(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】変位抑制装置
(51)【国際特許分類】
F16F 7/08 20060101AFI20240613BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20240613BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
F16F7/08
E04H9/02 331Z
E04H9/02 351
F16F15/02 E
(21)【出願番号】P 2023122762
(22)【出願日】2023-07-27
【審査請求日】2024-05-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】中井 武
(72)【発明者】
【氏名】栗野 治彦
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-102615(JP,A)
【文献】特開2021-095921(JP,A)
【文献】特許第7288559(JP,B1)
【文献】特開平10-082166(JP,A)
【文献】特開2017-053364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 7/08
F16F 15/02
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝突部位に衝突することで対象物の変位を抑制する変位抑制装置であって、
平面において離隔した衝突部位同士を結ぶ方向に延びるロッドが筒体を貫通し、前記ロッドの両端部が前記筒体から各衝突部位側に突出し、
前記ロッドの両端部と各衝突部位との間に所定のクリアランスが設けられ、
前記衝突部位が前記ロッドの端部と衝突して前記ロッドが前記筒体の内部を前記ロッドの軸方向に移動する際に、前記筒体に設けられたエネルギー吸収機構により衝突エネルギーが吸収されることを特徴とする変位抑制装置。
【請求項2】
前記エネルギー吸収機構は、前記ロッドが前記筒体内を移動する際の摩擦により衝突エネルギーを吸収するものであることを特徴とする請求項1記載の変位抑制装置。
【請求項3】
前記ロッドの端部に、前記ロッドの軸方向と直交する水平方向に変形可能な緩衝体が設けられたことを特徴とする請求項1記載の変位抑制装置。
【請求項4】
前記緩衝体は積層ゴムであることを特徴とする請求項3記載の変位抑制装置。
【請求項5】
前記ロッドの端部に、当該端部と前記衝突部位の間隔を調整するための調整機構が設けられたことを特徴とする請求項1記載の変位抑制装置。
【請求項6】
前記衝突部位は前記対象物の一部であることを特徴とする請求項1記載の変位抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物躯体などの変位を抑制する変位抑制装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
免震建物では、想定を超えるレベルの地震動を受けた際に免震層の層間変位が過大になるのを防止するため、建物躯体の変位を一定範囲内に収めるよう対策が採られることがある。
【0003】
例えば特許文献1、2には、免震建物の擁壁に高減衰ゴムなどの衝撃吸収材を設けておき、大きな変位が発生した建物躯体を衝撃吸収材を介して擁壁に衝突させることで、衝突時のエネルギーを吸収しつつ、建物躯体の変位を一定範囲内に収めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-77229号公報
【文献】特開2022-63715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した高減衰ゴムなどの衝撃吸収材は、衝撃吸収材を圧縮する向きの建物躯体の変位にしか作用しない。そのため地震時等の往復振動に伴う建物躯体の正逆両方向の変位に対して効果を得るためには、建物躯体の両側に一対の衝撃吸収材(および擁壁)を設ける必要がある。
【0006】
そのため、衝撃吸収材の設置数が多くなり、コスト増につながりやすい。また必要設置数によっては設置場所を確保できないという問題も生じる。さらに、それぞれの衝撃吸収材について、建物躯体との間にクリアランスを確保することが必須となり、各衝撃吸収材の設置箇所周辺に大きな空間が必要となる。
【0007】
その他、衝撃吸収材の種類と振動の程度によっては、衝撃吸収材が押し込まれた後元の状態に戻らず、衝撃吸収材と建物躯体の間隔が元のクリアランスから大きくなる。この場合、振動後に当該間隔を元のクリアランスの大きさに戻すために衝撃吸収材の交換が必要になるなど復旧作業に手間がかかるという課題もある。
【0008】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、往復振動に伴う正逆両方向の変位に対して変位抑制効果を発揮し、かつ繰り返し使用が可能な変位抑制装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するための本発明は、衝突部位に衝突することで対象物の変位を抑制する変位抑制装置であって、平面において離隔した衝突部位同士を結ぶ方向に延びるロッドが筒体を貫通し、前記ロッドの両端部が前記筒体から各衝突部位側に突出し、前記ロッドの両端部と各衝突部位との間に所定のクリアランスが設けられ、前記衝突部位が前記ロッドの端部と衝突して前記ロッドが前記筒体の内部を前記ロッドの軸方向に移動する際に、前記筒体に設けられたエネルギー吸収機構により衝突エネルギーが吸収されることを特徴とする変位抑制装置である。
【0010】
本発明の変位抑制装置では、ロッドの両端部のそれぞれが衝突部位と衝突し、ロッドが正逆両方向に押し込まれて筒体内を移動する際に衝突エネルギーが吸収される。これにより、一個の変位抑制装置で往復振動による建物躯体等の正逆両方向の変位に対して変位抑制効果を繰り返し発揮できる。そのため、変位抑制装置の設置数を少なくでき、コストが削減され、設置箇所も容易に確保できる。また往復振動に対して必要なクリアランスを一個の変位抑制装置の両側に集約することができるので、省スペース化を実現することができ、その他の設備の配置にも制約が生じにくい。また往復振動によりロッドが押し込まれる方向が交互に変わるので、振動終了後にはロッドが原位置近くまで復帰しており、振動後のクリアランスの変化も小さい。
【0011】
前記エネルギー吸収機構は、前記ロッドが前記筒体内を移動する際の摩擦により衝突エネルギーを吸収するものであることが望ましい。
これにより、変位抑制装置が、摩擦により衝突エネルギーを吸収する摩擦ダンパとして機能し、ロッドのストロークを長くすることで大きなエネルギーを吸収することができる。また、摩擦材のロッドへの締付力を調節することで任意に抵抗力を設定でき、繰り返しの振動に対して高い耐久性を期待することができる。
【0012】
前記ロッドの端部に、前記ロッドの軸方向と直交する水平方向に変形可能な緩衝体が設けられることが望ましい。
上記の緩衝体により、衝突部位がロッドの端部に衝突する際、両部位に衝突直交方向の相対変位がある場合にも、緩衝体がこれに追従して変形することで、変位抑制装置の損傷を防止できる。
【0013】
前記緩衝体は例えば積層ゴムである。
積層ゴムは、衝突部位がロッドの端部に衝突する際、両部位の衝突面の向きが異なる場合にも、厚さ方向の変形により衝突面の向きの違いに追従可能であり、変位抑制装置の損傷を防止できる。また、積層ゴムは厚さ方向に十分な剛性を有するため、衝突時においても積層ゴム部分の変形は小さく、変位抑制装置の性能を損なうことが無い。
【0014】
前記ロッドの端部に、当該端部と前記衝突部位の間隔を調整するための調整機構が設けられることが望ましい。
これにより、振動後にロッドの端部と衝突部位の間隔が元のクリアランスから変化した場合にも、その間隔を元のクリアランスの大きさへと容易に戻すことができる。
【0015】
前記衝突部位は例えば前記対象物の一部である。
これにより、新たな衝突部位を設ける必要が無く、合理的な設計が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、往復振動に伴う正逆両方向の変位に対して変位抑制効果を発揮し、かつ繰り返し使用が可能な変位抑制装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は本発明の実施形態に係る変位抑制装置1を示す図である。
図1(a)は変位抑制装置1を側方から見た図であり、
図1(b)は変位抑制装置1を上から見た図である。
【0020】
変位抑制装置1は、免震建物の下部構造3の立ち上がり部31に設けられ、地震等の振動で免震建物の上部構造4(対象物)の衝突部位41が衝突することで、上部構造4の変位を抑制するものである。
【0021】
下部構造3と上部構造4は、それぞれ建物基礎と建物躯体であり、鉄筋コンクリートや鉄骨を材料とする構造体とするが、これに限ることはない。また衝突部位41は、上部構造4から垂下した一部分であり、上部構造4と別に新たな衝突部位を設ける必要が無く、合理的な設計が可能となる。衝突部位41は、平面において、変位抑制装置1の両側に離隔して配置される。
【0022】
変位抑制装置1は、衝突部位41同士を結ぶ方向に延びるロッド20を、筒体10を貫通するように配置したものである。ロッド20は、軸状のロッド本体21の両端部に受衝部22を設けたものである。ロッド本体21は筒体10内で軸方向に移動可能であり、ロッド20の両端部は筒体10から各衝突部位41側に突出する。筒体10は鋼製の部材であるが、これに限らず、コンクリート製など他の部材であってもよい。またロッド本体21も鋼製の部材であるが、これに限らず、ステンレスなどその他の金属製の部材であってもよい。
【0023】
筒体10の下部には、筒体10から側方に張り出す張出部11が設けられる。張出部11は、下部構造3の立ち上がり部31の上面に配置され、アンカー材12によって当該立ち上がり部31に固定される。張出部11は、筒体10の軸方向の両端部で設けられる。
【0024】
筒体10の軸方向の中央部では、筒体10の下面にコッター13が設けられる。コッター13は筒体10から下方に突出し、立ち上がり部31のコンクリートに埋設される。このコッター13と上記のアンカー材12により、変位抑制装置1が立ち上がり部31に固定され、衝突部位41の衝突時における筒体10のずれが防止される。本実施形態ではコッター13を併用することでアンカー材12の本数を減らすことができ、施工性が向上する。
【0025】
受衝部22は、衝突部位41と衝突させるためにロッド20の両端部に設けられた部位である。受衝部22と各衝突部位41の間には、同じ大きさの所定のクリアランスcが設けられる。クリアランスcの値は設計用地震動による上部構造4の最大変位よりも大きく設定され、フェイルセーフとして、想定を上回る振動が発生した時に初めて受衝部22が衝突部位41と衝突するように定められる。
【0026】
受衝部22は、ロッド本体21の端部に設けられた積層ゴム221と、積層ゴム221の衝突部位41側に設けられた調整機構222を有する。
【0027】
積層ゴム221は、鋼板による板状のフランジの間で、ゴム層と鋼板とを交互に積層した構成を有する緩衝体である。積層ゴム221は、上記の積層方向を水平にして配置し、一方のフランジを、ロッド本体21の端部の端板211にボルト等で固定する。
【0028】
なお、本実施形態の積層ゴム221は、一般的な免震用積層ゴムよりもゴム層の1層分の厚さを大きくし、積層ゴム厚さ方向のゴム層の変形性能を確保したものであるが、必要最低限の積層数とすることで一般的な免震用積層ゴムよりも薄厚の部材となっている。しかしながら、積層ゴム221がこれに限ることはない。
【0029】
調整機構222は、受衝部22と衝突部位41との間隔を調整するための機構である。調整機構222の構成と間隔の調整方法については後述する。
【0030】
本実施形態では、
図2(a)に示すように、上部構造4が地震等により矢印A1に示すように変位し、上部構造4の一方の衝突部位41がロッド20の一方の端部の受衝部22に衝突すると、
図2(b)に示すように、ロッド本体21が筒体10内で軸方向に移動する。
【0031】
本実施形態では、筒体10内に設けた摩擦材(不図示)がロッド本体21に押圧されており、ロッド本体21が移動時に摩擦材上を摺動することで、その摩擦抵抗により衝突エネルギーが吸収(消費)され、上部構造4の変位が抑制される。摩擦材は本発明のエネルギー吸収機構に対応し、摩擦抵抗力を大きくしたり、ロッド20のストロークを長くしたりすることで大きなエネルギーを吸収することができる。また雨風に曝される場所で変位抑制装置1を使用する場合には、筒体10によって内部の摩擦材やロッド本体21を保護できる。
【0032】
本実施形態では、地震時等の往復振動により、
図2(c)に示すように、上部構造4が矢印A2に示すように先程とは逆方向に変位した際にも、上部構造4の他方の衝突部位41がロッド20の他方の端部の受衝部22に衝突する。これにより、ロッド本体21が筒体10内で先程とは逆方向に移動し、上記と同様、摩擦抵抗により衝突エネルギーが吸収され、上部構造4の変位が抑制される。
【0033】
また本実施形態では、
図2(b)の過程でロッド20が押し込まれることで、ロッド20が
図1に示した原位置よりも上記他方の衝突部位41側に移動している。そのため、当該他方の衝突部位41は早期にロッド20の端部に衝突し、早期に衝突が開始することでより大きなエネルギーを吸収できる。
【0034】
このように、本実施形態では、一個の変位抑制装置1で上部構造4の正逆両方向の変位に対して変位抑制効果を発揮できる。またこの際、ロッド20は正逆両方向に移動し、衝突部位41は振動過程でロッド20の両端部に交互に繰り返し衝突するので、エネルギーを繰り返し吸収することで上部構造4の変位を早期に収束させることができる。
【0035】
図3(a)は、衝突部位41が受衝部22に衝突した状態を上から見た図である。この例では、衝突部位41の衝突時に、衝突部位41の受衝部22側の衝突面が、衝突前の受衝部22(図中破線で示す)の衝突部位41側の衝突面と平面において平行でないものとする。なお、
図3(a)の矢印Aは衝突部位41の衝突方向であり、ロッド20の軸方向に対応する。
【0036】
この場合、受衝部22では、積層ゴム221が上記した衝突面の向きの違いに合わせて厚さ方向(
図3(a)の左右方向に対応する)に変形することで、衝突部位41と調整機構222間の角度の違いが吸収され、衝突部位41の表面が破損したり、調整機構222を構成するプレートがずれたりすることを防止できる。また、積層ゴム221は、厚さ方向に若干の柔性を有するため、衝突の瞬間の衝撃力を緩和させることができる。
【0037】
図3(b)も衝突部位41が受衝部22に衝突した状態を上から見た図であるが、この例では、上部構造4が、衝突方向Aだけでなく矢印Bに示す衝突直交方向にも変位している。衝突直交方向は、衝突方向と直交する方向である。
【0038】
この場合、受衝部22では、積層ゴム221が上記した衝突直交方向Bの変位に追随して水平方向に変形することで、ロッド本体21に生じる曲げ応力が小さくなり、変位抑制装置1の損傷が防止される。積層ゴム221の変形は、衝突部位41と調整機構222が接触している時間にのみ生じる。衝突が終了し、衝突部位41と調整機構222が離間すると、積層ゴム221自身の復元力によって、当初の位置に振動しながら戻る。この際、積層ゴム221のゴム材料を高減衰ゴムとすることで、振動する時間を短縮して、より素早く変形を解消させることができる。
【0039】
このように、本実施形態では緩衝材として積層ゴム221を用いることで、衝突部位41と受衝部22の衝突面の向きの違いや衝突直交方向の衝突部位41の変位を吸収し、ロッド本体21に余分な力が生じず、変位抑制装置1の損傷を防止することができ、ロッド本体21の細径化や筒体10の下部構造3への固定機構の簡素化も可能になる。また衝突後は、積層ゴム221の復元力により積層ゴム221の形状が元に戻り、特段の調整を要することもない。なお
図3(a)、(b)は平面を示したものであるが、鉛直面に関しても同様のことが言え、積層ゴム221により、鉛直面内での衝突面の向きの違い等を吸収できる。
【0040】
本実施形態では、
図2(a)~(c)のように、上部構造4の往復振動時のそれぞれで衝突部位41が受衝部22に衝突し、ロッド20が押し込まれる方向が交互に変わる。そして、上部構造4の変位が前記のクリアランスcを下回った時点で衝突部位41が受衝部22に衝突しなくなるので、振動後には、ロッド20が
図1に示す原位置近くまで復帰する。
【0041】
しかしながら、振動後にロッド20が原位置に戻りきらず受衝部22と衝突部位41との間隔が元のクリアランスcから変化することもあり、この場合、次回地震等が生じた際に、免震層の別の部位同士が先に衝突したり、変位抑制装置1による変位抑制効果が発揮できなかったりする恐れがある。そのため、本実施形態では、調整機構222を用いて上記の間隔を調整し、元のクリアランスcの大きさへと容易に戻すことができるようにしている。
【0042】
すなわち、本実施形態の調整機構222は、
図4(a)に示すように、板材222aをボルトとナットによる締結具222bで積層ゴム221の衝突部位41側(
図4(a)の左側に対応する)のフランジ221aに締結し、外側の板材222aと当該フランジ221aとの間に1または複数の調整板222cを挟んだ構成となっている。そして、締結具222bを緩めて調整板222cの枚数を増減し、再度締結具222bによる締結を行うことで、調整機構222の全体の厚さによって前記の間隔を容易に調整できる。なお締結具222bのボルトの頭部は板材222aに設けた凹部内に収められており、板材222aから衝突部位41側に突出することはない。
【0043】
上記の調整作業ではボルトやナットを完全に外す必要がなく、調整板222cも人力で扱える重量なので、調整作業を現地で簡単に実施することができる。なお、
図4(b)に示すように、調整板222cの立面はT字状であり、その上部の張出部分を締結具222bのボルトに引掛けることで、調整板222cを、ボルトの位置を避けて板材222aとフランジ221aの間で容易に設置することができる。ただし、調整板222cの形状や設置方法はこれに限らない。
【0044】
以上は一個の変位抑制装置1について説明したものであるが、実際の免震建物では、直交二方向の揺れに変位抑制装置1を対応させるべく、
図5に示すように、ロッド20の軸方向を上記二方向のそれぞれとした変位抑制装置1を、複数配置することが好ましい。
【0045】
またロッド20の軸方向を同じとする複数の変位抑制装置1に関し、クリアランスcは全ての変位抑制装置1で同じとしてもよいし、異なる長さとしてもよい。後者の場合、変位抑制装置1全体での抵抗力が段階的に変化するため、衝突時に衝撃的な応答が発生することを避けることができる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の変位抑制装置1では、ロッド20の両端部のそれぞれが衝突部位41と衝突し、ロッド20が正逆両方向に押し込まれて筒体10内を移動する際に衝突エネルギーが吸収される。これにより、一個の変位抑制装置1で往復振動による上部構造4の正逆両方向の変位に対して変位抑制効果を繰り返し発揮できる。そのため、変位抑制装置1の設置数を少なくでき、コストが削減され、設置箇所も容易に確保できる。また往復振動に対して必要なクリアランスcを一個の変位抑制装置1の両側に集約することができるので、省スペース化を実現することができ、その他の設備の配置にも制約が生じにくい。また往復振動によりロッド20が押し込まれる方向が交互に変わるので、振動終了後にはロッド20が原位置近くまで復帰しており、振動後のクリアランスの変化も小さい。
【0047】
さらに本実施形態では、受衝部22の積層ゴム221の厚さ方向の変形により、衝突部位41が受衝部22に衝突する際に両部位の衝突面の向きが異なる場合にも、その向きの違いに追従可能であり、変位抑制装置1の損傷を防止できる。また積層ゴム221は、衝突部位41が受衝部22に衝突する際、両部位に衝突直交方向の相対変位がある場合にも、その変位に追従して水平変形することで、変位抑制装置1の損傷を防止できる。積層ゴム221は厚さ方向に十分な剛性を有するため、衝突時においても積層ゴム部分の変形は小さく、変位抑制装置1の性能を損なうことが無い。
【0048】
また本実施形態では、調整機構222により、振動後に受衝部22と衝突部位41の間隔が元のクリアランスcから変化した場合に、その間隔を元のクリアランスcの値へと現地で容易に戻すことができ、変位抑制装置1を交換したり、ロッド20を移動させたりする必要が無い。
【0049】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限定されない。一例として、上記の実施形態では変位抑制装置1が摩擦抵抗により衝突エネルギーを吸収する摩擦ダンパとして機能し、摩擦材のロッド20(ロッド本体21)への締付力を調節することで任意に抵抗力を設定でき、繰り返しの振動に対して高い耐久性を期待することができるが、エネルギー吸収機構はこれに限らない。
【0050】
例えば
図6のように、筒体10aの内部に油圧回路100を設け、変位抑制装置1aを、ロッド20の移動時の作動油103の流体抵抗により衝突エネルギーを吸収(消費)する油圧ダンパとして機能させてもよい。この場合、ピストン101の両側の油室102同士を接続する流路105に設けた調整弁106により流体抵抗を調整でき、振動後に調整弁106を開くことで抵抗を0とし、ロッド20を原位置へと容易に戻すこともできる。そのため、前記の調整機構222を省略することもできる。調整機構222を省略することができれば、装置設置位置の省スペース化に繋がり、より適用範囲を拡げることが可能となる。
【0051】
なお上記のピストン101はロッド本体21の中間部に設けられ、その内部には、ピストン101の両側の油室102を連通させる流路104も設けられる。当該流路104には調圧弁、リリーフ弁が配置される。前記の流路105はピストン101外で両油室102を接続するように設けられている。ただし油圧回路100の構成はこれに限らない。
【0052】
また前記した摩擦による変位抑制装置1においても、振動後に摩擦材のロッド本体21への押圧を緩めてロッド20を手動で移動させ、ロッド20を原位置に戻すことは可能であり、この場合も、前記の調整機構222を省略することができる。
【0053】
また上記の実施形態では筒体10から突出するコッター13を下部構造3の立ち上がり部31のコンクリートに埋設しているが、その代わりに、筒体10から鉛直下方に突出する孔あき鋼板ジベル(不図示)を立ち上がり部31のコンクリートに埋設してもよい。これによっても、変位抑制装置1を立ち上がり部31に固定できる。孔あき鋼板ジベルは、孔内に充填されたコンクリートにより大きなせん断力を負担できるため、変位抑制装置1の固定機構として優れている。
【0054】
また上記の実施形態では受衝部22の緩衝材として積層ゴム221を用いているが、緩衝材はこれに限らず、防舷材などの(積層ゴムでない)高減衰ゴムを用いてもよい。
【0055】
また上記の実施形態では、
図3(b)で説明したように、積層ゴム221の水平変形によって上部構造4の衝突直交方向の変位を吸収しているが、例えば衝突部位41と受衝部22の双方の衝突面に滑り板(不図示)を設け、衝突部位41側の滑り板を受衝部22側の滑り板上で滑らせることで、ロッド本体21に生じる曲げ応力を小さくすることもできる。この場合、積層ゴム221を省略することもできる。しかしながら、滑り板は衝突部位41にも設ける必要があり、この点では積層ゴム221を用いる方が有利である。
【0056】
また本実施形態では変位抑制装置1を設ける下部構造3が建物基礎であるが、下部構造3はこれに限らず、例えば建物の中間層であってもよい。この場合、上部構造4は建物の中間層よりも高層の躯体部分となる。
【0057】
また本実施形態では変位抑制装置1を下部構造3に設けているが、
図7(a)に示すように、変位抑制装置1を上部構造4に設けても良い。
図7(a)の例では、上部構造4の垂下部42に設けた変位抑制装置1を下部構造3の衝突部位32の間に配置しており、この場合も、地震時等の上部構造4の変位を変位抑制装置1により抑制できる。
【0058】
また変位抑制装置1の適用対象も免震建物に限ることはなく、往復振動によって変位が生じるものであれば適用可能である。例えばTMD(Tuned Mass Damper)において、錘(対象物)の変位を抑制するために適用しても良いし、
図7(b)に示すようにギャップブレースに適用することも可能である。
【0059】
ギャップブレースは、一定の層間変形角が生じた後にブレース30を効かせはじめることで、過大な層間変形を抑制して建物の耐震安全性を高めるものである。
図7(b)の例では、ハの字状のブレース30の頂点に変位抑制装置1を設け、変位抑制装置1の両側で、柱と梁によるフレーム40に衝突部位43を設けている。
【0060】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0061】
1、1a:変位抑制装置
3:下部構造
4:上部構造
10:筒体
20:ロッド
21:ロッド本体
22:受衝部
32、41、43:衝突部位
221:積層ゴム
222:調整機構
【要約】
【課題】往復振動に伴う正逆両方向の変位に対して変位抑制効果を発揮し、かつ繰り返し使用が可能な変位抑制装置等を提供する。
【解決手段】変位抑制装置1は、衝突部位41に衝突することで上部構造4の変位を抑制するものである。変位抑制装置1では、平面において離隔した衝突部位41同士を結ぶ方向に延びるロッド20が筒体10を貫通し、ロッド20の両端部が筒体10から各衝突部位41側に突出し、ロッド20の両端部と各衝突部位41との間に所定のクリアランスcが設けられ、衝突部位41がロッド20の端部と衝突してロッド20が筒体10の内部をロッド20の軸方向に移動する際に、筒体10に設けられたエネルギー吸収機構により衝突エネルギーが吸収される。
【選択図】
図1