンターで細胞数を計数し、本発明の初代細胞培養培地で単一細胞懸濁液を希釈し、希釈された細胞懸濁液を1ウェル当たり2000個~4000個の細胞の密度でマルチウェルプレートに一様に、例えば1ウェル当たり50μLの細胞希釈液で加え、一晩付着させる工程。
【0036】
この工程により、フィーダー細胞の存在が初代細胞の計数及びその後の初代細胞生存率アッセイに干渉し得るという細胞リプログラミング技術の問題が避けられ、オルガノイド技術でのようなマトリックスゲルを含む細胞懸濁液を氷上で混合し、埋め込み、その後に播種するという面倒な工程の必要性が排除されることから、操作法が大幅に簡易化され、技術の操作性及び実用性が向上する。接種される細胞はオルガノイドのような3D構造ではなく単一細胞懸濁液であるため、この技術では、オルガノイド技術と比較して、播種細胞数がより均一になり、ウェル間の細胞数の変動がより小さくなり得ることから、その後の高スループット薬物スクリーニング操作により適したものとなる。
【0037】
(5)高スループット自動ワークステーションを使用して、工程(4)において得られた付着細胞に、従来の化学療法薬、標的薬、抗体薬、又はそれらの組合せ等の選択された候補薬物を勾配希釈で添加する工程。
【0038】
(6)薬物を添加した数時間後、例えば72時間後に、Cell-Titer Glo発光細胞生存率検出キット(Promegaから購入)を使用して喉頭癌上皮細胞の生存率を検出して、薬物活性をスクリーニングする工程。
【0039】
詳細には、各ウェルに、例えば10μLのCell Titer-Glo試薬(Promegaから購入)を加え、均一に振盪した後に、蛍光マイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの化学発光強度を測定する。横軸として薬物濃度を取り、縦軸として蛍光強度を取ることで、GraphPad Prismソフトウェアを使用して、測定値に基づいて薬物用量-効果曲線を作成し、試験された細胞の増殖に対する薬物の阻害強度を計算する。
【0040】
本発明の初代喉頭癌細胞を薬物スクリーニング及びin vitroでの薬物感受性試験において使用する場合に、細胞の2D成長のため、薬物との相互作用は、オルガノイド技術における薬物試験時間より迅速である(オルガノイド技術における平均投与時間は6日である)。
【0041】
本発明の有益な効果としては、以下のことも挙げられる:
【0042】
(1)初代喉頭癌上皮細胞の培養の成功率は、85%超の成功率で改善され得る。
【0043】
(2)in vitroで初代培養した喉頭癌上皮細胞は、初代細胞の由来患者の病理学的表現型及び不均一性を再現することを確実にし得る。
【0044】
(3)培地の組成には血清が含まれていないため、様々なバッチからの血清の質及び量によって影響されない。
【0045】
(4)喉頭癌上皮細胞は高効率で増殖することができ、ここで、104個レベルの開始細胞数から約2週間以内に106個の規模の喉頭癌上皮細胞の増殖に成功し、増殖した喉頭癌上皮細胞は継続的な継代能力を有する。
【0046】
(5)氷上で操作する必要がなく、継代工程においてマトリックスゲルを解離させる必要がなく、細胞の消化及び継代を10分~15分以内に完了することができる。
【0047】
(6)初代喉頭癌培養培地は、高価なWntアゴニスト、R-スポンジンファミリーのタンパク質、BMP阻害剤等の因子を必要としないため、培養にかかるコストを抑制可能であり、細胞の培養コストを節約することができる。
【0048】
(7)操作が簡便である:オルガノイド技術と比較して、オルガノイド技術のようにマトリックスゲルに細胞を埋め込む必要がなく、操作工程が単純で容易である。
【0049】
(9)本技術は、喉頭癌上皮細胞を大量に培養して高い均一性で提供することができることから、新しい候補化合物の高スループットスクリーニング及び患者に対するin vitroでの高スループット薬物感受性機能的試験に適している。
【0050】
この実施形態の細胞培養培地を使用して、喉頭癌細胞、正常喉頭癌上皮細胞、喉頭癌上皮幹細胞、又はこれらの細胞の少なくともいずれかを含む組織を含む、ヒト又は他の哺乳動物に由来する喉頭癌上皮細胞を培養することができる。同時に、本発明の培養培地を使用して、初代喉頭癌細胞をin vitroで増殖培養するためのキットを開発することも可能である。
【0051】
さらに、この実施形態の培養方法により得られた細胞を、再生医療、喉頭癌上皮細胞の基礎医学研究、薬物奏効のスクリーニング、及びESCC疾患に関する新薬の開発等において使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1A】
図1A~
図1Fは、培養培地中の異なる因子が初代喉頭癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
【
図1B】
図1A~
図1Fは、培養培地中の異なる因子が初代喉頭癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
【
図1C】
図1A~
図1Fは、培養培地中の異なる因子が初代喉頭癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
【
図1D】
図1A~
図1Fは、培養培地中の異なる因子が初代喉頭癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
【
図1E】
図1A~
図1Fは、培養培地中の異なる因子が初代喉頭癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
【
図1F】
図1A~
図1Fは、培養培地中の異なる因子が初代喉頭癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
【
図2】培養培地中の因子の増加が初代喉頭癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
【
図3A】
図3A~
図3Gは、各因子の濃度が初代喉頭癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
【
図3B】
図3A~
図3Gは、各因子の濃度が初代喉頭癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
【
図3C】
図3A~
図3Gは、各因子の濃度が初代喉頭癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
【
図3D】
図3A~
図3Gは、各因子の濃度が初代喉頭癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
【
図3E】
図3A~
図3Gは、各因子の濃度が初代喉頭癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
【
図3F】
図3A~
図3Gは、各因子の濃度が初代喉頭癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
【
図3G】
図3A~
図3Gは、各因子の濃度が初代喉頭癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
【
図4A】
図4A及び
図4Bは、1つの臨床喉頭癌組織試料(番号0S0003)から分離した細胞を、本発明の培養培地SCMを用いて、それぞれ4日目及び12日目まで培養し、倒立顕微鏡下で撮影した喉頭癌細胞の写真である。
【
図4B】
図4A及び
図4Bは、1つの臨床喉頭癌組織試料(番号0S0003)から分離した細胞を、本発明の培養培地SCMを用いて、それぞれ4日目及び12日目まで培養し、倒立顕微鏡下で撮影した喉頭癌細胞の写真である。
【
図5】喉頭癌の1つの外科的切除試料(番号0S0006)から分離した細胞を6種類の異なる培養培地で7日間培養して収集した細胞の総数の比較図である。
【
図6】6つの外科的に切除した喉頭癌試料(番号0S0011、0S0012、0S0013、0S0014、0S0015、0S0016)から分離した細胞を6種類の異なる培養培地の条件下で7日間培養して得られた細胞増殖効果の比較図である。
【
図7】1つの臨床喉頭癌組織試料(番号0S0004)から分離した細胞を、6種類の異なる培養培地の条件下で培養して得られた細胞成長曲線の比較図である。
【
図8A】
図8A及び
図8Bは、喉頭癌の1つの外科的切除試料(番号0S0015)から分離した細胞を本発明の培養培地SCMで培養して得た喉頭癌細胞を、それぞれ非特異的核色素DAPI及び喉頭癌特異抗体p63で染色した写真である。
【
図8B】
図8A及び
図8Bは、喉頭癌の1つの外科的切除試料(番号0S0015)から分離した細胞を本発明の培養培地SCMで培養して得た喉頭癌細胞を、それぞれ非特異的核色素DAPI及び喉頭癌特異抗体p63で染色した写真である。
【
図9】喉頭癌の1つの外科的切除試料(番号0S0001)の元の組織細胞と、本発明の培養培地SCMを用いて細胞を培養して得られた喉頭癌細胞との免疫組織化学的結果の比較を示す図である。
【
図10A】
図10A及び
図10Bは、異なる化学療法薬及び標的薬に対する喉頭癌細胞の用量反応曲線を示す図であり、喉頭癌細胞は、それぞれ異なる2人の喉頭癌患者の外科的に切除した癌組織試料(番号0S0020及び番号0S0022)を本発明の培養培地SCMで培養して得られた。
【
図10B】
図10A及び
図10Bは、異なる化学療法薬及び標的薬に対する喉頭癌細胞の用量反応曲線を示す図であり、喉頭癌細胞は、それぞれ異なる2人の喉頭癌患者の外科的に切除した癌組織試料(番号0S0020及び番号0S0022)を本発明の培養培地SCMで培養して得られた。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本明細書では、上皮細胞は、上皮組織から得られた分化した上皮細胞及び上皮幹細胞を含む。「上皮幹細胞」とは、上皮細胞に分化し得る長期自己複製能を有する細胞であり、上皮組織由来の幹細胞である。上皮組織の例としては、角膜、口腔粘膜、皮膚、結膜、膀胱、腎尿細管、腎臓、消化器(食道、胃、十二指腸、小腸(空腸及び回腸含む)、大腸(結腸含む))、肝臓、膵臓、乳腺、唾液腺、涙腺、前立腺、毛根、気管、肺等が挙げられる。中でも、本実施形態の細胞培養培地は、喉頭癌由来の上皮細胞用の培養培地であることが好ましい。
【0054】
さらに、本明細書では、「上皮性腫瘍細胞」とは、上述の上皮組織に由来する細胞の腫瘍化によって得られる細胞を指す。
【0055】
本明細書では、「オルガノイド」とは、制御された空間内で細胞が自発的に高密度に組織化及び凝集して形成された3次元の器官様細胞組織を指す。
【0056】
(MST1/2キナーゼ阻害剤の調製例)
本明細書では、MST1/2キナーゼ阻害剤とは、直接的又は間接的にMST1/2シグナル伝達を負に制御するあらゆる阻害剤を指す。一般に、MST1/2キナーゼ阻害剤は、例えば、MST1/2キナーゼに結合することにより、MST1/2キナーゼの活性を低下させる。MST1とMST2は構造が似ているため、MST1/2キナーゼ阻害剤は、例えば、MST1又はMST2に結合してその活性を低下させる化合物であってもよい。
【0057】
1.MST1/2キナーゼ阻害剤化合物1の調製
4-((7-(2,6-ジフルオロフェニル)-5,8-ジメチル-6-オキソ-5,6,7,8-テトラヒドロプテリジン-2-イル)アミノ)ベンズスルファミド1
【化3】
【0058】
メチル2-アミノ-2-(2,6-ジフルオロフェニル)アセテート(A2):2-アミノ-2-(2,6-ジフルオロフェニル)酢酸(2.0g)、次いでメタノール(30ml)を丸底フラスコに加え、続いて塩化チオニル(1.2ml)を氷浴下で滴下して加えた。反応系を85℃で一晩反応させた。反応終了後、この系を減圧下で蒸発させて溶剤を乾燥させ、得られた白色固体をそのまま次の工程に使用した。
【0059】
メチル2-((2-クロロ-5-ニトロピリミジン-4-イル)アミノ)-2-(2,6-ジフルオロフェニル)アセテート(A3):丸底フラスコにメチル2-アミノ-2-(2,6-ジフルオロフェニル)アセテート(2g)、次いでアセトン(30ml)及び炭酸カリウム(2.2g)を加え、次いで氷塩浴で系を-10℃に冷却した後、アセトン中の2,4-ジクロロ-5-ニトロピリミジン(3.1g)の溶液をゆっくりと加えた。反応系を室温で一晩撹拌した。反応終了後、反応混合物を濾過し、濾液から減圧下で溶剤を除去し、残渣を加圧シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物A3を得た。LC/MS:M+H 359.0。
【0060】
2-クロロ-7-(2,6-ジフルオロフェニル)-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン(A4):丸底フラスコにメチル2-((2-クロロ-5-ニトロピリミジン-4-イル)アミノ)-2-(2,6-ジフルオロフェニル)アセテート(2.5g)、次いで酢酸(50ml)及び鉄粉(3.9g)を加えた。反応系を60℃で2時間撹拌した。反応終了後、反応系を減圧下で蒸発させて溶剤を乾燥させ、得られたものを飽和炭酸水素ナトリウム溶液でアルカリ性に中和し、酢酸エチルで抽出した。有機相を水と飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機相を濾過し、減圧下で蒸発乾固させて、粗生成物を得た。粗生成物をジエチルエーテルで洗浄し、化合物A4を得た。LC/MS:M+H 297.0。
【0061】
2-クロロ-7-(2,6-ジフルオロフェニル)-5,8-ジメチル-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン(A5):丸底フラスコに2-クロロ-7-(2,6-ジフルオロフェニル)-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン(2g)及びN,N-ジメチルアセトアミド(10ml)を加え、-35℃に冷却し、続いてヨードメタン(0.9ml)、次いで水素化ナトリウム(615mg)を加え、反応系を2時間撹拌した。反応終了後、反応混合物を水でクエンチし、酢酸エチルで抽出した。有機相をそれぞれ水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。有機相を濾過し、減圧下で蒸発乾固させて、粗生成物を得た。粗生成物をジエチルエーテルで洗浄し、化合物A5を得た。LC/MS:M+H 325.0。
【0062】
4-((7-(2,6-ジフルオロフェニル)-5,8-ジメチル-6-オキソ-5,6,7,8-テトラヒドロプテリジン-2-イル)アミノ)ベンズスルファミド(1):丸底フラスコに2-クロロ-7-(2,6-ジフルオロフェニル)-5,8-ジメチル-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン(100mg)、スルファニルアミド(53mg)、p-トルエンスルホン酸(53mg)及びsec-ブタノール(5ml)を加えた。反応系を120℃で一晩撹拌した。反応終了後、反応混合物を濾過し、メタノール及びジエチルエーテルで洗浄し、化合物1を得た。LC/MS:M+H 461.1。
【0063】
2.本発明の他のMST1/2阻害剤化合物の調製
本発明の他のMST1/2阻害剤化合物を化合物1と同様の方法で合成し、それらの構造及び質量スペクトルデータを以下の表に示す。
【0064】
【表2A】
【表2B】
【表2C】
【表2D】
【表2E】
【0065】
(実施例1)
ヒト初代喉頭癌上皮細胞の分離
喉頭癌組織試料、すなわち試料番号0S0020、0S0021及び0S0022は、インフォームドコンセントを得た3人の喉頭癌患者の癌組織から外科的切除により得られたものである。以下、試料の1つ(番号0S0020)について説明する。
【0066】
上述の組織試料を、外科的摘除又は生検の後30分以内に収集した。より具体的には、無菌環境下で、非壊死部位の組織試料を0.5cm3超の体積で切り出し、予め冷却した4mLの組織輸送液(表1に示す具体的な処方)に入れた。輸送液は5mLの蓋付きプラスチック製滅菌凍結保存チューブ(Guangzhou Jet Bio-Filtration Co., Ltd.から購入)に入れ、コールドチェーン(0℃~10℃)で実験室に運んだ。
【0067】
【0068】
【0069】
生物学的安全キャビネット内で、組織試料(番号0S0020)を100mmの細胞培養ディッシュ(NESTから購入)に移した。この組織試料を組織輸送液ですすいだ。組織試料の表面上の残留した血液を洗い流した。組織試料の表面上の脂肪等の余分な組織を取り除いた。すすいだ組織試料を別の新しい100mmの培養ディッシュに移し、2mLの輸送液を加え、滅菌メス刃及び鉗子を使用して、組織試料を体積3mm3未満の組織片に分けた。
【0070】
組織試料片を15mL遠沈管に移し、卓上遠心機(Sigma、3-18K)で1500rpm、4分間遠心分離した。上清を捨てた後、組織輸送液と組織消化液を1:1の比で加えた(投与量は組織10mgに対して組織消化液約5mLであり、具体的な処方を表2に示した)。次いで、試料に番号を付けてシールフィルムで封をした後、37℃、300回転の恒温式振盪機(Zhichu Instrument ZQLY-180N)で消化した。消化が完了したかどうかを1時間ごとの観察により判断した。
【0071】
消化後、未消化の組織ブロックを70μmのフィルタースクリーンで濾過した。フィルタースクリーン上の組織ブロックを組織輸送液ですすぎ、残留した細胞を遠沈管にすすぎ入れ、1500rpmで4分間遠心分離を行った。
【0072】
上清を捨てた後、残った細胞塊を観察して血球が残っているかどうかを判断した。血球があれば血球溶解液(Sigmaから購入)3mLを加えた後よく混ぜ、5分に1回よく振って混ぜながら4℃で15分間溶解した。溶解後に得られたものを取り出して1500rpmで4分間遠心分離した。上清を捨て、消化及び分離された初代喉頭癌細胞を提供し、これに基礎培地(BM)を加えて再懸濁した。基礎培地は、市販のDMEM/F-12培地に0.2体積%のプリモシン(Invivogenから購入、濃度50mg/mL)を加え、最終濃度100μg/mLとなるように調製した。フローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co., Ltd.)で計数して得た総細胞数は2080000個であった。
【0073】
他の2つの喉頭癌組織試料を上記と同じ方法に従って分離し、総細胞数はそれぞれ1970000個(0S0021)及び2320000個(0F0022)であった。
【0074】
(実施例2)
初代喉頭癌上皮細胞に対する培養培地の最適化
(1)種々の因子による効果
培養したNIH-3T3細胞(ATCCから購入、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培養溶液で培養)を0.25%トリプシン(Thermo Fisherから購入)で消化し、消化を、5%(体積/体積)ウシ胎児血清(ExCell Biotech Co., Ltd.から購入)、100U/mLペニシリン、及び100μg/mLストレプトマイシンを含むDMEM培養溶液(Corningから購入)を用いて終了させ、得られたものを15mLの遠沈管に収集し、1500rpmで4分間遠心分離した後、上清を廃棄した。遠心分離した細胞沈殿物を、10%ウシ胎児血清を含む上記DMEM培養溶液に再懸濁し、フローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co, Ltd.)で計数した。細胞に35Gyの照射線量のγ線を照射し、次いで2×104細胞/cm2の密度で培養容器に接種した。37℃のインキュベーターで細胞が壁に付着するまで細胞をインキュベートした。初代細胞を接種する前に、培養容器から培養培地を取り除いた。
【0075】
基礎培地(BMと略記する)の調製:BMを、市販のDMEM/F-12培地に0.2体積%のプリモシン(Invivogenから購入、濃度50mg/mL)を加え、最終濃度100μg/mLとなるように調製した。
【0076】
次に、基礎培地(BM)に異なる種類と濃度の添加剤因子(表3)を加え、種々の添加剤成分を含有する喉頭癌上皮細胞用培養培地を調製した。
【0077】
【0078】
異なる成分を含む培養培地を、γ線照射したNIH-3T3細胞を予め敷き詰めた48ウェルプレートに500μl/ウェルの容量で加えた。実施例1に記載されるものと同じ方法に従って喉頭癌組織から分離した喉頭癌細胞(番号0S0064)を、4×10
4細胞/ウェルの細胞数で、γ線照射したNIH-3T3細胞を予め敷き詰めた上記の48ウェル培養プレートに接種した。表面消毒後、プレートを37℃、5%CO
2インキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れ、同数の新しく分離した喉頭癌細胞(番号0S0064)を異なる培地処方のもとで培養した。培養開始後、4日ごとに培養培地を交換し、絨毛細胞を補填した。10日間の培養後、細胞計数を行った。実験コントロールとして、添加剤を一切加えていない基礎培地(BM)を使用した。結果を
図1A~
図1Fに示す。
【0079】
図の縦軸は、基礎培地BMでの培養後に得られた細胞数に対する、異なる培地での培養後に得られた細胞数の比を示す。図に示すように、表3に従って種々の濃度の種々の因子をBMに添加すると、細胞増殖に対する異なる効果をもたらし得る。中でも、B27添加剤、N2添加剤、インスリン-トランスフェリン-セレン複合体、肝細胞成長因子、インスリン様成長因子1、線維芽細胞成長因子7、化合物1、Y27632、及びA83-01は特定の濃度範囲において細胞増殖に対して一定の促進効果を提供した。
【0080】
(2)本発明の方法により得られた初代喉頭癌細胞の増殖に及ぼす培養培地中の因子の増加の影響
基礎培地BMにそれぞれ種々の低分子、添加剤、及び成長因子(表4)を順に添加し、種々の添加剤成分を含有する喉頭癌上皮細胞用培養培地を調製した。
【0081】
【0082】
γ線照射したNIH-3T3細胞を予め敷き詰めた48ウェルプレートに、異なる成分を含む培養培地を500μl/ウェルの量で加え、同時にBM培地を実験コントロールとして使用した。実施例1に記載の方法に従って喉頭癌組織から分離した喉頭癌細胞(番号0S0065)を、4×10
4細胞/ウェルの細胞数で、γ線照射したNIH-3T3細胞を予め敷き詰めた上記の48ウェル培養プレートに接種した。表面消毒後、プレートを37℃、5%CO
2インキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れ、同数の新しく分離した喉頭癌細胞(番号0S0065)を異なる培地処方のもとで培養した。7日間の培養後、細胞計数を行った。結果を
図2に示した。
【0083】
図に示すように、この特許において、初代喉頭癌細胞(以下、SCMと略記する)の培養及び増殖に最も好ましい培養培地は7番であると判断された。このことから、N2添加剤及びB27添加剤等、いくつかの因子、低分子阻害剤、又は或る特定の濃度の血清及び血清の代替物を更に添加しても、細胞増殖の促進に大きな効果は与えなかった。
【0084】
(3)本発明で得られた初代喉頭癌細胞の増殖に対する種々の濃度の添加剤因子の効果
本発明の初代喉頭癌上皮細胞用培養培地(SCMと略記する)の調製:基礎培地(BM)に、最終濃度40ng/mlの線維芽細胞成長因子7(FGF-7)、最終濃度10ng/mlのインスリン様成長因子1(IGF-1)、最終濃度10ng/mlの肝細胞成長因子(HGF)、1:50の希釈比のインスリン-トランスフェリン-セレン複合体(ITS)ストック溶液(SCM培地中、最終濃度10μg/mlのインスリン、最終濃度5μg/mlのトランスフェリン、及び最終濃度5ng/mlの亜セレン酸ナトリウム)、最終濃度5μMの化合物1、最終濃度10μMのY27632、及び最終濃度250nMのTGFβ1阻害剤A83-01を加え、初代喉頭癌上皮細胞用の培養培地を調製した。
【0085】
実施例1と同様の方法を用いて、喉頭癌患者の癌組織から癌組織に由来する喉頭癌上皮細胞を分離して得た(試料番号0S0005)。次に、癌組織に由来する喉頭癌細胞をフローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co., Ltd.)で計数し、総細胞数を得た。次いで、γ線照射したNIH-3T3細胞を予め敷き詰めた12ウェルプレートに4×104細胞/cm2の密度で細胞を接種した。調製した初代喉頭癌上皮細胞用培養培地SCM 2mLを12ウェルプレートに加え、次いで、これを37℃、5%CO2インキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れて培養した。培養プレート内の細胞が底面積の約80%を覆うように成長した時点で、12ウェルプレート内の培地上清を捨て、0.25%トリプシン(Thermo Fisherから購入)0.5mLを加えて1分間消化を行い、0.25%トリプシンを除去した後、細胞消化のため再度0.05%トリプシン0.5mLを加え、次いで顕微鏡(EVOS M500、Invitrogen)下で観察して細胞が完全に消化されるまで室温で5分~20分インキュベートし、次いで、5%(体積/体積)ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン、及び100μg/mLストレプトマイシンを含むDMEM/F12培養溶液1mlを用いて消化を終了させ、得られたものを15mLの遠沈管に収集し、1500rpmで4分間遠心分離した後、上清を廃棄した。遠心分離した細胞沈殿物を基礎培地BMに再懸濁し、フローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co., Ltd.)で計数して総細胞数を求めた。得られた細胞を、以下の培養実験に用いた。
【0086】
次に、種々の処方の以下の7種類の培養培地を調製し、実験を行った。
【0087】
製剤1:線維芽細胞成長因子7を含まないSCM培地組成;
製剤2:インスリン-トランスフェリン-セレン複合体を含まないSCM培地組成;
製剤3:インスリン様成長因子1を含まないSCM培地組成;
製剤4:肝細胞成長因子を含まないSCM培地組成;
製剤5:Y27632を含まないSCM培地組成;
製剤6:化合物1を含まないSCM培地組成;
製剤7:A83-01を含まないSCM培地組成。
【0088】
消化された細胞懸濁液を上記製剤1~製剤7でそれぞれ希釈し、γ線照射したNIH-3T3細胞を予め敷き詰めた48ウェルプレートに、1ウェル当たり10000個及び250μLの容量で蒔いた。
【0089】
製剤1の培地を使用する場合、初代細胞を接種した48ウェルプレートに、調製した線維芽細胞成長因子7を、線維芽細胞成長因子7の最終濃度がそれぞれ80ng/ml、40ng/ml、20ng/ml、10ng/ml、5ng/ml、2.5ng/ml及び1.25ng/mlとなるように1ウェル当たり250μL加え、コントロールウェル(BC)として製剤1の培地を使用した。
【0090】
製剤2の培地を使用する場合、初代細胞を接種した48ウェルプレートに、インスリン-トランスフェリン-セレン複合体ストック溶液の最終濃度がそれぞれ1:1600、1:800、1:400、1:200、1:100、1:50、及び1:25になるように(インスリン/トランスフェリン/亜セレン酸ナトリウムの最終濃度は、それぞれ0.3125μg/ml、0.15625μg/ml、0.15625ng/ml;0.625μg/ml、0.3125μg/ml、0.3125ng/ml;1.25μg/ml、0.625μg/ml、0.625ng/ml;2.5μg/ml、1.25μg/ml、1.25ng/ml;5μg/ml、2.5μg/ml、2.5ng/ml;10μg/ml、5μg/ml、5ng/ml;及び20μg/ml、10μg/ml、10ng/mlに対応する)調製したインスリン-トランスフェリン-セレン複合体を1ウェル当たり250μL添加した。製剤2の培地をコントロールウェル(BC)として使用した。
【0091】
製剤3の培地を使用する場合、初代細胞を接種した48ウェルプレートに、インスリン様成長因子1の最終濃度がそれぞれ80ng/ml、40ng/ml、20ng/ml、10ng/ml、5ng/ml、2.5ng/ml、及び1.25ng/mlとなるように調製したインスリン様成長因子1を1ウェル当たり250μL添加した。製剤3の培地をコントロールウェル(BC)として使用した。
【0092】
製剤4の培地を使用する場合、初代細胞を接種した48ウェルプレートに、肝細胞成長因子の最終濃度がそれぞれ80ng/ml、40ng/ml、20ng/ml、10ng/ml、5ng/ml、2.5ng/ml、及び1.25ng/mlとなるように調製した肝細胞成長因子を1ウェル当たり250μL添加した。製剤4の培地をコントロールウェル(BC)として使用した。
【0093】
製剤5の培地を使用する場合、初代細胞を接種した48ウェルプレートに、Y27632の最終濃度がそれぞれ40μM、20μM、10μM、5μM、2.5μM、1.25μM、及び0.625μMとなるように調製したY27632を1ウェル当たり250μL添加した。製剤5の培地をコントロールウェル(BC)として使用した。
【0094】
製剤6の培地を使用する場合、初代細胞を接種した48ウェルプレートに、化合物1の最終濃度がそれぞれ40μM、20μM、10μM、5μM、2.5μM、1.25μM、及び0.625μMとなるように調製した化合物1を1ウェル当たり250μL添加した。製剤6の培地をコントロールウェル(BC)として使用した。
【0095】
製剤7の培地を使用する場合、初代細胞を接種した48ウェルプレートに、A83-01の最終濃度がそれぞれ4000nM、2000nM、1000nM、500nM、250nM、125nM、及び62.5nMとなるように調製したA83-01を1ウェル当たり250μL添加した。製剤7の培地をコントロールウェル(BC)として使用した。
【0096】
48ウェルの約85%まで細胞を増殖させた後、細胞を消化して計数し、コントロールウェル(BC)の細胞数を参照して比を算出し、結果を
図3A~
図3Gに示した。
図3A~
図3Gのそれぞれにおいて、比は、各培養培地を用いることにより培養された1回目の継代の細胞数と、対応するコントロールウェルにより培養された1回目の継代の細胞数との比を表す。この比が1より大きい場合は、異なる濃度の因子又は低分子化合物を含有する調製培地の増殖促進効果が、コントロールのウェル培地の増殖促進効果よりも好ましいことを示し、この比が1より小さい場合は、異なる濃度の因子又は低分子化合物を含有する調製培地の増殖促進効果が、コントロールのウェル培地の増殖促進効果よりも悪いことを示す。
【0097】
図3A~
図3Gの結果によると、培養培地中の線維芽細胞成長因子7の量は、好ましくは5ng/ml~80ng/ml、より好ましくは20ng/ml~80ng/mlであり、インスリン-トランスフェリン-セレン複合体の体積濃度は、好ましくは1:25~1:100、より好ましくは1:25~1:150であり(インスリン/トランスフェリン/亜セレン酸ナトリウムの最終濃度は、それぞれ5μg/ml~20μg/ml、2.5μg/ml~10μg/ml、2.5ng/ml~10ng/ml、より好ましくはそれぞれ10μg/ml~20μg/ml、5μg/ml~10μg/ml、5ng/ml~10ng/mlに相当する)、インスリン様成長因子1の量は、好ましくは10ng/ml~80ng/ml、より好ましくは10ng/ml~40ng/mlであり、肝細胞成長因子の量は、好ましくは10ng/ml~80ng/ml、より好ましくは10ng/ml~40ng/mlであり、Y27632の量は、好ましくは1.25μM~20μM、より好ましくは2.5μM~10μMであり、化合物1の量は、好ましくは1.25μM~10μM、より好ましくは2.5μM~10μMであり、A83-01の量は、好ましくは125nM~1000nMであり、より好ましくは125nM~500nMである。
【0098】
(実施例3)
ヒト喉頭癌組織由来の初代喉頭癌細胞の培養
実施例1と同様の方法を用いて、喉頭癌患者の癌組織から癌組織に由来する喉頭癌上皮細胞を分離して得た(試料番号0S0003)。次に、癌組織に由来する喉頭癌細胞をフローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co., Ltd.)で計数し、総細胞数を得た。次いで、γ線照射したNIH-3T3細胞を予め敷き詰めた12ウェルプレートに4×104細胞/cm2の密度で細胞を接種した。調製した初代喉頭癌上皮細胞用培養培地SCM 2mLを12ウェルプレートに加え、次いで、これを37℃、5%CO2インキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れて培養した。
【0099】
図4Aは、この実施例によるγ線照射したNIH-3T3細胞を予め敷き詰めた12ウェルプレートに4×10
4細胞/cm
2の密度で接種し、4日目まで培養した細胞の顕微鏡画像(100倍倒立位相差顕微鏡で撮影)である。顕微鏡による観察は、癌組織由来の培養された初代喉頭癌細胞が大きなクローンを形成したことを示す。
図4Bは、この実施例による接種後12日目まで培養した細胞の顕微鏡画像(100倍倒立位相差顕微鏡で撮影)であり、視野内が細胞でいっぱいになっていることを示す。
図4A及び
図4Bから、分離した初代喉頭癌細胞をin vitroで4日間培養すると、明らかなクローンの形成を顕微鏡下で見ることができ、12日間増殖させた後、細胞数が有意に増殖したことが分かり、本発明の技術は喉頭癌上皮細胞をin vitroで効率的に増殖する技術であることが示唆された。
【0100】
(実施例4)
喉頭癌組織由来の初代喉頭癌細胞の増殖促進に対する種々の培養培地の影響
(1)種々の培養培地が初代細胞のクローン形成及び初代細胞の増殖効果に及ぼす影響の比較
実施例2と同様の方法で初代喉頭癌上皮細胞用培養培地SCMを調製し、コントロールとして基礎培地BMを調製した。また、別のコントロールとして、条件付き細胞リプログラミング技術に使用される培養培地FMを追加で調製した。調製工程については、Liu et al., Nat Protoc., 12(2):439-451, 2017を参照されたい。培養培地の処方を表5に示す。同時に、更なるコントロールとして、初代喉頭癌細胞SCM-1及びSCM-2の培養培地を調製し、培地SCM中のインスリン-トランスフェリン-セレン複合体を、それぞれ1:50の体積比でB27添加剤、1:100の体積比でN2添加剤に置き換えた処方の培養培地を得た。さらに、追加のコントロールとして、市販の培地である規定ケラチノサイトSFM(以下、「KSFM培地」とも称する)をGibcoから購入し、培養培地の処方を表6に示す。
【0101】
【0102】
【0103】
実施例1と同様の方法を使用して、喉頭癌組織由来の初代喉頭癌細胞(番号0S0006)を取得した。次に、以下の6つの培養条件で、同じ密度(4×104細胞/cm2)で細胞の培養を行った。
【0104】
A.本発明の技術:γ線照射したNIH-3T3細胞(ATCCから購入)を予め敷き詰めた24ウェルプレートに初代喉頭癌細胞を4×104細胞/cm2の密度で接種し、本発明の初代喉頭癌上皮細胞用培養培地SCM 1mLを用いて培養を行った。
【0105】
B.細胞条件付きリプログラミング技術:γ線照射したNIH-3T3細胞(ATCCから購入)を予め敷き詰めた24ウェルプレートに、初代喉頭癌細胞を4×104細胞/cm2の密度で接種し、1mLの細胞条件付きリプログラミング培地FMを用いて24ウェルプレートで培養した(詳細な工程はLiu et al., Nat. Protoc., 12(2):439-451, 2017を参照されたい)。
【0106】
C.γ線照射したNIH-3T3細胞(ATCCから購入)を予め敷き詰めた24ウェルプレートに初代喉頭癌細胞を4×104細胞/cm2の密度で接種し、1mLの培養培地SCM-1を用いて24ウェルプレートで培養を行った。
【0107】
D.γ線照射したNIH-3T3細胞(ATCCから購入)を予め敷き詰めた24ウェルプレートに初代喉頭癌細胞を4×104細胞/cm2の密度で接種し、1mLの培養培地SCM-2を用いて24ウェルプレートで培養を行った。
【0108】
E.初代喉頭癌細胞を4×104細胞/cm2の密度で24ウェルプレートに接種し、市販の培地KSFM 1mLを用いて24ウェルプレートで培養した。
【0109】
F.γ線照射したNIH-3T3細胞(ATCCから購入)を予め敷き詰めた24ウェルプレートに初代喉頭癌細胞を4×104細胞/cm2の密度で接種し、2mLの基礎培地BMを用いて24ウェルプレートで培養を行った。
【0110】
上記の6つの培養において、6つの培養条件下で培地を5日ごとに一新して細胞を培養した。同時に、24ウェルプレートでの各培地の培養下での細胞クローン形成及び細胞増殖状態を観察し、顕微鏡(EVOS M500、Invitrogen)で細胞成長状態を撮影することにより記録した。
【0111】
本発明の技術で培養した喉頭癌の初代癌細胞(番号0S0006)に、培養プレート内の細胞が底面積の約80%を覆うように成長した時点で、24ウェルプレート内の培地上清を捨て、0.25%トリプシン(Thermo Fisherから購入)0.5mLを加えて1分間消化し、0.25%トリプシンを除去した後、細胞消化のため再度0.05%トリプシン0.5mLを加え、次いでこれを顕微鏡(EVOS M500、Invitrogen)下で観察して細胞が完全に消化されるまで37℃で10分インキュベートし、次いで、5%(体積/体積)ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシンを含むDMEM/F12培養溶液1mlを用いて消化を終了させ、得られたものを15mLの遠沈管に収集し、1500rpmで4分間遠心分離した後、上清を廃棄した。遠心分離した細胞沈殿物を本発明の培養培地に再懸濁し、フローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co., Ltd.)で計数して総細胞数を求めたところ、317000個であった。他の5つの培養条件で培養した細胞を、上記と同様の操作プロセスで消化し、計数した。FM、SCM-1、SCM-2、KSFM、及びBMの培地を使用して培養した細胞の総数は、それぞれ166700個、266100個、277200個、95600個、及び35900個であった。
【0112】
図5は、番号0S0006の細胞から異なる条件下で増幅された細胞の総数のプロットである。
【0113】
図6は、実施例1による6つの喉頭癌患者試料(番号0S0011、番号0S0012、番号0S0013、番号0S0014、番号0S0015、番号0S0016)から分離した初代喉頭癌細胞を6種類の異なる培養培地の条件下で7日間培養して得た細胞増殖効果の比較図であり、√は中程度のクローン形成能及び増殖促進効果を表し、√√は、顕著なクローン形成能及び増殖促進効果を表し、√√√は極めて大きなクローン形成能及び増殖促進効果を表し、×はクローン形成がないことを表す。図より、培養培地SCMは、喉頭癌組織由来初代細胞の培養において、クローン形成能及び細胞増殖促進効果の点で、他の5つの培養条件に対して有意に優れていることが確認される。
【0114】
(2)初代喉頭癌細胞の種々の培養培地における連続培養及び成長曲線
この実施例の(1)と同様の方法を使用して、初代喉頭癌上皮細胞用培養培地SCMと、コントロールとしての培養培地FM、SCM-1、SCM-2、KSFM、及びBMを得た。
【0115】
喉頭癌組織由来の初代喉頭癌細胞(番号0S0004)を以下の6種類の培養培地で培養した後、この実施例の(1)と同様の方法を使用して消化、継代及び計数した。
【0116】
継代した細胞が培養プレート内で再びプレートの底面積の約80%を覆うように成長した時点で、上記の操作方法に従って培養細胞を消化、収集及び計数した。細胞を再び4×104細胞/ウェルの密度で接種し、連続培養を行った。
【0117】
以下は、異なる培養条件下での初代喉頭癌上皮細胞の細胞集団倍加数の算出式である。
集団倍加(PD)=3.32×log10(消化された細胞の総数/初回接種時の細胞数)、Chapman et al., Stem Cell Research & Therapy 2014, 5:60を参照されたい。
【0118】
図7は、Graphpad Prismソフトウェアによって描かれた、6種類の異なる培養条件下での0S0004細胞の成長曲線を示す。横軸は細胞培養日数を表し、縦軸は累積細胞増殖の倍数、すなわち培養期間中の細胞増殖の倍数を表す。値が大きいほど、一定時間内に細胞が何倍にも増殖しており、すなわち、より多くの細胞が増殖している。傾きは、細胞の増殖速度を表す。図より、本発明の培養培地SCMとSCM-1、SCM-2で培養した喉頭癌上皮細胞の増殖速度は、他の3つの培養条件よりも優れていることが確認され、本発明の技術により初代喉頭癌上皮細胞を連続培養できることも確認できる。
【0119】
(実施例5)
癌組織由来の初代喉頭癌細胞の同定
(1)原発喉頭癌組織及び継代培養後の喉頭癌細胞の免疫蛍光法による同定
実施例1と同様の方法を用いて、喉頭癌患者の癌組織から癌組織に由来する喉頭癌上皮細胞を分離して得た(試料番号0S0015)。次に、癌組織に由来する喉頭癌細胞をフローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co., Ltd.)で計数し、総細胞数を得た。次いで、γ線照射したNIH-3T3細胞を予め敷き詰めた24ウェルプレートに4×104細胞/cm2の密度で細胞を接種した。同時に、免疫蛍光染色用の円形細胞スライド(Thermo Fisherから購入)を24ウェルプレートに予め入れておいた。調製した初代喉頭癌上皮細胞用培養培地SCM 1mLを24ウェルプレートに加え、次いで、これを37℃、5%CO2インキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れて培養した。
【0120】
24ウェルプレート内の細胞が底面積の80%を覆うまで増殖した時点で培養溶液を捨て、4%ホルムアルデヒドを用いて氷上で30分間細胞を固定した。得られたものをPBS(Shanghai Sangon Biotechから購入)で5分×3回洗浄した。PBSを捨てた後、浸透液を加え、得られたものを、光を当てずに30分間振とう(約100rpm)して膜を破り、次いで、PBSで5分間×3回洗浄を行った。その後、PBS+0.3%Triton X-100(Shanghai Sangong Biotechから購入)を用いて、ブロッキング用の5体積%BSA(Shanghai Sangong Biotechから購入)溶液を調製し、37℃で30分間ブロッキングを行った。
【0121】
抗体を希釈するためPBS+0.3%Triton X-100を前もって調製し、扁平上皮癌特異的抗体p63(CSTから購入)を1:50の比率で希釈した。ブロッキング溶液を捨て、調製した一次抗体希釈液を添加した。これを4℃の冷蔵庫で一晩インキュベートした。得られたものを4℃で取り出した後、室温に戻し、37℃で1時間続けてインキュベートした後、PBSで5分×3回洗浄した。
【0122】
二次抗体の希釈には、前もってPBS+0.3%Triton X-100を調製し、励起光488nmのウサギ蛍光二次抗体(Thermo Fisherから購入)を1:1000の比率で希釈した。得られたものを室温、暗所で1時間インキュベートした後、PBSで5分×3回洗浄した。
【0123】
非特異的蛍光色素DAPI(Sigmaから購入)をPBSで1:1000の体積比で希釈し、室温暗所にて5分間染色に使用した。得られたものをPBSで5分×3回洗浄した。記録用に顕微鏡(EVOS M500、Invitrogen)下で写真を撮影した。
【0124】
図8A及び
図8Bは、それぞれ10倍の対物レンズ下の異なる視野で撮影した蛍光写真であり、このうち、
図8Aは非特異的蛍光色素DAPIで核を染色した写真であり、
図8Bは喉頭癌特異抗体p63(核に存在する)で染色した写真である。図に示すように、
図8Aで核を示した位置は、
図8Bでは全て緑色に染色されており、培養細胞は喉頭扁平上皮癌細胞であり、臨床病理診断と一致することを示す。
【0125】
(2)原発喉頭癌組織及び継代培養後の喉頭癌細胞の免疫組織化学による同定
喉頭癌患者の外科的切除試料から緑豆大の癌組織(試料番号0S0001)を採取し、1mLの4%パラホルムアルデヒドに浸漬した。残った癌組織から、実施例1と同様の方法で喉頭癌上皮細胞(試料番号0S0001)を得た。試料0S0001を、本発明の培養培地SCMを用いて、実施例3の方法に従い、6継代目まで連続培養した。
【0126】
免疫組織化学アッセイを用いて、試料0S0001の元の組織と6継代目まで連続培養して得た初代細胞の重要な喉頭癌関連バイオマーカーの発現を検出した。組織を4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋して、ミクロトームで厚さ4μmの組織切片に切り出した。次いで、通例の免疫組織化学的検出を行った(詳細な工程については、Li et al., Nature Communication, (2018) 9:2983を参照されたい)。使用した一次抗体は、サイトケラチン(pCK)(CSTから購入)、p63抗体(CSTから購入)、及びKi67抗体(R&Dから購入)であった。
【0127】
図9は、元の組織細胞と、本発明の培養培地SCMを用いて細胞を培養して得られた喉頭癌細胞との免疫組織化学的結果の比較である。
図9から、本発明の技術により喉頭癌細胞(試料番号0S0001)を6継代目まで培養した細胞における喉頭癌関連バイオマーカーの発現は、その細胞が由来する元の組織切片におけるマーカーの発現と一致することが確認された。このことは、本発明の技術によって培養された細胞は、喉頭癌患者の癌組織の本来の病態特性を維持していることを示唆する。
【0128】
(実施例6)
癌組織由来の初代喉頭癌細胞のマウスでの異種移植による腫瘍形成実験
病理診断された喉頭癌患者1名の癌組織から、実施例1と同様の方法を使用して喉頭癌細胞(番号0S0003)を分離し、取得した。0S0003を実施例3の方法に従って本発明の培養培地SCMを用いて培養し、喉頭癌細胞数が1×107に達した時点で、実施例4と同様の方法を使用して喉頭癌細胞を消化し、収集した。本発明の喉頭癌細胞用培養培地SCMとMatrigel(商標)(BD Biosciencesから購入)を1:1の割合で混合し、Matrigelと混合した培養培地100μLを用いて5×106個の喉頭癌細胞を再懸濁し、得られたものを6週齢の雌性高度免疫不全マウス(NCG)(Nanjing Model Animal Research Centerから購入)の喉頭癌脂肪パッドと右前肢の腋下にそれぞれ注入した。喉頭癌細胞から生成されたマウスにおける腫瘍の体積及び成長速度を3日ごとに観察して写真撮影した。
【0129】
腫瘍細胞接種後21日目にマウスの2つの腫瘍細胞接種部位の両方において腫瘍形成が観察され得る。21日目から40日目まで、マウスにおける腫瘍増殖は明らかであった。これは、本発明の培養方法により培養した癌組織由来の喉頭癌細胞がマウスにおいて腫瘍形成性を有することを示している。
【0130】
(実施例7)
癌組織由来の喉頭癌細胞の薬物感受性機能的試験
喉頭癌患者の外科的切除試料を例に取ると、患者由来の喉頭腫瘍試料から培養した喉頭癌細胞を使用して、様々な薬物に対する患者の腫瘍細胞の感受性を試験することができることが確認される。
【0131】
1.初代喉頭癌細胞の播種:実施例1の方法に従って得られた分離喉頭癌細胞(番号0S0020及び番号0S0022)の細胞懸濁液を、γ線照射したNIH-3T3細胞を予め敷き詰めた12ウェルプレートに、4×104細胞/cm2の密度で接種した。調製した初代喉頭癌上皮細胞用培養培地SCM 2mLを12ウェルプレートに加え、37℃、5%CO2インキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れて培養した。培養プレート内の細胞が底面積の約80%を覆うように成長した時点で、12ウェルプレート内の培地上清を捨て、0.25%トリプシン(Thermo Fisherから購入)0.5mLを加えて1分間消化を行い、0.25%トリプシンを除去した後、細胞消化のため再度0.05%トリプシン0.5mLを加え、顕微鏡(EVOS M500、Invitrogen)下で観察して細胞が完全に消化されるまで細胞を37℃で10分インキュベートし、次いで、5%(体積/体積)ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン、及び100μg/mLストレプトマイシンを含むDMEM/F12培養溶液1mLを用いて消化を終了させ、得られたものを15mLの遠沈管に収集し、1500rpmで4分間遠心分離した後、上清を廃棄した。遠心分離した細胞沈殿物を培養培地SCMに再懸濁し、フローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co., Ltd.)で計数して総細胞数を求めたところ、それぞれ830000個及び768000個であった。2000細胞/ウェル~4000細胞/ウェルの密度で384ウェルプレートに細胞を接種し、一晩細胞を接着させた。
【0132】
2.薬物勾配実験:
(1)薬物貯蔵プレートを勾配希釈法によって調製した:10μMの試験される薬物ストック溶液の40μLをそれぞれ最大濃度とし、そこからそれぞれ10μLの溶液をピペッティングして、20μLのDMSOを含む0.5mL EPチューブに加え、上記EPチューブからの溶液10μLを再度20μLのDMSOが入った2つ目の0.5mL EPチューブにピペッティングした(すなわち、薬物を1:3の比で希釈した)。上記の方法を繰り返して段階的に希釈し、投薬に必要とされる7個の濃度を得た。異なる濃度の薬物を384ウェルの薬物貯蔵プレートに加えた。等容量のDMSOを、コントロールとして溶剤コントロール群の各ウェルに加えた。この実施例では、試験する薬物は、ボルテゾミブ(MCEから購入)、ジスルフィラム(MCEから購入)、ゲフィチニブ(MCEから購入)、及びエルロチニブ(MCEから購入)であった。
【0133】
(2)高スループット自動ワークステーション(JANUS、Perkin Elmer)を使用して、384ウェルの薬物貯蔵プレートにおける様々な濃度の薬物及び溶剤コントロールを、喉頭癌細胞が播種された384ウェルの細胞培養プレートに加えた。薬物群及び溶剤コントロール群を、それぞれ3つの反復実験ウェルで配置した。各ウェルに加えた薬物の容量は100nLであった。
【0134】
(3)細胞生存率の試験:投与72時間後に、Cell Titer-Gloアッセイキット(Promegaから購入)を使用して、薬物投与後に培養細胞の化学発光値を検出した。化学発光値の大きさは、細胞生存率及び細胞生存率に対する薬物の効果を反映している。調製された10μLのCell Titer-Glo検出液を各ウェルに加え、マイクロプレートリーダー(Envision、Perkin Elmer)を使用して、混合後に化学発光値を検出した。
【0135】
(4)細胞生存率の試験:細胞生存率(%)=薬物ウェルの化学発光値/コントロールウェルの化学発光値×100%の式により、種々の薬物で処理した細胞の細胞生存率を算出した。Graphpad Prismソフトウェアを用いてグラフを作成し、半数阻害率IC50を計算すると同時に、種々の薬物のヒト体内最大血中濃度Cmax下での細胞生存率も計算した。
【0136】
(5)薬物感受性試験結果を
図10に示す。
図10A及び
図10Bは、それぞれ、2名の異なる喉頭癌患者の外科的に切除した癌組織試料(試料番号0S0020及び試料番号0S0022)から培養した喉頭癌細胞の2種類の化学療法剤であるボルテゾミブ及びジスルフィラムと、標的化薬物であるゲフィチニブ及びエルロチニブに対する感受性を表す。具体的には、
図10Aは、試料番号0S0020から培養した喉頭癌細胞の4剤に対する感受性の結果、
図10Bは、試料番号0S0022から培養した喉頭癌細胞の4剤に対する感受性の結果を示す。図中、横軸の破線に相当する濃度は、ヒト体内におけるこれら4剤の最大血中濃度C
maxを示す。結果は、同じ患者からの細胞が、ヒト体内の各最大血中濃度の異なる薬物に対して異なる感受性を有すること、また異なる患者からの細胞が、ヒト体内の最大血中濃度の薬物に対して異なる感受性を有することも示す。結果によれば、喉頭癌患者への臨床使用における薬物の有効性を判断することができる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は、初代喉頭癌上皮細胞をin vitroで培養又は増殖させるための培養培地及び培養方法を提供する。本発明の培養培地及び培養方法を用いて培養した細胞子孫及びオルガノイドは、薬物の有効性評価及びスクリーニング、毒性判定、並びに再生医療に利用することが可能である。したがって、本発明は産業上適用可能である。
【0138】
以上、本発明を詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、当業者であれば本発明の原理に従って改変を加えることが可能である。したがって、本発明の原理に従って行われる全ての改変は、本発明の保護範囲に含まれると解釈されるべきである。