IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人長岡技術科学大学の特許一覧 ▶ 三桜工業株式会社の特許一覧

特許7503740研磨状態解析予測プログラム、記憶装置、カソードルミネセンス装置、および研磨状態解析予測方法
<>
  • 特許-研磨状態解析予測プログラム、記憶装置、カソードルミネセンス装置、および研磨状態解析予測方法 図1
  • 特許-研磨状態解析予測プログラム、記憶装置、カソードルミネセンス装置、および研磨状態解析予測方法 図2
  • 特許-研磨状態解析予測プログラム、記憶装置、カソードルミネセンス装置、および研磨状態解析予測方法 図3
  • 特許-研磨状態解析予測プログラム、記憶装置、カソードルミネセンス装置、および研磨状態解析予測方法 図4
  • 特許-研磨状態解析予測プログラム、記憶装置、カソードルミネセンス装置、および研磨状態解析予測方法 図5
  • 特許-研磨状態解析予測プログラム、記憶装置、カソードルミネセンス装置、および研磨状態解析予測方法 図6
  • 特許-研磨状態解析予測プログラム、記憶装置、カソードルミネセンス装置、および研磨状態解析予測方法 図7
  • 特許-研磨状態解析予測プログラム、記憶装置、カソードルミネセンス装置、および研磨状態解析予測方法 図8
  • 特許-研磨状態解析予測プログラム、記憶装置、カソードルミネセンス装置、および研磨状態解析予測方法 図9
  • 特許-研磨状態解析予測プログラム、記憶装置、カソードルミネセンス装置、および研磨状態解析予測方法 図10
  • 特許-研磨状態解析予測プログラム、記憶装置、カソードルミネセンス装置、および研磨状態解析予測方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】研磨状態解析予測プログラム、記憶装置、カソードルミネセンス装置、および研磨状態解析予測方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/12 20060101AFI20240614BHJP
   B24B 49/04 20060101ALI20240614BHJP
   B24B 37/005 20120101ALI20240614BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
B24B49/12
B24B49/04 Z
B24B37/005 B
H01L21/304 622R
H01L21/304 631
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022550585
(86)(22)【出願日】2021-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2021033940
(87)【国際公開番号】W WO2022059708
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2020154193
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390039929
【氏名又は名称】三桜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180426
【弁理士】
【氏名又は名称】剱物 英貴
(72)【発明者】
【氏名】會田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】大宮 奈津子
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-120795(JP,A)
【文献】特開2016-044095(JP,A)
【文献】特開2001-102307(JP,A)
【文献】特開2012-019114(JP,A)
【文献】特表2014-512693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B1/00-3/60
B24B9/00-51/00
G01N23/00-23/2276
H01L21/304;21/463
H01L21/64-21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードルミネセンス法により得られた研磨対象である基板のカソードルミネセンス画像に基づいて、将来の前記基板の研磨状態を予測する研磨状態解析予測プログラムであって、
前記基板の研磨を開始した後所定時間毎の前記カソードルミネセンス画像から平均発光強度データまたは平均輝度データを算出するステップと、
前記平均発光強度データまたは平均輝度データをプロットし、前記研磨の時間に基づいて、前記カソードルミネセンス法によるカソードルミネセンス光の発光強度または輝度を与える関数を用いて前記プロットのフィッティング曲線を示す式を導出するステップと
をコンピュータに実行させることを特徴とする研磨状態解析予測プログラム。
【請求項2】
前記関数はロジスティック関数である、請求項1に記載の研磨状態解析予測プログラム。
【請求項3】
前記関数は下記(1)または(2)式で表される、請求項1または2に記載の研磨状態解析予測プログラム。
【数1】

上記(1)式および(2)式中、I(t)は前記研磨の時間tにおけるCL光の発光強度であり、Hは上記(1)式の上限値であり、L(t)は前記研磨の時間tにおける輝度であり、Gは上記(2)式の上限値であり、Tおよびaは、各々フィッティング曲線の式を導出する際に得られる定数である。
【請求項4】
カソードルミネセンス法により得られた研磨対象である基板のカソードルミネセンス画像に基づいて、前記基板の最終研磨時間を予測する研磨状態解析予測プログラムであって、
前記基板は、請求項2または3に記載の研磨状態解析予測プログラムにより導出されたフィッティング曲線において、上限値の0.9倍以上1倍未満になる研磨時間まで研磨が行われており、
前記基板に対して更に研磨が行われる状況下において、所定時間毎の前記カソードルミネセンス画像から黒線密度を算出するステップと、
算出された前記黒線密度の各々をプロットし、黒線密度が10cm-2から10cm-2に減少する研磨時間域のプロットを一次関数でフィッティングすることによりフィッティング直線を表す式を導出するステップと、
前記式での黒線密度が10cm-2未満の値である閾値になる時間を前記最終研磨時間として算出するステップと
をコンピュータに実行させることを特徴とする研磨状態解析予測プログラム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨状態解析予測プログラムを記録した、コンピュータに読み取り可能な記憶装置。
【請求項6】
カソードルミネセンス法により得られた研磨対象である基板のカソードルミネセンス画像に基づいて、将来の前記基板の研磨状態を予測するカソードルミネセンス装置であって、
研磨を開始した後所定時間毎の前記カソードルミネセンス画像を取得するカソードルミネセンス画像取得部と、
前記カソードルミネセンス画像取得部により取得された前記カソードルミネセンス画像から、カソードルミネセンス画像毎の平均発光強度データまたは平均輝度データを算出する平均データ算出部と、
前記平均データ算出部により算出された前記平均発光強度データまたは前記平均輝度データをプロットし、前記研磨の時間に基づいて、前記カソードルミネセンス法によるカソードルミネセンス光の発光強度または輝度を与える関数を用いて前記プロットのフィッティング曲線の式を導出する式導出部と
を備えることを特徴とするカソードルミネセンス装置。
【請求項7】
カソードルミネセンス法により得られた研磨対象である基板のカソードルミネセンス画像に基づいて、前記基板の最終研磨時間を予測するカソードルミネセンス装置であって、
前記基板は、請求項2または3に記載の研磨状態解析予測プログラムにより導出されたフィッティング曲線において、上限値の0.9倍以上1倍未満になる研磨時間まで研磨が行われており、
前記基板に対して更に研磨が行われる状況下において、前記カソードルミネセンス画像を取得するカソードルミネセンス画像取得部と、
前記カソードルミネセンス画像取得部により取得された前記カソードルミネセンス画像から黒線密度を算出する黒線密度算出部と、
前記黒線密度算出部により算出された前記黒線密度の各々をプロットし、黒線密度が10cm-2から10cm-2に減少する研磨時間域のプロットを抽出するデータ抽出部と、
前記データ抽出部により抽出された前記プロットに対して一次関数でフィッティングを行い、フィッティング直線を表す式を導出するフィッティング直線導出部と、
前記フィッティング直線導出部により導出された前記式での黒線密度が10cm-2未満の値である閾値になる時間を最終研磨時間として演算する最終研磨時間算出部と
を備えることを特徴とするカソードルミネセンス装置。
【請求項8】
コンピュータが、カソードルミネセンス法により得られた研磨対象である基板のカソードルミネセンス画像に基づいて、将来の前記基板の研磨状態を予測する研磨状態解析予測方法であって、
研磨を開始した後所定時間毎の前記カソードルミネセンス画像から、カソードルミネセンス画像毎の平均発光強度データまたは平均輝度データを算出し、
前記平均発光強度データまたは前記平均輝度データをプロットし、前記研磨の時間に基づいて、前記カソードルミネセンス法によるカソードルミネセンス光の発光強度または輝度を与える関数を用いて前記プロットのフィッティング曲線の式を導出する
ことを特徴とする研磨状態解析予測方法。
【請求項9】
コンピュータが、カソードルミネセンス法により得られた研磨対象である基板のカソードルミネセンス画像に基づいて、前記基板の最終研磨時間を予測する研磨状態解析予測方法であって、
前記基板は、請求項2または3に記載の研磨状態解析予測プログラムにより導出されたフィッティング曲線において、上限値の0.9倍以上1倍未満になる研磨時間まで研磨が行われており、
前記基板に対して更に研磨が行われる状況下において、所定時間毎の前記カソードルミネセンス画像から黒線密度を算出し、
算出された前記黒線密度の各々をプロットし、黒線密度が10cm-2から10cm-2に減少する研磨時間域のプロットを一次関数でフィッティングすることによりフィッティング直線を表す式を導出し、
前記式での黒線密度が10cm-2未満の値である閾値になる時間を最終研磨時間として算出する
ことを特徴とする研磨状態解析予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の研磨状態を解析して予測する研磨状態解析予測プログラム、記憶装置、カソードルミネセンス装置、および研磨状態解析予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN基板は次世代の半導体デバイス用の基板として市場拡大が期待されている。GaN基板をデバイスに用いるには、各種のバルク結晶成長過程により得られた結晶を切り出し、基板形状に成形し、最終的には基板表面を原子オーダーで平坦かつダメージのない無擾乱鏡面状態に仕上げなければならない。GaNは機械的に高硬度でかつ化学的に安定な高脆性材料であることから研磨が難しく、いわゆる難研磨素材として知られている。
【0003】
近年の研究開発により、GaN基板表面の鏡面研磨は、主にダイヤモンド砥粒を用いた研削・機械研磨プロセスによって実施できるようになった。デバイス成長に用いる基板表面状態を決定する特に重要な工程は、最終表面仕上げ工程である。この工程には、コロイダルシリカスラリーによる化学機械研磨(以下、単に「CMP」と称する。)法が一般的に良く用いられるが、依然として毎時数から数十ナノメートルの研磨効率しか得られておらず、高効率化に向けた新たな研磨手法が望まれている。
【0004】
研磨効率を改善のための様々な検討としては、新たな研磨技術の開発、新たな化学反応の利用、研磨材、研磨パットなどの研磨副資材の最適化開発などが挙げられる。これらの検討過程では、基板へのダメージが反映されたデータを分析して種々の研磨条件に対する研磨レートが評価される。
【0005】
ところで、GaN材料の最終表面仕上げ研磨における加工変質層の有無を評価する手法にカソードルミネセンス(CL)法がある。GaN結晶材料表面に電子線を照射すると、GaN結晶表面近傍における発光再結合過程に基づくCL光を観測することができる。しかしながら、結晶材料の持つ本質的な結晶欠陥部分や機械的な加工ダメージを受けた部分では非発光再結合サイトが形成されており、CL光は観測されない。
【0006】
一般的に、非発光再結合サイトにおけるキャリアの捕獲断面積は発光再結合サイトにおけるキャリアの捕獲断面積よりも大きい。このため、発光再結合サイトに生ずる均一な結晶部分と非発光再結合サイトに生じる結晶欠陥やダメージにおけるCL光に著しい強度差が生ずることが知られている。CL法を用いた評価には、主に走査型電子顕微鏡(以下、単に、「SEM」と称する。)に搭載されている電子線照射機能が用いられており、SEM像のようにCL光の強度マッピング像(以下、単に、「CL画像」と称する。)を得ることができる。このCL画像を用いれば、基板表面に存在する加工スクラッチではなく基板表面下に存在する加工変質層を非発光再結合サイトが線状に形成された黒線として可視化することができる。そのため、GaN基板内に存在する加工ダメージの有無を判断する手法として極めて有効であり、例えば非特許文献1で報告されている。
【0007】
また、特許文献1には、CL法を用いた欠陥の観察手法が開示されている。同文献には、GaNウエハの研磨の際にエッジが欠けるチッピングを抑制するため、GaNウエハの面取り研磨を行い、結晶欠陥である暗転がCL画像で確認できるまで面取り研磨工程を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-120795号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Hideo Aida, Hidetoshi Takeda, Koji Koyama,Haruji Katakura,Kazuhiko Sunakawa,and Toshiro Doi, “Chemical Mechanical Polishing of Galliumu Nitride with Colloidal Silica”, Jaournal of The Electrochemical Society, 158 (12) H1206-H1212 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述の文献に記載されているように、従来のCL法は表面イメージによって加工変質層の有無が評価されているに過ぎない。CL画像の経時変化を観察すれば研磨時間に対して非発光再結合による黒線の減少を視覚的に確認することは可能であるものの、定量的な評価は行われていない。このように、CL法は、GaN基板の最終表面観察に対して極めて有効であるが、研磨レートが極めて遅いGaN基板の研磨効率を向上させるためには、CL法を用いた定量的な評価が要求されている。
【0011】
また,GaN基板の研磨レートの評価には多大な時間を要するため、研磨時間を制御することは容易ではない。研磨レートが極めて遅いGaN結晶材料では,研磨レートを短時間で正確に求めることが難しい。例えばGaN基板に対する研磨レートが10nm/hである場合,仮に2倍の研磨レートを持つ新工程が開発されたとしても,研磨速度は依然として20nm/hである。このように、極めて遅い研磨レートで研磨が行われる場合、研磨レートの差が小さすぎるためにこの差を検出できない可能性が高い。
【0012】
従来、各研磨条件での研磨レートを正確に把握するためには、研磨レートを計測可能な程度に十分な研磨時間を費やして研磨条件を検討する必要があった。GaN材料において正確に研磨レートの差を検出するには、数十から数百時間の研磨テストを実施する必要がある。仮に研磨テストに十分な時間を費やしたとしても、その研磨が必ずしも研磨効率の向上効果を有する研磨条件とは限らない。このように、CMP法による研磨効率が遅い素材の研磨条件の検討は,研磨レートの評価に多大な時間を費やすことになるため、容易に研磨テストを行い最適な研磨条件を抽出して製造時間を制御することが要求されている。
【0013】
さらに、CL法はSEMのように観察視野が限定され、基板全面における加工変質層の除去を確認することは容易ではない。難加工性の基板を研磨する場合には、研磨レートが遅いため、研磨対象の各基板に対して、従来のように研磨が終了するまで所定時間毎に逐一基板を観察していては、更なる時間の浪費は免れない。
このように、研磨効率を改善する上で客観的に把握すべきである研磨レートや最終研磨時間が短時間で定量的に評価されることが望まれている。
【0014】
そこで、本発明の課題は、基板の研磨初期段階において基板の表面状態を客観的に把握し、研磨レートや最終研磨時間を短時間で推定することにより研磨の高効率化に寄与することができる研磨状態解析予測プログラム、記憶装置、カソードルミネセンス装置、および研磨状態解析予測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では、GaNのような難研磨基板の研磨において研磨レートを研磨の初期段階で簡便に評価するため、CL法を用いたCL画像の変化を把握する検討が行われた。CL法は、所定の加速電圧で基板に電子線を照射し、生成した電子正孔対による光を捉える手法である。基板に電子線を照射すると過剰少数キャリアが発生する。過剰少数キャリアの寿命は、電子正孔対が光でエネルギー放出を行う発光再結合寿命と、電子正孔対が発熱してエネルギー放出を行う非発光再結合寿命を用いて表される。
【0016】
一方、CL光の発光強度Iは、過剰少数キャリア全体の再結合寿命における発光再結合寿命の割合に比例する。この割合と過剰少数キャリアの再結合寿命に基づいて、発光強度Iは、再結合サイトの密度、捕獲断面積、およびキャリア速度を用いて表すことができる。
【0017】
ここで、基板に与えられている加工ダメージの強さは深さ方向に指数関数的に減少すると考えられる。そこで、この減少傾向を示すことに基づいて発光強度Iに対して更に検討が行われた。その結果、発光強度の研磨時間変化を所定の関数でフィッティングすることにより、研磨時間毎のCL画像における発光強度の定量的な変化が短時間で把握できる知見が得られた。そして、発光強度IとCL画像の輝度は比例することから、発光強度Iまたは画像輝度Lのいずれに対しても上記の原理が適用できる。この知見により、研磨レートが客観的に推定でき、本発明は完成した。
【0018】
また、本発明では、ロジスティック関数を用いてフィッティングを行った場合、発光強度または輝度が上限値に近い範囲では、CL画像において発光強度または輝度の変化がほとんど見られない知見が得られた。さらに、発光強度または輝度の変化がほとんど見られない程度になるまでの研磨時間が研磨の初期段階である知見も得られた。そこで、発光強度または輝度の変化がほとんど見られない程度の時間だけ研磨された基板を用いれば、基板全面を観察することなく最終研磨時間を予測することができると考え、さらに検討が行われた。初期研磨後の基板が更に研磨される状況下において、種々の研磨時間におけるCL画像の黒線密度に着目したところ、最終的な研磨終了時間を従来よりも短時間で正確に予測することができ、本発明は完成した。
【0019】
このような知見により完成された本発明は、GaN基板に限定されるものではなく、発光と非発光の関係が例示したGaNと比較して逆転している材料群でも適用することができる。
これらの知見により得られた本発明は以下のとおりである。
【0020】
(1)カソードルミネセンス法により得られた研磨対象である基板のカソードルミネセンス画像に基づいて、将来の基板の研磨状態を予測する研磨状態解析予測プログラムであって、基板の研磨を開始した後所定時間毎のカソードルミネセンス画像から平均発光強度データまたは平均輝度データを算出するステップと、平均発光強度データまたは平均輝度データをプロットし、所定の関数を用いてプロットのフィッティング曲線を示す式を導出するステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする研磨状態解析予測プログラム。
【0021】
(2)関数はロジスティック関数である、上記(1)に記載の研磨状態解析予測プログラム。
【0022】
(3)関数は下記(1)または(2)式で表される、上記(1)または上記(2)に記載の研磨状態解析予測プログラム。
【0023】
【数1】
上記(1)式および(2)式中、I(t)は研磨の時間tにおけるCL光の発光強度であり、Hは上記(1)式の上限値であり、L(t)は研磨の時間tにおける輝度であり、Gは上記(2)式の上限値であり、Tおよびaは、各々フィッティング曲線の式を導出する際に得られる定数である。
【0024】
(4)カソードルミネセンス法により得られた研磨対象である基板のカソードルミネセンス画像に基づいて、基板の最終研磨時間を予測する研磨状態解析予測プログラムであって、基板は、上記(2)または上記(3)に記載の研磨状態解析予測プログラムにより導出されたフィッティング曲線において、上限値の0.9倍以上1倍未満になる研磨時間まで研磨が行われており、基板に対して更に研磨が行われる状況下において、所定時間毎のカソードルミネセンス画像から黒線密度を算出するステップと、算出された黒線密度の各々をプロットし、黒線密度が10cm-2から10cm-2に減少する研磨時間域のプロットを一次関数でフィッティングすることによりフィッティング直線を表す式を導出するステップと、式での黒線密度が10cm-2未満の値である閾値になる時間を最終研磨時間として算出するステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする研磨状態解析予測プログラム。
【0025】
(5)上記(1)~上記(4)のいずれか1項に記載の研磨状態解析予測プログラムを記録した、コンピュータに読み取り可能な記憶装置。
【0026】
(6)カソードルミネセンス法により得られた研磨対象である基板のカソードルミネセンス画像に基づいて、将来の基板の研磨状態を予測するカソードルミネセンス装置であって、研磨を開始した後所定時間毎のカソードルミネセンス画像を取得するカソードルミネセンス画像取得部と、カソードルミネセンス画像取得部により取得されたカソードルミネセンス画像から、カソードルミネセンス画像毎の平均発光強度データまたは平均輝度データを算出する平均データ算出部と、平均データ算出部により算出された平均発光強度データまたは平均輝度データをプロットし、所定の関数を用いてプロットのフィッティング曲線の式を導出する式導出部とを備えることを特徴とするカソードルミネセンス装置。
【0027】
(7)カソードルミネセンス法により得られた研磨対象である基板のカソードルミネセンス画像に基づいて、基板の最終研磨時間を予測するカソードルミネセンス装置であって、基板は、上記(2)または上記(3)に記載の研磨状態解析予測プログラムにより導出されたフィッティング曲線において、上限値の0.9倍以上1倍未満になる研磨時間まで研磨が行われており、基板に対して更に研磨が行われる状況下において、カソードルミネセンス画像を取得するカソードルミネセンス画像取得部と、カソードルミネセンス画像取得部により取得されたカソードルミネセンス画像から黒線密度を算出する黒線密度算出部と、黒線密度算出部により算出された黒線密度の各々をプロットし、黒線密度が10cm-2から10cm-2に減少する研磨時間域のプロットを抽出するデータ抽出部と、データ抽出部により抽出されたプロットに対して一次関数でフィッティングを行い、フィッティング直線を表す式を導出するフィッティング直線導出部と、フィッティング直線導出部により導出された式での黒線密度が10cm-2未満の値である閾値になる時間を最終研磨時間として演算する最終研磨時間算出部とを備えることを特徴とするカソードルミネセンス装置。
【0028】
(8)コンピュータが、カソードルミネセンス法により得られた研磨対象である基板のカソードルミネセンス画像に基づいて、将来の基板の研磨状態を予測する研磨状態解析予測方法であって、研磨を開始した後所定時間毎のカソードルミネセンス画像から、カソードルミネセンス画像毎の平均発光強度データまたは平均輝度データを算出し、平均発光強度データまたは平均輝度データをプロットし、所定の関数を用いてプロットのフィッティング曲線の式を導出することを特徴とする研磨状態解析予測方法。
【0029】
(9)コンピュータが、カソードルミネセンス法により得られた研磨対象である基板のカソードルミネセンス画像に基づいて、基板の最終研磨時間を予測する研磨状態解析予測方法であって、基板は、上記(2)または上記(3)に記載の研磨状態解析予測プログラムにより導出されたフィッティング曲線において、上限値の0.9倍以上1倍未満になる研磨時間まで研磨が行われており、基板に対して更に研磨が行われる状況下において、所定時間毎のカソードルミネセンス画像から黒線密度を算出し、算出された黒線密度の各々をプロットし、黒線密度が10cm-2から10cm-2に減少する研磨時間域のプロットを一次関数でフィッティングすることによりフィッティング直線を表す式を導出し、式での黒線密度が10cm-2未満の値である閾値になる時間を最終研磨時間として算出することを特徴とする研磨状態解析予測方法。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本実施形態に係るカソードルミネセンス装置の概略図である。
図2図2は、本実施形態に係るカソードルミネセンス装置に用いる演算装置のハードウエア構成を示す図である。
図3図3は、第1実施形態のプログラムに用いる演算装置の機能構成を示す図である。
図4図4は、第1実施形態の研磨状態解析予測方法のフローチャートであり、図4(a)は、図3において研磨レート演算部を備えない場合のフローチャートであり、図4(b)は、図3において研磨レート演算部を備える場合のフローチャートである。
図5図5は、第1実施形態における各研磨条件での輝度Lと研磨時間tとの関係の一例を示す図である。
図6図6は、研磨時間毎のCL画像から取得した輝度をプロットし、ロジスティック関数でフィッティングした後におけるフィッティング曲線を示す図である。
図7図7は、研磨時間毎のCL画像から取得した輝度をプロットし、種々の関数でフィッティングした後におけるフィッティング曲線を示す図であり、図7(a)は1次関数でフィッティングした結果を示す図であり、図7(b)は指数関数でフィッティングした結果を示す図であり、図7(c)はロジスティック関数でフィッティングした結果を示す図である。
図8図8は、第2実施形態のプログラムに用いる演算装置の機能構成を示す図である。
図9図9は、第2実施形態の基板研磨装置で実行される基板研磨方法のフローチャートである。
図10図10は、実施形態1の研磨条件2で研磨した基板のCL画像であり、図10(a)は研磨時間が90分、図10(b)は研磨時間が130分、図10(c)は研磨時間が180分、図10(d)は研磨時間が240分、図10(e)は研磨時間が300分、図10(f)は研磨時間が360分でのCL画像である。
図11図11は、図10のCL画像から得られた黒線密度と研磨時間との関係を示す図であり、図11(a)は実際の黒線密度のデータから得られた直線と90~360分の黒線密度から推定して得られた推定直線を示し、図11(b)は実際の黒線密度のデータから得られた直線と130~360分の黒線密度から推定して得られた推定直線を示し、図11(c)は実際の黒線密度のデータから得られた直線と180~360分の黒線密度から推定して得られた推定直線を示し、図11(d)は実際の黒線密度のデータから得られた直線と240~360分の黒線密度から推定して得られた推定直線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態を図面に基づいて詳述する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。各実施形態に記載されている事項を組み合わせてもよい。
以下に説明する実施形態は、研磨状態解析予測プログラム(以下、単に「プログラム」と称する。)の一例を示す。本実施形態に係るプログラムは、カソードルミネセンス装置に接続されている汎用的なコンピュータの記憶装置にインストールされているか又は記憶装置に記録されたものを読み出し、実行されるソフトウェアを構成する。
【0032】
・カソードルミネセンス装置の概要
図1は、本発明の実施形態に係るカソードルミネセンス(以下、「CL」と称する。)装置10の概略図である。CL装置10は、電子線照射装置20、試料台30、CL光検出器40、および演算装置50を備える。電子線照射装置20は、試料台30に載置された基板60に電子線21を照射する。CL光検出器40は、基板60で発光したCL光22を検出する。演算装置50は、CL光検出器40で検出されたデータに基づいて種々の処理を行う。また、電子線照射装置20、試料台30、および演算装置50は、SEMに付設されているものを用いればよいため、CL装置10はSEMに内蔵されていてもよい。
【0033】
・演算装置、記憶装置の概要
図2は、本実施形態に係るCL装置に用いる演算装置50のハードウエア構成を示す図である。演算装置50は、種々の処理を行うCPU(Central ProcessingUnit)51、メモリ52、不揮発性の記憶装置53、キーボードやマイク等の入力装置54、モニタ55、および入出力インタフェース56を備える。
【0034】
CPU51は、記憶装置53に記憶されているプログラムをメモリ52にロードして実行する。後述される各機能はCPU51により実行される。記憶装置53は、プログラムの他に、各種データを記憶する。記憶装置53は、ROM(Random Access Memory)等の不揮発性メモリや、演算装置50に外部から接続可能なHDD等である。また、フロッピー(登録商標)ディスク、CD-ROMなど磁気的、光学的に記憶を行うものなどを主として、プログラムが記憶可能なメディアであればよい。
【0035】
記憶装置53に記憶されているプログラムは、メモリ52にロードされる。入力装置54は情報入力のための装置である。CPU51の実行結果等はモニタ55に表示される。入出力インタフェース56は、CL光検出器40の検出データを受信したり、外部装置にデータを送信するためのインタフェースである。
【0036】
本実施形態に適用される基板60は、GaN基板に限定されるものではない。研磨によって発光再結合および非発光再結合の割合が変化する基板材料や、研磨によってダメージを受けた際にCL発光特性を示す基板材料の両材料にも適用される。つまり、発光と非発光の関係が例示したGaNと比較して逆転している材料群でも適用することができる。このような材料としては、例えばGaN、GaAs、ルビー、ダイヤモンド、ZnS、ZnSe、CdS、MgOなどが挙げられる。
CL装置および演算装置のハードウエア構成は、下記のいずれの実施形態にて共通する。よって、これ以降でのこれらの説明を省略する。
以下では演算装置の機能を詳述する。なお、各実施形態は互いに組み合わせることができ、各実施形態に記載されている態様のみに限定されることはない。
【0037】
1.第1実施形態
図3は、第1実施形態のプログラムに用いる演算装置50の機能構成を示す図である。演算装置50は、CL画像取得部50a、平均データ算出部50b、および式導出部50cを備える。好ましくは、研磨レート演算部50dを備える。研磨レート演算部50dを備えない場合には、この機能はマニュアルで対応可能である。また、これら機能は前述したハードウエア資源の協働により実現される。
【0038】
CL画像取得部50aは、入出力インタフェース56で受信したCL光および研磨時間(研磨時刻)などのデータに基づいて、研磨時間毎のCL画像を取得する。平均データ算出部50bは、各CL画像から平均発光強度データまたは平均輝度データを算出する。式導出部50cは、各CL画像から取得した平均発光強度データまたは平均輝度データをプロットし、所定の関数を用いてフィッティング曲線の式を導出する。研磨レート演算部50dは、導出された式から研磨レートを算出する。
【0039】
図4は、第1実施形態の研磨状態解析予測方法のフローチャートであり、図4(a)は、図3において研磨レート演算部を備えない場合のフローチャートであり、図4(b)は、図3において研磨レート演算部を備える場合のフローチャートである。CL画像取得部50aは研磨時間毎のCL画像を取得する(S101)。研磨を開始してから所定時間が経過した後の基板を研磨装置から取り出し、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と称する。)の試料台に載置し、基板表面に電子線を照射し、基板から発光するCL光をディテクタで計測してCL画像が得られる。CL画像は、例えばCL光検出器が付属されている走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社トプコン社製:型番sm-300)を用い、加速電圧10kV、プローブ電流「90」、ワーキングディスタンス(W.D.)22.5mm、倍率2000倍で観察することができる。CL画像は、基板の所定の研磨時間毎に取得する。また、CL画像には、画像取得時間が紐づけられており、研磨時間の情報も得られる。
【0040】
そして、平均データ算出部50bは、得られたCL画像毎の平均発光強度データまたは平均輝度データ(画素値の平均値)を算出する(102)。これは、例えば前述のSEMに付属している画像解析ソフト(sm-300 Series)を用いて容易に取得することができる。
【0041】
次に式導出部50cは、平均データ算出部50bにより取得された平均発光強度または平均輝度データを、後述する図6の「●」や「■」のように、横軸を研磨時間とし、縦軸を平均発光強度または平均輝度としてプロットする(S103)。そして、このプロットについて、所定の関数を用いてフィッティング曲線の式を導出する(S104)。フィッティングには、1次関数、2次関数、指数関数、ロジスティック関数など、種々の関数を用いることができ、ロジスティック関数が好ましく、下記(1)式および(2)を用いることが特に好ましい。
【0042】
【数2】
上記(1)式および(2)式中、I(t)は研磨の時間tにおけるCL光の発光強度であり、Hは上記(1)式の上限値であり、L(t)は研磨の時間tにおける輝度であり、Gは上記(2)式の上限値であり、Tおよびaは、各々フィッティング曲線の式を導出する際に得られる定数である。
(1)式および(2)式の導出方法を詳述する。
【0043】
CL法は、所定の加速電圧で基板に電子線を照射し、生成した電子正孔対による光を捉える手法である。基板に電子線を照射すると過剰少数キャリアが発生し、この過剰少数キャリアの寿命τは、電子正孔対が光でエネルギー放出を行う発光再結合寿命τと、電子正孔対が発熱してエネルギー放出を行う非発光再結合寿命τnrを用いて(3)式により表される。
【0044】
【数3】
【0045】
一方、CL光の発光強度Iは、過剰少数キャリア全体の再結合寿命における発光再結合寿命の割合に比例する。この割合と過剰少数キャリアの再結合寿命に基づいて、発光強度Iは、発光再結合サイトの密度N、発光再結合キャリアの捕獲断面積σ、発光再結合キャリア速度v、非発光再結合サイトの密度Nnr、非発光再結合キャリアの捕獲断面積σnr、および非発光再結合キャリア速度vを用いて、(4)式および(5)式を用いて(6)式で表すことができる。
【0046】
【数4】
【0047】
本実施形態では、(6)式を用いて、CL画像の研磨時間変化に着目して研磨レートを簡易的に演算した。
例えば、GaNは基本的にCL測定に対して発光再結合サイトを有する。結晶の持つ本質的結晶欠陥は非発光再結合サイトとなる。そのような欠陥はCL画像では直径1μm以下の黒点として認識される。近年のGaNは欠陥密度、すなわち黒点密度が概ね10cm-2以下であり、本発明には大きな影響を与えないものと考えられる。
【0048】
このような基板に機械的な加工が行われるとダメージが発生する。基板表面には機械的な破砕層やスクラッチが形成されるだけでなく、深さ方向にダメージ層が形成される。ダメージは表面付近で最も強く、表面から内部に入るほど徐々に減少する。このため、加工ダメージが及ばない深さより深い位置では、GaNの持つ結晶欠陥以外は存在しないイントリンジック結晶層となる。このように、ダメージは、深さ方向に対して指数関数的に減少すると仮定することができる。
【0049】
機械的加工が施されたGaN基板に対して、機械的なダメージを与えずに、或いは与えたとしても極めて微小条件で除去する研磨仕上げ工程が実施される。ここで、研磨前に基板に付与されているダメージは、基板表面からの深さ方向に対して指数関数的に減少する。これは、研磨が進行して基板の再表層が研磨除去されるにつれて、CL法により観察される非発光再結合サイトの数は指数関数的に減少することに置き換えられる。これに対し、CL法により観察される発光再結合サイトの数は、指数関数的に増加するはずである。
【0050】
このような新たな着想を鑑みると、研磨時間tに対する発光再結合サイトの密度Nおよび非発光再結合の密度Nnrは、各々(7)式および(8)式で表すことができる。
【0051】
【数5】
(7)式および(8)式中、Aおよびaは各々定数である。
【0052】
これらを(6)式に代入することにより、(9)式に示すように、CL発光強度の研磨時間変化I(t)の式がロジスティック関数の形式で導出される。
【0053】
【数6】
【0054】
ここで、CL光の発光強度Iを示す場所におけるCL画像のコントラストCは、発光強度が均一な場所における基準CL光の発光強度Iを用いて、(10)式で表すことができる。
【0055】
【数7】
【0056】
CL画像はコントラストCを256段階のグレースケール画像として表現されるため、輝度Lは(11)式で表される。
【0057】
【数8】
【0058】
したがって、L(t)はI(t)に比例することから、(9)式により(12)式を導出することができる。
【0059】
【数9】
【0060】
図5は、第1実施形態における各研磨条件での輝度Lと研磨時間tとの関係の一例を示す図である。図5では、研磨レートが予め得られている基準研磨条件を研磨条件1とし、研磨条件1での平均輝度データを基準としてプロットし、下記(1)式からaおよびTを用いたフィッティング曲線の式Lが得られている。また、研磨レートが未知である研磨条件2での平均輝度データをプロットし、下記(2)式からaおよびTを用いたフィッティング曲線の式Lが得られている。なお、図5に示す2つの式は、(12)式にGを乗じることによりL(t)の関数として表すことができる。また、(12)式にHを乗じることによりI(t)の関数として表すことができる。図5では、両研磨条件とも研磨終了後の研磨量が同一になるように研磨を行った場合の例を示す。
【0061】
【数10】
上記(1)式および(2)式中、I(t)は研磨の時間tにおけるCL光の発光強度であり、Hは上記(1)式の上限値であり、L(t)は研磨の時間tにおける輝度であり、Gは上記(2)式の上限値であり、Tおよびaは、各々フィッティング曲線の式を導出する際に得られる定数である。
【0062】
本実施形態におけるフィッティング手段は特に限定されないが、HまたはGを求めた後、aとTに適宜数値を代入してフィッティングを行うことができる。また、最小二乗法により行うこともできる。
【0063】
すなわち、(1)式によれば、CL光の発光強度は、研磨時間tとともにロジスティック関数的に変化することがわかる。同様に、(2)式によれば、CL画像の平均輝度は、研磨時間tとともにロジスティック関数的に変化することがわかる。したがって、(1)式または(2)式によって研磨時間tでのCL光の発光強度やCL画像の平均輝度の変化の様子を定量的に表現することが初めて可能になったのである。
【0064】
演算装置50が研磨レート演算部50dを備えない場合、研磨レートはマニュアルにて演算される。一方、演算装置50が研磨レート演算部50dを備える場合、図4(b)に示すように、研磨レート演算部50dは、フィッティング曲線の式に基づいて研磨レートを算出する(S105)。
【0065】
上述の技術思想を利用すれば、最終表面仕上げ前の機械的ダメージ状態が同一の基板、すなわち最終表面仕上げ前までの加工工程が同一である基板に対して、異なる研磨条件で研磨が行われた場合、研磨開始後所定時間経過した基板のCL画像から求めた(1)式または(2)式における指数であるaを比較することで、簡単に研磨レートを算出することができる。このような簡単な比較は、以下により実現できる。
研磨時間tにおける発光再結合サイトの密度は、研磨条件1および研磨条件2では、各々(13)式および(14)式で表される。
【0066】
【数11】
【0067】
基板材料のCMP前の加工が同一であれば、基板表面から同一の深さまでCMP研磨を行った場合の発光再結合サイトの密度は同一になる。研磨条件1(既知の研磨レートr)で研磨時間が時間tである時の研磨量と、研磨条件2(未知の研磨レートr)で研磨時間が時間tである時の研磨量が同一であれば、(15)式から(16)式を導出することができる。
【0068】
【数12】
【0069】
研磨条件1の研磨レートをr、研磨条件2の研磨レートをrとすると、両研磨条件の研磨量が同じであることから(17)式が得られ、(17)式と(16)式から(18)式を導出することができる。
【0070】
【数13】
【0071】
したがって、(18)式を用いることにより、未知の研磨レートrは、平均輝度データをプロットし、研磨条件2における指数a、研磨条件1における指数a、および研磨レートrを用いて容易に算出することができる。
この検証結果を以下で詳述する。
【0072】
図6は、研磨時間毎のCL画像から取得した輝度をプロットし、ロジスティック関数でフィッティングした後におけるフィッティング曲線を示す図である。
前述のように、未知の研磨条件での最終研磨時間を算出するためには、ベースとなる既知の研磨条件が必要である。ここでは、図6に示すように、研磨を開始してから20分毎に440分までのCL画像を取得し、CL画像毎の平均輝度データを算出し、縦軸をCL画像の平均輝度、横軸を研磨時間として図6中の「■」としてプロットした。「■」で示される研磨条件1の研磨レートは、60nm/hであった。その後、(2)式を用いてフィッティングを行い、予め研磨レートが60nm/hである研磨条件1の式が得られた。
【0073】
その上で、研磨レートが未知である研磨条件2を適用して、図6に示すように、研磨を開始してから10分毎に140分までのCL画像を取得し、CL画像毎の平均輝度データを算出し、縦軸をCL画像の平均輝度、横軸を研磨時間として図6中の「●」としてプロットした。(2)式を用いてフィッティングを行い、研磨条件2の式が得られた。既知の研磨条件1から得られた式の指数であるaと、研磨レートが未知である研磨条件2から得られた式の指数であるaを比較した。
/a=0.045/0.014≒3.2
【0074】
研磨条件2の研磨レートは、研磨条件1の約3.2倍であることが推定された。したがって、研磨条件2の研磨レートは約180nm/hと推定された。推定に要した研磨時間は、マニュアルであっても150分程度であった。実際に従来のハイトゲージ法で研磨条件2の研磨レートを求めた。ハイトゲージの分解能を考慮して、最低30時間の研磨加工を実施した結果、研磨レートは約180nm/hであった。
【0075】
このように、本実施形態1を用いることで、12分の1程度の研磨時間での高効率な研磨レートの推定が可能であった。また、推定した研磨レートは、実測値と同程度である知見も得られたので、高い精度で研磨レートの推定が可能であり、したがって、研磨終了時間も精度よく推定することができると考えられる。
【0076】
上述では、たまたま(2)式を用いてフィッティングを行ったが、本実施形態では、これ以外の関数を用いてフィッティングを行うことができる。図7は、研磨時間毎のCL画像から取得した輝度をプロットし、種々の関数でフィッティングした後におけるフィッティング曲線を示す図であり、図7(a)は1次関数でフィッティングした結果を示す図であり、図7(b)は指数関数でフィッティングした結果を示す図であり、図7(c)はロジスティック関数でフィッティングした結果を示す図である。図7では、GaN基板に対して上述の研磨条件1、および研磨条件2とは異なる2条件で研磨を行った。図7中の「〇」は研磨レートが既知である研磨条件Aであり、「●」は研磨レートが未知である研磨条件Bである。
【0077】
図7(a)~図7(c)により求められる研磨レート比は、各々6.3、6.1、および8であった。研磨条件AとBの研磨レート比の実測値は7.5であったことから、多少の誤差はあるものの、実測した研磨レート比である7.5程度の結果が得られた。特に、ロジスティック関数近似は最も精度の高い結果を示した。
【0078】
このように、実施形態1では、基準になる研磨条件が分かれば、異なる条件の研磨レートを短時間で正確に予測することができる。実施形態1は、従前からのCL光の発光強度に関わる概念を拡張することで、GaN基板などCL法による評価が適用可能な材料に対して、基準となる研磨条件での最終研磨時間が分かる場合、(18)式を用いて未知の研磨条件での最終表面仕上げ研磨レートを推定できる。したがって、最終研磨時間も予測することができる。
【0079】
2.実施形態2
実施形態1では、CL画像を用いて研磨レートを極めて迅速に推定する手段を説明した。一方、実施形態2では、基板全面で残留加工変質層の存在を確認することが困難な状況において、最終研磨時間を迅速に推定する手段を説明する。
【0080】
基板表面にわずかに残留する加工変質層はその基板をデバイス成長に使用する際に悪影響を与える。したがって、残留加工変質層が基板の高範囲、可能であれば全面にわたって皆無であることが望ましい。従来材料では比較的研磨レートが速いため、ある程度の余剰研磨時間を設定することで加工変質層が残留しない表面状態の品質保証を行っていた。
【0081】
これに対し、GaNのように研磨レートの極めて遅い材料では、残留する加工変質層を除去するための余剰研磨時間も膨大になる。余剰研磨時間を必要最小限に留めるためには、必要な余剰研磨時間を正確に把握する必要がある。そこで、CL法を用いることにより加工変質層の有無を視覚的に評価することが可能である。
【0082】
しかし、CL画像の観察エリアは一般的に数十μm四方であることから、例えば1平方センチ当たり、または基板全面基板といった広範囲で残留加工変質層が存在しないことを担保することは難しい。特殊な装置を用いて1~2mm四方にまで視野を広げることが可能であると思われるが、残留加工変質層は、CL画像において幅が0.5μmにも満たない極わずかな点線状に観察される。このため、視野が広いほど残留加工変質層を正確に認識することが難しくなる。また、視野を広げたとしてもせいぜい1~2mm四方であるため、基板全面において黒線を観察することは現実的ではない。
【0083】
実施形態2では、従来の装置で実施可能な現実的視野で観察するとともに、極わずかな変質層を正確に観察可能な発明について説明する。より詳細には、一般的な観察エリアでのCL画像から必要最小限の余剰研磨時間を低誤差で推定する手段について説明する。
【0084】
実施形態2では、加工中に加工を一時中断して効率的に画像取得が可能な一般的なCL画像サイズとして、50μm四方程度の大きさを想定した。加工の中盤に差し掛かると、このCL観察エリア内に確認される黒線本数は数えることが可能なレベルとなる。一方でこの加工エリア内に1本の黒線が観察できないところまで加工が進行すると、黒線密度はおよそ3×10cm-2になる。それ以降の観察はCL観察領域を広げる必要があるが、観察エリアを拡大することは観察に要する時間が膨大となるため実用的ではない。実際に例えば1cm-2の黒線密度を保証するには、その範囲まで観察を拡大しなければならならず、一時的な重点開発検討目的を除けば、日常的な開発目的や生産管理現場での適用は実質不可能である。
【0085】
そこで、実施形態2では、加工の中盤における黒線密度情報に基づいて、広範囲領域での残留加工変質層の密度を推定する基板研磨装置および基板研磨方法を提供する。これにより、余剰研磨時間を必要最小限に留めることができるため、製造効率の効率化を図ることができる。また、必要な余剰研磨時間を正確に把握することができるため、研磨時間を制御することが可能になる。
【0086】
実施形態2では、黒線密度が10cm-2以下となった研磨時間から、一般的なCL画像による観察エリアで観察可能である黒線密度として10cm-2に至るまでの研磨時間内において、研磨時間の経過にともなう黒線密度の減少を把握する。この黒線密度の範囲で推定計算を行い、広範囲の黒線密度を精度よく推定することができる。
【0087】
ここで、残留加工変質層を有する基板は、前述の実施形態1においてロジスティック関数を用いた場合には、この関数の上限値近傍では輝度がほとんど変化しないため、大半の加工変質層は除去されていることがわかる。また、輝度がほとんど変化しない時間帯は研磨の初期段階である知見も得られている。そこで、実施形態2で用いる基板は、輝度の変化がほとんど見られない程度の時間だけ研磨された基板を用いれば、基板全面を観察することなく最終研磨時間を予測することができる。
【0088】
実施形態2では、研磨を開始した後、実施形態1で説明したロジスティック関数または実施形態1の(2)式によりフィッティングを行い、輝度が上限値の0.9倍以上1倍未満になるまで研磨を行ったものを用いることにした。好ましくは0.9~0.99倍であり、より好ましくは0.9~0.95倍である。この範囲であれば、黒線密度が10cm-2より大きいため、実施形態2の手段により短時間で最終研磨時間を予測することができる。また、他の手段としては、この基板に更に研磨を施す前のCL画像を取得し、その黒線密度が10cm-2より大きい場合に実施形態2に適用してもよい。
【0089】
以下、実施形態2を詳述する。
実施形態2の基板研磨装置、および演算装置のハードウエア構成は、実施形態1と同様であるため、説明を省略する。
図8は、第2実施形態の基板研磨装置に用いる演算装置300の機能構成を示す図である。演算装置300は、CL画像取得部300a、黒線密度算出部300b、データ抽出部300c、フィッティング直線導出部300d、および最終研磨時間算出部300eを備える。
【0090】
CL画像取得部300aは、実施形態1のCL画像取得部300aと同様の機能であるため、説明を省略する。黒線密度算出部300bは、取得した各CL画像から黒線密度を算出する。データ抽出部300cは算出された黒線密度をプロットし、黒線密度が10cm-2から10cm-2の範囲に減少する研磨時間域のものを抽出する。フィッティング直線導出部300dは、抽出された黒線密度のプロットに対して1次関数でフィッティングを行い、フィッティング直線を表す式を導出する。最終研磨時間算出部300eは、予め求められている黒線密度が10cm-2未満の値である閾値を記憶装置53から読み出し、黒線密度が閾値になる時間を最終研磨時間として演算する。
図9は、第2実施形態の基板研磨装置で実行される基板研磨方法のフローチャートである。S301の工程は実施形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0091】
黒線密度算出部300bは、実施形態1と同じ画像解析ソフトを記憶装置53から読み出し、取得した各CL画像から黒線密度を算出する(S302)。データ抽出部300cは、算出された黒線密度を縦軸とし、その黒点密度に相当する研磨時間を横軸として黒線密度をプロットし(S303)、黒線密度が10cm-2から10cm-2の範囲の値を示すプロットを抽出する(S304)。
【0092】
フィッティング直線導出部300dは、抽出された黒線密度のプロットに対して1次関数でフィッティングを行い、フィッティング直線の式を導出する(S305)。本実施形態におけるフィッティング手段は特に限定されないが、y=ax+bにおいて、aとbに適宜数値を代入してフィッティングを行うことができる。また、最小二乗法により行うこともできる。
【0093】
フィッティング直線導出部300dは、予め記憶装置53に記憶されている、目標とする基板における研磨終了時の黒線密度を読み出す。読み出した黒線密度が10cm-2未満の値である場合に閾値として採用し(S306、yes)、閾値を導出された式に当てはめて最終研磨時間を演算する(S307)。この閾値は、例えば1.0cm-2で十分である。読み出した黒線密度が10cm-2以上である場合には(S306、no)、目標とする基板における研磨終了時の黒線密度ではないと判断し、終了する。
【0094】
実施形態2で用いる基板は、前述のように、ロジスティック関数、(1)式または(2)式から得られる上限値の0.9倍以上1倍未満である研磨時間だけ研磨が行われている。実施形態2の好ましい態様としては、黒線密度算出部300bは、S302の際に、更に研磨を行う前のCL画像を取得して黒線密度を測定し、黒線密度が10cm-2より大きいかどうか判定してもよい。黒線密度算出部300bは、黒線密度が10cm-2より大きいと判定した場合には、基板に対して更に研磨が行われる状況下において、所定時間毎のCL画像から黒線密度を算出してもよい。黒線密度算出部300bは、黒線密度が10cm-2以下であると判定した場合には、ステップを終了してもよい。
この検証結果を以下で詳述する。
【0095】
図10は、実施形態1の研磨条件2で研磨した基板のCL画像であり、図10(a)は研磨時間が90分、図10(b)は研磨時間が130分、図10(c)は研磨時間が180分、図10(d)は研磨時間が240分、図10(e)は研磨時間が300分、図10(f)は研磨時間が360分でのCL画像である。
図11は、図10のCL画像から得られた黒線密度と研磨時間との関係を示す図であり、図11(a)は実際の黒線密度のデータから得られた直線と90~360分の黒線密度から推定して得られた直線を示し、図11(b)は実際の黒線密度のデータから得られた直線と130~360分の黒線密度から推定して得られた直線を示し、図11(c)は実際の黒線密度のデータから得られた直線と180~360分の黒線密度から推定して得られた直線を示し、図11(d)は実際の黒線密度のデータから得られた直線と240~360分の黒線密度から推定して得られた直線を示す。
図11中、斜めの実線は実測により得られた線であり、点線は推定により得られた線である。⇔で表される範囲が研磨時間の推定値と実測値との推定時間誤差を表す。
【0096】
図10に示すように、各CL画像を取得し、CL画像毎の黒線密度を算出し、その値を図11に示すようにプロットする。どの時間帯のプロットに1次関数をフィッティングすべきかどうか調査した。
【0097】
実施形態1の研磨条件2にてGaN材料を加工したところ、研磨時間が90分における約50μm四方のCL画像内における黒線は50本であり、黒線密度は2.6×10cm-2であった。さらに加工を継続すると130分、180分では各々27本、20本であり、密度は各々1.4×10cm-2、1.1×10cm-2となった。さらに加工進めると研磨時間240分、300分、360分でそれぞれ黒線が12本、4本、1本となり、黒線密度はそれぞれ、6.3×10cm-2、2.1×10cm-2、5.3×10cm-2となった。
【0098】
研磨時間360分では観察エリアにおける黒線本数が1本となったため、さらに研磨を進めると、黒線本数のカウントには加工視野を広げる必要があり現実的ではない。そこで、360分までのCL画像に基づく黒線密度を用いた解析が行われた。
【0099】
この解析を行う上で、実際の黒線密度の減少を把握するための検証実験が必要である。そこで、観察視野を広げたCL観察が膨大な観察時間を費やすことで予め実施された。これは、図11中の斜めの実線で表される。斜めの実線と黒線密度が1cm-2を表す実線との交点が総研磨時間に相当する。その結果、残留加工変質層が実際に1cm-2以下となる最低必要研磨時間は796分であることが分かっている。
【0100】
図11(a)に示すように、研磨時間が90分から360分までの黒線密度に基づく推定では、残留加工変質層である黒線密度が1cm-2以下の表面を達成するための必要な推定研磨時間は1151分と推定された。実際の研磨時間796分との推定時間誤差は355分であり、(355/796)×100≒45%であった。図11(b)に示すように、研磨時間が130分から360分では、90分から360分の場合と同様に、推定時間誤差は1151分であり、((1151-796)/796)×100≒45%であった。
【0101】
次に、図11(c)に示すように、研磨時間が180分から360分では、推定研磨時間が1012分となり、推定時間誤差は((1012-796)/796)×100≒27%に低減した。図11(d)に示すように、研磨時間が240分から360分では、推定研磨時間が877分となり、検証実験の結果と比較して推定時間誤差は81分であり、((877-796)/796)×100≒10%にまで低減した。
【0102】
このように、黒線密度が10cm-2から10cm-2の範囲の黒線密度(すなわち上記の事例では図11(d)に示す240~360分のデータである。)を利用して研磨時間を推定することで、推定時間誤差を10%と大幅に低減することが可能である知見が得られた。
【0103】
実施形態2から明白なように、GaNのような研磨レートの遅い材料では、余剰研磨時間の推定時間誤差による不必要な研磨時間差は大きい。例えば90分から360分までの黒線密度に基づく誤差は大きいため、この推定研磨時間を誤って適用すれば、本来必要な総研磨時間796分に対して355分もの余剰研磨を余儀なくされる。一方、実施形態2で規定する黒線密度の範囲では、本来必要な研磨時間を極めて僅かな誤差で推定することが可能であることは明らかであり、実用上の効果は極めて高い。
【符号の説明】
【0104】
10 カソードルミネセンス(CL)装置、20 電子線照射装置、21 電子線、22 CL光、30 試料台、40 CL光検出器、50,300 演算装置、50a CL画像取得部、50b 平均データ算出部、50c 式導出部、50d 研磨レート演算部、51 CPU、52 メモリ、53 記憶装置、54 入力装置、55 モニタ、56 入出力インタフェース、60 基板、300a CL画像取得部、300b 黒線密度算出部、300c データ抽出部、300d フィッティング直線導出部、300e 最終研磨時間算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11